説明

スクリーン印刷版およびスクリーン印刷版の製造方法

【課題】印刷パターンから塗布物の一部が外側に滲み出すのを防止できるスクリーン印刷版を提供する。
【解決手段】感光性乳剤層4が形成されたスクリーン印刷版1の開孔部3を、導入開孔部3aと、この導入開孔部3aに連なる印刷開孔部3bとから構成し、印刷開孔部3bを導入開孔部3aより平面視において外側にはみ出させ、かつ、深さを浅くした構成とすることによって、印刷開孔部3bの開口縁と印刷物の印刷面との隙間から塗布物の一部が漏れ出すのを防止して、印刷パターンから塗布物の一部が外側に滲み出すのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷に用いられるスクリーン印刷版およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、スクリーン印刷は、被印刷物を印刷テーブルの所定の位置に載置し、スクリーン印刷版にペースト状またはインク状の塗布物を供給し、スキージを用いてスクリーン印刷版表面を摺動することで、被印刷物の印刷面に所望の印刷を行うものである。
【0003】
従来のスクリーン印刷版は、例えばポリエステル、ナイロン、テトロン等の合成繊維やステンレスの細線からなる縦線と横線を交互に織って網目状に形成したスクリーンをスクリーン枠に貼り付け固定し、このスクリーンに感光性乳剤を塗布し、乾燥して付着させ、感光性乳剤が付着したスクリーンの被印刷物に接する面側に感光用マスクを被せ、露光と現像を行って所望とする印刷パターン部分の感光性乳剤を除去してスクリーンパターンを形成し、残った感光性乳剤を硬化させてレジスト膜を形成したものである。
そして、このようなスクリーン印刷版では、その上に、上述したように、ペースト状またはインク状の塗布物が供給され、スキージでスクリーンパターンのスクリーンメッシュの空隙部から塗布物を押し出して、被印刷物の印刷面に所望のパターンを印刷するようになっている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−300302号公報
【特許文献2】特開2002−362056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述したような従来のスクリーン印刷版を用いたスクリーン印刷方法では、例えば図9に示すように、印刷物の印刷面に印刷された印刷パターン20からインク等の塗布物の一部が外側に滲み出す現象(滲出部B1)が発生することがあり、印刷精度を低下させていた。
つまり、図10に示すように、スキージ15を用いてスクリーン印刷版表面を摺動してスクリーン印刷版21に形成された開孔部21aからペースト状またはインク状の塗布物Bを印刷物5の印刷面に押し出す際に、開孔部21aの下縁と印刷面との間の隙間から塗布物Bの一部B1が外側に漏れ出してしまい、その結果、印刷面に印刷された印刷パターン20から塗布物Bの一部B1が外側に滲み出す現象が発生することがあった。なお、図10において符号2はスクリーン、符号4はスクリーンに形成された感光性乳剤層を示す。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、印刷パターンから塗布物の一部が外側に滲み出すのを防止できるスクリーン印刷版およびスクリーン印刷版の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、開孔部を有する感光性乳剤層が形成されたスクリーン印刷版において、
前記開孔部は、印刷用の塗布物が導入される側に開口する導入開孔部と、この導入開孔部に連なり、被印刷物に当接される側に開口し、印刷形状に対応する形状の印刷開孔部とからなり、
前記印刷開孔部は導入開孔部より平面視において外側にはみ出しており、かつ、深さが浅くなっていることを特徴とする。
【0007】
