説明

ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子及びその製造方法

【課題】ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子、その製造方法及び用途を提供する。
【解決手段】ストロンチウム、ランタン及びマンガン化合物の混合水溶液をアルカリ水溶液でpH6程度に調製し、亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として、380〜450℃で水熱反応させて、一次粒子径が50nm以下であり、結晶化度が高いストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を製造する。
【効果】固体酸化物燃料電池等で使用される電極材料等として利用可能な、高温処理を必要としない、高結晶性で、かつ粒子径が50nm以下のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子、その製造方法及びその応用製品を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均粒子径が50nm以下で、ペロブスカイト型の結晶構造を有するストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子、及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、ランタン及びストロンチウムの化合物及びマンガン化合物の混合液を、亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として、水熱反応させることにより、結晶構造を制御したストロンチウムドープマンガン酸ランタンのナノ結晶粒子、その製造方法及び用途に関するものである。本発明は、複雑な装置、多段プロセスを必要とすることなく、極短時間で、結晶性の高い、単結晶からなるストロンチウムドープマンガン酸ランタンのナノ粒子を製造するものである。
【0002】
本発明は、次世代の産業や社会を支える重要な科学技術として、情報通信や環境・エネルギーから医療に亘る広汎な分野での実用化が期待されているナノテクノロジー技術の分野において、そのキーマテリアルとなる「ナノ粒子」の製造を可能とする、新しい、ストロンチウムドープマンガン酸ランタンのナノ結晶粒子の製造方法、そのナノ結晶粒子及び用途を提供するものであり、例えば、燃料電池材料、磁性材料、電子材料、セラミック材料等の技術分野における、新技術の開発、新産業の創設を推進するものとして有用である。
【背景技術】
【0003】
マンガン酸ランタンのランタンのサイトをアルカリ土類金属イオンで部分置換したマンガン酸ランタンは、カルシアやイットリアの固溶量に応じて酸素格子欠陥を有し、酸素イオンが格子内を移動するので、固体電解質として、固体酸化物燃料電池用電極材料等に広く利用されている。アルカリ土類金属ドーパントの中では、ストロンチウムで置換したものが、酸素還元の高い電気化学活性、及び化学安定性と、イットリア安定化ジルコニア電解質との相性から、固体酸化物燃料電池用電極材料として、良く用いられている(非特許文献1、2参照)。
【0004】
アルカリ土類金属ドープマンガン酸ランタンの調製法としては、例えば、共沈法、ゾル−ゲル法、パルスレーザ法、有機金属分解法、噴霧熱分解法、固相反応法等が報告されている。しかしながら、現在、ストロンチウムドープマンガン酸ランタンの焼結用原料として用いられる微粉末の粒子径は、一般に、ミクロンオーダの微粒子からなるものである。このようなストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子粉末は、仮焼物をボールミル等により微粉砕して製造するもの(特許文献1参照)、が殆どであり、工業的に実用化されているものは、球状ではなく、単分散でもない、と云うのが現状である。
【0005】
上記の調製法の中で、ゾル−ゲル法では、純度の高い生成物を蓚酸ゲルの焼成により得ることができる。マンガン、ランタン及びストロンチウムの硝酸塩溶液に、錯形成剤として、蓚酸アンモニウムと、ゲル形成剤として、アクリルアミドを化学量論比で加え、撹拌した後、100℃で脱水し、ゲルを作製し、該ゲルを900℃、20時間大気中で焼成する。得られた粉末を、30MPaでペレット化し、1200℃で12時間焼成する。生成物の粒子径は、16μmであり、微粒化工程として、粉砕が必要である(非特許文献2参照)。
【0006】
このように、ゾル−ゲル法では、有機溶媒や錯形成剤、ゲル形成剤等を必要とすることに加え、多段階プロセスであり、固体反応により固溶体を作製するため、高温で長時間の加熱を必要とする。更に、この方法は、微細化のための粉砕に、ボールミルで長時間粉砕する必要があることから、エネルギー多消費プロセスとなっている。
【0007】
従来、ナノサイズの結晶粒子を得るには、短時間で核生成及び結晶化を完結させれば良いことは知られていた。しかし、特定の化合物の、ナノサイズの結晶粒子を製造するには、個々の化合物について、それぞれ、経験的、実験的な事例の積み重ねによる他はなく、好適な、原料化合物、反応方法、反応装置等を決めるには、多大の努力と時間を重ねる必要があり、当技術分野においても、それらの解明が強く求められていた。
【0008】
