説明

セメント原料用スラグの製造方法

【課題】製鋼スラグから、クロム濃度が低く、好ましくは水和反応性が高いセメント原料用スラグを安定的に製造する。
【解決手段】酸化クロムを含有し、塩基度1.5以上、Fe含有量が10質量%以上の製鋼スラグに還元材を添加し、1000℃以上で撹拌混合した後、冷却する。高温状態で撹拌混合を行う還元処理において、酸化クロムとともに酸化鉄も還元され、スラグ中の金属鉄と金属クロムが撹拌作用によって物理的に凝集するので、クロムを含む金属分がスラグから容易に分離除去可能な形態になる。また、還元処理によりクロムや鉄を還元して非固溶状態とし、且つ処理後の冷却条件を、冷却後の2CaO・SiOの結晶相のうちγ相の比率が50質量%以下となるように最適化することにより、セメント原料としての水和反応性が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程で発生するスラグからセメント原料用スラグを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスの製鋼工程では、溶銑に含まれる燐や硫黄、炭素などを取り除き、微量元素の含有量を鋼の用途にあわせて調整することが行われる。そのための精錬処理では石灰や酸化鉄などの精錬剤が用いられ、副生成物としていわゆる製鋼スラグが発生する。この製鋼スラグとしては、溶銑予備処理と呼ばれる脱珪、脱燐、脱硫の各精錬処理で発生する溶銑予備処理スラグと、脱炭精錬処理で発生する脱炭スラグとに大別される。これらの製鋼スラグは、路盤材、土工材、海洋土木材などを中心に利材化され、また、製鉄プロセス内での再利用も進められている。
【0003】
一方、製鋼スラグの用途の一つとして、セメント原料が考えられる。このような用途に関して、例えば、特許文献1にはセメント原料に適した製鋼スラグの処理方法が提案され、また、特許文献2においても、製鋼スラグを用いたセメントの製造方法が提案されている。また、特許文献3には、製鋼スラグの微粉末を含むセメント組成物が提案されている。製鋼スラグをセメント原料として利用できれば、製鋼スラグに多量に含まれるCaOをセメントに有効利用でき、石灰石等の天然原料について省資源化を図ることができる。
【特許文献1】特開2001−48605号公報
【特許文献2】米国特許第6491751号公報
【特許文献3】特開2005−29404号公報
【0004】
ところで、セメント原料をロータリーキルン等で焼成してポルトランドセメントを製造する場合、セメント原料中に微量のクロム酸化物が含まれ、この一部が高温かつ酸化雰囲気で処理されることによって、6価クロムが形成され易く、セメント中に含有されてしまうことが報告されており、課題である。例えば、H.J.M.Bowen著 環境無機化学(博友社)によれば、酸化クロムの約10mass%が6価になっていると考えられる。一旦、常温まで冷却されれば、通常の条件では3価のクロムが安定であり、6価に変わることは強制酸化した場合のみであるため、高温状態での6価の形成を抑制することが重要となる。方法としては、(i)インプットされる酸化クロムの量を抑制する、(ii)還元雰囲気で焼成することによって、酸化クロムの価数を3価で保持させる、という2つの方法があるが、現実的にはインプット量を抑制することが最も一般的な方法となる。
【0005】
製鋼スラグの場合も、使用する天然原料からクロム酸化物が混入するケースがある。製鋼スラグそのものは、金属鉄、2価の酸化鉄が含まれるなど、酸素が欠損している状態であるため6価クロムは生成しにくく、このため6価クロムの溶出は生じにくい。しかし、これをセメント原料として利用する場合は、キルン等で焼成される際に高温の酸化雰囲気に曝されることになるため、他のセメント原料と同様にクロムが6価になる可能性が高く、製鋼スラグをセメント原料に利用することの障害となる。
【0006】
また、製鋼スラグをセメント原料に利用するには、以下のような課題もある。すなわち、高炉スラグの場合には、他の原料と常温で混合するだけで混合セメントとして利用できるのに対し、製鋼スラグの場合には、他の原料と混合してからキルン焼成する必要があり、排出二酸化炭素の削減や省エネルギーといった社会的な要請に十分応えることができない。
【0007】
