説明

ステータコア及びモータ

【課題】制振合金による振動抑制効果を得ることができるステータコアを提供する。
【解決手段】ステータコア11は、環状の固定部12と、該固定部12から径方向に沿って延びる複数のティース部13とを備えている。このステータコア11は、制振合金よりなるコアシート21を複数枚積層して形成されている。ステータコア11を構成する制振合金は、振動エネルギーを熱エネルギーに変換するため、回転子51の回転に伴うステータコア11の振動が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコア及び該ステータコアを備えたモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、円柱状の芯部の外周に複数のマグネットを軸方向に並設してなる柱状の固定子と、該固定子の外周を囲むように設けられた可動子とを備えたリニアモータがある。固定子の長手方向の両端部は一対の保持部にて保持されており、駆動時には、固定子に対して可動子が軸方向に沿って移動される。そして、特許文献1に記載されたリニアモータの固定子は、芯部が制振合金にて形成されており、駆動時における固定子の振動が当該制振合金にて抑制されるようになっている。
【特許文献1】特開2007−295690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したように、特許文献1には、固定子に対して可動子が軸方向に沿って直線的に移動されるリニアモータにおいて、その固定子の振動を、制振合金を利用して抑制する場合の構成は開示されている。しかし、複数の突極(ティース部)を有するステータコアにコイルを巻装してなる固定子と、該固定子にて発生される回転磁界に応じて周方向に回転する回転子とを備えたモータの振動を、制振合金を利用して抑制する場合の構成については具体的に開示されていなかった。そのため、このようなモータの振動を、制振合金を利用して抑制する場合の具体的な構成の開示が望まれていた。
【0004】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、制振合金による振動抑制効果を得ることができるステータコア及びモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、環状の固定部と、該固定部から径方向に沿って延びる複数のティース部とを備えたステータコアであって、少なくとも各前記ティース部の一部が制振合金よりなることをその要旨としている。
【0006】
同構成によれば、モータの駆動時に径方向に振動し易いティース部の少なくとも一部を制振合金にて形成されており、当該制振合金によってティース部の振動が抑制される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のステータコアにおいて、板状のコアシートを複数枚積層してなり、複数枚の前記コアシートのうち少なくとも1枚の前記コアシートは、前記コアシートにおける前記ティース部を構成する積層ティース部が強磁性型の制振合金よりなり、前記強磁性型の制振合金よりなる前記積層ティース部においては径方向が前記制振合金の圧延方向に一致していることをその要旨としている。
【0007】
同構成によれば、強磁性型の制振合金よりなる積層ティース部においては径方向が制振合金の圧延方向に一致している。強磁性型の制振合金は、その磁気特性が圧延方向に優れるため、強磁性型の制振合金よりなる積層ティース部において径方向と同制振合金の圧延方向とが一致するようにすることで、強磁性型の制振合金の磁気特性に優れた方向とモータの駆動時に積層ティース部を流れる磁束の方向とが一致され、モータの駆動時に、強磁性型の制振合金よりなる積層ティース部が磁束の流れを妨げることが抑制される。よって、本発明のステータコアを備えたモータにおいて、モータ特性を低下させることなくティース部の振動を効果的に抑制することができる。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のステータコアにおいて、複数枚の前記コアシートのうち少なくとも1枚の前記コアシートは、前記強磁性型の制振合金よりなり、前記強磁性型の制振合金よりなる前記コアシートは、環状となるように周方向に並設された複数の分割積層固定部よりなり前記固定部を構成する積層固定部と、前記積層固定部に連結され径方向に沿って延びる複数の前記積層ティース部とからなり、各前記分割積層固定部は、その周方向が前記強磁性型の制振合金の圧延方向に沿うように形成されていることをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、環状の固定部を構成する複数の分割積層固定部は、その周方向が強磁性型の制振合金の圧延方向に沿うように形成されている。