説明

セラミックヒータ

【課題】
均熱性に優れ、かつ、小型化に対応可能なセラミックヒータを提供する。
【解決手段】
セラミック基材と、セラミック基材2上に形成された抵抗発熱体3と、その上に抵抗発熱体3を覆うように形成されたセラミック被覆層14からなるセラミックヒータにおいて、セラミック被覆層14には、同一材料からなる高密度層14aと高密度層14aに対してセラミック基材2から遠い側に位置する低密度層14bとが少なくとも一組設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均熱性に優れ、かつ、小型化に対応可能なセラミックヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
耐環境性を要する領域の加熱体として、小型のセラミックスヒータを組み込んだ部品が、センサ用ヒータやマイクロリアクタ用ヒータなどに使用されており、特に微小領域のセンシングや化学反応に利用される小型セラミックヒータにおいては、さらなる熱応答性と均熱性が必要とされている。
【0003】
セラミックヒータの基本構造は、図8に示す平板状セラミックヒータ1のように、抵抗発熱体3が形成されたセラミック基材2の表面上に、セラミック被覆層4が形成されているもので、抵抗発熱体3に電力供給端子を通じて所定の電圧をかけることで、平板状セラミックヒータ1全体が発熱する。このようなセラミックヒータは、一般に、基材であるセラミック成形体に導電ペーストを用いて抵抗発熱体パターンおよびリード線パターンを印刷し、その上にセラミックスのグリーンシートを被覆した後、全体を焼成するという方法で作製されている。
【0004】
面状セラミックスヒータの面内温度分布を均一化する方法には、たとえば、半導体製造装置等に用いられるような大型ヒータの場合、外周部の発熱体回路配線の間隔を密にしたり、抵抗値を変える等して、発熱体の配線回路を最適化する方法や、外周部と中心部とで別の発熱体配線回路を形成したり、外周部と中心部を別々に温度制御する等の方法がある。
【0005】
また、発熱体回路配線と被加熱体設置面との間に、熱伝導性に優れた均熱層を導入する方法(特許文献1参照)や、熱伝導率の小さいアモルファス炭素膜等を導入する方法(特許文献2参照)等が、均熱性に効果を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−134238号公報
【特許文献2】特開2007−257860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、小型セラミックヒータを均熱化するためには、例えば、配線間隔や抵抗値の最適化、ヒータの部位により回路や制御方法を分離する等の方法では、狭小領域で大型ヒータと同等な構造を形成する必要があり、大型ヒータにおける設計技術の応用だけでは実現が難しいという問題があった。
【0008】
また、異種材料を用いた均熱層の導入は、ヒータ使用中の温度変化により異種材料間での熱膨張差に起因する微細なクラックの発生が懸念され、強固なセラミック被覆層を形成する大型のヒータではその影響は少ないが、小型ヒータのように被覆層の薄膜化により熱応答性の向上を図る場合、微細なクラックの影響が無視できなくなるという問題があった。
【0009】
本発明は、セラミック被覆層として単一材料を用いても、複雑な回路構造や制御方法を必要としない、小型で均熱性に優れたセラミックヒータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセラミックヒータは、セラミック基材と該セラミック基材上に設けられた抵抗発熱体と、該抵抗発熱体を覆うように前記セラミック基材上に設けられたセラミック被覆層とを備え、該セラミック被覆層は、同一材料からなる複数の層が積層されてなり、該複数の層には、高密度層と該高密度層に対して前記セラミック基材から遠い側に位置する低密度層とが少なくとも一組設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セラミック被覆層として、同一材料からなる複数の層からなり、高密度層と高密度層に対してセラミック基材から遠い側に位置する低密度層とを少なくとも一組具備することで、膜厚方向に垂直な面内方向への熱拡散を促進し、セラミックヒータの均熱性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態であるセラミックヒータの基本構成を示す断面図である。
