センサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法およびコンリート構造物品質検査方法
【課題】コンクリート構造物へのセンサ素子の取り付け方法、並びに、既設のコンクリート構造物の良好なコンクリート構造物品質検査方法を得る。
【解決手段】 電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子10A,10B,10Cが取り付けられた棒状体の鉄筋7を予め準備し、既設のコンクリート構造物3に削孔した小径孔5に前記センサ素子10A,10B,10Cが取り付けられた鉄筋7を挿入後、前記小径孔5を充填材3aで充填する。発振素子11を前記コンクリート構造物3の外表面にあてた状態で、前記発振素子11に発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を前記センサ素子10A,10B,10Cで受振信号として検出し、その際に求められる前記発振信号と受振信号との位相差から、前記弾性波の伝播速度を算出してコンクリート構造物3の品質検査を行う。
【解決手段】 電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子10A,10B,10Cが取り付けられた棒状体の鉄筋7を予め準備し、既設のコンクリート構造物3に削孔した小径孔5に前記センサ素子10A,10B,10Cが取り付けられた鉄筋7を挿入後、前記小径孔5を充填材3aで充填する。発振素子11を前記コンクリート構造物3の外表面にあてた状態で、前記発振素子11に発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を前記センサ素子10A,10B,10Cで受振信号として検出し、その際に求められる前記発振信号と受振信号との位相差から、前記弾性波の伝播速度を算出してコンクリート構造物3の品質検査を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子の既設のコンクリート構造物への取り付け方法およびコンクリート構造物の品質(版厚、内部の剥離及び亀裂等)を非破壊で検査するコンクリート構造物品質検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設のコンクリート構造物等の品質を非破壊で検査する技術が広く知られている。
例えば、特許文献1においては、物品上に対向配置した一方の超音波プローブより放出した超音波列を他方の超音波プローブで受信し、プローブ間の離間寸法から伝播時間を測定することにより、寸法−伝播時間測定値毎に算出される超音波列の伝播速度から物品の内部欠点の有無等を検査する、いわゆる対面法と呼ばれる方法が提案されている。
また、特許文献2においては、既設コンクリート構造物の表面に配置した発信探触子及び受信探触子のいずれか一方又は双方を構造物表面に沿って移動させながらエコーの受信を行うことにより、コンクリート内の障害物の有無に関係なく版厚や内部欠陥等を正確に測定できる、いわゆる表面法と呼ばれる方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−107233号公報
【特許文献2】特開2004−184276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報で提案された検査方法は、たとえ伝播能力に優れた対面法であっても、検査対象となるコンクリート構造物が分厚い場合に、一方の超音波プローブより送信される弾性波エネルギが減衰して他方の超音波プローブで受信することができず、測定を行えないことがある。測定可能にするため、送信パワーを上げることも考えられるが、それでも限界があり、しかも、大電力化すると装置本体の大型化や製造コストの上昇、検査コストの高騰等を招く。
また、2つの超音波プローブを、測定箇所を挟んで対向配置させる対面法は、例えば測定箇所に隣接して外壁や上層階の床などが存在すると、一方の超音波プローブを当てることができず、そのため測定できないことがある。
【0005】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、センサ素子の既設のコンクリート構造物への取り付け方法を提供すること、並びに、コンクリート構造物が分厚い場合であっても、コンクリート構造物の品質検査を行うことができ、しかも測定箇所の状況に左右されず検査を行うことができるコンクリート構造物品質検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能な第1のセンサ素子が取り付けられた棒状体を準備する工程と、
既設のコンクリート構造物に小径孔を形成する工程と、
前記小径孔に前記センサ素子が取り付けられた前記棒状体を挿入し、その後、前記小径孔に充填材を充填して前記センサ素子を埋設する工程と、を含むことを特徴とするセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【0007】
上記方法によれば、既設のコンクリート構造物であっても、センサ素子が取り付けられて既設のコンクリート構造物の品質検査を行うことができる。
【0008】
(2) 前記第1のセンサ素子を前記棒状体に離間して複数配置し、一つのセンサ素子に一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を他のセンサ素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記一つのセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差とセンサ素子間の離間距離とから、前記弾性波の伝播速度を算出して、前記充填材の強度の発現を検査することを特徴とする(1)のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【0009】
上記方法によれば、小径孔に充填される充填材の強度の発現が、コンクリート内を伝播する弾性波の伝播速度を算出することで検査できる。強度の発現が確認されて、充填材が既設のコンクリート構造物と同等の強度が得られれば、センサ素子をコンクリート打設前の構造物に配置して打設後にコンクリート内に埋設した状態にして品質検査を行う場合と同等の品質検査を行うことができる。
【0010】
(3) 前記棒状体の少なくとも一部を前記小径孔の内壁に当接させて該棒状体を位置規制する工程を含み、
前記第1のセンサ素子を前記小径孔の内壁から離間して配置することを特徴とする(1)のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【0011】
上記方法によれば、センサ素子が小径孔の内壁から離間した孔中央部に配置されることにより、既設のコンクリート構造物との接触による影響を回避して、充填される充填材の強度の発現を高精度に検査することができる。
【0012】
(4) (1)乃至(3)のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法を実施するとともに、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能な第2のセンサ素子又は弾性波を発生できる発振素子あるいは弾性波を受振できる受振素子を前記コンクリート構造物の外表面に当てた状態で該第2のセンサ素子又は該発振素子又は前記第1のセンサ素子のいずれかに発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を前記第1のセンサ素子又は前記第2のセンサ素子又は前記受振素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記第2のセンサ素子又は前記発振素子又は前記第1のセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記コンクリート構造物の外表面に当てた前記第2のセンサ素子又は前記発振素子あるいは前記受振素子と前記コンクリート構造物内に配置した前記第1のセンサ素子との離間距離とから、前記弾性波の伝播速度を算出して品質検査を行うことを特徴とするコンクリート構造物品質検査方法。
