説明

セロトニン誘導体を含むα−グルコシダーゼ阻害剤

【課題】α−グルコシダーゼ阻害用組成物の提供
【解決手段】下記式(I)で表されるセロトニン誘導体を有効成分として含む、α−グルコシダーゼ阻害用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セロトニン誘導体、またはセロトニン誘導体を含有する植物由来の抽出物を含む、α-グルコシダーゼ阻害剤、抗糖尿病薬、抗肥満薬、食品、およびそれらの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
α-グルコシダーゼは、腸管で分泌される二糖類分解酵素である。食物に含まれる糖質は、小腸でブドウ糖等の単糖類に分解されてから吸収される。α-グルコシダーゼは、小腸での糖質の分解に関与するので、α-グルコシダーゼを阻害することで、小腸から血液中へのブドウ糖の吸収の遅延または抑制が可能となる。
糖尿病患者では、食後血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が急上昇することがしばしば見受けられる。α-グルコシダーゼを阻害すれば、小腸から血液中へのブドウ糖の吸収が遅延または抑制されるので、α-グルコシダーゼ阻害剤は、糖尿病患者の食後高血糖の改善に使用されている。
また、α-グルコシダーゼ阻害剤は、糖尿病の発症予防及び心血管イベントの発症の予防に有用であることが報告されている(非特許文献1〜2)。
さらには、α-グルコシダーゼ阻害剤は、肥満、ウイルス疾患に有用であることが報告されている(非特許文献3〜4)。
【0003】
一方、セロトニン誘導体については、ベニ花抽出物に見出されること、そして、LDLの酸化を抑制すること等が報告されている(非特許文献5)。
【非特許文献1】The Lancet, 2009, Volume 373, Issue 9675, Pages 1607-1614
【非特許文献2】Diabetologia (2004) 47:969-975
【非特許文献3】Bioorg. Med. Chem. Lett. 2000, 10, 1081-1084
【非特許文献4】FEBS Lett. 2001, 501, 84-86
【非特許文献5】J. Agric. Food Chem. 2006, 54, 4970-4976
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、α-グルコシダーゼ阻害用組成物、糖尿病治療用または予防用組成物、肥満の治療用または予防用組成物、α-グルコシダーゼ阻害作用が発揮される食品およびそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ベニ花抽出物がα-グルコシダーゼ阻害作用を有することを見出し、さらには、ベニ花抽出物からセロトニン誘導体を単離抽出し、当該セロトニン誘導体がα-グルコシダーゼ阻害作用を発揮することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、ベニ花抽出物を有効成分として含有する、α-グルコシダーゼ阻害用組成物に関する。
【0007】
また、本発明者らは、下記式(I):
【化1】

(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、またはグルコース、マンノース、ガラクトース、フコース、ラムノース、アラビノース、キシロース、フルクトース、ルチノース、ガラクツロン酸、グルクロン酸、およびネオヘスペリドースから選択される糖であり、X、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、OHまたはORであり、Rは、炭素数1〜3のアルキル基である)
のセロトニン誘導体がα-グルコシダーゼ阻害剤として有用であることを見出した。
【0008】
よって、本発明は、式(I)のセロトニン誘導体を含む、α-グルコシダーゼ阻害用組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、ベニ花抽出物を含む、糖尿病の治療用または予防用組成物、肥満の治療用または予防用組成物、心血管イベントの発症抑制用組成物、食品等に関する。さらに、本発明は、式(I)の化合物を含む、糖尿病の治療用または予防用組成物、肥満の治療用または予防用組成物、心血管イベントの発症抑制用組成物、食品等に関する。さらには、本発明は、ベニ花抽出物または、式(I)の化合物を含む組成物または食品の製造方法等に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に関する、植物由来の抽出物またはセロトニン誘導体は、α-グルコシダーゼ阻害剤として有用である。また、本発明に関する、植物由来の抽出物またはセロトニン誘導体は、抗糖尿病薬、抗肥満薬等の医薬および食品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ベニ花オイルケーキからのクマロイルセロトニン(compound 1)およびフェルロイルセロトニン(compound 2)の単離精製の方法および結果を示す図である。
