説明

セルロースアシレートフィルム、セルロースアシレート溶液、セルロースアシレートフィルムの製造方法、光学補償フィルム、偏光板、画像表示装置

【課題】セルロースアシレートが有機溶剤に安定な状態で溶解したセルロースアシレート溶液を提供し、その溶液を用いて製造過程で支持体からの剥離が容易で、強制条件下でも光学的均一性が高く、密度が均一で優れた面状を有するセルロースアシレートフィルムを製造する。
【解決手段】 セルロースアシレートが有機溶媒に10〜30質量%溶解しているセルロースアシレート溶液であって、その溶液の−90℃〜+35℃の動的光散乱測定で観測された流体力学的半径が、少なくとも2つ以上の独立した分布を有し、かつ流体力学的半径の最も大きな会合体の流体力学的半径の−90℃〜+35℃での温度依存性において、少なくとも一つの極小値をもつセルロースアシレート溶液を流延してセルロースアシレートフィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶画像表示装置に有用なセルロースアシレートフィルム、セルロースアシレート溶液、セルロースアシレートフィルムの製造方法、光学補償フィルム、偏光板及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶画像表示装置に使用されるセルロースアシレートを製造する際に使用されるセルロースアシレート溶液の有機溶媒は、ジクロロメタンのような塩素含有炭化水素が使用されている。ジクロロメタン(沸点約40℃)は、従来からセルロースアシレートの良溶媒として用いられ、製造工程の製膜及び乾燥工程において沸点が低いことから乾燥させ易いという利点により好ましく使用されている。近年環境保全の観点から、低沸点である塩素系有機溶媒は、密閉設備であっても取り扱い工程での漏れを著しく低減させるようになった。例えば徹底的なクローズドシステムによる系からの漏れ防止、万が一漏れても外気に出す前にガス吸収塔を設置し、有機溶媒を吸着させて処理する方法が進められた。さらに、排出する前に火力による燃焼あるいは電子線ビームによる塩素系有機溶媒の分解などで、殆ど有機溶媒を排出することはなくなったが、完全な非排出までには更に研究する必要がある。
【0003】
一方、塩素系有機溶媒として好ましく使用されてきたジクロロメタン以外のセルロースアシレートの溶媒の探索がなされて来た。セルロースアシレート、特にセルローストリエステルに対する溶解性を示す有機溶媒として知られているものには、アセトン(沸点56℃)、酢酸メチル(沸点56℃)、テトラヒドロフラン(沸点65℃)、1,3−ジオキソラン(沸点75℃)、1,4−ジオキサン(沸点101℃)などがある。これらの中でも、溶解性、製膜特性に優れるのが酢酸メチルである。酢酸メチルを用いて調製したドープを支持体上に流延した後、支持体から剥ぎ取り、搬送しながら乾燥し製膜する方法は、例えば特許文献1に開示されている。しかしながらこれらの溶媒を用いても、従来の流延方法では、高速流延してセルロースアシレートフィルムを得るにはまだ不十分であった。
【0004】
一方、セルロースアシレートフィルムは、一般にソルベントキャスト法またはメルトキャスト法により製造される。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを溶媒中に溶解した溶液(ドープ)を支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成するものである。メルトキャスト法では、セルロースアシレートを加熱により溶融したものを支持体上に流延し、支持体を冷却してフィルムを形成する。ソルベントキャスト法の方が、メルトキャスト法よりも平面性の高い良好なフィルムを製造することができる。このため、実用的にはソルベントキャスト法の方が普通に採用されている。最近のソルベントキャスト法では、ドープを支持体上へ流延してから、支持体上の成形フィルムを剥離するまでに要する時間を短縮して、製膜工程の生産性を向上させることが課題になっている。特にソルベントキャスト法によってセルロースアシレートフィルムを得るに際して、その支持体からのセルロースアシレートフィルムの剥離がし難くいこと、またそれに伴うフィルム面状の悪化が問題になっている。
【0005】
この解決のために剥離剤の使用があるが、長時間の連続製造を行う流延工程において、溶液の不安定性(貧溶解性)に起因して、系に剥離剤が堆積・付着し工程を汚染するという問題が生じ、その改良が期待されていた。また剥離剤による方法では、ある溶液においては剥ぎ取りがかなり改良されることがみられるが、不十分であった。
【0006】
また、セルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に用いる光学フィルムとして使用する場合には、光学的に均一な面状を有し、液晶表示装置を使用する環境条件を考慮した過酷な湿熱環境条件(たとえば、60℃95%RHなどの強制条件)下でも、光学的均一性を保持し続けるフィルムが期待されていた。光学的均一性を有さないフィルムや、強制条件下で劣化するフィルムを偏光板の保護フィルムや光学補償フィルムとして使用すると、フィルムムラの悪化、ブツの顕在化、光学特性劣化に起因する液晶表示装置の表示ムラが激しくなり、改良が望まれていた。
【0007】
また、製膜工程の生産性を向上させる課題のひとつに、回収チップの再溶解性向上がある。回収チップは製造工程で得られるフィルムのくずを集めて再度溶媒に溶解させて、沈殿操作を行い高分子を再利用するためのものである。従来、この回収チップを製造のドープに供する場合、その溶解性が悪い場合があり、異物が発生したり溶解に長時間を要して、生産性を落とすことがあり、改良が望まれていた。
【特許文献1】特開2003−55476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、セルロースアシレートが有機溶剤に安定な状態で溶解したセルロースアシレート溶液を提供すること、またその溶液を用いて製造された、製造過程で支持体からの剥離が容易で、強制条件下でも光学的均一性が高く、密度が均一で優れた面状を有するセルロースアシレートフィルムを提供することである。また、本発明の別の目的は、回収チップの再溶解性の向上、再回収性の向上により製膜工程の生産性を向上させたセルロースアシレートフィルムを提供することにある。またこのような優れたセルロースアシレートフィルムを用いた光学補償フィルム、偏光板、画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために鋭意検討した結果、流延する前のセルロースアシレート溶液(以下、ドープともいう)の動的光散乱法で観測される流体力学的半径の最も大きな状態の−90℃〜+35℃での流体力学的半径の温度依存性が少なくとも一つの極小値を持てば、その溶液から製造されるフィルムの支持体からの剥ぎ取り性、光学的均一性、密度均一性、面状が向上することを見出した。これは、溶液状態でもっとも大きな存在状態が一度小さくなる(バラバラになる)過程を経ることで系内の溶解性が向上し、その結果、フィルムのミクロ構造、それに起因する密度が均一になったものと考えられる。セルロースアシレート溶液を上記のような溶液状態に調整するためには、例えば溶液中に0.3%から2%の水分を余分に混入させる方法が挙げられる。
【0010】
同時にこのようにして調整されたドープを用いて製膜されたフィルムの各工程で排出された屑フィルムを集めて回収チップを作製した場合、この回収チップの溶解性が劇的に向上することを見出した。
【0011】
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)セルロースアシレートが有機溶媒に10〜30質量%溶解しているセルロースアシレート溶液であって、その溶液の−90℃〜+35℃の動的光散乱測定で観測された流体力学的半径が、少なくとも2つ以上の独立した分布を有し、かつ流体力学的半径の最も大きな会合体の流体力学的半径の−90℃〜+35℃での温度依存性において、少なくとも一つの極小値をもつことを特徴とするセルロースアシレート溶液。
(2)溶液中の水分量が0.3質量%以上2.0質量%以下であることを特徴とする上記(1)記載のセルロースアシレート溶液。
【0012】
(3)上記(1)または(2)に記載のセルロースアシレート溶液を流延することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(4)上記(3)に記載の製造方法により製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
(5)幅手方向での密度の最大値、最小値および平均値をそれぞれDYmax、DYminおよびDYaveとしたときに、DY(%)=(DYmax−DYmin)/DYave×100で算出される密度分布DYが0〜0.25%であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【0013】
(6)上記(4)または(5)に記載のセルロースアシレートフィルムを用いることを特徴とする光学補償フィルム。
(7)上記(4)および(5)に記載のセルロースアシレートフィルム並びに上記(6)に記載の光学補償フィルムのうちの少なくとも1枚を用いることを特徴とする偏光板。
(8)上記(4)および(5)に記載のセルロースアシレートフィルム、上記(6)に記載の光学補償フィルム並びに上記(7)に記載の偏光板のうちの少なくとも1枚を用いたことを特徴とする画像表示装置。
【0014】
本発明では、支持基盤上に流延しゲル化剥ぎ取りを行う際に、剥ぎ取り性を向上させる方法として、動的光散乱(DLS)法により得られる希薄溶液中に存在する減衰速度分布、それが並進運動を表す場合にはその流体力学的半径分布が、少なくとも独立した二つの共存する溶解状態(以下モードともいう)を有し、特に、流体力学的半径の最も大きなモードの流体力学的半径の−90℃〜+35℃での温度依存性において、少なくとも一つの極小値を有するドープを用いることが有効であることを見出した。
【0015】