強磁性型の制振合金は、その磁気特性が圧延方向に優れるため、強磁性型の制振合金よりなる分割積層固定部の周方向が同制振合金の圧延方向に沿うようにすることで、強磁性型の制振合金の磁気特性に優れた方向とモータの駆動時に積層固定部を流れる磁束の方向とが略一致され、モータの駆動時に、強磁性型の制振合金よりなる分割積層固定部が磁束の流れを妨げることが抑制される。よって、本発明のステータコアを備えたモータにおいて、モータ特性を低下させることなくティース部の振動を効果的に抑制することができる。また、固定部は、強磁性型の制振合金よりなる分割積層固定部にて構成されているため、固定部においてもステータコアの振動が抑制される。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載のステータコアにおいて、複数の前記コアシートは、前記固定部を構成する環状の第1積層固定部と該第1積層固定部から径方向内側に向かって延び前記ティース部を構成する第1積層ティース部とを備え前記強磁性型の制振合金よりなる少なくとも1枚の第1コアシートと、前記固定部を構成する環状の第2積層固定部と該第2積層固定部から径方向内側に向かって延び前記ティース部を構成する第2積層ティース部とを備え電磁鋼板にて形成された複数枚の第2コアシートと、であり、前記第2積層固定部は、前記第1積層固定部よりも径方向外側に突出していることをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、第1コアシートと第2コアシートとを積層してなるステータコアにおいては、電磁鋼板よりなる第2積層固定部が、強磁性型の制振合金よりなる第1積層固定部よりも径方向外側に突出している。従って、このステータコアがハウジングケースに固定される際にハウジングケースからステータコアに加わる力は、電磁鋼板よりなる第2積層固定部にて受けることになる。従って、外力が加わって内部に応力が生じると制振性能が低下する特性のある強磁性型の制振合金にて形成された第1積層固定部に、ステータコアをハウジングケースに固定する際の力が加わることが抑制されるため、第1積層固定部における振動抑制効果の低下が抑制される。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載のステータコアにおいて、各前記コアシートは、電磁鋼板よりなり前記固定部を構成する環状の積層固定部と、前記強磁性型の制振合金よりなり前記積層固定部に連結され径方向に沿って延びる複数の前記積層ティース部とからなることをその要旨としている。
【0013】
同構成によれば、ステータコアは、ハウジングケース等のモータの構成部品に対して、電磁鋼板よりなる積層固定部を積層して形成された固定部にて固定されることになる。従って、外力が加わって内部に応力が生じると制振性能が低下する特性のある強磁性型の制振合金よりなる積層ティース部を積層して形成されたティース部に、ステータコアをモータの構成部品に対して固定する際の力が加わることが抑制されるため、積層ティース部における振動抑制効果の低下が抑制される。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のステータコアにおいて、各前記ティース部は、その内側部分が前記制振合金にて形成されるとともに、周方向の両端部及び軸方向の両端部が電磁鋼板にて形成されていることをその要旨としている。
【0015】
同構成によれば、各ティース部は、周方向の両端部及び軸方向の両端部が電磁鋼板にて形成されているため、内部に応力が生じると制振性能が低下する特性のある制振合金よりなる内側部分に直接外力が作用することが抑制される。従って、ティース部における振動抑制効果の低下が抑制される。
【0016】
請求項7に記載の発明は、円筒状の部位を有するハウジングケースと、前記ハウジングケースの内周面に固定された請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のステータコアと、各前記ティース部に巻回された複数のコイルと、前記ステータコアと径方向に対向するように配置され周方向に回転される回転子と、を備えたモータとしたことをその要旨としている。
【0017】
同構成によれば、ステータコアを構成する制振合金によって同ステータコアの振動が抑制されるため、回転子の回転に伴って発生するステータコアの振動がハウジングケースに伝播されることが抑制される。よって、モータの振動が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、制振合金による振動抑制効果を得られるステータコア及びモータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のモータの断面図を示す。図1に示すように、モータを構成する有底円筒状のハウジングケース2の内周面には、円環状の固定子1が固定されるとともに、ハウジングケース2の開口部は、略円板状のエンドフレーム3にて閉塞されている。
