説明

スライド軸受

【課題】スライド軸の外周に、均等に潤滑剤を供給することができるスライド軸受を提供する。
【解決手段】このスライド筒1は、筒体10と、筒体10の端部に装着される潤滑剤供給部材20とを備え、筒体10の内周に、スライド軸外周に転がり接触する転動体18が装着されている。潤滑剤供給部材20は、内部空間45を有する枠状をなし、内部空間45に複数の隔壁47を介して複数の収容凹部48が画成され、かつ、各収容凹部48に連通する切欠溝50が形成されたケース30と、潤滑剤が含浸され、各収容凹部48に収容されると共に、切欠溝50を通してケース30内周から突出され、スライド軸5の外周に当接する突部75が形成された複数の潤滑剤供給パッドとを有している。そして、ケース30内が隔壁47によって仕切られているため、潤滑剤のケース30内での偏りが防止され、スライド軸外周に均等に潤滑剤が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、工作機械やFA機械等に使用される直線運動するスライド軸を、スライド可能に支持するためのスライド軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工作機械(フライス盤等)のワーク載置用のテーブルや、FA(ファクトリーオートメーション)用の各種自動機の可動部分は、スライド軸受を介してスライド軸に支持され、スライド軸に沿って直線運動するようになっている。このようにスライド軸受がスライド軸に沿って長期に亘って繰り返し直線運動すると、摩擦熱や磨耗が生じるという不都合が生じるため、一般的には、スライド軸受とスライド軸との間に、潤滑油が供給されるようになっている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、スライド軸と、これに対して直線移動自在に外嵌する筒体と、多数の転動体を具備すると共に、前記スライド軸外周に外装されたリテーナとを備えた直動機構に用いる潤滑剤供給具において、前記筒体の先端には環状カバーが外嵌されると共に止着され、この環状カバー内に保持されると共に前記リテーナの外周に外嵌され、同リテーナに対して潤滑剤を供給する潤滑剤保持パッドが設けられた、潤滑剤供給具が開示されている。また、前記潤滑剤保持パッドはスポンジ等で形成されていて、これに潤滑油が含浸されるようになっている。
【特許文献1】特開平11−82882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の場合、筒体が斜め又は水平に配置される等して、潤滑剤保持パッドが傾いた状態又は横向きに使用されると、潤滑剤保持パッドに含浸された潤滑油が、重力により下方に偏ってしまうことがあった。こうなると、潤滑剤保持パッドの下方部分からは所定量の潤滑油を供給できるが、同パッドの上方部分からは潤滑油を満足に供給できなくなる。その結果、スライド軸外周に装着されたリテーナの外周に、潤滑油を均等に供給することができないという不都合が生じることがあった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、スライド軸の外周に、均等に潤滑剤を供給することができる、スライド軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のスライド軸受は、スライド軸をスライド可能に支持する筒体と、該筒体の端部に装着され、前記スライド軸の外周に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部材とを備え、前記筒体の内周には、前記スライド軸外周が転がり接触する転動体が装着されており、前記潤滑剤供給部材は、内部空間を有する枠状をなし、該内部空間に複数の隔壁を介して複数の収容凹部が画成されていると共に、その内周に各収容凹部に連通する切欠溝がそれぞれ形成されたケースと、潤滑剤が含浸されて、前記ケースの各収容凹部に収容されると共に、前記切欠溝を通してケース内周から突出され、前記スライド軸外周に当接する突部が形成された複数の潤滑剤供給パッドとを有していることを特徴とする。
【0007】
