説明

ステアリング装置用エネルギ吸収式シャフト

【課題】衝突事故の際に、中間部を「く」字形に折り曲げつつ衝撃を吸収する構造で、優れた耐熱性を有する構造を実現する。
【解決手段】インナシャフト6と第一アウタチューブ7との間に、この第一アウタチューブ7が軸方向に強く押された場合にのみ、この第一アウタチューブ7が軸方向に変位するのを許容する変位制限部22を設ける。この変位制限部22を、上記インナシャフト6の外周面に形成した雄セレーション15を構成する谷部23の底部に形成された突部24と、上記第一アウタチューブ7の内周面に形成した雌セレーション16を構成する山部25の頂部とを軸方向に関して重畳させる事で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用操舵装置を構成する中間シャフトのうち、衝突事故の際に衝撃エネルギを吸収しつつ折れ曲がる事で運転者を保護する、ステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用操舵装置は、図9に示す様に、運転者が操作するステアリングホイール1の動きを、ステアリングシャフト2及び中間シャフト3等の複数本のシャフトと、これら各シャフト2、3の端部同士を結合した自在継手4a、4bとを介して、図示しないステアリングギヤユニットに伝達する様に構成している。この様に構成される自動車用操舵装置では、衝突時に運転者を保護する為、上記ステアリングシャフト2及びこのステアリングシャフト2を挿通したステアリングコラム5、或いは上記中間シャフト3を、衝撃に伴って、この衝撃のエネルギを吸収しつつ全長が縮まるエネルギ吸収式のものとする事が一般的に行なわれている。又、上記中間シャフト3に関しては、衝撃に伴って、この衝撃のエネルギを吸収しつつ軸方向中間部で「く」字形に折れ曲がる構造とする事も、従来から広く行なわれている。
【0003】
この様な、衝撃のエネルギを吸収しつつ軸方向中間部で折れ曲がるステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトとして従来から、例えば特許文献1〜2に記載されたものが知られている。図10〜14は、これら特許文献1〜2に記載される等により従来から知られている、ステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトの1例を示している。このステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトである中間シャフト3aは、インナシャフト6に対して第一、第二両アウタチューブ7、8を、大きな力が加わった場合にのみ軸方向移動可能に、セレーション係合させて成る。これら各部材6〜8は、インナシャフト6の外周面に形成した雄セレーションと上記第一、第二両アウタチューブ7、8の内周面に形成した雌セレーションとをセレーション係合させる事で、トルク伝達と軸方向に関する相対変位とを可能に組み合わせている。
【0004】
但し、上記インナシャフト6と上記第一、第二両アウタチューブ7、8とは、このうちのインナシャフト6の外周面複数個所(図示の例では3個所)に形成した小径部9a、9b、9cと、上記両アウタチューブ7、8に形成した通孔10a、10b、10cとの間に掛け渡した合成樹脂11a、11b、11cにより結合している。従って上記インナシャフト6と上記第一、第二両アウタチューブ7、8とは、軸方向に強い衝撃が加わり、上記合成樹脂11a、11b、11cが裂断した場合にのみ、軸方向に関して相対変位可能になる。又、インナシャフト6の中間部で上記第一アウタチューブ7の軸方向中間部内径側に位置する部分には、このインナシャフト6の他の部分に比べて十分に小径な小断面積部12を設けている。更に、上記第二アウタチューブ8の一端縁(図10の左下端縁)に対向する、上記第一アウタチューブ7の一端縁(図10の右上端縁)を、その片半部側が他半部側よりも上記第二アウタチューブ8の一端縁から離れる向きに傾斜させている。尚、第一アウタチューブ7の一端縁に代えて、或はこの一端縁と共に、第二アウタチューブ8の一端縁を傾斜させる場合もある。
【0005】
上述の様なステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトは、自動車の操舵装置に組み込まれ、ステアリングホイール1(図9)の動きを、図示しないステアリングギアに伝える。通常時には、上記小断面積部12の周囲に第一アウタチューブ7が、上記合成樹脂11b、11cの係止力に基づいて存在する。この為、インナシャフト6がこの小断面積部12で折れ曲がる事はない。又、操舵の為のトルクは、主として上記第一アウタチューブ7によって、上記インナシャフト6の後部(図10の右上部)から前部(同左下部)に伝達される。
