説明

セルロース系バイオマスから糖の製品流を得る方法

【課題】セルロース系バイオマスから糖製品流を得る方法。
【解決手段】セルロース系バイオマスに約0.4〜約2.0のpHで一種または複数の酸を加えてセルロース系バイオマスを予備処理して酢酸を含予備処理されたセルロース系バイオマスを作り、この予備処理されたセルロース系バイオマスに一種または複数の塩基を加えて予備処理されたセルロース系バイオマスのpHを約4.0〜約6.0に調節して無機塩と酢酸塩とを含む中和されたセルロース系バイオマスを作り、中和されたセルロース系バイオマスをセルラーゼ酵素を用いて加水分解して粗糖製品流を作り、粗糖製品から不溶性残渣を分離して浄化された糖流を作り、浄化された糖流を約5.0〜約10.0のpHで陽イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィで処理して無機塩と酢酸塩と糖を含む糖製品流とから成る一種または複数のラフィネート流を作り、糖製品流を回収する。製品流は発酵させるか、さらに処理できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系バイオマスから糖の製品流を得る方法、特にセルロース系バイオマスを酵素を糖に変換して糖の製品流を得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、燃料エタノールはコーンスターチ、砂糖キビ、砂糖大根等のフィードストック(供給材料)から作られている。しかし、生産に適した農地が限られ、人間用作物や動物用飼料の生産との競争が激しいためこれら供給源からのエタノールの生産は今後さらに大幅に広がることは期待できない。さらに、その転換プロセス中に使用する化石燃料の燃焼によって二酸化炭素が放出されるため、このフィードストックの使用は環境にネガティブな影響を与える
【0003】
セルロース含有フィードストック、例えば農業廃物、草、森林廃物、糖処理残渣から燃料エタノールを作る方法の可能性が注目を集めてきた。すなわち、これらの安いフィードストックは多量に利用でき、セルロース廃棄物材料の燃焼や埋立て処理を避けることができ、エタノールはガソリンに比較してよりクリーンである。
なおよび清潔がごみ処理。しかも、セルロースの転換プロセスの副産物、リグニンは燃料として使用してセルロース転換プロセスへ電力を供給することができ、それによって化石燃料の使用を避けることができる。全サイクルを考慮に入れた研究によって、セルロースから作られたエタノールの使用では温室効果ガスなしに近いことが明らかになっている。
【0004】
エタノール生産に使用可能なセルロース誘導体のフィードストックには (1) 農業廃物、例えばトウモロコシ滓(かいば、corn stover)、麦藁(wheat straw)、大麦藁(barley straw)、カノラ藁(canola straw)、大豆滓(soybean stiover)、(2) 草、例えばスイッチグラス(switch glass)、ミスカンサス(miscanthus)、索草(cord grass)、草ヨシ(reed grass)、(3) 森林廃物、例えばスパンウッド(span wood)、おがくず、(4) 糖処理残基、例えばバガス、ビートパルプが含まれる。
【0005】
セルロースは解離に極めて抵抗するヘミセルロースのような結晶構造を有し、それが第2の主要成分を成している。セルロース誘導体繊維をエタノールへ変換するのには下記が要求される:1)セルロースとヘミセルロースをリグニンから解放するか、セルロース誘導体フィードストック中のセルロースおよびヘミセルロースのセルラーゼ酵素への接触可能性を増やし、2)ヘミセルロースおよびセルロース炭水化物ポリマーをフリーの糖に脱ポリマー化し、3)ヘキソースとペントースの糖混合物をエタノールへ発酵させる。
【0006】
プラントへ運ばれたフィードストックは一般に次の処理での取り扱いに適した所望の寸法に粉砕される。
【0007】
セルロースを糖に変換するのに使用される公知の方法の中で酸加水分解プロセスでは蒸気と酸とを使用してセルロースをグルコースに加水分解する(温度、酸濃度、時間が長い)(下記文献参照)。
【非特許文献1】Grethlein, J. Appl. Chem. Biotechnol, 1978, 28:296-308
【0008】
次に、イーストを使用してグルコースからエタノールへ発酵させ、エタノールを回収し、蒸留で精製する。この酸加水分解法は長年研究されてきたが、加水分解条件が厳しく、糖収率が低いため商業的に成功したものはない。
【0009】
セルロース加水分解法の代替法は酸で予備加水分解(prehydrolysis)(または予備処理)した後に酵素加水分解する方法である。この方法では上記酸加水分解プロセスと類似のプロセスである方がより穏やかな温度、より低い酸濃度、より短い処理時間またはこれらを組合せて使用してセルロース誘導体材料を最初に予備処理する。この予備処理プロセスでは次の変換段階のためのセルロース誘導体繊維中でのセルロースの接触可能性が増加するが、変換結果自体は低い。予備処理したフィードストックは次の段階で適当な温度およびpH(一般に、5O℃、pH 5)に調整され、セルラーゼ酵素によって酵素変換される。予備処理プロセスの蒸気温度、硫酸濃度および処理時間は酸加水分解プロセスよりかなり穏やかなものが選択され、暴露されるセルロース表面積は増加し、繊維フィードストックはペースト状テキスチャーに変換される。より多くのヘミセルロースが加水分解されるが、セルロースのグルコースへの変換は少ない。セルロースはセルラーゼ酵素を用いた次の段階でグルコースに加水分解される。この場合、蒸気/酸処理は予備処理として知られている。
【0010】
酸によるかセルラーゼ酵素によるかは違っても、糖のエタノールへの発酵の前にセルロースの加水分解を行ない、蒸留でエタノールを回収する。
セルロース誘導体材料からのセルロースの糖への効率的な変換と、その次の糖のエタノールへの発酵とをいかに行なうかが工業化への主要なチャレンジになる。特に、予備処理後の糖の流れには多量の不純物(塩、糖分解産物、有機酸、可溶性フェノール化合物、その他の化合物を含む)が存在する。これらの化合物結果はフィードストックの劣化で生じ、塩の場合には、プロセスで添加した酸およびアルカリに起因する。これらの不純物の存在はイーストによる糖の発酵を大きく抑制する。糖を高収率で、効率的に発酵できない場合にはバイオマスからのエタノールの生産は商業的に実行できない。さらに、多量の不純物が存在するため、糖の流れから酢酸と塩を回収できず、このプロセスのポテンシャルは低い。
【0011】
発酵前の糖の流れから毒性インヒビターの硫酸、硫酸塩、酢酸、酢酸塩をいかに回収するかが大きな研究課題である。これまでに研究されたプロセスには生石灰の添加法、イオン交換法、イオン排除法がある。
【0012】
生石灰の添加では生石灰(水酸化カルシウム)(水不溶性)を糖の流れに加えて不純物を沈降させる。石灰を添加した糖溶液はアルカリ性pHを有し、酸(一般にはリン酸、亜硫酸、炭酸またはこれらの混合物)で中和される。必要に応じて石灰ケークを濾過によって糖から分離する。第2のオプションはアルカリ性pHの石灰ケークを濾過し、第2の濾過を実行して酸性化段階で沈殿する材料を除去する。石灰処理はイースト、その他の微生物に対する糖の流れの毒性を減少させるが、石灰ケークの取扱が難しく、コストが高くなる。さらに、糖の流れへカルシウムを添加することによって、蒸発器、蒸留塔、その他のプロセス機器にカルシウムのスケールが沈澱し易くなる。スケール増加を逃けるための掃除で糖の処理コストが上昇する。さらに、石灰の添加で塩と酢酸の回収がより難しくなる。
【0013】
イオン交換法では糖の流れをイオン交換樹脂を充填したカラムを通す。イオン交換樹脂は陽イオン交換樹脂か、陰イオン交換樹脂か、その組合せである。原則としてカチオン交換樹脂はカチオン(例えばナトリウムまたはカリウム)を除去し、陰イオン交換樹脂はアニオン(例えば硫酸塩および酢酸塩)を除去する。例えば下記文献に記載のイオン交換は加水分解物を処理して発酵インヒビター、例えばフェノール化合物、フランアルデヒドおよび脂肪酸を除去する。
【非特許文献2】Nilvebrant、App. Biochem. Biotech, 2001, 91-93:35-49
【0014】
分離は陰イオン交換樹脂と、陽イオン交換体と、イオン価のない樹脂とを使用して実行する。研究者はpH 10.0で処理すると、大部分のフェノール基がこのpHではイオン化されるのでアニオン交換体を使用することでフェノールの発酵インヒビターを除去できることを発見している。
実際には多くのファクターのためイオン交換処理での発酵インヒビターの除去効果は制限される。先ず第一に、糖の流れが多成分であるため一つのセットの条件では複数の生物種を能率的に回収するのは難しい。次に、イオンの負荷が高いと樹脂の再生を頻繁にする必要があり、コストが高くなる。最後に、全てのインヒビターにはイオン性がなく、糖から非イオン物質化合物を除去するのにイオン交換樹脂は効果がない。
【0015】
イオン排除(ion exclusion)法でもイオン交換樹脂を使用するが、溶液中の標的イオンを拘束し、樹脂上のチャージが溶液中の標的イオンのチャージとマッチして樹脂から化合物が排除される。排除された化合物はカラムから容易に溶出し、チャージされなかった化合物は樹脂に吸収されてカラムからよりゆっくりと溶出する。例えば、硫酸とグルコースの濃縮溶液は主要カチオンとして水素を有する。水素形のカチオン交換樹脂は酸を排除し、それを速く溶出させる。チャージされないグルコースは樹脂から排除されず、樹脂の孔中に吸収され、カラムからの溶出がより遅くなる。
バイオマス流からの糖の解毒でのイオン排除は多くのグループが記載している。例えば、下記文献は水素形陽イオン交換樹脂のベッドに製品流をポンプ輸送することでバイオマスの糖から酢酸と硫酸の回収できると教えている。
【非特許文献3】Wooley et al, Ind. Eng. Chem. Res., 1998, 37:3699-3709)
【0016】
樹脂上の正電荷によって硫酸の水素イオンがはじかれて硫酸はカラムから非常に速く溶出する。チャージされない糖の分子は樹脂の孔中に吸収されて硫酸よりゆっくりとカラムから溶出する。完全に会合した酢酸(非イオン性)は糖または硫酸より小さい分子で、硫酸または糖よりゆっくりとカラムから溶出する。
硫酸と酢酸を含まないグルコース流を作る方法はシュミレーション可動ベッド(Simulated Moving Bed、SMB)システムにも記載されている。上記Wooleyプロセスの欠点はグルコースの回収率が92%に過ぎないことにある。グルコースが8%失なわれることはこのシステムでは重大なコスト増になる。イオン排除法は約1〜2のpHで実行されるが、この低いpH値ではキシロースが大きく劣化する可能性がある。
下記文献には4つの帯域を有する複数のイオン排除カラムを含むSMB列を用いて非イオン成分(糖)からイオン性成分(酸)を分離するプロセスが開示されている。
【特許文献1】米国特許第5,560,827号明細書(Hester et al)
【特許文献2】米国特許第5,628,907号明細書(Hester et al)
【0017】
分離は低pHで水素形のカチオン(または陽イオン交換)樹脂をいて行なわれる。このヘスター(Hester)法では分散とチャネリング効果を最小にするために複数の列を用いている。糖/酸溶液をカラムに入れると、酸が最初に溶出し、その後、水を用いて糖を溶出する。
下記文献は予備スケールのイオン排除システムを使用してイオン性成分(酸)を非イオン性成分(糖)から分離するプロセスを開示している。
【特許文献3】米国特許第5,407,580号明細書(Hester et al)
【0018】
このシステムではフロート式分配プレートを用いて樹脂ベッドの収縮に起因する希釈層の増加を防止している。カラムをプロフィルの範囲を超えた条件で運転して、酸用と糖用に別々の溶出プロセス用プロファイルを用いて製造できるようになっている。このプロセスを実行できる許容条件は硫酸濃度が1.0〜20.0%で、供給体積が1.0〜5.0で、フラックス比が0.1〜2.0で、架橋%が1.0〜15のジビニールベンゼン樹脂を使用することである。
下記文献に記載の糖の製造・分離法は、バイオマスを酸を用いて非結晶化(decrystallizing)と加水分解し、その後に加水分解物を圧縮し、酸と糖を含む液体を回収する二段階法である。
【特許文献4】米国特許第5,580,389号明細書(Farone et al)
【特許文献5】米国特許第5,820,687号明細書(Farone et al)
【0019】
液体を低pHで運転される強く架橋した陽イオン交換樹脂に通し、糖を樹脂に吸着させる。樹脂をガスでパージして樹脂から酸を押出す。その後、樹脂を水で洗浄して糖の流れを得る。
下記文献には陰イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィによって糖と酸を製造する方法が開示されている。
【特許文献6】米国特許第5,968,362号明細書(Russo et al.)
