説明

スパッタ法における放電維持方法

【課題】 成膜を繰り返すことによって放電が消滅し易くなるという従来のスパッタ成膜装置の問題点を解決する。
【解決手段】 同一チャンバー内に複数のターゲットを有し、且つそのうちの少なくとも一つが遷移元素ターゲットであり、且つ、該複数のターゲットのうち少なくとも一つが、低吸収なフッ化物薄膜を生成するために水素添加を必要とするような金属ターゲットである反応性スパッタ成膜装置において、該水素添加を必要とする金属ターゲットで放電を行う際に、該遷移元素ターゲット、及びその周辺の電極部を該遷移元素とは異なる材料で被覆しておくことにより、該遷移元素ターゲットの放電安定性を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体露光装置やその他の光学素子に用いられる光学薄膜をスパッタ法にて形成する際にプラズマ放電を安定して維持するための方法である。
【背景技術】
【0002】
ここ数年来、集積回路の微細化に対する要求に応えるため、ステッパーの露光光源の短波長化が進んでいる。それに伴い、ステッパーに用いられる反射防止膜、及び反射膜の材料も酸化物主体からフッ化物主体へと移り替わった。
【0003】
フッ化物を用いてステッパー用の反射防止膜、及び反射膜を作製する場合、低屈折率膜としてMgF2、AlF3などが、高屈折率膜としてLaF3、GdF3などが一般的に用いられる。そしてこれらの膜を所定の厚さに制御しながら順に重ねていくことで所望の反射特性を実現している。このように種類の異なる薄膜を順に重ねていく場合、同一チャンバー内に複数の金属ターゲットを設置し、それらを順に利用して成膜を行うことで生産効率を高める方法が広く行われている。その一例として特開2002-88470公報などが挙げられる。
【0004】
しかし、上記のようなスパッタ装置でフッ化物薄膜、とりわけLaF3に代表される遷移元素フッ化物薄膜を形成したところ、成膜回数を重ねるに連れて放電が不安定になり、最終的には放電が継続できない状態に至った。一般的に、反応性スパッタ装置において絶縁物薄膜を形成する場合、放電を行うとアノードなど電極類に誘電体膜が付着し、電子の行き場がなくなるために放電が不安定になるという現象が知られている。その対策としては、例えば特開平8-232064公報に示すように、誘電体膜が付着しないような電極構造などが考案されている。
【特許文献1】特開2002−88470号公報
【特許文献2】特開平8−232064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、上記のようなスパッタ装置においてもアノードへの誘電体膜付着が放電不安定化の原因になり得ると考え、同一チャンバー内にMgターゲットとLaターゲットとを有し、MgF2とLaF3とを成膜する装置において、検討を行った。その結果、LaF3成膜だけを繰り返し行う場合、放電は長時間に渡って維持され、LaF3の成膜とMgF2の成膜を交互に行った場合と比べて放電安定時間が明らかに長いことがわかった。すなわち、上記のスパッタ装置においては、LaF3成膜時の放電継続を律するのはアノードへの誘電体膜付着ではないことがわかった。そして、更に検討を行った結果、MgF2成膜時に添加するH2ガスが原因でLaF3成膜時の放電が不安定になっていることを見出した。MgF2成膜時のH2ガスについては、特開2000-297366に示すように、低吸収なMgF2を生成する上で不可欠なものである。
【0006】
H2ガスによるLaターゲット、及びその周辺への影響については、遷移元素に起こりやすい水素脆化という現象によるものと推測される。実際に、上記の現象はLaターゲットに依らずその他の遷移元素ターゲットを用いた場合でも同様の知見を得た。
【0007】
以上より、本発明の目的は、H2ガスによって遷移元素ターゲットの放電が不安定化になるのを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明の供する手段は、MgF2の成膜を開始する前にLaのような遷移元素ターゲット、及びその近辺の電極を、例えばMgなどの典型元素で被覆することである。
【0009】
これにより、MgF2成膜中に遷移元素ターゲット側がH2ガスに晒されることを防ぐことができる。また、遷移元素ターゲットを用いて成膜を行う際には事前に十分にプリスパッタを行うことにより被覆金属を飛ばし、被覆材料が不純物として膜に混入することを防ぐことができる。
【0010】
本発明は上記で述べたような成膜方法、及び成膜装置であり、以下のような特徴を持つ。
【0011】