ドープの真の溶解性(溶解安定性)は、複雑な溶解状態の解析に有益な動的光散乱(Dynamic Light Scattering:以下DLSと省略)法を用いることで分かる(例えば、edited by Wyn Brown, Dynamic light Scattering, Oxford Sci. Pub., Oxford)。DLS法により、溶液中に存在する分子運動の減衰速度Γの分布が得られる。Γの散乱角度依存性を調べることで、Γがq(散乱ベクトル)の2乗に比例すれば、その分子運動は(分子運動の中で最も遅い)並進拡散運動であることが分かる。本発明では、動的光散乱法により観察された分子運動性のうち、並進拡散運動のみを抽出し、そこから剛体球近似を仮定して得られる流体力学的半径の挙動を規定している。従って、本件発明は並進拡散運動のみに適用されることになる。並進拡散係数から、溶液中に存在する溶解状態の流体力学的半径が求まる。流体力学的半径が大きいほど、そのモードは大きいことを示す。
【0016】
更に詳述する。ある温度で動的光散乱測定を行うと、横軸を流体力学的半径(厳密には、有限濃度での見かけの流体力学的半径となる)、縦軸を散乱振幅(分子の形状、密度を仮定すると実質的に存在確率を表すことになる)にとった図が得られる。ここで、1つの溶液内に少なくとも2つ以上の独立した流体力学的半径が存在するとは、図1のような状態を指す。
この2つの山の状態にあるそれぞれの高分子の運動状態、溶解状態をモードと呼ぶ。
モード2はモード1より流体力学的半径が大きい運動状態、溶解状態にある集団であるが、明確にモード1とは区別されるべき運動状態、溶解状態にある。この各山(各モード)はある巾で流体力学的半径は分布を持っている。この1つの独立した分布(山)での平均した流体力学的半径をこの山(モード)を表す代表特性とみなしている。
【0017】
ここで、モード1の平均流体力学的半径はモード2の平均流体力学的半径よりも小さく、高分子鎖が溶液中で糸球のように丸まった場合の半径と同程度の大きさを持つものだとすると、それは単独分子状に溶液中に分散した分子の状態を表していることになる。すると、単独分子状に分散した分子の状態にあるモード1よりも、モード2の流体力学的半径は大きいので、モード2は分子がいくつかより集まって形成される会合体ということになる。
本発明でいう「流体力学的半径の最も大きな会合体の流体力学的半径」とは、この場合、モード2の平均流体力学的半径のことを指す。
【0018】
更に、「流体力学的半径の最も大きな会合体の流体力学的半径の−90℃〜+35℃での温度依存性において、少なくとも一つの極小値を持つ」とは、上記「モード2の平均流体力学的半径」を−90℃〜+35℃の範囲の各温度で求めて、それを縦軸にとり、横軸に温度をとったグラフにおいて、そのグラフ(モード2の平均流体力学的半径)が少なくとも一つの極小値を持つことを意味する。図示すると、図2のようになる。
【0019】
セルロースアシレートを有機溶媒、特に非塩素系有機溶媒に溶解させるときには−70℃に冷却して溶解させる過程を経る。その冷却過程で流体力学的半径が最も大きなモードが極小値を少なくとも一つ持つことで、この冷却過程で最も大きなモード(会合体)は一旦小さくなり、バラバラにほぐされ溶解性が向上し、フィルムの剥ぎ取り性、及び強制条件下での光学的均一性、密度均一性、面状が向上するものと考えられる。
【0020】
一般に屈曲性高分子は溶解性が良いために溶液中で観測されるのは一つの溶解状態(単独分子の分散状態(分子間で会合をせずに1本の分子鎖で存在))のみであるが、セルロース誘導体は分子鎖が持つ半屈曲性(屈曲性高分子と剛直性高分子の中間の堅さを表す)と溶媒に対する親和性(極性、非極性)のバランスのため、希薄溶液中でさえも分子分散状態だけではなく、いくつかの溶解状態をとること(数分子会合体、数十分子会合体など)が最近明らかにされている(例えば、H. Kawanishi, Y. Tsunashima, S. Okada and F. Horii, Journal of Chemical Physics, vol. 108, 6014-6025(1998)、H. Kawanishi, Y. Tsunashima and F. Horii, Journal of Chemical Physics, vol. 109, 11027(1998)、Y. Tsunashima, H. Kawanishi, R. Nomura and F. Horii, Macromolecules, vol32, 5330(1999))。
【0021】
しかしながら、これらの溶解状態がフィルム特性に及ぼす影響は考慮されていなかった。本発明者は鋭意検討の結果、希薄溶液中における流体力学的半径の最も大きなモードの流体力学的半径の温度依存性とフィルム特性に着目し、希薄溶液中の溶解状態を変化させうる水をある割合添加することにより本発明を完成させるに至った。
【0022】
動的光散乱法は高分子が重なり始める濃度c*(固有粘度を[η]とすると、c*=1/[η]で定義される)以下の希薄濃度領域で測定されるが、この濃度領域における高分子の溶解挙動が濃厚領域の溶解状態を良く反映している。これは、濃厚溶液中では高分子鎖どうしが重なりあうのを排除する(排除体積効果)ために、溶液中では溶媒と高分子とがある仮想的な斥力、引力相互作用がバランスした状態を濃厚溶液中で実現しており、この状態が希薄溶液中で、大量に溶媒が周囲に存在する環境下での高分子鎖の溶解挙動(高分子本来が有する個性(堅さや柔らかさ、会合性)を反映)と擬似的に対応していることによると考えられる。一見矛盾したように思えるが、希薄溶液中で評価された高分子鎖の広がりの大きさが、結晶中で観測される高分子鎖の広がりと良い一致を示すことは、一般によく知られており(例えば、P.G.ドジャン、高分子物理学)、溶解挙動でも同様のことが起こっている(希薄溶液系の溶解挙動が濃厚溶液系の溶解挙動を良く反映している)と考えられる。
【0023】
このようなモード1の例えば25℃における流体力学的半径は3nm以上50nm以下、より好ましくは4nm以上40nm以下、更に好ましくは5nm以上35nm以下である。モード2の流体力学的半径の好ましい範囲、より好ましい範囲、更に好ましい範囲は、それぞれモード1の流体力学的半径の好ましい範囲、より好ましい範囲、更に好ましい範囲における最小値の3倍以上最大値の3.5倍以下である。また、モード3の流体力学的半径の好ましい範囲、より好ましい範囲、更に好ましい範囲は、それぞれモード1の流体力学的半径の好ましい範囲、より好ましい範囲、更に好ましい範囲における最小値の20倍以上最大値の25倍以下である。
【0024】
さらに、温度を−90℃〜+35℃と変化させたときの各モードの変化率は25℃の値に対して、モード1で0.8倍〜20倍、モード2で0.3倍〜60倍、モード3で0.01倍〜100倍まで変化しうる。
【0025】
なお、上述の流体力学的半径は以下のように算出された。測定された減衰速度分布の分布中心をそれぞれ求め、平均減衰速度を算出し、その平均減衰速度の散乱角度30度から90度における角度依存性から有限測定濃度での並進拡散係数を算出し、さらに、5つの測定濃度(0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%、0.5質量%)から有限濃度での並進拡散係数の濃度依存性を求め、濃度0の外挿値から無限希釈状態における並進拡散係数を算出した。
ここで、現象論的パラメータである拡散係数と、分子論的パラメータである摩擦係数を結びつけた下記Einsteinの式:
【0026】
D=kb・T/f
(D:並進拡散係数、T:絶対温度、kb:ボルツマン定数、f:摩擦係数)
【0027】
と、粘性流体中での剛体球の半径aと、摩擦係数fを関係付けたStokesの式(剛体球近似):
【0028】
f=6π・η・a
(f:摩擦係数、π:円周率、a:剛体球の半径、η:溶媒粘度)
【0029】
より、下記のEinstein−Stokesの式が導出される。これにより有限濃度での並進拡散係数D(c)(c:高分子濃度)が分かる。
【0030】
D(c)=R・T/(6π・η・RH)
(R:気体定数、T:絶対温度、π:円周率、η:溶媒粘度、RH:流体力学的半径)
【0031】
高分子濃度の小さい希薄領域では、D(c)は高分子濃度cの1次式で展開することができ(ビリアル展開)、次式で表される。
【0032】
D(c)=D(1+kd・c)
(D:無限希釈状態における並進拡散係数、kd:動的第2ビリアル係数)
【0033】
即ち、有限濃度で測定した拡散係数D(c)を高分子濃度cに対してプロットし、勾配からkd、濃度0への外挿値からDが求まる。これから、剛体球近似を仮定しEinstein−Stokesの式を用いて、無限希釈状態における流体力学的半径RH,0が求まる。
【0034】
本発明を達成するための具体的手段としては、セルロースアシレート溶液中に0.3%から2%の水分を余分に混入させる方法が挙げられる。
セルロースアシレートは一般に2.5%から8%程度の含水率を有している。通常の製造工程では、フィルムの光学特性への水分の影響が大きいため、ドープに供するセルロースアシレートは事前に十分乾燥するか、あるいは、乾燥風で乾燥させながら、同時に風送させて仕込みのタンクに送っている。そのため、セルロースアシレート中に含まれる水分量は常に0.3%以内で一定量に管理されている。ところが鋭意検討の結果、意図的にドープ中に水分を0.3%から2%混入させ、かつドープ調整時間を20分以上確保することで本発明を達成できることを見出した。この理由は定かではないが、例えば、セルロースアシレートにとって貧溶媒である水をある範囲内で加え、一定時間共存させることで、流体力学的半径がもっとも大きな会合体が一時不安定状態になり、それが引き金となって、溶液中で構成される構造体が再編成されることにより、溶液全体として真の溶解性が向上され、本発明のようなフィルムとしての性能向上が具現されたものと考えられる。また、この水分量範囲を逸脱する量の水分を混入させることは、少なすぎては、構造の再編成が行われず、多すぎては相分離を起こしてしまい溶液全体が不安定になり、製造工程でのドープろ過時の目詰まりによるトラブルや、フィルムの面、フィルム耐久性へ悪影響を及ぼすことが分かった。結果ある範囲内の水分量を加えることが必要であるものと考えられる。
【0035】
