説明

スクロール圧縮機及びヒートポンプ装置

【課題】圧縮機の吐出圧力の高低やインジェクション冷媒の圧力の高低に関わらず、圧縮室内の冷媒が過圧縮となることによる性能低下を防ぐことを目的とする。
【解決手段】スクロール圧縮機は、渦巻歯1bの中心部に設けられた吐出ポート1dよりも渦巻歯1bの外周側に、インジェクション冷媒を注入するためのインジェクションポート1fが設けられるとともに、インジェクションポート1fよりも渦巻歯1bの中心側であって、吐出ポート1dよりも渦巻歯1bの外周側に、吐出圧以上の冷媒を吐出するためのリリーフポート1eが設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、インジェクション機構を有するスクロール圧縮機、及び、前記スクロール圧縮機を備えるヒートポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インジェクション機構を有するスクロール圧縮機についての記載がある。このスクロール圧縮機では、冷媒回路から流入した中間圧力のインジェクション冷媒が、固定スクロールの背面側とバックプレートとの間に形成されたインジェクション流路を通り、固定スクロールの台板に設けられたインジェクションポートから圧縮室内に抽入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−177183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インジェクション機構を有するスクロール圧縮機では、圧縮途中の中間圧力の空間に冷媒回路から所定の圧力のインジェクション冷媒が抽入される。そして、インジェクション冷媒が抽入された後も、圧縮が続けられ、最終的に圧縮された冷媒が固定スクロールの中心部に設けられた吐出ポートから吐出される。
ここで、インジェクション冷媒を抽入した後の圧縮室内の最大圧力P*が、凝縮器で制御される吐出圧力Pdよりも高くなる場合(P*>Pd)、圧縮室内においては冷媒がいわゆる過圧縮の状態になり、大きく性能が低下する。特に、吐出圧力Pdが低い場合やインジェクション冷媒の圧力が高い場合に、冷媒が過圧縮の状態になり易い。
この発明は、スクロール圧縮機の吐出圧力の高低やインジェクション冷媒の圧力の高低に関わらず、圧縮室内の冷媒が過圧縮となることを防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係るスクロール圧縮機は、
固定して使用される固定台板の一方の面に、径の大きい外周側から径の小さい内周側に形状が変化する渦巻状の突起である固定渦巻歯が設けられた固定スクロールと、
揺動台板の一方の面に、前記渦巻状の突起である揺動渦巻歯が設けられ、前記固定スクロールに設けられた前記固定渦巻歯と前記揺動渦巻歯とが噛み合うことにより、前記固定渦巻歯と前記揺動渦巻歯との間に圧縮室を形成する揺動スクロールと、
前記固定スクロールに対して前記揺動スクロールを回転させて、前記圧縮室の位置を前記固定渦巻歯の外周側から中心側へ徐々に移動させながら前記圧縮室の容積を徐々に小さくさせることにより、前記固定渦巻歯の外周側において前記圧縮室へ吸入された冷媒を吐出圧力まで圧縮して、前記固定渦巻歯の中心部において前記固定台板に形成された吐出ポートを介して前記吐出圧力まで圧縮した冷媒を前記圧縮室から吐出する電動機と
を備え、
前記固定台板は、前記吐出ポートよりも前記固定渦巻歯の外周側に、前記吐出圧力よりも高い圧力まで圧縮された冷媒を吐出するリリーフポートが形成されるとともに、前記リリーフポートよりも前記固定渦巻歯の外周側に、インジェクション冷媒を前記圧縮室へ注入するインジェクションポートが形成された
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明に係るスクロール圧縮機は、吐出圧力以上の圧力となった冷媒を圧縮室外へリリーフするリリーフポートを備える。そのため、圧縮機の吐出圧力の高低に関わらず圧縮室内の冷媒が過圧縮となることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態1に係るスクロール圧縮機100の縦断面図。
【図2】図1に示すスクロール圧縮機100の上部拡大図(1)。
【図3】図1に示すスクロール圧縮機100の上部拡大図(2)。
【図4】図1に示すスクロール圧縮機100の上部拡大図(3)。
【図5】実施の形態1に係る固定スクロール1と固定スクロール1に取り付けられる部品とを示す斜視図。
【図6】図5に示す各部品を分解して示す分解斜視図。
【図7】インジェクション回路を有するヒートポンプ装置101の回路構成の一例を示す図。
【図8】図7に示すヒートポンプ装置101の冷媒の状態についてのモリエル線図。
【図9】固定スクロール1に対する揺動スクロール2の相対位置を、吸入完了状態を0度として90度毎に示した図。
【図10】インジェクション運転あり、吐出圧力Pd>圧縮終了圧力P*、リリーフポートなしの場合における回転角θと圧力Pとの関係を示す図。
【図11】インジェクション運転あり、圧縮終了圧力P*>吐出圧力Pd、リリーフポートなしの場合における回転角θと圧力Pとの関係を示す図。
【図12】インジェクション運転あり、圧縮終了圧力P*>吐出圧力Pd、リリーフポートありの場合における回転角θと圧力Pとの関係を示す図。
【図13】インジェクション運転なし、圧縮終了圧力P*>吐出圧力Pd、リリーフポートなしの場合における回転角θと圧力Pとの関係を示す図。
【図14】インジェクション運転なし、圧縮終了圧力P*>吐出圧力Pd、リリーフポートありの場合における回転角θと圧力Pとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図に基づき、この発明の実施の形態について説明する。
