説明

ストラットマウント

【課題】防振基体がケース部材から脱落することを防止すると共に、ピストンロッドの締結固定時に内側部材がケース部材内で空転することを防止できるストラットマウントを提供すること。
【解決手段】ケース部材30の筒壁部31へ防振基体20を内嵌させ、筒壁部31の貫通孔35に防振基体20の突部23を係合させる。これにより、ストラットマウント単体を車体へ組み付けるまでの搬送中などに、防振基体20がケース部材30の筒壁部31から脱落することを防止できる。また、ピストンロッドを内側部材10に締結固定する際には、筒壁部31の貫通孔35と防振基体20の突部23との係合により、防振部材20がケース部材30の筒壁部31内で空転することを防止できる。その結果、その締結作業の作業性の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストラットマウントに関し、特に、防振基体がケース部材から脱落することを防止すると共に、ピストンロッドの締結固定時に内側部材がケース部材内で空転することを防止できるストラットマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の懸架装置では、車体とショックアブソーバのピストンロッドとの間にストラットマウントを介設することで、車輪側から車体側への振動の伝達を抑制している。このストラットマウントは、例えば、特許文献1に開示されるように、ショックアブソーバ5のピストンロッド4の上端部が締結固定されるインナーリング2(内側部材)と、そのインナーリング2を囲むアウターリング6との間を、弾性体8(防振基体)により連結し、車両ボディ3(車体)に取り付けられるフランジ部材19(ケース部材)の円筒形状の部分Aにアウターリング6を圧入して構成される。
【0003】
なお、このように、インナーリング2とアウターリング6との間を弾性体8で連結する構成では、弾性体8の加硫成形後、アウターリング6に絞り加工を施して縮径させることが行われる。これにより、弾性体8の熱収縮により発生する内部応力を低減して、耐久性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−82530号公報(図1、段落0014,0018など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述した従来のストラットマウントのように、インナーリング2(内側部材)とアウターリング6との間を弾性体8で連結すると共に、アウターリング6をフランジ部材19(ケース部材)に圧入する構成では、アウターリング6の絞り加工が必要となるだけでなく、その絞り加工後の寸法検査も必須となるため、その分、工数が嵩み、製品コストが増加する。
【0006】
そのため、アウターリング6を使用せずにストラットマウントを構成できることが望ましいが、単にアウターリング6を省略するだけでは、次の問題点がある。即ち、上述した従来のストラットマウントのように、フランジ部材19(ケース部材)の一側が開放されており、その一側を、車両ボディ3(車体)側の部材により閉封する構造の場合には、ストラットマウントを車体へ組み付けるまでの搬送工程などにおいて、弾性体8がフランジ部材19内から脱落しないようにする必要がある。
【0007】
しかしながら、この場合、弾性体8をフランジ部材19へ圧入したとしても、弾性体8の弾性力のみでは十分な圧入強度を確保できないため、その脱落を確実に防止することが困難であるという問題点がある。また、同様に、十分な圧入強度が確保できないことから、ピストンロッド4の上端部をインナーリング2(内側部材)に締結固定する際には、その締結トルクにより、インナーリング2が弾性体8と共にフランジ部材19内で空転してしまい、締結作業が阻害されるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、防振基体がケース部材から脱落することを防止すると共に、ピストンロッドの締結固定時に内側部材がケース部材内で空転することを防止できるストラットマウントを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0009】
請求項1記載のストラットマウントによれば、防振基体には、内周側に内側部材が加硫接着されると共に、突部が周方向に分散配置されつつ外周面から軸直角方向外方へ突出され、ケース部材の筒壁部には、その筒壁部を貫通形成して形成され複数の貫通孔が、防振基体の各突部に対応する位置にそれぞれ配置されるので、ケース部材の筒壁部へ防振基体を内嵌させることで、防振基体の突部を筒壁部の貫通孔に係合させることができる。
