説明

センサ制御装置およびセンサ制御方法

【課題】樹脂製の部品を備えた特定ガス成分の濃度を測定するガスセンサにおいて、ガスセンサの温度を樹脂の耐熱温度以下に抑えることができるセンサ制御装置およびセンサ制御方法を提供する。
【解決手段】特定ガス成分の濃度を測定するセンサ素子12、センサ素子12を内部に収納すると共に配管62内に差し込まれるハウジング、ハウジングに取り付けられると共に配管の外側に配置される樹脂から形成された基体部21を少なくとも備えるガスセンサ10と、センサ素子12を昇温させる加熱部41と、加熱部41への通電を調節してセンサ素子12の温度を活性温度に保持する制御部51と、が設けられたセンサ制御装置1であって、制御部51は、運転されていた内燃機関61が自動停止した場合には、センサ素子12の温度を活性温度に保持する制御から、基体部21の温度を樹脂の形状保持温度以下とする停止時制御に切り替えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御に用いられるセンサ、特に、特定ガス成分の濃度を測定するガスセンサに適用して好適なセンサ制御装置およびセンサ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両等の移動体の動力源として用いられる内燃機関では、出力向上や、燃費向上や、排ガスの浄化等を目的として、内燃機関における燃焼パラメータの最適化を図る制御が広く行われ始めている。燃焼パラメータとしては、内燃機関で燃焼される空気と燃料との混合気における空気質量を燃料質量で割った値である空燃比が挙げられる。この空燃比が内燃機関の運転状態に適した値、例えば、空気と燃料とが過不足なく燃焼する理論空燃比、又は、理論空燃比近傍の所定値となるように制御が行われている。
【0003】
上述の制御を実際に行う場合には、空燃比における空気質量、より具体的には酸素質量、を正確に推定することが求められる。そのため、内燃機関に吸入される空気の流量を測定するエアフローセンサや、燃焼後の排気ガスに残存する酸素ガスの濃度を測定する酸素センサなどを設けて、より正確な空燃比を求める技術の開発が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
上述の酸素センサは、一般に、酸素ガス濃度の測定精度が、測定する部分であるセンサ素子の温度に依存するため、酸素センサには、センサ素子の温度を所定範囲に制御するヒータなどが設けられている。また、従来の酸素センサでは、内燃機関に取り付けられた際に排気ガスの流路から外側に突出する部分である基体部を、金属製の薄板を加工した複数の部材を組み合わせて構成していた。しかしながら、金属製の薄板を用いて基体部を構成する方法では、構造が複雑になると共に、組み合わせが面倒かつ手間になるという問題が指摘されていた。
【0005】
そこで、酸素センサにおける基体部を、金属製の薄板と比較して、加工が容易な樹脂製の部材から構成する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。基体部を、複雑な形状に形成できる樹脂製の部材から構成することで、基体部を構成する部品点数を減らして構造を簡素できるとともに、組み合わせに要する手間を省くことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−132779号公報
【特許文献2】特開2003−148206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
その一方で、近年では、内燃機関から排出される二酸化炭素量の削減や、燃費の向上を目的として、車両等が停止した時など、所定の条件を満たした際に内燃機関を自動的に停止させ、その後、運転者が車両等を発進させようとする操作を行ったときに内燃機関を自動的に再始動させるアイドリングストップ制御も行われ始めている。アイドリングストップ制御により内燃機関が自動的に停止(アイドリングストップ)されると、内燃機関における空気の吸入や、排ガスの排出も停止されることになり、酸素センサにおける周囲の気体の流れも停止することになる。
【0008】
すると、センサ素子や金属製のハウジング等から周囲の気体に奪われる熱量が減少する。そして、ヒータで活性温度に維持されるように加熱されているセンサ素子の温度は維持され続けると、当該センサ素子を収容するハウジング等の酸素センサ本体の温度が上昇しやすくなる。特許文献2に記載されている酸素センサのように、ハウジングの上方を金属材料よりも耐熱性の低い樹脂製の部材にて構成したセンサでは、アイドリングストップされている際に酸素センサを構成する樹脂製の部材がセンサ素子からの伝熱の影響を受けて、自身の耐熱温度を超える可能性があるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、アイドリングストップ制御が実施される内燃機関に用いられるとともに、樹脂製の部品を備えた特定ガス成分の濃度を測定するガスセンサにおいて、ガスセンサの温度を樹脂の耐熱温度以下に抑えることができるセンサ制御装置およびセンサ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明のセンサ制御装置は、内燃機関に設けられた配管内を流れるガスに含まれる特定ガス成分の濃度を測定するセンサ素子、このセンサ素子を内部に収納すると共に配管内に差し込まれるハウジング、このハウジングに取り付けられると共に配管の外側に配置される樹脂から形成された基体部を少なくとも備えるガスセンサと、センサ素子を昇温させる加熱部と、この加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を調節してセンサ素子の温度を活性温度に保持する制御部と、が設けられたセンサ制御装置であって、制御部は、運転されていた内燃機関が停止した際に、所定の自動停止条件を満たして停止したか否かを判定し、所定の自動停止条件を満たした停止と判定した場合には、センサ素子の温度を活性温度に保持する制御から、加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を減少させ、基体部の温度を前記樹脂の形状保持温度以下とする停止時制御に切り替えることを特徴とする。
【0011】
