説明

スプレー可能なカプセル化された機能性微粒子組成物及びその製造方法

優れた止血及び傷保護効果を期待することができ、患者が自ら処置可能な上に、体内用に使用される場合、エアガン(air gun)を用いて手術時に広い傷に素早く塗布可能あり、迅速な止血効果を期待することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー可能なカプセル化された機能性微粒子組成物及びその製造方法に関するものであって、さらに詳しくは、生分解性−生体適合性天然高分子からなる外部層と、熱感応性機能性合成高分子であって、薬物を担持できる内部層の2重構造からなっており、その運搬体として揮発性溶媒又は気体を使用することを特徴とするスプレー可能なカプセル化された機能性微粒子組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
止血は傷発生後、24時間以内に患者の生命を決定する重要な要素である。致命的な傷が発生した後、患者が病院に着くまでの時間は平均20分前後であり、これは患者が低血圧で死亡する可能性が50%になる時間である。また、正常成人の場合、体重の10%以上が出血で失われると、体全体の組織が低酸素状態になるショック状態に陥り、危険になるため、迅速な止血処置が必要とされる。従って、効果的な止血の成功は、死亡可能性の減少及び外傷誘発時に2次感染を減らし、手術過程中に血液損失を最小化し、手術後の合併症を減らし、手術時間を短縮させるなどの重要な要素として作用する。しかし、一般的に行われる圧迫ドレッシング、包帯、特定点圧迫法は止血に非効果的であり、素早くかつ効果的に止血することが容易ではない。
【0003】
止血剤は有効性と安全性を充足させることが最も重要であり、優れた止血効果を有するとともに、組織反応と治癒過程において体内で安全でなければならず、体内器官に残されたとき、完璧に分解、吸収されなければならない。また、使用者が適用するのに便利かつ低コストでなければならないのは当然である。しかし、従来使用されていた出血抑制用生分解性製品の殆どはタンパク質剤を含有して、低温で保管しなければならないなど、特別な保管条件が要求され、その殆どがスポンジやグルータイプであるという構造的な特性や施術上の困難性などのため、身体内の臓器、組織などの患部に容易に粘着されない短所がある。また、外用止血剤はその殆どがバンド形態で、止血効果が低く、止血速度も十分でなく、既に開発されたスプレータイプの止血剤は酸化セルロースを材料とし、異物反応及び炎症反応のために止血剤として使用するには負担があり、さらに、単純な止血メカニズムで作用するだけで、止血後の傷保護や癒着防止効果のためにはさらなる処置が必要とされるという問題があった。
【0004】
手術後に発生する臓器及び組織の癒着は損傷された組織の細胞が増殖し再生する過程で起こる生理現象であるが、過度に組織が癒着されるか、意図しなかった他の組織及び臓器と癒着が起こった場合は、臓器や組織の機能に障害をもたらし、場合によっては癒着剥離再手術が必要になることも、生命を脅かす要因になることもある。手術後に発生する組織の癒着は人体の殆ど全ての部分で起こり、特に腹部手術後の内蔵癒着の原因としては、腹腔内に流入された異物質、感染による炎症反応、組織の虚血、血液凝固、臓器膜の破裂などが知られているが、臨床的にこれを予防するための確実な方法は現在までない実情である。出血後、癒着が起こる可能性は非常に高いが、止血だけでなく癒着まで防止する効果を有する止血剤は現在、開発されておらず、むしろ酸化セルロースで製造された織物形態の止血ガーゼなどを使用すると、生体内で分解されるときに酸性の分解物を排出するようになり、炎症反応を多少誘発するか、癒着をさらに促進させるようになる。従って、広範囲であり且つ不規則な患部に正確に塗布され、止血メカニズムを形成して止血及び傷保護、又は癒着防止の効果まで期待できる機能性止血剤を開発することが課題として残っていた。
【0005】
現在使用されている止血剤用材料は、多糖類を含んだ生体由来の天然高分子、非生体由来の天然高分子などがあり、具体的に酸化セルロース(OC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸カルシウム、硫酸デキストラン、ヒアルロン酸(HA)ナトリウム、硫酸コンドロイチン(CS)、及びコラーゲン、フィブリン、ゼラチンなどが使用可能なものとして知られている。この材料は単独又は特定な構造をなしてともに使用されている。
【0006】
上記のような止血剤に対する従来技術として、米国特許第6,706,690号は、ゼラチンを原料にして架橋された生物学的に好適な高分子と、架橋されていない生物学的に好適な高分子とから構成され、乾燥させた血液活性組成物に関する特許に関して説明しているが、ここでは、架橋された高分子は血液に暴露させるとハイドロゲルになり、非架橋高分子は相対的に早く解けて止血剤や薬物伝達体として使用できる。
