説明

センサ付車輪用軸受

【課題】 転動体の影響を受けることなく、車輪にかかる荷重を正確に検出できるセンサ付車輪用軸受を提供する。
【解決手段】 車輪用軸受は、外方部材1と内方部材2の対向し合う複列の転走面3,4間に転動体5を介在させたものである。外方部材1と内方部材2のうちの固定側部材に、1つ以上のセンサユニット20を設ける。センサユニット20は、固定側部材に接触して固定される2つ以上の接触固定部21aを有する歪み発生部材21と、この歪み発生部材21に取付けられて歪み発生部材の歪みを検出する2つ以上のセンサ22A,22Bとでなる。2つ以上の接触固定部21aは、固定側部材の外径面の同一軸方向位置でかつ円周方向に離間して配置する。2つ以上のセンサ22A,22Bの出力信号A,Bの和により、車輪用軸受に作用する荷重を推定する推定手段30を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各車輪にかかる荷重を検出する技術として、車輪用軸受の固定輪である外輪のフランジ部外径面の歪みを検出することにより荷重を検出するセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。また、車輪用軸受の外輪に歪みゲージを貼り付け、歪みを検出するようにした車輪用軸受も提案されている(例えば特許文献2)。
【0003】
さらに、歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けた歪みセンサからなるセンサユニットを軸受の固定輪に取付け、前記歪み発生部材は、前記固定輪に対して少なくとも2箇所の接触固定部を有し、隣り合う接触固定部の間で少なくとも1箇所に切欠き部を有し、この切欠き部に前記歪みセンサを配置したセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献3)。
【0004】
特許文献3に開示のセンサ付車輪用軸受によると、車両走行に伴い回転輪に荷重が加わったとき、転動体を介して固定輪が変形するので、その変形がセンサユニットに歪みをもたらす。センサユニットに設けられた歪みセンサは、センサユニットの歪みを検出する。歪みと荷重の関係を予め実験やシミュレーションで求めておけば、歪みセンサの出力から車輪にかかる荷重等を検出することができる。
【特許文献1】特開2002−098138号公報
【特許文献2】特表2003−530565号公報
【特許文献3】特開2007−57299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の技術では、固定輪のフランジ部の変形により発生する歪みを検出している。しかし、固定輪のフランジ部の変形には、フランジ面とナックル面の間に、静止摩擦力を超える力が作用した場合に滑りが伴うため、繰返し荷重を印加すると、出力信号にヒステリシスが発生するといった問題がある。
例えば、車輪用軸受に対してある方向の荷重が大きくなる場合、固定輪フランジ面とナックル面の間は、最初は荷重よりも静止摩擦力の方が大きいため滑らないが、ある大きさを超えると静止摩擦力に打ち勝って滑るようになる。その状態で荷重を小さくしていくと、やはり最初は静止摩擦力により滑らないが、ある大きさになると滑るようになる。その結果、この変形が生じる部分で荷重を推定しようとすると、出力信号にヒステリシスが生じる。ヒステリシスが生じると、検出分解能が低下する。
特許文献2のように外輪に歪みゲージを貼り付けるのでは、組立性に問題がある。
特許文献3に開示のセンサ付車輪用軸受では、車輪用軸受の転動体がセンサユニットの設置部の近傍を通過する毎にセンサユニットの出力信号の振幅が大きくなる。すなわち、センサユニットの出力信号が転動体の影響を受けた周期的な波形となり、荷重を精度良く検出できない。
【0006】
この発明の目的は、転動体の影響を受けることなく、車輪用軸受やタイヤ接地面に作用する荷重を正確に検出できるセンサ付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の構成にかかるセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に、この固定側部材に接触して固定される2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つ以上のセンサからなる1つ以上の荷重検出用センサユニットを設けてなるセンサ付車輪用軸受であって、前記2つ以上の接触固定部を、前記固定側部材の外径面の同一軸方向位置でかつ円周方向に互いに離間した位置となるように配置し、前記2つ以上のセンサの出力信号の和により、車輪用軸受に作用する荷重を推定する推定手段を設けたことを特徴とする。
車輪用軸受や、車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材(例えば外方部材)にも荷重が印加されて変形が生じ、その変形からセンサユニットが荷重を検出する。センサユニットの2つ以上のセンサの出力信号は、そのままでは転動体の通過の影響を受けるが、推定手段はこれらセンサの出力信号の和から、車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )を推定するものとしているので、2つ以上のセンサの各出力信号に現れる転動体の位置の影響を相殺することができる。また、ローパスフィルタが不要なため、応答速度が向上する。これにより、転動体の影響を受けることなく、しかも停止時においても、車輪用軸受や、車輪のタイヤと路面間に作用する荷重(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )を精度良く検出できる。
【0008】
この発明において、前記2つ以上の接触固定部のうち、前記固定側部材の外径面の円周方向配列の両端に位置する2つの接触固定部の間隔を、転動体の配列ピッチと同一としても良い。