【0020】
図2に示すように、固定子1を構成するステータコア11は、円環状の固定部12と、該固定部12から径方向内側に突出した複数(本実施形態では12個)のティース部13(図2参照)とから構成されている。12個のティース部13は、周方向に等角度間隔に形成されるとともに、径方向に沿って延び、その先端面が径方向内側を向いている。また、各ティース部13の先端部には、周方向の両側に突出した突出部13aがそれぞれ形成されている。
【0021】
このようなステータコア11は、制振合金よりなる複数枚のコアシート21を軸方向に積層して形成されている(図1参照)。各コアシート21は、円環状の板状をなし固定部12を構成する積層固定部22と、該積層固定部22に連結されて径方向内側に向かって延びティース部13を構成する12枚の積層ティース部23とから構成されている。尚、各コアシート21を形成する制振合金は、本実施形態では、強磁性型の制振合金であるとともに鉄‐アルミニウム系合金であり、1〜100kHzの広い周波数帯域の振動を抑制可能なものである。
【0022】
前記積層固定部22は、12枚の分割積層固定部24を周方向に並設して円環状に形成されている。各分割積層固定部24は、板厚方向から見た形状が円弧状をなすとともに、その周方向の中央部に、径方向内側に開口した連結凹部24aが形成されている。この連結凹部24aは、板厚方向に貫通するように形成されるとともに、径方向内側の開口部に向かうに連れてその周方向の幅が狭くなるように形成されている。また、各分割積層固定部24の周方向の一方側の端部(図2において反時計方向側の端部)には、周方向に突出した係合凸部24bが形成されるとともに、周方向の他方側の端部(図2において時計方向側の端部)には、周方向に凹設された係合凹部24cが形成されている。係合凸部24bは、先端に向かうに連れて径方向の幅が広くなるように形成されるとともに、係合凹部24cは、係合凸部24bに対応した形状をなすように開口部に向かうに連れて径方向の幅が狭くなるように形成されている。そして、12枚の分割積層固定部24は、全体で円環状をなすように周方向に並設され、周方向に隣り合う分割積層固定部24同士の係合凸部24bと係合凹部24cとが係合(即ち係合凹部24cに対し板厚方向から係合凸部24bが挿入)されることにより、周方向に分離不能に連結されて積層固定部22となる。
【0023】
また、各前記積層ティース部23は、略T字状の板状をなしている。各積層ティース部23の径方向外側の基端部には、前記連結凹部24aに対応した形状の連結部23aが設けられており、該連結部23aは、径方向外側に向かうに連れて周方向の幅が広くなるように形成されている。また、各積層ティース部23の径方向内側の先端部には、周方向の両側に突出し前記突出部13aを構成する積層突出部23bが設けられている。そして、12枚の積層ティース部23は、積層固定部22の12個の連結凹部24aに連結部23aがそれぞれ挿入されることにより積層固定部22に対して連結されるとともに、これによりコアシート21が構成される。積層固定部22に連結された12枚の各積層ティース部23は、周方向に等角度間隔となるとともに、コアシート21の径方向に沿って延び、その先端面が径方向内側を向いている。
【0024】
図3(a)及び図3(b)に示すように、コアシート21を構成する分割積層固定部24及び積層ティース部23は、強磁性型の制振合金よりなる板材31,32をプレス加工により打ち抜いて形成されている。尚、図3(a)及び図3(b)には、板材31,32の圧延方向を太線の矢印にて図示している。分割積層固定部24は、積層固定部22として環状に配置されたときの周方向が、板材31(制振合金)の圧延方向に沿うように板材31に対して板取りされる。より詳しくは、分割積層固定部24は、分割積層固定部24の周方向の中央を通る径方向の直線(図示略)と直交する方向が、圧延方向に一致するように板材31に対して板取りされる。また、積層ティース部23は、コアシート21を構成したときの径方向(即ち積層ティース部23の延びる方向)が、板材32(制振合金)の圧延方向に一致するように板材32に対して板取りされる。
【0025】
図1に示すように、ステータコア11は、上記のように構成されたコアシート21を、板厚方向(ステータコア11の軸方向に同じ)に複数枚積層し、積層したコアシート21を軸方向にかしめて一体化して形成される。即ち、複数枚のコアシート21は、それぞれ積層固定部22が軸方向に重なるように、且つ各コアシート21の12枚の積層ティース部23がそれぞれ軸方向に重なるように積層されてかしめられ、これにより、固定部12及びティース部13が形成される。そして、ステータコア11には、各ティース部13の周方向の両側面及び軸方向の両端面を被覆する絶縁性のインシュレータ41が装着されるとともに、各ティース部13には、インシュレータ41の上からコイル42が巻回されている。更に、ステータコア11は、焼嵌めによりハウジングケース2の内周面に固定されている。