なお、以下の説明において、インジェクションとは、凝縮器を出た後の(高圧側の)液冷媒又は二相冷媒又はガス冷媒を圧縮機の圧縮室の途中に戻して、再圧縮することである。また、凝縮器を出た後の(高圧側の)液冷媒又は二相冷媒又はガス冷媒をインジェクション冷媒と呼ぶ。なお、凝縮器を出た後とは、凝縮器を出た直後でなく、所定の膨張弁や所定の熱交換器等を通った後の冷媒であってもよい。また、凝縮器とは、放熱器、負荷側に熱を与える熱交換器又はガスクーラーと読み替えてもよい。
【0009】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るスクロール圧縮機100の縦断面図である。
図2から図4は、図1に示すスクロール圧縮機100の上部拡大図であり、いずれも同じ部分を示す図である。図2は、特に固定スクロール1を説明するための図である。図3は、特に揺動スクロール2を説明するための図である。図4は、特にコンプライアントフレーム3とガイドフレーム4とを説明するための図である。
なお、図1から図4では、本来見えない構成要素を破線で示す。
【0010】
まず、スクロール圧縮機100の構成について説明する。
図1に示すように、スクロール圧縮機100は、固定スクロール1、揺動スクロール2、コンプライアントフレーム3、ガイドフレーム4、電動機5、サブフレーム6、主軸7、オルダム機構8が密閉容器10内に収納されて形成される。なお、固定スクロール1と揺動スクロール2とを総称して圧縮部と呼ぶ。
【0011】
図1、図2に基づき、固定スクロール1について説明する。
固定スクロール1の外周部はガイドフレーム4にボルトによって締結され、固定されている。
固定スクロール1の台板部1a(固定台板)の下側には、板状の渦巻歯1b(固定渦巻歯)が形成されている。固定スクロール1の渦巻歯1bと、後述する揺動スクロール2の渦巻歯2b(揺動渦巻歯)とが噛み合うことにより、圧縮室20が形成される。
台板部1aの下側の外周部にはオルダム案内溝1cがほぼ一直線上に2個形成されている。オルダム案内溝1cにはオルダム機構8の爪8bが往復摺動自在に係合されている。
【0012】
台板部1aのほぼ中心部には、吐出ポート1dが台板部1aを貫通して形成されている。台板部1aの吐出ポート1dよりも外側には、リリーフポート1eが台板部1aを貫通して形成されている。台板部1aのリリーフポート1eよりも外側には、インジェクションポート1fが台板部1aを貫通して形成されている。また、台板部1aには、板の厚みに相当する側部から上側までを連通する流入孔1gが形成されている。流入孔1gの側部の開口には、インジェクションパイプ41が挿入されている。
また、台板部1aの上側には、バックプレート31が設けられる。バックプレート31には、吐出ポート1dと重なる部分に吐出孔31dが形成され、リリーフポート1eと重なる部分にリリーフ孔31eが形成されている。また、台板部1aとバックプレート31との間には、流入孔1gの上側の開口からインジェクションポート1fまでを繋ぐインジェクション流路31aが形成されている。
インジェクション冷媒は、密閉容器10の外部から、インジェクションパイプ41を介して流入孔1gに流入する。流入孔1gに流入したインジェクション冷媒は、インジェクション流路31aを経て、インジェクションポート1fから圧縮室20へ注入される。
また、バックプレート31の上側には、吐出孔31dとリリーフ孔31eとを開閉する開閉弁33(第1,第2開閉弁)と、開閉弁33のリフト量を制限する弁抑え34とが設けられている。
【0013】
図1,3に基づき、揺動スクロール2について説明する。
揺動スクロール2の台板部2a(揺動台板)の上側には、固定スクロール1の渦巻歯1bと実質的に同一形状の板状の渦巻歯2bが形成されている。上述したように、固定スクロール1の渦巻歯1bと、揺動スクロール2の渦巻歯2bとが噛み合うことにより、圧縮室20が形成される。
台板部2aの下側における外周部には、固定スクロール1のオルダム案内溝1cとほぼ90度の位相差を持つオルダム案内溝2eがほぼ一直線上に2個形成されている。オルダム案内溝2eにはオルダム機構8の爪8aが往復摺動自在に係合されている。
【0014】
また、台板部2aの下側における中心部には、中空円筒状のボス部2fが形成されており、そのボス部2fの内側が揺動軸受2cとなる。揺動軸受2cには、主軸7の上端の揺動軸部7bが係合されている。なお、揺動軸受2cと揺動軸部7bとの間の空間をボス部空間15aと呼ぶ。
また、ボス部2fの外径側には、コンプライアントフレーム3のスラスト軸受3aと圧接摺動可能なスラスト面2dが形成されている。なお、ボス部2fの外径側において、揺動スクロール2のスラスト面2dとコンプライアントフレーム3との間に形成された空間をボス部外径空間15bと呼ぶ。また、スラスト軸受3aの外径側において、揺動スクロール2の台板部2aとコンプライアントフレーム3との間に形成された空間を台板外径部空間15cと呼ぶ。台板外径部空間15cは、吸入ガス雰囲気圧(吸入圧力)の低圧空間となっている。
また、台板部2aには、上側の面から下側の面までを貫通する抽気孔2jが設けられる。つまり、抽気孔2jは、圧縮室20とスラスト面2d側の空間とを連通する。なお、抽気孔2jのコンプライアントフレーム3側の開口部(下開口部2k)が通常運転時に描く円軌跡が、コンプライアントフレーム3のスラスト軸受3aの内部に常時収まるように、抽気孔2jは配置されている。そのため、抽気孔2jからボス部外径空間15bや台板外径部空間15cへ冷媒が漏れることがない。
【0015】
図1,4に基づき、コンプライアントフレーム3及びガイドフレーム4について説明する。
コンプライアントフレーム3は、外周部に設けられた上下2つの円筒面3d,3eを、ガイドフレーム4の内周部に設けた円筒面4a,4bにより半径方向に支持されている。コンプライアントフレーム3の中心部には、電動機5により回転駆動される主軸7を半径方向に支持する主軸受3cと補助主軸受3hとが形成されている。
