説明

スクロール圧縮機及びそのスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置

【課題】吐出バイパスと液インジェクションに用いるポートが可能な限り簡素に形成され、製造コストの低減が可能なスクロール圧縮機及びそのスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】高圧縮比の定格条件のときに適正となる内部容積比に設定され、固定渦巻歯31b及び揺動渦巻歯のそれぞれを2.5巻以上の巻数で構成し、固定スクロール31の台板31aにおいて、固定渦巻歯31bの外向面側の伸開始点から伸開角略2πの位置と、固定渦巻歯31bの内向面側の伸開始点から伸開角略2πの位置とにそれぞれ共用ポート35を設けた。この共用ポートを、高圧縮比条件では液インジェクションポートとして用い、低圧縮比条件では吐出バイパスポートとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍・空調用途に用いられるスクロール型の圧縮機及びそのスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型の圧縮機においては、渦巻仕様により内部容積比(組込容積比)が決まる。実際の圧縮比が内部容積比に見合う適正圧縮比の運転条件では、不適正圧縮損失は生じないが、より低圧縮比の条件では過圧縮損失が生じ、また、高圧縮比の条件では不足圧縮損失を生じる。このため、通常は定格条件又は運転頻度、時間などから最も重視すべき運転条件に合わせた内部容積比の渦巻仕様を選択することが多い。
【0003】
また、高圧縮比の運転条件のときには、圧縮後の吐出ガスが限度を超えて高温になるのを防ぐため、圧縮室内に液冷媒をインジェクションするのが普通である。液インジェクション時に過圧縮が生じることを想定し、圧縮室に液冷媒を注入する液インジェクションポートと、圧縮室内の圧力が一定圧力以上の時に吐出空間に放出する吐出バイパスポートを設け、吐出バイパスと液インジェクションを併用できるようにした例がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−097418号公報(第6頁、第7頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のスクロール圧縮機においては、液インジェクションポートと吐出バイパスポートとを固定スクロール台板に別々に設けるようにしている。このため、各ポートそれぞれに配管接続が必要となるなど、構造が複雑で製造コストの上昇を避けられなかった。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、吐出バイパスと液インジェクションに用いるポートが簡素に形成され、製造コストの低減が可能なスクロール圧縮機及びそのスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスクロール圧縮機は、インボリュート曲線に基づいた固定渦巻歯を台板上に立設してなる固定スクロールと、インボリュート曲線に基づいた揺動渦巻歯を台板上に立設してなり、固定スクロールと噛み合わされて圧縮室を形成する揺動スクロールと、固定スクロール及び揺動スクロールを内部に収容する密閉容器とを備え、圧縮室は高圧縮比の定格条件のときに適正となる内部容積比に設定され、固定渦巻歯及び揺動渦巻歯のそれぞれを2.5巻以上の巻数で構成し、固定スクロールの台板において、固定渦巻歯の外向面側の伸開始点から伸開角略2πの位置と、固定渦巻歯の内向面側の伸開始点から伸開角略2πの位置とのそれぞれに共用ポートを設けると共に、密閉容器を外部から貫通して共用ポートに接続される共用管を設け、共用ポートを、高圧縮比条件の運転時には、圧縮室内に液冷媒を注入する液インジェクション用として使用し、低圧縮比条件の運転時には、圧縮室内の過圧縮冷媒を圧縮室から放出する吐出バイパス用として使用するものである。
【0008】