【0013】
上記方法によれば、第2のセンサ素子又は発振素子又は第1のセンサ素子のいずれかに印加した発振信号と該発振信号を第1のセンサ素子又は第2のセンサ素子又は受振素子で受振して得られた受振信号との位相差と、コンクリート構造物内の第1のセンサ素子とコンクリート構造物表面の第2のセンサ素子又は発振素子又は受振素子との離間距離とに基いてコンクリート中を伝播する弾性波の速度を求め、この弾性波の速度が、健全なコンクリートでの速度に比べて著しく遅い場合、ひび割れを含む欠陥があると判定できる。すなわち、健全な既設のコンクリート構造物における伝播速度は、一般に、4000m/s前後であるが、ひび割れや欠陥等により空気層を含むと、伝播速度が半分程度に遅くなる傾向があるため、伝播速度を検出することで欠陥等の有無を検査することができる。また、欠陥等を補修した後の伝播速度を検出することで、補修の効果を確認することができる。
【0014】
(5) (1)乃至(3)のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法を、所定間隔に離間したコンクリート構造物上の位置に形成した少なくとも二つの小径孔のそれぞれに適用し、第1の小径孔に埋設したセンサ素子に発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を第2の小径孔に埋設したセンサ素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記第1の小径孔に埋設したセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記小径孔間の離間距離とから、前記弾性波の伝播速度を算出して前記既設コンクリート構造物の品質検査を行うことを特徴とするコンクリート構造物品質検査方法。
【0015】
上記方法によれば、第1の小径孔に埋設したセンサ素子に印加した発振信号と該発振信号を第2の小径孔に埋設したセンサ素子で受振して得られた受振信号との位相差と、第1、第2の小径孔間の離間距離とに基づいてコンクリート中を伝播する弾性波の伝播速度を求めるので、既設のコンクリート構造物の部材厚が大き過ぎて、コンクリート内を伝播する弾性波エネルギを例えばコンクリート上に対向配置したセンサ素子で受振できない場合でも、弾性波エネルギの受振範囲内にセンサ素子を埋設することで、弾性波の伝播速度を求めて品質検査を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、既設のコンクリート構造物であっても、また、コンクリート構造物が分厚い場合であっても、コンクリート構造物品質検査を行うことができる。また、測定箇所の状況に左右されず検査を行うことができる。さらに、コンクリート構造物が分厚すぎる場合であっても、弾性波エネルギの受振範囲内に形成した第1、第2の小径孔内にセンサ素子をそれぞれ配置することによって検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法に適用される品質検査装置の概略構成を示すブロック図である。なお、本実施の形態では、既設のコンクリート構造物における「ひび割れ」検査について述べる。
図1において、コンクリート構造物3の品質検査装置1は、「ひび割れ」を計測する欠陥検知機能を有し、この機能を実現するため、既設のコンクリート構造物3に削孔された小径孔5に挿入する3つのセンサ素子10A〜10Cと、コンクリート構造物3の表面に当てられる1つの発振素子11と、発振回路13と、受振回路14と、演算回路16と、欠陥検知情報表示回路17とを備えている。小径孔5は、測定箇所に対応してコンクリート表面に形成される。
【0018】
センサ素子10A〜10Cはいずれも同一構成を採り、図2に示すように、棒状体である細径の鉄筋7上に不図示の結束バンドを用いて所定間隔に離して固着係止される。なお、センサ素子10A〜10Cの構造について詳述はしないが、金属板に固定した圧電セラミックスを主要部とし、この圧電セラミックスをケースに収容して形成されている。
棒状体としては、鉄筋7の外に、各種ワイヤーや鋼材以外の材料を用いることもできる。また、棒状体は、断面を丸形形状に限らず、四角形や三角形とすることもできる。
【0019】
センサ素子10Aとセンサ素子10Bは、小径孔5内に充填される充填材3aの強度の発現を検知するために用いられる。また、センサ素子10Cと発振素子11はコンクリート構造物3のひび割れ検出に用いられる。
【0020】
圧電セラミックスは、電気信号の機械信号への変換及びその逆の作用が可能であり、発振素子だけでなく受振素子としても使用することができる。本実施の形態では、センサ素子10Aは発振素子として使用し、センサ素子10B,10Cは受振素子として使用する。センサ素子10A〜10Cに圧電セラミックスを使用することで装置を安価にできるとともに、精度の高い検査が可能となる。
【0021】
所定間隔に離間して鉄筋7上に配置されたセンサ素子10A〜10Cは、図3に示すように、既設のコンクリート構造物3の測定箇所に削孔した小径孔5に鉄筋7と一体に挿入される。
センサ素子10A〜10Cが挿入された小径孔5には、図4に示すように、注入ポンプ9を用いて高強度の充填材3aが充填される。
【0022】
充填された充填材3aは、強度の発現が確認されると、コンクリート構造物3と一体化したと看做される。これにより、既設のコンクリート構造物3の品質検査を行う際に、センサ素子10A〜10Cは、コンクリート打設前の構造物内に配置され打設後に構造物内に埋設されてコンクリート構造物の非破壊検査を行う場合と略同等に取り扱うことができる。
なお、充填材3aとしては、密度がコンクリートに近い、セメント系の超速硬型無収縮モルタル(例えば、太平洋マテリアル(株)『プレユーロックススーパー』)を用いることが望ましい。
【0023】
センサ素子10Aおよびセンサ素子10Bは、既述したとおり鉄筋7上に所定距離Lに隔てて配置されている。
図1に戻って、センサ素子10Aには、発振回路13から加振用信号Srが印加される。センサ素子10Bは、センサ素子10Aの加振により発生して充填材3a内を伝播する弾性波30の受振検知に用いられる。なお、センサ素子10Bは、センサ素子10Aの加振により発生した弾性波30を受振検知する外に、後述するコンクリート構造物3の「ひび割れ」を検知するために発振素子11の加振により発生し、コンクリート構造物3内を伝播する弾性波30の受振検知にも用いる。
【0024】
発振素子11は弾性波を発生させるものであり、コンクリート構造物3の「ひび割れ」を計測する際、発振回路13から加振用信号Srが印加される。センサ素子10A、10B、10Cは、発振素子11の加振により発生し、コンクリート構造物3内を伝播する弾性波30を受振検知する。
【0025】
発振回路13は一定周波数(例えば20kHzから60kHz)の正弦波の電気信号を発生して、センサ素子10A又は発振素子11を駆動する加振用信号Srを出力する。
【0026】
受振回路14は、センサ素子10Aの加振により発生し、充填材3a内を伝播する弾性波30をセンサ素子10Bで受振する。また、受振回路14は、発振素子11の加振により発生し、コンクリート構造物3内を伝播する弾性波30をセンサ素子10Cで受振する。また、センサ素子10A、10Bは、コンクリート構造物3の表面を移動させた際の発振素子11の加振によってコンクリート構造物3内を伝播する弾性波30を受振できる。受振回路14は、センサ素子10B又はセンサ素子10C、あるいはセンサ素子10Aで得られた受振信号Suを演算回路16に入力する。
