ステアリングラック取付構造
【課題】前突時に衝突エネルギーを吸収する潰れスペースを十分に確保することのできるステアリングラック取付構造を提供する。
【解決手段】ラジエータ2と車両横置きのエンジン3及びエンジン3の横に配置され車両前方へ突出して配置されたトランスミッション4との間にステアリングラック1が配設され、ステアリングラック1は前輪を転舵するための転舵ユニット8を有し、かつステアリングラック1は車幅方向の左右2箇所の取付部1A,1Bがボルト及びナット6によってクロスメンバ7に取り付けられたステアリングラック取付構造であって、ステアリングラック1のうちエンジン3前面に対向する側に転舵ユニット8を設け、クロスメンバ7のうちステアリングラック1の取付部1Aに対向した箇所に、車両前後方向に長い長孔9を形成するとともに、取付部1Aに前記ボルトのボルト孔を形成し、長孔9及び前記ボルト孔に前記ボルトを挿通した。
【解決手段】ラジエータ2と車両横置きのエンジン3及びエンジン3の横に配置され車両前方へ突出して配置されたトランスミッション4との間にステアリングラック1が配設され、ステアリングラック1は前輪を転舵するための転舵ユニット8を有し、かつステアリングラック1は車幅方向の左右2箇所の取付部1A,1Bがボルト及びナット6によってクロスメンバ7に取り付けられたステアリングラック取付構造であって、ステアリングラック1のうちエンジン3前面に対向する側に転舵ユニット8を設け、クロスメンバ7のうちステアリングラック1の取付部1Aに対向した箇所に、車両前後方向に長い長孔9を形成するとともに、取付部1Aに前記ボルトのボルト孔を形成し、長孔9及び前記ボルト孔に前記ボルトを挿通した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリングラック取付構造に係り、特にラジエータとエンジン及びトランスミッションとの間に配設されるステアリングラックの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカル駆動のステアリングラックにおいては、ステアリングラックはエンジンの後方、つまりエンジンとダッシュパネルとの間に配設されている。
【0003】
近年、バイワイヤ方式のステアリング装置が採用されるようになり、このようなステアリング装置ではステアリングラックがエンジンの前方、つまりエンジンとラジエータとの間に配設されることが多い(例えば、特許文献1参照)。この場合、ステアリングラックには前輪を転舵するための転舵ユニットが搭載されている。
【特許文献1】特開平11−48994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のバイワイヤ方式のステアリング装置では、前突時に衝突エネルギーを吸収する潰れスペースを十分に確保できないという問題がある。すなわち、バイワイヤ方式のステアリング装置においては、前突時に、ステアリングラックに搭載された転舵ユニットはエンジンとラジエータとの間に挟まれるが、転舵ユニットは剛性の高い部材で構成されていて潰れにくく、多くの潰れ残りが生じる。多くの潰れ残りが生じるということは、衝突エネルギーを十分に吸収できていないことであり、つまり潰れスペースが十分に確保されていないに等しい。
【0005】
本発明の課題は、前突時に衝突エネルギーを吸収する潰れスペースを十分に確保することのできるステアリングラック取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、ラジエータと車両横置きのエンジン及び該エンジンの横に配置され車両前方へ突出して配置されたトランスミッションとの間にステアリングラックが配設され、前記ステアリングラックは前輪を転舵するための転舵ユニットを有し、かつ前記ステアリングラックは車幅方向の左右2箇所の取付部がボルト及びナットによってクロスメンバに取り付けられたステアリングラック取付構造であって、前記ステアリングラックのうち前記エンジン前面に対向する側に前記転舵ユニットを設け、前記ステアリングラックの左右2箇所の取付部のうち前記エンジン前面に対向する側の取付部及び前記クロスメンバのうち当該取付部に対向した箇所のいずれか一方に、車両前後方向に長い長孔を形成するとともに、他方に前記ボルトのボルト孔を形成して、前記長孔及び前記ボルト孔に前記ボルトを挿通したことを特徴としている。
【0007】
