説明

セラミック電子部品及びその製造方法

【課題】はんだ接合部の信頼性を高めた低コストなセラミック電子部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】端面にはんだ接合部を有し、そのはんだ接合部がセラミック素体上に設けられた銅層11と、その銅層11上に設けられたCuNiSn金属間化合物層12と、その金属間化合物層12上に設けられたSnAgCuNiGeの5元系はんだ層13とを有するように構成して上記課題を解決した。そのCuNiSn金属間化合物層12は、はんだ食われのバリア層となって銅層11のはんだ食われを防ぐので、セラミック電子部品10をプリント基板の銅ランド等にはんだ実装する際に、従来そのはんだ実装時にも起こる銅層11のはんだ食われが抑制でき、セラミック素体1の銅層11が十分に確保されて信頼性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデサ等のセラミック電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉛フリーはんだを用いて半導体パッケージ等をプリント基板にはんだ接合した際に、はんだ接合部のマイクロボイドの発生を抑制するとともに、はんだ接合部の耐衝撃破断性を向上させる技術が提案されている。この技術は、Ni、Ag、Cu、Snを含有する鉛フリーはんだ又はNi、Ge、Ag、Cu、Snを含む鉛フリーはんだで半導体パッケージをプリント回路板の銅ランドにはんだ接合すると、CuNiSn金属間化合物がはんだ接合部の界面に生じ、その金属間化合物の作用により半導体装置の半田接合部のマイクロボイドの発生を抑制し、半導体装置のはんだ接合部の耐衝撃破断性を向上させる、という技術である。
【0003】
一方、積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極とが積層され、その内部電極が交互に左右の端面に露出するセラミック素体と、そのセラミック素体の両端面に露出した内部電極に接続する銅電極と、その銅電極上に設けられたはんだ層とで構成されている。こうした積層セラミックコンデンサは、その後、プリント回路板等の銅ランドにはんだ接合され、実装される。
【0004】
積層セラミックコンデンサがプリント回路板等の銅ランドにはんだ接合され、実装される際、そのはんだ接合時の熱によって、はんだ中の錫(Sn)と銅電極中の銅(Cu)とがCuSn化合物を生じるいわゆる「はんだ食われ」が生じる。こうしたはんだ食われは、セラミック素体上の銅電極を減少させ、セラミック素体の端面に露出する内部電極と銅電極との電気的接続の信頼性を損なうおそれがある。
【0005】
こうした問題に対し、従来は、銅電極を厚くしたり銅シートを付加したりしてはんだ食われの影響を低減させたり、銅電極上に電気ニッケルめっきを施してはんだ食われを防いだりすることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/090776号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来の対策は、いずれもコストアップとなる工程が加わり、低コストで信頼性を高めるという近時の要請に応えることはできなかった。
【0008】
本発明の目的は、はんだ接合部の信頼性を高めた低コストなセラミック電子部品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記特許文献1の技術を積層セラミックコンデサ等のセラミック電子部品のはんだ接合部に適用すれば、上記した半導体パッケージをプリント回路板の銅ランドにはんだ接合した場合と同様の効果を奏することができるのではないかと考え、試験研究を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係るセラミック電子部品は、端面にはんだ接合部を有し、該はんだ接合部が、セラミック素体上に設けられた銅層と、該銅層上に設けられたCuNiSn金属間化合物層と、該金属間化合物層上に設けられたSnAgCuNiGeの5元系はんだ層とを有することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、銅層上に設けられたCuNiSn金属間化合物層がはんだ食われのバリア層となって、その銅層のはんだ食われを防ぐので、銅層の減少が抑制される。