説明

スエード外観を有し、色の範囲が灰色と黒色の間であり、高い染色堅牢度を有するマイクロファイバー状の布地およびその生成方法

スエード外観と、灰色〜黒色の間の色と、高い染色堅牢度とを有する合成皮革であって、マイクロファイバー成分と、エラストマーのマトリクスとからなり;該マイクロファイバー成分は0.01〜0.50dtexのポリエステルマイクロファイバーからなり;該エラストマーのマトリクスはソフトおよびハードセグメントからなるポリウレタンからなり;該エラストマーのマトリクスとマイクロファイバー成分の比は20/80〜50/50質量部の間であり;該マイクロファイバー成分は質量パーセントで0.05〜2.00%のカーボンブラック顔料を含有し;該エラストマーのマトリクスは質量パーセントで0〜10%のカーボンブラック顔料を含有し;該カーボンブラックは常に平均サイズが0.4ミクロン未満である合成皮革。起毛部の平均長は200〜500ミクロンである。ソフトソフトセグメントは、ポリアルキレンカーボネートジオール類から選択される少なくとも1つのポリカーボネートジオールと、少なくとも1つのポリエステルジオールとからなる。ハードセグメントは、遊離イソシアネート基と水の反応に由来するウレタン基からなる。カーボンブラックの総含有量は、質量パーセントで0.025〜6%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スエード外観と、灰色と黒色の間の色とを有する高品質の合成皮革に関する。該合成皮革は、光に暴露した際の高い染色堅牢度と、高い耐久性とを特徴とし、自動車の内装への使用が考えられている。
【背景技術】
【0002】
「高い堅牢度」とは、長期間にわたって光にさらされた後の色合いの変化に対する高い耐性を意味する。
【0003】
「高い耐久性」とは、長期かつ継続的に光にさらされた後であっても、特に酸化および/または加水分解環境下にさらされた後であっても、長期間にわたる耐久性があるスエード革の高い耐性を意味する。
【0004】
本発明には、高い堅牢度を有する合成皮革を製造するのに必要となるプロセスも含まれる。
【0005】
本発明の目的であるスエード外観を有する合成皮革は、光に対する高い堅牢度と長期耐久性等の特性があっても、その最も一般的な特性については、マイクロファイバー密度の高い表面と、このマイクロファイバー構造と結合するエラストマータイプのマトリクスとからなる既知の合成構造と比較可能である。スエード効果を有する高品質の合成皮革の製造に既に用いられている方法(例えば、特許文献1〜5参照)は、いずれも以下に体系化されるプロセスを特徴とする。
【0006】
A1)「海島(sea−island)」型のバイコンポーネント繊維の紡織。「島」成分は、ポリエステルおよび/またはポリアミドからなり「海」成分は、島成分と不混和で有機性または無機性の適切な溶媒に溶解可能な重合体からなる。海成分の溶解後に得られるマイクロファイバーは、通常は0.5dtex(デシテックス)未満である。
【0007】
A2)A1項目で得られたマイクロファイバーを結合可能な機械的ニードリングプロセスによる、特定の密度値と単位重量(unitary weight)とを特徴とするフェルトの作製。
【0008】
A3)この後の「海」成分の除去段階で「島」を保留可能なバインダーによるフェルトの含浸。前記バインダーには、「海」の除去に使用する溶媒に浸漬できる程度にフェルトを適切に補強する機能もあり、2つの異なる類型からなる。
第一の類型は、通常ポリビニルアルコールに基づくものであり、本プロセスの後続ステップにおいて除去される。
第二の類型は、通常ポリウレタンに基づくものであり、その後の処理ステップ後にも部分的にまたは全体的に最終生成物中に残存する。
【0009】
A4)マイクロファイバー材料を付与するための、適切な有機溶媒(一般的にトリクロロエチレン)または無機溶媒(酸性または塩基性の水溶液、または単なる温水)への「海」成分の溶解。
【0010】
A5)ポリウレタン(PU)の有機溶媒(ジメチルホルムアミド、DMF)溶液による上述のマイクロファイバー材料の含浸。別法として、ポリウレタンエマルジョンまたは水分散液(PUD)を用いて前記含浸を行うことも可能である。
【0011】
A6)バインダーがPUまたはPUDではない場合A3時に使用したバインダーの除去および場合によりA5ステップで使用される溶媒の除去。
【0012】
A7)ポリウレタンを含浸させたマイクロファイバー材料の切断。縦断により、表面に平行に等分に2分される。
【0013】
A8)サンドペーパーを用いた適切な処理による生成物表面の研磨。該構造にスエード外観を付与するために行う。
【0014】
A9)生成物の最終染色。
【0015】
A10)最終加工処理(他の基質とのカップリング、プリント加工など)
【0016】
なお、染色プロセスに関し、ポリエステル系の不織布の染色に一般的に使用される方法には、「分散」型の染料を含有する溶液槽に材料を浸漬することにより、マイクロファイバー成分(起毛部;tassel)を染色することが含まれる。分散染料のみを使用することで、ポリウレタンマトリクスの染色が必要とされず、この染料群を使用しても強固に染色されないため、そのオリジナルカラーが保持できる。染色プロセスは、残存し材料に固定されていない過剰の染料を除去する目的で、ヒドロ亜硫酸ナトリウムのNaOH溶液により実行される還元洗浄ステップで終了する。
【0017】
バックグラウンドが見えることで、最終製品の美的印象に悪影響を及ぼすため、通常、起毛部とポリウレタンマトリクスとの着色差異は重大である。
【0018】
上述の起毛部とポリウレタンマトリクスとの着色差異を最小限に抑えるため、通常、さまざまな対策が採用されている。
・含浸プロセス前のポリウレタン自体への有機顔料または無機顔料の添加;
・上述の標準的な溶液槽に続く第二の染色溶液槽の使用。この場合、ポリウレタンベースの染色が可能で、着色差異に起因する品質劣化を制限するいわゆる「プレメタル化(pre−metallized)」染料が使用される(特許文献6〜7参照);
・起毛部の長さの最適化。PUバックグラウンドの「被覆率」と、スエード本革の模造と、ライティング効果および色むら効果の保護との的確な妥協点を見出すために行う。過度に起毛部が短いと上述の2つの効果が下がるため、実際には、製品の「上質な(noble)」表面にPUが見えてしまい質的なレベルを下げることになる。
【0019】
なお、前述の最後の点に関し、マイクロファイバー成分は面密度が高いため、スエード外観を有する合成皮革の「目に見える」側の品質を強く特徴付け、結合マトリクス以上に、このタイプの不織布の質的評価の主要なパラメータとなる色合い、まだら感(mottling)、ライティング(writing)効果および手触りの柔らかさ等の性質の付与に貢献している。
【0020】
上述のように得られる製品には、通常、光にさらされた後の色合いの不変性に特定の制限がある。この光に対する染色堅牢度の制限は、特に自動車の内装分野において、その応用の可能性をかなり条件付けてしまう。合成皮革は自動車の内装の内張に幅広く用いられており、自動車の内装分野は高品質の合成皮革に関連する市場の一つである。
【0021】
このため、光の照射後の合成皮革の染色堅牢度は、照射条件および湿度条件の制御下での人工光源への試験サンプルの暴露を含むさまざまな分析方法により入念に評価される。
【0022】
残念ながら、現在のところ、光に対する染色堅牢度の評価については単一の分析方法は確立されておらず、各自動車メーカーが、個別の方法を採用している。通常、上記さまざまな方法では、太陽の照射スペクトルを可能な限り再現するためにキセノンランプが使用される。また、この照射スペクトルには、波長が270〜700nmの範囲の照射が含まれる場合もあるほか、暴露室の温度が60〜70℃に達する場合もある。
【0023】
欧州で最も広く用いられている方法は、DIN75 202 PV1301、D47 1431およびSAEJ1885である。アメリカ市場で最も広範な方法としては、SAEJ1885のほか、FLTM BO116−01がある。下表に主な試験条件を示す。
【表1】

【0024】
光に対する染色堅牢度評価は、グレースケールISO 105A02を使用して、暴露前後の色の変化を比較することで行う。
【0025】
光の照射後の色合い耐性を最大化するため、現在はさまざまな対策が採用されている。最も一般的かつ効果的なのが、紡績フェーズの上流で、マイクロファイバー製造に使用する重合体に有機または無機顔料を添加するという対策である(マス染色技術;mass dye technology)。
【0026】
このマス染色技術により、実際に、通常水溶液槽による染色では使用できない、光に対する高い堅牢度を有する有機または無機顔料の使用が可能となる。実際、古典的なポリエステル染色では、水分散性があり、ポリエステル繊維内部に拡散可能な有機染料のみが使用できる。ポリエステル製マイクロファイバーの染色を行う場合は、短時間で良好な染色収率を得るため、サイズの小さな分子を提供する必要がある。
【0027】
しかしながら、紡績プロセスで顔料を添加させた重合体を使用する場合には、例えば、以下のような考慮すべき欠点もある。
・保護目的で紡糸口金(spinnerets)の上流に据える選別用スクリーンの閉塞(obstruction)プロセスの増加。閉塞現象の加速により、選別用スクリーンの交換頻度が増加し、結果的に製造コストの上昇につながる;
・マイクロファイバー成分からなる繊維の機械的特性の低下と、それに伴って起きる該繊維から製造される合成皮革の機械的特性の低下。
【0028】
上記の欠点を制限するためには、使用する顔料について、重合体への添加量(%)のほか、特に粒子サイズおよびろ過性に関して正確な選択が不可欠である。実際、顔料含有量が高いほど、より色合いの深い合成繊維の製造が可能であるものの、紡糸口金を保護する目的で設置されるフィルタリングシステムの閉塞頻度が増加し、該繊維の機械的特性を大幅に低下させる場合があることも考慮すべきである。
