説明

スチレン系樹脂組成物、成形体、スチレン系樹脂組成物の製造方法及びマスターバッチ

【課題】回収ポリスチレン樹脂を用いて、製品価値の高い耐衝撃性のスチレン系樹脂組成物を製造する。
【解決手段】異物が10質量%以下であるポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)と、ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、ブロック共重合体(c)とを含有し、前記ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)が、スチレン系樹脂組成物中、5質量%以上45質量%以下含有されており、前記グラフトゴムの平均粒子径が1.5μm〜5μmであり、前記ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも2つのブロックと、共役ジエンを主体とする少なくとも1つのブロックとからなるブロック共重合体であり、前記ブロック共重合体(c)が、スチレン系樹脂組成物中、5質量%以上45質量%以下含有されているスチレン系樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物、成形体、スチレン系樹脂組成物の製造方法、及びマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン樹脂は、成形加工性に優れ、かつ安価であるため、汎用樹脂のひとつとして、食品包装材、ブリスターパッケージ材、電気機器の筐体や記録媒体の透明ケース材、緩衝材や断熱材に使用される発泡材等、多様な用途に利用されている。
これらの成形品は、最終的に廃材として廃棄されるが、従来においては埋め立て処理又は焼却処理が主流である。
【0003】
近年、廃棄物処理能力の限界、資源の枯渇対策及び環境保全の観点から、使用済みのポリスチレン樹脂成形品のリサイクルによる回収再利用が検討されている。
ポリスチレン樹脂成形品を再利用するためには、先ず、回収されたスチレン樹脂成形品を成形原料として利用しやすい形状に加工する。
具体的には、射出品やシート等の硬質成形品の場合には、粉砕して2〜8mm程度の大きさのフレーク状とする。
また、発泡成形品は、使用されたポリスチレン樹脂の10〜70倍の容積に膨張しているため、単位重量当りの回収経費を低減するために減容を行う。ポリスチレン樹脂発泡成形品の主な減容の方法としては、溶剤に溶解する溶剤減容方式、加熱溶融する熱減容方式による方法による方法等がある。
【0004】
溶剤減容方式を経て回収ポリスチレン樹脂を得る場合、溶液を濾過することにより混入している異物を簡易に除去できる利点はあるものの、溶剤を蒸発分離する設備を必要とするため高コストであり、また、成形品中への残留溶剤に関する課題がある。
一方、硬質成形品を上記のように粉砕して再生ポリスチレン樹脂を得る場合や、発泡成形品を用いて熱減容方式を経て再生スチレン樹脂を回収する場合には、コストは安価であるものの、得られる再生ポリスチレンは、その熱履歴や異物混入により、耐衝撃性に代表される機械物性が低下しているという課題がある。
【0005】
従来においては、特に、機械物性の低下の課題に対し、例えば、回収ポリスチレン樹脂に改質材を配合する等、改良の試みが検討されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−154584号公報
【特許文献2】特開2009−149768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような回収ポリスチレン樹脂を含む樹脂組成物は、未使用のポリスチレン系樹脂と比較して、剛性や衝撃強度等の機械物性バランスに劣り、十分満足できるものではなく、また、回収ポリスチレン樹脂の配合比率が実質的に低いため、資源の有効利用の観点で不十分である。
さらに近年においては、リサイクル品への要求が年々高まっており、回収ポリスチレン樹脂を用いた材料においても、未使用のポリスチレン樹脂と同等な機械物性を有する材料の開発が望まれている。
【0008】
そこで本発明においては、従来は埋め立てもしくは焼却処理されるか、製品価値の低い用途にしか利用されていなかった回収ポリスチレン樹脂を、製品価値の高い耐衝撃性ポリスチレン樹脂として提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述したような回収ポリスチレンに関する従来の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとからなるブロック共重合体と、特定の平均ゴム粒子径を有するゴム状重合体とをグラフト重合体したビニル芳香族炭化水素重合体を、回収ポリスチレン樹脂に配合することによって、上記従来技術の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は下記の通りである。
【0010】
〔1〕
異物が10質量%以下であるポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)と、
ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、
ブロック共重合体(c)と、
を、含有し、
前記ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)が、スチレン系樹脂組成物中、5質量%以上45質量%以下含有されており、
前記グラフトゴムの平均粒子径が、1.5μm〜5μmであり、
前記ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも2つのブロックと、共役ジエンを主体とする少なくとも1つのブロックとからなるブロック共重合体であり、前記ブロック共重合体(c)が、スチレン系樹脂組成物中、5質量%以上45質量%以下含有されているスチレン系樹脂組成物。
【0011】
〔2〕
前記異物が10質量%以下であるポリスチレン樹脂(x)が、成形品を回収して得られた回収ポリスチレン樹脂である前記〔1〕に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0012】
〔3〕
前記ビニル芳香族炭化水素重合体(a)に含有されている前記ポリスチレン樹脂(x)が、スチレン系樹脂組成物中、50質量%以上90質量%以下含有されている前記〔1〕又は〔2〕に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0013】
〔4〕
前記ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素含有量が20質量%〜90質量%、共役ジエン含有量が80質量%〜10質量%であり、
前記ブロック共重合体(c)を構成している全ビニル芳香族炭化水素単位のうち、重合体ブロックを構成している割合が75質量%以上100質量%以下である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0014】
〔5〕
前記ブロック共重合体(c)は、全ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック含有率が40質量%以上70質量%以下である前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0015】
〔6〕
前記ブロック共重合体(c)は、
ビニル芳香族炭化水素含有量が60質量%〜90質量%、共役ジエン含有量が40質量%〜10質量%からなるブロック共重合体(c1)と、
ビニル芳香族炭化水素含有量が20質量%〜50質量%、共役ジエン含有量が50質量%〜80質量%からなるブロック共重合体(c2)と、
を有しており、
前記ブロック共重合体(c1)と前記ブロック共重合体(c2)との質量比:(c1)/(c2)が、80/20〜20/80である前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0016】
〔7〕
前記ブロック共重合体(c1)及び前記ブロック共重合体(c2)の、少なくとも一方が、ブロック共重合体を構成している共役ジエン単位のうちの50質量%以上が水素添加されている前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0017】
〔8〕
ポリフェニレンエーテル系重合体(d)とリン系難燃剤(e)とを、さらに含有する前記〔1〕乃至〔7〕のいずれか一に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0018】
〔9〕
前記〔1〕乃至〔8〕のいずれか一に記載のスチレン系樹脂組成物からなるペレット。
【0019】
〔10〕
前記〔1〕乃至〔8〕のいずれか一に記載のスチレン系樹脂組成物を成形した成形体。
【0020】
〔11〕
前記〔1〕乃至〔8〕のいずれか一に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法であって、ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも2つのブロックと、共役ジエンを主体とする少なくとも1つのブロックとからなるブロック共重合体(c)とを、予め混練してマスターバッチを作製する工程と、