ここで、ガイドフレーム4とコンプライアントフレーム3との間に形成され、上下をリング状のシール材16a、16bで仕切られた空間をフレーム空間15dと呼ぶ。なお、ガイドフレーム4の内周面にシール材16a、16bを収納するリング状のシール溝が2ヶ所に形成されている。しかし、このシール溝はコンプライアントフレーム3の外周面に形成されていてもよい。
コンプライアントフレーム3には、抽気孔2jの下開口部2kと対峙する位置に、スラスト軸受3a側からフレーム空間15d側までを貫通して、常時もしくは間欠的に抽気孔2jとフレーム空間15dとを連通する連通孔3sが形成されている。
また、コンプライアントフレーム3には、ボス部外径空間15bの圧力を調整する弁3t、弁押さえ3y、中間圧調整スプリング3mが収納された調整弁空間3pが設けられている。中間圧調整スプリング3mは、調整弁空間3pに自然長より縮められた状態で収納されている。なお、弁3tの外径側におけるコンプライアントフレーム3とガイドフレーム4との間の空間を、弁外径空間15eと呼ぶ。
また、コンプライアントフレーム3には、スラスト軸受3aの外径側に、オルダム機構環状部8cが往復摺動運動する往復摺動部3xが形成されている。往復摺動部3xには、弁外径空間15eと台板外径部空間15cとを連通する連通孔3nが形成されている。
【0016】
ガイドフレーム4は、外周面が焼き嵌めや溶接などによって、密閉容器10に固定されている。しかし、ガイドフレーム4の外周部には切り欠きが設けてあり、圧縮室20から密閉容器10内へ吐出された冷媒が、吐出パイプ43へ流れる流路は確保されている。
【0017】
図1に基づき、主軸7について説明する。
主軸7の上側には、揺動スクロール2の揺動軸受2c(図3参照)と回転自在に係合する揺動軸部7bが形成されている。揺動軸部7bの下側には、コンプライアントフレーム3の主軸受3c(図4参照)及び補助主軸受3h(図4参照)と回転自在に係合する主軸部7cが形成されている。
主軸7の下側には、サブフレーム6の副軸受6aと回転自在に係合する副軸部7dが形成されている。副軸部7dと上述した主軸部7cとの間に電動機5の回転子5aが焼嵌され、その周囲に固定子5bが設けられている。
また、主軸7の内部には、軸方向に貫通して設けられた高圧油給油穴7gが設けられている。さらに、主軸7の下端面には、高圧油給油穴7gと連通するオイルパイプ7fが圧入されている。
【0018】
固定スクロール1と固定スクロール1に取り付けられる部品とについて詳しく説明する。
図5は、実施の形態1に係る固定スクロール1と固定スクロール1に取り付けられる部品とを示す斜視図である。図6は、図5に示す各部品を分解して示す分解斜視図である。
なお、図5、図6では、本来見えない構成要素を破線で示す。
【0019】
台板部1aのほぼ中心部には、吐出ポート1dが台板部1aを下側から上側まで貫通して形成されている。台板部1aの吐出ポート1dよりも外周側には、リリーフポート1eが台板部1aを下側から上側まで貫通して形成されている。台板部1aのリリーフポート1eよりも外周側には、インジェクションポート1fが台板部1aを下側から上側まで貫通して形成されている。また、台板部1aには、側部から上側までを連通する流入孔1gが形成されている。
【0020】
台板部1aの上側には、台板部1aの概ね全体を覆うバックプレート31が設けられ、周囲数か所(ここでは4箇所)が台板部1aにボルト32によって固定される。これにより、台板部1aとバックプレート31とは密着した状態となる。
なお、台板部1aに直接バックプレート31を固定するのではなく、台板部1aとバックプレート31との接合面の間に、ゴム材等で形成されたパッキンを介在させてもよい。これにより、台板部1aとバックプレート31と接合面のシール性を向上させることができる。
【0021】
バックプレート31には、吐出ポート1dと重なる部分に吐出孔31dが形成され、リリーフポート1eと重なる部分にリリーフ孔31eが形成されている。したがって、圧縮室20とバックプレート31の上側の空間(密閉容器10内の空間)とは、吐出ポート1d及び吐出孔31dを介して連通する。同様に、圧縮室20とバックプレート31の上側の空間とは、リリーフポート1e及びリリーフ孔31eを介して連通する。
また、バックプレート31には、流入孔1gの上側の開口と重なる位置からインジェクションポート1fと重なる位置まで連続した溝が形成されている。この溝により、台板部1aとバックプレート31との間に、流入孔1gの上側の開口からインジェクションポート1fまでを繋ぐインジェクション流路31aが形成される。また、流入孔1gの側部の開口には、インジェクションパイプ41が挿入される(図2参照)。そして、インジェクション冷媒は、密閉容器10の外部からインジェクションパイプ41を介して流入孔1gに流入する。流入孔1gに流入したインジェクション冷媒は、インジェクション流路31aを経て、インジェクションポート1fから圧縮室20へ注入される。
なお、ここでは、バックプレート31に溝が形成され、インジェクション流路31aが形成されるとしたが、バックプレート31の代わりに台板部1aに溝が形成され、インジェクション流路31aが形成されるとしてもよい。
【0022】
バックプレート31の上側には、開閉弁33と弁抑え34とがボルト32により、バックプレート31及び台板部1aに固定される。開閉弁33は、吐出孔31dとリリーフ孔31eとのそれぞれを個別に開閉するリード弁である。開閉弁33は、圧縮室20内の冷媒の圧力と、密閉容器10内の冷媒の圧力(吐出圧力)との圧力差により開閉するリード弁である。弁抑え34は、開閉弁33のリフト量を制限する。
なお、ここでは、吐出孔31dとリリーフ孔31eとを開閉する1つの開閉弁33が設けられるとした。しかし、開閉弁33は、吐出孔31dとリリーフ孔31eとのそれぞれ個別に設けられていてもよい。
【0023】
図1から図4に基づき、スクロール圧縮機100の動作について説明する。
低圧の吸入冷媒は、吸入パイプ42から固定スクロール1の渦巻歯1bと揺動スクロール2の渦巻歯2bとにより形成される圧縮室20に流入する。また、外部からインジェクションパイプ41を介して流入孔1gに流入したインジェクション冷媒が、インジェクション流路31aを経て、インジェクションポート1fから圧縮室20へ注入される。なお、インジェクション運転を行わない場合には、インジェクション冷媒は圧縮室20へ注入されない。
