説明

スチレン系樹脂基材へのめっき下地塗料及びこれを用いて製造されるスチレン系樹脂基材のめっき物

【課題】スチレン系樹脂基材へのめっき下地塗料及びこれを用いて製造されるスチレン系樹脂基材のめっき物を提供する。
【解決手段】スチレン系樹脂基材上に、無電解めっき法により金属めっき膜を形成するための下地塗料であって、
該下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子とカルボン酸基を有する有機ポリマーとを含み、前記高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比は、3:1ないし3:100の範囲であり、前記下地塗料における固形分中のカルボン酸基の存在量は、0.01ないし4.0mmol/gの範囲である下地塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温処理が行えない(通常100℃未満)スチレン系樹脂基材を用いて無電解めっきにより金属めっき膜を形成する際に、煩雑なエッチング処理等を必要としない、高い剥離強度及び耐久性を有し、表面の平滑性に優れ且つめっきムラのない(めっき析出性に優れる)金属めっき膜の形成を可能とする、めっき下地塗料及び該めっき下地塗料を用いて製造されるスチレン系樹脂基材のめっき物に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007−100174号公報(特許文献1)には、スチレン系樹脂基材を用い、無電解めっき処理により優れた密着性を有するめっき皮膜を形成する方法が開示されている。
この方法では、無電解めっき処理により上記基材上にめっき皮膜を形成させる前に、数工程の処理を必要とする。
即ち、前処理方法として、(1)エッチング処理において適度な粗化を得るため、及び親水性を向上(めっき皮膜の良好な密着性、外観が得られる)するための膨潤工程、樹脂成形体の表面の適度な粗化及び親水性の向上を達成するための(2)過マンガン酸塩を含有する水溶液で処理する第一エッチング処理、及び(3)無機酸、過塩素酸類及びペルオキソ酸類からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含有する水溶液で処理する第二エッチング処理を必要とする。
【0003】
更に、特許文献1には、樹脂成形体の表面の汚れがひどい場合には、膨潤工程に先立って、脱脂処理を行うこと、及び第二エッチング工程後に残存する過マンガン酸塩を除去するために、必要に応じて還元剤を含有する水溶液での処理が行われる旨記載されている。
そして、特許文献1の実施例において、上述の煩雑なエッチング処理等を行わない場合には、優れた密着性を有するめっき皮膜は形成されないことが明示されている。
【0004】
尚、特許文献1のように、エッチング処理を行って基材表面を粗化する場合、粗化により基材表面に数μm程度の細かな凹凸が形成されるが、そのため、例えば、該表面に薄いめっき膜(例えば、1μm以下)を形成しただけでは、該めっきにより表面の凹凸が埋まらないことから、平滑性に優れる表面とすることは困難であり、従って、エッチング処理を行う場合に平滑性に優れる表面を得るためには、ある程度厚いめっき膜(数μm)とする必要があった。
【特許文献1】特開2007−100174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特許文献1のように、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、高い剥離強度及び耐久性を有し、表面の平滑性に優れ且つめっきムラのない(めっき析出性に優れる)金属めっき膜をスチレン系樹脂基材上に形成し得るめっき下地塗料及び該めっき下地塗料を用いて形成されるめっき物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、無電解めっき処理を行う前に、2軸延伸PETフィルム、PIフィルム等のTgの高い樹脂フィルム上に、還元性高分子微粒子を含む塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は導電性高分子微粒子を含む塗料を塗布して塗膜層を形成した後に、アルカリ処理等により、脱ドープして塗膜層中の高分子微粒子を還元性とすれば、煩雑なエッチ
ング処理等を行わなくても、前記塗膜層上に高い密着性を有し、表面の平滑性に優れ且つめっきムラのない(めっき析出性に優れる)金属めっき膜が形成されることを見出した。
【0007】
しかし、上記方法では、Tgが一般的に70〜80℃と低く、100℃を超える高温処理が行えないスチレン系樹脂を基材として用いた場合には、低い温度(例えば100℃未満)での操作しか行えず、その結果として高い剥離強度及び耐久性を有し、表面の平滑性に優れ且つめっきムラのない(めっき析出性に優れる)金属めっき膜が得られないことが判った。
【0008】
そのため、本発明者らは、低い温度(通常100℃未満)での操作でも、高い剥離強度及び耐久性を有し且つ表面の平滑性に優れる金属めっき膜を得ることができる、めっき下地塗料に付き鋭意検討した結果、スチレン系樹脂基材上に、還元性の高分子微粒子とカルボン酸基を有する有機ポリマーとを含み、前記高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比が特定の範囲内となり且つ前記下地塗料における固形分中のカルボン酸基の存在量が特定の範囲内となる下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又はスチレン系樹脂基材上に、導電性の高分子微粒子とカルボン酸基を有する有機ポリマーとを含み、前記高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比が特定の範囲内となり且つ前記下地塗料における固形分中のカルボン酸基の存在量が特定の範囲内となる下地塗料を塗布して塗膜層を形成した後に、アルカリ処理等により、脱ドープして塗膜層中の高分子微粒子を還元性とすれば、100℃未満の低温での操作でも、高い剥離強度及び耐久性を有し且つ表面の平滑性に優れる金属めっき膜が形成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)スチレン系樹脂基材上に、無電解めっき法により金属めっき膜を形成するための下地塗料であって、
