スラストころ軸受およびその保持器
【課題】 偏心回転の影響を回避でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できるスラストころ軸受、およびその保持器を提供する。
【解決手段】 少なくとも第１，第２の保持器構成板１１，１２からなる保持器１０を有し、その円周方向に並ぶポケット１３にころ４が保持される。第１の保持器構成板１１は、内径側および外径側の平坦部１１ａ，１１ｂと、各平坦部１１ａ，１１ｂから軸方向に偏った中央平坦部１１ｃと、各平坦部１１ａ，１１ｂから中央平坦部１１ｃに続く連続部１１ｄ，１１ｅとを有する断面形状である。第２の保持器構成板１２は、前記各平坦部１１ａ，１１ｂに重なる平板部１２ａと、その内外径側から折り返された折返し部１２ｂ，１２ｃを有する。各折返し部１２ｂ，１２ｃと平板部１２ａとの間に、第１の保持器構成板１１の各平坦部１１ａ，１１ｂが挟み込まれる。
【解決手段】 少なくとも第１，第２の保持器構成板１１，１２からなる保持器１０を有し、その円周方向に並ぶポケット１３にころ４が保持される。第１の保持器構成板１１は、内径側および外径側の平坦部１１ａ，１１ｂと、各平坦部１１ａ，１１ｂから軸方向に偏った中央平坦部１１ｃと、各平坦部１１ａ，１１ｂから中央平坦部１１ｃに続く連続部１１ｄ，１１ｅとを有する断面形状である。第２の保持器構成板１２は、前記各平坦部１１ａ，１１ｂに重なる平板部１２ａと、その内外径側から折り返された折返し部１２ｂ，１２ｃを有する。各折返し部１２ｂ，１２ｃと平板部１２ａとの間に、第１の保持器構成板１１の各平坦部１１ａ，１１ｂが挟み込まれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
この発明は、自動車用トランスミッション、トルクコンバーター、カーエアコン用コンプレッサー等に使用されるスラストころ軸受、およびその保持器に関する。
【背景技術】
【０００２】
トルクコンバーターに使用されるスラストころ軸受は、エンジンとトランスミッション間の偏心回転の影響を受け易い。また、トランスミッション用のスラストころ軸受では、周辺部品の公差の集積で軸受取付部に心ずれが発生する。例えば、特許文献１には、従来の２枚合わせ形（箱型）の保持器としたスラストころ軸受において、ずれ防止が不十分である旨の記載があり、特許文献３には、従来のＷ形保持器（Ｍ型保持器）としたスラストころ軸受で短小ころが脱落する旨の記載がある。
具体例を挙げると、トルクコンバーターやトランスミッションに使用される三位一体型スラストころ軸受、すなわち図１１，図１２に示すような２枚のＬ字形の鍔付き軌道輪３２，３３と保持器付きころ（ケージ＆ローラー）からなるスラストころ軸受では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きい偏心を吸収できない。そのため、両軌道輪３２，３３の鍔３２ｂ，３３ｂに保持器４０，４０Ａが挟まれ、保持器４０，４０Ａが短寿命となることがある。
【０００３】
また、トランスミッション用のスラストころ軸受としては、図１１や図１２のような軌道輪付きのもののほか、相手部品を直接転走面として軌道輪を必要としないケージ＆ローラーのみの形式のものも多く使用されているが、これらの軸受においては、自身を介して周辺部品に潤滑油を供給するために通油性が求められている。
さらに、カーエアコン用コンプレッサーに使用されるスラストころ軸受では、希薄潤滑での使用条件であることから、耐摩耗性と潤滑条件の向上が求められている。具体例として、周辺部品に潤滑油を送るための通油性と、ころ接触部分（ころ対転走面、ころ対保持器）の冷却性能を得るために、ころ表面を保持器からより多く露出させることが求められる。ころ接触部分で冷却性能が必要なわけは、ころ接触部分が発熱すると、潤滑油の粘度が低下し、これにより油膜成形が悪くなり、潤滑不良などの原因となるからである。
このような課題に対する対策がないと、つぎのような不具合が生じる。例えば、特許文献７には、従来の２枚合わせ形（タフトライド処理品）保持器としたスラストころ軸受での損傷例が記載されており、特許文献１１には、従来の２枚合わせ形（箱型）保持器としたスラストころ軸受において潤滑性が悪い旨の記載がある。
【０００４】
上記した偏心回転の影響の回避と、通油性・ころ接触部分の冷却性能の確保という２つの課題を解決する対策を施したものとして、以下に挙げる各種スラストころ軸受が提案されている（特許文献２，４〜６，８，９）。
特許文献２：偏心に対する保持器挟まれ防止構造を施したもの。
特許文献４：偏心に対し、弾性リングでラジアル方向負荷を吸収する構造としたもの。 特許文献５：保持器の軌道輪との案内面を凸曲面とし潤滑性向上を図った構造のもの。 特許文献６：ころ面取り部の保持器ポケット端面への潜り込みを防止する構造のもの。 特許文献８：ポケット抜き面の潤滑性向上策を施したもの。
特許文献９：Ｗ形保持器を転動体案内とすることで潤滑性向上を図った構造のもの。
【特許文献１】特許第３９００８４３号公報
【特許文献２】特許第３６９２５８５号公報
【特許文献３】特許第３６６１１３３号公報
【特許文献４】特許第３６３２２６２号公報
【特許文献５】特開２００７−１８７２０７号公報
【特許文献６】特開２００７−１００７７５号公報
【特許文献７】特開２００６−１８９１３３号公報
【特許文献８】特開２００５−８３４４９号公報
【特許文献９】特開２００３−１０６３３６号公報
【特許文献１０】特開２００２−３３９９８４号公報
【特許文献１１】特開２００２−７０８７２号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
従来の、軌道輪付軸受である三位一体型スラストころ軸受において、軸受内部のラジアル方向隙間より大きい偏心を吸収できないことに起因して、両軌道輪の鍔に保持器が挟まれ、保持器損傷が発生する課題の対策として、上記したように特許文献２や特許文献４に開示された構造のものが提案されている。
しかし、これらの構造のものは、軸受の寸法増大が避けられないので、寸法増大を行なえない場合は、ころ長さの縮小（したがって負荷容量が低下する）により構造を成立させるためのスペースを生み出す必要があり、定格寿命の低下が避けられない。
そこで、ころ長さを縮小するのではなく、従来の寸法内で、保持器の板厚を厚くしたり、形状を最適化したり、硬化処理などを行なって、強化型保持器とすることが求められている。
【０００６】
スラストころ軸受の保持器には、先述したように図１１に示したような２枚合わせ形（箱型）保持器４０と、図１２に示したようなＷ形保持器４０Ａとがある。なお、従来の２枚合わせ形（箱型）保持器４０の作成では、弾性変形させてころ３４を組み込むことが困難なため、鋼板の熱処理→ころ組み込み→曲げ（かしめ）の順序で処理が行なわれる。図１２のＷ形保持器４０Ａは、図１１の箱型保持器４０と比較して、ころ３４が保持器４０Ａからより多く露出する構造であるため、上記した冷却効果が高い。しかし、上記した大きく２つに分けられる課題に対して、従来の２枚合わせ形（箱型）保持器４０とＷ形保持器４０Ａには、以下に列挙するようにそれぞれ一長一短があり、双方の長所の両立は困難を極めている。
２枚合わせ形（箱形）保持器４０
（長所）
・ 断面形状が略四角形のため、ラジアル方向の負荷（軌道輪３２，３３による保持器 挟まれ）に対して強度が強い。
・ 断面形状が略四角形のため、短小ころでも保持できる。
（短所）
・ 熱処理後にロール加締めするため、割れが発生し易く、緩み防止が不十分となる。 （特許文献１に、焼入れする前の生の方が曲げ易い旨の記載がある）
・ このため、浸炭焼入れや硬化層の増大で耐摩耗性向上を図るには不向きである。
・ ころ３４を挟み込んでロール加締めするため、適正な隙間を確保するのに部品と組 立精度の厳しい管理が必要であり、コストの高騰を招く。
・ 断面形状が略四角形のため、通油性が劣る。
Ｗ形保持器（Ｍ型保持器）４０Ａ
（長所）
・ 通油性が良く（特許文献１０に記載がある）、ころ表面を保持器４０Ａからより多 く露出させることができるため、ころ接触部分の冷却効果が大きい。
・ フォーム成形後熱処理が行なえ、その後、ロール加締め等の塑性加工も必要としな いため、浸炭焼入れや硬化層の増大、表面処理等を容易に行なえる。
・ 高度な組立精度を必要としないため、ころ組立性からも低コストである。
（短所）
・ プレス加工により１枚板を数度屈曲させるため、元板厚に対し板厚が減少する。
・ ラジアル方向負荷（挟まれ）に対し屈曲部分に応力が集中するため、強度が低い。 ・ ころ３４が傾き易く、短小ころを保持できない。
【０００７】
この発明の目的は、偏心回転の影響を回避でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できるスラストころ軸受、およびその保持器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【０００８】
この発明のスラストころ軸受は、互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなる保持器における円周方向複数箇所に設けられた各ポケットにころが保持されたスラストころ軸受であって、前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部の内周縁に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだことを特徴とする。
この構成によると、第２の保持器構成板を平坦形状とし、その内径側折返し部および外径側折返し部で第１の保持器構成板を抱え込む構造とされているので、ラジアル方向の負荷に対して、屈曲形状の第１の保持器構成板への応力が軽減される。すなわち、第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板のような屈曲部を有していないため、ラジアル方向の力に対して強い。この強固な第２の保持器構成板のため、第１の保持器構成板の屈曲部への応力を軽減でき、これにより保持器の短寿命が回避できる。