この構成の場合、前記2つの接触固定部の中間位置に例えば2つのセンサが配置されていれば、これら両センサの間での前記円周方向の間隔は、転動体の配列ピッチの略1/2となる。その結果、両センサの出力信号は略180度の位相差を有することになり、その平均値は転動体の位置の影響を十分相殺した値となる。これにより、推定手段によって推定される車輪用軸受や車輪と路面間に作用する力は、転動体の位置の影響をより確実に排除した正確なものとなる。
【0009】
この発明において、前記2つ以上のセンサにおける隣り合うセンサ間の前記固定側部材の外径面の円周方向についての間隔を、転動体の配列ピッチの1/2+n(n:整数)またはこれらの値に近似した値としても良い。
2つのセンサの間での前記円周方向の間隔が、転動体の配列ピッチPの1/2であると、それらセンサの出力信号は180度の位相差を有することになり、その平均値は、転動体の位置の影響を完全に相殺した値となる。これにより、推定手段によって推定される車輪用軸受や車輪と路面間に作用する力は、転動体の位置の影響をより確実に排除した正確なものとなる。
【0010】
この発明において、前記センサユニットは3つの接触固定部と2つのセンサを有し、隣り合う第1および第2の接触固定部の間、および隣り合う第2および第3の接触固定部の間に各センサをそれぞれ取付けても良い。
この構成の場合、両端に位置する2つの接触固定部(第1の接触固定部と第3の接触固定部)の間での前記円周方向の間隔を、転動体の配列ピッチと同一とすると、隣り合う2つのセンサ間での前記円周方向の間隔は転動体の配列ピッチの1/2となる。これにより、推定手段によって推定される車輪用軸受や車輪と路面間に作用する力は、転動体の位置の影響を排除した正確なものとなる。
【0011】
この発明において、隣り合う接触固定部または隣り合うセンサの前記固定側部材の外径面の円周方向についての間隔を、転動体の配列ピッチの1/2+n(n:整数)またはこれらの値に近似した値としても良い。この構成の場合も、各センサの出力信号の和により、転動体の位置の影響を排除できる。
【0012】
この発明において、前記歪み発生部材は、平面概形が均一幅の帯状、または平面概形が帯状で側辺部に切欠き部を有する薄板材からなるものとしても良い。
このように、平面概形が均一幅の帯状である薄板材で歪み発生部材を構成した場合、歪み発生部材をコンパクトで低コストなものとできる。
【0013】
この発明において、前記センサユニットを、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる前記固定側部材の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に配置しても良い。この構成の場合、複数方向の荷重を推定することができる。すなわち、固定側部材の外径面における上面部と下面部に配置される2個のセンサユニットの出力信号から垂直方向荷重Fz と軸方向荷重Fy を推定でき、固定側部材の外径面における右面部と左面部に配置される2個のセンサユニットの出力信号から駆動力や制動力による荷重Fx を推定することができる。
【0014】
この発明の第2の構成にかかるセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に、この固定側部材に接触して固定される3つの接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つのセンサからなる1つ以上の荷重検出用センサユニットを設けてなるセンサ付車輪用軸受であって、前記3つの接触固定部を、前記固定側部材の外径面の同一軸方向位置でかつ円周方向に互いに離間した位置となるように配置し、隣り合う前記接触固定部の間隔または隣り合う前記センサの前記固定側部材の外径面の円周方向についての間隔を、転動体の配列ピッチの1/2+n(n:整数)またはこれらの値に近似した値とし、前記2つのセンサの出力信号の和により、車輪用軸受に作用する荷重を推定する推定手段を設けたことを特徴とする。
この構成によると、2つのセンサの出力信号の和により、転動体の位置の影響が相殺されるので、転動体の影響を受けることなく、しかも停止時においても、車輪用軸受や、車輪のタイヤと路面間に作用する荷重を精度良く検出できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の第1の構成にかかるセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に、この固定側部材に接触して固定される2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つ以上のセンサからなる1つ以上の荷重検出用センサユニットを設けてなるセンサ付車輪用軸受であって、前記2つ以上の接触固定部を、前記固定側部材の外径面の同一軸方向位置でかつ円周方向に互いに離間した位置となるように配置し、前記2つ以上のセンサの出力信号の和により、車輪用軸受に作用する荷重を推定する推定手段を設けたため、転動体の影響を受けることなく、しかも停止時においても、車輪用軸受やタイヤ接地面に作用する荷重を正確に検出することができる。
この発明の第2の構成にかかるセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に、この固定側部材に接触して固定される3つの接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つのセンサからなる1つ以上の荷重検出用センサユニットを設けてなるセンサ付車輪用軸受であって、前記3つの接触固定部を、前記固定側部材の外径面の同一軸方向位置でかつ円周方向に互いに離間した位置となるように配置し、隣り合う前記接触固定部の間隔または隣り合う前記センサの前記固定側部材の外径面の円周方向についての間隔を、転動体の配列ピッチの1/2+n(n:整数)またはこれらの値に近似した値とし、前記2つのセンサの出力信号の和により、車輪用軸受に作用する荷重を推定する推定手段を設けたため、転動体の影響を受けることなく、しかも停止時においても、車輪用軸受やタイヤ接地面に作用する荷重を正確に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の一実施形態を図1ないし図9と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0017】