本発明に係る冷凍サイクル装置は、上記のスクロール圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを備え、これらが順次配管で接続されて冷媒が循環するように構成され、共用管は、インジェクション量調整弁を有するインジェクション配管を介して凝縮器と膨張弁との間に接続されると共に、圧縮室内が過圧縮の場合のみ過圧縮冷媒を流通させる逆止弁を有する吐出バイパス配管を介してスクロール圧縮機と凝縮器との間に接続されているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、固定スクロール及び揺動スクロールとの噛み合いによって構成される圧縮室を高圧縮比の定格条件のときに適正となる内部容積比に設定し、固定渦巻歯及び揺動渦巻歯のそれぞれを2.5巻以上の巻数で構成した。そして、固定スクロールの台板に、運転条件によって液インジェクション用又は吐出バイパス用として使い分ける共用ポートを、固定渦巻歯の外向面側及び内向面側のそれぞれの伸開始点から伸開角略2πの位置に設けた。これにより、液インジェクションポートと吐出バイパスポートとをそれぞれ別々に加工する必要がないため、構造が簡素で低コストのスクロール圧縮機及びそのスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機の概略縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機が用いられる冷凍サイクルを示す回路構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機の圧縮行程を示す渦巻の動作図である。
【図4】図1の固定スクロールの概略平面図で、共用ポートの位置説明図である。
【図5】一つの圧縮室の吸入完了から吐出完了までの容積変化に基づき断熱圧縮を仮定し、吐出バイパスしない場合の室内圧力Pを回転角ψに対して表したP−ψのグラフである。
【図6】本発明の実施の形態2によるスクロール圧縮機のポート開口部付近の詳細を示す渦巻平面形状拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機の構造を示す概略断面図である。図1及び後述の各図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。更に、明細書全文に表れている構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
スクロール圧縮機1は、密閉容器10内にモータ20と圧縮機構30とが配置されており、このモータ20と圧縮機構30とは、モータ20の発生する回転力を圧縮機構30に伝達する軸40によって連結されている。
【0012】
また、密閉容器10の側面にはガスを吸入するための吸入管11が設けられ、密閉容器10の上面には圧縮したガスを吐出するための吐出管12が設けられている。また、密閉容器10の側面には、密閉容器10を貫通して後述の共用ポート35に接続される共用管13が設けられている。
【0013】
モータ20は、リング状に形成されたステータ21と、このステータ21の内部で回転し得るように支持されたロータ22とを備えている。密閉容器10内には、モータ20を挟んで対向するようにフレーム50及び副フレーム52が密閉容器10に固定して設けられており、フレーム50及び副フレーム52の中央に設けた主軸受部51及び副軸受部53に軸40が回転自在に支持されている。
【0014】
圧縮機構30は、固定スクロール31と揺動スクロール41とを備えている。固定スクロール31は、台板31aの一方の面にインボリュート曲線に基づいた固定渦巻歯31bを立設した構成を有し、密閉容器10に固定されたフレーム50にボルト(図示せず)等により固定されている。台板31aの中央部には後述の圧縮室に連通する吐出口32と、吐出口32の吐出側を塞ぐ吐出弁33を備えた吐出室34とが設けられている。固定スクロール31の台板31aには更に、高圧縮比条件時には液インジェクション用として用いられ、低圧縮比条件時には吐出バイパス用として用いられる共用ポート35が2箇所に設けられている。共用ポート35の配置位置については後述する。共用ポート35は共用管13により密閉容器10の外の冷媒回路に連通している。
【0015】
揺動スクロール41は、台板41aの一方の面にインボリュート曲線に基づいた揺動渦巻歯41bを立設した構成を有している。揺動スクロール41の揺動渦巻歯41bと固定スクロール31の固定渦巻歯31bとが噛み合い、両者の間に圧縮室を形成している。固定渦巻歯31b及び揺動渦巻歯41bはどちらも、本例では2.5巻以上の巻数を有している。この理由については後述する。
【0016】
