説明

スピンドルモータ及びこのスピンドルモータを備えた記録ディスク駆動装置

【課題】 ハウジング4とブラケット2との間の固定及び導通を確実とし且つ安価に製造可能なスピンドルモータ、及びこのスピンドルモータを用いた記録ディスク駆動装置を提供すること。
【解決手段】 円形貫通孔を有するブラケット2と、円形貫通孔に挿着状態で固定されるハウジング4と、ロータ10と、ロータ10をスリーブ6に対し相対回転自在に支持する動圧軸受と、ブラケット2とハウジング4の少なくとも一方にある凸部と、フランジとブラケット2またはハウジング4の一方との間にあって回転軸心線方向に接触して両者間を電気的に接続する導電性部材34と、を有し、導電性部材34は、弾性応力を付加された状態で接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルモータ及びこのスピンドルモータを備えた記録ディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクなどの記録ディスクを回転駆動するためのスピンドルモータは、主に、シャフトを有するロータアッセンブリと、スリーブが固定された静止アッセンブリと、を備えている。シャフトは、スリーブの内周側に配置され、シャフトの上端部には、記録ディスクを搭載するロータハブが固定されている。スリーブはハウジングの内周側に固定されており、流体動圧軸受部を介してシャフトを回転自在に支持している。また、ハウジングは、ブラケット等に接着剤などの手段によって固定されている。
【0003】
スピンドルモータが用いられる記録ディスク駆動装置には、記録ディスクのデータを読みとる又は記録ディスクにデータを書き込むための磁気ヘッドが設けられている。
【0004】
以上に述べた記録ディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータでは、以下に述べるような静電気の問題がある。具体的には、スピンドルモータが駆動して記録ディスクが高速回転すると、記録ディスクと空気との間に摩擦が生じ、その結果、記録ディスクが静電気によって帯電する。そして、記録ディスクが帯電することで、記録ディスクとブラケットとの間に電位差が生じてしまう。このため、記録ディスクと磁気ヘッドとの間にもこの電位差が発生し、記録ディスクと磁気ヘッドとの間で放電が生じて磁気ヘッドが破損するおそれがある。
【0005】
特に、近年の記録ディスク駆動装置の磁気ヘッドには、記録ディスクの大容量・高密度化によって、磁気抵抗効果型磁気ヘッド(例えば、MR磁気ヘッドやGMR磁気ヘッド)が採用されている。このようなMR磁気ヘッドやGMR磁気ヘッドは、構造的に電流密度の高い素子部を有しており、また薄膜で構成されるため、電位差に対して何らかの防止構造を設けないと破損するおそれがある。
【0006】
このような問題を防ぐためには、ロータアッセンブリと静止アッセンブリとの間などに、両部材が電気的に接続する導通構造を設ける必要がある。導通構造として、従来、以下の構造が提案されていた。
【0007】
例えば、流体動圧軸受部を介してロータアッセンブリが静止アッセンブリに保持されている構造では、潤滑流体に導電性を持たせることにより、ロータアッセンブリと静止アッセンブリとの導通を図ることが可能である。また、静止アッセンブリであるハウジングとブラケットとを固定するための接着剤として導電性接着剤を用いると、ハウジングとブラケットとを等しい電位とすることができる(例えば、特許文献1参照)。更に、ハウジングとブラケットとの接着部分の一部を塑性変形させて金属接合させることにより導通を図ることもできる(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】米国特許第6512654号明細書
【特許文献2】特許第3302543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、ハウジングとブラケットとは異種の材料で形成されている場合が多い。このため、ハウジングとブラケットとの熱膨張係数が異なる場合も多い。また、導電性接着剤の熱膨張係数もハウジング及びブラケットと異なっている場合も多く、使用環境温度によっては接着部に過大な熱応力が発生し、ひび割れや剥離を生じることがある。
【0010】