ここで、前記印刷開孔部の平面的な形状および面積は、印刷すべき印刷パターンと同じ形状、面積とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、スクリーン印刷版の上に、ペースト状またはインク状の塗布物を供給し、スキージを用いてスクリーン印刷版表面を摺動することによって、塗布物を導入開孔部に導入する。すると、塗布物は導入開孔部から印刷開孔部へと流入し、この印刷開孔部で平面視において外側に入り込み、被印刷物の印刷面に所望のパターンを印刷する。スキージによって導入開孔部に塗布物を流入させる圧力(印圧)は、導入開孔部では一様に伝達されるが、印刷開孔部では塗布物を平面視において外側に入り込ませるための力が必要となり、印圧はその抵抗分減衰されるので、印刷開孔部の開口縁と印刷物の印刷面との隙間から塗布物の一部が漏れ出すのを防止できる。したがって、印刷面に印刷された印刷パターンから塗布物の一部が外側に滲み出すのを防止できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスクリーン印刷版において、印刷開孔部が導入開孔部より平面視において外側にはみ出しているはみ出し長さが、5〜125μmであることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記はみ出し長さを、5〜125μmに設定したのは、はみ出し長さが5μm未満であると、印圧の減衰量が小さすぎて、印刷開孔部の開口縁と印刷物の印刷面との隙間から塗布物の一部が若干漏れ出して、印刷パターンから塗布物の一部が外側に若干滲み出てしまい、はみ出し長さが125μmを超えると、塗布物が印刷開孔部の開口縁まで達しない場合があり、そのため印刷パターンの外周縁にかすれ等が生じるからである。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、印刷開孔部が導入開孔部より平面視において外側にはみ出しているはみ出し長さを、5〜125μmに設定したので、印刷面に印刷された印刷パターンから塗布物の一部が外側に滲み出たり、印刷パターンの外周縁にかすれ等が生じるのを防止でき、よって、印刷精度をさらに高めることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のスクリーン印刷版において、感光性乳剤層が、第1感光性乳剤層に第2感光性乳剤層を積層した2層構造になっており、前記第1感光性乳剤層に導入開孔部が形成され、前記第2感光性乳剤層に印刷開孔部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、感光性乳剤層を2層構造とし、第1感光性乳剤層に導入開孔部が形成され、前記第2感光性乳剤層に印刷開孔部が形成されているので、写真製版法を利用して、導入開孔部と印刷開孔部とを容易かつ精密に形成できる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のスクリーン印刷版において、第1感光性乳剤層を形成する乳剤と、第2感光性乳剤層を形成する乳剤とにそれぞれ異なる色素が含有されていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、第1感光性乳剤層の表面はスキージ面となり、第2感光性乳剤層の表面は印刷物に当接される当接面となるが、第1感光性乳剤層と第2感光性乳剤層とが異なる色を呈するので、スクリーン印刷を行う際に、スキージ面と当接面とを容易に見分けることができる。
また、第1感光性乳剤層と第2感光性乳剤層とが異なる色を呈するので、第2感光性乳剤層に形成されている印刷開孔部が、第1感光性乳剤層に形成されている導入開孔部より平面視において外側にはみ出しているはみ出し長さの検査、測定を容易かつ確実に行うことができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載のスクリーン印刷版を製造するスクリーン印刷版の製造方法であって、
スクリーンに感光性乳剤を塗布して第1感光性乳剤層を形成した後、この第1感光性乳剤層に導入開孔部形成用マスクを被せて、露光、現像処理を行うことによって、導入開孔部を形成し、