【0027】
演算回路16は、マイクロコンピュータ等で構成され、センサ素子10Aに印加した加振用信号Srと、受振回路14がセンサ素子10Bで受振して得た受振信号Suとの位相差△tを求める。そして、求めた位相差△tとセンサ素子10A、センサ素子10B間の離間距離Lとから充填材3a内を伝播する弾性波30の音速(以下、伝播速度と呼ぶ)Vを算出して、充填材3aの強度の発現を検査する。
【0028】
また、演算回路16は、発振素子11に印加した加振用信号Srと、受振回路14がセンサ素子10C又はセンサ素子10B、あるいはセンサ素子10Aで受振して得た受振信号Suとの位相差△tを求め、求めた位相差△tと素子11,10C間又は素子11,10B間、あるいは素子11,11Aの離間距離L1とからコンクリート構造物3内を伝播する弾性波30の伝播速度V1を算出し、既設のコンクリート構造物3におけるひび割れの検出や欠陥等の有無を検査する。
【0029】
情報表示回路17は、図示せぬ液晶表示パネル等の表示手段を備え、演算回路16の演算結果から、充填材3aの凝結、強度の発現と、コンクリート構造物3の欠陥判定結果を可視的に表示する。
【0030】
演算回路16は、加振用信号Srと受振信号Suの位相差△tを求めた後、以下に示す式(1)を用いて充填材3aあるいはコンクリート構造物3内を伝播する伝播速度V又はV1を算出する。この場合、センサ素子10Aとセンサ素子10Bとの間の距離L、あるいは、発振素子11とセンサ素子10Cとの間の離間距離L1は既知の値であるから、容易に伝播速度V又はV1を求めることができる。
V(又はV1)=L(又はL1)/△t
【0031】
伝播速度Vが規定値に達することで、充填材3aの強度の発現が確認される。すなわち、伝播速度Vは、充填材3aの硬化前の強度が小さいとき(始発時)に遅く、硬化時の強度が大きいとき(終結時)には速くなるので、速度が遅ければ始発と判定でき、速度が速ければ終結と判定できる。このようにして充填材3aの凝結を判定することができる。
【0032】
なお、充填材3aの強度の発現は、JIS A 1108の圧縮強度試験により検査しても良い。あるいは、図5に示すように、小径孔5の開口位置に配置したシュミットハンマー20を使用して確認することもできる。
【0033】
充填材3aの強度が増進して所定の強度発現が確認された後、発振素子11をコンクリート構造物3の外表面に当ててコンクリート内部に弾性波30を印加する。これにより、演算回路16は、既述したとおり発振素子11に印加された加振用信号Srとセンサ素子10Cで受振した受振信号Suとの位相差△t、及びコンクリート構造物3の表面からセンサ素子10Cまでの距離(深さ)とに基いて弾性波30の伝播速度V1を算出し、コンクリート内における「ひび割れ」の有無を検査する。
【0034】
すなわち、健全なコンクリート構造物3における伝播速度は、一般に、4000m/s前後であるが、ひび割れや欠陥等により空気層を含むと、伝播速度が半分程度に遅くなる傾向があるため、伝播速度V1を検出することで欠陥等の有無を検査することができる。
なお、充填材3aの強度の発現で求められた伝播速度Vを、コンクリート構造物3内を伝播する弾性波30の伝播速度と看做して、欠陥検出に利用することもできる。この場合には、コンクリート構造物3の表面からセンサ素子10Cまでの距離(深さ)は設定する必要がなく、任意の距離にすることができる。
【0035】
情報表示回路17は、液晶パネル、複数個のLED(発光ダイオード)、ブザー等の表示手段や報知手段を有し、演算回路16で演算された伝播速度V又はV1や、伝播速度Vから推定された充填材3aの強度検査、伝播速度V1から推定されたコンクリート内の欠陥等の有無を液晶パネルで数値表示したり、LEDを使用して段階(レベル)表示したりすると共に、演算回路16から報知信号が入力されたときにブザーを鳴動させたり、LEDを点灯させたりする。
【0036】
なお、上記センサ素子10A〜10Cは第1のセンサ素子に対応する。また、発振素子11はセンサ素子10A,10Bと同一構成を採ることで、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能にして、発振素子だけでなく受振素子としても使用可能なセンサ素子に置き換えることもできる。この場合のセンサ素子は第2のセンサ素子に対応する。
【0037】
本実施の形態では、センサ素子10A〜10Cが取り付けられた鉄筋7を単に小径孔5に挿入するとのみ記載したが、好ましくは、センサ素子10A〜10Cは小径孔5の内壁から離間した孔中央部に配置されるように、鉄筋7である棒状体が孔内で位置規制されていると良い。
【0038】
図10,図11は、棒状体の位置規制について例示したものである。
図10は、2本の鉄筋7a,7bが、小径孔5の内径より若干狭い間隔で離間配置され、センサ素子10A〜10Cが両鉄筋7a,7bを架け渡すように取り付けられている。
図11は、1本の鉄筋7cが、小径孔5の内径より若干狭い間隔の幅で連続した山型状に折曲され、折曲された各屈曲部を小径孔5の内壁に当接させて小径孔内で位置規制されるようになっている。各センサ素子10A〜10Cは、折曲された鉄筋7cのそれぞれの中央部に取り付けられている。
【0039】
このように棒状体を小径孔5内に位置規制することにより、センサ素子10A〜10Cは小径孔5の中央部に配置されて内壁との接触が回避されることになるので、充填材3aの強度の発現を検知する際の既設のコンクリート構造物との接触による誤検出が防止される。あるいは、コンクリート構造物3の表面から各センサ素子10A〜10Cまでの距離(深さ)を安定化させて、正確なひび割れ検出を行うことができる。
【0040】
次に、本実施の形態のコンクリート構造物品質検査方法について図6に基いて説明する。
既設のコンクリート構造物3の品質検査方法を実施するには、まずコンクリート構造物3の測定箇所に小径孔5を削孔し、センサ素子10A〜10Cが取り付けられた鉄筋7を小径孔5に挿入した後、小径孔5内に充填材3aを充填する。この際、センサ素子10Aとセンサ素子10Bとの間の距離Lは予め設定(図2参照)しておく。次いで、センサ素子10Aとセンサ素子10Bとの間で発振、受振を行い、発振波形と受振波形の位相差△tとセンサ素子10A,10B間の距離Lとから伝播速度Vを計測する。
【0041】
計測された伝播速度Vに基いて充填材3aの硬化が確認されたら、続いて、センサ素子10Cに対向させてコンクリート外表面に発振素子11を接触させ、この発振素子11と、センサ素子10Cとの間で発振、受振を行い、発振波形と受振波形の位相差△tと、発振素子11及びセンサ素子10C間の距離(深さ)L1とから伝播速度V1を計測する。計測された伝播速度V1が、健全なコンクリート構造物における伝播速度に比べて著しく遅い場合には、コンクリート内に「ひび割れ:C」があると判定する。
【0042】
なお、ひび割れCを検出して、このひび割れCに対し補修工事を実施した場合、補修後に、コンクリート構造物検査方法を再び行い、補修前後における弾性波の伝播速度を比較することにより、補修の効果を確認することができる。
【0043】
このように、本実施の形態のコンクリート構造物品質検査方法によれば、既設のコンクリート構造物3に対し、後工程で形成した小径孔内にセンサ素子10A〜10Cを配置してひび割れCを計測しているので、既設のコンクリート構造物3であっても、コンクリート構造物の品質検査を行うことができる。
【0044】
また、コンクリート構造物が分厚い場合であっても、弾性波エネルギの受振範囲内にセンサ素子を埋設することで、弾性波の伝播速度が求められて品質検査を行うことができる。
