説明

スクリーン印刷方法、電子部品の製造方法、及びスクリーン印刷装置

【課題】版離れ角度を略一定としつつ、印圧のばらつきを抑制したスクリーン印刷方法を提供すること。
【解決手段】被印刷物Tを配置する工程と、スクリーン版4を配置する工程と、スキージ5を移動させてスクリーン印刷により印刷する工程とを備えたスクリーン印刷方法であって、印刷工程では、版枠11aが版枠11bよりも被印刷物Tの印刷面Taから離れるように版枠11aを上昇させて第一の補正角度θ1を付加すると共にステージ3がスクリーン版4から離れる方向に下降させて第二の補正角度θ2を付加することで、版離れ角度θが略一定となるように調整して印刷を行い、第一の補正角度θ1を付加するための版枠11aの移動による補正移動量の変化量をスキージ5の移動に併せて小さくし、第二の補正角度θ2を付加するためのステージ3の移動による補正移動量の変化量をスキージ5の移動に併せて大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷方法、電子部品の製造方法、及びスクリーン印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックグリーンシートなどの被印刷物の所定箇所に導電性ペーストなどを塗布して電子部品を製造する方法として、スクリーン印刷を用いた印刷方法が知られている。スクリーン印刷では、その1つの方法として、被印刷物とスクリーン版とを互いに離れて配置すると共にそのスクリーン版にスキージを押し当てて移動させ、スキージング中、被印刷物とスクリーン版との間に所定の版離れ角度を保持させる、オフコンタクト式の印刷方法がある(例えば特許文献1参照)。版離れ角度が保持されることにより、このオフコンタクト式の印刷方法では、スキージング後に被印刷物とスクリーン版との間の分離を容易に行うことができる。
【0003】
一方、このように、被印刷物とスクリーン版とが互いに離れて配置されたオフコンタクト式のスクリーン印刷方法では、そのままでは印刷始端側の版離れ角度と印刷終端側の版離れ角度とが異なることにより印刷される導電性ペーストの量などが変わってきてしまい、印刷パターンの形状が変化してしまう場合があった。そのため、例えば特許文献1に示す印刷方法では、スキージの移動に併せて被印刷物を支持する支持部を下降させることで、スキージング中の版離れ角度を略一定となるように調整して、印刷パターンの形状変化を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−185387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の印刷方法では、支持部を下降させて版離れ角度を略一定とすることはできるものの、支持部の下降量のみで版離れ角度を調整しているため、スキージを被印刷物に対して押し込む印圧がばらついてしまう場合があった。この印圧のばらつきによっても、印刷される導電性ペーストの量などが変わってきてしまい、印刷パターンの形状変化を生じさせてしまう懼れがあった。このため、版離れ角度を略一定としつつ、更に、印圧のばらつきを抑制した印刷方法が望まれていた。
【0006】
本発明は、版離れ角度を略一定としつつ、印圧のばらつきを抑制したスクリーン印刷方法、電子部品の製造方法、及びスクリーン印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るスクリーン印刷方法は、少なくとも両端に版枠を有するスクリーン版と該スクリーン版上を移動するスキージと被印刷物を支持する支持部とを用いて被印刷物にスクリーン印刷を行うスクリーン印刷方法であって、被印刷物を支持部上に配置する工程と、被印刷物の印刷領域を覆うようにスクリーン版を配置する工程と、スクリーン版の一端である始端側から他端である終端側にスクリーン版に沿ってスキージを移動させてスクリーン印刷により印刷する工程と、を備えている。印刷する工程では、スキージの移動に併せて始端側の版枠が終端側の版枠よりも被印刷物の印刷面から離れるように版枠の少なくとも一方を移動させて第一の補正角度θ1を付加し、且つ、スキージの移動に併せて支持部が被印刷物の平行状態を維持しながら印刷開始時の位置よりもスクリーン版から離れる方向に支持部を移動させて第二の補正角度θ2を付加することで、スクリーン版と被印刷物の印刷面との間の版離れ角度θが略一定となるように調整して印刷を行い、第一の補正角度θ1を付加するための版枠の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて小さくし、且つ、第二の補正角度θ2を付加するための支持部の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて大きくすることを特徴としている。