次に、前記第1感光性乳剤層に感光性乳剤を塗布して第2感光性乳剤層を形成した後、この第2感光性乳剤層に印刷開孔部形成用マスクを被せて、露光、現像処理を行うことによって、印刷開孔部を形成することを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、第1感光性乳剤層に導入開孔部形成用マスクを被せて、露光、現像処理を行うことによって、導入開孔部を形成し、第2感光性乳剤層に印刷開孔部形成用マスクを被せて、露光、現像処理を行うことによって、印刷開孔部を形成するので、つまり写真製版法を利用しているので、導入開孔部と印刷開孔部とを容易かつ精密に形成できる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1または2に記載のスクリーン印刷版を製造するスクリーン印刷版の製造方法であって、
スクリーンに感光性乳剤を塗布して感光性乳剤層を形成した後、この感光性乳剤層に導入開孔部形成用マスクまたは印刷開孔部形成用マスクのうちのいずれか一方のマスクを被せて、レーザ光を照射して前記感光性乳剤層の一部を除去することによって、該感光性乳剤層に、導入開孔部または印刷開孔部のうちのいずれか一方の開孔部を形成し、
次に、前記一方のマスクを除去して前記感光性乳剤層に他方のマスクを被せてレーザ光を照射して前記感光性乳剤層の一部を除去することによって、該感光性乳剤層に、他方の開孔部を形成することを特徴とする。
【0019】
ここで、レーザ光としては、エキシマレーザ光やYAG第3高調波レーザ光等のスクリーン(例えばSUS製のメッシュまたは電鋳で形成された金属紗等)に対しダメージを与えない又はダメージとして軽微なレーザ光を使用し、感光性乳剤層のみを除去加工する。
また、レーザ光で感光性乳剤層の一部を除去する場合の加工深さはレーザ光の照射エネルギーを調整することにより行う。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、感光性乳剤層に、導入開孔部形成用マスクや印刷開孔部形成用マスクを被せて、レーザ光を照射して感光性乳剤層の一部を除去することによって、該感光性乳剤層に、導入開孔部および印刷開孔部を形成するので、導入開孔部と印刷開孔部とを容易かつ精密に形成できる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1または2に記載のスクリーン印刷版を製造するスクリーン印刷版の製造方法であって、
スクリーンに感光性乳剤を塗布して感光性乳剤層を形成した後、この感光性乳剤層の両方の表面にそれぞれ導入開孔部形成用マスクと印刷開孔部形成用マスクとを被せて、紫外線を照射することにより露光深さを調整して露光し、現像処理を行うことによって、前記感光性乳剤層に導入開孔部と印刷開孔部とを形成することを特徴とする。
【0022】
ここで、紫外線は、導入開孔部形成用マスクと印刷開孔部形成用マスクとにそれぞれ同時に照射してもよいし、別々に照射してもよい。
また、紫外線により露光深さを調整して露光する場合、紫外線の照射時間を調整することにより行う。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、感光性乳剤層の両方の表面にそれぞれ導入開孔部形成用マスクと印刷開孔部形成用マスクとを被せて、紫外線を照射することにより露光深さを調整して露光し、現像処理を行うことによって、感光性乳剤層に導入開孔部と印刷開孔部とを形成するので、導入開孔部と印刷開孔部とを容易かつ精密に形成できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被印刷物に当接される側に開口する印刷開孔部が、印刷用の塗布物が導入される側に開口する導入開孔部より平面視において外側にはみ出しており、かつ、深さが浅くなっているので、スキージによって導入開孔部に塗布物を流入させる圧力(印圧)は、導入開孔部では一様に伝達されるが、印刷開孔部では塗布物を平面視において外側に入り込ませるための力が必要となり、印圧はその抵抗分減衰されるので、印刷開孔部の開口縁と印刷物の印刷面との隙間から塗布物の一部が漏れ出すのを防止できる。したがって、印刷面に印刷された印刷パターンから塗布物の一部が外側に滲み出すのを防止できる。
また、写真製版法によって、第1感光性乳剤層と第2感光性乳剤層とに導入開孔部と印刷開孔部とを容易かつ精密に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係るスクリーン印刷版を示す断面図である。スクリーン印刷版1は、スクリーン(紗)2に開孔部3を有する感光性乳剤層4が形成されてなるものである。