上記構成によれば、ステアリングラックは、エンジン前面に対向する側の取付部が長孔に挿通されたボルトを介してクロスメンバに取り付けられており、このエンジン前面に対向する側の取付部は車両後方へ移動しやくなっている。そのため、前突時にラジエータが車両後方へ押されて、ラジエータからステアリングラックに車両後方への大きな衝撃力が加わると、ステアリングラックにおいては、トランスミッション前面に対向する側の取付部はクロスメンバに対して車両後方へあまり移動しないが、エンジン前面に対向する側の取付部は容易に車両後方へ移動し、ステアリングラック全体が回動する。
【0008】
通常、FF車においては、ステアリングラック前後のスペースは、トランスミッション前面に対向する側では小さく、エンジン前面に対向する側では大きくなっている。上記構成によれば、ステアリングラックのうちエンジン前面に対向する側に転舵ユニットが設けられているので、前突時に、ラジエータが車両後方へ移動してステアリングラックが回動したとき、転舵ユニットはエンジン前面に対向する側の大きなスペース内に位置するため、潰れ残りが少なくなり、これによって、十分な潰れスペースを確保することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステアリングラックのうちエンジン前面に対向する側に転舵ユニットが設けられ、またステアリングラックは、エンジン前面に対向する側の取付部が長孔に挿通されたボルトを介してクロスメンバに取り付けられているので、前突時に衝突エネルギーを吸収する潰れスペースを十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例1】
【0011】
図1及び図2は本発明に係るステアリングラック構造が採用されたFF車のエンジンルームを示しており、図1はその通常時における平面図、図2は前突時における平面図である。なお、図1及び図2において、左側は車両前部側であり、右側は車室側である。
【0012】
本ステアリングラック構造では、ステアリングラック1は、ラジエータ2と車両横置きのエンジン3及びエンジン3の横に配置され車両前方へ突出して配置されたトランスミッション4との間に配設され、また、ステアリングラック1は車幅方向の左右2箇所の取付部(マウント部ともいう)1A,1Bがボルト5(図3参照)及びナット6によってクロスメンバ7に取り付けられている。ここで、取付部1A側をエンジン3前面に対向する側といい、取付部1B側をトランスミッション4前面に対向する側という。
【0013】
本実施例のFF車においては、図1に示すように、ステアリングラック1前後のスペースは、トランスミッション4前面に対向する側では小さく、エンジン3前面に対向する側では大きくなっている。つまり、トランスミッション4とラジエータ2との間のスペースは小さいが、エンジン3とラジエータ2との間のスペースは大きく設定されている。
【0014】
ステアリングラック1には、左右の前輪(図示省略)を転舵するための転舵ユニット8が設けられている。転舵ユニット8は、モータ(給電用のケーブルを含む)8Aや回転センサ8B等を有し、かつ取付部1A側に設けられている。また、転舵ユニット8はステアリングラック1の前方側に設けられ、ステアリングラック1とラジエータ2との間に位置している。取付部1B側には転舵ユニット8等は設けられていない。
【0015】
ステアリングラック1の取付部1A,1Bはステアリングラック1の後方側に設けられ、ステアリングラック1とエンジン3及びトランスミッション4との間に位置している。また、クロスメンバ7のうち取付部1Aに対向した箇所には、車両前後方向に長い長孔9が形成されている。
【0016】
図3は、長孔9の中心軸を含む面でステアリングラック1及びクロスメンバ7を切断したときの断面図である。図3に示すように、ステアリングラック1の取付部1Aにはボルト孔10が形成され、長孔9に通されたボルト5はボルト孔10に挿通されている。そして、ボルト5の先端にはナット6が螺合され締め付けられている。なお、図3において、11はワッシャである。
【0017】
ステアリングラック1の取付部1Bも、上述したように、ボルト5及びナット6でクロスメンバに取り付けられているが、取付部1B側ではクロスメンバ7に上記のような長孔は設けられていない(図1参照)。
【0018】
長孔9の形状としては、図4に示すようなものが考えられる。同図(a)に示す長孔9は、ボルト5の外周の沿った円弧孔9Aと、円弧孔9Aに繋がって形成されボルト5の外径(首部の外径)よりも幅の狭い狭長孔9Bとを有する。同図(b)に示す長孔9では、狭長孔9Bの内周縁部が凹凸状(波形)に形成されている。また、同図(c)に示す長孔9では、狭長孔がスリット孔9Cとなっている。また、同図(d)に示す長孔9では、円弧孔9Aと狭長孔9Bとの接続部両側に突起9Dが設けられている。さらに、同図(e)に示す長孔9では、狭長孔が、円弧孔9Aから離れるほど幅が狭くなるテーパ孔9Eとなっている。なお、図4の(a)〜(e)においては、左側は車両前部側であり、右側は車室側である。
