説明

センサ付き転がり軸受装置及び転がり軸受用の荷重測定システム

【課題】コストの低減が可能となるセンサ付き転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】外輪の軌道と転動体との接触面に超音波を入射し当該接触面からの反射波を受信する超音波センサを備え、この超音波センサは、前記反射波のアナログ信号のピーク値に基づいて転動体荷重を演算する制御装置6に接続されている。制御装置6は、前記ピーク値を所定時間だけ維持するピークホールド回路25と、このピークホールド回路25で得られたピークホールド信号P2をデジタル信号P3に変換するA/D変換回路26と、このA/D変換回路26で得られたデジタル信号P3に基づいて転動体荷重を演算する演算部28とを備えている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、センサ付き転がり軸受装置、及び転がり軸受用の荷重測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輪を支持する転がり軸受装置として従来知られているものに、車体側に固定される筒状の固定部材と、この固定部材と同心状にあり車輪が取り付けられる回転部材と、これら固定部材と回転部材との間で転動自在の二列の転動体とを備えているものがある。そして、自動車の走行制御を行うために種々の情報が必要とされており、その情報の一つとして転がり軸受装置に作用する荷重がある。この転がり軸受装置に作用する荷重を求めるために、転がり軸受装置にセンサを設け、このセンサの出力信号から転動体荷重を検出することが提案されている。
このようなセンサとして超音波センサを用いることができ、例えば特許文献1に示しているように、超音波センサを用いて転動体と軌道との間の接触力(転動体荷重)を検出できるものがある。この特許文献1では、転動体と軌道との接触面に超音波を入射するとともにその接触面からの反射波を受信し、この反射波のアナログ信号のピーク値を検出し、予め測定した基準値との比較を行うことにより接触力を検出している。
【0003】
【特許文献1】特許第2581755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記超音波センサで用いられる周波数は例えば5MHz〜20MHzと高周波であるため、反射波のアナログ信号のピーク値をデジタル信号に変換するためには、この高周波に応じた変換速度を有する高速対応のA/Dコンバータが必要となる。このような高速対応のA/Dコンバータは高価であるため、自動車の走行制御のために搭載するセンサ付き転がり軸受装置に高速対応のA/Dコンバータを用いると、コストが高くなる場合がある。
そこで、この発明はコストの低減が可能となるセンサ付き転がり軸受装置、及び転がり軸受用の荷重測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、外周に軌道を有する内輪と、内周に軌道を有する外輪と、これら内外輪の軌道間で転動自在に設けられた転動体と、前記内輪又は外輪の軌道と前記転動体との接触面に超音波を入射し当該接触面からの反射波を受信するセンサ装置とを備えているセンサ付き転がり軸受装置において、前記センサ装置は、前記反射波のアナログ信号のピーク値に基づいて転動体荷重を演算する制御装置に接続され、前記制御装置は、前記アナログ信号のピーク値を所定時間だけ維持するピークホールド回路と、このピークホールド回路で得られたピークホールド信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、このA/D変換回路で得られた前記デジタル信号に基づいて前記転動体荷重を演算する演算部とを備えているものである。
この構成によれば、センサ装置が得た反射波のピーク値に基づいて転動体荷重を演算する処理において、反射波が高周波であっても、ピークホールド回路により当該反射波のアナログ信号のピーク値を所定時間だけ維持できるため、このピークホールド回路で得られたピークホールド信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路を低速対応のものとできる。これにより、高価な高速対応のA/D変換回路ではなく、安価な低速対応のもので処理できる。
【0006】
また、前記センサ付き転がり軸受装置において、前記制御装置は、前記センサ装置の振動子を所定の時間間隔で振動させるパルス発生回路と、このパルス発生回路の作動時点から前記ピークホールド回路の作動時点までの遅延時間を可変に設定することができるディレイ回路とを備えているのが好ましい。