【0026】
また、固定子1の内側には、回転子51が配置されている。回転子51は、その回転軸52が、ハウジングケース2の底部中央及びエンドフレーム3の径方向の中央部にそれぞれ設けられた一対の軸受53a,53bによって軸支されることにより、ハウジングケース2内で回転可能に支持されている。そして、回転軸52には、円筒状のロータヨーク54が固定されるとともに、該ロータヨーク54の外周面には、S極とN極とが周方向に交互となるように複数(例えば8個)の永久磁石55が固着されている。これらの永久磁石55は、ハウジングケース2内でステータコア11と径方向に対向する。
【0027】
上記のように構成されたモータでは、コイル42に電流が供給され固定子1において回転磁界が発生されると、該回転磁界に応じて回転子51が回転する。そして、回転子51の回転に伴ってティース部13が径方向に振動した場合には、ティース部13を構成する制振合金よりなる各積層ティース部23によって、ティース部13における振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて熱として放出される。また、固定部12を構成する各積層固定部22も制振合金よりなるため、ティース部13の径方向の振動が固定部12に伝播された場合には、固定部12においても振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて熱として放出される。
【0028】
上記したように、本第1実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)モータの駆動時に径方向に振動し易いティース部13は、制振合金よりなる積層ティース部23から構成されている。従って、ティース部13の振動時には、積層ティース部23において振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて熱として放出されるため、ティース部13の振動が抑制され、ひいてはステータコア11の振動が抑制される。よって、回転子51の回転に伴って発生するステータコア11の振動がハウジングケース2に伝播されることが抑制され、モータの振動が抑制される。
【0029】
(2)強磁性型の制振合金よりなる積層ティース部23においては径方向が強磁性型の制振合金よりなる板材32の圧延方向に一致している。環状の固定部12を構成する複数の分割積層固定部24は、その周方向が強磁性型の制振合金(即ち板材31)の圧延方向に沿うように形成されている。一般的に、強磁性型の制振合金(即ち板材31,32)は、磁気異方性を有しており、その磁気特性が圧延方向に優れている。そして、強磁性型の制振合金よりなる積層ティース部23において径方向と板材32の圧延方向とが一致するようにすることで、強磁性型の制振合金(板材32)の磁気特性に優れた方向とモータの駆動時に積層ティース部23を流れる磁束の方向とが一致される。また、強磁性型の制振合金よりなる分割積層固定部24の周方向が同制振合金の圧延方向に沿うようにすることで、強磁性型の制振合金(板材31)の磁気特性に優れた方向とモータの駆動時に積層固定部22を流れる磁束の方向とが略一致される。従って、モータの駆動時に、強磁性型の制振合金よりなる積層ティース部23及び分割積層固定部24が磁束の流れを妨げることが抑制される。よって、ステータコア11を備えたモータにおいて、モータ特性を低下させることなくステータコア11の振動を効果的に抑制することができる。
【0030】
(3)固定部12は、強磁性型の制振合金よりなる分割積層固定部24にて構成されているため、固定部12においてもステータコア11の振動が抑制される。
(第2実施形態)
以下、本発明を具体化した第2実施形態を図面に従って説明する。尚、本第2実施形態では、上記第1実施形態と同一の構成には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
図4は、本第2実施形態のステータコア61の部分拡大図を示す。ステータコア61は、上記第1実施形態のステータコア11に代えてモータの固定子1に備えられるものである。図4に示すように、ステータコア61は、上記第1実施形態のステータコア11と同様の形状をなしており、円環状の固定部62と、該固定部62から径方向内側に突出した複数(本実施形態では12個)のティース部63とから構成されている。12個のティース部63は、周方向に等角度間隔に設けられるとともに、径方向に沿って延び、その先端面が径方向内側を向いている。また、各ティース部63の先端部には、周方向の両側に突出した突出部63aがそれぞれ形成されている。そして、このようなステータコア61は、第1コアシート71と第2コアシート81とを軸方向に複数枚積層して形成されている(図5参照)。