【0029】
したがって、高品質の合成皮革の製造には、上記2つの要素間で最善の妥協点が求められ、必要に応じて、特定の色合いを得るための代替案を用いることもある。合成スエード革の「全体的な」色合いは、マイクロファイバー状の(主)成分およびポリウレタンマトリクスの双方に起因しうるため、暗色系を得るための既知の解決案の一つとしては、ポリウレタンベースを部分的にのみ被覆し、その「バックグラウンド」カラーにより所望の色合いを得ることができるようにマイクロファイバー起毛部長を制限することが挙げられる(例えば、特許文献8では、起毛部長は10〜200μm)。ところが、上述の手段にも、起毛部の長さを短くすることで得られるライティング効果およびまだら効果が低下し、合成皮革の品質水準を強力に条件付けてしまうなど重大な欠点がある。
【0030】
色合いの測定は、通常、計測器によるカラー測定および目視による参照基準との比較(主に本発明の合成皮革のようなスエード外観を有する合成皮革の場合)により行う。計測器と測定技術は、当業者に公知である。目視による比較は、市販の計測器に対する人間の目の感受性に違いがあるため必要とされるが、起毛部の存在により特徴づけられるこの種の材料に特有の表面が、観察者に対するマイクロファイバーの傾斜によって異なる色合いを目に感知させることから、特に必要とされる。測定器による分析により人間の目の色感覚と同一のものを再現するため、いくつかのモデルが作製されている。このうち、最も簡便かつ幅広く受け入れられているものの一つが、CIELABシステムと呼ばれるものである。このシステムは、デカルト座標系に配置されたL、aおよびbの文字で定義される3つの座標による色彩表示に基づく。Lは明度を示し、100(白色)〜0(黒色)の数値を持つ。一方、L軸に垂直な他の2座標軸(a、b)は、色度を特定し、+80〜−80の範囲の数値を有する。ここで、aが負の値であれば、緑色成分が存在することを意味し;正の値であれば、赤色成分の存在を意味し;bが負の値であれば、青色成分が存在することを意味し;正の値であれば黄色成分の存在を意味する。2つの測定値の色差は、2測定に関わる座標軸間のデカルト距離で表される。たとえ、このモデルが(主に発色剤の配合フェーズにおいて)熟練者により達成された標準サンプルに対する目視による比較を代用するものではなかったとしても、分析する材料の予備的な評価に有益であり、他の対象者(顧客やサプライヤーなど)との討議や比較を行う際の評価項目を与えるうえでも有益である。
【0031】
高品質の合成スエード革を幅広く使用するためには、いずれも光に対する染色堅牢度特性に加え、長期にわたって継続する高い機械的耐性を有する必要がある。この特性は、一般的に「耐久性」とも言われるが、以下の2種類の試験により合成皮革を老化させることで評価される。
・3ファクラ(fakra)のサイクルに対応する以下の所定条件下で特殊な装置(キセノテストβ;Xenotest β)により行われるUV老化: 相対湿度(20±10%)、温度(100±3℃)、照射条件(60W/m)および時間(138時間)。
・以下の所定条件下で行われる加水分解老化(ジャングルテスト): 温度(75±1℃)、相対湿度(90±3%)および期間(5、7、10週間)。
【0032】
その後、外観上の変化、耐摩耗性、物理的・機械的特性の変化および、ポリウレタンマトリクスのみに関しては重合鎖の平均分子量変化の観点で、材料の老化を分析する。ウレタンおよび/または尿素(ureic)基(遊離イソシアネート基と水の反応に由来する)からなる「ハード」セグメント、および混合比が80/20〜20/80の範囲のポリカーボネート−ジオール類/ポリエステル−ジオール類混合物からなる「ソフト」セグメントを含むことを特徴とする適切なポリウレタンマトリクスを使用することにより、現時点で既に合成皮革の十分な耐久性の目標に達している。(特許文献3参照)。
【0033】
現在までに、高い耐久性を付与可能なポリウレタンマトリクスが、マイクロファイバー製造に使用される溶融高分子に顔料を添加することにより得られる光に対する染色堅牢度の高さをも特徴とする合成皮革の製造に用いられたことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】EP−A−0584511
【特許文献2】EP−A−1323859
【特許文献3】US−B−7144535
【特許文献4】US−A−3531368
【特許文献5】US−A−3716614
【特許文献6】IT1097917
【特許文献7】IT1256230
【特許文献8】EP1403421
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明の目的は、主に自動車用内装の分野での使用を目的とし、灰色と黒色の間の色を有し、同時に光に対する高い堅牢度と長期耐久性とを有するスエード外観の高品質の合成皮革を提供することにある。
【0036】
本発明者らは、染色される色合いに応じた適正な量比、マイクロファイバーへのカーボンブラックの使用、マトリクスへの同一のカーボンブラックの使用、適切に選択されたポリウレタンマトリクスおよび所定範囲の起毛部の長さを適切に組み合わせることで、分散性染料を添加し後染めして(over−dye)灰色と黒色の間の色にした場合に、スエード外観を有し、自動車の内装分野で必要とされる耐光堅牢度、耐久性、外観および手触りなどの要件に応じうる合成皮革を製造可能な処理中間体を提供可能であることを見出した。
【0037】
したがって、本発明は、スエード外観を有し、灰色〜黒色の範囲の色を有する高品質の合成皮革に関する。本発明の合成皮革において、SAEJ1885法による光に対する染色堅牢度が225.6KJ/mで4以上であり;SAEJ1885法による光に対する染色堅牢度が488.8KJ/mで3以上であり;前記合成皮革は、革表面に起毛部を有し; 前記合成皮革は、マイクロファイバー成分とエラストマーのマトリクスとを含み;前記マイクロファイバー成分は、0.01〜0.50dtexのポリエステルマイクロファイバー、好ましくはポリエチレンテレフタレートからなり;前記エラストマーのマトリクスは、ポリウレタンからなり;前記ポリウレタンは、ソフトセグメントおよびハードセグメントで構成され;前記エラストマーのマトリクスとマイクロファイバー成分の質量比は、20/80〜50/50の範囲であり;前記マイクロファイバー成分は、質量パーセントで0.05〜2.00%、好ましくは0.15〜1.50%のカーボンブラック顔料を含有し;前記エラストマーのマトリクスは、質量パーセントで0〜10%、好ましくは0〜7%、より好ましくは0.02〜6%のカーボンブラック顔料を含有し;前記カーボンブラックは、常に平均サイズが0.4ミクロン未満である。前記合成皮革は、
(a)前記起毛部の平均長が200〜500ミクロン、好ましくは210〜400ミクロンの範囲であり;
(b)前記ソフトセグメントは、ポリアルキレンカーボネートジオール類から選択される少なくとも1つのポリカーボネートジオールと、少なくとも1つのポリエステルジオールとからなり;
(c)前記ハードセグメントは、ウレタンおよび/または尿素基(遊離イソシアネート基と水の反応に由来する)からなり;
(d)カーボンブラックの総含有量は、質量パーセントで0.025〜6%、好ましくは0.075〜4.25%、より好ましくは0.085〜3.75%の範囲であることを特徴とする。
【0038】
本発明のスエード外観を有する高品質の合成皮革は、顕著な表面のまだら感、高いライティング効果、特に柔らかく心地よい手触りなどの一連の複合的な技術的・感覚的要素と関連している。これらの効果は、特に表面密度および長さに関連して、主に合成皮革のマイクロファイバー成分(起毛部)に起因しており、その長さは200〜500ミクロン、好ましくは210〜400ミクロンである。過度に短いおよび/または低密度の起毛部の場合、ポリウレタンバックグラウンドを完全に被覆することができず、美観および感触の点からみて製品の上質な表面に質的な低下をもたらすことになる。他方、起毛部が過度に長いと、天然スエード製品と異なる「低質な」外観になってしまい、合成皮革の品質を損ねる結果になる。
【0039】
本発明のスエード外観を有する合成皮革の他の基本的特性としては、長期・継続的に光を照射し、特に酸化および/または加水分解環境にさらした後であっても、マイクロファイバー成分が与える柔軟性の特性を損ねることなく、長期間にわたって継続可能な高い耐老化性がある。この結果は、ソフトおよびハードセグメントに特徴がある本発明の特定のポリウレタンを使用することにより得られる。
【0040】
本発明のスエード革の耐久性は、紫外線下での老化後または加水分解老化後の耐摩耗性に関して≧3(内部標準画像;internal reference photographic standards)である。さらに、UV老化または加水分解老化後の物理的・機械的特性の80%が保持されている。
【発明を実施するための形態】
【0041】
これらすべての特性について、以下の実施形態により詳細に説明する。
【0042】
本発明の合成皮革の成分としては、マイクロファイバー成分は、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートから選択される1以上の重合体、好ましくはポリエチレンテレフタレートのマイクロファイバーからなる。
【0043】
エラストマーのマトリクスは、ポリウレタンからなる。この用語(ポリウレタン)は、ポリウレタン自体のほか、ポリウレタン−尿素を示す。ポリウレタン類は、ウレタン結合の存在を特徴とし、この結合は、例えばイソシアネート基と水酸基の反応等により形成される。一方、ポリウレタン−尿素は、例えばイソシアネート基とアミンまたは水との反応により得られる尿素結合を含有する。
【0044】
ポリウレタンは、ソフトセグメントとハードセグメントとで構成される。このソフトセグメントは、少なくとも1つのポリアルキレンカーボネートジオールと、少なくとも1つのポリエステルジオールとからなる。
