説明

ステアリング装置の衝撃力吸収構造

【課題】車両衝突時の駆動モータ、ひいてはステアリングシャフトの上方移動を抑制しつつ、駆動モータの配置スペースを確保でき、かつステアリング装置の取付け作業を容易に行うことができるステアリング装置の衝撃力吸収構造を提供する。
【解決手段】駆動モータ5は、ペダルブラケット3の後方に位置するように配置され、ペダルブラケット3の駆動モータ5に対向する後面には、車両後方に後上がりに傾斜する傾斜部19a′,19b′が設けられ、該傾斜部19a′,19b′は、車両衝突時に、ペダルブラケット3の後方移動に伴って駆動モータ5に係合することにより、該駆動モータ5の上方移動を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールの操作力を軽減するために、ステアリングシャフトに補助回転力を付与する駆動モータを備えたステアリング装置の衝撃力吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のステアリング装置では、車両衝突時にステアリングシャフトを軸方向に収縮させることにより、室内側への突出量を抑制するようにした衝撃力吸収構造が採用されている。この場合、例えば、特許文献1には、駆動モータをダッシュパネルとクラッチペダルとの間に配置することにより、ステアリングコラムの衝撃力吸収ストロークを大きくとれるようにした構造が提案されている。
【0003】
また、車両衝突時のステアリングシャフトの後方移動をより確実に抑制する観点から、例えば、特許文献2には、駆動モータを、左,右のピラーを結合する車体構成部材(PPメンバ)の前側に配置し、車両衝突時に駆動モータをPPメンバに当接させるようにした構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−171029号公報
【特許文献2】特開平11−11329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ダッシュパネルとクラッチペダルとの間のスペースは非常に狭く、しかもクラッチペダルの踏込みストローク量を確保する必要がある。このことから、前記特許文献1のように、駆動モータをダッシュパネルとクラッチペダルとの間に配置することは構造上困難である。
【0006】
また前記特許文献2の構造の場合は、PPメンバの前側にはメータ類のハーネス等が配置されることから、駆動モータの配置には制約があり、またPPメンバが邪魔になってステアリングシャフトの取り付け作業が煩雑になるという懸念がある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、車両衝突時のステアリングシャフトの車室側突き出し量を抑制しつつ、駆動モータの配置スペースを確保でき、かつステアリングシャフトの取り付け作業を容易に行なえるステアリング装置の衝撃力吸収構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エンジン室と車室と画成するダッシュパネルの車室側に取り付けられたペダルブラケットと、該ペダルブラケットの下側を通るよう配設されたステアリングシャフトと、該ステアリングシャフトに車幅方向に向けて装着され、前記ステアリングシャフトに回転力を付与する駆動モータとを備えたステアリング装置の衝撃力吸収構造であって、前記駆動モータは、前記ペダルブラケットの後方に位置するように配置され、前記ペダルブラケットの駆動モータに対向する後面には、車両後方に後上がりに傾斜する傾斜部が設けられ、該傾斜部は、車両衝突時の前記ペダルブラケットの後方移動に伴って前記駆動モータに係合することにより、該駆動モータの上方移動を抑制することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るステアリング装置の衝撃力吸収構造によれば、ペダルブラケットの駆動モータに対向する後面に後上がりの傾斜部を形成し、車両衝突時に傾斜部を駆動モータに係合させることにより、該駆動モータの上方移動を抑制するようにしたので、ペダルブラケットに傾斜部を形成するだけの簡単な構造でステアリングシャフトの車室側突き出し量を抑制することができる。
【0010】
また駆動モータをペダルブラケットの後方に配置したので、駆動モータを、ペダルに干渉することなく空きスペースを利用して配置でき、ペダルのストローク量を確保することができるとともに、ステアリングシャフトの取り付け作業を容易に行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1による自動車のステアリング装置の側面図である。
【図2】前記ステアリング装置のペダルブラケットの背面図である。
【図3】前記ペダルブラケットの側面図である。
【図4】前記ペダルブラケットの断面図(図3のIV-IV線断面図)である。
【図5】前記ペダルブラケットの断面図(図3のV-V線断面図)である。