これにより、センサ装置から、軌道と転動体との接触面までの間における超音波の伝播距離に応じて遅延時間を設定できる。これにより、ピークホールド回路はピーク値を正確に維持することができる。
【0007】
また、この発明は、転がり軸受装置を構成する内輪又は外輪の軌道とこれらの軌道間に介在する転動体との接触面に超音波を入射し当該接触面からの反射波を受信するセンサ装置と、前記反射波のアナログ信号のピーク値に基づいて転動体荷重を演算する制御装置とを備えている転がり軸受用の荷重測定システムにおいて、前記制御装置は、前記アナログ信号のピーク値を所定時間だけ維持するピークホールド回路と、このピークホールド回路で得られたピークホールド信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、このA/D変換回路で得られた前記デジタル信号に基づいて前記転動体荷重を演算する演算部とを備えているものである。
この構成によれば、センサ装置が得た反射波のピーク値に基づいて転動体荷重を演算する処理において、反射波が高周波であっても、ピークホールド回路により当該反射波のアナログ信号のピーク値を所定時間だけ維持できるため、このピークホールド回路で得られたピークホールド信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路を低速対応のものとできる。これにより、高価な高速対応のA/D変換回路ではなく、安価な低速対応のもので処理できる。
【0008】
また、前記転がり軸受用の荷重測定システムにおいて、前記制御装置は、前記センサ装置の振動子を所定の時間間隔で振動させるパルス発生回路と、このパルス発生回路の作動時点から前記ピークホールド回路の作動時点までの遅延時間を可変に設定することができるディレイ回路とを備えているのが好ましい。
これにより、軌道と転動体との接触面と、センサ装置との間における超音波の伝播距離に応じて遅延時間を設定できる。これにより、ピークホールド回路はピーク値を正確に維持することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、センサ装置が得た反射波のアナログ信号のピーク値をピークホールド回路によって所定時間だけ維持できるため、このピークホールド回路で得られたピークホールド信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路を、安価な低速対応のものとでき、コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1はこの発明のセンサ付き転がり軸受装置の実施の一形態を示す断面図である。図2はこのセンサ付き転がり軸受装置を軸線C方向から見た図である。このセンサ付き転がり軸受装置(以下、転がり軸受装置とも言う)は、自動車などの車両の車輪を懸架装置に対して回転可能に支持することができるものである。なお、この転がり軸受装置を車体に取り付けた状態で、軸線C方向が車幅方向となる水平左右方向(y軸方向)となり、この軸線Cに直交する水平方向が水平前後方向(x方向)となり、左右方向と前後方向とに直交する方向が上下方向(z方向)となる。すなわち、この転がり軸受装置において、図1に示しているように、左側が車両の内側となり、右側が車両の外側となる。
【0011】
この転がり軸受装置は、車輪(図示せず)が取り付けられるハブ軸2と、このハブ軸2の左右方向内側の一部に外嵌した内輪部材3と、このハブ軸2及び内輪部材3と同軸状に配置され車体側に固定される外輪1と、ハブ軸2及び内輪部材3と外輪1との間に転動自在に介在した二列の転動体としての玉5a,5bとを備えている。
【0012】
ハブ軸2は、軸部2bと、この軸部2bの左右方向外側にあり車輪(図示せず)を取り付けるフランジ部2aとを有している。内輪部材3はハブ軸2の軸部2bの左右方向内側に外嵌固定しており、ハブ軸2と一体回転する。また、内輪部材3は軸部2bの内側端部に螺合させたナット4により抜け止めされている。外輪1は、ハブ軸2の軸部2b及び内輪部材3の径方向外側にあり、車体側に固定される筒状の固定部材である。外輪1の内周面には前記玉5a,5bがそれぞれ転動する内側の第1外輪軌道12a及び外側の第2外輪軌道12bが形成されている。外輪1の外周面には車両の懸架装置(図示せず)に取り付けるための取付フランジ1aが形成されている。そして、外輪1に複数の超音波センサからなるセンサ装置10が取り付けられている。
【0013】