【0045】
ポリアルキレンカーボネートジオール類の代表例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール(PTMC)、ポリペンタメチレンカーボネートジオール(PPMC)、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHC)、ポリヘプタメチレンカーボネートジオール、ポリオクタメチレンカーボネートジオール、ポリノナメチレンカーボネートジオール、ポリデカメチレンカーボネートジオール、ポリ−(3−メチル−ペンタメチレンカーボネート)ジオール(PMPC)、ポリ−(2−メチル−ペンタメチレンカーボネート)ジオール、ポリ−(2−メチル−1−オクタメチレンカーボネート)ジオールなどが挙げられる。
【0046】
本明細書の実施例の項目で記載されるポリウレタンの合成に使用されるこれらの高分子ジオール類は、通常、1,000〜3,000、好ましくは1,750〜2,250の範囲の数平均分子量をもつ。
【0047】
ハードセグメントとは、例えばメチレンビス(4−フェニルイソシアネート)(MDI)またはトルエンジイソシアネート(TDI)等の有機ジイソシアネートと、ジアミンまたはグリコール鎖との反応に由来する重合鎖部分を指す。ポリウレタン合成がジアミン類により完了すればポリウレタン−尿素が得られ、グリコール類により完了すれば本当の意味でポリウレタン類そのものが得られることは、実際によく知られている。
【0048】
ポリウレタン−尿素製造時に鎖延長剤として使用される可能性のあるジアミン類には、脂肪族ジアミン類、エチレンジアミン(EDA)、1,3−シクロヘキサンジアミン(1,3−CHDA)、1,4−シクロヘキサンジアミン(1,4−CHDA)、イソホロンジアミン(IPDA)、1,3−プロピレンジアミン(1,3−PDA)、2−メチルペンタメチレンジアミン(MPDM)、1,2−プロピレンジアミン(1,2−PDA)およびその混合物等がある。鎖延長剤として使用可能な芳香族ジアミン類の代表例は、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、メチレンビス(4−フェニルアミン)(MPA)、2,4−ジアミノ−3,5−ジエチルトルエン、2,4−ジアミノ−3,5−ジ(メチルチオ)トルエン等である。上記アミン類はそのまま、または対応するイソシアネートと水の反応の場所で製造して添加することもできる。
【0049】
また、ポリウレタン類そのものの鎖延長は、エチレングリコール、テトラメチレングリコールおよびその混合物等のジオール類を用いても行うことができる。さらに、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等のジカルボン酸類によっても、鎖延長が可能である。
【0050】
また、ハードセグメントは、ポリウレタン類を水に分散または乳化させやすくする親水性の分子および/または荷電分子を含む場合がある。なお、このとき、外表面活性剤が含まれる場合も含まれない場合もある。重合体の水への分散を促進することができる負帯電基を有する分子としては、2,2−ジメチロール−プロパン酸、2,2−ジメチロール−ブタン酸、スルホン酸基を有する化合物等が挙げられる。正帯電基を有する分子としては、ジエタノールアミン、N−メチル−ジエタノールアミンのほか、一般的には、ジヒドロキシアルキルアミン、ジアミノ−アルキルアミンおよび4級アンモニウム塩などが挙げられる。親水性分子には、ポリオキシアルキルエーテルが含まれる。
【0051】
ポリウレタン類およびポリウレタン−尿素の調製に利用される反応は、通常、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等の不活性で非プロトン性の溶媒中で行われる。また、このプロセスは、水性環境または水と適切な界面活性剤との混合液中で合成中間体を分散または乳化させることにより行われる場合がある。さらに、溶媒中で重合体またはその中間体を合成後に、水または水と適切な界面活性剤との混合液中に分散させ、最後に溶媒を蒸発させて除去することによっても、このプロセスを行うことができる。
【0052】
また、このように製造された重合体を、エマルジョンまたは分散液で架橋させることもでき、重合体を不織布に塗布後に架橋することもある。これは、処理条件に対する耐性を向上させる目的および/または大気中の物質および溶媒の活性に対するより高い耐性を含浸済み不織布に付与する目的で行われる。
【0053】
カーボンブラックについて言えば、この顔料は、構成粒子サイズが非常に小さく(通常、0.4ミクロン未満)、良好な分散性(結果として生じる色の変動および重合体の物理的・機械的特性の減少と、同一の構成粒子同士の過剰な凝集を防ぐうえで不可欠)があることが特徴である。周知のように、カーボンブラックは、合成繊維に灰色/黒色の範囲の着色を施すのに使用可能な黒色顔料である。その明度(intensity)は、重合体中の顔料濃度および繊維の糸の太さ(デニール)に関わる。特に、重合体中の顔料の割合を上げること、および/または繊維の糸の太さを上げることにより、より深い色合いが得られる。この顔料は、所望の最終色に応じて、マイクロファイバー成分中に質量パーセントで0.05〜2.0%の範囲で、エラストマーの成分には質量パーセントで0〜10%存在する。マイクロファイバーおよび/またはエラストマー部分のカーボンブラック量を変化させることで、ライトグレー〜黒色の間の幅広い範囲の色合いを得ることが可能である。
【0054】
高い耐光堅牢度が求められる一方、色に関する要求が灰色と黒色の範囲内に非常に集中している特に厳しい分野である自動車の内装分野には、色の観点からの制限は影響がない。欧州、アメリカおよびアジア市場に関する最近のデータによれば、スエード外観を有する合成皮革に対する色のニーズは、灰色〜黒色系が60〜80%、ベージュ系が15〜30%、その他が5〜10%であった。
【0055】
いずれの場合においても、本発明に係わる合成皮革中のカーボンブラックの総含有量は、質量パーセントで、0.025〜6%、好ましくは0.075〜4.25%、さらにより好ましくは0.085〜3.75%であり、上記含有量でなければ機械的特性が減少してしまう。
【0056】
また、本発明は、上述のスエード外観を有し、灰色〜黒色の範囲の色を有する合成皮革の製造方法にも関する。この製造方法は、
(1)カーボンブラックが添加されたマイクロファイバーからなるマイクロファイバー状の中間生成物および該マイクロファイバーの結合重合体を製造する工程と、
(2)1以上のポリウレタンおよびカーボンブラックを含む溶液および/または分散液を用いて、前記工程(1)に記載のカーボンブラックが添加されたマイクロファイバー状の中間生成物の含浸を行い、続いて加工前の半製品を得るために溶媒を除去する工程と
(3)スエード外観の特徴を有する合成皮革を得るために、前記加工前の半製品の表面を研磨する工程とを有する。
この製造方法の工程(1)において、前記カーボンブラックは、前記マイクロファイバーに質量パーセントで0.05%〜2%、好ましくは0.15〜1.50%の量含まれ、前記マイクロファイバーは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのマイクロファイバーから選択され、前記マイクロファイバー状の中間生成物は、カーボンブラックを添加した上記に列記した重合体(島成分と定義される)の押出成形により得られる繊維の紡績により得られ、前記カーボンブラックは、平均粒径が0.4ミクロン未満であり、前記マイクロファイバーの結合重合体(海成分)は、有機溶媒による抽出によりその後の処理工程中に除去される。
この製造方法の工程(2)において、前記カーボンブラックは、ポリウレタンに対して質量パーセントで0〜10%、好ましくは0〜7%、さらにより好ましくは0.02〜6%存在し、かつ平均粒径が0.4ミクロン未満であり;ポリウレタンとマイクロファイバー状の中間生成物の質量比が20/80〜50/50の範囲にあり;前記ポリウレタンは、ソフトセグメントとハードセグメントとで構成され、前記ソフトセグメントは、少なくとも1つのポリアルキレンカーボネートジオールと少なくとも1つのポリエステルジオールとからなり;前記ハードセグメントは、遊離イソシアネート基と水の反応に由来するウレタンおよび/または尿素基からなる。
この製造方法の工程(3)において、上述の合成皮革の起毛部の長さは、200〜500μm、好ましくは210〜400μmの範囲にある。
【0057】
工程(1)には、まず、カーボンブラックが添加され、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、好ましくはポリエチレンテレフタレートから選択される1以上の重合体のマイクロファイバーからなるマイクロファイバー状の中間生成物を作製する工程(工程1a)が含まれる。上述のように得られる繊維の機械的特性を向上するため、これらの重合体には、予め、重合鎖の長さを延長するための固相重合化後の処理(post−polymerization process in solid state)を行ってもよい。
【0058】
マイクロファイバーの製造には、マイクロファイバーに結合する重合体(海成分)と、上述した中から選択されるポリエステル(島成分と定義される)の押出成形による多成分繊維との紡績が含まれる。なお、上記ポリエステルには、0.05÷2.00%、好ましくは0.15÷1.50%の範囲のカーボンブラックを添加されている。また、海成分は、その後の処理工程中に除去される。
【0059】
他の好適な実施形態においては、上記した中から選択される2つのポリエステルの適切な混合物を用いることにより、上記マイクロファイバーの製造が行われる場合がある。そのうち1つがマスターバッチ(masterbatch)とされ、10〜50%の範囲のカーボンブラックを含有する。このマイクロファイバーの物理的・機械的特性を損なわず、かつ以下の処理段階を容易にするため、好ましくは、前記マスターバッチの固有粘度(I.V.;Inherent Viscosity)はもう一方の重合体の固有粘度以上とする。これは、前記マスターバッチを固相重合化することにより得られる。