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係るスクリーン印刷装置は、被印刷物にスクリーン印刷を行うスクリーン印刷装置であって、少なくとも両端に版枠を有し且つ被印刷物の印刷領域を覆うように配置されるスクリーン版と、スクリーン版の一端である始端側から他端である終端側にスクリーン版に沿って移動するスキージと、被印刷物を支持する支持部と、スクリーン版の版枠の移動と支持部の移動とを制御する制御部とを備えている。制御部は、スキージの移動に併せて始端側の版枠が終端側の版枠よりも被印刷物の印刷面から離れるように版枠の少なくとも一方を移動させて第一の補正角度θ1を付加し、且つ、スキージの移動に併せて支持部が被印刷物の平行状態を維持しながら印刷開始時の位置よりもスクリーン版から離れる方向に支持部を移動させて第二の補正角度θ2を付加することで、スクリーン版と被印刷物の印刷面との間の版離れ角度θが略一定となるように調整し、第一の補正角度θ1を付加するための版枠の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて小さくし、且つ、第二の補正角度θ2を付加するための支持部の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて大きくすることを特徴としている。
【0009】
本発明に係るスクリーン印刷方法又はスクリーン印刷装置では、始端側の版枠が終端側の版枠よりも被印刷物の印刷面から離れるように移動させて第一の補正角度θ1を付加すると共に支持部が印刷開始時の位置よりもスクリーン版から離れる方向に移動させて第二の補正角度θ2を付加することで、スクリーン版と被印刷物の印刷面との間の版離れ角度θが略一定となるように調整している。この場合、版離れ角度θが略一定となるように調整されているため、スクリーン印刷によって印刷される印刷パターンの塗布厚みや寸法のばらつきを抑制することができる。特に、版枠と支持部との両方を移動させて版離れ角度θを調整しているため、スキージの移動方向における位置に応じた版離れ角度θの調整を行いやすくなっている。
【0010】
また、本発明に係るスクリーン印刷方法又はスクリーン印刷装置では、更に、第一の補正角度θ1を付加するための版枠の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて小さくすると共に、第二の補正角度θ2を付加するための支持部の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて大きくするようにしている。スキージの押込み量が一定の場合、スキージの印圧が始端側から終端側に向かって徐々に大きくなる傾向にあるが(図10(a)参照)、始端側において主として版枠の移動により版離れ角度θを調整し、終端側において主として支持部の移動により版離れ角度θを調整することにより、終端側における印圧の増加を抑えて印圧のばらつきを抑制することが可能となる(図10(b)参照)。印圧のばらつき抑制により、本発明によれば、スクリーン印刷によって印刷される印刷パターンの塗布厚みや寸法のばらつきを更に抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係るスクリーン印刷方法又はスクリーン印刷装置では、上述したように、版枠と支持部との両方を移動させることで版離れ角度θを略一定としている。この場合、両方を移動させるのではなくて始端側の版枠のみを移動して版離れ角度θを略一定とした場合に生じる版枠の変形や版枠の変形に伴う印刷パターンのばらつきを抑制することができ、また、両方を移動させるのではなくて支持部のみを移動して版離れ角度θを略一定とした場合に生じる印圧のばらつきに伴う印刷パターンのばらつきも抑制することができる。
【0012】
さらに、本発明に係るスクリーン印刷方法又はスクリーン印刷装置では、スキージの移動に併せて支持部が被印刷物の平行状態を維持しながら印刷開始時の位置よりもスクリーン版から離れる方向に支持部を移動させている。この場合、被印刷物を傾けることなく版離れ角度θを略一定としているため、被印刷物を傾けて版離れ角度θを略一定とした場合に比べて、印刷パターンの滲みを防止することができる。