以上のように、従来のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子粉末は、サブミクロンではあるが、粒子径、粒子形状が不均一であるのみならず、個々の微粒子単位では、化学組成比も極めて不均一なものしか得られていないので、それを原料としたストロンチウムドープマンガン酸ランタンセラミックス電極は、必ずしも均一な微構造を持たず、十分な特性を発揮したものとは云えないのが現状である。
【0009】
【特許文献1】米国特許公開第2003/0027033 A1,Feb.6,2003
【非特許文献1】J.Power Sources,87(2000),p.92,
【非特許文献2】J.Nanopart Res.,3(2001),p.171
【非特許文献3】Solid State Sciences,6,Issue 9,September 2004,Pages 939−944
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記諸問題を抜本的に解決することが可能な新しいナノサイズの結晶粒子からなるストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を製造するための新しい技術を開発することを目標として、鋭意研究を積み重ねた結果、ストロンチウム等のアルカリ土類金属化合物と、ランタン等の希土類金属化合物及びマンガン化合物を、pH4以上8以下で、亜臨界又は超臨界状態の水を媒体として、水熱反応させることにより、短時間での反応で、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、上述の問題を解決可能で、粒子径が50nm以下の超微粒子からなり、しかも個々の微粒子が、それぞれ、Sr、La、Mnの必要な添加成分の1種以上をほぼ同量含有していることを特徴とする、ほぼ理想化されたストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子粉末を実現すること、並びにそれを連続的に、かつ効率よく短時間に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
また、本発明は、平均粒径が50nm以下のナノ粒子からなり、その粒径分布が狭く、大きな比表面積を有するストロンチウムドープマンガン酸ランタン粒子を提供することを目的とするものである。また、本発明は、結晶性が高い単結晶の一次粒子からなり、凝集状態にないストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を提供することを目的とするものである。また、本発明は、単一の工程で、短時間の反応で、ナノ粒子を製造することが可能な、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
更に、本発明は、例えば、触媒材料、光学材料、生体材料、電子材料等の幅広い技術分野で使用されるセラミックス材料、固体電解質等の製造に有用な、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)基本構造が、以下の一般式
La(1−x)MnO・xSrO
(式中のxは0.1〜0.35の数である。)で表されるストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子。
(2)ストロンチウムドープマンガン酸ランタンの結晶構造が、六方晶系である、前記(1)に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子。
(3)粒子径が、大きくても50nmの単結晶微粒子である、前記(1)又は(2)に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子。
(4)マンガン塩水溶液と、ランタン及びストロンチウム金属塩水溶液を混合し、アルカリ水溶液を添加した後、亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として、水熱反応により、基本構造が、以下の一般式
La(1−x)MnO・xSrO
(式中のxは0.1〜0.35の数である。)で表されるストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を水熱合成することを特徴とするストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
(5)マンガン化合物として、硝酸マンガン、塩化マンガン、又は酢酸マンガンを、ランタン化合物として、ランタンの硝酸塩、塩化物、又は酢酸塩を、ストロンチウム化合物として、酸化ストロンチウム、又は硝酸ストロンチウムを、原料として使用する、前記(4)に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
(6)水熱反応の反応温度が、380℃〜500℃、反応圧力が、25〜40MPaである、前記(4)又は(5)に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
(7)水熱反応の処理時間が、10秒以内の短時間である、前記(4)、(5)、又は(6)に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
(8)反応溶液のpHが、4以上8以下である、前記(4)、(5)、(6)又は(7)に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