【図6】前記ペダルブラケットの断面図(図3のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記ペダルブラケットの断面図(図3のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記ステアリング装置の車両衝突時の挙動を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図8は、本発明の実施例1によるステアリング装置の衝撃力吸収構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明のなかで前後,左右という場合は、特記なき限り、車両に搭載されたシートに着座した状態で見た場合の前後,左右をいう。
【0014】
図において、1は自動車のステアリング装置を示している。このステアリング装置1は、エンジン室Aと車室Bとを画成するダッシュパネル2の車室B側に配設されたペダルブラケット3と、該ペダルブラケット3の下側を通るように配設されたステアリングシャフト4と、該ステアリングシャフト4に連結された駆動モータ5とを備えている。前記ダッシュパネル2の上端部にはカウルパネル(不図示)が、下端部にはフロアパネル(不図示)が接続されている。
【0015】
前記ステアリングシャフト4の上端にはステアリングホイール(不図示)が取り付けられており、下端にはユニバーサルジョイントを介してギヤボックス(不図示)が連結されている。
【0016】
前記ステアリングシャフト4の上方には車幅方向に延びるパイプ状のPPメンバ8が配設されており、該PPメンバ8の両端部は左,右のフロントピラー(不図示)に結合されている。このPPメンバ8の後側にはインストルメントパネル7が配設されている。
【0017】
前記ステアリングシャフト4は、円筒状のステアリングコラム15により回転自在に支持されている。このステアリングコラム15は、コラムブラケット15aを介して前記PPメンバ8に取り付けられている。
【0018】
前記ステアリングシャフト4には、車両衝突時に軸方向に収縮することにより衝撃力を吸収するエネルギー吸収機構が設けられている。このエネルギー吸収機構は、例えば、ステアリングシャフト4のアッパチューブにロアチューブ(不図示)を軸方向に移動可能にセレーション嵌合した構造となっている。
【0019】
前記駆動モータ5は、前記ステアリングシャフト4の操作トルクに応じた補助回転力を該ステアリングシャフト4に付与するものである。詳細には、駆動モータ5の回転軸に装着されたウォームギヤ(不図示)を、前記ステアリングシャフト4に装着されたホイールギヤ(不図示)に噛合させた構造となっている。
【0020】
前記駆動モータ5は、前記ステアリングコラム15の下面側に複数のボルト16により取付け固定されている。
【0021】
前記駆動モータ5は、これの軸線aが前記ステアリングシャフト4の中心線Cに対して略直角をなして車幅方向に向くように、かつステアリングシャフト4の中心線Cより車幅方向左側に位置するように配置されている(図2参照)。
【0022】
前記ペダルブラケット3には、複数の取付け部3a,3b,3cが形成され、各取付け部3a〜3cが前記ダッシュパネル2にボルト締め固定されている。
【0023】
前記ペダルブラケット3には、ブレーキペダル9及びクラッチペダル10が前後に揺動可能に支持されている。
【0024】
前記ブレーキペダル9には、該ブレーキペダル9の踏み力を増幅してブレーキ用マスタシリンダ11に伝達するブレーキブースタ12のプッシュロッド12aが連結されている。前記マスタシリンダ11及びブレーキブースタ12は、前記ダッシュパネル2のエンジン室A側に配設されている。
【0025】
前記クラッチペダル10には、該クラッチペダル10の踏み力を油圧に変換してクラッチ装置(不図示)に伝達するクラッチ用マスタシリンダ13のピストンロッド13aが連結されている。このクラッチ用マスタシリンダ13は車室B側に配設されている。なお、13bはクラッチ装置に接続された油圧配管である(図3参照)。
【0026】
前記ペダルブラケット3は、前記ブレーキペダル9を支持するブレーキブラケット18と、前記クラッチペダル10を支持するクラッチブラケット19とを溶接により一体的に結合した構造を有する。
【0027】
前記ブレーキブラケット18は、前記ダッシュパネル2に当接し、前記ブレーキブースタ12がダッシュパネル2と共にボルト締め固定された前壁部18aと、該前壁部18aの左,右側縁から後方に屈曲して延びる左,右側壁部18b,18cと、該左側壁部18bの後縁から車幅方向右側に屈曲して延びるストップランプスイッチ取付け部18dとを有する。
【0028】
前記ブレーキブラケット18の左,右側壁部18b,18cにより揺動軸20を介して前記ブレーキペダル9の上端筒部9aが軸支されている。なお、21はリターンばねである(図4参照)。
【0029】
前記クラッチブラケット19は、左,右側壁部19a,19bと、該左,右側壁部19a,19bの後縁から内側に屈曲して延びる後壁部19cとを有し、前記右側壁部19bが前記ブレーキブラケット18の左側壁部18bに溶接されている。
【0030】
前記クラッチブラケット19の左,右側壁部19a,19bにより揺動軸22を介して前記クラッチペダル10の筒部10aが軸支されており、該クラッチペダル10の上端部に前記ピストンロッド13aが連結されている。なお、23はリターンばねである。
【0031】
前記クラッチブラケット19の後壁部19cにはシリンダ孔19dが形成されている。前記クラッチ用マスタシリンダ13は、前記シリンダ孔19dに後壁部19cから後方に突出するよう挿入され、該後壁部19cにボルト締め固定されている。