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る電子部品の製造方法は、少なくとも両端に版枠を有するスクリーン版と該スクリーン版上を移動するスキージとグリーンシートを支持する支持部とを用いて積層型の電子部品を製造する製造方法であって、セミラックペーストを付与してグリーンシートを準備する工程と、グリーンシートを支持部上に配置する工程と、グリーンシートの印刷領域を覆うようにスクリーン版を配置する工程と、スクリーン版の一端である始端側から他端である終端側にスクリーン版に沿ってスキージを移動させて印刷領域に溶剤を含むペーストをスクリーン印刷により印刷する工程と、を備えている。印刷する工程では、スキージの移動に併せて始端側の版枠が終端側の版枠よりも被印刷物の印刷面から離れるように版枠の少なくとも一方を移動させて第一の補正角度θ1を付加し、且つ、スキージの移動に併せて支持部がグリーンシートの平行状態を維持しながら印刷開始時の位置よりもスクリーン版から離れる方向に支持部を移動させて第二の補正角度θ2を付加することで、スクリーン版とグリーンシートの印刷面との間の版離れ角度θが略一定となるように調整して印刷を行い、第一の補正角度θ1を付加するための版枠の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて小さくし、且つ、第二の補正角度θ2を付加するための支持部の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて大きくすることを特徴としている。
【0014】
本発明に係る電子部品の製造方法では、始端側の版枠が終端側の版枠よりも被印刷物の印刷面から離れるように移動させて第一の補正角度θ1を付加し、且つ、支持部がグリーンシートの平行状態を維持しながら印刷開始時の位置よりもスクリーン版から離れる方向に移動させて第二の補正角度θ2を付加することで、版離れ角度θが略一定となるように調整し、更に、第一の補正角度θ1を付加するための版枠の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて小さくすると共に、第二の補正角度θ2を付加するための支持部の移動による補正移動量の変化量をスキージの移動に併せて大きくするようにしている。この場合、上述したスクリーン印刷方法又はスクリーン印刷装置と同様、版離れ角度θを略一定としつつ、印圧のばらつきを抑制して、印刷パターンのばらつきや滲みなどを抑制することができる。
【0015】
上記電子部品の製造方法において、印刷する工程では、始端側において、第一の補正角度θ1よりも第二の補正角度θ2を小さくするように調整して印刷を行うようにしてもよい。この場合、スキージが印刷の始端側に位置する際、支持部を下げ過ぎないようにすることができ、スキージの安定性を確保できる。
【0016】
上記電子部品の製造方法において、印刷する工程では、終端側において、第二の補正角度θ2よりも第一の補正角度θ1を小さくするように調整して印刷を行うようにしてもよい。この場合、スキージが印刷の終端側に位置する際、始端側の版枠を上げ過ぎないようにすることができ、版枠の歪みを抑制できる。
【0017】
上記電子部品の製造方法において、印刷する工程では、第一の補正角度θ1を、始端側から印刷中央部に向かって大きくし且つ印刷中央部から終端側に向かって小さくするように調整して印刷を行うようにしてもよい。この場合、スキージが印刷の終端側に位置する際、始端側の版枠を下げることになるため、版枠の移動に伴ってスキージに加えられる応力を低減でき、その結果、スキージの安定性を確保できる。
【0018】
上記電子部品の製造方法において、印刷する工程では、終端側において、第一の補正角度θ1と第二の補正角度θ2との比率θ1/θ2が20/80〜30/70の間であるようにしてもよい。第一及び第二の補正角度の比率θ1/θ2がこの範囲にある場合、版枠の歪みを一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、版離れ角度を略一定としつつ、印圧のばらつきを抑制したスクリーン印刷方法、電子部品の製造方法、及びスクリーン印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】スクリーン印刷装置の一例を示す概略図である。
【図2】スクリーン版の一例を示す斜視図である。
【図3】図1に示すスクリーン印刷装置でスクリーン印刷を行った際の各部材の移動状態を示す図である。
【図4】スキージの進行方向に対して版離れ角度θが略一定であることを示す図である。
【図5】版離れ角度θと第一及び第二の補正角度θ1,θ2と補正前角度θORGとの関係を示す図である。
【図6】スキージの進行方向に対する第一及び第二の補正角度θ1,θ2の変化を示す図である。
【図7】スキージの進行方向に対する版枠及びステージの補正移動量を示す図である。
【図8】スキージの進行方向に対する版枠及びステージの補正移動量の変化量を示す図である。
