説明

スクロール圧縮機

【課題】吐出ガスの縮流やよどみを防止し、性能低下や騒音を抑えることが可能であるスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】固定スクロール24の鏡板24aにおける渦巻き部分24bと反対側の平面には、座グリ空間141が形成されている。座グリ空間141は、吐出口41に連通し、かつ、吐出口41よりも広い開口面積を有する。座グリ空間141は、固定スクロール24の渦巻き部分24bと可動スクロール26の渦巻き部分26bによって形成される第1圧縮室40aと吐出口41との連通直後において、可動スクロール26の渦巻き部分26bの中心側の先端と固定スクロール24の渦巻き部分24bとの隙間から吐出口41へ吐出される冷媒流れが向かう側の座グリ量を、冷媒流れが向かう側に対向する反対側の座グリ量よりも大きくなるように、設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機等で用いられるスクロール圧縮機の渦巻形状は、固定スクロールおよび可動スクロールが同じ渦巻き形状で対称形となるものが基本形状であるが、容量アップや効率向上のため、渦巻きを非対称としたものがある。非対称の渦巻きは、たとえば、固定スクロールの内周を半周程度のばしたもの等がある。
【0003】
ここで、スクロール圧縮機の性能向上のための対策として、吐出口面積を大きくすることで吐出圧損を低減することが考えられる。たとえば、特許文献1に記載されるスクロール圧縮機では、圧損低減や吐出ガスの膨張音低減、加工コスト低減等の目的のために、吐出口の出口側に吐出口と同心円状の座グリ穴が設けられている。
【特許文献1】特開平7−189937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように固定スクロールおよび可動スクロールが同じ渦巻き形状で対称形となり、かつ円形の吐出口が固定スクロールの基礎円と同心上に位置するスクロール圧縮機では、吐出口の吐出ガスの流れは対称な旋回流となり、特許文献1に記載されるように、吐出口の出口側に吐出口と同心円状の座グリ穴が設けられた場合であっても、座グリ穴の部位における縮流やよどみが発生するおそれは低い。
【0005】
しかし、非対称形状のスクロールでは、吐出口のガス流れは対称とならず、吐出口のガス流れは、座グリ穴の部位において縮流やよどみが発生する場合がある。その場合、吐出口の有効面積が小さくなり、吐出圧損が増大し、過圧縮となり、性能低下のおそれがある。また、吐出口内部のガス流れの有効面積が縮小するので、ガス流速が増加し、吐出ガス脈動や膨張音増大によって、騒音が増大するおそれもある。
【0006】
本発明の課題は、吐出ガスの縮流やよどみを防止し、性能低下や騒音を抑えることが可能であるスクロール圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のスクロール圧縮機は、固定スクロールと、可動スクロールとを備えている。固定スクロールは、平板状の鏡板と、渦巻き状の渦巻き部分とを有している。渦巻き部分は、鏡板の一方の平面に設けられている。鏡板の略中心には、吐出口が貫通して形成されている。可動スクロールは、平板状の鏡板と、渦巻き状の渦巻き部分とを有している。渦巻き部分は、鏡板の一方の平面に設けられている。また、可動スクロールの渦巻き部分は、固定スクロールの渦巻き部分に噛みあうように配置されている。可動スクロールは、固定スクロールに対して公転可能である。固定スクロールの鏡板の他方の平面には、座グリ空間が形成されている。座グリ空間は、吐出口に連通し、かつ、吐出口よりも広い開口面積を有する。座グリ空間は、第1圧縮室と吐出口との連通直後において、可動スクロールの渦巻き部分の中心側の先端と固定スクロールの渦巻き部分との隙間から吐出口へ吐出される冷媒流れが向かう側の座グリ量を、冷媒流れが向かう側に対向する反対側の座グリ量よりも大きくなるように、設定されている。第1圧縮室は、可動スクロールの渦巻き部分の外周面と固定スクロールの渦巻き部分の内周面とによって形成されている。
【0008】
ここでは、固定スクロールの吐出口に連通する座グリ空間が、第1圧縮室と吐出口との連通直後において、可動スクロールの渦巻き部分の中心側の先端と固定スクロールの渦巻き部分との隙間から吐出口へ吐出される冷媒流れが向かう側の座グリ量を、冷媒流れが向かう側に対向する反対側の座グリ量よりも大きくなるように設定されているので、冷媒流れの縮流やよどみの発生を防止し、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。
【0009】