【0060】
さらに具体的には、マイクロファイバーに添加する顔料の最適な割合は、以下の目的に応じて選択した:
・耐光堅牢度の大幅な増大を達成する;
・ライトグレー〜黒色の間の広範囲な色合いを得る(繊維自体に最終的な後染め処理をすることも含む);
・最終的な後染め工程において、正確に規定された調合による色の高い再現性を得る;
・後染め工程での分散性染料の消費を抑制する;
・紡糸口金の閉塞の問題を最小化する;
・異なる顔料含有量で製造する繊維の種類を最少化する(製造コストを最小化するため)。
【0061】
最も典型的には、結合重合体(海成分)は、ポリスチレン、または変性ポリエステル、またはポリヒドロキシアルカノエート系の重合体からなる。上述のバインダーは、どんな場合においてもマイクロファイバー成分を形成する重合体と混和せず、質量パーセントで10〜90%(好ましくは15〜50%)存在する必要がある。マイクロファイバー/バインダー系の構造は、好ましくは「海島」型であり、紡績(海+島)後の繊維全体が円形で、海(バインダー)に囲まれた複数の円形の島(カーボンブラックが添加されたマイクロファイバー)を内側に持つ。なお、この海成分により、互いに離れている島同士が保持される。
【0062】
上述の技術のほかに、紡績後の繊維が、伸長または三裂された(trilobated)中空断面を有する場合もある。
【0063】
また、本項のバイコンポーネントは、「放射(radial)」型(円形部に交互に並んでいる「インセグメント」成分を有する)、「スキンコア」型(バインダーからなる外冠部に囲まれたマイクロファイバー成分を有する)または多層型(交互に並ぶ平行な層を形成する2つの成分を有する)等の場合もある。
【0064】
その後、紡糸口金の下で集められた繊維を既知の技術により引き出し、最終的には捲縮(crimp)させて切断し、ステープル繊維を製造する。
【0065】
伸縮比は、通常2.1÷5.1の範囲内とする。
【0066】
捲縮数は1cmあたり4÷15である。
【0067】
ステープル繊維は、通常、カウントが1.5÷11.0dtexの範囲、好ましくは2.7÷6.7dtexであり;長さが30÷150mm、好ましくは30÷100mmである。
【0068】
工程(1a)で作製したカーボンブラックを含有するマイクロファイバー状の中間生成物の機械的なニードルパンチングまたはウォータージェット抜きを行って、不織構造の中間フェルトが製造される(工程1b)。フェルト状の中間生成物は、密度が0.150÷0.350g/cmの範囲内、典型的には0.150÷0.200g/cmの間にあり、単位重量が550÷950g/mの範囲内、典型的には570÷630g/mである。
【0069】
上述のスエード外観を有する合成皮革の既知の製造方法のA3)項目に従って、フェルト状の中間生成物の含浸を行う。このバイコンポーネント繊維の「海」成分は、その後、同製造方法のA4)項目により溶解される。
【0070】
工程(2)は、1以上のポリウレタン、および必要に応じてカーボンブラックを含む溶液および/または分散液を用いて、工程(1)で製造されたカーボンブラックを含有するマイクロファイバー状の中間生成物の含浸をする工程からなる。この含浸は例えばジメチルホルムアミド等の有機溶媒中の1以上のポリウレタンの1以上の溶液を用いて行われる。
または、この含浸は、エマルジョンまたは水分散液中の1以上のポリウレタンを用いて行われることもある。ポリウレタンに関する詳細は、製造方法クレームにも記載されている。
【0071】
その後に行う処理は、先に使用された溶媒および/または分散液および/または乳化剤を除去する工程と、A3)項目で使われることのあるバインダーを除去する工程からなり、この結果、「未加工(greige)」中間生成物を得る。これを研磨処理して、含浸後のポリウレタンマトリクスから起毛部が「引き出される(extract)」。このとき、本発明の合成スエード革のマイクロファイバーの長さは、200〜500ミクロン、好ましくは210〜400ミクロンとされる。
【0072】
このように得られたスエード革には、さらに染色工程が行われ、この工程は好ましくはベンチュリノズル(Venturi nozzle)を備えた「円形」染色装置、例えば株式会社日阪製作所により供給される装置を用いて行われる。
【0073】
染色サイクルは、未加工中間生成物を、分散性染料と、染料を分散させ繊維に通り易くする界面活性剤と、染色補助剤とを含み、染料が繊維の内側に浸透するのに好適なpH条件を有する混合物と接触させる第一染色工程からなる。最高染色温度は、通常、100÷140℃となるように選択し、マイクロファイバーを形成する重合体をそのガラス転移温度より上に加熱して、重合体に染料が拡散しやすくする。実際には、「未加工」中間生成物を染色装置内に最高染色温度で約1時間循環させ、その後、塩基性環境でヒドロ亜硫酸ナトリウムによる洗浄処理を行う。
【0074】
本発明の製造方法の大きな利点は、染料の消費量である。本発明のスエード革の最終色(灰色〜黒色)が同一の場合、上述の製造方法であれば、分散性染料の消費量の低減が可能である。これは、カーボンブラックが存在することにより、染色の対象となる製品が既に灰色系の色合いをもつためである。さらに、カーボンブラックが存在するために着色されている結果、分散性染料の使用量が抑えられる(または全く使用しない)ことで、本発明のスエード革に光に対する高い染色堅牢度を持たせることができる。
【0075】
以下に、本発明に含まれる全体的なプロセスを体系化するが、これは、例示を目的とし、好適で非限定なものである。
【0076】
B1)原料(virgin)重合体チップ(通常はPET)およびマスターバッチのチップ(カーボンブラックを添加した重合体、通常はPET)からなる混合物を、紡績ラインに投入する工程。カーボンブラックを多く含有するこのマスターバッチは、押出成形プロセスの終了時にマイクロファイバー成分に分散している顔料の含有量が上述の範囲となるような量が原料重合体に添加される。
【0077】
B2)既知の「海島」型紡績技術によりバイコンポーネント繊維を紡織する工程。このとき、「海」成分はポリスチレンからなり、「島」成分はカーボンブラックを添加したポリエチレンテレフタレートからなる。このように製造される「島」は、通常0.10÷0.20dtexの範囲となる、いわゆる「マス染色」マイクロファイバーを形成する。
【0078】
B3)前述ように得られた繊維を用いて、中間体フェルトを作製する工程。通常、機械的なニードルパンチングプロセスにより行われる。中間体フェルトは、好適には、密度が0.150÷0.200g/cmの範囲内であり、単位重量は580÷630g/cmの範囲内である。
【0079】
B4)上述のA3−A4−A5−A6−A7−A8項目に記載の既知の高品質合成スエード革のプロセスに従い、中間体フェルトを処理する工程。特に、A8項目においては、製品中のマイクロファイバー起毛部の長さが200〜500ミクロンの範囲となるような条件で研磨する。
【0080】
B5)所望の最終色を得るため、従来使用されてきた技術により、スエード外観を有する合成皮革を形成するマイクロファイバー成分に最終の後染めを行う工程。
【0081】
本発明をより深く理解するため、以下に実施例を示す。
【実施例】
【0082】
下表に、実施例の原材料を特定するのに使用される略語を示す。
【表2】

【0083】
比較例1(規格品)
互いに不溶な一対の重合体を押出し、「海島」型のバイコンポーネント繊維を製造する。
【0084】
使用する重合体は、PETおよびPSであり、押出紡糸して海成分がPSからなり、島成分がPETからなる繊維を製造する。PETのI.V.値は0.7dl/gであった。こうして得られた繊維は以下の特性を有する:
1.繊維の太さ:4.2dtex
2.長さ:51mm
3.最大荷重強度:2.08g/dtex
4.最大荷重伸長:62%
5.捲縮数:約4〜5/cm
6.PETマイクロファイバーの最大荷重強度:3.89g/dtex
7.PETマイクロファイバーの最大荷重伸長:72%
【0085】
具体的には、この繊維は、57重量部のPETと、43重量部のPSで構成されている。断面を観察すると、この繊維では16のPETマイクロファイバーがPSマトリクス中に球状に取り込まれている。
【0086】
バイコンポーネント繊維を用いて中間体フェルトを作製し、ニードル加工してニードルフェルトを形成する。このニードルフェルトの密度は0.180÷0.200g/cmの範囲内であり、単位重量は580÷630g/mの範囲内であった。
【0087】
白色のニードルフェルト(CIELABカラー軸のL座標が96.3)を、20重量%のポリビニルアルコール水溶液中に浸漬した後乾燥した。続いて、このような処理を行ったニードルフェルトを、繊維のポリスチレンマトリクスが完全に溶解するまでトリクロロエチレンに浸漬した。形成された不織布を乾燥して、「半製品D」(海成分の除去後のCIELABカラー軸のL座標が96.6)と呼ばれる中間生成物を得る。
【0088】
上記とは別に、DMF溶液の形式でポリウレタンエラストマーを作製する。一次工程(重合前)では、いずれも分子量が2,000であるPHCとPNAのDMF溶液を、温度65℃で撹拌しながらMDIと反応させる。このとき、イソシアネート/ジオールモル比は2.9/1である。反応開始から3時間後に、このように得られたプレ重合体を45℃まで冷却し、遊離NCO基の割合が1.46%となるプレ重合体の25%溶液が得られるまでDMFで希釈した。
【0089】
