説明

スケール付着状態の検出方法および装置

【課題】電磁超音波共鳴法により非接触でも、高精度かつ短時間に、ボイラの蒸気系配管等の基材に付着したスケールの厚さ変化、剥離、浮き上り状態等のスケールの付着状態を検出する方法を提案する。
【解決手段】 スケールが付着した対象物1に、電磁超音波探触子2により超音波13を送信するとともに受信し、送信する周波数を掃引することにより超音波共鳴を発生させて共鳴スペクトルを得、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ設備、蒸気系統配管、特に火力発電ボイラの蒸気系配管等の基材に付着したスケールの付着状態、特にスケールの浮き上り部、剥離境界部、段差部、厚さ変化部等のスケールの不均質付着部を、電磁超音波共鳴法により検出する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所等のボイラ管の内面には、金属酸化物、水酸化物等から成るスケールが付着し、これが熱伝達性を低下させることによりボイラ効率が低下する。なかでもボイラの過熱器管等の蒸気系統に生成する水蒸気酸化スケールは、熱伝達性の低下だけでなく、管とスケールの熱膨張率の違いからスケールが浮き上り、やがて剥離脱落して高速の蒸気とともに後段のタービンに飛来してタービンブレードの磨耗腐食を引き起こす。タービンブレードは定期検査時には多額の費用を投じて検査および保修されているが、スケール飛来の早期発見のため、スケールが浮き上った段階で検出できる方法が望まれている。
【0003】
またスケールが剥離、脱落すると段差部、著しい厚さ変化部等が生じるが、このような不均質付着部では、他にもスケールの浮き上がりが生じている場合が多く、剥離脱落のおそれがある。このためスケールの浮き上り部、剥離境界部、段差部、厚さ変化部等のスケールの不均質付着部が生成した段階で、これを早期に検出できる方法が望まれている。
【0004】
従来、スケールの付着の有無、厚さなどは、圧電素子を用いる超音波検査装置により、超音波パルスを発信し、その反射エコーを受信し、両者の時間差を算出することにより検出されていたが、この方法ではプローブを配管の外表面に接触させる必要があるため、検査にあたっては事前に配管外表面を平滑にした後洗浄して配管外表面にグリセリンペーストや油などの接触媒質を塗る必要があり、作業は非常に煩雑であった。
【0005】
このような従来の圧電素子を用いる超音波検査装置の問題点を改善するために、特許文献1には、電磁超音波探触子(Electro-Magnetic Acoustic Transducer)により配管の外側から配管の周方向および長手方向に走査して、非接触でボイラ配管等の基材に付着したスケールの厚さ、剥離、浮き上り状態等のスケールの付着状態を検出する方法が示されている。この方法は、電磁超音波探触子により対象物に超音波パルスを発生させ、反射波を検出するエコー法により配管等の水蒸気酸化スケールの厚さ、剥離、浮き上がり等を検査する方法であり、超音波パルスのエコー(反射波)を検出することにより、エコーの時間差からスケールの厚さ、剥離、浮き上がり等を検査するようにしている。
【0006】
しかしこの方法によれば、超音波パルスとエコー(反射波)の時間差により基材やスケールの厚さを検出するため、超音波の波長による検出限界があり、スケール厚さが厚い場合には検出超音波パルスの検出は可能であるが、スケール厚さが薄い場合にはエコー(反射波)の干渉により検出精度が低下し、波が重なると検出不能になる。例えば厚さ100μm以下のスケールの場合、スケールと管材との境界エコーと、スケール表層のエコーが合成波となって両者が明瞭に分離できなくなり、スケール厚さはもとより、スケールの剥離や浮き上がり等の検知もできない。この場合、スケール層が100μm以上と厚い場合でも、剥離や浮き上がり層が100μm以下であれば検出できない。
【0007】
一方特許文献2には、このような電磁超音波エコー法とは異なる方法として、複数の層に共通の共鳴周波数の電磁超音波を用いて、不導電性界面を介して重ねられた導電性材料の積層構造体の腐食、疲労等の損傷状態を診断する方法が示されている。この方法は、電磁超音波探触子により超音波を発生させて積層構造体の一方の側面から送信し、他方の側面により反射される超音波を受信し、受信された超音波の音速および減衰の変化に基いて積層構造体の損傷状態を診断する方法である。しかし特許文献2には、基材に付着したスケールの厚さ変化、剥離、浮き上り状態等のスケールの付着状態を検出する方法は示されていない。
【0008】
非特許文献1には、電磁超音波共鳴法により、ボイラ配管等に付着した水蒸気酸化スケールの厚さを測定する方法が示されている。ここでは特許文献1、2に示されているような電磁超音波探触子により、電磁誘導信号として電磁波を送信し積層構造体の一方の側面に超音波を発生させるとともに、発生した超音波ならびに他方の側面により反射される超音波を含む構造体内の超音波から得られる起電力等の超音波信号を対象物から受信し、電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引することにより超音波共鳴を発生させ、周波数の異なる複数の共鳴ピークから基材および酸化スケールの厚さを測定する方法が示されている。
【0009】
しかし非特許文献1には、特定の厚さの酸化スケールが付着したボイラ配管から得られる複数の共鳴ピークは、基材層とスケール層の不連続性により周波数軸にそってシフトすること、このため各ピークから算出される厚みは変化するため、これを補正することが示されているが、浮き上り部、剥離境界部、段差部、厚さ変化部等のスケールの不均質付着部を検出する方法は示されていない。
【特許文献1】特開2004−45124号公報
【特許文献2】特開2003−254943号公報
【非特許文献1】検査技術2003.5.第36〜39頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、従来技術では電磁超音波共鳴法をスケール付着部の厚さ測定に利用するだけであり、しかもその厚さを正確に測定するためには単一共鳴ピークがでるような出力や周波数を選定して行っていた。従来の厚さ測定のやり方では、測定装置の出力を高くすると分割共鳴ピーク群が出ることがあるが、この場合には、付着部の厚さを正確に測定することができないため、その出力を単一共鳴ピークだけが出るような値にまで低く抑えて行うのが通常であった。
このように従来技術は、スケール付着部の厚さ測定に関するものであり、浮き上がり、剥離、段差部、厚み変化等のスケールの不均質付着の状態を電磁超音波共鳴法により検出することはできなかった。また従来技術では、単一共鳴ピークを利用するだけで、分割共鳴ピーク群の有意性について全く認識されていなかったのが実情である。
【0011】
本発明者は、電磁超音波共鳴法による上記従来技術を活用している中で、従来その有用性が全く認識されていなかった分割共鳴ピーク群がスケール付着部の状態次第で出たり出なかったりする現象を突き止めた。そこでスケール付着部の状態が異なる幾つかの試験片で実験を行ったところ、分割共鳴ピーク群が出る、出ないという現象がスケールの浮き上がり、剥離、段差部、厚み変化等のスケール付着部の状態変化と密接な関係にあることを知見し、本発明に至ったものである。そしてその後さらに実験を繰り返す中で、分割共鳴ピーク群がはっきり出る好ましい超音波周波数領域としては1.0〜3.5MHz、さらに好ましくは1.5〜2.5MHzであることも判明した。
本発明の目的は、電磁超音波共鳴法により非接触でも、高精度かつ短時間に、ボイラの蒸気系配管等の基材に付着したスケールの付着状態、特にスケールの浮き上り部、剥離境界部、段差部、厚さ変化部等のスケールの不均質付着部を検出するスケールの付着状態検出方法および装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は次のスケール付着状態の検出方法および装置である。
(1) 基材にスケールが付着した対象物に対向して電磁超音波探触子を配置し、
電磁超音波探触子により、電磁誘導信号を送信して対象物に超音波を生じさせるとともに、対象物から超音波信号を受信し、
電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引し、超音波共鳴を発生させて共鳴スペクトルを得、
共鳴次数の異なる共鳴ピークに基づいてスケール付着状態を検出することを特徴とするスケール付着状態の検出方法。
(2) 共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定する上記(1)記載の方法。
(3) 基材にスケールが付着した対象物の異なる位置に電磁超音波探触子を移動させて配置し、
電磁超音波探触子により、電磁誘導信号を送信して対象物に超音波を生じさせるとともに、対象物から超音波信号を受信し、
電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引し、超音波共鳴を発生させることにより共鳴スペクトルを得、
共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、単一ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に均質付着部と判定し、
共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定することを特徴とするスケール付着状態の検出方法。
(4) 電磁超音波探触子が、磁界中で送信コイルに高周波電流を通電して発生する電磁波を電磁誘導信号として送信し、電磁誘導により対象物に渦電流を発生させ、ローレンツ力により対象物中に超音波振動を生じさせ、これにより励起された起電力を超音波信号として受信コイルで誘導電流として取り出すローレンツ型のものである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群をそれぞれ構成する複数の個別共鳴ピークのうち、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差と、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差とから、基材および付着したスケールを含む全体の肉厚を演算し、肉厚の差からスケールの付着状態を判定する上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 対応関係にある個別共鳴ピークが、隣接する共鳴ピーク群中の対応関係にある個別共鳴ピークペアである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 対象物に1.0〜3.5MHzの超音波を生じさせる上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 基材にスケールが付着した対象物に電磁誘導信号を送信するとともに、超音波信号を受信する電磁超音波探触子と、
基材にスケールが付着した対象物に、電磁超音波探触子から電磁誘導信号を送信して超音波を生じさせるとともに、電磁超音波探触子で対象物から超音波信号を受信する送受信制御装置と、