このような場合、スピンドルモータのロータアッセンブリが回転すると、ロータアッセンブリの回転による振動等が流体動圧軸受部を介してスリーブに伝わり、更にスリーブからハウジングに伝わって、ハウジングとブラケットとを固定する導電性接着剤にも加わる。このため、十分な量の導電性接着剤がハウジングとブラケットとの間に塗布されていないと、使用環境温度による熱応力と振動応力等により導電性接着剤にひび割れや剥離が発生し、次第に拡大するおそれがある。このような現象が導電性接着剤に生じると、ハウジングとブラケットとの導通が阻害される。
【0011】
一方、導電性接着剤の多くは、銀を主成分としているため、高価である。このため、導電性接着剤の使用量を可能な限り少なくすることにより、コスト削減を図ることが多いが、導電性接着剤が少なすぎるとハウジングとブラケットとの間の導通が阻害される。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、その目的は、ハウジングとブラケットとを確実に、精度良く固定することができ、かつ確実に導通を確保できるスピンドルモータと、このスピンドルモータを備えた記録ディスク駆動装置と、を提供することである。
【0013】
また本発明の他の目的は、安価に製造できるスピンドルモータと、このスピンドルモータを備えた記録ディスク駆動装置と、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1乃至8に記載のスピンドルモータは、シャフトとスリーブとが回転軸心線を中心として相対回転するスピンドルモータであって、回転軸心線の軸線方向に貫通する円形貫通孔を有するブラケットと、円形貫通孔内に挿着された円筒状部分を有するハウジングと、ハウジングの内周面に嵌挿された円筒状のスリーブと、スリーブの内周面の少なくとも一部に挿通されるシャフトと、少なくともシャフトの外周面とスリーブの内周面との間で構成される流体動圧軸受と、ブラケットとハウジングの少なくとも一方には、円形貫通孔の挿着部分の内壁よりも外側又は内側に突き出た凸部と、凸部と少なくともブラケットまたはハウジングの一方との間にあって回転軸心線の軸線方向に接触して両者間を電気的に接続する導電性部材と、を有し、ブラケットとハウジングとに回転軸心線の軸線方向に接触して両者間を電気的に接続する導電性部材を備え、導電性部材は、弾性応力を付加された状態接触していることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項2及至8記載のスピンドルモータは、ブラケットおよびハウジングのうち少なくとも一方は導電性を有する樹脂で作製されており、両者は円形貫通孔内において接着剤で接合されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項3及至8記載のスピンドルモータは、ハウジングが有底円筒状をした樹脂成型品であることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項4及至8記載のスピンドルモータは、ハウジングの外周側には円形貫通孔の挿着部内壁よりも外側に突き出た凸部を有し、ブラケットとフランジとの間において回転軸心線の軸線方向に接触して両者間を電気的に接続する導電性部材を配置していることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項5及至8記載のスピンドルモータは、導電性部材には、ブラケットとハウジングとの少なくとも一方に弾性変形した状態で接触する弾性部が形成され、導電性部材が前記弾性部の弾撥力により凸部と少なくともブラケットまたはハウジングの一方との間に弾性応力を持って接触していることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項6及至8記載のスピンドルモータは、導電性部材が、凸部又はハウジング又はブラケットと一体的構造をなしていることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項7及至8記載のスピンドルモータは、導電性部材の配置位置が、円形貫通孔内におけるブラケットとハウジングの嵌挿部よりも軸線方向に関してロータハブの上壁部に近い側にあることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項8記載のスピンドルモータは、ブラケットには、コイルを有するステータが設けられ、シャフトにはステータに対向するロータマグネットを備えたロータが支持され、また、ブラケットの平坦面には、コイルが電気的に接続された回路基板が装着されていることを特徴とする。