揺動スクロール41は、その中央に形成された揺動軸受部42が軸40の一端に形成されたクランク(偏心)部によって支持され、揺動運動できるようになっている。また、揺動スクロール41と固定スクロール31の間にはオルダムリング43が配置され、揺動スクロール41の自転を防止し、姿勢を規正している。また、揺動スクロール41が揺動運動することによって発生する遠心力を相殺するために、軸40の両端側にバランサ54、55が取り付けられている。軸40の他端は、密閉容器10内に貯留されている潤滑油14中に浸漬されている。軸40の他端にはポンプが設けられ、潤滑油14を後述の各軸受部に供給する。
【0017】
図1において、ステータ21に電力が供給されると、ロータ22がトルクを発生し軸40が回転する。軸40の回転により、揺動スクロール41がオルダムリング43により自転を規制されて揺動運動する。吸入管11から密閉容器10内に吸入された冷媒ガスは、固定スクロール31の固定渦巻歯31bと揺動スクロール41の揺動渦巻歯41b間に形成された複数の圧縮室のうち外周部の圧縮室に取り込まれる。そして、ガスを取り込んだ圧縮室は、揺動スクロール41の揺動運動に伴い、外周部から中心方向に移動しながら容積を減じ、冷媒ガスを圧縮する。そして、圧縮された冷媒ガスは、固定スクロール31に設けた吐出口32から吐出弁33に抗して吐出され、吐出管12から密閉容器10外の後述の冷媒回路へ排出される。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機を備えた冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す回路構成図である。図2の冷凍サイクル装置は、スクロール圧縮機1と、凝縮器2と、膨張弁3と、蒸発器4とを備え、これらが順次配管で接続されて冷媒が循環するように構成されている。そして、共用管13がインジェクション量調整弁5を有するインジェクション配管7を介して凝縮器2と膨張弁3との間に接続されている。共用管13は更に、圧縮室内が過圧縮の場合のみ過圧縮冷媒を流通させる逆止弁6を有する吐出バイパス配管8を介してスクロール圧縮機1と凝縮器2との間に接続されている。インジェクション量調整弁5はスクロール圧縮機1の吐出温度に基づいて図示しない制御装置により開閉制御されるようになっている。
【0019】
このように構成された冷凍サイクル装置では、スクロール圧縮機1で圧縮された冷媒が凝縮器2において冷却・液化された後、膨張弁3で減圧・二相化される。膨張弁3で減圧・二相化された冷媒は、蒸発器4において加熱・ガス化された後、スクロール圧縮機1に還流する。
【0020】
本例のスクロール圧縮機1は、冷凍のような高圧縮比の定格条件のときに適正になるように内部容積比が設定されている。したがって、高圧縮比の定格条件で運転した場合には過圧縮は生じないが、圧縮比が高いため吐出温度が上昇する。よって、液インジェクションが必要であり、この場合にはインジェクション量調整弁5が開かれ、凝縮器2から膨張弁3に向かう冷媒の一部が、共用管13及び共用ポート35を介してスクロール圧縮機1の圧縮室内にインジェクションされる。
【0021】
一方、高圧縮比の定格条件のときに適正になるように内部容積比が設定された渦巻仕様の本構造を用いて冷蔵条件など低圧縮比の定格条件で運転した場合、吐出口32に吐出連通する前に圧縮室内が過圧縮となり、所謂過圧縮損失を生じる。したがって、過圧縮状態の圧縮室から冷媒を吐出させる吐出バイパスが必要である。よって、この場合にはインジェクション量調整弁5が閉じられ、圧縮室内の過圧縮ガスが共用ポート35から共用管13を介して吐出管12と凝縮器2との間の配管に吐出される。
【0022】
このように、共用ポート35は高圧縮比条件の場合には液インジェクション用、低圧縮比条件の場合には吐出バイパス用として用途が使い分けられて使用される。
【0023】
図3は、本発明の実施の形態1によるスクロール圧縮機の圧縮行程を示す渦巻動作図である。
図3(a)は、最外室が形成された吸入完了の位置を示している。そして、揺動渦巻歯41bが自転せずに固定渦巻歯31bと噛み合って揺動運動することにより、一対の圧縮室のそれぞれが、(a)→(b)→(c)→(d)→(e)→(f)→(a)のように、吸入口に通じる外周側から吐出口32に通じる内周側に移動しながら内部の容積を縮小していき、内部のガスを圧縮する。
【0024】