該下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子とカルボン酸基を有する有機ポリマーとを含み、前記高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比は、3:1ないし3:100の範囲であり、前記下地塗料における固形分中のカルボン酸基の存在量は、0.01ないし4.0mmol/gの範囲である下地塗料、
(2)前記高分子微粒子が還元性高分子微粒子である前記(1)記載の下地塗料、
(3)前記高分子微粒子が導電性高分子微粒子である前記(1)記載の下地塗料。
(4)スチレン系樹脂基材上に、前記(2)に記載の下地塗料を塗布し、これにより形成された塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物、
(5)スチレン系樹脂基材上に、前記(3)に記載の下地塗料を塗布し、これにより形成された塗膜層中の導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して還元性とした後、該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物、
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高い温度(例えば、100℃以上)での操作を用いず、また、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、容易にスチレン系樹脂基材上に高い剥離強度及び耐久性を有し、表面の平滑性に優れ且つめっきムラのない(めっき析出性に優れる)金属めっき膜を形成することができる。
【0011】
本発明は特に、基材表面にエッチング処理を行わないため、基材の表面に細かな凹凸が形成されておらず、そのため、薄いめっき膜(例えば、1μm未満)であっても、表面の平滑性に優れる金属めっき膜とすることが可能であり、作業性の観点からだけでなく、経済的な観点においても優れるものである。
これにより、基材に、通常、100℃以上の温度がかけられない、ポリスチレン系の樹
脂、例えば、ABS樹脂、AS樹脂、HIPS樹脂、PS樹脂、MS樹脂等においても、容易にスチレン系樹脂基材上に高い剥離強度及び耐久性を有し、表面の平滑性に優れ且つめっきムラのない(めっき析出性に優れる)金属めっき膜を形成することができる。
【0012】
本発明のめっき物における塗膜層は、その上側半分の中に還元性高分子微粒子の存在比が高くなるよう、例えば、前記微粒子のうち60%以上の粒子が上側半分の中に存在するよう形成するのが好ましく、それにより塗膜層の下側半分には有機ポリマー(バインダー)の存在比が高くなって基材と塗膜層の密着性が向上するため、結果として、金属めっき膜と基材との密着性が向上することになる。
また、塗膜層の表面近くにおいては還元性高分子微粒子の存在比が高くなるため、表面上における触媒金属の吸着量が増加することになるが、これにより、形成する金属めっき膜は、薄い塗膜層においても露出部(ムラ)がない均一なものとすることができる。
【0013】
本発明のめっき物は、還元性高分子微粒子だけでなく、導電性高分子微粒子を用いても同様に製造することができる。この場合、無電解めっきを行う前に、導電性高分子微粒子を脱ドープして還元性にしておく必要があるが、本発明のめっき物においては、上記と同様に、薄い層(導電性高分子微粒子層)においても優れた密着性及び均一性を維持できる。
そして導電性高分子微粒子層を薄くできることから短時間のアルカリ処理でも前記脱ドープを達成して塗膜層とすることができ、長時間のアルカリ処理による密着性低下の問題を回避することができる。
また、塗膜層の上側半分中に高分子微粒子の存在比が高くなる、例えば、60%以上の粒子が上側半分中に存在する構造は、還元性高分子微粒子又は導電性高分子微粒子と有機ポリマー(バインダー)を含む塗料を基材上に塗布した後の乾燥温度と時間を工夫するだけで容易に達成することができる。
【0014】
また、本発明のめっき物は、例えば、基材上に形成された還元性高分子微粒子を含む塗膜層上に、パラジウム等の触媒金属を還元・吸着させ、該パラジウム等の触媒金属が吸着された塗膜層上に金属めっき膜を形成することにより製造されるが、この際の、パラジウム等の触媒金属の還元及び高分子微粒子への吸着は、例えば、ポリピロールの場合、下図で示される状態になると考えられる。
【化1】

即ち、還元性の高分子微粒子(ポリピロール)がパラジウムイオンを還元することにより、高分子微粒子上にパラジウム(金属)が吸着されるが、これにより、
高分子微粒子(ポリピロール)はイオン化される、即ち、パラジウムによりドーピングされた状態となり、結果として導電性を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の、スチレン系樹脂基材上に、無電解めっき法により金属めっき膜を形成するための下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子とカルボン酸基を有する有機ポリマーとを含み、前記高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比は、3:1ないし3:100の範囲であり、前記下地塗料における固形分中のカルボン酸基の存在量は、0.01ないし4.0mmol/gの範囲であることを特徴とする。
【0016】
本発明に使用する基材は、Tg(ガラス転移温度)が通常100℃以下であり、そのため高い温度での操作が行えないポリスチレン系樹脂であれば特に限定されず、例えば、ABS樹脂、AS樹脂、HIPS樹脂、PS樹脂、MS樹脂等が挙げられ、また、その形態も特に限定されず、例えば、成形品、シート、フィルム等の何れの形態も含まれる。
上記成形品としては、例えば、自動車向けの装飾めっき品等の屋外使用の装飾めっき及び屋内装飾めっき等が挙げられる。
