説明

スイッチング電源回路方式判定処理方法,CAD装置およびCADプログラム

【課題】 CAD装置で,スイッチング電源回路の方式を自動的に判別することを目的とする。
【解決手段】 CAD装置1は,判別対象とするスイッチング電源回路が配置されている基板に実装される部品およびネットの情報を示す実装CAD情報2,ならびに前記基板に配置される各部品の部品種別,部品内部の透過接続情報およびピン属性を示す部品情報3をもとに,スイッチング電源回路から開始かつ終了する経路を抽出し,該経路に接続する部品および接続関係を示すスイッチング電源回路経路情報14を生成する経路情報抽出部13と,スイッチング電源回路の経路に接続する部品および接続関係にもとづいてスイッチング電源回路の方式を定める条件をもとに,スイッチング電源回路経路情報14から,判定対象のスイッチング電源回路の方式を判定する回路方式判定部15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,スイッチング電源回路方式の判定処理に関し,より詳しくは,前記判定処理の方法および前記判定処理を実現するCAD装置およびCADプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば,携帯電話,カーナビゲーション端末などの無線機能を有する情報端末では,「機器内イントラEMC問題」が知られている。機器内イントラEMC問題とは,無線機能を有する情報端末などにおいて,機器内で発生したノイズ影響により,自身の無線性能を低下させる問題であり,いわゆる自家中毒問題とも呼ばれている。
【0003】
機器内イントラEMC問題の原因となるノイズ源の1つとして,スイッチング電源回路があげられる。
【0004】
情報端末の各機能を実現する電子回路に使用されるLSIなどへの電源供給にあたり,基準となる電源(例えば,内蔵バッテリ)から電源供給条件に合った電源を作るところでスイッチング電源回路が使用されている。
【0005】
一般的なスイッチング電源回路の方式には,「スイッチングレギュレータ方式」と「チャージポンプ方式」がある。スイッチングレギュレータ方式の中でも,「昇圧」,「降圧」,「昇降圧」,「極性反転」などの方式がある。また,チャージポンプ方式にも,「昇圧」,「極性反転」などの方式がある。例えば,携帯電話などに搭載されるLSIの電源は,内蔵バッテリ電圧よりも低い電圧が必要なため,「降圧方式」が使用される。また,LCD駆動用電源では,内蔵バッテリ電圧よりも高い電圧や,LCD駆動方式によっては極性反転電圧が必要であるため,昇圧方式や極性反転方式が使用される。なお,昇圧方式や極性反転方式で,スイッチングレギュレータ方式とチャージポンプ方式のどちらの方式が採用されるかは,供給先の電流条件や電圧条件などによる。このように,電源供給条件によって,様々なスイッチング電源回路方式が採用されている。
【0006】
スイッチング電源回路が動作することにより,機器内イントラEMC問題の原因となるスイッチングノイズが発生する。一般的に,スイッチング電源回路のスイッチング基本周波数は,数kHz〜数MHzであり,スイッチング周波数の高調波が,数百MHzの周波数帯域までフロアノイズとして発生し,スイッチング基本周波数が高くなるにつれてノイズが小さくなるという特徴がある。
【0007】
ところで,従来,基板の回路設計情報から電源の電圧変動特性とノイズ特性とを導出して,特性の許容範囲を示す条件と比較することにより,許容される電圧変動特性およびノイズ特性であるかを定量的に評価する手法が知られている。
【0008】
また,基板全体のレイアウト情報から電源供給系回路のレイアウト情報を抽出して電気回路情報に変換し,この電気回路情報をもとに,あるアクティブ素子の電源端子接続位置からみた電源供給系回路のインピーダンス特性を算出する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−276612号公報
【特許文献2】特開2002−41594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来から,スイッチング電源回路の動作時にスイッチングノイズが発生することは知られていた。しかし,機器内イントラEMC問題において,スイッチングノイズは,以下の理由により,問題とはならなかった。
【0011】
図15は,スイッチングノイズの周波数とノイズ量との関係を示す図である。
【0012】
図15(A)に示すように,発生するスイッチングノイズの周波数帯域は,例えばFOMAなど従来使用されていた無線周波数帯域と重ならない低い周波数帯域であった。そのため,スイッチングノイズの周波数は,無線性能に影響を及ぼさず問題とはならなかった。したがって,スイッチングノイズに対するノイズ対策が不要であり,ノイズ対策箇所を絞り込むためのスイッチング電源回路方式の判別も不要だった。
【0013】
しかし,近年の情報端末の高性能化や小型化により,スイッチングノイズが,機器内イントラEMC問題の要因となり始め,ノイズ対策が必要になってきている。
【0014】
情報端末の高性能化として,例えば,無線通信種類の増加などがあげられる。図15(B)に示すように,無線通信種類の増加によって,例えばワンセグ放送のような低い周波数帯域が使用されるようになった。そのため,無線通信に対するスイッチングノイズの影響を無視することができなくなった。
【0015】
また,情報端末の小型化として,例えば,スイッチング電源回路部品の小型化に伴うスイッチング周波数の高速化などがあげられる。図15(B)に示すように,スイッチング周波数の高速化につれて,発生するスイッチングノイズの周波数帯域が高くなるため,従来であれば影響がなかった周波数帯域にもスイッチングノイズが影響し始めている。
【0016】
スイッチング電源回路のスイッチングノイズに対するノイズ対策では,以下の理由により,配置・配線設計での対策が必要とされている。
【0017】
スイッチングノイズの発生要因には,スイッチング周波数,スイッチング電圧波形の立ち上がり・立ち下がり時間,配置・配線設計などがある。これらの発生要因のうち,「スイッチング周波数」の対策として,例えば,スイッチング周波数を遅くしてスイッチングノイズを低い周波数帯域にずらす方法がある。しかし,この方法では,スイッチング電源回路の構成部品(インダクタ,キャパシタなど)の定数を大きくする必要があり,部品サイズが大きくなる。そのため,情報端末の小型化に対してデメリットがある。
【0018】
また,スイッチング電圧波形の立ち上がり・立ち下がり時間の対策として,波形の立ち上がり・立ち下がりを遅くする方法がある。しかしこの方法では,電源効率が悪くなるため,バッテリの使用可能時間が短くなるなどのデメリットがある。したがって,配置・配線設計でのノイズ対策が要求されている。
【0019】
さらに,近年の情報端末の高性能化による電源数の増加や小型化による高密度実装化などにより,限られたプリント基板の実装領域内でノイズ対策を行う必要がある。
【0020】
