説明

ステアリング装置

【課題】ステアリング装置のころ軸受に過大入力が入力され圧痕が発生した場合に、ころ軸受が交換時期にあることを運転者へ感知させるステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリングシャフトの操舵力をピニオン軸のピニオン15aを介してラックに伝達して車輪を転舵するラック・ピニオン式ステアリング装置において、前記ピニオン軸を回転自在に支持するころ軸受17の外輪17aの破壊強度をラックとピニオン軸及びこれらを収容するハウジング11よりも低くした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラック・ピニオン式のステアリング装置のギヤにおいて、ピニオンのロアー側はニードルベアリング (以下ころ軸受)で支持している。タイヤからの逆入力により、想定外の過大入力がステアリングギヤに入ると、ころ軸受に圧痕が形成されることがある。ころ軸受に圧痕が形成されると、操舵時に違和感を感じたり、異音発生の原因となる。このような違和感や異音が発生した場合には、ころ軸受を交換することが望ましいが、実際には運転者の感覚に任されているのが現状であり、有効な技術は存在しない。
特許文献1に転がり軸受において、軸受が焼き付く前に着色剤が漏れ出し、軸受の不具合を知らせるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−290447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、ステアリング装置のころ軸受に過大入力が入力され圧痕が発生した場合に、ころ軸受が交換時期にあることを運転者へ感知させるステアリング装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ステアリングシャフトの操舵力をピニオン軸のピニオンを介してラックに伝達して車輪を転舵するラック・ピニオン式ステアリング装置において、前記ピニオン軸を回転自在に支持するころ軸受の外輪の破壊強度を、前記ラックと前記ピニオン軸及びこれらを収容するハウジングよりも低くしたこと、を要旨としている。
【0006】
上記構成によれば、過大入力に対してラック・ピニオン及びハウジングの破損強度よりも低い入力でころ軸受の外輪に圧痕を発生させるようにしているため、ステアリングギヤの主要部分が破損する前にころ軸受に発生した圧痕でゴリ感による違和感を発生させるので使用者にステアリングギヤの交換時期を感知させることができる
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記ころ軸受の外輪の面圧を4000〜6000MPaで外輪の圧痕の深さが1〜60μmに設定したことを要旨としている。
即ち、ころ軸受の外輪はころと比べると圧痕が発生しやすくなるので、過大入力に対してころ軸受の外輪に確実に圧痕を発生させるようにできるため、運転者にごり感や違和感を感知させることができる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記ころ軸受のころの材質が高炭素鋼で外輪の材質がSPBでそれぞれの硬さがビッカース硬さ(Hv)700〜800であることを要旨としている。
即ち、外輪ところの材質と内部硬さに差を設けることにより、確実に圧痕を発生させることができるので、運転者にゴリ感を感知させることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明によれば、ステアリング装置のころ軸受に過大入力が入力され圧痕が発生した場合に、ころ軸受が交換時期にあることを運転者へ感知させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】車両用ラック・ピニオン式ステアリング装置の正面図
【図2】ラックバー支持装置の断面図
【図3】ころ軸受付近の拡大図
【図4】接触面圧と圧痕の深さの関係を示す図
【図5】圧痕の深さとトルク変動の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のステアリング装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、車両用ラック・ピニオン式ステアリング装置は、ハウジング11、ラックバー12(ラック)、タイロッド13、ラックガイドハウジング部14、ピニオン軸15(ピニオン)、ラックバー支持装置20を備えている。
【0012】
ハウジング11は、車両(図示しない)の左右方向(図1の左右方向)に延在して車両に組み付けられている。ラックバー12は、ハウジング11にラック軸方向(図1の左右方向)に摺動可能に組み付けられている。
【0013】
タイロッド13は、その基端がラックバー12の両端にそれぞれ組み付けられている。
タイロッド13の各他端は、操向輪(例えば左右前輪)の各ナックルアーム(図示しない)に接続されている。これにより、ラックバー12の動きがタイロッド13を介してナックルアームに伝わるので、ステアリングの操作に応じて車両を操向することができる。
【0014】
ラックガイドハウジング部14は、ハウジング11にラックバー12に直交して形成さ
れている。
図2に示すように、ラックガイドハウジング部14は、断面円形の収容穴14aを有している。この収容穴14a内には、ラックガイド21が摺動可能に組み付けられている。
【0015】
ピニオン軸15は、ハウジング11に玉軸受16,ころ軸受17を介して回転自在に組み付けられている。ピニオン軸15は、ステアリングシャフト(図示省略)に連結されている。ピニオン軸15にはピニオン15aが形成されている。ピニオン15aははす歯が形成されており、ラックバー12のラック12aと噛合するようになっている。
【0016】
また、ピニオン軸15のピニオン15aの一方(端部)の外周面とラックガイドハウジング部14の内周面との間に、ころ軸受17を介在させており、このころ軸受17によってピニオン軸15を径方向にのみ支持している。さらに、ピニオン軸15のピニオン15aの他方を、玉軸受16を介してラックガイドハウジング部14によって径方向に支持している。
図3に示すように、ころ軸受17のころ17bはピニオン軸15に対する軸方向移動及び周方向移動を規制されている。また、ころ軸受17の外輪17aは、ラックガイドハウジング部14に形成される軸受保持空間に収容されている。
【0017】
ラックバー支持装置20は、ラックガイド21、アジャストスクリュー24、スプリング25から構成されている。
【0018】
アジャストスクリュー24は、ラックガイド21の背面側に配置され、ラックガイドハウジング部14の収容穴14aを塞ぐものである。アジャストスクリュー24は、収容穴14aの開口端部に螺着されている。スプリング25は、ラックガイド21とアジャストスクリュー24との間に圧縮された状態で配設されるものであり、ラックガイド21の背部凹部21aに収容されている。これにより、スプリング25の付勢力によってラックガイド21は、ラックバー12をピニオン軸15に押圧している。すなわち、ラックバー12はラックバー支持装置20によってピニオン15aに向けて押圧されながらラック軸方向へ摺動可能に支持されている。
【0019】
ラックバー12は、炭素鋼材(JIS S45Cなど)、ピニオン軸15は、肌焼き鋼(JIS SCM420など)や炭素鋼材(JIS S45Cなど)の熱処理硬化材で構成し、ころ軸受17は表1に示すように、ころ軸受17のころ17bにSUJ2の高炭素軸受鋼、外輪17aにSPB材にて構成する。
次に、ころ17bと外輪17aとの圧痕深さを測定した結果を図4に示す。
【表1】