次に、計算分子量が43,000となるポリウレタン−ポリ尿素を得るため、5分間にわたって温度を45℃に保ったまま、DMFに溶解したDBAと水をゆっくりと加えた。65℃に加熱し、反応装置をさらに8時間撹拌して、最終的に、経時安定性があり、20℃の粘度が22,000mPa・秒のポリウレタン−尿素溶液を得た。その後、このように作製したエラストマー溶液について、PUのみに対して4.8%の割合でカーボンブラックを添加して、Irganox(R)1010およびTinuvin(R)326を含有するDMFで希釈し、質量パーセントで14%のPU溶液を形成した。このように得られた重合体溶液は、水で凝固させると、高多孔性の構造となる。
【0090】
「半製品D」をポリウレタンエラストマー溶液に浸漬し、一対のロールの間を通すことで圧迫し、その後40℃に保った恒温液槽に1時間浸漬した。凝固した半製品は、85℃に加熱した恒温液槽に通して、残存する溶媒およびポリビニルアルコールを取り出すことで得られる。その後、加熱したオーブンの中を通すことで合成物を乾燥した。
【0091】
次に、厚みが2.30mmでポリウレタンマトリクス中にカーボンブラックが存在することで灰色系の色を持つこの「凝固乾燥後の半製品」を縦方向に切断して、それぞれ厚みが1.15mmの2枚の同一の積層板を得た。次に、これらの積層板を研磨し、ポリウレタンマトリクス部分(aliquot)を除去して、マイクロファイバー成分を引き出して起毛部を形成する。この研磨プロセスは、適切なサンドペーパーを用いて、複合材料(composite)の厚みを0.85mmまで下げるような条件で行われ、長さが350÷400ミクロン(CIELABカラー軸のL座標が55.8)のマイクロファイバー起毛部が製造される。
【0092】
最後に、既知のスエード調の合成皮革に従来使用されてきた技術によりマイクロファイバーを灰色または黒色系に染色するため、この合成物を適切な染色機(「ジェット」)で処理する。具体的には、以下の分散性染料を含有する水系の染料槽内で125℃で作動する「ベンチュリチューブ(Venturi Tube)」にこの合成物を1時間通す。
赤色分散染料(アントラキノン系)5.4%
青色分散染料(アントラキノン系)22.8%
黄色分散染料(アミノケトン)9.4%
【0093】
染色工程が終わると、染色されたマイクロファイバー状の不織布が得られる。ヒドロ亜硫酸ナトリウムを用いた還元条件下、アルカリ性環境にてさらに処理をして余分な染料を除去した後、最終処理を行う。
【0094】
こうして得た合成皮革について、物理的・機械的特性(UNI EN 29073−3)および乾式および湿式摩擦に対する染色堅牢度(AATCC8−2001)、洗剤洗浄に対する染色堅牢度(AATCC61−2001)、ドライ洗浄および光に対する染色堅牢度(SAEJ−225.6KJ/mおよび448.8KJ/m)を分析した。
【0095】
染色されたマイクロファイバー状の不織布製品に関する評価結果を下表に示す。この評価は、次のように行った。
a)試験サンプル(洗浄には多繊維フェルト、摩擦の場合は布)の退色については、ISO105A03のグレースケールを利用しサンプル上の夾雑物(dirt)を比較評価した。;
b)試験前後のサンプルの色合いの変化については、ISO105A02グレースケールを用いた。
【0096】
この評価は、適当なグレースケールに体系化された色のコントラストと、色合いの変化または夾雑物レベルを比較することにより行われる。ここで、5の評価は色/色移りの変化がないことを示し、1の評価は、使用したグレースケールで見られる最大のコントラストがある場合に対応する。
【0097】
【表3】

【0098】
この複合材料の厚みは0.78mmである。
【0099】
実施例2(繊維中に1%のc.b.を含有するマスターSSPの不変色性)
固有粘度(I.V.)を上げるため、マスターバッチを固相重合した。なお、このマスターバッチは、質量パーセントで30%のカーボンブラックを添加したPETチップからなる。
【0100】
この固相重合(SSP)は、温度203℃、圧力42mbarで100時間行った。
【0101】
SSPプロセスの流れは、以下の分析法で得られるI.V.測定値により制御した。特定の「研磨ミル」を用いて0.5gのマスターバッチを粉末状にし、50ccのジクロロ酢酸溶液に浸漬して、重合体を完全に溶解させるため、85℃にて6時間、その後70℃でさらに30分間、超音波槽内で静置する。次に、このように得られた溶液を、「オストワルト」型の毛細管粘度計により分析する。
【0102】
溶液が毛細管の特定の部分に広がるのにかかるフロー時間を、溶媒のみが広がるのにかかる時間と比較することにより、比粘度が得られる。I.V.は、適当な数式を用いて比粘度から得る。
【0103】
SSP処理前後のI.V.を上記の方法により得た。その結果は以下のとおりである。:
−I.V.マスターバッチ(処理前)=0.35dl/g
−SSP後のI.V.マスターバッチ=0.71dl/g
【0104】
次に、固相重合したマスターバッチチップに、1/30の割合で未処理のPETチップを添加し適切に混合した(I.V.は0.7dl/g)。
【0105】
次に、「海島」紡績技術の手順に従って、このチップ混合物を大量のPSとともに押出紡糸し、「海」成分がPSからなり、島成分がc.b.を添加したPETからなるバイコンポーネント繊維を製造した。得られた繊維には以下の特性があった:
1.繊維の太さ(デニール):4.2dtex
2.長さ:51mm
3.最大荷重強度:2.18g/tex
4.最大荷重伸長:70%
5.捲縮数:約4〜5/cm
6.PETマイクロファイバーの最大荷重強度:3.86g/dtex
7.PETマイクロファイバーの最大荷重伸長:68%
【0106】
具体的には、この繊維は、カーボンブラックを添加した57重量部のPETと、43重量部のPSとからなる。断面を観察すると、この繊維では16の「PET+カーボンブラック」マイクロファイバーがPSマトリクス中に球状に取り込まれている。
【0107】
このバイコンポーネント繊維を用いて中間体フェルトを作製し、ニードル加工してニードルフェルトを形成する。このニードルフェルトの密度は0.170÷0.190c/cmの範囲内であり、単位重量は580÷630g/mの範囲内であった。
【0108】
カーボンブラックが添加された繊維が含まれることにより濃い灰色となったニードルフェルト(CIELABカラー軸のL座標が35.7)を20重量%水溶液中に浸漬し、その後乾燥した。
【0109】
このような処理をしたニードルフェルトを、その後、繊維のポリスチレンマトリクスが完全に溶解するまでトリクロロエチレンに浸漬した。次に、形成された不織布を乾燥し、「半製品D」(海成分除去後のCIELABカラー軸のL座標が40.1)と呼ばれる中間生成物を得た。
【0110】
上記とは別に、実施例1と同様にしてポリウレタンエラストマーを調製する。調製したエラストマー溶液を、PUのみに対して4.8%の割合でカーボンブラックを添加してIrganox(R)1010およびTinuvin(R)326を含有するDMFで希釈し、質量パーセントで14%のPU溶液を形成した。このように得られた重合体溶液は、水で凝固させると、高多孔性の構造となる。
【0111】
この「半製品D」をポリウレタンエラストマー溶液に浸漬し、一対のロールの間を通すことで圧迫した後、40℃に保った恒温液槽に1時間浸漬した。凝固した半製品は、85℃に加熱した恒温液槽に通して、残存する溶媒およびポリビニルアルコールを取り出すことで得られる。その後、加熱したオーブンの中を通すことにより、この複合材料を乾燥した。
【0112】
次に、厚みが2.30mmで、繊維とポリウレタンマトリクスの双方にカーボンブラックが存在するために濃い灰色を呈するこの「凝固乾燥後の半製品」を縦方向に切断して、それぞれ厚みが1.15mmの2枚の同一の積層板を得た。次に、これらの積層板を研磨してポリウレタンマトリクス部分を除去し、マイクロファイバー成分を引き出して起毛部を形成する。この研磨プロセスは、適切なサンドペーパーを用いて、複合材料の厚みを0.85mmまで下げるような条件で行われ、長さが350÷400ミクロン(CIELABカラー軸のL座標が33.8)のマイクロファイバー起毛部が製造される。
【0113】
最後に、既知の合成皮革に従来使用されてきた技術により、カーボンブラックが添加されたマイクロファイバーを灰色または黒色系に染色するため、この合成物を適切な染色機(「ジェット」)で処理し、灰色または黒色の範囲のスエード調の合成皮革を得た。具体的には、この合成物を、以下の分散性染料を含有する水系の染料槽内で125℃で作動する「ベンチュリチューブ」に1時間通す。:
赤色分散染料(アントラキノン系)4%
青色分散染料(アントラキノン系)3%
黄色分散染料(アミノケトン)3.5%
【0114】
染色工程が終わると、染色されたマイクロファイバー状の不織布が得られる。ヒドロ亜硫酸ナトリウムを用いた還元条件下、アルカリ性環境にてさらに処理をして余分な染料を除去した後、最終処理を行う。
【0115】
こうして得た合成皮革について、実施例1と同様にして、物理的・機械的特性および摩擦に対する染色堅牢度、洗剤洗浄に対する染色堅牢度、ドライ洗浄および光の組合せに対する染色堅牢度を分析した。評価結果を下表に示す。
【0116】
【表4】

【0117】
この複合材料の厚みは0.79mmである。
【0118】
実施例3(繊維中に0.4%のc.b.を含有する薄めの色合いのマスターSSPの不変色性)
実施例2と同様にして、マスターバッチチップを固相重合し、未処理のPETチップを1/75の割合で添加し適切に混合した(I.V.は0.7dl/g)。
【0119】
次に、このチップ混合物を、「海島」紡績技術の手順に従って大量のPSとともに押出紡糸し、「海」成分がPSからなり、島成分がc.b.を添加したPETからなるバイコンポーネント繊維を製造した。得られた繊維には以下の特性があった:
1.繊維の太さ(デニール):4.2dtex
2.長さ:51mm
3.最大荷重強度:2.09g/tex
4.最大荷重伸長:71%
5.捲縮数:約4〜5/cm
6.PETマイクロファイバーの最大荷重強度:3.84g/dtex
7.PETマイクロファイバー最大荷重伸長:74%.