図16および図17は,スイッチング電源回路の主なノイズ発生箇所の例を示す図である。図16および図17において,太い破線により,主なノイズ発生箇所となる配線の経路を示している。図16(A)は,スイッチングレギュレータ(昇圧)方式の場合のノイズ発生箇所を示す図であり,図16(B)は,スイッチングレギュレータ(極性反転)方式の場合のノイズ発生箇所を示す図,図16(C)は,スイッチングレギュレータ(降圧)方式の場合のノイズ発生箇所を示す図である。図17(A)は,スイッチングレギュレータ(昇降圧)方式の場合のノイズ発生箇所を示す図,図17(B)は,チャージポンプ方式の場合のノイズ発生箇所を示す図である。
【0021】
図16および図17に示すように,スイッチング電源回路のノイズ発生箇所は,スイッチング電源回路方式によって異なるため,対策箇所を絞り込まずに,電源系のすべての経路に対策部品を追加するなどしてノイズ対策を行うことは,限られたプリント基板の実装領域内では現実的に困難であり,かつ,コスト面でもデメリットとなる。
【0022】
また,スイッチング電源回路方式を正しく判別できずに効果が小さい箇所に対策を行うことは,結局,手戻りが発生して,対策期間が長くなるなどの問題がある。例えば,昇圧方式のスイッチングレギュレータにおいて1次側経路にノイズ対策を行ったとしても,対策効果が十分でないため,結局,再度の対策が必要となり,設計作業上の無駄や負担を増やすことになる。
【0023】
情報端末に搭載されるスイッチング電源回路には様々な方式のものが使用されているため,限られたプリント基板の実装領域内で確実にノイズ対策を行うためには,スイッチング電源回路の方式を明確に判別することが必要である。さらに,スイッチング電源回路の方式に応じたノイズ対策箇所を明確にすることが重要である。
スイッチング電源回路の方式ごとにノイズ対策を施す箇所が異なるため,スイッチング電源回路の方式を明確に判別することが必要である。
【0024】
近年では,上述するような課題が顕著になってきたが,従来ではノイズ対策が不要であったため,設計ツール(例えば,EDRCシステムなど)に,スイッチング電源回路の方式を判別する機能が備えられていなかった。また,判別されたスイッチング電源回路の方式でのノイズ対策箇所を示す機能が備えられていなかった。
【0025】
そのため,技術者がスイッチング電源回路方式の判別やノイズ対策箇所の特定をしなければならなかったが,スキルが要求されるため,スキル不十分な技術者では困難であった。さらに,人による判断の場合には,技術者のスキルの有無に限らず,確認モレや判断ミスなどのエラーの可能性を払拭することができなかった。よって,プリント基板設計段階でのノイズ対策設計の品質維持上の課題があった。
【0026】
本発明は,上記の課題に鑑みてなされたものであり,その目的は,スイッチング電源回路方式を自動的に判別する処理方法,および,上記の処理方法を実行可能なCAD装置,および,コンピュータに前記処理方法で実行させるCADプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の一態様として開示されるスイッチング電源回路方式の判定処理方法は,スイッチング電源回路の方式を判定するために,コンピュータが実行する処理方法であって,1)スイッチング電源回路が配置されている基板に実装される部品およびネットを示す実装CAD情報,ならびに前記基板に配置される各部品の部品種別,部品内のピン間の接続およびピン属性を示す部品情報をもとに,前記スイッチング電源回路から開始かつ終了する配線の経路を抽出し,前記経路に接続する部品および接続関係を示すスイッチング電源回路経路情報を生成する経路情報抽出処理ステップと,2)スイッチング電源回路の経路に接続されている部品および接続関係にもとづいてスイッチング電源回路の方式を判別する条件をもとに,前記スイッチング電源回路経路情報の経路の部品および接続関係と一致するスイッチング電源回路の方式を,前記基板に配置されているスイッチング電源回路の方式として判定する回路方式判定処理ステップとを,実行するものである。
【0028】
また,本発明の一態様として開示されるCAD装置は,上記の判別処理方法を実行するものである。
【0029】
また,本発明の一態様として開示されるCADプログラムは,上記の判別処理方法をコンピュータに実行させるためのものである。
【発明の効果】
【0030】
上記した処理方法によれば,CADシステムのデータから,基板に実装されているスイッチング電源回路の方式を自動的に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例におけるCAD装置の構成例を示す図である。
【図2】部品の回路例と対応する部品情報の例を示す図である。
【図3】ノイズ対策箇所情報の例を示す図である。
【図4】ノイズ対策箇所の例を示す図である。
【図5】CAD装置の処理フロー例を示す図である。
【図6】スイッチング電源回路経路情報の抽出処理のより詳細な処理フロー例を示す図である。
【図7】開始点と終了点の関係情報の例を示す図である。
【図8】スイッチング電源回路経路情報の例を示す図である。
【図9】スイッチング電源回路方式の判定処理のより詳細な処理フローを示す図である。
【図10】ノイズ対策箇所の判定処理のより詳細な処理フローを示す図である。
【図11】ノイズ対策箇所情報の例を示す図である。
【図12】結果出力処理のより詳細な処理フローを示す図である。
【図13】ノイズ対策箇所の一覧の表示例を示す図である。
【図14】ノイズ対策箇所の部品およびネットの強調表示の例を示す図である。
【図15】スイッチング周波数とノイズ量との関係を示す図である。
【図16】スイッチング電源回路方式の主なノイズ発生箇所の例を示す図である。
【図17】スイッチング電源回路方式の主なノイズ発生箇所の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下,本発明の一態様として開示するスイッチング電源回路方式の判定処理方法を実行するCAD装置1の一実施例を説明する。
【0033】
CAD装置1は,判定対象のプリント基板の実装CAD情報2および部品情報データベース(部品情報DB)の部品情報3を入力として,スイッチング電源回路の経路を示すスイッチング電源回路経路情報14を抽出し,スイッチング電源回路経路情報14からスイッチング電源回路方式を判別し,さらに,判別したスイッチング電源回路方式のノイズ対策箇所を判別して出力する。
【0034】
図1は,本発明の一実施例におけるCAD装置1の構成例を示す図である。
【0035】
CAD装置1は,部品区分情報記憶部11,ノイズ対策情報記憶部12,経路情報抽出部13,回路方式判定部15,ノイズ対策箇所判定部16,および結果出力部17を備える。
【0036】
部品区分情報記憶部11は,スイッチング電源回路の基本構成に使用される部品(基本構成部品)の部品種別(例えば,FET,インダクタ,キャパシタ,ダイオードなど)を定義する部品区分情報を記憶する。部品区分情報記憶部11は,部品区分情報データベースとして実施されていてもよい。
【0037】