【0022】
請求項9記載の記録ディスク駆動装置は、ベースと、ベースの天面側又は底面側に固定された、請求項1乃至8のいずれかに記載のスピンドルモータと、スピンドルモータのロータ外周部に固定された、情報を読み書きできる記録ディスクと、記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のスピンドルモータでは、ブラケット又はハウジングに設けられた凸部を介して、導電性部材が弾性変形した状態でブラケット又はハウジングに強く接触している。導電性部材の弾性変形を保った状態でブラケット及びハウジング間は強固に保持されているため、温度変化や衝撃が加わっても確実にブラケットとハウジングとの間の導通を得ることができる。
【0024】
本発明の記録ディスク駆動装置では、請求項1乃至8のいずれかに記載のスピンドルモータを使用することで、記録ディスク駆動装置の使用される温度環境下に関係なく、スピンドルモータの外部へ静電気を常に安定して逃がすことができる。従って、信頼性及び耐久性に優れた記録ディスク駆動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係るスピンドルモータ、及びこのスピンドルモータを備えた記録ディスク駆動装置を図1乃至図8を参照して説明する。尚、本発明の実施形態の説明では、便宜上各図面の上下方向を「上下方向」とするが、実際の取付状態における方向を限定するものではない。
【0026】
<第1実施形態>
<スピンドルモータの構造>
本発明の第1実施形態について図1を参照して説明する。図1は、例えばハードディスク駆動装置に使用されるスピンドルモータを示す縦断面図である。このスピンドルモータは、略カップ形状のブラケット2と、ブラケット2の中央部の円形貫通孔2aに挿着されるハウジング4、及びハウジング4の内周面に嵌挿されたスリーブ6と、を備える。
【0027】
ハウジング4は中空円筒状に形成された部材であり、ハウジング4の下端部には閉止板11をレーザー溶接によって接合することで一体構造としている。閉止板11をシール溶接することによって、ハウジング4の内部に保有するオイル7が漏洩しないように保持できる。スリーブ6の内周面はロータ10と半径方向に微小間隙を介して対向し、スリーブ6の下端面はロータ10の下端部に配するシャフトフランジ14aの上面と、閉止板11の上面はシャフトフランジ14aの下面と、軸線方向(図1の上下方向に対応)に微小間隙を介し対向している。また、スリーブ6の上端側にはシール部材5を装着し、ロータ10との間にテーパー状に間隙が変化する微小間隙を設定することでキャピラリーシール部を構成して、オイル7の飛散、漏出を防止している。なお、ブラケット2は、本発明の記録ディスク駆動装置のベース(図8の符号51)と別体に形成されているが、これに限らず、ブラケット2とベース51とを一体に形成されてもよい。
【0028】
ロータ10は、シャフト14と、シャフト14に固着されたロータハブ12と、を備えている。シャフト14は、スリーブ6に対して回転中心軸Xを中心として回転する。ロータハブ12は、略円板状の上壁部12aと、上壁部12aの外周部から垂下する周壁部12bとを備えている。
【0029】
この周壁部12bの内周面には、ロータマグネット16が接着剤によって固着されると共に、ロータマグネット16は、ステータ8と半径方向に間隙を介して対向している。また、周壁部12bの外周側面には、記録ディスク(図8の符号53)が配置されている。
【0030】
上述の構造においては、ロータ10とシール部材5との間の間隙と、スリーブ6の内周面とシャフト14の外周面との間の間隙と、スリーブ6の下端面とシャフトフランジ14aの上端面との間の間隙と、シャフトフランジ14aの下端面と閉止板11の上面との間の間隙とは、すべて連続している。そして、その連続した間隙には、潤滑流体としてオイル7が途切れることなく保持されている。
【0031】
<流体動圧軸受>
スリーブ6の内周面に設けた動圧発生溝の効果によって、シャフト14の外周面との間で上部ラジアル動圧軸受部20及び下部ラジアル動圧軸受部22が軸線方向に離間されて設けられている。
【0032】
回転に伴い発生する動圧効果により、ロータ10は上部ラジアル動圧軸受部20及び下部ラジアル動圧軸受部22で安定に回転保持される。
【0033】