【図9】スキージの進行に併せてスキージの先端が曲がってしまうことを示した模式図である。
【図10】スキージの進行方向に対する印圧の変化を示す図であり、(a)は従来の場合を示し、(b)は本実施形態の場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0022】
まず、本実施形態に係るスクリーン印刷装置1について説明する。図1に示されるように、スクリーン印刷装置1は、被印刷物TにペーストPをスクリーン印刷するための装置であり、テーブル2、ステージ3、スクリーン版4、スキージ5及び制御部6を備えている。被印刷物Tは、例えばセラミックペーストを塗布・乾燥することによって形成されるセラミックグリーンシートや基板などスクリーン印刷の対象となるものであればよい。被印刷物Tの表面は印刷面Taとなっている。また、ペーストPとしては、例えば、導電性ペースト、樹脂ペースト、セラミックペーストなどが用いられる。
【0023】
スクリーン印刷装置1では、テーブル2の上部にステージ3が足部3aを介して上下動可能なように配置される。ステージ3は、略矩形の平面を有し、その平面で被印刷物Tを支持する。テーブル2はモータ7と移動機構(不図示)を有しており、モータ7と移動機構を駆動させることで、ステージ3を図示矢印A1に沿って上下方向に移動させる。モータ7等によるステージ3の上下動は制御部6によって制御される。制御部6による上下動の制御については、後述するスクリーン印刷方法において詳細に説明する。なお、矢印A1で示される移動では、ステージ3の平面が水平状態を維持したまま移動される。つまり、テーブル2は、被印刷物Tの平行状態を維持しつつステージ3を移動させる。
【0024】
ステージ3の上方には、被印刷物Tの印刷領域を少なくとも覆うことができるように、その被印刷物Tの印刷面Taから所定距離、離間してスクリーン版4が略平行に配置される。スクリーン版4は、図2に示されるように、矩形の版枠11とメッシュ部12とから構成され、版枠11の下面にメッシュ部12が装着される。メッシュ部12は、一点鎖線で囲まれる印刷領域12a内に、複数の開口部12bを有する。印刷領域12aは、スクリーン版4が図1に示されるように被印刷物Tの上方に配置された際、被印刷物Tの印刷領域と対応する領域である。また、スクリーン版4は、一端である始端側の版枠11aに連結し版枠11aを図示矢印A2の方向に上下動させるための移動機構8と、移動機構8を駆動させるモータ9とを有している。モータ9等による版枠11aの上下動は、制御部6によって制御される。制御部6による制御については、後述するスクリーン印刷方法において詳細に説明する。なお、版枠11aと対向する他端である終端側の版枠11bは、上下動しないように固定されている。
【0025】
スクリーン版4の上方には、さらに、スキージ5がその先端5aが下方にくるように配置される。スキージ5は、例えばウレタンゴムなどからなり、スキージングを行う際、その先端5aがスクリーン版4のメッシュ部12に対して略直角となるように配置されると共に先端5aが被印刷物Tの方に押し込まれるように下方に付勢される。そして、スキージ5は、付勢された状態のまま、図1の矢印A3で示されるように、スクリーン版4の一端である始端側(図示左端)から他端である終端側(図示右端)へスクリーン版4に沿って水平に移動するように制御されている。なお、スキージ5の移動方向におけるスクリーン版4上には、ペーストPが付与されており、スキージ5が水平移動することによりスクリーン版4の開口部12bからペーストPが被印刷物Tの印刷面Taへと押し出され、これにより、被印刷物Tの印刷面Taに印刷物Tbが印刷される。
【0026】
続いて、上述したスクリーン印刷装置1を用いてスクリーン印刷を行う方法について、積層型の電子部品の製造方法を例にとって説明する。
【0027】
本実施形態に係る電子部品の製造方法は、セラミックグリーンシートT(被印刷物)を準備する工程と、セラミックグリーンシートTをスクリーン印刷装置1に配置する工程と、スクリーン版4を配置する工程と、スクリーン印刷によって印刷する工程と、スクリーン印刷されたセラミックグリーンシートTを積層する工程と、積層体から複数の素体を取得して電極を形成する工程とを含んで構成される。
【0028】