【0020】
カラムから溶出した糖には酸残渣と重金属が含まれるが、重金属は除去でき、酸は石灰処理を用いて中和できる。酸は樹脂に吸着され、保持され、水で樹脂から溶出される。
下記文献では修正された数理モデルを使用して酸からの糖の分離をシミュレーションし、実験データで得られた結果と比較をしている。
【非特許文献4】Nanguneri et al,Sep. Sci. Tech., 1990, 25(13-15):1829-1842)
【0021】
異なるプロセスパラメータで分離性能を解析して最適処理条件を決定している。シミュレーションされたプロセスの結果は、最初に溶出するのは酸リッチな流れであり、次は希釈された酸/糖の界面流れであり、続いて糖リッチな流れになる。この著者(Nanguneri et al.)は最適処理条件下での経済解析を行い、リグノセルロースを含むフィードストックを処理してエタノールを作るにはイオン排除法が実行可能な方法であると結論している。しかし、このNanguneri et al.の方法の欠点は希釈された酸/糖の界面流れの分離、回収のコストが高いという点にある。
下記文献に開示の方法では、バイオマスから得られる加水分解物の外に、ビートや砂糖キビ糖蜜を含む各種供与源から得られる糖蜜から蔗糖、ベタインおよびキシロースのような製品成分を分離する。
【特許文献7】米国特許第6,663,780号明細書(Heikkila et al.)
【0022】
この方法は糖蜜を炭酸ナトリウム(pH 9)で処理してカルシウムを沈殿させ、沈殿物を除去する。濾液は強酸の陽イオン交換樹脂を充填したシミュレーション移動床(SMB)プロセスで処理する。このSMBプロセスは少なくとも2つのSMBシステムを使用して実行される。最初のシステムで蔗糖が回収され、第2のシステムでベタインが回収される。最初のシステムから得られた蔗糖は結晶化でき、結晶化のランオフ(run-off、排出物)は第2のシステムで用いられる。また、2つのシステムを使用して亜硫酸塩クッキングリカーからキシロースを回収するプロセスも記載されている。最初のシステムで分画する前に、pHが3.5の亜硫酸塩クッキングリカーを濾過し、47%(w/w)の濃度に希釈する。最初のシステムで得られるキシロース画分は結晶化させ、MgOを用いてpHを3.6に調節した後、ランオフを第2のシステムに供給する。第2のシステムではシーケンシャルSMBを用いて結晶化のランオフからキシロースを分離する。
【0023】
特許文献7(米国特許第6,663,780号明細書)に記載の分離方法の欠点は2つのSMBシステムを含むため高価になり、プロセスの複雑度を増すことにある。それに加えて、リグノセルロースを含むバイオマスの処理で得られた加水分解物中に存在する糖はビートプロセスの蔗糖より結晶化が難しい。特許文献7(米国特許第6,663,780号明細書)の結晶化による蔗糖精製はバイオマス系のグルコースについては成功していない。
砂糖大根から得られる糖蜜から蔗糖をイオン排除クロマトグラフィまたはイオン交換を用いて分離する方法は多くのグループが報告している。例えば、下記文献にはインバーテッド糖蜜からベタインを回収する方法を開示している。
【特許文献8】米国特許第4,359,430号明細書(Heikkila et al.)
【0024】
先ず最初に、糖蜜を水で35〜40%の濃度に希釈し、その後に陽イオン交換樹脂を充填したカラムに通す。水で溶出すると最初に非糖の廃物画分が得られ、続いて第2の糖−含有画分と、第3のベタイン−含有画分とが得られる。ベタインは蒸着、結晶化で回収される。ベタインを高レベルで回収できるが、この特許には糖−含有画分から蔗糖をどのように回収するかは記載がない。
下記文献にもシミュレーション移動床(SMB)プロセスを用いてビート糖蜜から蔗糖とベタインとを分離する方法が開示されている。
【特許文献9】米国特許第6,482,268号明細書(Hoyky et al.)
【0025】
このHoyky et al.の方法でも、特許文献7(米国特許第6,663,780号明細書)と同様に、先ず最初に炭酸ナトリウムを加えてビート糖蜜からカルシウムを沈殿させ、生じた炭酸カルシウムは濾過分離する。次に、ジビニールベンゼンを骨格にした強陽イオン交換体樹脂を充填したカラムにビート糖蜜を通す。最初に蔗糖画分が溶出し、続いてベタイン画分が溶出する。それをさらに濃縮し、更に分別して第2の蔗糖画分と蔗糖を含む第2のベタイン画分を作る。第2の蔗糖とベタイン画分を最初の分画から得られる蔗糖とベタイン画分と合せる。このHoyky et al.の方法にはビート糖蜜から蔗糖とベタインの分離法は記載されているが、バイオマス変換プロセス中にはこれらの成分は存在しない。
下記文献にはイオン排除クロマトグラフィを使用して糖蜜から糖を分離する方法が記載されている。
【特許文献10】英国特許第GB 1,483,327号公報(Munir et al.)
【0026】
イオン排除カラムはカラムベッドの収縮を防ぐために使用される塩の形の2種類の陽イオン交換樹脂から成る。糖はカラムに吸着し、pHを9以上に合せた脱炭酸水を用いて溶出される。
下記文献には地方自治体の固体廃棄物かち再使用可能な材料を回収し、エタノールを作る処理方法が開示されている。
【特許文献11】国際特許第WO 95/17517 号公報(Chieffalo et al.)
【0027】
セルロース誘導体材料をシュレッダーし、酸および石灰で予備処理して重金属を除去し、濃硫酸で処理して糖を作る。糖と酸は強酸のカチオンイオン交換樹脂で分離する。
下記文献にはイオン排除クロマトグラフィを用いて砂糖大根から得られる廃糖蜜中に存在する塩と蔗糖とを分離する方法が開示されている。
【特許文献12】米国特許第4,101,338号明細書(Rapaport et al.)
【0028】
イオン排除クロマトグラフィの前に、糖蜜を処理して有機の非糖分不純物と着色物とを除去する。これら不純物を除去する方法として各種の方法が提案されており、好ましい方法には鉄イオン塩、例えば塩化第二鉄または硫酸第二鉄を用いた沈降法が含まれる。次に、得られた不溶フロスを糖蜜流から除去し、可溶性の鉄塩は石灰とリン酸または無機リン酸塩を添加して除去する。pHは7.0以上に上る。次に、糖蜜流をイオン交換カラムに通して蔗糖を含む画分を作り、塩を分離する。このプロセスの欠点は第2鉄イオンを添加した時に糖蜜のpHが2.0〜3.0の範囲になることである。この低pHではキシロースが劣化する。さらに、このRapaport et al.は糖からの酢酸の分離について記載がない。
【0029】
リグノセルロース系中の有機非炭水化物不純物は上記Rapaport et al.の方法では除去できない。Rapaport et al.の方法では鉄塩またはエタノールで沈殿した固形物の量は少ないので固形物を遠心分離しない。その反対に、リグノセルロースを含むフィードストックの処理で生じる糖流には有機の非炭水化物不純物と無機塩が非常に高いレベルで含まれる。この濃縮流の処理についてRapaport et al.の方法には記載がない。
下記文献には不純な砂糖キビからの糖液汁を処理して白糖と白色ストラップ糖蜜とを得るプロセスが開示されている。
【特許文献13】米国特許第第6,709,527号明細書(Fechter et al.)
【0030】
このプロセスでは糖液汁をマイクロ濾過/限外濾過して不純物レベルを下げる。次に、糖液汁を水素形の強酸性カチオン交換樹脂を含むイオン交換器と、水酸化物形の陰イオン交換樹脂を含むイオン交換器とに順次通す。イオン交換後に得られる糖溶液を濃縮してシロップにし、それを結晶化して不純な結晶化糖および白色ストラップ糖蜜とを得る。このプロセスは蔗糖液から不純物を回収できるが、上記イオン交換クロマトグラフィに起因する限界がある。
下記文献には亜硫酸塩パルプの廃液流から糖を精製する方法が記載されている。
【特許文献14】米国特許第第4,631、129号明細書(Heikkila et al.)