その結果、セラミック電子部品をプリント基板の銅ランド等にはんだ実装する際に、従来そのはんだ実装時にも起こる銅層のはんだ食われも抑制でき、セラミック素体の銅層が十分に確保されて信頼性を高めることができる。こうした本発明によれば、従来のような高コストの工程が不要になるので、はんだ接合部の信頼性を高めた低コストなセラミック電子部品を提供できる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、誘電体層と内部電極とが積層され、その内部電極が交互に左右の端面に露出するセラミック素体を準備し、該セラミック素体の両端面に露出した内部電極に接続する銅層を形成した被はんだ処理材を準備する工程(被はんだ処理材準備工程)と、前記被はんだ処理材が有する前記銅層上にSnAgCuNiGeの5元系はんだ層を設ける工程(はんだ層形成工程)とを有し、前記はんだ層形成工程中に、前記銅層と前記はんだ層との間に、該銅層のはんだ食われを防ぐCuNiSn金属間化合物層を形成することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、準備された被はんだ処理材の銅層上にSnAgCuNiGeの5元系はんだ層を設ける工程を有し、その工程中に、銅層とSnAgCuNiGeの5元系はんだ層との間に、銅層のはんだ食われを防ぐCuNiSn金属間化合物層を形成するので、そのCuNiSn金属間化合物層がはんだ食われのバリア層となって、その銅層のはんだ食われを防ぐ。その結果、銅層の減少が抑制され、製造されたセラミック電子部品をプリント基板の銅ランド等にはんだ実装する際に、従来そのはんだ実装時にも起こる銅層のはんだ食われも抑制でき、セラミック素体上の銅層が十分に確保されて信頼性を高めることができる。こうした本発明によれば、従来のような高コストの工程が不要になるので、はんだ接合部の信頼性を高めた低コストなセラミック電子部品の製造方法を提供できる。
【0014】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、前記はんだ層形成工程において、前記銅層にニッケル塩を含むフラックスを設けた後、該フラックスが設けられた銅層上にSnAgCuNiGeの5元系はんだ層を設けることが好ましい。
【0015】
この発明によれば、フラックスを銅層上に設けておくことにより、はんだ付け時の加熱によりそのフラックスが溶解して活性化し、銅層の酸化を防ぐと共にはんだ濡れ性を向上させることができる。さらに、フラックス中に含まれるニッケル塩等がはんだ付け時の加熱により金属イオンとして遊離し、はんだ材料中のNiと共に(CuNi)Sn金属間化合物層の形成に相乗的に働くものと考えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るセラミック電子部品及びその製造方法によれば、銅層上に設けられたCuNiSn金属間化合物層がはんだ食われのバリア層となって、その銅層のはんだ食われを防ぐので、セラミック電子部品をプリント基板の銅ランド等にはんだ実装する際に、従来そのはんだ実装時にも起こる銅層のはんだ食われも抑制でき、セラミック素体の銅層が十分に確保されて信頼性を高めることができる。しかも、従来のような高コストの工程が不要になるので、はんだ接合部の信頼性を高めた低コストなセラミック電子部品及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るセラミック電子部品の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係るセラミック電子部品の断面形態の一例を示す模式図である。
【図3】銅層上に形成された金属間化合物層の例であり、(A)は従来のCuSn化合物層であり、(B)と(C)は本発明に係るCuNiSn金属間化合物層である。
【図4】銅層を形成した後のセラミック電子部品の光学顕微鏡写真である。
【図5】はんだ層を形成した後のセラミック電子部品の光学顕微鏡写真である。
【図6】銅層上の金属間化合物層とはんだ層のSEM像の例である。
【図7】図6に示す部分のEPMAマッピング像である。
【図8】銅層上の金属間化合物層とはんだ層のSEM像の他の例である。
【図9】図8に示す部分のEPMAマッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るセラミック電子部品及びその製造方法について図面を参照しつつ詳しく説明する。