(9)前記(1)から(3)のいずれか1項に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子から構成されることを特徴とする固体電解質。
(10)上記(9)に記載の固体電解質を構成要素として含むことを特徴とする固体酸化物燃料電池用電極。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明者らは、上述の従来技術の問題点を解決し、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子のナノサイズ微粒子の合成を可能にする新しい製造技術を種々検討する中で、ストロンチウム等のアルカリ土類金属化合物と、ランタン等の希土類金属化合物及びマンガン化合物を、pH4以上8以下で、亜臨界又は超臨界状態の水を媒体として、水熱反応させることにより、短時間の反応で、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を得る方法を開発した。
【0016】
超臨界状態の水は、非極性のガス状となるため、非極性の金属酸化物の生成速度が著しく大きくなり、核生成速度も極めて大きくなる。当該超臨界状態の水の物質拡散係数は、ガスと同程度に大きく、水熱反応の結果で生じる水の拡散速度に律されることがなく、それにより、結晶化が進行する。
【0017】
更に、超臨界状態の水は、反応媒体中に溶存するイオン濃度が極めて低いため、イオンの取り込みによる粒子成長が生じ難いので、粒子は、一次微粒子の生成にとどまり、また、例えば、10秒以内の極めて短時間のうちに反応が終了すると云う特徴を有するために、結晶の相転移も生じにくい。本発明では、亜臨界又は超臨界状態の水を媒体とすることにより、ナノサイズで、化学両論的にストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を合成することができる。
【0018】
本発明は、ストロンチウム、ランタン及びマンガン混合化合物を、亜臨界又は超臨界状態の水を媒体として、水熱反応させることにより、例えば、平均粒子径が50nm以下、比表面積が40m/g以上であるストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を10秒以内の短時間で製造することが可能である。
【0019】
本発明のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子は、平均粒子径が50nm以下、比表面積が40m/g以上の特性を有する、新規な粒子であり、特に、その粒径が非常に狭い範囲に集中し、しかも単結晶の一次粒子の分散体であり、凝集状態にはない結晶粒子である点に特徴を有する。
【0020】
本発明において、超臨界状態の水とは、具体的には、温度380〜500℃、圧力25〜40MPaの範囲にある水の状態を示し、好適には、温度400〜450℃、圧力25〜30MPaが例示される。温度が374℃以上にある水熱反応条件が、水の密度及び誘電率の低下に伴い、水熱反応が加速される等の理由により、好適である。反応媒体は、水を主要成分とするが、他の媒体、例えば、有機溶媒、極性溶媒等を含む水性の混合溶媒も適宜使用することができる。
【0021】
本発明の、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造に用いる、ストロンチウム、ランタン及びマンガン源としては、塩類一般を用いることができる。そのうち、好適には、例えば、これらの塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等の金属化合物が例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。反応媒体中の、ストロンチウム、ランタン及びマンガン混合化合物の濃度は、0.001〜0.5モル/Lの範囲が好適であり、0.01〜0.1モル/Lの範囲が、より好適である。
【0022】
本発明の反応で使用される反応容器としては、所定の温度、圧力に耐えるものであれば適宜の反応容器を使用することができる。例えば、ストロンチウム、ランタン及びマンガン化合物の混合溶液を、流通式の反応装置中で反応させて、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を合成する。流通式の反応装置を使用する場合には、原料化合物、反応温度等の条件にもよるが、反応ゾーンを、0.1〜10秒、好適には、0.1〜1秒で通過する間に反応が完了し、高収率でストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を製造することができる。
【0023】
本発明では、平均粒径の範囲が、7〜50nmにあり、その粒径の分布範囲が狭いストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造が可能である。生成する微粒子の、平均粒径及び粒径の分布範囲は、温度、圧力及び濃度を調整することによって、適宜制御することが可能であり、粒径の小さい微粒子の製造には、温度、pHの減少が有効であり、粒径の大きい微粒子の製造には、温度、pHの増加が有効である。
【0024】