【0007】
また、米国特許第7,262,181号は、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、そして医薬的に使用可能な塩形態のカルボキシメチルセルロースのような水溶性セルロールエーテル誘導体と、特に生体内で吸収可能な水溶性セルロールエーテル誘導体から構成された止血材料について記載している。その構造は、繊維、織物、不織布、スポンジ、フィルム、カプセル、カラム、コロイド形態であるとされる。
【0008】
米国特許第6,432,415号は、多様な溶解度を有する多くの薬物を特定部位に送るための運搬体であって、ゲルやエアロゾルとして適用される、水溶性ではないアルキルセルロースと揮発性溶剤と水、溶解製剤と分散剤が混合された組成物について記載している。
【0009】
米国特許第6,372,196号も、刺傷、火傷、創傷などによる多様な傷の素早い止血と傷の2次感染を防ぐためのエアロゾルであって、微細分散された ポリアンヒドログルコロニック及び/又はその塩(polyanhydroglucoronic acid and/or salts thereof)の噴射剤からなるシステムについて記載しており、これは止血剤としての使用に関するとされる。WO2006/006140A1には生体結合性高分子であるペクチンとグリセロール可塑剤材料の組成物について記載されており、これは微細分散された酸化セルロースから構成されて傷に分散され、髭剃り傷や小さい刺傷などの剥けた傷表面に枝葉的に処置される。
【0010】
しかし、上記のようなハイドロゲル、繊維、フォーム、不織布などの形態を有する止血剤は、製品が傷部位に素早くかつ正確に塗布されにくく、処置時に医療陣の接触による感染の危険があって、効果が充分に発揮されにくい。また、酸化セルロースを原料とする止血剤は生体由来物質ではないため、生体適合性が他の生体由来物質と比べて低く、分解時に酸性pHを示すことから、トロンビン又はフィブリノーゲンを含む酸敏感性止血性タンパク質と接触すると迅速に変性され、炎症の可能性が高い。製品の形態がエアロゾルである場合、広い部位に容易に塗布できるが、止血の効果のみ有し、傷部位に塗布した際に充分に固定されず、流れ落ちることもあって、傷の治癒段階に応じた止血、傷保護などの役割を順次期待することは難しい。また、体外傷ではない手術中の止血の場合は、止血と傷保護だけでなく、傷と血液による癒着まで考慮しなければならない。
【0011】
現在販売されている止血剤製品のうち、(株)緑十字のグリーンプラストは国内止血剤市場の70%以上を占める製品であって、手術時に小さな患部に処置し、ゲル化して使用する。しかし、これはトロンビンとフィブリングルーを混合して使用する製品で、冷蔵保管しなければならない短所があり、広い部位に素早く処置し難いという短所がある。一方、スポンジ形態のゲルフォーム(Gelfoam)は、ゼラチンを原料にした製品で、手術時に止血に多く使用されているが、体外の傷に処置することが難しく、手術陣の手による感染の危険があり、手術部位の水分を最小化しなければならない制約がある。
【0012】
また、Johnson&JohnsonのSurgicel(登録商標)、BDのOxicelは酸化セルロースで製造された織物形態の止血ガーゼで、縫合しにくいときに主に使用されるが、以上に説明したように、生体内で分解時に酸性の分解物を排出して炎症反応を多少誘発することもあり、手術部位に適用する場合も同様に、接触による感染が起こることもある。
【0013】
Altracelのスプレータイプ止血剤Seal onは酸化セルロースで製造された止血剤で、揮発性溶剤とガスを運搬体にして傷に塗布される製品であって、傷に適用することは容易であるが、体外傷にのみ適用することができ、止血のために塗布された際に傷部位から流れ落ちかねないという問題があり、小さな傷に対する止血は可能であるが、止血及び消毒、傷保護の効果は期待できないという問題がある。
【0014】
結論として、上記のような従来技術は、ゲル、スポンジ、織物などの構造で、局所的な部位に適用しなければならない上に、素早い処置が難しく、適用時に接触による汚染の可能性がある。また、使用された原料が組織又は血液と直接接触すると、炎症性反応が避けられず、分解されるときに止血性タンパク質と接触すると変性されることもあり、特別な保管条件を必要とするという問題などがある。そして、スプレータイプで製造された止血剤の場合、素早くかつ容易に処置可能であるが、手術時には使用しにくく、塗布された傷部位にちゃんと位置していることが難しく、傷治癒の過程に応じた止血及び消毒、傷保護の役割が果たせないという問題があった。
【0015】
止血剤はその目的と用途に合わせて使用されるために、様々な条件を満たさなければならない。