前記マスターバッチと、異物が10質量%以下であるポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)とを混練する工程と、
を、含むスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【0021】
〔12〕
前記〔11〕に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法において用いるマスターバッチであって、ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも2つのブロックと、共役ジエンを主体とする少なくとも1つのブロックとからなるブロック共重合体(c)とを混練したマスターバッチ。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、未使用のポリスチレン樹脂の代替として、回収ポリスチレン樹脂を有効に利用でき、石化資源の有効利用を図ることができる。
また、本発明によれば、未使用のポリスチレン樹脂を使用して得られた成形体と比較しても強度的に遜色なく、実用上問題のない機械的強度を有する回収ポリスチレンを使用した成形体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、説明する。
本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0024】
〔スチレン系樹脂組成物〕
異物が10質量%以下であるポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)と、ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)(以下、単に「ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)」ということもある。)と、ブロック共重合体(c)と、を、含有するものである。
前記ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)が、スチレン系樹脂組成物中、5質量%以上45質量%以下含有されている。
前記グラフトゴムの平均粒子径は、1.5μm〜5μmである。
前記ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも2つのブロックと、共役ジエンを主体とする少なくとも1つのブロックとからなるブロック共重合体であり、前記ブロック共重合体(c)が、スチレン系樹脂組成物中、5質量%以上45質量%以下含有されている。
【0025】
(ポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a))
本実施形態のスチレン系樹脂組成物を構成するビニル芳香族炭化水素重合体(a)は、異物が10質量%以下のポリスチレン樹脂(x)を主体とするものである。
このポリスチレン樹脂(x)としては、成形品を回収して得られたいわゆる回収ポリスチレン樹脂が挙げられる。これにより、従来は埋め立て若しくは焼却処理されるか、製品価値の低い用途にしか利用されていなかった回収ポリスチレン樹脂を主たる成分として利用しつつ、製品価値を高めたスチレン系樹脂組成物が得られる。
【0026】
回収ポリスチレン樹脂としては、例えば、射出成形品やシート等を細かく粉砕したものや、溶剤等により溶解した後に脱溶剤処理を行って得られたもの、発泡体等を熱減容して粉砕あるいはペレット状に加工したもの等が挙げられる。
回収ポリスチレン樹脂となるポリスチレン成形体としては、市場より使用済み製品として回収したものに限らず、従来であれば廃棄されていた射出成形時に副生するスプルーやランナー等も含まれる。
回収ポリスチレン樹脂としては、透明性を有するポリスチレン成形体、あるいは発泡ポリスチレンが好ましい。
これらは一般的に、ほとんどゴム成分を含有しないホモポリスチレン、いわゆるゼネラルパーパスポリスチレン(以下、GPPSと略記)である。
このようなポリスチレン成形体、発泡ポリスチレンの具体例としては、GPPS製のCD、MD、DVD等の透明な記録媒体ケース、ブリスターパッケージ材、魚肉用トレーや緩衝材や断熱材や保冷箱等として利用される発泡ポリスチレン等が挙げられる。
【0027】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物を構成する「ポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)」の「主体とする」とは、少なくとも50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であることを意味する。
ビニル芳香族炭化水素重合体(a)としては、ポリスチレン樹脂(x)に未使用のスチレン樹脂を混合したもの、例えば、回収ポリスチレン樹脂に未使用のGPPS等を混合したものが挙げられる。
一般に、回収ポリスチレン樹脂は、未使用のスチレン樹脂と比較すると、成形加工の際に熱履歴を多く受けることによる分子量低下や、異物が混入している場合もあるため、機械物性に劣る場合があり、上記のように未使用のスチレン樹脂と混合することにより、機械物性の改良効果が得られる。
【0028】
ポリスチレン樹脂(x)としての回収ポリスチレン樹脂には、通常、少量の異物、例えばGPPS等のポリスチレン以外の樹脂が混入する。例えば、汎用樹脂として家電製品に多用されるABS樹脂や包装材等に多用されているポリオレフィン樹脂等の混入が想定される。
本実施形態において、ポリスチレン樹脂(x)中の異物は10質量%以下であるものとする。
回収ポリスチレン樹脂中の異物の含有量については、成形品を回収するルートや最終的に目的とするスチレン系樹脂組成物の用途による選択の仕方によって異なるが、異物の含有量が10質量%以下のポリスチレン樹脂(x)を用いることにより、本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、実用上良好な機械的強度を実現できる。
ポリスチレン樹脂(x)中の異物としては、何ら限定されるものではないが、例えば、包装フィルム等に汎用的に多用されているポリオレフィン樹脂が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(ホモ、ブロック、ランダム等全て含む)、ゴムやエラストマー等が例示できる。
更に、ポリスチレン樹脂(x)中の異物としては、埃や繊維状物質や金属片等の環境由来物質が挙げられる。
これらの異物の混入は、樹脂組成物の物性低下、とりわけ衝撃強度の低下の原因となる。
これらの異物については、ポリスチレン樹脂(x)単味のペレットを作製する際、あるいは、樹脂組成物を作製する際に、押出機内でスクリーンメッシュを通すことによって、ある程度の大きさを有する異物を除去することが好ましい。
スクリーンメッシュは目が細かい方が異物の捕捉効果は高まるが、一方で押出機への負荷が高まることによる、単位時間当たりの混練処理量の低下や、ベントより樹脂があふれる問題(ベントアップ)もあるため、場合に応じて適切に選択することが好ましい。
【0029】
ポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)のメルトフローレート(ISO1133 温度200℃、荷重5kgf)は、加工性や機械的強度の観点から、0.1〜50g/10分が好ましく、1〜20g/10分がより好ましい。
一般的に、回収ポリスチレン樹脂は、回収減容処理時に熱履歴を受けるため、分子量低下によるメルトフローレートの上昇が起こるため、未使用のGPPSを混合する場合、本実施形態のスチレン系樹脂組成物において良好な機械的特性を実現するため、回収ポリスチレン樹脂よりも、メルトフローレートが低いものを選択することが好ましい。
また、ポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)の構成成分として用いることができる重合体としては、GPPSの他に、少なくとも1種以上の(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物とビニル芳香族炭化水素との共重合体や、アクリロニトリルとビニル芳香族炭化水素との共重合体が挙げられる。
(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物とビニル芳香族炭化水素との共重合体については、特に限定されるものではなく、共重合体のモノマー成分である(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物についても特に制限はない。
なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物のアルキル基の炭素数は1〜20が好ましい。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ドデシル、ラウリル、パルミチル、ステアリル、シクロヘキシル等が挙げられる。特に、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0030】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物中のポリスチレン樹脂(x)の含有量は、50質量%以上90質量%以下が好ましく、50質量%以上80質量%未満がより好ましい。