製鋼スラグをセメント原料として用いる場合に焼成が必要なのは、製鋼スラグに含まれるCaO含有鉱物が、セメントのような水和反応物としての高い活性を有していないためである。スラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO](以下、単に「塩基度」という)に注目した場合、一般に製鋼スラグは塩基度が1以上であり、特に塩基度が2以上のものは、2CaO・SiO(CS)や3CaO・SiO(CS)といったセメント反応を生じる成分が含まれることが期待される。通常のスラグ中のCSはβ−CSであり、一般的なポルトランドセメントと同じ結晶構造で安定である。ところが、多くの製鋼スラグには燐や鉄が含まれているため、β−CSに燐や鉄が固溶し、水和活性がほとんどなくなってしまい、セメントとしての反応活性がほとんど期待できない。また、CSは、溶融状態のスラグから冷却が進む過程でCSとCaOとに分解し、常温の製鋼スラグ中にはあまり含まれていない。このような理由から、製鋼スラグを常温で単純に粉砕・混合しても、セメント原料としての機能はあまり発現しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、製鋼工程で発生するスラグから、クロム濃度が低いセメント原料用スラグを安定的に製造することができる製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、製鋼工程で発生するスラグから、クロム濃度が低く且つ水和反応性が高いセメント原料用スラグを安定的に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、製鋼スラグに含まれる酸化クロムについて調査したところ、通常、酸化クロムとして含まれる量は0.1〜1.0質量%という微量といえる範囲であり、これを無くすことができれば、セメント原料として利用できる可能性があることが判った。従来の研究としては、ステンレススラグを中心として、スラグ中のクロムを還元して回収することについては、様々な方法が知られている。しかし、クロムを回収した後のスラグのセメントへの利用を考慮した処理方法については、全く知見がなかった。これは、ステンレススラグは塩基度が低い場合が多く(例えば、特開2008−81845号公報、特開2002−256323号公報、特開2000−144272号公報、特開2003−301215号公報)、セメントとしての水和反応が全く期待できないためである。さらに、クロムが除去されたスラグは、その除去の結果として従来の製鋼スラグとはやや異なった特性になると考えられるが、セメントに適したように利用するための処理技術については、全く知見がないのが実状である。
【0010】
これに対して、本発明者らは、セメント原料としての利用が期待できる塩基度が高い製鋼スラグについて、酸化クロムを還元除去する方法を検討した。ところが、塩基度が高いために単純な溶融法では反応が停止してしまい、また、溶融状態を維持しながら反応させるためには、1700℃を超える非常に高い温度が必要であり、有効に分離できないことが判った。このような問題を解決すべく鋭意検討した結果、相当量のFeを含む高温状態の製鋼スラグに還元材を添加して撹拌混合する還元処理を施すことにより、冷却後のスラグからクロムを効率的に分離除去することができ、これにより低クロム化を実現できることを見出した。また、還元処理後、比較的早い冷却速度で冷却することにより、セメント原料として水和反応性が高いスラグが得られることも判った。
【0011】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]製鋼工程で発生した酸化クロムを含有するスラグであって、スラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO]が1.5以上、Fe含有量が10質量%以上のスラグに還元材を添加し、スラグ温度が1000℃以上で撹拌混合した後、冷却することを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、スラグに還元材を添加して撹拌混合した後、冷却後の2CaO・SiOの結晶相のうちγ相の比率が50質量%以下となるように冷却することを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
[3]上記[1]または[2]の製造方法において、スラグ温度が1200℃以上において還元材を添加することを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法において、製鋼工程で発生したスラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO]が3.0以上のスラグに、還元材とともに、スラグ塩基度が2.0以上、3.0未満となるように珪素含有材を添加し、撹拌混合することを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