【0010】
これにより、ケース部材の筒壁部に内嵌された防振基体が軸方向一側(締結壁部側の開口側)へ変位することを、防振基体の突部と筒壁部の貫通孔との係合により規制することができる。その結果、防振基体がケース部材(筒壁部)から脱落することを防止することができるという効果がある。同様に、ケース部材の筒壁部に内嵌された防振基体が周方向へ変位(回転)することを、防振基体の突部と筒壁部の貫通孔との係合により規制することができる。その結果、ピストンロッドを内側部材に締結固定する際に、内側部材がケース部材(筒壁部)内で空転することを防止できるという効果がある。よって、締結作業の作業性の向上を図ることができる。
【0011】
このように、請求項1では、従来品において必要とされたアウターリング(以下「外筒金具」と称す)を省略できる。よって、請求項1によれば、外筒金具に絞り加工を施す必要がなく、その結果、絞り加工後の寸法検査も不要となるので、その分、製造工数を低減して、製品コストの削減を図ることができるという効果がある。また、外筒金具を省略できることで、部品点数の削減に伴う部品コストの低減だけでなく、製品の軽量化も図ることができるという効果がある。
【0012】
また、このように、外筒金具を省略できれば、ケース部材の筒壁部内における限られたスペースにおいて、内側部材および防振基体のためのスペースを確保することができる。よって、内側部材および防振基体の形状の自由度が大きくなるので、設計性を高めて、静的および動的な特性や耐久性の向上を図ることができるという効果がある。
【0013】
また、請求項1によれば、筒壁部に貫通孔が貫通形成されるので、その分、ケース部材の軽量化を図ることができるという効果がある。更に、例えば、平板状の素材を所定の外形形状に打ち抜いて、その打ち抜いた素材にプレス加工を施してケース部材を形成する場合には、平板状の素材を打ち抜く工程において、貫通孔も同時に打ち抜いて形成することができる。即ち、貫通孔を形成するための別工程を設ける必要がなく、外形を形成する工程と兼用することができるので、ケース部材の製造コストの低減を図ることができるという効果がある。
【0014】
請求項2記載のストラットマウントによれば、請求項1記載のストラットマウントの奏する効果に加え、防振基体の突部は、ケース部材の下側壁部に当接される下面側から車体側の部材に当接される上面側へ向かうに従って防振基体の軸直角方向外方への突出量が増加する形状に形成されるので、防振基体を筒壁部へ挿入して内嵌させる際には、防振基体の突部を変形させやすくして、挿入作業性の向上を図ることができると共に、防振基体が筒壁部に内嵌された後は、防振基体の突部を返しとして機能させやすくして、防振基体が筒壁部から抜け出ることを確実に防止できるという効果がある。
【0015】
請求項3記載のストラットマウントによれば、請求項1記載のストラットマウントの奏する効果に加え、防振基体の突部は、防振基体の外周面から突出されると共に筒壁部の貫通孔の開口面積よりも小さな断面積の軸部と、その軸部の突出方向先端から張り出すと共に筒壁部の貫通孔の開口面積よりも大きな断面積の張出部とを備えるので、防振基体の突部が筒壁部の貫通孔に挿通された後は、張出部が貫通孔の周縁に係止されることで、防振基体の突部が筒壁部の貫通孔から抜け出ることを防止できる。その結果、防振基体が筒壁部から脱落することを確実に防止できるという効果がある。
【0016】
また、このように、張出部の断面積が貫通孔の開口面積よりも大きくされることで、貫通孔の隙間(軸部の外周面と貫通孔の内周面との間)を張出部により塞ぐことができるので、外部から筒壁部の内部へ異物が侵入することを防止できるという効果がある。
【0017】
請求項4記載のストラットマウントによれば、請求項3記載のストラットマウントの奏する効果に加え、防振基体の突部は、ケース部材の下側壁部に当接される防振基体の下面側へ向けて軸部が下降傾斜して突出されるので、軸部の突出方向先端に張出部が張り出している構成であっても、防振基体を筒壁部へ挿入して内嵌させる際に、防振基体の突部(張出部)を筒壁部の貫通孔内へ案内しやすくすることができると共に、その貫通孔内に案内された突部(張出部)を防振基体の筒壁部への挿入動作に伴って筒壁部の外周面側へ突き抜けやすくすることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施の形態におけるストラットマウントの断面図である。