とくに、２枚の断面Ｌ字形の軌道輪を有する、いわゆる三位一体形のスラストころ軸受では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きなユニット偏心量の回転条件下において、内外輪に挟まれることにより保持器にラジアル方向の負荷が作用するが、上記したように軸受の寸法増大を招くことなく、保持器の屈曲部への応力を軽減できるため、保持器の損傷を防止できる。
また、第１の保持器構成板の前記屈曲部は、従来例におけるＷ型保持器のように複雑な形状ではなく、プレスによる屈曲加工には複数の工程が要らず１回で済み、屈曲段差も小さく抑えられるので、屈曲部の板厚は元板厚に対してほとんど減少せず屈曲部への応力をさらに軽減できる。
また、従来のスラストころ軸受における箱型保持器やＷ形保持器は断面が略長方形であるのに対して、このスラストころ軸受における保持器の断面が略三角形状となっていることから、十分な通油性を確保することもできる。
また、第２の保持器構成板の内径側折返し部および外径側折返し部を円弧状曲面とすることができるので、三位一体型のスラストころ軸受を構成した場合には、保持器と内外輪の接触面への潤滑剤の流入性が良くなる。ころを保持した保持器だけでスラストころ軸受を構成した場合にも、保持器と転走面となる相手部材のガイド部の接触面への潤滑剤の流入性が良くなる。
また、第２の保持器構成板の内径側折返し部および外径側折返し部を円弧状曲面とすることで、２枚の軌道輪付きの軸受である三位一体型のスラストころ軸受を構成した場合には、保持器の内外径面と内外輪との接触面積の低減により摩擦抵抗が軽減し、低トルクとすることができる。ころを保持した保持器だけでスラストころ軸受を構成した場合にも、保持器と転走面となる相手部材のガイド部との接触面積が低減されるので、摩擦抵抗が軽減し、低トルクとすることができる。
また、前記保持器の構造は、従来の箱型保持器と比べて、ころの表面の大半を保持器から露出させることができるので、ころ接触部分の冷却効果が大きくなる。このように、通油性ところ接触部分の冷却効果等の潤滑性能も併せ持つことにより、希薄潤滑等の潤滑条件の厳しい環境下でも、摩耗や発熱による寿命低下を防止できる。
以上の各効果により、偏心回転の影響を回避でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できる。
【０００９】
この発明において、前記第１の保持器構成板および第２の保持器構成板は、鋼板の熱処理品であり、前記内径側折返し部および外径側折返し部は、未熱処理状態で加締加工により形成された部分であっても良い。
この構成の場合、加締加工がしやすく大きな緊迫力を得ることができ、十分な緩み防止が可能である。また、加締加工の後に熱処理することから、熱処理として、浸炭焼入れや硬化層のアップ、表面処理等の耐摩耗性技術も幅広く採用でき、機能・コスト・生産性の各方面にわたって選択枝が拡がる。また、熱処理による硬化処理前に加締加工（塑性加工）を行なえることにより、ロール加締めを行う必要がなく、プレス加締めによる加工時間の短縮が可能である。
【００１０】
この発明において、前記第１の保持器構成板および第２の保持器構成板は、鋼板の熱処理品であり、この熱処理された保持器に対して前記各ころが組み込まれたものであっても良い。すなわち、ころの組み込み前に保持器の熱処理を行う。この構成の場合、ころを挟み込んだ状態で、ころと保持器のポケットとの適正隙間を確保しながら保持器の加締めを行う必要がなく、高度な部品精度と組立精度が不要で、組立コストの高騰を抑えることができる。
【００１１】
この発明において、前記保持器の前記ポケットは、第１の保持器構成板にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔と、第２の保持器構成板にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔とでなり、これら第１および第２の保持器構成板のポケット孔は、打ち抜き形成により生じる返り部が互いの非重なり面側であっても良い。この構成の場合、打ち抜き加工による返り部の影響を受けずに、一定のポケット隙間を得ることができ、保持器の挙動を安定させることができる。
【００１２】
この発明において、前記ポケットを構成する前記第１の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向の幅寸法よりも第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向の幅寸法を長くしても良い。この構成の場合、ころの端面への潤滑量を多く確保できる。この場合に、保持器は、ころの軸心に近い位置となる第１の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向に沿う端面でころの端面を受ける構造となるので、ころの傾きを抑えることができ、短小ころでも保持することが可能となる。
【００１３】
この発明において、前記ポケットを構成する前記第２の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向の幅寸法よりも第１の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向の幅寸法を長くしても良い。
【００１４】
この発明において、前記第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向に沿う縁部に、前記ポケット孔の保持器円周方向の幅寸法を局部的に大きくした部分である通油口を設けても良い。このように、第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向に沿う縁部に通油口を設けることで、通油性を向上させることができる。
【００１５】
この発明において、平板状の軌道板部およびこの軌道板部の内周縁から延びる円筒部を有する内輪と、この内輪の軌道板部に対面する平板状の軌道板部およびこの軌道板部の外周縁から内輪側へ延びる円筒部を有する外輪と、前記保持器と、前記ころとを備え、前記内輪および外輪の軌道板部の間に、前記保持器に保持された各ころが介在し、互いに偏心回転する一対の軌道輪支持部材に前記内輪および外輪がそれぞれ支持されるスラストころ軸受であって、前記保持器の外周面と前記外輪の円筒部との間の隙間である外径側隙間、および前記保持器の内周面と前記内輪の円筒部との間の隙間である内径側隙間のうち、少なくとも一方の隙間を、前記一対の軌道輪支持部材の偏心量よりも大きくしても良い。
２枚の断面Ｌ字形の軌道輪を有する三位一体型のスラストころ軸受では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きなユニット偏心量の回転条件下で、内外輪に挟まれることにより保持器にラジアル方向の負荷が作用する。上記構成の場合、軸受内部のラジアル方向隙間がユニット偏心量（一対の軌道輪支持部材の偏心量）よりも大きくしてあるので、保持器が内外輪に挟まれることがなく、偏心に起因する保持器へのラジアル方向の負荷の発生を防止できる。
【００１６】
この発明のスラストころ軸受用保持器は、互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなり、複数のころがそれぞれ保持されるポケットが円周方向複数箇所に設けられたスラストころ軸受用保持器であって、前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだことを特徴とする。
この構成によると、偏心回転の影響を回避でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できる。
【発明の効果】
【００１７】
この発明のスラストころ軸受は、互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなる保持器における円周方向複数箇所に設けられた各ポケットにころが保持されたスラストころ軸受であって、前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部の内周縁に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだため、保持器の剛性がアップし、偏心回転時の内外輪の鍔による保持器の挟まれに対して強度が確保でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できる。
この発明のスラストころ軸受用保持器は、この発明のスラストころ軸受と同様に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだため、偏心回転の影響を回避でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１８】
この発明の一実施形態を図１ないし図９と共に説明する。図１は、この実施形態のスラストころ軸受の断面図を示す。このスラストころ軸受１は、一方の軌道輪である環状の内輪２と、この内輪２と同心に配置される他方の軌道輪である環状の外輪３と、環状の保持器１０と、ころ４とを備える。内輪２は、平板状の軌道板部２ａと、この軌道板部２ａの内周縁から延びる円筒部２ｂとを有する断面Ｌ字状とされている。外輪３は、内輪２の軌道板部２ａに対面する平板状の軌道板部３ａと、この軌道板部３ａの外周縁から内輪２側へ延びる円筒部３ｂとを有する断面逆Ｌ字状とされている。これら内輪２および外輪３の軌道板部２ａ，３ａの間に、保持器１０に保持されたころ４が介在する。