さらに、従来技術においてひび割れ検査を実施する際、測定箇所に隣接して外壁や上層階の床などが存在して、二つの超音波プローブを当てることが困難な場合であっても、一つの発振素子11をコンクリート構造物3の外表面に当てることができれば、コンクリート構造物の形状の影響等を受けることなく品質検査を行うことができる。
【0045】
なお、上記の実施の形態では、鉄筋7に3個のセンサ素子10A〜10Cを取り付けて小径孔5内に配置しているが、充填材3aの強度の発現を、例えば図5に示したような他の方法、装置を用いて検出するのであれば、品質検査は、1個のセンサ素子10Cをコンクリート内に配置して行うことができる。
【0046】
また、上記の実施の形態では、発振素子11により発振した弾性波をセンサ素子10Cで受振するとしたが、既述したように、コンクリート構造物3の表面を移動させた発振素子11の加振によって発生する弾性波30をセンサ素子10A、10Bで受振して伝播速度を求めることにしても良い。特に、本実施の形態のセンサ素子10A〜10Cは異方性が無いため、前後左右上下のいずれの方向にでも均等に発振、受振することができる。また、ひび割れの検出に、センサ素子10Cを使用せずセンサ素子10A、10Bを使用すれば、製品コストを下げることができる。
【0047】
また、上記実施の形態では、「ひび割れ」を計測するだけであったが、弾性波の伝播速度は、コンクリートの圧縮強度と相関があることから、コンクリート構造物3の劣化診断を行う際の診断基準として、圧縮強度を推定することもできる。すなわち、圧縮強度が小さいときは伝播速度が小さく、圧縮強度が大きいときは伝播速度が大きくなるので、この速度関数から「コンクリートの圧縮強度」を推定して、劣化診断を行うことができる。
【0048】
また、上記実施の形態では、発振素子11は、弾性波を発生させるものであったが、センサ素子10A〜10Cと同様に、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子であっても良い。
【0049】
また、上記実施の形態では、発振素子11で発生した機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波をセンサ素子10Cで検出するとしたが、発振素子11に代えて電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子(本明細書で言う「第2のセンサ素子」)を適用して、例えば、センサ素子10Aに発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を、コンクリート外表面に当てた上記の第2のセンサ素子で検出して受振信号を取り出し、この取り出した受振信号とセンサ素子10Aに印加した発振信号との位相差を求めることもできる。
【0050】
なお、上記の実施の形態では、センサ間の位相差と伝播速度とから「ひび割れ」を計測するとしたが、コンクリート内にひび割れによる空気層が発生すると、発振波形と受振波形との位相差が著しく大きくなることから、求められた位相差だけでひび割れを推定することもできる。
【0051】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法について、図7を用いて説明する。
図7において、前述した図6と共通する部分には同一の符号を付けてその説明を省略する。
本実施の形態のコンクリート構造物品質検査方法は、既設のコンクリート構造物内に埋設したセンサ素子10A〜10Cを発振素子(電気エネルギを機械エネルギに変換する素子)として使用するとともに、コンクリート構造物3の外表面に取り付ける複数個のセンサ素子12A,12B,・・・,12Nを受振素子(機械エネルギを電気エネルギに変換する素子)として使用し、各々のセンサ素子間の離間距離を算出して、弾性波30の伝播速度を求めるようしたものである。そして、伝播速度が著しく遅い箇所ではひび割れやジャンカ(豆板)などの欠陥が生じていると推定する。
【0052】
即ち、本実施の形態のコンクリート構造物品質検査方法は、発振素子となるセンサ素子10A〜10Cに発振信号を順次印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動を発生させた発振素子と対向位置にあるセンサ素子12A,12B,・・・,12Nにて発振素子(10A〜10C)の機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を検出した受振信号を取り出して、例えばセンサ素子10Aの発振信号とセンサ素子12Aの受振信号との位相差と、センサ素子10A,12A間の距離とに基づいて弾性波の伝播速度を求める。
【0053】
これにより、コンクリート構造物3の測定箇所を一度に広範囲に検査することができる。
なお、上記の実施の形態のように、複数の測定箇所を同時に検査する場合には、各センサ素子の組に対応して演算回路16及び情報表示回路17を夫々に設ける必要はなく、マルチプレクサ等の切替え器を用いて適宜切り替えるようにする。
【0054】
なお、受振素子となるセンサ素子12A,12B,・・・,12Nをコンクリート内のセンサ素子10A又はセンサ素子10B又はセンサ素子10Cの直上に配置することで、正確な「ひび割れ」を求めることができるが、直上に配置されなくても、ヘロンの公式を用いることで、正確に「ひび割れ」を求めることができる。実際の現場では、コンクリート内のセンサ素子10A又はセンサ素子10B又はセンサ素子10Cの位置を正確に把握することができないことがあり、正確な伝播速度が求まらない。そこで、ヘロンの公式を用いることで、受振素子(12A,12B,・・・,12N)がセンサ素子10A又はセンサ素子10B又はセンサ素子10Cの直上に配置されなくとも正確に伝播速度を求めることができる。
【0055】
例えば、図8に示すように、“A”は受振素子であるセンサ素子12Aの位置、“B”は発振素子であるセンサ素子10Aの位置、“C”は発振素子であるセンサ素子10Bの位置とする。“B”と“C”との間の距離aは、センサ素子10Aとセンサ素子10Bの距離であり既知である。“A”と“C”との間の距離bは、弾性波の速度と、発振素子(10B)の発振信号と受振素子(12A)の受振信号の位相差とから求まり、また“A”と“B”との間の距離cは、弾性波の速度と、発振素子(10A)の発振信号と受振素子(12A)の受振信号の位相差とから求まる。したがって、3つの距離a、b、cからA、B、Cを各頂点とする三角形の面積Sは、ヘロンの公式より求めることができる。
【0056】
S=(s×(s−a)×(s−b)×(s−c))1/2
但し、s=1/2×(a+b+c)である。
したがって、センサ素子10A又はセンサ素子10Bの直上に配置されるべき受振素子(12A)と、センサ素子10A又はセンサ素子10Bとの正確な離間距離Lは、以下のようになる。
L=2S/a
2方向(X、Y)で両方の“L”が最小となる位置が、受振素子(12A)が配置されるべきセンサ素子10A又はセンサ素子10Bの直上となり、この距離Lから正確な伝播速度を求めて、ひび割れを計測できる。
【0057】
図9は、本発明の第3の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法を説明する図である。
図9において、先の図6と共通する部分には同一の符号を付けてその説明を省略する。
この実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法は、コンクリート構造物の部材厚が大き過ぎて、コンクリート内を伝播する弾性波エネルギを例えばコンクリート構造物の外表面に当てたセンサ素子では受振できない場合に好適となるものである。
【0058】