【図2】(a)は、防振基体の上面図であり、(b)は、図2(a)のIIb−IIb線における防振基体の断面図である。
【図3】(a)は、図2(b)の矢印IIIa方向視における防振基体の側面図であり、(b)は、防振基体の部分拡大断面図である。
【図4】(a)は、ケース部材の上面図であり、(b)は、図4(a)のIVb−IVb線におけるケース部材の断面図である。
【図5】図4(b)の矢印V方向視におけるケース部材の側面図である。
【図6】(a)は、ストラットマウントの分解断面図であり、(b)は、ストラットマウントの組立断面図である。
【図7】(a)は、第2実施の形態における防振基体の上面図であり、(b)は、図7(a)のVIIb−VIIb線における防振基体の断面図である。
【図8】(a)は、第2実施の形態におけるストラットマウントの分解断面図であり、(b)は、ストラットマウントの組立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照してストラットマウント1の全体構成について説明する。図1は、本発明の第1実施の形態におけるストラットマウント1の断面図であって、車体への装着状態を示す図である。なお、図1では、ピストンロッドR及びナットNの断面視が省略されると共に、ケース部材30と車体パネルBPとを締結固定するボルトの図示が省略される。
【0020】
図1に示すように、ストラットマウント1は、ショックアブソーバのピストンロッドRの先端を車体側に支持する防振装置であり、ピストンロッドRの先端が締結固定される内側部材10と、その内側部材10が内周側に加硫接着される防振基体20と、その防振基体20が内嵌されると共に車体パネルBPに締結固定されるケース部材30とを主に備えて構成される。
【0021】
内側部材10は、鉄鋼材料やアルミニウム合金などから上面視円形の円盤状に形成され、その中心部には、ショックアブソーバのピストンロッドRの先端を挿通させるための挿通孔10aが穿設される。この挿通孔10aにピストンロッドRの先端が挿通され、ナットNが締結されることで、内側部材10にショックアブソーバが取り付けられる。
【0022】
防振基体20は、ゴム状弾性体から円環状(ドーナツ状)に形成され、その内周側には、内側部材10が外縁部を埋め込んだ状態で加硫接着される。なお、防振基体20の外周面には、複数の突部23が突設され、ケース部材30の筒壁部31に貫通形成された貫通孔35にそれぞれ係合可能とされる。
【0023】
ケース部材30は、鉄鋼材料からプレス加工により容器状に形成され、防振基体20を収容するための収容部となる筒壁部31及び下側壁部32と、車体パネルBPへの取り付け部となる締結壁部33とを備える。筒壁部31には、その筒壁部31の内側と外側とを連通させる複数の貫通孔35が板厚方向に貫通形成され、防振基体20の突部23がそれぞれ係合可能とされる。
【0024】
また、締結壁部33には、内周面にめねじが螺刻された被締結穴33aが形成される。なお、締結壁部33の一部には、下面側(図1下側)へ向けて膨出する部分が形成されており、この膨出部分に被締結穴33aが形成される。これにより、被締結穴33aの締結可能長さが確保される。
【0025】
被締結穴33aには、車体パネルBPの挿通孔hに挿通されたボルトが締結される。これにより、締結壁部33が車体パネルBPに接合固定され、ケース部材30が車体に取り付けられる。なお、ケース部材30が車体パネルBPに取り付けられると、それらケース部材30と車体パネルBPとの間で防振基体20が軸方向(図1上下方向)に挟圧(圧縮)される。
【0026】
車体パネルBPには、ショックアブソーバのピストンロッドRの先端に対応する位置に、開口部mが開口形成されており、この開口部によって、ナットNをピストンロッドRの先端に締結するための作業空間が確保される。
【0027】
次いで、図2及び図3を参照して、防振基体20の詳細構成について説明する。図2(a)は、防振基体20の上面図であり、図2(b)は、図2(a)のIIb−IIb線における防振基体20の断面図である。また、図3(a)は、図2(b)の矢印IIIa方向視における防振基体20の側面図であり、図3(b)は、防振基体20の部分拡大断面図である。なお、図3(b)は、図2(b)の一部(突部23近傍)を部分的に拡大した断面図に対応する。
【0028】