電動機5により主軸7が駆動され、揺動スクロール2が駆動する。揺動スクロール2は、オルダム機構8によって自転運動せず、公転運動(偏芯旋回運動)して、圧縮室20の容積を徐々に減少させる圧縮動作をする。この圧縮動作により圧縮室20内の冷媒は高圧となり、固定スクロール1の吐出ポート1dを介して密閉容器10内に吐出される。吐出された冷媒は、吐出パイプ43から密閉容器10外に放出される。つまり、密閉容器10内は、高圧となる。
【0024】
上述したように、定常運転時には密閉容器10内が高圧となる。この圧力により、密閉容器10の底部に溜まった冷凍機油11は、オイルパイプ7fと高圧油給油穴7gとを上側へ向かって流れる。そして、高圧の冷凍機油は、ボス部空間15a(図3参照)に導かれ、吸入圧力より高く吐出圧力以下の中間圧Pm1まで減圧され、ボス部外径空間15b(図3参照)へ流れる。
また、高圧油給油穴7gを流れる高圧油は、主軸7に設けられた横穴から主軸受3cと主軸部7cとの間(図4参照)に導かれる。主軸受3cと主軸部7cとの間に導かれた冷凍機油は、主軸受3cと主軸部7cとの間で吸入圧力より高く吐出圧力以下の中間圧Pm1まで減圧され、ボス部外径空間15b(図3参照)へ流れる。
なお、ボス部外径空間15bの中間圧Pm1となった冷凍機油は、冷凍機油に溶解していた冷媒の発砲で、一般にはガス冷媒と冷凍機油との2相になっている。
【0025】
ボス部外径空間15bの中間圧Pm1となった冷凍機油は、調整弁空間3p(図4参照)を通って弁外径空間15e(図4参照)に流れる。弁外径空間15eへ流れた冷凍機油は、連通孔3n(図4参照)を通ってオルダム機構環状部8c(図3参照)の内側へ排出される。ここで、冷凍機油は、調整弁空間3pを通る際、中間圧調整スプリング3m(図4参照)によって付加される力に打ち勝って、中間圧調整弁3tを押し上げて弁外径空間15eに流れる。
また、ボス部外径空間15bの中間圧Pm1となった冷凍機油は、揺動スクロール2のスラスト面2d(図3参照)とコンプライアントフレーム3のスラスト軸受3a(図3参照)の摺動部へ給油され、オルダム機構環状部8cの内側へ排出される。
そして、オルダム機構環状部8cの内側排出された冷凍機油は、オルダム機構環状部8cの摺動面とオルダム機構8の爪8a,8bの摺動面とに給油された後、台板外径部空間15cへ開放される。
【0026】
ここで、ボス部外径空間15bの中間圧Pm1は、中間圧調整スプリング3mのバネ力と中間圧調整弁3tの露出面積とによってほぼ決定される所定の圧力αによって、「Pm1=Ps+α」と表される。なお、Psは吸入雰囲気圧すなわち低圧である。
【0027】
また、抽気孔2jの下開口部2k(図3参照)は、コンプライアントフレーム3に設けられた連通孔3sのスラスト軸受3a側の開口部(図4に示す上開口部3u)と、常時もしくは間欠的に連通する。このため、圧縮室20からの圧縮途中の冷媒ガスが、揺動スクロール2の抽気孔2j及びコンプライアントフレーム3の連通孔3sを介してフレーム空間15dに導かれる。この冷媒ガスは、圧縮途中であるため、吸入圧力より高く吐出圧力以下の中間圧Pm2である。
なお、冷媒ガスが導かれるといっても、フレーム空間15dは上シール材16aと下シール材16bとで密閉された閉空間であるため、通常運転時には圧縮室20の圧力変動に呼応して圧縮室20とフレーム空間15dとは双方向に微少な流れを有する。つまり、圧縮室20とフレーム空間15dとは、いわば呼吸しているような状態となる。
【0028】
ここで、フレーム空間15dの中間圧Pm2は、連通する圧縮室20の位置でほぼ決定される所定の倍率βによって、「Pm2=Ps×β」と表される。なお、Psは吸入雰囲気圧すなわち低圧である。
【0029】
ここで、コンプライアントフレーム3には、(A)ボス部外径空間15bの中間圧Pm1に起因する力と、(B)スラスト軸受3aを介した揺動スクロール2からの押し付け力との合計(A+B)が下向きの力として作用する。
一方、コンプライアントフレーム3には、(C)フレーム空間15dの中間圧Pm2に起因する力と、(D)下端面の高圧雰囲気に露出している部分に作用する高圧に起因する力との合計(C+D)が上向きの力として作用する。
そして通常運転時には、上向きの力(C+D)が下向きの力(A+B)より大きくなるように設定されている。
【0030】
通常運転時には、上向きの力(C+D)が下向きの力(A+B)より大きくなるように設定されているため、コンプライアントフレーム3は、固定スクロール1側(図1上側)に浮き上がった状態となる。つまり、コンプライアントフレーム3は、上嵌合円筒面3dがガイドフレーム4の上嵌合円筒面4aにガイドされるとともに、下嵌合円筒面3eがガイドフレーム4の下嵌合円筒面4bにガイドされて、固定スクロール1側(図1上側)に浮き上がった状態となる。すなわち、コンプライアントフレーム3は、固定スクロール1側(図1の上側)に浮き上がって、スラスト軸受3aを介して揺動スクロール2に押し付けられた状態となる。
コンプライアントフレーム3が揺動スクロール2に押し付けられているため、揺動スクロール2も、コンプライアントフレーム3と同様に固定スクロール1側(図1の上側)に浮き上がった状態となる。その結果、揺動スクロール2の渦巻歯2bの歯先と、固定スクロール1の歯底(台板部1a)とが接触するとともに、固定スクロール1の渦巻歯1bの歯先と、揺動スクロール2の歯底(台板部2a)とが接触する。
【0031】
一方、圧縮機の起動時等の過度期や、圧縮室20の内圧が異常に上昇したとき等には、上述した(B)のスラスト軸受3aを介しての揺動スクロール2からの押し付け力が大きくなる。そのため、下向きの力(A+B)が上向きの力(C+D)より大きくなる。その結果、コンプライアントフレーム3がガイドフレーム4側(図1の下側)へ押し付けられる。そして、揺動スクロール2の渦巻歯2bの歯先と、固定スクロール1の歯底(台板部1a)とが離れるとともに、固定スクロール1の渦巻歯1bの歯先と、揺動スクロール2の歯底(台板部2a)とが離れる。これにより、圧縮室20内の圧力が下がり、圧縮室20内の圧力が過度に上昇することが防がれる。
