説明

ストラット式サスペンション装置

【課題】 ストラット式サスペンション装置のキャスター剛性やキャンバー剛性を高めるとともに、ショックアブソーバからロアアームに入力される車体前後方向の荷重を減少させる。
【解決手段】 ショックアブソーバ13とロアアーム11とをリンク25を介して連結する際に、ショックアブソーバ13およびリンク25を車両前方側で連結する第1連結部26と、ロアアーム11およびリンク25を車両後方側で連結する第2連結部27とを、車幅方向に見たときに、ショックアブソーバ13の軸線、車輪Wの軸線および第2枢支部21を前後から挟む位置にそれぞれ配置したので、路面から車輪Wを介して入力される外力でショックアブソーバ13が自己の軸線回りに回転してしまうのを防止することができるだけでなく、リンク25によってショックアブソーバ13およびロアアーム11の連結剛性を高めることで、ショックアブソーバ13からロアアーム11に入力される車体前後方向の荷重を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪支持部に車輪を回転自在に支持するナックルに該車輪支持部から下方に延びる下アームおよび上方に延びる上アームを形成し、前記下アームをショックアブソーバの下部に第1枢支部を介して連結するとともに、前記上アームを前記ショックアブソーバの上部から車幅方向外側に延びるアームの先端に第2枢支部を介して連結し、車幅方向内端を車体に上下動可能に連結したロアアームの車幅方向外端を、前記第1枢支部の近傍でショックアブソーバの下部に連結し、前記ショックアブソーバと前記ロアアームとをリンクを介して連結したストラット式サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の前輪のストラット式サスペンション装置は、ロアアームの車幅方向外端とナックルの下端とを連結し、ショックアブソーバの下端および上端をそれぞれナックルの上端および車体に連結したもので、ナックルはショックアブソーバの上端の車体への連結点とナックルの下端のロアアームへの連結点とを結ぶキングピン軸まわりに転舵されるようになっていた。しかしながら、上記従来のストラット式サスペンション装置はキングピンオフセット(キングピン軸の下方延長線が路面に交差する点とタイヤ接地面の中心との距離)が大きくなるため、路面から車輪に前後力が加わるとキングピン軸まわりに大きなモーメントが発生し、ステアリングホイールが取られる不具合があった。この不具合を解消するために、キングピン角(車体前後方向に見て、キングピン軸が鉛直線と成す角度)を大きく設定してキングピンオフセットを減少させようとすると、操舵に必要な力が増加して操作性が悪化するという新たな問題が発生してしまう。
【0003】
そこで下記特許文献1に記載されたものは、ナックルに設けた下アームおよび上アームを2個の連結軸を介してショックアブソーバに連結し、それら2個の連結軸を結ぶ直線をキングピン軸とすることで、キングピンオフセットを減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−146609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものは、ナックルをショックアブソーバに連結する2個の連結軸がタイヤの内周部に配置されるため、2個の連結軸間の上下方向のスパンが小さくなってしまい、車輪に前後力や横力が作用したときのキャスター剛性やキャンバー剛性が低下する問題がある。またキャスター角を確保するためにショックアブソーバの上部を後傾させると、ショックアブソーバの反力の車体前後方向の成分が増加してしまい、ロアアームの車幅方向内端を車体に連結するコンプライアンスブッシュに荷重が加わって乗り心地性能が低下する問題がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ストラット式サスペンション装置のキャスター剛性やキャンバー剛性を高めるとともに、ショックアブソーバからロアアームに入力される車体前後方向の荷重を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車輪支持部に車輪を回転自在に支持するナックルに該車輪支持部から下方に延びる下アームおよび上方に延びる上アームを形成し、前記下アームをショックアブソーバの下部に第1枢支部を介して連結するとともに、前記上アームを前記ショックアブソーバの上部から車幅方向外側に延びるアームの先端に第2枢支部を介して連結し、車幅方向内端を車体に上下動可能に連結したロアアームの車幅方向外端を、前記第1枢支部の近傍でショックアブソーバの下部に連結し、前記ショックアブソーバと前記ロアアームとをリンクを介して連結したストラット式サスペンション装置であって、前記ショックアブソーバおよび前記リンクを車両前方側で連結する第1連結部と、前記ロアアームおよび前記リンクを車両後方側で連結する第2連結部とを、車幅方向に見たときに、前記ショックアブソーバの軸線、前記車輪の軸線および前記第2枢支部を前後から挟む位置にそれぞれ配置したことを特徴とするストラット式サスペンション装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記ロアアームをスタビライザに連結する第3連結部を、車幅方向に見たときに、前記第1連結部と前記第1枢支部との間に配置したことを特徴とするストラット式サスペンション装置が提案される。