【0017】
本発明に使用する導電性高分子微粒子としては、導電性を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
導電性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。
【0018】
本発明に使用する還元性高分子微粒子は、0.01S/cm未満の導電率を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
また、還元性高分子微粒子としては、0.005S/cm以下の導電率を有する高分子微粒子が好ましい。
還元性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。
【0019】
本発明に使用するカルボン酸基を有する有機ポリマーとしては、分子中にカルボン酸基を有する化合物であれば、特に限定されないが、例えば、分子中にカルボン酸基有する、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂及びこれらの混合物が挙げられる。
前記樹脂のTgは、通常60℃以上であり、好ましくは70℃以上である。
尚、樹脂の混合物を使用する場合は、前記樹脂の中の少なくとも1種類がカルボン酸基を有していればよく、すべての樹脂がカルボン酸基を有する必要はない。
【0020】
また、カルボン酸基の存在量は、下地塗料における固形分中のカルボン酸基の存在量として0.01ないし4.0mmol/gの範囲となればよい。
上記の存在量が0.01mmol/g未満であると、下地塗料により形成される塗膜層と金属めっき膜の密着性が低下し、その結果、剥離強度及び耐久性が低下し、存在量が4.0mmol/gを超えると下地塗料により形成される塗膜層と基材との密着性が低下し、その結果、剥離強度及び耐久性が低下する。
上記の存在量は、好ましくは、0.1ないし2.4mmol/gの範囲である。
尚、有機ポリマー中におけるカルボン酸基の存在量の範囲は、下地塗料における固形分中のカルボン酸基の存在量が上記の範囲となる限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0021】
前記高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比は、3:1ないし3:100の範囲とな
る。
前記質量比において、3:1よりも有機ポリマーの比率が低くなる場合には、基材への密着性が弱くなり、結果として、剥離強度及び耐久性が低下し、3:100よりも有機ポリマーの比率が高くなる場合には、金属めっきの析出が悪くなり、結果として、めっき析出性及び表面の平滑性が低下する。
上記の質量比は、好ましくは、3:5ないし3:50の範囲である。
【0022】
本発明の下地塗料には、導電性又は還元性の高分子微粒子及びカルボン酸基を有する有機ポリマーに加えて、溶媒を含み得る。
下地塗料に含み得る溶媒としては、前記有機ポリマーを溶解することができるものであれば特に限定されないが、ポリスチレン系基材を大きく溶解するものは好ましくない。但し、ポリスチレン系基材を大きく溶解する溶媒であっても、他の低溶解性の溶媒と混合することにより、溶解性を低下させて使用することが可能である。
下地塗料に含み得る溶媒としては、低い温度において容易に乾燥し得る高揮発性の溶媒が好ましく、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
尚、導電性又は還元性の高分子微粒子として、予め有機溶媒に分散された分散液を使用する場合は、分散液に使用されている有機溶媒を下地塗料の溶媒の一部又は全部として使用することができる。
【0023】
更に、本発明の下地塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
【0024】
本発明はまた、スチレン系樹脂基材上に、上記の還元性の高分子微粒子を含む下地塗料を塗布し、これにより形成された塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物、並びに、スチレン系樹脂基材上に、上記の導電性の高分子微粒子を含む下地塗料を塗布し、これにより形成された塗膜層中の導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して還元性とした後、該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物にも関する。
【0025】
スチレン系樹脂基材上に、上記の還元性の高分子微粒子を含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成する工程及び上記の導電性の高分子微粒子を含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成する工程は、同様の条件で行うことができる。
即ち、上記で規定した下地塗料をスチレン系樹脂基材上に塗布し、必要に応じて加熱等を行って乾燥させることにより、塗膜層を形成する。
【0026】
スチレン系樹脂基材への塗布方法は、特に限定されず、例えば、スプレー、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、オフセット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。
乾燥条件も特に限定されず、室温、又は加熱条件下で行うことができる。
加熱を行う場合の温度は、スチレン系樹脂基材のTgより5ないし15℃低い温度で行うことが好ましい。
【0027】
塗膜層の上側半分の中に還元性高分子微粒子の存在比が高くなるよう、例えば、前記微粒子のうち60%以上の粒子が上側半分の中に存在するよう形成するのが好ましいが、そのような構成は、塗料の塗布後、緩和な条件で時間をかけて乾燥することにより達成する
ことができる。
具体的な方法としては、例えば、30ないし60℃の低い温度で長時間かけて乾燥したり、30ないし60℃の低い温度から徐々に温度を上げて乾燥することにより達成することができる。