【0020】
図4に示すように、面圧4000MPa以上で比例して、圧痕が大きくなり、7000MPa以上でころ17bが破壊することが判明した。また、図5に示すように外輪17aに圧痕ができる大きさに比例してトルク変動が起こり圧痕が発生すると異常を検出できることが判明した。
【0021】
したがって、表1に示すころ軸受17であれば、面圧を4000〜7000MPaの範囲にすることで、ごり感を発生できるので、ころ軸受17の交換時期を運転者に違和感として感知させることができる。
【符号の説明】
【0022】
11…ハウジング、12…ラックバー、13…タイロッド、14…ラックガイドハウジング部、15…ピニオン軸、15a…ピニオン、16…玉軸受,17…ころ軸受、17a…外輪、17b…ころ、20…ラックバー支持装置、21…ラックガイド、24…アジャストスクリュー、25…スプリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトの操舵力をピニオン軸のピニオンを介してラックに伝達して車輪を転舵するラック・ピニオン式ステアリング装置において、前記ピニオン軸を回転自在に支持するころ軸受の外輪の破壊強度を、前記ラックと前記ピニオン軸及びこれらを収容するハウジングよりも低くしたことを特徴としたステアリング装置。
【請求項2】
前記ころ軸受の外輪の面圧を4000〜6000MPaで外輪の圧痕の深さが1〜60μmに設定したことを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記ころ軸受のころの材質が高炭素鋼で外輪の材質がSPBでそれぞれの硬さがビッカース硬さ(Hv)700〜800である請求項1〜2に記載のステアリング装置。

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−81945(P2012−81945A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60784(P2011−60784)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】