説明

スラリ供給方法

【課題】供給されるスラリの特性を安定化させ、良好な研磨面が得られるスラリの供給方法を提供すること。
【解決手段】研磨パッドにスラリSを供給してウェーハを化学的機械研磨する際、添加剤Mをミストノズル15よりスラリSの液面へ均一に噴霧するとともに、常時攪拌することにより、容易にスラリS全体へ添加剤Mが拡散し、添加剤Mの濃度勾配が発生することもなく、特性の安定したスラリSを研磨パッド上へ供給することが可能となり、良好な研磨面を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置や電子部品等のウェーハを化学的機械研磨加工により研磨する際、研磨に使用するスラリを供給する供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や電子部品等のウェーハは、製造の過程において切削、研磨等の各種工程を経ていく。近年、半導体集積回路のデザインルールの縮小化に伴って、層間膜等の平坦化プロセスにおいては、化学的機械研磨加工(CMP:Chemical Mechanical Polishing )が多用されるようになってきた。
【0003】
CMPによるウェーハの研磨では、図1に示されるようなCMP研磨装置が使用される。CMP研磨装置1は、回転する研磨ヘッド2でタングステン等の金属膜を有するウェーハWを保持し、不図示のモータ等により回転する研磨定盤3上面に貼り付けられた研磨パッド4へケミカル研磨剤であるスラリSをスラリ供給装置10より供給し、回転する研磨パッド4にウェーハWを所定の圧力で押圧してCMP研磨を行う。通常、スラリには酸性の溶液にシリカ、アルミナ、二酸化マンガン、ジルコニア、セリア等の砥粒を分散させたものが使用される。
【0004】
このようなCMPによるウェーハの研磨では、スラリに対してウェーハの種類に応じた添加剤を混合して研磨が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−71720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
添加剤を混合する場合は、混合後の時間経過に伴い反応が進みスラリの特性が劣化する、スラリ内の研磨粒子の分散性が低下して凝集する、または添加剤の混合比率を変化させる必要等の問題があるため、通常研磨を行う直前にスラリへ添加剤が投入されている。
【0006】
しかし、添加剤が混合された直後のスラリは、添加剤が混合されてはいるが、スラリ全体に均一に分散していない場合がある。このようなスラリを研磨に使用すると、所定の研磨レートが得られない、必要以上に金属膜表面を脆弱状態にしてしまうなど様々な問題が発生する。
【0007】
本発明は、このような問題に対してなされたものであり、供給されるスラリの特性を安定化させ、良好な研磨面が得られるスラリの供給方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、スラリと前記スラリに添加する添加剤とを混合して研磨パッドに供給し、前記研磨パッドにウェーハを押圧して前記ウェーハを化学的機械研磨する際、前記添加剤をスプレー式のノズルにより前記スラリの液面へ均一に噴霧するとともに、常時攪拌することを特徴としている。
【0009】
請求項1の発明によれば、研磨パッドに供給される前のスラリが貯蔵されたタンクの上部に、添加剤供給用のノズルが設けられている。ノズルはスプレー式ノズルであって、スラリへ添加する添加剤を霧状にしてスラリの液面へ均一に供給する。タンク内のスラリは、タンク内に設けられた攪拌子により常に攪拌されている。
【0010】
これにより、添加剤が局所的にスラリへ供給されず、容易にスラリ全体へ拡散する。更に、スラリは常に攪拌されているので、比重の差による添加剤の濃度勾配が発生することもなく、特性の安定したスラリを研磨パッド上へ供給することが可能となり、良好な研磨面を得ることが出来る。
【0011】