電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引することにより超音波共鳴を発生させて共鳴スペクトルを得、共鳴次数の異なる共鳴ピークに基づいてスケール付着状態を検出する演算制御装置とを含むことを特徴とするスケール付着状態の検出装置。
(9) 演算制御装置が、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定するものである上記(8)記載の装置。
(10) 基材にスケールが付着した対象物に電磁誘導信号を送信するとともに、超音波信号を受信する電磁超音波探触子と、
基材にスケールが付着した対象物の異なる位置に電磁超音波探触子を移動させて配置する移動配置装置と、
基材にスケールが付着した対象物に、電磁超音波探触子から電磁誘導信号を送信して超音波を生じさせるとともに、電磁超音波探触子で対象物から超音波信号を受信する送受信制御装置と、
電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引することにより超音波共鳴を発生させて共鳴スペクトルを得、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、単一ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に均質付着部と判定し、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定する演算制御装置とを含むことを特徴とするスケール付着状態の検出装置。
(11) 電磁超音波探触子が、磁界中で送信コイルに高周波電流を通電して発生する電磁波を電磁誘導信号として送信し、電磁誘導により対象物に渦電流を発生させ、ローレンツ力により対象物中に超音波振動を生じさせ、これにより励起された起電力を超音波信号として受信コイルで誘導電流として取り出すローレンツ型のものである上記(8)ないし(10)のいずれかに記載の装置。
(12) 演算制御装置が、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群をそれぞれ構成する複数の個別共鳴ピークのうち、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差と、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差とから、基材および付着したスケールを含む全体の肉厚を演算し、肉厚の差からスケールの不均質付着状態を判定するものである上記(8)ないし(11)のいずれかに記載の装置。
(13) 対応関係にある個別共鳴ピークが、隣接する共鳴ピーク群中の対応関係にある個別共鳴ピークペアである上記(8)ないし(12)のいずれかに記載の装置。
(14) 送受信制御装置が、対象物に1.0〜3.5MHzの超音波を生じさせるものである上記(8)ないし(13)のいずれかに記載の装置。
【0013】
本発明においてスケール付着状態検出の対象となる対象物は、基材にスケールが付着したものであり、ボイラ設備、蒸気系統配管、特に火力発電ボイラの蒸気系配管など、金属酸化物、水酸化物等から成るスケールが付着した構造物である。このような基材としては鋼材、銅材、その他の金属からなるものが多いが、コンクリート、木材、その他の材料からなるものであってもよい。
【0014】
上記の対象物としては、基材の内面にスケールが付着した配管、タンク等の構造物が、検出の対象として適しているが、外面にスケールが付着したものであってもよい。ボイラ配管としては、過熱器管、再熱器管、蒸発管等があげられる。本発明では、これらの基材のスケールが付着した面と反対側の面(一般的には外面)に対向して電磁超音波探触子を配置し、非接触でスケールの不均質付着部を検出するが、スケールが付着した面と反対側の面(内面)は酸化物、汚れ等が付着せず、均一な面であることが好ましい。
【0015】
ボイラ管の内面に金属酸化物、水酸化物等から成るスケールが付着すると、熱伝達性が低下しボイラ効率が低下する。この点を除けば、付着したスケールはボイラ等の定期検査時に化学洗浄により除去されるため、剥離、脱落の危険性が差し迫っていない限り、緊急に対処しなくても良い場合が多い。しかしスケールが浮き上がると、剥離脱落してタービンブレードの磨耗腐食を引き起こすので、スケールの浮き上がりを早期に検出することが望まれる。
【0016】
またスケールが剥離、脱落すると段差部が現れ、スケールの厚さ変化部が生じるが、このような部分では他にもスケールが浮き上がりが生じている場合が多く、剥離脱落のおそれがある。このため本発明では、スケールの浮き上り部、剥離境界部、段差部、厚さ変化部等のスケールの不均質付着部を含む不均質付着状態を検出対象とするが、不均質付着部と対比するために、スケールの均質付着部あるいは非付着部を含む均質付着状態をも検出対象とすることができる。
【0017】
本発明において検出対象とする基材およびスケールの材質、種類、厚さ等は、電磁超音波共鳴が発生する範囲であれば制限はなく、スケール層の厚さが100μm以下の場合でも検出可能である。検出対象となる基材の厚さは一般的には1〜60mm、好適には3〜30mm、スケール層の厚さは0.01〜1.0mm、好適には0.05〜0.6mm程度である。
【0018】
本発明ではスケールの浮き上り部、段差部、厚さ変化部等のスケールの不均質付着部は、基材およびスケールの厚さを含む全体の肉厚を測定し、不均質付着部における厚い方の肉厚と薄い方の肉厚との肉厚差として検出するが、このとき測定する全体の肉厚は一般的には1〜60mm、好適には3〜30mm、肉厚差は10〜1000μm、好適には50〜600μm程度とすることができる。
【0019】
このような金属等の基材にスケールが付着した対象物を、電磁超音波探触子により電磁波等の電磁誘導信号を送信して超音波を生じさせ、電磁超音波共鳴法により対象物の肉厚を測定する際、スケールが均一に付着した対象物の場合には、単一の共鳴ピークがほぼ一定の周波数間隔で繰り返し現れ、その共鳴周波数から肉厚を計算する方法が前記非特許文献1に示されている。従ってこの方法により付着したスケールを含む対象物全体の肉厚を複数の部位において測定し、肉厚差を調べればスケールの剥離の有無を判定できることになる。しかし共鳴ピークが現れる位置は測定条件によって微妙に変動し、特にスケールの肉厚、肉厚差などが小さいときは、肉厚差を正確に判定することは困難である。
【0020】
上記のように均質な基材層にスケール層が均一に付着している位置では、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られるが、電磁超音波探触子の検出領域として、スケールの浮き上がり部、剥離境界部、脱落による段差部、あるいはスケールの厚さ変化等の不均質付着部位に電磁超音波探触子を配置して検出を行うと、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られることが分かった。本発明ではこのような分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られる場合に、不均質付着部と判定することにより、高精度かつ短時間に、スケールの付着状態を検出する。
【0021】
電磁超音波共鳴法は、電磁超音波探触子の検出領域内の超音波共鳴を検出する方法であり、検出領域内の構造が単純であれば単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られることになる。これは検出領域内において、基材にスケールが付着していない場合、スケールが均一に付着している場合、あるいは剥離した場合でも均一に剥離脱落している場合には、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られることになる。
【0022】
これに対して電磁超音波探触子の検出領域内に、スケールの浮き上がり部、剥離境界部、脱落による段差部、あるいはスケールの厚さ変化等の不均質付着部位が存在すると、多くの共鳴が生じ、複数の共鳴ピークが現れることになる。例えば剥離境界部や段差部では、正常な均質付着部による共鳴と、剥離、脱落による薄肉厚部による共鳴が生じ、薄肉厚部が複数存在する場合は、複数の共鳴が生じることになり、分割された共鳴ピーク群の繰り返しが生じる。浮き上がり部は均質付着部と剥離部が小さい間隔で集まった状態であり、不均質付着部となり、分割された共鳴ピーク群の繰り返しが生じる。
【0023】
このため本発明では、分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られる場合に、不均質付着部と判定することにより、高精度かつ短時間に、スケールの付着状態を検出する。このような不均質付着部のみを検出するだけで、スケールの付着状態を検出することができるが、電磁超音波探触子を移動させて検出部位を変えて検出し、正常な均質付着部の共鳴スペクトルを得て対比することにより不均質付着部の存在および分布を確認することができる。
【0024】
本発明においてスケール付着状態の検出に用いる電磁超音波探触子(Electro-Magnetic Acoustic Transducer)は、非接触で電磁波等の電磁誘導信号を送信して対象物に超音波を生じさせるとともに、対象物において2次的に発生する起電力、電磁波等の超音波信号を受信する装置であり、従来より電磁超音波共鳴法(Electro-Magnetic Acoustic Resonance)に用いられていたものを用いることができる。
【0025】
このような電磁超音波探触子としては、磁界中で送信コイルに高周波電流を通電して発生する電磁波を電磁誘導信号として送信し、電磁誘導により対象物に渦電流を発生させ、ローレンツ力により対象物中に超音波振動を生じさせ、これにより励起された起電力を超音波信号として受信コイルで誘導電流として取り出すローレンツ型のものが好ましいが、伸び縮みの周期的な繰り返しを利用する磁歪型のものでもよい。
【0026】
電磁超音波探触子は非接触型のもので、対象物の外部から非接触状態で電磁波等の電磁誘導信号を送信して対象物に超音波を発生させるとともに、発生した超音波ならびに他方の側面により反射される超音波を含む構造体内の超音波から得られる起電力、電磁波等の超音波信号を対象物から受信するように構成されるのが好ましいが、接触状態で超音波を生じさせ、および受信を行うように構成してもよい。電磁超音波探触子の形式、形状、構成等は限定されず、上記の超音波信号の送信および受信に適したものを採用することができる。
【0027】
送信コイルおよび受信コイルは別々のもの、あるいは送受信コイルとして一体化したものなどがあるが、基材およびスケールに併せて選択することができる。電磁超音波探触子は、対象物の任意の検出位置に手動で対向させて検出を行ってもよいが、対象物の異なる位置に電磁超音波探触子を移動させて配置するように構成した移動配置装置により、電磁超音波探触子および/または対象物を機械的に取り付け、検出位置に電磁超音波探触子および/または対象物を移動させて位置決めし、あるいは走査するようにしてもよい。