すなわち、この品質検査方法は、既設のコンクリート構造物3上で、所定間隔に離間して弾性波エネルギの受振範囲内となる位置に、二つの小径孔5A,5Bを削孔し、第1の小径孔5Aに埋設したセンサ素子10Aに発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を第2の小径孔5Bに埋設したセンサ素子12Aで検出し、そのときに得られる受振信号と、第1の小径孔5Aに埋設したセンサ素子10Aに印加した発振信号との位相差Δtを求め、求めた位相差Δtと小径孔5A,5B間の離間距離とから、弾性波の伝播速度Vを算出して既設コンクリート構造物3の品質検査を行う。
【0059】
これにより、測定箇所に対応させて二つの小径孔5A,5Bを削孔して発振素子及び受振素子を既設のコンクリート構造物3内に埋設することにより、コンクリート構造物の部材厚が大き過ぎても、弾性波の伝播速度を求めて品質検査を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態に適用されるコンクリート構造物品質検査装置の構成を示すブロック図である。
【図2】鉄筋に取り付けたセンサ素子の構成を示す図である。
【図3】センサ埋設用の小径孔を示す図である。
【図4】充填材を充填する様子を示す図である。
【図5】充填材の強度検査を説明する図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法を説明する図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法を説明する図である。
【図8】ヘロンの公式によりセンサ間の離間距離を求める方法を説明する図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法を説明する図である。
【図10】本発明の各実施の形態に適用される棒状体の変更例を説明する図である。
【図11】本発明の各実施の形態に適用される棒状体の他の変更例を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
1 コンクリート構造物品質検査装置
5 小径孔
5A 第1の小径孔
5B 第2の小径孔
7 鉄筋
10A,10B,10C センサ素子
11 発振素子
12A,12B,・・・,12N 受振素子
13 発振回路
14 受振回路
16 演算回路
17 情報表示回路
30 弾性波
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子の既設のコンクリート構造物への取り付け方法およびコンクリート構造物の品質(版厚、内部の剥離及び亀裂等)を非破壊で検査するコンクリート構造物品質検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設のコンクリート構造物等の品質を非破壊で検査する技術が広く知られている。
例えば、特許文献1においては、物品上に対向配置した一方の超音波プローブより放出した超音波列を他方の超音波プローブで受信し、プローブ間の離間寸法から伝播時間を測定することにより、寸法−伝播時間測定値毎に算出される超音波列の伝播速度から物品の内部欠点の有無等を検査する、いわゆる対面法と呼ばれる方法が提案されている。
また、特許文献2においては、既設コンクリート構造物の表面に配置した発信探触子及び受信探触子のいずれか一方又は双方を構造物表面に沿って移動させながらエコーの受信を行うことにより、コンクリート内の障害物の有無に関係なく版厚や内部欠陥等を正確に測定できる、いわゆる表面法と呼ばれる方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−107233号公報
【特許文献2】特開2004−184276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報で提案された検査方法は、たとえ伝播能力に優れた対面法であっても、検査対象となるコンクリート構造物が分厚い場合に、一方の超音波プローブより送信される弾性波エネルギが減衰して他方の超音波プローブで受信することができず、測定を行えないことがある。測定可能にするため、送信パワーを上げることも考えられるが、それでも限界があり、しかも、大電力化すると装置本体の大型化や製造コストの上昇、検査コストの高騰等を招く。
また、2つの超音波プローブを、測定箇所を挟んで対向配置させる対面法は、例えば測定箇所に隣接して外壁や上層階の床などが存在すると、一方の超音波プローブを当てることができず、そのため測定できないことがある。
【0005】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、センサ素子の既設のコンクリート構造物への取り付け方法を提供すること、並びに、コンクリート構造物が分厚い場合であっても、コンクリート構造物の品質検査を行うことができ、しかも測定箇所の状況に左右されず検査を行うことができるコンクリート構造物品質検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能な第1のセンサ素子が取り付けられた棒状体を準備する工程と、
既設のコンクリート構造物に小径孔を形成する工程と、
前記小径孔に前記センサ素子が取り付けられた前記棒状体を挿入し、その後、前記小径孔に充填材を充填して前記センサ素子を埋設する工程と、を含むことを特徴とするセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【0007】
上記方法によれば、既設のコンクリート構造物であっても、センサ素子が取り付けられて既設のコンクリート構造物の品質検査を行うことができる。
【0008】
(2) 前記第1のセンサ素子を前記棒状体に離間して複数配置し、一つのセンサ素子に一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を他のセンサ素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記一つのセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差とセンサ素子間の離間距離とから、前記弾性波の伝播速度を算出して、前記充填材の強度の発現を検査することを特徴とする(1)のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【0009】
上記方法によれば、小径孔に充填される充填材の強度の発現が、コンクリート内を伝播する弾性波の伝播速度を算出することで検査できる。強度の発現が確認されて、充填材が既設のコンクリート構造物と同等の強度が得られれば、センサ素子をコンクリート打設前の構造物に配置して打設後にコンクリート内に埋設した状態にして品質検査を行う場合と同等の品質検査を行うことができる。
【0010】
(3) 前記棒状体の少なくとも一部を前記小径孔の内壁に当接させて該棒状体を位置規制する工程を含み、
前記第1のセンサ素子を前記小径孔の内壁から離間して配置することを特徴とする(1)のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【0011】
上記方法によれば、センサ素子が小径孔の内壁から離間した孔中央部に配置されることにより、既設のコンクリート構造物との接触による影響を回避して、充填される充填材の強度の発現を高精度に検査することができる。
【0012】