図2及び図3に示すように、防振基体20は、ピストンロッドRが挿通可能な円環状に形成され、その軸方向(図2(b)上下方向)略中央となる位置に内側部材10が加硫接着される。なお、内側部材10と防振基体20は同心に配置される。防振基体20の上面および下面(図2(b)上側面および下側面)は、軸に対して垂直な平面として形成されると共に、これら各面には、複数(本実施の形態では片面6個)の窪み部21,22がそれぞれ凹設される。各窪み部21,22は、同形状であり、周方向等間隔に配設される。
【0029】
防振基体20の外周面(図3(a)紙面手前側面)には、複数(本実施の形態では3個)の突部23が周方向等間隔となる位置であって同じ高さ位置(図3(a)上下方向位置)にそれぞれ突設される。突部23は、防振基体20をケース部材30の筒壁部31に内嵌させた際に、貫通孔35に挿入されて係合する部位であり(図6参照)、正面視略矩形状(図3(a)参照)に形成されると共に、防振基体20の軸を含む断面視において略三角形状(図3(b)参照)に形成される。
【0030】
即ち、突部23は、防振基体20の外周面から平行(防振基体20の軸に垂直)に延設される上面23aと、その上面23aの延設方向先端から下降傾斜しつつ延設され防振基体20の外周面に接続される傾斜面23bと、それら上面23a及び傾斜面23bを接続する一対の側面23cとから楔状の突出部位として形成される。なお、一対の側面23cの対向間隔(図3(a)左右方向寸法)は、ケース部材30の筒壁部31に形成される貫通孔35の幅(図5左右方向寸法)よりも小さくされている。
【0031】
上面23aは、内側部材10の下面(図2(b)下側面)よりも防振基体20の軸方向下方(図2(b)下側)に位置すると共に、防振基体20をケース部材30の筒壁部31に内嵌させた状態(図6(b)の状態)では、貫通孔35の上側(図6(b)上側)の内周面が密着する位置に形成される(図6(b)参照)。
【0032】
これにより、防振基体20をケース部材30の筒壁部31に内嵌させる際には、上面23aが内側部材10よりも下方に位置することで、防振基体20の変形性を確保して(即ち、内側部材10により防振基体20の突部23近傍の変形が阻害されることを抑制して)、貫通孔35内へ突部23を挿入させやすくしつつ、内嵌させた後は、貫通孔35の上側の内周面に上面23aを密着させることで、防振基体20がケース部材30の筒壁部31から脱落することをより確実に抑制できる。
【0033】
径斜面23bは、防振基体20の軸に対する傾斜角が、後述する領域Sc側(図3(b)下側)ではその領域Scと略同一の傾斜角に形成されつつ、上面23a側では領域Scにおける傾斜角よりも緩やかな(小さな)傾斜角に形成されている。これによっても、貫通孔35内へ突部23を挿入させやすくしつつ、防振基体20をケース部材30の筒壁部31内に内嵌させた後は、貫通孔35の上側の内周面に密着した上面23aを突部23全体で支持することができ、その結果、防振基体20がケース部材30の筒壁部31から脱落することをより確実に抑制できる。
【0034】
防振基体20の外周面は、突部23を含む領域Saが防振基体20の軸と平行に形成される一方、その領域Saよりも防振基体20の上面側および下面側における領域Sb,Scが軸に対して縮径方向へ傾斜して形成される。この場合、突部23は、領域Saの下端において領域Scに接して形成される。
【0035】
なお、防振基体20は、領域Saにおける外径が、ケース部材30の筒壁部31における内径と略同一の寸法に設定される。また、ケース部材30の筒壁部31へ内嵌される前の状態における防振基体20の高さ寸法(図3(a)上下方向寸法)は、車体パネルBPにケース部材30の締結壁部33を締結固定した状態におけるケース部材30の下側壁部32の上面と車体パネルBPの下面との間の対向面間隔(図1上下方向寸法)よりも大きな寸法に設定される。よって、ストラットマウント1の車体への装着状態では、防振基体20は、車体パネルBPとケース部材30の下側壁部32との間で軸方向に挟圧(圧縮)されると共に、ケース部材30の筒壁部31によって縮径方向へ挟圧(圧縮)される(図1参照)。
【0036】
次いで、図4及び図5を参照して、ケース部材30について説明する。図4(a)は、ケース部材30の上面図であり、図4(b)は、図4(a)のIVb−IVb線におけるケース部材30の断面図である。また、図5は、図4(b)の矢印V方向視におけるケース部材30の側面図である。
【0037】