【0019】
次に、本実施例におけるステアリングラック構造の作用について説明する。
【0020】
ステアリングラック1は、エンジン3前面に対向する側の取付部1Aが、クロスメンバ7の長孔9に挿通されたボルト5を介してクロスメンバ7に取り付けられており、取付部1A側は車両後方へ移動しやくなっている。そのため、図2に示すように、前突時にラジエータ2が車両後方へ押されて、ラジエータ2からステアリングラック1に車両後方への大きな衝撃力が加わると、ステアリングラック1においては、取付部1Bはクロスメンバ7に対して車両後方へあまり移動しないが、取付部1A側は車両後方へ大きく移動し、ステアリングラック1全体は取付部1B付近を中心にして時計方向へ回動する。
【0021】
また、トランスミッション4とラジエータ2との間のスペースは小さいが、エンジン3とラジエータ2との間のスペースは大きく設定され、かつステアリングラック1のうちエンジン3前面に対向する側に転舵ユニット8が設けられているので、前突時に、ラジエータ2が車両後方へ移動してステアリングラック1が回動したとき、転舵ユニット8はエンジン3とラジエータ2との間の大きなスペース内に位置するため、潰れ残りが少なくなり、これによって、十分な潰れスペースを確保することができる。
【0022】
図5及び図6は本実施例の変形例を示しており、図5は通常時における状態を、図6は前突時における状態をそれぞれ表している。この変形例ではクロスメンバ7にブラケット12が設けられ、そのブラケット12に長孔9が形成されている。また、図7及び図8は従来技術によるステアリングラック構造を示しており、図7は通常時における状態を、図8は前突時における状態をそれぞれ表している。
【0023】
従来技術によるステアリングラック構造では、図8に示すように、前突時の潰れ残りが大きく、十分な潰れスペースを確保することができないが、本変形例によるステアリングラック構造においては、図6に示すように、前突時の潰れ残りが小さく、十分な潰れスペースを確保することができる。
【実施例2】
【0024】
図9及び図10は実施例2によるエンジンルームを示しており、図9はその通常時における平面図、図10は前突時における平面図である。エンジン3の前部側にエンジンマウント13が設置されている場合、エンジンマウント13のゴム部13A(図11参照)をステアリングラック1と同じ高さ位置に配置する。
【0025】
エンジンマウント13は、図11に示すように、ゴム部13Aを有し、そのゴム部13Aの上部はキャップ状の上部ブラケット13Bで覆われている。そして、上部ブラケット13Bの上にエンジン3の脚部3Aが載置され固定されている。また、上部ブラケット13Bには前部側(ステアリングラック1に対向する側)に切欠き13C(図13参照)が形成されている。
【0026】
上記構成において、エンジン3の前部側にエンジンマウント13が設置されていると、図10に示すように、前突時に、ステアリングラック1の中央側部がエンジンマウント13にぶつかって、ステアリングラック1の時計方向への回動が阻止されるが、本実施例では、エンジンマウント13の上部ブラケット13Bに切欠き13Cが形成されているので、図12及び図14に示すように、ステアリングラック1が切欠き13Cに入り込んでゴム部13Aの上部を押圧する。その結果、ステアリングラック1の時計方向への回動がスムーズに行われ、潰れ残りが少なくなって、十分な潰れスペースを確保することができる。
【実施例3】
【0027】
図15は実施例3を示している。本実施例では、ステアリングラック1の前部側に取付部1Aが設けられており、この取付部1Aの基部に車幅方向に沿った溝部14が形成されている。なお、本実施例では、取付部1A及びクロスメンバ7には通常のボルト孔が形成されており、図4に示したような長孔は形成されていない。
【0028】
上記構成において、前突時に、ステアリングラック1に車両後方への大きな衝撃力が加わると、ステアリングラック1は取付部1Aが溝部14で破断され、車両後方へ移動して、ステアリングラック1全体が容易に回動する。その結果、ステアリングラック1の時計方向への回動がスムーズに行われ、潰れ残りが少なくなって、十分な潰れスペースを確保することができる。
【0029】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、上記各実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記各実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【0030】