また、動圧溝を有するスリーブ6の下端面とシャフトフランジ11aの上面、ならびにシャフトフランジ11aの下面と動圧溝を有する閉止板11とは、各々軸線方向に微小間隙を介して互いに対向し、スラスト動圧軸受部24、25が形成されている。
【0034】
そして、ロータ10の回転時には動圧効果によってオイルの内圧が高められ、ロータ10は安定に浮上保持される。
【0035】
<導電性部材34>
導電性部材34はハウジング4とブラケット2との導通を確保するために配置したコイルバネ状の部材であり、ハウジング4の下端面部と、ブラケット2の中央部の円形貫通孔2a内壁より内側に突出した凸部である円形貫通孔2aの挿着部よりも内径が小さいL字形フランジ2bとの間に、回転軸心線Xの軸線方向に弾性圧縮した状態で接触配置されている。導電性部材34は、例えばステンレス鋼、アルミニウム合金などに代表される、適度な強度、剛性並びに導電性を有する材料で製作されている。
【0036】
<導電性部材34の動作>
次に、導電性部材34をブラケット2及びハウジング4に装着する方法について説明する。まず、ハウジング4に閉止板11をレーザー溶接によってシール溶接し、カップ状にする。次にシャフト14を治具(図示せず)によって前記カップ内の所定の位置に保持した状態で、閉止板11とスリーブ6の下端面との隙間が所定の量になるように、スリーブ6をハウジング4に圧入接着固定する。次にシール部材5をスリーブ6の上端面に当たるようにスリーブ4の内側に接着固定する。これらのアッセンブリの内部空隙にオイル7を真空注入する。並行して、ブラケット2にはステータ8を圧入しておく。導電性部材34をブラケット2に設けたL字型フランジ2bに配置後、ブラケット2の円形貫通孔2aの上部内側に接着剤9を塗布し、上記アッセンブリを円形貫通孔2a内に挿入して、導電性部材34に所定の弾性変形を付与した状態で接着剤9を硬化させて固定保持する。さらに、ロータマグネット16を取り付けたロータハブ12をシャフト14の上部突出部に取り付け固定することで、図1の状態を得る。
【0037】
このような構成とすることにより、導電性部材34は弾性歪応力を保持した状態でハウジング4とブラケット2とにそれぞれ強固に係合するので、電気的な導電経路を常に保持することができる。
【0038】
ロータ10の回転時に、記録ディスク53で発生する静電気は、ロータ10から、ハウジング4内に満たされたオイル7を介してスリーブ6、ハウジング4に伝わる。そして、静電気は、ハウジング4の下端面から導電性部材34へと伝わり、さらにフランジ2bを経てブラケット2へと伝わる。従って、ロータ10とブラケット2との間の導通を良好に確保することができ、スピンドルモータ内に静電気が滞留するといった導通不良を確実に防止することができる。
【0039】
微小な軸受隙間で高速回転する流体動圧軸受けあるいは微小な隙間を介して記録の読み書きを行うハードディスク駆動装置では、ごく微小なパーティクルの発生をも回避する必要があるが、導電性部材34は材料の弾性変形の範囲で使用するので、組み立て時の変形に伴うパーティクルの発生を抑えられ清浄なスピンドルモータを製作することができる。
【0040】
また、近年ハードディスク駆動装置は、カーナビゲーションシステムに代表される車載用機器にも搭載され始めている。ところが車載用機器の場合、様々な環境下での使用が予想されることから、これに用いられる機器に対しても非常に広い温度範囲で安定して動作することが要求されている。例えば、ハードディスク駆動装置に対しては、温度差が100℃以上の環境下においても使用が可能であること、というこれまでに無い厳しい温度環境下での使用が要求される。
【0041】
このような温度環境下において、従来のようにハウジング4とブラケット2との間に導電性接着剤を使用した場合、前述のように構成部材の熱膨張係数の違いから過大な熱応力が発生して導電性接着剤にひび割れや剥離が生じ、ハウジング4とブラケット2との導通が阻害されやすい。しかし、本実施形態では、ハウジング4とブラケット2との間に金属製の導電性部材34を設けているため、前述のような温度環境下においてもハウジング4とブラケット2間の導通を確実に確保できる。
【0042】
しかも、導電性部材34は回転軸心線Xの軸線方向に弾性圧縮した状態で接触配置されているので、構成部材の熱膨張係数が異なってもその熱膨張変形差を吸収でき、接触状態を維持することができる。
【0043】