【0009】
尚、実施の形態のショックアブソーバ13の上アーム13cは本発明のアームに対応し、実施の形態の第1、第2ピンジョイント20,21は本発明の第1、第2枢支部に対応し、実施の形態のリンク22は本発明の第3連結部に対応し、実施の形態のボールジョイント26,27は本発明の第1、第2連結部に対応する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成によれば、ナックルの車輪支持部から下方に延びる下アームおよび上方に延びる上アームをショックアブソーバの下部および上部にそれぞれ第1枢支部および第2枢支部を介して連結したので、キングピン角を増加させることなくキングピンオフセットを減少させることができ、路面から車輪に入力される外力によりステアリングホイールが取られる不具合を解消することができる。またナックルの下アームおよび上アーム間のスパンを充分に長く確保し、車輪に入力される前後力や横力に対するキャスター剛性やキャンバー剛性を高めることができる。
【0011】
またショックアブソーバとロアアームとをリンクを介して連結する際に、ショックアブソーバおよびリンクを車両前方側で連結する第1連結部と、ロアアームおよびリンクを車両後方側で連結する第2連結部とを、車幅方向に見たときに、ショックアブソーバの軸線、車輪の軸線および第2枢支部を前後から挟む位置にそれぞれ配置したので、路面から車輪を介して入力される外力でショックアブソーバが自己の軸線回りに回転してしまうのを防止することができるだけでなく、リンクによってショックアブソーバおよびロアアームの連結剛性を高めることで、ショックアブソーバからロアアームに入力される車体前後方向の荷重を低減し、ロアアームの車幅方向内端の車体連結部に圧縮荷重や引張荷重が作用しないようにして乗り心地性能の低下を回避することができ、しかも車輪のストロークに伴ってキャスター角やキャスタートレールが変化するのを防止して車両の直線安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施の形態に係るストラット式サスペンション装置の斜視図
【図2】図1の2方向矢視図
【図3】図1の3方向矢視図
【図4】車輪の上下ストロークとキャスター角との関係を示すグラフ
【図5】第2の実施の形態に係るストラット式サスペンション装置の斜視図
【図6】車輪の上下ストロークと車輪の上下荷重との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図4に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0014】
図1〜図3に示すように、転舵可能な前輪用のストラット式サスペンション装置Sは、ロアアーム11と、ナックル12と、ショックアブソーバ13と、サスペンションスプリング14と、スタビライザー15とを備える。
【0015】
ロアアーム11はいわゆるA型アームであって、車幅方向内側の二股になった内端が車体前側のコンプライアンスブッシュ16および車体後側のコンプライアンスブッシュ17を介して車体18(一部のみ図示)に上下揺動自在に枢支される。ナックル12は車輪Wを回転自在に軸支する車輪支持部12aと、車輪支持部12aから下向きに延びる短い下アーム12bと、車輪支持部12aから上向きに延びる長い上アーム12cとを備える。ショックアブソーバ13は、伸縮自在な油圧シリンダ13aと、油圧シリンダ13aの下端から斜め下方に延びる下アーム13bと、油圧シリンダ13aの上端から車幅方向外側に向かって斜め上方に延びる上アーム13cとを備える。
【0016】
ロアアーム11の車幅方向外端とショックアブソーバ13の下アーム13bとがボールジョイント19を介して枢支される。またナックル12の下アーム12bとショックアブソーバ13の下アーム13bとが本発明の第1枢支部を構成する第1ピンジョイント20で連結されるとともに、ナックル12の上アーム12cとショックアブソーバ13の上アーム13cとが本発明の第2枢支部を構成する第2ピンジョイント21で連結される。ナックル12の上アーム12cは車輪支持部12aから車体内方に湾曲した後に車体外方に湾曲しながら上方に延びており、その結果、第2ピンジョイント21は車輪Wの上端よりも上方に位置している。
