説明

スリップしない車輪

車輪の少なくとも半径方向外方部分を覆うエラストマー層(3)を備えたスリップしない車輪(1)は、エラストマー層が、車輪の使用中継続的に破開されることにより吸引効果を生成する気泡を含有することを特徴とする。気泡はエラストマーを発泡してもたらされる。エラストマーはポリウレタンでよい。車輪はさらに、弾性の、例えばゴムなどの異なる材料からなる内方コア層(2)を具備する。車輪は特に床清掃機に有用である。洗浄溶液がいっぱいの床での使用のため、車輪は牽引摩擦の問題と直面する。他方、車輪はさらなる残留物または痕跡を床に残すべきではない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の前文に記載のスリップしない車輪に関する。特に、本発明は床の清掃機用のスリップしない車輪に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪のスリップを低減させるについては多様な方法が当業界で知られている。特に車輪駆動の車両が滑りやすい床を移動するときは、手段を講じて十分な運転上の安定すなわち安全を確保する要がある。具体的に言えば、床清掃機の駆動車輪は、これが清掃機の床磨きユニットの背後に配置されれば、重大な牽引摩擦の問題と直面する。洗浄溶液に溶けた洗浄剤は、氷の表面にもたとえられる滑りやすい領域を作り出す。総じて車輪のスリップを低減する手段は、大半の摩擦を支持する踏面輪郭を与えることで車輪の牽引摩擦を大きくすることである。この問題へは、踏面輪郭を多様な形状にした幾つかの取組みが知られている。
【0003】
1つの可能な取組みは、従来の車輪の外側表面に小さな個々の凹部または中空部を与え、この凹部または中空部が床に接触するときに吸引効果を作り出そうとする。この取組みは相当長きに亘って認識され、初期及び最近の例はDE464198、DE641896、DE1004505、DE231329、及びDE4206133にある。DE19952878は、車輪の外側表面の中空部に接続する小さい溝を車輪の内側に与え、真空生成装置を使ってこの吸引効果を改善しようとする。ところが、これらの文献による車輪には共通の欠点がある。すなわち、凹部または中空部は車輪の外側表面にだけ配されるから(通例の踏面輪郭のように)、摩耗により自然に消失してしまう。その結果、従来の踏面輪郭に見るように、車輪は凹部の深度が減ってつるつるになる。
【0004】
別の取組みは、製造工程において車輪の材料に粒子を混合し、粒子が車輪表面に達したとき車輪材料から脱落させるものである。WO00/67976で開示されたそうした方法は、固体粒子をスタッド押出機を使って非加硫ゴムやその他の重合材料に投与混合する。この方法は具体的には、摩擦タイヤや滑り止め付きの靴底の製造のために研磨粒子をゴムへ添加するのに用いられる。ところがこの方法には欠点があり、車輪材料に混合した固体粒子が車輪の使用中継続的に脱落し、残留物が床に残る。さらに、車輪からまだ脱落せずに張り出たままの固体粒子により若干の研磨作用が生じる。残留物と研磨作用とは、従来の車の例えば戸外での使用には問題ないが、車輪駆動車の目的がそれが走行する床の清掃にあれば望ましくない結果を生む。
【0005】
床清掃機の車輪がさらなる残留物を床に残すべきでないことに加えて、車輪が跡をつけない注意も必要である。例えば石炭を填材とした黒い車輪は適当ではない。こうして、1つの取組みはチョークを填材としたゴムの車輪(グレーの車輪)を基本とする。ところが、これらの車輪は短期間しか牽引摩擦を伝えない。別の解決は特別なゴム(Vulkollan)を基本とする。しかし、前例と同様に牽引摩擦は自然に減退し、それに加えて製造工程が複雑な上、基本材料も高価である。さらなる別の取組みは、車輪の材料としてポリウレタンを使用する。ところがこの材料も非常に高価な上、極めて剛性なため最小の凸凹さえも顕わにする付加的欠点を持つ。こうして、修正された取組みは、ゴムのコアとポリウレタン製の外側表面とを持ち、もっと低コストでより優れた制動をもたらす車輪を提供することにある。ところが、車輪へのポリウレタンの使用−従来の踏面輪郭と同じ高さで−は、車輪が洗浄溶液でいっぱいの床を走行するとき、まだ適正な牽引摩擦を生じさせない。
【特許文献1】DE464198
【特許文献2】DE641896
【特許文献3】DE1004505
【特許文献4】DE231329
【特許文献5】DE4206133
【特許文献6】DE19952878
【特許文献7】WO00/67976
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、上述した欠点を解決する車輪−特に(屋内の)床の清掃目的に使用するときの−を提供することにある。この車輪は、使用中最外側の表面の摩耗と共に消失することのない好ましい牽引摩擦を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これは請求項1に記載の特徴を持つ、スリップしない車輪により達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スリップしない車輪は、車輪の少なくとも半径方向外方部分を覆うエラストマー層を具備し、エラストマー層の含有する気泡が車輪の使用中に継続的に破開されることにより、吸引効果が発生しかつ車輪の外側表面の凹凸が強化されることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