【0028】
このような電磁超音波探触子は、電源装置、高周波発生回路を含む送受信制御装置により高周波電流を給電して、基材にスケールが付着した対象物に電磁波等の電磁誘導信号を送信して超音波を生じさせるとともに、超音波により発生する起電力、電磁波等の超音波信号を電磁超音波探触子で受信し、誘導電流として検出して解析するように構成される。電磁誘導信号は、対象物に発生させる超音波と、反射する超音波とにより共鳴が起こるものであれば、バースト波、パルス、連続波など、任意の波形の信号とすることができるが、バースト波が好ましい。バースト波は、単一周波数の波形(正弦波、矩形波、三角波など)が定められた時間だけ持続する電磁誘導信号である。バースト波の時間幅は、共鳴が生じる範囲であればよいが、一般的には40〜400μs、好ましくは40〜200μsとすることができる。バースト波、パルス、連続波などの電磁誘導信号の出力等は、電磁超音波探触子の形式、特性等、および対象物の材質、寸法、反射特性等により変化するので、これらに応じて共鳴が生じるように出力等を選ぶことができる。
【0029】
送受信制御装置は、演算制御装置からの信号により電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の電磁波の周波数を変化させて掃引するように構成される。掃引する周波数は、好ましくは0.5〜10MHz間とすることができるが、一般的には1.0〜3.5MHz、さらに好ましくは1.5〜2.5MHzとするのが好ましい。共鳴ピークが得られる周波数範囲は基材およびスケールの種類、材質、厚み等により変わるので、判別可能な共鳴ピークが得られる周波数範囲、特に共鳴次数の異なる共鳴ピークにおいて、分割された個別共鳴ピークが認識できる周波数範囲を選び、周波数を小刻みに変化させて掃引するのが好ましい。送受信制御装置では周波数分解能は、基材およびスケールの種類、材質、厚み、ならびに装置の特性等に合わせて判別可能な値に設定するように構成することができる。周波数分解能は、測定周波数を小刻みに変化させるときの測定周波数間隔で決まる。この周波数間隔は基材およびスケールの種類、材質、厚み、ならびに装置の特性等により変わるが、一般的には1〜10kHz、好ましくは2〜8kHzとすることができる。この周波数分解能は共鳴次数の異なる共鳴ピークにおいて、分割された個別共鳴ピークが認識できる周波数間隔とすることができる。具体的な決定の仕方は、広い周波数間隔から順次狭い周波数間隔に変化させて分割された個別共鳴ピークが認識できる周波数間隔を選択することができる。
【0030】
演算制御装置は、電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の電磁波の周波数を変化させて掃引することにより超音波共鳴を発生させて共鳴スペクトルを得、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、スケールの不均質付着部と判定するように構成される。
【0031】
演算制御装置はさらに共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、単一ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、スケールの均質付着部と判定するように構成することもできる。また演算制御装置は、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群をそれぞれ構成する複数の個別共鳴ピークのうち、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差と、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差とから、基材および付着したスケールを含む全体の肉厚を演算し、肉厚の変化としてスケールの不均質付着状態を判定するものが好ましい。
【0032】
このような演算制御装置および送受信制御装置により電磁超音波探触子を制御し、基材にスケールが付着した対象物に電磁誘導信号を送信して対象物に電磁超音波を生じさせるとともに、対象物から超音波信号を受信し、演算制御装置からの信号により電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引すると、特定の周波数範囲、周波数間隔で超音波共鳴が発生する。超音波共鳴は対象物が有する固有の共鳴周波数と、掃引周波数とが一致するとき、ならびにその整数倍の周波数のときに発生する。このとき超音波共鳴が発生する周波数範囲は限られているので、それぞれの測定系において判別可能な共鳴ピークが得られる周波数範囲、特に共鳴次数の異なる共鳴ピークにおいて、分割された個別共鳴ピークが認識できる周波数範囲を選び、掃引周波数範囲を決める。周波数分解能も同様であり、それぞれの測定系において判別可能な共鳴ピークが得られる測定周波数間隔、特に共鳴次数の異なる共鳴ピークにおいて、分割された個別共鳴ピークが認識できる測定周波数間隔を決める。
【0033】
対象物が均一な材質および肉厚を有する場合、例えばスケールが付着しない均質な基材からなる場合、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られる。各共鳴次数の共鳴ピークは、その後述の(A)式に示すように、周波数間隔が一定であって、各共鳴ピークの周波数と対象物の肉厚とは逆比例関係にあり、各共鳴ピークの周波数から肉厚が求められる。
【0034】
これに対して基材にスケールが付着した対象物の場合、基材とスケールの音速の差があるため、層間の不連続性に起因して各共鳴ピークの位相がシフトし、各共鳴ピークの周波数と対象物の肉厚とは逆比例関係にないため、各共鳴ピークの周波数から計算される肉厚が変化するが、前記非特許文献1では、計算による最大肉厚値に特定の係数を乗じることにより、実際の肉厚値を求めることが示されている。ところが各共鳴ピークの位相がシフトする場合でも、共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差、特に隣接する共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差はほぼ等しくなり、共鳴周波数の差から肉厚を演算することができる。特に本発明で対象とするような薄いスケールの厚さでは、実質的に共鳴周波数の差は小さくなるので、共鳴周波数の差から高い精度で基材および付着したスケールを含む全体の肉厚を演算することができる。
【0035】
基材層とスケール層がそれぞれ均一な材質および肉厚を有する均質付着状態の場合、これに対向する位置に電磁超音波探触子を配置して検出を行うと、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られ、各共鳴次数の周波数間隔はほぼ一定になる。このような単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られたときには、演算制御装置により、均質付着部と判定することができる。このような均質付着部では、電磁誘導信号により発生する超音波が反対側のスケール層から反射する反射波(エコー)は単一波となるため、単一の共鳴ピークが形成され、これが繰り返される。
【0036】
このため均質付着部と判定される位置としては、電磁超音波探触子の検出領域において、均質な基材層にスケール層が剥離することなく均一に付着している位置、または剥離している場合でも、電磁超音波探触子の検出領域において、均質な基材層にスケール層が剥離後の状態で均一に付着している位置等がある。すなわち剥離していない場合でも、剥離している場合でも、電磁超音波探触子の検出領域において、均質な基材層にスケール層が均一に付着している位置では、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られ、演算制御装置により均質付着部と判定される。
【0037】
これに対してスケールの浮き上がり部、剥離境界部、脱落による段差部、あるいはスケールの厚さ変化等の不均質付着部の位置に電磁超音波探触子を配置して検出を行うと、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られる。
【0038】
すなわち電磁超音波探触子の検出領域内に、スケールの浮き上がり、剥離、脱落等により剥離境界部、段差部、厚さが変化部分などの不均質部が存在すると、電磁誘導信号により発生する超音波共鳴は、正常な均質付着部による共鳴と、剥離、脱落による薄肉厚部による共鳴が生じ、薄肉厚部が複数存在する場合は、複数の共鳴が生じることになるため、これらに対応して複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群が周期的に現れ、これらの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られる。共鳴次数の異なる共鳴ピーク群を構成する複数の分割された個別共鳴ピークは、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にあり、対応関係にある個別共鳴ピークは異なる共鳴次数において周期的に現れ、共鳴ピーク群を構成する各個別共鳴ピークはそれぞれ異なる周波数間隔(周期)で繰り返す。
【0039】
このような共鳴スペクトルが得られたときには、演算制御装置により、不均質付着状態と判定する。得られた共鳴スペクトルの共鳴ピークが単一のピークであるか、あるいは複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群であるかは、分割された各個別共鳴ピークの位置、高さ、周波数間隔等により総合的に判断される。一般的には最強の個別共鳴ピークに対してベースラインからの強度が1/10以上、特に1/8以上の別の個別共鳴ピークが現れた場合には、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群であると判定することができるが、測定条件により変わるので、ピークの特徴から総合的に判断することができる。
【0040】
複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られたとき、スケールの浮き上り部の場合は、共鳴ピーク群の繰り返しが現れる領域が狭い傾向にあり、段差部の場合は共鳴ピーク群の繰り返しが現れる領域が広いので、両者の区別は容易である。しかしスケールの浮き上り部の場合、段差部の場合などの厚さ変化部が存在する場合はスケールの剥離の危険が存在するので、これらを区別せず、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定することができる。
【0041】
これらの場合、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群をそれぞれ構成する複数の個別共鳴ピークのうち、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差と、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差とから、基材および付着したスケールを含む全体の肉厚を演算し、肉厚の差からスケールの不均質付着部を検出することができる。