【0031】
このプロセスは2段階を有する。第1段階では亜硫酸塩パルプの廃液流のpHを3.5以下に調節し、強酸性イオン排除樹脂に通して、2つのリグノスルホネートの豊富なラフィネート画分と、7.8〜55%のリグノスルホネートから成る糖を含む製品流とを回収する。第2段階では製品流のpHを5.5〜6.5に合せる。次に、製品流を濾過し、第2のイオン排除カラムに通してこの製品流中の多量のリグノスルホネートから糖を分離し、更に精製する。このプロセスの問題は2つのイオン排除システムを使用するため高価になり、プロセスの複雑度を増すことにある。さらに、このHeikkila et al.の方法ではバイオマスの処理中に存在する化合物、例えば硫酸塩、酢酸を含む無機塩とその他の有機酸を定量化しておらず、その分離法は記載がない。
下記文献にはイオン排除クロマトグラフィを用いて乳漿(ホエー)粉末の加水分解物からの糖酸と有機酸を分析し、数量化する方法が記載されている。
【非特許文献5】Bipp et al. (Fresenius J. Anal. Chem., 1997, 357:321-325)
【0032】
溶出は0.005Mの硫酸(pH2.3)を用いて45℃で行なうか、0.05M(pH1.30)の温度と1O℃の温度とで行う。この文献は上記方法が糖酸および酢酸を含む有機酸の決定および数量化に適していることを証明したが、分離に必要な上記温度は工業的使用には実際的でない。さらに、上記の低pH値では製品が分解する危険がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
従って、糖の微生物発酵の前に糖の流れを脱毒性化(detoxifying)する経済的なシステムが必要である。そうしたシステムの開発ではリグノセルロースを含むフィードストックをグルコースに変換し、その後にエタノール、その他の産物に変える全プロセスであるというクリティカルな要求を満たす必要がある。
【0034】
本発明は、セルロース系バイオマスから糖製品流を得る方法、特にセルロース系バイオマスを酵素変換して糖を作る糖製品流の製造方法を提供する。
【0035】
本発明の目的は、性能が改善したバイオマスの変換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明は、セルロース系バイオマスから糖製品流を得るためのプロセス(A)を提供する。このプロセス(A)は下記段階で構成される:
(a) セルロース系バイオマスに約0.4〜約2.0のpHで一種または複数の酸を加えてセルロース系バイオマスを予備処理してセルロースの一部およびセルロース系バイオマスの少なくともヘミセルロースの一部を加水分解してグルコースと、酢酸と、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースおよびこれらの組合せから成る群の中から選択される糖モノマーとから成る予備処理されたセルロース系バイオマスを作り、
(b) 上記の予備処理されたセルロース系バイオマスに一種または複数の塩基を加えて上記の予備処理されたセルロース系バイオマスのpHを約4.0〜約6.0に調節して、無機塩と酢酸塩とを含む中和されたセルロース系バイオマスを作り、
(c) 中和されたセルロース系バイオマスをセルラーゼ酵素を用いて加水分解して粗糖製品流を作り、
(d) 粗糖製品から不溶性残渣を分離して浄化された糖流を作り、
(e) 浄化された糖流を約5.0〜約10.0のpHで陽イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィで処理して、無機塩と酢酸塩と糖を含む糖製品流とから成る一種または複数のラフィネート流を作り、
(f) 上記糖製品流を回収する。
【0037】
本発明はさらに、(e)の段階の処理のイオン排除クロマトグラフィを約6〜約10のpHで実行する上記定義のプロセス(A)に関するものである。このイオン排除クロマトグラフィは約6.5〜約10のpHまたは約6〜約8のpHで実行できる。
【0038】
本発明はさらに、(d)段階で得られる浄化された糖流を(e)段階の処理前または処理中に濃縮する上記定義のプロセス(A)に関するものである。(e)段階で得られた糖製品流を濃縮することもできる。
【0039】
回収段階(f)段階後の糖製品流中の糖を発酵させることができる。さらに、糖製品流中の糖を発酵させてエタノールまたは乳酸にすることができる。この本発明方法では一つまたは複数のラフィネート流を回収する段階をさらに含むことができる。
【0040】
本発明はさらに、(e)段階の処理段階中に上記Simulated Moving Bed(SMB)システムまたはImproved Simulated Moving Bed(ISMB)システムを用いてイオン排除クロマトグラフィを実行する上記定義のプロセス(A)に関するものである。このSMBまたはISMBシステムは1サイクル当り供給位置および回収位置を4〜16回、好ましくは8〜12回、さらに好ましくは4〜12回シフトして運転する。
【0041】
本発明はさらに、農業廃物、トウモロコシ滓、コムギ藁、大麦藁、カノラ藁、エンバク藁、イネ藁、大豆滓、草、スイッチグラス、ミスカンタス、索草、ヨシ草、森林残渣、スペン木材、おが屑、糖残渣、バガスおよびビートパルプから成る群の中から選択されるフィードストックからセルロース系バイオマスを得る上記定義のプロセス(A)に関するものである。酸は硫酸で、無機塩は硫酸塩(重硫酸塩を含む)あるのが好ましい。浄化された糖流はリグノスルホネート含量量が浄化された糖流の全乾燥固形物の約0〜約4%であることで特徴付けられる。予備処理はスチーム暴露および希釈酸の予備加水分解から成る群の中から選択できる。予備処理段階(a段階)の前にセルロース系バイオマスのフィードストックを圧縮するか、浸出(leach)処理することができる。
【0042】
未変換セルロースはセルラーゼ酵素を用いた酵素処理で加水分解できる。セルラーゼ酵素の供与量は1グラムのセルロース当り約5〜約50IUにすることができる。
【0043】
本発明はさらに、(b)段階の添加段階で添加する一種または複数の塩基が可溶性塩基である上記定義のプロセス(A)に関するものである。この可溶性塩基は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アムモニアおよび水酸化アンモニウムから成る群の中から選択できる。
【0044】
本発明はさらに、マイクロ濾過、プレート/フレーム濾過、クロスフロー濾過、加圧濾過、減圧濾過または遠心分離によって粗糖流から不溶残渣を分離する上記本発明プロセス(A)に関するものである。
【0045】
本発明はさらに、下記(a)〜(h)の段階を有するエタノールの製造プロセス(B)に関するものである:
(a) 農業廃物、トウモロコシ滓、コムギ藁、大麦藁、カノラ藁、エンバク藁、イネ藁、大豆滓、草、スイッチグラス、ミスカンタス、索草、ヨシ草、森林残渣、スペン木材、おが屑、糖残渣、バガスおよびビートパルプから成る群の中から選択されるフィードストックからセルロース系バイオマスを入手し、
(b) 一種または複数の酸をセルロース系バイオマスに加えてセルロース系バイオマスを約2.0〜約0.4のpHで予備処理してセルロースの一部とセルロース系バイオマスのヘミセルロースの少なくとも一部を加水分解してグルコースと、酢酸と、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースおよびこれらの組合せから成る群の中から選択される糖モノマーとから成る予備処理されたセルロース系バイオマスを作り、
(c) 上記の予備処理されたセルロース系バイオマスに一種または複数の塩基を加えて予備処理されたセルロース系バイオマスを約4.0〜約6.0のpHに合わせ、無機塩と酢酸塩とを含む中和されたセルロース系バイオマスを作り、
(d) 中和された上記セルロース系バイオマスをセルラーゼ酵素で加水分解して粗糖流を作り、
(e) 粗糖流から不溶残渣を分離して浄化された糖の流れを作り、
(f) この浄化された糖の流れを約5.0〜約10.0のpHで陽イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィを用いて処理して無機塩と酢酸塩を含む一つまたは複数のラフィネート流と、糖を含む糖製品流とを作り、
(g) 糖製品流と、一つまたは複数のラフィネート流とを回収し、
(h) 糖製品流中の糖を発酵させてエタノールまたは乳酸にする。
【0046】
本発明はさらに、(f)段階の処理段階でのイオン排除クロマトグラフィのpHを約6〜約11で実行する上記定義のプロセス(B)に関するものである。イオン排除クロマトグラフィは約6.5〜約10のpHまたは約6〜約8のpHで実行するのが好ましい。
【0047】
本発明はさらに、(e)段階で得られる浄化された糖流を(f)段階の前または間に、濃縮される上記定義のプロセス(B)に関するものである。(f)段階で得られる糖製品流を濃縮することもできる。
【0048】
(b)段階の予備処理はスチーム暴露および希釈酸の予備加水分解から成る群の中から選択される予備処理にすることができる。酸は硫酸であり、無機塩は硫酸塩(重硫酸塩を含む)であるのが好ましい。セルラーゼ酵素の供与量は1グラムのセルロースに対して約5〜約50IUにすることができる。
【0049】
(e)の段階でマイクロ濾過、プレート/フレーム濾過、カウンターフロー濾過、加圧濾過、減圧濾過または遠心分離で粗糖流から不溶残渣を分離することができる。浄化された糖流はリグノスルホネート含量量が浄化された糖流の全乾燥固形物量の約0〜約4%であることで特徴付けられる。(b)段階の予備処理段階の前にセルロース系バイオマスのフィードストックを圧縮または浸出処理することができる。
【0050】
本発明はさらに、(f)段階の処理段階でのイオン排除クロマトグラフィを上記のSimulated Moving Bed(SMB)システムまたはImproved Simulated Moving Bed(ISMB)システムを用いて実行する上記定義のプロセス(B)に関するものである。イオン排除クロマトグラフィは約6〜約8のpHで実行できる。上記SMBまたはISMBシステムでは1サイクル当り供給位置および回収位置を4〜16回、好ましくは8〜12回、さらに好ましくは4〜12回シフトさせて運転する。
【0051】
本発明はさらに、(g)段階の回収段階で回収したラフィネート流を肥料として回収する上記定義のプロセス(B)に関するものである。
【0052】
本発明はさらに、下記(a)と(b)の段階を有することを特徴とする、セルロース系バイオマスを糖に変換して粗糖流を作り、粗糖流から糖製品流を得るプロセス(C)に関するものである:
(a) イオン排除クロマトグラフィを使用して約5.0〜約10.0のpHで粗糖流を処理して、硫酸塩および酢酸塩を含む一つまたは複数のラフィネート流と糖を含む製品流とを作り、
(b) 糖製品流を得る。
【0053】
本発明はさらに、(b)段階の後に得られる糖製品流中の糖を発酵させられる上記定義のプロセス(C)に関するものである。例えば、糖製品流中の糖を発酵してエタノールまたは乳酸を作る。
【0054】
本発明はさらに、(b)段階で一つまたは複数のラフィネート流を回収する上記定義のプロセス(C)に関するものである。
【0055】
本発明はさらに、(a)段階の処理段階のイオン排除クロマトグラフィを上記Simulated Moving Bed(SMB)システムまたはImproved Simulated Moving Bed(ISMB)システムを用いて実行する上記定義のプロセス(C)に関するものである。
【0056】
本発明はさらに、粗糖流のリグノスルホネートの含量量が粗糖流中に存在する全乾燥固形物の約0〜約10%であることを特徴とする上記定義のプロセス(C)に関するものである。
【0057】
本発明はさらに、セルロース系バイオマスが農業棄物、トウモロコシ滓、コムギ藁、大麦藁、カノラ藁、イネ藁、エンバク藁、大豆滓、草、スイッチグラス、ミスカンタス、索草、ヨシ草、森林残渣、スパン木材、おが屑、糖残渣、バガスおよびビートパルプから成る群の中から選択されるフィードストックから得られる上記定義のプロセス(C)に関するものである。このフィードストックを酸で予備処理してセルロース、セルロースの一部、ヘミセルロース、ヘミセルロースの一部またはこれらの組合せを糖に変換して粗製品流にするのが好ましい。セルロース系バイオマスの予備処理はスチーム暴露、希釈酸の予備加水分解および加圧水から成る群の中から選択される方法で実施することができる。予備処理の前にセルロース系バイオマスのフィードストックを圧縮または浸出処理することができる。