次に、本発明の、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造装置の一例として、流通反応方式による装置の一例を図1に基づいて説明する。本発明の製造装置は、基本的には、ストロンチウム、ランタン及びマンガン化合物の混合塩水溶液収納容器1、水酸化アルカリ水溶液収納容器2、蒸留水収納容器3、混合塩水溶液供給用、水酸化アルカリ水溶液及び蒸留水供給用の、3基の高速液体クロマトグラフィ用無脈流ポンプ4、5、6、蒸留水加熱用電気炉7、反応管保温用電気炉8、反応管9、反応液冷却用熱交換器10、圧力調整器(背圧弁)11、回収容器12、並びに反応管内及び反応媒体を設定温度に制御するための温度制御装置から構成される。
【0025】
本発明では、例えば、ガラス製収容容器1内に収納されたストロンチウム、ランタン及びマンガン化合物の混合塩水溶液と水酸化アルカリ水溶液を、高速液体クロマトグラフィ用無脈流ポンプ4、5により、全体流量8cm/minで、反応管方向へ送液する。一方、蒸留水は、蒸留水収納容器3から、別の無脈流ポンプ6により、流量22cm/minで、管型電気炉7に送液し、そこで、加熱して、反応に必要な所定の超臨界状態の水とした後、反応管へ送液する。
【0026】
混合塩水溶液は、水酸化アルカリ水溶液と混合後に、前記超臨界水と接触し、急速に反応温度まで昇温して、反応管中で水熱反応が開始する。反応液は、管状電気炉8によって、所定の温度、圧力に保持された反応管中に所定の時間滞在した後、反応管の出口側に接続した、2重管型の熱交換器9により冷却した後、背圧弁10により降圧して、回収容器11中に捕集される。
【0027】
捕集したストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子は、出口より反応終了液とともにスラリーとして回収し、適当なフィルターによりろ別し、粉体として回収する。各金属イオンの転化率は、原料溶液の濃度とろ液の濃度をプラズマ発光分光分析装置(ICP)により定量し、求めることができる。生成した粒子の特性は、粉末X線回折法(XRD)により結晶構造を同定し、粒子径や凝集の程度は、電子顕微鏡観察(TEM)及びBET比表面積測定によって測定し、評価される。
【0028】
本発明の合成法により、ペロブスカイト型ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を合成することが可能であり、ストロンチウム等が固溶されていないマンガン酸ランタンにはない触媒特性、電気的、化学的特性が発現した、粒子径50nm以下のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を合成することが実現可能となる。本発明の合成方法を利用することにより、従来製品と比べて、触媒特性、電気的、化学的特性が改善されたストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を合成し、提供することが可能となる。
【0029】
本発明は、酸素イオン導電性ストロンチウムドープマンガン酸ランタンセラミックスの原料粉末として有用な、50nm以下の均一組成ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子粉末を大量に製造する方法を提供するものとして有用である。
【0030】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、従来得られたことのない、主として50nm以下の超微粒子領域で、均一組成のストロンチウムドープマンガン酸ランタン単分散微粒子粉末を製造することが初めて可能になり、それにより、高品位のファインセラミックス用原料粉末として、単分散超微粒子が工業的に実用に供されるようになるため、本発明の材料は、温暖化ガス対策のエネルギー変換デバイスとして期待されている燃料電池の実用化に大きく貢献するものと期待される。
【0031】
本発明の材料は、特に、個々の微粒子の化学組成が、それぞれほぼ同じになることから、これを用いて得られる焼結体の微組織が極めて均一となり、機械的性質並びにイオン導電性等、あらゆる性能が特段に優れたものとなることが期待される。また、本発明の方法は、アルコキシド等の高価な原料を使用せず、製造工程が比較的簡単であり、特に、水熱合成が極めて短時間で、高効率であり、また、流通式であるため、連続合成が可能である等、生産性に著しい長所がある。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)ナノサイズレベルで、結晶構造が制御された、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を提供することができる。
(2)平均粒子径が50nm以下のナノ粒子からなり、その粒径分布が非常に狭い範囲にあることで特徴付けられる、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を製造し、提供することができる。
(3)結晶性が高く、単結晶の一次粒子の分散状体であり、熱処理による結晶化の必要がない、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を提供することができる。
(4)原料混合塩のSr/La/Mn組成比を調整することにより、ストロンチウム金属イオン固溶比を制御することできる。
(5)単一の工程で10秒以内の短時間の反応で、ナノ粒子を製造することができる。
(6)ナノサイズレベルで、結晶構造が制御された、高密度で、欠陥のないストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を提供することができる。