ポリスチレン樹脂(x)として回収ポリスチレン樹脂を上記含有量により使用することにより廃棄物低減化、再資源化の観点から高い効果が得られる。
【0031】
(ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b))
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に含有されている、ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレンとして一般的に知られているもの、いわゆるハイインパクトポリスチレン(HIPS)や、ゴム状重合体をグラフト重合した(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物とビニル芳香族炭化水素との共重合したもの、いわゆるMBS樹脂や、ゴム状重合体をグラフト重合したアクリロニトリルとビニル芳香族炭化水素との共重合したもの、いわゆるABS樹脂等も使用できる。
ここで「主体とする」とは、少なくとも50質量%以上、好ましくは60質量%以上を意味する。
【0032】
一般的に、ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)は、ゴム状重合体を、予めスチレン等のビニル芳香族炭化水素モノマー、必要に応じて(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物やアクリロニトリル等の共重合性モノマーの存在下において、重合することにより得られる重合体である。
上記ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)の原料として用いられるゴム状重合体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンモノマーを主体とした単独重合体、共重合体、及び/又はこれらの水素添加物が挙げられ、その他、スチレン等のビニル芳香族炭化水素モノマーとの共重合ゴムも挙げられる。
【0033】
ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)は、グラフトゴムを含有しており、このグラフトゴムの平均粒子径は1.5μm〜5μmの範囲である。これにより、本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、実用上良好な衝撃強度、剛性等の機械物性が得られる。
グラフトゴムの平均粒子径の測定方法について説明する。
先ず、ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)を、四酸化オスミウムで染色し、それから厚み約75nmの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡を用いて撮影し、倍率1万倍の写真を得る。
次に、写真中、黒く染色されたゴム粒子径を測定して、次式により算出する。
(平均粒子径)=ΣnDi4/ΣnDi3 ・・・長径Diの個数がn
グラフトゴムの粒子には、その内部にポリスチレンを内包した、いわゆるサラミ構造のものやコアシェル構造のものがある。
【0034】
ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)の本実施形態のスチレン系樹脂組成物中の含有量は、5質量%〜45質量%の範囲が好ましく、5質量%〜30質量%の範囲がより好ましく、5質量%〜25質量%の範囲がさらに好ましい。
【0035】
ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)は、メルトフローレート(ISO1133 温度200℃、荷重5kgf)が0.1〜50g/10分であることが好ましく、1〜20g/10分であることがより好ましい。これにより本実施形態のスチレン系樹脂組成物において良好な成形加工性が得られる。
【0036】
(ブロック共重合体(c))
ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも2つのブロックと、共役ジエンを主体とする少なくとも1つのブロックとからなるブロック共重合体である。
ここで「主体とする」とは、少なくとも50質量%以上、好ましくは70質量%以上を意味する。
ブロック共重合体(c)は、所定の炭化水素溶媒中、重合開始剤を用いて、ビニル芳香族炭化水素及び共役ジエンを共重合することにより得られる。
【0037】
ブロック共重合体(c)の製造に用いる炭化水素溶媒としては、例えば、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン等の脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
これらは、1種のみ単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0038】
ブロック共重合体(c)の製造に用いる重合開始剤としては、一般的に共役ジエン及びビニル芳香族化合物に対しアニオン重合活性があることが知られている脂肪族炭化水素アルカリ金属化合物、芳香族炭化水素アルカリ金属化合物等を使用することができる。
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、好適な脂肪族炭化水素アルカリ金属化合物及び芳香族炭化水素アルカリ金属化合物としては、炭素数1〜20の脂肪族及び芳香族炭化水素リチウム化合物であって、1分子中に1個のリチウムを含む化合物や、1分子中に複数のリチウムを含むジリチウム化合物、トリリチウム化合物、テトラリチウム化合物等が挙げられる。
具体的には、n−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルジリチウム、イソプレニルジリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとsec−ブチルリチウムとの反応生成物、さらにジビニルベンゼンとsec−ブチルリチウムと少量の1,3−ブタジエンとの反応生成物等が挙げられる。
更に、米国特許第5,708,092号明細書、英国特許第2,241,239号明細書、米国特許第5,527,753号明細書等に開示されている有機アルカリ金属化合物も使用できる。
これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
ブロック共重合体(c)の共重合反応に用いられるビニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等が挙げられ。特にスチレンが一般的であり好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ブロック共重合体(c)の共重合反応に用いられる共役ジエンとは、一対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。特に、1,3−ブタジエン、イソプレンが一般的であり好ましい。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
ブロック共重合体(c)を製造する際の重合温度は、一般的に−10℃〜150℃であるものとし、好ましくは40℃〜120℃である。
重合に要する時間は条件によって異なるが、通常は10時間以内であり、特に好適には0.5〜5時間である。
また、重合系の雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガス等をもって置換することが好ましい。
重合圧力は、上記重合温度範囲でモノマー及び溶媒を液層に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に制限されるものではない。
重合系内には触媒及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物、例えば水、酸素、炭酸ガス等が混入しないよう留意することが好ましい。
【0041】
ブロック共重合体(c)は水素添加してもよい。
ブロック共重合体(c)の水添物を製造する方法については特に制限は無く、公知の水添触媒を使用できる。一般的には、芳香族炭化水素と共役ジエンとの重合が完了した後、炭化水素溶媒に溶解した状態で実施する。
また、水素添加する場合は、共役ジエン部において、50質量%が水素添加されることが好ましい。水素添加物と水素添加されていない2種類以上のブロック共重合体(c)を使用することもできる。
【0042】
ブロック共重合体(c)の水添反応において使用する水添触媒としては、下記(1)〜(3)の触媒が挙げられる。
(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系触媒。
(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型触媒。
(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等の、いわゆる有機金属錯体等の均一系触媒。
【0043】