上記発明によれば、スライド軸外周に当接する潤滑剤供給パッドの突部から、潤滑剤が供給されるので、スライド軸外周が潤滑剤により被膜されて、潤滑状態に維持することができ、スライド軸に対するスライド軸受の移動を長期に亘ってスムーズに行わせることができる。また、スライド軸に塗布された潤滑剤は、転動体に転写され、更に転動体から筒体の内周に転写される。その結果、スライド軸と筒体内周に転写された潤滑剤が、スライド軸及び筒体内周と転動体との摩擦力を軽減し、スライド軸外周と筒体内周に形成された転動体の案内溝の磨耗を効果的に防止できる。
【0008】
そして、潤滑剤供給部材は、ケース内が隔壁によって仕切られているので、一つの収容凹部内に充填された潤滑剤が、他の収容凹部に移動することを阻止することができ、スライド軸受がどのような向きに配置されたとしても、潤滑剤が重力によってケース内の下部に移動して偏ることを防止し、スライド軸外周に均等に潤滑剤を供給することができる。
【0009】
本発明のスライド軸受においては、前記ケースは、外周壁と内周壁と底壁とを有し、一端面が開口された枠体と、この枠体の開口部に装着される環状のカバーとで構成されており、前記枠体の外周壁には、周方向に沿った複数のスリットが所定間隔で形成され、該スリットに前記カバーの外周が嵌り込んで装着されており、更に、前記枠体の開口部内周には、前記スリットに嵌り込んだ前記カバーの外周縁に係合するリブが突設されていることが好ましい。
【0010】
これによれば、枠体の外周壁に周方向に沿ったスリットが形成されているので、枠体の外周壁を撓ませつつ、比較的容易にカバーを嵌め込むことができ、作業性を向上させることができる。また、枠体の外周壁に設けたスリットに、カバー外周が嵌り込むようになっているので、ケース外周壁からカバー外周が突出することを防止して、スライド軸の取付孔等に装着しやすい形状にすることができる。更に、環状のカバーの外周が、枠体の外周壁に形成された周方向に沿ったスリットに嵌り込んで装着されるので、枠体の外周壁内周にバランスよく均等に係合することとなり、枠体の中心に対してカバー中心の軸ズレを小さくして、枠体にカバーを装着させることができる。
【0011】
また、本発明のスライド軸受においては、前記カバーは、環状をなす板材と、同じく環状をなして前記板材の少なくとも片面に被着された弾性シール材とで構成されており、前記弾性シール材は、その内周が前記板材の内周よりも内側に突出し、スライド軸の外周に弾性的に当接するように構成されていることが好ましい。
【0012】
これによれば、スライド軸の外周に弾性シール材が弾性的に当接しているので、スライド軸が軸方向移動するとき、弾性シール材によってスライド軸の外周に被覆された潤滑剤が掻き落とされ、潤滑剤がケースから流出する量を少なくするので、潤滑剤の減少を抑制することができる。また、カバー外周を前記外周壁のスリットに嵌め込むようにした場合、すなわち、カバー外周がスリットに嵌り込んだとき、弾性シール材がスリットの縁部に弾性的に密接して隙間を少なくするので、潤滑剤がスリットから流出することを防止できる。
【0013】
更に、本発明のスライド軸受においては、前記筒体の内周には、軸方向に長く伸びて一側が開口した環状溝が複数形成されていて、各環状溝内に前記転動体が複数嵌入されて、それらが前記スライド軸外周に摺接して循環移動するように構成されており、前記ケースの各切欠溝が、前記筒体内周に複数形成された環状溝の開口した一側に、ほぼ整合する位置となるように、前記潤滑剤供給部材が前記筒体の端部に装着されていることが好ましい。
【0014】
これによれば、ケースの各切欠溝から突出する潤滑剤供給パッドが、筒体内周に複数形成された環状溝の開口した一側に、ほぼ整合する位置となるように、潤滑剤供給部材が筒体の端部に装着されるので、各環状溝にそれぞれ嵌入されて循環移動する転動体に、潤滑剤を効率的に供給することができ、スライド軸を案内とするスライド軸受のスライド移動がよりスムーズとなる。更に、転動体を介して、環状溝内に潤滑剤が供給されて、筒体と転動体との間の摩擦力が軽減され、筒体内周の磨耗を効果的に防止することができる。
【0015】