請求項2に記載の発明は、スラリと前記スラリに添加する添加剤とを混合して研磨パッドに供給し、前記研磨パッドにウェーハを押圧して前記ウェーハを化学的機械研磨する際、前記添加剤が均一に浸透する多孔質素材で形成された攪拌子内部へ前記添加剤を供給するとともに、常時攪拌することを特徴としている。
【0012】
請求項2の発明によれば、セラミック、樹脂等により構成される多孔質素材で形成された、スラリを攪拌するための複数の棒状の突出部が設けられた攪拌子によりスラリが攪拌される。攪拌子は、上部が開口した中空構造を成し、内部にはスラリへ添加する添加剤が貯蔵される。攪拌子へ貯蔵された添加剤は、多孔質素材に形成された孔を通って均一にスラリ側へ浸透し、スラリへ供給される。攪拌子は、タンク内のスラリの攪拌を常に行う。
【0013】
これにより、攪拌子より均一にスラリ内へ供給された添加剤は、供給されながら攪拌され、スラリ全体へ容易に拡散していく。更に、スラリは常時攪拌されているので、比重の差による添加剤の濃度勾配が発生することもなく、特性の安定したスラリを研磨パッド上へ供給することが可能となり、良好な研磨面を得ることが出来る。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記添加剤は、過酸化水素水であることを特徴としている。
【0015】
請求項3の発明によれば、スラリへ添加された過酸化水素水により、ウェーハ表面に形成された層間膜等の金属膜が脆弱状態となり平坦化されていく。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明のスラリ供給方法によれば、CMPによるウェーハの研磨において、特性の安定したスラリを継続して供給することが可能となり、良好なウェーハ研磨面を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下添付図面に従って本発明に係るスラリ供給方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0018】
まず初めに、本発明に係わるスラリ供給方法が使用されるCMP研磨装置の構成について説明する。図1はCMP研磨装置とスラリ供給装置の構成を示した斜視図である。
【0019】
図1に示すように、CMP研磨装置1は、回転する研磨ヘッド2でタングステン等の金属膜を有するウェーハWを保持し、不図示のモータ等により回転する研磨定盤3上面に貼り付けられた研磨パッド4へスラリ供給装置10からスラリSを供給し、回転する研磨パッド4にウェーハWを押圧して化学的機械研磨を行う。
【0020】
スラリ供給装置10は、図2、図3に示されるように、新スラリ用配管12、研磨スラリ用配管13、添加剤用配管14が接続されたスラリタンク11内にスラリSが貯留されている。
【0021】
スラリタンク11内には電磁力等により回転する攪拌子16が備えられ、スラリタンク11内のスラリSの攪拌を行う。
【0022】
新スラリ用配管12は、研磨に使用される新しいスラリS、または一度研磨に使用された後、各種工程を経て再生されたスラリSをスラリタンク11へ供給する。
【0023】
添加剤用配管14は、ウェーハW表面に形成された金属膜を脆弱状態にする為にスラリSへ添加される各種酸化剤や、アルカリ剤、又刃界面活性剤等の添加剤Mをスラリタンク11内のスラリSへ供給する。本実施の形態では、添加剤Mは過酸化水素水を使用するものとする。
【0024】
添加剤用配管14の先端には、スラリタンク11の壁面を介してスプレー式のミストノズル15が備えられている。ミストノズル15は、添加剤用配管14により供給された添加剤Mを霧状にしてスラリSの液面上へ供給する。これにより、添加剤MはスラリSの液面上全体へ均一に広がりながら供給される。
【0025】
研磨スラリ用配管13は、添加剤Mが均一に混合されたスラリSを、図1に示される研磨パッド4上に供給する。
【0026】
スラリ供給装置10は、研磨ヘッド2と研磨定盤3とが回転を開始して研磨が開始されると、研磨スラリ用配管13より添加剤Mが混合されたスラリSを研磨パッド4上に供給する。
【0027】
