説明

スクリーン印刷用マスク

【課題】突起物がある被印刷基板であっても、良好な密着性を維持し、適正なペースト材転写量を実現するスクリーン印刷用マスクを提供することである。
【解決手段】プリント面側の開口部の周囲に突設樹脂部が形成されているスクリーン印刷用マスクであって、該突設樹脂部が少なくとも2種以上の弾性率の異なる樹脂からなる多層構造であることを特徴とするスクリーン印刷用マスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷に使われるスクリーン印刷用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型、多機能化に伴い、電子基板の高密度化や配線パターンの微細化が進められており、電子基板への電子部品の高密度実装化が広く行われている。この電子基板への電子部品の高密度実装化においては、電子基板面に電子部品を実装するためにクリーム半田を印刷し、半田端子に電子部品を搭載した後にリフロー炉で加熱して半田付けを行う。上記クリーム半田の印刷方法としては、スクリーン印刷による工程が広く用いられている。一般的に、スクリーン印刷は、パターン状に複数の開口部が形成されたスクリーン印刷用マスクを印刷すべき被印刷基板の上面にセットし、スクリーン印刷用マスク上にクリーム半田等のペースト材を供給してスキージによって掻き寄せることによって、ペースト材を開口部を通してパターン状に転写印刷する方法である。スクリーン印刷用マスクのスキージと接触する面をスキージ面、被印刷基板と接触する面をプリント面と称する。
【0003】
印刷パターンが高密度かつ高精細となってくると、スクリーン印刷用マスクと被印刷基板との密着性が重要となってくる。スクリーン印刷用マスクと被印刷基板との間に隙間が生ずると、印刷時にペースト材が開口パターンからはみ出して滲みが発生することになる。図6は、スクリーン印刷の工程において、良好に印刷が行われた場合を示す概念図である。図7は、スクリーン印刷の工程において、被印刷基板の凹凸による密着性不良によって、滲みが発生した場合を示す概念図である。図6と図7において、(a)が印刷時の状態で、被印刷基板5の上にスクリーン印刷用マスク1を重ね、その上にペースト材8をのせてからスキージ7で掻き寄せることにより、スクリーン印刷用マスク1の開口部を通して、ペースト材8を被印刷基板5上へ転写印刷させている。図6(b)では、被印刷基板5の表面の平滑性が良いため、開口部2に充填されたペースト材8がそのまま転写されており、良好な印刷が行われている。図7(b)では、被印刷基板5の表面の平滑性が悪いため、ペースト材8の滲みが発生してしまっている。このように、滲みが発生すると、隣り合うパターン同士でブリッジ短絡等の欠陥が発生する可能性が増し、良好な品質の印刷ができない結果となる。
【0004】
この密着性の問題を改善する目的で、メタルマスクの開口周縁に、エッチング、めっき、スパッタリング等によって、隆起部を形成したスクリーン印刷用マスクが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ただし、隆起部が金属層であるため、柔軟性に劣り、充分な密着性を得るのには限界があった。
【0005】
密着性を改善する他の方法として、スクリーン印刷用マスクの被印刷基板との接触面に樹脂層を形成した樹脂付きスクリーン印刷用マスクが提案されている(例えば、特許文献2〜3参照)。樹脂付きスクリーン印刷用マスクを用いたスクリーン印刷の工程を図8に示す。図8(a)に示すように、スクリーン印刷用マスク1の被印刷基板5との接触面に樹脂層3が設けられているために、表面の平滑性が悪い被印刷基板5に対しても、樹脂付きスクリーン印刷用マスク4が密着し、ペースト材8の滲みを防いでいる。そのため、良好なペースト材8の転写印刷が可能となっている(図8(b))。
【0006】
しかし、被印刷基板には平滑性の問題とは別に、図9に示すような突起物9がある場合がある。電子基板の場合では、ソルダーレジストやシンボル印刷のパターンがこれらの突起物9となる。このような突起物9がある場合では、上記のような樹脂付きスクリーン印刷用マスクを用いても、図9(a)に示すように、スキージ圧70をかけると、被印刷基板5と樹脂付きスクリーン印刷用マスクの樹脂層3との間に隙間40が空いてしまい、良好な印刷が不可能となる。