【0042】
共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群は、それぞれが複数の個別共鳴ピークから構成され、それぞれの個別共鳴ピークは共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群間で、ピークの位置、高さ、形状、繰返し間隔等において、それぞれ対応関係にある類似性を有しており、一見して対応関係が認識できる。これらの個別共鳴ピークの位置、高さ、形状等の特徴は、それぞれがスケールの肉厚、剥離、浮き上がり等の異なる付着状態を表している。各共鳴ピーク群は、これらの対応関係にある個別共鳴ピークから構成され、共鳴次数の順に並んで出現する。
【0043】
本発明では演算制御装置において、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群をそれぞれ構成する複数の個別共鳴ピークのうち、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差を、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差と対比し、スケールの付着状態を検出する。対応関係にある個別共鳴ピークは、隣接する共鳴ピーク群中の対応関係にある個別共鳴ピークペアであるのが好ましい。対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差から基材および付着したスケールを含む全体の肉厚を演算し、肉厚の差からスケールの浮き上がり、剥離、脱落、あるいはスケールの厚さ変化の程度を検出し、その厚さ変化の程度が特定値以上のときにスケールの不均質付着部と判定することができる。
【0044】
上記のようなスケール付着状態の検出は、対象物に対向する特定の位置に電磁超音波探触子を配置して検出操作を行い、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定することができるが、対象物の異なる位置に電磁超音波探触子を移動させて配置し、単一共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に均質付着部と判定し、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定するようにするのが好ましく、これにより不均質付着部の存在と分布を正確に検出することができる。
【0045】
このようにして電磁超音波共鳴を利用して水蒸気酸化スケールの浮き上り等のスケールの付着状態を検出することにより、従来捉えることができなかったスケールの浮き上り部、剥離境界部、段差部、厚さ変化部等のスケールの不均質付着部を的確に検出することができ、これにより過熱器管等の蒸気系統に生成する水蒸気酸化スケールが剥離、飛来する前兆の浮き上がった状態を検知できる。これを受けて酸洗浄や過熱器管取替え等の対策を講じることにより、後段のタービンブレードの磨耗腐食を未然に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、基材にスケールが付着した対象物に、電磁超音波探触子により電磁誘導信号を送信して対象物に超音波を生じさせるとともに、対象物から超音波信号を受信し、電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引し、超音波共鳴を発生させて共鳴スペクトルを得、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定するようにしたので、電磁超音波共鳴法により非接触でも、高精度かつ短時間に、ボイラの蒸気系配管等の基材に付着したスケールの浮き上り部、剥離境界部、段差部、厚さ変化部等のスケールの不均質付着部を、検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態を図面により説明する。図1は実施形態の検出装置を示すブロック図、図2は検出方法を示し、(a)は平面図、(b)はその垂直断面図である。
【0048】
図1において、1は検出の対象となる対象物で、基材1aの内面にスケール1bが付着したボイラの蒸気系配管の例を示す。2は電磁超音波探触子で、対象物1に外部から非接触で電磁誘導信号を送信するとともに、超音波信号を受信するローレンツ型の電磁超音波探触子からなる。3は送受信制御装置で、電磁超音波探触子2に高周波電流を給電して、対象物1に電磁誘導信号として電磁波を送信して超音波を発生させ、電磁超音波探触子2で対象物1から超音波信号を受信し、誘導電流として検出するように構成されている。4は演算制御装置、5はインターフェイス、6はオッシロスコープ等の表示装置、7はプレアンプである。
【0049】
演算制御装置4は、電磁超音波探触子2から送信する電磁誘導信号としての電磁数の周波数を変化させて掃引することにより、対象物1に超音波共鳴を発生させ、対象物1において超音波により発生する起電力または電磁波を電磁超音波探触子で超音波信号として受信し、誘導電流として検出して共鳴スペクトルを得、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトル(図5(a)、(b)、図8(a)におけるn次、n+1次、n+2次・・・)が得られた場合に均質付着部と判定し、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトル(図6(a)、(b)、図7(a)、(b)、8(b)、図9(a)、(b)におけるn次、n+1次、n+2次・・・)が得られた場合に、不均質付着部と判定するように構成されている。
【0050】
さらに演算制御装置4は、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトル(図5(a)、(b)、図8(a)におけるn次、n+1次、n+2次・・・)が得られた場合に、隣接する共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差から基材1aおよび付着したスケール1bを含む全体の肉厚を演算するように構成されている。
【0051】
また演算制御装置4は、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群(図6(a)、(b)、図7(a)、(b)、8(b)、図9(a)、(b)におけるn次、n+1次、n+2次・・・)をそれぞれ構成する複数の個別共鳴ピーク(図6(a)、(b)、図7(a)、(b)、8(b)、図9(a)、(b)におけるan、an+1、an+2・・・、bn、bn+1、bn+2・・・、cn、cn+1、cn+2・・・)のうち、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士(例えばanとan+1、またはan+1とan+2)の共鳴周波数の差を、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士(例えばbnとbn+1、またはbn+1とbn+2、あるいはcnとcn+1、またはcn+1とcn+2)の共鳴周波数の差と対比し、基材1aおよび付着したスケール1bを含む全体の肉厚を演算するように構成されている。
【0052】
図2は対象物1に対して、ローレンツ型の電磁超音波探触子2により、外部から電磁誘導信号を送信するとともに、超音波信号を受信する状態を示している。対象物1は図1とは異なり、後述の実施例1で用いるスリット8を形成した鋼板からなる試験片を図示している。電磁超音波探触子2は、NSの磁極を逆に配置した2個の永久磁石9a、9bの磁界中に、対象物1に対向するように送受信コイル11を配置した構造となっている。送受信コイル11は、送信コイルと受信コイルが平行に渦巻き状に形成されたものであるが、単一のコイルとして図示されている。
【0053】
上記の装置による検出は、演算制御装置4からの信号により、送受信制御装置3から電磁超音波探触子2の送受信コイル11に高周波電流を給電して発生する電磁波を電磁誘導信号として送信すると、電磁誘導により対象物1の送受信コイル11に対向する部分に渦電流12が発生する。送受信コイル11および渦電流12に図示する点(・)および印(×)は電流の方向を示す矢印の矢の方向を示している。渦電流12の発生により、ローレンツ力により超音波が発生し、その発信波13と反射波14の波長が一致する周波数、ならびにその整数倍の周波数の時に共鳴が起こる。
【0054】
対象物1では発信波13、反射波14、およびこれらが一致した時に発生する共鳴波により、送受信コイル11に対向する部分に起電力が励起され、この起電力により発生する超音波信号としての電磁波が送受信コイル11に受信されて誘導電流が発生する。誘導電流は電磁超音波探触子2からプレアンプ7で増幅され、送受信制御装置3で共鳴スペクトルが検出され、演算制御装置4に入力されるとともに、表示装置6に超音波スペクトルが表示される。演算制御装置4からの信号により電磁超音波探触子2から送信する電磁誘導信号電磁波の周波数を変化させて掃引すると、一定の周波数間隔で超音波共鳴が発生し、表示装置6に共鳴スペクトルが表示される。
【0055】
演算制御装置4において、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に均質付着部と判定し、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定する。さらに演算制御装置4は、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、隣接する共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差から基材1aおよび付着したスケール1bを含む全体の肉厚を演算する。
【0056】
また演算制御装置4は、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群(図6(a)、(b)、図7(a)、(b)、8(b)、図9(a)、(b)におけるn次、n+1次、n+2次・・・)をそれぞれ構成する複数の個別共鳴ピーク(図6(a)、(b)、図7(a)、(b)、8(b)、図9(a)、(b)におけるan、an+1、an+2・・・、bn、bn+1、bn+2・・・、cn、cn+1、cn+2・・・)のうち、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群として、隣接する共鳴ピーク群(例えばn次とn+1次、またはn+1次とn+2次)の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士(例えばanとan+1、またはan+1とan+2)の共鳴周波数の差を、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士(例えばbnとbn+1、またはbn+1とbn+2、あるいはcnとcn+1、またはcn+1とcn+2)の共鳴周波数の差と対比し、基材1a+付着したスケール1bの肉厚を演算し、スケールの付着状態を検出する。この場合、対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差から基材に付着したスケールの肉厚を演算し、肉厚の変化として肉厚の差に相当するスケールの付着状態を検出することができる。