ころ４は、保持器１０に対して後述のように脱落阻止されており、保持器１０と各ころ４とで、保持器付きころ２０が構成される。内輪２および外輪３は、それぞれの円筒部２ｂ，３ｂの先端に、ころ配置部側へ突出した係合突部２ｂａ，３ｂａが円周方向の複数箇所に設けられており、これら係合突部２ｂａ，３ｂａが保持器１０に係合することで、保持器付きころ２０と内外輪２，３とが非分離となった三位一体形のスラスト軸受１が構成される。
図１０におけるスラスト軸受は、互いに偏心回転する一対の軌道輪支持部材５，６の対向面に、内輪２および外輪３がそれぞれ接して支持される。例えば、一方の軌道輪支持部材５が固定であって、他方の軌道輪支持部材６は、その中心Ｏ２が回転中心Ｏ１に対して偏心量ｅだけ偏心した偏心回転を行う。このような軌道輪支持部材５，６としては、例えば、スクロール型ポンプにおける固定側スクロール部材および偏心回転側スクロール部材等がある。
【００１９】
図２は前記保持器１０におけるポケット１３の形成部の拡大断面図を示し、図３はその保持器１０がころ４を保持した状態の断面図を示す。この保持器１０は、互いに軸方向に重なる少なくとも環状の第１の保持器構成板１１と第２の保持器構成板１２とでなり、円周方向複数箇所に設けられた各ポケット１３にころ４が保持される。
【００２０】
第１の保持器構成板１１は、内径側平坦部１１ａと、外径側平坦部１１ｂと、中央平坦部１１ｃと、内径側連続部１１ｄと、外径側連続部１１ｅとでなる断面形状とされている。内径側平坦部１１ａおよび外径側平坦部１１ｂは、互いに内径側および外径側に位置し、それぞれ軸方向を向く平板状の部分である。中央平坦部１１ｃは、内径側平坦部１１ａおよび外径側平坦部１１ｂに対して半径方向の中間にあって、軸方向に偏って位置する平板状の部分である。内径側連続部１１ｄは、内径側平坦部１１ａの外周縁から中央平坦部１１ｃの内周縁に続く傾斜部分である。外径側連続部１１ｅは、中央平坦部１１ｃの外周縁から外形側平坦部１１ｂの内周縁に続く傾斜部分である。
【００２１】
第２の保持器構成板１２は、平板部１２ａと、内径側折返し部１２ｂと、外径側折り返し部１２ｃとでなる断面形状とされている。平板部１２ａは、第１の保持器構成板１１の中央平坦部１１ｃの偏り方向と反対側の面で、第１の保持器構成板１１の内径側平坦部１１ａおよび外径側平坦部１１ｂにわたって重なる部分である。内径側折返し部１２ｂは、平板部１２ａの内周縁から折り返された形状の部分である。外径側折返し部１２ｃは、平板部１２ａの外周縁から折り返された形状の部分である。内径側折返し部１２ｂと平板部１２ａとの間に、第１の保持器構成板１１の内径側平坦部１１ａが挟み込まれる。また、外径側折返し部１２ｃと平板部１２ａとの間に、第１の保持器構成板１１の外径側平坦部１１ｂが挟み込まれる。ここでは、内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃの角部を円弧状としているが、例えば図７のように、内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃの全体が半円状となるようにしても良い。
【００２２】
前記第１の保持器構成板１１および第２の保持器構成板１２は鋼板の熱処理品であり、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃは、未熱処理状態で加締加工により形成された部分である。このように熱処理された保持器１０に対して、前記各ころ４が組み込まれる。図６には、ころ４を保持した保持器１０を保持器円周方向に断面した断面図を示す。
【００２３】
図２に示すように、ころ４を保持する保持器１０のポケット１３は、第１の保持器構成板１１にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔１４と、第２の保持器構成板１２にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔１５とでなる。これら第１および第２の保持器構成板１１，１２のポケット孔１４，１５は、打ち抜き用のプレス型（図示せず）を用いたプレス加工に、より打ち抜き形成される。プレス型を用いてせん断加工する場合、その加工面は、図６（Ｂ）に強調して示すように、プレス型の挿入側から、だれ部ａ，せん断面部ｂ、破断面部ｃ、返り部ｄが生じる。この実施形態では、返り部ｄが互いの非重なり面側となるように、重なり面側から非重なり面側へと、ポケット孔１４，１５の打ち抜き形成がなされる。
図２において、第１の保持器構成板１１のポケット孔１４における保持器半径方向に沿う縁部の中間位置（中央平坦部１１ｃに相当する部分）には、ころ４が第１の保持器形成板１１側に脱落するのを防止するころ脱落防止部１４ａが、ポケット孔１４内に突出して形成されている。
【００２４】
図４は図２における矢印Ａ方向から見たポケット１３の平面図を示し、図５は図２における矢印Ｂ方向から見たポケット１３の平面図を示す。ポケット１３を構成する第２の保持器構成板１２のポケット孔１５の保持器半径方向の幅寸法Ｌ２は、第１の保持器構成板１１のポケット孔１４の保持器半径方向の幅寸法Ｌ１よりも長くされている。また、第１の保持器構成板１１のポケット孔１４の保持器円周方向の幅寸法Ｐ１は、第２の保持器構成板１２のポケット孔１５の保持器円周方向の幅寸法Ｐ２よりも長くされている。ポケット孔１４，１５の保持器円周方向の幅寸法Ｐ１，Ｐ２をこのように設定することにより、図６のように、ポケット孔１４の脱落防止部１４ａの内側縁とポケット孔１５の保持器半径方向に沿う縁部の内側縁とで、保持器１０からのころ４の抜け止めが図られる。
【００２５】
また、第２の保持器構成板１２のポケット孔１５の保持器半径方向に沿う縁部には、例えば図２の矢印Ａ方向から見たポケット１３の平面図を示す図８のように、前記ポケット孔１５の保持器円周方向の幅寸法を局部的に大きくした部分である通油口１５ａを設けても良い。また、前記通油口１５ａは、図９のように複数個としても良い。このように通油口１５ａをポケット孔１５の保持器半径方向に沿う縁部に設けることで、通油性を向上させることができる。
【００２６】
なお、この実施形態では、図１のように、ころ４を保持した前記保持器１０と、内輪２と、外輪３とでなる三位一体型のスラストころ軸受１を構成しているが、ころ４を保持した保持器１０だけで、つまり保持器付ころ２０だけで、ケージ＆ローラー形式のスラストころ軸受を構成しても良い。この場合、図２に仮想線で示すように、軸方向に対向配置され互いに相対回転する一対の相手部材７，８が、ころ４の接触する転走面となるように、両部材７，８間に保持器１０が配置される。
【００２７】
この構成のスラストころ軸受１によると、第２の保持器構成板１２を平坦形状とし、その内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃで第１の保持器構成板１１を抱え込む構造とされているので、ラジアル方向の負荷に対して、屈曲形状の第１の保持器構成板１１への応力が軽減される。すなわち、第２の保持器構成板１２は、第１の保持器構成板１１のような屈曲部を有していないため、ラジアル方向の力に対して強い。この強固な第２の保持器構成板１２のため、第１の保持器構成板１１の屈曲部への応力を軽減でき、これにより保持器の短寿命が回避できる。
【００２８】
特に、図１に示す構成の軌道輪付のスラストころ軸受１では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きなユニット偏心量の回転条件下において、内外輪２，３の円筒部２ｂ，３ｂ間に挟まれることにより保持器１０にラジアル方向の負荷が作用するが、上記したように軸受の寸法増大を招くことなく、保持器１０の屈曲部への応力を軽減できるため、保持器１０の短寿命が防止できる。
【００２９】
また、第１の保持器構成板１１の前記屈曲部は、例えば図１２に挙げた従来例におけるＷ型保持器４０Ａのように複雑な形状ではなく、プレスによる屈曲加工には複数の工程が要らず１回で済み、屈曲段差も小さく抑えられるので、図３に板厚寸法を例示するように、屈曲部の板厚は元板厚に対してほとんど減少しない（プレス前の板厚の９０％以上）。その結果、前記屈曲部への応力をさらに軽減できる。
【００３０】
また、図１１や図１２に例示した従来のスラストころ軸受における箱型保持器４０やＷ形保持器４０Ａは断面が略長方形であるのに対して、このスラストころ軸受１における保持器１０の断面が略三角形状となっていることから、十分な通油性を確保することができる。
【００３１】
また、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃを、図２や図７のように円弧状曲面とすることができるので、図１のように三位一体型のスラストころ軸受１を構成した場合には、保持器１０と内外輪２，３の接触面への潤滑剤の流入性が良くなる。図２に仮想線で示すようにころ４を保持した保持器１０だけでスラストころ軸受を構成した場合にも、保持器１０と転走面となる相手部材７，８のガイド部７ａ，８ａの接触面への潤滑剤の流入性が良くなる。
【００３２】
また、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃを円弧状曲面とすることで、図１のように三位一体型のスラストころ軸受１を構成した場合には、保持器１０の内外径面と内外輪２，３との接触面積の低減により摩擦抵抗が軽減し、低トルクとすることができる。図２のようにころ４を保持した保持器１０だけでスラストころ軸受を構成した場合にも、保持器１０と転走面となる相手部材７，８のガイド部７ａ，８ａとの接触面積の低減により摩擦抵抗が軽減し、低トルクとすることができる。
【００３３】