【図2】ベニ花オイルケーキの抽出物のα-グルコシダーゼ阻害活性を示す図である。
【図3】クマロイルセロトニン(compound 1)およびフェルロイルセロトニン(compound 2)のα-グルコシダーゼ阻害活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、第1の実施態様として、ベニ花抽出物を有効成分として含有する、α-グルコシダーゼ阻害用組成物を提供する。ベニ花抽出物の例としては、ベニ花種子抽出物が挙げられる。
【0013】
ベニ花は、キク科植物ベニバナ(学名「Carthamus tinctorius L.」)として知られている。抽出の原料は、限定はされないが、例えば、ベニ花の種子が挙げられ、植物組織そのままでもよく、オイルケーキ(搾油後の脱脂粕)でもよい。オイルケーキは種子を圧搾等の物理的手段で搾油した粕でもよいし、さらに搾油粕をヘキサン等の有機溶剤で脱脂した脱脂粕でもよい。またオイルケーキは圧搾等で粗砕したミール状のものでもよいし、これをさらに細かく粉砕した微粉末状のものでもよい。
抽出方法は、特に限定はされず、抽出に有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒の例としては、親水性有機溶媒、n−ブタノール、酢酸エチル、ジクロロメタンが挙げられる。親水性有機溶媒は、水と混和しうる溶媒であればよく、特に制限されず、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリルが挙げられる。また、親水性有機溶媒には、親水性有機溶媒と水との混合溶媒、例えば、水と低級アルコールの混合溶媒、水とアセトニトリルの混合溶媒も含まれる。
本発明の第1の実施態様に係るベニ花抽出物は、例えば、上記抽出原料を、炭素数1〜4の低級アルコール、酢酸エチルまたはジクロロメタンで抽出することで調製してもよい。また、上記抽出原料を低級アルコールで抽出した抽出物をさらにジクロロメタン、酢酸エチル、ブタノール等の有機溶媒で抽出し、本発明の第1の実施態様に係るベニ花抽出物として調製してもよい。例えば、ベニ花のオイルケーキをメタノールで抽出した抽出物を水に懸濁させ、それにジクロロメタンを加え、ジクロロメタン相を減圧下濃縮して、本発明の第1の実施態様に係るベニ花抽出物を調製してもよい。また、例えば、ベニ花のオイルケーキを水で洗浄し(例えば、10〜40倍量の水で洗浄し)、その後、低級アルコール、アセトン、アセトニトリルまたはそれらの混合溶媒(例えば、オイルケーキの2〜10倍量の低級アルコール、アセトン、アセトニトリルまたはそれらの混合溶媒)で抽出することにより本発明の第1の実施態様に係るベニ花抽出物を調製してもよい。
抽出後、懸濁液をろ過等することにより固形分を分離して得られた溶液を、そのまま、または必要により濃縮、乾燥して本発明のα-グルコシダーゼ阻害用組成物に使用することができる。濃縮、乾燥は固形分を取り除いた抽出液をそのまま濃縮、乾燥してもよく、賦形剤を添加して実施してもよい。さらに純度を上げるために、有機溶媒での更なる抽出、カラム精製等を実施してもよい。
【0014】
本発明は、また、第2の実施態様として、式(I)のセロトニン誘導体を含む、α-グルコシダーゼ阻害用組成物を提供する。
炭素数1〜3のアルキル基の非限定的な例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルが挙げられる。
式(I)で表わされる化合物の非限定的な例には、式(I)でRが水素原子であり、X、XおよびXがそれぞれ独立して水素原子、OHまたはOCHである化合物、Rが水素原子であり、XがOHであり、XおよびXがそれぞれ独立して水素原子、OHまたはOCHである化合物が挙げられ、例えば、下記式(II)のフェルロイルセロトニンおよび下記式(III)のp−クマロイルセロトニン
【化2】

【化3】

が含まれる。
したがって、本発明の第2の実施態様の非限定的な例としては、フェルロイルセロトニンおよび/またはp−クマロイルセロトニンを含むα-グルコシダーゼ阻害用組成物が挙げられる。
式(I)のセロトニン誘導体は、天然物から抽出することにより、また化学的に合成することにより調製することができる。
天然物より式(I)のセロトニン誘導体を調製する場合には、上記の本発明の第1の実施態様で記載したように、ベニ花を有機溶媒にて抽出することにより調製できる。また、ベニ花以外にも、ヤグルマギクをはじめとするキク科植物、クロヒエ、コンニャクイモ等の種子、穀粒または塊茎から、適宜有機溶媒を用いて抽出することもできる。有機溶媒としては、上記本発明の第1の実施態様において記載した有機溶媒を使用できる。