具体的な水添触媒としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報、特公平1−53851号公報、特公平2−9041号公報に記載された水添触媒を使用できる。
好ましい水添触媒としては、チタノセン化合物及び/又は還元性有機金属化合物との混合物が挙げられる。
【0044】
チタノセン化合物としては、特開平8−109219号公報に記載された化合物が使用できる。具体的には、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上もつ化合物が挙げられる。
また、還元性有機金属化合物としては、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0045】
水添反応は、一般的に0〜200℃、より好ましくは30〜150℃の温度範囲で実施される。
水添反応に使用される水素の圧力は、一般的に0.1〜15MPa、好ましくは0.2〜10MPa、より好ましくは0.3〜7MPaとする。
また、水添反応時間は、通常3分間〜10時間、好ましくは10分間〜5時間である。
水添反応は、バッチプロセス、連続プロセスのいずれでもよく、これらの組み合わせでもよい。
【0046】
以下、ブロック共重合体(c)の構成について説明する。
ブロック共重合体(c)は、例えば、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの混合物を連続的に重合系に供給して重合する方法により得られる。または極性化合物あるいはランダム化剤を使用して、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとを共重合する等の方法も適用できる。
極性化合物やランダム化剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類、チオエーテル類、ホスフィン類、ホスホルアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等が挙げられる。
ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素含有量が20質量%〜90質量%、共役ジエン含有量が80質量%〜10質量%であることが好ましい。
また、ブロック共重合体(c)は、ブロック共重合体(c)を構成している全ビニル芳香族炭化水素単位のうち、重合体ブロックを構成している割合(ブロック率)が75質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
ブロック共重合体(c)における全ビニル芳香族炭化水素単位のうち、重合体ブロックを構成している割合(ブロック率)は、四酸化オスミウムを触媒としてジターシャリーブチルハイドロパーオキサイドによりブロック共重合体を酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分(但し平均重合度が約30以下のビニル芳香族炭化水素重合体成分は除かれている。)を、ブロック共重合体(c)中の全ビニル芳香族炭化水素の重量で除した値であり、その値を質量%で表したものである。
ブロック共重合体(c)におけるビニル芳香族炭化水素含有量、及び全ビニル芳香族炭化水素単位のうち重合体ブロックを構成している割合(ブロック率)は、UV計(紫外線吸光光度計)を用いて測定できる。具体的には、実施例に記載の方法に従い、測定できる。
また、ブロック共重合体(c)は、本実施形態のスチレン系樹脂組成物の成形加工性と物性とのバランスから、線状ブロック共重合体であることが好ましい。
【0047】
ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの割合(重合体ブロック含有率)が40質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの割合(重合体ブロック率)が上記範囲であるブロック共重合体(c)は、一般的にビニル芳香族炭化水素を主体とする硬質成分(ハードセグメント)と、共役ジエンを主体とする軟質成分(ソフトセグメント)の双方が、三次元的網目構造、いわゆる「ラメラー構造」を取る傾向があり、少量の配合でより効果的に衝撃強度を発現することが可能となり、剛性とのバランスに優れたスチレン系樹脂組成物が得られる。
なお、上記ブロック含有率(質量%)は、配合されている全てのブロック共重合体における、ビニル芳香族炭化水素含有量(質量%)と、上記ブロック率(質量%)との積を100で除した値となる。
ブロック共重合体(c)におけるブロック率は、重合の際にビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの反応容器への供給する重量比率を変えることにより制御できる。
【0048】
ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素含有量が60質量%〜90質量%、共役ジエン含有量が40質量%〜10質量%からなるブロック共重合体(c1)と、ビニル芳香族炭化水素含有量が20質量%〜50質量%、共役ジエン含有量が80質量%〜50質量%からなるブロック共重合体(c2)とを有していることが好ましく、ブロック共重合体(c1)とブロック共重合体(c2)の質量比率が80/20〜20/80であることが好ましい。
ブロック共重合体(c)として、上記ブロック共重合体(c1)とブロック共重合体(c2)とを併用することにより、元来、脆い特性を有する回収ポリスチレン樹脂(x)の剛性や機械的強度を大きく損なうことなく、耐衝撃性を付与し、物性バランスに優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【0049】
ブロック共重合体(c1)とブロック共重合体(c2)のビニル芳香族炭化水素含有量の差は、20質量%〜50質量%であることが好ましく、25質量%〜40質量%の範囲であることがより好ましい。このようなブロック共重合体(c1)と(c2)とを併用することにより、物性バランスに優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【0050】
また、ブロック共重合体(c1)及び/又はブロック共重合体(c2)を、水素添加してもよい。
この場合、ブロック共重合体を構成している共役ジエン単位の内、50質量%以上が水素添加されていることが好ましい。
ブロック共重合体(c1)、(c2)における共役ジエン部の二重結合の水添率は、水添後の水添ブロック共重合体を用い、核磁気共鳴装置(装置名:DPX−400;ドイツ国、BRUKER社製)で測定できる。
【0051】
ブロック共重合体(c1)及び(c2)の重量平均分子量は、いずれも4万〜30万の範囲にあることが好ましい。
この範囲内に重量平均分子量を有することにより、回収ポリスチレン樹脂の補強効果を十分に引き出すことが可能となる。
ブロック共重合体(c1)及び(c2)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、既知の分子量を有するGPC検量用単分散標準ポリスチレンを使用して検量線を作成し、常法(例えば「ゲルクロマトグラフィー<基礎編>」講談社発行)に従って算出することができる。
【0052】
ブロック共重合体(c)は、重合途中から開始剤を添加する方法、重合途中に重合活性点未満のアルコール、水等を添加した後、再度モノマーを供給して重合を継続する方法(途中失活法)等を適宜選択することにより、上記ブロック共重合体(c1)、(c2)のように、重量平均分子量が異なる成分を作製することが可能である。
とりわけ、途中失活法は、高い衝撃強度を発現するブロック共重合体を得る手段として極めて有用である。
【0053】
ブロック共重合体(c)のメルトフローレート(ISO1133 温度200℃、荷重5kgf)は、加工性や機械的特性の点から、0.1〜50g/10分が好ましく、1〜20g/10分がより好ましい。
【0054】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物中における、ブロック共重合体(c)の質量比率は、5質量%以上45質量%以下であり、5質量%以上35質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましく、10質量%以上25質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲内とすることにより、剛性と耐衝撃性とのバランスに優れたスチレン系樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0055】
(ポリフェニレンエーテル系重合体(d)、リン系難燃剤(e))
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、その使用目的に応じてポリフェニレンエーテル系重合体(d)及び/又はリン系難燃剤(e)を含有することが可能である。
これらの成分を併用して配合することにより、本実施形態のスチレン系樹脂組成物に、更に難燃性を付与することができる。
特に、電器機器類の筐体に使用する場合等、難燃性が要求される用途に使用する場合には、ポリフェニレンエーテル系重合体(d)成分、及びリン系難燃剤(e)成分の配合は効果的である。