【図2】エアロゾルデポジション法において、基材に対してノズルを静止した状態で、基材上に形成される構造物の断面図である。
【図3】エアロゾルデポジション法において、広いエアロゾル濃度分布を示す条件で、基材に対してノズルを静止した状態で、基材上に形成される構造物の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態である層状セラミック被覆層の形成方法を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態である、セラミック被覆層を構成する各層の密度が連続的に変化しているセラミックヒータの断面図である。
【図6】エアロゾルデポジション法による成膜システムの構成を示す概略図である。
【図7】エアロゾルデポジション法において、基材に対してノズルを静止した状態で、基材上に形成された構造物の断面図である。
【図8】本発明の一実施形態におけるセラミックヒータのセラミック被覆層における断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】平板状セラミックヒータの基本構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態である平板状セラミックヒータの構成を示す断面図で、セラミックヒータ11は、セラミック基材2と、その表面上に設けられた抵抗発熱体3と、抵抗発熱体3を覆うようにセラミック基材2上に設けられたセラミック被覆層14とを備えている。セラミック基材2には、所望により、リード配線パターンを抵抗発熱体3が形成されている側の面に形成したり、取出電極パターンを抵抗発熱体3が形成されていない側の面に形成するとともに、貫通孔に充填された導体材料により抵抗発熱体3と接続することもできる。本実施形態では、セラミック被覆層14として、同一材料からなる複数の層が積層されてなり、複数の層には、高密度層14aと高密度層14aに対してセラミック基材2から遠い側に位置する低密度層14bとを、少なくとも一組設けたことを特徴とする。なお、本実施形態のセラミックヒータは、平板状セラミックヒータに限定されるものではなく、棒状、円筒状等、任意の形状のセラミックヒータに対して適用することができる。
【0014】
このセラミック被覆層14全体の厚さは、100μm以下であることが好ましく、5〜100μm、さらには20〜50μmの範囲であることがより好ましい。
【0015】
セラミック被覆層14の厚さをこのような範囲とすることで、セラミック被覆層14の
表面と、抵抗発熱体3との電気的絶縁性を十分に確保できるとともに、セラミック被覆層4の厚さが100〜500μmである従来のセラミックヒータに対して、被加熱体設置面であるセラミック被覆層14の表面への速やかな熱伝導が可能となる。
【0016】
また、セラミック被覆層14を構成する複数の層のうち、少なくとも低密度層14bは、高密度層14aに対してセラミック基材2から遠い側に位置している。
【0017】
また、セラミック被覆層14の、高密度層14aと低密度層14bとを一組とした場合の積層数は、少なくとも一組以上であり、さらには5組〜50組が好ましい。高密度層14aと低密度層14bとを一組とした厚みは、100μm以下であることが好ましく、さらには0.3μm〜20μmの範囲であることが好ましい。これにより、セラミック被覆層14の表面への速やかな熱伝導が可能となる。
【0018】
また、セラミック被覆層14は、同一材料からなる複数の層が積層されてなるものであり、同一材料とは、セラミックスの組成や結晶性、不純物または添加物が同一であることを言う。セラミック被覆層14を形成する複数の層毎にこれらが異なる場合、その差異に伴って各層毎に熱膨張率までもが変化するため、セラミックヒータとして使用した際の熱サイクルの影響で、層間剥離やクラックの発生が懸念される。一方、セラミック被覆層14を形成する複数の層が、セラミックスの組成や結晶性、不純物または添加物が同一の材料からなり、密度即ち気孔率だけが異なる場合には、熱膨張率が異なるとしてもその差は僅かであるため、熱サイクルによる層間剥離やクラックの発生を抑制できる。また、たとえクラックが発生したとしても、低密度層14bに存在する気孔により、クラックの進展が阻止されるという効果がある。
【0019】