【0019】
本発明に係るセラミック電子部品10は、端面にはんだ接合部を有し、そのはんだ接合部が、セラミック素体1上に設けられた銅層11と、その銅層11上に設けられたCuNiSn金属間化合物層12と、その金属間化合物層12上に設けられたSnAgCuNiGeの5元系はんだ層13とを有することに特徴がある。
【0020】
また、本発明に係るセラミック電子部品10の製造方法は、誘電体層と内部電極とが積層され、その内部電極が交互に左右の端面に露出するセラミック素体1を準備し、そのセラミック素体1の両端面に露出した内部電極に接続する銅層11を形成した被はんだ処理材を準備する工程(被はんだ処理材準備工程)と、その被はんだ処理材が有する銅層11上にSnAgCuNiGeの5元系はんだ層13を設ける工程(はんだ層形成工程)とを有する。そして、本発明の特徴は、はんだ層形成工程中に、銅層11とはんだ層13との間に、銅層11のはんだ食われを防ぐCuNiSn金属間化合物層12を形成することに特徴がある。
【0021】
上記セラミック電子部品10として、例えば図1に示す積層セラミックコンデンサを例示できる。積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極とが積層され、その内部電極が交互に左右の端面に露出するセラミック素体1と、そのセラミック素体1の両端面に露出した内部電極に接続する外部電極2とで構成されている。本発明では、その外部電極2がはんだ接合部となり、図2(B)に示すように、セラミック素体1上に設けられた銅層11と、その銅層11上に設けられたCuNiSn金属間化合物層12と、そのCuNiSn金属間化合物層12上に設けられたはんだ層13とを有している。
【0022】
こうした特徴を持つ本発明のセラミック電子部品10は、その後、プリント回路板の銅ランド等にはんだ接合され、実装されるが、その際、そのはんだ接合時の熱によってもはんだ食われを抑制できる。その理由は、銅層11上に設けられたCuNiSn金属間化合物層12がはんだ食われのバリア層となって、その銅層11のはんだ食われを防ぐので、銅層11の減少を抑制でき、その結果、セラミック電子部品10をプリント基板の銅ランド等にはんだ実装する際に、従来そのはんだ実装時にも起こる銅層11のはんだ食われも抑制でき、セラミック素体1上の銅層11が十分に確保されて信頼性を高めることができるのである。
【0023】
以下、積層セラミックコンデンサを例にしてセラミック電子部品の各構成について詳しく説明するとともに、製造方法についても併せて説明する。
【0024】
[セラミック素体]
積層セラミックコンデンサのセラミック素体1は、誘電体層と内部電極とが積層され、その内部電極が交互に左右の端面に露出する矩形状の部材である。セラミック素体1の形成は、既に知られているように、誘電体層となるセラミックグリーンシートを形成し、形成したセラミックグリーンシートに内部電極層を形成して、電極パターン付グリーンシートを作製する。そして、その電極パターン付グリーンシートを積層し、その後に切断してセラミック素体1を作製できる。
【0025】
詳しくは、チタン酸バリウムを主成分とした誘電体材料に溶剤、可塑剤及びガラスフリット等を加えてなるセラミックスラリーを、フィルム上に塗布、乾燥させて、セラミックグリーンシートを形成する。形成されたセラミックグリーンシート上に、導電性の金属粉末にバインダや溶剤等を混合した電極ペーストをスクリーン印刷し、乾燥して内部電極層を形成する。こうして内部電極パターン付グリーンシートを得ることができる。得られた内部電極パターン付グリーンシートを積層して、所定の大きさに切断して、直方体形状のセラミック素体1が形成される。形成されたセラミック素体1では、内部電極が交互に左右の端面で露出している。
【0026】
[外部電極]
外部電極2は、上記したセラミック素体1の両端面に露出した内部電極に接続する電極であり、はんだ接合部となる。本発明では、この外部電極2が、図2(B)に示すように、セラミック素体1上に設けられた銅層11と、その銅層11上に設けられたCuNiSn金属間化合物層12と、そのCuNiSn金属間化合物層12上に設けられたはんだ層13とを有している。
【0027】
(銅層)