【0016】
第一に、優れた止血効果のために患部に素早くかつ正確に塗布できなければならず、第二に、組織反応と治癒過程において体内に安全でなければならないため、異物性炎症反応が最小化されなければならない。第三に、体内器官に残されたとき、完璧に分解、吸収されなければならず、第四には、一般使用者と医者が適用するのに便利で、手術時には接触による汚染があってはいけない。また、処置後、患部に確実に固定されなければならず、止血及び傷保護の効果まで期待することができ、手術後によく誘発される癒着まで防止することができるならば、非常に好適な止血剤であると認められる。
【0017】
本発明者らは、本発明を通じて、先に言及した従来技術の問題を解決し、止血剤としての要求条件に適した止血剤を開発することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第6,706,690号
【特許文献2】米国特許第7,262,181号
【特許文献3】米国特許第6,432,415号
【特許文献4】米国特許第6,372,196号
【特許文献5】WO2006/006140A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は従来のゲル、溶液、スポンジ、織物、エアロゾル形態の止血剤の短所であった処置容易性及び処置範囲の狭さ、接触による汚染可能性を改善し、酸化セルロース、ゼラチン、タンパク質製剤含有止血剤などを原料とする止血剤の短所であった炎症及び異物反応、分解時の変性可能性、保管条件のややこしさなどを改善して、止血性能の向上とともに使用者の利用便宜性を向上させることができるスプレー可能な機能性微粒子組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0020】
本発明の他の目的は、止血機能成分と熱感応性機能成分が2重微粒子構造を有することで、傷に対する止血効果及び患部に対する粘着性や傷保護効果を高めて、体外傷に活用する際に素早い止血効果及びドレッシングの傷保護効果を有し、手術過程における止血時に広い部位に対する素早い止血効果、及び傷に対する癒着防止効果を有するスプレー可能な機能性微粒子組成物及びその製造方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらに他の目的は、揮発性溶媒あるいは気体を充填し、体外用で患者が自ら容易に患部に処置することができ、止血及び傷保護機能を有し、手術中に医者が使用する際にエアガン(air gun)を用いて広い部位に素早く塗布可能であり、操作が簡単で、かつ接触による感染可能性の減少及び止血、癒着防止効果を有するスプレー可能な機能性微粒子組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するために、本発明は、
a)下記コアを取り囲み、生分解性−生体適合性高分子からなる2重構造微粒子の外部層と、
b)熱感応性機能性高分子からなり、薬物を担持できる2重構造微粒子のコア層と、
c)前記2重構造の微粒子を運搬する揮発性溶媒あるいは気体からなる運搬体とを含むことを特徴とするスプレー可能な機能性微粒子組成物を提供する。
【0023】
また、本発明は前記スプレー可能な機能性微粒子組成物の製造方法において、
a)熱感応性機能性高分子からなり、薬物を担持できる2重微粒子のコアを形成する段階と、
b)生分解性−生体適合性高分子からなる2重微粒子の外部層を形成する段階と、
c)揮発性溶媒あるいは気体からなる運搬体を充填する段階とを含むことを特徴とするスプレー可能な機能性微粒子組成物の製造方法を提供する。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは熱感応性を有する機能性高分子の表面に止血機能を有する生体適合性−生分解性高分子をコーティングした2重構造の機能性微粒子を形成して、揮発性溶媒あるいは気体を運搬体として充填した後、スプレー可能な機能性微粒子組成物を製造した結果、患部に素早くかつ容易に処置可能であり、止血性能を有する生体適合性−生分解性高分子が素早い止血効果を示し、以後、熱感応性機能性高分子が傷に粘着されたまま傷保護及び癒着防止効果を示すことを確認し、これに基づいて本発明を完成した。
【0025】
本発明の止血剤について、次のようにさらに詳細に説明する。
<2重構造の機能性微粒子>
本発明による2重構造機能性微粒子の外部層は生分解性−生体適合性高分子からなる。
【0026】