内輪部材3の外周面に、前記第1外輪軌道12aに対向する第1内輪軌道15aが形成されており、ハブ軸2の軸部2bの外側部分の外周面に、前記第2外輪軌道12bに対向する第2内輪軌道15bが形成されている。これにより、第1外輪軌道12aと第1内輪軌道15aとの間に玉5aが介在し、第2外輪軌道12bと第2内輪軌道15bとの間に玉5bが介在し、固定部材である外輪2に対して、ハブ軸2及び内輪部材3は回転自在となる。つまり、内輪部材3及びハブ軸2が外周に軌道を有する回転部材(内輪)となる。
【0014】
センサ装置10の各超音波センサは、外輪1の左右方向内側の第1外輪軌道12aと左右方向内側の玉5aとの間の接触面における状態、及び外輪1の左右方向外側の第2外輪軌道12bと左右方向外側の玉5bとの間の接触面における接触状態を検出するためのものであり、具体的には、各接触面に作用する転動体荷重を検出するためのものである。外輪1の左右方向内外のそれぞれにおいて、超音波センサは周方向で等間隔の四箇所に設けられている。具体的には、左右方向内側の列の玉5aと第一外輪軌道12aとの間における転動体荷重を検出するために、四つの超音波センサ7ti,7bi,7fi,7riが設けられており、左右方向外側の列の玉5bと第二外輪軌道12bとの間における転動体荷重を検出するために四つの超音波センサ7to,7bo,7fo,7roが設けられている。
【0015】
超音波センサ7ti,7toは外輪1の上部にそれぞれ設けられており、検出対象位置を、第1、第2外輪軌道12a,12bのうちの最上位置における玉5a,5bとの接触面としている。超音波センサ7bi,7boは外輪1の下部にそれぞれ設けられており、検出対象位置を、第1、第2外輪軌道12a,12bのうちの最下位置における玉5a,5bとの接触面としている。超音波センサ7fi,7foは外輪1の水平前部にそれぞれ設けられており、検出対象位置を、第1、第2外輪軌道12a,12bのうちの水平前位置における玉5a,5bとの接触面としている。超音波センサ7ri,7roは外輪1の水平後部にそれぞれ設けられており、検出対象位置を、第1、第2外輪軌道12a,12bのうちの水平後位置における玉5a,5bとの接触面としている。
【0016】
これら超音波センサの取付構造はすべてについて同様であり、その代表として、外輪1の上部における超音波センサ7tiの取付部を、図3の断面図により説明する。超音波センサ7tiは、外周に雄ねじ部が形成された筒状のケース8と、このケース8内に設けた振動子(超音波深触子)9とを有している。外輪1にはネジ孔37が形成されており、このネジ孔37にケース8がそのねじ込み量を調整可能として取り付けられている。また、ネジ孔37の底面と超音波センサ7ti(振動子9)との間には緩衝材38が介在している。そして、超音波センサ7tiは、玉5aと第一外輪軌道12aとの接触面に直交する方向を超音波の入射方向としている。
【0017】
そして図1において、センサ装置10の各超音波センサは、信号線を介して例えば車体側のECU等よりなる制御装置6に接続されている。図4は、このセンサ装置10と、当該センサ装置10が接続されている制御装置6とを示すブロック図である。制御装置6は、各超音波センサが受信した反射波を処理し、反射波のピーク値に基づいて転動体荷重を演算することができる。制御手段6は、センサ装置10が受信した信号を処理する信号処理部11と、この信号処理部11で得られた信号に基づいて転動体荷重を演算する演算部28とを備えている。
【0018】
信号処理部11は、車両に搭載したバッテリ(図示せず)の電圧を昇圧(例えば12Vから100Vへ昇圧)する昇圧回路21と、昇圧した電圧によりパルス波を発生するパルス発生回路22とを有している。パルス発生回路22から受けたパルス波によりセンサ装置10の各超音波センサの振動子が励起され、各超音波センサは玉5a,5bと軌道12a,12bとの接触面に超音波を入射し、超音波センサはその接触面からのエコー(反射波)を受信する。さらに、信号処理部11は、超音波センサがエコーを受信して出力したアナログ信号を増幅する増幅回路23と、この増幅回路23で増幅したアナログ信号を正負反転させ得る正負反転回路24と、正負反転させたアナログ信号P1のピーク値(最大エコー振幅)を所定時間だけ維持するピークホールド回路25と、このピークホールド回路25で得られたアナログ信号であるピークホールド信号P2をデジタル信号P3に変換するA/D変換回路26とを備えている。そして、このA/D変換回路26で得られたデジタル信号P3に基づいて、前記演算部28が転動体荷重を演算する。さらに、信号処理部11は、ピークホールド回路25に動作信号を与えるディレイ回路27を備えている。
【0019】