スクリーン2は、例えばポリエステル、ナイロン、テトロン等の合成繊維やステンレスの細線からなる縦線と横線を交互に織って網目状に形成したものであり、図示しないスクリーン枠に貼り付け固定されている。なお、図1において、符号5は被印刷物を示している。また、スクリーン2を構成する縦線と横線とは例えば直径18μm程度であり、これら縦線と横線を交互に織ってなるスクリーンの厚さ(紗厚)は27μm程度となっている。さらに、スクリーン2は、縦線と横線を交互に織って網目状に形成したものの他、電鋳にて製造したものでもよい。スクリーン2のメッシュ形状としては、SUS製のメッシュの場合格子状のものが好適であり、電鋳品の場合格子状またはハニカム状のものが好適である。
【0026】
感光性乳剤層4は、例えばジアゾ系の感光性乳剤をスクリーン2に塗布し、乾燥した後、露光、現像を行うことによって形成される層状のものであり、第1感光性乳剤層6に第2感光性乳剤層7を積層した2層構造になっている。
第1感光性乳剤層6は、図2に示すように、縦線2aと横線2bとを交互に織って網目状に形成されたスクリーン2に、感光性乳剤が絡み付いて付着した構造となっており、このような第1感光性乳剤層6の厚さは、27〜32μm程度となっている。なお、第1感光性乳剤層6の厚さは、スクリーン2の厚さ(紗厚)に、乳剤厚(0〜5μm)を加えた厚さになっている。
また、第2感光性乳剤層7の厚さは2〜6μm程度となっている。また、図1に示すよに、第1感光性乳剤層6には、導入開孔部3aが形成されており、第2感光性乳剤層7には印刷開孔部3bが形成されている。
【0027】
導入開孔部3aは、印刷用のインク状またはペースト状の塗布物が導入される側(図1において上面側)に開口している。印刷開孔部3bは導入開孔部3aに連なり、被印刷物5に当接される側(図1において下面側)に開口している。印刷開孔部3bは平面視において、印刷形状(印刷パターン)と同じ形状、大きさに形成されている。
また、印刷開孔部3bは導入開孔部3aより外側にはみ出しており、かつ、深さが浅くなっている。導入開孔部3aの深さは第1感光性乳剤層6の厚さとほぼ等しく、印刷開孔部3bの深さは第2感光性乳剤層7の厚さと等しくなっている。したがって導入開孔部3aの深さは27〜32μm程度、印刷開孔部3bの深さは2〜6μm程度となっている。
【0028】
さらに、前記印刷開孔部3bが導入開孔部3aより平面視において外側にはみ出しているはみ出し長さLは、5〜125μmに設定されている。このように、はみ出し長さを、5〜125μmに設定したのは、はみ出し長さが5μm未満であると、印刷開孔部3bの開口縁と印刷物5の印刷面との隙間から塗布物が若干漏れ出して、印刷パターンから塗布物の一部が外側に若干滲み出てしまい、はみ出し長さが125μmを超えると、塗布物が印刷開孔部3aの開口縁まで達しない場合があり、そのため印刷パターンの外周縁にかすれ等が生じるからである。
上記のように、印刷開孔部3bが導入開孔部3aより平面視において外側にはみ出すことによって、印刷開孔部3bの周面と、第1感光性乳剤層6の下面と、印刷物5の印刷面との間に隙間Sが形成される。
また、第1感光性乳剤層6を形成する乳剤と、第2感光性乳剤層7を形成する乳剤とには、それぞれ異なる色素が含有されている。
【0029】
次に、上記構成のスクリーン印刷版1を製造する方法について、図3を参照して説明する。
まず、図3(a)に示すように、アルミニウム等の金属で形成されたスクリーン枠10に貼り付け固定された前記スクリーン2の印刷面に、感光性乳剤を塗布し、乾燥することによって前記第1感光性乳剤層6を形成する。なお、感光性乳剤には、適当な色の色素を含有させておく。
【0030】
次に、図3(b)に示すように、第1感光性乳剤層6に導入開孔部形成用マスク11を被せて、露光する。導入開孔部形成用マスク11には、印刷すべき印刷パターンにほぼ対応した形状の印刷パターン部11aが形成されている。この印刷パターン部11aは、非透光性を有しており、印刷パターン部11a以外の部位は透光性を有している。
したがって、導入開孔部形成用マスク11上から光を照射して第1感光性乳剤層6を露光することによって、印刷パターン部11aの下方に位置する感光性乳剤は露光せず、印刷パターン部11a以外の部位は露光して硬化する。