【0007】
また、この場合には、樹脂層3の弾性率を低く構成することで、図9(b)に示すように突起物9を樹脂層3が包み込み、良好な密着性を維持することは可能である。しかし、この場合には、樹脂層3が低弾性率であるが故に、樹脂層3が押しつぶされ、図9(b)において、Xで示す開口部では開口部の厚みXhが、適正な開口部Yの厚みYhに比べ減少してしまう。開口部の厚みが減少すると、適正量のペースト材の転写が行われずに転写量不足が発生してしまうこととなる。
【0008】
以上のように、突起物がある被印刷基板へのペースト材の印刷に対して、被印刷基板との密着性を維持し、かつ適正なペースト材転写量を実現するようなスクリーン印刷用マスクはこれまでのところ得られていなかった。
【特許文献1】実開平5−72456号公報
【特許文献2】特開平9−315026号公報
【特許文献3】特開2001−113667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、突起物がある被印刷基板であっても、良好な密着性を維持し、適正なペースト材転写量を実現するスクリーン印刷用マスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、
(1)プリント面側の開口部の周囲に突設樹脂部が形成されているスクリーン印刷用マスクであって、該突設樹脂部が少なくとも2種以上の弾性率の異なる樹脂からなる多層構造であることを特徴とするスクリーン印刷用マスクを見出した。
【0011】
(2)また、突設樹脂部において、被印刷基板に接する層の樹脂の弾性率が最も低い(1)記載のスクリーン印刷用マスクを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスクリーン印刷用マスクは、プリント面側の開口部の周囲に突設樹脂部が形成されているスクリーン印刷用マスクであって、該突設樹脂部が少なくとも2種以上の弾性率の異なる樹脂からなる多層構造であるスクリーン印刷用マスクである。開口部の周囲に突設樹脂部があることによって、被印刷基板の突起物との接触を回避し、この突起物によって、被印刷基板との密着性を阻害されることがない。
【0013】
2種以上の弾性率の異なる樹脂のうち、高弾性率の樹脂によって、スキージの印圧の高低によらずに、開口部の形状が適正に維持され、常に適正なペースト材の転写量を実現できる。また、2種以上の弾性率の異なる樹脂のうち低弾性率の樹脂によって、被印刷基板の平滑性の悪さを吸収し、良好な密着性を維持し、にじみのない良好な印刷品質の実現が可能となる。
【0014】
また、突設樹脂部において、被印刷基板に接する層の樹脂の弾性率を最も低くすることにより、被印刷基板の微細な凹凸にも良好に追従し、密着性が良好に維持され、更に高い印刷品質の実現が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のスクリーン印刷用マスクについて詳細に説明する。電子基板上へのクリーム半田等のペースト材のスクリーン印刷を例に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0016】
本発明のスクリーン印刷用マスクは、プリント面側の開口部の周囲に突設樹脂部が形成されているスクリーン印刷用マスクであって、該突設樹脂部が少なくとも2種以上の弾性率の異なる樹脂からなる多層構造である。
【0017】
スクリーン印刷用マスクとしては、片面にペースト材をのせ、スキージで掻き寄せることでペースト材を被印刷基板に転写することができるものであれば、エマルジョン型スクリーン印刷用マスク、ソリッドマスク、サスペンドマスク、メタルマスク(エッチング法、レーザ法、アディティブ法、機械加工法)等、いずれのものも使用可能である。
【0018】
また、スクリーン印刷用マスクの開口部のパターンについても特に制限はなく、例えば、円形、楕円形、正方形、長方形、菱形、台形等の四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形、その他、ひょうたん形、ダンベル形等の不定形等が挙げられる。