また、式(I)のセロトニン誘導体を化学的に合成する場合は、合成は当業者が適宜実施できる方法によりなされるが、非限定的な例としては、セロトニン(または、セロトニンの水酸基の置換体)と、桂皮酸の誘導体を脱水縮合させアミド結合を形成させることにより調製できる。
例えば、p−クマロイルセロトニンおよびフェルロイルセロトニンについては、以下の方法で合成できるが、これに限定されない。
p−クマロイルセロトニン:セロトニン塩酸塩をジメチルホルムアミドおよびジクロロメタンで溶解後、trans-4-クマル酸、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(HOBt)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]−エチル−カルボキシイミド ヒドロクロリド(EDC)、およびトリエチルアミンを加え、室温で一晩攪拌し反応させる。反応液を減圧濃縮後、酢酸エチルと水を加え、酢酸エチル抽出を行う。3回の酢酸エチル抽出により得られる抽出相を5%クエン酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、および飽和食塩水で順次洗浄後、無水酢酸ナトリウムで脱水する。乾燥剤を除去した抽出液を減圧濃縮し、酢酸エチル−エタノール(10:0.6)にて晶析後、得られる結晶を酢酸エチルで洗浄し、その後乾燥させることにより、p−クマロイルセロトニンを得る。
フェルロイルセロトニン:セロトニン塩酸塩とtrans-4-フェルラ酸より上記p−クマロイルセロトニンと同様の方法で合成できる。ただし、晶析はメタノール−クロロホルム(1:15)にて行うことができる。
【0015】
なお、本明細書においてセロトニン誘導体は、製品化上許容し得る塩であってもよい。このような塩としては、酸付加塩、例えば無機酸付加塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩など)、有機酸付加塩(ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩など)、アミノ酸との塩(アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩など)、金属塩、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)およびアルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)などが挙げられる。
【0016】
α-グルコシダーゼ阻害活性は、公知の方法により、当業者が適宜測定できる。例えば、α-グルコシダーゼ阻害活性はShibano, Mら Chem. Pharm. Bull. 1997, 45, 700-705に記載の方法に従って測定できるが、これに限定されない。
【0017】
本発明は、また、第3の実施態様として、本発明の第1の実施態様にて記載したベニ花抽出物を有効成分として含有する糖尿病治療用または予防用組成物、および、本発明の第2の実施態様にて記載した式(I)のセロトニン誘導体を含む、糖尿病治療用または予防用組成物を提供する。本発明の第3の実施態様の非限定的な例としては、フェルロイルセロトニンおよび/またはp−クマロイルセロトニンを含む、糖尿病治療用または予防用組成物が含まれる。
α-グルコシダーゼ阻害剤は、臨床において、糖尿病の治療薬および/または予防薬として使用されている。具体的には、糖尿病の食後過血糖の改善(治療)および耐糖能異常における2型糖尿病の発症抑制(予防)に使用されている。ここで、糖尿病の食後過血糖の症状は、例えば、糖尿病治療の基本である食事療法・運動療法のみを行っている患者において、薬剤投与の際の食後血糖2時間値が200mg/dL以上を示す場合が挙げられる。耐糖能異常とは、例えば、空腹時血糖が126mg/dL未満かつ75g経口ブドウ糖負荷試験の血糖2時間値が140〜199mg/dLである場合が挙げられる。耐糖能異常における2型糖尿病の発症抑制にα-グルコシダーゼ阻害剤が使用される場合の対象は、糖尿病発症抑制の基本である食事療法・運動療法を3〜6ヶ月間行っても改善されず、かつ高血圧症、脂質異常症(高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症等)、肥満(BMI 25kg/m2以上)、2親等以内に糖尿病家族歴のいずれかを有するヒトが例としてあげられるが、これに限定されない。