この信号処理部11及び演算部28における信号処理方法及び演算方法について説明する。信号処理部11の機能によりトリガ信号を発し、パルス発生回路22はこのトリガ信号に基づいてパルス波を発生する。パルス発生回路22のパルス波によりセンサ装置10の各超音波センサの振動子を所定の時間間隔で振動させる。そして、各超音波センサは、玉5a,5bと軌道12a,12bとの接触面に超音波を入射し、その接触面からのエコーを受信しアナログ信号を出力する。
【0020】
そして、増幅回路23は超音波センサからのアナログ信号(電圧)を増幅する。正負反転回路24は、増幅回路23で増幅したアナログ信号のうちのピーク値が負の値で得られる場合に、これを正の値に反転する。これは、後の演算部28において得るピーク値の強度である最大エコー強度を正の値とする(絶対値を得る)ためである。なお、ピーク値が正の値で得られる場合は正負反転回路24において正負反転を行わないようにしてもよい。そして、ピークホールド回路25が作動し、ピークホールド回路25は正負反転回路24で得られたアナログ信号P1のピーク値を所定時間だけ維持する。
【0021】
なお、信号処理部11の機能による前記トリガ信号に基づいて、ディレイ回路27は、パルス発生回路22の作動時点、つまりパルス波の発生時点から所定の時間(0.5μsec〜1.0μsec)だけ遅らせて、ピークホールド回路25を作動させる。つまり、ディレイ回路27は、ピークホールド回路25によってピーク値の維持を開始するタイミング(ピークホールドのタイミング)を、超音波センサによる超音波発生から所定の時間だけ遅らせて実行する。なお、前記所定の時間(遅延時間)はパルス発生回路22の作動時点からピークホールド回路25の作動時点までの時間であり、この遅延時間の設定はディレイ回路27において、各超音波センサから軌道12a,12bと玉5a,5bとの接触面までの伝播距離に応じて可変である。これにより、ピークホールド回路25はピーク値を正確に維持する動作が可能となる。
【0022】
このピークホールド回路25は、超音波センサが受信した反射波のデジタル信号のピーク値の電圧を維持する複合コンデンサー(図示せず)と、維持した電圧(ホールド電圧)の減衰を防ぐ抵抗(図示せず)とを有している。図5はピークホールド回路25の機能を説明する説明図であり、(a)はピークホールド回路25を機能させていない比較例であり、(b)はピークホールド回路25を機能させた実施例である。図5において横軸が時間であり、縦軸がエコー強度(電圧)である。図5(a)に示しているように、超音波センサが受信したエコーにより出力したアナログ信号は高周波であり、この高周波のアナログ信号をデジタル信号に変換するためには、高速対応のA/D変換回路が必要となる。しかし、ピークホールド回路25(図4参照)によれば、ピーク値を所定時間について維持してピークホールド信号P2を得ることができることから、図5(b)に示している波形となり、このピークホールド信号P2を低速対応のA/D変換回路26によって処理できる。すなわち、超音波センサのエコーによる受信信号が高周波であっても、その受信信号のピーク値(ピークホールド信号P2)を低速対応のA/D変換回路26によりデジタル信号に変換できる。これにより、高価な高速対応のA/D変換回路を用いる必要が無くなり、安価な低速対応のA/D変換回路26で済み、コストが低減できる。
【0023】
そして、A/D変換回路26により、アナログ信号である前記ピークホールド信号P2をデジタル信号P3である最大エコー強度として得ることができ、これを用いて演算部28において転動体荷重、さらにこれを用いて転がり軸受装置に作用する荷重を求める演算を行う。なお、昇圧回路21、パルス発生回路22、増幅回路23、正負反転回路24、ピークホールド回路25、A/D変換回路26、及びディレイ回路26、並びに、超音波センサは従来知られているものを採用することができる。また、演算部28はCPU、メモリなどを有して演算処理を行うマイコンにより構成できる。
なお、この実施の形態では、制御手段6の信号処理部11及び演算部28をECUとして説明したが、変形例として、図示しないが、転がり軸受装置の固定部材である外輪1側に基板を設け、この基板に制御手段6のうちの信号処理部11を設けてもよく、さらには、この基板に演算部28も設けてもよい。
【0024】
以上のように、各超音波センサがエコーを受信することにより演算部28は最大エコー強度を得ることができ、演算部28において式(1)に示すエコー比を求めることができる。
エコー比=100×(H0−H1)/H0 ・・・(1)
ただし、H0:玉5a,5bが超音波センサから半ピッチ離れたときの最大エコー強度(なお、1ピッチは周方向で隣り合う二つの玉間の周方向距離である)
H1:玉5a,5bが超音波センサの直下に位置するときの最大エコー強度