銅層11は、セラミック素体1の両端面に露出する内部電極を覆うように設けられる。そうした銅層11は各種の手段で設けることができる。一例としては、セラミック素体1の端面に、金属成分とガラス成分とを含む電極ペーストを塗布し、焼き付けることによって形成された焼付金属層を挙げることができる。この電極ペーストに含まれる金属としては、Cu、Ni又はCuNi合金、又はsの他の金属等を挙げることができ、さらに溶剤や無機酸化物等が必要に応じて含まれる。
【0028】
焼付金属層が所定厚さの銅層である場合には、そのまま外部電極として用いてもよい。また、焼付金属層が銅層であるか否かを問わず、その焼付金属層上に銅層を設けてもよい。例えば、焼付金属層として、ガラス成分を含むNi層や銅層等をセラミック素体1に密着性良く形成した後、ガラス成分を含まない導電性の良い銅層を設けてもよい。
【0029】
なお、こうした銅層上には、従来ははんだ食われ防止するためのニッケルめっき層が形成されていたが、本発明では、後述する金属間化合物層12がはんだ食われのバリア層として作用するので、ニッケルめっき層等は省略することができ、煩雑な製造工程を省略することができ、コストダウンを実現できる。
【0030】
(金属間化合物層)
金属間化合物層12は、(CuNi)Snからなる金属間化合物の層であり、外部電極2の一部を構成する。具体的には、銅層11とはんだ層13との間に設けられて、はんだ接合時の熱によってもはんだ食われを抑制するバリア層として作用する。
【0031】
(CuNi)Sn金属間化合物層12は、銅層11上に、後述する溶融はんだ材料をはんだ付けした際に形成される。その形成メカニズムは明かではないが、おそらく、銅層11上にはんだ層13を設ける際のはんだ材料を溶融する熱によって、銅層11とはんだ層13との間に、銅層11中のCuと5元系はんだ材料に含まれるSnとでCuSn金属間化合物層が形成されるが、そのときに、はんだ材料に含まれるNiがそのCuSn金属間化合物層に入り込んで(CuNi)Sn金属間化合物層12を形成するものと考えられる。そして、この(CuNi)Sn金属間化合物層12を有した外部電極2を持つセラミック電子部品10は、その後の実装工程でプリント基板の銅ランド等にはんだ実装する際に、はんだ食われに基づいた不良が生じなかったことから、その(CuNi)Sn金属間化合物層12がはんだ食われを防ぐバリア層として機能し、セラミック電子部品の信頼性向上のポイントになっていると考えられる。
【0032】
(CuNi)Sn金属間化合物層12の厚さは、はんだ材料に含まれるNi含有量や、はんだ付け時の温度等によっても変化するので一概には言えないが、通常、1〜6μm程度である。この範囲で、はんだ食われに基づいた不良が生じないという結果が得られた。その厚さが1μm未満では、はんだ食われに基づいた不良が生じることがあり、一方、その厚さが6μmを超えても効果が同じであり、また6μmを超える厚さになり難い。
【0033】
(はんだ層)
はんだ層13は、銅層11上にはんだ材料を溶融して設けることにより、その銅層11上に(CuNi)Sn金属間化合物層12を介して形成されている。はんだ層13の形成材料としては、SnAgCuNiの4元系はんだ材料、又は、SnAgCuNiGeの5元系はんだ材料を用いることができる。特に、SnAgCuNiGeの5元系はんだ材料が好ましい。この5元系はんだ材料は、NiとGeを含むことに特徴がある。はんだ材料に含まれるNiは、形成されたCuSn金属間化合物層12に入り込んで(CuNi)Sn金属間化合物層12を形成するものと考えられる。また、はんだ材料に含まれるGeは、Snの酸化を効果的に抑制することができるので、はんだ層13や金属間化合物層12に含まれるSnの酸化を防いで、外部電極2の信頼性を向上させることができる。
【0034】
はんだ材料の組成は、Ni含有量が0.01〜0.2質量%、Ge含有量が0.001〜0.01質量%を含むSnAgCuはんだを挙げることができる。Ni含有量が0.01質量%未満では、(CuNi)Sn金属間化合物層12の厚さが薄なり、バリア層として十分に作用できなくなり、銅層11がはんだ食われして信頼性が低下することがある。一方、Ni含有量が0.2質量%を超えてもはんだ食われのバリア層としての機能は有するものの、(CuNi)Sn金属間化合物層12にニッケルの偏析が見られ、はんだ接合強度が却って低下することがある。
【0035】
(フラックス)
フラックスは、上記したはんだ層13を設ける前に、銅層11上に設ける。フラックスは、はんだ付け時の加熱によりそのフラックスが溶解して活性化し、銅層11の酸化を防ぐと共にはんだ濡れ性を向上させることができるので、溶融はんだを設ける際には必ず設けられる。したがって、はんだ層13は、銅層11にフラックスを設けた後、そのフラックスが設けられた銅層11上に設けられていることが好ましい。