よって、上記本発明の第1および2の実施態様に係るα-グルコシダーゼ阻害用組成物は、糖尿病治療用または予防用組成物としても使用できる。糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病、遺伝子の異常やほかの病気が原因となる糖尿病、妊娠糖尿病のいずれであってもよい。そして、臨床において既に使用されているα-グルコシダーゼ阻害剤と同様に、上記本発明の第1および2の実施態様に係るα-グルコシダーゼ阻害用組成物は、糖尿病の食後過血糖の改善用組成物および耐糖能異常における2型糖尿病の発症抑制用組成物として使用することができる。糖尿病の食後過血糖の改善が必要な患者の非限定的な例としては、食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない患者、または食事療法・運動療法に加えて経口血糖低下剤もしくはインスリン製剤を使用している患者で十分な効果が得られない患者が挙げられる。耐糖能異常における2型糖尿病の発症の予防が必要なヒトの非限定的な例としては、WTO判定基準による耐糖能異常を有するヒトが挙げられ、例えば、観察期開始時の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)時における空腹時血糖が125mg/dL以下かつ血糖2時間値が140〜199mg/dLで、以下の(i)〜(iv)のいずれかに該当する者:(i)高血圧症合併または観察期開始時の血圧が正常高値である者;(ii)高脂血症合併;(iii)肥満(BMI25以上);(iv)2親等以内に糖尿病家族歴がある者、が含まれる。
【0018】
本発明は、また、第4の実施態様として、本発明の第1の実施態様にて記載したベニ花抽出物を有効成分として含有する肥満の治療用または予防用組成物、および、本発明の第2の実施態様にて記載した式(I)のセロトニン誘導体を含む、肥満の治療用または予防用組成物を提供する。本発明の第4の実施態様の非限定的な例としては、フェルロイルセロトニンおよび/またはp−クマロイルセロトニンを含む、肥満の治療用または予防用組成物が含まれる。肥満の例としてはBMI 25kg/m2以上、30kg/m2以上、40kg/m2以上が挙げられる。α−グルコシダーゼ阻害剤は、小腸からのブドウ糖の吸収を遅延または抑制することができる。α−グルコシダーゼ阻害剤は抗肥満薬として使用できるので、上記本発明の第1および2の実施態様に係るα-グルコシダーゼ阻害用組成物は、肥満の治療および予防に有効である。
【0019】
本発明は、また、第5の実施態様として、本発明の第1の実施態様にて記載したベニ花抽出物を有効成分として含有する腸管での糖質分解抑制用組成物、および、本発明の第2の実施態様にて記載した式(I)のセロトニン誘導体を含む、腸管での糖質分解抑制用組成物を提供する。本発明の第5の実施態様の非限定的な例としては、フェルロイルセロトニンおよび/またはp−クマロイルセロトニンを含む、腸管での糖質分解抑制用組成物が含まれる。腸管の例としては小腸が挙げられる。α−グルコシダーゼ阻害剤は、小腸で糖質の分解を抑制または遅延して、小腸からのブドウ糖の吸収を抑制または遅延することができるので、上記本発明の第1および2の実施態様に係るα-グルコシダーゼ阻害用組成物は、腸管での糖質分解抑制または遅延用組成物としても使用できる。
【0020】
本発明は、また、第6の実施態様として、本発明の第1の実施態様にて記載したベニ花抽出物を有効成分として含有する心血管イベントの発症抑制用組成物、および、本発明の第2の実施態様にて記載した式(I)のセロトニン誘導体を含む、心血管イベントの発症抑制用組成物を提供する。本発明の第6の実施態様の非限定的な例としては、フェルロイルセロトニンおよび/またはp−クマロイルセロトニンを含む、心血管イベントの発症抑制用組成物が含まれる。心血管イベントの例としては、糖尿病の合併症が含まれ、例えば、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症、虚血再還流障害等)および脳卒中等が挙げられる。臨床で使用されているα-グルコシダーゼ阻害剤が心筋梗塞等の心血管イベントの発症を抑制し、さらには、高血圧への移行を遅延させることが報告されているので、上記本発明の第1および2の実施態様に係るα-グルコシダーゼ阻害用組成物は、心血管イベントの発症抑制用組成物または高血圧予防用組成物としても使用できる。対象となるヒトの例としては、正常人、2型糖尿病発症の前段階にあるヒト、糖尿病患者が挙げられる。2型糖尿病発症の前段階にあるヒトには、例えばWTO判定基準による耐糖能異常を有するヒトが挙げられ、例えば、観察期開始時の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)時における空腹時血糖が125mg/dL以下かつ血糖2時間値が140〜199mg/dLで、以下の(i)〜(iv)のいずれかに該当する者:(i)高血圧症合併または観察期開始時の血圧が正常高値である者;(ii)高脂血症合併;(iii)肥満(BMI25以上);(iv)2親等以内に糖尿病家族歴がある者、が含まれる。
【0021】