【0025】
なお、玉5a,5bと軌道12a,12bとの間において作用する荷重が大きい場合、両者の接触面積が大きくなり、エコー(最大エコー強度H1)が小さくなることから大きいエコー比が得られる。そして、このエコー比は転動体荷重と例えば図6に示している関係を有しており、この関係を用いてエコー比から転動体荷重を求めることができる。なお、エコー比と転動体荷重との関係は予め測定することで得られる。走行する車両の速度変化や姿勢変化に伴って、車輪に作用する接地荷重が変動し、この接地荷重に応じて転動体荷重が変化する。さらに、複数の超音波センサを設けた場合、車輪に作用する前後荷重、左右荷重、及び上下荷重の成分ごとにそれぞれ超音波センサへの影響度が異なっている。そこで、予め、転がり軸受装置に前後荷重が作用した場合の転動体荷重及びこれに対応するエコー比、左右荷重が作用した場合の転動体荷重及びこれに対応するエコー比、並びに、上下荷重が作用した場合の転動体荷重及びこれに対応するエコー比を求めておくことにより、各超音波センサで得られたエコー比により転がり軸受装置に作用する荷重の3方向分力を求めることができる。
【0026】
制御手段6の演算部28には、前記エコー比の式、各超音波センサで得られたエコー比からそのセンサ位置の転動体荷重を求める式、これら転動体荷重から転がり軸受装置に作用する荷重(タイヤ接地荷重)の上下方向成分、左右方向成分、前後方向成分を求める式が記憶されており、さらに演算部28は各式に基づいて演算を実行する。
【0027】
演算部28において行われる処理について具体的に説明する。負荷時の転動体荷重と転がり軸受装置に作用する外力(荷重FおよびモーメントM)の関係は、次の式(2)で表せる。
【0028】
f1=a+bFy+cFz+dMx
f2=a+bFy+cFx+dMz
f3=a+bFy−cFz−dMx
f4=a+bFy−cFx−dMz ・・・(2)
f5=a−bFy+cFz−dMx
f6=a−bFy+cFx−dMz
f7=a−bFy−cFz+dMx
f8=a−bFy−cFx+dMz
ただし、
a:転がり軸受装置の予圧による転動体荷重
b,c,d:外力に依存しない係数
Fx,Fy,Fz:荷重の前後方向成分、左右方向成分、上下方向成分
Mx,Mz:x軸回りのモーメント、z軸回りのモーメント
f1〜f8:超音波センサの出力から得られる転動体荷重であり、
f1:上部内側の超音波センサ7tiによるもの
f2:水平後部内側の超音波センサ7riによるもの
f3:下部内側の超音波センサ7biによるもの
f4:水平前部内側の超音波センサ7fiによるもの
f5:上部外側の超音波センサ7toによるもの
f6:水平後部外側の超音波センサ7roによるもの
f7:下部外側の超音波センサ7boによるもの
f8:水平前部外側の超音波センサ7foによるもの
そして、この式(2)の関係を用いることによって、転動体荷重から転がり軸受装置に作用する外力を求めることができる。
【0029】
一方、車輪において、次の式(3)及び式(4)が成立する
Mx=r×Fy+e×Fz ・・・(3)
ただし、r:車輪の転がり半径
e:左右(y軸)方向におけるFzの作用点と転がり軸受装置中心とのずれ
My=r×Fx ・・・(4)
ただし、My:y軸回りのモーメント
【0030】
そして、前記式(2)のf1とf3及び式(3)を用いることにより、左右方向成分Fy及び上下方向成分Fzを求めることができる。すなわち、f1+f3とすることによりFyが求まり、f1−f3とすることにより、FzとMxとが含まれる一次式が得られ、式(3)のうちのFyが求まっていることから、このFyを用いて式(3)においてFzとMxとが含まれる一次式となり、これら二つの一次式を連立させることで、FzとMxとが求まる。
【0031】
このように、2つの超音波センサ7ti,7biにより、車輪に作用する荷重の上下方向成分Fz及び左右方向成分Fy、並びに、付随的にx軸回りのモーメントMxを求めることができる。車輪に作用する荷重の上下方向成分Fz及び左右方向成分Fyは、車両のコーナリング状態を知る上で重要な要素であり、これらを少ない数の超音波センサ(2つの超音波センサ7ti,7bi)により求めることで、コストパフォーマンスの優れたセンサ付き転がり軸受装置を得ることができる。なお、上記において、f1とf3とを用いたが、この組み合わせ以外のものを使用することもできる(例えばf1とf5)。
【0032】
また、f1+f7とすることによりMxを求め、f1−f7とすることによりFy及びFzの一次式を求め、これらと式(4)とを組み合わせることにより、Mx、Fy及びFzを求めることができる。そして、f2−f8とすることにより、Fy及びFxの一次式が求まるため、この一次式に、既に求まっているFyを代入することにより、残るFxを求めることができる。Fxが求まればMxも求まる。また、f2+f8とすることにより、Mzを求めることができる。