なお、本実施形態において、「高密度層」とは、0.1μm×0.1μmの面積の断面20箇所に対して気孔率を測定し、その気孔率の平均値が0〜5%の範囲にある層を言い、「低密度層」とは、0.1μm×0.1μmの面積の断面20箇所に対して気孔率を測定し、その気孔率の平均値が5%を超える範囲にある層を言う。
【0020】
なお、高密度層14aと低密度層14bとの密度差は、気孔率の差ΔVによってあらわされ、例えば5%〜30%の範囲とすることが好ましい。ΔVをこの範囲とすることにより、高密度層14aと低密度層14bの熱伝導率に10%程度のわずかな差が生じ、セラミック被覆表面への速やかな熱伝達を損なうことなく、高密度層14aに対してセラミック基材2から遠い側に低密度層14bが位置することにより、抵抗発熱体3によって発生した熱が、高密度層14aよりもわずかに熱伝導率が低い低密度層14bにより、高密度層14a内部においてセラミック被覆14の膜厚方向に垂直な面内方向への熱拡散を促進することができる。なお、ΔVは、イオンミリング加工したセラミック被覆層14の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて拡大して撮影された、高密度層14a相当部分と低密度層14b相当部分の断面写真を画像解析して、それぞれの単位面積当たりの気孔の占有面積から、高密度層14aの気孔率Vaと低密度層14bの気孔率Vbを換算し、得られたVaとVbとの差をとることで求められる。拡大倍率は、セラミック被覆層を形成する複数の層の厚さに応じて、均質な組織の画像解析が可能な倍率を選択すればよい。また、高密度層14aには実質的に気孔が確認されない場合もある。
【0021】
さらに、セラミック被覆層14の密度は、膜厚方向に対して連続的に変化していることが好ましい。このような形態をとることにより、高密度層14aと低密度層14bとの接触熱抵抗が低下し、膜厚方向へのより効率的な熱伝導が可能となる。この場合、セラミック被覆層14の高密度層14aと低密度層14bの境界が不明確となるが、図5に示すように、例えば膜厚方向において密度が極大になる部位14a’の密度と、密度が極小になる部位14b’の密度との平均値となる密度を有する部位を境界として、14a’を含む
領域を高密度層14a、14b’を含む領域を低密度層14bとすればよく、より簡易的にはセラミック被覆層14の断面において、14a’から14b’に向けて引いた垂線を2等分した線を境界として、14a’を含む領域を高密度層14a、14b’を含む領域を低密度層14bとしてもよい。
【0022】
この場合、高密度層14aと低密度層14bを判別するためには、低密度層セラミック被覆層14全体の断面SEMにて、膜厚方向に対する密度変化の有無を確認し、画像解析により各層の密度プロファイルを求めることができる。例えば密度が極大となる部位14a’が複数存在する場合には、密度が極小となる部位14b’を挟んで隣り合う14a’同士の間を膜厚方向に20等分して撮影したSEM断面写真をそれぞれ画像解析することで密度プロファイルが得られる。密度が極大となる部位14a’が1層のみの場合は、セラミック被覆層14全体を膜厚方向に20等分して撮影したSEM断面写真をそれぞれ画像解析すればよい。
【0023】
またさらに、セラミック被覆層14の、セラミック基材2及び抵抗発熱体3に接する部位は、低密度層14bであることが好ましい。この部位は、セラミック被覆層14と抵抗発熱体3という熱膨張率が異なる材料が直接接する部分であるため、低密度層14bを設けることで熱膨張差に起因する応力が緩和され、セラミックヒータ使用時の熱サイクルによる層間剥離やクラックの発生を抑制することができる。
【0024】
セラミック基材2の材料としては、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、ジルコニア、チタニア、コージェライト、スピネル、フォルステライトなどを主成分とするセラミック材料が用いられる。とくに低コストで耐酸化性に優れるアルミナや、高靱性であるジルコニア、高絶縁性を有するフォルステライト等が好ましい。
【0025】
抵抗発熱体3は、白金、金、銀、タングステン、モリブデン、ロジウム、ルテニウムおよびパラジウムから選ばれる1種以上の金属、合金を適宜用いることができる。これらの中から、目的とする発熱温度に適した電気抵抗値を有する材料を選択すればよい。なお、不活性という点では白金および金が好ましく、高融点で熱膨張率がセラミックスに近いという点ではタングステンが好ましい。また、共材として、アルミナ等の絶縁性セラミックスを含有してもよい。