本発明のセンサ制御装置によれば、内燃機関が所定の自動停止条件を満たして停止した場合、言い換えるとアイドルストップ制御により停止した場合、制御部は、加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を減少させる停止時制御を開始する。停止時制御における電圧および電流の少なくとも一方の減少量は、内燃機関が停止した際、言い換えると、配管を流れる気体(ガス)の流れが停止して、この気体がセンサ素子から奪う熱量が減少した際に、センサ素子から基体部に伝達する熱量を低下させて、基体部の温度が樹脂の形状保持温度以下とすることができる減少量である。
【0012】
ここで、活性温度とは、センサ素子による特定ガス成分の濃度の測定を行うために必要な温度であり、その温度はセンサ素子に用いられる材料によって異なる。例えば、ジルコニア(ZrO2)を用いた酸素濃度を測定するセンサ素子の場合には、ジルコニアが酸素イオン伝導体として機能する温度を挙げることができる。
【0013】
また、樹脂の形状保持温度としては、樹脂で形成された基体部の形状を、基体部としての機能を果たすことが可能な形状に維持できる温度であって、例えば、使用される樹脂の荷重たわみ温度や、融点などをパラメータとした温度を挙げることができる。基体部に用いられる樹脂の種類により、形状が維持できる温度の指標となる温度が異なるため、使用される樹脂に応じて、荷重たわみ温度等の複数の温度から適切な温度を選択することが好ましい。基体部を形成する樹脂として、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンサルファイド樹脂を例示することができるが、これらの樹脂であれば荷重たわみ温度を上記パラメータとすることができる。
【0014】
上記発明において制御部は、停止時制御の際に加熱部への電力の供給を中止する制御を行うこともできるが、停止時制御を行う場合にあっても、加熱部への電力の供給を継続することが望ましい。
【0015】
このように加熱部への電力の供給を継続することで、アイドリングストップ制御によって停止していた内燃機関の運転が再開された際に、内燃機関の制御(例えば、空燃比制御)に悪影響を与えない期間内に、センサ素子の温度を活性温度に速やかに昇温(復帰)させることができる。
【0016】
上記発明において制御部は、停止時制御を行う場合に、センサ素子の温度が100℃以上、活性温度未満になるように加熱部に供給する電圧および電流の少なくとも一方を調節することが望ましい。
【0017】
このように、停止時制御の際に、センサ素子の温度を100℃以上、活性温度未満とすることで、内燃機関がアイドリングストップ制御によって停止し、センサ素子の温度を下げる制御が行われた場合でも、センサ素子に水(水滴)が付着することを防止できる。つまり、センサ素子に水が付着しようとしても、センサ素子の温度が100℃以上に保たれているため、水は蒸発してセンサ素子に付着することがない。そのため、アイドリングストップ制御によって停止していた内燃機関の運転が再開されてセンサ素子の温度が活性温度となるように昇温された際に、センサ素子のうち水滴が付着せずに加熱が進む部位と水滴の付着によって加熱が遅れる部位とが生じ、加熱が遅れた部位にて水滴が蒸発した際に急速に温度が上がることに起因して発生する熱衝撃によってセンサ素子が損傷するのを抑制することができる。
【0018】
上記発明において制御部は、停止時制御を行う場合に、センサ素子の温度が300℃以上、活性温度未満になるように加熱部に供給する電圧および電流の少なくとも一方を調節することが望ましい。
【0019】
このように、停止時制御の際に、センサ素子の温度を300℃以上、活性温度未満とすることで、内燃機関がアイドリングストップ制御によって停止し、センサ素子の温度を下げる制御が行われた場合でも、センサ素子に油分が付着することを防止できる。つまり、センサ素子に油分が付着しようとしても、センサ素子の温度が300℃以上に保たれているため、油分は揮発してセンサ素子に付着することがない。よって、センサ素子への油分の付着によって煤の付着が促進されることを抑制することができる。
【0020】
上記発明において制御部は、停止時制御を行う場合に、センサ素子の温度が600℃以上、活性温度未満になるように加熱部に供給する電圧および電流の少なくとも一方を調節することが望ましい。
【0021】
このように、停止時制御の際に、センサ素子の温度を600℃以上、活性温度未満とすることで、内燃機関がアイドリングストップ制御によって停止し、センサ素子の温度を下げる制御が行われた場合でも、センサ素子に油分に加えて、煤が付着して残留することを防止できる。つまり、センサ素子に煤が付着しても、センサ素子の温度が600℃以上に保たれているため、付着した煤は焼かれてセンサ素子に残留することがない。そのため、センサ素子に付着・残留した導電性の煤の影響によって特定ガス濃度に応じた出力に影響が生じるのを抑制することができる。
【0022】
上記発明において制御部は、所定の自動停止条件を満たした停止と判定してから所定期間が経過した後に、停止時制御に切り替えることが望ましい。
所定の自動停止条件を満たした停止が生じた直後は、制御部が加熱部を用いてセンサ素子の温度を活性温度に保持させる制御が継続されていても、基体部の温度は即座に樹脂の形状保持温度を超える温度にはならない。そこで、本発明では、所定の自動停止条件を満たした停止と判定してから所定期間が経過した後に、停止時制御に切り替えるようにしている。こうすることで、所定の自動停止条件を満たした停止と判定された後すぐに内燃機関の運転が再開された際には、センサ素子の温度は下がらずに活性温度を保っているため、内燃機関の制御(例えば、空燃比制御)を良好に続けることができる。なお、所定期間とは、所定の自動停止条件を満たした後、加熱部によってセンサ素子の温度を活性温度に保持させる制御を継続したときに、基体部の温度が樹脂の形状保持温度を下回る温度に維持される期間である。
【0023】
上記発明において制御部は、停止時制御として、加熱部に供給される供給電力量を一定とすることが望ましい。こうすることで、基体部の温度を樹脂の形状保持温度以下とする停止時制御を、加熱部に供給される供給電力量を一定にする簡易的な制御で実現することができる。
【0024】