なお、ブラケット2の貫通孔2a部におけるハウジング4とのラジアル隙間は挿入接着できる程度に小さくできるので、導電性部材34の圧縮固定時にハウジング4がブラケット2に対して大きく傾いて接着固定されることはない。
【0044】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態について図2を参照して説明する。なお、この実施形態のモータは、上述の第1実施形態と基本的な構造は同等であるため、対応部材の符号を100番台として対応を明示し、更に説明は異なる部分についてのみ説明する。
【0045】
図2のスピンドルモータのブラケット102中央部にある円形貫通孔102には、ハウジング104が固定されている。ハウジング104は、導電性樹脂で成型された略カップ状の有底円筒部材であり、開口側の外周部には円形貫通孔102aの挿着部内径よりも大きな外径を持つ凸部であるハウジングフランジ104aがある。ハウジング104の内周面には、スリーブ106が固定されている。スリーブ106は、オイル107が含浸された多孔質焼結体であるが、その材質は特に限定するものではなく、各種金属粉末や金属化合物粉末、非金属粉末を原料として成型、焼結したものが使用できる。原料としては、Fe−Cu、Cu−Sn、Cu−Sn−Pb、Fe−Cなどである。そして、スリーブ106の内周面とシャフト114の外周面との間にラジアル動圧軸受部120、121が形成され、スリーブ下端面およびハウジング104の底面とシャフトフランジ114aとの間にスラスト動圧軸受部124、125が形成される。
【0046】
本実施形態では、円形貫通孔102aの上側端であるブラケット上部端面102cと、円形貫通孔102aの内径よりも大きな外径を持つハウジングフランジ104aとの間に、コイルバネ状の導電性部材134が回転軸心線の軸線方向に弾性圧縮された状態で固定されている。
【0047】
組立手順と要領は第1実施形態の場合と略同じであるが、ブラケット2の円形貫通孔2aの上部内側に接着剤9を塗布し、軸及び軸受のアッセンブリを円形貫通孔2a内に挿着する工程において、第1実施形態では接着剤がハウジングの下端面側に押し出されて導電部材34との間に入り、ハウジング4と導電性部材34の接触を妨げられて導通がうまく取れなくなる可能性があったのに対し、本実施形態では、導電性部材134は円形貫通孔102aの上側端に設置されているので、挿着時にも接着剤が溢れてくることはなく、確実な接触を確保することが可能である。
【0048】
また、本実施形態では、ハウジング104が樹脂製、ブラケット102が金属製であり、両者の熱膨張係数の差は非常に大きい。このために低温時にはハウジング104と接着剤109が大きく収縮し、挿着部には大きな熱引張応力が発生して接着剤109にひび割れや剥離が生じる可能性が高い。
【0049】
しかも、一般的に、樹脂には接着剤がつきにくく接着強度が得られにくいので、振動応力などが加われば、金属製同士を接着接合する以上にひび割れや剥離が発生しやすい。したがって、確実に導通を得られる本方式を用いることで信頼性の高いモータを製作することができる。
【0050】
第2実施形態では、その他の前述の第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、ハウジング104を導電性樹脂で成型し、スリーブ106を多孔質焼結体で成型することにより、安価にスピンドルモータを製造することができる。
【0051】
<第3実施形態>
次に本発明の第3実施形態について図3を参照して説明する。なお、この実施形態のモータは、上述の第2実施形態と基本的な構造は同等であるため、対応部材の符号を200番台として対応を明示し、更に説明は異なる部分についてのみ説明する。
【0052】
本実施形態では、円形貫通孔202aの上側端であるブラケット上部端面202cとハウジング204の外側に凸形状をなすハウジングフランジ204aとの間に設置する導電性部材234の形状が、皿ばね形状をしている。なお、導電性部材の形状はこれだけに限るものではなく、所定の強度、剛性、導電性を有するものであれば、例えば周方向で波打った波状ばね形状や、断面が“O”、“C”、“U”などの形をしたリング形状でもよい。
【0053】
第3実施形態においても、前述の第1、2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0054】
<第4実施形態>