このセンサ付車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を外周に形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0018】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには周方向複数箇所にナックル取付用のボルト孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト18を前記ボルト孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0019】
図2は、この車輪用軸受の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。なお、図1は、図2におけるI−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、図2のように、各ボルト孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。
【0020】
固定側部材である外方部材1の外径面には、4個のセンサユニット20が設けられている。ここでは、これらのセンサユニット20が、タイヤ接地面に対して上下位置および前後位置となる外方部材1の外径面における上面部、下面部、右面部、および左面部に設けられている。
【0021】
これらのセンサユニット20は、図3および図4に拡大平面図および拡大断面図で示すように、歪み発生部材21と、この歪み発生部材21に取付けられて歪み発生部材21の歪みを検出する2つ以上(ここでは2つ)の歪みセンサ22とでなる。歪み発生部材21は、鋼材等の弾性変形可能な金属製で3mm以下の薄板材からなり、平面概形が全長にわたり均一幅の帯状で両側辺部に切欠き部21bを有する。切欠き部21bの隅部は断面円弧状とされている。また、歪み発生部材21は、外方部材1の外径面にスペーサ23を介して接触固定される2つ以上(ここでは3つ)の接触固定部21aを有する。3つの接触固定部21aは、歪み発生部材21の長手方向に向け1列に並べて配置される。2つの歪みセンサ22は、歪み発生部材21における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。具体的には、歪み発生部材21の外面側で隣り合う接触固定部21aの間に配置される。つまり、図4において、左端の接触固定部21aと中央の接触固定部21aとの間に1つの歪みセンサ22Aが配置され、中央の接触固定部21aと右端の接触固定部21aとの間に他の1つの歪みセンサ22Bが配置される。切欠き部21bは、図3のように、歪み発生部材21の両側辺部における前記歪みセンサ22の配置部に対応する2箇所の位置にそれぞれ形成されている。これにより、歪みセンサ22は歪み発生部材21の切欠き部21b周辺における長手方向の歪みを検出する。なお、歪み発生部材21は、固定側部材である外方部材1に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。塑性変形が生じると、外方部材1の変形がセンサユニット20に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすからである。
【0022】
前記センサユニット20は、その歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが、外方部材1の軸方向に同寸法の位置で、かつ各接触固定部21aが互いに円周方向に離れた位置に来るように配置され、これら接触固定部21aがそれぞれスペーサ23を介してボルト24により外方部材1の外径面に固定される。前記各ボルト24は、それぞれ接触固定部21aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔25からスペーサ23のボルト挿通孔26に挿通し、外方部材1の外周部に設けられたボルト孔27に螺合させる。このように、スペーサ23を介して外方部材1の外径面に接触固定部21aを固定することにより、薄板状である歪み発生部材21における切欠き部21bを有する各部位が外方部材1の外径面から離れた状態となり、切欠き部21bの周辺の歪み変形が容易となる。接触固定部21aが配置される軸方向位置として、ここでは外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置が選ばれる。ここでいうアウトボード側列の転走面3の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面3の中間位置からアウトボード側列の転走面3の形成部までの範囲である。外方部材1の外径面へセンサユニット20を安定良く固定する上で、外方部材1の外径面における前記スペーサ23が接触固定される箇所には平坦部1bが形成される。
【0023】
このほか、図5に断面図で示すように、外方部材1の外径面における前記歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが固定される3箇所の各中間部に溝1cを設けることで、前記スペーサ23を省略し、歪み発生部材21における切欠き部21bが位置する各部位を外方部材1の外径面から離すようにしても良い。
【0024】
歪みセンサ22としては、種々のものを使用することができる。例えば、歪みセンサ22を金属箔ストレインゲージで構成することができる。その場合、通常、歪み発生部材21に対しては接着による固定が行なわれる。また、歪みセンサ22を歪み発生部材21上に厚膜抵抗体にて形成することもできる。
【0025】