【0032】
スクロール圧縮機100の圧縮動作について説明する。
図7は、固定スクロール1に対する揺動スクロール2の相対位置を、吸入完了状態を0度として90度毎に示した図である。
固定スクロール1の渦巻歯1bと揺動スクロール2の渦巻歯2bとが噛み合うことにより対をなす圧縮室20a,20bが形成される。なお、圧縮室20a,20bを総称して圧縮室20と呼ぶ。圧縮室20は、主軸7の回転に伴い揺動スクロール2が回転することにより、徐々に容積が小さくなりながら中心部へ移動する。つまり、圧縮室20に吸入された冷媒は、主軸7の回転に伴い揺動スクロール2が公転運動することにより、徐々に圧縮されて、圧力を高めながら中心部へ移動する。
【0033】
0度の時点は、上述したように、冷媒の吸入が完了した状態である。0度の時点では、吸入パイプ42から圧縮室20に冷媒が吸入され、圧縮室20が密閉された状態である。
0度の時点(冷媒吸入完了時点)から主軸7が90度回転すると、圧縮室20の容積が少し小さくなるとともに、圧縮室20が少し中心部寄りに移動する。そして、この時点で、圧縮室20は、インジェクションポート1fと連通する。そのため、インジェクション運転をしているのであれば、インジェクションポート1fからインジェクション冷媒が圧縮室20へ流入する。つまり、吸入パイプ42から圧縮室20へ吸入された吸入冷媒が、吸入された時点の吸入圧力(低圧)よりも高く、吐出ポート1dから吐出される時点の吐出圧力(高圧)よりも低い中間圧になる中間圧部へ、インジェクション冷媒は注入される。
さらに冷媒吸入完了時点から180度、270度と主軸7が回転する。この間は、圧縮室20は、インジェクションポート1fと連通している。そのため、この間は、インジェクションポート1fからインジェクション冷媒が圧縮室20へ流入しつつ、圧縮室20内の冷媒が圧縮されて徐々に中心部寄りに移動する。
主軸7が冷媒吸入完了時点から360度回転すると、圧縮室20は、インジェクションポート1fとの連通を終了する。そして、これ以降、圧縮室20が吐出ポート1dと連通するまで、外部から圧縮室20への冷媒の流入がないまま、圧縮室20内の冷媒は圧縮される。
主軸7が冷媒吸入完了時点から450度回転すると、圧縮室20は、リリーフポート1eと連通する。圧縮室20とリリーフポート1eとが連通している間に、圧縮室20内の冷媒の圧力が吐出圧力以上となると、開閉弁33が開き、圧縮室20内の冷媒の一部がリリーフポート1eから密閉容器10内へ吐出する。つまり、圧力が吐出圧力を超えた冷媒は、それ以上圧縮されることなく、リリーフポート1eから密閉容器10内へ吐出される。
主軸7が冷媒吸入完了時点から540度回転すると、圧縮室20は、吐出ポート1dと連通する。そして、圧縮室20内の冷媒の圧力により開閉弁33が開き、圧縮室20内の冷媒が密閉容器10内へ吐出する。なお、この時点においは、圧縮室20は、吐出ポート1dとだけでなく、リリーフポート1eとも連通している。したがって、圧縮室20がリリーフポート1eと連通した後、吐出圧力を超えた冷媒がさらに圧縮されることはない。
【0034】
一方で、主軸7の回転が冷媒吸入完了時点から360度の時点は、最外部の圧縮室20に冷媒の吸入が完了した状態である。同様に、主軸7の回転が冷媒吸入完了時点から450度の時点は、最外部の圧縮室20とインジェクションポート1fとが連通を開始する。このように、スクロール圧縮機100では、冷媒の圧縮が繰り返し行われる。
【0035】
なお、圧縮室20a,20bには、それぞれ異なるインジェクションポート1fと、リリーフポート1eとが連通するように構成される。つまり、固定スクロール1の台板部1aには、2つのインジェクションポート1fと、リリーフポート1eとが形成されている。そして、2つのインジェクションポート1fの一方のインジェクションポート1fと圧縮室20aが連通するとともに、他方のインジェクションポート1fと圧縮室20bが連通するように構成される。同様に、2つのリリーフポート1eの一方のリリーフポート1eと圧縮室20aが連通するとともに、他方のリリーフポート1eと圧縮室20bが連通するように構成される。
【0036】
スクロール圧縮機の回転角θと圧縮室20内の圧力Pとの関係について説明する。
図8から図12は、スクロール圧縮機の回転角θと圧縮室20内の圧力Pとの関係を示す図である。図8から図10は、インジェクション運転をする場合の関係を示し、図11から図12は、インジェクション運転をしない場合の関係を示す。
特に、図8は、吐出圧力Pd>圧縮終了圧力P*>吸入圧力Psの場合において、リリーフポート1eが設けられていない場合の関係を示す図である。図9及び図11は、圧縮終了圧力P*>吐出圧力Pd>吸入圧力Psの場合において、リリーフポート1eが設けられていない場合の関係を示す図である。図10及び図12は、圧縮終了圧力P*>吐出圧力Pd>吸入圧力Psの場合において、リリーフポート1eが設けられている場合の関係を示す図である。
【0037】
スクロール圧縮機は圧縮終了圧力P*と圧縮開始圧力Ps(吸入圧力)との間には、「P*/Ps=一定」という関係がある。そのため、スクロール圧縮機の回転角θと圧縮室20内の圧力Pとには、以下に説明するような関係がある。
【0038】
図8に示すように、凝縮器で制御される吐出圧力Pdが十分に高く、吐出圧力Pdが圧縮終了圧力P*に対して高い場合、圧縮室20と吐出ポート1dとが連通する時点では、圧縮室20内の冷媒の圧力は、吐出圧力Pdよりも低い。そして、圧縮室20と吐出ポート1dとが連通して少し時間が経過すると、冷媒は吐出圧力Pdまで圧縮され、吐出圧力Pdの冷媒が密閉容器10内へ吐出される。