上記発明において制御部は、内燃機関が運転されている際には、活性温度に対応するセンサ素子の素子抵抗値を目標として、加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を調整し、停止時制御を行う際には、基体部の温度が樹脂の形状保持温度以下となるセンサ素子の温度に対応する素子抵抗値を目標として、加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を調整することが望ましい。
【0025】
このようにセンサ素子の温度に応じて値が変化する素子抵抗値を目標(ターゲット)として、加熱部に供給する電圧および電流を調整することにより、停止時制御中のセンサ素子の温度を略一定にすることができ、ひいては停止時制御中の基体部の温度を樹脂の形状保持温度以下の温度に確実に制御することができる。
【0026】
上記発明においてハウジングには、配管との隙間を塞ぎ配管の外側へのガスの流出を防止するシール部が設けられていることが望ましい。
このように配管との隙間を塞ぐシール部をハウジングに設けることにより、配管の内部から外部へのガスの漏れを防止することができる。シール部は、弾性を有する樹脂から形成されることが、ガスの漏れを防止する観点から好ましい。シール部が弾性を有する樹脂から形成されている場合であっても、制御部により停止時制御が行われるため、シール部が温度上昇によって軟質化する等のダメージを受けることが抑制される。
【0027】
本発明のセンサ制御方法は、内燃機関に設けられた配管内を流れるガスに含まれる特定ガス成分の濃度を測定するセンサ素子、このセンサ素子を内部に収納すると共に配管内に差し込まれるハウジング、及び、このハウジングに取り付けられると共に配管の外側に配置される樹脂から形成された基体部、を少なくとも備えるガスセンサに対して、センサ素子に熱を加える加熱部を用いて、センサ素子の温度を活性温度に保持するセンサ制御方法であって、運転されていた内燃機関が停止した際に、所定の自動停止条件を満たして停止したか否かを判定する判定ステップと、所定の自動停止条件を満たした停止と判定した場合には、センサ素子の温度を活性温度に保持する制御を停止し、加熱部に供給される電圧または電流を減少させ、基体部の温度を樹脂の形状保持温度以下とする停止時制御を開始する停止時制御ステップと、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明のセンサ制御方法によれば、内燃機関が所定の自動停止条件を満たして停止した場合、制御部は、加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を減少させる停止時制御を開始する。そのため、停止制御中のセンサ素子の温度が減少し、基体部の温度が樹脂の形状保持温度以下に保たれる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のセンサ制御装置およびセンサ制御方法によれば、内燃機関が所定の自動停止条件を満たして停止した場合、制御部は、加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を減少させる停止時制御を行うことにより、センサ素子の温度を低下させ、基体部の温度が樹脂の形状保持温度、言い換えると耐熱温度以下に抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るセンサ制御装置の概略構成を説明する模式図である。
【図2】図1の酸素センサの構造を説明する断面視図である。
【図3】図2の酸素センサの構成を説明する酸素センサの組立工程の前半を示す図である。
【図4】図2の酸素センサの構成を説明する酸素センサの組立工程の後半を示す図である。
【図5】図1の制御部における入出力を説明するブロック図である。
【図6】エンジンがアイドリングストップ制御により停止された場合を含めたヒータの通電制御を説明するフローチャートである。
【図7】図2の酸素センサ10における他の実施例の構造を説明する断面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この発明の一実施形態に係るセンサ制御装置について、図1から図6を参照して説明する。図1は本実施形態に係るセンサ制御装置1の概略構成を説明する模式図である。
本実施形態のセンサ制御装置1は、図1に示すように、自動車等の車両の動力源となるエンジン(内燃機関)61に適用されるものであり、より具体的には、エンジン61に吸入されるガスに含まれる特定ガス成分としての酸素の濃度を測定する酸素センサ10に対して温度制御を行うものである。センサ制御装置1には、酸素センサ10と、ヒータ(加熱部)41と、制御部51と、が主に設けられている。
【0032】
図2は、図1の酸素センサ10の構造を説明する断面視図である。図3(a),(b),(c),(d)および図4(a),(b),(c),(d)は、図2の酸素センサ10の構成を説明する酸素センサ10の組立工程を示す図である。
【0033】
酸素センサ10は、エンジン61の吸入配管(配管)62に配置されるセンサであって、エンジン61における空燃比制御などに用いられる吸入ガスの酸素濃度を測定するものである。酸素センサ10には、図2に示すように、センサ素子12を含む素子アセンブリ11と、基体部21と、ヒートシンク部31と、から主に構成されている。
【0034】
素子アセンブリ11は、その大半が吸入配管62に差し込まれるものであり、吸入ガスの酸素濃度を測定するセンサ素子12が内部に収納されたものである。素子アセンブリ11には、図2および図3(a)に示すように、センサ素子12と、センサ素子12の内部に収納すると共にセンサ素子12を保持するハウジング13、外部プロテクタ14、セラミックリング15a、第1滑石リング15b、第2滑石リング15c、及びスリーブ15dと、吸入配管62および酸素センサ10との間の気密を保持するOリング(シール部)16と、から主に構成されている。
【0035】
センサ素子12は、吸入配管62を流れる吸入ガスにおける酸素濃度を測定する測定部である。センサ素子12は、主に、ポンプセルと、中空の測定室を有する絶縁層と、起電力セルと、補強板と、後述するヒータ41とを順に積層して構成されるものである。
【0036】
ポンプセルは、酸素イオン伝導性固体電解質体である部分安定化ジルコニア(ZrO2)により形成され、その表面と裏面のそれぞれに主として白金で形成された多孔質電極が設けられている。
【0037】
起電力セルは、ポンプセルと同じく酸素イオン伝導性固体電解質体である部分安定化ジルコニア(ZrO2)により形成されたものである。起電力セルの表面と裏面のそれぞれには、主として白金で形成された多孔質電極が設けられている。