【0006】
衝突時に(一次衝突又は二次衝突に伴って)上記ステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトに、軸方向に亙る強い圧縮力が加わると、先ず、上記第二アウタチューブ8と上記インナシャフト6との間に掛け渡された合成樹脂11aが裂断し、この合成樹脂11aによる係止力が喪失する。そして、このインナシャフト6と第二アウタチューブ8とが図10→図11の様に軸方向に変位し、この第二アウタチューブ8の一端縁上半部と第一アウタチューブ7の一端縁上半部とが当接する。この状態から更に上記インナシャフト6が、上記第二アウタチューブ8に対し後方(図10の右上方向)に移動すると、上記第一アウタチューブ7と上記インナシャフト6との間に掛け渡された合成樹脂11b、11cも裂断し、この第一アウタチューブ7が上記第二アウタチューブ8により、上記インナシャフト6の一端(図10の左下端)に向け押される。そして、図11→図12に示す様に、第一アウタチューブ7と第二アウタチューブ8との突き合わせ面が軸方向に移動し、この突き合わせ面が、上記小断面積部12の中間部周囲に存在する様になる。同時に、上記第一アウタチューブ7の一端面が上記インナシャフト6の一端部に設けた段差面13に突き当たり、それ以上、このインナシャフト6に対し軸方向に移動しない様になる。尚、上記段差面13を省略する代わりに、上記インナシャフト6の他端面(図10の右上端面)を、上記第二アウタチューブ8と自在継手のヨーク18とを結合する結合ピン14に突き当てる構造を採用する事もできる。この様な構造も、前記特許文献1に記載されているが、何れにしても、上記インナシャフト6が、上記図12に示した状態から、それ以上軸方向に移動しなくなる。
【0007】
この様な図12に示した状態から、更に上記圧縮力が加わると、上記第一アウタチューブ7による折れ曲がり阻止力を喪失した上記インナシャフト6が折れ曲がる。例えば図示の様に、上記第一アウタチューブ7の一端面を上記段差面13に突き当てる構造の場合には、傾斜したこの第一アウタチューブ7の一端縁と、上記第二アウタチューブ8の一端縁との係合に基づいて、これら両アウタチューブ7、8の中心軸同士を曲げる方向の力が加わる。そして、上記インナシャフト6の小断面積部12が、図12→図13→図14に示す様に、塑性変形する事で折れ曲がる。この様に小断面積部12を折り曲げる方向に塑性変形させる事により、ステアリング用シャフトの全長を縮めつつ、衝突に基づくエネルギを吸収し、運転者の身体に加わる衝撃を緩和する。上記インナシャフト6の他端面を上記結合ピン14に突き当てる構造の場合には、上記第一アウタチューブ7の一端縁を傾斜させる必要はないが、この場合でも、上記圧縮力に基づき、上記小断面積部12が折れ曲がる。
【0008】
何れの構造にしても、上述の様なステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトは、前述の図9に示した中間シャフト3として利用する場合が多い。そして、この中間シャフト3は、エンジンルーム内に設置される場合が多い為、使用時に高温に曝される場合がある。この為、通常時に上記インナシャフト6と上記第一、第二両アウタチューブ7、8との軸方向変位を阻止する為の合成樹脂11a、11b、11cとして、十分な耐熱性を有するものを使用する必要がある。十分な耐熱性を有する合成樹脂は高価であり、上記ステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトを造る為の材料費が嵩む。又、上記インナシャフト6と上記第一、第二両アウタチューブ7、8との間に上記各合成樹脂11a、11b、11cを掛け渡す作業も面倒である為、上記ステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトの製造コストが相当に嵩んでしまう。
【0009】
特許文献3〜7には、衝突事故の際に衝撃エネルギを吸収しつつ全長を縮めるコラプシブルシャフトに関して、金属部材製同士の締り嵌めの嵌合に基づき、通常時には全長を一定とし、衝突時に全長を縮める様にしたステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトに関する発明が記載されている。但し、上記特許文献3〜7に記載された発明の構造は、何れも、インナ側の部材の中心軸とアウタ側の部材の中心軸とを一致させた状態のまま全長を縮める構造に関するものであって、本発明の対象となる様に、中間部を「く」字形に折り曲げつつ衝撃を吸収するものに関する発明ではない。
【0010】
【特許文献1】特開平7−309241号公報