【0032】
第1コアシート71は、強磁性型の制振合金であって鉄‐アルミニウム系合金から形成されるとともに、上記第1実施形態のコアシート21と同様の形状をなしている。即ち、第1コアシート71は、上記第1実施形態の積層固定部22と同様の形状をなし固定部62を構成する第1積層固定部72と、上記第1実施形態の積層ティース部23と同一形状をなしティース部63を構成する12枚の第1積層ティース部73とから構成されている。尚、第1コアシート71は、上記第1実施形態のコアシート21よりも外径が一回り小さく形成されており、そのため、第1コアシート71の第1積層固定部72は、上記第1実施形態のコアシート21の積層固定部22よりも径方向の幅が小さく形成されている。また、各第1積層ティース部73の径方向内側の先端部には、周方向の両側に突出し前記突出部63aを構成する第1積層突出部73aが設けられている。そして、上記第1実施形態のコアシート21と同様に、第1コアシート71においては、第1積層固定部72を構成する各分割積層固定部24の周方向が制振合金の圧延方向に沿うとともに、第1積層ティース部73における制振合金の圧延方向が径方向(即ち第1積層ティース部73の延びる方向)に一致している。尚、図4には、制振合金の圧延方向を太線の矢印にて図示している。
【0033】
図6に示すように、前記第2コアシート81は、無方向性の電磁鋼板をプレス加工により打ち抜いて形成されている。第2コアシート81は、円環状の板状をなし固定部62を構成する第2積層固定部82と、該第2積層固定部82から径方向内側に向かって延びティース部63を構成する12個の第2積層ティース部83とが一体に形成されてなる。
【0034】
第2積層固定部82は、その径方向の幅が第1積層固定部72の径方向の幅より大きく形成されるとともに、その内径が第1積層固定部72の内径と等しく且つその外径が第1積層固定部72の外径よりも大きく形成されている。そのため、第2コアシート81の外径は、第1コアシート71の外径よりも一回り大きく(即ち上記第1実施形態のコアシート21と同じ大きさ)に形成されている。
【0035】
前記各第2積層ティース部83は、第2積層固定部82において周方向に等角度間隔となる12箇所から径方向に沿って延び、その先端面が径方向内側を向いている。そして、各第2積層ティース部83は、先端側の部位が第1積層ティース部73の先端側の部位と同一の形状をなすとともに、その径方向の長さが、連結部23aを除く第1積層ティース部73の径方向の長さと等しく形成されている。また、各第2積層ティース部83は、その周方向の幅が第1積層ティース部73の周方向の幅と等しく形成されるとともに、各第2積層ティース部83の径方向内側の先端部には、周方向の両側に突出し前記突出部63aを構成する第2積層突出部83aが設けられている。
【0036】
図5及び図6に示すように、ステータコア61は、上記のように構成された第1コアシート71及び第2コアシート81を1枚ずつ軸方向に交互に積層し、積層された第1コアシート71及び第2コアシート81を軸方向にかしめて一体化して形成される。ステータコア61においては、第1コアシート71及び第2コアシート81は、第1積層固定部72の内周面と第2積層固定部82の内周面との径方向位置が一致するように、且つ各第1及び各第2コアシート71,81における12個ずつの第1及び第2積層ティース部73,83がそれぞれ軸方向に重なるように積層されている。そして、軸方向に交互に積層された第1積層固定部72及び第2積層固定部82によって固定部62が形成されるとともに、軸方向に交互に積層された第1積層ティース部73及び第2積層ティース部83によってティース部63が形成される。尚、ステータコア61においては、第1コアシート71に比べて第2コアシート81の外径が大きく形成されているため、第2積層固定部82の外周部分が第1積層固定部72の外周縁よりも径方向外側に突出した状態となる。
【0037】
そして、ステータコア61には、各ティース部63の周方向の両側面及び軸方向の両端面を被覆する絶縁性のインシュレータ41(図1参照)が装着され、各ティース部63に、インシュレータ41の上からコイル42(図1参照)が巻回される。その後、図4に示すように、ステータコア61は、焼嵌めによりハウジングケース2の内周面に固定される。尚、ステータコア61は、第2積層固定部82の外周部分が第1積層固定部72の外周縁よりも径方向外側に突出しているため、焼嵌めによりハウジングケース2から加わる荷重を電磁鋼板よりなる第2積層固定部82にて受ける。
【0038】