スラリタンク11内のスラリSは、常に攪拌子16が回転して攪拌されている。このとき、攪拌子16の回転速度は、スラリSを研磨パッド4へ供給していない時よりも、ミストノズル15より添加剤Mが供給される際と、添加剤Mが混合されたスラリSを研磨パッド4へ供給する際とのほうが高速に回転する。攪拌子16の回転速度は170rpm以上とする。
【0028】
これらにより、本発明のスラリ供給方法では、添加剤Mが局所的にスラリSへ供給されず、容易にスラリ全体へ拡散させられる。更に、スラリSは常に攪拌子16により攪拌されているので、比重の差による添加剤Mの濃度勾配がスラリS内に発生することもなく、特性の安定したスラリSを研磨パッド4上へ供給することが可能となり、ウェーハW表面を良好に研磨することが出来る。
【0029】
次に、本発明のスラリ供給方法に係わる別の実施の形態について説明する。図4は別の実施の形態におけるスラリ供給装置の斜視図、図5は別の実施の形態のスラリ供給装置の側面断面図である。
【0030】
スラリ供給装置10Aは、スラリ供給装置10と同様に、新スラリ用配管12、研磨スラリ用配管13、添加剤用配管14が接続されたスラリタンク11内にスラリSが貯留されており、研磨スラリ用配管13より、図1に示されるCMP研磨装置1の研磨パッド4へ、添加剤Mが均一に添加されたスラリSを供給する。スラリタンク11内には不図示の駆動装置により回転する攪拌子20が備えられ、スラリタンク11内のスラリSの攪拌を行う。
【0031】
攪拌子20は、セラミック、又は樹脂等により構成される多孔質素材で形成されている。攪拌子20は、上部に添加剤用配管14より供給される添加剤Mを受ける円形の受け皿22が設けられ、受け皿22の底面には、スラリを攪拌するための複数の棒状の突出部21が設けられている。
【0032】
添加剤用配管14より受け皿22へ供給された添加剤Mは、突出部21内に流れ込む。突出部21内の添加剤Mは、多孔質素材の孔を通過してスラリS側へ浸透し、スラリSへ均一に供給され、攪拌子20が回転することによりスラリSに混合される。
【0033】
攪拌子20は、常時回転してスラリSの攪拌を行い、添加剤Mが受け皿22へ供給される際と、添加剤Mが混合されたスラリSを研磨パッド4へ供給する際とには、スラリSを研磨パッド4へ供給していない時よりも高速に回転する。攪拌子16の回転速度は170rpm以上とする。
【0034】
これらにより、本発明のスラリ供給方法では、添加剤MがスラリS内部に均一に供給され、容易にスラリ全体へ拡散させられる。更に、スラリSは常に攪拌子20により攪拌されているので、比重の差による添加剤Mの濃度勾配がスラリS内に発生することもなく、特性の安定したスラリSを研磨パッド4上へ供給することが可能となり、ウェーハW表面を良好に研磨することが出来る。
【0035】
次に、本発明におけるスラリ供給方法の具体的な実施例を説明する。本発明のスラリ供給方法を用いてスラリへ添加剤を添加し、十分に攪拌を行った後にCMPによりウェーハ上のタングステン膜(W膜)の研磨を実施した。
【0036】
CMP用の研磨装置としては、市販されている既存の装置であるMAT社製卓上CMP装置(型番:MAT BC−15)を使用する。研磨パッドとしては、ニッタ・ハース社製の研磨パッド(型番:IC1000、及びSUBA400 XY溝有り)を使用した。スラリとしてはCabot社製のタングステンCMP用スラリ(型番:SSW2000)に過酸化水素水(和光純薬社製 試薬特級)を30重量%添加したものを使用した。
【0037】
ウェーハとしては、外径約100mm(4インチ)のシリコンウェーハに対して、膜厚500nmの熱酸化膜、膜厚30nmのTi膜、膜厚20nmのTiN膜、膜厚300nmのW膜の順に成膜されたウェーハを使用する。
【0038】
研磨レートの測定は、CMP前後のW膜の膜厚を測定することにより行われる。W膜の膜厚測定は、抵抗率の測定により算出するものとする。抵抗率の測定には、4端子法による測定が可能である測定器、ロレスターGP(三菱化学社製)を使用する。
【0039】
まず、スラリの攪拌有無による加工レートの比較を確認する。
【0040】