スリップしない車輪は請求項10に記載の方法により製造される。本発明によれば、この方法は以下のステップを含む。すなわち、エラストマーを用意してその中に気泡を生成させるステップ;半径方向内方の車輪のコアをリムに配し、内方コアの半径方向外方の表面を研いだり磨いたりして、接着または加硫接合するに適当な表面を得るステップ;コアの半径方向外方の表面を発泡エラストマーと一緒に接着して、またはこの表面に後者を加硫接合して、車輪の使用中継続的に破開されることにより吸引効果を発生させかつ車輪の外側表面の凸凹を強化する気泡を含有した半径方向外方のエラストマー層(3)を形成するステップ。
【実施例】
【0010】
好ましい実施形態では、スリップしない車輪は発泡ポリウレタンの外方の層に加えて内方のゴムのコアを具備する。
【0011】
図1及び2にスリップしない車輪1が示してある。車輪1は、半径方向内方のコア2例えばゴムのコアを含み、このコアに気泡4を含有する半径方向外方のエラストマー層3を配する。例えば、外側のエラストマー層はポリウレタン層でもよい。内方コアは、コアを軸9に取り付ける手段8を備えたそれ自体周知のリム6のジャケット7に配される。
【0012】
この種の車輪の製造工程は次の如くである。エラストマーを発泡させ、その全容積に気泡4を含有配分させる。この発泡処理はそれ自体周知の工程で実行する。内方コア2をリム6に配し、内方コアの半径方向外方表面を研ぎまたは磨いて、エラストマーと接着し合うに−またはこの表面に後者を加硫接合するに−適当な表面を得、こうして気泡4を含有した半径方向外方のエラストマー層3を形成する。内方コア2の半径方向外方表面をその中心側に凹ませれば−例えばそれは図1に示した三角形の断面を持つ−、内方コア2に対するエラストマー層3の横方向の変位をさらに防止することができる。一方、内方コア2の半径方向外方表面はその他の多様な形状にもでき、例えばこれを図2に示すようにほぼ平坦にしてもよい。ゴムやポリウレタン以外の他の材料も使用でき、例えば別のエラストマーも気泡4を包含する限り同じ目的を果たすだろう。さらに、エラストマー内部の気泡は、気泡4が外部エラストマー層3の半径方向拡張部の本質部分に出現する限り別の方法でも生成できる。例えば気泡は、空気を含む微小な風船やカプセルをエラストマー材料に導入すれば(ポリマー加工で周知)生成できる。本発明によれば、気泡4はエラストマー層3の半径方向拡張部の全体に、または少なくともその本質部分に出現する。すなわち気泡は車輪1の半径方向外方の表面だけでなく半径方向内方にも、つまり内方コア2に隣接するエラストマー層3の半径方向内方の表面までも残らず現れる。
【0013】
図3A及び3Bは気泡4をより詳細に示している。車輪1の使用中の摩耗により、エラストマー層3は自然に継続的に半径方向内方に除き取られていく。図3Bから分かるように、気泡4を包囲した残存する半径方向外方のエラストマー層は、十分肉薄になると床との接触時に破開されるため、気泡4は開放されて吸引効果を発生させる。他方、車輪のでこぼこの外方表面−これは開放された気泡に由来する−は、総じて優れた床の掴みを生じさせる。気泡4は外側エラストマー層3の半径方向の幅の全体、または少なくともその本質部分に分布するから、摩滅は継続的に新しい気泡4の開放へと導く。こうして、外側エラストマー層3の全半径方向拡張部に気泡を与えれば、車輪1の牽引摩擦はエラストマー層3の全寿命に亘って維持される。
【0014】
この方法により上述した問題は解決される。一方で、気泡4は車輪の外方表面だけでなく、エラストマー層3の半径方向拡張部の全体または少なくともその本質部分にも配置される。したがって、吸引効果(十分な牽引摩擦を産み出す)は、凹部または中空部を外側表面にしか含有しない現況技術の車輪に見られるように、外側表面と共に消失しない(従来の踏面輪郭のように)。他方で本発明の車輪は、製造工程中に車輪材料に混合され、車輪の使用中に継続的に脱落して床に残留物を残す粒子は含まない。上述したように、車輪駆動の車両の目的がそれの走行時に床を清掃することにあるならば、このことは望ましくない結果を生む。
【0015】
内方ゴムコア2と外方ポリウレタン層3との半径方向への拡張−つまりこれらの層の量的関係−は用途により変る。もし寿命が車輪1の確実な弾性ほど重大でなければ、内方ゴムコアで車輪の大部分を覆ってよい。上述したように、ポリウレタンは最小の凸凹さえも顕わにする極めて剛性の材料である。他方、弾性が車輪の長寿命−特に吸引効果を生成する気泡の長寿命−ほど重要でない場合、ポリウレタン層3で車輪の大部分を覆う。実際、内方ゴムコア部分2は完全に省略でき、エラストマー層3を直接リム6に充てがうことができる。
【0016】
図4及び5は本発明の別の実施形態を示し、車輪1には同様に気泡4に加えて従来の踏面輪郭5が設けてある。この輪郭により、下方での水の排除が達成され−それに応じて洗浄溶液もまた低速度で排除されて長時間に亘り奏功する。
【産業上の利用可能性】
【0017】