まず、セラミックグリーンシートTを準備する工程では、セラミックペーストを支持体(不図示)上に付与後、乾燥させることによってセラミックグリーンシートTを準備する。セラミックペーストとしては、例えば、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体材料にバインダ樹脂、溶剤、可塑剤等を加えて混合分散したものを用いることができる。続いて、セラミックグリーンシートTをスクリーン印刷装置1に配置する工程では、上記準備工程で準備されたセラミックグリーンシートTを印刷面Taが上にくるように、スクリーン印刷装置1のステージ3上に配置する。そして、スクリーン版4を配置する工程では、セラミックグリーンシートTの印刷領域を覆うようにスクリーン版4を配置する。ここで用いるスクリーン版4の開口部12bは、例えばセラミックグリーンシートTの上面に形成される電極パターンに対応した形状となっている。これらの工程により、スクリーン印刷の準備配置工程が終了する。
【0029】
次に、スクリーン印刷によって印刷する工程では、スクリーン版4の始端側から終端側にスクリーン版4に沿ってスキージ5を移動させて印刷領域に導電性ペーストPをスクリーン印刷により印刷する。導電性ペーストPは、例えば、Ni、Ag、Pdなどの金属粉末にバインダ樹脂や溶剤等を混合したペースト状の組成物である。
【0030】
ここで、スクリーン印刷によって印刷する工程について、図3を参照しながら詳細に説明する。図3では、説明の便宜上、導電性ペーストP等を省略している。本実施形態では、この印刷工程において、制御部6の制御により、まず、スキージ5の移動A3(S1→S2→S3→S4と移動)に併せて、スクリーン版4の始端側の版枠11aが終端側の版枠11bよりもセラミックグリーンシートTの印刷面Taから徐々に離れるように(図示上方)に、版枠11aを移動させるようになっている。また、この版枠11aの移動に併せて(つまり、スキージ5の移動A3にも併せて)、制御部6の制御により、ステージ3が印刷開始時の位置(図3(a)参照)よりもスクリーン版4から徐々に離れる方向(図示下方)に、ステージ3を移動させるようにもなっている。そして、この版枠11aの上方への移動とステージ3の下方への移動とにより、本実施形態では、スクリーン版4とセラミックグリーンシートTの印刷面Taとの間の版離れ角度θが、スキージング中において、図4に示されるように、略一定となるように調整されている。
【0031】
続いて、この版枠11aの移動による第一の補正角度θ1とステージ3の移動による第二の補正角度θ2と版離れ角度θとの関係について説明する。図5から明らかなように、版枠11aやステージ3の移動がなかった場合の補正前角度θORGに対して第一及び第二の補正角度θ1,θ2を付加した角度が、版離れ角度θを構成するようになっている。つまり、版離れ角度θは、以下の式(1)によって表される。
θORG+θ1+θ2=θ(一定)・・・(1)
【0032】
ところで、オフコンタクト印刷では、補正前角度θORGがスキージ5の移動に伴って小さくなっていくため、式(1)で示される関係から明らかなように、版離れ角度θを略一定とするためには、版枠11aやステージ3を角度補正のために移動させて、第一及び第二の補正角度θ1,θ2をスキージ5の移動に併せて可変させる必要がある。第一及び第二の補正角度θ1,θ2がスキージ5の移動に併せてどのような値をとるかを示したものが図6である。図6に示されるように、版枠11aの移動による第一の補正角度θ1は、制御部6の制御により、スキージ5の移動に併せてS1〜S2〜S3付近までは徐々に大きくなると共に、その後、S3〜S4にかけて徐々に小さくなるようになっている。
【0033】
第一の補正角度θ1をこのように補正するため、制御部6は、図7に示されるように、版枠11aの補正移動量M1が、スキージ5の移動に併せてS1〜S2〜S3付近まで徐々に大きくなるように調整し、その後、S3〜S4にかけて徐々に小さくなるように調整している。そして、制御部6は、このような移動量の調整にあたり、図8に示されるように、版枠11aの補正移動量M1の変化量がスキージ5の移動に併せてS1〜S2〜S3〜S4に向かって徐々に小さくなるようにしている。ここで用いる補正移動量は、第一の補正角度θ1の値を補正させるために版枠11aを上方に移動させた際の移動量であり、補正移動量の変化量は、移動前後における変化量である。
【0034】
一方、ステージ3の移動による第二の補正角度θ2は、図6に示されるように、始端S1〜S2側では、第一の補正角度θ1よりも小さいものの、制御部6の制御により、スキージ5の移動に併せてS1〜S2〜S3〜S4と徐々に大きくなるようになっている。
【0035】
第二の補正角度θ2をこのように補正するため、制御部6は、図7に示されるように、ステージ3の補正移動量M2が、スキージ5の移動に併せてS1〜S2〜S3〜S4に向かって徐々に大きくなるように調整している。そして、制御部6は、このような移動量の調整にあたり、図8に示されるように、ステージ3の補正移動量M2の変化量がスキージ5の移動に併せてS1〜S2〜S3〜S4に向かって徐々に大きくなるようにしている。ここで用いる補正移動量は、第二の補正角度θ2の値を補正させるためにステージ3を下方に移動させた際の移動量であり、補正移動量の変化量は、移動前後における変化量である。