また、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃを円弧状曲面とすることで、図１のように三位一体型のスラストころ軸受１を構成した場合には、保持器１０の内外輪２，３との弾性変位を利用した係合における組込み力を低減でき、変形や割れを防止できる。
【００３４】
また、前記保持器１０の構造は、従来の箱型保持器と比べて、ころ４の表面の大半を保持器１０から露出させることができるので、ころ接触部分の冷却効果が大きくなる。このように、通油性ところ接触部分の冷却効果等の潤滑性能も併せ持つことにより、希薄潤滑等の潤滑条件の厳しい環境下でも、摩耗や発熱による寿命低下を防止できる。
【００３５】
また、この実施形態では、保持器１０の第１および第２の保持器構成板１１，１２が鋼板の熱処理品からなり、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃが、未熱処理状態（未硬化状態）で加締加工により形成された部分とされているので、加締加工がしやすく大きな緊迫力を得ることができ、十分な緩み防止が可能である。
また、加締加工の後に熱処理することから、熱処理として、浸炭焼入れや硬化層のアップ、表面処理等の耐摩耗性技術も幅広く採用でき、機能・コスト・生産性の各方面にわたって選択枝が拡がる。
また、熱処理による硬化処理前に加締加工（塑性加工）を行なえることにより、ロール加締めを行う必要がなく、プレス加締めによる加工時間の短縮が可能である。
【００３６】
また、この実施形態では、熱処理された保持器１０に対してころ４が組み込まれるので，ころ４を挟み込んだ状態で、ころ４と保持器１０のポケット１３との適正隙間を確保しながら保持器１０の加締めを行う必要がなく、高度な部品精度と組立精度が不要で、組立コストの高騰を抑えることができる。
【００３７】
また、この実施形態では、保持器１０のポケット１３が、第１および第２の保持器構成板１１，１２にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔１４，１５とでなり、これらの各ポケット孔１４，１５は、打ち抜き形成によるせん断で生じる返り部が互いの非重なり面側となるように、つまりころ４が接触する側からプレス抜きするので、せん断による返り部の影響を受けずに、一定のポケット隙間を得ることができ、保持器１０の挙動を安定させることができる。
【００３８】
また、この実施形態では、保持器１０のポケット１３を構成する第２の保持器構成板１２のポケット孔１５の保持器半径方向の幅寸法Ｌ２を、第１の保持器構成板１１のポケット孔１４の保持器半径方向の幅寸法Ｌ１よりも長くしているので、ころ４の端面への潤滑量を多く確保できる。この場合に、保持器１０は、ころ４の軸心Ｏに近い位置となる第１の保持器構成板１１のポケット孔１４の保持器円周方向に沿う端面でころ４の端面を受ける構造となるので、ころ４の傾きを抑えることができ、短小ころでも保持することが可能となる。
【００３９】
図１０は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態のスラストころ軸受１は、図１に示す三位一体型のスラストころ軸受１において、前記保持器１０の外周面と前記外輪３の円筒部３ｂとの間の隙間である外径側隙間ｇ１、および保持器１０の内周面と前記内輪２の円筒部２ｂとの間の隙間である内径側隙間ｇ２のうち、少なくとも一方の隙間を、一対の軌道輪支持部材５，６の偏心量ｅよりも大きくしたものである。その他の構成は図１の実施形態の場合と同様である。
【００４０】
内外輪２，３を有する三位一体型のスラストころ軸受では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きなユニット偏心量ｅの回転条件下で、内外輪２，３の円筒部２ｂ，３ｂ間に挟まれることにより、保持器１０にラジアル方向の負荷が作用する。この実施形態では、上記構成により軸受内部のラジアル方向隙間がユニット偏心量（一対の軌道輪支持部材５，６の偏心量ｅ）よりも大きくしてあるので、保持器１０が内外輪２，３の円筒部２ｂ，３ｂ間に挟まれることがなく、偏心に起因する保持器１０へのラジアル方向の負荷の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【００４１】
【図１】この発明の一実施形態にかかるスラストころ軸受の断面図である。
【図２】同スラストころ軸受における保持器のポケット形成部分の断面図である。ころ保持状態の断面図である。
【図３】同保持器のころ保持状態の断面図である。
【図４】図２における矢印Ａ方向から見た保持器ポケットの平面図である。
【図５】図２における矢印Ｂ方向から見た保持器ポケットの平面図である。
【図６】保持器のころ保持部を保持器円周方向に沿って断面した断面図、およびその一部の拡大断面図である。
【図７】保持器の他の例を示す断面図である。
【図８】保持器ポケットの他の例を示す平面図である。
【図９】保持器ポケットのさらに他の例を示す平面図である。
【図１０】この発明の他の実施形態にかかるスラストころ軸受の断面図である。
【図１１】従来例の断面図である。
【図１２】他の従来例の断面図である。
【符号の説明】
【００４２】
１…スラストころ軸受
２…内輪
２ａ…軌道板部
２ｂ…円筒部
３…外輪
３ａ…軌道板部
３ｂ…円筒部
４…ころ
５，６…軌道輪支持部材
１０…保持器
１１…第１の保持器構成板
１１ａ…内径側平坦部
１１ｂ…外径側平坦部
１１ｃ…中央平坦部
１１ｄ…内径側連続部
１１ｅ…外径側連続部
１２…第２の保持器構成板
１２ａ…平板部
１２ｂ…内径側折返し部
１２ｃ…外径側折返し部
１３…ポケット
１４，１５…ポケット孔
１５ａ…通油口
ｇ１…外径側隙間
ｇ２…内径側隙間
【技術分野】
【０００１】
この発明は、自動車用トランスミッション、トルクコンバーター、カーエアコン用コンプレッサー等に使用されるスラストころ軸受、およびその保持器に関する。
【背景技術】
【０００２】
トルクコンバーターに使用されるスラストころ軸受は、エンジンとトランスミッション間の偏心回転の影響を受け易い。また、トランスミッション用のスラストころ軸受では、周辺部品の公差の集積で軸受取付部に心ずれが発生する。例えば、特許文献１には、従来の２枚合わせ形（箱型）の保持器としたスラストころ軸受において、ずれ防止が不十分である旨の記載があり、特許文献３には、従来のＷ形保持器（Ｍ型保持器）としたスラストころ軸受で短小ころが脱落する旨の記載がある。
具体例を挙げると、トルクコンバーターやトランスミッションに使用される三位一体型スラストころ軸受、すなわち図１１，図１２に示すような２枚のＬ字形の鍔付き軌道輪３２，３３と保持器付きころ（ケージ＆ローラー）からなるスラストころ軸受では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きい偏心を吸収できない。そのため、両軌道輪３２，３３の鍔３２ｂ，３３ｂに保持器４０，４０Ａが挟まれ、保持器４０，４０Ａが短寿命となることがある。
【０００３】
また、トランスミッション用のスラストころ軸受としては、図１１や図１２のような軌道輪付きのもののほか、相手部品を直接転走面として軌道輪を必要としないケージ＆ローラーのみの形式のものも多く使用されているが、これらの軸受においては、自身を介して周辺部品に潤滑油を供給するために通油性が求められている。
さらに、カーエアコン用コンプレッサーに使用されるスラストころ軸受では、希薄潤滑での使用条件であることから、耐摩耗性と潤滑条件の向上が求められている。具体例として、周辺部品に潤滑油を送るための通油性と、ころ接触部分（ころ対転走面、ころ対保持器）の冷却性能を得るために、ころ表面を保持器からより多く露出させることが求められる。ころ接触部分で冷却性能が必要なわけは、ころ接触部分が発熱すると、潤滑油の粘度が低下し、これにより油膜成形が悪くなり、潤滑不良などの原因となるからである。
このような課題に対する対策がないと、つぎのような不具合が生じる。例えば、特許文献７には、従来の２枚合わせ形（タフトライド処理品）保持器としたスラストころ軸受での損傷例が記載されており、特許文献１１には、従来の２枚合わせ形（箱型）保持器としたスラストころ軸受において潤滑性が悪い旨の記載がある。
【０００４】
上記した偏心回転の影響の回避と、通油性・ころ接触部分の冷却性能の確保という２つの課題を解決する対策を施したものとして、以下に挙げる各種スラストころ軸受が提案されている（特許文献２，４〜６，８，９）。
特許文献２：偏心に対する保持器挟まれ防止構造を施したもの。
特許文献４：偏心に対し、弾性リングでラジアル方向負荷を吸収する構造としたもの。 特許文献５：保持器の軌道輪との案内面を凸曲面とし潤滑性向上を図った構造のもの。 特許文献６：ころ面取り部の保持器ポケット端面への潜り込みを防止する構造のもの。 特許文献８：ポケット抜き面の潤滑性向上策を施したもの。
特許文献９：Ｗ形保持器を転動体案内とすることで潤滑性向上を図った構造のもの。
【特許文献１】特許第３９００８４３号公報
【特許文献２】特許第３６９２５８５号公報
【特許文献３】特許第３６６１１３３号公報
【特許文献４】特許第３６３２２６２号公報
【特許文献５】特開２００７−１８７２０７号公報
【特許文献６】特開２００７−１００７７５号公報
【特許文献７】特開２００６−１８９１３３号公報
【特許文献８】特開２００５−８３４４９号公報
【特許文献９】特開２００３−１０６３３６号公報
【特許文献１０】特開２００２−３３９９８４号公報
【特許文献１１】特開２００２−７０８７２号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