【0026】
セラミックス被覆層14の材料としては、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、ジルコニア、チタニア、コージェライト、スピネル、フォルステライトなどを主成分とするセラミック材料が用いられる。とくに低コストで耐酸化性に優れるアルミナや、高靱性であるジルコニア、高絶縁性を有するフォルステライト等が好ましいが、密着強度、熱応力の観点から、セラミック基材と同じ組成のものを選択する。
【0027】
本発明のセラミックヒータの製造方法としては、セラミック基材2となる成形体やグリーンシートの表面に、抵抗発熱体3となる導電ペーストを印刷し、その上にセラミック被覆14となるグリーンシートを積層したり、セラミックペーストを塗布したセラミックヒータ成形体を作製し、このセラミックヒータ成形体を焼成する方法や、セラミック基材2である焼結体表面に、金属材料を蒸着したり、板状や線状の金属材料を接着して抵抗発熱体3を形成し、さらにその上に溶射法やCVD、PVD、エアロゾルデポジション法を用いてセラミック被覆14を形成する方法等がある。
【0028】
以下、セラミック被覆層14を形成する方法として、グリーンシート積層法およびエアロゾルデポジション法を用いた場合について説明する。
【0029】
グリーンシート積層法では、たとえば、同一のセラミック材料を含有するグリーンシー
ト(以下、セラミックグリーンシート、または単にグリーンシートとも言う)とセラミックペーストとを用いて、高密度層を形成するセラミックグリーンシートに、低密度層を形成するセラミックペーストを塗布し、セラミック基材となるセラミック成形体表面上に複数枚積層することで、焼成後、同一材料からなる複数の層が積層された、高密度層と高密度層のセラミック基材から遠い側に隣接する低密度層とを有する構造を形成することができる。
【0030】
例えば、セラミック材料としてアルミナを選択した場合、アルミナ粉末に適宜、分散剤や成形用有機バインダー、溶剤等を添加したセラミックスラリーを用いて、ドクターブレード法等周知のシート成形法によって、例えば厚み10μmの高密度層用セラミックグリーンシートを成形する。
【0031】
一方で、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等にアルミナ粉末を添加したものや、微粉カーボン等の気孔形成剤等を含む有機バインダーにアルミナ粉末を添加したものを、セラミックペーストとして準備する。ここで使用するアルミナ粉末は、高密度層用のグリーンシートに用いたアルミナ粉末と同一のものである。これらのセラミックペーストは、焼成により気孔を有する低密度層を形成する。
【0032】
セラミック基材となるセラミック成形体は、アルミナ粉末に適宜、成形用有機バインダーや溶剤を添加して、ドクターブレード法や、押し出し成形あるいはプレス成形などの周知の方法により作製できる。ここでは先に作製したセラミックスラリーから厚さ300μmの基材用グリーンシートを成形し、それをセラミック成形体として用いた平板状セラミックヒータについて説明する。
【0033】
セラミック成形体には、貫通孔と取出電極パターンとが設けられており、これを介して抵抗発熱体に電力を供給する。セラミック成形体に形成された貫通孔には、白金とアルミナとの混合粉末およびバインダーからなる導体ペーストが充填されており、成形体の片側の表面には、取出電極パターンが貫通孔に充填された導体ペーストの一端と接続するように形成されている。さらに、セラミック成形体の取出電極パターンが印刷されていない表面には、導体ペーストを用いて抵抗発熱体パターンおよびリード配線パターンが形成され、貫通孔に充填された導体ペーストと接続されている。
【0034】
なお、これら取出電極、抵抗発熱体、リード配線等の電極パターン形成および貫通孔への充填は、導体ペーストを用いてスクリーン印刷、パット印刷、ロール転写等の周知の印刷法により形成することができる。
【0035】
セラミック成形体の、抵抗発熱体パターンが形成された表面上に、セラミック被覆層となる積層体を形成する。まずセラミック成形体の抵抗発熱体パターンが形成された表面上に、低密度層用のセラミックペーストを塗布し、その上に厚さ10μmの高密度層用のグリーンシートを積層し、さらにそのグリーンシート上に低密度層用のセラミックペーストを塗布する。このように、低密度層用のセラミックペーストの塗布と高密度層用のグリーンシートの積層を複数回繰り返した後、高密度層用のグリーンシートと低密度層用のセラミックペーストが積層されたセラミックヒータ成形体全体に、積層方向に垂直な圧力をかけて積層部分を圧着する。なお、あらかじめ低密度層用のセラミックペーストを塗布した高密度層用のグリーンシートを、セラミック成形体に積層することもできる。