また、本発明のスライド軸受においては、前記潤滑剤供給パッドは、前記収容凹部の切欠溝よりも深い部分に挿入される本体部と、前記収容凹部の切欠溝のある深さ部分に挿入されて、前記切欠溝から内周に突出する前記突部を有する被着部とで構成され、
前記本体部と前記被着部とはいずれも所定繊維密度の繊維質材料又は所定気孔率の多孔質材料で形成されていて、前記被着部の材料の方が、前記本体部の材料よりも高い繊維密度若しくは低い気孔率とされていることが好ましい。
【0016】
これによれば、本体部の繊維密度又は気孔率に対して、被着部の繊維密度が高いか若しくは気孔率が低くなるように形成されているので、本体部に多くの潤滑剤を含浸されると共に、被着部にて潤滑剤の過度の供給が防止され、その結果、スライド軸外周に長期に亘って潤滑剤を供給できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスライド軸受によれば、潤滑剤供給パッドの突部から潤滑剤が供給され、スライド軸外周を潤滑剤により被膜して、潤滑状態に維持することができ、スライド軸に対するスライド軸受のスライド移動を長期に亘ってスムーズに行わせることができる。そして、ケース内が隔壁によって仕切られているので、一つの収容凹部内の潤滑剤が、他の収容凹部に移動することを阻止でき、スライド軸受がどのような向きに配置されたとしても、潤滑剤が重力によってケース内の下部に移動して偏ることを防止し、スライド軸外周に均等に潤滑剤を供給できる。その結果、スライド軸に塗布された潤滑剤が、転動体を介して筒体内周に転写され、転動体とスライド軸外周及び筒体内周との磨耗を防止して、スライド軸受の寿命を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明のスライド軸受の一実施形態について説明する。
【0019】
このスライド軸受1は、例えば、フライス盤等の工作機械に設けられたワーク載置用のテーブルを、往復直線運動させる際に用いられるスライド軸や、FA用自動機の可動部分を直線移動させる際のスライド軸、更には、2枚以上のプレートがスライド軸を介して互いに近接離反可能となるように構成された、プレス加工用ダイセットにおけるスライド軸等の、直線運動するスライド軸5(図3参照)を支持するためのもので、図1に示すように、スライド軸5をスライド可能に支持する筒体10と、該筒体10の両端部に装着されて、スライド軸5の外周に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部材20とを備えている。なお、本発明における潤滑剤としては、潤滑油や、その他の液体状の潤滑剤が用いられる。
【0020】
図2及び図3を併せて参照すると、前記筒体10は、軸受鋼(SUJ)等の金属からなり、所定長さで伸びる円筒状の外筒11を有している。この外筒11の両端部内周は、環状の段部12を介して拡径されている(図1,3参照)。更に、この拡径部の端面内周には、係合壁13が環状に突出しており、上記段部12と係合壁13との間に後述する枠体40の係合爪55が係合して、筒体10の両端部に潤滑剤供給部材20,20が装着されるようになっている。また、前記外筒11の内周には、合成樹脂製又は金属製の保持器15が圧入されて装着されている。なお、保持器15の両端面が、外筒11の両段部12,12と同じ端面となるように、保持器15の長さが設定されている。
【0021】
前記保持器15の外筒11に面した部分には、周方向に均等な間隔を設けて、複数の環状溝16が形成されている(この実施形態では4つ)。この環状溝16は、保持器15の長手方向に沿って伸びる一対の長溝16a,16aと、該長溝16a,16aの両端にそれぞれ連結された短溝16b,16bとからなる環状をなし、図2に示すように、長溝16aの一側は保持器15の内周にスリット状に開口し、他側は保持器15の内部に潜り込んだ形状をなしている。そして、この環状溝16に、軸受鋼等の金属からなり、スライド軸5の外周に転がり接触する、球状の転動体18が複数嵌入されている。これら複数の転動体18は、保持器15の上記スリットの開口から突出して、スライド軸5の外周に当接しており、スライド移動時にスライド軸5の外周に摺接しつつ、環状溝16内を循環移動するようになっている。
【0022】