例えば、実施例1及び実施例2ではクロスメンバ7側に長孔9が形成されていたが、ステアリングラック1の取付部1A側に長孔9を形成してもよい。この場合、長孔9の向きは実施例1や実施例2の場合とは逆になる。すなわち、図4において、狭長孔9Bを車両前部側に、円弧孔9Aを車室側にそれぞれ向けて配置する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1によるステアリングラック構造が採用されたエンジンルームの通常時における平面図である。
【図2】図1に示したエンジンルームの前突時における平面図である。
【図3】長孔の中心軸を含む面でステアリングラック及びクロスメンバを切断したときの断面図である。
【図4】(a)〜(e)は長孔の各種形状を示す平面図である。
【図5】実施例1の変形例を示しており、エンジンルーム内の通常時における状態を示す図である。
【図6】図5のエンジンルーム内の前突時における状態を示す図である。
【図7】従来技術を示しており、エンジンルーム内の通常時における状態を示す図である。
【図8】図7のエンジンルーム内の前突時における状態を示す図である。
【図9】実施例2によるステアリングラック構造が採用されたエンジンルームの通常時における平面図である。
【図10】図9に示したエンジンルームの前突時における平面図である。
【図11】通常時におけるステアリングラック及びエンジンマウント付近を示す図である。
【図12】前突時におけるステアリングラック及びエンジンマウント付近を示す図である。
【図13】通常時におけるステアリングラックとエンジンマウントとの位置関係を示す図である。
【図14】前突時におけるステアリングラックとエンジンマウントとの位置関係を示す図である。
【図15】実施例3を示しており、ステアリングラックの取付部付近の平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ステアリングラック
1A,1B 取付部
2 ラジエータ
3 エンジン
4 トランスミッション
5 ボルト
6 ナット
7 クロスメンバ
8 転舵ユニット
9 長孔
9A 円弧孔
9B 狭長孔
13 エンジンマウント
13A ゴム部
13B 上部ブラケット
13C 切欠き
14 溝部
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリングラック取付構造に係り、特にラジエータとエンジン及びトランスミッションとの間に配設されるステアリングラックの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカル駆動のステアリングラックにおいては、ステアリングラックはエンジンの後方、つまりエンジンとダッシュパネルとの間に配設されている。
【0003】
近年、バイワイヤ方式のステアリング装置が採用されるようになり、このようなステアリング装置ではステアリングラックがエンジンの前方、つまりエンジンとラジエータとの間に配設されることが多い(例えば、特許文献1参照)。この場合、ステアリングラックには前輪を転舵するための転舵ユニットが搭載されている。
【特許文献1】特開平11−48994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のバイワイヤ方式のステアリング装置では、前突時に衝突エネルギーを吸収する潰れスペースを十分に確保できないという問題がある。すなわち、バイワイヤ方式のステアリング装置においては、前突時に、ステアリングラックに搭載された転舵ユニットはエンジンとラジエータとの間に挟まれるが、転舵ユニットは剛性の高い部材で構成されていて潰れにくく、多くの潰れ残りが生じる。多くの潰れ残りが生じるということは、衝突エネルギーを十分に吸収できていないことであり、つまり潰れスペースが十分に確保されていないに等しい。
【0005】
本発明の課題は、前突時に衝突エネルギーを吸収する潰れスペースを十分に確保することのできるステアリングラック取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、ラジエータと車両横置きのエンジン及び該エンジンの横に配置され車両前方へ突出して配置されたトランスミッションとの間にステアリングラックが配設され、前記ステアリングラックは前輪を転舵するための転舵ユニットを有し、かつ前記ステアリングラックは車幅方向の左右2箇所の取付部がボルト及びナットによってクロスメンバに取り付けられたステアリングラック取付構造であって、前記ステアリングラックのうち前記エンジン前面に対向する側に前記転舵ユニットを設け、前記ステアリングラックの左右2箇所の取付部のうち前記エンジン前面に対向する側の取付部及び前記クロスメンバのうち当該取付部に対向した箇所のいずれか一方に、車両前後方向に長い長孔を形成するとともに、他方に前記ボルトのボルト孔を形成して、前記長孔及び前記ボルト孔に前記ボルトを挿通したことを特徴としている。