第2発明のスクロール圧縮機は、第1発明のスクロール圧縮機であって、座グリ空間の面積重心が、吐出口の開口面の面積重心に対して、第1圧縮室と吐出口との連通直後に冷媒流れが向かう側へずれている。
【0010】
ここでは、座グリ空間の面積重心が吐出口の開口面の面積重心に対して、第1圧縮室と吐出口との連通直後に冷媒流れが向う側へずれているので、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。
【0011】
第3発明のスクロール圧縮機は、第1発明または第2発明のスクロール圧縮機であって、座グリ空間において、第1圧縮室の圧縮終了点と外周側インボリュート開始点とを結ぶ線分、および固定スクロールの内周面によって囲まれた第1領域の座グリ量は、座グリ空間における第1領域以外の他の領域である第2領域における座グリ量よりも大きい。圧縮終了点は、固定スクロールの内壁と可動スクロールの中心側先端とが噛み合い可能な限界の点である。
【0012】
ここでは、座グリ空間において、固定スクロールの内壁と可動スクロールの中心側先端とが噛み合い可能な圧縮終了点と固定スクロールの外周面における螺旋の開始点である外周側インボリュート開始点とを結ぶ線分、および固定スクロールの内周面によって囲まれた第1領域の座グリ量が、座グリ空間における第1領域以外の他の領域である第2領域における座グリ量よりも大きいので、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。
【0013】
第4発明のスクロール圧縮機は、第1発明から第3発明のいずれかのスクロール圧縮機であって、座グリ空間において第1圧縮室と吐出口との連通直後に冷媒流れが向かう側における吐出口の開口面よりも拡大された部分である座グリ部分は、固定スクロールの渦巻き部分に対応する位置まで拡大して形成されている。
【0014】
ここでは、座グリ空間において第1圧縮室と吐出口との連通直後に冷媒流れが向かう側における吐出口の開口面よりも拡大された部分である座グリ部分が、固定スクロールの渦巻き部分に対応する位置まで拡大して形成されているので、座グリ量を十分確保でき、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
第1発明によれば、冷媒流れの縮流やよどみの発生を防止し、吐出圧損を大幅に低減することができる。
【0016】
第2発明によれば、吐出圧損を大幅に低減することができる。
【0017】
第3発明によれば、吐出圧損を大幅に低減することができる。
【0018】
第4発明によれば、座グリ量を十分確保でき、吐出圧損を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
つぎに本発明のスクロール圧縮機の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示されるスクロール圧縮機1は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機であり、蒸発器や、凝縮器、膨張機構などと共に冷媒回路を構成し、その冷媒回路中のガス冷媒を圧縮する役割を担うものであって、主に、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング10、スクロール圧縮機構15、オルダムリング39、駆動モータ16、下部主軸受60、吸入管19、および吐出管20から構成されている。以下、このスクロール圧縮機1の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0021】
〔スクロール圧縮機1の構成部品の詳細〕
(1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とを有する。そして、このケーシング10には、主に、ガス冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構15と、スクロール圧縮機構15の下方に配置される駆動モータ16とが収容されている。このスクロール圧縮機構15と駆動モータ16とは、ケーシング10内を上下方向に延びるように配置される駆動軸17によって連結されている。そして、この結果、スクロール圧縮機構15と駆動モータ16との間には、間隙空間18が生じる。
【0022】
(2)スクロール圧縮機構
スクロール圧縮機構15は、図1に示されるように、主に、ハウジング23と、ハウジング23の上方に密着して配置される固定スクロール24と、固定スクロール24に噛合する可動スクロール26とから構成されている。また、スクロール圧縮機構15は、容量アップや効率向上のため、固定スクロール24および可動スクロール26のそれぞれの渦巻き部分24b、26bとは非対称の形状になっており、可動スクロール26の渦巻き部分26bと比較して、固定スクロール24の渦巻き部分24bがその内周側を半周程度延長している。