【0056】
ポリフェニレンエーテル系重合体(d)としては、下記の単独重合体又は共重合体が挙げられる。
上記単独重合体の具体例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−14−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテルポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。
特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが、最も一般的で好ましく、特開昭63−301222号公報等に記載されている、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニットや2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニット等を部分構造として含んでいるポリフェニレンエーテルも好ましく用いられる。
【0057】
上記共重合体の具体例としては、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体あるいは2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノール及びo−クレゾールとの共重合体等が挙げられる。
【0058】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に使用するポリフェニレンエーテル系重合体は、0.5g/100mLクロロホルム溶液による、30℃における還元粘度が、0.2〜0.7dl/gであることが好ましく、0.40〜0.65dl/gであることがより好ましい。
【0059】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物中における、ポリフェニレンエーテル系重合体(d)の質量比率については、なんら限定されないが、上述したビニル芳香族炭化水素重合体(a)と、ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素重合体(b)と、ブロック共重合体(c)と、ポリフェニレンエーテル系重合体(d)との合計を100質量部としたとき、0〜30質量%であることが好ましく、0〜25質量%であることがより好ましく、10〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物を難燃化させるためには、ポリフェニレンエーテル系重合体(d)に加えて、更にリン系難燃剤(e)を配合することが好ましい。
リン系難燃剤(e)としては、難燃剤として公知のリン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、赤リン等からなる群より選択された1種以上を使用することができる。
リン酸エステル化合物としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリスノニルフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス[ジ(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート]、2,2−ビス{4−[ビス(フェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−[ビス(メチルフェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン等が挙げられる。
【0061】
更に、上記以外にリン系難燃剤(e)としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系難燃剤、ジフェニル−4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモベンジルホスフォネート、ジメチル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、ジフェニル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2、3−ジブロモプロピル)−2、3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、およびビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェートハイドロキノニルジフェニルホスフェート、フェニルノニルフェニルハイドロキノニルホスフェート、フェニルジノニルフェニルホスフェート等のモノリン酸エステル化合物、及び芳香族縮合リン酸エステル化合物等が挙げられる。
【0062】
ホスファゼン化合物としては、例えば、「James E. Mark, Harry R. Allcock, Robert West 著、"Inorganic Polymers" Pretice-Hall International, Inc., 1992, p61-p140」に記載されている化合物が挙げられる。
例えば、下記一般式(1)で示される環状ホスファゼン化合物及び/又は、下記一般式(2)で示される鎖状ホスファゼン化合物が挙げられ、これらの構造を有するホスファゼン化合物を95重量%以上含有するものが好ましい。
【0063】
【化1】

【0064】
【化2】

【0065】
ここで、一般式(1)、(2)中のnは3〜25の整数であり、mは3〜10000の整数である。
置換基Xは、炭素数が1〜6のアルキル基、炭素数が6〜11のアリール基、フッ素原子、下記一般式(3)、
【0066】
【化3】

【0067】
で示される置換基を有するアリールオキシ基(式中のY1、Y2、Y3、Y4、Y5は、水素原子、フッ素原子、炭素数が1〜5のアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ヘテロ元素含有基の中からなる群より選ばれた少なくとも一種の置換基を表す。)、ナフチルオキシ基、炭素数が1〜6のアルコキシ基やアルコキシ置換アルコキシ基、からなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基である。これらの置換基上の水素は、一部又は全部がフッ素により置換されていてもよい。
一般式(2)中のYは、−N=P(O)(X)、又は−N=P(X)3を表す。
一般式(2)中のZは、−P(X)4又は−P(O)(X)2を表す。
【0068】
また、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミンを構成するリン酸としては、例えば、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等が挙げられる。
リン酸メラミン、ポリリン酸メラミンとは、メラミンと上記リン酸又はポリリン酸との実質的に等モルから形成されるメラミン付加物を意味し、一部遊離の状態にあってもよい。
【0069】
上記例示した難燃剤の中で、加工時のガス発生が少なく、熱安定性等に優れることから、芳香族縮合リン酸エステル化合物が好ましい。
これらの芳香族縮合リン酸エステル化合物としては、一般に市販されており、例えば、大八化学工業(株)製のCR741、CR733S、PX200などが知られている。
特に、酸価が0.1以下(JIS K2501に準拠して得られた値)の芳香族縮合リン酸エステル化合物及びフェノキシホスファゼンが好ましい。
これらのリン系難燃剤(e)は、単独で用いても2種以上を併用しても良い。
【0070】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に配合されるリン系難燃剤(e)の含有量は、必要とされる難燃性レベルに応じて異なるが、一般には、上述したビニル芳香族炭化水素重合体(a)と、ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素重合体(b)と、ブロック共重合体(c)と、ポリフェニレンエーテル系重合体(e)との合計100質量部に対し、1〜35重量部であることが好ましく、3〜25重量部含まれていることがより好ましい。
【0071】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物には、難燃助剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のドリップ防止剤を含んでいてもよい。
このようなポリテトラフルオロエチレンは、分子量が10万以上のものが好ましく、20万〜300万程度のものがより好ましい。
ポリテトラフルオロエチレンが配合された本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、燃焼時のドリップが抑制される。さらに、ポリテトラフルオロエチレンとシリコーン樹脂とを併用すると、ポリテトラフルオロエチレンのみを添加したときに比べて、さらにドリップを抑制する効果が高く、しかも燃焼時間の短縮が図られる。
【0072】
(添加剤)
本実施形態のスチレン系樹脂組成物には、必要に応じて添加剤を配合してもよい。
特に、加熱による各成分の混練や成形加工時の熱劣化や酸化劣化を抑制するために、酸化防止剤等の熱安定剤等を添加することが推奨される。