【0036】
このように被覆を積層したセラミックヒータ成形体を脱脂し、焼成することにより、同一材料からなる複数の層が積層された、高密度層と高密度層のセラミック基材から遠い側に隣接する低密度層とが設けられたセラミック被覆層を有するセラミックヒータが得られる。
【0037】
次に、エアロゾルデポジション法を用いてセラミック被覆層14を形成する方法について説明する。エアロゾルデポジション法は、微小粉体を気体中に分散したエアロゾルを、ノズルを介して基板表面に吹き付けることで、微小粉体からなる膜構造体を形成する成膜方法である。
【0038】
エアロゾルデポジション法によりセラミック被覆層14を形成する場合、セラミック基材2には、表面に抵抗発熱体3のパターンが形成されたセラミック焼結体を用いる。セラミック焼結体の抵抗発熱体3のパターンが形成された表面上に、セラミックス微粒子を分散させたエアロゾルを吹き付けることで、セラミック被覆層14を形成する。
【0039】
エアロゾルの発生について簡単に説明する。ガラス瓶にセラミックス微粒子を投入し、配管付きの蓋をする。ガラス瓶を振動させながら、ガラス瓶内に分散媒となる気体を吹き込む。分散媒気体としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、空気などが用いられる。
【0040】
さらに、この瓶を一定周期で振動させてエアロゾルを発生させ、ガラス瓶から外部へと吹き出すエアロゾルを、ノズルを介して基材の表面に吹き付ける。このとき、基材に対してノズルを往復移動させることで、セラミック被覆層を形成することができる。
【0041】
ノズルの噴射口形状は一般的にスリット状で、例えば、0.4mm×10mmの長方形のものを用いる。図2に、セラミック基材2に対してノズル6を静止した状態で、ノズル6から噴射されるエアロゾルにより形成される構造物の断面図を示す。この場合、エアロゾル濃度の分布は狭くシャープな分布となり、ノズルの長辺に対して垂直な断面が24のような形状を示す構造物が形成される。セラミック基材2に対して、ノズル6の噴射口の短辺と平行にノズル6を移動させることで、セラミック基材2上に幅10mmの全体的に緻密な膜を形成することができる。
【0042】
一方、ノズル6から噴射されるエアロゾル濃度を、広がりを持った分布とした場合、ノズルの長辺に対して垂直な断面が、図3に示す34のような形状を示す構造物が形成される。エアロゾル分布の中心部では、高濃度・高速のエアロゾルがセラミック基材2に堆積して高密度の構造34aを形成し、分布の周辺部では、低濃度・低速のエアロゾルがセラミック基材2に堆積して低密度の構造34bを形成する。分布の中心部と周辺部の中間部では、エアロゾル濃度が連続的に変化して、中心部と周辺部との中間的な構造が形成されている。
【0043】
広がりを持ったエアロゾル濃度分布を有し、図3に示す34のような形状の構造を形成するノズル6を、セラミック基材2に対してノズル6の噴射口の短辺と平行に移動させることにより、セラミック基材2上に、まずエアロゾル濃度分布の周辺部による低密度構造34bが形成され(図4A)、その上をノズル6の中心部が通過する時にエアロゾル濃度分布の中心部による高密度構造34aが形成され(図4B)、さらにノズル6の中心部通過後には、再度低密度構造34bが形成される(図4C)。こうしてノズル6がセラミック基材2上を一度通過することにより、セラミック基材2上には2層の低密度層に高密度層が挟まれることで、同一材料からなる複数の層が積層された、高密度層と高密度層に対してセラミック基材から遠い側に位置する低密度層とが設けられたセラミック被覆層14が形成され、さらにノズル6がセラミック基材2上を往復することで、ノズルの往復回数に応じて高密度層と低密度層とを一組として複数組積層した構造が形成される。また、このようにして形成される膜の高密度層と低密度層とを一組とした厚さは、例えば密度が極大となる部位14a’を挟んで両側の密度が極小となる部位14b’同士の間隔であらわすことができ、ノズルの移動速度を調整することにより0.3〜40μm程度の範囲とすることができる。なお、セラミック基材2に対するノズル6の移動は、一方向のみの繰り