以下、このスクロール圧縮機構15の構成部品についてそれぞれ詳述していく。
【0023】
a)固定スクロール
固定スクロール24は、図1〜3に示されるように、主に、平板状の鏡板24aと、鏡板24aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)の渦巻き部分24bとから構成されている。
【0024】
鏡板24aには、後述する圧縮室40に連通する吐出口41が鏡板24aの略中心に貫通して形成されている。吐出口41は、鏡板24aの中央部分において上下方向に延びるように形成されている。吐出口41の開口面の形状は、開口面積を大きくして吐出圧損を低減するため、非円形の形状である。具体的には、吐出口41の開口面の形状は、圧縮室40を構成するA室40a(図9参照)およびB室40b(図11参照)が吐出口41に連通した直後に吐出口41へ流入する冷媒流れFが吐出口41内部で円滑に旋回可能な形状、たとえば一部凹んだ楕円形状である。
【0025】
また、鏡板24aの上面には、吐出口41に連通する座グリ空間141が形成されている。座グリ空間141については、後段の項目で別途詳細に説明する。
【0026】
さらに、鏡板24aの上面には、吐出口41および座グリ空間141に連通する拡大凹部42(図1参照)が形成されている。拡大凹部42は、鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。そして、固定スクロール24の上面には、この拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aにより締結固定されている。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることによりスクロール圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24と蓋体44とは、図示しないパッキンを介して密着させることによりシールされている。
【0027】
b)可動スクロール
可動スクロール26は、図1に示されるように、主に、鏡板26aと、鏡板26aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)の渦巻き部分26bと、鏡板26aの下面に形成された軸受部26cと、鏡板26aの両端部に形成される溝部26d(図5参照)とから構成されている。
【0028】
可動スクロール26は、アウタードライブの可動スクロールである。すなわち、可動スクロール26は、駆動軸17の外側に嵌合する軸受部26cを有している。
【0029】
可動スクロール26は、溝部26dにオルダムリング39が嵌め込まれることによりハウジング23に支持される。また、軸受部26cには駆動軸17の上端が嵌入される。可動スクロール26は、このようにスクロール圧縮機構15に組み込まれることによって駆動軸17の回転により自転することなくハウジング23内を公転する。そして、可動スクロール26の渦巻き部分26bは固定スクロール24の渦巻き部分24bに噛合させられており、両渦巻き部分24b,26bの接触部の間には圧縮室40が形成されている。そして、この圧縮室40では、可動スクロール26の公転に伴い、両渦巻き部分24b,26b間の容積が中心に向かって収縮する。本実施形態に係るスクロール圧縮機1では、このようにしてガス冷媒を圧縮するようになっている。
【0030】
圧縮室40は、可動スクロール26の公転する位置によって容積変化し、固定スクロール24の略中心の吐出口41付近の吐出直前の位置には、第1圧縮室であるA室40aと、第2圧縮室であるB室40bとを有している。
【0031】
図9に示されるA室40aは、可動スクロール26の渦巻き部分26bの中心側端部近傍の外周面26b1と固定スクロール24の渦巻き部分24bの中心部端部近傍の内周面24b2とによって囲まれることにより形成されている。また、図10に示されるように、可動スクロール26の公転がさらに進行すると、A室40aから圧縮されたが吐出され、冷媒流れFが吐出口41へ流れる。
【0032】
また、図11に示されるB室40bは、可動スクロール26の渦巻き部分26bの中心側端部近傍の内周面26b2と固定スクロール24の渦巻き部分24bの中心部端部近傍の外周面24b1とによって囲まれることにより形成されている。図11〜12に示されるように、B室40bから吐出する冷媒流れFは、可動スクロール26の鏡板26aの略中心付近に形成された座グリ凹部24a1(図1、図11〜12参照)および固定スクロール24の中心側先端と可動スクロール26の内周面の隙間を通して、吐出口41に流れる。