次に本発明の第4実施形態について図4を参照して説明する。なお、この実施形態のモータは、上述の第2実施形態と基本的な構造は同等であるため、対応部材の符号を300番台として対応を明示し、更に説明は異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
本実施形態では、導電性部材334は、ハウジング304の外周部から鍔状に外側に広がった薄肉フランジ構造をしており、ハウジング304と一体構造をしている。
【0056】
本構造においては、ハウジング304と導電性部材334は、導電性のある金属ウィスカを混入した導電性樹脂によって射出成型で一体成型しており、部品点数も減るので低コストになる。
【0057】
<第5実施形態>
次に本発明の第5実施形態について図5を参照して説明する。なお、この実施形態のモータは、上述の第2実施形態と基本的な構造は同等であるため、対応部材の符号を400番台として対応を明示し、更に説明は異なる部分についてのみ説明する。
【0058】
本実施形態では、導電性部材434は、ハウジング404の外周側に凸部を形成しているハウジングフランジ404aの下面側に設けた突起部404bに不錆金属膜434aをコーティングすることで構成している。ハウジング404は銅系材料の板材からプレス成型で製作するが、ハウジングフランジ404aの平面度を出すことは難しい。そこで所定の値以上に下側に傾いたテーパー形状にし、周方向の数点は確実にブラケット上面402cに接触するように圧縮してとりつけ、さらにその接触点では確実に導通がとれるように表面には不錆金属膜434aをコーティングし、錆の発生を防止している。
【0059】
<第6実施形態>
次に本発明の第6実施形態について図6及び図7を参照して説明する。なお、この実施形態のモータは、上述の第2実施形態と基本的な構造は同等であるため、対応部材の符号を500番台として対応を明示し、更に説明は異なる部分についてのみ説明する。
【0060】
本実施形態では、導電性部材534は、ハウジング504と一体構造をしており、ハウジング504の外側に突き出た4つの凸部からハウジング504の外周に沿って円弧状のバー形状をしている。このような構造にすることで、部品数を増やすことなく、適度な剛性を選択することが可能となる。図7は第6実施形態のハウジング504と導電性部材534の単体図である。
【0061】
<記録ディスク駆動装置>
次に記録ディスク駆動装置50の内部構成について、図7を参照して説明する。ベース51、58の内部は塵・埃等が極度に少ないクリーンな空間を形成しており、その内部に情報を記憶するハードディスク等の円板状の記録ディスク53が装着されたスピンドルモータ52が設置されている。加えてベース51、58の内部には、記録ディスク53に対して情報を読み書きするヘッド移動機構57が配置され、このヘッド移動機構57は、記録ディスク53上の情報を読み書きするヘッド部56と、このヘッドを支えるアーム55及びヘッド56及びアーム55を記録ディスク53上の所要の位置に移動させるアクチュエータ部54とにより構成される。
【0062】
このような記録ディスク駆動装置50のスピンドルモータ52として図1乃至図6のいずれかのスピンドルモータを使用することで、記録ディスク駆動装置の使用される温度環境下に関係なく、スピンドルモータの外部へ静電気を常に安定して逃がすことができる。従って、信頼性及び耐久性に優れた記録ディスク駆動装置を提供することができる。
【0063】
以上、本発明に従うスピンドルモータ及びこのスピンドルモータを備えた記録ディスク駆動装置の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0064】
例えば、本実施形態では、下部にスラスト軸受を集中配置した気液境界部を1箇所だけ有する軸受型式を示したが、上下にスラスト軸受を分散配置したり、気液境界部を複数設けた軸受型式でも良い。また、動圧溝の形状もスパイラルグルーブ、ヘリングボーン、円弧溝等、どのような形状であってもよい。さらに、流体動圧軸受の流体としてオイルを用いたが、空気を流体とした、いわゆるエア動圧軸受を用いたモータを用いても、本発明と同様の作用、効果を得られる。