【0120】
具体的には、この繊維は、カーボンブラックを添加した57重量部のPETと、43重量部のPSとからなる。断面を観察すると、この繊維では16の「PET+カーボンブラック」マイクロファイバーがPSマトリクス中に球状に取り込まれている。
【0121】
このバイコンポーネント繊維を用いて中間体フェルトを作製し、ニードル加工してニードルフェルトを形成する。このニードルフェルトの密度は0.204÷0.208c/cmの範囲内であり、単位重量は550÷580g/mの範囲内であった。
【0122】
カーボンブラックが添加された繊維が含まれることにより濃い灰色となったニードルフェルト(CIELABカラー軸のL座標が50.4)を20重量%水溶液中に浸漬し、その後乾燥した。
【0123】
続いて、このような処理をしたニードルフェルトを、繊維のポリスチレンマトリクスが完全に溶解するまでトリクロロエチレンに浸漬した。形成された不織布を乾燥し、「半製品D」(海成分除去後のCIELABカラー軸のL座標が51.6)と呼ばれる中間生成物を得た。
【0124】
上記とは別に、実施例1と同様にしてポリウレタンエラストマーを調製する。次に、調製したエラストマー溶液を、PUのみに対して0.3%の割合でカーボンブラックを添加してIrganox(R)1010およびTinuvin(R)326を含有するDMFで希釈し、質量パーセントで14%のPU溶液を形成した。このように得られた重合体溶液は、水で凝固させると、高多孔性の構造となる。
【0125】
この「半製品D」をポリウレタンエラストマー溶液に浸漬し、一対のロールの間を通すことで圧迫した後、40℃に保った恒温液槽に1時間浸漬した。凝固した半製品は、85℃に加熱した恒温液槽に通して、残存する溶媒およびポリビニルアルコールを取り出すことで得られる。その後、加熱したオーブンの中を通すことにより、この複合材料を乾燥した。
【0126】
次に、厚みが2.30mmで、繊維とポリウレタンマトリクスの双方にカーボンブラックが存在するために濃い灰色を呈するこの「凝固乾燥後の半製品」を縦方向に切断して、それぞれ厚みが1.15mmの2枚の同一の積層板を得た。次に、これらの積層板を研磨してポリウレタンマトリクス部分を除去し、マイクロファイバー成分を引き出して起毛部を形成する。この研磨プロセスは、適切なサンドペーパーを用いて、複合材料の厚みを0.85mmまで下げるような条件で行われ、長さが300÷350ミクロン(CIELABカラー軸のL座標が50.0)のマイクロファイバー起毛部が製造される。
【0127】
最後に、既知の合成皮革に従来使用されてきた技術により、カーボンブラックが添加されたマイクロファイバーを灰色または黒色系に染色するため、この合成物を適切な染色機(「ジェット」)で処理し、灰色または黒色の範囲のスエード調の合成皮革を得た。
【0128】
前述した複合材料で見られたのとは違いカーボンブラックの使用量が低いため、所望の最終色を同一にする場合には、より多くの染料を使用する必要がある。一方で後染めをライトグレーから始めることで、同様に高い染色堅牢度を維持したまま、前述(実施例2)の灰色ベースの合成物から始めた場合には製造が不可能な薄めの色を得ることができる。
【0129】
具体的には、この合成物を、以下の分散性染料を含有する水系の染料槽内で125℃で作動する「ベンチュリチューブ」に1時間通す。:
赤色分散染料(アントラキノン系)0.7%
青色分散染料(アントラキノン系)1.9%
黄色分散染料(アミノケトン)0.5%
【0130】
染色工程が終わると、染色されたマイクロファイバー状の不織布が得られる。ヒドロ亜硫酸ナトリウムを用いた還元条件下、アルカリ性環境にてさらに処理をして余分な染料を除去した後、最終処理を行う。
【0131】
こうして得た合成皮革について、実施例1と同様にして、物理的・機械的特性および摩擦に対する染色堅牢度、洗剤洗浄に対する染色堅牢度、ドライ洗浄および光の組合せに対する染色堅牢度を分析した。評価結果を下表に示す。
【0132】
【表5】

【0133】
この複合材料の厚みは0.80mmである。
【0134】
比較すると、未処理のPET繊維(カーボンブラックが添加されていない)を出発材料として同一の手順で製造した合成物の場合、同一の色合いを得るのに、以下の分散性染料を含む染色溶液槽を使用する必要がある:
赤色分散染料(アントラキノン系)1.3%
青色分散染料(アントラキノン系)3.8%
黄色分散染料(アミノケトン)1.3%
【0135】
実施例4(繊維中に1%カーボンブラックを含有することによる勾配のない(Non−regraded)不変色)
マスターバッチチップ(カーボンブラックを質量パーセントで30%添加したPETを含有し、I.V.が0.35dl/g)に、そのまま1/30の割合で未処理のPETチップ(I.V.は0.7dl/g)を添加し適切に混合した。
【0136】
次に、「海島」紡績技術の手順に従って、この混合チップをPSとともに押出紡糸して、海成分がPSからなり、島成分がカーボンブラックを添加したPETからなるバイコンポーネント繊維を製造した。得られた繊維には以下の特性があった:
1.繊維の太さ (デニール):4.2dtex
2.長さ:51mm
3.最大荷重強度:1.45g/tex
4.最大荷重伸長:69%
5.捲縮数:約4〜5/cm
6.PETマイクロファイバーの最大荷重強度:2.55g/dtex
7.PETマイクロファイバーの最大荷重伸長:72%
【0137】
具体的には、この繊維は、カーボンブラックを添加した57重量部のPETと、43重量部のPSとからなる。断面を観察すると、この繊維では16の「PET+カーボンブラック」マイクロファイバーがPSマトリクス中に球状に取り込まれている。
【0138】
このバイコンポーネント繊維を用いて中間体フェルトを作製し、ニードル加工してニードルフェルトを形成する。このニードルフェルトの密度は0.240÷0.260c/cmの範囲内であり、単位重量は630÷650g/mの範囲内であった。また、フェルト製造中に、マイクロファイバーの破損に関した問題が見られ、急激な密度上昇とニードルの破損頻度の増加を引き起こした。
【0139】
カーボンブラックが添加された繊維が含まれることにより濃い灰色となったニードルフェルト(CIELABカラー軸のL座標が35.4)を20重量%ポリビニルアルコール水溶液中に浸漬し、その後乾燥した。
【0140】
続いて、このような処理をしたニードルフェルトを、繊維のポリスチレンマトリクスが完全に溶解するまでトリクロロエチレンに浸漬した。形成された不織布を乾燥し、「半製品D」(海成分除去後のCIELABカラー軸のL座標が40.3)と呼ばれる中間生成物を得た。
【0141】
上記とは別に、実施例1と同様にしてポリウレタンエラストマーを調製する。次に、調製したエラストマー溶液を、PUのみに対して4.8%の割合でカーボンブラックを添加してIrganox(R)1010およびTinuvin(R)326を含有するDMFで希釈し、質量パーセントで14%のPU溶液を形成した。このように得られた重合体溶液は、水で凝固させると、高多孔性の構造となる。
【0142】
この「半製品D」をポリウレタンエラストマー溶液に浸漬し、一対のロールの間を通すことで圧迫した後、40℃に保った恒温液槽に1時間浸漬した。凝固した半製品は、85℃に加熱した恒温液槽に通して、残存する溶媒およびポリビニルアルコールを取り出すことで得られる。その後、加熱したオーブンの中を通すことにより、この複合材料を乾燥した。
【0143】
次に、厚みが2.30mmで、繊維とポリウレタンマトリクスの双方にカーボンブラックが存在するために濃い灰色を呈するこの「凝固乾燥後の半製品」を縦方向に切断して、それぞれ厚みが1.15mmの2枚の同一の積層板を得た。次に、これらの積層板を研磨してポリウレタンマトリクス部分を除去し、マイクロファイバー成分を引き出して起毛部を形成する。この研磨プロセスは、適切なサンドペーパーを用いて、複合材料の厚みを0.85mmまで下げるような条件で行われ、長さが320÷370ミクロン(CIELABカラー軸のL座標が34.0)のマイクロファイバー起毛部が製造される。
【0144】
最後に、既知の合成皮革に従来使用されてきた技術により、このカーボンブラック含有マイクロファイバーを後染めするため、この合成物を適切な染色機(「ジェット」)で処理し、灰色または黒色の範囲のスエード調の合成皮革を得た。
具体的には、この合成物を、以下の分散性染料を含有する水系の染料槽内で125℃で作動する「ベンチュリチューブ」に1時間通す。:
赤色分散染料(アントラキノン系)4%
青色分散染料(アントラキノン系)3%
黄色分散染料(アミノケトン)3.5%
【0145】
染色工程が終わると、染色されたマイクロファイバー状の不織布が得られる。ヒドロ亜硫酸ナトリウムを用いた還元条件下、アルカリ性環境にてさらに処理をして余分な染料を除去した後、最終処理を行う。