【0017】
またショックアブソーバ13の下アーム13bとロアアーム11とが、リンク25によって連結される。リンク25の一端はボールジョイント26を介してショックアブソーバ13の下アーム13bの下端寄りの位置に枢支され、リンク25の他端はボールジョイント27を介してロアアーム11の上面の基端寄りの位置に枢支される。図2から明らかなように、ショックアブソーバ13およびリンク25を車両前方側で連結するボールジョイント26(第1連結部)と、ロアアーム11およびリンク25を車両後方側で連結するボールジョイント27(第2連結部)とは、車幅方向に見たときに、ショックアブソーバ13の軸線、前記車輪Wの軸線および第2ピンジョイント(第2枢支部)を前後から挟む位置にそれぞれ配置される。
【0018】
このリンク25により、ショックアブソーバ13およびロアアーム11の相対移動を許容しながら、路面から入力される外力でショックアブソーバ13の油圧シリンダ13aが自己の軸線回りに回転してしまうのを防止することができる。
【0019】
ショックアブソーバ13の軸線は、車体側方から見て鉛直方向(路面に垂直な方向)に配置され、かつ車輪Wの中心に対して車体後方に配置される。同軸上に配置された第1、第2ピンジョイント20,21は協働してキングピン軸Kを規定するもので、車体側方から見てキングピン軸Kは鉛直方向に対して上部が角度θ(キャスター角)だけ車体後方に傾斜するとともに、車体前方から見てキングピン軸Kは鉛直方向に対して上部が角度α(キングピン角)だけ車体内方に傾斜する。
【0020】
サスペンションスプリング14はショックアブソーバ13の上部外周に同軸に配置され、ショックアブソーバ13の油圧シリンダ13aの伸縮に応じて伸縮する。車体左右方向に配置されたスタビライザー15の端部はリンク22を介してロアアーム11の中間部に連結されており、ロアアーム11の上下動に応じて捩じり変形する。そして図示せぬステアリングギヤボックスから延びるタイロッド23がナックル12の後部に連結されており、タイロッド23が左右に移動するとナックル12に支持した車輪Wがキングピン軸Kまわりに転舵される。
【0021】
図1〜図3から、特に図2から明らかなように、ロアアーム11をスタビライザ15に連結するリンク22(第3連結部)は、車幅方向に見たときに、ボールジョイント26(第1連結部)と第1ピンジョイント20(第1枢支部)との間に配置される。
【0022】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0023】
ドライバーがステアリングホイールを操作すると、タイロッド23がナックル12を押し引きすることで、車輪Wが第1、第2ピンジョイント20,21を結ぶキングピン軸Kを中心として左右に転舵される。従来のストラット式サスペンション装置では、ナックルがショックアブソーバの上端の車体への連結点とナックルの下端のロアアームへの連結点とを結ぶキングピン軸まわりに転舵されるため、キングピンオフセットを小さくすることが困難であったが、本実施の形態ではキングピン軸Kをナックル12の下アーム12bおよび上アーム12cによって規定することで、図3に示すように、キングピン角αを増加させることなくキングピンオフセットδを減少させることができ、路面から車輪に入力される外力によりステアリングホイールが取られる不具合を解消することができる。
【0024】
車両が急加速したり急制動したりすると車輪Wに前後力が作用し、車両が旋回すると車輪に横力が作用し、これらの前後力および横力はナックル12に前後左右に倒すようなモーメントを発生する。しかしながら、本実施の形態のナックル12はその上アーム12cが車輪Wの上端を越えて上方に延出しているため、下アーム12bおよび上アーム12c間のスパンL(図2参照)を充分に長く確保することができ、これにより前記モーメントの入力に対してナックル12の倒れを抑制してキャスター剛性やキャンバー剛性を高めることができる。
【0025】
また車体側方から見てショックアブソーバ13の軸線を鉛直方向に配置し、かつ上アーム12cの上端の第2ピンジョイント21をショックアブソーバ13の軸線よりも車体後方に配置したので、車輪Wの中心よりも車体前方に位置する第1ピンジョイント20に対して第2ピンジョイント21を車体後方に位置させ、必要なキャスター角θを確保することができる。このとき、車体側方から見てショックアブソーバ13の軸線が鉛直方向に配置されているため、鉛直方向に上下動するロアアーム11の車幅方向外端のボールジョイント19に、ショックアブソーバ13から車体前後方向の荷重が入力されることはない。よってショックアブソーバ13から入力される荷重でロアアーム11の車幅方向内端の一対のコンプライアンスブッシュ16,17に車幅方向の圧縮荷重や引張荷重が作用することを防止し、乗り心地性能の低下を回避することができる。
【0026】