特に床清掃用のスリップしない車輪の、上述した好ましい実施形態は、単なる例示として本発明を記述している。多様な変態もまた、添付クレームで規定した本発明の範囲内にある。例えばポリウレタン以外の他のエラストマーも、ゴム以外の他のコア材と同様に使用できる。さらに、重量を減らしたり硬さの程度を合わせたりするためにコア自体を発泡させこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】上半分は本発明の第1の実施形態によるスリップしない車輪の、半径方向外方表面の平面図、下半分は同車輪の断面図である。
【図2】図1の車輪の斜め断面図である。
【図3A】図1及び図2の車輪の半径方向外方部分の断面図である。
【図3B】図3Aの円で示した領域の拡大図である。
【図4】本発明の第2の実施形態によるスリップしない車輪の、図1と同じ図である。
【図5】図4の車輪の斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1 スリップしない車輪
2 半径方向内方のコア
3 半径方向外方のエラストマー層
4 気泡
6 リム
7 ジャケット
8 コアを軸心へ取り付ける手段
9 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の少なくとも半径方向外方部分を覆うエラストマー層(3)を備えたスリップしない車輪(1)において、エラストマー層は気泡(4)を含有し、気泡が車輪の使用中継続的に破開されることにより、吸引効果が発生しかつ車輪の外側表面の凸凹が強化されることを特徴とするスリップしない車輪。
【請求項2】
請求項1に記載のスリップしない車輪において、気泡(4)を含有するエラストマーは発泡エラストマーであることを特徴とするスリップしない車輪。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスリップしない車輪において、エラストマーはポリウレタンであることを特徴とするスリップしない車輪。
【請求項4】
先行請求項の1つに記載のスリップしない車輪において、車輪はさらに異なる材料の内方コア(2)を具備することを特徴とするスリップしない車輪。
【請求項5】
請求項4に記載のスリップしない車輪において、内方コア(2)の半径方向外方の表面はその中心側に凹んでいることを特徴とするスリップしない車輪。
【請求項6】
請求項4または5に記載のスリップしない車輪において、内方コアの材料は発泡していることを特徴とするスリップしない車輪。
【請求項7】
請求項4または5に記載のスリップしない車輪において、内方コアの材料は弾性であることを特徴とするスリップしない車輪。
【請求項8】
請求項7に記載のスリップしない車輪において、内方コアの材料はゴムであることを特徴とするスリップしない車輪。
【請求項9】
先行請求項の1つに記載のスリップしない車輪において、車輪はさらに踏面の輪郭(5)を具備することを特徴とするスリップしない車輪。
【請求項10】
先行請求項の1つに記載のスリップしない車輪と床清掃機との組合せ。
【請求項11】
スリップしない車輪(1)を製造する方法において、
エラストマーを用意しその中に気泡(4)を生成させるステップと、
半径方向内方の車輪のコア(2)をリム(6)に配し、内方コアの半径方向外方の表面を研いだり磨いたりして接着または加硫接合するに適当な表面を得るステップと、
コアの半径方向外方の表面を発泡エラストマーと一緒に接着して、またはこの表面に後者を加硫接合して、車輪の使用中継続的に破開されることにより吸引効果を発生させかつ車輪の外側表面の凸凹を強化する気泡を含有した半径方向外方のエラストマー層(3)を形成するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、気泡(4)はエラストマーを発泡させて生成することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法において、内方コア(2)の半径方向外方の表面はその中心側に凹んでいることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項11乃至13の1つに記載の方法において、エラストマーはポリウレタンであることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項11乃至14に記載の方法において、内方コア(2)の材料はゴムであることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項11乃至15の1つに記載の方法において、さらに車輪(1)の外側のエラストマー層(3)に踏面輪郭(5)を与えるステップを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−506916(P2009−506916A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511420(P2008−511420)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/018492
【国際公開番号】WO2006/124632
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(398061050)ジョンソンディバーシー・インコーポレーテッド (101)
【住所又は居所原語表記】8310 16th Street,Sturtevant,Wisconsin 53177−0902,United States of America
【Fターム(参考)】