【0058】
不純物を除去することによって糖流をより簡単に発酵させることが可能になる。それによってエタノール、その他の製品の収率を高くすることができる。あるいは、同じ収率をより短時間に達成でき、また、より小型の発酵槽を用いることができる。無機塩、酢酸塩、その他の不純物を回収して、副生成物として販売することができ、それによってプロセスからの収入を増やすことができる。
【0059】
本発明ではイオン排除を従来のバイオマス糖システムに記載の値よりはるかに高いpH範囲で運転することによって、従来法の欠点を克服することができる。すなわち、この高pH範囲では予備処理で生じた酢酸は酢酸塩として存在し、予備処理段階で導入された酸はその塩の形で存在する。例えば、予備処理で硫酸を使用した場合を考える。得られた糖流のpHが増加すると無機硫酸塩の濃度が増加する。他の酸を使用した場合には類似の無機塩が形成される。無機塩および酢酸塩は約5〜10のpH値でカチオン排除樹脂から排除される。その結果、無機塩および酢酸塩は同じpH5〜10で溶出する。従って、無機酸、酢酸およびそれより酸性条件を必要とする糖の回収のための3つの流れを使用する必要が無くなる。その結果、糖の回収が増加し、システムの複雑度が減る。本発明プロセスでの糖の回収率は98.5%で、これは酸性pHで報告されている従来法の92%を大幅に上回る回収率である。
【0060】
すなわち、本発明はリグノセルロースを含むフィードストックの変換時の糖の精製と無機塩および酢酸塩および酸の回収とに大きな利点がある。
【0061】
「課題を解決する手段」の項には本発明の特徴を全ての記載する必要はないであろう。
【0062】
本発明の上記およびその他の特徴は添付の図面を参照した以下の説明からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
本発明は、セルロース系バイオマスから糖製品流れを得る方法、特に、セルロース系バイオマスを酵素変換して得た糖から糖製品流を得る方法に関するものである。
【0064】
以下、本発明の好ましい実施例を説明する。
【0065】
本発明プロセスを用いると、リグノセルロースを含むフィードストックを糖に変換する工程で得られた粗糖流から硫酸、酢酸、塩およびその他の不純物を除去することができる。粗糖流中の不溶残渣を除去して浄化された糖の流れを作り、それを約5.0のpHのアルカリ性pH、例えば約5〜約10のpHまたはこの中間の任意のpHでイオン排除クロマトグラフィにかける。このpH範囲で運転することによって糖は高ビンディングの糖製品流中に回収され、他の不純物は一つまたは複数の低ビンディングのラフィネート流中に回収される。この糖製品流を微生物で発酵させて、エタノール、乳酸、その他の発酵産物を作ることができる。
【0066】
本発明はさらに、後の処理(例えば発酵のフィードストック、成長培地、その他の用途、これらに制限されない)に適した粗糖流の精製プロセスを提供する。このプロセスは下記の工程から成る:
【0067】
(a)一種または複数の酸を約0.4〜約2.0のpHでセルロース系バイオマスに加えることによってセルロース系バイオマスを予備処理してセルロースの一部およびセルロース系バイオマス中のヘミセルロースの少なくとも一部を加水分解して、グルコース、酢酸およびキシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースおよびこれらの組合せから成る群の中から選択される糖モノマーから成る予備処理されたセルロース系バイオマスを作り、
【0068】
(b)予備処理されたセルロース系バイオマスに一種または複数の塩基を加えることによって予備処理されたセルロース系バイオマスを約4.0〜約6.0のpHに調節して無機塩および酢酸塩から成る中和されたセルロース系バイオマスを作り、
【0069】
(c)中和されたセルロース系バイオマスをセルラーゼ酵素で加水分解して粗糖流を作り、
【0070】
(d)粗糖流から不溶残渣を分離して浄化された糖流れを作り、
【0071】
(e)浄化された糖流を約5.0〜約10.0のpHで陽イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィで処理して無機塩および酢酸塩を含む一つまたは複数のラフィネート流と、糖から成る糖製品流とを作り、
(f)糖製品流を回収する。
【0072】
本発明はさらに、下記(a)〜(h)の段階を有するエタノールの製造プロセスを提供する:
(a) 農業廃物、トウモロコシ滓、コムギ藁、大麦藁、カノラ藁、エンバク藁、イネ藁、大豆滓、草、スイッチグラス、ミスカンタス(miscanthus)、索草、ヨシ草、森林残渣、スペン木材、おが屑、糖残渣、バガスおよびビートパルプから成る群の中から選択されるフィードストックからセルロース系バイオマスを入手し、
(b) 一種または複数の酸をセルロース系バイオマスに加えてセルロース系バイオマスを約2.0〜約0.4のpHで予備処理してセルロースの一部とセルロース系バイオマス中のヘミセルロースの少なくとも一部を加水分解してグルコースと、酢酸と、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースおよびこれらの組合せから成る群の中から選択される糖モノマーとから成る予備処理されたセルロース系バイオマスを作り、
(c) 上記の予備処理されたセルロース系バイオマスに一種または複数の塩基を加えて予備処理されたセルロース系バイオマスを約4.0〜約6.0のpHに合わせ、無機塩と酢酸塩とを含む中和されたセルロース系バイオマスを作り、
(d) 中和された上記セルロース系バイオマスをセルラーゼ酵素で加水分解して粗糖流を作り、
(e) 粗糖流から不溶残渣を分離して浄化された糖の流れを作り、
(f) この浄化された糖の流れを約5.0〜約10.0のpHで陽イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィを用いて処理して無機塩と酢酸塩を含む一つまたは複数のラフィネート流と、糖を含む糖製品流とを作り、
(g) 糖製品流と、一つまたは複数のラフィネート流とを回収し、
(h) 糖製品流中の糖を発酵させてエタノールまたは乳酸にする。
【0073】
本発明はさらに、下記(a)と(b)とから成る、セルロース系バイオマスを糖に変換して得られた粗糖流から糖製品流を得るためのプロセスを提供する:
(a)イオン排除クロマトグラフィを使用して約6.0〜約10.0のpHで粗糖流を処理して硫酸塩と酢酸塩とを含む一つまたは複数のラフィネート流と糖から成る製品流とを作り、
(b)糖製品流を得る。
糖製品流中の糖は発酵して例えばエタノールまたは乳酸にする。
【0074】
粗糖流はリグノセルロースを含むフィードストックを加水分解して糖に変換した産物である。「リグノセルロースを含むフィードストック」、「リグノセルロースを含むバイオマス」、「セルロース系バイオマス」または「バイオマスフィードストック」という用語はセルロースを含む任意タイプのバイオマスを意味する。セルロース系バイオマスは全体が植物であるか、その部分か、植物の混合物か、その部分にすることができ、いずれにせよ本発明プロセスの粗糖の供与源である。本発明プロセスは以下を含む各種のバイオマスフィードストックで有効である:
(1)農業廃物、例えばトウモロコシ滓、トウモロコシ繊維、コムギ藁、大麦藁、カノラ藁、エンバク藁、イネ藁および大豆滓、
(2)草、例えばスイッチグラス、ミスカンタス(miscanthus)、索草およびヨシカナリア草、
(3)森林残物、例えばヤマナラシ木材、おが屑、
(4)糖残渣、例えばバガス、ビートパルプ、および
これらの任意の組合せ。
【0075】
セルロース系バイオマスはその量の約20%(w/w)以上、好ましくは約30%(w/w)以上、より好ましくは約40%(w/w)以上、より好ましくは50%(w/w)以上がセルロースである。例えば、リグノセルロース物質はその量の約20%〜約50%(w/w)以上がセルロースから成る。
【0076】
本発明方法で使用される糖の流れはセルロース誘導体フィードストックの変換から得られるものが好ましい。このフィードストックは糖蜜または亜硫酸パルプ廃液から成らないのが好ましい。この糖の流れの中の糖の約80%以上、好ましくは約85%または90%以上がセルロースおよびセルロース誘導体フィードストック中のヘミセルロースの加水分解で得られたものである。例えば、糖の流れの中の糖の80、82、85、87、90、92、95、97または100%はセルロースおよびヘミセルロースに由来するものにすることができる。さらに、バイオマス中のセルロースの少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85または90重量%がグルコースに変換されるのが好ましい。
糖は公知の任意の方法で作ることができる。例えば、フィードストックを酸加水分解して作ることができる(下記文献参照)
【非特許文献6】Brennan et al, Biotech,. Bioeng. Symp. No. 17, 1986(この内容は本明細書の一部を成す)
【0077】
酸加水分解によってセルロースはグルコースに変換され、セルロースの一部はグルコースへ変換され、ヘミセルロースはキシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノースの単糖に変換され、ヘミセルロースの一部はその単糖またはその組合せに変換される。加水分解に使用される酸は硫酸(これに限定されない)を含む公知の適当な任意の酸にすることができる。硫酸は希釈した硫酸をフィードストックの重量の約0.1%〜約5%またはこの間の任意の比率で使うことができる。あるいは、濃縮された形、例えばフィードストックを重量で約30%〜約80%の量またはこの間の比率で酸溶液中に浸して使うこともできる。粗糖流の特徴はそのリグノスルホネート含有量が粗糖流中の全乾燥固形物の10%以下であるのが好ましい。例えば、粗糖流はそのリグノスルホネートの量が粗糖流の全乾燥固形物の約0〜10%であることで特徴付けられる。すなわち、本発明プロセスでは粗糖流の全乾燥固形物の約10, 8, 6, 4, 2, 1または0%が使用される。
【0078】
あるいは、バイオマスフィードストックを予備処理プロセスにかけてヘミセルロース、セルロースの一部、ヘミセルロースの一部またはこれらの任意の組合せを糖に変換し、残ったセルロースをセルラーゼ酵素で酵素加水分解してグルコースに変換することができる。予備処理段階はセルロース系バイオマスのセルラーゼ酵素による加水分解に対する感受性を増加させる。この予備処理でヘミセルロースの少なくとも一部をキシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノースに変換し、セルロースの小部分をグルコースに変換する。残りのセルロースはセルラーゼ酵素を用いた酵素加水分解でグルコースに変換する。この形式の処理の例は下記文献に記載のようなスチーム暴露を含む(この特許の内容は本明細書の一部をなす)。
【特許文献15】米国特許第4,416,648号明細書(Foody)
【0079】
リグノセルロースを含むなフィードストックのための予備処理条件は一般に約170℃〜約260℃またはこの範囲内の任意の温度で約0.1〜約30分間またはこの期間内の任意の時間で、約0.4〜約2.0またはこの間の任意のpHで行なわれる。
本発明を実行するのに適したその他の予備処理プロセスの例は下記文献に記載されている(なお、本発明がこれらに限定されることはなく、下記文献の内容は本願明細書の一部をなす):
【特許文献16】米国特許第5,536,325号明細書
【特許文献17】米国特許第4,237,226号明細書
【非特許文献7】Grethlein, J Appl. Chem. Biotechnoi, 1978, 28:296-308
【0080】
予備処理後、酵素加水分解前に材料のpHを適当な範囲に合わせる。予備処理用の低pHにするためにはフィードストックに酸を添加する必要がある。一般に、この予備処理ではフィードストックの終濃度が約0.02%(w/v)〜約3%(w/v)またはこの間の任意の濃度となるように希釈した酸を添加する。予備処理に使う酸は公知の適当な任意タイプの酸にすることができ、硫酸または燐酸が含まれるがこれらに限定されるものではない。硫酸はコストの面、後の回収の面および硫酸塩の形で肥料として使用できる点で好ましい。「硫酸塩」という用語には同時に存在する重硫酸塩(pHに依存する濃度)が含まれる。