【0057】
単一の金属からなる対象物1において、肉厚をdとし、対象物1内の超音波音速をCとすれば、n次の個別共鳴ピーク(図6(a)、(b)、図7(a)、(b)、8(b)、図9(a)、(b)におけるan、bn、cn)の共鳴周波数fnは、下記(A)式で表わせる。
fn=nC/2d ・・・ (A)
(A)式において、肉厚dは共鳴スペクトルを実測し、その共鳴周波数fnと超音波音速C、次数n(整数)を与えることによって、求めることができる。
【0058】
ここでは下記に示す如く次数nを使わずに肉厚を算出することができる。すなわちn次の共鳴ピークに隣接する共鳴ピークn+1次の個別共鳴ピーク(an+1、bn+1、cn+1)の共鳴周波数fn+1については、(A)式より下記(B)式が導き出される。
fn+1=(n+1)C/2d・・・(B)
また(A)式および(B)式より下記(C)式が導き出される。
fn+1−fn=C/2d ・・・(C)
(C)式では、共鳴ピークペアfn+1およびfnと音速Cが既知であれば、肉厚dを計算できる。
【0059】
(C)式を使う理由は、以下の通りである。
1) 実測の共鳴スペクトルにおいて、次数nは整数にならない場合がある。
2) 従って、種々の形態を示す酸化スケールの肉厚検出においては、nを使用しない方が望ましい。
3) 共鳴ピークペアfn+1とfnに注目することによってのみ、色々な酸化スケールを含んだ肉厚検出が可能となり、スケール浮き上り部が導き出せる。
【0060】
上記(A)〜(C)式は単一の金属からなる対象物1について成立するものであり、前述のように非特許文献1によれば、スケールが一定の厚みで付着した場合に、各共鳴ピークの位相がずれることを示している。ところが各共鳴ピークの位相がシフトしても、共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差、特に隣接する共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差のずれは小さく、特に本発明で対象とするような薄いスケールの厚さでは、実質的に共鳴周波数の差は無視できる程度になるので、上記(A)〜(C)式により共鳴周波数の差から高い精度で基材および付着したスケールを含む全体の肉厚を演算することができる。
【0061】
従ってスケールの均質付着部位において、図5(a)、(b)、図8(a)に示すような単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルn次、n+1次、n+2次・・・)が得られた場合には、上記(A)〜(C)式により共鳴ピークペアから肉厚dを計算することができる。
【0062】
一方、基材に付着したスケールの厚さが変化し、あるいは剥離、浮き上り等の不均質付着部位では、図6(a)、(b)、図7(a)、(b)、8(b)、図9(a)、(b)に示すように、各共鳴ピークはそれぞれ複数の個別共鳴ピークに分割され、複数の個別共鳴ピーク(an、an+1、an+2・・・、bn、bn+1、bn+2・・・、cn、cn+1、cn+2・・・)から構成される共鳴ピーク群(n次、n+1次、n+2次・・・)となる。この共鳴ピーク群(n次、n+1次、n+2次・・・)は上記(A)〜(C)式に従って、共鳴スペクトル中に実質的に一定の周波数間隔で出現し、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群が繰り返し現れる。
【0063】
共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群(n次、n+1次、n+2次・・・)を構成するそれぞれの個別共鳴ピーク(an、an+1、an+2・・・、bn、bn+1、bn+2・・・、cn、cn+1、cn+2・・・)は、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群間で、それぞれ対応関係にある類似性を有しており、一見して対応関係が認識できるピークの位置、高さ、形状等を有している。そしてそれぞれの対応関係にある個別共鳴ピーク(an、an+1、an+2・・・、bn、bn+1、bn+2・・・、cn、cn+1、cn+2・・・)は、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群間で、それぞれの個別共鳴ピークで異なる一定の周波数間隔で出現する。
【0064】
これらの個別共鳴ピークの位置すなわち周波数間隔、高さ、形状等の特徴は、それぞれがスケールの肉厚、剥離、浮き上がり等の異なる付着状態を表しており、各共鳴ピーク群は、これらの対応関係にある個別共鳴ピークから構成され、共鳴次数の順に並んで出現するため、対応関係にある個別共鳴ピーク同士(例えばan、an+1、an+2・・・)の共鳴周波数の差を、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士(例えばbn、bn+1、bn+2・・・)の共鳴周波数の差と対比し、前記(C)式を使って基材に付着したスケールの肉厚を演算し、肉厚の変化としてスケールの付着状態を検出することができる。
【0065】
ここで検出するスケール付着状態は、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差と、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差とから検出可能なスケール付着状態であるが、スケールの浮き上り部、剥離境界部、段差部、厚さ変化部等のスケールの不均質付着部、およびこれらのない不均質付着部、ならびに不均質付着部における肉厚の差によるスケールの厚さ変化、剥離厚さ、浮き上り厚さ、その他の肉厚の差に相当するスケールの付着状態などがあげられる。
【実施例1】
【0066】
対象物1として図3に示すように、鋼板の均一な表面および肉厚を有する基準部16の両端部側に、スリット8を有するスリット部15および欠如部17を形成した鋼板(材質:SS400)からなる試験片を用いた。図3中の寸法を示す数字の単位はmmである。この試験片は、酸化スケールの浮き上り部としてスリット8を模擬し、剥離部として欠如部17を模擬し、(1):基準部16の中央部、(2):スリット8の中央部、(3):基準部16とスリット部15の境界であるスリット境界部18の中央部、および(4):基準部16と欠如部17の境界である段差部19の中央部に、電磁超音波探触子2を順次対向するように移動させて配置し、検出を行った。送受信制御装置3としては、RITEC社製RAM5000を用い、バースト波の時間幅40μs、測定周波数間隔(分解能)1〜2kHzとし(以下の実施例において同じ)、周波数1〜2MHz間で掃引して共鳴スペクトルを得た。
【0067】
図5(a)は基準部16の中央部における共鳴スペクトルを示しており、n次、n+1次、n+2次・・・の単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られており、均質部であることを示している。図5(a)において、隣接する共鳴ピークから共鳴ピークペア法に基づく前記(C)式による基準部16の肉厚計算は以下の通りであり、図3の肉厚10mmに相当する値が検出されている。
【0068】
〔基準部16〕:
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.286−1.124)[1/MHz]=9.927(mm)
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.448−1.286)[1/MHz]=9.927(mm)
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.608−1.448)[1/MHz]=10.051(mm)
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.768−1.608)[1/MHz]=10.051(mm)
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.932−1.768)[1/MHz]=9.806(mm)
【0069】
図5(a)において、基準部16の肉厚として、9.927mm、10.050mm、9.806mmのEMAR値(共鳴スペクトルから得られた肉厚)が算出されたので、当該部位をマイクロメータ(検出感度1μm)で測定したところ、10.051mmであった。従ってEMAR値の中で10.051mmが母材部の肉厚を表わしていると判定した。また、肉厚値9.927mmは測定周波数領域の低周波数側で得られていることから、試験材の上下面に残こっているバイト目(120μm以下/上下面)の影響を除いた肉厚として評価できる。一方、9.806mm値はEMATの測定領域(16W×15L(mm2))に対して、試験材サイズ(40mm幅)が大きくないことによる試験材側面からの多重反射エコーによる肉厚と推測される。
【0070】
以上のことから、図5(a)の基準部16の中央部における共鳴スペクトルは、n次、n+1次、n+2次・・・の単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られており、基準部16は均一な材質および肉厚を有するため、均質であることを示している。
【0071】
図5(b)はスリット部15の中央部における共鳴スペクトルを示しており、基準部16と同様にn次、n+1次、n+2次・・・の単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られており、均質部であることを示している。図5(b)において、共鳴ピークペア法に基づき隣接する共鳴ピークから前記(C)式による基準部16の肉厚計算は以下の通りであり、図3の肉厚9.5mmにほぼ相当する値が検出されている。
【0072】
〔スリット部15〕:
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.224−1.052)[1/MHz]=9.350(mm)
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.570−1.398)[1/MHz]=9.350(mm)
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.398−1.224)[1/MHz]=9.243(mm)
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.744−1.570)[1/MHz]=9.243(mm)
