説明

スラグ水砕時の排ガス処理方法及び処理設備

【課題】非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガスを処理する方法および排ガスの処理設備を提供する。
【解決手段】非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する水蒸気を主成分とし、金属フュームを含有する排ガス5を処理する方法であって、該排ガス5を湿式電気集塵機9で処理する工程を含む方法であり、該排ガス処理設備は、排ガス収集手段7と排ガス通路8と湿式電気集塵機9とを備え、排ガス収集手段7は排ガス発生箇所の上方に設けられ、排ガス収集手段7と湿式電気集塵機9は排ガス通路8によって連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガスの処理方法に関し、とりわけ該排ガス中に含まれる金属フュームの処理方法に関する。また、本発明は、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガスの処理設備に関し、とりわけ該排ガス中に含まれる金属フュームの処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
銅、鉛、亜鉛及びニッケル等の非鉄金属の製錬過程では、熔錬炉中の製錬反応によって不純な金属硫化物の混合物であるマットと、非金属組成の滓であるスラグが生成する。マット及びスラグは分離して熔錬炉から排出される。例えば、銅の製錬プロセスでは、硫化銅鉱の精鉱を溶鉱炉、反射炉、自溶炉等の熔錬炉に装入し、加熱溶融して銅分の多いマットと、鉄、珪酸を主成分とするスラグを生成させ、これらを分けて排出する。マットは転炉で酸化吹錬することにより粗銅となる。スラグは、一般には、高圧の海水又は工業用水を用いて取り扱いやすい大きさまで水砕処理した後に、埋め立て処理したり土木資材などとして有効利用したりしている。
【0003】
熔錬炉から排出する高温のスラグを水砕すると、多量の水蒸気を含む排ガスが発生する。スラグ水砕時に発生する排ガスの処理方法としては、鉄製錬時に溶鉱炉から排出されるスラグを水砕処理するときに発生する排ガスを対象とする方法が幾つか知られている。
【0004】
例えば、特開平8−245243号公報(特許文献1)には、溶鉱炉から排出された溶滓に冷水を与えて水砕処理した際、該水砕処理により発生する多量の排ガスから、溶滓と冷水とが急冷反応したとき生成されて混入するH2SガスやSO2ガスを除去する方法が記載されている。
【0005】
上記方法は、H2SガスやSO2ガスを含んだ前記排ガスに冷却水を散布して冷却することにより該排ガスの温度を低下させると共に排ガス中の水蒸気を凝縮させ、その凝縮水を分離して該排ガスを飽和状態とし、その後に該排ガス中に浮遊する微細な水滴を除去して飽和蒸気のガス体とし、該ガス体を前記溶鉱炉に帰還し含有されるH2SガスやSO2ガスを該溶鉱炉内で脱硫反応によって滓化するようにしたことを特徴とする(請求項1)。排ガス中に浮遊する微細な水滴を除去して飽和蒸気のガス体とする手段として、湿式電気集塵機が挙げられている。
【0006】
また、米国特許第5,540,895号明細書(特許文献2)には、溶鉱炉スラグを水砕して造粒するときに発生するH2S及びSO2を含有する蒸気及びガスに対して、アルカリ水を噴霧することによって処理する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−245243号公報
【特許文献2】米国特許第5,540,895号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記方法は何れも鉄製錬過程で生ずるスラグの水砕時に発生する排ガスの処理を対象とするものであり、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガスを処理する方法に関しては開示されていない。これまで、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガス中に特に処理を必要とする成分が含まれているとは考えられておらず、大気中にそのまま放出することが通常であった。そのため、その成分を詳細に分析した事例はなく、処理すべき成分も明らかになっていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガスを処理する方法を提供することを課題の一つとする。また、本発明は、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガスの処理設備を提供することを別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガスを分析したところ、多量の水蒸気に紛れて鉄や砒素などの金属フュームが微量含まれることを見出した。金属フュームは金属蒸気が凝集してできた微細な粒子であり、作業環境及び周囲環境保全の観点から、大気中への放出を防止することが好ましい。
【0011】
金属フュームは一般的に粒子径が細かく、1μm以下のものが大部分と考えられている。このサブミクロンの粒子は、慣性衝突による水滴への捕集はされにくく、ブラウン拡散運動による捕集しか期待できない。このことから、水滴径の細かいスプレー塔による捕集では、90%以上の捕集が困難なのが一般的である。また、スプレー水中に含まれる浮遊物質(SS)のために、水滴径を安定して維持できず、捕集効率が低下する虞れがあり、また、配管へのスケールが生じ、スプレー塔のメンテナンス頻度が増加することが懸念される。
【0012】
これに対して、湿式電気集塵機(ミストコットレル)による捕集は、サブミクロン径の粒子であっても80%以上の集塵効率が可能であるため、金属フュームは湿式電気集塵機を用いることで除去可能である。金属フュームを湿式電気集塵機で捕集できること自体は知られているが、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガス処理に湿式電気集塵機を適用した事例は本発明者の知る限り存在しないし、その必要性も認識されていなかった。
【0013】
従って、本発明は一側面において、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する水蒸気を主成分とし、金属フュームを含有する排ガスを処理する方法であって、該排ガスを湿式電気集塵機で処理する工程を含む方法である。
【0014】
本発明に係る方法の一実施態様においては、非鉄金属は銅である。
【0015】