このステータコア61を備えたモータの駆動時にティース部63が径方向に振動した場合には、ティース部63を構成する制振合金よりなる第1積層ティース部73によって、ティース部63における振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて熱として放出される。また、固定部62を構成する第1積層固定部72も制振合金よりなるため、ティース部63の径方向の振動が固定部62に伝播された場合には、第1積層固定部72において振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて熱として放出される。
【0039】
上記したように、本第2実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)乃至(3)と同様の作用効果に加えて、以下の作用効果を有する。
(1)第1コアシート71と第2コアシート81とを積層してなるステータコア61においては、電磁鋼板よりなる第2積層固定部82が、強磁性型の制振合金よりなる第1積層固定部72よりも径方向外側に突出している。従って、このステータコア61がハウジングケース2に固定される際にハウジングケース2からステータコア61に加わる力は、電磁鋼板よりなる第2積層固定部82にて受けることになる。従って、外力が加わって内部に応力が生じると制振性能が低下する特性のある制振合金にて形成された第1積層固定部72に、ステータコア61をハウジングケース2に固定する際の力が加わることが抑制されるため、第1積層固定部72における振動抑制効果の低下が抑制される。
【0040】
(2)第2コアシート81は、無方向性の電磁鋼板よりなるため、モータ駆動時の磁束の流れを考慮して、第2積層固定部82と第2積層ティース部83とを分離して第2積層ティース部83の径方向を電磁鋼板の圧延方向に一致させたり、第2積層固定部82を周方向に分割して電磁鋼板の圧延方向と周方向とを略一致させたりする等の手段を講じなくてもよい。従って、第2コアシートを簡易な形状とすることができるとともに、部品点数の増加を防ぐことができる。
【0041】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・図7に示すように、ティース部13は、その内側部分が制振合金にて形成され、周方向の両端部予備軸方向の両端部が電磁鋼板にて形成されてもよい。図7に示す例では、ティース部13の内側部分は、強磁性型の制振合金よりなる板状の制振ティース部101を軸方向に複数枚積層して形成されるとともに、各制振ティース部101は、上記第1実施形態の積層ティース部23よりも周方向の幅を小さくした形状をなしている。そして、各制振ティース部101の周方向の両側には、電磁鋼板よりなる補助ティース部102が配置されるとともに、積層された制振ティース部101の軸方向の両側には、それぞれ2枚ずつ、電磁鋼板よりなり上記第1実施形態の積層ティース部23と同じ形状をなす積層ティース部103が積層されている。このようにすると、ティース部13は、周方向の両端部及び軸方向の両端部が電磁鋼板にて形成されているため、内部に応力が生じると制振性能が低下する特性のある強磁性型の制振合金よりなる内側部分(即ち制振ティース部101)に直接外力が作用することが抑制される。従って、ティース部13における振動抑制効果の低下が抑制される。
【0042】
・上第1記実施形態では、固定部12は、強磁性型の制振合金よりなる積層固定部22を積層して形成されている。しかしながら、図8に示すステータコア111のように、固定部112を、無方向性の電磁鋼板を打ち抜いて形成した円環状の積層固定部113から構成してもよい。尚、図8では、上記第1実施形態と同一の構成に同一の符号を付している。このようにすると、ステータコア111は、ハウジングケース2対して、無方向性の電磁鋼板よりなる積層固定部113を積層して形成された固定部112にて固定されることになる。従って、外力が加わって内部に応力が生じると制振性能が低下する特性のある強磁性型の制振合金よりなる積層ティース部23を積層して形成されたティース部13に、ステータコア111をハウジングケース2に固定する際の力が加わることが抑制されるため、積層ティース部23における振動抑制効果の低下が抑制される。また、積層固定部113は、無方向性の電磁鋼板よりなるため、モータ駆動時の磁束の流れを考慮して、積層固定部113を周方向に分割して電磁鋼板の圧延方向と周方向とを略一致させる等の手段を講じなくてもよい。そのため、積層固定部113を簡易な形状とすることができるとともに、部品点数の増加を防ぐことができる。尚、積層固定部113は、磁気異方性を有する電磁鋼板から形成してもよい。
【0043】