これに対して、図9、図11に示すように、凝縮器で制御される吐出圧力Pdが低い場合、もしくはインジェクション圧力Pinjが高い場合、圧縮終了圧力P*が吐出圧力Pdに対して高くなる。圧縮室20と吐出ポート1dとが連通する前に、圧縮室20内の冷媒の圧力は、吐出圧力Pdよりも高くなる。そのため、圧縮室20と吐出ポート1dとが連通した瞬間に、冷媒が密閉容器10内に一気に吐出される。その結果、大きな損失(過圧縮損失)が発生し、性能低下を引き起こしてしまう。
しかし、図10、図12に示すように、リリーフポート1eを設けた場合、圧縮室20内の冷媒の圧力が吐出圧力Pdを超えた時点で、開閉弁33が開き、リリーフポート1eから冷媒が密閉容器10内に吐出される。したがって、圧縮室20内の冷媒の圧力が、吐出圧力Pdより高くなることはなく、過圧縮損失を抑えることができる。
【0039】
圧縮室20の中間圧部にインジェクション冷媒を抽入することにより、冷媒回路内を循環する冷媒流量を増大させ、暖房能力等を増大させることが可能となる。しかし、従来は、インジェクション冷媒の圧力によっては、過圧縮損失が発生して、性能を低下させてしまっていた。これに対して、実施の形態1に係るスクロール圧縮機100では、インジェクション冷媒の圧力や、吐出圧力の条件によらず、過圧縮損失を防ぐことができ、性能を向上させることができる。
【0040】
次に、スクロール圧縮機100を備えるヒートポンプ装置101の動作について説明する。
図13は、インジェクション回路を有するヒートポンプ装置101の回路構成の一例を示す図である。図14は、図13に示すヒートポンプ装置101の冷媒の状態についてのモリエル線図である。図14において、横軸は比エンタルピ、縦軸は冷媒圧力を示す。
【0041】
ヒートポンプ装置101は、圧縮機51、熱交換器52(第1熱交換器)、膨張弁53(第1減圧機構)、内部熱交換器54、膨張弁55(第3減圧機構)、熱交換器57(第2熱交換器)を順次配管により接続した冷媒回路を備える。なお、冷媒回路における圧縮機51の吐出側には、四方弁58が設けられ、冷媒の流れる向きを変更可能となっている。また、冷媒回路における膨張弁53と内部熱交換器54との間には、レシーバー59が設けられている。また、圧縮機51とは、上述したスクロール圧縮機100のことである。
ヒートポンプ装置101は、さらに、冷媒回路におけるレシーバー59と内部熱交換器54との間から、圧縮機51に設けられたインジェクションパイプ41までを繋ぐインジェクション回路を備える。インジェクション回路には、膨張弁56(第2減圧機構)、内部熱交換器54が順次接続される。
【0042】
まず、暖房運転時の動作について説明する。暖房運転時には、四方弁58は実線方向に設定される。なお、この暖房運転とは、空調で使われる暖房だけでなく、水に熱を与えて温水を作る給湯も含む。
圧縮機51で高温高圧となった気相冷媒(図14の点1)は、圧縮機51の吐出パイプ43から吐出され、凝縮器であり放熱器となる熱交換器52で熱交換されて液化する(図14の点2)。このとき、冷媒から放熱された熱により空気や水などが温められ、暖房や給湯がされる。
熱交換器52で液化された液相冷媒は、膨張弁53で中間圧まで減圧され、気液二相状態になる(図14の点3)。膨張弁53で気液二相状態になった冷媒は、レシーバー59で圧縮機51へ吸入される冷媒と熱交換され、冷却されて液化される(図14の点4)。レシーバー59で液化された液相冷媒は、内部熱交換器54、膨張弁55側(本流)と、膨張弁56側(支流)とに分岐して流れる。
本流を流れる液相冷媒は、膨張弁56で減圧され気液二相状態となった支流を流れる冷媒と内部熱交換器54で熱交換されて、さらに冷却される(図14の点5)。内部熱交換器54で冷却された液相冷媒は、膨張弁55(減圧機構)で減圧されて気液二相状態になる(図14の点6)。膨張弁55で気液二相状態になった冷媒は、蒸発器となる熱交換器57で熱交換され、加熱される(図14の点7)。そして、熱交換器57で加熱された冷媒は、レシーバー59でさらに加熱され(図14の点8)、吸入パイプ42から圧縮機51に吸入される。
一方、支流を流れる冷媒は、上述したように、膨張弁56(減圧機構)で減圧されて(図14の点9)、内部熱交換器54で熱交換される(図14の点10)。内部熱交換器54で熱交換された気液二相状態の冷媒(インジェクション冷媒)は、気液二相状態のまま圧縮機51のインジェクションパイプ41から圧縮室20へ流入する。
圧縮機51内での圧縮動作について上述した通りであるが、圧縮機51内では、本流を流れ吸入パイプ42から吸入された冷媒(図14の点8)が、中間圧まで圧縮、加熱される(図14の点11)。中間圧まで圧縮、加熱された冷媒(図14の点11)と、インジェクション冷媒(図14の点8)とが合流して、温度が低下する(図14の点12)。そして、温度が低下した冷媒(図14の点12)が、さらに圧縮、加熱され高温高圧となり、吐出される(図14の点1)。
【0043】
なお、インジェクション運転を行わない際には、膨張弁56の開度を閉にする。これにより、圧縮機51へ流入するインジェクション冷媒を遮断する。つまり、熱交換器52、膨張弁53、レシーバー59を通過した冷媒の全てを吸入パイプ42から圧縮機51へ吸入させる。
ここで、膨張弁56の開度は、例えば、電子制御により制御される。
【0044】
次に、冷房運転時の動作について説明する。冷房運転時には、四方弁58は破線方向に設定される。
圧縮機51で高温高圧となった気相冷媒(図14の点1)は、圧縮機51の吐出パイプ43から吐出され、凝縮器となる熱交換器57で熱交換されて液化する(図14の点2)。熱交換器57で液化された液相冷媒は、膨張弁55で中間圧まで減圧され、気液二相状態になる(図14の点3)。膨張弁55で気液二相状態になった冷媒は、内部熱交換器54で熱交換され、冷却され液化される(図14の点4)。内部熱交換器54では、膨張弁55で気液二相状態になった冷媒と、内部熱交換器54で液化された液相冷媒を膨張弁56で減圧させて気液二相状態になった冷媒(図14の点9)とを熱交換させている。内部熱交換器54で熱交換された液相冷媒(図14の点4)は、レシーバー59側(本流)と、内部熱交換器54側(支流)とに分岐して流れる。