【0019】
図1に本発明のスクリーン印刷用マスクの一例を示す。突設樹脂部50は、スクリーン印刷用マスク1のプリント面側の開口部2周囲に形成されていて、他の部位(平坦部60)よりも突出した隆起部である。
【0020】
突設樹脂部の幅Wp及び高さDpは、印刷を行う被印刷基板に存在する突起物の状況により調整するが、Wpとしては、5〜200μmの範囲が好ましい。5μm未満であると、機械的な強度が弱くなる場合があり、200μmを超えると、突設樹脂部による密着の効果が低くなる場合がある。また、突設樹脂部の高さDpは、被印刷基板上の突起物の高さと同程度か、もしくは、突起物の高さよりも高く設定することが好ましい。通常、5〜200μmが好適であり、アスペクト比で示すと(高さDp/幅)で0.05〜20が好適である。アスペクト比が低すぎると、突設樹脂部による密着の効果が低くなる場合があり、アスペクト比が高すぎると、機械的強度が弱くなる場合がある。
【0021】
突設樹脂部50は、2種以上の弾性率の異なる樹脂からなる多層構造である。図1では、弾性率Aの樹脂50Aと弾性率Bの樹脂50Bからなる2層構造である。それぞれの樹脂の高さは、求められるペースト材の転写量の精度及び被印刷基板の平滑性によって変わってくる。ペースト材の転写量の精度が求められる場合は、低弾性率の樹脂の高さを低くする必要があり、好ましくは突設樹脂部の高さDpに対して1%から40%の範囲である。また、密着性がより求められる場合は10〜80%の範囲が好ましい。
【0022】
突設樹脂部形状及び材質は、スクリーン印刷用マスクのパターン形状、求められる品質、印刷条件等の制約によって選定される。突設樹脂部の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルブチラール等のビニルアセタール樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン及びその塩化物、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンイソフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル変性アルキッド樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエステル誘導体等の樹脂等を使用することができる。また、特に低弾性率の樹脂としては、シリコーン樹脂やウレタンゴム、フッ素ゴム等の各種ゴム材料を好適に用いることができる。
【0023】
突設樹脂部の樹脂の弾性率の値は、被印刷基板の平滑性や印刷すべきパターン、ペーストの種類、被印刷基板の大きさ、スキージ種類、その他スクリーン印刷条件によって最適な値は異なるが、好ましくは、最も高弾性率の樹脂の体積弾性率と低弾性率の樹脂の体積弾性率の比が10以上、より好ましくは100以上である弾性率の異なる樹脂層を用いる。具体的な体積弾性率の値としては、高弾性率の樹脂としては、体積弾性率の値が1MPa以上100GPa以下、低弾性率の樹脂としては、体積弾性率の値が10kPa以上1GPa以下である樹脂をそれぞれ用いることが好ましい。
【0024】
また、被印刷基板に接する層の樹脂の弾性率を最も低くすることが好ましい。図1では、樹脂層50Bの弾性率を最も低い値とすることで、樹脂層50Bが接する被印刷基板領域の表面に微細な凹凸があったとしても、樹脂層50Bの表面の形状が変化して被印刷基板の表面形状に追従し、被印刷基板との密着性が良好に維持される。特にペースト材にフラックス等の低粘度成分が含まれ、その低粘度成分の滲みだしも防ぐ必要がある場合には、特に有効である。
【0025】
本発明のスクリーン印刷用マスクは、開口部を有するスクリーン印刷用マスクに突設樹脂部を形成しても良いし、開口部のないスクリーン印刷用マスクの基材に突設樹脂部を形成した後に、開口処理を施すこともできる。
【0026】