【0036】
なお、補正前角度θORGが小さくなりやすいスキージ5の移動後半(S3〜S4)においては、図6に示されるように、第一の補正角度θ1は、スキージ5の移動に併せて徐々に小さくなると共に、第二の補正角度θ2は、スキージ5の移動に併せて徐々に大きくなるようになっており、終端S4では、第二の補正角度θ2よりも第一の補正角度θ1がかなり小さくなるように調整される。また、図6において第二の補正角度θ2を表す線は厳密には曲線であり、第二の補正角度θ2の角度補正の変化量がS1〜S2〜S3〜S4に向かって微増するように制御されている。
【0037】
このような独特の移動制御によって本実施形態ではスクリーン印刷が行われ、セラミックグリーンシートT上に電極パターンが、ばらつきを抑えて形成される。なお、セラミックグリーンシートT上に所定の電極パターンが形成されると、その後、このように印刷されたセラミックグリーンシートTを積層して積層体を形成し、形成された積層体を所定の方法で分割して複数の素体を取得し、各素体に外部電極を形成して個別の積層型の電子部品を完成させる。このように製造される電子部品としては、例えば、積層型セラミックコンデンサなどがあるが、積層フィルタや積層アクチュエータなど他の電子部品の製造に、上述した方法を適宜、変更させて適用してももちろんよい。
【0038】
このように本実施形態に係る製造方法(スクリーン印刷方法、以下、同様)では、始端側の版枠11aが終端側の版枠11bよりも被印刷物Tの印刷面Taから離れるように移動させて第一の補正角度θ1を付加すると共にステージ3が印刷開始時の位置よりもスクリーン版4から離れる方向に移動させて第二の補正角度θ2を付加することで、スクリーン版4と被印刷物Tの印刷面Taとの間の版離れ角度θが略一定となるように調整している。このように、版枠11aとステージ3との両方を移動させて版離れ角度θを調整しているため、スキージ5の移動方向(位置S1〜S4)における版離れ角度θの調整を行いやすくなっている。そして、版離れ角度θが図4に示されるように略一定となるように調整されることから、本実施形態によれば、スクリーン印刷によって印刷される印刷パターンの塗布厚みや寸法のばらつきを抑制することができる。
【0039】
しかも、本実施形態に係る製造方法では、更に、図8に示すように、版枠11aの移動による補正移動量M1の変化量をスキージ5の移動に併せて徐々に小さくすると共に、ステージ3の移動による補正移動量M2の変化量をスキージ5の移動に併せて徐々に大きくするようにしている。スキージ5の押込み量がスキージング中において一定の場合、従来であれば、図9に示されるように、始端付近P1で先端5aが曲がっていないスキージ5(図9(a)参照)が、進行方向の中央付近P2に移動し(同図(b)参照)、更に、終端付近P3に移動するにつれて、スキージ5がウレタンゴムのような弾性体から形成されていることから、先端5aが曲がってしまい、その接触面積が進行に応じて大きくなってしまっていた(同図(c)参照)。
【0040】
このため、図10(a)に示されるように、従来は、スキージ5の印圧が始端付近P1から終端付近P3に向かって徐々に大きくなる傾向にあった。しかしながら、本実施形態では、印圧がそれほど大きくない始端付近P1においては、主として版枠11aの移動による補正移動量の変化量の比率を大きくして版離れ角度θを略一定となるように調整し、印圧が大きくなりやすい終端付近P3においては、主としてステージ3の移動(下降)による補正移動量の変化量の比率を大きくして版離れ角度θを略一定となるように調整することにより、終端側における印圧の増加を抑えて、図10(b)に示されるように、印圧のばらつきを抑制、すなわち、印圧も略一定となるようにしている。このように印圧のばらつきを抑制することにより、本実施形態では、スクリーン印刷によって印刷される印刷パターンの塗布厚みや寸法のばらつきを更に抑制することができるようになっている。
【0041】
また、本実施形態に係る製造方法では、版枠11aとステージ3との両方を移動させることで版離れ角度θを略一定としている。このため、始端側の版枠のみを移動して版離れ角度θを略一定とした場合に生じる版枠の変形や版枠の変形に伴う印刷パターンのばらつきを抑制することができ、また、ステージのみを移動して版離れ角度θを略一定とした場合に生じる印圧のばらつきに伴う印刷パターンのばらつきも抑制することができる。
【0042】