【0081】
セルラーゼ酵素は一般に約4〜6のpH範囲で使用可能(tolerate)である。従って、予備処理されたフィードストックを酵素加水分解の前に中和する。セルラーゼ酵素により有利なpHは例えば約4.5〜約5.0またはこの範囲内の任意の値である。こうしてpH調整し、予備処理したフィードストックをセルラーゼ酵素を用いて酵素加水分解する。
【0082】
「塩基」という用語は水に加えた時にpHが7以上の溶液となる、酵素加水分解で使用される酵素が可溶なpH値に予備処理されたフィードストックを中和する任意の可溶性種を意味する。
【0083】
好ましくは可溶性塩基を使用してpHを調節する。「可溶性塩基」という用語は2O℃での水への溶解度が少なくとも0.1Mである塩基を意味する。この用語はわずかに可溶または溶解しない塩は除かれることを意味する。可溶性塩基の定義から除かれに不溶塩基の例にはCaCO3およびCa(OH)2がある。可溶性塩基の例は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アムモニアおよび水酸化アンモニウムであるが、これらに限定されものではない。
【0084】
「セルラーゼ酵素」、「セルラーゼ」または「酵素」の用語はセルロースの加水分解で触媒作用をして生成物、例えばグルコース、セロビオース、その他のセロオリゴサッカライド(cellooligosaccharides)にする酵素を意味する。セルラーゼはエキソ−セロビオヒドロラーゼ(exo-cellobiohydrolases、CBH)、エンドグルカナーゼ(EG)およびβ−グルコシダーゼ(glucosidases、βG)から成る複数の微生物の複合酵素混合物を表す一般的な用語である。最も広く研究され、特徴付けられ、商業的に生産されているセルラーゼはアスペルギルス属、フミコラ(Humicola)属およびトリコデルマ(Trichoderma)属の菌類から得られるもの、バシラス属およびテルモビフィダ(Thermobiflda)属のバクテリアから得られるものである。非限定実施例で予備処理された上記フィードストックはテルモビフィダ(Thermobiflda)属から得られるセルラーゼ酵素で加水分解できる。
【0085】
セルラーゼ酵素の投与量はフィードストックのセルロースをグルコースに変換できるような量を選択する。例えば、セルラーゼの投与量は1グラムのセルロース当り約5.0〜約50.0のフィルターペーパー単位(Filter Paper Units、FPUまたはIU)またはこの範囲内の任意の量にすることができる。セルラーゼの投与量は例えば約5, 8, 10, 12, 15, 18, 20, 22, 25, 28, 30, 32, 35, 38, 40, 42, 45, 48または50 FPUまたはまたはこの範囲内の任意の量にすることができる。FPUはGhoseが定義した測定法で当業者に周知の標準的な測定値である(下記文献参照)。
【非特許文献8】Pure andAppl. Chem., 1987, 59:257-268
【0086】
予備処理に必要な酸条件は予備処理前にフィードストックから塩を除去することで減らすことができる。塩は洗浄、浸出(リーチング)処理またはこれらの組合せで除去できる。浸出処理の一つの形は下記文献に記載されている(この特許の内容は本明細書の一部を成す)。
【特許文献18】国際特許第WO 02/070753号公報(Griffin et al)
【0087】
このプロセスではフィードストックを少なくとも2分間水と接触させた後、加圧成または濾過によって固形物を水溶相(リーチエート、leachate)から分離する。リーチング後、水溶相はカリウムおよびその他の塩と微量元素とを含む。このプロセスで単にコストを減少させることができるだけでなく、予備処理プロセス中のキシロースの劣化を減らすこともできる。
バイオマスフィードストックの分解で得られる本発明の粗糖流は主成分として水を含む。この粗糖流中に存在する水の量は約40%〜約95%(w/w)またはこの範囲内の任意の量にすることができる。粗糖流は濃度段階で濃縮した約50%〜約85%(w/w)またはこの間の任意の量の水を含むのが好ましい。
【0088】
粗糖流の濃縮は当業者に周知の公知の任意の方法を使用して実行できる。例えば、この濃縮は粗糖流をメンブレン分離、蒸発またはこれらの組合せで処理して実行できる。マイクロ濾過(細孔が0.05〜5ミクロン)で粒子を除去した後に限外濾過(カットオフ500〜2000mw)を実行して可溶性リグニンと他の大きな分子とを除去し、逆浸透で固形物を約12〜約20%またはこの間の任意の濃度に濃縮し、蒸発をさらに行なうことができるが、この方法に限定されるものではない。
【0089】
不溶性化合物はイオン排除クロマトグラフィシステムを汚染するので、糖の流れは不溶化合物を多量に含んでいてはならない。粗糖流から不溶性残渣を除去して浄化された糖の流れを作るための方法は当業者に公知の方法から適宜選択でき、それにはマイクロ濾過、プレート/フレーム濾過、クロスフロー濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心分離が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
浄化された糖の流れはそのリグノスルホネート含有量が浄化された糖の流れの全乾燥固形物量の4%以下であることで特徴付けられるのが好ましい。例えば、浄化された糖の流れはそのリグノスルホネートの量が浄化された糖の流れ全乾燥固形物の約0〜約4%であることで特徴付けることができる。
【0091】
浄化された糖の流れの中の可溶性化合物には単糖、例えばグルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノースとこれら糖のオリゴマ、有機酸の中で特に酢酸、硫酸、乳酸、シュウ酸とその塩、ナトリウム、カルシウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、その他を含むカチオンと、上記と有機酸に加えて珪酸塩、リン酸塩、炭酸塩を含むアニオンが含まれる。浄化された糖の流れの中の固形物少なくとも30wt%は糖から成るのが好ましく、例えば、浄化された糖の流れの固形物は30, 35, 40, 45, 50, 55, 60, 65, 70, 75, 80, 85, 90または95重量%以上の糖を含むのが好ましい。浄化された糖の流れの中の酢酸塩および酢酸塩の最低濃度は約5g/Lであるのが好ましい。浄化された糖の流れ中に存在する他の各種化合物には糖の分解生成物、例えばフルフラールやヒドロキシメチルフルフラールやリグニンから生じる可溶性フェノール化合物が含まれる。さらに、セッケンや脂肪酸のような抽出可能な有機化合物も存在する。
【0092】
以下で更に詳細に説明するように、浄化された糖の流をイオン排除クロマトグラフィで処理して糖とその他の非イオン物質化合物を塩およびその他のイオン化合物から分離する。イオン排除クロマトグラフィは中性〜アルカリ性pHで実行するのが好ましい。例えばpHは約5.0〜約10.0またはこの範囲内の任意のpH値にすることができ、例えば約6.0〜約10.0のpH、約6.5〜約10のpH、約6〜約8のpH、さらには、pHを約5.0, 5.2, 5.5, 5.7, 6.0, 6.2, 6.5, 6.7, 7.0, 7.2, 7.5, 7.7, 8.0, 8.2, 8.5, 8.7, 9.0, 9.2, 9.5, 9.7, 10.0にすることができる。浄化された供給流をこのpH範囲に合わせて所望のpH5〜10の範囲を維持する。浄化された糖の流れのpHを調節するのに適した化学薬品は当業者に周知で、例えば水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アムモニアまたは硫酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
アルカリ性pHで硫酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムから糖を分離する本発明方法は[図2A](実施例1)に示してある。バイオマスの変換で得られる糖の流れ中に存在する酢酸および重硫酸ナトリウムから糖の分離は実施例2の方法でpH3で実行される。[図2B]を参照すると、pH3で糖を重硫酸ナトリウムおよび酢酸から分離するとこの条件下では酢酸が糖生成物と一緒に共溶離し、望ましくない分離性能となる。
【0094】
本発明のイオン排除システムは約2O℃〜9O℃の温度、好ましくは約45℃〜約80℃の温度またはこの間の任意の温度、例えば約6O℃〜約70℃の温度で運転でき、また、約45, 47, 50, 52, 55, 57, 60, 62, 65, 67, 70, 72, 75, 77または80℃で運転できる。
【0095】
イオン排除クロマトグラフィ法では、当業者に周知のように、イオン交換樹脂を充填した一つまたは複数のカラムを使用できる。以下、説明を簡単にするために単一カラムで運転する実施例を説明するが、複数のカラムを使用しても本発明の範囲を逸脱するものではない。イオン交換樹脂は陽イオン交換樹脂である。この樹脂は例えば強陽イオン交換樹脂であるのが好ましく、例としてはポリスチレンを骨格とし、4〜8%のジビニールベンゼン架橋を有するものが挙げられるが、これに限定されるものではない。この樹脂はスルホン酸基を有し、ナトリウム形のものが市場で入手できる。その次に好ましいものは水素形、カリウム形またはアンモニウム形のものである。樹脂の直径は約0.1〜約1.0mmであるのが好ましい。このカチオン交換樹脂はダウ社または三菱化学を含む多くのベンダーから入手可能である。
【0096】
分離を実行する前に、カラムを所望の陽イオン交換形に変換して調製できる。これにはカラムを一定容積の浄化された糖の流れで洗浄する操作が含まれる。この容積をカラム中の樹脂の体積の約2〜5倍の容積にするか、排出される液体のpHが浄化された糖の流れのpHに等しくなるまで洗浄する。あるいは、浄化された糖の流れ中に存在するのに対応するカチオンを含む容積の溶液でカラムを洗浄することでカラムを調製できる。
【0097】
カラムが適当な陽イオン交換形になった段階で、浄化された糖流れ(供給流、feed streamをカラムに流す。例えば、カラム体積の約0.05〜約0.3倍またはこの間の任意の容積の浄化された糖の流れを加える。しかし、これに限定されるものではない。しかし、加える浄化された糖の流れの量を上記と異なる量にすることもできる。カラムの容積および分離法は実験に基づいて当業者が容易に決定できることである。また、液体の速度も当業者が容易に選択でき、例えば、液体の速度はカラム体積の約5%〜約70%またはこの間の任意の比率に対応するように選択できる。しかて、これに限定されるものではない。
【0098】
浄化された糖の流れを加えると、塩中のチャージされたイオンおよびチャージされたその他の化合物は樹脂から排除され、カラムを通って流れる。糖およびその他の非イオン物質はチャージされた樹脂に弾かれず、樹脂の孔の中に進入する。従って、糖およびその他の非イオン性化合物は樹脂に保持され、イオン性化合物よりゆっくりとカラムから溶出する。
【0099】
所望の体積の浄化された糖の流れを注入した後、予め軟化された水の供給に切り替えて多価カチオンの濃度を下げる。イオン性化合物は無機塩(例えばpH調節で使用した塩基の無機塩)と、予備処理で使用した酸の無機塩と、セルロース系バイオマスに起因する酢酸およびその他の有機酸を含む。このイオン性化合物はカラム中を流れ、一つまたは複数の流れとして回収される。この一つまたは複数の流れを「ラフィネート(精製流)」(または一つまたは複数のラフィネート)といい、無機塩および酢酸塩の大部分と、痕跡量の糖とを含む。この一つまたは複数のラフィネートの流れに続いて、セルロース系バイオマスと非イオン性化合物の処理で生じた糖が溶出し、これらは上記の一つまたは複数のラフィネートとは別に回収される。糖製品流(製品流)は大部分の糖を含み、塩およびその他のイオン性成分はほとんど含まない。
【0100】