本発明は、また、第7の実施態様として、本発明の第1の実施態様にて記載したベニ花抽出物を有効成分として含有するウイルス疾患の治療用または予防用組成物、および、本発明の第2の実施態様にて記載した式(I)のセロトニン誘導体を含む、ウイルス疾患の治療用または予防用組成物を提供する。本発明の第7の実施態様の非限定的な例としては、フェルロイルセロトニンおよび/またはp−クマロイルセロトニンを含む、ウイルス疾患の治療用または予防用組成物が含まれる。α−グルコシダーゼ阻害剤は、広いスペクトルの抗ウイルス剤としてのポテンシャルを有することが報告されているので、上記本発明の第1および2の実施態様に係るα-グルコシダーゼ阻害用組成物は、ウイルス疾患の治療用または予防用組成物としても使用できる。ウイルスの非限定的な例としては、HIVが挙げられる。
【0022】
上記本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物は、さらに、PPARアゴニスト、ジペプチジルペプチターゼIV阻害薬、スルホニル尿素系血糖低下薬、ビグアナイド系インスリン抵抗性改善薬、速効型インスリン分泌促進薬、インスリン、β3アドレナリン受容体アゴニスト、糖尿病性神経障害改善薬、GLP−1類縁体、SGLT阻害薬からなる群から少なくとも1つ選択される薬剤を含み得る。上記薬剤は糖尿病を治療可能な薬剤であり、本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物にさらに含まれることにより、糖尿病、肥満、心血管イベントの発症抑制または高血圧予防に対し、優れた効果が発揮され得る。
【0023】
本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物は、医薬であり得るので、医薬として許容できる担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。医薬として許容できる担体としては、例えば、賦形剤(例えば、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エステル等)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物の摂取または投与方法は、投与対象の年齢、体重、健康状態によって、当業者により適宜選択され得る。例えば、本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物は経口で摂取または投与され得る。
本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物の投与対象は、α-グルコシダーゼを有する動物であれば特に限定されないが、例えば、ヒト、イヌ、ネコ等が含まれる。よって、本発明は、第1〜第7の実施態様の組成物をそれぞれの用途でヒトに投与するための医薬の提供に加えて、本発明の第1〜第7の実施態様の組成物をそれぞれの用途で使用する、イヌ、ネコ等の哺乳動物の動物薬の提供も包含する。
【0024】
本発明は、また、第8の実施態様として、本発明の第1の実施態様にて記載したベニ花抽出物を含有する食品、および、本発明の第2の実施態様にて記載した式(I)のセロトニン誘導体を含む、食品を提供する。本発明の第8の実施態様の非限定的な例としては、フェルロイルセロトニンおよび/またはp−クマロイルセロトニンを含む、食品が挙げられる。
【0025】
上記本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物、第8の実施態様に係る食品に含まれるセロトニン誘導体の量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではない。例えば、ヒトに対する1回の経口投与または摂取当たり、投与または摂取されるセロトニン誘導体の量は(セロトニン誘導体が配糖体の場合は、セロトニン誘導体のアグリコンの量は)0.1〜100mg、0.3〜30mg、1〜20mg、または1〜11mgであり得る。
【0026】
本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物の投与方法、投与回数も本発明の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、例えば、1日3回食事前に経口投与され得る。例えば、p−クマロイルセロトニンの1回の投与量は1〜5mgであり得、例えば、1日3回食事前に経口投与され得る。また、例えば、フェルロイルセロトニンの1回の投与量は3〜11mgであり得、例えば、1日3回食事前に経口投与され得る。
製剤の用量単位(1製剤当たりの式(I)の化合物の用量)は、当業者が適宜設定できる。
【0027】
本発明の第8の実施態様において、例えば、p−クマロイルセロトニンの食事1回の摂取量は1〜5mgであり得る。また、例えば、フェルロイルセロトニンの食事1回の摂取量は3〜11mgであり得る。
よって、本発明の第8の実施態様に係る食品には、1回の食事あたり式(I)の化合物を(式(I)の化合物が配糖体の場合は、そのアグリコンを)、0.1〜100mg、0.3〜30mg、1〜20mgまたは1〜11mg摂取するように設計された食品が挙げられ、例えば、1回の食事あたりp−クマロイルセロトニンを0.3〜30mg、1〜20mgまたは1〜5mg摂取するように設計された食品、1回の食事あたりフェルロイルセロトニンを0.3〜30mg、1〜20mgまたは3〜11mg摂取するように設計された食品が含まれる。