【0007】
上記構成によれば、ステアリングラックは、エンジン前面に対向する側の取付部が長孔に挿通されたボルトを介してクロスメンバに取り付けられており、このエンジン前面に対向する側の取付部は車両後方へ移動しやくなっている。そのため、前突時にラジエータが車両後方へ押されて、ラジエータからステアリングラックに車両後方への大きな衝撃力が加わると、ステアリングラックにおいては、トランスミッション前面に対向する側の取付部はクロスメンバに対して車両後方へあまり移動しないが、エンジン前面に対向する側の取付部は容易に車両後方へ移動し、ステアリングラック全体が回動する。
【0008】
通常、FF車においては、ステアリングラック前後のスペースは、トランスミッション前面に対向する側では小さく、エンジン前面に対向する側では大きくなっている。上記構成によれば、ステアリングラックのうちエンジン前面に対向する側に転舵ユニットが設けられているので、前突時に、ラジエータが車両後方へ移動してステアリングラックが回動したとき、転舵ユニットはエンジン前面に対向する側の大きなスペース内に位置するため、潰れ残りが少なくなり、これによって、十分な潰れスペースを確保することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステアリングラックのうちエンジン前面に対向する側に転舵ユニットが設けられ、またステアリングラックは、エンジン前面に対向する側の取付部が長孔に挿通されたボルトを介してクロスメンバに取り付けられているので、前突時に衝突エネルギーを吸収する潰れスペースを十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例1】
【0011】
図1及び図2は本発明に係るステアリングラック構造が採用されたFF車のエンジンルームを示しており、図1はその通常時における平面図、図2は前突時における平面図である。なお、図1及び図2において、左側は車両前部側であり、右側は車室側である。
【0012】
本ステアリングラック構造では、ステアリングラック1は、ラジエータ2と車両横置きのエンジン3及びエンジン3の横に配置され車両前方へ突出して配置されたトランスミッション4との間に配設され、また、ステアリングラック1は車幅方向の左右2箇所の取付部(マウント部ともいう)1A,1Bがボルト5(図3参照)及びナット6によってクロスメンバ7に取り付けられている。ここで、取付部1A側をエンジン3前面に対向する側といい、取付部1B側をトランスミッション4前面に対向する側という。
【0013】
本実施例のFF車においては、図1に示すように、ステアリングラック1前後のスペースは、トランスミッション4前面に対向する側では小さく、エンジン3前面に対向する側では大きくなっている。つまり、トランスミッション4とラジエータ2との間のスペースは小さいが、エンジン3とラジエータ2との間のスペースは大きく設定されている。
【0014】
ステアリングラック1には、左右の前輪(図示省略)を転舵するための転舵ユニット8が設けられている。転舵ユニット8は、モータ(給電用のケーブルを含む)8Aや回転センサ8B等を有し、かつ取付部1A側に設けられている。また、転舵ユニット8はステアリングラック1の前方側に設けられ、ステアリングラック1とラジエータ2との間に位置している。取付部1B側には転舵ユニット8等は設けられていない。
【0015】
ステアリングラック1の取付部1A,1Bはステアリングラック1の後方側に設けられ、ステアリングラック1とエンジン3及びトランスミッション4との間に位置している。また、クロスメンバ7のうち取付部1Aに対向した箇所には、車両前後方向に長い長孔9が形成されている。
【0016】
図3は、長孔9の中心軸を含む面でステアリングラック1及びクロスメンバ7を切断したときの断面図である。図3に示すように、ステアリングラック1の取付部1Aにはボルト孔10が形成され、長孔9に通されたボルト5はボルト孔10に挿通されている。そして、ボルト5の先端にはナット6が螺合され締め付けられている。なお、図3において、11はワッシャである。
【0017】
ステアリングラック1の取付部1Bも、上述したように、ボルト5及びナット6でクロスメンバに取り付けられているが、取付部1B側ではクロスメンバ7に上記のような長孔は設けられていない(図1参照)。
【0018】