本発明に係る方法の別の一実施態様においては、排ガスはCu、Zn、Ni及びFeから選択される一種以上の金属フュームを含有する。
【0016】
本発明に係る方法の更に別の一実施態様においては、湿式電気集塵機から排出される金属成分を含有する排水を中和処理後、ろ過し、残渣を熔錬炉へ戻す工程を更に含む。
【0017】
本発明は別の一側面において、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する水蒸気を主成分とし、金属フュームを含有する排ガスを処理する設備であって、排ガス収集手段と排ガス通路と湿式電気集塵機とを備え、排ガス収集手段は排ガス発生箇所の上方に設けられ、排ガス収集手段と湿式電気集塵機は排ガス通路によって連結されている設備である。
【0018】
本発明に係る設備の一実施態様においては、非鉄金属は銅である。
【0019】
本発明に係る設備の別の一実施態様においては、排ガスはCu、Zn、Ni及びFeから選択される一種以上の金属フュームを含有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する排ガスから金属フュームを除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る排ガス処理スキームの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る排ガス処理方法の好適な実施形態を、図1を参照しながら説明する。電気錬カン炉等の熔錬炉1から排出されたスラグは、スラグ樋3を介して水砕樋4に流入し、その水砕樋を流下してきた水砕水2により水砕され、水砕スラグとして水砕槽6内に落下する。水砕スラグは水砕槽内に設けたバケットエレベーター(図示せず)によりすくい上げられ、系外に搬送される。
【0023】
製錬する非鉄金属の種類によって異なるが、例えば、銅製錬工程において熔錬炉から排出されるスラグの組成は、一般にFe:35〜45質量%、Fe34:3〜15質量%、SiO2:25〜35質量%、Cu:0.5〜3質量%である。本発明の対象となる非鉄金属には特に制限はないが、例えば銅、亜鉛、ニッケルが挙げられる。
【0024】
水砕前のスラグは通常1150〜1300℃程度の高温であり、これと水が接触する箇所である水砕樋4及び水砕槽6付近からは多量の水蒸気が排ガス5として発生する。発生した水蒸気は、微量の金属フュームを含有しており、水砕樋4及び水砕槽6の上方を覆い、望ましくは上下・水平方向への移動が可能な、集煙フード7(排ガス収集手段)によって回収する。水砕時の排ガス中には、Cu、Zn及びFeなどの金属フュームが含まれており、一般に0.1〜10mg/m3程度の濃度で含まれている。ただし、製錬する金属によって金属フュームの組成は異なり、例えば銅製錬の場合、Znの濃度は他の金属に比べて高く、一般に1〜10mg/m3程度含まれる。集煙フード内の排ガス温度は典型的には80〜90℃程度である。
【0025】
次いで、集煙フード7によって回収された水蒸気を主成分とする排ガス5は、煙道8(排ガス通路)を通って、湿式電気集塵機9に導入される。煙道8を通過する間に、水蒸気は自然に一部凝縮する。湿式電気集塵機9の入口における排ガス温度は典型的には30〜80℃程度である。本発明においては、集煙フードから湿式電気集塵機までには冷却水を排ガスに散布する手段(冷却塔など)は不要である。
【0026】
湿式電気集塵機9は、一般に、放電極と集塵極の間に高電圧を与えてコロナ放電させることで、ガス中に浮遊する粒子を帯電させ、更に、電界によって生じるクーロン力で集塵極へ粒子を回収し、その後に回収された粒子をスプレー水で洗い流すことで排水として排出する装置である。金属フュームは金属蒸気が凝集してできた微細な粒子であり、湿式電気集塵機で回収することができる。ただし、金属フュームは1μm以下の微細なものが大部分であるため、充分な回収率を得るためには、高電圧側での運転が望ましい。
【0027】
典型的な湿式電気集塵機の運転条件としては、電圧が約10〜50kVであり、電流が30〜100mA程度である。
【0028】
湿式電気集塵機9としては、公知のものを適宜選択して使用すればよいが、例えば、放電極と集塵極をガス流に対して平行となるように配置した平行型のもの、集塵極と放電極をガス流に対して直交するように配置させたクロスフロー型(例:ノイルフト型)のものがある。
【0029】
湿式電気集塵機9を出た排ガス10は大気に放出することができる。排ガス温度は湿式電気集塵機9の出口で20〜40℃程度である。一方、湿式電気集塵機9から排出される回収金属を含有する排水11は、排水槽12に回収された後、ポンプで総合排水処理工場へ送られ、中和処理後、フルタープレスでろ過される。残渣として回収された金属は、混合鉱として、熔錬炉へ戻すことができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【0031】
(実施例1)
本実施例では、銅製錬において、自溶炉に付属の電気錬カン炉から排出される高温スラグを水砕したときに発生する排ガスの処理を行った。図1の排ガス処理スキームに従う排ガス処理設備を構築した。電気錬カン炉から排出されたスラグは、スラグ樋を介して水砕樋に流入し、その水砕樋を流下してきた水砕水により水砕され、水砕スラグとして水砕槽内に落下する。水砕時に発生する多量の水蒸気を伴う排ガスを、水砕樋及び水砕槽を覆う集煙フードで回収した。集煙フード内の排ガス温度は80〜90℃程度であった。集煙フードに回収された排ガスは、集煙フード上部にある煙道口を通って煙道に入り、湿式電気集塵機へと送った。湿式電気集塵機に流入する排ガス温度は30〜80℃程度であり、湿式電気集塵機から排出される排ガス温度は20〜40℃程度であった。
【0032】
スラグの水砕条件は以下とした。
・スラグ水砕量 2.5t/min
・水砕前スラグ温度 1150〜1300℃
・水砕水量 20t/min
【0033】
スラグ中の金属濃度(質量%)をJIS K0083に準拠して排ガス中の金属分析方法によって測定した結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
排ガス処理設備の運転条件は以下とした。
・集煙フードでの排ガス回収量 300m3/min
・湿式電気集塵機仕様
−メーカ:エルデック社製ノイルフト型
−電圧:15〜25kV
−電流:60〜100mA
−スプレー水量:約20L/min
【0036】
集煙フードで回収した排ガス中の金属濃度(集塵機入口濃度)、湿式電気集塵機で処理した後の排ガス中の金属濃度(集塵機出口濃度)、及び回収率(%)を表2に示す。金属濃度の測定はJIS K0083 排ガス中の金属分析方法で行った。
【0037】
【表2】