2段階以上の異なった温度で乾燥する場合は、例えば、有機溶媒としてトルエンを使用した場合、40℃で10分間乾燥後、60℃で10分間乾燥し、その後80℃で10分間乾燥することにより塗膜層の上側半分の中に微粒子のうち60%以上の粒子が存在する構成とすることができる。
【0028】
形成される塗膜層の厚さは、0.5μmないし50μmの範囲である。
厚さが0.5μm未満であると金属が析出せずめっき膜が形成されず、厚さが50μmを超えると塗膜強度が低下する。
また、導電性高分子微粒子を用いて形成された塗膜層の場合は、微粒子を還元性とするためにアルカリ処理等の脱ドープ処理を行うが、この際、層の厚さが50μmを超えると前記の処理が長時間となり、それにより膜強度が低下し、結果として得られた金属めっき膜は、基材との密着性が低下することになる。
上記に記載の方法により、還元性の高分子微粒子を含む塗膜層及び導電性の高分子微粒子を含む塗膜層を形成することができる。
【0029】
導電性の高分子微粒子を用いて形成された塗膜層は、微粒子を還元性とするために脱ドープ処理が行われる。
脱ドープ処理としては、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
【0030】
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。
特に、導電性高分子微粒子を用いて形成された層は、非常に薄いため、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。
例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。
【0031】
上記のようにして製造された、還元性の高分子微粒子を含む塗膜層が形成されたスチレン系樹脂基材及び脱ドープ処理後の導電性の高分子微粒子を含む塗膜層が形成されたスチレン系樹脂基材を無電解めっき法によりめっき物とするが、該無電解めっき法は、通常知られた方法に従って行うことができる。
即ち、前記基材を塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することによりめっき物を得ることができる。
【0032】
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。
好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。
上記の操作により、塗膜中の還元性高分子微粒子は、結果的に、導電性高分子微粒子となる。
【0033】
上記で処理された基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき膜が形成される。
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。
即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。
無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。
得られためっき物は、使用したスチレン系樹脂基材のTgより5ないし15℃低い温度範囲において、数時間以上、例えば、2時間以上養生するのが好ましい。
上記の方法により、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、高い剥離強度及び耐久性を有し、表面の平滑性に優れ且つめっきムラのない(めっき析出性に優れる)スチレン系樹脂基材のめっき物を製造することができる。
【0034】
以下に、本発明の下地塗料に使用され得る導電性又は還元性の高分子微粒子を製造するための具体的な方法を記載する。
【0035】
(1)還元性高分子微粒子の製造方法
還元性高分子微粒子は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0036】
π−共役二重結合を有するモノマーとしては、還元性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール及び3−フェニルナフチルアミノピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン及びp−メチルアニリン等のアニリン誘導体、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体が挙げられ、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0037】
また前記製造に用いるアニオン系界面活性剤としては、種々のものが使用できるが、疎水性末端を複数有するもの(例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)が好ましい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用
することにより、安定したミセルを形成させることができ、重合後において水相と有機溶媒相との分離がスムーズであり、有機溶媒相に分散した還元性高分子微粒子が入手し易い。
疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)、スルホコハク酸ジ−2−エチルオクチルナトリウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
【0038】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.05mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.005mol〜0.03molである。0.05mol以上では添加したアニオン性界面活性剤がドーパントとして作用し、得られる微粒子は導電性を発現するため、これを用いて無電解めっきを行うためには脱ドープの工程が必要となる。
【0039】
ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、アルキルグルコシド類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビダン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類が挙げられる。これらを一種類または複数混ぜて使用してもよい。特に安定的にO/W型エマルションを形成するものが好ましい。
【0040】
反応系中でのノニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し、アニオン系界面活性剤と足して0.2mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では重合後において、水相と有機溶媒相との分離が困難になり、有機溶媒相にある還元性高分子微粒子を得る事ができなくなる事から好ましくない。
【0041】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびπ−共役二重結合を有するモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した還元性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0042】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0043】
前記製造で使用する酸化剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸のような有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過酸化水素のような過酸化物が使用できる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。塩化第二鉄等のルイス酸でもπ−共役二重結合を有するモノマーを重合できるが、生成した粒子が凝集し、微分散できない場合がある。特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0044】
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、ポリマー微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集してポリマー微粒子の粒
径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0045】
前記ポリマー微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合させる工程、
(d)有機相を分液しポリマー微粒子を回収する工程。
【0046】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0047】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子を入手することができる。
【0048】
上記の製造法により得られるポリマー微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体のポリマーよりなり、そしてアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径を有し、有機溶媒中で分散可能であることである。
ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。
上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
得られたポリマー微粒子の導電率は0.01S/cm未満であり、好ましくは、0.005S/cm以下である。
【0049】
こうして得られた有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の還元性高分子微粒子成分として使用することができる。
【0050】
(2)導電性高分子微粒子の製造方法
使用する導電性高分子微粒子は、例えば、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0051】
π−共役二重結合を有するモノマー及びアニオン系界面活性剤としては還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0052】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.2mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.05mol〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では得られた導電性高分子微粒子に導電性の湿度依存性が生じてしまう場合がある。
【0053】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した導電性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0054】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0055】
前記製造で使用する酸化剤としては、還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電性高分子微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集して導電性高分子微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0056】
前記導電性高分子微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合しアニオン系界面活性剤にポリマー微粒子を接触吸着させる工程、
(d)有機相を分液し導電性高分子微粒子を回収する工程。