返しでもかまわない。
【0044】
さらに、ノズル6をセラミック基材2に対して、垂直方向から僅かに傾けることで、ノズルの進行方向前後のエアロゾル濃度分布が分布の中心に対して非対称になり、膜内の密度の分布が変わって高密度層がより緻密化され、面内方向の熱拡散を促進することが可能である。
【0045】
ノズル6から噴出するエアロゾル濃度分布に広がりを持たせ、且つ分布の周辺部でも密着性の高い膜を形成するためには、ノズルの構造やノズルと基板との距離、エアロゾルの速度、粒子の形状等を適宜調整、選択する必要がある。例えば、ノズルの周辺部でエアロゾルが高濃度となるように粒子サイズを調製した多孔質粉末原料と、ノズルの中心部でエアロゾルが高濃度となるように粒子サイズを調製した緻密質粉末原料とを混合して、成膜することで、セラミック基材2及び抵抗発熱体3に直接接する層を、相対的に気孔が多く密度の低いものとすることができる。
【0046】
例えば、被覆材料としてアルミナを選択した場合、平均粒径0.1〜10μmのアルミナ粉末を原料に用いるのが好ましい。原料粉末の平均粒径がこの範囲であれば、基材にダメージを与えることなく密着性に優れた成膜が可能である。また、原料粉末の分散性向上や成膜性向上のため、原料粉末の結晶粒子に対して、粉砕処理等による歪の導入や、加熱により表面の吸着水や有機成分を除去する表面改質等の前処理を行うことも可能である。これらの前処理は、膜の安定性、熱伝導性に対しても効果的である。
【0047】
エアロゾルデポジション法では、原料粉末にバインダーや助剤を添加したり、作製したセラミック被覆層を焼成する必要はないが、セラミック被覆層を形成したセラミックヒータを、一度ゆっくりと昇温した後に徐冷することで、セラミック被覆の結晶構造が安定したセラミックヒータが得られる。
【実施例】
【0048】
実施例として、20mm×20mm、厚さ3mmのアルミナ製セラミック基材に白金を蒸着して抵抗発熱体パターンを形成し、さらにエアロゾルデポジションによりセラミック被覆層14を形成して本発明の一実施形態である平板状セラミックヒータを作成した。
【0049】
原料粉末として、D50=0.5μmのアルミナ粉末Aと、それを振動ミルにて粉砕処理し、結晶に格子欠陥を導入したアルミナ粉末Bとを準備した。欠陥を導入していないアルミナ粉末Aと、欠陥を導入したアルミナ粉末Bとを1:1で混合し、エアロゾルの原料粉末とした。この混合アルミナ粉末100gを450mlのガラス瓶に投入し、配管つきの蓋をして成膜システムにセットした。
【0050】
図6は、成膜システム50の構成を示す概略図である。成膜システム50は、成膜が行われる成膜装置51と、この成膜装置51内のチャンバ52にエアロゾルを供給するエアロゾル発生装置53と、チャンバ52内を吸引して負圧にする真空ポンプ54と、エアロゾル発生装置53のガラス瓶に分散媒気体を供給する気体供給装置55とを具備して構成されている。
【0051】
まず、真空ポンプ54(ロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプ)で、チャンバ52およびエアロゾル発生装置53を構成するガラス瓶の内部を、10Paまで真空引きした。次に、ガラス瓶を振動させながら、ガラス瓶中に気体供給装置55から窒素ガスを導入することにより、エアロゾルを発生させた。
【0052】
ガラス瓶の振動方向は水平方向、振幅は6mm、振動回数は1分間に500回とした。
窒素ガス流量は10L/minである。発生したエアロゾルを、ノズル56を介してセラミック基材2に吹き付けた。
【0053】
ノズル56は、開口寸法0.4mm×10mmの長方形の開口部を有し、長さ100mmの流路を介して開口部と対向する側で、内径20mmΦの配管に接続されている。ノズル56の流路内壁には凹凸が形成され、内壁近傍において僅かな乱流を発生させる構造となっている。このようなノズル56から噴射されたエアロゾルは、広がりを持った濃度分布を有し、ノズル56をセラミック基材2上に固定した場合、図7に示すような断面形状の構造物を形成する。この構造物は、断面の中心部が緻密質で気孔がなく、周辺部には気孔が多数存在している。なお、構造物の断面形状は触針式表面粗さ計により、断面の構造は走査型電子顕微鏡(SEM)により確認できる。
【0054】