【0038】
(実施例2)
実施例1と同様に、銅製錬において、自溶炉に付属の電気錬カン炉から排出される高温スラグを水砕したときに発生する排ガスの処理を行った。ただし、実施例2では実施例1よりも集煙フードでの排ガス回収量を多くして行った。
【0039】
スラグの水砕条件は以下とした。
・スラグ水砕量 2.5t/min
・水砕前スラグ温度 1150〜1300℃
・水砕水量 20t/min
【0040】
排ガス処理設備の運転条件は以下とした。
・集煙フードでの排ガス回収量 500m3/min
・湿式電気集塵機仕様
−メーカ:エルデック社製ノイルフト型(2区、3段型)
区:区画ごとに別の高圧電源装置によって荷電しているのでその区分数。
段:1対の放電極及び集塵極を1段とし、ガス流れ方向に設置した段数。
−電圧:30〜35kV(1区目、2区目)
−電流:110〜150mA(1区目)、140〜180mA(2区目)、
−スプレー水量:約10L/min
【0041】
排ガスの集塵機入口及び出口における温度、流量、金属フューム捕集重量、金属フューム濃度、集塵効率(%)を表3に示す。金属フュームのうち、Cu、Zn及びFeのフュームについて、排ガスの集塵機入口及び出口における濃度、及び回収率(%)を表4に示す。排ガス中の金属フュームが高い効率で回収できることが分かる。金属フューム及び金属濃度の測定はJIS K0083排ガス中の金属分析方法に基づいて行った。
【表3】

【0042】
【表4】

【符号の説明】
【0043】
1 熔錬炉
2 水砕水
3 スラグ樋
4 水砕樋
5 排ガス
6 水砕槽
7 集煙フード
8 煙道
9 湿式電気集塵機
10 排ガス
11 排水
12 排水槽
13 排水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する水蒸気を主成分とし、金属フュームを含有する排ガスを処理する方法であって、該排ガスを湿式電気集塵機で処理する工程を含む方法。
【請求項2】
非鉄金属は銅である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
排ガスはCu、Zn、Ni及びFeから選択される一種以上の金属フュームを含有する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
湿式電気集塵機から排出される金属成分を含有する排水を中和処理後、ろ過し、残渣を熔錬炉へ戻す工程を更に含む請求項1〜3何れか一項記載の方法。
【請求項5】
非鉄金属熔錬炉から排出されるスラグを水砕したときに発生する水蒸気を主成分とし、金属フュームを含有する排ガスを処理する設備であって、排ガス収集手段と排ガス通路と湿式電気集塵機とを備え、排ガス収集手段は排ガス発生箇所の上方に設けられ、排ガス収集手段と湿式電気集塵機は排ガス通路によって連結されている設備。
【請求項6】
非鉄金属は銅である請求項5に記載の設備。
【請求項7】
排ガスはCu、Zn、Ni及びFeから選択される一種以上の金属フュームを含有する請求項5又は6に記載の設備。

【図1】
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【公開番号】特開2011−117709(P2011−117709A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9169(P2010−9169)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】