【0146】
得られた合成皮革について、実施例1と同様にして、物理的・機械的特性および摩擦に対する染色堅牢度、洗剤洗浄に対する染色堅牢度、ドライ洗浄および光の組合せに対する染色堅牢度を分析した。評価結果を下表に示す。
【0147】
【表6】

【0148】
この複合材料の厚みは0.82mmである。
【0149】
実施例5(繊維中に2%カーボンブラックを含有することによる勾配のない不変色)
マスターバッチチップ(カーボンブラックを質量パーセントで30%添加したPETを含有し、I.V.が0.35dl/g)に、そのまま1/15の割合で未処理のPETチップ(I.V.は0.7dl/g)を添加し適切に混合した。
【0150】
次に、「海島」紡績技術の手順に従って、この混合チップをPSとともに押出紡糸して、海成分がPSからなり、島成分がカーボンブラックを添加したPETからなるバイコンポーネント繊維を製造した。得られた繊維には以下の特性があった:
1.繊維の太さ(デニール):4.2dtex
2.長さ:51mm
3.最大荷重強度:1.4g/tex
4.最大荷重伸長:62%
5.捲縮数:約4−5/cm
6.PETマイクロファイバーの最大荷重強度:2.52g/dtex
7.マイクロファイバーの最大荷重伸長:72%
【0151】
具体的には、この繊維は、カーボンブラックを添加した57重量部のPETと、43重量部のPSとからなる。断面を観察すると、この繊維では16の「PET+カーボンブラック」マイクロファイバーがPSマトリクス中に球状に取り込まれている。
【0152】
このバイコンポーネント繊維を用いて中間体フェルトを作製し、ニードル加工してニードルフェルトを形成する。このニードルフェルトの密度は0.240÷0.260c/cmの範囲内であり、単位重量は615÷630g/mの範囲内であった。
【0153】
カーボンブラックが添加された繊維が含まれることにより濃い灰色となったニードルフェルト(CIELABカラー軸のL座標が25.0)を20重量%ポリビニルアルコール水溶液中に浸漬し、その後乾燥した。
【0154】
続いて、このような処理をしたニードルフェルトを、繊維のポリスチレンマトリクスが完全に溶解するまでトリクロロエチレンに浸漬した。形成された不織布を乾燥し、「半製品D」(海成分除去後のCIELABカラー軸のL座標が30.3)と呼ばれる中間生成物を得た。
【0155】
上記とは別に、実施例1と同様にしてポリウレタンエラストマーを調製する。次に、調製したエラストマー溶液を、PUのみに対して4.8%の割合でカーボンブラックを添加してIrganox(R)1010およびTinuvin(R)326を含有するDMFで希釈し、質量パーセントで14%のPU溶液を形成した。このように得られた重合体溶液は、水で凝固させると、高多孔性の構造となる。
【0156】
この「半製品D」をポリウレタンエラストマー溶液に浸漬し、一対のロールの間を通すことで圧迫した後、40℃に保った恒温液槽に1時間浸漬した。凝固した半製品は、85℃に加熱した恒温液槽に通して、残存する溶媒およびポリビニルアルコールを取り出すことで得られる。その後、加熱したオーブンの中を通すことにより、この複合材料を乾燥した。
【0157】
次に、厚みが2.30mmで、繊維とポリウレタンマトリクスの双方にカーボンブラックが存在するために濃い灰色を呈するこの「凝固乾燥後の半製品」を縦方向に切断して、それぞれ厚みが1.15mmの2枚の同一の積層板を得た。次に、これらの積層板を研磨してポリウレタンマトリクス部分を除去し、マイクロファイバー成分を引き出して起毛部を形成する。この研磨プロセスは、適切なサンドペーパーを用いて、複合材料の厚みを0.85mmまで下げるような条件で行われ、長さが320÷370ミクロン(CIELABカラー軸のL座標が24.4)のマイクロファイバー起毛部が製造される。
【0158】
最後に、既知の合成皮革に従来使用されてきた技術により、このカーボンブラック含有マイクロファイバーを後染めするため、この合成物を適切な染色機(「ジェット」)で処理し、灰色または黒色の範囲のスエード調の合成皮革を得た。
【0159】
上述の複合製品から始めた場合に上記複合製品で見られたのとは異なり、カーボンブラックの使用量が高いことにから、同一の色の範囲を再現することができない。例えば売上高が高いことを特徴とする、下表に示す色は、製造される合成物(CIELABカラー軸のL座標が24.4)の明度に対して必要とされる色合いの明度が高いため、本発明の複合製品から始めると調製できない。
【0160】
【表7】

【0161】
一方、他の色については、複合製品の色の赤および/または青系への色変化強いうえ、色調補正を行うのに必要な染料の寄与が乏しいため、後染めによって所望の色合いに至るには困難が観察される。しかしながら、この色ベースの複合製品に発色する色の範囲がより狭いことは、実施例2〜4に示した複合製品を開始材料としていた場合であってもいずれも、非常に大量の染料が必要とされる特に濃色(具体的には黒色)への抵抗が非常に大きくなることと対になっている。
【0162】
具体的には、この合成物を、以下の分散性染料を含有する水系の染料槽内で125℃で作動する「ベンチュリチューブ」に1時間通す。:
赤色分散染料(アントラキノン系)1%
青色分散染料(アントラキノン系)3%
黄色分散染料(アミノケトン)10.5%
【0163】
染色工程が終わると、染色されたマイクロファイバー状の不織布が得られる。ヒドロ亜硫酸ナトリウムを用いた還元条件下、アルカリ性環境にてさらに処理をして余分な染料を除去した後、最終処理を行う。
【0164】
得られた合成皮革について、実施例1と同様にして、物理的・機械的特性および摩擦に対する染色堅牢度、洗剤洗浄に対する染色堅牢度、ドライ洗浄および光の組合せに対する染色堅牢度を分析した。評価結果を下表に示す。
【0165】
【表8】

【0166】
この複合材料の厚みは0.76mmである。
【0167】
比較すると、未処理のPET繊維(カーボンブラック未添加)を出発材料として同一の手順で製造した合成物の場合、同一の色合いを得るのに、以下の分散性染料を含む染色溶液槽を使用する必要がある:
赤色分散染料(アントラキノン系)5.7%
青色分散染料(アントラキノン系)12.8%
黄色分散染料(アミノケトン)18.1%
【0168】
比較例6(繊維と短い起毛部に1%のカーボンブラックを含有するマスターSSPの不変色性)
実施例2と同様にして作製した複合製品を、マイクロファイバー起毛部の長さが90〜120μmの範囲になるような条件で研磨した(CIELABカラー軸のL座標は33.4)。
【0169】
最後に、既知のスエード調合成皮革に従来使用されてきた技術により、このカーボンブラック含有マイクロファイバーを灰色または黒色の範囲に後染めするため、この合成物を適切な染色機(「ジェット」)で処理し、スエード調の合成皮革を得た。具体的には、以下の分散性染料を含有する水系の染料槽内で125℃で作動する「ベンチュリチューブ」にこの合成物を1時間通す:
赤色分散染料(アントラキノン系)3.8%
青色分散染料(アントラキノン系)2.8%
黄色分散染料(アミノケトン)3.2%
【0170】
染色工程が終わると、染色されたマイクロファイバー状の不織布が得られる。ヒドロ亜硫酸ナトリウムを用いた還元条件下、アルカリ性環境にてさらに処理をして余分な染料を除去した後、最終処理を行う。
【0171】
得られた合成皮革は、マイクロファイバー起毛部が特に短いことに起因して、ポリウレタンバックグラウンドの過度の露出およびライティング効果と大理石(marbling)効果の損失により、審美的観点から顕著な質的な低下がみられる。最終使用者はこのように製造されたプロトタイプの複合製品は不適切と考えるため、破棄した。
【0172】
得られた合成皮革について、(実施例1と同様にして)物理的・機械的特性および摩擦に対する染色堅牢度、洗剤洗浄に対する染色堅牢度、ドライ洗浄および光の組合せに対する染色堅牢度を分析した。評価結果を下表に示す。
【0173】
【表9】

【0174】
この複合材料の厚みは0.78mmである。
【0175】
まとめ
より明確かつ便宜的に読むため、上述の複合材料の主な特性を以下にまとめる。
比較例1は、マイクロファイバー部分にカーボンブラックを添加しない合成スエード革の製造を参照している。
比較例6は、起毛部の長さが90〜120ミクロンのスエード革の製造を参照している。
【0176】
【表10】

【0177】
上記の表から、以下の結論が出される:
・紡績工程でマイクロファイバーにカーボンブラックを添加することにより、染料の光に対する染色堅牢度をグレースケールで1〜1.5も増大することができる(比較例1Cと実施例2参照);
・繊維中のカーボンブラック含有量を増やすことで、光に対する染色堅牢度は上がるが、マイクロファイバー状の中間化合物から得られる色の範囲は減少する(その中間生成物の明度(L)の減少);