添加剤は、スチレン系樹脂組成物中、0.1〜1.5質量%とすることが好ましい。0.1質量%未満とすると添加剤の効果が不十分となり、1.5質量%を超えて添加しても効果上意味が無いものとなる。
添加剤としては、例えば、2−t−ブチル−6(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート等の熱安定剤、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニルプロピオネート等の酸化防止剤が挙げられる。
【0073】
その他の添加剤としては、熱可塑性樹脂に一般的に用いられるものであれば、特に制限されない。
例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の無機充填剤;有機繊維、クマロンインデン樹脂等の有機充填剤;有機パーオキサイド、無機パーオキサイド等の架橋剤;酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄等の無機顔料;青,赤,紫,黄等の染料;その他の難燃剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;脂肪酸、脂肪酸アマイド、脂肪酸金属塩等の滑剤;ミネラルオイル、シリコンオイル等のオイル類等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0074】
〔スチレン系樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、従来公知の混練・混合方法によって製造でき、特に限定されることはない。
例えば、ロール、ミキサー、ニーダー、バンバリー、押出機(単軸あるいは二軸等)等の公知の混練機を用いた溶融混練方法、成形時に複数の材料をドライブレンドし、成形機
内の溶融過程で混合させる方法、各成分を有機溶剤等に溶解した溶液状態で攪拌・混合した後、溶剤を加熱や減圧等の任意の方法により除去して混合物を得る方法等が挙げられる。
また、混練・混合の順序は、特に限定されるものではない。
例えば、上述したポリスチレン(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)と、上述したゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、上述したブロック共重合体(c)とを、一度に混練・混合してもよいし、ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、ブロック共重合体(c)を予め混練してマスターバッチを作製しておき、その後、ポリスチレン(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)と混練・混合して製造してもよい。
【0075】
〔スチレン系樹脂組成物の物性〕
(曲げ弾性率)
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、23℃にてASTM D790における曲げ弾性率が2000MPa以上であることが好ましい。一般的なGPPS単独で、約3300MPaであり、エラストマー成分であるブロック共重合体(c)を配合するため、上限値は、自ずと3300MPa以下となる。
曲げ弾性率が2000MPa未満であると、一般的なハイインパクトポリスチレンよりも剛性が低すぎ、代替が不適切であるため好ましくない。
【0076】
(ノッチ付きアイゾット衝撃強度)
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、23℃にてASTM D256で規定されたノッチ付きアイゾット衝撃強度が、試験片厚み1/8インチの短冊状試験片を用いて測定した際、30J/m以上であることが好ましい。
なお、本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物のノッチ付きアイゾット衝撃強度の上限値については、特に制約されるものではないが、剛性や機械的強度等とのバランスを鑑み、その実力値として、上限値は90J/m程度であることが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例と比較例を挙げて具体的に説明する。
まず、回収ポリスチレン樹脂(x)を主体としたビニル芳香族炭化水素重合体(a)、ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)、ブロック共重合体(c)、ポリフェニレンエーテル系重合体(d)、リン系難燃剤(e)を製造し、又は市販品を調達し、これらを用いて試験片を作製し、評価を行った。
なお、下記において共重合体を構成するスチレン成分をS、ブタジエン成分をBで表し、共重合体中、これらが複数含まれている場合にはそれぞれ数値を付した。
【0078】
<ビニル芳香族炭化水素重合体(a)>
ビニル芳香族炭化水素重合体(a)は、回収ポリスチレン樹脂(x)を主体とするものであり、後述する実施例及び比較例においては、下記回収ポリスチレン樹脂(x)単独、又は回収ポリスチレン樹脂(x)とGPPSとの混合物で用いるものとする。
【0079】
〔回収ポリスチレン樹脂(x)−1〕
魚介の運搬用に使用されている、使用済みの自然色の発泡ポリスチレン製箱を回収し、2〜5mm程度の小片に粉砕し、スクリュー径40mmの単軸押出機(L/D=28)を用いて、粒子形状が一定に揃ったペレットを得た。当該ペレットのポリスチレン樹脂中の異物含有量は5質量%であった。
【0080】
〔回収ポリスチレン樹脂(x)−2〕
上記回収ポリスチレン樹脂(x)−1と同様に、発泡ポリスチレン製箱を回収し、包装フィルムに使用されていた低密度ポリエチレンが5質量%混入したものを用いて、2〜5mm程度の小片に粉砕し、スクリュー径40mmの単軸押出機(L/D=28)を用いて、粒子形状が一定にそろったペレットを得た。
【0081】
強度の補強等、必要に応じて未使用品であるポリスチレン樹脂(GPPS)を併用し、ビニル芳香族炭化水素重合体(a)成分とした。
GPPSとしては、市販のポリスチレン樹脂(PSジャパン(株)製、PSJポリスチレン 685)を使用した。メルトフローレート(条件;200℃、5kgf)は、2.0であった。
【0082】
<ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)−1〜4>
ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)−1〜(b)−3は、下記表1に示すゴム成分をスチレンモノマーに溶解し、攪拌翼が装着された反応容器中で重合し、未反応のモノマー等を減圧下にて除去することにより得た。
製造工程において、攪拌翼の回転速度を調節することにより、ゴム粒子の平均粒子径を調整した。
ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)−4については、マトリックス成分として、スチレンモノマー70質量%とメタクリル酸メチルモノマー(表1中はMMAと略記)30質量%の混合物の存在下で、下記表1に示すゴム成分を攪拌翼が装着された反応容器中で重合し、未反応のモノマー等を減圧下にて除去することにより得た。
製造工程において、攪拌翼の回転速度を調節することにより、ゴム粒子の平均粒子径を調整した。
<ゴム粒子の平均粒子径の測定方法>
先ず、ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)−1〜4を、四酸化オスミウムで染色し、それから厚み約75nmの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡を用いて撮影し、倍率1万倍として写真を撮影した。
次に、写真中、黒く染色されたゴム粒子径を測定して、次式により算出した。
(平均粒子径)=ΣnDi4/ΣnDi3 ・・・長径Diの個数がn
下記表1に、ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素重合体(b)−1〜3の、ゴム成分、ゴム成分含有量、ゴム粒子の平均粒子径(μm)、メルトフローレート(G条件)を示した。
【0083】
なお、下記表1に示すゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)−1〜4の構造、物性は、下記の方法に従い測定した。
<ゴム成分含有量>
(b)−1〜3については、用いたスチレンモノマーとゴム状重合体との重量比から算出した。
(b)−4については、用いたスチレンモノマーとメタクリル酸メチルモノマーとの合算と、ゴム状重合体との重量比から算出した。
<メルトフローレート>
ISO1133の規格に従い、G条件(200℃、荷重5kgf)で測定した。
【0084】
【表1】

【0085】
<ブロック共重合体(c)−1>
窒素ガス雰囲気下において、スチレン30質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n−ブチルリチウムを0.08質量部とテトラメチルメチレンジアミン0.015質量部を添加し、80℃で20分間重合した。