この一対の圧縮室は、固定スクロール31の外向面と揺動スクロール41の内向面との間に形成される外向面側圧縮室Aと、固定渦巻歯31bの内向面と揺動渦巻歯41bの外面との間に形成される内向面側圧縮室Bとで構成されており、そのそれぞれに共用ポート35が開口している。なお、以下では、外向面側圧縮室A及び内向面側圧縮室Bのそれぞれにおいて、どの揺動タイミングにおいても最も内側の圧縮室を第1室60、第1室60の外側に位置する圧縮室を第2室61、更に外側に位置する圧縮室を第3室62と呼ぶことにする。
【0025】
ここで、共用ポート35の位置について説明する。図4は、図1の固定スクロールの概略平面図である。また、図4には、インボリュート曲線の基礎円も図示している。
固定スクロール31の固定渦巻歯31bは、上述したようにインボリュート曲線を有する渦巻であり、この例では、外向面側の伸開始点角≒0.56π〜内向面側の伸開終点角≒6.44πの約2.94巻で構成されている。共用ポート35aは、固定渦巻歯31bの外向面側の伸開始点P1から伸開角略2πの位置に設けられており、外向面側圧縮室Aに開口する。共用ポート35bは固定渦巻歯31bの内向面側の伸開始点P2から伸開角略2πの位置に設けられており、内向面側圧縮室Bに開口する。このように、外向面側及び内向面側のどちらも、伸開始点から伸開角略2πの位置に共用ポート35a、35bが設けられている。
【0026】
以下、図3を参照して圧縮動作中の共用ポート35の開口タイミングを説明する。なお、外向面側圧縮室A及び内向面側圧縮室Bのそれぞれにおける共用ポート35の開口タイミングは同じであるため、以下の説明では外向面側圧縮室A及び内向面側圧縮室Bを区別せずに説明する。
図3(a)の時点では、第2室61に共用ポート35が開口している。(b)の時点でも第2室61に共用ポート35が開口している。そして、(c)の時点では共用ポート35が閉じられ始め、(d)では完全に閉じられる。(d)の時点では、今までの第2室61は第1室60に合流して第1室60となる一方、今までの第3室62が第2室61となる。また、(d)の時点で今までの第3室62が第2室61となり、新たな第2室61に対して共用ポート35が開始し始める。つまり、第2室61において(d)の時点から共用ポート35が開口し始め、(e)→(f)→(a)→(b)→(c)の間、第2室61に開口し続け、(d)の時点、つまり1回転が終了し、第2室61が第1室60に合流して吐出連通する時点で共用ポート35が閉じられる。これと同時に(すなわち今までの第2室61に対して共用ポート35が閉じると同時に)、新たな第2室61に対して共用ポート35の開口が開始されることになる。
【0027】
つまり、共用ポート35を、固定渦巻歯31bの外向面側及び内向面側のどちらも伸開始点から伸開角略2πの位置に設けることにより、圧縮室(第2室61)が吐出口32に連通する前の1回転の間、その第2室61に共用ポート35が開口しつづける状態を作り出すことができる。これは、固定渦巻歯31b及び揺動渦巻歯41bがどの巻数であっても同じであるが、2.5巻に満たない渦巻では共用ポートの開口範囲が吸入完了以前(図5のψ<0の領域)にまたがってしまうため、2.5巻以上とする必要がある。また、共用ポート35の位置も、吐出連通(図3の(d))以降は第1室60に開口しないという意味での伸開角2πからポート径分程度の幅(αとする)で、2π〜2π+α程度の範囲に設ける必要がある。
【0028】
図5は、一つの圧縮室の吸入完了から吐出完了までの容積変化に基づき断熱圧縮を仮定し、吐出バイパスしないときの室内圧力Pの変化を回転角ψに対して表したグラフで、(b)が図3及び図4に対応する約2.94巻の渦巻の場合を示している。(a)は2.5巻の渦巻の場合、(c)は3.23巻の渦巻の場合である。また、図5には、共用ポート35が開口する開口タイミング(ポート開口範囲)を示している。
【0029】
何れも高圧縮比条件で適正となる同じ内部容積比の渦巻なので、巻数が少ないほど伸開始点角が小さく、伸開終点角は巻数が少ない分更に小さくなる。このため、伸開終点角〜(伸開終点角−2π)の部分で形成する行程容積分の最外室底面積も小さくなるので、同じ行程容積を設定するためには巻数が少ないほど歯高が高くなり、巻数が多いほど歯高の低い扁平な渦巻となる。
【0030】
次に、低圧縮比の定格条件の運転時における共用ポート35の作用を図3〜図5を参照して説明する。