上記の筒体10の端部に装着される潤滑剤供給部材20は、枠体40及びそれに装着されるカバー60からなるケース30と、該ケース30内に収容される複数の潤滑剤供給パッド70とから構成されている。
【0023】
図4〜7を併せて参照して、ケース30を構成する枠体40について説明すると、この枠体40は、POM(ポリオキシメチレン)等の合成樹脂から形成され、内部空間を有すると共に、一端部が開口された枠状をなしている。すなわち、この枠体40は、環状の底壁41と、該底壁41の表側外周縁から所定高さで立設した外周壁43と、前記底壁41の表側内周縁から前記外周壁43よりも低い高さで立設すると共に、前記底壁41の裏側内周縁から所定長さで延設された内周壁44とを有し(図5参照)、二重円筒状をなしていると共に、各壁部41,43,44で囲まれた内部空間45を有している。
【0024】
また、図4に示すように、枠体40の内部空間45には、放射状に配置された複数の隔壁47を介して複数の収容凹部48が画成されている。同図4を参照すると、前記隔壁47は、内周壁44の外周から枠体40の半径方向外方に伸びて、外周壁43に連結されており、このような隔壁47が、枠体40の周方向に沿って均等な間隔を設けて、複数形成されている。この実施形態では、枠体40の内周に90度の開き角度でもって、4つの隔壁47が形成され、これら4つの隔壁47により、枠体40の内部空間45が4分割されて、略扇状をなす4つの収容凹部48が画成されている。これらの複数の収容凹部48には、後述する潤滑剤供給パッド70の本体部71、及び、被着部73の突部75以外の部分が、収容配置されるようになっている。
【0025】
更に、枠体40の内周壁44には、後述する潤滑剤供給パッド70の突部75が挿入される部分となる、各収容凹部48に連通する切欠溝50が形成されている。すなわち、図4に示すように、内周壁44には、4つの収容凹部48の周方向中間に位置するように、4つの切欠溝50がそれぞれ形成されている。また、各切欠溝50は、潤滑剤供給パッド70の突部75に適合するように、内周壁44の端面から前記突部75の肉厚分又はそれよりもやや短い深さで形成されており、前記底壁41までは至らない深さとなっている(図3参照)。
【0026】
また、枠体40の外周壁43の開口側端部周縁には、周方向に沿って均等な間隔を設けて、複数のスリット51(この実施形態では8つ)が形成されている。これらの複数のスリット51には、後述するカバー60の周縁が嵌り込むようになっており、これにより枠体40の開口部にカバー60が装着されるようになっている。更に、図4に示すように、外周壁43の端面内周であって、前記複数のスリット51に整合する位置からは、複数のリブ52が所定高さで突設されている。この実施形態では、リブ52は8つ突設しており、枠体40を軸方向に見たときに、外周壁43の内周が、リブ52を辺とする略多角形状をなしている(図4参照)。また、これらの各リブ52は、スリット51に嵌り込んだカバー60の外周縁に、係合する部分となっている(図2参照)。
【0027】
次に、枠体40の底壁41の裏側形状について説明する。前述したように、底壁41の裏側内周縁からは内周壁44が所定長さで延設されているが、この内周壁44の外周に所定間隔をあけて同心状となるように、底壁41の裏側から環状壁54が突設されている。また、この環状壁54の先端部外周からは、筒体10の段部12と係合壁13との間に嵌合する係合爪55が、同環状壁54の周方向に沿って均等な間隔を設けて、複数突設されている(この実施形態では4つ)。この係合爪55の外側面には、前記底壁41側に向かって次第に高さが高くなるテーパ面55aが形成されており、潤滑剤供給部材20の筒体10への取付け作業性を高めている(図5参照)。また、図7に示すように、底壁41裏側に位置する内周壁44と、前記環状壁54との間は、複数の補強片56によって連結されており、両者の剛性が高められている。
【0028】
図8及び図9を併せて参照すると、ケース30の一構成部品であって、上記枠体40の開口部に装着されるカバー60は、ステンレス等の金属から形成され、環状をなす板材61と、同じく環状をなして、前記板材61の表面側に被着された弾性シール材63とで構成されている。上記の環状をなす板材61は、前記枠体40のスリット51の切欠高さに、ほぼ適合する肉厚で形成されており、その外周がスリット51に嵌り込むようになっている。