好ましい実施例ではイオン排除クロマトグラフィは疑似移動ベッド(Simulated Moving Bed、SMB)装置で実行される。このSMBは上記イオン排除システムと同じイオン交換樹脂を収容し、製品流中の糖と非イオン性化合物とを分離し、ラフィネート流中の塩とその他のイオン性化合物とを分離する。同じ供給流に対してSMBはイオン排除システムと同じpHおよび温度で運転される。
【0101】
しかし、SMBシステムでは浄化された糖の流れのフィード位置、希釈水のフィード位置、糖製品の取り出し位置、一つまたは複数のラフィネート流の取り出し位置はそれぞれ別々である。例えば、一つまたは複数のカラムに対して等間隔に配置された4つの流れ位置を使用できる。しかし、これに限定されものではない。これらの位置の順番は任意の供給入口から始めて1)浄化された糖の流れ供給位置、2)ラフィネートの取り出し位置、3)希釈水の供給位置、そして、4)製品の取り出し位置の順にすることができる。単一のカラムを使用する場合には、カラム頂部の出口を底部へ供給して1サイクルを完成する。複数のカラムを使用する場合には、一般に各カラムの出口を次のカラムの入口に連結して、流れのサークルを作る。従って、SMBは単純なカラムイオン排除システムより充分に連続運転できる。複数のラフィネート流を回収する場合には、追加の流れ位置をさらに設けることができる。
【0102】
SMBと単純なカラムイオン排除システムとの他の相違点はSMBが他の全ての流れが補充され並流する再循環流を有する点にある。この再循環流は他の流れとともに糖の流と塩の流れの間の分離を最適化するように慎重に選択する。
【0103】
さらに、SMBシステムでは液体の流れの方向と反対方向に樹脂ベッドが運動することをシミュレーションしている。[図1]を参照すると、このシミュレーション運動は全ベッドのいくらかの画分を4つの流れ位置で定期的にシフトすることによって実行される。例えばSMBシステムを例えば時計状の循環システム10で視覚化した場合、液体20はこのシステム中を反時計回りに流れる。この時計の12時間の位置でSMBの12の帯域を表すことができ、ここでは供給位置30を12時の位置と定めることにする。液体が循環すると、樹脂50との親和性が低いラフィネート40は時計の9時で取り出される。希釈水60は供給速度の約1.0〜約4.0倍の流速で6時に加えられる。好ましい実施例では希釈水は供給流の約1.0〜約1.5倍の流速で添加される。希釈水60を加えた後の高流速下では結合した化合物は結合を維持するのに十分に高い親和性を有しない。これらの化合物は3時の位置にある製品流の取り出し位置70で樹脂50から洗い出される。この製品流の取り出し位置70の後に、相対的に城下された流れが12時の所まで流れ、サイクルが続行される。
【0104】
所定の時間間隔、例えば、10分〜4時間、好ましくは15分〜2時間の間隔で、各流れの位置(流れ位置)を時計周りにシフトしてベッドの移動をシミュレーションする。上記の位置を1時間毎にシストさせた場合、供給30は次に1時の位置になり、製品取り出し位置70は4時の位置になり、希釈水の供給位置は7時の位置、ラフィネートの取り出し位置40は10時の位置になる。このシステムは各位置が1/12時間毎にシフトする。
【0105】
ベッドの各位置は分離が最適化されるような周期および頻度でシフトされ、樹脂に対する糖および塩の親和性、液体の移動速度、切り換え装置のコストに応じて選択される。典型的なSMBでは1サイクルの約1/16〜約1/4だけ位置を回転シフトし、それぞれ約16〜約4つの帯域を規定する。これらの16〜4つの帯域は単一カラムに作ることができる。好ましい実施例では一つのカラムのみが使う。それによって帯域の境界が単純化でき、カラムをオフラインにでき、運転を乱さずに清掃またはメンテナンスを行うことができる。また、例えば約4〜約16台のカラムを使用できるが、これに限定されるものではない。より好ましい実施例では約4〜約8台のカラムが使用される。しかし、カラムの数は必要に応じて調節できる。
【0106】
改良型のSMB(ISMB)システムを使用することもできる。このISMBは例えばEurodia Industrie S.A., Wissous, France; Applexion S.A., Epone, France; またはAmalgamated Research Inc., Twin Falls, Idahoから入手可能である。このISMBシステムでは供給流、希釈水、製品流、ラフィネートまたはこれらの組合せを可変速度にすることができ、一つまたは複数の流れを遮断したり、カラムへの液体の循環を無くしたり、これらの特徴の少なくとも二つを組み合わせたシーケンスにすることができる。本発明はISMB法でもSMB法でも運転できる。
【0107】
イオン排除クロマトグラフィ後に得られる浄化された糖の流れおよび糖製品流の両方の流れは濃縮できる。この浄化された糖の流れおよび糖製品流の濃縮には任意の適当な方法が使用できる。この方法には粗糖の流れの濃縮で記載した上記の方法を利用することができる。
【0108】
イオン排除クロマトグラフィ後に得られた糖製品流は簡単に発酵できる。発酵前に、糖製品流れのpHを約4〜約6に合わせて所望の発酵ができるようにすることができる。発酵前に糖製品流を当業者に周知の蒸発、濾過、その他の方法で濃縮することもできる。
【0109】
好ましい実施例では、糖製品流中の糖をエタノールに発酵する。この発酵はイースト、バクテリアまたは製品流を所望交換効率および収率で発酵できるその他の微生物で実行できる。好ましい実施例では発酵は一般に工業用に設計されたイースト、例えばサッカロミケスまたはピチア(Pichia)や、バクテリア、例えばヘキソース糖グルコース、マンノース、ガラクトースまたはこれらの組合せに加えて、ペントース糖キシロース、アラビノースまたはこれらの組合せを発酵できるザイモモナス菌または大腸菌を用いて実行できるが、これらに限定されるものではない。あるいは、糖製品流中の糖を乳酸に発酵することもできる。糖を発酵してエタノール、乳酸、その他の産物にするこめの条件は当業者に周知である。
【0110】
ラフィネート流中の無機塩は結晶化し、乾燥したり、電気透析でき、また、凝集、造粒して例えば固体肥料にすることもできる。あるいは、無機塩を濃縮して湿ったスラリーにして例えば液体肥料として液体の形で使うこともできる。この無機塩の流れは「リグノセルロースを含むフィードストックの処理での無機塩の回収」と題する本出願人の米国特許出願に記載の方法で処理することができる。この特許出願の内容は本明細書の一部を成す。
【0111】
ラフィネート流中のアンモニウム基、カリウム塩、硫酸塩およびリン酸塩は特に価値がある。ナトリウム塩および亜硫酸塩を含むその他の化合物は肥料としての価値は少ないが、これらの塩をより高い価値のものに変換することができる。例えば当業者に周知の方法でイオン交換を用いてナトリウム塩をアンモニウム塩またはカリウム塩に変換することができる。しかし、これに限定されるものではない。この例ではリグノセルロースを含むフィードストックの処理時に水酸化ナトリウムを使用して硫酸の全てまたは一部を中和し、陽イオン交換樹脂を用いてナトリウムイオンをアンモニウムまたはいるカリウムに交換できる。得られたアンモニウム塩またはカリウム塩は肥料としての価値が高い。さらに、亜硫酸塩を空気、その他の酸化剤、例えば亜硫酸または二酸化硫黄で酸化して硫酸塩に変換することもできる。
【実施例】
【0112】
以下、本発明の実施例を説明する。
実施例1
硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびグルコースのイオン排除分離
【0113】
この実施例ではpH 8でグルコースから酢酸ナトリウムと硫酸ナトリウムの塩を除去する方法としてのイオン排除の有効性を示す。
【0114】
固定床イオン排除カラムに三菱化学の樹脂#UBK530を充填した。カラムを充填する前に135mlの樹脂を1リットルの脱イオン水に懸濁し、沈降させた。上澄みをデカントし、上記手順を3回繰返して見えている微粒子の全てを十分に除去した。第3回目の上澄みをデカント後、樹脂容積の2倍の脱イオン水を樹脂に加え、得られたスラリーを127mlのカラムに注いだ。カラムは加熱水のジャケットを有しているが、樹脂充填中にはジャケットは使用しなかった。カラム頂部はポンプに連結されたゴム栓で密封した。シールが確実に気密であることを確認した。
【0115】
充填したカラムを300mlの脱気した脱イオン水で洗浄した。これによって溶解ガスが除去され、樹脂のチャネリングが最小になる。カラムに付着した気泡がオーバーロードになった時には樹脂をバックウオッシュし、カラムを再充填した。
【0116】
カラムが完全に脱気された後に、加熱水ジャケットに7O℃の水の循環を開始した。水浴の温度が7O℃になるまでカラムを蒸留水で洗浄した。
【0117】
この時点で供給溶液(浄化した糖の流れ)を調製した。この実験で使用した供給溶液は1%の酢酸と、10%の硫酸ナトリウムと、2.5%のグルコース(w/w)とを脱イオン水に溶かし、ION−水酸化ナトリウムでpH 8.0に調節した合成の糖の流れである。ナトリウムイオンの濃度は32.4g/Lであった。この供給溶液の200mlをカラムに1ml/分の流速で供給した。カラムから出で来た液体は回収し、廃棄した。供給溶液中に懸濁固体が形成された場合には、供給溶液を濾過してから供給を再開した。
【0118】
200mlの容積を供給した後、カラムを脱イオン水で洗浄した。溶出液の伝導度を測定し、溶出液の伝導度が水の伝導度と完全に一致した時に洗浄は完全であるとみなした。この時点でカラムベッド上に存在している過剰な水はピペットを用いて除去した。次に、6.4gの重量の供給溶液をベッド頂部に供給し、カラムを元通りに密封した。ポンプを始動させ、水を1ml/分の速度で排出した。カラム底部の栓を開け、4分間で4mlの画分を回収した。水を供給し、画分の回収を続け、30画分を回収した。第30番目の画分を回収した後、次の運転前にカラムを300mlの脱イオン水で洗浄した。一晩貯蔵する間に樹脂が乾燥しないように注意した。
【0119】
得られた画分の硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびグルコースを分析した。酢酸塩の定量を行なうためにサンプルのpHを希硫酸で3〜3.5に調節してからガスクロマトグラフに注射し、酢酸を検出した。
【0120】
溶出の結果は[図2A]に示してある。硫酸ナトリウムと酢酸ナトリウムの溶出は大きく重なり、その後にグルコースの溶出が続く。分離は良好で、グルコース中に塩はほとんどなく、塩中にグルコースはほとんどない。
実施例2(比較例)
pH3での酢酸からのグルコースの分離
【0121】
この実施例はpH3で酢酸ナトリウムおよび重硫酸ナトリウムから糖を分離するのにイオン排除を使用した例を示す。pH3.0でのグルコースから酢酸の分離はこれらの二成分が共溶出するため良くない([図2B]を参照)。本発明方法を使用すると酢酸と糖の分離が良くなる。
【0122】
固定床イオン排除カラムに三菱化学の樹脂#UBK530を充填した。カラムを充填する前に135mlの樹脂を1リットルの脱イオン水に懸濁し、沈降させた。上澄みをデカントし、上記手順を3回繰返して見えている微粒子の全てを十分に除去した。第3回目の上澄みをデカント後、樹脂容積の2倍の脱イオン水を樹脂に加え、得られたスラリーを122mlのカラムに注いだ。カラムは加熱水のジャケットを有しているが、樹脂充填中にはジャケットは使用しなかった。カラム頂部はポンプに連結されたゴム栓で密封した。シールが確実に気密であることを確認した。
【0123】
充填したカラムを300mlの脱気した脱イオン水で洗浄した。これによって溶解ガスが除去され、樹脂のチャネリングが最小になる。カラムに付着した気泡がオーバーロードになった時には樹脂をバックウオッシュし、カラムを再充填した。
【0124】
カラムが完全に脱気された後に、加熱水ジャケットに7O℃の水の循環を開始した。水浴の温度が7O℃になるまでカラムを蒸留水で洗浄した。
【0125】