【0012】
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、冷却後のスラグから磁着物を取り除くことを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの製造方法において、冷却後に磁着物を取り除いた後のスラグのクロム濃度が0.1質量%以下であることを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの製造方法において、製鋼工程で発生したスラグが、脱炭工程で発生するスラグまたは脱燐工程で発生するスラグであることを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
[8]上記[1]〜[7]のいずれかの製造方法において、還元材が炭材であることを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
【0013】
[9]上記[1]〜[8]のいずれかの製造方法において、還元材が添加されたスラグを回転式の筒状処理容器内で撹拌混合することを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
[10]上記[1]〜[9]のいずれかの製造方法において、還元材が添加されたスラグを、還元性雰囲気に保持された処理容器内で撹拌混合することを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
[11]ロータリーキルンを用いてポルトランドセメントを製造する方法において、上記[1]〜[10]のいずれかの製造方法で得られたセメント原料用スラグを、セメント原料の一部としてロータリーキルンに装入して焼成することを特徴とするポルトランドセメントの製造方法。
[12]上記[1]〜[10]のいずれかの製造方法で得られたセメント原料用スラグを、比表面積が3000cm/g以上となる粒度まで粉砕し、該粉砕物をポルトランドセメントに混合することを特徴とする混合セメントの製造方法。
【0014】
なお、本発明において、スラグ温度とは「スラグの最高温度部」の温度を指す。スラグ温度は、(i)スラグ内部温度を測温プローブで直に測定する、(ii)放射温度計により測定されたスラグ表面温度から計算で求める(例えば、精錬時の溶鋼温度、スラグ量、精錬終了後の経過時間などの要素を考慮してスラグ表面温度とスラグ内部温度(最高温度部の温度)との対応関係を予め求めておき、この対応関係に基づき求める)、などの方法で測定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定のスラグ組成を有する高温状態の製鋼スラグに対して、還元材を添加して撹拌混合するスラグ顕熱を利用した還元処理を施すことにより、冷却後のスラグからクロムを効率的に分離除去することができ、これにより低クロム化を実現できる。
また、上記還元処理後に所定の条件で冷却することにより、水和反応性の高いセメント原料用スラグを得ることができ、また、そのような所定条件の冷却を行わない場合でも、還元処理後のセメント原料用スラグを、セメント原料の一部としてロータリーキルンに装入して焼成することにより、特別な成分調整をすることなくポルトランドセメントを製造することができる。
また、本発明により得られるセメント原料用スラグを所定の粒度に粉砕した粉砕物をポルトランドセメントに混合することにより、混合セメントを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のセメント原料用スラグの製造方法では、製鋼工程で発生した酸化クロムを含有するスラグであって、スラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO](以下、単に「塩基度」という)が1.5以上、Fe含有量が10質量%以上のスラグに還元材を添加し、スラグ温度が1000℃以上で撹拌混合する還元処理を行った後、冷却する。なお、ここでFeの含有量を算出するにあたって、酸化物で存在する鉄分についてはFe換算とする。また、本発明で還元処理を施すスラグは、製鋼工程で発生した際に有する顕熱によって高温状態にあるスラグであることが好ましい。
また、本発明において、好ましくは、還元処理後のスラグを、2CaO・SiOの結晶相のうちγ相の比率が50質量%以下となるような条件(冷却速度)で冷却する。
【0017】