(7)固体酸化物燃料電池で使用される電極材料等として有用な、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子から構成される固体電解質を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
本実施例では、図1に示した流通式反応装置によって、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の合成実験を行った。流通式反応装置により、硝酸ストロンチウム、硝酸ランタンと硝酸マンガン混合溶液の濃度を0.014M、0.048M及び0.06M、水酸化カリウムの原料溶液濃度を0.2Mとし、混合溶液を4.0g/minとアルカリ溶液の流量を4.0g/minで送液し、反応管として内径1.59mmのステンレスチューブ450mmを使用し、反応温度400℃、反応圧力30MPa、滞在時間0.2秒の条件で合成実験を行った。反応後のpHは5.98、Sr、La及びMnの転化率は、それぞれ、45.7%、100%及び97.4%であった。
【0035】
粉末X線回折(XRD)による解析では、生成物のXRDチャート(図2(LSM1))に、d=3.90(012),2.74(104),2.25(202),1.95(024),1.59(214),1.37(208)の回折ピークが認められ、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン酸化物La0.8Sr0.2MnO(JSPDS53−0058)に帰属される。BET比表面積値は、142m/gであり、X線回折ピークから求めた結晶子径は、12.9nmであった。
【0036】
組成分析の結果から、X=0.11であった。図3(a)に、生成物の電子顕微鏡像を示す。粒子径は、50nm以下であり、粒子は、結晶性は高いが、凝集していることが分かる。通常の水熱合成又はゾル−ゲル法で得られる微粒子は、結晶化度が低く、その形状も球状の場合がほとんどである。しかし、本発明によって生成するストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子は、結晶構造を反映した形態であり、一つ一つの粒子の結晶面が観察されることから、高結晶かつ単結晶性微粒子であることが分かる。
【実施例2】
【0037】
実施例1において、反応温度を390℃とした以外は、実施例1と同様の条件で合成を行い、本発明製品2を得た。反応圧力は、30MPaとした。反応後のpHは、5.96、Sr、La及びMnの転化率は、それぞれ、31.8%、80%及び96.4%であった。粉末X線回折(XRD)チャートの解析によれば(図2LSM−10))、d=3.87(012),2.73(104),2.24(202),1.94(024),1.58(214),1.37(208)の回折ピークが認められ、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン酸化物Sr0.33MnLa0.672.91(JSPDS50−0308)に帰属される。生成物は、Sr0.33MnLa0.672.91であり、結晶子径は、30.9nmであり、X=0.10であった。
【実施例3】
【0038】
実施例1において、反応温度を410℃とした以外は、実施例1と同様の条件で合成を行い、本発明製品3を得た。反応圧力は、30MPaとした。反応後のpHは、5.95、Sr、La及びMnの転化率は、それぞれ、35.6%、87.6%及び87.7%であった。粉末X線回折(XRD)チャートの解析によれば、生成物は、Sr0.33MnLa0.672.91であり(図2(LSM−11))、結晶子径は、39.6nmであり、X=0.11であった。
【実施例4】
【0039】
実施例1において、反応温度を450℃とした以外は、実施例1と同様の条件で合成を行った。反応圧力は、30MPaとした。反応後のpHは、6.16、Sr、La及びMnの転化率は、それぞれ、100%、97.2%及び96.3%であった。粉末X線回折(図2(LSM−12)チャートの解析によれば、生成物は、Sr0.33MnLa0.672.91であり、結晶子径は、58nmであり、X=0.23であった。
【0040】
比較例1
本比較例では、実施例1において、反応温度を300℃とした以外は、実施例1と同様の条件で合成を行った。XRD解析によれば、シャープなピークは存在せず、非晶質となっている(図2(LSM−8))。Sr、La及びMnの転化率は、それぞれ、34.7%、85.0%及び91.7%であった。目的とする複合酸化物の生成は、認められなかった。
【0041】
比較例2