また、突設樹脂部の形成方法に関しては、各種印刷法(スクリーン印刷法、凸版、凹版、平版印刷等)および塗工法(ロール塗工、ディップ塗工、スプレー塗工、スピン塗工、グラビア塗工等)およびラミネート法を利用して、スクリーン印刷用マスクの全面に樹脂層を形成した後に、フォトリソグラフィ法等の手段で開口部周囲にのみ樹脂層を残して突設樹脂部を形成することができる。また、フォトリソグラフィ法によらずに、初めから、開口部周囲のみに樹脂層を形成して突設樹脂部を形成することもできる。この場合は、突設樹脂部を形成するパターンに対応した版もしくは印刷用マスクを用いて、開口部周囲にのみ樹脂層を形成しても良い。また、版を用いずにインクジェット等の手段により直接樹脂層を形成することもできる。
【0027】
より具体的には、開口部を有するスクリーン印刷用マスクにインクジェット、スクリーン印刷等の手段により直接突設樹脂部を形成する方法や、開口処理をする前のスクリーン印刷用マスクの基材に直接突設樹脂層を形成した後に、スクリーン印刷用マスクの開口処理を行う方法、または、開口部を有するスクリーン印刷用マスクのプリント面に樹脂層を形成した後、平坦部の樹脂層の除去を行って突設樹脂部の形成を行う方法や、開口処理をする前のスクリーン印刷用マスクの基材のプリント面に樹脂層を形成した後に、突設樹脂部の形成を行い、続いて、スクリーン印刷用マスクの開口処理を行う方法がある。また、突設樹脂部の形成を行う前にスクリーン印刷用マスクの開口処理を行うこともできる。
【0028】
いずれの場合においても、多層構造は逐次形成することもできるし、一括で形成することもできる。図1に示した二層構造の突設樹脂部50の形成方法を例にすると、樹脂50Aを形成した後に、樹脂50Bを積層しても良いし、あらかじめ樹脂50Aと樹脂50Bの積層構造を形成しておいてから、スクリーン印刷用マスクに一括で突設樹脂部50を形成しても良い。
【0029】
より高精細かつ高密度なパターンの印刷を行う際には、突設樹脂部の位置ずれを最小限に押さえることのできるセルフアライメントでの突設樹脂部の形成が好ましい。セルフアライメントでの突設樹脂部の形成とは、別途パターンを記録したフォトマスクやパターンデータを利用することなく、位置合わせ作業なく、突設樹脂部を開口部周囲の所望の位置に精度良く形成することである。
【0030】
セルフアライメントで突設樹脂部を形成する方法の一例を図2を用いて説明する。まず、開口部2を有するスクリーン印刷用マスク1を公知の方法にて作製する(図2(a))。次に、樹脂層3をラミネートによりプリント面に形成する(図2(b))。次いで、開口部2の樹脂層3を除去する(図2(c))。続いて、スキージ面側より硬化処理20を行って、開口部周囲の樹脂層3の硬化を行う(図2(d))。硬化処理20は、硬化のエネルギーの流れもしくは硬化反応物質の流れを矢印で示している。硬化部22は、硬化処理によって硬化した樹脂層を表す。続いて、未硬化部23の除去をおこなって、硬化部22からなる突設樹脂部50Aが形成されたスクリーン印刷用マスク1が作製される(図2(e))。また、この際、未硬化部23の除去を途中まで行って、未硬化部23が平坦部60に残った状態で、突設樹脂部50Aを形成しても良い(図2(f))。樹脂層3を多層構造にして、一括に突設樹脂部を形成しても良いし、この工程を異なる樹脂層3を用いて繰り返すことで多層構造の突設樹脂部を形成することができる。
【0031】
樹脂層のラミネートとは、すでにシート状に形成されている樹脂層シートを熱圧着させる工程である。密着性が確保され、かつ、熱や圧力によってスクリーン印刷用マスクに歪みが発生することがなく、均一な厚みでのラミネートができるのであれば、いずれの方法でも使用可能である。好ましくは、熱ロールを用いてラミネートを行う。温度は、40〜150℃、より好ましくは、60〜120℃である。圧力は、熱ロールでのラミネートの場合には、線圧力で、1〜100N/cmの範囲、より好ましくは5〜50N/cmの範囲である。このラミネート工程により、開口部を有するスクリーン印刷用マスクのプリント面に厚みの均一な樹脂層を良好に形成することが可能となる。
【0032】
開口部の樹脂層は位置合わせの作業を必要としないセルフアライメントで除去されるのが好ましい。具体的には、開口部を有するスクリーン印刷用マスクの開口部形状を基準として、ラミネートした樹脂層の開口部の除去を行う。除去方法としては、炭酸ガスレーザをスキージ面から当てる乾式処理や樹脂層除去液による湿式処理が用いられる。スクリーン印刷用マスクの板厚、寸法の大小にかかわらず、良好かつ均一に高い生産性で樹脂層の除去を行うことができる湿式処理が好適に用いられる。