本発明では、以下のような機構によりクロムが少ないセメント原料用スラグを製造することができる。すなわち、高温状態の製鋼スラグに還元材を添加して撹拌混合すると、スラグ中の酸化クロムが還元材と反応して金属クロムに還元される。この還元により、金属クロムはスラグから微粒状に分離するが、この金属クロムは微粒状でしかも量が少ないため、冷却後のスラグから取り出す(分離除去する)ことは難しい。これに対して本発明では、スラグのFe含有量を所定量以上とし、これに還元材を添加して高温状態で撹拌を行うので、Fe分は、酸化鉄であっても還元されて金属鉄となり、金属鉄と金属クロムが撹拌作用によって物理的に凝集する。このため、クロムを含む金属分がスラグから容易に分離除去可能な形態になり、冷却後の磁選による磁着物(金属鉄とこれに凝集付着した金属クロムを含む粒状物)の回収除去により、スラグからクロムを高効率に除去することができる。
また、未還元のクロムや鉄(酸化クロム、酸化鉄)、リン(酸化リン)は、2CaO・SiOや3CaO・SiOに固溶するため、これらを含むスラグの結晶相は水和反応性が低いものとなる。これに対して本発明では、還元処理によりクロムや鉄(酸化クロム、酸化鉄)を還元して非固溶状態にし、しかも、処理後の冷却条件を最適化することにより、セメント原料としての水和反応性を高めることができる。
【0018】
本発明において、処理の対象となる製鋼工程で発生するスラグ(以下、「製鋼スラグ」という)としては、塩基度が1.5以上の製鋼スラグであれば種類を問わないが、例えば、溶銑予備処理工程(例えば、脱珪工程、脱燐工程、脱硫工程など)で発生する脱珪スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグなどの溶銑予備処理スラグ、脱炭工程で発生する脱炭スラグなどを挙げることができる。また、これらのなかでも、脱炭スラグ、脱燐スラグは、操業が鋼種によってある程度変動したとしても、酸化鉄(FeO,Fe)含有量とCaO含有量が高く、且つ適量のSiOを含有するため、還元したクロムの分離とセメント化の両方の観点から特に好適なスラグである。これらのスラグを用いれば、通常、Feは必要量が確保できるが、必要に応じて(例えば、スラグ中のFe量が不足する場合など)、金属鉄や酸化鉄などのFe源を添加し、スラグ中のFe量を増加させるようにしてもよい。
製鋼スラグの塩基度が1.5未満では、還元されたスラグからCaSiやCaSiO、メリライト、メルビナイトなどが析出してしまい、セメント原料としての活性を確保することができない。セメントキルンに装入して再焼成する場合においても、石灰を追加投入する必要があり、経済的な長所が損なわれることとなる。この観点から、より好ましい製鋼スラグの塩基度は2.0以上である。
【0019】
一方、製鋼スラグの塩基度は3.5未満、特に3.0未満であることが好ましい。塩基度が3.0以上、特に3.5以上になると、セメントの主要鉱物である2CaO・SiO、3CaO・SiOよりもCaOが過剰となる。未還元の製鋼スラグの場合、CaOはFeOやCrと反応して化合物をつくり安定化しているが、還元処理するとFeOやCrが還元されてメタルになるため、free−CaOと呼ばれる遊離CaOが発生する。その結果、セメントとして利用する場合の体積安定性を確保することが難しくなる。表1に塩基度を変えた製鋼スラグを還元処理し、これをポルトランドセメントと50:50で混合して、体積安定性を評価した結果を示す。体積安定性の評価は、JIS−R−5201のセメントの物理試験方法に準拠して行った。表1によれば、塩基度が3.0以上になると体積安定性が低下する傾向があり、3.5では単純に混合する利用方法は適用が難しいと判断される。
【0020】
以上述べた点からして、製鋼スラグの塩基度が3以上である場合には、還元材とともに、スラグ塩基度が2.0以上、3.0未満となるように珪素含有材を添加し、還元処理(撹拌混合)を行うことが好ましい。珪素含有材としては、例えば、石炭灰、珪砂、珪砂粉、ガラス粉などを用いることができる。
【表1】

【0021】
製鋼スラグの酸化クロム濃度は2質量%以下であることが好ましい。2質量%を超えるスラグ中の酸化クロムを還元することも可能であるが、セメント原料として使用する場合には、還元処理後の酸化クロム濃度を低く抑制する必要があり、還元処理後のクロム濃度は0.1質量%以下が好ましい。クロム濃度が0.1質量%以下であれば、セメント原料として再加熱された場合でも、6価クロムの発生量を環境上問題のないレベルまで抑制することができる。還元処理前の製鋼スラグ中の酸化クロム濃度が2質量%を超えると、反応を確実に行わせるために、還元処理をより高温で或いはより長時間行う必要があり、処理コストが増大する。この観点から、製鋼スラグのより好ましい酸化クロム濃度は1.5質量%以下である。
