説明

セラミックスヒーターおよびその製造方法

【課題】 高頻度の使用を繰り返してもヒーター電極層の亀裂や基板からの剥離が起こらない信頼性に優れたセラミックスヒーターを提供する。
【解決手段】 酸化アルミニウムからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の上面に溶射により形成されたヒーター電極層と、このヒーター電極層を被覆するように前記セラミックス基板の上に溶射により形成された酸化アルミニウム層と、を具備するセラミックスヒーターにおいて、前記ヒーター電極層の気孔率が3〜7%であることを特徴とするセラミックスヒーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスヒーターおよびその製造方法に関するもので、特に、ヒーター電極を溶射により形成したセラミックスヒーターおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化アルミニウムからなるセラミックス基板とこの上に形成された導電層およびこの導電層に積層、被覆されたアルミナからなる溶射皮膜とからなるセラミックスヒーターが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−157172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したセラミックスヒーターの導電層(本発明のヒーター電極層に相当する。)は、タングステン、モリブデンなどの高融点金属を含む導電性ペーストをスクリーン印刷法などで基板上に塗装したのち、真空中または還元性雰囲気で焼成して形成されていた。
しかし、スクリーン印刷法により形成したセラミックスヒーターの導電層(本発明のヒーター電極層に相当する。)は、基板やその上に形成するアルミナからなる溶射皮膜との密着性が悪く、高頻度の使用を繰り返すと導電層の亀裂や基板からの剥離が起こり、信頼性に劣るという問題点を有していた。
【0004】
本発明者らは、前記した課題を解決するために鋭意検討して本発明を完成したものであり、本発明は、高頻度の使用を繰り返してもヒーター電極層の亀裂や基板からの剥離が起こらない信頼性に優れたセラミックスヒーターを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した本発明の目的は、下記した手段によって解決することができる。
(1)酸化アルミニウムからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の上面に溶射により形成されたヒーター電極層と、このヒーター電極層を被覆するように前記セラミックス基板の上に溶射により形成された酸化アルミニウム層と、を具備するセラミックスヒーターにおいて、前記ヒーター電極層の気孔率が3〜7%であることを特徴とするセラミックスヒーター。
【0006】
(2)酸化アルミニウムからなるセラミックス基板を100〜150℃に予熱する工程と、前記セラミックス基板の上面に気孔率が3〜7%のヒーター電極層を溶射により形成する工程と、前記ヒーター電極層を被覆するように前記セラミックス基板の上に酸化アルミニウム層を溶射により形成する工程と、を含むことを特徴とする(1)に記載のセラミックスヒーターの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高頻度の使用を繰り返してもヒーター電極層の亀裂や基板からの剥離が起こらない信頼性に優れたセラミックスヒーターを提供することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1に本発明の構成によるセラミックスヒーターの模式的断面図を示した。
ここで、本発明のセラミックスヒーターは、酸化アルミニウムからなるセラミックス基板1と、このセラミックス基板の上面に溶射により形成されたヒーター電極層2と、このヒーター電極層を被覆するように前記セラミックス基板の上に溶射により形成された酸化アルミニウム層3と、を具備している。
【0009】
本発明では、酸化アルミニウムからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の上面に溶射により形成されたヒーター電極層と、このヒーター電極層を被覆するように前記セラミックス基板の上に溶射により形成された酸化アルミニウム層と、を具備するセラミックスヒーターにおいて、前記ヒーター電極層の気孔率が3〜7%であることを特徴とするセラミックスヒーターを提案している。
【0010】
ここで、本発明において、ヒーター電極層を溶射により形成する理由は、ヒーター電極層と、セラミックス基板やその上に形成するアルミナからなる溶射皮膜と、の密着性を改善するためである。