・カーボンブラックを含有するマスターバッチの添加により、繊維の物理的・機械的特性が若干減少する。;
・マスターバッチの固相重合プロセス(実施例2および3参照)により、比較例1のようなカーボンブラックを添加しない参考製品と比較して機械的特性が向上したマイクロファイバー製造が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スエード外観と灰色〜黒色の色を有する高品質の合成皮革であって、SAEJ1885法による色の耐光堅牢度が225.6KJ/mで4以上であり;SAEJ1885法による色の耐光堅牢度が488.8KJ/mで3以上であり;前記合成皮革は革表面に起毛部を有し;前記合成皮革は、マイクロファイバー成分とエラストマーのマトリクスを含み;前記マイクロファイバー成分は、0.01〜0.50dtexのポリエステルマイクロファイバーからなり;前記エラストマーのマトリクスは、ポリウレタンからなり;前記ポリウレタンは、ソフトおよびハードセグメントからなり;前記エラストマーのマトリクスとマイクロファイバー成分の比は20/80〜50/50質量部の範囲であり;前記マイクロファイバー成分には、質量パーセントで0.05〜2.00%のカーボンブラック顔料が含まれ;前記エラストマーのマトリクスには、質量パーセントで0〜10%のカーボンブラック顔料が含まれ;前記カーボンブラックは、常に平均サイズが0.4ミクロン未満であり;前記合成皮革は、
a)前記起毛部の平均長が200〜500ミクロンの範囲であり;
b)前記ソフトセグメントは、ポリアルキレンカーボネートジオール類から選択される少なくとも1つのポリカーボネートジオールと、少なくとも1つのポリエステルジオールとからなり;
c)前記ハードセグメントは、遊離イソシアネート基と水の反応に由来するウレタン基からなり;
d)前記カーボンブラックの総含有量は、質量パーセントで0.025〜6%の範囲であることを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
前記マイクロファイバー成分は、ポリエチレンテレフタレートマイクロファイバーからなる請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記マイクロファイバー成分は、質量パーセントで0.15〜1.50%のカーボンブラックを含有する請求項1に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記エラストマーのマトリクスは、質量パーセントで0〜7%の範囲、好ましくは質量パーセントで0.02〜6%の前記カーボンブラック顔料を含有する請求項1に記載の合成皮革。
【請求項5】
前記カーボンブラックの総含有量が、質量パーセントで0.075〜4.25%、好ましくは質量パーセントで0.085〜3.75%の範囲にある請求項1に記載の合成皮革。
【請求項6】
起毛部の平均長が210〜400ミクロンの範囲にある請求項1に記載の合成皮革。
【請求項7】
前記ポリエステルジオール類は、ポリヘキサメチレンアジペートジオール(PHA)、ポリ(3−メチルペンタメチレン)アジペートジオール(PMPA)、ポリネオペンチルアジペートジオール(PNA)およびポリカプロラクトンジオール(PCL)から選択され;
前記ポリアルキレンカーボネートジオール類は、ポリテトラメチレンカーボネートジオール(PTMC)、ポリペンタメチレンカーボネートジオール(PPMC)、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHC)、ポリヘプタメチレンカーボネートジオール、ポリオクタメチレンカーボネートジオール、ポリノナメチレンカーボネートジオール、ポリデカメチレンカーボネートジオール、ポリ−(2−メチル−ペンタメチレンカーボネート)ジオールおよびポリ−(2−メチル−1−オクタメチレンカーボネート)ジオールから選択され;
前記イソシアネート基は、メチレンビス(4−フェニルイソシアネート)(MDI)および/またはトルエンジイソシアネート(TDI)に由来する請求項1に記載の合成皮革。
【請求項8】
後染め処理前の色合いは、L<70であることを特徴とする請求項1に記載の合成皮革。
【請求項9】
後染め処理前の色合いは、L<55であることを特徴とする請求項8に記載の合成皮革。
【請求項10】
スエード外観を有し、灰色と黒色の範囲の色を有する請求項1に記載の合成皮革の製造方法は、
(1)カーボンブラックを含有するマイクロファイバーからなるマイクロファイバー状の中間生成物およびマイクロファイバーの結合重合体(海成分)を製造する工程と、
(2)1以上のポリウレタンおよびカーボンブラックを含む溶液および/または分散液を用いて、前記工程(1)に記載のカーボンブラックが添加されたマイクロファイバー状の中間生成物の含浸を行い、続いて加工前の半製品を得るために溶媒を除去する工程と、
(3)スエード外観の特徴を有する合成皮革を得るために、前記加工前の半製品の表面を研磨する工程とを有し、
前記工程(1)において、前記カーボンブラックは、前記マイクロファイバーに質量パーセントで0.05%〜2%の量で含有され、前記マイクロファイバーは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのマイクロファイバーから選択され、前記マイクロファイバー状の中間生成物は、カーボンブラックを添加した上記に列記した重合体(島成分と定義される)の押出成形により得られる繊維の紡績により得られ、前記カーボンブラックは、平均粒径が0.4ミクロン未満であり、前記マイクロファイバーの結合重合体(海成分)は、有機溶媒による抽出によりその後の処理工程中に取り除かれ;
前記工程(2)において、前記カーボンブラックは前記ポリウレタンに対して質量パーセントで0〜10%存在し、かつ平均粒径が0.4ミクロン未満であり;エラストマーマトリクスとマイクロファイバー成分の質量比が20/80〜50/50の範囲にあり;前記ポリウレタンはソフトセグメントとハードセグメントで構成され、前記ソフトセグメントは、少なくとも1つのポリアルキレンカーボネートジオールと少なくとも1つのポリエステルジオールとからなり;前記ハードセグメントは、遊離イソシアネート基と水の反応に由来するウレタンおよび/または尿素基からなり;
前記工程(3)において、前記合成皮革の起毛部の長さは、200〜500μm、好ましくは210〜400μmの範囲にある合成皮革の製造方法。
【請求項11】
マイクロファイバーは、上記から選択される2つのポリエステルの適切な混合物を用いて製造され、マスターバッチとされるそのうちの1つのみが10%〜50%の範囲の割合でカーボンブラックを含有し、好ましくは前記マスターバッチの固有粘度(I.V.)が他の重合体の固有粘度以上である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
カーボンブラックが、前記マイクロファイバーに0.15〜1.50%の質量パーセントで含有される請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
カーボンブラックが、ポリウレタン中に0〜7%の質量パーセントで、好ましくは0.02〜6%の質量パーセントで存在する請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
前記マイクロファイバーは、ポリエチレンテレフタレートマイクロファイバーから選択される請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートには、予め、重合鎖の長さを延長するための固相重合化処理を施す請求項10に記載の製造方法。
【請求項16】
前記工程(3)の最後に、研磨後の加工前の半製品に、分散性染料の存在下でさらなる染色工程を施す請求項10に記載の製造方法。
【請求項17】
前記さらなる染色工程は、100℃〜140℃の範囲の温度で行う請求項16に記載の製造方法。

【公表番号】特表2011−523985(P2011−523985A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513115(P2011−513115)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国際出願番号】PCT/IT2008/000739
【国際公開番号】WO2009/150681
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(510326810)
【氏名又は名称原語表記】ALCANTARA S.P.A.
【住所又は居所原語表記】Via Mecenate,86,20138 Milano(IT)
【Fターム(参考)】