【0038】
ポンプセルに設けられた一対の多孔質電極のうちの一つと、起電力セルに設けられた一対の多孔質電極のうちの一つは、測定室に面するように配置され、互いに同電位に導通されるとともに、センサ素子12の後端側表面に形成される1つの電極取出部に接続されている。
【0039】
ポンプセルにおける測定室と反対側に配置された多孔質電極、および、起電力セルにおける測定室と反対側に配置された多孔質電極は、センサ素子12の後端側表面に形成された2つの電極取出部にそれぞれ接続されている。
【0040】
補強板は、起電力セルの測定室と反対側に配置された多孔質電極を閉塞しつつ、多孔質電極の内部に基準酸素室を形成するように、起電力セルに積層されたものである。
ポンプセルと起電力セルとの間には、上述したように、測定室が形成された絶縁層が介在している。この測定室は、絶縁層に別途配置された多孔質拡散層を介して外部のガス雰囲気、つまり吸入配管62の内部を流れる吸入ガスと連通されている。
【0041】
センサ素子12における先端(図2の下端)には、酸素濃度に応じた電流が流れる検出部12aが構成され、後端(図2の上端)には、上記の3つの電極端子部や、ヒータ41に電力を供給する2つの端子部が設けられている。このセンサ素子12は、後述する制御部51によって、起電力セルに発生する起電力(電極間電圧)が一定になるように酸素ポンプセルに流れる電流の流れ方向及び大きさが制御される構成をなしている。なお、酸素ポンプセルのうち、多孔質電極が配置される部位が上記の検出部12aに相当する。
【0042】
ヒータ41は、補強板に積層され、ポンプセル、起電力セル、補強板と共に一体化されているものである。ヒータ41は、導体からなるヒータ抵抗を一対のアルミナシートで挟み込んで形成されたものであり、ヒータ41の一端が直流電源(12Vバッテリ)に接続され、他端がヒータ制御回路53(図1参照。)に接続されている。ヒータ制御回路53を駆動させることによりヒータ41が発熱すると、ポンプセル及び起電力セルの温度が上昇して活性化し、センサ素子12によるガス検出(酸素濃度検出)が可能となる。
【0043】
ハウジング13は、外部プロテクタ14と比較して肉厚の筒状に形成され、内部にセラミックリング15a、第1滑石リング15b、第2滑石リング15c、スリーブ15dおよびセンサ素子12などが収納される金属、例えばステンレス鋼から形成されたものである。ハウジング13における外周面の略中央には、Oリング16が配置される円環状に形成された溝部13aが設けられている。ハウジング13における先端側(図2の下側)は、中央と比較して外径を小さく形成され、この部分に外部プロテクタ14が取り付けられている。
【0044】
外部プロテクタ14は、一端が閉じられた円筒状に形成された金属部材であり、内部にセンサ素子12の検出部12aを収納し、検出部12aを保護するものである。外部プロテクタ14は、円筒の開口部にハウジング13の先端側の端部が差し込まれた状態で、ハウジング13に固定されている。
【0045】
外部プロテクタ14の円周面には、ガス導入孔14aが設けられている。ガス導入孔14aは、吸入配管62を流れる吸入ガスを外部プロテクタ14の内部に導き、センサ素子12の検出部12aの周囲に吸入ガスを導くものである。本実施形態においてガス導入孔14aは、外部プロテクタ14の円筒形状のおける中心軸方向(図2の上下方向)に延びる長方形状に形成された貫通孔である。
【0046】
セラミックリング15aは、アルミナ(Al23)を用いて円筒状に形成された部材であり、内部にセンサ素子12が挿通されたものである。第1滑石リング15bおよび第2滑石リング15cは、滑石粉末を圧縮して円筒状に固めた部材であり、内部にセンサ素子12が挿通されたものである。
【0047】
セラミックリング15a、第1滑石リング15b及び第2滑石リング15cは、センサ素子12の先端から後端に向かって、セラミックリング15a、第1滑石リング15b及び第2滑石リング15cが順に並んで配置されている。さらに、セラミックリング15aおよび第1滑石リング15bの全体と、第2滑石リング15cの下端は、一端が閉じられた円筒状に形成された金属カップ15eの内部に収納されている。金属カップ15eは、ハウジング13の内周面と、セラミックリング15aおよび第1滑石リング15bの外周面との間に配置されている。なお、金属カップ15eにおける閉じられた端部には、センサ素子12が挿通される貫通孔が形成されている。
【0048】
スリーブ15dは、第2滑石リング15cの後端側に配置された円筒状に形成された部材であり、ハウジング13と共に、セラミックリング15a、第1滑石リング15bおよび第2滑石リング15cをセンサ素子12の先端に向かって押し付けるものである。スリーブ15dの後端(図2の上端)とハウジング13との間には、円環状のパッキン15fが配置されている。パッキン15fはスリーブ15dとハウジング13との間を気密に塞ぐものである。
【0049】
Oリング16は、ゴム等の弾性を有する樹脂を用いてリング状に形成された部材であり、断面が円状に形成されたものである。Oリング16はハウジング13の溝部13aに配置され、Oリング16の内周側の部分は、溝部13aの底面と接触している。また、Oリング16の外周側の部分は、吸入配管62に設けられた酸素センサ10が挿入される貫通孔の内周面と接触するものである。
【0050】
このように吸入配管62との隙間を塞ぐOリング16を、ハウジング13に設けることにより、吸入配管62の内部から外部への吸入ガスの漏れを防止することができる。Oリング16が弾性を有する樹脂から形成されている場合であっても、制御部51により停止時制御が行われるため、Oリング16は温度上昇による軟質化する等のダメージを受けにくい。
【0051】
基体部21は、吸入配管62の外側に配置されるものであり、他と比較して成形性が良好な樹脂により形成されたものである。基体部21には、図2および図3(c)および(d)に示すように、本体22と、蓋部23と、コネクタ部24と、が主に設けられている。なお、本実施の形態では、基体部21をポリフェニレンサルファイド樹脂にて形成している。
【0052】
本体22は、ハウジング13とヒートシンク部31との隙間にインサート形成されるものであり、内部にセパレータ25が収納される柱状の空間が形成されたものである。蓋部23は、本体22に設けられた柱状の空間を塞ぐ板状の部材である。蓋部23は、当該空間にセパレータ25が収納された状態で、当該空間を密閉するものである。