従来の、軌道輪付軸受である三位一体型スラストころ軸受において、軸受内部のラジアル方向隙間より大きい偏心を吸収できないことに起因して、両軌道輪の鍔に保持器が挟まれ、保持器損傷が発生する課題の対策として、上記したように特許文献２や特許文献４に開示された構造のものが提案されている。
しかし、これらの構造のものは、軸受の寸法増大が避けられないので、寸法増大を行なえない場合は、ころ長さの縮小（したがって負荷容量が低下する）により構造を成立させるためのスペースを生み出す必要があり、定格寿命の低下が避けられない。
そこで、ころ長さを縮小するのではなく、従来の寸法内で、保持器の板厚を厚くしたり、形状を最適化したり、硬化処理などを行なって、強化型保持器とすることが求められている。
【０００６】
スラストころ軸受の保持器には、先述したように図１１に示したような２枚合わせ形（箱型）保持器４０と、図１２に示したようなＷ形保持器４０Ａとがある。なお、従来の２枚合わせ形（箱型）保持器４０の作成では、弾性変形させてころ３４を組み込むことが困難なため、鋼板の熱処理→ころ組み込み→曲げ（かしめ）の順序で処理が行なわれる。図１２のＷ形保持器４０Ａは、図１１の箱型保持器４０と比較して、ころ３４が保持器４０Ａからより多く露出する構造であるため、上記した冷却効果が高い。しかし、上記した大きく２つに分けられる課題に対して、従来の２枚合わせ形（箱型）保持器４０とＷ形保持器４０Ａには、以下に列挙するようにそれぞれ一長一短があり、双方の長所の両立は困難を極めている。
２枚合わせ形（箱形）保持器４０
（長所）
・ 断面形状が略四角形のため、ラジアル方向の負荷（軌道輪３２，３３による保持器 挟まれ）に対して強度が強い。
・ 断面形状が略四角形のため、短小ころでも保持できる。
（短所）
・ 熱処理後にロール加締めするため、割れが発生し易く、緩み防止が不十分となる。 （特許文献１に、焼入れする前の生の方が曲げ易い旨の記載がある）
・ このため、浸炭焼入れや硬化層の増大で耐摩耗性向上を図るには不向きである。
・ ころ３４を挟み込んでロール加締めするため、適正な隙間を確保するのに部品と組 立精度の厳しい管理が必要であり、コストの高騰を招く。
・ 断面形状が略四角形のため、通油性が劣る。
Ｗ形保持器（Ｍ型保持器）４０Ａ
（長所）
・ 通油性が良く（特許文献１０に記載がある）、ころ表面を保持器４０Ａからより多 く露出させることができるため、ころ接触部分の冷却効果が大きい。
・ フォーム成形後熱処理が行なえ、その後、ロール加締め等の塑性加工も必要としな いため、浸炭焼入れや硬化層の増大、表面処理等を容易に行なえる。
・ 高度な組立精度を必要としないため、ころ組立性からも低コストである。
（短所）
・ プレス加工により１枚板を数度屈曲させるため、元板厚に対し板厚が減少する。
・ ラジアル方向負荷（挟まれ）に対し屈曲部分に応力が集中するため、強度が低い。 ・ ころ３４が傾き易く、短小ころを保持できない。
【０００７】
この発明の目的は、偏心回転の影響を回避でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できるスラストころ軸受、およびその保持器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【０００８】
この発明のスラストころ軸受は、互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなる保持器における円周方向複数箇所に設けられた各ポケットにころが保持されたスラストころ軸受であって、前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部の内周縁に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだことを特徴とする。
この構成によると、第２の保持器構成板を平坦形状とし、その内径側折返し部および外径側折返し部で第１の保持器構成板を抱え込む構造とされているので、ラジアル方向の負荷に対して、屈曲形状の第１の保持器構成板への応力が軽減される。すなわち、第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板のような屈曲部を有していないため、ラジアル方向の力に対して強い。この強固な第２の保持器構成板のため、第１の保持器構成板の屈曲部への応力を軽減でき、これにより保持器の短寿命が回避できる。
とくに、２枚の断面Ｌ字形の軌道輪を有する、いわゆる三位一体形のスラストころ軸受では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きなユニット偏心量の回転条件下において、内外輪に挟まれることにより保持器にラジアル方向の負荷が作用するが、上記したように軸受の寸法増大を招くことなく、保持器の屈曲部への応力を軽減できるため、保持器の損傷を防止できる。
また、第１の保持器構成板の前記屈曲部は、従来例におけるＷ型保持器のように複雑な形状ではなく、プレスによる屈曲加工には複数の工程が要らず１回で済み、屈曲段差も小さく抑えられるので、屈曲部の板厚は元板厚に対してほとんど減少せず屈曲部への応力をさらに軽減できる。
また、従来のスラストころ軸受における箱型保持器やＷ形保持器は断面が略長方形であるのに対して、このスラストころ軸受における保持器の断面が略三角形状となっていることから、十分な通油性を確保することもできる。
また、第２の保持器構成板の内径側折返し部および外径側折返し部を円弧状曲面とすることができるので、三位一体型のスラストころ軸受を構成した場合には、保持器と内外輪の接触面への潤滑剤の流入性が良くなる。ころを保持した保持器だけでスラストころ軸受を構成した場合にも、保持器と転走面となる相手部材のガイド部の接触面への潤滑剤の流入性が良くなる。
また、第２の保持器構成板の内径側折返し部および外径側折返し部を円弧状曲面とすることで、２枚の軌道輪付きの軸受である三位一体型のスラストころ軸受を構成した場合には、保持器の内外径面と内外輪との接触面積の低減により摩擦抵抗が軽減し、低トルクとすることができる。ころを保持した保持器だけでスラストころ軸受を構成した場合にも、保持器と転走面となる相手部材のガイド部との接触面積が低減されるので、摩擦抵抗が軽減し、低トルクとすることができる。
また、前記保持器の構造は、従来の箱型保持器と比べて、ころの表面の大半を保持器から露出させることができるので、ころ接触部分の冷却効果が大きくなる。このように、通油性ところ接触部分の冷却効果等の潤滑性能も併せ持つことにより、希薄潤滑等の潤滑条件の厳しい環境下でも、摩耗や発熱による寿命低下を防止できる。
以上の各効果により、偏心回転の影響を回避でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できる。
【０００９】
この発明において、前記第１の保持器構成板および第２の保持器構成板は、鋼板の熱処理品であり、前記内径側折返し部および外径側折返し部は、未熱処理状態で加締加工により形成された部分であっても良い。
この構成の場合、加締加工がしやすく大きな緊迫力を得ることができ、十分な緩み防止が可能である。また、加締加工の後に熱処理することから、熱処理として、浸炭焼入れや硬化層のアップ、表面処理等の耐摩耗性技術も幅広く採用でき、機能・コスト・生産性の各方面にわたって選択枝が拡がる。また、熱処理による硬化処理前に加締加工（塑性加工）を行なえることにより、ロール加締めを行う必要がなく、プレス加締めによる加工時間の短縮が可能である。
【００１０】
この発明において、前記第１の保持器構成板および第２の保持器構成板は、鋼板の熱処理品であり、この熱処理された保持器に対して前記各ころが組み込まれたものであっても良い。すなわち、ころの組み込み前に保持器の熱処理を行う。この構成の場合、ころを挟み込んだ状態で、ころと保持器のポケットとの適正隙間を確保しながら保持器の加締めを行う必要がなく、高度な部品精度と組立精度が不要で、組立コストの高騰を抑えることができる。
【００１１】
この発明において、前記保持器の前記ポケットは、第１の保持器構成板にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔と、第２の保持器構成板にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔とでなり、これら第１および第２の保持器構成板のポケット孔は、打ち抜き形成により生じる返り部が互いの非重なり面側であっても良い。この構成の場合、打ち抜き加工による返り部の影響を受けずに、一定のポケット隙間を得ることができ、保持器の挙動を安定させることができる。
【００１２】
この発明において、前記ポケットを構成する前記第１の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向の幅寸法よりも第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向の幅寸法を長くしても良い。この構成の場合、ころの端面への潤滑量を多く確保できる。この場合に、保持器は、ころの軸心に近い位置となる第１の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向に沿う端面でころの端面を受ける構造となるので、ころの傾きを抑えることができ、短小ころでも保持することが可能となる。
【００１３】
この発明において、前記ポケットを構成する前記第２の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向の幅寸法よりも第１の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向の幅寸法を長くしても良い。
【００１４】