前記生分解性−生体適合性高分子としては、コンドロイチン、硫酸コンドロイチン、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、アルジネート、ヘパリンなどのグリコサミノグリカン;コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、フィブリンなどのタンパク質;バーシカン、アグリカン、パールカン、デコリン、ビグリカン、セルグリシン、 シンデカンなどのようなプロテオグリカン;フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、トロンボスポンジン、テネイシングリコプロテイン;ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、及びその誘導体などのリン脂質;又はセレブロシド、ガングリオシド、ガラクトセレブロシド、及びその誘導体、コレステロールなどの糖脂質などを使用することができる。
【0027】
前記微粒子の外部層は架橋剤によって架橋されることができ、架橋剤としては、Mg2+、Mn2+、Ca2+、Co2+、Cu2+、Sr2+、Ba2+、Fe2+から選択された1種以上のカチオンを含む化合物、又はキトサン、グルタルアルデヒド、ホルマリン、ポリ-L-リシン、ポリアクリル酸、及びポリメタクリル酸を含むアクリル酸系高分子、ドーパミンを含むヒドロキシルアミン化合物、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、トレオニン、リシン、トリプトファン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、システイン、グルタミン、グルタメート、グリシン、プロリン、セリン、チロシンなどを含むアミノ酸類及びその高分子を使用することができる。
【0028】
本発明による2重構造機能性微粒子のコアは、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン共重合体から選択された一つ又は二つ以上の共重合体からなり、これは人体に無害であり、その固有の特性である熱感応性のために、使用が便利であり、止血剤の止血及び傷保護や癒着防止の効果を増進させることができる。この共重合体の重量平均分子量は1,000 dalton以上100,000 dalton以下のものが好ましく、特に重量平均分子量 5,000 dalton以上50,000 dalton以下のものがさらに好ましい。
【0029】
前記コアは体内で体液に溶解される場合、適切な組成で混合されるか、あるいは化学的に結合された共重合体の熱感応性によって体温によりゲル化され、組織の傷部位に集中的に存在しながら傷保護及び癒着防止の障壁として作用する。
【0030】
前記コアは薬物を含むことができ、薬物としては、早期に止血を促進させるトロンビン、アプロチニン、そしてステロイド系及び非ステロイド系抗炎症剤などから一つ又は二つ以上の組み合わせを選択して使用することができる。薬物の含量は0.1乃至40重量%であることが好ましく、0.1重量%以下の場合、薬物による効果が期待に及ばず、40重量%以上の場合、微粒子内部に安定的に混合されにくい。
【0031】
前記2重構造機能性微粒子において、a)生分解性−生体適合性高分子は20乃至99重量%であることが好ましく、b)熱感応性機能性高分子は1乃至80重量%であることが好ましい。生分解性止血高分子が20重量%以下で少ないと、傷や皮膚表面で十分に血栓を形成することができず、止血作用が半減され、熱感応性共重合体が80重量%以上に混合されると、止血効果が期待できず、低温でもゲル化されて使用が不便になる。
【0032】
前記2重構造機能性微粒子は0.01μm乃至400μmの直径で製造されることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm乃至200μmである。2重構造の微粒子が小さすぎると、生分解性止血性高分子と熱感応性共重合体が適切な比率で微粒子を形成することができず、止血及び傷保護機能を適切に行うことが難しく、微粒子が大きすぎると、スプレーを用いた塗布時に微粒子の吐出が難しい。従って、適切な攪拌速度で一定サイズの微粒子を製造することによって、スプレーが容易でありながら止血及び傷保護効果まで最大に有する止血剤を開発することができる。
【0033】
前記微粒子の直径とは乾燥された微粒子の平均粒径を意味するが、SEM(scanning electron microscope)装備を用いて測定される。
【0034】
<揮発性運搬体>
本発明に使用される揮発性運搬体としては、液状又は気状で、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、1,1-フルオロエタン (1,1-フルオロエタン)、プロパン、ブタン、窒素、空気、二酸化炭素などを使用することができる。
【0035】
前記揮発性運搬体は全体組成物において20乃至90重量%で含有されることが好ましく、さらに好ましくは30乃至80重量%で含有される。前記揮発性運搬体の含有量が20重量%未満であるか、90重量%を超過すると、目的とするスプレーの容易性、均一な混合、止血のための充分な塗布などが充分に確保できないという問題がある。