次に、1,3−ブタジエン30質量部とスチレン10質量部とを25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を30分かけて連続的に添加しながら80℃で重合した。
次に、スチレン30質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で20分間重合した。
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn−ブチルリチウムに対して等モル添加し、熱安定剤としてブロック共重合体100質量部に対して2−t−ブチル−6(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートを0.3質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体を回収した。
このようにして得られたブロック共重合体は、スチレン含有量70質量%、ブロック率87%の、S1−B/S−S2構造の、直鎖状ブロック共重合体であった。
【0086】
(水添触媒の調製)
ブロック共重合体の水添反応に用いた水添触媒は下記の方法で調製した。
窒素置換した反応容器に乾燥、精製したシクロヘキサン1リットルを仕込み、ビスシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド100ミリモルを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200ミリモルを含むn−ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させた。
【0087】
<ブロック共重合体(c)−2>
窒素ガス雰囲気下において、スチレン34質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n−ブチルリチウムを0.14質量部とテトラメチルメチレンジアミン0.25質量部を添加し、80℃で20分間重合した。
次に、1,3−ブタジエン33質量部を33質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を80℃で30分間重合した。
次に、スチレン33質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して80℃で20分間重合した。
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn−ブチルリチウムに対して等モル添加した。得られたブロック共重合体は、スチレン含有量67質量%、ブロック率99%の、S1−B−S2構造の、直鎖状ブロック共重合体であった。
次に、得られた直鎖状ブロック共重合体に、上記水添触媒を、直鎖状ブロック共重合体100質量部当たりチタンとして100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。
その後、安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体100質量部に対して0.3質量部添加した。
得られた水添ブロック共重合体のブタジエン部の水添率は99%であった。
【0088】
<ブロック共重合体(c)−3>
窒素ガス雰囲気下において、ブタジエン8質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液に、n−ブチルリチウムを0.08質量部添加し、80℃で20分間重合した。
その後、スチレン14質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加し、80℃で20分間重合した。
次に、1,3−ブタジエン22質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を80℃で30分間重合した。
次に、スチレン26質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加して、80℃で5分間重合した。
次に、エタノールをn−ブチルリチウムに対して0.4倍モル添加して、5分間保持した。
次に、スチレン30質量部を25質量%の濃度で含むシクロヘキサン溶液を添加し、80℃で25分間重合した。
その後、重合を完全に停止するため、反応器中にエタノールをn−ブチルリチウムに対して0.6倍モル添加し、熱安定剤としてブロック共重合体100質量部に対して2−t−ブチル−6(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートを0.3質量部添加し、その後、溶媒を除去することによってブロック共重合体を回収した。
このようにして得られたブロック共重合体は、スチレン含有量70質量%の、B1−S1−B2−S2構造の、2つのピーク分子量を有するバイモダル型のブロック共重合体であった。
【0089】
<ブロック共重合体(c)−4〜8>
ブロック共重合体のスチレン含有量をブタジエンとスチレンとの重量比で調整した。
ブロック共重合体のブロック率をB/S部の量比で調整した。
更に必要に応じて、水素添加を行った。
上記により、構造の異なるブロック共重合体(c)−4〜8を製造した。
下記表2に、ブロック共重合体(c)−1〜8の構造、組成等を示した。
下記表2中、「ブロック率」とは、ブロック共重合体(c)における全ビニル芳香族炭化水素単位のうち重合体ブロックを構成している割合であるものとする。
また、下記表2中、「ブロック含有率」とは、ブロック共重合体(c)における全ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックを構成している割合であるものとする。
【0090】
なお、下記表2に示すブロック共重合体(c)に関する構造は、下記の方法に従い測定した。
【0091】
(ブロック共重合体(c)のスチレン含有量)
UV計(紫外線吸光光度計)により測定した。
具体的には、ブロック共重合体(c)を約30mg(0.1mg単位まで正確に秤量)をクロロホルム100mLに溶解させ、そのポリマー溶液を石英セルに満たして分析装置にセットし、これに紫外線波長260〜290nmを走査させ、得られた吸光ピーク高さの値により検量線法を用いて求めた。ビニル芳香族炭化水素がスチレンの場合、ピーク波長は269.2nmに現れる。
ブロック共重合体(c)のブタジエン含有量は、100−スチレン含有量(質量%)である。
【0092】
(ブロック共重合体(c)における低分子成分のピーク分子量、ブロック共重合体(c)における高分子成分のピーク分子量、ブロック共重合体(c)の低分子成分及び高分子成分の含有量)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるGPC曲線から求めた。
成分比率は、GPC曲線の面積比から求めた。
【0093】
(ブロック共重合体(c)の重量平均分子量)
GPCにより分子量分布曲線を得、既知の標準サンプルにより検量線を作成し、そこから統計処理により重量平均分子量を算出した。
【0094】
(ブロック共重合体(c)のブロック率)
先ず、上記のようにしてスチレン含有量を測定し、次に、重合体ブロックを構成しているスチレンの測定を行った。
具体的には、正確に秤量したブロック共重合体(c)(水添ブロック共重合体の場合は、水素添加する前のポリマーで実施する)約50mgを約10mLのクロロホルムに溶解した後、オスミウム酸溶液を加えて共役ジエン部分を分解し、分解後のポリマー溶液を約200mLのメタノール中に静かに滴下した。これによりメタノールに溶解しない重合体ブロックスチレン成分が沈殿した。
この沈殿したポリマー分がブロックスチレンのみである。ブロックを形成していないスチレン単量体や、重合度の低いスチレンは、メタノールに溶解した。
ポリマー沈殿分をろ過し、乾燥し、残さとしてのブロックスチレンの重量を秤量することにより、ブロックスチレン量を計算した。ブロック率は、ブロックスチレン量を全スチレン量で除した値とした。
水素添加ポリマーの場合は、水素添加前のポリマーをサンプルとして抜き取って測定した。
【0095】
(ブロック共重合体(c)のブロック含有率)
ブロック共重合体(c)の「ブロック含有率」とは、ブロック共重合体(c)における全ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックを構成している割合である。
上記ブロック率の項目に記載されているように、得られたブロックスチレンの重量を、用いたブロック共重合体の重量で除した値として得られる。
【0096】
(ブロック共重合体(c)の水添率)
核磁気共鳴装置(装置名:DPX−400;ドイツ国、BRUKER社製)による、プロトンNMRチャートの積算曲線より算出した。
溶媒は重水素化クロロホルムを使用した。
【0097】
【表2】

【0098】
<ポリフェニレンエーテル系重合体(d)>
ポリフェニレンエーテル系重合体として、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル(還元粘度:0.56)を合成し使用した。
【0099】
<リン系難燃剤(e)>
大八化学工業(株)製リン系難燃剤、CR733Sを用いた。
【0100】
<スチレン系樹脂組成物>
〔実施例1〜19〕、〔参考例1〜3〕〔比較例1〜5〕