1.同一チャンバー内に複数のターゲットを有し、且つそのうちの少なくとも一つが遷移元素ターゲットであり、且つ、該複数のターゲットのうち少なくとも一つが、低吸収なフッ化物薄膜を生成するために水素添加を必要とするような金属ターゲットである反応性スパッタ成膜装置において、該水素添加を必要とする金属ターゲットで放電を行う際に、該遷移元素ターゲット、及びその周辺の電極部を該遷移元素とは異なる材料で被覆しておくことにより、該遷移元素ターゲットの放電安定性を維持することを特徴とする。
【0012】
2.前記、遷移元素ターゲットがLa、Gdであることを特徴とする。
【0013】
3.前記、低吸収菜フッ化物薄膜を生成するために水素添加を必要とする金属ターゲットがMg、Alターゲットであることを特徴とする。
【0014】
4.前記スパッタ装置がフッ化物多層膜を作製することを目的としたものであることを特徴とする。
【0015】
5.前記、遷移元素ターゲットを被覆する方法がスパッタリング法もしくは蒸着法であることを特徴とする。
【0016】
6.前記、スパッタ装置において、スパッタリングガスがAr,Xe,Ne,Krの少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0017】
7.前記、スパッタ装置において、用いられる外部電力供給手段が直流電源であり、且つ、1KHz〜350kHzの高周波の矩形反転電圧を印可できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上より、本発明を用いることでH2がLa、Gdといった遷移元素ターゲットに及ぼす影響を軽減することができ、遷移元素ターゲットの放電継続時間を延長することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施例1)
本発明を用いたスパッタ装置の実施例を図1に記載する。このスパッタ装置は成膜チャンバー23の他に予備チャンバー12を持ち、基板14は予備チャンバー12にて基板ホルダ13に固定された後、真空ポンプ16にて1.0E-4Pa以下まで真空引きされてから成膜チャンバー23へと基板搬送手段11によって搬送されるため、成膜チャンバー23への大気の混入を最小限に抑えることができる。また、非成膜時には基板14を予備チャンバー12に戻し、バルブ35を閉じることで、成膜チャンバー23と隔離することができ、不要な膜の付着を防ぐことができる。
【0020】
成膜に必要なガスはマスフロー17,18,19で流量を制御しながら成膜チャンバー23内に供給し、Mgターゲット27もしくはLaターゲット28に外部から直流電源33で負電位を与えプラズマ放電を起こす。直流電源には矩形高周波重畳装置32により、必要に応じて高周波を重畳することができる。
【0021】
ターゲットユニット31にはMgターゲット27とLaターゲット28が設置されており、いずれのターゲットにも後方には磁石26が配置されマグネトロンスパッタを可能としている。また、ターゲットユニット31は回転させることが可能であり、必要に応じてMgターゲット27、Laターゲット28を基板方向に向けることができる。ターゲットユニット31の近傍には蒸着成膜ユニット34が設けられており、ターゲット、及びそれに付随するアノードに対して真空蒸着をすることが可能である。
【0022】
上記の装置を用いて従来の方法で実験を行った結果、Laターゲットのみを用いて繰り返しLaF3成膜を行った場合は、計4時間以上放電を維持することができたが、LaF3成膜20分とMgF2成膜10分を交互に行った場合は、LaF3成膜を合計で2.5時間行ったところで放電維持が困難となった。
【0023】
これに対し、本発明を用いた場合、すなわちLaF3を20分成膜後、ターゲットユニット31を図1の状態まで回転させ、蒸着成膜ユニットを用いてLaターゲット28、及びLaターゲット用アノード板30の表面をMgによりコーティングし、それからMgF2成膜10分を開始するといったことを繰り返した場合、LaF3成膜を合計で4時間以上継続することができた。
【0024】
(実施例2)
図2は、図1におけるLaターゲットの代わりにGdターゲットを用いた実施例であり、その他は図1と同様である。この場合、従来の方法でGdF3成膜のみを繰り返し行った場合、10時間以上放電を継続することができた。しかし、GdF3成膜20分とMgF2成膜10分を交互に行ったところGdF3成膜を合計4時間行ったところで放電維持が困難になった。これに対し本発明を用いた場合、すなわち実施例1と同様に、MgF2成膜時にはGdターゲット35、及びGdターゲット用アノード板36表面にはMgコーティングが施された状態を作り、GdF3成膜20分とMgF2成膜10分を繰り返し行ったところ、GdF3の合計成膜時間は10時間以上となった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明で用いた装置の一例
【図2】本発明で用いた装置の一例
【符号の説明】
【0026】
11 基板搬送手段
12 予備チャンバー
13 基板ホルダ
14 基板
15 バルブ