さらに、本実施形態に係る製造方法では、スキージ5の移動に併せてステージ3が被印刷物Tの平行状態を維持しながら印刷開始時の位置よりもスクリーン版4から離れる方向にステージ3を移動させている。このように、被印刷物Tを傾けることなく版離れ角度θを略一定としているため、被印刷物Tを傾けて版離れ角度θを略一定とした場合に比べて、印刷パターンの滲みを防止することも可能となっている。
【0043】
また、本実施形態に係る製造方法では、図6に示されるように、始端S1〜S2側において、第一の補正角度θ1よりも第二の補正角度θ2を小さくするように調整してスクリーン印刷を行うようにしている。このため、スキージ5が印刷の始端S1〜S2側に位置する際、ステージ3を下げ過ぎないようにすることができ、スキージ5の安定性を確保することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る製造方法では、図6に示されるように、終端S4側において、第二の補正角度θ2よりも第一の補正角度θ1を小さくするように調整してスクリーン印刷を行うようにしている。このため、スキージ5が印刷の終端S4側に位置する際、始端側の版枠11aを上げ過ぎないようにすることができ、版枠11の歪みを抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る製造方法では、図6に示されるように、第一の補正角度θ1を、始端S1〜S2側から印刷中央部S3に向かって大きくし且つ印刷中央部S3から終端S4側に向かって小さくするように調整して印刷を行うようにしている。このため、スキージ5が印刷の終端側に位置する際、始端側の版枠11aを下げることになるため、版枠11aの移動に伴ってスキージ5に加えられる応力を低減でき、その結果、スキージ5の安定性を確保することもできる。
【0046】
また、本実施形態に係る製造方法では、図6に示されるように、終端S4側において、第一の補正角度θ1と第二の補正角度θ2との比率θ1/θ2が20/80〜30/70の間の値となっている。第一及び第二の補正角度の比率θ1/θ2がこの範囲にある場合、版枠11の歪みを一層抑制することができる。
【0047】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、スクリーン印刷を積層型の電子部品の製造方法に適用した例を示したが、本実施形態におけるスクリーン印刷方法や印刷装置は、これに限られるわけではなく、基板等へのスクリーン印刷等、スクリーン印刷が適用できるものであれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜、変形して適用することができる。また、上記実施形態では、始端側の版枠11aが終端側の版枠11bよりも被印刷物Tの印刷面Taから離れるように版枠11aを移動させたが、版枠11bを移動させることで、始端側の版枠11aが終端側の版枠11bよりも被印刷物Tの印刷面Taから離れるように制御してもよい。また、スクリーン版4として、矩形状の版枠11を備えたものを用いたが、少なくとも両端に版枠11a,11bに相当する部材を備えたスクリーン版であればよい。
【符号の説明】
【0048】
1…スクリーン印刷装置、3…ステージ、4…スクリーン版、5…スキージ、6…制御部、11,11a,11b…版枠、T…被印刷物(セラミックグリーンシート)、Ta…印刷面、θ…版離れ角度、θ1…第一の補正角度、θ2…第二の補正角度、θORG…補正前角度、A3…スキージの移動方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも両端に版枠を有するスクリーン版と該スクリーン版上を移動するスキージと被印刷物を支持する支持部とを用いて前記被印刷物にスクリーン印刷を行うスクリーン印刷方法であって、
前記被印刷物を前記支持部上に配置する工程と、
前記被印刷物の印刷領域を覆うように前記スクリーン版を配置する工程と、
前記スクリーン版の一端である始端側から他端である終端側に前記スクリーン版に沿って前記スキージを移動させてスクリーン印刷により印刷する工程と、を備え、
前記印刷する工程では、前記スキージの移動に併せて前記始端側の版枠が前記終端側の版枠よりも前記被印刷物の印刷面から離れるように前記版枠の少なくとも一方を移動させて第一の補正角度θ1を付加し、且つ、前記スキージの移動に併せて前記支持部が前記被印刷物の平行状態を維持しながら印刷開始時の位置よりも前記スクリーン版から離れる方向に前記支持部を移動させて第二の補正角度θ2を付加することで、前記スクリーン版と前記被印刷物の前記印刷面との間の版離れ角度θが略一定となるように調整して印刷を行い、前記第一の補正角度θ1を付加するための前記版枠の移動による補正移動量の変化量を前記スキージの移動に併せて小さくし、且つ、前記第二の補正角度θ2を付加するための前記支持部の移動による補正移動量の変化量を前記スキージの移動に併せて大きくすることを特徴とするスクリーン印刷方法。