【0022】
また、製鋼スラグのFe含有量は10質量%以上とする。クロムを除去するための化学反応だけを考えた場合には、Feの含有やその含有量を問題にする必要はないが、さきに説明したように、本発明では還元処理によってスラグ中の酸化鉄を酸化クロムとともに還元し、金属鉄と金属クロムを撹拌作用によって物理的に凝集させ、クロムを含む金属分をスラグから容易に分離除去(磁選による分離除去)できるような形態とするものである。したがって、製鋼スラグはFe分(金属鉄,酸化鉄)を含有する必要がある。そして、Fe含有量が10質量%以上あれば、冷却後の磁選によって金属クロムが凝集付着した金属鉄として、クロム分をスラグから安定的に除去できる。なお、さきに述べたように製鋼スラグには金属鉄や酸化鉄などのFe源を添加してもよく、この添加されたFe源を含めて、スラグ中のFe含有量が10質量%以上であればよい。
【0023】
本発明では、以上のような製鋼スラグに還元材(スラグ中の酸化物の還元材)を添加し、スラグ温度が1000℃以上で撹拌混合する還元処理を行う。ここで、製鋼スラグは製鋼工程の精錬処理により生じた高温スラグであり、本発明では、このような高温スラグの顕熱を有効利用して還元処理を行うものである。なお、特にスラグ顕熱を有効に利用して還元反応を進行させるためには、スラグ温度が1200℃以上、好ましくは1300℃以上の段階でスラグに還元材を添加することが好ましい。このように、高温スラグの顕熱を有効利用することが効率的であるが、スラグがこの温度より低温になっている場合は、電気炉等から投入するジュール熱や酸素がやや欠乏した状態でのバーナー加熱等によって不足分を補うことが可能である。
【0024】
製鋼スラグに添加する還元材の種類に特別な制限はなく、例えば、Fe−Si、Fe−Al、アルミ灰、炭材(コークス、カーボン粉、カーボン系ダスト、木炭、石炭ダストなど)、廃プラスチック、木材などの1種以上を用いることができるが、炭材を用いることが特に好ましい。炭材を用いることにより、スラグ温度の低下を抑制しつつ、発生するCOガスによってスラグの混合と還元材との反応を促進させることができる。
還元材の添加量は特に限定されないが、還元反応を確実に進行させ、且つ余剰な還元材が残留することのないようにするため、製鋼スラグ中に含まれる酸化鉄(FeO、Fe)、酸化クロムおよび酸化燐の全量を還元するのに必要な還元材量の80〜120質量%程度とすることが望ましい。
【0025】
また、酸化クロムや酸化鉄の還元反応を有効に進行させるために、スラグの撹拌混合は1000℃以上で5分間以上行うことが好ましい。酸化鉄の還元は、1000℃以下ではCOガス等を介した還元反応が主体となるが、1000℃以上であれば、固体同士の直接反応を進行させることができる。
また、単純に還元材を添加しただけでは、固体間の接触が十分でなく、反応が進行しにくいため、前述の温度条件では不十分であり、還元反応を進行させるためには追加的熱量の投入が必要となるが、本発明のように撹拌混合する方法であれば、十分な反応の進行が実現できる。また、さきに述べたように、撹拌混合することによって、還元を進行させ、金属鉄と金属クロムを物理的に凝集させ、クロムを含む金属分をスラグから容易に分離除去(磁選による分離除去)できるような形態とすることができる。
【0026】
製鋼スラグと還元材を撹拌混合する方法や手段に特別な制限はなく、例えば、(i)鍋状の容器に製鋼スラグと還元材を入れ、これをインペラーなどの撹拌手段で撹拌する方法、(ii)電気炉に溶鉄、還元材、製鋼スラグを入れて撹拌する方法、(iii)ロータリーキルン式の筒状処理容器を用いる方法、などの方法が挙げられる。特に、上記(iii)の場合には、処理容器内部の雰囲気を制御しやすいこと、温度が1000℃〜1200℃で半溶融状態の製鋼スラグと還元材を確実に撹拌混合できること、などの点から好ましい。
なお、製鋼スラグと還元材との撹拌混合は還元性雰囲気で行うことが好ましい。これによって、固体−気体反応による還元の進行、再酸化の防止を図ることができる。還元性雰囲気としては、NやAr雰囲気が最も望ましいが、プロパンバーナーをOが過剰にならない条件で燃焼させた排ガスの雰囲気などでもよい。
【0027】
図1は、上記(iii)の方法の一実施形態を示すものであり、ロータリーキルン式の筒状処理容器1は、回転駆動する筒状体10と、この筒状体10の両端を回転自在に支持する支持体11,12とを備え、支持体11には被処理材の投入口2が、支持体12には被処理材の取出口3が、それぞれ設けられている。筒状処理容器1は、水平状態から取出口3側に向かって下向きに傾斜している。