食品は、含まれるセロトニン誘導体がα-グルコシダーゼ阻害作用を発揮するように製造されるものであれば、特に限定されないが、糖類や澱粉質を含む飲食物(チョコレート、キャンディーなどのお菓子、穀物加工品など)、食事中に摂取する飲み物(お茶、アルコール飲料、ソフトドリンク)、ドレッシング、マヨネーズ、ふりかけ、バター等であり得る。また、本発明に係るセロトニン誘導体は、健食目的の錠菓(錠剤)やカプセル、キャンディー等にも含まれ得、サプリメント、特定保健用食品、栄養機能食品等として使用することができる。
また、食後血糖値を上げる食品に、本発明に係るベニ花抽出物、または、式(I)のセロトニン誘導体が利用できる。食後血糖値を上げる食品の例には、砂糖、グルコースおよび/またはデンプンを多く含んだ食品が挙げられる。本発明に係るベニ花抽出物、または、式(I)のセロトニン誘導体は、このような食品に対して、食後血糖値の急上昇を抑制する食品として利用できる。非限定的な例としては、ごはん(米)、小麦粉やデンプンを用いて作るラーメン、やきそば、うどん、パスタ等の麺類、お好み焼き、たこ焼き、パン、またはジャガイモを主原料としてつくるマッシュポテトやサラダ、コロッケ、フレンチフライ、ポテトチップス等が挙げられる。
よって、本発明の第8の実施態様に係る食品の非限定的な例としては、本発明のベニ花抽出物または、式(I)のセロトニン誘導体を含み、砂糖、グルコースおよび/またはデンプンを含んだ食品が挙げられる。
また、本発明の第8の実施態様に係る食品は、本発明の第1〜7の実施態様に記載されている疾患を患っているヒト、または、当該疾患を予防する必要のあるヒト(例えば、糖尿病を発症する危険性の高いヒト、耐糖能異常のヒト等)の食事療法に有用であり、例えば、ダイエット食、糖尿病食として提供可能である。
本発明の第8の実施態様において、食品はヒト用だけに限られず、動物用の飼料も含む。よって、イヌ、ネコなどを対象にするペットフード、ウシ、ブタ、ウマ等を対象とする飼料にも、本発明に係るベニ花抽出物またはセロトニン誘導体を含有させてもよい。本発明に係るベニ花抽出物またはセロトニン誘導体は、糖尿病や肥満の治療や予防を必要とする動物の動物用飼料としても利用できる。
本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物が食品として提供される場合には、本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物は、本発明の第8の実施態様に係る食品であり得る。
【0028】
本発明は、また、上記本発明の第1〜第8の実施態様に係る組成物または食品を製造する方法を提供する。当該組成物または食品に含まれるベニ花抽出物または式(I)のセロトニン誘導体の調製については、上記本発明の第1および第2の実施態様で記載した。当業者であれば、それら記載を基にして、本発明の第1〜第8の実施態様に係る組成物または食品を適宜製造することができる。第8の実施態様に係る食品の製造方法の非限定的な例としては、本発明のベニ花抽出物または、式(I)のセロトニン誘導体を添加する工程を含む、食品を製造する方法が挙げられる。食品の例としては、上記のように、砂糖、グルコースおよび/またはデンプンを含んだ食品が挙げられ、本発明の第1〜7の実施態様に記載されている疾患を患っているヒト、または、当該疾患を予防する必要のあるヒト(例えば、糖尿病を発症する危険性の高いヒト、耐糖能異常のヒト等)の食事療法用の食品、例えば、ダイエット食、糖尿病食等であり得る。
本発明は、本発明の第2の実施態様にて記載した式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする、食品にα−グルコシダーゼ阻害機能またはα−グルコシダーゼ阻害作用に基づく生理機能を付与するために用いられる食品添加剤を提供する。
また、本発明は、本発明の第2の実施態様にて記載した式(1)で表される化合物を添加することを含む、食品にα−グルコシダーゼ阻害機能またはα−グルコシダーゼ阻害作用に基づく生理機能を付与する方法を提供する。
α−グルコシダーゼ阻害作用に基づく生理機能には、本発明の第3〜第7に記載した用途に関わる機能、例えば、糖尿病を治療または予防する機能、肥満を治療または予防する機能、糖質分解を抑制する機能、心血管イベントの発症を抑制する機能、ウイルス疾患を治療または予防する機能が含まれる。
【0029】
本発明は、また、上記本発明の第1〜第7の実施態様に係る組成物を用いた、疾患の治療方法または予防方法を提供する。
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