長孔9の形状としては、図4に示すようなものが考えられる。同図(a)に示す長孔9は、ボルト5の外周の沿った円弧孔9Aと、円弧孔9Aに繋がって形成されボルト5の外径(首部の外径)よりも幅の狭い狭長孔9Bとを有する。同図(b)に示す長孔9では、狭長孔9Bの内周縁部が凹凸状(波形)に形成されている。また、同図(c)に示す長孔9では、狭長孔がスリット孔9Cとなっている。また、同図(d)に示す長孔9では、円弧孔9Aと狭長孔9Bとの接続部両側に突起9Dが設けられている。さらに、同図(e)に示す長孔9では、狭長孔が、円弧孔9Aから離れるほど幅が狭くなるテーパ孔9Eとなっている。なお、図4の(a)〜(e)においては、左側は車両前部側であり、右側は車室側である。
【0019】
次に、本実施例におけるステアリングラック構造の作用について説明する。
【0020】
ステアリングラック1は、エンジン3前面に対向する側の取付部1Aが、クロスメンバ7の長孔9に挿通されたボルト5を介してクロスメンバ7に取り付けられており、取付部1A側は車両後方へ移動しやくなっている。そのため、図2に示すように、前突時にラジエータ2が車両後方へ押されて、ラジエータ2からステアリングラック1に車両後方への大きな衝撃力が加わると、ステアリングラック1においては、取付部1Bはクロスメンバ7に対して車両後方へあまり移動しないが、取付部1A側は車両後方へ大きく移動し、ステアリングラック1全体は取付部1B付近を中心にして時計方向へ回動する。
【0021】
また、トランスミッション4とラジエータ2との間のスペースは小さいが、エンジン3とラジエータ2との間のスペースは大きく設定され、かつステアリングラック1のうちエンジン3前面に対向する側に転舵ユニット8が設けられているので、前突時に、ラジエータ2が車両後方へ移動してステアリングラック1が回動したとき、転舵ユニット8はエンジン3とラジエータ2との間の大きなスペース内に位置するため、潰れ残りが少なくなり、これによって、十分な潰れスペースを確保することができる。
【0022】
図5及び図6は本実施例の変形例を示しており、図5は通常時における状態を、図6は前突時における状態をそれぞれ表している。この変形例ではクロスメンバ7にブラケット12が設けられ、そのブラケット12に長孔9が形成されている。また、図7及び図8は従来技術によるステアリングラック構造を示しており、図7は通常時における状態を、図8は前突時における状態をそれぞれ表している。
【0023】
従来技術によるステアリングラック構造では、図8に示すように、前突時の潰れ残りが大きく、十分な潰れスペースを確保することができないが、本変形例によるステアリングラック構造においては、図6に示すように、前突時の潰れ残りが小さく、十分な潰れスペースを確保することができる。
【実施例2】
【0024】
図9及び図10は実施例2によるエンジンルームを示しており、図9はその通常時における平面図、図10は前突時における平面図である。エンジン3の前部側にエンジンマウント13が設置されている場合、エンジンマウント13のゴム部13A(図11参照)をステアリングラック1と同じ高さ位置に配置する。
【0025】
エンジンマウント13は、図11に示すように、ゴム部13Aを有し、そのゴム部13Aの上部はキャップ状の上部ブラケット13Bで覆われている。そして、上部ブラケット13Bの上にエンジン3の脚部3Aが載置され固定されている。また、上部ブラケット13Bには前部側(ステアリングラック1に対向する側)に切欠き13C(図13参照)が形成されている。
【0026】
上記構成において、エンジン3の前部側にエンジンマウント13が設置されていると、図10に示すように、前突時に、ステアリングラック1の中央側部がエンジンマウント13にぶつかって、ステアリングラック1の時計方向への回動が阻止されるが、本実施例では、エンジンマウント13の上部ブラケット13Bに切欠き13Cが形成されているので、図12及び図14に示すように、ステアリングラック1が切欠き13Cに入り込んでゴム部13Aの上部を押圧する。その結果、ステアリングラック1の時計方向への回動がスムーズに行われ、潰れ残りが少なくなって、十分な潰れスペースを確保することができる。
【実施例3】
【0027】
図15は実施例3を示している。本実施例では、ステアリングラック1の前部側に取付部1Aが設けられており、この取付部1Aの基部に車幅方向に沿った溝部14が形成されている。なお、本実施例では、取付部1A及びクロスメンバ7には通常のボルト孔が形成されており、図4に示したような長孔は形成されていない。
【0028】