本発明のセルロースアシレートフィルムは密度が均一であるため、光学的均一性が高く、優れた面状を有し、また製造工程の延伸によって切れにくいことを特徴とする。本発明のセルロースアシレートフィルムは幅手方向での密度の最大値、最小値、平均値をそれぞれDYmax、DYmin、DYaveとしたときに、DY(%)=(DYmax−DYmin)/DYave×100で算出される密度分布DYが0〜0.25%である。より好ましくは0〜0.20%であり、さらに好ましくは0〜0.15%である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、セルロースアシレートが有機溶剤に安定な状態で溶解した溶液を得て、かつその溶液により優れたセルロースアシレートフィルムを得るにあたり、その製造過程で支持体からセルロースアシレートフィルムを容易に剥ぎ取り、強制条件下でも光学的均一性が高く、優れた面状を有するセルロースアシレートフィルムを得ることができる。
【0037】
従って本発明によれば、セルロースアシレートが有機溶剤に安定な状態で溶解した溶液を得ることが可能になり、その溶液からフィルムを製造することで密度が均一で光学的均一性が高く、優れた面状を有し、再溶解性が高いセルロースアシレートフィルムを提供することができる。また回収チップの再溶解性の向上、再回収性の向上により製膜工程の生産性を向上させたセルロースアシレートフィルムを提供することができる。またこのような優れたセルロースアシレートフィルムを用いた光学補償フィルム、偏光板、画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。
本発明のセルロースアシレートは本発明の効果を発現する限りにおいて特に限定されない。そして、本発明においては異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合して用いても良い。しかし、その中でも好ましいセルロースアシレートは以下の素材を挙げることができる。すなわち、セルロースアシレートが、セルロースの水酸基への置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するセルロースアシレートである。
【0039】
(I) 2.6≦SA+SB≦3.0
(II) 2.0≦SA≦3.0
(III) 0≦SB≦0.8
【0040】
ここで、式中SA及びSBはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換基を表し、SAはアセチル基の置換度、またSBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。
【0041】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。本発明では、水酸基のSAとSBの置換度の総和は、より好ましくは2.7〜2.96であり、特に好ましくは2.80〜2.95である。また、SBの置換度は0〜0.8であり、特には0〜0.6である。さらにSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%がさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位のSAとSBの置換度の総和が0.8以上であり、さらには0.85であり特には0.90であるセルロースアシレートフィルムもあげることができる。これらのセルロースアシレートフィルムにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。これらの、6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851、特開2002−212338号や特開2002−338601号などに記載がある。
【0042】
本技術のセルロースアシレートの炭素数3〜22のアシル基(SB)としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルまたは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいSBとしては、プロピオニル、ブタノイル、ケプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso‐ブタノイル、t‐ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t‐ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどである。
【0043】
セルロースアシレートの合成方法の基本的な原理は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相酢化法である。具体的には、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸で前処理した後、予め冷却したカルボン酸化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記カルボン酸化混液は、一般に溶媒としての酢酸、エステル化剤としての無水カルボン酸および触媒としての硫酸を含む。無水カルボン酸は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解およびエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩または酸化物)の水溶液を添加する。次に、得られた完全セルロースアシレートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことによりケン化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは中和することなく水または希硫酸中にセルロースアシレート溶液を投入(あるいは、セルロースアシレート溶液中に、水または希硫酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理によりセルロースアシレートを得る。
【0044】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、フィルムを構成するポリマー成分が実質的に上記の定義を有するセルロースアシレートからなることが好ましい。『実質的に』とは、ポリマー成分の55質量%以上(好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上)を意味する。フィルム製造の原料としては、セルロースアシレート粒子を使用することが好ましい。使用する粒子の90質量%以上は0.5〜5mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子径を有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
【0045】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度200〜700、好ましくは250〜550、更に好ましくは250〜400であり、特に好ましくは粘度平均重合度250〜350である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。更に特開平9−95538号に詳細に記載されている。
【0046】
低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。なお、低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量部分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
本発明のこれらのセルロースアシレートは、その原料綿や合成方法は発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて7頁〜12頁に詳細に記載されている。
【0047】
本発明のセルロースアシレート溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、劣化防止剤、光学異方性コントロール剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤、など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に可塑剤の混合などであり、例えば特開平2001−151901号などに記載されている。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号に記載されている。またその添加する時期はドープ作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、セルロースアシレートフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開平2001−151902号などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。
【0048】
さらにこれらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0049】
次に、本発明のセルロースアシレートが溶解される有機溶媒について記述する。
まず、本発明のセルロースアシレートの溶液を作製するに際して好ましく用いられる非塩素系有機溶媒について記載する。本発明においては、セルロースアシレートが溶解し流延,製膜できる範囲において、その目的が達成できる限りは非塩素系有機溶媒は特に限定されない。本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0050】