各センサユニット20の2つの歪みセンサ22は推定手段30に接続される。推定手段30は、センサユニット20の2つの歪みセンサ22の出力信号の和から、車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )を推定する手段である。この推定手段30は、前記垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy と、2つの歪みセンサ22の出力信号の和との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、2つの歪みセンサ22の出力信号の和から前記関係設定手段を用いて作用力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )を推定する。前記関係設定手段の設定内容は、予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。
【0026】
センサユニット20は、外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に設けられるので、歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bは、図6のようにセンサユニット20の設置部の近傍を通過する転動体5の影響を受ける。また、軸受の停止時においても、歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bは、転動体5の位置の影響を受ける。すなわち、転動体5がセンサユニット20における歪みセンサ22A,22Bに最も近い位置を通過するとき(または、その位置に転動体5があるとき)、歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bの振幅は最大値となり、図6(A),(B)のように転動体5がその位置から遠ざかるにつれて(または、その位置から離れた位置に転動体5があるとき)低下する。軸受回転時には、転動体5は所定の配列ピッチPで前記センサユニット20の設置部の近傍を順次通過するので、歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bは、その振幅が転動体5の配列ピッチPを周期として図6(C)に実線で示すように周期的に変化する正弦波に近い波形となる。
【0027】
この実施形態では、前記2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bの和から、推定手段30が車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )を推定するものとしているので、2つの歪みセンサ22A,22Bの各出力信号A,Bに現れる転動体5の位置の影響を相殺することができ、これにより車輪用軸受やタイヤ接地面に作用する荷重を正確に検出することができる。
【0028】
センサユニット20として、図5の構成例のものを示す図6においては、固定側部材である外方部材1の外径面の円周方向に並ぶ3つの接触固定部21aのうち、その配列の両端に位置する2つの接触固定部21aの間隔を、転動体5の配列ピッチPと同一に設定している。この場合、隣り合う接触固定部21aの中間位置にそれぞれ配置される2つの歪みセンサ22A,22Bの間での前記円周方向の間隔は、転動体5の配列ピッチPの略1/2となる。その結果、2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bは略180度の位相差を有することになり、その平均値(A+B)/2は、図6(C)に鎖線で示すように転動体5の位置の影響を十分相殺した値となる。これにより、2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bの和から、推定手段30によって推定される車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )は、転動体5の位置の影響をより確実に排除した正確なものとなる。
【0029】
図7には、図5の構成例のセンサユニット20において、2つの歪みセンサ22A,22Bの間での前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの1/2に設定した例を示している。この例では、2つの歪みセンサ22A,22Bの間での前記円周方向の間隔が、転動体5の配列ピッチPの1/2とされるので、2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bは180度の位相差を有することになり、その平均値(A+B)/2は、図7(C)に鎖線で示すように転動体5の位置の影響を完全に相殺した値となる。これにより、推定手段30によって推定される車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )から、転動体5の位置の影響をより確実に排除することができる。
なお、この場合に、2つの歪みセンサ22A,22Bの前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの1/2+n(n:整数)、またはこれらの値に近似した値としても良い。この場合にも、両歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bの平均値(A+B)/2は、転動体5の位置の影響を相殺した値となる。
【0030】
図8には、センサユニット20として、図5の構成例のものにおいて、中間位置の接触固定部21aを省略して、接触固定部21aを2つとした構成例(図8(A))の場合を示している。この場合、図6の例の場合と同様に、2つの接触固定部21aの間隔を、転動体5の配列ピッチPと同一に設定している。これにより、2つの接触固定部21aの間に配置される2つの歪みセンサ22A,22Bの間での前記円周方向の間隔は、転動体5の配列ピッチPの略1/2となる。その結果、2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bは略180度の位相差を有することになり、その平均値(A+B)/2は、図8(C)に鎖線で示すように転動体5の位置の影響を十分相殺した値となる。これにより、2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bの和から、推定手段30によって推定される車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )は、転動体5の位置の影響をより確実に排除した正確なものとなる。