図4及び図5に示すように、ケース部材30は、防振基体20が内嵌(図6参照)される筒状の筒壁部31と、その筒壁部31の軸方向(図4(b)上下方向)下端から軸直角方向内方へ向けて延設される下側壁部32と、その下側壁部32と筒壁部31を挟んで反対側となる筒壁部31の軸方向上端から軸直角方向外方へ向けて延設され車体パネルBPに締結固定される締結壁部33とを備え、全体として深皿容器状に形成される。
【0038】
筒壁部31には、複数(本実施の形態では3個)の貫通孔35が周方向等間隔となる位置であって同じ高さ位置にそれぞれ貫通形成される。貫通孔35は、筒壁部31に防振基体20を内嵌させた際に、防振基体20の突部23を受け入れるための部位であり(図6参照)、正面視横長の略矩形状(図5参照)に形成される。なお、貫通孔35の矩形形状は、長辺が締結壁部33と平行に配置されると共に、短辺が筒壁部31の軸と平行に配置される。
【0039】
ここで、貫通孔35の上側(図5上側)の内周面と下側壁部32との間の軸方向(図5上下方向)における間隔は、防振基体20の突部23における上面23aと防振基体20の下面との間の軸方向(図3(b)上下方向)における間隔(図2及び図3参照)よりも小さくされる。
【0040】
よって、上述したように、防振基体20をケース部材30の筒壁部31に内嵌させた状態(図6(b)の状態)では、防振基体20における突部23の上面23aよりも下方の部分を、貫通孔35の上側の内周面と下側壁部32の上面との間で軸方向に挟圧(圧縮)させ、貫通孔35の上側の内周面に突部23の上面23aを密着させることができる。その結果、防振基体20の突部23との係合を確実として、防振基体20が筒壁部31から脱落することをより確実に防止できる。
【0041】
下面壁部32の中心部には、正面視円形の挿通孔32aが筒壁部31と同心に穿設され、ショックアブソーバのピストンロッドRが挿通可能とされる。なお、挿通孔32aの内径は、防振基体20(及び内側部材10)の外径よりも小さくされる。また、下面壁部32の上面は、筒壁部31の軸と略直交する平面として形成され、防振基体20の下面を支持する。
【0042】
締結壁部33は、上面視略三角形状に形成され、その三角形の重心が筒壁部31の軸に一致する位置に配設されると共に、筒壁部31の外周面から径方向外方へ向けて離間するに従って下降傾斜する傘状に形成される。また、締結壁部33は、その三角形の各頂部に対応する位置に、被締結穴33aがそれぞれ形成される。即ち、被締結穴33aは、筒壁部31の軸を中心として周方向120度間隔で配置される。
【0043】
このように、ケース部材30には、筒壁部31に貫通孔35が貫通形成されるので、ケース部材30を軽量化して、その分、ストラットマウント1全体としての軽量化を図ることができる。また、ケース部材30は、平板状の素材を所定の外形形状に打ち抜いて、その打ち抜いた素材にプレス加工を施すことで形成されるところ、平板状の素材を打ち抜く工程において、貫通孔35も同時に打ち抜いて形成することができる。即ち、貫通孔35を形成するための別工程を設ける必要がなく、外形を形成する工程と兼用することができるので、ケース部材30の製造コストの低減を図ることができる。
【0044】
ここで、筒壁部31に形成される貫通孔35は、筒壁部31の軸を中心として周方向120度間隔で配置されると共に、被締結穴33aに対して、周方向に60度だけ位相をずらした位置に配置される。そのため、上述のようにケース部材30をプレス加工により形成する場合に、貫通孔35の歩留まりや寸法精度を高めることができる。
【0045】
また、本実施の形態では、車体パネルBPの形状に合わせて締結壁部33を傘状(下降傾斜した形状)に形成する必要があり、更に、被締結穴33aの締結長さを確保するために締結壁部33の下面側に膨出部分を形成する必要がある。そのため、ケース部材30の筒壁部31に防振基体20を内嵌させた後、突部23が貫通孔35に適正に係合されているかを作業者の目視やカメラを用いた画像処理により確認する際に、その確認が締結壁部33の膨出部分に阻害される。これに対し、本実施の形態では、上述のように位相をずらすことで、締結壁部33の膨出部分に阻害されずに、突部23及び貫通孔35の係合状態の確認を行うことができる。
【0046】
次いで、図6を参照して、ストラットマウント1の組立方法および車体への装着方法を説明する。図6(a)は、ストラットマウント1の分解断面図であり、図6(b)は、ストラットマウント1の組立断面図である。
【0047】