その後、導入開孔部形成用マスク11を剥がして、現像することによって、図3(c)に示すように、印刷パターン部11aの下方に位置する感光性乳剤は除去され、これによって、第1感光性乳剤層6に前記導入開孔部3aが形成される。この導入開孔部3aの寸法K1は、印刷すべき印刷パターンの寸法をKとすると、この寸法Kより若干小さめになっている。これは、前記印刷パターン部11aの寸法をK1とすることによって実現できる。
【0031】
次に、図3(d)に示すように、前記第1感光性乳剤層6上に、感光性乳剤を塗布して、乾燥することによって前記第2感光性乳剤層7を形成する。なお、感光性乳剤には、前記第1感光性乳剤層6とは異なる適当な色の色素を含有させておく。また、第1感光性乳剤層6上に、感光性乳剤を塗布することにより、前記導入開孔部3aに乳剤が充填される。
次に、第2感光性乳剤層7に印刷開孔部形成用マスク12を被せて、露光する。印刷開孔部形成用マスク12には、印刷すべき印刷パターンに対応した形状の印刷パターン部12aが形成されている。この印刷パターン部12aは、非透光性を有しており、印刷パターン部12a以外の部位は透光性を有している。
したがって、印刷開孔部形成用マスク12上から光を照射して第2感光性乳剤層7を露光することによって、印刷パターン部12aの下方に位置する感光性乳剤は露光せず、印刷パターン部12a以外の部位は露光して硬化する。
その後、印刷開孔部形成用マスク12を剥がして、現像することによって、図3(e)に示すように、印刷パターン部12aの下方に位置する感光性乳剤は除去され、これによって、第2感光性乳剤層7に前記印刷開孔部3bが形成される。この印刷開孔部3bの寸法K2は、印刷すべき印刷パターンの寸法をKとすると、この寸法Kと等しくなっている。つまり、前記寸法K1より若干大きくなっている。これは、前記印刷パターン部12aの寸法をK2とすることによって実現できる。
【0032】
このようにして製造されたスクリーン印刷版1では、導入開孔部3aが形成された第1感光性乳剤層6の表面(図3(e)では下面、図4では上面)がスキージ面となり、印刷開孔部3bが形成された第2感光性乳剤層7の表面(図3(e)では上面、図4では下面)が印刷物に当接される当接面となる。
そして、図4に示すように、スクリーン印刷版1のスキージ面上に、ペースト状またはインク状の塗布物Bを供給し、スキージ15を用いてスキージ面を摺動することによって、塗布物Bを導入開孔部3aに導入する。
すると、塗布物Bは導入開孔部3aから印刷開孔部3bへと流入し、この印刷開孔部3bで平面視において外側の隙間Sに入り込み、被印刷物5の印刷面に所望のパターンを印刷する。
スキージによって導入開孔部3aに塗布物を流入させる圧力(印圧)は、導入開孔部3aでは一様に伝達されるが、印刷開孔部3bでは塗布物を平面視において外側の隙間Sに入り込ませるための力が必要となり、印圧はその抵抗分減衰されるので、印刷開孔部3bの開口縁と印刷物の印刷面との隙間から塗布物Bの一部が漏れ出すのを防止できる。したがって、印刷面に印刷された印刷パターンから塗布物Bの一部が外側に滲み出すのを防止できる。
【0033】
また、印刷開孔部3bが導入開孔部3aより平面視において外側にはみ出しているはみ出し長さを、5〜125μmに設定したので、印刷面に印刷された印刷パターンから塗布物の一部が外側に滲み出たり、印刷パターンの外周縁にかすれ等が生じるのを防止でき、よって、印刷精度をさらに高めることができる。
さらに、第1感光性乳剤層6に導入開孔部形成用マスク11を被せて、露光、現像処理を行うことによって、導入開孔部3aを形成し、第2感光性乳剤層7に印刷開孔部形成用マスク12を被せて、露光、現像処理を行うことによって、印刷開孔部3bを形成するので、つまり写真製版法を利用しているので、導入開孔部3aと印刷開孔部3bとを容易かつ精密に形成できる。
加えて、第1感光性乳剤層6の表面がスキージ面となり、第2感光性乳剤層7の表面が印刷物5に当接される当接面となるが、第1感光性乳剤層6と第2感光性乳剤層7とが異なる色を呈するので、スクリーン印刷を行う際に、スキージ面と当接面とを容易に見分けることができる。
また、第1感光性乳剤層6と第2感光性乳剤層7とが異なる色を呈するので、第2感光性乳剤層7に形成されている印刷開孔部3bが、第1感光性乳剤層6に形成されている導入開孔部3aより平面視において外側にはみ出しているはみ出し長さの検査、測定を容易かつ確実に行うことができる。