【0031】
図9には、図8(A)の構成例のセンサユニット20において、2つの歪みセンサ22A,22Bの間での前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの1/2に設定した例を示している。この例でも、図7の例の場合と同様に、2つの歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bは180度の位相差を有することになり、その平均値(A+B)/2は、図9(C)に鎖線で示すように転動体5の位置の影響を完全に相殺した値となる。これにより、推定手段30によって推定される車輪用軸受や車輪と路面間(タイヤ接地面)に作用する力(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )から、転動体5の位置の影響をより確実に排除することができる。
この場合、2つの歪みセンサ22A,22Bの前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの1/2+n(n:整数)、またはこれらの値に近似した値としても良い。この場合にも、両歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bの平均値(A+B)/2は、転動体5の位置の影響を相殺した値となる。
【0032】
このほか、図6および図7において、隣り合う2つの接触固定部21aの間での前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの1/2+n(n:整数)、またはこれらの値に近似した値としても良い。この場合にも、隣り合う2つのセンサ22A,22Bの出力信号の平均値(A+B)/2は、転動体5の位置の影響を相殺した値となる。
【0033】
車輪用軸受や、車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。センサユニット20における切欠き部21bを有する歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが外方部材1に接触固定されているので、外方部材1の歪みが歪み発生部材21に拡大して伝達され、その歪みが歪みセンサ22A,22Bで感度良く検出され、その出力信号から荷重を推定できる。ここでは、外方部材1の外径面における上面部と下面部に配置される2つのセンサユニット20の出力信号から垂直方向荷重Fz と軸方向荷重Fy を推定でき、外方部材1の外径面における右面部と左面部に配置される2つのセンサユニット20の出力信号から駆動力や制動力による荷重Fx を推定できる。
【0034】
この場合、各センサユニット20における歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bは、上記したようにそのままでは転動体5の位置の影響を受けるが、推定手段30ではその2つの出力信号の和から、車輪用軸受や、車輪のタイヤと路面間に作用する荷重(垂直方向荷重Fz ,駆動力や制動力となる荷重Fx ,軸方向荷重Fy )を推定するので、軸受の回転時と停止時を問わず転動体3の位置による影響が解消され、荷重を精度良く推定できる。また、ローパスフィルタが不要なため、応答速度が向上する。
【0035】
固定側部材である外方部材1の外径面に固定されるセンサユニット20の各接触固定部21aの軸方向寸法が異なると、外方部材1の外径面から接触固定部21aを介して歪み発生部材21に伝達される歪みも異なる。この実施形態では、センサユニット20の各接触固定部21aを、外方部材1の外径面に対して軸方向に同寸法となるように設けているので、歪み発生部材21に歪みが集中しやすくなり、それだけ検出感度が向上する。
【0036】
また、この実施形態では、センサユニット20の歪み発生部材21は、平面概形が均一幅の帯状、または平面概形が帯状で側辺部に切欠き部21bを有する薄板材からなるものとしているので、外方部材1の歪みが歪み発生部材21に拡大して伝達され易く、その歪みが歪みセンサ22A,22Bで感度良く検出され、その出力信号A,Bに生じるヒステリシスも小さくなり、荷重を精度良く推定できる。また、歪み発生部材21の形状も簡単なものとなり、コンパクトで低コストなものとできる。
【0037】
また、歪み発生部材21の切欠き部21bの隅部は断面円弧状とされているので、切欠き部21bの隅部に歪みが集中せず、塑性変形する可能性が低くなる。また、切欠き部21bの隅部に歪みが集中しなくなることで、歪み発生部材21における検出部つまり歪みセンサ22A,22Bの取付け部での歪み分布のばらつきが小さくなり、歪みセンサ22A,22Bの取付け位置が歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bに及ぼす影響も小さくなる。これにより、荷重をさらに精度良く推定できる。
【0038】
このセンサ付車輪用軸受から得られた検出荷重を自動車の車両制御に使用することにより、自動車の安定走行に寄与できる。また、このセンサ付車輪用軸受を用いると、車両にコンパクトに荷重センサを設置でき、量産性に優れたものとでき、コスト低減を図ることができる。
【0039】
また、この実施形態では、固定側部材である外方部材1の車体取付用フランジ1aの円周方向複数箇所にナックル取付用のボルト孔14が設けられた周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされるが、前記センサユニット20における歪み発生部材21の接触固定部21aは、隣り合う突片1aa間の中央に配置されているので、ヒステリシスの原因となる突片1aaから離れた位置に歪み発生部材21が配置されることになり、それだけ歪みセンサ22A,22Bの出力信号A,Bに生じるヒステリシスが小さくなり、荷重をより精度良く推定できる。
【0040】