【0033】
実施形態の固定スクロール24および可動スクロール26の渦巻き部分24b、26bは、容量アップや効率向上のため、互いに非対称の形状をしており、たとえば、固定スクロール24の渦巻き部分24bの内壁の部分は、可動スクロール26の渦巻き部分26bと比較して、半周程度長くなるように延長している。
【0034】
c)ハウジング
ハウジング23は、その外周面において周方向の全体に亘って胴部ケーシング部11に圧入固定されている。つまり、胴部ケーシング部11とハウジング23とは全周に亘って気密状に密着されている。このため、ケーシング10の内部は、ハウジング23下方の高圧空間28とハウジング23上方の低圧空間29とに区画されていることになる。また、このハウジング23には、上端面が固定スクロール24の下端面と密着するように、固定スクロール24がボルト38により締結固定されている。また、このハウジング23には、上面中央に凹設されたハウジング凹部31と、下面中央から下方に延設された軸受部32とが形成されている。そして、この軸受部32には、上下方向に貫通する軸受孔33が形成されており、この軸受孔33に駆動軸17が軸受34を介して回転自在に嵌入されている。
【0035】
d)その他
また、このスクロール圧縮機構15には、固定スクロール24とハウジング23とに亘り、連絡通路46が形成されている。この連絡通路46は、固定スクロール24とハウジング23に切欠形成されたハウジング側通路48とが連通するように形成されている。そして、連絡通路46の上端は拡大凹部42に開口し、連絡通路46の下端、即ちハウジング側通路48の下端はハウジング23の下端面に開口している。つまり、このハウジング側通路48の下端開口により、連絡通路46の冷媒を間隙空間18に流出させる吐出口49が構成されていることになる。
【0036】
(3)オルダムリング
オルダムリング39は、上述したように、可動スクロール26の自転運動を防止するための部材であって、ハウジング23に形成されるオルダム溝(図示せず)に嵌め込まれている。なお、このオルダム溝は、長円形状の溝であって、ハウジング23において互いに対向する位置に配設されている。
【0037】
(4)駆動モータ
駆動モータ16は、本実施形態において直流モータであって、主に、ケーシング10の内壁面に固定された環状のステータ51と、ステータ51の内側に僅かな隙間(エアギャップ通路)をもって回転自在に収容されたロータ52とから構成されている。そして、この駆動モータ16は、ステータ51の上側に形成されているコイルエンド53の上端がハウジング23の軸受部32の下端とほぼ同じ高さ位置になるように配置されている。
【0038】
ステータ51には、ティース部に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド53が形成されている。また、ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所に切欠形成されているコアカット部が設けられている。そして、このコアカット部により、胴部ケーシング部11とステータ51との間に上下方向に延びるモータ冷却通路55が形成されている。
【0039】
ロータ52は、上下方向に延びるように胴部ケーシング部11の軸心に配置された駆動軸17を介してスクロール圧縮機構15の可動スクロール26に駆動連結されている。また、連絡通路46の吐出口49を流出した冷媒をモータ冷却通路55に案内する案内板58が、間隙空間18に配設されている。
【0040】
(5)下部主軸受
下部主軸受60は、駆動モータ16の下方の下部空間に配設されている。この下部主軸受60は、胴部ケーシング部11に固定されるとともに駆動軸17の下端側軸受を構成し、駆動軸17を支持している。
【0041】
(6)吸入管
吸入管19は、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構15に導くためのものであって、ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。吸入管19は、低圧空間29を上下方向に貫通すると共に、内端部が固定スクロール24に嵌入されている。
【0042】
(7)吐出管
吐出管20は、ケーシング10内の冷媒をケーシング10外に吐出させるためのものであって、ケーシング10の胴部ケーシング部11に気密状に嵌入されている。そして、この吐出管20は、胴体内面から中心に下方に向かって突き出した位置で開口されている。
【0043】
〔座グリ空間141についての説明〕