ノイズ対策情報記憶部12は,各スイッチング電源回路方式に対応したノイズ対策箇所を示すノイズ対策情報を記憶する。ノイズ対策箇所は,部品およびネットで特定される経路により定義する。
【0038】
経路情報抽出部13は,実装CAD情報2と部品情報3とを入力して,実装CAD情報2に含まれるすべてのスイッチング電源回路の経路情報を抽出し,スイッチング電源回路経路情報14を生成,出力する。
【0039】
経路情報抽出部13は,実装CAD情報2からスイッチング電源回路の経路情報を抽出する際に,部品区分情報記憶部11の部品区分情報を参照して,抽出した経路上の部品が,スイッチング電源回路の基本構成部品であるかの判別を行い,スイッチング電源回路の経路上にある基本構成部品以外の部品に対して,経路情報抽出部13の判定処理で判定対象外の部品であることを示す区分フラグを追加する。基本構成部品以外の部品とは,例えば回路にすでに組み込まれている,ビーズフィルタなどのノイズ対策部品などである。スイッチング電源回路の基本構成品のみで判定することにより,確実にスイッチング電源回路の方式を判定するためである。
【0040】
実装CAD情報2および部品情報3は,既知のCADシステムで生成または保持される情報である。
【0041】
回路方式判定部15は,スイッチング電源回路の経路に接続する部品およびその接続関係をもとにスイッチング電源回路の方式を判別する条件情報を備えて,経路情報抽出部13が出力したスイッチング電源回路経路情報14から,判別対象とするスイッチング電源回路の経路に接続されている部品および部品同士の接続関係をもとに,スイッチング電源回路の方式を判別する。
【0042】
条件情報には,スイッチング電源回路の方式ごとに,当該方式の回路の経路に接続する部品および接続関係の特徴的な条件とともに判定順序が定義されている。条件情報の定義の一例として,(a)“経路にインダクタを有する場合に,チャージポンプ方式と判定する”,(b)“経路に開始点および終了点を含む電界効果トランジスタ(FET)と開始点および終了点を含まないFETの2つを有する場合に,スイッチングレギュレータ方式(昇降圧)方式と判定する”,(c)“経路に接続するインダクタの一方の端点がGND接続である場合に,スイッチングレギュレータ(極性反転)方式と判定する”,(d)“ダイオード端子のFET側のピン属性がアノードである場合に,スイッチングレギュレータ(昇圧)方式と判定する”,(e)“ダイオード端子のFET側のピン属性がカソードである場合に,スイッチングレギュレータ(降圧)方式と判定する”などがある。
【0043】
ノイズ対策箇所判定部16は,スイッチング電源回路経路情報14,回路方式判定部15が保持している判定結果情報(スイッチング電源回路と判定された方式との関係情報),およびノイズ対策情報記憶部12に記憶されているノイズ対策情報をもとに,各スイッチング電源回路についてノイズ対策箇所を判別し,判別したノイズ対策箇所を保持する。ノイズ対策箇所は,スイッチング電源回路の経路の部品名およびピン番号で特定される。
【0044】
結果出力部17は,ノイズ対策箇所判定部16が保持する各スイッチング電源回路のノイズ対策箇所を出力する。また,結果出力部17は,実装CAD情報2にもとづいて,プリント基板の実装された部品および配線の中からノイズ対策箇所に対応する部分を所定の表示態様で示して出力する。
【0045】
実装CAD情報2は,判別対象とするスイッチング電源回路が配置・配線設計されているプリント基板などの設計された配置・配線を示す情報である。実装CAD情報2は,プリント基板に実装される部品の部品名および配線に関するネット情報を含む。
【0046】
「部品名」は,プリント基板に実装されている部品を識別する情報である。
【0047】
ネット情報は,部品同士の接続を示す情報であり,少なくとも「ネット名,ネットの属性,接続関係」が定義される。「ネット名」は,プリント基板の配線を識別する情報である。「ネット属性」は,例えば,GNDネット,信号ネットなどのネットの属性を示す。「接続関係」は,ネットに繋がる部品の接続関係を示し,ネットの端に接続される部品名とそのピン番号(ピンNo.とも表す)を用いて定義される。
【0048】
部品情報3は,実装CAD情報2の配置・配線設計に使用される部品の種別や内部の接続情報を示す情報であり,部品情報データベースの情報である。部品情報3は,「部品名,部品種別,PATH」を含む。
【0049】
「部品種別」は,ネットの端に接続される部品の種別,例えば,電源IC,インダクタ,キャパシタなどを示す。
【0050】
PATHは,部品内のピン間の接続や属性を示す情報であり,ピン番号(ピンNo.)で示す部分ごとに,少なくとも,PATH種別,ピン属性が定義される。
「PATH種別」は,PATHで定義された部分の回路機能の種類(例えば,FET,ダイオードなど)を示す。「ピン属性」は,PATHの両端子で,ピン属性が異なる場合のピンの属性(例えば,ダイオードのアノード,カソードなど)を示す。
【0051】
また,1つの部品内に同じ回路機能ブロック(ポーション)が複数ある場合には,回路機能ブロック(ポーション)ごとに,「PATH」が定義される。
【0052】
図2は,部品の回路例と対応する部品情報の例を示す図である。
【0053】
図2(A)は,電源ICの回路例,図2(B)は,図2(A)の電源ICの部品情報例,図2(C)は,ダイオードの回路例,および,図2(D)は,図2(C)のダイオードの部品情報例を示す。
【0054】
図2(A)に示す電源ICは,内部に同一回路ブロック(スイッチング電源回路)を2つ有している。図2(B)に示すように,その電源ICに対応する部品情報3は,2つの[ポーション1],[ポーション2]の情報を含む。
【0055】
図2(C)に示すダイオードの回路例は,2端子からなる単品の回路例である。図2(D)に示すように,ダイオードの回路は,ブロックが1つであり,対応する部品情報3は,[ポーション1]の情報のみを含む。
【0056】
図3は,ノイズ対策情報の例を示す図である。
【0057】
図16および図17に示すように,スイッチング電源回路の各方式によってノイズ対策箇所が異なる。ノイズ対策情報記憶部12に記憶されるノイズ対策情報は,スイッチング電源回路の方式ごとに,1または複数のノイズ対策箇所が定義される。ノイズ対策箇所は,対策が必要な経路の部分を,PATH種別の並びおよびピン属性で定義される。
【0058】
図3の例では,スイッチング電源回路がスイッチングレギュレータ(昇圧)方式の場合には,そのスイッチング電源回路が有するFETのドレイン端子から開始してFETのソース端子で終了する経路上で,PATH種別(ピン属性)が,“FET(ドレイン),ダイオード(アノード),ダイオード(カソード),キャパシタ,キャパシタ,FET(ソース)”の順序の経路の部分が,ノイズ対策の範囲であることを示す。
【0059】
図4は,ノイズ対策箇所の例を示す図である。
【0060】
図4に示す例は,図3に示すノイズ対策情報の「スイッチングレギュレータ(降圧)方式」に対するノイズ対策箇所を回路上で模式的に図示している。「スイッチングレギュレータ(降圧)方式」の場合に,[対策箇所1]および[対策箇所2]の2つのノイズ対策箇所が定義されている。