【0057】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0058】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子を入手することができる。
【0059】
上記の製造法により得られる導電性高分子微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体よりなり、そしてアニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径と、有機溶媒中で分散可能であることである。
ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。
上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、脱ドープ処理して還元性とした際に、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
【0060】
こうして得られた有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の導電性高分子微粒子成分として使用することができる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
製造例1:導電性ポリピロール微粒子(分散液)の調製
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム1.5mmolをトルエン50mLに溶解し、さらにイオン交換水100mLを加え20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌し、次いで0.2M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(0.4mol相当)を少量ずつ滴下し、4時間反応を行った。反応終了後、有機層を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエン中に分散した導電性粒子分散液を得て、トルエンにて固形分濃度2%に調整した。
【0062】
実施例1ないし8及び比較例1ないし6:下地塗料の調製
製造例1で調製した導電性ポリピロール微粒子(分散液)の量、バインダー(バインダー1ないし6(それぞれA1ないしA6に対応する))の量及び種類並びに溶媒の量及び種類を表3の記載の通りに添加混合することにより、実施例1ないし8及び比較例1ないし6の下地塗料を調製した。
尚、表3に記載のバインダーA1ないしA6の詳細を表1に纏めた。
【表1】

【0063】
実施例1ないし8及び比較例1ないし6のめっき物の製造
<塗膜層の形成>
上記で調製した実施例1ないし8及び比較例1ないし6の下地塗料中に、基材:ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)樹脂成形物をディッピングし、80℃の熱風で3分間乾燥させることにより、膜厚が1.0μmの塗膜層を形成した。
<無電解めっき法によるめっき物の製造>
上記で製造した塗膜層が形成された基材(実施例1ないし8及び比較例1ないし6)を、1M水酸化ナトリウム水溶液中に、35℃で5分間浸漬後、洗浄水で洗浄することにより、導電性高分子微粒子を還元性とした。
次に、上記処理がなされた基材を、0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶
液中に35℃で5分間浸漬後、洗浄水で水洗した。次に、該基材を無電解銅めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し銅めっきを施した。
尚、各基材に形成された胴めっきの膜厚は、表3に記載した通りである。
【0064】
比較例7:エッチング+無電解めっきによるめっき物の製造
基材:ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)樹脂成形物を以下の(1)ないし(6)の工程に付すことにより比較例7のめっき物を製造した。
(1)脱脂工程:ホウ酸ナトリウム30g/L、リン酸ナトリウム20g/L、ノニオン系界面活性剤2g/Lからなる水溶液中(50℃)に、基材を5分間浸漬した後、洗浄水で洗浄した。
(2)エッチング工程:クロム酸420g/L、濃硫酸390g/Lからなる水溶液中(75℃)に基材を7分間浸漬後、洗浄水で洗浄した。
(3)中和工程:濃硫酸50cc/Lの水溶液中(室温)に基材を1分間浸漬後、洗浄水で洗浄した。
(4)キャタリスト:塩化パラジウム0.3g/L、塩化第一錫10g/L、濃硫酸200cc/Lからなる水溶液中(室温)に基材を3分間浸漬後、洗浄水で洗浄した。
(5)アクセレーター:濃硫酸75cc/Lの水溶液(40℃)に、基材を3分間浸漬後、洗浄水で洗浄した。
(6)無電解めっき:硫酸銅10g/L、ロシェル塩40g/L、ホルムアルデヒド10g/L、水酸化ナトリウム9g/L、チオ尿素5g/Lからなる水溶液(25℃)に基材を10分間浸漬後、洗浄水で洗浄した。
【0065】
参考例:エッチング+無電解めっき+電解めっきによるめっき物の製造
基材:ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)樹脂成形物を比較例7に記載の(1)ないし(6)の工程に付した後、更に、以下の(7)の工程に付すことにより参考例のめっき物を製造した。
(7)電解めっき:硫酸銅70g/L、硫酸200g/L、35%塩化水素0.125cc/L、トップルチナメークアップ(奥野製薬工業(株)製)10mL/L、トップルチナ81−HL 2.5mL/Lからなる水溶液中に、基材の無電解めっきによりめっき膜が形成された面を(−)極として、対抗銅電極((+)電極)を設け、0.02A/cm2の電流値で20分間、めっき膜上に銅を析出させた。その後、洗浄水で洗浄し、水分を
乾燥させた。
【0066】
試験例1
上記で製造した実施例1ないし8、比較例1ないし7及び参考例のめっき物において、各種の評価試験を行いその結果を表3に纏めた。