この発明において、前記第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向に沿う縁部に、前記ポケット孔の保持器円周方向の幅寸法を局部的に大きくした部分である通油口を設けても良い。このように、第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向に沿う縁部に通油口を設けることで、通油性を向上させることができる。
【００１５】
この発明において、平板状の軌道板部およびこの軌道板部の内周縁から延びる円筒部を有する内輪と、この内輪の軌道板部に対面する平板状の軌道板部およびこの軌道板部の外周縁から内輪側へ延びる円筒部を有する外輪と、前記保持器と、前記ころとを備え、前記内輪および外輪の軌道板部の間に、前記保持器に保持された各ころが介在し、互いに偏心回転する一対の軌道輪支持部材に前記内輪および外輪がそれぞれ支持されるスラストころ軸受であって、前記保持器の外周面と前記外輪の円筒部との間の隙間である外径側隙間、および前記保持器の内周面と前記内輪の円筒部との間の隙間である内径側隙間のうち、少なくとも一方の隙間を、前記一対の軌道輪支持部材の偏心量よりも大きくしても良い。
２枚の断面Ｌ字形の軌道輪を有する三位一体型のスラストころ軸受では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きなユニット偏心量の回転条件下で、内外輪に挟まれることにより保持器にラジアル方向の負荷が作用する。上記構成の場合、軸受内部のラジアル方向隙間がユニット偏心量（一対の軌道輪支持部材の偏心量）よりも大きくしてあるので、保持器が内外輪に挟まれることがなく、偏心に起因する保持器へのラジアル方向の負荷の発生を防止できる。
【００１６】
この発明のスラストころ軸受用保持器は、互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなり、複数のころがそれぞれ保持されるポケットが円周方向複数箇所に設けられたスラストころ軸受用保持器であって、前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだことを特徴とする。
この構成によると、偏心回転の影響を回避でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できる。
【発明の効果】
【００１７】
この発明のスラストころ軸受は、互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなる保持器における円周方向複数箇所に設けられた各ポケットにころが保持されたスラストころ軸受であって、前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部の内周縁に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだため、保持器の剛性がアップし、偏心回転時の内外輪の鍔による保持器の挟まれに対して強度が確保でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できる。
この発明のスラストころ軸受用保持器は、この発明のスラストころ軸受と同様に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだため、偏心回転の影響を回避でき、かつ通油性ところ接触部分の冷却性能を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１８】
この発明の一実施形態を図１ないし図９と共に説明する。図１は、この実施形態のスラストころ軸受の断面図を示す。このスラストころ軸受１は、一方の軌道輪である環状の内輪２と、この内輪２と同心に配置される他方の軌道輪である環状の外輪３と、環状の保持器１０と、ころ４とを備える。内輪２は、平板状の軌道板部２ａと、この軌道板部２ａの内周縁から延びる円筒部２ｂとを有する断面Ｌ字状とされている。外輪３は、内輪２の軌道板部２ａに対面する平板状の軌道板部３ａと、この軌道板部３ａの外周縁から内輪２側へ延びる円筒部３ｂとを有する断面逆Ｌ字状とされている。これら内輪２および外輪３の軌道板部２ａ，３ａの間に、保持器１０に保持されたころ４が介在する。
ころ４は、保持器１０に対して後述のように脱落阻止されており、保持器１０と各ころ４とで、保持器付きころ２０が構成される。内輪２および外輪３は、それぞれの円筒部２ｂ，３ｂの先端に、ころ配置部側へ突出した係合突部２ｂａ，３ｂａが円周方向の複数箇所に設けられており、これら係合突部２ｂａ，３ｂａが保持器１０に係合することで、保持器付きころ２０と内外輪２，３とが非分離となった三位一体形のスラスト軸受１が構成される。
図１０におけるスラスト軸受は、互いに偏心回転する一対の軌道輪支持部材５，６の対向面に、内輪２および外輪３がそれぞれ接して支持される。例えば、一方の軌道輪支持部材５が固定であって、他方の軌道輪支持部材６は、その中心Ｏ２が回転中心Ｏ１に対して偏心量ｅだけ偏心した偏心回転を行う。このような軌道輪支持部材５，６としては、例えば、スクロール型ポンプにおける固定側スクロール部材および偏心回転側スクロール部材等がある。
【００１９】
図２は前記保持器１０におけるポケット１３の形成部の拡大断面図を示し、図３はその保持器１０がころ４を保持した状態の断面図を示す。この保持器１０は、互いに軸方向に重なる少なくとも環状の第１の保持器構成板１１と第２の保持器構成板１２とでなり、円周方向複数箇所に設けられた各ポケット１３にころ４が保持される。
【００２０】
第１の保持器構成板１１は、内径側平坦部１１ａと、外径側平坦部１１ｂと、中央平坦部１１ｃと、内径側連続部１１ｄと、外径側連続部１１ｅとでなる断面形状とされている。内径側平坦部１１ａおよび外径側平坦部１１ｂは、互いに内径側および外径側に位置し、それぞれ軸方向を向く平板状の部分である。中央平坦部１１ｃは、内径側平坦部１１ａおよび外径側平坦部１１ｂに対して半径方向の中間にあって、軸方向に偏って位置する平板状の部分である。内径側連続部１１ｄは、内径側平坦部１１ａの外周縁から中央平坦部１１ｃの内周縁に続く傾斜部分である。外径側連続部１１ｅは、中央平坦部１１ｃの外周縁から外形側平坦部１１ｂの内周縁に続く傾斜部分である。
【００２１】
第２の保持器構成板１２は、平板部１２ａと、内径側折返し部１２ｂと、外径側折り返し部１２ｃとでなる断面形状とされている。平板部１２ａは、第１の保持器構成板１１の中央平坦部１１ｃの偏り方向と反対側の面で、第１の保持器構成板１１の内径側平坦部１１ａおよび外径側平坦部１１ｂにわたって重なる部分である。内径側折返し部１２ｂは、平板部１２ａの内周縁から折り返された形状の部分である。外径側折返し部１２ｃは、平板部１２ａの外周縁から折り返された形状の部分である。内径側折返し部１２ｂと平板部１２ａとの間に、第１の保持器構成板１１の内径側平坦部１１ａが挟み込まれる。また、外径側折返し部１２ｃと平板部１２ａとの間に、第１の保持器構成板１１の外径側平坦部１１ｂが挟み込まれる。ここでは、内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃの角部を円弧状としているが、例えば図７のように、内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃの全体が半円状となるようにしても良い。
【００２２】
前記第１の保持器構成板１１および第２の保持器構成板１２は鋼板の熱処理品であり、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃは、未熱処理状態で加締加工により形成された部分である。このように熱処理された保持器１０に対して、前記各ころ４が組み込まれる。図６には、ころ４を保持した保持器１０を保持器円周方向に断面した断面図を示す。
【００２３】
図２に示すように、ころ４を保持する保持器１０のポケット１３は、第１の保持器構成板１１にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔１４と、第２の保持器構成板１２にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔１５とでなる。これら第１および第２の保持器構成板１１，１２のポケット孔１４，１５は、打ち抜き用のプレス型（図示せず）を用いたプレス加工に、より打ち抜き形成される。プレス型を用いてせん断加工する場合、その加工面は、図６（Ｂ）に強調して示すように、プレス型の挿入側から、だれ部ａ，せん断面部ｂ、破断面部ｃ、返り部ｄが生じる。この実施形態では、返り部ｄが互いの非重なり面側となるように、重なり面側から非重なり面側へと、ポケット孔１４，１５の打ち抜き形成がなされる。
図２において、第１の保持器構成板１１のポケット孔１４における保持器半径方向に沿う縁部の中間位置（中央平坦部１１ｃに相当する部分）には、ころ４が第１の保持器形成板１１側に脱落するのを防止するころ脱落防止部１４ａが、ポケット孔１４内に突出して形成されている。
【００２４】
図４は図２における矢印Ａ方向から見たポケット１３の平面図を示し、図５は図２における矢印Ｂ方向から見たポケット１３の平面図を示す。ポケット１３を構成する第２の保持器構成板１２のポケット孔１５の保持器半径方向の幅寸法Ｌ２は、第１の保持器構成板１１のポケット孔１４の保持器半径方向の幅寸法Ｌ１よりも長くされている。また、第１の保持器構成板１１のポケット孔１４の保持器円周方向の幅寸法Ｐ１は、第２の保持器構成板１２のポケット孔１５の保持器円周方向の幅寸法Ｐ２よりも長くされている。ポケット孔１４，１５の保持器円周方向の幅寸法Ｐ１，Ｐ２をこのように設定することにより、図６のように、ポケット孔１４の脱落防止部１４ａの内側縁とポケット孔１５の保持器半径方向に沿う縁部の内側縁とで、保持器１０からのころ４の抜け止めが図られる。