【0061】
以下,CAD装置1の処理の流れを説明する。
【0062】
図5は,CAD装置1の処理フロー例を示す図である。
【0063】
ステップS1: CAD装置1の経路情報抽出部13が,スイッチング電源回路経路情報の抽出処理を実行する。
【0064】
図6は,スイッチング電源回路経路情報の抽出処理のより詳細な処理フロー例を示す図である。
【0065】
ステップS10: 経路情報抽出部13は,実装CAD情報2および部品情報3を取得して,実装CAD情報2内のすべての部品の中から,スイッチング電源部品を抽出する。
【0066】
より具体的には,経路情報抽出部13は,実装CAD情報2のすべての部品について以下のステップS101〜S103の処理を行う。
【0067】
すなわち,経路情報抽出部13は,実装CAD情報2の部品情報を検索し,部品名を読み取る(ステップS101)。さらに,経路情報抽出部13は,部品情報3の中から,読み取った部品名と一致する部品情報3を検索し,部品名が一致する部品情報3に定義されている「部品種別」の情報を読み取る(ステップS102)。次に,経路情報抽出部13は,「部品種別」が“電源IC”または“電源用FET”である部品をスイッチング電源部品と判断し,その部品名の部品情報3を保持する(ステップS103)。
【0068】
ステップS11: 経路情報抽出部13は,経路抽出対象のスイッチング電源部品を選択する。ステップS10の処理でスイッチング電源部品が複数ある場合には,経路情報抽出部13は,経路抽出対象のスイッチング電源部品を順番に選択する。例えば,最初に選択するスイッチング電源部品は,ステップS10の処理で抽出した最初のスイッチング電源部品とし,2回目以降(ステップS18の処理で判定結果=Yesの場合)で選択するスイッチング電源部品は,その次のスイッチング電源部品というように順番に選択する。
【0069】
また,経路情報抽出部13は,1つのスイッチング電源回路についての重複抽出を防止するため,一度抽出したスイッチング電源部品を選択対象から除外する。スイッチング電源回路の方式によっては,経路で2つの電源部品を使用する場合があるからである。
【0070】
ステップS12: 経路情報抽出部13は,ステップS11の処理で選択したスイッチング電源部品について,予め保持している開始点と終了点の関係情報をもとに,スイッチング電源回路の経路の開始点をすべて抽出する。例えば,1つのスイッチング電源部品で複数の電源回路を有する場合(ポーションが複数ある場合)には,開始点が複数となる。
【0071】
図7は,開始点と終了点の関係情報の例を示す図である。
【0072】
開始点と終了点の関係情報は,開始点と終了点との組み合わせを定義する情報であり,「開始点のピン属性」と「終了点のピン属性」とで定義される。例えば,開始点のピン属性が“ドレイン”の場合に終了点のピン属性は“ソース”と定義され,開始点のピン属性が“フライングコンデンサ”である場合には,フライングコンデンサが必ず偶数個となるため,終了点のピン属性は“フライングコンデンサ”と定義される。
【0073】
経路情報抽出部13は,すべてのピンについて,以下のステップS121〜S122の処理を行う。
【0074】
すなわち,経路情報抽出部13は,部品情報データベースの部品情報3の中から,ステップS11の処理で選択したスイッチング電源部品の部品名と一致する部品情報3に定義されている「ピン属性」を読み取る(ステップS121)。そして,経路情報抽出部13は,「ピン属性」が,保持する開始点と終了点の関係情報に定義されている開始点のピン属性と一致する場合は,そのピン属性が定義されている「ピンNo.」を開始点と判断し,開始点情報として,「部品名」と開始点の「ピンNo.」情報を保持する。
【0075】
ステップS13: 経路情報抽出部13は,経路抽出対象の開始点となる端点を選択する。ステップS12の処理で開始点が複数ある場合には,経路情報抽出部13は,経路抽出対象の開始点を順番に選択する。例えば,最初に選択する開始点は,ステップS12の処理で抽出した最初の開始点とし,2回目以降(ステップS17の処理で判定結果=Yesの場合)で選択する開始点は,その次の開始点というように,順番に選択する。
【0076】
ステップS14: 経路情報抽出部13は,接続元と繋がる接続先の部品情報を抽出し,接続先情報として「部品名」と「ピンNo.」情報を保持する。
【0077】
具体的には,接続元となる端点は,以下のように設定される。すなわち,ステップS13の次のステップとして本処理が実行される場合には,接続元の部品は,ステップS13の処理で選択された開始点の部品およびピンNo.となる。また,ステップS15の処理で判定結果=Noとなって本処理が実行される場合には,接続元の部品は,ステップS15で判定対象とした部品およびピンNo.となる。また,ステップS16の処理で判定結果=Yesとなって本処理が実行される場合には,接続元の部品は,分岐経路情報の分岐元の部品およびピンNo.となる。
【0078】
また,経路情報抽出部13は,接続先について,接続元と配線で接続される別の部品だけでなく,接続元の部品内部回路の接続先も判断対象とする。また,経路情報抽出部13は,部品内部に接続先があるかの判断は,部品情報3の[PATH]の情報に接続先があるかにより判断する。すなわち,接続先が部品内部の場合には,接続先の部品は,接続元と同じ部品となり,ピンNo.は部品情報3の[PATH]で定義される接続先のピンNo.となる。
【0079】
また,接続先が,接続元と配線で接続される別部品の場合には,実装CAD情報2のネット情報で定義されている接続先の部品およびピンNo.となる。接続先が複数ある場合(経路が分岐する場合など)には,分岐経路情報として,分岐元と接続先の情報が保持される。
【0080】
また,ステップS16の処理で判定結果=Yesとなって本処理が実行される場合には,保持している分岐経路情報のうち,経路を抽出していない分岐接続先について接続先情報が保持される。
【0081】
ステップS15: 経路情報抽出部13は,ステップS14の処理で得た接続先情報から,経路の終了点であるかを判定する。
【0082】
具体的には,経路情報抽出部13は,下記の(a)〜(d)いずれかに該当する場合に,終了点であると判断し(判定結果=Yes),ステップS16の処理へ進み,終了点ではないと判断した場合には(判定結果=No),ステップS14の処理へ戻る。
【0083】
(a)接続先情報のピン情報(ピン属性)が,開始点と終了点の対応関係に定義された開始点に対応する終了点である場合,
(b)接続先情報のピンNo.に,PATHの定義情報がない場合,
(c)接続先情報が開始点に戻った場合,
(d)抽出中の経路情報に接続先情報と同じ情報がある場合。
【0084】
なお,上記(a)以外の条件によって終了点と判定された経路は,抽出対象外の分岐経路と判断し,直前の分岐点からこの終了点までの経路情報は不要とされる。
【0085】