【0029】
また、前記弾性シール材63は、NBR(ニトリルゴム)等のゴム材料から形成されていると共に、前記板材61の外径よりも、やや小さい外径で形成されている。そのため、板材61がスリット51に嵌り込んだときに、弾性シール材63の外周が、同スリット51の外側縁部に弾性的に当接するようになっている(図3参照)。更に、環状をなす弾性シール材63の内周は、板材61とは反対方向に向かって所定高さで突出してシール部65をなしている。また、このシール部65は、その内周が次第に縮径するように突出していて、その結果、図9に示すように、シール部65の内周が、板材61の内周よりも内側に突出するように構成されている。それにより、シール部65の内周がスライド軸5の外周に弾性的に当接するようになっている。
【0030】
次に、ケース30を構成する枠体40に収容され、潤滑油等の潤滑剤が含浸される部材である潤滑剤供給パッド70について説明する。図10を併せて参照すると、この潤滑剤供給パッド70は、略扇状に湾曲した形状をなし、収容凹部48の切欠溝50よりも深い部分に挿入される本体部71と、該本体部71とほぼ同じ扇状をなし、本体部71に被着される被着部73とを有している。
【0031】
前記被着部73は、本体部71より肉薄に形成され、収容凹部48の切欠溝50のある深さ部分に挿入されると共に、切欠溝50から枠体40内周に突出する突部75を有している。すなわち、被着部73の内周の中間位置から突部75が突出されていて、これが枠体40の切欠溝50内に挿入されると共に、該切欠溝50を通して枠体40の内周壁44から突出し、更にスライド軸5の外周に当接する長さで伸びている。この突部75によってスライド軸5の外周に潤滑剤を供給可能となっている。
【0032】
また、潤滑剤供給パッド70は、例えば、所定繊維密度のフェルトや、所定気孔率のスポンジ、その他の液体を含浸可能な材料から形成されている。この実施形態では、本体部71及び被着部73の両者は、フェルトで形成されている。更に、本体部71及び被着部73は同じ材質からなるものの、両者の密度が異なるように形成されている。すなわち、フェルトからなる本体部71の繊維密度に対して、同じくフェルトからなる被着部73の繊維密度の方が高くなるように形成されている。これにより、本体部71に多くの潤滑剤を含浸させることができると共に、被着部73にて潤滑剤の過度の供給を防止することができ、スライド軸5の外周に長期に亘って潤滑剤を供給できるようになっている。なお、潤滑剤供給パッド70がスポンジ等の多孔質材料で形成されている場合には、本体部71の気孔率に対して、被着部の気孔率の方が低くなるように形成され、上述のように、本体部71に被着部73よりも多くの潤滑剤が含浸されるようになっている。
【0033】
次に、上記構成からなる本発明のスライド軸受1の使用方法について説明する。
【0034】
まず、各部品の組付け方法について説明する。すなわち、潤滑油等の潤滑剤を含浸させた複数の潤滑剤供給パッド70の突部75を各切欠溝50に挿入し、本体部71及び被着部73の突部75以外の部分を、各収容凹部48内に収容する(図1参照)。
【0035】
その状態で、枠体40の開口部に装着すべくカバー60を押し込んでいくと、板材61の外周にリブ52が押圧されて、枠体40の外周壁43が外側に撓み、板材61がスリット51に至ると、外周壁43が弾性復帰して、スリット51に板材61の外周が嵌り込むと共に、板材61の外周縁にリブ52が係合して、枠体40の開口部にカバー60が抜け止め状態で装着されて、潤滑剤供給部材20を組み立てることができる(図2,3参照)。
【0036】
このように、外周壁43にスリット51を設けたことにより、カバー60を枠体40に対して押し込むだけの簡単な操作で外周壁43を撓ませつつ、カバー60を軽い押込力で比較的容易に嵌め込むことができるので、カバー60の取付け作業性を向上させることができる。
【0037】