【0053】
セパレータ25は、図2に示すように、絶縁性を有するセラミックスから形成された円筒状をなしている。そして、このセパレータ25の内部には、センサ素子12との導通を図るための5本の端子部材45が配置されると共に、センサ素子12の基体部21側の後端部が挿入される。セパレータ25の内部にセンサ素子12の後端部が挿入されると、センサ素子12の5つの電極端子部と5本の端子部材45とがそれぞれ接触される。
【0054】
基体部21を構成するコネクタ部24は、センサ素子12が延びる方向(図2の上下方向)に対して交差する方向、より好ましくは直交する方向(図2の左右方向)に延びる筒状の部分の内部に、5本のコネクタ端子24bが間隔をあけて一列に並んで設けられた端子体24aが設けられた構成となっている。そして、各コネクタ端子24bと各端子部材45とが接続され、これによりセンサ素子12と制御部51との電気的接続を、コネクタ部24を介して得ることができる。
【0055】
ヒートシンク部31は、図2に示すように、素子アセンブリ11および基体部21の間に配置された放熱部であり、かつ、酸素センサ10を吸入配管62の取り付ける際に用いられるものである。ヒートシンク部31は、アルミニウムや、アルミニウム合金や、ステンレス鋼などの金属であって、樹脂と比較して熱伝導率が高い材料から形成されたものである。ヒートシンク部31には、図2および図3(b)に示すように、筺体部32と、フランジ部33と、が主に設けられている。
【0056】
筺体部32は、図2および図3(b)に示すように、円筒状に形成された部材であって、内部に素子アセンブリ11が挿入されるものである。筺体部32における先端側(図2の下側)は、全周にわたってレーザ溶接を行うなどの方法で、ハウジング13に固定される。
【0057】
フランジ部33は、筺体部32における基体部21側(図3(b)の上側)の端部から、円筒状の筺体部32における径方向外側に向かって、互いに反対方向へ延びる一対の板状部材である。フランジ部33には、酸素センサ10を吸入配管62に固定する際に用いられる固定用のボルトなどが挿通される挿通孔34が設けられている。
【0058】
図5は、図1の制御部51における入出力を説明するブロック図である。
制御部51は、ヒータ41に供給する電力量を調節すると共に、各種センサからの入力に基づいてエンジン61に対するアイドリングストップ制御などの制御を行うものである。制御部51には、図5に示すように、センサ素子12や、車両の走行速度を測定する車速センサ63や、アクセルペダルの踏み込み量を測定するアクセルセンサ64や、ブレーキペダルの踏み込み量を測定するブレーキセンサ65などの各種センサからそれぞれの測定信号が入力されている。また、制御部51からは、ヒータ41に対する制御信号が出力されている。制御部51には、センサ特性検出回路52と、ヒータ制御回路53と、中央演算処理装置54と、が主に設けられている。
【0059】
センサ特性検出回路52は、センサ素子12のポンプセル及び起電力セルの多孔質電極に接続される3つの電極端子部に電気的に接続されている。このセンサ特性検出回路52は、起電力セルの補強板側に位置する多孔質電極が基準酸素極となるように当該起電力セルに微小な電流を流す回路部、起電力セルに生ずる起電力(電極間電圧)が所定の電位となるようにポンプセルに流す電流の方向及び大きさを制御する回路部、ポンプセルに流れる電流を電圧に変換してガス検出信号として検出する回路部を有する。また、センサ特性検出回路52は、定期的にセンサ素子12(具体的には、起電力セル)にインピーダンス検出電流を流し、その際の電圧変化量を素子インピーダンス信号として検出する回路部をも有している。センサ特性検出回路52により検出されたガス検出信号および素子インピーダンス信号は、中央演算処理装置54に出力される。なお、ガス検出信号は、センサ素子12(ポンプセル)が検出する酸素濃度に応じてリニアに変化する信号である。
【0060】
ヒータ制御回路53は、中央演算処理装置54から入力される制御信号に基づいて、ヒータ41に投入される電力量を制御するものである。具体的には、ヒータ制御回路53に設けられた、ヒータ41に電気的に接続されるスイッチング素子(例えば、FET)のオン、オフ制御を、中央演算処理装置54からの制御信号に基づいて公知のPWM通電制御することにより、ヒータ41に投入される電力量(供給電力量)を制御する。
【0061】
中央演算処理装置54は、CPU,RAM,ROM,I/Oインターフェースなどを備えるマイクロコンピュータを主な構成要素とするものである。中央演算処理装置54は、各種センサから入力された情報を用いて各種の制御処理を行うものである。
【0062】
例えば、中央演算処理装置54は、センサ特性検出回路52から入力された素子インピーダンス信号を用いてセンサ素子12の温度を算出する温度検出処理や、センサ素子12を目標温度に設定するために必要なヒータ41へ投入する電力量を制御するヒータ制御処理などを行う。さらに、中央演算処理装置54は、センサ特性検出回路52から入力されたガス検出信号に基づき、吸入ガスに含まれる酸素濃度を算出するガス濃度検出処理を行う。
【0063】
ここで、図3及び図4を参照しながら、酸素センサ10の組立工程について、その概略を説明する。まず、図3(a)に示すように、素子アセンブリ11が準備される。準備された素子アセンブリ11に対して、図3(b)に示すように、ヒートシンク部31がレーザ溶接によって固定される。その後、基体部21の本体22およびコネクタ部24の筒状の部分が、ハウジング13とヒートシンク部31との隙間にインサート形成される。コネクタ部24の筒状の部分には、端子体24aが挿入されて、酸素センサ10は、図3(d)に示す状態となる。
【0064】
その後、図4(a),(b)に示すように、端子部材45を装着した状態のセパレータ25が基体部21に取り付けられ、セパレータ25の内部にセンサ素子12の後端部を挿入する。そして、図4(c)に示すように、蓋部23によりセパレータ25が配置された空間が閉じられる。最後に、図4(d)に示すように、Oリング16がハウジング13の溝部13aに取り付けられ、酸素センサ10の組立が完了する。
【0065】