(4) (1)乃至(3)のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法を実施するとともに、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能な第2のセンサ素子又は弾性波を発生できる発振素子あるいは弾性波を受振できる受振素子を前記コンクリート構造物の外表面に当てた状態で該第2のセンサ素子又は該発振素子又は前記第1のセンサ素子のいずれかに発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を前記第1のセンサ素子又は前記第2のセンサ素子又は前記受振素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記第2のセンサ素子又は前記発振素子又は前記第1のセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記コンクリート構造物の外表面に当てた前記第2のセンサ素子又は前記発振素子あるいは前記受振素子と前記コンクリート構造物内に配置した前記第1のセンサ素子との離間距離とから、前記弾性波の伝播速度を算出して品質検査を行うことを特徴とするコンクリート構造物品質検査方法。
【0013】
上記方法によれば、第2のセンサ素子又は発振素子又は第1のセンサ素子のいずれかに印加した発振信号と該発振信号を第1のセンサ素子又は第2のセンサ素子又は受振素子で受振して得られた受振信号との位相差と、コンクリート構造物内の第1のセンサ素子とコンクリート構造物表面の第2のセンサ素子又は発振素子又は受振素子との離間距離とに基いてコンクリート中を伝播する弾性波の速度を求め、この弾性波の速度が、健全なコンクリートでの速度に比べて著しく遅い場合、ひび割れを含む欠陥があると判定できる。すなわち、健全な既設のコンクリート構造物における伝播速度は、一般に、4000m/s前後であるが、ひび割れや欠陥等により空気層を含むと、伝播速度が半分程度に遅くなる傾向があるため、伝播速度を検出することで欠陥等の有無を検査することができる。また、欠陥等を補修した後の伝播速度を検出することで、補修の効果を確認することができる。
【0014】
(5) (1)乃至(3)のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法を、所定間隔に離間したコンクリート構造物上の位置に形成した少なくとも二つの小径孔のそれぞれに適用し、第1の小径孔に埋設したセンサ素子に発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を第2の小径孔に埋設したセンサ素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記第1の小径孔に埋設したセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記小径孔間の離間距離とから、前記弾性波の伝播速度を算出して前記既設コンクリート構造物の品質検査を行うことを特徴とするコンクリート構造物品質検査方法。
【0015】
上記方法によれば、第1の小径孔に埋設したセンサ素子に印加した発振信号と該発振信号を第2の小径孔に埋設したセンサ素子で受振して得られた受振信号との位相差と、第1、第2の小径孔間の離間距離とに基づいてコンクリート中を伝播する弾性波の伝播速度を求めるので、既設のコンクリート構造物の部材厚が大き過ぎて、コンクリート内を伝播する弾性波エネルギを例えばコンクリート上に対向配置したセンサ素子で受振できない場合でも、弾性波エネルギの受振範囲内にセンサ素子を埋設することで、弾性波の伝播速度を求めて品質検査を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、既設のコンクリート構造物であっても、また、コンクリート構造物が分厚い場合であっても、コンクリート構造物品質検査を行うことができる。また、測定箇所の状況に左右されず検査を行うことができる。さらに、コンクリート構造物が分厚すぎる場合であっても、弾性波エネルギの受振範囲内に形成した第1、第2の小径孔内にセンサ素子をそれぞれ配置することによって検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法に適用される品質検査装置の概略構成を示すブロック図である。なお、本実施の形態では、既設のコンクリート構造物における「ひび割れ」検査について述べる。
図1において、コンクリート構造物3の品質検査装置1は、「ひび割れ」を計測する欠陥検知機能を有し、この機能を実現するため、既設のコンクリート構造物3に削孔された小径孔5に挿入する3つのセンサ素子10A〜10Cと、コンクリート構造物3の表面に当てられる1つの発振素子11と、発振回路13と、受振回路14と、演算回路16と、欠陥検知情報表示回路17とを備えている。小径孔5は、測定箇所に対応してコンクリート表面に形成される。
【0018】
センサ素子10A〜10Cはいずれも同一構成を採り、図2に示すように、棒状体である細径の鉄筋7上に不図示の結束バンドを用いて所定間隔に離して固着係止される。なお、センサ素子10A〜10Cの構造について詳述はしないが、金属板に固定した圧電セラミックスを主要部とし、この圧電セラミックスをケースに収容して形成されている。
棒状体としては、鉄筋7の外に、各種ワイヤーや鋼材以外の材料を用いることもできる。また、棒状体は、断面を丸形形状に限らず、四角形や三角形とすることもできる。
【0019】
センサ素子10Aとセンサ素子10Bは、小径孔5内に充填される充填材3aの強度の発現を検知するために用いられる。また、センサ素子10Cと発振素子11はコンクリート構造物3のひび割れ検出に用いられる。
【0020】
圧電セラミックスは、電気信号の機械信号への変換及びその逆の作用が可能であり、発振素子だけでなく受振素子としても使用することができる。本実施の形態では、センサ素子10Aは発振素子として使用し、センサ素子10B,10Cは受振素子として使用する。センサ素子10A〜10Cに圧電セラミックスを使用することで装置を安価にできるとともに、精度の高い検査が可能となる。
【0021】
所定間隔に離間して鉄筋7上に配置されたセンサ素子10A〜10Cは、図3に示すように、既設のコンクリート構造物3の測定箇所に削孔した小径孔5に鉄筋7と一体に挿入される。
センサ素子10A〜10Cが挿入された小径孔5には、図4に示すように、注入ポンプ9を用いて高強度の充填材3aが充填される。
【0022】
充填された充填材3aは、強度の発現が確認されると、コンクリート構造物3と一体化したと看做される。これにより、既設のコンクリート構造物3の品質検査を行う際に、センサ素子10A〜10Cは、コンクリート打設前の構造物内に配置され打設後に構造物内に埋設されてコンクリート構造物の非破壊検査を行う場合と略同等に取り扱うことができる。
なお、充填材3aとしては、密度がコンクリートに近い、セメント系の超速硬型無収縮モルタル(例えば、太平洋マテリアル(株)『プレユーロックススーパー』)を用いることが望ましい。
【0023】
センサ素子10Aおよびセンサ素子10Bは、既述したとおり鉄筋7上に所定距離Lに隔てて配置されている。
図1に戻って、センサ素子10Aには、発振回路13から加振用信号Srが印加される。センサ素子10Bは、センサ素子10Aの加振により発生して充填材3a内を伝播する弾性波30の受振検知に用いられる。なお、センサ素子10Bは、センサ素子10Aの加振により発生した弾性波30を受振検知する外に、後述するコンクリート構造物3の「ひび割れ」を検知するために発振素子11の加振により発生し、コンクリート構造物3内を伝播する弾性波30の受振検知にも用いる。
【0024】
発振素子11は弾性波を発生させるものであり、コンクリート構造物3の「ひび割れ」を計測する際、発振回路13から加振用信号Srが印加される。センサ素子10A、10B、10Cは、発振素子11の加振により発生し、コンクリート構造物3内を伝播する弾性波30を受振検知する。
【0025】