【0033】
開口部の樹脂層をセルフアライメントで除去する方法を図3で説明する。開口部2を有するスクリーン印刷用マスク1(図3(a))に樹脂層3をラミネートにより形成した後(図3(b))、スキージ面側から樹脂層除去液を供給して開口部2の樹脂層3を除去する(図3(c))。樹脂層除去液の供給に先立って、樹脂層3のプリント面側にはマスキング層31を設ける必要があり、開口部以外の領域の樹脂層3は、マスキング層31があるために除去されることはない。続いて、マスキング層31を除去することで、開口部を有するスクリーン印刷用マスクのプリント面に、位置ずれなく樹脂層が形成される(図3(d))。
【0034】
マスキング層31は、樹脂層3をラミネートした後に形成することもできるが、あらかじめ、樹脂層3と一体として形成しておき、ラミネートによって、樹脂層3と共にスクリーン印刷用マスク1に熱圧着する方法が、生産性の点からも好ましい。
【0035】
また、開口部の樹脂層をセルフアライメントで除去する別の方法を図4で説明する。開口部2を有するスクリーン印刷用マスク1(図4(a))に樹脂層3をラミネートにより形成した後(図4(b))、開口部2の樹脂層3を薄膜化させる(図4(c))。次に樹脂層除去液を供給して、薄膜化された開口部2の樹脂層3の除去を行う(図4(d))。
【0036】
樹脂層の薄膜化は、熱処理、加圧処理、減圧処理等によって行うことができる。熱処理の場合では、樹脂層の種類にもよるが40〜150℃、より好ましくは60〜120℃で処理を行う。また、熱処理で薄膜化を行う際に、スキージ面にも樹脂層やマスキングテープ等をラミネートして、開口部内の空気を密閉状態とし、その空気の熱膨張を利用して、開口部の樹脂層を薄膜化することもできる。開口部の樹脂層の膜厚を薄くした後に樹脂層除去液による処理を行うことで、開口部の樹脂層を除去することができる。樹脂層除去液は、プリント面から供給しても良いし、スキージ面から供給しても良い。また、処理条件を選ぶと、開口部の樹脂層を除去した段階(図4(d))で、開口部周囲に突設樹脂部50を形成することもできる。
【0037】
突設樹脂部の形成は、開口部の樹脂層の除去を行った後、スキージ面側より硬化処理を行って開口部周囲の樹脂層を硬化する。その後、未硬化の樹脂層の除去を行うことで、硬化部からなる突設樹脂部が形成される。硬化処理は、熱線照射、光照射、薬液注入、ガス注入等の手段を利用できる。
【0038】
樹脂層を光架橋性樹脂として、硬化処理を光照射処理とする方法が処理工程が簡略で、効果処理幅のコントロールが容易という点で、好適に用いられる。光照射条件(波長、照度、エネルギー、照射時間、照射角度、散乱光/平行光の別等)やプリント面側に反射板、散乱板等を設置する場合/しない場合によって、硬化領域や硬化状態をコントロールすることができ、所望の形状の突設樹脂部を形成することができる。
【0039】
また、他のセルフアライメントによる突設樹脂部の形成方法として、スクリーン印刷用マスクに荷電樹脂粒子を電着して突設樹脂部を形成する方法も好適に用いられる。スクリーン印刷用マスクのプリント面に対向するように現像電極を設置し、スクリーン印刷用マスクのプリント面と現像電極との間に荷電樹脂粒子を分散させた液を充填し、適正な電界を現像電極とスクリーン印刷用マスクとの間に印加することで、荷電樹脂粒子をスクリーン印刷用マスクのプリント面に電着させる。図5(a)に電着前のスクリーン印刷用マスク、図5(b)に電着後の突設樹脂部が形成されたスクリーン印刷用マスクを示す。この際、開口部周囲以外(開口部内壁やプリント面やスキージ面)にも電着が行われるが、電着条件(荷電樹脂粒子の電荷及び印加電圧、処理時間、樹脂粒子分散液供給量等)を制御することで、特に開口部の周囲に多くの荷電樹脂粒子を電着させることができる。電着によって付着した荷電樹脂粒子は、加熱、圧力、光、溶剤等によって定着されて、電着樹脂層32となる。開口部2の周囲に過剰に付着した電着樹脂層32が突設樹脂部50を形成する。なお、スキージ面への荷電樹脂粒子の付着は不要であるため、スキージ面にあらかじめマスキングテープを接着させてから電着を行っても良い。この工程を異なる樹脂成分の荷電樹脂粒子を用いて繰り返すことで多層構造を形成することができる。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