また、カバー60の外周がスリット51に嵌合して均等に押えられるので、枠体40の中心に対して、カバー60の中心の軸ズレを小さくして、枠体40にカバー60を装着させることができる。更に、板材61の外周がスリット51に嵌り込んだときには、板材61に被着された弾性シール材63が、図3に示すように、スリット51の縁部に弾性的に密接して隙間を少なくすることができるので、潤滑剤がスリット51から流出することを防止できる。
【0038】
そして、潤滑剤供給部材20の各切欠溝50から突出した突部75を、筒体10の環状溝16の保持器15内周から露出した長溝16aに整合させ、その状態で、筒体10の両端部に、各潤滑剤供給部材20,20を押し込んでいく。すなわち、潤滑剤供給部材20の環状壁54の端面が、筒体10の段部12に突き当たるまで押し込む。すると、外筒11の係合壁13に、テーパ面55aが押圧されて係合爪55が内側に撓み、係合爪55が係合壁13を乗り越えると、係合爪55が弾性復帰して段部12と係合壁13との間に嵌合して、筒体10の両端部に潤滑剤供給部材20,20をそれぞれ装着させることができる(図2,3参照)。
【0039】
上記のように構成されたスライド軸受1は、図3に示すように、工作機械等に装着してスライド軸5の外周に外装させることによって、同スライド軸5を介して工作機械等をスライド可能に支持できるようになっている。そして、スライド軸5に対してスライド軸受1が直線運動してスライド移動すると、スライド軸5の外周に当接した潤滑剤供給パッド70の突部75から、潤滑剤が供給されるので、スライド軸5の外周が潤滑剤により被膜されて、潤滑状態に維持することができる。また、スライド軸5の外周に塗布された潤滑剤は、転動体18を介して外筒11及び保持器15の内周に転写される。その結果、スライド軸5に対するスライド軸受10のスライド移動をスムーズにできると共に、スライド軸5と転動体18との間の磨耗や、転動体18と外筒11及び保持器15との間の磨耗が効果的に抑制される。特に、保持器15の環状溝16の長手方向両端部において、転動体18と外筒11とが接触して生じる外筒11内周の磨耗を効果的に抑制する。このため、スライド軸受10の耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0040】
そして、スライド軸5の配置によって、スライド軸受1が斜め又は水平に配置されたとしても、このスライド軸受1を用いることにより、スライド軸5の外周に均等に潤滑剤が塗布されるようにすることができる。すなわち、このスライド軸受1の各収容凹部48には、潤滑剤供給パッド70に含浸された潤滑剤が充填されているが、本発明のスライド軸受1においては、ケース30内が隔壁47によって仕切られているので、一つの収容凹部内48に充填された潤滑剤が、他の収容凹部48に移動することを阻止することができる。その結果、スライド軸受1がどのような向きに配置されたとしても、潤滑剤が重力によってケース30内の下部に移動して偏ることを防止し、スライド軸5の外周全周に、均等に潤滑剤を供給することができる。
【0041】
また、この実施形態においては、カバー60を構成する弾性シール材63のシール部65が、スライド軸5の外周に弾性的に当接しているので、スライド軸5がスライド移動するときに、前記シール部65によってスライド軸5の外周に被覆された潤滑剤が掻き落とされるようになっている。それにより、潤滑剤がケース30から流出する量を少なくするので、潤滑剤の減少を抑制することができる。
【0042】
更に、この実施形態においては、前述したように、各潤滑剤供給部材20の突部75を、環状溝16の保持器15内周から露出した長溝16aに整合させた状態で、筒体10の両端部に潤滑剤供給部材20,20が装着されているので、環状溝16内を循環移動する複数の転動体18に、潤滑剤を効率的に供給することができ、スライド軸5を案内とするスライド軸受1のスライド移動をよりスムーズに行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のスライド軸受の一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】同スライド軸受を軸方向に切断して示す斜視図である。