以上のセルロースアシレートに用いられる非塩素系有機溶媒については、前述のいろいろな観点から選定されるが、好ましくは以下のとおりである。すなわち、本発明のセルロースアシレートの好ましい溶媒は、互いに異なる3種類以上の混合溶媒であって、第1の溶媒が酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサンから選ばれる少なくとも一種あるいは或いはそれらの混合液であり、第2の溶媒が炭素原子数が4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステルから選ばれ、第3の溶媒として炭素数が1〜10のアルコールまたは炭化水素から選ばれ、より好ましくは炭素数1〜8のアルコールである。なお第1の溶媒が、2種以上の溶媒の混合液である場合は、第2の溶媒がなくてもよい。第1の溶媒は、さらに好ましくは酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチルあるいはこれらの混合物であり、第2の溶媒は、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチルが好ましく、これらの混合液であってもよい。
【0051】
第3の溶媒であるアルコールの好ましくは、直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。さらに炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが含まれる。これらの第3の溶媒であるアルコールおよび炭化水素は単独でもよいし2種類以上の混合物でもよく特に限定されない。第3の溶媒としては、好ましい具体的化合物は、アルコールとしてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、およびシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンを挙げることができ、特にはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールである。
【0052】
以上の3種類の混合溶媒は、第1の溶媒が20〜95質量%、第2の溶媒が2〜60質量%さらに第3の溶媒が2〜30質量%の比率で含まれることが好ましく、さらに第1の溶媒が30〜90質量%であり、第2の溶媒が3〜50質量%、さらに第3のアルコールが3〜25質量%含まれることが好ましい。また特に第1の溶媒が30〜90質量%であり、第2の溶媒が3〜30質量%、第3の溶媒がアルコールであり3〜15質量%含まれることが好ましい。なお、第1の溶媒が混合液で第2の溶媒を用いない場合は、第1の溶媒が20〜90質量%、第3の溶媒が5〜30質量%の比率で含まれることが好ましく、さらに第1の溶媒が30〜86質量%であり、さらに第3の溶媒が7〜25質量%含まれることが好ましい。以上の本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、さらに詳細には発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて12頁〜16頁に詳細に記載されている。本発明の好ましい非塩素系有機溶媒の組み合わせは以下挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/プロパノール(75/10/5/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン(75/10/5/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(81/8/7/4、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(82/10/4/4、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(80/10/4/6、質量部)、
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(75/10/10/5/7、質量部)、
・酢酸メチル/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/8、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/ブタノール(85/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/シクロペンタノン/アセトン/メタノール/ブタノール(60/15/15/5/6、質量部)、
・酢酸メチル/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール (50/20/20/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール (70/20/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール (60/20/10/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン (65/10/10/5/5/5、質量部)、
【0054】
・ギ酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール (50/20/20/5/5、質量部)、
・ギ酸メチル/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン (65/10/10/5/5/5、質量部)、
・アセトン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール (65/20/10/5、質量部)、
・アセトン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール (65/20/10/5、質量部)、
・アセトン/1,3ジオキソラン/エタノール/ブタノール (65/20/10/5、質量部)、
・1、3ジオキソラン/シクロヘキサノン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール (55/20/10/5/5/5、質量部)
などをあげることができる。
【0055】
更に下記の方法でセルロースアシレート溶液を用いることもできる。
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(81/8/7/4、質量部)でセルロースアシレート溶液を作製しろ過・濃縮後に2質量部のブタノールを追加添加。
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(81/10/4/2、質量部)でセルロースアシレート溶液を作製しろ過・濃縮後に4質量部のブタノールを追加添加。
・酢酸メチル/アセトン/エタノール(84/10/6、質量部)でセルロースアシレート溶液を作製しろ過・濃縮後に5質量部のブタノールを追加添加。
本技術に用いるドープには、上記本技術の非塩素系有機溶媒以外に、ジクロロメタンを本技術の全有機溶媒量の10質量%以下含有させてもよい。
【0056】
また、本発明のセルロースアシレートの溶液を作製するに際しては、場合により主溶媒として塩素系有機溶媒も用いられ以下に記載する。本発明においては、セルロースアシレートが溶解し流延,製膜できる範囲において、その目的が達成できる限りはその塩素系有機溶媒は特に限定されない。これらの塩素系有機溶媒は、好ましくはジクロロメタン、クロロホルムである。特にジクロロメタンが好ましい。また、塩素系有機溶媒以外の有機溶媒を混合することも特に問題ない。その場合は、ジクロロメタンは少なくとも50質量%使用することが必要である。本発明の併用される非塩素系有機溶媒について以下に記す。すなわち、好ましい非塩素系有機溶媒としては、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、アルコール、炭化水素などから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を同時に有していてもよい。二種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0057】
また塩素系有機溶媒と併用されるアルコールとしては、好ましくは直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。さらに炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが含まれる。
【0058】
以上のセルロースアシレートに用いられる主溶媒である塩素系有機溶媒と併用される非塩素系有機溶媒については、特に限定されないが、酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサン、炭素原子数が4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステル、炭素数が1〜10のアルコールまたは炭化水素から選ばれる。なお好ましい併用される非塩素系有機溶媒は、酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチル、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、およびシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンを挙げることができる。本発明の好ましい主溶媒である塩素系有機溶媒の組み合わせとしては以下を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
・ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール(80/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン(75/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(75/10/10/5/7、質量部)、
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/8、質量部)、
・ジクロロメタン/酢酸メチル/ブタノール(80/10/10、質量部)、