【0033】
このように、4つの超音波センサ7ti,7ri,7bo,7foにより、車輪に作用する6分力をすべて求めることができ、コストパフォーマンスに優れたセンサ付き転がり軸受装置を得ることができる。なお、上記においては、f1,f2,f7及びf8を用いたが、この組み合わせ以外のものを使用することもできる(例えば、f1,f2,f3及びf6)。
【0034】
前記式(2)〜式(4)による場合、転がり軸受装置に作用する外力とエコー比との関係を求めるに際して、転動体荷重と外力との相関関係及び転動体荷重とエコー比との相関関係を用いて2段階の演算により求めている。そこで、エコー比と転がり軸受装置に作用する外力との関係を直接求める方法としての式(5)について説明する。これによれば、誤差を小さくすることができる。
【0035】
j1=k+lFy+mFz+nMx
j2=k+lFy+mFx+nMz
j3=k+lFy−mFz−nMx
j4=k+lFy−mFx−nMz ・・・(5)
j5=k−lFy+mFz−nMx
j6=k−lFy+mFx−nMz
j7=k−lFy−mFz+nMx
j8=k−lFy−mFx+nMz
ただし、
k:転がり軸受装置の予圧によるエコー比
l,m,n:外力に依存しない係数
Fx,Fy,Fz:荷重の前後方向成分、左右方向成分、上下方向成分
Mx,My,Mz:x軸、y軸、z軸回りのモーメント
j1〜j8:超音波センサの出力から得られるエコー比であり
j1:上部内側のセンサ7tiの出力によるもの
j2:後部内側のセンサ7riの出力によるもの
j3:下部内側のセンサ7biの出力によるもの
j4:前部内側のセンサ7fiの出力によるもの
j5:上部外側のセンサ7toの出力によるもの
j6:後部外側のセンサ7roの出力によるもの
j7:下部外側のセンサ7boの出力によるもの
j8:前部外側のセンサ7foの出力によるもの
【0036】
この式(5)を用いた6分力の演算方法を説明する。6分力を求めるに際して、上記関係に加えて、車輪において、次の式(6)及び式(7)を用いる。
Mx=r×Fy+e×Fz ・・・(6)
My=r×Fx ・・・(7)
ただし、r:車輪の転がり半径
e:左右(y軸)方向におけるFzの作用点と転がり軸受装置中心とのずれ
【0037】
これら式(6)と式(7)を用い、j1〜j8の式(5)のうちの4式を用いることで、6分力を求めることができる。その一例として、j1,j2,j3及びj6を用いた場合で説明する。
(ステップ1)左右方向成分Fyを求める。式(5)から2つの式j1とj3を選択し、これらの式の加算又は減算(ここでは加算)により、Fz及びMxを消去する。これにより、Fy=(j1+j3−2k)/2が得られる。
(ステップ2)上下方向成分Fzを求める。式(5)のうちの2つの式からFyを消去して得られるFzとMxとの一次式と、式(6)にFyを代入して得られるFzとMxとの一次式とから、Fzを求める。これにより、Fz=(1−nr)j1−(1+nr)j3+2knr/2・l・(m+ne)が得られる。
【0038】
(ステップ3)x軸回りのモーメントMxを求める。ステップ1で得たFy及びステップ2で得たFzを用いてMxを求める。これにより、Mx=rFy+eFzが得られる。
(ステップ4)前後方向成分Fxを求める。式(5)から2つの式j2とj6を選択し、これらの加算又は減算(ここでは加算)により、Fx及びMzを消去する。これにより、Fx=j2+j6−2k/2mが得られる。
【0039】
(ステップ5)y軸回りのモーメントMyを求める。ステップ4で得たFxを用いて、Myを求める。これにより、My=rFxが得られる。
(ステップ6)z軸回りのモーメントMzを求める。式(5)から2つの式j1とj3を選択し、これらの加算又は減算(ここでは減算)により、Fyを消去し、FxとMzの一次式を求めると共に、式(5)から2つの式j2とj6を選択し、これらの加算又は減算(ここでは減算)により、Fyを消去し、FxとMzの一次式を求める。二つの一次式からFxを消去することでMzが求まる。これにより、Mz=−j1+j2−j3−j6+2k/2nが得られる。
以上より、4つの超音波センサ7ti,7ri,7bi,7roにより、車輪に作用する6分力をすべて求めることができる。
【0040】