吸入完了角(図3(a))における第3室62の容積(外向面側圧縮室Aの第3室62と内向面側圧縮室Bの第3室62の合計=行程容積)と吐出連通角(図3(d))における第2室61の容積(外向面側圧縮室Aの第2室61と内向面側圧縮室Bの第2室61の合計)が内部容積比で、前述の如く冷凍条件など高圧縮比の定格条件のときに適正圧縮となるように設定されている。したがって、この渦巻構造を用いて冷蔵条件など低圧縮比の定格条件で運転した場合、図5に示すように何れの巻数の場合でも、吐出連通前に過圧縮となる。言い換えれば、図3(d)で第1室60に第2室61が合流して吐出連通する前に、第2室61の圧力が吐出圧を超えることになる。しかし、本例では第2室61が吐出連通する前の1回転の間、第2室61に共用ポート35が開口しているため、第2室61で圧力が吐出圧力Pを超えた場合には、第2室61内の冷媒ガスが共用ポート35から吐出されることになる。すなわち、図5(a)〜(c)のそれぞれにおいて(1)で示すように、ポート開口範囲中で後半部分で第2室61で圧力が吐出圧力Pを超え、共用ポート35が吐出バイパスポートとして使用される。
【0031】
次に、高圧縮比の定格条件の運転時における共用ポート35の作用を図3〜図5を参照して説明する。
高圧縮比の運転条件では渦巻の組込容積比が適正であるため、何れの巻数の場合でも、図5に示すように過圧縮は生じないが、圧縮比が高いため吐出温度が上昇する。吐出温度が上昇したとき、図2のインジェクション量調整弁5を開いて液相の冷媒をインジェクション配管7及び共用管13を介して第2室61内にインジェクションすることにより、吐出温度の上昇を抑えることができる。ここで、第2室61内は、軸40の回転が進むとその分、内部の圧力が高くなるため、図5(a)〜(c)のそれぞれにおいて(2)に示すようにポート開口範囲中の前半部分で共用ポート35が液インジェクションポートとして使用される。
【0032】
図5に示したように、何れの巻数の場合でも、共用ポート35を伸開始点から伸開角略2πの位置に設けたときのポート開口範囲は、吐出連通前の一回転の間になる。仮に、共用ポート35を現在の位置から仮に0.5π分ずらして、伸開始点から伸開角略2.5πの位置に設けた場合、ポート開口範囲は図5に示した位置から左方向に0.5π分ずれることになる。すなわち、図5(c)の3.23巻で説明すると、ポート開口範囲が略180°〜540°の範囲となる。この場合、低圧縮比条件の運転時に、過圧縮状態の途中で共用ポート35が閉じてしまうことになり、有効な吐出バイパスが行えない。よって、共用ポート35を伸開始点から伸開角略2πの位置に設けることが、吐出バイパスによる過圧縮低減を図る上で有効である。
【0033】
ところで、渦巻歯の巻数を2.5巻以上とする理由は上述の通りであるが、特に図5の(a)に示すように2.5巻とした場合、吐出バイパスに必要な過圧縮範囲(図5(1))で共用ポート35が開口し、液インジェクション時には吸入完了直後(図5(2))から共用ポート35が開口することになる。共用ポート35を液インジェクションポートとして用いる場合は、できるだけ圧縮室内の圧力が上昇していない前半部分で行うことが重要である。これは、インジェクション圧と圧縮室内圧の差が小さいとインジェクション量の確保が難しいことによる。よって、吸入完了直後から共用ポート35を開口できる2.5巻の巻数が最も望ましい。しかし、前述のように巻数により渦巻の歯高、外径が変わるため、設計的には全体のバランスに配慮して渦巻仕様を選択することになる。
【0034】
以上説明したように、本実施の形態1では、高圧縮比の定格条件に基づいて内部容積比を決定し、固定渦巻歯31b及び揺動渦巻歯41bのそれぞれを2.5巻以上の巻数で構成し、固定スクロール31の台板31aにおいて、固定渦巻歯31bの外向面側の伸開始点から伸開角略2πの位置と、固定渦巻歯31bの内向面側の伸開始点から伸開角略2πの位置とにそれぞれ共用ポート35を設けた。これにより、共用ポート35を液インジェクション用及び吐出バイパス用として使い分けることが可能となり、液インジェクションポートと吐出バイパスポートとをそれぞれ別々に加工する必要がない。よって、構造が簡素で低コストのスクロール圧縮機を得ることが可能となる。
【0035】
また、このような効果を有するスクロール圧縮機1を備えた冷媒サイクル装置も同様の効果を得ることができる。
【0036】
実施の形態2.