・ジクロロメタン/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール (50/20/20/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール (70/20/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール (60/20/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン (65/10/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール (70/10/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン (65/10/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール (65/20/10/5、質量部)、
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール (65/20/10/5、質量部)、
などをあげることができる。
【0060】
本発明のセルロースアシレートは、有機溶媒に10〜30質量%溶解していることを特徴とするが、より好ましくは13〜27質量%である。特にはセルロースアシレートが15〜25質量%溶解しているセルロースアシレート溶液であることが好ましい。これらの濃度にセルロースアシレートを調整する方法は、溶解する段階で所定の濃度になるように実施してもよく、また予め低濃度溶液(例えば9〜14質量%)として作製した後に後述する濃縮工程で所定の高濃度溶液に調整してもよい。さらに、予め高濃度のセルロースアシレート溶液として後に、種々の添加物を添加することで所定の低濃度のセルロースアシレート溶液としてもよく、いずれの方法で本発明のセルロースアシレート溶液濃度になるように実施されれば特に問題ない。
【0061】
次に本発明のセルロースアシレート溶液(ドープ)の調製については、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよくさらには冷却溶解法あるいは高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。これらに関しては、例えば特開平5−163301号、特開昭61−106628号、特開昭58−127737号、特開平9−95544号、特開平10−95854号、特開平10−45950号、特開2000−53784号、特開平11−322946号、さらに特開平11−322947号、特開平2−276830号、特開2000−273239号、特開平11−71463号、特開平04−259511号、特開2000−273184号、特開平11−323017号、特開平11−302388号などにセルロースアシレート溶液の調製法が記載されている。以上記載したこれらのセルロースアシレートの有機溶媒への溶解方法は、本発明においても適宜本発明の範囲であればこれらの技術を適用できるものである。これらの詳細は、特に非塩素系溶媒系については発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて22頁〜25頁に詳細に記載されている方法で実施される。さらに本発明のセルロースアシレートのドープ溶液は、溶液濃縮,ろ過が通常実施され、同様に発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0062】
本発明のセルロースアシレート溶液は、その溶液の粘度と動的貯蔵弾性率がある範囲であることが好ましい。試料溶液1mLをレオメーター(CLS 500)に直径 4cm/2°のSteel Cone(共にTA Instrumennts社製)を用いて測定した。測定条件はOscillation Step/Temperature Rampで 40℃〜−10℃の範囲を2℃/分で可変して測定し、35℃の静的非ニュートン粘度 n*(Pa・s)および−5℃の貯蔵弾性率 G’(Pa)を求めた。尚、試料溶液は予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始した。本発明では、35℃での粘度が1〜400Pa・sであり、15℃での動的貯蔵弾性率が500Pa以上が好ましく、より好ましくは35℃での粘度が10〜200Pa・sであり、15℃での動的貯蔵弾性率が100〜100万が好ましい。さらには低温での動的貯蔵弾性率が大きいほど好ましく、例えば流延支持体が−5℃の場合は動的貯蔵弾性率が−5℃で1万〜100万Paであることが好ましく、支持体が−50℃の場合は−50℃での動的貯蔵弾性率が1万〜500万Paが好ましい。
【0063】
次に、本発明のセルロースアシレート溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。
本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらの各製造工程については、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁〜30頁に詳細に記載され、流延(共流延を含む),金属支持体,乾燥,剥離,延伸などに分類される。
【0064】
ここで、本発明においては流延部の空間温度は特に限定されないが、−50〜+50℃であることが好ましい。更には−30〜+40℃であることが好ましく、特には−20〜+30℃であることが好ましい。特に低温での空間温度により流延されたセルロースアシレート溶液は、支持体の上で瞬時に冷却されゲル強度アップすることでその有機溶媒を含んだフィルムを保持することができる。これにより、セルロースアシレートから有機溶媒を蒸発させることなく、支持体から短時間で剥ぎ取りことが可能となり、高速流延が達成できるものである。なお、空間を冷却する手段としては通常の空気でもよいし窒素やアルゴン、ヘリウムなどでもよく特に限定されない。またその場合の湿度は0〜70%RHが好ましく、さらには0〜50%RHが好ましい。また、本発明ではセルロースアシレート溶液を流延する流延部の支持体の温度が−50〜+130℃であり、好ましくは−30〜+25℃であり、更には−20〜+15℃である。流延部を本発明の温度に保つためには、流延部に冷却した気体を導入して達成してもよく、あるいは冷却装置を流延部に配置して空間を冷却してもよい。この時、水が付着しないように注意することが重要であり、乾燥した気体を利用するなどの方法で実施できる。
【0065】
本発明においてその各層の内容と流延については、特に以下の構成が好ましい。すなわち、セルロースアシレート溶液が25℃において、少なくとも一種の液体又は固体の可塑剤をセルロースアシレートに対して0.1〜20質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、及び/又は少なくとも一種の液体又は固体の紫外線吸収剤をセルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、及び/又は少なくとも一種の固体でその平均粒径が5〜3000nmである微粒子粉体をセルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、及び/又は少なくとも一種のフッ素系界面活性剤をセルロースアシレートに対して0.001〜2質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、及び/又は少なくとも一種の剥離剤をセルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、及び/又は少なくとも一種の劣化防止剤をセルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、及び/又は少なくとも一種の光学異方性コントロール剤をセルロースアシレートに対して0.1〜15質量%含有していること、及び/又は少なくとも一種の赤外吸収剤をセルロースアシレートに対して0.1〜5質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、を特徴とするのセルロースアシレート溶液およびそれから作製されるセルロースアシレートフィルムが好ましい。
【0066】
流延工程では1種類のセルロースアシレート溶液を単層流延してもよいし、2種類以上のセルロースアシレート溶液を同時及び又は逐次共流延しても良い。2層以上からなる流延工程を有する場合は、作製されるセルロースアシレート溶液及びセルロースアシレートフィルムにおいて、各層の塩素系溶媒の組成が同一であるか異なる組成のどちらか一方であること、各層の添加剤が一種類であるかあるいは2種類以上の混合物のどちらか一方であること、各層への添加剤の添加位置が同一層であるか異なる層のどちらか一方であること、添加剤の溶液中の濃度が各層とも同一濃度であるかあるいは異なる濃度のどちらか一方であること、、各層の会合体分子量が同一であるかあるいは異なる会合体分子量のどちらか一方であること、各層の溶液の温度が同一であるか異なる温度のどちらか一方であること、また各層の塗布量が同一か異なる塗布量のどちらか一方であること、各層の粘度が同一であるか異なる粘度のどちらか一方であること、各層の乾燥後の膜厚が同一であるか異なる厚さのどちらか一方であること、さらに各層に存在する素材が同一状態あるいは分布であるか異なる状態あるいは分布であること、各層の物性が同一であるかあるいは異なる物性のどちらか一方であること、各層の物性が均一であるか異なる物性の分布のどちらか一方であること、を特徴とするセルロースアシレート溶液及びその溶液から作製されるセルロースアシレートフィルムであることも好ましい。ここで、物性とは発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の6頁〜7頁に詳細に記載されている物性を含むものであり、例えばヘイズ、透過率、分光特性、レターゼーションRe、同Rth、分子配向軸、軸ズレ、引裂強度、耐折強度、引張強度、巻き内外Rt差、キシミ、動摩擦、アルカリ加水分解、カール値、含水率、残留溶剤量、熱収縮率、高湿寸度評価、透湿度、ベースの平面性、寸法安定性、熱収縮開始温度、弾性率、及び輝点異物の測定などであり、さらにはベースの評価に用いられるインピーダンス、面状も含まれるものである。また、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて11頁に詳細に記載されているセルロースアシレートのイエローインデックス、透明度、熱物性(Tg、結晶化熱)なども挙げることが出来る。