また、この発明の転がり軸受装置の各実施の形態において、図1と図2に示しているように、固定部材である外輪2の周方向で四箇所に超音波センサが配設されており、これら超音波センサによる検出対象位置のそれぞれが、軌道12a,12bのそれぞれのうちの上位置、下位置、水平前位置、及び水平後位置における玉5a,5bとの接触面としている。これにより、超音波センサのそれぞれの受信信号に基づいて、転がり軸受装置に作用する荷重の3分力(前後方向荷重、左右方向荷重、上下方向荷重)を求めることができる。さらに、転がり軸受装置に作用する荷重のうちの求めたい分力(方向成分)には、他の方向の分力の影響により誤差が生じやすいが、この配置とすることで3方向の分力を精度良く求めることができ、さらに、各軸回りのモーメントについても求めることができる。なお、本発明のセンサ付転がり軸受装置は、前記実施形態に限定されるものではなく、転がり軸受装置について他の形態のものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明のセンサ付き転がり軸受装置の実施の一形態を示す断面図である。
【図2】図1のセンサ付き転がり軸受装置を軸線方向から見た図である。
【図3】外輪の上部における超音波センサの取付部を説明する断面図である。
【図4】センサ装置及び制御手段のブロック図である。
【図5】ピークホールド回路の機能を説明する説明図であり、(a)はピークホールド回路を機能させていない比較例であり、(b)はピークホールド回路を機能させた実施例である。
【図6】エコー比と転動体荷重と関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 外輪
2 ハブ軸(内輪)
3 内輪部材(内輪)
5a 玉(転動体)
5b 玉(転動体)
6 制御手段
7 超音波センサ
10 センサ装置
11 信号処理部
12a 第1外輪軌道
12b 第2外輪軌道
15a 第1内輪軌道
15b 第2内輪軌道
25 ピークホールド回路
28 演算部
C 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に軌道を有する内輪と、内周に軌道を有する外輪と、これら内外輪の軌道間で転動自在に設けられた転動体と、前記内輪又は外輪の軌道と前記転動体との接触面に超音波を入射し当該接触面からの反射波を受信するセンサ装置とを備えているセンサ付き転がり軸受装置において、
前記センサ装置は、前記反射波のアナログ信号のピーク値に基づいて転動体荷重を演算する制御装置に接続され、
前記制御装置は、前記アナログ信号のピーク値を所定時間だけ維持するピークホールド回路と、このピークホールド回路で得られたピークホールド信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、このA/D変換回路で得られた前記デジタル信号に基づいて前記転動体荷重を演算する演算部とを備えていることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記センサ装置の振動子を所定の時間間隔で振動させるパルス発生回路と、このパルス発生回路の作動時点から前記ピークホールド回路の作動時点までの遅延時間を可変に設定することができるディレイ回路とを備えている請求項1に記載のセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項3】
転がり軸受装置を構成する内輪又は外輪の軌道とこれらの軌道間に介在する転動体との接触面に超音波を入射し当該接触面からの反射波を受信するセンサ装置と、前記反射波のアナログ信号のピーク値に基づいて転動体荷重を演算する制御装置とを備えている転がり軸受用の荷重測定システムにおいて、
前記制御装置は、前記アナログ信号のピーク値を所定時間だけ維持するピークホールド回路と、このピークホールド回路で得られたピークホールド信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、このA/D変換回路で得られた前記デジタル信号に基づいて前記転動体荷重を演算する演算部と、前記センサ装置の振動子を所定の時間間隔で振動させるパルス発生回路と、このパルス発生回路の作動時点から前記ピークホールド回路の作動時点までの遅延時間を可変に設定することができるディレイ回路とを備えていることを特徴とする転がり軸受用の荷重測定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−51741(P2008−51741A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230347(P2006−230347)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】