図2〜5に示されるように、座グリ空間141は、固定スクロール24の鏡板24aの上面に形成されている。座グリ空間141は、吐出口41に連通している。いいかえれば、圧縮室40から吐出される冷媒流れFは、固定スクロール24の鏡板24aに形成された吐出口41および座グリ空間141を通して、圧縮室40外部のマフラー空間45へ流れることができるようになっている。また、座グリ空間141は、吐出口41よりも広い開口面積を有する。圧縮室40内部から吐出される冷媒流れFは、固定吐出口41内部を旋回しながら上昇し、さらに座グリ空間141で拡大しながら、マフラー空間45へ吐出する。
【0044】
座グリ空間141は、圧縮室40から吐出する冷媒流れFの向きの方の座ぐり量を広くしており、吐出圧損を低減している。
【0045】
具体的には、図4〜5に示される座グリ空間141は、前述の可動スクロール26の渦巻き部分26bの外周面26b1と固定スクロール24の渦巻き部分24bの内周面24b2とによって形成された圧縮室40の第1圧縮室であるA室40aと吐出口41との連通直後において、可動スクロール26の渦巻き部分26bの中心側の先端と固定スクロール24の渦巻き部分24bとの隙間から吐出口41へ吐出される連通直後の冷媒流れF2(図4参照)が向かう側の座グリ部分141aの座グリ量(すなわち、座グリ部分141aにおける吐出口41の縁41aから鏡板24aの面内方向についての最大幅W1(図4参照))を、連通直後の冷媒流れF2が向かう側に対向する反対側の座グリ部分141bの座グリ量(すなわち、座グリ部分141bにおける吐出口41の縁41aから鏡板24aの面内方向についての最大幅W2(図4参照))よりも大きくなるように、設定されている。
【0046】
これにより、スクロール圧縮機1の吐出口41の座グリ空間141の形状を圧縮室40から吐出直後の冷媒流れFに対応して最適化することにより、冷媒流れFの縮流やよどみの発生を防止し、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。
【0047】
一方、図6〜7に示される比較例では、座グリ空間241のうち、A室40aと吐出口41の連通直後の冷媒流れFの向かう方向の座グリ部分241の座グリ量(すなわち、座グリ部分241aにおける吐出口41の縁41aから鏡板24aの面内方向についての最大幅W3(図6参照))が、A室40aと吐出口41の連通直後の冷媒流れF2と反対側の座グリ部分241bの座グリ量(すなわち、座グリ部分241bにおける吐出口41の縁41aから鏡板24aの面内方向についての最大幅W4(図6参照))よりも小さくなっている。このような座グリ空間241は、生産技術上その他の理由により吐出口41に対して連通直後の冷媒流れF2と反対側にのびており、従来の固定スクロールで用いられている。このような場合には、図7に示されるように、冷媒流れFと反対側にのびる座グリ部分241bの内部で主流である冷媒流れFと異なる流れである縮流Frが発生するので、吐出圧損が大きくなる。とくに、冷媒流れFと反対側にのびる座グリ部分241bの内部では、A室40aおよびB室40bの両方から同時に冷媒が吐出している時に、縮流Frの発生が顕著になり、この部分で冷媒流れの淀みが発生し、吐出圧損が大きくなる。
【0048】
また、座グリ空間141の座グリ量について、座グリ空間141の面積重心に着目して説明すれば、図4に示されるように、座グリ空間141の面積重心G2は、吐出口41の開口面の面積重心G1に対して、A室40aと吐出口41との連通直後に冷媒流れが向かう方向F2へずれている。これにより、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。
【0049】
ここで、面積重心G1は、吐出口41の開口面の平面形状についての重心である。なお、他の面積重心G2〜G4についても同様の定義である。
【0050】
一方、図6に示される比較例では、座グリ空間241の面積重心G3は、吐出口41の開口面の面積重心G1に対して、A室40aと吐出口41との連通直後の冷媒流れF2と異なり、それと反対方向に近い方向へずれており、座グリ空間241は、吐出圧損大きくなる方向へ拡大する。
【0051】
さらに、座グリ空間141の座グリ量について、固定スクロール24の渦巻き部分24bの内外周の曲面の形状に着目して説明すれば、図8に示されるように、固定スクロール24の座グリ空間141において、固定スクロール24の渦巻き部分24bの内周面24b2の内周側インボリュート曲線C1と可動スクロール26の中心側先端とが噛み合い可能な限界の点である圧縮終了点P1と固定スクロール24の外周面24b1における螺旋の開始点である外周側インボリュート開始点P2とを結ぶ線分L1、および固定スクロール24の内周面24b2によって囲まれた第1領域151の座グリ量(すなわち、座グリ部分141aにおける吐出口41の縁41aから鏡板24aの面内方向についての最大幅W1)は、座グリ空間141における前記第1領域151以外の他の領域である第2領域152における座グリ量(すなわち、座グリ部分141bにおける吐出口41の縁41aから鏡板24aの面内方向についての最大幅W2)よりも大きい。これにより、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。