スラリに添加剤として過酸化水素水30%を添加して2%とした。このとき、スラリを攪拌しない場合と、本発明に示すように、常時攪拌を行った場合について加工レートの比較を行なう。研磨条件としては研磨パッド、研磨ヘッドの回転数は60rpmとし、スラリ供給量は600ml、研磨荷重は35. 7N/cm2とする。研磨は攪拌をした場合と、攪拌をしない場合でそれぞれ3回行い比較する。
【0041】
比較の結果は、6図に示すように、攪拌をしない場合は、加工レートの変化が大きく、徐々に低下する。攪拌を常時行った場合は、3回目まで安定した研磨が行われる。
【0042】
続いて、スラリへ過酸化水素水が2%となるように添加した後軽く攪拌を行い、それ以降は攪拌を行わずにスラリを供給した。研磨は10回行い、5回目、8回目でスラリの交換を行い加工レートの変化を計測する。
【0043】
計測した結果は、図7に示すように、280nm/分から510nm/分まで加工レートが変化し、不安定な加工レートとなる。
【0044】
加工レートは、図8に示すように、スラリ中の過酸化水素水濃度が大きく影響する。過酸化水素水の比重は、スラリの比重1.033に比べて大きいため、攪拌せずに静置されたスラリには、添加した過酸化水素水の濃度勾配が発生する。本発明によるスラリ供給方法によれば、均一にスラリ上へ供給された添加剤が攪拌子により常に攪拌される為、濃度勾配が発生せず、安定した加工レートが得られ、良好な研磨面にすることが可能となる。
【0045】
以上説明したように、本発明に係るスラリ供給方法によれば、添加剤が局所的にスラリへ供給されないため、容易にスラリ全体へ拡散する。更に、スラリは常に攪拌されているので、比重の差による添加剤の濃度勾配が発生することがない。これにより、特性の安定したスラリが研磨パッド供給され、安定した加工レートで研磨することが可能であり、良好な研磨面を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係わる研磨装置の概念図。
【図2】スラリ供給装置の斜視図。
【図3】スラリ供給装置の側面断面図。
【図4】別の実施の形態におけるスラリ供給装置の斜視図。
【図5】別の実施の形態におけるスラリ供給装置の側面断面図。
【図6】攪拌の有無による研磨レートの差を比較した図表。
【図7】攪拌続けないで加工した場合の加工レートの変化を示した図表。
【図8】過酸化水素水濃度による研磨レートの違いを示した図表。
【符号の説明】
【0047】
1…CMP研磨装置,2…研磨ヘッド,3…研磨定盤,4…研磨パッド,10、10A…スラリ供給装置,11…スラリタンク,12…新スラリ用配管,13…研磨スラリ用配管,14…添加剤用配管,15…ミストノズル,16、20…攪拌子,21…突出部,22…受け皿,M…添加剤,S…スラリ,W…ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリと前記スラリに添加する添加剤とを混合して研磨パッドに供給し、前記研磨パッドにウェーハを押圧して前記ウェーハを化学的機械研磨する際、前記添加剤をスプレー式のノズルにより前記スラリの液面へ均一に噴霧するとともに、常時攪拌することを特徴とするスラリ供給方法。
【請求項2】
スラリと前記スラリに添加する添加剤とを混合して研磨パッドに供給し、前記研磨パッドにウェーハを押圧して前記ウェーハを化学的機械研磨する際、前記添加剤が均一に浸透する多孔質素材で形成された攪拌子内部へ前記添加剤を供給するとともに、常時攪拌することを特徴とするスラリ供給方法。
【請求項3】
前記添加剤は、過酸化水素水であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスラリ供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−326159(P2007−326159A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157498(P2006−157498)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】