【請求項2】
少なくとも両端に版枠を有するスクリーン版と該スクリーン版上を移動するスキージとグリーンシートを支持する支持部とを用いて積層型の電子部品を製造する製造方法であって、
セミラックペーストを付与して前記グリーンシートを準備する工程と、
前記グリーンシートを前記支持部上に配置する工程と、
前記グリーンシートの印刷領域を覆うように前記スクリーン版を配置する工程と、
前記スクリーン版の一端である始端側から他端である終端側に前記スクリーン版に沿って前記スキージを移動させて前記印刷領域に溶剤を含むペーストをスクリーン印刷により印刷する工程と、を備え、
前記印刷する工程では、前記スキージの移動に併せて前記始端側の版枠が前記終端側の版枠よりも前記被印刷物の印刷面から離れるように前記版枠の少なくとも一方を移動させて第一の補正角度θ1を付加し、且つ、前記スキージの移動に併せて前記支持部が前記グリーンシートの平行状態を維持しながら印刷開始時の位置よりも前記スクリーン版から離れる方向に前記支持部を移動させて第二の補正角度θ2を付加することで、前記スクリーン版と前記グリーンシートの前記印刷面との間の版離れ角度θが略一定となるように調整して印刷を行い、前記第一の補正角度θ1を付加するための前記版枠の移動による補正移動量の変化量を前記スキージの移動に併せて小さくし、且つ、前記第二の補正角度θ2を付加するための前記支持部の移動による補正移動量の変化量を前記スキージの移動に併せて大きくすることを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記印刷する工程では、前記始端側において、前記第一の補正角度θ1よりも前記第二の補正角度θ2を小さくするように調整して印刷を行うことを特徴とする請求項2に記載の電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記印刷する工程では、前記終端側において、前記第二の補正角度θ2よりも前記第一の補正角度θ1を小さくするように調整して印刷を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記印刷する工程では、前記第一の補正角度θ1を、前記始端側から印刷中央部に向かって大きくし且つ前記印刷中央部から前記終端側に向かって小さくするように調整して印刷を行うことを特徴とする請求項2〜4の何れか一項に記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記印刷する工程では、前記終端側において、第一の補正角度θ1と第二の補正角度θ2との比率θ1/θ2が20/80〜30/70の間であることを特徴とする請求項2〜5の何れか一項に記載の電子部品の製造方法。
【請求項7】
被印刷物にスクリーン印刷を行うスクリーン印刷装置であって、
少なくとも両端に版枠を有し且つ前記被印刷物の印刷領域を覆うように配置されるスクリーン版と、
前記スクリーン版の一端である始端側から他端である終端側に前記スクリーン版に沿って移動するスキージと、
前記被印刷物を支持する支持部と、
前記スクリーン版の前記版枠の移動と前記支持部の移動とを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記スキージの移動に併せて前記始端側の前記版枠が前記終端側の前記版枠よりも前記被印刷物の印刷面から離れるように前記版枠の少なくとも一方を移動させて第一の補正角度θ1を付加し、且つ、前記スキージの移動に併せて前記支持部が前記被印刷物の平行状態を維持しながら印刷開始時の位置よりも前記スクリーン版から離れる方向に前記支持部を移動させて第二の補正角度θ2を付加することで、前記スクリーン版と前記被印刷物の前記印刷面との間の版離れ角度θが略一定となるように調整し、前記第一の補正角度θ1を付加するための前記版枠の移動による補正移動量の変化量を前記スキージの移動に併せて小さくし、且つ、前記第二の補正角度θ2を付加するための前記支持部の移動による補正移動量の変化量を前記スキージの移動に併せて大きくすることを特徴とするスクリーン印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−206967(P2011−206967A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75329(P2010−75329)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】