【0052】
しかも、本実施形態では、図5および図8に示されるように、座グリ空間141においてA室40aと吐出口41との連通直後に冷媒流れFが向かう側における吐出口41の開口面よりも拡大された部分である座グリ部分141aは、固定スクロール24の渦巻き部分24bに対応する位置、例えば、座グリ側から見て固定スクロール24の鏡板24aを挟んで渦巻き部分24bと重なる位置まで拡大して形成されている。これにより、座グリ量を十分確保でき、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。すなわち、座グリ空間141は、吐出口41の中心から冷媒流れFの方向へ座グリ空間141の中心をずらし、固定スクロール24の渦巻き部分24bの歯裏側とかぶった位置までのびた位置関係になっている。
【0053】
〔スクロール圧縮機1の運転動作〕
つぎに、スクロール圧縮機1の運転動作について図1を参照しながら簡単に説明する。まず、駆動モータ16が駆動されると、駆動軸17が回転し、可動スクロール26が自転することなく公転運転を行う。すると、低圧のガス冷媒が、吸入管19を通って圧縮室40の周縁側から圧縮室40に吸引され、圧縮室40の容積変化に伴って圧縮され、高圧のガス冷媒となる。そして、この高圧のガス冷媒は、圧縮室40の中央部から吐出口41および座グリ空間141を通ってマフラー空間45へ吐出され、その後、連絡通路46、ハウジング側通路48、吐出口49を通って間隙空間18へ流出し、案内板58と胴部ケーシング部11の内面との間を下側に向かって流れる。そして、このガス冷媒は、案内板58と胴部ケーシング部11の内面との間を下側に向かって流れる際に、一部が分流して案内板58と駆動モータ16との間を円周方向に流れる。なお、このとき、ガス冷媒に混入している潤滑油が分離される。一方、分流したガス冷媒の他部は、モータ冷却通路55を下側に向かって流れ、モータ下部空間にまで流れた後、反転してステータ51とロータ52との間のエアギャップ通路、または連絡通路46に対向する側(図1における左側)のモータ冷却通路55を上方に向かって流れる。その後、案内板58を通過したガス冷媒と、エアギャップ通路又はモータ冷却通路55を流れてきたガス冷媒とは、間隙空間18で合流して吐出管20から、ケーシング10外に吐出される。そして、ケーシング10外に吐出されたガス冷媒は、冷媒回路を循環した後、再度吸入管19を通ってスクロール圧縮機構15に吸入されて圧縮される。
【0054】
<特徴>
(1)
実施形態のスクロール圧縮機1では、A室40aと吐出口41との連通直後において、可動スクロール26の渦巻き部分26bの中心側の先端と固定スクロール24の渦巻き部分24bとの隙間から吐出口41へ吐出される冷媒流れFが向かう側の座グリ部分141aの座グリ量を、冷媒流れFが向かう側に対向する反対側の座グリ部分141bの座グリ量よりも大きくなるように、設定されているので、スクロール圧縮機1の吐出口41の座グリ空間141の形状を圧縮室40から吐出直後の冷媒流れFに対応して最適化することにより、縮流やよどみの発生を防止し、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。その結果、スクロール圧縮機構15における冷媒の過圧縮を低減し、スクロール圧縮機1およびそれを内蔵した空気調和機の性能を向上することが可能である。また、脈動や膨張音を低減することが可能であり、騒音を低減することも可能である。とくに、非対称形状のスクロールのスクロール圧縮機では、縮流やよどみが発生しやすいが、上記実施形態の構造を採用することにより、縮流やよどみの発生を効果的に防止することが可能である。
【0055】
(2)
実施形態のスクロール圧縮機1では、座グリ空間141の面積重心G2は、吐出口41の開口面の面積重心G1に対して、A室40aと吐出口41との連通直後に冷媒流れF2が向かう方向へずれているので、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。その結果、スクロール圧縮機構15における冷媒の過圧縮を低減し、スクロール圧縮機1およびそれを内蔵した空気調和機の性能を向上することが可能である。また、脈動や膨張音を低減することが可能であり、騒音を低減することも可能である。
【0056】