板厚80μmのステンレス板(SUS304)に、YAGレーザで開口径100μmの円形開口部を複数形成し、スクリーン印刷用マスクとして、レーザ法によるメタルマスクを作製した。このメタルマスクにラミネータを用いて、アクリル系樹脂からなる光架橋性樹脂のシート(膜厚20μm)及び25μmのマスキング層(支持体フィルム、材質:ポリエステル)で形成された樹脂フィルムをメタルマスクのプリント面に熱圧着し、樹脂層及びマスキング層(支持体フィルム)を形成した。
【0041】
次に、樹脂層除去液として、2種類の液(樹脂層除去液A及び樹脂層除去液B)を用いて、樹脂層の除去を行った。樹脂層除去液Aとして、10質量%炭酸ナトリウム水溶液(25℃)を、樹脂層除去液Bとして水を、それぞれシャワースプレーでメタルマスクのスキージ面側より当てて、開口部の樹脂層の除去を行った。その後、マスキング層の除去を行った。続いて、プリント面に反射板(鏡)を重ね、吸引密着機構を有する焼付用高圧水銀灯光源装置(ユニレックURM300、ウシオ電機社製、露光量:12mW/cm2)を用いて、スキージ面側から5分間紫外線を照射し、開口部周囲の樹脂層を硬化させた。
【0042】
次に反射板を取り除き、1質量%炭酸ナトリウム水溶液(30℃)で処理を行って、開口部周囲以外の未硬化部の樹脂層の除去を完全に行い、突設樹脂部(高弾性率樹脂層)が形成されたスクリーン印刷用マスクを得た。その後、紫外線処理(2J/cm2)及び加熱処理(150℃1時間)を行った。樹脂層の弾性率は1GPaであった。
【0043】
突設樹脂部(高弾性率樹脂層)が形成されたメタルマスクのプリント面に、シリコーン樹脂をロール転写印刷を行い、突設樹脂部の頂部に3μmのシリコーン樹脂層(低弾性率樹脂層)の形成を行った。突設樹脂部50の高さDpは23μmであり、位置ずれは見られなかった。シリコーン樹脂層の弾性率は20MPaであった。
【0044】
突設樹脂部が形成されたスクリーン印刷用マスクを用いて、15μmの厚みのシンボル印刷が施された被印刷基板にスクリーン印刷を行ったところ、滲みの発生は見られなかった。転写されたペースト材の形状も良好な形状を維持していた。ペースト材の抜け性も良好であった。
【0045】
(実施例2)
板厚75μmのステンレス板(SUS304)に、YAGレーザで開口径120μmの円形開口部を複数形成し、スクリーン印刷用マスクとして、レーザ法によるメタルマスクを作製した。このメタルマスクのプリント面となる側にシリコーン樹脂のコーティングを行った。膜厚は5μmであった。次にメタルマスクのスキージ面より炭酸ガスレーザを照射し、開口部を覆っていたシリコーン樹脂層の除去を行った。続いて、プリント面側から、開口部周辺以外の領域に炭酸ガスレーザをパターン状に照射し、平坦部のシリコーン樹脂層の除去を行った。シリコーン樹脂層の弾性率は20MPaであった。
【0046】
続いて、光架橋性樹脂からなる樹脂層(膜厚20μm)及び25μmのマスキング層(支持体フィルム、材質:ポリエステル)で形成された樹脂フィルムをメタルマスクのプリント面に熱圧着し、樹脂層及びマスキング層(支持体フィルム)を形成した。
【0047】
次に、樹脂層除去液として、2種類の液(樹脂層除去液A及び樹脂層除去液B)を用いて、樹脂層の除去を行った。樹脂層除去液Aとして、10質量%炭酸ナトリウム水溶液(25℃)を、樹脂層除去液Bとして水を、それぞれシャワースプレーでメタルマスクのスキージ面側より当てて、開口部の樹脂層の除去を行った。その後、マスキング層の除去を行った。
【0048】
続いて、プリント面に反射板(鏡)を重ね、吸引密着機構を有する焼付用高圧水銀灯光源装置(ユニレックURM300、ウシオ電機社製、露光量:12mW/cm2)を用いて、スキージ面側から5分間紫外線を照射し、開口部周囲の樹脂層を硬化させた。
【0049】
次に反射板を取り除き、1質量%炭酸ナトリウム水溶液(30℃)で処理を行って、開口部周囲以外の未硬化部の樹脂層の除去を完全に行い、突設樹脂部が形成されたスクリーン印刷用マスクを得た。その後、紫外線処理(2J/cm2)及び加熱処理(150℃1時間)を行った。