ステップS16: 経路情報抽出部13は,抽出されていない分岐経路があるかを判断する。具体的には,ステップS14の処理で分岐経路情報があり,かつ,未抽出の分岐経路がある場合は(判定結果=Yes),ステップS14の処理へ戻り,未抽出の分岐経路がない場合は(判定結果=No),ステップS17の処理へ進む。
【0086】
ステップS17: 経路情報抽出部13は,選択されていないポーションがあるかを判断する。ステップS12の処理でポーションが複数(すなわち,開始点が複数)あり,かつ,未選択(経路が未抽出)のポーションがある場合に(判定結果=Yes),ステップS13の処理へ戻り,未選択のポーションがない場合に(判定結果=No),ステップS18の処理へ進む。
【0087】
ステップS18: 経路情報抽出部13は,選択されていないスイッチング電源部品があるかを判断する。ステップS10の処理でスイッチング電源部品が複数あり,かつ,未選択(経路が未抽出)のスイッチング電源部品がある場合は(判定結果=Yes),ステップS11の処理へ戻り,未選択のスイッチング電源部品がない場合は(判定結果=No),ステップS19の処理へ進む。
【0088】
ステップS19: 経路情報抽出部13は,ステップS10〜S18の処理で保持している経路上にある部品の部品情報3について,スイッチング電源回路の基本構成部品であるかを識別する。
【0089】
具体的には,経路情報抽出部13は,下記のステップS131〜S132の処理を,すべての部品について行う。
【0090】
経路情報抽出部13は,部品情報3の「部品種別」を読み取り,部品区分情報記憶部11の部品区分情報に一致する部品種別があるか検索する(ステップS131)。そして,経路情報抽出部13は,部品区分情報に一致する部品種別がある場合は,その部品をスイッチング電源回路部品の基本構成部品と判断し,一致する部品種別がない場合は,基本構成部品以外の部品と判断して,その部品名を保持する(ステップS132)。
【0091】
ステップS110: 経路情報抽出部13は,ステップS10〜S18の処理で保持している部品の接続情報と部品情報とをもとに,スイッチング電源回路経路情報14を生成,出力する。この際,経路情報抽出部13は,対象の部品情報3から,「部品種別」,「PATH種別」,「ピン属性(情報がある場合のみ)」の各情報を読み込み,スイッチング電源回路経路情報14に追加する。
【0092】
また,経路情報抽出部13は,ステップS19の処理で保持している部品名に該当する部品について,スイッチング電源回路経路情報14の該当する部品の情報に区分フラグを追加する。
【0093】
図8は,スイッチング電源回路経路情報14の例を示す図である。
【0094】
図8(A)は,抽出された経路例を示す図であり,各経路を配線に沿った太い矢印で表している。
【0095】
図8(B)は,抽出された経路に該当するスイッチング電源回路経路情報14の例を示す図である。図8(B)に示す例では,スイッチング電源回路経路情報14が,開始点から終了点までの経路を,部品名,部品種別,ピン番号(ピンNo.),PATH種別,ピン属性により定義される。一例として,実装CAD情報2から抽出されたスイッチング電源回路IC(X001)について,“ドレイン”側のピン(ピンNo.=2)が開始点となり,“ソース”側のピン(ピンNo.=1)が終了点となる,2つの[経路1],[経路2]が抽出されている。
【0096】
[経路2]の経路上にあるビーズフィルタ(B001)は,部品区分情報に定義されていない部品(基本構成部品以外の部品)であり,区分フラグが付加されている。なお,この区分フラグにより,スイッチング電源回路方式の判定処理で,ビーズフィルタ(B001)を判別対象から除外して判定することが可能となる。
【0097】
ステップS2(図5): 回路方式判定部15は,スイッチング電源回路経路情報14をもとに,スイッチング電源回路方式の判定処理を実行する。
【0098】
図9は,スイッチング電源回路方式の判定処理のより詳細な処理フローを示す図である。
【0099】
ステップS20: 回路方式判定部15は,スイッチング電源回路経路情報14から,判別対象のスイッチング電源回路を選択する。スイッチング電源回路経路情報14に判別対象とするスイッチング電源回路が複数ある場合には,回路方式判定部15は,判別対象のスイッチング電源回路を順番に選択する。例えば,最初に選択するスイッチング電源回路は,スイッチング電源回路経路情報14の最初に定義されているスイッチング電源回路とし,2回目以降(ステップS210の処理で判定結果=Yesの場合)で選択するスイッチング電源回路は,その次のスイッチング電源回路というように,順番に選択する。なお,スイッチング電源回路ごとに判別するため,判別対象とするスイッチング電源回路には分岐による複数の経路が含まれる。
【0100】
ステップS21: 回路方式判定部15は,保持する条件情報をもとに,スイッチング電源回路経路情報14の判別対象とするスイッチング電源回路の情報について,「部品種別」が“インダクタ”となっている情報があるかを判定する。
【0101】
チャージポンプ方式は,スイッチング電源回路の経路に接続される部品にインダクタを含まないという構成上の特徴がある。そのため,インダクタの有無により,スイッチング電源回路がチャージポンプ方式であるか,その他の方式(スイッチングレギュレータ方式)であるかの判別が可能となる。
【0102】
具体的な判定方法を,図8に示すスイッチング電源回路経路情報14の例で説明する。図8に示す例では,判別対象とするスイッチング電源回路の2つの経路(ここでは[経路1]と[経路2])に記載されている「部品種別」の情報の中に“インダクタ”の記載が2箇所あるかで判定する。図8に示す例では,[経路2]の情報番号がNo.4とNo.5の「部品種別」が“インダクタ”であり,2箇所に記載がある。そのため,判定結果=Yesとなり,ステップS23の処理へ進む。一方,判別対象とするスイッチング電源回路のスイッチング電源回路経路情報14に,「部品種別」が“インダクタ”となっている部品がない場合に(判定結果=No),ステップS22の処理へ進む。
【0103】
ステップS22: 回路方式判定部15は,判別対象とするスイッチング電源回路の方式を「チャージポンプ方式」と判定し,判別対象としたスイッチング電源回路と方式判別結果との関係情報(判定結果情報)を保持する。
【0104】
ステップS23: 回路方式判定部15は,ステップS21の処理で判定結果=Yesとなったスイッチング電源回路について,スイッチング電源回路経路情報14の情報に,「PATH種別」が“FET”となっている情報が,開始点と終了点の“FET”以外に2つあるかを判定する。
【0105】
スイッチングレギュレータ(昇降圧)方式は,スイッチング電源回路の経路に接続される部品に,昇圧用と降圧用の2つのFETを含むという構成上の特徴がある。そのため,開始点および終了点を含むFETと開始点および終了点を含まないFETの2つのFETが存在するかの判定により,昇降圧方式であるか,その他(昇圧方式,極性反転方式,降圧方式のいずれか)であるかの判別が可能となる。
【0106】