発振回路13は一定周波数(例えば20kHzから60kHz)の正弦波の電気信号を発生して、センサ素子10A又は発振素子11を駆動する加振用信号Srを出力する。
【0026】
受振回路14は、センサ素子10Aの加振により発生し、充填材3a内を伝播する弾性波30をセンサ素子10Bで受振する。また、受振回路14は、発振素子11の加振により発生し、コンクリート構造物3内を伝播する弾性波30をセンサ素子10Cで受振する。また、センサ素子10A、10Bは、コンクリート構造物3の表面を移動させた際の発振素子11の加振によってコンクリート構造物3内を伝播する弾性波30を受振できる。受振回路14は、センサ素子10B又はセンサ素子10C、あるいはセンサ素子10Aで得られた受振信号Suを演算回路16に入力する。
【0027】
演算回路16は、マイクロコンピュータ等で構成され、センサ素子10Aに印加した加振用信号Srと、受振回路14がセンサ素子10Bで受振して得た受振信号Suとの位相差△tを求める。そして、求めた位相差△tとセンサ素子10A、センサ素子10B間の離間距離Lとから充填材3a内を伝播する弾性波30の音速(以下、伝播速度と呼ぶ)Vを算出して、充填材3aの強度の発現を検査する。
【0028】
また、演算回路16は、発振素子11に印加した加振用信号Srと、受振回路14がセンサ素子10C又はセンサ素子10B、あるいはセンサ素子10Aで受振して得た受振信号Suとの位相差△tを求め、求めた位相差△tと素子11,10C間又は素子11,10B間、あるいは素子11,11Aの離間距離L1とからコンクリート構造物3内を伝播する弾性波30の伝播速度V1を算出し、既設のコンクリート構造物3におけるひび割れの検出や欠陥等の有無を検査する。
【0029】
情報表示回路17は、図示せぬ液晶表示パネル等の表示手段を備え、演算回路16の演算結果から、充填材3aの凝結、強度の発現と、コンクリート構造物3の欠陥判定結果を可視的に表示する。
【0030】
演算回路16は、加振用信号Srと受振信号Suの位相差△tを求めた後、以下に示す式(1)を用いて充填材3aあるいはコンクリート構造物3内を伝播する伝播速度V又はV1を算出する。この場合、センサ素子10Aとセンサ素子10Bとの間の距離L、あるいは、発振素子11とセンサ素子10Cとの間の離間距離L1は既知の値であるから、容易に伝播速度V又はV1を求めることができる。
V(又はV1)=L(又はL1)/△t
【0031】
伝播速度Vが規定値に達することで、充填材3aの強度の発現が確認される。すなわち、伝播速度Vは、充填材3aの硬化前の強度が小さいとき(始発時)に遅く、硬化時の強度が大きいとき(終結時)には速くなるので、速度が遅ければ始発と判定でき、速度が速ければ終結と判定できる。このようにして充填材3aの凝結を判定することができる。
【0032】
なお、充填材3aの強度の発現は、JIS A 1108の圧縮強度試験により検査しても良い。あるいは、図5に示すように、小径孔5の開口位置に配置したシュミットハンマー20を使用して確認することもできる。
【0033】
充填材3aの強度が増進して所定の強度発現が確認された後、発振素子11をコンクリート構造物3の外表面に当ててコンクリート内部に弾性波30を印加する。これにより、演算回路16は、既述したとおり発振素子11に印加された加振用信号Srとセンサ素子10Cで受振した受振信号Suとの位相差△t、及びコンクリート構造物3の表面からセンサ素子10Cまでの距離(深さ)とに基いて弾性波30の伝播速度V1を算出し、コンクリート内における「ひび割れ」の有無を検査する。
【0034】
すなわち、健全なコンクリート構造物3における伝播速度は、一般に、4000m/s前後であるが、ひび割れや欠陥等により空気層を含むと、伝播速度が半分程度に遅くなる傾向があるため、伝播速度V1を検出することで欠陥等の有無を検査することができる。
なお、充填材3aの強度の発現で求められた伝播速度Vを、コンクリート構造物3内を伝播する弾性波30の伝播速度と看做して、欠陥検出に利用することもできる。この場合には、コンクリート構造物3の表面からセンサ素子10Cまでの距離(深さ)は設定する必要がなく、任意の距離にすることができる。
【0035】
情報表示回路17は、液晶パネル、複数個のLED(発光ダイオード)、ブザー等の表示手段や報知手段を有し、演算回路16で演算された伝播速度V又はV1や、伝播速度Vから推定された充填材3aの強度検査、伝播速度V1から推定されたコンクリート内の欠陥等の有無を液晶パネルで数値表示したり、LEDを使用して段階(レベル)表示したりすると共に、演算回路16から報知信号が入力されたときにブザーを鳴動させたり、LEDを点灯させたりする。
【0036】
なお、上記センサ素子10A〜10Cは第1のセンサ素子に対応する。また、発振素子11はセンサ素子10A,10Bと同一構成を採ることで、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能にして、発振素子だけでなく受振素子としても使用可能なセンサ素子に置き換えることもできる。この場合のセンサ素子は第2のセンサ素子に対応する。
【0037】
本実施の形態では、センサ素子10A〜10Cが取り付けられた鉄筋7を単に小径孔5に挿入するとのみ記載したが、好ましくは、センサ素子10A〜10Cは小径孔5の内壁から離間した孔中央部に配置されるように、鉄筋7である棒状体が孔内で位置規制されていると良い。
【0038】
図10,図11は、棒状体の位置規制について例示したものである。
図10は、2本の鉄筋7a,7bが、小径孔5の内径より若干狭い間隔で離間配置され、センサ素子10A〜10Cが両鉄筋7a,7bを架け渡すように取り付けられている。
図11は、1本の鉄筋7cが、小径孔5の内径より若干狭い間隔の幅で連続した山型状に折曲され、折曲された各屈曲部を小径孔5の内壁に当接させて小径孔内で位置規制されるようになっている。各センサ素子10A〜10Cは、折曲された鉄筋7cのそれぞれの中央部に取り付けられている。
【0039】
このように棒状体を小径孔5内に位置規制することにより、センサ素子10A〜10Cは小径孔5の中央部に配置されて内壁との接触が回避されることになるので、充填材3aの強度の発現を検知する際の既設のコンクリート構造物との接触による誤検出が防止される。あるいは、コンクリート構造物3の表面から各センサ素子10A〜10Cまでの距離(深さ)を安定化させて、正確なひび割れ検出を行うことができる。
【0040】
次に、本実施の形態のコンクリート構造物品質検査方法について図6に基いて説明する。
既設のコンクリート構造物3の品質検査方法を実施するには、まずコンクリート構造物3の測定箇所に小径孔5を削孔し、センサ素子10A〜10Cが取り付けられた鉄筋7を小径孔5に挿入した後、小径孔5内に充填材3aを充填する。この際、センサ素子10Aとセンサ素子10Bとの間の距離Lは予め設定(図2参照)しておく。次いで、センサ素子10Aとセンサ素子10Bとの間で発振、受振を行い、発振波形と受振波形の位相差△tとセンサ素子10A,10B間の距離Lとから伝播速度Vを計測する。
【0041】
計測された伝播速度Vに基いて充填材3aの硬化が確認されたら、続いて、センサ素子10Cに対向させてコンクリート外表面に発振素子11を接触させ、この発振素子11と、センサ素子10Cとの間で発振、受振を行い、発振波形と受振波形の位相差△tと、発振素子11及びセンサ素子10C間の距離(深さ)L1とから伝播速度V1を計測する。計測された伝播速度V1が、健全なコンクリート構造物における伝播速度に比べて著しく遅い場合には、コンクリート内に「ひび割れ:C」があると判定する。
【0042】
なお、ひび割れCを検出して、このひび割れCに対し補修工事を実施した場合、補修後に、コンクリート構造物検査方法を再び行い、補修前後における弾性波の伝播速度を比較することにより、補修の効果を確認することができる。