【0050】
突設樹脂部が形成されたスクリーン印刷用マスクの開口部を顕微鏡にて観察した結果、突設樹脂部50の幅Wpは均一に20μmとなっており、突設樹脂部50の高さDpは20μmであり、位置ずれは見られなかった。この後に形成した樹脂層のみの弾性率を測定したところ、1GPaであった。
【0051】
突設樹脂部が形成されたスクリーン印刷用マスクを用いて、15μmの厚みのシンボル印刷が施された被印刷基板にスクリーン印刷を行ったところ、滲みの発生は見られなかった。転写されたペースト材の形状も良好な形状を維持していた。ペースト材の抜け性も良好であった。ただし、ペースト材に含まれるフラックス成分(液体成分)の広がりが実施例1の結果よりは広がっているのが見られたが、全く問題となるレベルではなかった。
【0052】
(比較例)
板厚50μmのステンレス板(SUS304)にYAGレーザで開口径100μmの円形開口部を複数形成し、スクリーン印刷用マスクとした。また、50μmの厚みのシリコンゴムシートを準備し、スクリーン印刷用マスクの開口部のパターンと同様のパターンの開口部をシリコンゴムシートに形成した。このスクリーン印刷用マスクのプリント面にシリコンゴムシートを開口部の位置ができるだけ合うように接着剤で貼り付けて、樹脂付きのスクリーン印刷用マスクを準備した。
【0053】
突設樹脂部が形成されたスクリーン印刷用マスクを用いて、15μmの厚みのシンボル印刷が施された被印刷基板にスクリーン印刷を行ったところ、シンボル印刷の近傍において滲みの発生は見られ良好な印刷が行われなかった。また、スキージの印圧を上げて印刷を行うと、シンボル印刷の近傍に於ける滲みの発生は軽減する傾向であったが、シンボル印刷から離れた箇所の転写量不足が発生し、良好な印刷を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のスクリーン印刷用マスクは、広範なスクリーン印刷の用途に適用可能であり、例えば、ペースト材としては、導電性材料、絶縁性材料、色材、封止材料、接着材料、レジスト材料、処理薬剤等を、スクリーン印刷によって任意の基材上にパターン形成を行う用途に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のスクリーン印刷用マスクを表す断面図。
【図2】本発明のスクリーン印刷用マスクを作製する方法の説明図。
【図3】本発明のスクリーン印刷用マスクを作製する方法の説明図。
【図4】本発明のスクリーン印刷用マスクを作製する方法の説明図。
【図5】本発明のスクリーン印刷用マスクを作製する方法の説明図。
【図6】スクリーン印刷の工程を表す断面図。
【図7】スクリーン印刷の工程を表す断面図。
【図8】スクリーン印刷の工程を表す断面図。
【図9】スクリーン印刷の工程を表す断面図。
【符号の説明】
【0056】
1 スクリーン印刷用マスク
2 開口部
3 樹脂層
4 樹脂付きスクリーン印刷用マスク
5 被印刷基板
7 スキージ
8 ペースト材
9 突起物
20 硬化処理
22 樹脂層の硬化部
23 樹脂層の未硬化部
31 マスキング層
32 電着樹脂層
40 隙間
50 突設樹脂部
50A 弾性率Aの樹脂
50B 弾性率Bの樹脂
51 突設樹脂部の頂部
60 平坦部
70 スキージ圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント面側の開口部の周囲に突設樹脂部が形成されているスクリーン印刷用マスクであって、該突設樹脂部が少なくとも2種以上の弾性率の異なる樹脂からなる多層構造であることを特徴とするスクリーン印刷用マスク。
【請求項2】
突設樹脂部において、被印刷基板に接する層の樹脂の弾性率が最も低い請求項1記載のスクリーン印刷用マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−241301(P2009−241301A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88370(P2008−88370)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】