【0067】
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10−3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000Kev下で20〜500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300Kgyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0068】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液を塗布することで行う。塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を挙げることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒以上5分以下が好ましく、5秒以上5分以下がさらに好ましく、20秒以上3分以下が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。
また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。
【0069】
フィルムと乳剤層との接着を達成するために、表面活性化処理をしたのち、直接セルロースアシレートフィルム上に機能層を塗布して接着力を得る方法と、一旦何がしかの表面処理をした後、あるいは表面処理なしで、下塗層(接着層)を設けこの上に機能層を塗布する方法とがある。これらの下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁に記載されている。また本発明のセルロースアシレートフィルムの機能性層についても各種の機能層が発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁〜45頁に詳細に記載されている。
【0070】
本発明で作製されたセルロースアシレートの用途についてまず簡単に述べる。本発明の光学フィルムは特に偏光板保護フィルム用として有用である。偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースアシレートフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、特開平6−118232号に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護フィルム処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の光学フィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが特に好ましい。
【0071】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、偏光板保護フィルム、光学補償フィルム、光学補償フィルムの支持体等、様々な用途で用いることができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムとして使用する場合、延伸処理によりレターデーションを調整することができる。更には、積極的に幅方向に延伸する方法もあり、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、および特開平11−48271号の各公報などに記載されている。これは、セルロースアシレートフィルムの面内レターデーション値を高い値とするために、製造したフィルムを延伸する。フィルムの延伸は、縦あるいは横だけの一軸延伸(固定幅、自由幅)でもよく同時あるいは逐次2軸延伸でもよい。延伸は10〜200%の延伸が行われる。好ましくは12〜100%の延伸が、特に好ましくは15から80%延伸を行う。光学フィルムの複屈折は幅方向の屈折率が長さ方向の屈折率よりも大きくなることが好ましい。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。また、延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理しても良い。なお、本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムとして使用する場合には、フィルム中にレターデーションを発現させる化合物を含有させることによって、位相差を大きくすることも可能である。
【0072】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。セルロースアシレートフィルムは、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。本発明のセルロースアシレートフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。本発明のセルロースアシレートフィルムを、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(△n)とセルギャップ(d)との積(△nd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。
【0073】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くから良く知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、WO9848320号、特許第3022477号の各公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、WO00−65384号に記載がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell )モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。以上述べてきたこれらの詳細なセルロースアシレートフィルムの用途は発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて45頁〜59頁に詳細に記載されている。
【実施例】
【0074】
以下に本発明のセルロースアシレートについての具体的な実施例を記述するが、これらに限定されるものではない。
各実施例において、セルロースアシレート溶液およびセルロースアシレートフィルムの化学的性質および物理的性質は、以下のように測定および算出した。
【0075】
以下に本発明で使用した測定法について記載する。
(1−1)動的光散乱(DLS)測定−測定手順・測定条件
動的光散乱装置(DLS−7000:大塚電子(株)製)を用いて、以下の条件で測定した。
(1-1-1) 測定溶液の調製:綿固形分濃度15質量%の溶液を室温で仕込み、−70℃で一晩冷却後に室温で3時間以上放置し溶液を室温にする。この濃厚溶液から所定量を量りとり、所望の濃度(綿濃度で0.1、0.2、0.3、0.4、0.5質量%)に混合溶媒で希釈し、30mlの測定用希薄溶液を調製。
ダストボックス内で0.2μmフィルタ(Millipore社製)を用いて、直径15mmの光学測定セルにろ過しながら注入する。
(1-1-2) 光学セルを温度:25℃±0.2℃のシリコーンオイル液浸漬バスに入れて、10分後に測定を開始。
(1-1-3) 測定角度は30°、45°、60°、90°の4点、測定高分子質量濃度:0.1、0.2、0.3、0.4、0.5質量%の5点で実施した。
【0076】
(1−2)動的光散乱(DLS)測定−解析条件
(1-2-1) 得られた光強度の自己相関関数をHistgram法(Marquad法)により解析した。DLS法で観測されるのは、有限濃度(測定濃度)で溶液中に存在する分子運動の減衰速度(Γ)である。これらは溶液中で存在する各分子運動によって生じる濃度揺らぎがそれぞれ緩和する速度に対応しており、光強度の自己相関関数を逆ラプラス変換することにより減衰測度の分布を算出することができ、Histgram法もその一種である。
(1-2-2) タック溶液の場合には、希薄溶液であっても減衰速度Γは幾つかの分布状態(測定液の多くは3つの離散した(3つの分布が重ならない)分散状態にある)が得られた。各分布を特徴付ける量として、平均減衰速度Γaveを導入した。
【0077】
(1-2-3) 分子運動の帰属を行うため、散乱角度依存性を調べたところ、Γaveが散乱ベクトルの2乗に比例することが分かり、全てが並進運動である事が判明した(内部運動であれば、Γaveが散乱ベクトルの3乗に比例する)。即ち、タック希薄溶液中には少なくとも2つ以上の並進拡散運動モードが存在する。
(1-2-4) 従って、各運動モードの並進拡散係数DはD=Γ/q2(Γave 対q2フ゜ロットの勾配)で求められる。
【0078】
(1-2-5) 見かけの拡散係数D(c)を濃度cに対してプロットして直線近似を行い、濃度0の外挿値から無限希釈状態における拡散係数(D0)を算出した。
(1-2-6) 溶媒(溶液ではない)の粘度をη(測定法は後述)、気体定数をR、絶対温度をT[K]とすると、次式のEinstein-Stokesの式より、無限希釈状態における流体力学的半径が算出できる(各運動モードで算出)。
RH,0=R・T/(6π・η・D0
【0079】
(1-2-7) 上記解析手順は、検出された全ての運動モードについて検証され、全て並進運動であることが判明し、RH,0(無限希釈状態における流体力学的半径)を算出した。ここで、RH,0(無限希釈状態における流体力学的半径)とは、溶液中で1本の高分子鎖しか存在しないという状態を実現した場合に想定される(他の分子鎖の影響を排除した理想的な希薄溶液状態)流体力学的半径を表す。