・上記第2実施形態では、ステータコア61は、第1コアシート71と第2コアシート81とを1枚ずつ軸方向に交互に積層して形成されている。しかしながら、ステータコア61は、第1コアシート71と第2コアシート81とを軸方向に積層して形成されるのであれば、その積層の順序は上記第2実施形態のものに限らない。例えば、図9に示す例では、第1コアシート71と第2コアシート81とは、2枚ずつ軸方向に交互に積層されている。また、図10に示す例では、第1コアシート71間に第2コアシート81が2枚ずつ介在されるように積層されている。このようにしても、上記第2実施形態の(1)と同様の作用効果を得ることができる。
【0044】
・上記第2実施形態では、第2コアシート81は、無方向性の電磁鋼板にて形成されている。しかしながら、第2コアシート81は、磁気異方性を有する電磁鋼板から形成されてもよい。また、第2コアシート81は、第1コアシート71のように、第2積層固定部82と第2積層ティース部83とが別体で形成され、第2積層固定部82に第2積層ティース部83が連結されて一体化されてなるものであってもよい。
【0045】
・上記各実施形態では、コアシート21及び第1コアシート71は、強磁性型の制振合金であって鉄‐アルミニウム系合金から形成されている。しかしながら、制振合金としては、鉄‐アルミニウム系合金以外の合金、また、強磁性型以外(転移型、双晶型)の制振合金を用いてもよい。
【0046】
・上記第1実施形態では、ステータコア11は、強磁性型の制振合金よりなるコアシート21を複数枚積層して形成されている。また、上記第2実施形態では、ステータコア61は、強磁性型の制振合金よりなる第1コアシート71と、電磁鋼板よりなる第2コアシート81とを交互に積層して形成されている。しかしながら、ステータコアは、ティース部の少なくとも一部が制振合金にて形成されていればよい。このようにすれば、径方向に振動し易いティース部において振動エネルギーを熱エネルギーに変換することができ、ティース部の振動を抑制することができる。例えば、図11に示す例では、ステータコア121は、円環状の固定部122と、該固定部122から径方向内側に向かって延びる12個のティース部123とが一体に形成されてなる。そして、ステータコア121は、制振合金を打ち抜いて形成されたコアシート131を複数枚積層して形成されるとともに、各コアシート131は、固定部122を構成する環状の積層固定部132と、該積層固定部132から径方向に沿って延びる12個の積層ティース部133とが一体に形成されてなる。また、積層ティース部133においては、制振合金の圧延方向(太矢印参照)が径方向に一致されている。このステータコア121には、固定部122の外周面に、径方向内側に向かって凹設された複数の抑制凹部122aが設けられている。抑制凹部122aは、固定部122においてティース部123の径方向外側となる12箇所に形成されており、その周方向位置がティース部123の周方向位置と一致している。この抑制凹部122aは、ティース部123の径方向の振動がハウジングケース2に伝播されることを抑制する。因みに、上記各実施形態のステータコア11,61にこの抑制凹部122aを設けることにより、ステータコア11,61からハウジングケース2への振動の伝播をより抑制することができる。
【0047】
また、ステータコアは、ティース部の少なくとも一部が制振合金にて形成されるのであれば、板状のコアシートを板厚方向に複数枚積層して形成される以外に、焼結等により形成されたものであってもよい。
【0048】
・上第1実施形態では、積層固定部22に積層ティース部23が連結された状態のコアシート21を複数枚積層してステータコア11を形成している。しかしながら、先に積層固定部22を積層して固定部12を形成するとともに、積層ティース部23を積層してティース部13を形成しておき、形成した固定部12にティース部13を連結してステータコア11を形成してもよい。
【0049】
・上記各実施形態では、ステータコア11,61は、焼嵌めによってハウジングケース2の内周面に固定されている。しかしながら、ステータコア11,61は、焼嵌めに限らず、圧入等によりハウジングケース2の内周面に固定されてもよい。
【0050】
・上記各実施形態では、ステータコア11,61は、ティース部13,63を12本備えている。しかしながら、ステータコア11,61に備えられるティース部13,63の数は、12本に限らず、適宜変更してもよい。
【0051】
・上記各実施形態では、固定子1の内側に回転子51が配置されたインナロータ型のモータを例に本発明を説明した。しかしながら、回転子の内側に固定子が配置されるアウタロータ型のモータにおいて、上記各実施形態のように、固定子に備えられるステータコアのティース部の少なくとも一部が制振合金にて形成されるようにしてもよい。
【0052】
上記各実施形態、及び上記各変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】モータの断面図。