この時点で樹脂は供給溶液と平衡した。この実験で使用した供給溶液は25g/Lの酢酸と、150g/Lの硫酸と、75g/Lグルコースとを脱イオン水に溶かし、10N−水酸化ナトリウムでpH 3.0に調節した合成の糖の流れである。重硫酸ナトリウムイオンの濃度は約190g/Lであった。この供給溶液の200mlをカラムに1ml/分の流速で供給した。カラムから出で来た液体は回収し、廃棄した。供給溶液中に懸濁固体が形成された場合には供給溶液を濾過してから供給を再開した。重硫酸ナトリウムの濃度は約190g/Lであった。供給溶液の200mlをカラムに1.6ml/分の流速で供給した。カラムから出で来た液体は回収し、廃棄した。供給溶液中に懸濁固体が形成された場合には、供給溶液を濾過してから供給を再開した。
【0126】
200mlの容積を供給した後、カラムを脱イオン水で洗浄した。溶出液の伝導度を測定し、溶出液の伝導度が水の伝導度と完全に一致した時に洗浄は完全であるとみなした。この時点でカラムベッド上に存在している過剰な水はピペットを用いて除去した。次に、6.4gの重量の供給溶液をベッド頂部に供給し、カラムを元通りに密封した。ポンプを始動させ、水を1.6ml/分の速度で排出した。カラム底部の栓を開け、3分間で4.8mlの画分を回収した。水を供給し、画分の回収を続け、30画分を回収した。第30番目の画分を回収した後、次の運転前にカラムを300mlの脱イオン水で洗浄した。一晩貯蔵する間に樹脂が乾燥しないように注意した。
【0127】
得られた画分の重硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびグルコースの乾燥重量を分析した。酢酸塩の定量を行なうためにサンプルのpHを希硫酸で3〜3.5に調節してからガスクロマトグラフに注射し、酢酸を検出した。
【0128】
溶出の結果は[図2B]に示してある。グルコースを回収する前に大部分の重硫酸ナトリウム塩は溶出しているが、重硫酸ナトリウムの一部は共溶出し、グルコースから成るサンプル中に存在している。しかも、グルコースと酢酸との分離も悪く、酢酸のかなりの部分がグルコースと一緒に共溶出している。これはpH3では酢酸がノニオン性を示し、このpHではグルコースから分離するのが難しいためである。これはアルカリ性pH(例えば、pH 8.0、これに限定されるものではない)でのグルコースからの硫酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムの分離が大幅に換算されることを示す実施例1および3とは対照的である。
実施例3
バイオマス糖の溶出
【0129】
バイオマス糖の供給サンプルは特許文献15(米国特許第4,416,648号明細書)に記載の条件でコムギ藁を硫酸で予備処理して製造した。この予備処理ではpHを1.4にし、予備処理したフィードストックは水酸化ナトリウムでpH 5に調節した。中和したセルロース系バイオマスは真菌のトリコデルマ(Trichoderma)から作ったセルラーゼ酵素で酵素加水分解して粗糖流を作った。この粗糖流から主としてリグニンから成る不溶残渣をプレート/フレーム濾過機を用いて分離した。浄化された糖の流れを蒸発して全固形物を44%にした。硫酸ナトリウムおよびカリウムの濃度は109g/L、グルコースの濃度は300のg/L、キシロースの濃度は44g/L、アラビノースの濃度は5.3g/L、酢酸ナトリウムの濃度は10.9g/L(酢酸として計量)で、各種の金属残渣は痕跡であった。この浄化した糖の流れを蒸発し、pHを8に合わせてから実施例1と同じようにカラムに供給し、溶出させた。結果は[図3]に示してある。
【0130】
イオン排除システムで酢酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウムから糖が良く分離している。ほぼ全ての糖が糖の流れの中にあり、ほぼ全ての塩は塩の流れの中にある。この実施例は糖の流れがバイオマス変換プロセスからのものである場合のものであってもよいことを示している。
実施例4
セルロースからの糖の大規模精製と発酵によるエタノールの製造
【0131】
実施例2の手順を用いてセルロースから糖の供給流を調製した。この糖の供給流は145g/Lの硫酸ナトリウムおよびカリウムと、153g/Lグルコースと、49g/Lのキシロースと、7.3g/Lのアラビノースと、9.1g/Lの酢酸ナトリウム(酢酸として計測)と、痕跡量の各種金属と、多量の未確認不純物とを含んでいた。この供給流を2つに分けた。第1の部分は水で1:3に希釈し、発酵じ使用したその濃度は48.4g/Lの硫酸ナトリウムおよびカリウムと、51g/Lのグルコースと、16g/Lのキシロースと、2.6g/Lのアラビノースと、3.1g/Lの酢酸ナトリウムであった。第2の部分は大規模イオン排除クロマトグラフィにかけた。
【0132】
三菱化学の陽イオン交換樹脂(樹脂#UBK530)を充填した6700リットル容積の改良型シュミレーション移動ベッド(Improved Simulated Moving Bed、ISMB)システム(Eurodia Industrie S. A.、Wissous, France、Ameridia, Somerset, New Jersey)を用いてクロマトグラフィを実行した。このISMBシステムは1サイクル当り4つのベッドシフトを行なう4本のカラムから成り、供給流をpH7.5〜8.0に維持して運転した。糖および希釈水の供給時にシステムを7O℃に維持した。糖の流れを毎分4リットルの平均速度で供給し、希釈水は糖の供給量に対して4:1の割合で加えた。製品流とラフィネート流とを回収した。製品流は1.6g/Lの硫酸塩と、66g/Lのグルコースと、22g/Lのキシロースと、3.3g/Lのアラビノースと、0.09g/Lの酢酸塩(酢酸として測定)とを含む。
【0133】
貴社した供給流と製品流とをポンプで発酵槽(液体容積100リットル、全容積200リットル)に供給した。発酵槽にはPurdue Universityから入手した4g/Lのイースト株1400-LNHSTを接種した。この株はグルコースおよびキシロースをエタノールに発酵するめに開発されたものである(米国特許第5,789,210号明細書参照)。未処理流および製品流のエタノール収率を[表1]に示す。
【表1】

【0134】
イオン排除処理された糖の流れはイーストによってほぼ完全に発酵されている。非処理の糖の流れを用いて得られるエタノールの収率が低下する理由は供給流中に存在するインヒビターのためであると考えられるが、この理論に拘束されるものではない。[表1]に示すようにイオン排除処理された流のエタノールの収率は極めて高く、これはおそらくイオン排除処理された流れ中のインヒビターの量が減少したためと考えられる。この実施例はイオン排除処理によって糖の流れが解毒され、酢酸塩が除去され、おそらくその他のインヒビターも除去されたことを示している。
実施例5
pH7でのキシロースから塩の分離
【0135】
ホイート藁を特許文献18(Griffin et al.の国際特許第WO 02/070753号公報)に記載の方法で浸出処理し、無機塩を除去した。この浸出処理したコムギ藁を特許文献15(Foodyの米国特許第4,416,648号明細書)に記載の条件下で硫酸で予備処理してバイオマス糖のフィードストックサンプルを作った。予備処理のpHは1.4にし、その後、水酸化アンモニウムでpHを4.5〜5.0のpH値に調節した。予備処理済みのフィードストックを真菌トリコデルマ(Trichoderma)からのセルラーゼ酵素を用いて酵素加水分解して粗糖流を作った。
【0136】
得られた粗糖流から主としてリグニンから成る未加水分解残渣を分離し、プレート/フレーム濾過機を用いて分離した。濾過後、浄化された糖流を減圧下に65〜75℃の温度で蒸発して固体含有率を3〜4倍に増加させた。濃縮後の加水分解物をプレート/フレーム濾過機で濾過した。浄化された糖の流れ中のグルコースをサッカロミケスセレビシア(cerevisiae)イーストで発酵してエタノールにした。グルコースは簡単に発酵したが、加水分解物中に存在するキシロース糖は発酵が困難である。
【0137】
発酵後、培養液を濾過し、遠心分離でイースト細胞を除去した。次に、水酸化アンモニウムでpHを7.0に合わせた。培養液を蒸留して燃料グレードのエタノールを製造した。蒸留器の蒸留残渣を蒸発して全固形物を13%(w/w)にした。この濃縮蒸留残渣は44g/Lの硫酸ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムと、0.4g/Lのグルコースと、12.1g/Lのキシロースと、0.3g/Lのアラビノースと、9.3g/Lの酢酸と、痕跡量の各種金属とを含んでいる。この蒸留残渣を少量の1M−NaOHでpH7に合わせ、濾過した。濃縮後の蒸留残渣のイオン排除クロマトグラフィを実施例1の方法で実行したが、本実施例では糖の流れを添加する前にカラムに硫酸アンモニウムを流して樹脂をアンモニウム型に変換した。
【0138】
各画分の全固形物含量を測定するために、予め秤量したアルミニウムトレイ上に各画分を1ml置き、乾燥器中で100℃で少なくとも1時間蒸発させた後、トレイを迅速に冷却して再度秤量し、その重量差を体積で割って全溶解固形物濃度(g/L)を求めた。
【0139】
キシロースの測定は、溶解した蒸発残留物を含む各画分のアリクォットを下記文献に記載のDNS(3,5-ジニトロサリチル酸)法を用いて還元糖で分析した。
【非特許文献9】Miller, G.L. Anal. Chem., 1959, 31:426
【0140】
溶出の結果は[図4]に示してある。最初に塩が溶出し、続いてキシロースが溶出する。分離は良好で、塩と一緒に溶出するキシロースはわずかであり、キシロースと一緒に溶出する塩もわずかである。
【0141】
キシロースをエタノールに変換できるイースト株を用いて精製されたキシロースを発酵してエタノールにした。こ株の例は米国特許第5,789,210号明細書(Ho.et al)に記載されている。
【0142】
実施例6
pH5でのキシロースから塩の分離
実施例5と同じ方法を使用してセルロース系バイオマスから糖を作ったが、イオン排除カラムに供給する前に糖の流れをpH5に維持した。
【0143】
硫酸塩の濃度はイオン交換クロマトグラフィで測定し、アンモニウムの濃度は比色アッセイ(colourimetric)で測定した。全固形物は実施例5の方法で測定した。pH5での溶出結果は[図5A]、[図5B]および[図5C]に示してある。
【0144】
[図5A]に示すように、最初に硫酸アンモニウムが溶出し、続いてするキシロースが溶出する。分離は良好で、キシロースピークへの塩のブリード(染み出し)はほとんどなく、硫酸アンモニウム濃度およびキシロース濃度は2つのピークの間でほぼブロに近い。
【0145】
[図5B]は硫酸イオン、アンモニウムイオンおよびpH5での選択パルス試験画分のキシロース含有量を示す。硫酸塩とアムモニアの溶出ピークは重なり、その後にキシロースを含む溶出ピークが続く。
【0146】
[図5C]はpH5での硫酸アンモニウム、キシロースおよび酢酸の溶出量を比較したものである。このpHで「酢酸」は1/3が酸、2/3が酢酸塩である。[図5C]から分かるように、硫酸アンモニウムのピークが終ってから酢酸が溶出するが、キシロースピークへのブリードはない。このキシロースから酢酸の回収は許容範囲内である。実施例2BのpH3で観測されたように、低pHではキシロース流中への酢酸のズリードが大きいことが予想される。
【0147】
本願明細書に引用した全ての引用文献は本明細書の一部を成す。
【0148】
以上、本発明をいくつかの実施例で説明したが、当業者は本発明の精神を逸脱せずに特許請求の範囲を種々の変更し、改良することができるということは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】擬似移動ベッド(Simulated Moving Bed、SMB)システムにおける各帯域と液の流れを示す図。
【図2】各種pH値でイオン排除クロマトグラフィを用いた時のグルコースと硫酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムとの分離を示す図で、[図2A]はpH8での硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびグルコースの溶出状態を示し、[図2B]はpH3での重硫酸ナトリウム、酢酸およびグルコースの溶出状態を示す。
【図3】バイオマス変換で得られた浄化された糖の流れ中の糖(グルコース、キシロースおよびアラビノース)、硫酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムをpH8でイオン排除クロマトグラフィを使用して分離した時の図。