【特許文献2】特開平8−258727号公報
【特許文献3】特開平6−255498号公報
【特許文献4】特開平8−91230号公報
【特許文献5】特開平10−45005号公報
【特許文献6】特開2002−293252号公報
【特許文献7】実願平3−97208号(実開平5−37642号)のCD−ROM
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、衝突事故の際に、中間部を「く」字形に折り曲げつつ衝撃を吸収する構造で、優れた耐熱性を有するステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトを実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトは、インナシャフトと、第一アウタチューブと、第二アウタチューブと、変位制限部とを備える。
このうちのインナシャフトは、軸方向中間部に小断面積部を、外周面に雄セレーションを、それぞれ形成している。
又、上記第一アウタチューブは、内周面に形成した雌セレーションと上記雄セレーションとをセレーション係合させた状態で上記インナシャフトの周囲に、上記小断面積部を跨ぐ状態で外嵌されている。
又、上記第二アウタチューブは、上記インナシャフトの軸方向一端部で上記第一アウタチューブから露出した部分に、軸方向の一部をセレーション係合させた状態で外嵌している。
更に、上記変位制限部は、上記インナシャフトと上記第一アウタチューブとの間に設けられ、この第一アウタチューブが上記第二アウタチューブによりに軸方向に強く押された場合にのみ、この第一アウタチューブが上記インナシャフトの軸方向他端側に変位するのを許容する。
【0013】
特に、本発明のステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトに於いては、上記変位制限部を、雄セレーションの谷部に形成した突部と、雌セレーションの山部の頂部とを係合させる事により構成している。即ち、上記インナシャフトの外周面に形成した雄セレーションを構成する少なくとも1個所の谷部の底部で、上記第一アウタチューブの軸方向端部から露出した部分に、上記突部を形成している。そして、この突部と、この第一アウタチューブの内周面に形成した雌セレーションを構成する少なくとも1個所の山部の頂部とを、軸方向に関して重畳させている。
上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、上記谷部の底部に形成された突部の頂部を、この第一アウタチューブに近づく程高さ寸法が低くなる方向に傾斜した傾斜面とする。
【0014】
又、上述の様な本発明を実施する場合に、例えば請求項3に記載した様に、上記インナシャフトの軸方向一端部を円筒状に形成すると共にこの軸方向一端部を、中心軸に対し直交する仮想平面に関する断面形状を楕円形にする。この楕円形にする作業は、上記円筒状の軸方向一端部を、直径方向反対側から押し潰して、この軸方向一端部を塑性変形させる事により行なう。更に、この様に断面形状が楕円形である、上記インナシャフトの軸方向一端部を、上記第二アウタチューブに、この軸方向一端部の弾性変形に基づき、この軸方向一端部の断面形状を円形に戻しつつセレーション係合させる。そして、上記インナシャフトの軸方向一端部と上記第二アウタチューブとを、軸方向に関して強い力が作用した場合にのみ、相対変位を可能に結合する。
【発明の効果】
【0015】
上述の様に構成する本発明のステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトによれば、衝突事故の際に、中間部を「く」字形に折り曲げつつ衝撃を吸収する構造で、優れた耐熱性を有するステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトを得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[実施の形態の第1例]
図1〜6は、請求項1、3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトである中間シャフト3bは、外周面に雄セレーション15を形成したインナシャフト6に、それぞれの内周面に雌セレーション16を形成した第一アウタチューブ7及び第二アウタチューブ8をセレーション係合に基づき外嵌して成る。但し、これら第一、第二両アウタチューブ7、8は上記インナシャフト6に対し、通常時には軸方向に変位しないが、軸方向に大きな荷重が加わった場合に軸方向に変位する様に外嵌している。この点に就いては後述する。尚、図示の例では、上記中間シャフト3bの軸方向両端部にそれぞれ自在継手4a、4bを組み付けて、この中間シャフト3bを、ステアリングシャフト2(図9参照)の前端部とステアリングギヤユニットの入力軸(図示せず)の端部との間に組み付け可能としている。