【0034】
なお、本実施の形態では、感光性乳剤層4を、第1感光性乳剤層6と第2感光性乳剤層7とからなる2層構造とし、第1感光性乳剤層6に導入開孔部3aを形成し、第2感光性乳剤層7に印刷開孔部3bを形成したが、本発明はこれに限ることなく、1層構造の感光性乳剤層に、導入開孔部と印刷開孔部を形成してもよい。
【0035】
(第2の実施の形態)
図5は、本発明に係るスクリーン印刷版を示す断面図である。スクリーン印刷版31は電鋳によって形成された格子状またはハニカム状のスクリーン(紗)32に開孔部33を有する感光性乳剤層34が形成されてなるものである。
感光性乳剤層34は、例えばジアゾ系の感光性乳剤をスクリーン32に塗布し、乾燥した後、露光、現像を行うことによって形成された層状のものであり、1層構造になっている。
前記開孔部33は、印刷用の塗布物が導入される側に開口する導入開孔部33aと、この導入開孔部33aに連なり、被印刷物に当接される側に開口し、印刷形状に対応する形状の印刷開孔部33bとから構成されている。導入開孔部33aの深さは27〜32μm程度、印刷開孔部33bの深さは2〜6μm程度となっている。
また、印刷開孔部33bは導入開孔部33aより外側にはみ出しており、かつ、深さが浅くなっている。印刷開孔部33bが導入開孔部33aより平面視において外側にはみ出しているはみ出し長さLは、5〜125μmに設定されている。その理由は第1実施の形態と同様である。
【0036】
次に、上記構成のスクリーン印刷版31を製造する方法について、図6を参照して説明する。
まず、図6(a)に示すように、スクリーン32に、感光性乳剤を塗布し、乾燥し、さらに露光することによって感光性乳剤層34を形成する。
次に、図6(b)に示すように、感光性乳剤層34の印刷面に金属製の導入開孔部形成用マスク35を被せる。この導入開孔部形成用マスク35には、レーザ光を透過させる窓部35aが複数形成されている。窓部35aの平面的な大きさおよび形状は、導入開孔部33aの平面的な大きさおよび形状と等しくなっている。
そして、導入開孔部形成用マスク35上から感光性乳剤層34に、エキシマレーザ光やYAG第3高調波レーザ光等のレーザ光を照射する。すると、導入開孔部形成用マスク35の窓部35aを透過したレーザ光によって感光性乳剤層34の一部が除去されて、図6(c)に示すように、感光性乳剤層34に導入開孔部33aが形成される。なお、レーザ光による導入開孔部33aの加工深さは、レーザ光の照射エネルギーを調整することにより行う。
【0037】
次に、導入開孔部形成用マスク35を除去して、図6(d)に示すように、印刷開孔部形成用マスク36を感光性乳剤層34に被せる。この印刷開孔部形成用マスク36には、レーザ光を透過させる窓部36aが複数形成されている。窓部36aの平面的な大きさおよび形状は、印刷開孔部33bの平面的な大きさおよび形状と等しくなっている。
なお、印刷開孔部形成用マスク36を感光性乳剤層34に被せる場合、感光性乳剤層34に形成された導入開孔部33aに、印刷開孔部形成用マスク36の窓部36aが対向するように位置合わせを行う。
そして、印刷開孔部形成用マスク36上から感光性乳剤層34に、エキシマレーザ光やYAG第3高調波レーザ光等のレーザ光を照射する。すると、印刷開孔部形成用マスク36の窓部36aを透過したレーザ光によって感光性乳剤層34の一部が除去されて、感光性乳剤層34に印刷開孔部33bが形成される。なお、レーザ光による印刷開孔部33bの加工深さは、レーザ光の照射エネルギーを調整することにより行う。
【0038】
このようにして、感光性乳剤層34に、導入開孔部形成用マスク35や印刷開孔部形成用マスク36を被せて、レーザ光を照射して感光性乳剤層34の一部を除去することによって、該感光性乳剤層34に導入開孔部33aと印刷開孔部33bとを容易かつ精密に形成できる。