【００２５】
また、第２の保持器構成板１２のポケット孔１５の保持器半径方向に沿う縁部には、例えば図２の矢印Ａ方向から見たポケット１３の平面図を示す図８のように、前記ポケット孔１５の保持器円周方向の幅寸法を局部的に大きくした部分である通油口１５ａを設けても良い。また、前記通油口１５ａは、図９のように複数個としても良い。このように通油口１５ａをポケット孔１５の保持器半径方向に沿う縁部に設けることで、通油性を向上させることができる。
【００２６】
なお、この実施形態では、図１のように、ころ４を保持した前記保持器１０と、内輪２と、外輪３とでなる三位一体型のスラストころ軸受１を構成しているが、ころ４を保持した保持器１０だけで、つまり保持器付ころ２０だけで、ケージ＆ローラー形式のスラストころ軸受を構成しても良い。この場合、図２に仮想線で示すように、軸方向に対向配置され互いに相対回転する一対の相手部材７，８が、ころ４の接触する転走面となるように、両部材７，８間に保持器１０が配置される。
【００２７】
この構成のスラストころ軸受１によると、第２の保持器構成板１２を平坦形状とし、その内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃで第１の保持器構成板１１を抱え込む構造とされているので、ラジアル方向の負荷に対して、屈曲形状の第１の保持器構成板１１への応力が軽減される。すなわち、第２の保持器構成板１２は、第１の保持器構成板１１のような屈曲部を有していないため、ラジアル方向の力に対して強い。この強固な第２の保持器構成板１２のため、第１の保持器構成板１１の屈曲部への応力を軽減でき、これにより保持器の短寿命が回避できる。
【００２８】
特に、図１に示す構成の軌道輪付のスラストころ軸受１では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きなユニット偏心量の回転条件下において、内外輪２，３の円筒部２ｂ，３ｂ間に挟まれることにより保持器１０にラジアル方向の負荷が作用するが、上記したように軸受の寸法増大を招くことなく、保持器１０の屈曲部への応力を軽減できるため、保持器１０の短寿命が防止できる。
【００２９】
また、第１の保持器構成板１１の前記屈曲部は、例えば図１２に挙げた従来例におけるＷ型保持器４０Ａのように複雑な形状ではなく、プレスによる屈曲加工には複数の工程が要らず１回で済み、屈曲段差も小さく抑えられるので、図３に板厚寸法を例示するように、屈曲部の板厚は元板厚に対してほとんど減少しない（プレス前の板厚の９０％以上）。その結果、前記屈曲部への応力をさらに軽減できる。
【００３０】
また、図１１や図１２に例示した従来のスラストころ軸受における箱型保持器４０やＷ形保持器４０Ａは断面が略長方形であるのに対して、このスラストころ軸受１における保持器１０の断面が略三角形状となっていることから、十分な通油性を確保することができる。
【００３１】
また、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃを、図２や図７のように円弧状曲面とすることができるので、図１のように三位一体型のスラストころ軸受１を構成した場合には、保持器１０と内外輪２，３の接触面への潤滑剤の流入性が良くなる。図２に仮想線で示すようにころ４を保持した保持器１０だけでスラストころ軸受を構成した場合にも、保持器１０と転走面となる相手部材７，８のガイド部７ａ，８ａの接触面への潤滑剤の流入性が良くなる。
【００３２】
また、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃを円弧状曲面とすることで、図１のように三位一体型のスラストころ軸受１を構成した場合には、保持器１０の内外径面と内外輪２，３との接触面積の低減により摩擦抵抗が軽減し、低トルクとすることができる。図２のようにころ４を保持した保持器１０だけでスラストころ軸受を構成した場合にも、保持器１０と転走面となる相手部材７，８のガイド部７ａ，８ａとの接触面積の低減により摩擦抵抗が軽減し、低トルクとすることができる。
【００３３】
また、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃを円弧状曲面とすることで、図１のように三位一体型のスラストころ軸受１を構成した場合には、保持器１０の内外輪２，３との弾性変位を利用した係合における組込み力を低減でき、変形や割れを防止できる。
【００３４】
また、前記保持器１０の構造は、従来の箱型保持器と比べて、ころ４の表面の大半を保持器１０から露出させることができるので、ころ接触部分の冷却効果が大きくなる。このように、通油性ところ接触部分の冷却効果等の潤滑性能も併せ持つことにより、希薄潤滑等の潤滑条件の厳しい環境下でも、摩耗や発熱による寿命低下を防止できる。
【００３５】
また、この実施形態では、保持器１０の第１および第２の保持器構成板１１，１２が鋼板の熱処理品からなり、第２の保持器構成板１２の内径側折返し部１２ｂおよび外径側折返し部１２ｃが、未熱処理状態（未硬化状態）で加締加工により形成された部分とされているので、加締加工がしやすく大きな緊迫力を得ることができ、十分な緩み防止が可能である。
また、加締加工の後に熱処理することから、熱処理として、浸炭焼入れや硬化層のアップ、表面処理等の耐摩耗性技術も幅広く採用でき、機能・コスト・生産性の各方面にわたって選択枝が拡がる。
また、熱処理による硬化処理前に加締加工（塑性加工）を行なえることにより、ロール加締めを行う必要がなく、プレス加締めによる加工時間の短縮が可能である。
【００３６】
また、この実施形態では、熱処理された保持器１０に対してころ４が組み込まれるので，ころ４を挟み込んだ状態で、ころ４と保持器１０のポケット１３との適正隙間を確保しながら保持器１０の加締めを行う必要がなく、高度な部品精度と組立精度が不要で、組立コストの高騰を抑えることができる。
【００３７】
また、この実施形態では、保持器１０のポケット１３が、第１および第２の保持器構成板１１，１２にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔１４，１５とでなり、これらの各ポケット孔１４，１５は、打ち抜き形成によるせん断で生じる返り部が互いの非重なり面側となるように、つまりころ４が接触する側からプレス抜きするので、せん断による返り部の影響を受けずに、一定のポケット隙間を得ることができ、保持器１０の挙動を安定させることができる。
【００３８】
また、この実施形態では、保持器１０のポケット１３を構成する第２の保持器構成板１２のポケット孔１５の保持器半径方向の幅寸法Ｌ２を、第１の保持器構成板１１のポケット孔１４の保持器半径方向の幅寸法Ｌ１よりも長くしているので、ころ４の端面への潤滑量を多く確保できる。この場合に、保持器１０は、ころ４の軸心Ｏに近い位置となる第１の保持器構成板１１のポケット孔１４の保持器円周方向に沿う端面でころ４の端面を受ける構造となるので、ころ４の傾きを抑えることができ、短小ころでも保持することが可能となる。
【００３９】
図１０は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態のスラストころ軸受１は、図１に示す三位一体型のスラストころ軸受１において、前記保持器１０の外周面と前記外輪３の円筒部３ｂとの間の隙間である外径側隙間ｇ１、および保持器１０の内周面と前記内輪２の円筒部２ｂとの間の隙間である内径側隙間ｇ２のうち、少なくとも一方の隙間を、一対の軌道輪支持部材５，６の偏心量ｅよりも大きくしたものである。その他の構成は図１の実施形態の場合と同様である。
【００４０】
内外輪２，３を有する三位一体型のスラストころ軸受では、軸受内部のラジアル方向隙間よりも大きなユニット偏心量ｅの回転条件下で、内外輪２，３の円筒部２ｂ，３ｂ間に挟まれることにより、保持器１０にラジアル方向の負荷が作用する。この実施形態では、上記構成により軸受内部のラジアル方向隙間がユニット偏心量（一対の軌道輪支持部材５，６の偏心量ｅ）よりも大きくしてあるので、保持器１０が内外輪２，３の円筒部２ｂ，３ｂ間に挟まれることがなく、偏心に起因する保持器１０へのラジアル方向の負荷の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【００４１】
【図１】この発明の一実施形態にかかるスラストころ軸受の断面図である。
【図２】同スラストころ軸受における保持器のポケット形成部分の断面図である。ころ保持状態の断面図である。
【図３】同保持器のころ保持状態の断面図である。
【図４】図２における矢印Ａ方向から見た保持器ポケットの平面図である。
【図５】図２における矢印Ｂ方向から見た保持器ポケットの平面図である。
【図６】保持器のころ保持部を保持器円周方向に沿って断面した断面図、およびその一部の拡大断面図である。
【図７】保持器の他の例を示す断面図である。
【図８】保持器ポケットの他の例を示す平面図である。
【図９】保持器ポケットのさらに他の例を示す平面図である。
【図１０】この発明の他の実施形態にかかるスラストころ軸受の断面図である。
【図１１】従来例の断面図である。
【図１２】他の従来例の断面図である。
【符号の説明】
【００４２】
１…スラストころ軸受
２…内輪
２ａ…軌道板部
２ｂ…円筒部
３…外輪
３ａ…軌道板部
３ｂ…円筒部
４…ころ
５，６…軌道輪支持部材
１０…保持器
１１…第１の保持器構成板
１１ａ…内径側平坦部
１１ｂ…外径側平坦部
１１ｃ…中央平坦部
１１ｄ…内径側連続部
１１ｅ…外径側連続部
１２…第２の保持器構成板
１２ａ…平板部
１２ｂ…内径側折返し部
１２ｃ…外径側折返し部
１３…ポケット
１４，１５…ポケット孔
１５ａ…通油口
ｇ１…外径側隙間
ｇ２…内径側隙間
【特許請求の範囲】
【請求項１】