【0017】
上記中間シャフト3bの構成各部材のうちのインナシャフト6は、円杆状の素材の外周面に上記雄セレーション15を、実質的全長に亙って(軸方向両端面外周縁部の面取り部、並びに、次述する小断面積部12及び逃げ凹部17部分を除き)形成すると共に、軸方向中間部に小断面積部12を形成している。この小断面積部12は、曲げ方向に対する強度及び剛性を低くする事により、上記インナシャフト6を軸方向中間部で「く」字形に折れ曲がり易くしたものである。本例の場合には、幅広の凹溝を全周に亙り形成する事により、上記軸方向中間部の外径を他の部分に比べて大幅に小さくし、上記小断面積部12としている。又、上記インナシャフト6の一端寄り部分の外周面の円周方向の一部に逃げ凹部17を形成している。この逃げ凹部17は、上記インナシャフト6を上記自在継手4bのヨーク18と結合する際に、結合用のボルト19とこのインナシャフト6とが干渉するのを防止する為に設けている。
【0018】
又、前記第一、第二両アウタチューブ7、8は、それぞれ全体を円管状としたもので、それぞれの内周面に雌セレーション16(図2〜4参照)を形成している。上記両アウタチューブ7、8のうち、第一アウタチューブ7を上記インナシャフト6の軸方向中間部に、上記小断面積部12を跨ぐ状態で外嵌(セレーション係合)している。これに対して、第二アウタチューブ8の軸方向片半部(図1の左半部)を、上記インナシャフト6の軸方向一端部(図1〜2の右端部)で上記第一アウタチューブ7から露出した部分に外嵌(セレーション係合)している。
【0019】
又、この第一アウタチューブ7の軸方向両端面のうち、前記中間シャフト3bを組み立てた状態で前記第二アウタチューブ8の軸方向端面と対向する側(図1、2の右側)の一端面を、上記第一アウタチューブ7の中心軸に対し直交する仮想平面に対し傾斜した、傾斜面20としている。尚、図示の例では、上記第一アウタチューブ7の一端面の片端部でこの傾斜面20から外れた部分に、上記仮想平面に対し平行な平面部21を設けている。この平面部21は、衝突事故の際に、上記第一アウタチューブ7と上記第二アウタチューブ8との突き合わせ状態を安定させて、上記インナシャフト6の折れ曲がり状態を安定させる為に設けている。この様な平面部21に関しては、特願2006−334319に詳しく記載されており、本発明の要件とも関係しない(本発明を実施する場合に、上記平面部21を設けなくても良い)為、詳しい説明は省略する。
【0020】
上述の様な構成を有する、上記第一アウタチューブ7は、上記インナシャフト6の周囲に、上記雄セレーション15と上記雌セレーション16とをセレーション係合させた状態で、前記小断面積部12を跨ぐ状態で外嵌している。この様に上記第一アウタチューブ7を上記インナシャフト6に外嵌した状態で、この第一アウタチューブ7が上記第二アウタチューブ8から離れる方向に変位するのを防止する為に、上記インナシャフトと6上記第一アウタチューブ7との間に、変位制限部22を設けている。
【0021】
この変位制限部22は、衝突事故に伴って、上記第一アウタチューブ7が上記第二アウタチューブ8によりに軸方向に(図1〜3の左方に)強く押された場合にのみ、上記第一アウタチューブ7が上記インナシャフト6の軸方向他端側(図1〜3の左側)に変位するのを許容する。この様な変位制限部22を構成する為に本例の場合には、上記インナシャフト6の外周面に形成した雄セレーション15を構成する何れかの谷部23の底部で、上記第一アウタチューブ7の軸方向端部から露出した部分に、突部24を形成して、当該谷部23の深さを、この突部24を形成した部分で浅くしている。そして、上記第一アウタチューブ7の内周面に形成した雌セレーション16を構成する各山部のうち、上記当該谷部23と係合した山部25の頂部を、上記突部24と軸方向に関して重畳させている。要するに、上記雄セレーション15と上記雌セレーション16とをセレーション係合させた状態で、上記谷部23の底部と上記山部25の頂部との間に存在する隙間の径方向寸法hを、この谷部23の底部から上記突部24の頂部までの径方向寸法Hよりも小さく(h<H)している。この様な突部24は、少なくとも1個所設ければ良いが、図示の例では、径方向反対側2個所位置に設けている。尚、上記突部24は、上記雄セレーション15を転造加工する際に、製造工程及び製造コストを増大させる事なく、容易に造れる。
【0022】