上記構成において、前突時に、ステアリングラック1に車両後方への大きな衝撃力が加わると、ステアリングラック1は取付部1Aが溝部14で破断され、車両後方へ移動して、ステアリングラック1全体が容易に回動する。その結果、ステアリングラック1の時計方向への回動がスムーズに行われ、潰れ残りが少なくなって、十分な潰れスペースを確保することができる。
【0029】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、上記各実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記各実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【0030】
例えば、実施例1及び実施例2ではクロスメンバ7側に長孔9が形成されていたが、ステアリングラック1の取付部1A側に長孔9を形成してもよい。この場合、長孔9の向きは実施例1や実施例2の場合とは逆になる。すなわち、図4において、狭長孔9Bを車両前部側に、円弧孔9Aを車室側にそれぞれ向けて配置する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1によるステアリングラック構造が採用されたエンジンルームの通常時における平面図である。
【図2】図1に示したエンジンルームの前突時における平面図である。
【図3】長孔の中心軸を含む面でステアリングラック及びクロスメンバを切断したときの断面図である。
【図4】(a)〜(e)は長孔の各種形状を示す平面図である。
【図5】実施例1の変形例を示しており、エンジンルーム内の通常時における状態を示す図である。
【図6】図5のエンジンルーム内の前突時における状態を示す図である。
【図7】従来技術を示しており、エンジンルーム内の通常時における状態を示す図である。
【図8】図7のエンジンルーム内の前突時における状態を示す図である。
【図9】実施例2によるステアリングラック構造が採用されたエンジンルームの通常時における平面図である。
【図10】図9に示したエンジンルームの前突時における平面図である。
【図11】通常時におけるステアリングラック及びエンジンマウント付近を示す図である。
【図12】前突時におけるステアリングラック及びエンジンマウント付近を示す図である。
【図13】通常時におけるステアリングラックとエンジンマウントとの位置関係を示す図である。
【図14】前突時におけるステアリングラックとエンジンマウントとの位置関係を示す図である。
【図15】実施例3を示しており、ステアリングラックの取付部付近の平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ステアリングラック
1A,1B 取付部
2 ラジエータ
3 エンジン
4 トランスミッション
5 ボルト
6 ナット
7 クロスメンバ
8 転舵ユニット
9 長孔
9A 円弧孔
9B 狭長孔
13 エンジンマウント
13A ゴム部
13B 上部ブラケット
13C 切欠き
14 溝部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータと車両横置きのエンジン及び該エンジンの横に配置され車両前方へ突出して配置されたトランスミッションとの間にステアリングラックが配設され、前記ステアリングラックは前輪を転舵するための転舵ユニットを有し、かつ前記ステアリングラックは車幅方向の左右2箇所の取付部がボルト及びナットによってクロスメンバに取り付けられたステアリングラック取付構造であって、
前記ステアリングラックのうち前記エンジン前面に対向する側に前記転舵ユニットを設け、
前記ステアリングラックの左右2箇所の取付部のうち前記エンジン前面に対向する側の取付部及び前記クロスメンバのうち当該取付部に対向した箇所のいずれか一方に、車両前後方向に長い長孔を形成するとともに、他方に前記ボルトのボルト孔を形成して、前記長孔及び前記ボルト孔に前記ボルトを挿通したことを特徴とするステアリングラック取付構造。
【請求項2】
前記ステアリングラックの後部側に前記取付部が設けられていて前記クロスメンバに前記長孔が形成されている場合、通常時、前記ボルトは前記長孔の前部側に位置し、前突時に前記ステアリングラックが車両後方へ押圧されることにより前記ボルトは前記長孔の後部側に入り込むことを特徴とする請求項1に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項3】
前記ステアリングラックの後部側に前記取付部が設けられていて該取付部に前記長孔が形成されている場合、通常時、前記ボルトは前記長孔の後部側に位置し、前突時に前記ステアリングラックが車両後方へ押圧されることにより前記ボルトは前記長孔の前部側に入り込むことを特徴とする請求項1に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項4】