【図3】同スライド軸受の断面図である。
【図4】同スライド軸受を構成する枠体の正面図である。
【図5】図5のA−A矢視線における断面図である。
【図6】同スライド軸受を構成する枠体の右側面図である。
【図7】同スライド軸受を構成する枠体の背面側の斜視図である。
【図8】同スライド軸受を構成するカバーの正面図である。
【図9】同スライド軸受を構成するカバーの断面図である。
【図10】同スライド軸受を構成する潤滑剤供給パッドの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 スライド軸受
5 スライド軸
10 筒体
11 外筒
15 保持器
16 環状溝
18 転動体
20 潤滑剤供給部材
30 ケース
40 枠体
41 底壁
43 外周壁
44 内周壁
45 内部空間
47 隔壁
48 収容凹部
50 切欠溝
51 スリット
52 リブ
60 カバー
61 板材
63 弾性シール材
70 潤滑剤供給パッド
75 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライド軸をスライド可能に支持する筒体と、該筒体の端部に装着され、前記スライド軸の外周に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部材とを備え、
前記筒体の内周には、前記スライド軸外周が転がり接触する転動体が装着されており、
前記潤滑剤供給部材は、内部空間を有する枠状をなし、該内部空間に複数の隔壁を介して複数の収容凹部が画成されていると共に、その内周に各収容凹部に連通する切欠溝がそれぞれ形成されたケースと、
潤滑剤が含浸されて、前記ケースの各収容凹部に収容されると共に、前記切欠溝を通してケース内周から突出され、前記スライド軸外周に当接する突部が形成された複数の潤滑剤供給パッドとを有していることを特徴とするスライド軸受。
【請求項2】
前記ケースは、外周壁と内周壁と底壁とを有し、一端面が開口された枠体と、この枠体の開口部に装着される環状のカバーとで構成されており、
前記枠体の外周壁には、周方向に沿った複数のスリットが所定間隔で形成され、該スリットに前記カバーの外周が嵌り込んで装着されており、
更に、前記枠体の開口部内周には、前記スリットに嵌り込んだ前記カバーの外周縁に係合するリブが突設されている請求項1記載のスライド軸受。
【請求項3】
前記カバーは、環状をなす板材と、同じく環状をなして前記板材の少なくとも片面に被着された弾性シール材とで構成されており、前記弾性シール材は、その内周が前記板材の内周よりも内側に突出し、スライド軸の外周に弾性的に当接するように構成されている請求項2記載のスライド軸受。
【請求項4】
前記筒体の内周には、軸方向に長く伸びて一側が開口した環状溝が複数形成されていて、各環状溝内に前記転動体が複数嵌入されて、それらが前記スライド軸外周に摺接して循環移動するように構成されており、
前記ケースの各切欠溝が、前記筒体内周に複数形成された環状溝の開口した一側に、ほぼ整合する位置となるように、前記潤滑剤供給部材が前記筒体の端部に装着されている請求項1〜3のいずれか1つに記載のスライド軸受。
【請求項5】
前記潤滑剤供給パッドは、前記収容凹部の切欠溝よりも深い部分に挿入される本体部と、前記収容凹部の切欠溝のある深さ部分に挿入されて、前記切欠溝から内周に突出する前記突部を有する被着部とで構成され、
前記本体部と前記被着部とはいずれも所定繊維密度の繊維質材料又は所定気孔率の多孔質材料で形成されていて、前記被着部の材料の方が、前記本体部の材料よりも高い繊維密度若しくは低い気孔率とされている請求項1〜4のいずれか1つに記載のスライド軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−215482(P2008−215482A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53336(P2007−53336)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(505191168)株式会社ミスミ (16)
【Fターム(参考)】