【0036】
本発明による止血剤は傷部位に処理しやすく、体外の傷組織に適用されたとき、2重機能性微粒子の生分解性−生体適合性高分子が血栓を形成して止血作用をし、熱感応性共重合体が組織や傷に対する粘着性を高め、担持された薬物がこのような止血作用をさらに促進するか、消毒及び抗炎作用をすることができ、傷保護及び癒着防止効果を示す特性がある。また、接触面で生体適合性に優れているため、分解時に起こりかねない炎症反応や残存可能性などが少ない。
【0037】
本発明の2重構造機能性微粒子の製造方法としては、a)エマルジョンを形成した後、乾燥して粉末を製造する方法、b)エマルジョンを非溶媒に析出して粉末を製造する方法、c)コア用粉末にスプレーコーティングをした後、乾燥して製造する方法、d)生分解性止血性高分子と熱感応性共重合体とを混合した後、スプレー乾燥して粉末を形成する方法、e)電気噴射によって粉末を製造する方法、f)生分解性止血性高分子と熱感応性共重合体とを混合して乾燥した粉末を粉砕して微粒子にする方法などがある。
【発明の効果】
【0038】
本発明によるスプレー可能な機能性微粒子組成物は、従来のゲル、溶液、スポンジ、織物、エアロゾル形態止血剤の問題であった処置容易性及び処置範囲の狭さ、接触による汚染可能性を改善し、酸化セルロース、ゼラチン、タンパク質製剤含有止血剤などを原料とする止血剤の短所であった炎症及び異物反応、分解時の変性可能性、保管条件のややこしさなどを改善することができる。従って、患部に素早くかつ容易に処置可能であり、止血性能を有する生体適合性−生分解性高分子が素早い止血効果を示し、以後、熱感応性機能性高分子が傷に粘着されたまま傷保護及び癒着防止効果を示すことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のスプレー可能なカプセル化された機能性微粒子組成物製品の概略図である。
【図2】本発明のスプレー可能なカプセル化された機能性微粒子の模式図である。
【図3】本発明の実施例13によって製造されたスプレー可能なカプセル化された機能性微粒子組成物に担持された薬物の走査電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例13によって製造した微粒子止血剤(以下、粉末止血剤)をエスディーラット(SD-rat)に処置して2週間後に、市販止血剤であるSurgicel(登録商標)と粉末止血剤の分解程度の比較図である。
【図5】実施例13によって製造した微粒子止血剤(以下、粉末止血剤)をエスディーラット(SD-rat)に処置して2週間後に、肝臓(liver)、腎臓(kidney)、脾臓(spleen)のH&E染色(x100)比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に対する理解のために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するだけで、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1乃至7<2重構造の微粒子製造>
下記表1に示したように、生分解性−生体適合性高分子の種類、含量、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン共重合体から選択された熱感応性共重合体(poloxamer)の含量のそれぞれ異なる2重構造の微粒子を製造した(下記実施例13参照)。
【0042】
【表1A】

【表1B】

【0043】
実施例8乃至10<熱感応性共重合体に薬物担持>
下記表2に示したように、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン共重合体から選択された熱感応性共重合体(poloxamer)溶液の製造時に薬物を担持させることができる(熱感応性共重合体溶液製造時に薬物を添加及び混合する方法を使用)。担持される薬物の種類、含量を変化させて製造した。
【0044】
【表2】

上記表2に示したように、薬物の含有量と関係なく、製造が容易で、分散されやすいが、含量が低い場合には、強い薬理効果を期待することは難しかった。
【0045】
実施例11乃至12<揮発性運搬体の充填>
下記表3に示したように、生分解性−生体適合性高分子と熱感応性共重合体で製造された2重構造のカプセル化された微粒子を揮発性運搬体に分散させるとき、2種構造のカプセル化された微粒子と揮発性運搬体を異ならせて製造した。
【0046】
【表3】

前記揮発性運搬体の含有量が20重量%未満のときは、スプレーが容易ではなく、均一に混ざらなかった。
【0047】
実施例13