【0080】
(2)溶媒の粘度
各種混合溶媒の粘度は以下のようにして測定した。
(2-1) 粘度管:Ubbelohde粘度管、装置:自動粘度計(離合社、VMC−252型)、測定温度:25±0.2℃。
(2-2) 粘度管ごとに1日1回蒸留水でブランク測定を実施し、粘度管の状態を確認。
(2-3) 予め所望の混合比に調整した混合溶媒を、0.2μmのフィルター(Millipore社製)を付けたシリンジで粘度管に注入
(2-4) 恒温槽に5分以上浸漬後に測定を開始。複数回(2回或いは3回)測定を行い、溶媒の流下時間が±5%以内のところで測定を終了。平均流下時間を算出し、ブランクの流下時間から混合溶媒の粘度を計算。
【0081】
(3−1)溶媒の屈折率
各種混合溶媒の屈折率は以下のようにして測定した。
(3-1-1) 装置:多波長アッベ屈折計(DR−M2:アタゴ社製)、測定波長:486nm、測定温度:25.0±0.2℃。
(3-1-2) 予め所望の混合比に調整し、25℃で保温しておいた混合溶媒をアッベ屈折計の主プリズム上に滴下し副プリズムを閉じた後に、光ケーブルにて486nmの青色光を副プリズムから入射。明暗の境界が視界の×印の交点に来るようにした時の目盛から屈折率を読み取る。測定系が半開放系であり溶媒の揮発の問題があるため、液滴下から測定までは10〜20秒程度で終わるようにした。
【0082】
(3−2)含水率の測定
含水率の測定法は、ドープ試料をすばやく水分測定器容器に封入し、試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))にてカールフィッシャー法で測定する。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出する。
【0083】
(4)セルロースアシレートの置換度
セルロースアシレートの2位、3位および6位のアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0084】
(5)セルロースアシレートの重合度(DP)
・絶乾したセルロースアシレート約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
【0085】
【数1】

【0086】
(5)光学特性評価
得られたフィルムを25℃60%RHで2時間以上調湿後、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて測定。フィルムの幅方向で10点等間隔でサンプリングし、その平均値を求めた。
【0087】
(6)強制条件下でのフィルム吸収特性の変化
得られたフィルムを単体で60℃90%RHの恒温恒湿庫に静置し、500時間経過させたのちに、分光光度計(UV−3150)を用いて波長190nm〜780nmの吸収スペクトルを測定し、サーモ経時前の試料の吸収スペクトルとの差を求め、Δ透過率(サーモ前後)とした。評価基準は以下の通り。
A:Δ透過率が0.2%未満
B:Δ透過率が0.2%以上0.4%未満
C:Δ透過率が0.4%以上0.6%未満
D:Δ透過率が0.6%以上
【0088】
(7)フィルムの剥げ残り
得られたフィルムを支持体から剥ぎ取る際の支持体表面を目視で観察し、セルロースアシレートフィルムの剥げ残りを以下の如く評価した。
A:支持体に剥げ残りは認められない。
B:支持体に剥げ残りがわずかに認められた。
C:支持体に剥げ残りがかなり認められた。
D:支持体に剥げ残りが多量認められた。
【0089】
(8)フィルムの横段ムラ(ムラと略称)
得られたフィルムを目視で観察し、その横段状ムラの欠陥を以下の如く評価した。
A:フィルムに横段ムラは認められない。
B:フィルムに横段ムラがわずかに認められた。
C:フィルムに横段ムラがかなり認められた。
D:フィルムに横段ムラが多量認められた。
【0090】
(9)フィルムのブツ(ブツと略称)
得られたフィルムを目視で観察し、その表面上のブツを以下の如く評価した。
A:フィルム表面にブツは認められなかった。
B:フィルム表面にブツがわずかに認められた。
C:フィルム表面にかなりのブツが認められた。
D:フィルム表面に凹凸が見られ、ブツが多数認められた。
【0091】
(10)フィルムのヘイズ
ヘイズ計(1001DP型、日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0092】
(11)フィルムの密度測定
フィルムの密度を密度計(AccuPyc 1330、島津社製)を用いて測定した。
【0093】
以下に具体的な実施例を挙げるが、これらの限定されるものではない。
【0094】
実施例1
(1−1)セルロースアシレート溶液の作製
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400Lのステンレス性溶解タンクに、下記の溶媒混合溶液によく攪拌・分散しつつ、セルローストリアセテート粉体(酢化度60.0%、6位置換度0.90、重合度300)を徐々に添加し、全体が200kgになるように仕込んだ。なお、溶媒である酢酸メチル、ブタノール、アセトン、メタノール及びエタノールは含水率が0.3質量%以下のものを利用し、本発明のセルロースアシレート溶液試料1−1〜1−6については意図的に水分量を0.3から2.0質量%以下になるように水を添加した。固形分濃度は21.5%となるようにした。まず、セルローストリアセテートの粉末は、分散タンクに紛体が投入されタンク内を1300Paに減圧し、攪拌剪断速度を最初は15m/sec(剪断応力5×10kgf/m/sec)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および、中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×10kgf/m/sec)で攪拌する条件下で30分間分散した。分散の開始温度は25℃であり、冷却水を流水することにより最終到達温度を35℃とした。分散終了後、高速攪拌は停止し、アンカー翼の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、セルローストリアセテートフレークを膨潤させた。膨潤終了までは窒素ガスでタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際のタンク内の酸素濃度は2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。また本発明試料1−1から1−6のドープ中の水分量は0.3質量%以上2.0質量%以下であることを確認し、比較試料N-1〜N-5については水分量が0.2質量%より少ない、または2.0質量%より多いことを確認した。特に、比較試料N-5については、水分量が0.01質量%以下であり、殆ど水分が含まれていないことを確認した。セルロースアシレート溶液の組成は以下の通りである。
【0095】
【表1】

【0096】
(1−2)セルロースアシレート溶液
得られた不均一なゲル状溶液を軸中心部を30℃に加温したスクリューポンプで送液して、そのスクリュー外周部から冷却して−75℃で3分間となるように冷却部分を通過させた。冷却は冷凍機で冷却した−80℃の冷媒を用いて実施した。そして、冷却により得られた溶液はスクリュ−ポンプで送液中に35℃に加温されてステンレス製の容器に移送した。50℃で2時間攪拌し均一溶液とした後、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)でろ過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過した。得られたセルロースアシレート溶液は、送液パイプの加温部圧力部で110℃、1MPaに加温し、常圧(約0.1Mpa)に放出することで有機溶媒を揮発させて、冷却して温度40℃の該セルロースアシレート濃度22.1%の溶液を得た。さらに、この溶液をよく攪拌しつつ、溶媒中におけるブタノールの占める割合が表2のようになるようにブタノールをセルロースアシレート溶液に徐々に添加して、均一溶液を得た。
【0097】
(1−3)セルロースアシレートフィルムの作製
上述のろ過済みの50℃のセルロースアシレート溶液を、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した(支持体の温度は−5℃に設定した)。使用したギーサーは、特開平11−314233号に記載の形態に類似するものを用いた。なお流延スピードは75m/分でその塗布幅は200cmとした。流延部の全体の空間部の温度は15℃に設定した。そして、流延部から50cm手前で流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをドラムから剥ぎ取り、両端をピンテンターでクリップした。しかる後にピンテンターで保持されたセルロースアシレートフィルムを乾燥ゾーンに搬送した。まず初めの乾燥は45℃の乾燥風を送風した。さらに110℃、5分、更に145℃で10分乾燥(フィルム温度は約140℃)して、セルロースアシレートフィルム(膜厚60μm)を得た。得られた試料は両端を3cm裁断しさらに端から2〜10mmの部分に高さ100μmのナーリングを実施し、ロール状に巻き取った(セルロースアシレートフィルム試料1−1〜1−6)。
【0098】
(1−4)結果
得られた試料の流体力学的半径の結果及びフィルム評価結果を表2に示した。
【0099】
【表2】

【0100】
本発明のセルロースアシレート試料(試料1−1〜1−6:水分量を0.3%から2.0%に調整したもの)は剥げ残り、ムラ、ブツともにAで面状、高速流延適性に優れるものであり、フィルムの強制条件下60℃95%RH500時間経過後も劣化がAで少なく良好であった。
【0101】
フィルムの幅手方向で、3cm角のサンプルを10cm間隔で等間隔でサンプリングしそのサンプルの密度測定を行った。フィルムの幅手方向での密度分布RYは、本発明試料1−1〜1−6については、0.12〜0.22の範囲内であったが、比較試料については、0.44よりも大きく、フィルムの幅手方向で比較試料は密度のバラツキが大きいことが分かり、フィルムの内部構造のバラツキを反映しているものと考えられる。