【0032】
これにより前記マスタシリンダ13は、車両側方から見ると、前記駆動モータ5の上方近傍に位置し、かつ上下方向に見たとき、駆動モータ5に重なるように配置されている。
【0033】
前記駆動モータ5は、車両前後方向に見たとき、前記ペダルブラケット3の後方に位置するように配置されている。詳細には、クラッチブラケット19の左,右側壁部19a,19bに対向するように配置されている。
【0034】
そして前記クラッチブラケット19の左,右側壁部19a,19bの駆動モータ5に対向する後面には、車両後方に後上がりに傾斜する傾斜部19a′,19b′が形成されている。
【0035】
前記左側壁部19aの傾斜部19a′は、ステアリングシャフト4の中心線Cに概ね沿うように形成され、前記右側壁部19bの傾斜部19b′は、前記傾斜部19a′より後方に突出し、かつ該傾斜部19a′の傾斜角度より大きく形成されている。
【0036】
これにより前記左,右の傾斜部19a′,19b′は、車両衝突時のペダルブラケット3の後方移動に伴って駆動モータ5に係合することにより、該駆動モータ5を下方に抑え込み、もって該駆動モータ5の上方移動を抑制するように形成されている。
【0037】
詳細には、図8に示すように、車両衝突時の入力Fによりダッシュパネル2と共にペダルブラケット3が後方に移動すると、該ペダルブラケット3の傾斜部19a′,19b′が駆動モータ5の上面部分に乗り上げるように係合し、該駆動モータ5を下方に抑え込む。これによりステアリングシャフト4は、前記入力Fにより軸方向に収縮するとともに、前記駆動モータ5の下方への抑え込みによって後方及び上方への移動が抑制される。さらに衝突初期においては、クラッチ用マスタシリンダ13が駆動モータ5の上方への移動を抑制することとなり、この点からもステアリングシャフト4の後方及び上方への移動が抑制される。
【0038】
このように本実施例によれば、ペダルブラケット3の駆動モータ5に対向する左,右側壁部19a,19bに後上がりに傾斜する傾斜部19a′,19b′を形成し、車両衝突時に傾斜部19a′,19b′を駆動モータ5に係合させることにより、該駆動モータ5を下方に抑え込むようにしたので、ペダルブラケット3に傾斜部19a′,19b′を形成するだけの簡単な構造でステアリングシャフト4の後方及び上方への移動を抑制することができる。
【0039】
本実施例では、前記駆動モータ5をペダルブラケット3後方のステアリングコラム15の下面に配置したので、ブレーキペダル9,クラッチペダル10に干渉することなくステアリングシャフト4下方の空きスペースを利用して配置することができ、ブレーキペダル9,クラッチペダル10のストローク量を充分確保することができる。またステアリングシャフト4の組み付け時にPPメンバ8が邪魔になることはないので、ステアリングシャフト4の取り付け作業を容易に行なうことができる。
【0040】
本実施例では、ペダルブラケット3に固定されたクラッチ用マスタシリンダ13を駆動モータ5の上方近傍に位置するように配置したので、該マスタシリンダ13が駆動モータ5の上方移動を抑制することとなり、ステアリングシャフト4の後方移動をより確実に抑えることができる。
【0041】
なお、前記実施例では、前記傾斜部19a′,19b′を直線状の傾斜面としたが、本発明は、傾斜部を曲面状に形成してもよい。
【0042】
また前記実施例では、クラッチペダルを備えたマニュアル車を例に説明したが、本発明はオートマチック車にも適用可能である。この場合には、ブレーキペダルを支持するブレーキブラケットの駆動モータに対向する部分に傾斜部を形成することとなる。このようにした場合にも、前記実施例と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0043】
1 ステアリング装置
2 ダッシュパネル
3 ペダルブラケット
4 ステアリングシャフト
5 駆動モータ
19a′,19b′ 傾斜部
A エンジン室
B 車室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン室と車室と画成するダッシュパネルの車室側に取り付けられたペダルブラケットと、該ペダルブラケットの下側を通るよう配設されたステアリングシャフトと、該ステアリングシャフトに車幅方向に向けて装着され、前記ステアリングシャフトに回転力を付与する駆動モータとを備えたステアリング装置の衝撃力吸収構造であって、
前記駆動モータは、前記ペダルブラケットの後方に位置するように配置され、
前記ペダルブラケットの駆動モータに対向する後面には、車両後方に後上がりに傾斜する傾斜部が設けられ、
該傾斜部は、車両衝突時の前記ペダルブラケットの後方移動に伴って前記駆動モータに係合することにより、該駆動モータの上方移動を抑制する
ことを特徴とするステアリング装置の衝撃力吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−178253(P2011−178253A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43716(P2010−43716)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】