一方、前記第二アウタチューブ8は、この第二アウタチューブ8の内周面に形成した雌セレーション(図示省略)と、前記インナシャフト6の外周面に形成した雄セレーション15とを、大きな摩擦力でセレーション係合させる事により、衝突事故に伴って大きな軸方向荷重が加わった場合にのみ、軸方向の相対変位を可能に結合している。この為に本例の場合には、図2に示す様に、上記インナシャフト6の軸方向一端部に、端面中央部に開口する円形凹孔26を形成する事で、このインナシャフト6の軸方向一端部に、円筒部27を形成している。そして、このインナシャフト6と上記第二アウタチューブ8とを結合する(セレーション係合させる)のに先立って、上記円筒部27を、その中心軸に対し直交する仮想平面に関する断面形状を楕円形に変形させている。この様に楕円形に変形させる作業は、プレス加工機、万力等に設けた1対の押圧面同士の間で上記円筒部27を直径方向反対側から、適正量だけ押し潰す事により行なう。
【0023】
何れの方法による場合でも、上記円筒部27を、その断面形状を楕円形に変形させた状態で、この円筒部27の外周面に存在する雄セレーション15のピッチ円も楕円形になるが、この楕円形の長径を、上記第二アウタチューブ8の内周面に形成した雌セレーション16のピッチ円直径よりも少し大きくする。そして、上記円筒部27を上記第二アウタチューブ8の軸方向片半部(図1の左半部)に、この円筒部27の弾性変形に基づき、この円筒部27の断面形状を円形に戻しつつ押し込んで、上記インナシャフト6の外周面に形成した雄セレーション15と、上記第二アウタチューブ8の内周面に形成した雌セレーション16とをセレーション係合させる。この状態でこれら両セレーション同士が、上記楕円形の長径に対応する部分で強く摩擦係合する。そして、上記インナシャフト6の軸方向一端部と上記第二アウタチューブ8とが、軸方向に関して強い力が作用した場合にのみ、相対変位を可能に結合された状態となる。
【0024】
以上に述べた様に、上記インナシャフト6に上記第一、第二アウタチューブ7、8を外嵌した状態で、このうちの第一アウタチューブ7は、この第二アウタチューブ8と前記1対の突部24、24とにより、軸方向両側から挟持された状態となる。この結果上記第一アウタチューブ7は、衝突事故に伴って、軸方向に大きな荷重が加わらない限り、軸方向に移動せず、前記小断面積部12の周囲に止まる。この為、通常時には、操舵輪への舵角付与の為のトルクの大部分を上記第一アウタチューブ7を介して伝達できて、上記小断面積部12の耐久性確保を図れる。
【0025】
衝突事故の際には、前記中間シャフト3bに大きな衝撃荷重が、この中間シャフト3bの両端部に設けた1対の自在継手4a、4b同士を互いに近づけ合う方向に加わる。上記衝撃荷重に基づいて、先ず、上記第二アウタチューブ8が、上記両セレーション15、16同士の係合部に作用する大きな摩擦力に抗して、上記第一アウタチューブ7に向け、図1の左方に押される。そして、上記両自在継手4a、4b同士の間隔を縮めつつ、上記第二アウタチューブ8により上記第一アウタチューブ7を、上記小断面積部12の周囲から退避する方向に押圧する。この際、上記両突部24、24を、上記第一アウタチューブ7の内周面に形成した雌セレーション16の山部25、25の頂部に食い込ませ、これら両山部25、25を塑性変形させつつ、上記第一アウタチューブ7を軸方向移動させる。この第一アウタチューブ7の開口部内周縁部分には、上記山部25、25の端部を含めて、面取り部28を設けている為、上記両突部24、24の上記両山部25、25の頂部への食い込みは、円滑に行なわれる。尚、上記第一アウタチューブ7を軸方向に移動させる過程で、上記中間シャフト3bは、上記摩擦力と、上記両山部25、25の塑性変形に基づく、衝撃エネルギの吸収作用を受けつつ、全長を縮める。この際に吸収可能な衝撃エネルギの大きさは、前記円筒部27を楕円形に変形させる程度、上記両突部24、24の数、軸方向長さL、高さH等により、任意に調節可能である。
【0026】
上記第一アウタチューブ7が、前記自在継手4bのヨーク18の基端面に突き当たるまで移動すると、この第一アウタチューブ7と上記第二アウタチューブ8との突き合わせ面が上記小断面積部12の周囲に位置した状態で、これら両アウタチューブ7、8同士が強く突き合わされる状態となり、上記小断面積部12が、前述の図11→図12→図13→図14に示す様に、塑性変形する事で折れ曲がる。尚、本例の構造を実施する場合に、上記両突部24、24を、通常時の状態から、上記両山部25、25の端部に少し食い込ませておく事もできる。この様に構成すれば、通常時の状態で、上記第一アウタチューブ7が軸方向にがたつく事を防止できる。
【0027】
[実施の形態の第2例]