ベニ花のオイルケーキ1kgをメタノールを用いてソックスレ抽出を行い、メタノール抽出物100gを得た。得られたメタノール抽出物を各種溶媒にて転溶を行い、各転溶部をそれぞれの収量で得た(図1)。
【0032】
α-グルコシダーゼ阻害活性を確認するため各転溶部について、α-グルコシダーゼ阻害活性試験を行った。
阻害試験方法は以下の通り実施した。
各転溶部2mgを1mlのDMSOに溶解し、サンプル試料とした。
サンプル試料25μL, 50mMリン酸緩衝溶液 175μL, 及び0.2 U/mlα-グルコシダーゼ 25μLを96穴のマイクロプレートウェルに添加し、37℃にて5分間、インキュベーションを行った。その後、基質であるp-nitrophenyl-α-D-glucopyranoside 2.5mM溶液を25μL添加し、37℃で10分間インキュベーションをし、波長405nmの吸光度を測定することにより阻害活性値を算出した。
計算式は以下の通りである。
α-グルコシダーゼ 阻害 (%) = (1-B/A)×100
A: サンプル無のコントロールの405nm の吸光度
B: サンプル有の405nm の吸光度

各転溶部のα-グルコシダーゼ(α-glucosidase)阻害活性は表1のようになり、ジクロロメタン(CH2Cl2)転溶部にα-グルコシダーゼ阻害活性が確認された。
【0033】
【表1】

【0034】
さらに、α-グルコシダーゼ阻害活性の確認されたジクロロメタン転溶部をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、3つの分画部をそれぞれの収量で得た(図1)。
各分画部のα-グルコシダーゼ阻害活性試験を行ったところ、図2のようになり、二つの分画部(分画部1及び2)にα-グルコシダーゼ阻害活性が確認された。
このα-グルコシダーゼ阻害活性に由来する化合物を確認するため、シリカゲルカラムクロマトグラフィによって繰り返し精製し、化合物1、2(compound 1、2)を得た(図1)。
【0035】
各種スペクトルデータの結果より、化合物1はクマロイルセロトニン(式III)、化合物2はフェルロイルセロトニン(式II)であることを確認した。
【化4】

【化5】

2種のセロトニン化合物について、α-グルコシダーゼ阻害活性試験を実施したところ、図3のような結果となり、一般的に使用されているα-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース、デオキシノジリマイシンより阻害活性が強いことが確認された。
【0036】
それぞれの50パーセント阻害値(表2)を算出した。アカルボース(acarbose)に対しては
化合物1で20倍、化合物2で10倍の強い阻害活性を示し、デオキシノジリマイシン(deoxynojirimycin)に対しても化合物1で5倍、化合物2で3倍程度の強い阻害活性を有していることが確認された。
【0037】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、α−グルコシダーゼ阻害作用を発揮する化合物が提供される。本発明は、医薬および食品分野への利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、またはグルコース、マンノース、ガラクトース、フコース、ラムノース、アラビノース、キシロース、フルクトース、ルチノース、ガラクツロン酸、グルクロン酸、およびネオヘスペリドースから選択される糖であり、X、XおよびXは、それぞれ独立して、水素原子、OHまたはORであり、Rは、炭素数1〜3のアルキル基である)
で表される化合物を含む、α−グルコシダーゼ阻害用組成物。
【請求項2】
式(I)で表される化合物が、フェルロイルセロトニンまたはp−クマロイルセロトニンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(I)で表される化合物を含む、糖尿病治療用または予防用組成物。
【請求項4】
式(I)で表される化合物を含む、肥満の治療用または予防用組成物。
【請求項5】
式(I)で表される化合物を含む、腸管での糖質分解抑制用組成物。
【請求項6】
ベニ花種子抽出物を含むα−グルコシダーゼ阻害用組成物。
【請求項7】
1〜20mgのセロトニン誘導体が1日3回、食事前に投与されるように設計された請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
式(I)で表される化合物を含むことを特徴とする、食品にα−グルコシダーゼ阻害作用に基づく生理機能を付与するために用いられる食品添加剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−97048(P2012−97048A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247523(P2010−247523)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】