上述のようにして製造した回収ポリスチレン樹脂(x)を主体としたビニル芳香族炭化水素重合体(a)と、ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、ブロック共重合体(c)、ポリフェニレンエーテル系重合体(d)、リン系難燃剤(e)とを用いて、下記表3、4に示す配合比率に従って、スクリュー径30mm、L/D=36、SUS製スクリーンメッシュ(#200)を備えた二軸押出機を用いて、シリンダー設定温度210℃の条件で溶融混練し、スチレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0101】
〔実施例20〕
ゴム状重合体をグラフト重合したビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、ブロック共重合体(c)とを、スクリュー径40mm、L/D=32、シリンダー設定温度210℃の単軸押出機で溶融混練した後、回収ポリスチレン樹脂(x)−1と、スクリュー径30mm、L/D=36、SUS製スクリーンメッシュ(#200)を備えた二軸押出機を用いて、シリンダー設定温度210℃の条件で溶融混練し、スチレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0102】
これらのスチレン系樹脂組成物を、型締め圧120トン射出成形機により、シリンダー温度210℃、金型温度40℃として、ASTM規格の短冊型試験片を成形した。
23℃で24時間静置による状態調節後、下記試験、測定評価を行った。
曲げ試験における弾性率の測定(ASTM D790)
ノッチ付きアイゾット衝撃試験における衝撃強度の測定(ASTM D256)
【0103】
曲げ試験における弾性率の結果についての指標を示す。
2000MPa未満:×(低過ぎ)
2000MPa以上:○(満足)
【0104】
ノッチ付きアイゾット衝撃試験については、上記短冊型試験片を使用し、ASTM規格に従って、衝撃強度を求めた。
ノッチ付きアイゾット衝撃試験の結果について指標を加えた(単位:J/m)。
35未満:×
35以上50未満:○
50以上:◎
【0105】
実施例1〜20、参考例1〜3、比較例1〜5のスチレン系樹脂組成物の組成、及び上記の曲げ弾性率、ノッチ付きアイゾット衝撃強度の測定結果、評価結果を下記表3及び表4に示した。
【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
実施例1〜20のスチレン系樹脂組成物は、いずれも曲げ弾性率とノッチ付きアイゾット衝撃強度とのバランスが良好であり、実用上十分な剛性と衝撃強度を有していることが分かった。
比較例1〜5のスチレン系樹脂組成物は、曲げ弾性率、ノッチ付きアイゾット衝撃強度の、少なくともいずれかの評価に劣り、実用上十分な特性を有していないことが分かった。
参考例1は、実用上良好な機械的特性が得られたが、ブロック共重合体(c)−7中の全ビニル芳香族炭化水素単位のうち、重合体ブロックを構成している割合(ブロック率)が70質量%と低いため、アイゾット衝撃強度が実施例に比較して、若干劣ったものとなった。
参考例2は、実用上良好な機械的特性が得られたが、ブロック共重合体(c)−8のビニル芳香族炭化水素(スチレン)含有量が少ないため、アイゾット衝撃強度が実施例に比較して、若干劣ったものとなった。
参考例3は、成分(a)として回収ポリスチレン樹脂を用いず、全てGPPSを使用した例であるが、その他の配合材料が共通の実施例4と比較すると、本発明の実施例4は、未使用のGPPSを使用した参考例3と比較しても、同程度の良好なバランスの機械的特性を実現できていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、日用品、電器機器筐体等として、産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異物が10質量%以下であるポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)と、
ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、
ブロック共重合体(c)と、
を、含有し、
前記ビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)が、スチレン系樹脂組成物中、5質量%以上45質量%以下含有されており、
前記グラフトゴムの平均粒子径が、1.5μm〜5μmであり、
前記ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも2つのブロックと、共役ジエンを主体とする少なくとも1つのブロックとからなるブロック共重合体であり、前記ブロック共重合体(c)が、スチレン系樹脂組成物中、5質量%以上45質量%以下含有されているスチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記異物が10質量%以下であるポリスチレン樹脂(x)が、成形品を回収して得られた回収ポリスチレン樹脂である請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビニル芳香族炭化水素重合体(a)に含有されている前記ポリスチレン樹脂(x)が、
スチレン系樹脂組成物中、50質量%以上90質量%以下含有されている請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ブロック共重合体(c)は、ビニル芳香族炭化水素含有量が20質量%〜90質量%、 共役ジエン含有量が80質量%〜10質量%であり、
前記ブロック共重合体(c)を構成している全ビニル芳香族炭化水素単位のうち、重合体ブロックを構成している割合が75質量%以上100質量%以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ブロック共重合体(c)は、
全ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック含有率が40質量%以上70質量%以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記ブロック共重合体(c)は、
ビニル芳香族炭化水素含有量が60質量%〜90質量%、共役ジエン含有量が40質量%〜10質量%からなるブロック共重合体(c1)と、
ビニル芳香族炭化水素含有量が20質量%〜50質量%、共役ジエン含有量が50質量%〜80質量%からなるブロック共重合体(c2)と、
を有しており、
前記ブロック共重合体(c1)と前記ブロック共重合体(c2)との質量比:(c1)/(c2)が、80/20〜20/80である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記ブロック共重合体(c1)及び前記ブロック共重合体(c2)の、少なくとも一方が、ブロック共重合体を構成している共役ジエン単位のうちの50質量%以上が水素添加されている請求項1乃至6のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
ポリフェニレンエーテル系重合体(d)とリン系難燃剤(e)とを、さらに含有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
前記請求項1乃至8のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物からなるペレット。
【請求項10】
前記請求項1乃至8のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物を成形した成形体。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法であって、
ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体(b)と、
ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも2つのブロックと、共役ジエンを主体とする少なくとも1つのブロックとからなるブロック共重合体(c)とを、予め混練してマスターバッチを作製する工程と、
前記マスターバッチと、異物が10質量%以下であるポリスチレン樹脂(x)を主体とするビニル芳香族炭化水素重合体(a)とを混練する工程と、
を、含むスチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記請求項11に記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法において用いるマスターバッチであって、
ゴム状重合体をグラフト重合した、グラフトゴムを含有するビニル芳香族炭化水素重合体(b)と、ビニル芳香族炭化水素を主体とする少なくとも2つのブロックと、共役ジエンを主体とする少なくとも1つのブロックとからなるブロック共重合体(c)とを混練したマスターバッチ。

【公開番号】特開2011−63689(P2011−63689A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214564(P2009−214564)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】