【0036】
フラックスの種類は特に限定されないが、ロジンを主成分とした各種のフラックスを好ましく用いることができる。中でも、少なくとも有機脂肪酸ニッケル塩を含有するロジンフラックスを好ましく用いることができる。なお、有機脂肪酸ニッケル塩と共に有機脂肪酸コバルト塩を含有させてもよい。このフラックスに少なくとも含まれる有機脂肪酸ニッケル塩は、図3(B)に示すように、上記した4元系又は5元系のはんだ材料を銅層11上に設ける前及び設けた後に、銅層11上にNi又はNi塩として存在することがある。
【0037】
有機脂肪酸ニッケル塩としては、パルミチン酸ニッケル又はステアリン酸ニッケル等が好ましく、フラックス中に1〜5質量%含有させることが好ましい。有機脂肪酸ニッケルの含有量が1質量%未満では、銅層11とはんだ層13との間の金属間化合物層12に含まれるNi量が少なすぎるため、はんだ食われの効果が十分ではない。一方、その含有量が質量%を超えると、フラックスとしての粘調性が阻害されると共に、金属間化合物層12中又はその付近にNiが偏析しやすいことがある。なお、ニッケル塩と併せて含有させてもよい有機脂肪酸コバルト塩も、パルミチン酸コバルト又はステアリン酸コバルトが好ましく、フラックス中に1〜5質量%含有させることが好ましい。
【0038】
フラックスには、上記有機脂肪酸ニッケル塩等の他に、ジエタノールアミン、ジフェニルグアニジン臭化水素酸、イソプロピル臭化水素酸等の活性剤、ステアリン酸アミン等のチクソ剤、ワックス、セルロース等の粘度調整剤、更に溶媒等が任意の割合で含まれていてもよい。これらのはんだフラックスの使用方法としては、何ら特別な条件や制約はなく、従来のフラックスと同様、通常のはんだ付け条件で使用できる。
【0039】
こうしたフラックスは、上記した4元系又は5元系のはんだ材料を銅層11上に設ける際に、フラックス中に含まれるニッケル塩等がはんだ付け時の加熱により金属イオンとして遊離し、はんだ材料中のNiと共に(CuNi)Sn金属間化合物層12の形成に相乗的に働くものと考えられる。
【0040】
以上説明したように、本発明に係るセラミック電子部品及びその製造方法によれば、銅層11上に設けられたCuNiSn金属間化合物層12がはんだ食われのバリア層となって、その銅層11のはんだ食われを防ぐので、セラミック電子部品10をプリント基板の銅ランド等にはんだ実装する際に、従来そのはんだ実装時にも起こる銅層のはんだ食われも抑制でき、セラミック素体1の銅層11が十分に確保されて信頼性を高めることができる。しかも、従来のような高コストの工程が不要になるので、はんだ接合部の信頼性を高めた低コストなセラミック電子部品及びその製造方法を提供できる。
【0041】
こうした本発明の特徴的な技術は、上述した積層セラミックコンデンサに限らず、抵抗、インダクタ、LC部品等、他のセラミック電子部品にも適用可能である。これらのセラミック電子部品についても、外部電極2がはんだ食われのバリア層として作用する金属間化合物層12を含むことにより、低コストで信頼性の高いセラミック電子部品を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例と比較例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0043】
[実施例1]
内部電極を形成した約3mm×約1.5mm×約1.5mm程度のセラミック素体1の端面に、銅、ガラス成分及び溶剤等を含む導電ペーストを塗布し、焼成して、厚さ60μmの焼付金属層を形成した。この焼付金属層上に、さらにガラス成分を含まない銅ペーストを塗布し、焼成して銅層11を形成した。次いで、その銅層11上にフラックスを塗布し、その後、はんだ材料を260℃で溶融させてはんだ層13を設けて、実施例1のセラミック電子部品を作製した。
【0044】