さらに、座グリ空間141の面積重心G2を、吐出口41の開口面の面積重心G1に対して、A室40aと吐出口41との連通直後に冷媒流れが向かう方向F2へずらすように設定することにより、座グリ空間141の位置および形状を吐出口41の開口面に対する相対的な位置関係等により容易に設定することが可能になる。
【0057】
(3)
実施形態のスクロール圧縮機1では、固定スクロール24の座グリ空間141において、固定スクロール24の渦巻き部分24bの内周面24b2の内周側インボリュート曲線C1と可動スクロール26の中心側先端とが接触可能な限界の点である圧縮終了点P1と固定スクロール24の外周面24b1における螺旋の開始点である外周側インボリュート開始点P2とを結ぶ線分L1、および固定スクロール24の内周面24b2によって囲まれた第1領域151の座グリ量は、座グリ空間141における前記第1領域151以外の他の領域である第2領域152における座グリ量よりも大きいので、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。その結果、スクロール圧縮機構15における冷媒の過圧縮を低減し、スクロール圧縮機1およびそれを内蔵した空気調和機の性能を向上することが可能である。また、脈動や膨張音を低減することが可能であり、騒音を低減することも可能である。
【0058】
具体的には、固定スクロール24の座グリ空間141において、固定スクロール24の渦巻き部分24bの内周面24b2の内周側インボリュート曲線C1と可動スクロール26の中心側先端とが接触可能な圧縮終了点P1と固定スクロール24の外周面24b1における螺旋の開始点である外周側インボリュート開始点P2とを結ぶ線分L1、および固定スクロール24の内周面24b2によって囲まれた第1領域151の座グリ量を、他の部分よりも大きく拡大することにより、圧縮終了点P1において、A室40aと吐出口41とが連通した瞬間の冷媒流れF(例えば、図9の冷媒流れF参照)が確実に第1領域151側へ流れるので、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。
【0059】
(4)
実施形態のスクロール圧縮機1では、座グリ空間141においてA室40aと吐出口41との連通直後に冷媒流れFが向かう側における吐出口41の開口面よりも拡大された部分である座グリ部分141aは、固定スクロール24の渦巻き部分24bに対応する位置、例えば、座グリ側から見て固定スクロール24の鏡板24aを挟んで渦巻き部分24bと重なる位置まで拡大して形成されている。これにより、座グリ量を十分確保でき、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。その結果、スクロール圧縮機構15における冷媒の過圧縮を低減し、スクロール圧縮機1およびそれを内蔵した空気調和機の性能を向上することが可能である。また、脈動や膨張音を低減することが可能であり、騒音を低減することも可能である。
【0060】
<変形例>
(A)
なお、座グリ空間141は、上述の実施形態のように、固定スクロール24の鏡板24aにおける渦巻き部分24bが設けられた側とは反対側の端部に直接設けられても良いし、または、変形例として、鏡板に隣接する部材に設けられても良い。例えば、座グリ空間141を固定スクロール24の鏡板24aに隣接する板状部材に設け、かつ、鏡板24a側の吐出口41と連通させることにより、上述の実施形態と同様に、吐出圧損を大幅に低減することが可能である。
【0061】
(B)
なお、本実施形態では、圧縮終了点P1として、固定スクロール24の渦巻き部分24bの内周面24b2の内周側インボリュート曲線C1と可動スクロール26の中心側先端とが接触可能な限界の点を例にあげて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、固定スクロールの内壁と可動スクロールの中心側先端とが噛み合い可能な限界の点であればよい。したがって、本発明の変形例として、インボリュート曲線上から外れたところに圧縮終了点がくる場合として、たとえば円弧圧縮を採用する場合には、インボリュート部の内周側に更に圧縮に用いる曲線部が存在するが、この場合、その曲線部の内壁に圧縮終了点がくることになる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、固定スクロールの鏡板に吐出口を有するスクロール圧縮機に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態に係わるスクロール圧縮機の全体構成図。
【図2】図1の固定スクロールの縦断面図。
【図3】図1の固定スクロールの平面図。