ヘキサン(n-Hexene)溶液に熱感応性共重合体(poloxamer)を10重量%で溶液を添加しながら攪拌してエマルジョンを形成した後、ゼラチン10重量%溶液を添加して再び攪拌した。このとき、攪拌速度は4500rpmに維持し、二重エマルジョンを形成した。このように製造されたエマルジョン溶液を過量のエタノールに滴下しながら攪拌した。析出した粒子を遠心分離し、これにシーブ (sieve)を用いて50μm乃至200μmサイズの粒子を分離した。分離された粒子を液化プロパンガス70重量%と共に充填して、スプレー可能な機能性微粒子組成物を製造した。
【0048】
実施例14<エスディーラット(SD-rat)における体内安全性試験>
実施例13で得られた微粒子止血剤(図4と図5においてpowderと明示>を、8週齢の健康なエスディーラット(SD-rat)の肝臓を切除した後、その止血効果を確認し、手術翌日に残存しているか否か、及び2週後に周辺組織において炎症が生じたか否かを確認した。陰性対象群(図4と図5においてcontrolと明示)はなんら処理もしなく、陽性対照群は市販中の止血剤であるSurgicel(登録商標)を使用した。
【0049】
その結果、微粒子止血剤は素早く出血部位に作用して出血時の血液損失量を減らす効果があり、それにより、出血による死亡個体数も減少した。そして、手術翌日、図4に示したように、Surgicel(登録商標)はまだ分解が起こらず、切除した肝臓周囲に殆どが残っている反面、実施例13によって製造された微粒子止血剤は完全に分解されて陰性対象群(control)と同様の組織状態を示した。
【0050】
また、2週後に止血剤を処理した周辺組織を観察した結果、Surgicel(登録商標)は止血部位周辺への癒着程度が深刻だったが、実施例13によって製造された微粒子止血剤は癒着防止効果まで示して、内用(体内手術時)止血剤として素早くかつ容易な止血効果だけでなく、癒着防止効果まで示した。
【0051】
観察後、臓器を摘出して分析した結果、図5に示したように、対象群と同様に微粒子止血剤でも炎症細胞の浸潤や細胞壊死などの異常反応はなかった。
【0052】
以上で本発明の記載された具体例についてのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想範囲内で多様な変形及び修正が可能であることは当業者にとって明白であり、このような変形及び修正が添付された特許請求の範囲に属することは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によるスプレー可能な機能性微粒子組成物は、従来のゲル、溶液、スポンジ、織物、エアロゾル形態止血剤の問題であった処置容易性及び処置範囲の狭さ、接触による汚染可能性を改善し、酸化セルロース、ゼラチン、タンパク質製剤含有止血剤などを原料とする止血剤の短所であった炎症及び異物反応、分解時の変性可能性、保管条件のややこしさなどを改善することができる。従って、患部に素早くかつ容易に処置可能であり、止血性能を有する生体適合性−生分解性高分子が素早い止血効果を示し、以後、熱感応性機能性高分子が傷に粘着されたまま傷保護及び癒着防止効果を示すことができるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)i) 熱感応性機能性高分子からなるコアと、ii) 前記コアを取り囲み、生分解性−生体適合性高分子からなる外部層から構成された2重構造の微粒子と、
c) 前記微粒子を運搬する揮発性運搬体とを含んでなることを特徴とするスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項2】
前記a)i)の熱感応性機能性高分子は薬物が担持されたことを特徴とする請求項1に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項3】
前記a)の生分解性−生体適合性高分子は、コンドロイチンサルフェート、デルマタンコンドロイチンサルフェート、ケラタンコンドロイチンサルフェート、ヘパランコンドロイチンサルフェート、ヒアルロン酸、アルジネート、及びヘパリンからなる群から選択されるグリコサミノグリカン類;コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、及びフィブリンからなる群から選択されるタンパク質類;バーシカン、アグリカン、パールカン、デコリン、ビグリカン、セルグリシン、及びシンデカンからなる群から選択されるプロテオグリカン類;フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、トロンボスポンジン、及びテネイシンからなる群から選択されるグリコプロテイン類;ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、及びその誘導体からなる群から選択されるリン脂質類;又はセレブロシド、ガングリオシド、ガラクトセレブロシド、及びその誘導体、及びコレステロールからなる群から選択される糖脂質類;から選択された一つ又は二つ以上の高分子を含むことを特徴とする請求項1に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項4】