このような筒状処理容器1では、筒状体10が回転している状態で投入口2から製鋼スラグと還元材が投入され、この製鋼スラグと還元材は処理容器長手方向で移動しつつ撹拌混合され、最終的に取出口3から取り出される。
【0028】
上記のような撹拌混合による還元処理がなされた製鋼スラグは冷却されるが、そのままでセメント原料として利用できるようにするために、冷却後の2CaO・SiOの結晶相のうちγ相の比率が50質量%以下となるような冷却条件(冷却速度)で冷却することが好ましい。冷却後の2CaO・SiOの結晶相のうちγ相の比率が50質量%以下であれば、スラグのセメント活性が確保され、セメント混和材として直接利用が可能となる。
【0029】
ここで、2CaO・SiOのγ相の測定方法は、特に限定されるものではないが、代表的な方法としてはXRDによる検量・評価法が挙げられる。ここで、β相とγ相は類似したピーク位置が多いが、β相は結晶格子間隔が2.28付近に単独ピークがあり、γ相は4.35付近に単独ピークがある。これを、事前に混合比を変えた粉末でXRDを行って検量線を作成し、それに基づきγ相の比率を求めることができる。
上記のような結晶相を得るためのスラグの冷却条件としては、スラグ温度が1000℃以上から平均冷却速度10℃/分以上、好ましくは15℃/分以上で400℃以下まで冷却することが好ましい。平均冷却速度が小さいと、上記のような結晶相が安定して得られにくく、スラグのセメント活性を十分に高めることができない。また、400℃よりも低温域では結晶相の相変態を生じにくくなるため、任意の冷却速度でよい。
【0030】
塩基度2.5の製鋼スラグを本発明条件で還元処理した後、1000℃以上の温度から種々の平均冷却速度で400℃以下まで冷却した。その後、ブレーン値4000cm/gに粉砕したものを、普通ポルトランド70質量%、スラグ30質量%の割合で混合した混合セメントの28日圧縮強度を調べた。この28日圧縮強度と還元処理後の上記平均冷却速度との関係を図2に示す。これによれば、平均冷却速度が10℃/分以上で強度が大幅に改善し、特に15℃/分以上において安定して高強度が発現していることが判る。
【0031】
還元処理後のスラグを上記のような冷却条件で冷却する方法には、特別な制限はなく、例えば、(イ)スラグに散水する方法、(ロ)スラグに大量の空気を吹き付けて冷却する方法、(ハ)内部に冷媒が通された回転可能な横型冷却ドラムを備え、その外周のドラム面に溶融スラグが接触することにより冷却され、冷却されたスラグがドラム面から剥離して排出されるようにした溶融スラグの冷却処理装置を用いてスラグを冷却する方法、などを適用できる。
上記(イ)の冷却方法では、散水された水の蒸発潜熱により大きな冷却速度が得られる。また、上記(ロ)の冷却方法では、大量の空気は必要となるものの、水との水和反応の部分的な進行を抑制しながら、冷却速度を確保することができる。また、上記(ハ)の方法では、スラグが比較的薄い状態でドラム面に接触することにより冷却されるので、この場合も大きな冷却速度が得られ、且つ水との接触も避けることが可能となる。
【0032】
また、上記(ハ)の冷却方法には、例えば、下記のような冷却処理装置を用いた冷却形態がある。
(a)単一の横型冷却ドラムと、この横型冷却ドラムに溶融スラグを供給する樋を備える冷却処理装置(単ドラム型の冷却処理装置)。
(b)対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する、並列した1対の横型冷却ドラムを備え、この1対の横型冷却ドラムの上部外周面間に上方から溶融スラグが供給される冷却処理装置(双ドラム型の冷却処理装置)。
(c)間隙を有して並列し、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の横型冷却ドラム(圧延ロール)を備え、この1対の冷却ドラムの上部外周面間に上方から溶融スラグが供給される冷却処理装置(圧延ロール型の冷却処理装置)。
なお、後工程で焼成処理(通常、キルン処理)を施す場合は、還元処理後の冷却はどのような条件でもよい。
【0033】
冷却されたスラグは、通常、磁選(磁気選別)に適したサイズに破砕処理される。破砕のサイズは特に制限はないが、一般には、粒径40mm以下程度である。次いで、磁選(磁気選別)により磁着物を回収除去するが、この回収除去される主たる磁着物は、金属鉄とこれに凝集付着した金属クロムを含む粒状物である。これにより、スラグからクロムを高効率に除去することができる。
【0034】