セラミック基材2を、ノズル56に対してノズル56の短辺と平行な方向に振幅15mm、速度5.0mm/sで、20回往復移動させた。ノズル56とセラミック基材2との距離は10mmとした。このようにして、セラミック基材2の抵抗発熱体パターンが形成された面に、厚さ50μmのアルミナ被覆層を形成し、セラミックヒータを作製した。アルミナ被覆層の厚さは、マイクロメータを用いて、セラミック基材2におけるアルミナ被覆層形成前後の厚み差から求めた。
【0055】
比較例として、ノズルの流路内壁に凹凸がないものを用いたこと以外は、すべて実施例と同様な条件で厚さ50μmのアルミナ被覆層を形成し、セラミックヒータを作製した。流路内壁に凹凸がないノズル56では乱流が発生せずに層流に近い状況で、濃度分布の狭いエアロゾルが噴射される。
【0056】
以上のようにして作製したセラミック被覆層の断面をイオンミリング加工し、走査型電子線顕微鏡(SEM)で観察したところ、実施例では図8に示すような積層構造が確認された。この積層構造は、0.1μmより小さい気孔が多数存在している低密度層と、0.1μm×0.1μmの面積の断面20箇所に対して気孔率0%であった高密度層とを一組として40組積層された構造となっており、さらにセラミック基材2と直接接する層は、気孔の多い低密度層であった。一方、比較例では実施例のような気孔や層が確認されず、全体として緻密で均質な被覆が形成されていた。
【0057】
作製したセラミックヒータの面内均熱性を、レーザによる局所加熱により確認した。レーザをヒータ裏面に照射して、照射部分を250℃に加熱し、照射部分およびそこから5mm離れた周辺部分に対応するヒータ表面の温度を測定した結果、実施例のセラミックヒータはレーザ照射部分の表面が250℃、周辺部分の表面が248.7℃で、温度差Δtが1.3℃とほとんど温度差の生じない面内均熱性にすぐれたものであった。一方、比較例ではレーザ照射部分の表面は250℃、周辺部分の表面は246.3℃で、温度差Δtは3.7℃と実施例の2倍以上の温度差が生じていた。なお、局所温度の測定には、NEC製TH3100MRを用いた。
【0058】
作製したセラミックヒータについて、室温と1000℃にて5サイクルの熱サイクル試験を行った。昇温速度は20℃/min、1000℃の保持時間は10分間、降温は自然冷却にて行い、試験後のセラミックヒータをSEMで観察した。実施例では、セラミック被覆層中に0.5μm程度の微小なクラックが数箇所発生していたが、複数の層に進展したクラックは確認されなかった。一方、比較例ではセラミック被覆層と、セラミック基板および抵抗発熱体との界面部に無数のクラックや界面剥離が発生しており、基板を貫通しているクラックも確認された。
【符号の説明】
【0059】
1、11 セラミックヒータ
2 セラミック基材
3 抵抗発熱体
4、14 セラミック被覆層
14a セラミック被覆層の高密度層
14a’ セラミック被覆層の密度が極大となる部位
14b セラミック被覆層の低密度層
14b’ セラミック被覆層の密度が極小となる部位
24、34 エアロゾルにより形成された構造物断面
34a エアロゾルにより形成された構造物断面の中心部
34b エアロゾルにより形成された構造物断面の周辺部
6 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基材と該セラミック基材上に設けられた抵抗発熱体と、該抵抗発熱体を覆うように前記セラミック基材上に設けられたセラミック被覆層とを備え、該セラミック被覆層は、同一材料からなる複数の層が積層されてなり、該複数の層には、高密度層と該高密度層に対して前記セラミック基材から遠い側に位置する低密度層とが少なくとも一組設けられていることを特徴とするセラミックヒータ。
【請求項2】
前記セラミック被覆層を構成している前記高密度層および前記低密度層の密度が、膜厚方向に対して連続的に変化していることを特徴とする請求項1記載のセラミックヒータ。
【請求項3】
前記セラミック被覆層の前記セラミック基材及び前記抵抗発熱体に接する層が、前記低密度層であることを特徴とする請求項1または2記載のセラミックヒータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−119120(P2012−119120A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266360(P2010−266360)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】