また、本実施形態では、ロータマグネットの半径方向内側にステータを設けたアウターロータ型モータを用いたが、これに限らず、ロータマグネットの半径方向外方にステータを設ける、いわゆるインナーロータ型モータにも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態のスピンドルモータを示す縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態のスピンドルモータを示す縦断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態の導電性部材の装着状態を示す図である。
【図4】本発明の第4実施形態のスピンドルモータを示す縦断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態のスピンドルモータを示す縦断面図である。
【図6】本発明の第6実施形態のスピンドルモータを示す縦断面図である。
【図7】本発明の第6実施形態のハウジングと導電部材の単体図である。
【図8】図8は、本発明の記録ディスク駆動装置を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0066】
2 ブラケット
2a 貫通孔
4 ハウジング
5 シール部材
6 スリーブ
7 オイル
8 ステータ
9 接着剤
10 ロータ
11 閉止板
12 ロータハブ
14 シャフト
16 ロータマグネット
20 上部ラジアル動圧軸受部
22 下部ラジアル動圧軸受部
24 上部スラスト動圧軸受部
25 下部スラスト動圧軸受部
34 導電性部材
51 ベース
53 記録ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトとスリーブとが回転軸心線を中心として相対回転するスピンドルモータであって、
前記回転軸心線の軸線方向に貫通する円形貫通孔を有するブラケットと、
前記円形貫通孔内に挿着された円筒状部分を有するハウジングと
前記ハウジングの内周面に嵌挿された円筒状のスリーブと、
前記スリーブの内周面の少なくとも一部に挿通される前記シャフトと、
少なくとも前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間で構成される流体動圧軸受と、
前記ブラケットと前記ハウジングの少なくとも一方には、前記円形貫通孔の挿着部分の内壁よりも外側又は内側に突き出た凸部と、
前記凸部と少なくとも前記ブラケットまたは前記ハウジングの一方との間にあって前記回転軸心線の軸線方向に接触して両者間を電気的に接続する導電性部材と、を有し、
前記導電性部材は、弾性応力を付加された状態で接触していることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項2】
前記ブラケットおよび前記ハウジングのうち少なくとも一方は導電性を有する樹脂で作製されており、
両者は前記円形貫通孔内において接着剤で接合されていることを特徴とする請求項1記載のスピンドルモータ。
【請求項3】
前記ハウジングが有底円筒状をした樹脂成型品であることを特徴とする請求項1又は2記載のスピンドルモータ。
【請求項4】
前記ハウジングの外周側には前記円形貫通孔の挿着部内壁よりも外側に突き出た凸部を有し、
前記ブラケットと前記凸部との間において前記回転軸心線の軸線方向に接触して両者間を電気的に接続する前記導電性部材を配置していることを特徴とする請求項1及至3記載のスピンドルモータ。
【請求項5】
前記導電性部材には、前記ブラケットと前記ハウジングとの少なくとも一方に弾性変形した状態で接触する弾性部が形成され、前記導電性部材が前記弾性部の弾撥力により前記凸部と少なくとも前記ブラケットまたは前記ハウジングの一方との間に弾性応力を持って接触していることを特徴とする請求項1及至4記載のスピンドルモータ。
【請求項6】
前記導電性部材が、前記凸部及び/又は前記ハウジング及び/又は前記ブラケットと一体的構造をなしていることを特徴とする請求項1及至5記載のスピンドルモータ
【請求項7】
前記導電性部材の配置位置が、前記円形貫通孔内における前記ブラケットと前記ハウジングの挿着部よりも前記軸線方向に関してロータハブの上壁部に近い側にあることを特徴とする請求項1及至6記載のスピンドルモータ。
【請求項8】
前記ブラケットには、コイルを有するステータが設けられ、
前記シャフトには前記ステータに対向するロータマグネットを備えたロータが支持され、
また、前記ブラケットの平坦面には、前記コイルが電気的に接続された回路基板が装着されていることを特徴とする請求項1及至7記載のスピンドルモータ。
【請求項9】
ベースと、