なお、上記の例では、感光性乳剤層34に、導入開孔部形成用マスク35を被せてレーザ光を照射した後、導入開孔部形成用マスク35を除去して、印刷開孔部形成用マスク36を感光性乳剤層34に被せてレーザ光を照射するようにしたが、これとは逆に、感光性乳剤層34に、印刷開孔部形成用マスク36を被せてレーザ光を照射した後、印刷開孔部形成用マスク36を除去して、導入開孔部形成用マスク35を感光性乳剤層34に被せてレーザ光を照射するようにしてもよい。特にYAG第3高調波レーザ光を使用する場合、スクリーン(紗)への影響を少なくするためには、まず、印刷開孔部の加工を行ってから導入開孔部の加工を行うのが望ましい。
【0039】
また、前記スクリーン印刷版31に上記のような導入開孔部33aと印刷開孔部33bを形成する場合、以下のようにして行ってもよい。
すなわちまず、図7(a)に示すように、スクリーン32に感光性乳剤を塗布して感光性乳剤層34を形成した後、この感光性乳剤層34の両方の表面にそれぞれ導入開孔部形成用マスク37と印刷開孔部形成用マスク38とを被せる。導入開孔部形成用マスク37には、紫外線を透過させる窓部37aと透過させないマスク部37bが複数形成されている。このマスク部37bの平面的な大きさおよび形状は、導入開孔部33aの平面的な大きさおよび形状と等しくなっている。また、印刷開孔部形成用マスク38には、紫外線を透過させる窓部38aと透過させないマスク部38bが複数形成されている。マスク部38bの平面的な大きさおよび形状は、印刷開孔部33bの平面的な大きさおよび形状と等しくなっている。
なお、導入開孔部形成用マスク37および印刷開孔部形成用マスク38を感光性乳剤層34の両方の表面に被せる場合、これらに形成された窓部37aおよびマスク部37bと、窓部38aおよびマスク部38bが対向するようにして位置合わせを行う。
【0040】
次に、導入開孔部形成用マスク37上および印刷開孔部形成用マスク38上から感光性乳剤層34に、紫外線を照射する。すると、導入開孔部形成用マスク37の窓部37aおよび印刷開孔部形成用マスク38の窓部38aを透過した紫外線によって、窓部37a,38aの下方に位置する感光性乳剤が露光する。この場合、紫外線の照射時間を調整することにより紫外線による露光深さを調整する。これによって、窓部37aの下方に位置する感光性乳剤が一方の表面から深さd1まで露光し、窓部38aの下方に位置する感光性乳剤が他方の表面から深さd2まで露光する。d1は27〜32μm程度、d2は2〜6μm程度である。
その後、現像処理を行うことによって、図7(b)に示すように感光性乳剤層34に導入開孔部33aと印刷開孔部33bとを形成する。
このようにして、感光性乳剤層34に導入開孔部33aと印刷開孔部33bとを容易かつ精密に形成できる。また、露光を導入開孔部形成用マスク37側および印刷開孔部形成用マスク38側の双方から同時に行うので製造時間を短縮できる。また、露光を導入開孔部形成用マスク37側および印刷開孔部形成用マスク38側の双方から別々に行ってもよい。
【0041】
なお、上記の第2の実施の形態では、スクリーン印刷版31を製造するのに、電鋳によって形成された格子状またはハニカム状のスクリーン(紗)32を使用したが、これに替えて、縦線と横線を交互に織って網目状に形成したスクリーンを使用して、上記と同様にしてスクリーン印刷版を製造してもよい。
【0042】
また、本発明のスクリーン印刷版においては、上記第1および第2の実施の形態で示すスクリーン印刷版1,31の導入開孔部3a,33aおよび印刷開孔部3b,33bの形状の他に、図8(a)〜(t)にそれぞれ示すような導入開孔部aおよび印刷開孔部bのような形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るスクリーン印刷版の一例を示すもので、該スクリーン印刷版の断面図である。
【図2】同、第1感光性乳剤層の断面図である。
【図3】本発明に係るスクリーン印刷版の製造方法の一例を示す工程図である。
【図4】本発明に係るスクリーン印刷版を用いてスクリーン印刷を行っている状態を示す断面図である。
【図5】本発明に係るスクリーン印刷版の他の例を示すもので、該スクリーン印刷版の断面図である。
【図6】本発明に係るスクリーン印刷版の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図7】本発明に係るスクリーン印刷版の製造方法の他の例を示す工程図である。
【図8】本発明に係るスクリーン印刷版の導入開孔部と印刷開孔部のバリエーションを示す概略断面図である。