次に、上記の構成からなるセンサ制御装置1における制御について説明する。最初に、エンジン61が運転されている場合のセンサ制御装置1によるセンサ素子12の温度制御について説明し、その後に、本実施形態の特徴である、エンジン61がアイドリングストップ制御により停止された場合の制御について図6を参照しながら説明する。図6は、本実施形態のセンサ制御装置1における、エンジン61がアイドリングストップ制御により停止された場合の制御を説明するフローチャートである。
【0066】
エンジン61が運転され、吸入配管62を流れる吸入ガスにおける酸素濃度を酸素センサ10により測定する際には、センサ素子12の温度は、センサ制御装置1により、いわゆる活性温度になるように制御される。
【0067】
ここで、活性温度とは、センサ素子12による吸入ガスに含まれる酸素濃度の測定を行うために必要な温度であり、その温度はセンサ素子12に用いられる材料によって異なる。例えば、ジルコニア(ZrO2)を用いた酸素濃度を測定するセンサ素子12の場合には、ジルコニアが酸素イオン伝導体として機能する温度を挙げることができる。
【0068】
具体的には、制御部51のセンサ特性検出回路52および中央演算処理装置54により、センサ素子12の温度が演算により求められる。なお、この演算は、図6に示すフローチャートとは別の処理にて実行される。センサ特性検出回路52は、センサ素子12から定期的に出力される素子インピーダンス信号を検出し、検出した素子インピーダンス信号を中央演算処理装置54に出力する。中央演算処理装置54では、入力された素子インピーダンス信号を用いてセンサ素子12の温度を推定する演算が行われる。
【0069】
ここで、素子インピーダンス信号の値(例えば電圧値)は、センサ素子12の温度の値に対応して変化するものである。そのため、素子インピーダンス信号の値からセンサ素子12の温度の値を求める演算式を中央演算処理装置54のROM等の記憶装置に予め記憶させておき、この演算式に基づいてセンサ素子12の温度を求めることができる。あるいは、素子インピーダンス信号の値と、センサ素子12の温度の値との対応が記載されたテーブルを予めROM等に記憶させておき、このテーブルを用いてセンサ素子12の温度の値を求めてもよい。
【0070】
センサ素子12の温度が求められると、中央演算処理装置54では、求められたセンサ素子12の温度と、ターゲット温度との対比が行われる。ターゲット温度とは、センサ制御装置1によって制御するセンサ素子12の温度の目標(ターゲット)である。エンジン61が運転されている状況では、ターゲット温度は、活性温度である第1所定温度(例えば、830℃)に設定されている。
【0071】
求められたセンサ素子12の温度がターゲット温度よりも低温の場合には、中央演算処理装置54では、センサ素子12の温度を上昇させる制御信号が生成される。つまり、ヒータ制御回路53に対して、ヒータ41に供給する電力量を増やす制御信号が生成され、この制御信号がヒータ制御回路53に出力される。供給される電力量が増やされたヒータ41においては、発生する熱量が増えて、センサ素子12の温度が上昇する。
【0072】
逆に、求められたセンサ素子12の温度がターゲット温度よりも高温の場合には、中央演算処理装置54では、センサ素子12の温度を低下させる制御信号が生成される。つまり、ヒータ制御回路53に対して、ヒータ41に供給する電力量を減らす制御信号が生成され、この制御信号がヒータ制御回路53に出力される。供給される電力量が減らされたヒータ41においては、発生する熱量が減る。センサ素子12では、ヒータ41から供給される熱量よりも、吸入ガスなどに奪われる熱量が大きくなり、センサ素子12の温度が低下する。
【0073】
制御部51において、このような制御を繰り返し行うことにより、センサ素子12の温度は、ターゲット温度の近傍の温度、即ち活性温度になるように制御され、安定して吸入ガスの酸素濃度を測定することができる。
【0074】
次に、エンジン61がアイドリングストップ制御により停止された場合の制御について説明する。制御部51の中央演算処理装置54ではエンジン61が停止されると、停止の開始からの経過時間として予め定められた第1所定期間(例えば、3秒間)との対比を行う(S11)。エンジン61の停止を検知する方法としては、エンジン回転数や車速の情報を検知する方法や、点火プラグへの電力供給の有無を検知する方法など、公知の方法を用いることができ、特に限定するものではない。
【0075】
経過した時間が第1所定時間よりも短い場合(NOの場合)には、S11に再び戻り経過した時間と所定時間との対比が繰り返される。
経過した時間が第1所定時間以上の場合(YESの場合)には、中央演算処理装置54は、エンジン61の停止が、所定の自動停止条件を満たしたことによる停止、つまりアイドリングストップ制御による停止なのか否かを判別する(S12:判定ステップ)。
【0076】
ここで、自動停止条件としては、(1)車速センサ63により測定された車速が0km/hであること、(2)アクセルセンサ64により測定されたアクセルペダルの踏み込み量が0である(アクセルペダルが踏みこまれていない)こと、(3)ブレーキセンサ65により測定されたブレーキペダルの踏み込みが有ること、を全て満たすという条件を例示することができる。言い換えると、アイドリングストップ制御によるエンジン61の停止とは、上述の(1)から(3)の条件を満たしたことにより、運転者の意思にかかわらず実行される停止のことである。
【0077】
なお、自動停止条件として挙げた条件は、例示であって、これ以外の条件を自動停止条件として用いてもよい。さらに、自動停止条件として用いる条件の数も、3条件よりも多くても、少なくてもよい。
【0078】
S12において、所定の自動停止条件を満たしていないと判定された場合(NOの場合)には、中央演算処理装置54は、記憶されているターゲット温度を第1所定温度とする設定を行う(S13)。その一方で、S12において、所定の自動停止条件を満たしていると判定された場合(YESの場合)には、自動停止条件を満たしてからの経過時間と予め定められた第2所定期間(例えば、15秒間)との対比を行う(S14)。経過した時間が第2所定時間よりも短い場合(NOの場合)には、中央演算処理装置54は、上記したS13の処理を行う。一方、経過した時間が第2所定時間を経過した場合(YESの場合)には、中央演算処理装置54は、記憶されているターゲット温度を第2所定温度とする設定を行う(S15)。
【0079】
なお、第2所定期間は、所定の自動停止条件を満たした後、ヒータ41によってセンサ素子12の温度を活性温度に保持させる制御を継続したときに、基体部21の温度が樹脂の形状保持温度を下回る温度に維持される期間であることが望ましい。