図7〜8は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、インナシャフト6の外周面に形成した雄セレーション15を構成する谷部23の底部に形成された突部24aの頂部を、第一アウタチューブ7に近づく程高さ寸法が低くなる方向に傾斜した傾斜面29としている。この為、上記突部24aの、上記第一アウタチューブ7の内周面に形成した雌セレーション16を構成する山部25の頂部への食い込みを、より円滑に行なわせる事ができる。その他の部分に構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す側面図。
【図2】インナシャフト及び第一アウタチューブを取り出して図1と同方向から見た状態で示す断面図。
【図3】図2のA部拡大図。
【図4】図3のB−B断面図。
【図5】図4のC部拡大図。
【図6】インナシャフトと第一アウタチューブとを組み合わせ部を、図3の左上方から見た状態で示す斜視図。
【図7】本発明の実施の形態の第2例を示す、図3の左半部に相当する断面図。
【図8】図7のD部拡大図。
【図9】自動車用操舵装置の1例を示す略側面図。
【図10】ステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトの断面図。
【図11】衝突開始直後の状態を示す、図10の中央部に相当する図。
【図12】更に衝突が進行した状態を示す、図11と同様の図。
【図13】更に衝突が進行した状態を示す、図11と同様の図。
【図14】更に衝突が進行した状態を示す、図11と同様の図。
【符号の説明】
【0029】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3、3a、3b 中間シャフト
4a、4b 自在継手
5 ステアリングコラム
6 インナシャフト
7 第一アウタチューブ
8 第二アウタチューブ
9a、9b、9c 小径部
10a、10b、10c 通孔
11a、11b、11c 合成樹脂
12 小断面積部
13 段差面
14 結合ピン
15 雄セレーション
16 雌セレーション
17 逃げ凹部
18 ヨーク
19 ボルト
20 傾斜面
21 平面部
22 変位制御部
23 谷部
24、24a 突部
25 山部
26 円形凹孔
27 円筒部
28 面取り部
29 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向中間部に小断面積部を、外周面に雄セレーションを、それぞれ形成したインナシャフトと、内周面に形成した雌セレーションとこの雄セレーションとをセレーション係合させた状態で上記インナシャフトの周囲に、上記小断面積部を跨ぐ状態で外嵌された第一アウタチューブと、このインナシャフトの軸方向一端部でこの第一アウタチューブから露出した部分に軸方向の一部をセレーション係合させた状態で外嵌した第二アウタチューブと、上記インナシャフトと上記第一アウタチューブとの間に設けられ、この第一アウタチューブが上記第二アウタチューブによりに軸方向に強く押された場合にのみ、この第一アウタチューブが上記インナシャフトの軸方向他端側に変位するのを許容する変位制限部とを備えたステアリング装置用エネルギ吸収式シャフトに於いて、この変位制限部が、上記雄セレーションを構成する少なくとも1個所の谷部の底部で、上記第一アウタチューブの軸方向端部から露出した部分に形成された突部と、この第一アウタチューブの内周面に形成した雌セレーションを構成する少なくとも1個所の山部の頂部とを軸方向に関して重畳させたものである事を特徴とするステアリング装置用エネルギ吸収式シャフト。
【請求項2】
谷部の底部に形成された突部の頂部が、この第一アウタチューブに近づく程高さ寸法が低くなる方向に傾斜した傾斜面である、請求項1に記載したステアリング装置用エネルギ吸収式シャフト。
【請求項3】
インナシャフトの軸方向一端部を円筒状に形成すると共にこの軸方向一端部を、中心軸に対し直交する仮想平面に関する断面形状を楕円形にした状態で、上記インナシャフトの軸方向一端部を第二アウタチューブに、この軸方向一端部の弾性変形に基づき、この軸方向一端部の断面形状を円形に戻しつつセレーション係合させる事で、上記インナシャフトの軸方向一端部と上記第二アウタチューブとを、軸方向に関して強い力が作用した場合にのみ、相対変位を可能に結合した、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したステアリング装置用エネルギ吸収式シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−40126(P2009−40126A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204916(P2007−204916)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】