本比較例では、実施例1において、反応温度を350℃とした以外は、実施例1と同様の条件で合成を行った。反応後のpHは、6.08、Sr、La及びMnの転化率は、それぞれ、33.7%、81.4%及び94.6%であった。XRD解析(図2(LSM−9))によれば、X線回折パターンは得られたが、La0.8Sr0.2MnO及びSr0.33MnLa0.672.91のピーク位置とは異なることから、亜臨界条件下では、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の合成は、困難と判断される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上詳述したように、本発明は、ストロンチウム、ランタン及びマンガン化合物を、亜臨界又は超臨界状態の水を媒体として、水熱反応させることにより、ストロンチウムイオンを固溶化させたマンガン酸ランタンを製造する方法に係るものであり、本発明により、ペロブスカイト型の単結晶からなり、一次粒子の高度分散体からなる、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を製造し、提供することができる。また、本発明は、50nm以下の結晶粒径を有し、その粒径の分布は、きわめて狭い範囲にある結晶粒子の高度分散体であるという特徴を有するナノ粒子を提供するものである。本発明のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子は、例えば、固体電解質、酸化物イオン導電性を利用した燃料電池用電極材料等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の流通式水熱合成反応装置の模式図を示す。
【図2】比較例及び実施例の生成物のXRDチャートを示す。
【図3】実施例の生成物のTEM像を示す。図において、スケールバーは、50nmの長さを示す。
【符号の説明】
【0044】
(図1の符号)
1 ストロンチウム、ランタン及びマンガン混合塩水溶液槽(収納容器)
2 水酸化アルカリ水溶液槽(収納容器)
3 蒸留水槽(収容容器)
4 高速液体クロマトグラフィ用高圧ポンプ(無脈流ポンプ)
5 高速液体クロマトグラフィ用高圧ポンプ(無脈流ポンプ)
6 高速液体クロマトグラフィ用高圧ポンプ(無脈流ポンプ)
7 電気炉
8 電気炉
9 反応管
10 二重冷却管(熱交換器)
11 背圧弁
12 回収容器

(図2の符号)
LSM1 実施例製品1
LSM8 比較例製品1
LSM9 比較例製品2
LSM10 実施例製品2
LSM11 実施例製品3
LSM12 実施例製品4

(図3の符号)
(a) 実施例製品1
(b) 実施例製品2
(c) 実施例製品3
(d) 実施例製品4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本構造が、以下の一般式
La(1−x)MnO・xSrO
(式中のxは0.1〜0.35の数である。)で表されるストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子。
【請求項2】
ストロンチウムドープマンガン酸ランタンの結晶構造が、六方晶系である、請求項1に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子。
【請求項3】
粒子径が、大きくても50nmの単結晶微粒子である、請求項1又は2に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子。
【請求項4】
マンガン塩水溶液と、ランタン及びストロンチウム金属塩水溶液を混合し、アルカリ水溶液を添加した後、亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として、水熱反応により、基本構造が、以下の一般式
La(1−x)MnO・xSrO
(式中のxは0.1〜0.35の数である。)で表されるストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子を水熱合成することを特徴とするストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
【請求項5】
マンガン化合物として、硝酸マンガン、塩化マンガン、又は酢酸マンガンを、ランタン化合物として、ランタンの硝酸塩、塩化物、又は酢酸塩を、ストロンチウム化合物として、酸化ストロンチウム、又は硝酸ストロンチウムを、原料として使用する、請求項4に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
【請求項6】
水熱反応の反応温度が、380℃〜500℃、反応圧力が、25〜40MPaである、請求項4又は5に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
【請求項7】
水熱反応の処理時間が、10秒以内の短時間である、請求項4、5、又は6に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
【請求項8】
反応溶液のpHが、4以上8以下である、請求項4、5、6又は7に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか1項に記載のストロンチウムドープマンガン酸ランタン微粒子から構成されることを特徴とする固体電解質。
【請求項10】
上記請求項9に記載の固体電解質を構成要素として含むことを特徴とする固体酸化物燃料電池用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−221044(P2009−221044A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66825(P2008−66825)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月17日 化学工学会発行の「第73年会(2008)化学工学会 研究発表講演要旨集」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】