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.918−1.744)[1/MHz]=9.243(mm)
【0073】
図5(b)において、スリット部15の共鳴スペクトルにおいても、2つの肉厚値(9.350mm、9.243mm)が得られている。バイト目(60μm以下)および放電ワイヤカット(150μm以下)の厚さを考慮すると、9.350mm値がスリット部15の厚さとして妥当であると判断できる。9.243mm値は試験材側面からの共鳴スペクトルによる肉厚と思われる。
【0074】
以上のことから、図5(b)のスリット部15の中央部における共鳴スペクトルは、n次、n+1次、n+2次・・・の単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られており、スリット部15は均一な材質および肉厚を有するため、均質であることを示している。
【0075】
図5(a)、(b)に示すように、基準部16、スリット部15のような均一な材質および肉厚を有する均質付着部は、n次、n+1次、n+2次・・・の単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られるが、基準部16とスリット部15の境界であるスリット境界部18の中央部、および基準部16と欠如部17の境界である段差部19のような不均質部では、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られることがわかる。図6(a)は基準部16とスリット部15の境界であるスリット境界部18の中央部における共鳴スペクトルを示し、図6(b)は基準部16と欠如部17の境界である段差部19の中央部における共鳴スペクトルを示す。
【0076】
図6(a)では、基準部16とスリット部15のスリット境界部18における共鳴スペクトルとして、複数の個別共鳴ピーク(図6(a)のan、an+1、an+2・・・とbn、bn+1、bn+2・・・)に分割された共鳴ピーク群n次、n+1次、n+2次・・・の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られている。個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・および個別共鳴ピークbn、bn+1、bn+2・・・は、それぞれピークの位置、高さ、形状等において、それぞれ対応関係にある類似性を有しており、ほぼ等間隔を置いて繰り返している。基準部16の個別共鳴ピーク(an+2とan+3)、ならびにスリット部15の個別共鳴ピーク(bn+4とbn+5)から、共鳴ピークペア法による前記(C)式の肉厚計算は以下の通りである。
【0077】
〔基準部16〕:
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.456−1.294)[1/MHz]=9.927(mm)
〔スリット部15〕:
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.922−1.750)[1/MHz]=9.350(mm)
【0078】
図6(a)において、小さい個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・はほぼ同程度の間隔で現れ、隣接する個別共鳴ピークの周波数の差から、基準部16の肉厚に相当する値が得られ、これらの個別共鳴ピークが基準部16における共鳴ピークに相当することを示している。大きな個別共鳴ピークbn、bn+1、bn+2・・・もほぼ同程度の間隔で現れ、隣接する個別共鳴ピークの周波数の差から、スリット部15の肉厚に相当する値が得られ、これらの個別共鳴ピークがスリット部8における共鳴ピークに相当することを示している。これらの個別共鳴ピークの中で、比較的基準部16の肉厚と、スリット部15の肉厚を正確に表わしている個別共鳴ピークペアとして、(an+2)と(an+3)のペアならびに(bn+4)と(bn+5)のペアがある。其の他の個別共鳴ピークペアは、バイト目や試験材側面の影響を含んでいるため、正確な値からずれていると推測されるが、明らかではない。
【0079】
図6(a)の結果から、基準部16とスリット部15のスリット境界部18における共鳴スペクトルとしては、基準部16における共鳴ピークに相当する複数の個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・と、スリット部8における共鳴ピークに相当する複数の個別共鳴ピークbn、bn+1、bn+2・・・に分割された複数の共鳴ピーク群n次、n+1次、n+2次・・・の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られることがわかる。
【0080】
図6(b)の基準部16と欠如部17の境界である段差部19における共鳴スペクトルとして、複数の個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・とbn、bn+1、bn+2・・・に分割された共鳴ピーク群n次、n+1次、n+2次・・・の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られている。個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・および個別共鳴ピークbn、bn+1、bn+2・・・は、それぞれピークの位置、高さ、形状等において、それぞれ対応関係にある類似性を有しており、ほぼ等間隔を置いて繰り返している。基準部16の個別共鳴ピーク(an+3とan+4)、ならびに欠如部17の個別共鳴ピーク(bn+3とbn+4)から、共鳴ピークペア法による前記(C)式の肉厚計算は以下の通りである。
【0081】
〔基準部16〕:
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.784−1.622)[1/MHz]=9.927(mm)
〔欠如部17〕:
3216.4[m/s]×10-3/2×1/(1.862−1.694)[1/MHz]=9.573(mm)
【0082】
図6(b)において、小さい個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・はほぼ同程度の間隔で現れ、隣接する個別共鳴ピークの周波数の差から、基準部16の肉厚に相当する値が得られ、これらの個別共鳴ピークが基準部16における共鳴ピークに相当することを示している。大きな個別共鳴ピークbn、bn+1、bn+2・・・もほぼ同程度の間隔で現れ、隣接する個別共鳴ピークの周波数の差から、欠如部17の肉厚に相当する値が得られ、これらの個別共鳴ピークが欠如部17における共鳴ピークに相当することを示している。これらの個別共鳴ピークの中で、比較的基準部16の肉厚と、欠如部17の肉厚を正確に表わしている個別共鳴ピークペアとして、(an+3)と(an+4)のペアならびに(bn+3)と(bn+4)のペアがある。其の他の個別共鳴ピークペアは、バイト目や試験材側面の影響を含んでいるため、正確な値からずれていると推測されるが、明らかではない。
【0083】
図6(b)の結果から、基準部16と欠如部17の境界である段差部19における共鳴スペクトルとしては、基準部16における共鳴ピークに相当する複数の個別共鳴ピーク(図6(b)のan、an+1、an+2・・・)と、欠如部17における共鳴ピークに相当する複数の個別共鳴ピーク(図6(b)のbn、bn+1、bn+2・・・)に分割された複数の共鳴ピーク群n次、n+1次、n+2次・・・の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られることがわかる。
【0084】
上記図6(a)、(b)の結果から、基準部16とスリット部15の境界であるスリット境界部18、および基準部16と欠如部17の境界である段差部19のような不均質部の共鳴スペクトルでは、基準部16を表わす小さい共鳴ピーク(図6(a)、(b)においてan、an+1、an+2・・・)と、スリット部15または欠如部17を表わす大きい共鳴ピーク(図6(a)、(b)においてbn、bn+1、bn+2・・・)が現われ、これらが個別共鳴ピークとして共鳴ピーク群(n次、n+1次、n+2次・・・)を構成し、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群が間隔を置いて繰り返している。そして共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群(n次、n+1次、n+2次・・・)における基準部16(an、an+1、an+2・・・)、スリット部15または欠如部17を表わす個別共鳴ピーク(bn、bn+1、bn+2・・・)は、ピークの位置、高さ、形状等において、それぞれ対応関係にある類似性を有しており、スリット部8、基準部16、欠如部17に対応するピークの識別が可能となっていることがわかる。
【実施例2】
【0085】
対象物1として図4に示すように、酸化スケールの浮き上りが認められた発電用ボイラの過熱器管(材質:STBA24) を用いた。図4(a)は対象物1として鋼管の斜視図、(b)は試料1のB部の拡大側面図、(c)は試料2のB部の拡大側面図であり、試験後に切断して観察した図である。
【0086】
対象物1の図4(b)に示す試料1は、鋼材からなる厚さ7.3mmの基材1aの内面に、厚さ0.3mmのスケール1bが付着した配管であり、スケール1bの基材1aに近い部分に浮き上がり部15aが形成されている。図4(c)に示す試料2は、鋼材からなる厚さ9.3mmの基材1aの内面に、厚さ0.5mmのスケール1bが付着した配管であり、スケール1bの基材1aから遠い部分に浮き上がり部15bが形成されている。上記試料1の浮き上がり部15a付近に電磁超音波探触子2を対向させて配置し、周波数1.5〜1.9MHz間で掃引し、また試料2の浮き上がり部15b付近に電磁超音波探触子2を対向させて配置し、周波数3.1〜3.8MHz間で掃引して、実施例1と同様に検出を行い共鳴スペクトルを得た。
【0087】
図7(a)に浮き上がり部15aにおける共鳴スペクトルを、図7(b)に浮き上がり部15bにおける共鳴スペクトルを示す。
ボイラ配管に共鳴ピークペア法を適用する場合は、大きい共鳴ピーク群(n次、n+1次、n+2次)の波形中に現われる個別共鳴ピーク(an、an+1、an+2、bn、bn+1、bn+2、cn、cn+1)の波形に注目して、その類似性から共鳴ピークペアfn+1とfn、あるいはfn+2とfn+1を選定した。
そして、(C)式に従って共鳴ピークペアごとの肉厚を計算し、それらの肉厚差から最大の浮き上り量を推定する。
【0088】
図7(a)の浮き上がり部15aにおける共鳴スペクトル群(n次、n+1次)の個別共鳴ピーク(anとan+1、bnとbn+1、cnとcn+1)から、共鳴ピークペア法による前記(C)式の肉厚計算は以下の通りである。
3,262.2[m/s]×10-3/2×1/(1.805−1.635)[1/MHz]=9.595(mm)
3,262.2[m/s]×10-3/2×1/(1.818−1.646)[1/MHz]=9.483(mm)