はんだ材料として、Ni:0.1質量%、Ge:0.005質量%、Ag:3質量%、Cu:0.5質量%、残部がSnからなる鉛フリーはんだを用いた。フラックスとして、ロジン系フラックス98質量%に対して、パルミチン酸ニッケル2質量%を均一に混合したフラックスを用いた。なお、ロジン系フラックスは、WWロジン系樹脂:60質量%、イソプロピル臭化水素酸塩(活性剤)0.3質量%、セバシン酸(活性剤)1.0質量%、ステアリン酸アミン5.0質量%、エチレングリコールモノブチルエーテル33.7質量%、をベースにしたものである。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、はんだ材料として、Ni:0.05質量%、Ge:0.005質量%、Ag:3質量%、Cu:0.5質量%、残部がSnからなる鉛フリーはんだを用いた他は、実施例1と同様にして、実施例2のセラミック電子部品を作製した。
【0046】
[実施例3]
実施例1において、はんだ材料として、Ni:0.2質量%、Ag:3質量%、Cu:0.5質量%、残部がSnからなる鉛フリーはんだを用いた他は、実施例1と同様にして、実施例3のセラミック電子部品を作製した。
【0047】
[実施例4]
実施例1において、パルミチン酸ニッケルを配合しないロジン系フラックスを用いた。その他は、実施例1と同様にして、実施例4のセラミック電子部品を作製した。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、はんだ材料として、Ag:3質量%、Cu:0.5質量%、残部がSnからなる鉛フリーはんだを用いた。その他は、実施例1と同様にして、比較例1のセラミック電子部品を作製した。
【0049】
[比較例2]
実施例1において、はんだ材料として、Ag:3質量%、Cu:0.5質量%、残部がSnからなる鉛フリーはんだを用い、さらに、パルミチン酸ニッケルを配合しないロジン系フラックスを用いた。その他は、実施例1と同様にして、比較例1のセラミック電子部品を作製した。
【0050】
[評価及び結果]
図4は、銅層11を形成した後のセラミック電子部品の光学顕微鏡写真であり、図5は、はんだ層13を形成した後のセラミック電子部品の光学顕微鏡写真である。こうして作製された実施例1〜4及び比較例1,2のセラミック電子部品の外部電極2の断面を研磨し、走査電子顕微鏡(SEM)及びX線マイクロアナライザー(EPMA)により評価した。その結果を、図6〜図9に示した。図6〜図9の結果からもわかるように、銅層11とはんだ層13との間には、Niを含む金属間化合物層12が形成されていた。
【0051】
実施例1〜4及び比較例1,2のセラミック電子部品の断面から、はんだ食われを評価したところ、実施例1〜4のセラミック電子部品では、銅層11のはんだ溶食はあまり確認されなかったが、比較例1,2のセラミック電子部品では、銅層11のはんだ食われが大きいことが確認された。
【符号の説明】
【0052】
1 セラミック素体
2 外部電極
10 セラミック電子部品
11 銅層
12 金属間化合物層
13 はんだ層
30 仮想断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面にはんだ接合部を有し、該はんだ接合部が、セラミック素体上に設けられた銅層と、該銅層上に設けられたCuNiSn金属間化合物層と、該金属間化合物層上に設けられたSnAgCuNiGeの5元系はんだ層とを有することを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
誘電体層と内部電極とが積層され、その内部電極が交互に左右の端面に露出するセラミック素体を準備し、該セラミック素体の両端面に露出した内部電極に接続する銅層を形成した被はんだ処理材を準備する工程と、
前記被はんだ処理材が有する前記銅層上にSnAgCuNiGeの5元系はんだ層を設ける工程とを有し、
前記はんだ層形成工程中に、前記銅層と前記はんだ層との間に該銅層のはんだ食われを防ぐCuNiSn金属間化合物層を形成することを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記はんだ層形成工程において、前記銅層にニッケル塩を含むフラックスを設けた後、該フラックスが設けられた銅層上にSnAgCuNiGeの5元系はんだ層を設ける、請求項2に記載のセラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−65728(P2013−65728A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203894(P2011−203894)
【出願日】平成23年9月17日(2011.9.17)
【出願人】(501307343)日本ジョイント株式会社 (5)
【Fターム(参考)】