具体的な判定方法を,図8のスイッチング電源回路経路情報14の例で説明する。図8の例では,スイッチング電源回路経路情報14の「PATH種別」の情報の中に,“FET”の記載が4箇所(開始点と終了点以外に2箇所)あるかを経路ごとに判定する。経路のいずれかが該当する合に,判定結果=Yesとする。図8の例では,[経路1]と[経路2]のどちらの経路についても“FET”の記載が2箇所(開始点と終了点の2箇所のみ)であるため,判定結果=Noとなる。判定結果=Yesである場合に,ステップS24の処理へ進み,判定結果=Noである場合に,ステップS25の処理へ進む。
【0107】
ステップS24: 回路方式判定部15は,判別対象とするスイッチング電源回路方式を「スイッチングレギュレータ(昇降圧)方式」と判定し,判別対象としたスイッチング電源回路と方式判別結果の関係情報(判定結果情報)を保持する。
【0108】
ステップS25: 回路方式判定部15は,ステップS23の処理で判定結果=Noとなったスイッチング電源回路について,スイッチング電源回路経路情報14の経路情報に含まれるインダクタの片側ピンが,GND属性定義のネットに接続しているかを判定する。
【0109】
スイッチングレギュレータ(極性反転)方式は,スイッチング電源回路の経路に接続する部品にインダクタを含み,その片側をGND接続するという接続上の特徴がある。そのため,経路にあるインダクタの片側がGND接続であるかの判定により,極性反転方式であるか,その他(昇圧方式,降圧方式のいずれか)であるかの判別が可能となる。
【0110】
インダクタには方向性がないため,インダクタの両側のピンについてGND接続しているかの判定が行われる。具体的には,回路方式判定部15は,実装CAD情報2のネット情報から,スイッチング電源回路経路情報14の経路情報の判定対象とするインダクタのピンが繋がるネットを検索し,その「ネット属性」が“GND”であるかの判定を,インダクタの両側のピンについて行う。なお,回路方式判定部15は,この判定処理の際に,スイッチング電源回路経路情報14で区分フラグが付加された部品(基本構成部品以外の部品)を除外して判定する。
【0111】
具体的な判定方法を,図8のスイッチング電源回路経路情報14の例で説明する。図8の例では,「部品種別」が“インダクタ”と記載されている[経路2]の情報番号がNo.4とNo.5とに記載されている部品名L001のピンNo.1とピンNo.2が判定対象のピンとなる。
【0112】
そして,判定結果=Yesである場合に,ステップS26の処理へ進み,判定結果=Noである場合に,ステップS27の処理へ進む。
【0113】
ステップS26: 回路方式判定部15は,判別対象とするスイッチング電源回路の方式を「スイッチングレギュレータ(極性反転)方式」と判定し,判別対象としたスイッチング電源回路と方式判別結果の関係情報(判定結果情報)を保持する。
【0114】
ステップS27: 回路方式判定部15は,ステップS25の処理で判定結果=Noとなったスイッチング電源回路について,スイッチング電源回路経路情報14の経路情報の「PATH種別」が“FET”,かつ「ピン属性」が“ドレイン”となっているピン側に接続するダイオードの情報について,その「ピン属性」が“アノード”と“カソード”のどちらであるかを判定する。なお,回路方式判定部15は,区分フラグが付加された部品を除外して判定する。
【0115】
スイッチングレギュレータ方式の昇圧方式と降圧方式において,経路の接続関係の特徴の違いにダイオードの向きがある。そのため,ダイオードの向きの判定により,昇圧方式であるか,降圧方式であるかの判別が可能となる。
【0116】
回路方式判定部15は,下記のステップS271〜S272の処理により判定する。
【0117】
回路方式判定部15は,判定対象のスイッチング電源回路の各経路で,「PATH種別」の情報の中に“ダイオード”の記載が2箇所ある経路をステップS272の処理対象とする(ステップS271)。さらに,回路方式判定部15は,S271の処理で該当した経路の中で,「PATH種別」が“FET”,かつ,「ピン属性」が“ドレイン”となっている情報(行)の次に記載される情報(行)で「PATH種別」が“ダイオード”の「ピン属性」が“アノード”であるか“カソード”であるかを判定する(ステップS272)。なお,スイッチング電源回路部品に含まれない経路情報は除外する。
【0118】
具体的判定方法を,図8のスイッチング電源回路経路情報の例で説明する。図8の例では,[経路1]の情報No.2とNo.3の「PATH種別」が“ダイオード”であり,[経路1]が該当する。さらに,[経路1]の情報No.2の「ピン属性」が判定対象であり“カソード”である。
【0119】
そして,判定結果=アノードである場合に,ステップS28の処理へ進み,判定結果=カソードである場合に,ステップS29の処理へ進む。
【0120】
ステップS28: 回路方式判定部15は,判別対象とするスイッチング電源回路方式を「スイッチングレギュレータ(昇圧)方式」と判定し,判別対象としたスイッチング電源回路と方式判別結果の関係情報(判定結果情報)を保持する。
【0121】
ステップS29: 回路方式判定部15は,判別対象とするスイッチング電源回路方式を「スイッチングレギュレータ(降圧)方式」と判定し,判別対象としたスイッチング電源回路と方式判別結果の関係情報(判定結果情報)を保持する。
【0122】
ステップS210: 回路方式判定部15は,判別されていないスイッチング電源回路があるかを判定する。スイッチング電源回路経路情報14に判別対象とするスイッチング電源回路が複数あり,かつ,未判別のスイッチング電源回路経路がある場合は(判定対象=Yes),ステップS20の処理へ戻り,未判別のスイッチング電源回路経路がない場合は(判定対象=No),処理を終了する。
【0123】
回路方式判定部15は,各スイッチング電源回路の経路に接続する部品および接続関係について各方式が持つ特徴を示す情報にもとづいて,スイッチング電源回路の方式を判定している。しかし,この判定処理に限らず,さらに判定条件を増やした判別処理を実行するようにしてもよい。例えば,スイッチング電源回路の各方式の基本経路を情報データベースに持たせておき,判別対象とするスイッチング電源回路の経路情報との比較判定処理,すなわち,経路に接続されるすべての部品とその接続関係が完全一致するかの判定処理を行うようにしてもよい。
【0124】
ステップS3(図5): ノイズ対策箇所判定部16が,ノイズ対策情報記憶部12を参照して,ノイズ対策箇所の判定処理を実行する。
【0125】
図10は,ノイズ対策箇所の判定処理のより詳細な処理フローを示す図である。
【0126】
ステップS30: ノイズ対策箇所判定部16は,回路方式判定部15が保持している判定結果情報から,判別対象のスイッチング電源回路に関係付けられた判定結果(判定された方式)を選択する。
【0127】
回路方式判定部15が保持している判定結果情報で,スイッチング電源回路と方式判別結果の関係情報が複数ある場合に,判別対象とするスイッチング電源回路を順番に選択する。例えば,最初に選択するスイッチング電源回路は,ステップS2の処理で情報を保持した最初のスイッチング電源回路とし,2回目以降(ステップS32の処理で判定結果=Yesの場合)で選択するスイッチング電源回路は,その次のスイッチング電源回路というように,順番に選択する。