【図2】第1実施形態のステータコアの部分拡大図。
【図3】(a)及び(b)は第1実施形態におけるコアシートの板取りを説明するための説明図。
【図4】第2実施形態のステータコアの部分拡大図。
【図5】ハウジングケースに固定された第2実施形態のステータコアの断面図(図4におけるA−A断面図)。
【図6】第2実施形態のステータコアの分解斜視図。
【図7】別の形態のティース部の斜視図。
【図8】別の形態のステータコアの部分拡大図。
【図9】別の形態のステータコアの断面図。
【図10】別の形態のステータコアの断面図。
【図11】別の形態のステータコアの部分拡大図。
【符号の説明】
【0054】
2…ハウジングケース、11,61,111,121…ステータコア、12,62,112,122…固定部、13,63,123…ティース部、21,131…コアシート、22,113,132…積層固定部、23,133…積層ティース部、24…分割積層固定部、42…コイル、51…回転子、71…コアシートとしての第1コアシート、72…第1積層固定部、73…第1積層ティース部、81…コアシートとしての第2コアシート、82…第2積層固定部、83…第2積層ティース部、101…積層ティース部を構成する制振ティース部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の固定部と、該固定部から径方向に沿って延びる複数のティース部とを備えたステータコアであって、
少なくとも各前記ティース部の一部が制振合金よりなることを特徴とするステータコア。
【請求項2】
請求項1に記載のステータコアにおいて、
板状のコアシートを複数枚積層してなり、
複数枚の前記コアシートのうち少なくとも1枚の前記コアシートは、前記コアシートにおける前記ティース部を構成する積層ティース部が強磁性型の制振合金よりなり、前記強磁性型の制振合金よりなる前記積層ティース部においては径方向が前記制振合金の圧延方向に一致していることを特徴とするステータコア。
【請求項3】
請求項2に記載のステータコアにおいて、
複数枚の前記コアシートのうち少なくとも1枚の前記コアシートは、前記強磁性型の制振合金よりなり、
前記強磁性型の制振合金よりなる前記コアシートは、環状となるように周方向に並設された複数の分割積層固定部よりなり前記固定部を構成する積層固定部と、前記積層固定部に連結され径方向に沿って延びる複数の前記積層ティース部とからなり、
各前記分割積層固定部は、その周方向が前記強磁性型の制振合金の圧延方向に沿うように形成されていることを特徴とするステータコア。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のステータコアにおいて、
複数の前記コアシートは、前記固定部を構成する環状の第1積層固定部と該第1積層固定部から径方向内側に向かって延び前記ティース部を構成する第1積層ティース部とを備え前記強磁性型の制振合金よりなる少なくとも1枚の第1コアシートと、前記固定部を構成する環状の第2積層固定部と該第2積層固定部から径方向内側に向かって延び前記ティース部を構成する第2積層ティース部とを備え電磁鋼板にて形成された複数枚の第2コアシートと、であり、
前記第2積層固定部は、前記第1積層固定部よりも径方向外側に突出していることを特徴とするステータコア。
【請求項5】
請求項2に記載のステータコアにおいて、
各前記コアシートは、電磁鋼板よりなり前記固定部を構成する環状の積層固定部と、前記強磁性型の制振合金よりなり前記積層固定部に連結され径方向に沿って延びる複数の前記積層ティース部とからなることを特徴とするステータコア。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のステータコアにおいて、
各前記ティース部は、その内側部分が前記制振合金にて形成されるとともに、周方向の両端部及び軸方向の両端部が電磁鋼板にて形成されていることを特徴とするステータコア。
【請求項7】
円筒状の部位を有するハウジングケースと、
前記ハウジングケースの内周面に固定された請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のステータコアと、
各前記ティース部に巻回された複数のコイルと、
前記ステータコアと径方向に対向するように配置され周方向に回転される回転子と、
を備えたことを特徴とするモータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−75027(P2010−75027A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243221(P2008−243221)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】