16 真空ポンプ
17 マスフロー
18 マスフロー
19 マスフロー
20 Arボンベ
21 H2ボンベ
22 F2ボンベ
23 成膜チャンバー
24 バルブ
25 真空排気、処理装置
26 磁石
27 Mgターゲット
28 Laターゲット
29 Mgターゲット用アノード板
30 Laターゲット用アノード板
31 ターゲットユニット
32 矩形高周波重畳装置
33 直流電源
34 蒸着成膜ユニット
35 Gdターゲット
36 Gdターゲット用アノード板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一チャンバー内に複数のターゲットを有し、且つそのうちの少なくとも一つが遷移元素ターゲットであり、且つ、該複数のターゲットのうち少なくとも一つが、低吸収なフッ化物薄膜を生成するために水素添加を必要とするような金属ターゲットである反応性スパッタ成膜装置において、該水素添加を必要とする金属ターゲットで放電を行う際に、該遷移元素ターゲット、及びその周辺の電極部を該遷移元素とは異なる材料で被覆しておくことにより、該遷移元素ターゲットの放電安定性を維持することを特徴とした反応性スパッタ装置。
【請求項2】
前記、遷移元素ターゲットがLa、Gdであることを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタ装置。
【請求項3】
前記、低吸収菜フッ化物薄膜を生成するために水素添加を必要とする金属ターゲットがMg、Alターゲットであることを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタ装置。
【請求項4】
前記スパッタ装置がフッ化物多層膜を作製することを目的としたものであることを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタ装置。
【請求項5】
前記、遷移元素ターゲットを被覆する方法がスパッタリング法もしくは蒸着法であることを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタ装置。
【請求項6】
前記、スパッタ装置において、スパッタリングガスがAr,Xe,Ne,Krの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタ装置。
【請求項7】
前記、スパッタ装置において、用いられる外部電力供給手段が直流電源であり、且つ、1KHz〜350kHzの高周波の矩形反転電圧を印可できることを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタ装置。
【請求項8】
同一チャンバー内に複数のターゲットを有し、且つそのうちの少なくとも一つが遷移元素ターゲットであり、且つ、該複数のターゲットのうち少なくとも一つが、低吸収なフッ化物薄膜を生成するために水素添加を必要とするような金属ターゲットである反応性スパッタ成膜方法において、該水素添加を必要とする金属ターゲットで放電を行う際に、該遷移元素ターゲット、及びその周辺の電極部を該遷移元素とは異なる材料で被覆しておくことにより、該遷移元素ターゲットの放電安定性を維持することを特徴とした反応性スパッタ成膜方法。
【請求項9】
前記、遷移元素ターゲットがLa、Gdであることを特徴とする請求項8に記載の反応性スパッタ成膜方法。
【請求項10】
前記、低吸収菜フッ化物薄膜を生成するために水素添加を必要とする金属ターゲットがMg、Alターゲットであることを特徴とする請求項8に記載の反応性スパッタ成膜方法。
【請求項11】
前記スパッタ装置がフッ化物多層膜を作製することを目的としたものであることを特徴とする請求項8に記載の反応性スパッタ成膜方法。
【請求項12】
前記、遷移元素ターゲットを被覆する方法がスパッタリング法もしくは蒸着法であることを特徴とする請求項8に記載の反応性スパッタ成膜方法。
【請求項13】
前記、スパッタ装置において、スパッタリングガスがAr,Xe,Ne,Krの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8に記載の反応性スパッタ成膜方法。
【請求項14】
前記、スパッタ装置において、用いられる外部電力供給手段が直流電源であり、且つ、1KHz〜350kHzの高周波の矩形反転電圧を印可できることを特徴とする請求項8に記載の反応性スパッタ成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−56292(P2007−56292A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241067(P2005−241067)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】