前記ベースの天面側又は底面側に固定された、請求項1乃至8のいずれかに記載のスピンドルモータと、
前記スピンドルモータのロータ外周部に固定された、情報を読み書きできる記録ディスクと、
前記記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス部とを備えたことを特徴とする記録ディスク駆動装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトとスリーブとが回転軸心線を中心として相対回転するスピンドルモータであって、
前記回転軸心線の軸線方向に貫通する円形貫通孔を有するブラケットと、
前記円形貫通孔内に挿着された円筒状部分を有するハウジングと
前記ハウジングの内周面に嵌挿された円筒状のスリーブと、
前記スリーブの内周面の少なくとも一部に挿通される前記シャフトと、
少なくとも前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間で構成される流体動圧軸受と、
前記ブラケットと前記ハウジングの少なくとも一方には、前記円形貫通孔の挿着部分の内壁よりも外側又は内側に突き出た凸部と、
前記凸部と少なくとも前記ブラケットまたは前記ハウジングの一方との間にあって前記回転軸心線の軸線方向に接触して両者間を電気的に接続する導電性部材と、を有し、
前記導電性部材は、弾性応力を付加された状態で接触していることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項2】
前記ブラケットおよび前記ハウジングのうち少なくとも一方は導電性を有する樹脂で作製されており、
両者は前記円形貫通孔内において接着剤で接合されていることを特徴とする請求項1記載のスピンドルモータ。
【請求項3】
前記ハウジングが有底円筒状をした樹脂成型品であることを特徴とする請求項1又は2記載のスピンドルモータ。
【請求項4】
前記ハウジングの外周側には前記円形貫通孔の挿着部内壁よりも外側に突き出た凸部を有し、
前記ブラケットと前記凸部との間において前記回転軸心線の軸線方向に接触して両者間を電気的に接続する前記導電性部材を配置していることを特徴とする請求項1及至3のいずれかに記載のスピンドルモータ。
【請求項5】
前記導電性部材には、前記ブラケットと前記ハウジングとの少なくとも一方に弾性変形した状態で接触する弾性部が形成され、前記導電性部材が前記弾性部の弾撥力により前記凸部と少なくとも前記ブラケットまたは前記ハウジングの一方との間に弾性応力を持って接触していることを特徴とする請求項1及至4のいずれかに記載のスピンドルモータ。
【請求項6】
前記導電性部材が、前記凸部及び/又は前記ハウジング及び/又は前記ブラケットと一体的構造をなしていることを特徴とする請求項1及至5のいずれかに記載のスピンドルモータ
【請求項7】
略円板状の上壁部と前記上壁部の外周部から垂下する周壁部を備えたロータハブが前記シャフトの一方の端に取り付けられ、前記シャフトと一体となって前記回転軸心線を中心として回転するロータを構成し、
前記導電性部材の配置位置が、前記円形貫通孔内における前記ブラケットと前記ハウジングの挿着部よりも前記軸線方向に関して前記ロータハブの前記上壁部に近い側にあることを特徴とする請求項1及至6のいずれかに記載のスピンドルモータ。
【請求項8】
前記ブラケットには、コイルを有するステータが設けられ、
前記シャフトには前記ステータに対向するロータマグネットを備えた前記ロータが支持され、
また、前記ブラケットの平坦面には、前記コイルが電気的に接続された回路基板が装着されていることを特徴とする請求項1及至7のいずれかに記載のスピンドルモータ。
【請求項9】
ベースと、
前記ベースの天面側又は底面側に固定された、請求項1乃至8のいずれかに記載のスピンドルモータと、
前記スピンドルモータの前記ロータ外周部に固定された、情報を読み書きできる記録ディスクと、
前記記録ディスクの所要の位置に情報を書き込み又は読み出すための情報アクセス部とを備えたことを特徴とする記録ディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−280046(P2006−280046A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92156(P2005−92156)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】