実施の形態2は、共用ポート35の形状を実施の形態1と異ならせたものであり、共用ポート35の形成位置や、その他の点は実施の形態1と同様である。以下、実施の形態2が実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
【0037】
図6(a)は、本発明の実施の形態2のスクロール圧縮機における共用ポートの開口付近の拡大図である。図6(b)は、比較のため、実施の形態1の円形の共用ポートを示している。
圧縮室内の圧力変化とポート開口範囲との関係は、理論的には図5に示したとおりであるが、実機では共用ポート位置をシール点が通過するタイミング(共用ポート位置が伸開始点から伸開角2πの場合は吐出連通時)前後に揺動スクロール41の揺動渦巻歯41bの歯厚分が共用ポート35と干渉して開口面積が減少し、実質的な開口範囲が狭められる。また、共用ポート35は、上述したように吐出バイパスポートとしては1回転中の開口範囲の後半に比重が置かれ、インジェクションポートとしては1回転中の開口範囲の前半に比重が置かれ、インジェクションの方が流量を流す必要がある。
【0038】
実施の形態2の共用ポート70は、固定渦巻歯31bの外向面の輪郭線に一致する輪郭部分を有する長孔とする。図6(a)には、渦巻に沿って巻始め側から巻終わりに向かって幅が広がるような長穴、所謂涙滴様形状としており、涙滴様形状の一部が固定渦巻歯31bの外向面の輪郭線に一致している。このような形状とすることにより、ポート開口範囲の初期段階での開口面積増大の立ち上がりを早めることができる。図6(a)に示す実施の形態2の共用ポート70は、図6(b)に示す実施の形態1の共用ポート35と同じ位置に設けられているが、共用ポート35に比べて開口面積が増大していることがわかる。
【0039】
以上説明したように本実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の作用効果が得られると共に、ポート開口範囲の初期段階での開口面積増大の立ち上がりを早めることができ、高圧縮比運転時のインジェクション量確保が容易となる。
【符号の説明】
【0040】
1 スクロール圧縮機、2 凝縮器、3 膨張弁、4 蒸発器、5 インジェクション量調整弁、6 逆止弁、7 インジェクション配管、8 吐出バイパス配管、10 密閉容器、11 吸入管、12 吐出管、13 共用管、14 潤滑油、20 モータ、21 ステータ、22 ロータ、30 圧縮機構、31 固定スクロール、31a 台板、31b 固定渦巻歯、32 吐出口、33 吐出弁、34 吐出室、35 共用ポート、40 軸、41 揺動スクロール、41a 台板、41b 揺動渦巻歯、42 揺動軸受部、43 オルダムリング、50 フレーム、51 主軸受部、52 副フレーム、53 副軸受部、54 バランサ、55 バランサ、70 共用ポート、P1 外向面側伸開始点、P2 内向面側伸開始点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インボリュート曲線に基づいた固定渦巻歯を台板上に立設してなる固定スクロールと、
インボリュート曲線に基づいた揺動渦巻歯を台板上に立設してなり、前記固定スクロールと噛み合わされて圧縮室を形成する揺動スクロールと、
前記固定スクロール及び前記揺動スクロールを内部に収容する密閉容器とを備え、
前記圧縮室は高圧縮比の定格条件のときに適正となる内部容積比に設定され、
前記固定渦巻歯及び前記揺動渦巻歯のそれぞれを2.5巻以上の巻数で構成し、前記固定スクロールの前記台板において、前記固定渦巻歯の外向面側の伸開始点から伸開角略2πの位置と、前記固定渦巻歯の内向面側の伸開始点から伸開角略2πの位置とのそれぞれに共用ポートを設けると共に、前記密閉容器を外部から貫通して前記共用ポートに接続される共用管を設け、
前記共用ポートを、高圧縮比条件の運転時には、前記圧縮室内に液冷媒を注入する液インジェクション用として使用し、低圧縮比条件の運転時には、前記圧縮室内の過圧縮冷媒を前記圧縮室から放出する吐出バイパス用として使用することを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記共用ポートは、前記固定渦巻歯の外向面の輪郭線に一致する輪郭部分を有する長孔で構成されていることを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のスクロール圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを備え、これらが順次配管で接続されて冷媒が循環するように構成され、
前記共用管は、インジェクション量調整弁を有するインジェクション配管を介して前記凝縮器と前記膨張弁との間に接続されると共に、前記圧縮室内が過圧縮の場合のみ過圧縮冷媒を流通させる逆止弁を有する吐出バイパス配管を介して前記スクロール圧縮機と前記凝縮器との間に接続されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127222(P2012−127222A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277810(P2010−277810)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】