【0128】
ステップS31: ノイズ対策箇所判定部16は,ステップS30で選択したスイッチング電源回路のノイズ対策箇所を判別する。
【0129】
具体的には,ノイズ対策箇所判定部16は,以下のステップS311〜S314の処理を行う。すなわち,ノイズ対策箇所判定部16は,ノイズ対策情報記憶部12のノイズ対策情報に定義されている,方式ごとのノイズ対策情報の中から,ステップS30の処理で選択したスイッチング電源回路の方式に該当する情報を検索し,ノイズ対策箇所の経路情報を読み取る(ステップS311)。例えば,選択したスイッチング電源回路の方式が「スイッチングレギュレータ(降圧)方式」である場合に,図3に示すノイズ対策情報の例では,点線の角丸の矩形で囲む範囲の情報,すなわち“[方式] スイッチングレギュレータ,降圧”と記載されている行から,以降の行であって行先頭が“[方式]”と記載される行の前まで情報が,ノイズ対策情報(ノイズ対策箇所の経路情報)となる。
【0130】
ノイズ対策箇所判定部16は,スイッチング電源回路経路情報14から,ステップS30の処理で選択したスイッチング電源回路の経路情報を読み取る(ステップS312)。
【0131】
次に,ノイズ対策箇所判定部16は,ステップS312処理で読み取ったノイズ対策情報の中で,ステップS311で読み取った経路情報と一致する経路(すなわち,経路上の「PATH種別」と「ピン属性」の組み合わせと接続順が一致する経路)を抽出し,抽出した経路をノイズ対策箇所と判定する(ステップS313)。なお,ノイズ対策箇所を判定する際に,スイッチング電源回路の基本構成部品以外の部品は除外して判定される。
【0132】
例えば,ノイズ対策情報記憶部12に図3に示すノイズ対策情報が記憶され,かつ,ステップS311の処理で,図8に示すスイッチング電源回路経路情報14が読み取られた場合に,ノイズ対策箇所は,以下の範囲となる。
【0133】
まず,スイッチング電源回路経路情報14中のスイッチング電源回路の経路情報から,区分フラグが付加された[経路2]の情報No.2と情報No.3が,判定対象から除外される。そして,ノイズ対策情報のうち「スイッチングレギュレータ(降圧)方式」に対応するノイズ対策情報と,スイッチング電源回路の区分フラグの情報が除外された経路情報とが比較され,一致する経路の部分がノイズ対策箇所として取り出される。具体的には,[対策箇所1]に該当する経路は,[経路1]の情報No.1の行から情報No.6までの行で示される経路であり,[対策箇所2]に該当する経路は,[経路2]の情報No.1の行から情報No.4までの行で示される経路である。
【0134】
ノイズ対策箇所判定部16は,ノイズ対策箇所と判定した経路上のすべての部品名とピンNo.および接続関係を,ノイズ対策箇所情報として保持する。ノイズ対策箇所情報として,ステップS313の判定で除外した区分フラグが付加された情報も含めて保持する(ステップS314)。例えば,図8に示すスイッチング電源回路経路情報14で,ノイズ対策箇所が[経路2]の情報No.1〜情報No.4の経路である場合に,スイッチング電源回路部品に含まれない部品である[経路2]の情報No.2と情報No.3の情報(行)も含めた情報がノイズ対策箇所情報として保持される。
【0135】
図11は,ノイズ対策箇所情報の例を示す図である。
【0136】
ステップS32: ノイズ対策箇所判定部16は,判別されていないスイッチング電源回路があるかを判定する。ステップS30の処理で,判別対象とするスイッチング電源回路が複数あり,かつ,未判別のスイッチング電源回路がある場合は(判定結果=Yes),ステップS30に戻り,未判別のスイッチング電源回路がない場合は(判定結果=No),処理を終了する。
【0137】
ステップS4(図5): 結果出力部17が,結果出力処理を実行する。
【0138】
図12は,結果出力処理のより詳細な処理フローを示す図である。
【0139】
ステップS40: 結果出力部17は,ノイズ対策箇所情報をもとに,判定したスイッチング電源回路の方式,およびノイズ対策箇所の一覧を生成し,実装CAD画面上に表示する。
【0140】
図13は,ノイズ対策箇所の一覧の表示例を示す図である。
【0141】
図13のノイズ対策箇所の一覧の表示により,ユーザは,処理対象のプリント基板に配置されているスイッチング電源回路が,“スイッチングレギュレータ(降圧)方式”であることを把握することができる。また,ユーザは,そのスイッチング電源回路について2つのノイズ対策箇所[対策箇所1],[対策箇所2]があることを把握することができる。
【0142】
ステップS41: 図13に示すノイズ対策箇所の一覧から,ユーザの操作によって任意の1または複数のノイズ対策箇所が選択されると,結果出力部17は,ノイズ対策箇所情報から,選択されたノイズ対策箇所に対応する情報(経路上のすべての部品名およびピンNo.ならびに接続関係の情報)を取り出して保持する。なお,複数のノイズ対策箇所が選択されている場合には,選択されたノイズ対策箇所ごとに対応する情報が取り出されて保持される。
【0143】
ステップS42: 結果出力部17は,実装CAD情報2から,選択されているノイズ対策箇所について,保持しているノイズ対策箇所情報の該当する部品およびネットを実装CAD画面上に表示する。
【0144】
具体的には,結果出力部17は,実装CAD情報2の部品情報の中から,選択されたノイズ対策箇所について保持しているノイズ対策箇所情報に含まれる部品名と一致する部品を検索し,一致した部品をノイズ対策箇所の部品とする。また,結果出力部17は,実装CAD情報2のネット情報から,選択されたノイズ対策箇所について保持しているノイズ対策箇所情報に含まれる部品間の接続情報(部品名,ピンNo.,接続関係)と一致するネットを検索し,一致したネットをノイズ対策箇所のネットとする。そして,実装CAD画面上にプリント基板を表示する際に,ノイズ対策箇所の部品およびネットを,表示色などを変えて強調表示する。
【0145】
図14は,ノイズ対策箇所の部品およびネットの強調表示の例を示す図である。
【0146】
図14(A)には,実装CAD画面に表示されたプリント基板の表層(部品搭載面)上での選択されたノイズ対策箇所の強調表示の例を示し,図14(B)には,同じプリント基板の内層上でのノイズ対策箇所の強調表示の例を示している。なお,図14(A)および図14(B)の表示は,ユーザ操作による実装CAD画面の切替指示により,切り替えて表示される。
【0147】
図14の例は,図3のノイズ対策情報の場合に,スイッチングレギュレータ(降圧)方式の[対策箇所1]および[対策箇所2]に該当する箇所であり,[対策箇所2]については,ノイズ対策箇所が表層および内層にまたがっている場合である。
【0148】
図14のノイズ対策箇所の強調表示により,ユーザは,そのスイッチング電源回路に必要な2つのノイズ対策箇所が,具体的に実装CAD情報のどの部分に該当するかを確認することができる。
【0149】