【0080】
ここで、第2所定温度とは、基体部21を形成する樹脂における形状保持温度以下の温度であるとともに、第1所定温度、言い換えるとセンサ素子12の活性温度よりも低い温度であり、かつ、少なくとも100℃以上の温度である。
【0081】
このようにヒータ41への電力の供給を継続して、センサ素子12の温度を100℃以上、活性温度未満に設定することで、アイドリングストップ制御によって停止していたエンジン61の運転が再開された際に、エンジン61の制御(例えば、空燃比制御)に悪影響を与えない期間内に、センサ素子12の温度を活性温度に速やかに昇温(復帰)させることができる。
【0082】
さらに、エンジン61がアイドリングストップ制御によって停止し、センサ素子12の温度を下げる制御が行われた場合でも、センサ素子12に水(水滴)が付着することを防止できる。つまり、センサ素子12の温度が100℃以上に保たれているため、水は蒸発してセンサ素子12に付着することがない。そのため、アイドリングストップ制御によって停止していたエンジン61の運転が再開されてセンサ素子12の温度が活性温度となるように昇温された際に、センサ素子12のうち水滴が付着せずに加熱が進む部位と水滴の付着によって加熱が遅れる部位とが生じ、加熱が遅れた部位にて水滴が蒸発した際に急速に温度が上がることに起因して発生する熱衝撃によってセンサ素子12が損傷するのを抑制することができる。
【0083】
ここで、樹脂の形状保持温度としては、樹脂で形成された基体部21の形状を、基体部21としての機能を果たすことが可能な形状に維持できる温度であって、例えば、使用される樹脂の荷重たわみ温度や、融点などをパラメータとした温度を挙げることができる。本実施形態では、ポリフェニレンサルファイド樹脂を用いているため、上記パラメータは荷重たわみ温度となる。
【0084】
また、第2所定温度を、活性温度よりも低く、かつ、300℃以上の温度に設定することがより好ましい。さらには、第2所定温度を、活性温度よりも低く、かつ、600℃以上の温度に設定することが好ましい。
【0085】
センサ素子12の温度を300℃以上、活性温度未満に設定することで、センサ素子12に油分が付着することを防止できる。つまり、センサ素子12に油分が付着しようとしても、センサ素子12の温度が300℃以上に保たれているため、油分は揮発してセンサ素子12に付着することがない。よって、センサ素子12への油分の付着によって煤の付着が促進されることを抑制することができる。
【0086】
また、センサ素子12の温度を600℃以上、活性温度未満に設定することで、センサ素子12に煤が付着しても、センサ素子12の温度が600℃以上に保たれているため、付着した煤は焼かれてセンサ素子12に残留することがない。そのため、センサ素子12に付着・残留した導電性の煤の影響によって特定ガス濃度に応じた出力に影響が生じるのを抑制することができる。なお、本実施の形態では、第2の所定温度の一例として600℃に設定した。
【0087】
また、中央演算処理装置54においてターゲット温度として設定される値は、第1所定温度、または、第2所定温度に対応するセンサ素子12における素子インピーダンス(Rpvs)であってもよい。
【0088】
S13や、S15において、ターゲット温度の設定が行われると、中央演算処理装置54は、ヒータ41に供給する電圧および電流を制御してセンサ素子12の温度をターゲット温度に制御するヒータ通電制御を開始する(S16)。なお、S15とS16の処理が、本発明の停止制御ステップに相当する。
【0089】
ターゲット温度が第1所定温度に設定された場合におけるヒータ通電制御は、上述のエンジン61が運転されている場合のヒータ通電制御を同様な制御が行われる。
その一方で、ターゲット温度が第2所定温度に設定された場合におけるヒータ通電制御では、ヒータ41による発熱が低下するように当該ヒータ41に対する電圧および電流が制御される(停止時制御が行われる)。
【0090】
上記の構成によれば、エンジン61が所定の自動停止条件を満たして停止した場合、言い換えるとアイドルストップ制御により停止した場合、制御部51は、ヒータ41に供給される電圧および電流の少なくとも一方を減少させる停止時制御を開始する。停止時制御における電圧および電流の少なくとも一方の減少量は、エンジン61が停止した際、言い換えると、吸入配管62を流れる吸入ガスの流れが停止して、吸入ガスがセンサ素子12から奪う熱量が減少した際に、センサ素子12から基体部21に伝達する熱量を低下させて、基体部21の温度を樹脂の形状保持温度以下とすることができる減少量である。
【0091】
さらに本実施形態では、エンジン61が所定の自動停止条件を満たした停止と判定されてから(S12:YES)第2所定期間が経過した後(S14:YES)に、停止時制御に切り替えている(S15)。こうすることで、所定の自動停止条件を満たした停止と判定された後すぐにエンジン61の運転が再開された際には、センサ素子12の温度は下がらずに活性温度を保っているため、エンジン61の制御(例えば、空燃比制御)を良好に続けることができる。
【0092】
図7は、図2の酸素センサ10における他の実施例の構造を説明する断面視図である。
なお、上述の実施形態のように酸素センサ10にOリング16が設けられていてもよいし、図7に示すように、Oリング16の代わりに、ヒートシンク部31のフランジ部33における吸入配管62と接触する面に、板状に形成された金属製のシール部材116を配置してもよく、特に限定するものではない。
【0093】
また、上述の実施形態では、図6に示すフローチャートにおいて、自動停止条件を満たしたと判定され(S12:YES)、且つ、第2所定期間が経過した場合(S14:YES)に、ターゲット温度を第2所定温度に設定する処理(S15)を行うようにしたが、S14を省略し、自動停止条件を満たしたと判定された場合(S12:YES)に、即座にS15の処理を行うようにしてもよい。
【0094】
さらに、上述の実施形態では、図6に示すフローチャートのS15の処理として、センサ素子12のターゲット温度を第2所定温度に設定するようにしたが、これに代えて、基体部21の温度が樹脂の形状保持温度以下となる範囲内で、ヒータ41に供給する供給電力量を一定に制御する処理(例えば、3V一定制御)をヒータ41への停止時制御として実行するようにしてもよい。こうすることで、基体部21の温度を樹脂の形状保持温度以下とする制御を、ヒータ41に供給される供給電力量を一定にする簡易的な制御で実現することができる。