次に、ヒーター電極層の気孔率が3〜7%である理由は、ヒーター電極層の気孔率が3%未満となるとヒーター電極層とその上に被覆する酸化アルミニウム層との密着性が低下して好ましくないからである。これは、ヒーター電極層の気孔への被覆層によるアンカー効果が発現できなくなるためと推察される。
また、ヒーター電極層の気孔率が7%を超えて大きくなると電極密度が低下して所望の導電率か得られなくなり好ましくない。
【0011】
次に、本発明では、酸化アルミニウムからなるセラミックス基板を100〜150℃に予熱する工程と、前記セラミックス基板の上面にヒーター電極層を溶射により形成する工程と、前記ヒーター電極層を被覆するように前記セラミックス基板の上に酸化アルミニウム層を溶射により形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のセラミックスヒーターの製造方法を提案している。
【0012】
ここで、本発明のセラミックスヒーターの製造方法をより詳細に説明する。
まず基台となる酸化アルミニウムからなるセラミックス基板を用意する。次に、前記セラミックス基板を100〜150℃に予熱する。その理由は、セラミックス基板の上面に溶射により形成するヒーター電極層との密着性を向上させるためである。
【0013】
次に、その上面に溶射法によりでヒーター電極層を形成する。ここで、電極層にパターンを形成させるには、所望のパターンの開孔部を有するマスキングテ−プ(耐熱性テ−プ)をセラミックス基板上に被覆してからヒーター電極層を溶射後にマスキングテ−プをはがしても良いし、もしくは、あらかじめ電極層を溶射後に所望のパターンの開孔部を有するパンチングメタル等の金属板をヒーター電極層上に置いてからブラスト処理を行い金属板の開孔部にあたる電極層を除去する方法を用いても良い。
【0014】
ここで、ヒーター電極層の厚さとしては、10〜50μm程度が好ましい。その理由は、10μmより薄いと溶射により形成した皮膜層が均一とならないため、加熱温度にムラが生じやすくなり、50μmより厚いと、ヒーター電極層とセラミックス基板との間の段差が大きくなり、その上部に形成される酸化アルミニウム層の耐電圧特性が低化するため好ましくないからである。
【0015】
ここで、ヒーター電極の電極材料としては、ヒーターの要求特性の適合させて選択することが可能で、Ni基合金、Fe基合金、Al基合金、Mo基合金、W等が好適に用いられる。
【0016】
次に、ヒーター電極の溶射方法としては、ローカイド溶射方法が特に好ましい。その理由は、ローカイド溶射方法とは、溶射する材料棒を酸素−アセチレン炎中に連続的に供給して溶融するとともに、溶融した材料を圧縮空気により微粒子化して連続的に基板へ吹き付けて溶射する方法であり、この方法によれば、完全に溶融された材料だけが溶射されるため、溶射膜は粒子間の結合力が強くなり、強靭な皮膜となる作用があるからである。
【0017】
次に、前記ヒーター電極層を被覆するように前記セラミックス基板の上に酸化アルミニウム層を溶射により形成して本発明のセラミックスヒーターとする。
【0018】
ここで、形成する酸化アルミニウム層の厚さは、80〜300μm程度が好ましく、80μmより薄いと耐電圧が低くなり絶縁破壊が起こりやすく、300μmより厚いとヒーターとしての均熱性が劣化し、特性が劣化するため好ましくない。
【0019】
ここで、本発明のセラミックスヒーターの表面は公知の方法にて封孔処理されていても良い。封孔処理で充填する処理材としては、シリカゾル、アルミナゾル、マグネシアゾルなどのコロイダル状のスラリ−、あるいは、SiO2、Al2O3、TiO2等の金属アルコキシド系ポリマ−及びこれらのポリマ−とメラミン、アクリル、フェノ−ル、フッ素、シリコン、アクリル樹脂等の各種樹脂を含有するものを使用することができる。
【0020】
次に、セラミックスヒーターの表面の研削加工、ラッピングを行い、所望の表面粗さRa:0.1〜2.0μm程度とする。以上の方法により本発明のセラミックスヒーターが得られる。
【0021】
以下、本発明の実施例を比較例と共に具体的にあげ、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)ヒーター電極層の作製
セラミックス基板としては、焼結密度99.5%の酸化アルミニウム焼結体(寸法:500×500×5mm)を用い、また、ヒーター電極層の材料としては、重量比で80/20のNi-Cr合金を用いた。
ヒーター電極層との密着を良好とするために、セラミックス基板の表面をブラスト処理を行った。その後、セラミックス基板を100℃に予熱を行い、その上面にローカイド溶射方法により50μmの厚さの溶射皮膜を形成してヒーター電極層(80Ni-20Cr電極)を作製した。