本発明において、還元処理後のスラグの冷却を上述したような特定の条件(冷却後の2CaO・SiOの結晶相のうちγ相の比率が50質量%以下となるような冷却条件)で行わない場合、セメント原料としての利用を可能とするために、セメントクリンカーを製造する際に行う焼成処理(通常、キルン処理)を施すことが好ましい。この焼成処理は、スラグ単独に対して施してもよいが、スラグをセメント原料の一部としてロータリーキルンに装入し、セメントクリンカーを焼成するのが、処理効率やセメント原料の品質の面から好ましい。すなわち、ロータリーキルンを用いてポルトランドセメントを製造する際に、本発明で得られたスラグ(セメント原料用スラグ)を、セメント原料の一部としてロータリーキルンに装入して焼成するものである。セメントクリンカーを焼成する際は、酸化雰囲気となるが、本発明で得られるセメント原料用スラグはクロム含有量が低いため、このようなスラグであれば(クロム含有量が高い他のセメント原料を用いない限り)、6価クロムの発生量を低レベルに維持することが可能となる。すなわち、本発明で得られたセメント原料用スラグを、セメント原料の一部としてロータリーキルンに装入して焼成することにより、特別な成分調整をすることなくポルトランドセメントを製造することができる。
【0035】
本発明において、還元処理後の冷却を上述したような特定の条件(冷却後の2CaO・SiOの結晶相のうちγ相の比率が50質量%以下となるような冷却条件)で行って得られるセメント原料用スラグは、β−2CaO・SiOが主体となっているため、遅延型の水和活性を持つ材料となる。したがって、普通ポルトランドセメントほどの速硬性はないが、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントと同様に初期水和反応の熱の抑制が望まれるマスコンクリート材料等に使用可能な機能を有する。この場合、セメント原料用スラグはセメント用の混和材として使用することが可能である。すなわち、本発明により得られるセメント原料用スラグを所定の粒度に粉砕した粉砕物をポルトランドセメントに混合することにより、混合セメントを製造することができる。一般に、セメント原料用スラグは、ポルトランドセメント100質量部に対して20〜100質量部程度混合される。
【0036】
セメント原料用スラグの粒度は特に制限はないが、混合セメントの一部として使用することなどを考慮した場合、一般のセメント原料(普通ポルトランドセメント、高炉水砕スラグ微粉末など)と同程度の粒度にすることが品質安定のためによく、比表面積は3000cm/g以上、より望ましくは4000cm/g程度とすることが好ましい。
なお、本発明において、化学分析一般についてはJIS−K−0050(化学分析方法通則)に準拠し、スラグの成分分析についてはJIS−M−8205〜JIS−M−8224(鉄鉱石に関する定量方法)に準拠する。
【実施例】
【0037】
製鋼スラグとして脱燐スラグ(スラグ塩基度:2.5以下)と脱炭スラグ(スラグ塩基度:2.5超)を用い、これらからセメント原料用スラグを製造した。還元材としてはカーボン粉を、珪素含有材としては珪砂を、それぞれ使用した。
製鋼スラグを電気炉で溶融状態とし、このスラグを還元材とともに図1に示すようなロータリーキルン式の処理容器(撹拌混合装置)に投入し、さらに必要に応じて珪素含有材を投入し、処理容器内で撹拌混合して還元処理を行った。このように還元処理したスラグを処理容器から排出し、これに空気を送風して、冷却速度を変化させて固化させた。なお、還元材投入後に撹拌混合しない比較例の場合は、スラグ鍋にスラグを入れ、その上から還元材を投入し、そのまま保持した。
冷却後のスラグをジョークラッシャーで粒径40mm以下に破砕した後、永久磁石式吊り下げ磁選機で磁選し、スラグから磁着物を取り除いた。
表2および表3に、使用した製鋼スラグの組成、セメント原料用スラグの製造条件、冷却後のスラグの2CaO・SiOの結晶相のうちγ相の比率(γ−CSの比率)を示す。
【0038】
得られたセメント原料用スラグを微粉砕した後、混和材として普通ポルトランドセメントに30mass%の割合で混合し、この混合セメントをJIS−R−5201で規定されるモルタル強度試験に供し、28日後の圧縮強度を測定した。また、28日経過した後のモルタルを2mm以下に破砕し、環境省告示46号法で規定される溶出試験に供して6価クロムの溶出量を測定し、下記の基準で評価した。また、微粉砕したセメント原料用スラグをセメント原料の一部(セメント原料中の割合:30質量%)としてロータリーキルンに投入して焼成し、得られたセメント原料を上記と同様の溶出試験に供して6価クロムの溶出量を測定し、下記の基準で評価した。それらの結果を、磁着物除去後のスラグのクロム濃度とともに表4に示す。
○:0.03mg/L未満