前記外部層は架橋剤によって架橋され、架橋剤としては、Mg2+、Mn2+、Ca2+、Co2+、Cu2+、Sr2+、Ba2+、Fe2+から選択された1種以上のカチオンを含む化合物、又はキトサン、グルタルアルデヒド、ホルマリン、ポリ-L-リシン、ポリアクリル酸、及びポリメタクリル酸を含むアクリル酸系高分子、ドーパミンを含むヒドロキシルアミン化合物、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、トレオニン、リシン、トリプトファン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、システイン、グルタミン、グルタメート、グリシン、プロリン、セリン、チロシンを含むアミノ酸類及びその高分子から選択された一つ又は二つ以上を使用することを特徴とする請求項1に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項5】
前記コアは、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン共重合体から選択された一つ又は二つ以上の共重合体からなることを特徴とする請求項1に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項6】
前記選択された共重合体は、重量平均分子量が1,000 dalton以上100,000 dalton以下であることを特徴とする請求項5に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項7】
前記コアは薬物を担持するものであって、前記薬物としては、トロンビン、アプロチニン、ステロイド系及び非ステロイド系抗炎症剤からなる群から一つ又は二つ以上の組み合わせを選択して使用できることを特徴とする請求項1に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項8】
前記薬物はコアに0.1乃至40重量%で担持されることを特徴とする請求項7に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項9】
前記生分解性−生体適合性高分子が20乃至99重量%であり、前記熱感応性機能性高分子は1乃至80重量%であることを特徴とする請求項1に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項10】
前記2重構造の微粒子は平均粒径が0.01μm乃至400μmであることを特徴とする請求項1に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項11】
前記揮発性運搬体は、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、1,1-フルオロエタン、プロパン、ブタン、窒素、空気、及び二酸化炭素からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項12】
前記揮発性運搬体は、全体組成物において20乃至90重量%で含有されることを特徴とする請求項8に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物。
【請求項13】
a) 熱感応性機能性高分子からなり、薬物を担持できる2重構造微粒子のコアを形成する段階と、
b) 前記コアを取り囲み、生分解性−生体適合性高分子からなる2重構造微粒子の外部層を形成する段階と、
c) 揮発性運搬体を充填する段階とを含んでなることを特徴とするスプレー可能な機能性微粒子組成物の製造方法。
【請求項14】
前記2重構造の微粒子を製造する際に、a) エマルジョンを形成した後、乾燥して粉末を製造する方法、b) エマルジョンを非溶媒に析出して粉末を製造する方法、c) コア用粉末にスプレーコーティングをした後、乾燥して製造する方法、d) 生分解性止血性高分子と熱感応性共重合体とを混合した後、スプレー乾燥して粉末を形成する方法、e) 電気噴射によって粉末を製造する方法、f) 生分解性止血性高分子と熱感応性共重合体とを混合して乾燥した粉末を粉砕して微粒子にする方法の中から選択されたいずれかの方法を使用することを特徴とする請求項13に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物の製造方法。