ここで、ヒーター電極層の気孔率は、ローカイド溶射方法による圧縮空気量を変化させることにより制御した。また、ヒーター電極層の気孔率は、公知の電子顕微鏡観察結果からコンピュータ画像処理法により求めた。(ヒーター電極層の気孔率の評価結果は、表1に示した。)
【0022】
次に、所望のパターンの開孔部を有するパンチングメタル用い、これをマスクと使用してブラスト処理を実施した。
図2に、本発明に係るヒーター電極層を説明するための模式図を示した。図2において、1は酸化アルミニウムからなるセラミックス基板で、2はこのセラミックス基板の上面に溶射により形成されたヒーター電極層をブラスト処理によりパターン形成したものである。
【0023】
(2)セラミックスヒーターの作製
次に、ヒーター電極層を被覆するようにセラミックス基板の上面にローカイド溶射方法により酸化アルミニウム層を200μmの厚さに形成した。(その際に、ヒーター電極層の所望の上面部位にマスキングテ−プを施すことにより酸化アルミニウム層が溶射されないようにした。溶射後にマスキングテ−プを剥がして、ヒーター電極層の電極端子部とした。)その後、酸化アルミニウム層を研削加工、ラップ処理を実施し、酸化アルミニウム層の膜厚が100μmで、かつ、その表面粗さRaが0.2μmのセラミックスヒーターを作製した。
図3に、本発明に係るセラミックスヒーターを説明するための平面模式図を示した。図3において、1は酸化アルミニウムからなるセラミックス基板で、2´はこのセラミックス基板の上面に溶射により形成されたヒーター電極層2の電極端子部で、3は、電極端子部を除いてヒーター電極層を被覆するようにセラミックス基板の上に溶射により形成した酸化アルミニウム層である。
【0024】
(3)評価
上記のようにして得られたセラミックスヒーターのヒーター電極端子間に電圧を印加して、セラミックヒーター表面の温度を赤外線温度計で計測し、室温から30分間で100℃まで昇温できるか否かの昇温特性を評価した。次に、室温20℃と300℃の間で加熱サイクル試験を行った。その結果を、ヒーター電極層の気孔率の評価結果と併せて表1にまとめて示した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果から、本発明の実施例であるNo.1〜3は、昇温特性は良好で、かつ、100回の加熱サイクル試験後もヒーター電極層の亀裂や基板からの剥離が起こらない信頼性に優れたセラミックスヒーターであることが分かった。
一方、比較例であるNo.4は、昇温特性は良好であったが、50回の加熱サイクル試験後にヒーター電極層の基板からの剥離が起こった。また、比較例No.5は昇温特性が不良となり、かつ、均一な加熱ができなかった。
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、高頻度の使用を繰り返してもヒーター電極層の亀裂や基板からの剥離が起こらない信頼性に優れたセラミックスヒーターが得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の構成によるセラミックスヒーターの模式的断面図である。
【図2】本発明に係るヒーター電極層を説明するための模式図である。
【図3】本発明に係るセラミックスヒーターを説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0029】
1;セラミックス基板
2;ヒーター電極層
2´;ヒーター電極層の電極端子部
3;酸化アルミニウム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の上面に溶射により形成されたヒーター電極層と、このヒーター電極層を被覆するように前記セラミックス基板の上に溶射により形成された酸化アルミニウム層と、を具備するセラミックスヒーターにおいて、前記ヒーター電極層の気孔率が3〜7%であることを特徴とするセラミックスヒーター。
【請求項2】
酸化アルミニウムからなるセラミックス基板を100〜150℃に予熱する工程と、前記セラミックス基板の上面に気孔率が3〜7%のヒーター電極層を溶射により形成する工程と、前記ヒーター電極層を被覆するように前記セラミックス基板の上に酸化アルミニウム層を溶射により形成する工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のセラミックスヒーターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−41627(P2008−41627A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218532(P2006−218532)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】