本流を流れる液相冷媒は、レシーバー59で圧縮機51に吸入される冷媒と熱交換されて、さらに冷却される(図14の点5)。レシーバー59で冷却された液相冷媒は、膨張弁53で減圧されて気液二相状態になる(図14の点6)。膨張弁53で気液二相状態になった冷媒は、蒸発器となる熱交換器52で熱交換され、加熱される(図14の点7)。このとき、冷媒が吸熱することにより空気や水などが冷やされ、冷房されたり、冷凍がされる。そして、熱交換器57で加熱された冷媒は、レシーバー59でさらに加熱され(図14の点8)、吸入パイプ42から圧縮機51に吸入される。
一方、支流を流れる冷媒は、上述したように、膨張弁56で減圧されて(図14の点9)、内部熱交換器54で熱交換される(図14の点10)。内部熱交換器54で熱交換された気液二相状態の冷媒(インジェクション冷媒)は、気液二相状態のまま圧縮機51のインジェクションパイプ41から圧縮室20へ流入する。
圧縮機51内での圧縮動作については、暖房運転時と同様である。
【0045】
なお、インジェクション運転を行わない際には、暖房運転時と同様に、膨張弁56の開度を閉にして、圧縮機51へ流入するインジェクション冷媒を遮断する。
【0046】
ここで、インジェクション運転をするのは、通常、暖房運転の場合である。したがって、通常、冷房運転時にはインジェクション運転を行わない。なお、暖房運転時であっても、常時インジェクション運転するのではなく、例えば、外気温が所定の温度(例えば、2℃)以下の場合や、圧縮機の回転数が所定の周波数(例えば、60Hz)以上の場合に、インジェクション運転することにより暖房能力を高くすることができ、暖房や給湯性能のよいヒートポンプ装置101が得られる。インジェクション運転の必要がないような場合には、暖房運転時であっても、膨張弁56の開度を閉にして、インジェクション運転を行わない。
もちろん、インジェクション運転するか否かの基準は、上記の基準でなくてもよく、例えば、冷房運転時にインジェクション運転しても構わない。
【0047】
なお、熱交換器52は、上述したとおり、高温高圧となった気相冷媒又は低温低圧となった液相冷媒と水等の液体との熱交換を行う熱交換器であってもよいし、高温高圧となった気相冷媒又は低温低圧となった液相冷媒と空気等の気体との熱交換を行う熱交換器であってもよい。つまり、図13,14で説明したヒートポンプ装置101は、空調装置であってもよいし、給湯装置であってもよいし、冷凍装置や冷蔵装置であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 固定スクロール、1a 台板部、1b 渦巻歯、1c オルダム案内溝、1d 吐出ポート、1e リリーフポート、1f インジェクションポート、1g 流入孔、2 揺動スクロール、2a 台板部、2b 渦巻歯、2c 揺動軸受、2d スラスト面、2e オルダム案内溝、2f ボス部、2j 抽気孔、2k 下開口部、3 コンプライアントフレーム、3a スラスト軸受、3c 主軸受、3d 上嵌合円筒面、3e 下嵌合円筒面、3h 補助主軸受、3m 中間圧調整スプリング、3n 連通孔、3p 調整弁空間、3s 連通孔、3t 弁、3u 上開口部、3x 往復摺動部、3y 弁押さえ、4 ガイドフレーム、4a 上嵌合円筒面、4b 下嵌合円筒面、5 電動機、5a 回転子、5b 固定子、6 サブフレーム、6a 副軸受、7 主軸、7b 揺動軸部、7c 主軸部、7d 副軸部、7f オイルパイプ、7g 高圧油給油穴、8 オルダム機構、8a,8b 爪、8c オルダム機構環状部、10 密閉容器、10a 下側容器、10b 上側容器、11 冷凍機油、15a ボス部空間、15b ボス部外径空間、15e 弁外径空間、15c 台板外径部空間、15d フレーム空間、16a,16b シール材、20 圧縮室、31 バックプレート、31a インジェクション流路、31d 吐出孔、31e リリーフ孔、32 ボルト、33 開閉弁、34 弁抑え、41 インジェクションパイプ、42 吸入パイプ、43 吐出パイプ、51 圧縮機、52,57 熱交換器、53,55,56 膨張弁、54 内部熱交換器、58 四方弁、59 レシーバー、100 スクロール圧縮機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定して使用される固定台板の一方の面に、径の大きい外周側から径の小さい内周側に形状が変化する渦巻状の突起である固定渦巻歯が設けられた固定スクロールと、
揺動台板の一方の面に、前記渦巻状の突起である揺動渦巻歯が設けられ、前記固定スクロールに設けられた前記固定渦巻歯と前記揺動渦巻歯とが噛み合うことにより、前記固定渦巻歯と前記揺動渦巻歯との間に圧縮室を形成する揺動スクロールと、
前記固定スクロールに対して前記揺動スクロールを回転させて、前記圧縮室の位置を前記固定渦巻歯の外周側から中心側へ徐々に移動させながら前記圧縮室の容積を徐々に小さくさせることにより、前記固定渦巻歯の外周側において前記圧縮室へ吸入された冷媒を吐出圧力まで圧縮して、前記固定渦巻歯の中心部において前記固定台板に形成された吐出ポートを介して前記吐出圧力まで圧縮した冷媒を前記圧縮室から吐出する電動機と
を備え、
前記固定台板は、前記吐出ポートよりも前記固定渦巻歯の外周側に、前記吐出圧力よりも高い圧力まで圧縮された冷媒を吐出するリリーフポートが形成されるとともに、前記リリーフポートよりも前記固定渦巻歯の外周側に、インジェクション冷媒を前記圧縮室へ注入するインジェクションポートが形成された
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮室は、前記固定渦巻歯の外周側から中心側へ徐々に移動するときに、前記インジェクションポートと連通を終えた後に、前記リリーフポートと連通を開始する
ことを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記インジェクションポートは、前記固定台板を前記圧縮室が形成される前記固定渦巻歯側の前記一方の面から他方の面まで貫通した孔であり、