図6(a)に示すように、ストラットマウント1の組み立てに際しては、まず、ケース部材30に対する防振基体20の位相(即ち、筒壁部31の貫通孔35の周方向位置と防振基体20の突部23の周方向位置と)を一致させ、防振基体20をケース部材30の締結壁部33側の開口から軸方向(図6(a)上下方向)に沿って奥側(下面壁部32側)へ挿入することで、図6(b)に示すように、防振基体20をケース部材30の筒壁部31に内嵌させる。これにより、防振基体20の突部23が筒壁部31の貫通孔35に係合され、ストラットマウント1の組み立てが完了する。
【0048】
図6(b)に示すように、ストラットマウント1を組み立てた後は、かかるストラットマウント1を、組立工程から車体への装着工程(例えば、ストラットマウント1を製造する部品メーカから車両を製造する車両メーカ)へ搬送する。
【0049】
この搬送においては、上述したように、防振基体20の突部23が筒壁部31の貫通孔35に係合されているので、かかる係合により、防振基体20が筒壁部31から軸方向一側(締結壁部33側の開口側)へ変位することを規制することができる。その結果、ストラットマウント1の搬送中に防振基体20がケース部材30の筒壁部31から脱落することを防止できる。
【0050】
また、突部23は防振基体20と一体にゴム状弾性体により形成されるので、防振基体20を筒壁部31へ挿入して内嵌させる際には、ゴム状弾性体からなる突部23の変形性を利用して、その挿入作業性の向上を図ることができると共に、防振基体20が筒壁部31に内嵌された後は、突部23及びその近傍を変形(圧縮)させると共にその弾性回復力を利用することで、突部23の上面23aを貫通孔35の内周面に密着させ、防振基体20が筒壁部31から脱落することを確実に防止できる。
【0051】
装着工程では、まず、ケース部材30の締結壁部33を車体パネルBPに接合し、車体パネルBPの挿通孔hから挿通したボルトを締結壁部33の被締結穴33aに締結固定する。次いで、下側壁部32の挿通孔32aを介してショックアブソーバのピストンロッドRの先端を内側部材10の挿通孔10aに相通し、ナットNにて締結固定する。これにより、ストラットマウント1の車体への装着が完了する(図1参照)。
【0052】
この場合、防振基体20の突部23と筒壁部31の貫通孔35との係合により、ケース部材30の筒壁部31に内嵌された防振基体20が周方向へ変位(回転)することを規制することができる。よって、ピストンロッドRを内側部材10に締結固定する際に、内側部材10がケース部材30の筒壁部31内で空転することを防止できる。その結果、ナットNを締結する際の作業性の向上を図ることができる。
【0053】
以上、説明したように、ストラットマウント1は、従来品において必要とされたアウターリング(外筒金具)を省略することができる(図1参照)。よって、その外筒金具に絞り加工を施す必要がなく、その結果、絞り加工後の寸法検査も不要となるので、その分、製造工数を低減して、製品コストの削減を図ることができる。また、外筒金具を省略できることで、部品点数の削減に伴う部品コストの低減だけでなく、製品の軽量化も図ることができる。
【0054】
また、このように、外筒金具を省略できれば、ケース部材30の筒壁部31内における限られたスペースにおいて、内側部材10及び防振基体20のためのスペースを確保することができる。よって、内側部材10及び防振基体20の形状の自由度が大きくなるので、その分、これらの設計性を高めて、静的および動的な特性や耐久性の向上を図ることができる。
【0055】
次いで、図7を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、突出方向先端側ほど断面積が小さくなる形状に突部23を形成する場合を例に説明したが、第2実施の形態における突部223は、張出部223bを備え、突出方向先端側の断面積が大きくされる。なお、上述した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0056】
図7(a)は、第2実施の形態における防振基体220の上面図であり、図7(b)は、図7(a)のVIIb−VIIb線における防振基体220の断面図である。
【0057】
図7に示すように、第2実施の形態における防振基体220は、第1実施の形態における防振基体20に対し、突部223の形状が異なる点を除き、他の構成は同一である。即ち、突部223は、防振基体20の外周面(領域Sa)から防振基体20の下面側(領域Sc側)に下降傾斜しつつ径方向外方へ向けて突出される軸部223aと、その軸部223aの突出先端に位置し軸部223aの外周面から外方へ向けてフランジ状に張り出す張出部223bとを備える。