また、この実施形態では、センサユニット20を、外方部材1における複列の転走面3のうちのアウトボード側の転走面3の周辺となる軸方向位置、つまり比較的設置スペースが広く、タイヤ作用力が転動体5を介して外方部材1に伝達されて比較的変形量の大きい部位に配置しているので、検出感度が向上し、荷重をより精度良く推定できる。
【0041】
また、この実施形態では、固定側部材である外方部材1の外径面の上面部と下面部、および右面部と左面部にセンサユニット20を設けているので、どのような荷重条件においても、荷重を精度良く推定することができる。すなわち、ある方向への荷重が大きくなると、転動体5と転走面3が接触している部分と接触していない部分が180度位相差で現れるため、その方向に合わせてセンサユニット20を180度位相差で設置すれば、どちらかのセンサユニット20には必ず転動体5を介して外方部材1に印加される荷重が伝達され、その荷重を歪みセンサ22A,22Bにより検出可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図とその検出系の概念構成のブロック図とを組み合わせて示す図である。
【図2】同センサ付車輪用軸受の外方部材をアウトボード側から見た正面図である。
【図3】同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの拡大平面図である。
【図4】図3におけるIV−IV矢視断面図である。
【図5】センサユニットの他の設置例を示す断面図である。
【図6】センサユニットの出力信号に対する転動体位置の影響の説明図である。
【図7】センサユニットの出力信号に対する転動体位置の影響の他の説明図である。
【図8】センサユニットの出力信号に対する転動体位置の影響の他の説明図である。
【図9】センサユニットの出力信号に対する転動体位置の影響の他の説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1…外方部材
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
6…保持器
20…センサユニット
21…歪み発生部材
21a…接触固定部
21b…切欠き部
22A,22B…歪みセンサ
30…推定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に、この固定側部材に接触して固定される2つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つ以上のセンサからなる1つ以上の荷重検出用センサユニットを設けてなるセンサ付車輪用軸受であって、前記2つ以上の接触固定部を、前記固定側部材の外径面の同一軸方向位置でかつ円周方向に互いに離間した位置となるように配置し、前記2つ以上のセンサの出力信号の和により、車輪用軸受に作用する荷重を推定する推定手段を設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記2つ以上の接触固定部のうち、前記固定側部材の外径面の円周方向配列の両端に位置する2つの接触固定部の間隔を、転動体の配列ピッチと同一としたセンサ付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記2つ以上のセンサにおける隣り合うセンサ間の前記固定側部材の外径面の円周方向についての間隔を、転動体の配列ピッチの1/2+n(n:整数)またはこれらの値に近似した値としたセンサ付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記センサユニットは3つの接触固定部と2つのセンサを有し、隣り合う第1および第2の接触固定部の間、および隣り合う第2および第3の接触固定部の間に前記各センサをそれぞれ取付けたセンサ付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項4において、隣り合う接触固定部または隣り合うセンサの前記固定側部材の外径面の円周方向についての間隔を、転動体の配列ピッチの1/2+n(n:整数)またはこれらの値に近似した値としたセンサ付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記歪み発生部材は、平面概形が均一幅の帯状、または平面概形が帯状で側辺部に切欠き部を有する薄板材からなるセンサ付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記センサユニットを、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる前記固定側部材の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に配置したセンサ付車輪用軸受。
【請求項8】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材に、この固定側部材に接触して固定される3つの接触固定部を有する歪み発生部材、およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つのセンサからなる1つ以上の荷重検出用センサユニットを設けてなるセンサ付車輪用軸受であって、前記3つの接触固定部を、前記固定側部材の外径面の同一軸方向位置でかつ円周方向に互いに離間した位置となるように配置し、隣り合う前記接触固定部の間隔または隣り合う前記センサの前記固定側部材の外径面の円周方向についての間隔を、転動体の配列ピッチの1/2+n(n:整数)またはこれらの値に近似した値とし、前記2つのセンサの出力信号の和により、車輪用軸受に作用する荷重を推定する推定手段を設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−192392(P2009−192392A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33996(P2008−33996)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】