【図4】図1の固定スクロール上方から吐出口および座グリ空間を見た図。
【図5】図4のV-V線断面図。
【図6】本発明の比較例である固定スクロール上方から吐出口および座グリ空間を見た図。
【図7】図6のVII-VII線断面図。
【図8】図1の固定スクロールの中心付近を下から見た図。
【図9】図1の固定スクロール渦巻き部分および可動スクロールの渦巻き部分によって第1圧縮室であるA室が形成されている図。
【図10】図9の固定スクロール渦巻き部分および可動スクロールの渦巻き部分によって形成されたA室から冷媒が吐出口へ流れる状態を示す図。
【図11】図1の固定スクロール渦巻き部分および可動スクロールの渦巻き部分によって第2圧縮室であるB室が形成されている図。
【図12】図11の固定スクロール渦巻き部分および可動スクロールの渦巻き部分によって形成されたB室から冷媒が吐出口へ流れる状態を示す図。
【符号の説明】
【0064】
1 スクロール圧縮機
24 固定スクロール
24a 鏡板
24a1 座グリ凹部
24b 渦巻き部分
24b1 外周面
24b2 内周面
26 可動スクロール
26a 鏡板
26b 渦巻き部分
26b1 外周面
26b2 内周面
40 圧縮室
40a A室(第1圧縮室)
40b B室(第2圧縮室)
41 吐出口
141 座グリ空間
141a 座グリ部分(広い方)
141b 座グリ部分(狭い方)
P1 圧縮終了点
P2 外周側インボリュート開始点
P3 中心側端部
L1 線分
W1〜W4 座グリ量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の鏡板(24a)と、前記鏡板(24a)の一方の平面に設けられた渦巻き状の渦巻き部分(24b)とを有し、前記鏡板(24a)の略中心に吐出口(41)が貫通して形成された固定スクロール(24)と、
平板状の鏡板(26a)と、前記鏡板(26a)の一方の平面に設けられ、前記固定スクロール(24)の渦巻き部分(24b)の内部の隙間に配置された渦巻き状の渦巻き部分(26b)とを有し、前記固定スクロール(24)に対して公転可能な可動スクロール(26)と、
を備えており、
前記固定スクロール(24)の鏡板(24a)の他方の平面には、前記吐出口(41)に連通し、前記吐出口(41)よりも広い開口面積を有する座グリ空間(141)が形成され、
前記座グリ空間(141)は、前記可動スクロール(26)の渦巻き部分(26b)の外周面と前記固定スクロール(24)の渦巻き部分(24b)の内周面とによって形成された第1圧縮室(40a)と前記吐出口(41)との連通直後において、前記可動スクロール(26)の渦巻き部分(26b)の中心側の先端と前記固定スクロール(24)の渦巻き部分(24b)との隙間から前記吐出口(41)へ吐出される冷媒流れが向かう側の座グリ量(W1)を、前記冷媒流れが向かう側に対向する反対側の座グリ量(W2)よりも大きくなるように、設定されている、スクロール圧縮機(1)。
【請求項2】
前記座グリ空間(141)の面積重心は、前記吐出口(41)の開口面の面積重心に対して、前記第1圧縮室(40a)と前記吐出口(41)との連通直後に前記冷媒流れが向かう側へずれている、
請求項1に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項3】
前記座グリ空間(141)において、前記固定スクロール(24)の内周側インボリュート曲線と前記可動スクロール(26)の中心側先端とが噛み合い可能な圧縮終了点(P1)と前記固定スクロール(24)の外周面における螺旋の開始点である外周側インボリュート開始点(P2)とを結ぶ線分(L1)、および前記固定スクロール(24)の内周面によって囲まれた第1領域(151)の座グリ量は、前記座グリ空間(141)における前記第1領域以外の他の領域である第2領域(152)における座グリ量よりも大きい、
請求項1または2に記載のスクロール圧縮機(1)。
【請求項4】
前記座グリ空間(141)において前記第1圧縮室(40a)と前記吐出口(41)との連通直後に前記冷媒流れが向かう側における前記吐出口(41)の開口面よりも拡大された部分である座グリ部分(141a)は、前記固定スクロール(24)の前記渦巻き部分(24b)に対応する位置まで拡大して形成されている、
請求項1から3のいずれかに記載のスクロール圧縮機(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−65560(P2010−65560A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231143(P2008−231143)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】