【図4】バイオマス変換で得られたプロセス流をpH7でイオン排除クロマトグラフィを使用した時のキシロースと塩の溶出状態を示す図。
【図5】イオン排除クロマトグラフィを使用してpH5で、バイオマス変換で得られたプロセス流中の塩からキシロースを分離した時の図で、[図5A]は硫酸アンモニウムとキシロースの溶出状態を示し、[図5B]は硫酸イオン、アンモニウムイオンおよびキシロースの溶出状態を示し、[図5C]は硫酸アンモニウム、キシロースおよび酢酸の溶出状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(a)の段階を有するセルロース系バイオマスから糖製品流を得る方法:
(a) セルロース系バイオマスに約0.4〜約2.0のpHで一種または複数の酸を加えてセルロース系バイオマスを予備処理してセルロースの一部およびセルロース系バイオマスの少なくともヘミセルロースの一部を加水分解してグルコースと、酢酸と、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースおよびこれらの組合せから成る群の中から選択される糖モノマーとから成る予備処理されたセルロース系バイオマスを作り、
(b) 上記の予備処理されたセルロース系バイオマスに一種または複数の塩基を加えて上記の予備処理されたセルロース系バイオマスのpHを約4.0〜約6.0に調節して、無機塩と酢酸塩とを含む中和されたセルロース系バイオマスを作り、
(c) 中和されたセルロース系バイオマスをセルラーゼ酵素を用いて加水分解して粗糖製品流を作り、
(d) 粗糖製品から不溶性残渣を分離して浄化された糖流を作り、
(e) 浄化された糖流を約5.0〜約10.0のpHで陽イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィで処理して、無機塩と酢酸塩と糖を含む糖製品流とから成る一種または複数のラフィネート流を作り、
(f) 上記糖製品流を回収する。
【請求項2】
(e)の段階の処理のイオン排除クロマトグラフィを約6〜約10のpHで実行する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(f)の段階の回収後に、糖製品流中の糖を発酵させる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
糖製品流中の糖を発酵させてはエタノールまたは乳酸を生じさせる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
一つまたは複数のラフィネート流を回収する段階をさらに有する請求項2に記載の方法。
【請求項6】
(e)の処理段階でのイオン排除クロマトグラフィをシュミレーテッド移動ベッド(Simulated Moving Bed、SMB)システムまたは改良型シュミレーテッド移動ベッド(Improved Simulated Moving Bed、ISMB)システムを用いて実行する請求項2に記載の方法。
【請求項7】
浄化された糖流中のリグノスルホネート含有量が、浄化された糖流中に存在する全固形物の約0〜約4%である請求項2に記載の方法。
【請求項8】
セルロース系バイオマスが農業廃物、トウモロコシ滓、コムギ藁、大麦藁、カノラ藁、エンバク藁、イネ藁、大豆滓、草、スイッチグラス、ミスカンタス(miscanthus)、索草、ヨシ草、森林残渣、アスペン木材、おが屑、糖残渣、バガスおよびビートパルプから成る群の中から選択されるフィードストックから得られる請求項2に記載の方法。
【請求項9】
酸が硫酸で、無機塩が硫酸塩である請求項2に記載の方法。
【請求項10】
セルラーゼ酵素の投与量がセルロース1グラム当たり約5〜約50IUである請求項2に記載の方法。
【請求項11】
予備処理がスチーム暴露および希釈した酸による予備加水分解(prehydrolysis)から成る群の中から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項12】
(a)段階の予備処理前にセルロース系バイオマスを圧縮または浸出処理(leach)する請求項2に記載の方法。
【請求項13】
1サイクル当たり上記のSMBシステムまたはISMBシステムの操作を供給および回収の位置を4〜16回シフトして行う請求項6に記載の方法。
【請求項14】
1サイクル当たり上記のSMBシステムまたはISMBシステムの操作を供給および回収の位置を4〜12回シフトして行う請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ラフィネート流を肥料として回収する請求項5に記載の方法。
【請求項16】
(b)の段階の添加時の一種または複数の塩基が可溶性塩基である請求項2に記載の方法。
【請求項17】
可溶性塩基が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アムモニアおよび水酸化アンモニウムから成る群の中から選択される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(d)段階の分離時に粗糖流から不溶残渣をマイクロフィルトレーション、プレート/フレーム濾過、クロスフロー濾過、加圧濾過、減圧濾過または遠心分離で分離する請求項2に記載の方法。
【請求項19】
イオン排除クロマトグラフィを約6.5〜約10のpHで実行する請求項2に記載の方法。
【請求項20】
イオン排除クロマトグラフィを約6〜約8のpHで実行する請求項2に記載の方法。
【請求項21】
(d)段階で得られる浄化された糖流を(e)段階の処理前または処理中に濃縮する請求項2に記載の方法。
【請求項22】
(e)段階で得られる糖製品流を濃縮する請求項2に記載の方法。
【請求項23】
(e)段階で、無機塩および酢酸塩を含む一つのラフィネート流を作る請求項2に記載の方法。
【請求項24】
下記(a)〜(h)の段階を有するエタノールの製造方法:
(a) 農業廃物、トウモロコシ滓、コムギ藁、大麦藁、カノラ藁、エンバク藁、イネ藁、大豆滓、草、スイッチグラス、ミスカンタス(miscanthus)、索草、ヨシ草、森林残渣、スペン木材、おが屑、糖残渣、バガスおよびビートパルプから成る群の中から選択されるフィードストックからセルロース系バイオマスを入手し、
(b) 一種または複数の酸をセルロース系バイオマスに加えてセルロース系バイオマスを約2.0〜約0.4のpHで予備処理してセルロースの一部とセルロース系バイオマスのヘミセルロースの少なくとも一部を加水分解してグルコースと、酢酸と、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースおよびこれらの組合せから成る群の中から選択される糖モノマーとから成る予備処理されたセルロース系バイオマスを作り、
(c) 上記の予備処理されたセルロース系バイオマスに一種または複数の塩基を加えて予備処理されたセルロース系バイオマスを約4.0〜約6.0のpHに合わせ、無機塩と酢酸塩とを含む中和されたセルロース系バイオマスを作り、
(d) 中和された上記セルロース系バイオマスをセルラーゼ酵素で加水分解して粗糖流を作り、
(e) 粗糖流から不溶残渣を分離して浄化された糖の流れを作り、
(f) この浄化された糖の流れを約5.0〜約10.0のpHで陽イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィを用いて処理して無機塩と酢酸塩を含む一つまたは複数のラフィネート流と、糖を含む糖製品流とを作り、
(g) 糖製品流と、一つまたは複数のラフィネート流とを回収し、
(h) 糖製品流中の糖を発酵させてエタノールまたは乳酸にする。
【請求項25】
(e)段階のイオン排除クロマトグラフィを約6〜約10のpHで実行する請求項24に記載の方法。
【請求項26】
(d)段階の加水分解でのセルラーゼ酵素の供与量をセルロース1グラム当り約5〜約50IUにする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
(b)段階の予備処理をスチーム暴露および希釈酸の予備加水分解かち成る群の中から選択する請求項25に記載の方法。
【請求項28】
酸が硫酸で、無機塩が硫酸塩である請求項25に記載の方法。
【請求項29】
(e)段階でマイクロ濾過、濾過、クロスフロー濾過、加圧濾過、減圧濾過または遠心分離を用いて不溶性残渣を粗糖流から分離する請求項25に記載の方法。
【請求項30】
(b)の段階の予備処理で、浄化された糖流中に存在するリグノスルホネート含有量が浄化された糖流の全乾燥固形物の約0〜約4%である請求項25に記載の方法。
【請求項31】
(b)段階の予備処理の前にセルロース系バイオマスを圧縮または浸出処理する請求項25に記載の方法。
【請求項32】
(f)段階のイオン排除クロマトグラフィをシュミレーション移動ベッド(Simulated Moving Bed、SMB)システムまたは改良型シュミレーション移動ベッド(Improved Simulated Moving Bed、ISMB)システムを用いて行う請求項25に記載の方法。
【請求項33】
1サイクル当り、SMBシステムまたはISMBシステムを供給および回収の位置を4〜16回シフトして運転する請求項32に記載の方法。
【請求項34】
1サイクル当り、SMBシステムまたはISMBシステムを供給および回収の位置を4〜12回シフトして運転する請求項33に記載の方法。
【請求項35】
(g)段階の回収後にラフィネート流を肥料として回収する請求項25に記載の方法。
【請求項36】
(c)段階で添加する一種または複数の塩基が可溶性塩基である請求項25に記載の方法。
【請求項37】
可溶性塩基を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アムモニアおよび水酸化アンモニウムから成る群の中から選択する請求項36に記載の方法。
【請求項38】
(e)段階のイオン排除クロマトグラフィを約6〜約8のpHで実行する請求項25に記載の方法。
【請求項39】
(e)段階のイオン排除クロマトグラフィを約6〜約10のpHで実行する請求項25に記載の方法。
【請求項40】
(e)段階で得られる浄化された糖流を(f)段階の前または(f)段階中に濃縮する請求項25に記載の方法。
【請求項41】
(f)段階で得られた糖製品流を濃縮する請求項25に記載の方法。
【請求項42】
(f)段階のラフィネート流の一つが無機塩および酢酸塩を含む請求項25に記載の方法。
【請求項43】
セルロース系バイオマスを糖に変換して粗糖流を作り、粗糖流から糖製品流を得る方法において、下記(a)と(b)の段階を有することを特徴とする方法:
(a) イオン排除クロマトグラフィを使用して約5.0〜約10.0のpHで粗糖流を処理して、硫酸塩および酢酸塩を含む一つまたは複数のラフィネート流と糖を含む製品流とを作り、
(b) 糖製品流を得る、
【請求項44】
(b)段階で得られた糖製品流中の糖を発酵させる請求項42に記載の方法。
【請求項45】
糖製品流中の糖を発酵させてエタノールまたは乳酸にする請求項44に記載の方法。
【請求項46】
(b)段階で一つまたは複数のラフィネート流を回収する請求項42に記載の方法。
【請求項47】
(a)段階のイオン排除クロマトグラフィをシュミレーション移動ベッド(Simulated Moving Bed、SMB)システムまたは改良型シュミレーション移動ベッド(Improved Simulated Moving Bed、ISMB)システムを用いて行なう請求項42に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−506370(P2008−506370A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520628(P2007−520628)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【国際出願番号】PCT/CA2005/001098
【国際公開番号】WO2006/007691
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(507013899)イオゲン エナジー コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】