更に、車体側方から見てショックアブソーバ13の軸線を鉛直方向に配置したことにより、図4のグラフに示すように、ショックアブソーバ13が伸縮しても図2に示すキャスター角β(キャスタートレールT)が変化しなくなり、車輪Wのストロークに応じて車両の直進安定性が変化するのを防止することができる。
【0027】
図5および図6は本発明の第2の実施の形態を示すもので、図5はストラット式サスペンション装置の斜視図、図6は車輪の上下ストロークと車輪の上下荷重との関係を示すグラフである。
【0028】
第1の実施の形態のストラット式サスペンションSは、コイルスプリングよりなるサスペンションスプリング14をショックアブソーバ13の上部外周に配置しているが、第2の実施の形態のストラット式サスペンションSは、車体前後方向に延びるトーションバースプリングよりなるサスペンションスプリング24をロアアーム11の車幅方向内端に配置している。即ち、第2の実施の形態のサスペンションスプリング24は、その一端がコンプライアンスブッシュ16の位置でロアアーム11に固定され、その他端が車体18に固定される。従って、車輪Wが上下にストロークしてロアアーム11が上下に揺動すると、その揺動角だけサスペンションスプリング24が捩じられることになる。
【0029】
トーションバースプリングは、その捩じれ角の増加に対して荷重が非線形に増加する特性を有しているため、図6に示すように、車輪Wが上方にストロークすると、そのストロークの増加に応じて荷重が急激に増加することになる。その結果、車両の旋回中に車体が旋回方向外側にロールしたとき、旋回外輪が上方にストロークするのに応じてサスペンションスプリング24の荷重を急激に立ち上げ、車体のローク角が過度に増加しないようにして乗り心地性能を高めることができる。
【0030】
リンク25でロアアーム11およびショックアブソーバ13を連結して該ショックアブソーバ13の回転を防止する構造を含む第2の実施の形態のその他の構成および効果は、上述した第1の実施の形態と同じである。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0032】
11 ロアアーム
12 ナックル
12a 車輪支持部
12b 下アーム
12c 上アーム
13 ショックアブソーバ
13c ショックアブソーバの上アーム(アーム)
18 車体
20 第1ピンジョイント(第1枢支部)
21 第2ピンジョイント(第2枢支部)
22 リンク(第3連結部)
24 サスペンションスプリング
25 リンク
26 ボールジョイント(第1連結部)
27 ボールジョイント(第2連結部)
W 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪支持部(12a)に車輪(W)を回転自在に支持するナックル(12)に該車輪支持部(12a)から下方に延びる下アーム(12b)および上方に延びる上アーム(12c)を形成し、前記下アーム(12b)をショックアブソーバ(13)の下部に第1枢支部(20)を介して連結するとともに、前記上アーム(12c)を前記ショックアブソーバ(13)の上部から車幅方向外側に延びるアーム(13c)の先端に第2枢支部(21)を介して連結し、車幅方向内端を車体(18)に上下動可能に連結したロアアーム(11)の車幅方向外端を、前記第1枢支部(20)の近傍でショックアブソーバ(13)の下部に連結し、前記ショックアブソーバ(13)と前記ロアアーム(11)とをリンク(25)を介して連結したストラット式サスペンション装置であって、
前記ショックアブソーバ(13)および前記リンク(25)を車両前方側で連結する第1連結部(26)と、前記ロアアーム(11)および前記リンク(25)を車両後方側で連結する第2連結部(27)とを、車幅方向に見たときに、前記ショックアブソーバ(13)の軸線、前記車輪(W)の軸線および前記第2枢支部(21)を前後から挟む位置にそれぞれ配置したことを特徴とするストラット式サスペンション装置。
【請求項2】
前記ロアアーム(11)をスタビライザ(15)に連結する第3連結部(22)を、車幅方向に見たときに、前記第1連結部(26)と前記第1枢支部(20)との間に配置したことを特徴とする、請求項1に記載のストラット式サスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121573(P2012−121573A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34727(P2012−34727)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【分割の表示】特願2007−151800(P2007−151800)の分割
【原出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】