△:0.03〜0.05mg/L
×:0.05mg/L超
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の還元処理を、ロータリーキルン式の筒状処理容器を用いて実施する場合の一実施形態を示す説明図
【図2】スラグ塩基度2.5の製鋼スラグを本発明条件で還元処理した後、1000℃以上の温度から種々の平均冷却速度で400℃以下まで冷却して得られたスラグについて、スラグの粉砕物を用いた混合セメントの28日圧縮強度と還元処理後の上記平均冷却速度との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0043】
1 筒状処理容器
2 投入口
3 取出口3
10 筒状体
11,12 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼工程で発生した酸化クロムを含有するスラグであって、スラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO]が1.5以上、Fe含有量が10質量%以上のスラグに還元材を添加し、スラグ温度が1000℃以上で撹拌混合した後、冷却することを特徴とするセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項2】
スラグに還元材を添加して撹拌混合した後、冷却後の2CaO・SiOの結晶相のうちγ相の比率が50質量%以下となるように冷却することを特徴とする請求項1に記載のセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項3】
スラグ温度が1200℃以上において還元材を添加することを特徴とする請求項1または2に記載のセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項4】
製鋼工程で発生したスラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO]が3.0以上のスラグに、還元材とともに、スラグ塩基度が2.0以上、3.0未満となるように珪素含有材を添加し、撹拌混合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項5】
冷却後のスラグから磁着物を取り除くことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項6】
冷却後に磁着物を取り除いた後のスラグのクロム濃度が0.1質量%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項7】
製鋼工程で発生したスラグが、脱炭工程で発生するスラグまたは脱燐工程で発生するスラグであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項8】
還元材が炭材であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項9】
還元材が添加されたスラグを回転式の筒状処理容器内で撹拌混合することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項10】
還元材が添加されたスラグを、還元性雰囲気に保持された処理容器内で撹拌混合することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のセメント原料用スラグの製造方法。
【請求項11】
ロータリーキルンを用いてポルトランドセメントを製造する方法において、
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法で得られたセメント原料用スラグを、セメント原料の一部としてロータリーキルンに装入して焼成することを特徴とするポルトランドセメントの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法で得られたセメント原料用スラグを、比表面積が3000cm/g以上となる粒度まで粉砕し、該粉砕物をポルトランドセメントに混合することを特徴とする混合セメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−105826(P2010−105826A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276292(P2008−276292)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】