前記固定台板は、さらに、板の厚みに相当する側部から前記他方の面まで連通する流入孔が形成され、
前記スクロール圧縮機は、さらに、
前記固定台板に形成された前記流入孔の側部の開口に接続されたインジェクションパイプと、
前記固定台板の前記他方の面を覆うように設けられたバックプレートであって、前記固定台板との間に、前記流入孔の前記他方の面の開口と前記インジェクションポートとを接続するインジェクション流路を形成するバックプレートと
を備え、
前記インジェクション冷媒は、外部から前記インジェクションパイプに流入して、前記流入孔と前記インジェクション流路とを通って、前記インジェクションポートから前記圧縮室へ注入される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記吐出ポート及び前記リリーフポートは、前記固定台板を前記圧縮室側の面から前記他方の面まで貫通した孔であり、
前記バックプレートは、前記吐出ポート及び前記リリーフポートと重なる位置に孔が形成された
ことを特徴とする請求項3に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記スクロール圧縮機は、さらに、
前記バックプレートの前記リリーフポートと重なる位置に形成された孔を塞ぐように設けられた第1開閉弁であって、前記圧縮室が前記リリーフポートと連通した時点における前記圧縮室内の冷媒の圧力が前記吐出圧力よりも高い圧力であると開く第1開閉弁
を備えることを特徴とする請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記スクロール圧縮機は、さらに、
前記バックプレートの前記吐出ポートと重なる位置に形成された孔を塞ぐように設けられた第2開閉弁であって、前記圧縮室が前記吐出ポートと連通した時点における前記圧縮室内の冷媒の圧力が前記吐出圧力よりも高い圧力であると開く第2開閉弁
を備えることを特徴とする請求項5に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記第1開閉弁と前記第2開閉弁とは、一体形成された
ことを特徴とする請求項6に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記バックプレートは、前記インジェクションポートと重なる位置から前記流入孔の前記他方の面の開口と重なる位置まで連続する溝が形成され、前記溝により前記固定台板との間に前記インジェクション流路を形成する
ことを特徴とする請求項3に記載のスクロール圧縮機。
【請求項9】
前記固定台板は、前記インジェクションポートから前記流入孔の前記他方の面の開口まで連続する溝が形成され、前記溝により前記バックプレートとの間に前記インジェクション流路を形成する
ことを特徴とする請求項3に記載のスクロール圧縮機。
【請求項10】
圧縮機と、第1熱交換器と、減圧機構と、第2熱交換器とを順次配管により接続した冷媒回路を備えるヒートポンプ装置であり、
前記圧縮機は、
固定して使用される固定台板の一方の面に、径の大きい外周側から径の小さい内周側に形状が変化する渦巻状の突起である固定渦巻歯が設けられた固定スクロールと、
揺動台板の一方の面に、前記渦巻状の突起である揺動渦巻歯が設けられ、前記固定スクロールに設けられた前記固定渦巻歯と前記揺動渦巻歯とが噛み合うことにより、前記固定渦巻歯と前記揺動渦巻歯との間に圧縮室を形成する揺動スクロールと、
前記固定スクロールに対して前記揺動スクロールを回転させて、前記圧縮室の位置を前記固定渦巻歯の外周側から中心側へ徐々に移動させながら前記圧縮室の容積を徐々に小さくさせることにより、前記固定渦巻歯の外周側において前記圧縮室へ吸入された冷媒を吐出圧力まで圧縮して、前記固定渦巻歯の中心部において前記固定台板に形成された吐出ポートを介して前記吐出圧力まで圧縮した冷媒を前記圧縮室から吐出する電動機と
を備え、
前記固定台板は、前記吐出ポートよりも前記固定渦巻歯の外周側に、前記吐出圧力よりも高い圧力まで圧縮された冷媒を吐出するリリーフポートが形成されるとともに、前記リリーフポートよりも前記固定渦巻歯の外周側に、インジェクション冷媒を前記圧縮室へ注入するインジェクションポートが形成された
ことを特徴とするヒートポンプ装置。
【請求項11】
前記インジェクションポートは、前記固定台板を前記圧縮室が形成される前記固定渦巻歯側の前記一方の面から他方の面まで貫通した孔であり、
前記固定台板は、さらに、板の厚みに相当する側部から前記他方の面まで連通する流入孔が形成され、
前記圧縮機は、さらに、
前記固定台板に形成された前記流入孔の側部の開口に接続されたインジェクションパイプと、
前記固定台板の前記他方の面を覆うように設けられたバックプレートであって、前記固定台板との間に、前記流入孔の前記他方の面の開口と前記インジェクションポートとを接続するインジェクション流路を形成するバックプレートと
を備え、
前記ヒートポンプ装置は、さらに、
前記冷媒回路における前記第1熱交換器と前記減圧機構との間から、前記圧縮機に設けられたインジェクションパイプまでを繋ぎ、途中に第2減圧機構が設けられたインジェクション回路
を備え、
前記インジェクション冷媒は、前記インジェクション回路を流れ、前記インジェクションパイプから前記圧縮機へ流入して、前記流入孔と前記インジェクション流路とを通って、前記インジェクションポートから前記圧縮室へ注入される
ことを特徴とする請求項10に記載のヒートポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−172581(P2012−172581A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34952(P2011−34952)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】