尚、評価項目及びその評価方法・評価基準は表2に記載した通りである。
【表2】

尚、表3中において、ABSは、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体を意味し、バインダーの種類A1ないしA6は、表1中で示されたものを表し、カルボン酸量の単位は、(mmol/g)であり、質量比は、ポリピロールとバインダーの質量比を表し、溶媒の種類におけるB1は、メチルエチルケトン(MEK)を意味し、B2はメタノールを意味する。
【表3】

<結果>
実施例1ないし4のめっき物は、塗料固形分中のカルボン酸量(濃度)が、それぞれ0.277、0.139、0.115及び2.377mmol/g(0.1ないし2.4mmol/g)であり、ポリピロール微粒子とバインダーとの質量比が3:20であったが、何れも、表面の平滑性、めっき析出性、剥離強度及び耐久性試験の全ての評価項目において優れていた。
特に、剥離強度は、エッチング処理、無電解めっき及び電解めっきを行った参考例のめっき物よりも優れていた。
実施例5のめっき物は、塗料固形分中のカルボン酸量(濃度)が、0.038mmol/gであり、ポリピロール微粒子とバインダーとの質量比が3:1であったが、剥離強度において、セロテープ(登録商標)にて剥がれないという□の評価であった。
実施例6のめっき物は、塗料固形分中のカルボン酸量(濃度)が、0.378mmol/gであり、ポリピロール微粒子とバインダーとの質量比が3:100であったが、めっき析出性において、全面にめっきが析出したものの、厚みが若干不均一であったため、□の評価であった。
実施例7のめっき物は、塗料固形分中のカルボン酸量(濃度)が、3.9mmol/gであり、ポリピロール微粒子とバインダーとの質量比が3:100であったが、めっき析出性において、全面にめっきが析出したものの、厚みが若干不均一であったため、□の評価であり、剥離強度において、セロテープ(登録商標)にて剥がれないという□の評価であった。
実施例8のめっき物は、バインダーの樹脂Tgが50℃であったため、めっき析出性において、全面にめっきが析出したものの、厚みが若干不均一であったため、□の評価であり、剥離強度において、剥離強度において、セロテープ(登録商標)にて剥がれないという□の評価となり、また、耐久性試験において、若干めっきの浮きが見られるという△の評価となった。
比較例1のめっき物は、塗料固形分中のカルボン酸量(濃度)が、0.01ないし4.0mmol/gの範囲より少ない0.0069mmol/gであったため、剥離強度において、セロテープ(登録商標)で若干剥がれるという△の評価となり、また、耐久性試験において、若干めっきの浮きが見られるという△の評価となった。
比較例2のめっき物は、塗料固形分中のカルボン酸量(濃度)が、0.01ないし4.0mmol/gの範囲より少ない0mmol/gであったため、剥離強度において、セロテープ(登録商標)で簡単に剥がれるという×の評価となり、また、耐久性試験において、全体的にめっきが浮き上がっているという×の評価となった。
比較例3のめっき物は、ポリピロール微粒子とバインダーとの質量比が、3:1ないし3:100の範囲よりもバインダーの比率が高い3:120であったため、めっき析出性において、部分的にめっきが析出していないという△の評価となった。
比較例4のめっき物は、ポリピロール微粒子固形分を含んでいなかったため、めっきが析出せず、×の評価となった。
比較例5のめっき物は、塗料固形分中のカルボン酸量(濃度)が、0.01ないし4.0mmol/gの範囲より多い4.410mmol/gであったため、めっき析出性において、全面にめっきが析出したものの、厚みが若干不均一であったため、□の評価であり、剥離強度において、セロテープ(登録商標)で簡単に剥がれるという×の評価となり、また、耐久性試験において、全体的にめっきが浮き上がっているという×の評価となった。
比較例6のめっき物は、ポリピロール微粒子とバインダーとの質量比が、3:1ないし3:100の範囲よりもバインダーの比率が低い3:0.3であったため、剥離強度において、セロテープ(登録商標)で簡単に剥がれるという×の評価となり、また、耐久性試験において、全体的にめっきが浮き上がっているという×の評価となった。
また、エッチング処理を行うことにより製造された比較例7のめっき物は、表面粗化により形成された細かな凹凸により、0.3μm程度のめっき厚では、表面の平滑性が得られなかったことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂基材上に、無電解めっき法により金属めっき膜を形成するための下地塗料であって、
該下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子とカルボン酸基を有する有機ポリマーとを含み、前記高分子微粒子と前記有機ポリマーの質量比は、3:1ないし3:100の範囲であり、前記下地塗料における固形分中のカルボン酸基の存在量は、0.01ないし4.0mmol/gの範囲である下地塗料。
【請求項2】
前記高分子微粒子が還元性高分子微粒子である請求項1記載の下地塗料。
【請求項3】
前記高分子微粒子が導電性高分子微粒子である請求項1記載の下地塗料。
【請求項4】
スチレン系樹脂基材上に、請求項2に記載の下地塗料を塗布し、これにより形成された塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物。
【請求項5】
スチレン系樹脂基材上に、請求項3に記載の下地塗料を塗布し、これにより形成された塗膜層中の導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して還元性とした後、該塗膜層に無電解めっき液から金属膜を化学めっきすることにより製造されるめっき物。

【公開番号】特開2009−235501(P2009−235501A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83763(P2008−83763)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】