【図9】従来のスクリーン印刷版を使用してスクリーン印刷した場合の印刷パターンを示す平面図である。
【図10】従来のスクリーン印刷版を用いてスクリーン印刷を行っている状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 スクリーン印刷版
2 スクリーン
3,33 開孔部
3a,33a,a 導入開孔部
3b,33b,b 印刷開孔部
4,34 感光性乳剤層
5 被印刷物
6 第1感光性乳剤層
7 第2感光性乳剤層
11,35,37 導入開孔部形成用マスク
12,36,38 印刷開孔部形成用マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーンに、開孔部を有する感光性乳剤層が形成されたスクリーン印刷版において、
前記開孔部は、印刷用の塗布物が導入される側に開口する導入開孔部と、この導入開孔部に連なり、被印刷物に当接される側に開口し、印刷形状に対応する形状の印刷開孔部とからなり、
前記印刷開孔部は導入開孔部より平面視において外側にはみ出しており、かつ、深さが浅くなっていることを特徴とするスクリーン印刷版。
【請求項2】
印刷開孔部が導入開孔部より平面視において外側にはみ出しているはみ出し長さが、5〜125μmであることを特徴とする請求項1に記載のスクリーン印刷版。
【請求項3】
感光性乳剤層が、第1感光性乳剤層に第2感光性乳剤層を積層した2層構造になっており、
前記第1感光性乳剤層に導入開孔部が形成され、前記第2感光性乳剤層に印刷開孔部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のスクリーン印刷版。
【請求項4】
第1感光性乳剤層を形成する乳剤と、第2感光性乳剤層を形成する乳剤とにそれぞれ異なる色素が含有されていることを特徴とする請求項3に記載のスクリーン印刷版。
【請求項5】
請求項3または4に記載のスクリーン印刷版を製造するスクリーン印刷版の製造方法であって、
スクリーンに感光性乳剤を塗布して第1感光性乳剤層を形成した後、この第1感光性乳剤層に導入開孔部形成用マスクを被せて、露光、現像処理を行うことによって、導入開孔部を形成し、
次に、前記第1感光性乳剤層に感光性乳剤を塗布して第2感光性乳剤層を形成した後、この第2感光性乳剤層に印刷開孔部形成用マスクを被せて、露光、現像処理を行うことによって、印刷開孔部を形成することを特徴とするスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のスクリーン印刷版を製造するスクリーン印刷版の製造方法であって、
スクリーンに感光性乳剤を塗布して感光性乳剤層を形成した後、この感光性乳剤層に導入開孔部形成用マスクまたは印刷開孔部形成用マスクのうちのいずれか一方のマスクを被せて、レーザ光を照射して前記感光性乳剤層の一部を除去することによって、該感光性乳剤層に、導入開孔部または印刷開孔部のうちのいずれか一方の開孔部を形成し、
次に、前記一方のマスクを除去して前記感光性乳剤層に他方のマスクを被せてレーザ光を照射して前記感光性乳剤層の一部を除去することによって、該感光性乳剤層に、他方の開孔部を形成することを特徴とするスクリーン印刷版の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のスクリーン印刷版を製造するスクリーン印刷版の製造方法であって、
スクリーンに感光性乳剤を塗布して感光性乳剤層を形成した後、この感光性乳剤層の両方の表面にそれぞれ導入開孔部形成用マスクと印刷開孔部形成用マスクとを被せて、紫外線を照射することにより露光深さを調整して露光し、現像処理を行うことによって、前記感光性乳剤層に導入開孔部と印刷開孔部とを形成することを特徴とするスクリーン印刷版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−327122(P2006−327122A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156749(P2005−156749)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(591245141)株式会社渕上ミクロ (26)
【Fターム(参考)】