【0095】
なお、停止時制御としてヒータ41に供給する供給電力量を一定に制御する処理を行う場合にも、センサ素子12の温度が、活性温度よりも低く、かつ、100℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくは600℃以上の温度になるように供給電力量を設定するとよい。
【符号の説明】
【0096】
1…センサ制御装置、10…酸素センサ(ガスセンサ)、12…センサ素子、13…ハウジング、16…Oリング(シール部)、21…基体部、41…ヒータ(加熱部)、51…制御部、61…エンジン(内燃機関)、62…吸入配管(配管)、S12…判定ステップ、S15,S16…停止制御ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に設けられた配管内を流れるガスに含まれる特定ガス成分の濃度を測定するセンサ素子、該センサ素子を内部に収納すると共に前記配管内に差し込まれるハウジング、及び、該ハウジングに取り付けられると共に前記配管の外側に配置される樹脂から形成された基体部を少なくとも備えるガスセンサと、
前記センサ素子を昇温させる加熱部と、
該加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を調節して前記センサ素子の温度を活性温度に保持する制御部と、
が設けられたセンサ制御装置であって、
前記制御部は、運転されていた前記内燃機関が停止した際に、所定の自動停止条件を満たして停止したか否かを判定し、
前記所定の自動停止条件を満たした停止と判定した場合には、前記センサ素子の温度を前記活性温度に保持する制御から、前記加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を減少させ、前記基体部の温度を前記樹脂の形状保持温度以下とする停止時制御に切り替えることを特徴とするセンサ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記停止時制御の際に前記加熱部への電力の供給および供給停止が選択可能であり、前記停止時制御を行う場合に、前記加熱部への電力の供給を継続することを特徴とする請求項1記載のセンサ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記停止時制御を行う場合に、前記センサ素子の温度が100℃以上、前記活性温度未満になるように前記加熱部に供給する電圧および電流の少なくとも一方を調節することを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記停止時制御を行う場合に、前記センサ素子の温度が300℃以上、前記活性温度未満になるように前記加熱部に供給する電圧および電流の少なくとも一方を調節することを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記停止時制御を行う場合に、前記センサ素子の温度が600℃以上、前記活性温度未満になるように前記加熱部に供給する電圧および電流の少なくとも一方を調節することを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ制御装置。
【請求項6】
制御部は、前記所定の自動停止条件を満たした停止と判定してから所定期間が経過した後に、前記停止時制御に切り替えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のセンサ制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記停止時制御として、前記加熱部に供給される供給電力量を一定とすることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のセンサ制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記内燃機関が運転されている際には、前記活性温度に対応する前記センサ素子の素子抵抗値を目標として、前記加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を調整し、
前記停止時制御を行う際には、前記基体部の温度が前記樹脂の形状保持温度以下となる前記センサ素子の温度に対応する前記素子抵抗値を目標として、前記加熱部に供給される電圧および電流の少なくとも一方を調整することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のセンサ制御装置。
【請求項9】
前記ハウジングには、前記配管との隙間を塞ぎ前記配管の外側への前記ガスの流出を防止するシール部が設けられていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のセンサ制御装置。
【請求項10】
内燃機関に設けられた配管内を流れるガスに含まれる特定ガス成分の濃度を測定するセンサ素子、該センサ素子を内部に収納すると共に前記配管内に差し込まれるハウジング、及び、該ハウジングに取り付けられると共に前記配管の外側に配置される樹脂から形成された基体部、を少なくとも備えるガスセンサに対して、
前記センサ素子に熱を加える加熱部を用いて、前記センサ素子の温度を活性温度に保持するセンサ制御方法であって、
運転されていた前記内燃機関が停止した際に、所定の自動停止条件を満たして停止したか否かを判定する判定ステップと、
前記所定の自動停止条件を満たした停止と判定した場合には、前記センサ素子の温度を前記活性温度に保持する制御を停止し、前記加熱部に供給される電圧または電流を減少させ、前記基体部の温度を前記樹脂の形状保持温度以下とする停止時制御を開始する停止時制御ステップと、
を有することを特徴とするセンサ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−189052(P2012−189052A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55602(P2011−55602)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】