CAD装置1は,CPUおよびメモリ等を有するハードウェアおよびソフトウェアプログラムを備えるコンピュータ・システム,または専用ハードウェアによって実現される。
【0150】
また,CAD装置1は,このコンピュータが実行可能なプログラムによっても実施することができる。この場合に,CAD装置1が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供される。提供されたプログラムを上記コンピュータが実行することによって,上記説明したCAD装置1の処理機能がコンピュータ上で実現される。なお,上記コンピュータは,可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り,そのプログラムに従った処理を実行することもできる。さらに,上記プログラムは,コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。
【0151】
以上説明したように,開示するCAD装置によれば,プリント基板などの設計作業において,スイッチング電源回路方式の判別,および,ノイズ対策箇所の判別が自動化でき,人による判別ミスを払拭することができる。
【0152】
さらに,開示するCAD装置によれば,ノイズ対策箇所が明確に示されるため,スイッチング電源回路が搭載されるプリント基板などのノイズ対策不十分によるリメーク回避など,効率的なノイズ対策設計品質の作りこみが可能となる。
【0153】
開示するCAD装置は,特に,無線機能を有する情報端末など(例えば,携帯電話,カーナビなど)の基板設計に適用することができる。
【符号の説明】
【0154】
1 CAD装置
11 部品区分情報記憶部
12 ノイズ対策情報記憶部
13 経路情報抽出部
14 スイッチング電源回路経路情報
15 回路方式判定部
16 ノイズ対策箇所判定部
17 結果出力部
2 実装CAD情報
3 部品情報


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング電源回路の方式を判定するために,コンピュータが実行する処理方法であって,
スイッチング電源回路が配置されている基板に実装される部品およびネットを示す実装CAD情報,ならびに前記基板に配置される各部品の部品種別,部品内のピン間の接続およびピン属性を示す部品情報をもとに,前記スイッチング電源回路から開始かつ終了する配線の経路を抽出し,前記経路に接続する部品および接続関係を示すスイッチング電源回路経路情報を生成する経路情報抽出処理ステップと,
スイッチング電源回路の経路に接続されている部品および接続関係にもとづいてスイッチング電源回路の方式を判別する条件をもとに,前記スイッチング電源回路経路情報の経路の部品および接続関係と一致するスイッチング電源回路の方式を,前記基板に配置されているスイッチング電源回路の方式として判定する回路方式判定処理ステップとを,実行する
ことを特徴とするスイッチング電源回路方式判定処理方法。
【請求項2】
前記回路方式判定処理ステップにおいて,前記条件として,前記スイッチング電源回路の経路に接続する部品にインダクタを有しない場合に該スイッチング電源回路をチャージポンプ方式と判定すること,前記スイッチング電源回路の経路の開始点および終了点を含む電界効果トランジスタと開始点および終了点を含まない電界効果トランジスタの2つの電界効果トランジスタを有する場合に該スイッチング電源回路をスイッチングレギュレータ方式の昇降圧方式と判定すること,前記スイッチング電源回路の経路に接続するインダクタの一方の端点がGND接続である場合に該スイッチング電源回路をスイッチングレギュレータ方式の極性反転方式と判定すること,前記スイッチング電源回路の経路に接続するダイオード端子のスイッチング電源回路側のピン属性がアノードである場合に該スイッチング電源回路をスイッチングレギュレータ方式の昇圧方式と判定すること,前記スイッチング電源回路の経路に接続するダイオード端子のスイッチング電源回路側のピン属性がカソードである場合に該スイッチング電源回路をスイッチングレギュレータ方式の降圧方式と判定することが定義されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源回路方式判定処理方法。
【請求項3】
各スイッチング電源回路の方式に対するノイズ対策箇所を定義するノイズ対策情報をもとに,前記スイッチング電源回路経路情報および前記部品情報から前記判定されたスイッチング電源回路の方式に対するノイズ対策箇所を抽出する処理ステップと,
前記実装CAD情報をもとに,前記基板に実装された部品およびネットのうち前記抽出されたノイズ対策箇所に対応する部品およびネットを示すノイズ対策箇所情報を出力する結果出力処理ステップとを,実行する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスイッチング電源回路方式判定処理方法。
【請求項4】
スイッチング電源回路の方式を判定するCAD装置であって,
スイッチング電源回路が配置されている基板に実装される部品およびネットを示す実装CAD情報,ならびに前記基板に配置される各部品の部品種別,部品内部のピン間の接続およびピン属性を示す部品情報をもとに,前記スイッチング電源回路から開始かつ終了する配線の経路を抽出し,前記経路に接続する部品および接続関係を示すスイッチング電源回路経路情報を生成する経路情報抽出処理部と,
スイッチング電源回路の経路に接続されている部品および接続関係にもとづいてスイッチング電源回路の方式を判別する条件をもとに,前記スイッチング電源回路経路情報の経路の部品および接続関係と一致するスイッチング電源回路の方式を,前記基板に配置されているスイッチング電源回路の方式として判定する回路方式判定処理部とを備える
ことを特徴とするCAD装置。
【請求項5】
スイッチング電源回路の方式を判定するために,コンピュータに,
スイッチング電源回路が配置されている基板に実装される部品およびネットを示す実装CAD情報,ならびに前記基板に配置される各部品の部品種別,部品内部のピン間の接続情およびピン属性を示す部品情報をもとに,前記スイッチング電源回路から開始かつ終了する配線の経路を抽出し,前記経路に接続する部品および接続関係を示すスイッチング電源回路経路情報を生成する処理と,
スイッチング電源回路の経路に接続されている部品および接続関係にもとづいてスイッチング電源回路の方式を判別する条件をもとに,前記スイッチング電源回路経路情報の経路の部品および接続関係と一致するスイッチング電源回路の方式を,前記基板に配置されているスイッチング電源回路の方式として判定する処理とを,実行させる
ことを特徴とするCADプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−198703(P2012−198703A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61709(P2011−61709)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】