3,262.2[m/s]×10-3/2×1/(1.833−1.658)[1/MHz]=9.321(mm)
【0089】
上記により個別共鳴ピークのペアから計算される肉厚は、基材1aとスケール1bの合計厚さであるが、個別共鳴ピークのペアごとに差があるのは、スケール1bに浮き上りが生じていることを示している。そこで最大肉厚と最小肉厚の差により最大浮き上り厚さ(浮き上りのない部分のスケールの表面と浮き上り部管の厚さ)を計算すると、以下の通りであり、浮き上がり状態を検出できる。
最大浮き上り厚さ=9.595−9.321=0.274mm
【0090】
図7(b)の浮き上がり部15bにおける共鳴スペクトル群(n次、n+1次、n+2次)の個別共鳴ピーク(anとan+1、bnとbn+1、an+1とan+2、bn+1とbn+2)から、共鳴ピークペア法による前記(C)式の肉厚計算は以下の通りである。
3,262.2[m/s]×10-3/2×1/(3.432−3.220)[1/MHz]=7.694(mm)
3,262.2[m/s]×10-3/2×1/(3.438−3.230)[1/MHz]=7.842(mm)
3,262.2[m/s]×10-3/2×1/(3.642−3.432)[1/MHz]=7.767(mm)
3,262.2[m/s]×10-3/2×1/(3.650−3.438)[1/MHz]=7.694(mm)
【0091】
図7(a)の場合と同様に最大肉厚と最小肉厚の差により最大浮き上り厚さを計算すると、以下の通りである。
最大浮き上り厚さ=7.842−7.694=0.148mm
【0092】
以上の通り、個別共鳴ピークごとの共鳴ピークペア法による前記(C)式による肉厚計算から肉厚の異なる部分が存在することが示され、これらがスケール1bの浮き上がり部15a、15bに対応しているから、(C)式による肉厚計算を演算制御装置4で演算することにより、スケールの浮き上がり状態を検出できることが分かる。
【実施例3】
【0093】
火力発電所の実機ボイラの過熱器管(材質:2.25Cr-1Moの低合金鋼管およびSUS304のステンレス鋼管)を用いて、管外表面に凹凸やクリンカの付着がない部位を選んで電磁超音波探触子を移動させ、異なる部位の共鳴スペクトルを測定し、スペクトルの形態(共鳴ピークの位置、高さ、形状など)と共鳴ピークペアによる肉厚の差から酸化スケールの剥離や浮き上り有無を判定した。そして肉厚差が認められた測定部位において、管断面のミクロ顕微鏡写真と走査型電子顕微鏡(SEM)写真による観察を行った。
【0094】
共鳴スペクトルの測定では、最適な測定周波数範囲と周波数分解能として、それぞれ約2.0〜3.0MHzと2kHzを選定し、低合金鋼管(2.25Cr-1Mo)とステンレス鋼管(SUS304)の共鳴スペクトル測定を行った。酸化スケールの性状が均質な部位では、単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られたが、酸化スケールに剥離や浮き上りなどの異常が認められる不均質な部位では、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群n次、n+1次、n+2次・・・の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた。分割された個別共鳴ピークペア同士の共鳴周波数差から肉厚を算出し、その肉厚差を隣接する共鳴ピークペアごとに求めて、最大と平均という形で示した。
【0095】
図8(a)は低合金鋼管の均質付着部と認められるに部位おける共鳴スペクトルを示しており、n次、n+1次、n+2次・・・の単一の共鳴ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られている。図8(a)において、隣接する共鳴ピークから共鳴ピークペア法に基づく前記(C)式による肉厚計算は次の通りである。なお以下の式は計算過程を簡略化して表示している。
【0096】
3.2622/2×1/(2.282-2.120)=10.069(mm)
3.2622/2×1/(2.444-2.282)=10.069(mm)
3.2622/2×1/(2.604-2.444)=10.194(mm)
3.2622/2×1/(2.768-2.604)=9.946(mm)
3.2622/2×1/(2.930-2.768)=10.069(mm)
平均肉厚:10.069mm
【0097】
図8(a)の結果から、共鳴スペクトルは単一共鳴ピークの繰り返しからなり、肉厚に差がないため、スケールの浮き上がりや段差のない均質付着部であると認められる。図8(a)の測定部位とは異なる均質付着部のミクロ顕微鏡写真(100倍)を図11に示す。
【0098】
図8(b)は低合金鋼管の不均質付着部と認められる部位における共鳴スペクトルを示しており、複数の個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・とbn、bn+1、bn+2・・・に分割された共鳴ピーク群n次、n+1次、n+2次・・・の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られている。図8(b)において、隣接する個別共鳴ピークから共鳴ピークペア法に基づく前記(C)式による肉厚計算は次の通りである。
【0099】
〔個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・〕
3.2622/2×1/(2.462-2.268)=8.408(mm)
3.2622/2×1/(2.654-2.462)=8.495(mm)
3.2622/2×1/(2.846-2.654)=8.495(mm)
3.2622/2×1/(3.038-2.846)=8.495(mm)
【0100】
〔個別共鳴ピークbn、bn+1、bn+2・・・〕
3.2622/2×1/(2.486-2.286)=8.156(mm)
3.2622/2×1/(2.678-2.486)=8.495(mm)
3.2622/2×1/(2.874-2.678)=8.322(mm)
3.2622/2×1/(3.066-2.874)=8.495(mm)
【0101】
上記図8(b)の肉厚計算において、対応する次数の共鳴ピークペアの肉厚から肉厚差を計算すると、最大252μmであるが、ゼロの場合もあり、平均106μmであり、不均質付着部と認められる。図8(b)の測定部位の管断面を示すミクロ顕微鏡写真(100倍)を図12に、走査型電子顕微鏡写真(1000倍)を図13に示す。図12、13より、母材とスケール内層の境界に浮き上りがみられた。
【0102】
図9(a)は低合金鋼管の不均質付着部と認められる他の部位における共鳴スペクトルを示しており、複数の個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・とbn、bn+1、bn+2・・・に分割された共鳴ピーク群n次、n+1次、n+2次・・・の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られている。図9(a)において、隣接する個別共鳴ピークから共鳴ピークペア法に基づく前記(C)式による肉厚計算は次の通りである。
【0103】
〔個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・〕
3.2622/2×1/(2.436-2.244)=8.495(mm)
3.2622/2×1/(2.626-2.436)=8.585(mm)
3.2622/2×1/(2.814-2.626)=8.676(mm)
3.2622/2×1/(3.006-2.814)=8.495(mm)
【0104】
〔個別共鳴ピークbn、bn+1、bn+2・・・〕
・・・・・
3.2622/2×1/(2.642-2.454)=8.676(mm)
3.2622/2×1/(2.832-2.642)=8.585(mm)
3.2622/2×1/(3.024-2.832)=8.495(mm)
【0105】
上記図9(a)の肉厚計算において、対応する次数の共鳴ピークペアの肉厚から肉厚差を計算すると、最大91μmであるが、ゼロおよびマイナスの場合もあり、平均61μmであり、不均質付着部と認められる。図9(a)の測定部位の管断面を示すミクロ顕微鏡写真(100倍)を図14に、走査型電子顕微鏡写真(1000倍)を図15に示す。図14、15より、母材に付着したスケールの内層の中間部分に浮き上りがみられた。
【0106】
図9(b)はステンレス鋼管の不均質付着部と認められる部位における共鳴スペクトルを示しており、複数の個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・とbn、bn+1、bn+2・・・に分割された共鳴ピーク群n次、n+1次、n+2次・・・の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られている。図9(b)において、隣接する個別共鳴ピークから共鳴ピークペア法に基づく前記(C)式による肉厚計算は次の通りである。
【0107】
〔個別共鳴ピークan、an+1、an+2・・・〕
3.0680/2×1/(1.784-1.606)=8.618(mm)
3.0680/2×1/(1.960-1.784)=8.716(mm)
3.0680/2×1/(2.138-1.960)=8.618(mm)
3.0680/2×1/(2.314-2.138)=8.716(mm)
【0108】
〔個別共鳴ピークbn、bn+1、bn+2・・・〕
3.0680/2×1/(1.792-1.614)=8.618(mm)
3.0680/2×1/(1.968-1.792)=8.716(mm)
3.0680/2×1/(2.144-1.968)=8.716(mm)
3.0680/2×1/(2.322-2.144)=8.618(mm)
【0109】
上記図9(b)の肉厚計算において、対応する次数の共鳴ピークペアの肉厚から肉厚差を計算すると、最大98μmであるが、ゼロおよびマイナスの場合もあり、平均49μmであり、不均質付着部と認められる。図9(b)の測定部位の管断面を示すミクロ顕微鏡写真(100倍)を図16に、走査型電子顕微鏡写真(500倍)を図17に示す。図16、17より、母材に付着したスケールの内層の上にさらに付着した外層の一部が剥離脱落して、段差部が形成されていた。
【0110】
上記実施例3の一連の試験結果から、共鳴スペクトルと断面観察結果との間には、それぞれ特徴的な形態相関性が認められる。つまり低合金鋼管の場合、母材とスケールの内層との境界で酸化スケールが浮き上っていると、共鳴スペクトルには共鳴ピークが複数の個別共鳴ピークに分割された形で出現する。また内層スケール内で浮き上りが生じると、大小の個別共鳴ピークに分割された共鳴スペクトルになる。一方、ステンレス鋼管では鋭い共鳴ピーク割れが認められ、それらの肉厚差がスケールの剥離脱落を示している。共鳴スペクトルと断面観察から見積られる浮き上り量を比較する場合、前者は面計測で測定領域が広いのに対し、後者は線計測で観察領域が狭いという違いがあることを前提にして考える必要があるが、共鳴スペクトルから算出された最大浮き上り量は、大まかにはミクロ写真に見られる浮き上り位置(母材とスケールの内層との境界、またはスケールの内層内)に対応していると考えられる。