【請求項15】
前記b)の生分解性−生体適合性高分子は、コンドロイチン、硫酸コンドロイチン、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、アルジネート、及びヘパリンからなる群から選択されるグリコサミノグリカン類;コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、及びフィブリンからなる群から選択されるタンパク質類;バーシカン、アグリカン、パールカン、デコリン、ビグリカン、セルグリシン、及びシンデカンからなる群から選択されるプロテオグリカン類;フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、トロンボスポンジン、及びテネイシンからなる群から選択されるグリコプロテイン類;ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、及びその誘導体からなる群から選択されるリン脂質類;又はセレブロシド、ガングリオシド、ガラクトセレブロシド、及びその誘導体、及びコレステロールからなる群から選択される糖脂質類;から選択された一つ又は二つ以上の高分子を含むことを特徴とする請求項13に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物の製造方法。
【請求項16】
前記a)の熱感応性機能性高分子は、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸共重合体、ポリエチレングリコール−ポリ乳酸グリコール酸共重合体、及びポリエチレングリコール−ポリカプロラクトン共重合体からなる群から選択された一つ又は二つ以上の共重合体からなることを特徴とする請求項13に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物の製造方法。
【請求項17】
前記外部層は架橋剤によって架橋され、架橋剤としては、Mg2+、Mn2+、Ca2+、Co2+、Cu2+、Sr2+、Ba2+、Fe2+から選択された1種以上のカチオンを含む化合物、又はキトサン、グルタルアルデヒド、ホルマリン、ポリ-L-リシン、ポリアクリル酸、及びポリメタクリル酸を含むアクリル酸系高分子、ドーパミンを含むヒドロキシルアミン化合物、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、トレオニン、リシン、トリプトファン、メチオニン、バリン、ヒスチジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、システイン、グルタミン、グルタメート、グリシン、プロリン、セリン、チロシンを含むアミノ酸類及びその高分子から選択された一つ又は二つ以上であることを特徴とする請求項13に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物の製造方法。
【請求項18】
前記a)の薬物としては、トロンビン、アプロチニン、ステロイド系及び非ステロイド系抗炎症剤からなる群から一つ又は二つ以上の組み合わせを選択して使用できることを特徴とする請求項13に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物の製造方法。
【請求項19】
前記c)の揮発性運搬体は、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、1,1-フルオロエタン、液化プロパン、液化ブタン、窒素、空気、及び二酸化炭素からなる群から選択されることを特徴とする請求項12に記載のスプレー可能な機能性微粒子組成物の製造方法
【請求項20】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の機能性微粒子組成物が入れられた噴霧器。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−506903(P2012−506903A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534399(P2011−534399)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【国際出願番号】PCT/KR2009/006365
【国際公開番号】WO2010/050787
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(511107728)ジェネウェル・カンパニー・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】