前記長孔は、前記ボルトの外周の沿った円弧孔と、前記円弧孔に繋がって形成され前記ボルトの外径よりも幅の狭い狭長孔とを有することを特徴とする請求項2又は3に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項5】
前記狭長孔の内側縁部に凹凸を設けたことを特徴とする請求項4に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項6】
前記狭長孔をスリット状にしたことを特徴とする請求項4に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項7】
前記エンジンの前部側にエンジンマウントが設置されている場合、前記エンジンマウントのゴム部を前記ステアリングラックと同じ高さ位置に配置するとともに、前記ゴム部の上部を覆う上部ブラケットの前部側に切欠きを形成し、前突時に前記ステアリングラックが前記切欠きに入り込んで前記ゴム部の上部を押圧することを特徴とする請求項1に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項1】
ラジエータと車両横置きのエンジン及び該エンジンの横に配置され車両前方へ突出して配置されたトランスミッションとの間にステアリングラックが配設され、前記ステアリングラックは前輪を転舵するための転舵ユニットを有し、かつ前記ステアリングラックは車幅方向の左右2箇所の取付部がボルト及びナットによってクロスメンバに取り付けられたステアリングラック取付構造であって、
前記ステアリングラックのうち前記エンジン前面に対向する側に前記転舵ユニットを設け、
前記ステアリングラックの左右2箇所の取付部のうち前記エンジン前面に対向する側の取付部及び前記クロスメンバのうち当該取付部に対向した箇所のいずれか一方に、車両前後方向に長い長孔を形成するとともに、他方に前記ボルトのボルト孔を形成して、前記長孔及び前記ボルト孔に前記ボルトを挿通したことを特徴とするステアリングラック取付構造。
【請求項2】
前記ステアリングラックの後部側に前記取付部が設けられていて前記クロスメンバに前記長孔が形成されている場合、通常時、前記ボルトは前記長孔の前部側に位置し、前突時に前記ステアリングラックが車両後方へ押圧されることにより前記ボルトは前記長孔の後部側に入り込むことを特徴とする請求項1に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項3】
前記ステアリングラックの後部側に前記取付部が設けられていて該取付部に前記長孔が形成されている場合、通常時、前記ボルトは前記長孔の後部側に位置し、前突時に前記ステアリングラックが車両後方へ押圧されることにより前記ボルトは前記長孔の前部側に入り込むことを特徴とする請求項1に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項4】
前記長孔は、前記ボルトの外周の沿った円弧孔と、前記円弧孔に繋がって形成され前記ボルトの外径よりも幅の狭い狭長孔とを有することを特徴とする請求項2又は3に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項5】
前記狭長孔の内側縁部に凹凸を設けたことを特徴とする請求項4に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項6】
前記狭長孔をスリット状にしたことを特徴とする請求項4に記載のステアリングラック取付構造。
【請求項7】
前記エンジンの前部側にエンジンマウントが設置されている場合、前記エンジンマウントのゴム部を前記ステアリングラックと同じ高さ位置に配置するとともに、前記ゴム部の上部を覆う上部ブラケットの前部側に切欠きを形成し、前突時に前記ステアリングラックが前記切欠きに入り込んで前記ゴム部の上部を押圧することを特徴とする請求項1に記載のステアリングラック取付構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−44532(P2008−44532A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222019(P2006−222019)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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