互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなる保持器における円周方向複数箇所に設けられた各ポケットにころが保持されたスラストころ軸受であって、
前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部の内周縁に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、
前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだことを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項２】
請求項１において、前記第１の保持器構成板および第２の保持器構成板は、鋼板の熱処理品であり、前記内径側折返し部および外径側折返し部は、未熱処理状態で加締加工により形成された部分であるスラストころ軸受。
【請求項３】
請求項１または請求項２において、前記第１の保持器構成板および第２の保持器構成板は、鋼板の熱処理品であり、この熱処理された保持器に対して前記各ころが組み込まれたスラストころ軸受。
【請求項４】
請求項１ないし請求項３のいずれか１項において、前記保持器の前記ポケットは、第１の保持器構成板にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔と、第２の保持器構成板にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔とでなり、これら第１および第２の保持器構成板のポケット孔は、打ち抜き形成により返り部が互いの非重なり面側であるスラストころ軸受。
【請求項５】
請求項１ないし請求項４のいずれか１項において、前記ポケットを構成する前記第１の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向の幅寸法よりも第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向の幅寸法を長くしたスラストころ軸受。
【請求項６】
請求項１ないし請求項５のいずれか１項において、前記ポケットを構成する前記第２の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向の幅寸法よりも第１の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向の幅寸法を長くしたスラストころ軸受。
【請求項７】
請求項１ないし請求項６のいずれか１項において、前記第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向に沿う縁部に、前記ポケット孔の保持器円周方向の幅寸法を局部的に大きくした部分である通油口を設けたスラストころ軸受。
【請求項８】
請求項１ないし請求項７のいずれか１項において、平板状の軌道板部およびこの軌道板部の内周縁から延びる円筒部を有する内輪と、この内輪の軌道板部に対面する平板状の軌道板部およびこの軌道板部の外周縁から内輪側へ延びる円筒部を有する外輪と、前記保持器と、前記ころとを備え、前記内輪および外輪の軌道板部の間に、前記保持器に保持された各ころが介在し、互いに偏心回転する一対の軌道輪支持部材に前記内輪および外輪がそれぞれ支持されるスラストころ軸受であって、前記保持器の外周面と前記外輪の円筒部との間の隙間である外径側隙間、および前記保持器の内周面と前記内輪の円筒部との間の隙間である内径側隙間のうち、少なくとも一方の隙間を、前記一対の軌道輪支持部材の偏心量よりも大きくしたスラストころ軸受。
【請求項９】
互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなり、複数のころがそれぞれ保持されるポケットが円周方向複数箇所に設けられたスラストころ軸受用保持器であって、
前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、
前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだことを特徴とするスラストころ軸受用保持器。
【請求項１】
互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなる保持器における円周方向複数箇所に設けられた各ポケットにころが保持されたスラストころ軸受であって、
前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部の内周縁に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、
前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだことを特徴とするスラストころ軸受。
【請求項２】
請求項１において、前記第１の保持器構成板および第２の保持器構成板は、鋼板の熱処理品であり、前記内径側折返し部および外径側折返し部は、未熱処理状態で加締加工により形成された部分であるスラストころ軸受。
【請求項３】
請求項１または請求項２において、前記第１の保持器構成板および第２の保持器構成板は、鋼板の熱処理品であり、この熱処理された保持器に対して前記各ころが組み込まれたスラストころ軸受。
【請求項４】
請求項１ないし請求項３のいずれか１項において、前記保持器の前記ポケットは、第１の保持器構成板にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔と、第２の保持器構成板にプレス加工により打ち抜き形成されたポケット孔とでなり、これら第１および第２の保持器構成板のポケット孔は、打ち抜き形成により返り部が互いの非重なり面側であるスラストころ軸受。
【請求項５】
請求項１ないし請求項４のいずれか１項において、前記ポケットを構成する前記第１の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向の幅寸法よりも第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向の幅寸法を長くしたスラストころ軸受。
【請求項６】
請求項１ないし請求項５のいずれか１項において、前記ポケットを構成する前記第２の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向の幅寸法よりも第１の保持器構成板のポケット孔の保持器円周方向の幅寸法を長くしたスラストころ軸受。
【請求項７】
請求項１ないし請求項６のいずれか１項において、前記第２の保持器構成板のポケット孔の保持器半径方向に沿う縁部に、前記ポケット孔の保持器円周方向の幅寸法を局部的に大きくした部分である通油口を設けたスラストころ軸受。
【請求項８】
請求項１ないし請求項７のいずれか１項において、平板状の軌道板部およびこの軌道板部の内周縁から延びる円筒部を有する内輪と、この内輪の軌道板部に対面する平板状の軌道板部およびこの軌道板部の外周縁から内輪側へ延びる円筒部を有する外輪と、前記保持器と、前記ころとを備え、前記内輪および外輪の軌道板部の間に、前記保持器に保持された各ころが介在し、互いに偏心回転する一対の軌道輪支持部材に前記内輪および外輪がそれぞれ支持されるスラストころ軸受であって、前記保持器の外周面と前記外輪の円筒部との間の隙間である外径側隙間、および前記保持器の内周面と前記内輪の円筒部との間の隙間である内径側隙間のうち、少なくとも一方の隙間を、前記一対の軌道輪支持部材の偏心量よりも大きくしたスラストころ軸受。
【請求項９】
互いに軸方向に重なる少なくとも第１の保持器構成板および第２の保持器構成板からなり、複数のころがそれぞれ保持されるポケットが円周方向複数箇所に設けられたスラストころ軸受用保持器であって、
前記第１の保持器構成板は、互いに内径側および外径側に位置しそれぞれ軸方向に向く平板状の部分である内径側平坦部および外径側平坦部と、これら内径側平坦部および外径側平坦部に対して半径方向の中間にあって軸方向に偏った中央平坦部と、内径側平坦部の外周縁から中央平坦部に続く内径側連続部と、外径側平坦部の内周縁から中央平坦部の外周縁に続く外径側連続部とを有する断面形状であり、
前記第２の保持器構成板は、第１の保持器構成板の中央平坦部の偏り方向と反対側の面で第１の保持器構成板の内径側平坦部および外径側平坦部にわたって重なる平板部と、この平板部の内周縁および外周縁からそれぞれ折り返された形状の内径側折返し部および外径側折返し部を有し、前記内径側折返し部と前記平板部との間、および外径側折返し部と前記平板部との間に、第１の保持器構成板の前記内径側平坦部および外径側平坦部をそれぞれ挟み込んだことを特徴とするスラストころ軸受用保持器。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図１２】
【公開番号】特開２００９−１６２３６０（Ｐ２００９−１６２３６０Ａ）
【公開日】平成２１年７月２３日（２００９．７．２３）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００８−２７６７（Ｐ２００８−２７６７）
【出願日】平成２０年１月１０日（２００８．１．１０）
【出願人】（０００１０２６９２）ＮＴＮ株式会社 (9,006)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２１年７月２３日（２００９．７．２３）
【国際特許分類】
【出願日】平成２０年１月１０日（２００８．１．１０）
【出願人】（０００１０２６９２）ＮＴＮ株式会社 (9,006)
【Ｆターム（参考）】
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