【0111】
図10は図9(a)の共鳴スペクトルに対応する測定周波数範囲が1.4〜2.4MHzの共鳴スペクトルを示し、周波数分解能は図9(a)と同様に2kHzである。図10に示した低周波域の共鳴スペクトルには単一の共鳴ピークしか現われないが、図9(a)に示した高周波域の共鳴スペクトルには酸化スケールの浮き上りを示す複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群が出現している。従って、スケールの剥離や浮き上りを検出するためには、複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群が出現する適切な掃引周波数範囲を選定する必要がある。このような掃引周波数範囲は基材、スケールの材質、組成、厚さ等により異なるので、予備試験により決めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
ボイラ設備、蒸気系統配管、特に火力発電ボイラの蒸気系配管等の基材に付着したスケールの厚さ変化、剥離、浮き上り状態等のスケールの付着状態を、電磁超音波共鳴法により検出する方法および装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】実施形態の検出装置を示すブロック図である。
【図2】(a)は検出方法を示す平面図、(b)はその垂直断面図である。
【図3】実施例1の対象物1を示す斜視図である。
【図4】(a)は実施例2の対象物1を示す斜視図、(b)は試料1のB部の拡大側面図、(c)は試料2のB部の拡大側面図である。
【図5】(a)は実施例1の基準部16の中央部における共鳴スペクトル、(b)はスリット部15の中央部における共鳴スペクトルを示す線図である。
【図6】(a)は実施例1のスリット境界部18における共鳴スペクトル、(b)は段差部19における共鳴スペクトルを示す線図である。
【図7】(a)は実施例2の浮き上がり部15aにおける共鳴スペクトル、(b)は浮き上がり部15bにおける共鳴スペクトルを示す線図である。
【図8】(a)は実施例3の低合金鋼管の均質付着部と認められる部位における共鳴スペクトル、(b)は低合金鋼管の不均質付着部と認められる部位における共鳴スペクトルを示示す線図である。
【図9】(a)は実施例3の低合金鋼管の不均質付着部と認められる他の部位における共鳴スペクトル、(b)はステンレス鋼管の不均質付着部と認められる部位における共鳴スペクトルを示す線図である。
【図10】図9(a)の共鳴スペクトルに対応する測定周波数範囲が1.4〜2.4MHzの共鳴スペクトルを示す線図である。
【図11】均質付着部のミクロ顕微鏡写真である。
【図12】図8(b)の測定部位の管断面を示すミクロ顕微鏡写真、
【図13】図8(b)の測定部位の管断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図14】図9(a)の測定部位の管断面を示すミクロ顕微鏡写真、
【図15】図9(a)の測定部位の管断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図16】図9(b)の測定部位の管断面を示すミクロ顕微鏡写真、
【図17】図9(b)の測定部位の管断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0114】
1 対象物
2 電磁超音波探触子
3 送受信制御装置
4 演算制御装置
5 インターフェイス
6 表示装置
7 プレアンプ
8 スリット
9a、9b 永久磁石
11 送受信コイル
12 渦電流
13 発信波
14 反射波
15 スリット部
15a、15b 浮き上がり部
16 基準部
17 欠如部
18 スリット境界部
19 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にスケールが付着した対象物に対向して電磁超音波探触子を配置し、
電磁超音波探触子により、電磁誘導信号を送信して対象物に超音波を生じさせるとともに、対象物から超音波信号を受信し、
電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引し、超音波共鳴を発生させて共鳴スペクトルを得、
共鳴次数の異なる共鳴ピークに基づいてスケール付着状態を検出することを特徴とするスケール付着状態の検出方法。
【請求項2】
共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定する請求項1記載の方法。
【請求項3】
基材にスケールが付着した対象物の異なる位置に電磁超音波探触子を移動させて配置し、
電磁超音波探触子により、電磁誘導信号を送信して対象物に超音波を生じさせるとともに、対象物から超音波信号を受信し、
電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引し、超音波共鳴を発生させることにより共鳴スペクトルを得、
共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、単一ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に均質付着部と判定し、
共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定することを特徴とするスケール付着状態の検出方法。
【請求項4】
電磁超音波探触子が、磁界中で送信コイルに高周波電流を通電して発生する電磁波を電磁誘導信号として送信し、電磁誘導により対象物に渦電流を発生させ、ローレンツ力により対象物中に超音波振動を生じさせ、これにより励起された起電力を超音波信号として受信コイルで誘導電流として取り出すローレンツ型のものである請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群をそれぞれ構成する複数の個別共鳴ピークのうち、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差と、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差とから、基材および付着したスケールを含む全体の肉厚を演算し、肉厚の差からスケールの付着状態を判定する請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
対応関係にある個別共鳴ピークが、隣接する共鳴ピーク群中の対応関係にある個別共鳴ピークペアである請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
対象物に1.0〜3.5MHzの超音波を生じさせる請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
基材にスケールが付着した対象物に電磁誘導信号を送信するとともに、超音波信号を受信する電磁超音波探触子と、
基材にスケールが付着した対象物に、電磁超音波探触子から電磁誘導信号を送信して超音波を生じさせるとともに、電磁超音波探触子で対象物から超音波信号を受信する送受信制御装置と、
電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引することにより超音波共鳴を発生させて共鳴スペクトルを得、共鳴次数の異なる共鳴ピークに基づいてスケール付着状態を検出する演算制御装置とを含むことを特徴とするスケール付着状態の検出装置。
【請求項9】
演算制御装置が、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定するものである請求項8記載の装置。
【請求項10】
基材にスケールが付着した対象物に電磁誘導信号を送信するとともに、超音波信号を受信する電磁超音波探触子と、
基材にスケールが付着した対象物の異なる位置に電磁超音波探触子を移動させて配置する移動配置装置と、
基材にスケールが付着した対象物に、電磁超音波探触子から電磁誘導信号を送信して超音波を生じさせるとともに、電磁超音波探触子で対象物から超音波信号を受信する送受信制御装置と、
電磁超音波探触子から送信する電磁誘導信号の周波数を変化させて掃引することにより超音波共鳴を発生させて共鳴スペクトルを得、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、単一ピークの繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に均質付着部と判定し、共鳴次数の異なる共鳴ピークとして、それぞれ異なる共鳴次数において対応関係にある複数の個別共鳴ピークに分割された共鳴ピーク群の繰り返しからなる共鳴スペクトルが得られた場合に、不均質付着部と判定する演算制御装置とを含むことを特徴とするスケール付着状態の検出装置。
【請求項11】
電磁超音波探触子が、磁界中で送信コイルに高周波電流を通電して発生する電磁波を電磁誘導信号として送信し、電磁誘導により対象物に渦電流を発生させ、ローレンツ力により対象物中に超音波振動を生じさせ、これにより励起された起電力を超音波信号として受信コイルで誘導電流として取り出すローレンツ型のものである請求項8ないし10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
演算制御装置が、共鳴次数の異なる複数の共鳴ピーク群をそれぞれ構成する複数の個別共鳴ピークのうち、共鳴次数の異なる共鳴ピーク群の中の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差と、他の対応関係にある個別共鳴ピーク同士の共鳴周波数の差とから、基材および付着したスケールを含む全体の肉厚を演算し、肉厚の差からスケールの不均質付着状態を判定するものである請求項8ないし11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
対応関係にある個別共鳴ピークが、隣接する共鳴ピーク群中の対応関係にある個別共鳴ピークペアである請求項8ないし12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
送受信制御装置が、対象物に1.0〜3.5MHzの超音波を生じさせるものである請求項8ないし13のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−288045(P2009−288045A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140485(P2008−140485)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(390027188)栗田エンジニアリング株式会社 (26)
【出願人】(505044598)日本テクノプラス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】