【0102】
一方、流体力学的半径の最も大きな状態の流体力学的半径が35℃から−90℃に温度をさげた時に単調に増加し、少なくとも一つの極小を持たない試料N−1、N−2は、溶解性が悪いため剥げ残りがDで、サーモ前後のΔ透過率もCでありフィルムの性能劣化が認められた。また、流体力学的半径の分布が一つしか存在しない比較試料N−3は、溶解性が悪いため剥げ残りがDでひどく、ムラBでヘイズも高めであり、サーモ経時後のΔ透過率変化もCで悪かった。さらに、流体力学的半径の最も大きな状態の流体力学的半径が35℃から−90℃の温度域で変化しない比較試料N−4は剥げ残り、ムラともに品質の低下が認められヘイズも高めであった。このことから、流体力学的半径の分布は少なくとも二つ以上の独立した分布を有し、その最も大きな状態の流体力学的半径が−90℃〜35℃の温度域で少なくとも一つの極小値を持つことが好ましいことが分かる。また、同半径はその温度依存性において、極大をとっても構わないことが分かる。
【0103】
また、試料1−5と同じ綿濃度、同じブタノール量を有し、水分量だけが限りなく0に近い試料N−5は、流体力学的半径の最も大きな状態の流体力学的半径が35℃から−90℃に温度を下げたときに単調に増加し、少なくとも一つの極小をもたず、溶解性が悪いため、剥げ残りがDで、サーモ前後のΔ透過率もCでありフィルムの性能劣化が認められた。
【0104】
本発明の試料1−1〜1−6のドープを用いて作製されたフィルムのくずを集めて回収チップを作製した。実施例1の(1−1)の項目でセルロースアシレート粉体の代わりに、この回収チップを用いた場合は、攪拌時間は約半分に減少したが、比較試料N-1〜N-5のドープを用いて作製されたフィルムのくずを集めた作製された回収チップを用いた場合には、攪拌時間の短縮は、未溶解物が発生して達成されなかった。
このように、本発明の試料1−1〜1−6を用いることで、回収チップの再溶解性の向上、再回収性の向上により製膜工程、特に、溶液調製(仕込み)工程の生産性を大幅に改善することができた。
【0105】
実施例2
実施例1(1−1)で得られた不均一なゲル状溶液(セルロースアシレート溶液試料1−1〜1−6、N−1〜N−5)をスクリューポンプで送液して、140℃、1Mpaに加温加圧した加熱部分を3分間通過させた後、110℃、1Mpaに加温加圧して、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)でろ過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過した。このようにして得られたセルロースアシレート溶液を用いて実施例1(1−3)と同様にセルロースアシレートフィルムを作製した。
【0106】
本発明のセルロースアシレート溶液試料1−1〜1−6から得られたフィルム試料は、剥ぎ取り性も良好で、フィルムのムラ、ブツの面状、ヘイズも良好であった。さらにフィルムのサーモ経時変化、密度均一性も優れたものであった。このことから、本発明においては高温高圧溶解においても優れたセルロースアシレートフィルムが作製できることが確証された。
【0107】
実施例3
特開平11−316378号の[実施例1]において、その第1透明支持体を本発明の実施例1の試料1−1で得られるセルロースアシレートフィルムの厚さを80μmとしたものに変更する以外は、全く同様にして特開平11−316378号の[実施例1]を実施して試料3−1を作製した。得られた楕円偏光板は、優れた光学特性は優れたものであった。
【0108】
実施例4
特開平7−333433号の実施例1の富士写真フィルム(株)製セルローストリアセテートを、本発明の実施例1の本発明試料1−1〜1−6のセルロースアシレートフィルムに変更する以外は、特開平7−333433号の実施例1と全く同様にした光学補償フィルム試料を作製した。得られたフィルムは全て左右上下に優れた視野角を有するものであった。一方、試料N−1〜N−5を用いた場合は、左右上下の視野角が低下し、色味変化が大きくなり表示品位の劣るものが得られた。したがって、本発明のセルロースアシレートフィルムが、光学的用途として優れたものであることが判る。
【0109】
実施例5
本発明では更に、多種の光学用途に利用され、本発明の試料の代表として1−1〜1−6を、例えば特開平10−48420号の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号の図2〜9に記載のVA型液晶表示装置、特開2000−154261の図10〜15に記載のOCB型液晶表示装置に用いたところ良好な性能が得られた。一方試料N−1〜N−4を用いた場合は、左右上下の視野角が低下し、色味変化が大きくなり表示品位の劣るものが得られた。したがって、本発明のセルロースアシレートフィルムが、光学的用途として優れたものであることが判る。
【0110】
実施例6
実施例1の本発明の試料1−1においてセルローストリアセテートを、該セルローストリアセテート(15質量部)とセルロースアセテートプロピオネート(アセチル置換度2.44、プロピオネート置換度0.26で全置換度は2.70、粘度平均重合度318、含水率0.4質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 277mPa・s、平均粒子径1.3mmであって標準偏差0.4mmである粉体、残存酢酸量およびプロピオン酸量は共に0.06質量%以下、Caが0.011質量%、Mgは0.08質量%、Feは0.54ppm、6位アセチル基及びプロピオニル基はそれぞれ0.70と0.17であり全置換基の33%、アセトン抽出分は7質量%、質量平均分子量と数平均分子量の比は3.5、イエローネスインデックスは1.3、ヘイズは0.2、透明度は93.3%、Tgは157℃、結晶化発熱量は4.3J/g)(5質量部)、及びセルロースアセテートブチレート(アセチル置換度2.39、ブチレート置換度0.45で全置換度は2.84、粘度平均重合度340、含水率0.4質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 295mPa・s、平均粒子径1.3mmであって標準偏差0.4mmである粉体、残存酢酸量およびブタン酸量は共に0.03質量%以下、Caが0.005質量%、Mgは0.004質量%、Feは5ppm、6位アセチル基及びブチロイル基はそれぞれ0.72と0.20であり、全置換基の32%、アセトン抽出分は14質量%、質量平均分子量と数平均分子量の比は1.3、イエローネスインデックスは0.9、ヘイズは0.5、透明度は92.9%、Tgは153℃、結晶化発熱量は3.9J/g)(5質量部)に変更する以外は、実施例1と全く同様にしてそのフィルムである本発明の試料6−1を作製した。
【0111】
この溶液の流体力学的半径の分布は独立した3つの分布を与え、その最も大きな状態の流体力学的半径の−90℃〜35℃の温度依存性は、−20℃で少なくとも一つの極小値を与え、本発明の範囲内であった。剥げ残りA、ムラAおよびブツAであり、ヘイズも0.4で、サーモ前後のΔ透過率変化もA、および密度均一性も優れたものであり、すべての点で優れたものであった。したがって、本発明ではセルロースアシレートを2種類以上混合して用いても優れたセルロースアシレートフィルムを得る事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明における「動的光散乱測定で観察された流体力学的半径が少なくとも2つ以上の独立した分布を有する」ことを説明するための概略図である。
【図2】本発明における「流体力学的半径の最も大きな会合体の流体力学的半径の−90℃〜+35℃での温度依存性が少なくとも一つの極小値を有する」ことを説明するための解略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートが有機溶媒に10〜30質量%溶解しているセルロースアシレート溶液であって、その溶液の−90℃〜+35℃の動的光散乱測定で観測された流体力学的半径が、少なくとも2つ以上の独立した分布を有し、かつ流体力学的半径の最も大きな会合体の流体力学的半径の−90℃〜+35℃での温度依存性において、少なくとも一つの極小値をもつことを特徴とするセルロースアシレート溶液。
【請求項2】
溶液中の水分量が0.3質量%以上2.0質量%以下であることを特徴とする請求項1記載のセルロースアシレート溶液。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセルロースアシレート溶液を流延することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法により製造されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
幅手方向での密度の最大値、最小値および平均値をそれぞれDYmax、DYminおよびDYaveとしたときに、DY(%)=(DYmax−DYmin)/DYave×100で算出される密度分布DYが0〜0.25%であることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
請求項4または5に記載のセルロースアシレートフィルムを用いることを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項7】
請求項4および5に記載のセルロースアシレートフィルム並びに請求項6に記載の光学補償フィルムのうちの少なくとも1枚を用いることを特徴とする偏光板。
【請求項8】
請求項4および5に記載のセルロースアシレートフィルム、請求項6に記載の光学補償フィルム並びに請求項7記載の偏光板のうちの少なくとも1枚を用いたことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−299042(P2006−299042A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121288(P2005−121288)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】