【0058】
軸部223aは、断面円形の棒状体として形成され、その外径は、後述するケース部材230の筒壁部231における貫通孔235の内径よりも小さくされる。また、図7(b)に示す縦断面(防振基体20の軸を含む断面)において、突部223は、軸部223aの軸(突出方向)の延長上に、内側部材10が位置するように形成される。
【0059】
張出部223bは、軸部223aと同心に形成されると共に、軸部223aから離間するに従って外径が漸次小さくなる断面台形のフランジ状体に形成される。張出部223bの外径は、軸部223a側で最大の外径となり、貫通孔235の内径よりも大きくされる一方、軸部223aから最も離間した突出方向先端側で最小の外径となり、貫通孔235の内径よりも小さくされる。なお、本実施の形態では、張出部223bの突出方向先端側における最小の外径が、軸部223aの外径よりも小さくされる。
【0060】
なお、突部223の外周面から張出部223bまでの長さ(即ち、軸部223aの軸方向(突出方向)に沿う長さ)は、その最大長さ(図7(b)に示す縦断面における軸部223aの上側における長さ)が筒壁部231の板厚よりも大きく、かつ、その最小長さ(図7(b)に示す縦断面における軸部223aの下側における長さ)が筒壁部231の板厚よりも小さいことが好ましい。突部223の貫通孔235への挿入性を確保しつつ、張出部223bにより貫通孔235内へ異物が侵入することを防止するためである。
【0061】
次いで、図8を参照して、ストラットマウント201の組立方法および車体への装着方法を説明する。図8(a)は、第2実施の形態におけるストラットマウント201の分解断面図であり、図8(b)は、ストラットマウント201の組立断面図である。
【0062】
ストラットマウント201の組み立ては、第1実施の形態の場合と同様に、ケース部材230に対する防振基体220の位相(即ち、筒壁部231の貫通孔235の周方向位置と防振基体220の突部223の周方向位置と)を一致させ、防振基体220をケース部材230の締結壁部33側の開口から軸方向(図8(a)上下方向)に沿って奥側(下面壁部32側)へ挿入することで、図8(b)に示すように、防振基体220をケース部材230の筒壁部231に内嵌させる。これにより、防振基体220の突部223が筒壁部231の貫通孔235に係合される。
【0063】
なお、ケース部材230は、その筒壁部231における貫通孔235が、正面視円形の貫通孔として形成される点を除き(即ち、貫通孔235の正面視形状を除き)、他の構成は第1実施の形態におけるケース部材30と同一であるので、その説明は省略する。
【0064】
このように、第2実施の形態におけるストラットマウント201においても、突部223と貫通孔235との係合により、第1実施の形態の場合と同様に、その搬送中に防振基体220がケース部材230の筒壁部231から脱落することを防止できると共に、ナットNを締結する際の作業性の向上を図ることができる。
【0065】
この場合、防振基体220の突部223は、筒壁部231の貫通孔235の内径(開口面積)よりも小さな外径(断面積)の軸部223aと、その軸部223aの先端に位置し筒壁部231の貫通孔235の内径よりも大きな外径の張出部223bとを備えるので、かかる突部223が貫通孔235に挿通されると、張出部223bを、筒壁部231の外周面における貫通孔235の周縁に係止させることができる。これにより、突部223が筒壁部231の貫通孔235から抜け出ることを防止して、防振基体220が筒壁部231から脱落することをより確実に防止できる。
【0066】
また、このように、張出部223bの外径(断面積)が貫通孔235の内径(開口面積)よりも大きくされることで、貫通孔235の隙間(軸部223aの外周面と貫通孔235の内周面との間)を張出部223bにより塞ぐことができるので、外部から筒壁部231の内部へ異物が侵入することを防止できる。
【0067】
更に、防振基体220は、突部223が下降傾斜した状態で形成されるので、軸部223aの突出方向先端に張出部223bが張り出している構成であっても、防振基体220を筒壁部231へ挿入して内嵌させる際には、防振基体220の突部223(特に、張出部223b)を貫通孔235内へ案内しやすくすることができると共に、その貫通孔235内に案内された突部223(張出部233b)を防振基体220の筒壁部231への挿入動作に伴って筒壁部231の外周面側へ突き抜けやすくすることができる。
【0068】
特に、本実施の形態では、張出部223bの突出方向先端側における最小の外径が、貫通孔235の内径よりも小さくされるので、かかる張出部223bを貫通孔235内へ確実に案内させることができる。更に、突部223は、軸部223aの軸(突出方向)の延長上に、内側部材10が位置するように形成されるので、かかる内側部材10の剛性を利用して、突部223(張出部223b)を筒壁部231の外周面側へ確実に抜け出させることができる。
【0069】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0070】
上記各実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。例えば、上記第1実施の形態では、突部23及び貫通孔35をそれぞれ周方向3ヶ所に配設する場合を説明したが、かかる配設個数は一例であり、2ヶ所以下であっても良く、或いは、4ヶ所以上であっても良い。なお、第2実施の形態においても同様である。
【0071】
上記第2実施の形態では、突部223を下降傾斜させる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、水平(防振基体220の軸に平行)に形成することは当然可能である。
【符号の説明】
【0072】
1,201 ストラットマウント
10 内側部材
20,220 防振基体
23,223 突部
223a 軸部
223b 張出部
30,230 ケース部材
31,231 筒壁部
32 下側壁部
33 締結壁部
35,235 貫通孔
BP 車体パネル(車体の一部、車体側の部材)
R ピストンロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショックアブソーバーのピストンロッドの上端部が締結固定される内側部材と、前記内側部材の外周を取り囲み車体側に取り付けられるケース部材と、前記内側部材とケース部材との間に介在すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体と、を備えるストラットマウントにおいて、
前記防振基体は、周方向に分散配置されつつ外周面から前記防振基体の軸直角方向外方へ突出される複数の突部を備えると共に前記内側部材が内周側に加硫接着される円環形状に形成され、
前記ケース部材は、前記防振基体が内嵌される筒状の筒壁部と、前記筒壁部の軸方向一端から軸直角方向外方へ向けて延設され前記車体側に締結固定される締結壁部と、前記筒壁部の軸方向他端から軸直角方向内方へ向けて延設され前記締結壁部が前記車体側に締結固定された場合に前記車体側の部材との間で前記防振基体を前記筒壁部の軸方向に挟圧する下側壁部と、を備え、
前記ケース部材の筒壁部は、前記防振基体の突部に対応する位置に貫通形成された複数の貫通孔を備え、
前記防振基体が前記ケース部材の筒壁部に内嵌されると、前記防振基体の突部が前記筒壁部の貫通孔に係合されることを特徴とするストラットマウント。
【請求項2】
前記防振基体の突部は、前記ケース部材の下側壁部に当接される前記防振基体の下面側から前記車体側の部材に当接される前記防振基体の上面側へ向かうに従って前記防振基体の軸直角方向外方への突出量が増加する形状に形成されることを特徴とする請求項1記載のストラットマウント。
【請求項3】
前記防振基体の突部は、前記防振基体の外周面から突出されると共に前記筒壁部の貫通孔の開口面積よりも小さな断面積の軸部と、前記軸部の突出方向先端から張り出すと共に前記筒壁部の貫通孔の開口面積よりも大きな断面積の張出部とを備えることを特徴とする請求項1記載のストラットマウント。
【請求項4】
前記防振基体の突部は、前記ケース部材の下側壁部に当接される前記防振基体の下面側へ向けて前記軸部が下降傾斜して突出されることを特徴とする請求項3記載のストラットマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−180871(P2012−180871A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43052(P2011−43052)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】