【0043】
このように、本実施の形態のコンクリート構造物品質検査方法によれば、既設のコンクリート構造物3に対し、後工程で形成した小径孔内にセンサ素子10A〜10Cを配置してひび割れCを計測しているので、既設のコンクリート構造物3であっても、コンクリート構造物の品質検査を行うことができる。
【0044】
また、コンクリート構造物が分厚い場合であっても、弾性波エネルギの受振範囲内にセンサ素子を埋設することで、弾性波の伝播速度が求められて品質検査を行うことができる。
さらに、従来技術においてひび割れ検査を実施する際、測定箇所に隣接して外壁や上層階の床などが存在して、二つの超音波プローブを当てることが困難な場合であっても、一つの発振素子11をコンクリート構造物3の外表面に当てることができれば、コンクリート構造物の形状の影響等を受けることなく品質検査を行うことができる。
【0045】
なお、上記の実施の形態では、鉄筋7に3個のセンサ素子10A〜10Cを取り付けて小径孔5内に配置しているが、充填材3aの強度の発現を、例えば図5に示したような他の方法、装置を用いて検出するのであれば、品質検査は、1個のセンサ素子10Cをコンクリート内に配置して行うことができる。
【0046】
また、上記の実施の形態では、発振素子11により発振した弾性波をセンサ素子10Cで受振するとしたが、既述したように、コンクリート構造物3の表面を移動させた発振素子11の加振によって発生する弾性波30をセンサ素子10A、10Bで受振して伝播速度を求めることにしても良い。特に、本実施の形態のセンサ素子10A〜10Cは異方性が無いため、前後左右上下のいずれの方向にでも均等に発振、受振することができる。また、ひび割れの検出に、センサ素子10Cを使用せずセンサ素子10A、10Bを使用すれば、製品コストを下げることができる。
【0047】
また、上記実施の形態では、「ひび割れ」を計測するだけであったが、弾性波の伝播速度は、コンクリートの圧縮強度と相関があることから、コンクリート構造物3の劣化診断を行う際の診断基準として、圧縮強度を推定することもできる。すなわち、圧縮強度が小さいときは伝播速度が小さく、圧縮強度が大きいときは伝播速度が大きくなるので、この速度関数から「コンクリートの圧縮強度」を推定して、劣化診断を行うことができる。
【0048】
また、上記実施の形態では、発振素子11は、弾性波を発生させるものであったが、センサ素子10A〜10Cと同様に、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子であっても良い。
【0049】
また、上記実施の形態では、発振素子11で発生した機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波をセンサ素子10Cで検出するとしたが、発振素子11に代えて電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能なセンサ素子(本明細書で言う「第2のセンサ素子」)を適用して、例えば、センサ素子10Aに発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を、コンクリート外表面に当てた上記の第2のセンサ素子で検出して受振信号を取り出し、この取り出した受振信号とセンサ素子10Aに印加した発振信号との位相差を求めることもできる。
【0050】
なお、上記の実施の形態では、センサ間の位相差と伝播速度とから「ひび割れ」を計測するとしたが、コンクリート内にひび割れによる空気層が発生すると、発振波形と受振波形との位相差が著しく大きくなることから、求められた位相差だけでひび割れを推定することもできる。
【0051】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法について、図7を用いて説明する。
図7において、前述した図6と共通する部分には同一の符号を付けてその説明を省略する。
本実施の形態のコンクリート構造物品質検査方法は、既設のコンクリート構造物内に埋設したセンサ素子10A〜10Cを発振素子(電気エネルギを機械エネルギに変換する素子)として使用するとともに、コンクリート構造物3の外表面に取り付ける複数個のセンサ素子12A,12B,・・・,12Nを受振素子(機械エネルギを電気エネルギに変換する素子)として使用し、各々のセンサ素子間の離間距離を算出して、弾性波30の伝播速度を求めるようしたものである。そして、伝播速度が著しく遅い箇所ではひび割れやジャンカ(豆板)などの欠陥が生じていると推定する。
【0052】
即ち、本実施の形態のコンクリート構造物品質検査方法は、発振素子となるセンサ素子10A〜10Cに発振信号を順次印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動を発生させた発振素子と対向位置にあるセンサ素子12A,12B,・・・,12Nにて発振素子(10A〜10C)の機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を検出した受振信号を取り出して、例えばセンサ素子10Aの発振信号とセンサ素子12Aの受振信号との位相差と、センサ素子10A,12A間の距離とに基づいて弾性波の伝播速度を求める。
【0053】
これにより、コンクリート構造物3の測定箇所を一度に広範囲に検査することができる。
なお、上記の実施の形態のように、複数の測定箇所を同時に検査する場合には、各センサ素子の組に対応して演算回路16及び情報表示回路17を夫々に設ける必要はなく、マルチプレクサ等の切替え器を用いて適宜切り替えるようにする。
【0054】
なお、受振素子となるセンサ素子12A,12B,・・・,12Nをコンクリート内のセンサ素子10A又はセンサ素子10B又はセンサ素子10Cの直上に配置することで、正確な「ひび割れ」を求めることができるが、直上に配置されなくても、ヘロンの公式を用いることで、正確に「ひび割れ」を求めることができる。実際の現場では、コンクリート内のセンサ素子10A又はセンサ素子10B又はセンサ素子10Cの位置を正確に把握することができないことがあり、正確な伝播速度が求まらない。そこで、ヘロンの公式を用いることで、受振素子(12A,12B,・・・,12N)がセンサ素子10A又はセンサ素子10B又はセンサ素子10Cの直上に配置されなくとも正確に伝播速度を求めることができる。
【0055】
例えば、図8に示すように、“A”は受振素子であるセンサ素子12Aの位置、“B”は発振素子であるセンサ素子10Aの位置、“C”は発振素子であるセンサ素子10Bの位置とする。“B”と“C”との間の距離aは、センサ素子10Aとセンサ素子10Bの距離であり既知である。“A”と“C”との間の距離bは、弾性波の速度と、発振素子(10B)の発振信号と受振素子(12A)の受振信号の位相差とから求まり、また“A”と“B”との間の距離cは、弾性波の速度と、発振素子(10A)の発振信号と受振素子(12A)の受振信号の位相差とから求まる。したがって、3つの距離a、b、cからA、B、Cを各頂点とする三角形の面積Sは、ヘロンの公式より求めることができる。
【0056】
S=(s×(s−a)×(s−b)×(s−c))1/2
但し、s=1/2×(a+b+c)である。
したがって、センサ素子10A又はセンサ素子10Bの直上に配置されるべき受振素子(12A)と、センサ素子10A又はセンサ素子10Bとの正確な離間距離Lは、以下のようになる。
L=2S/a
2方向(X、Y)で両方の“L”が最小となる位置が、受振素子(12A)が配置されるべきセンサ素子10A又はセンサ素子10Bの直上となり、この距離Lから正確な伝播速度を求めて、ひび割れを計測できる。
【0057】
図9は、本発明の第3の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法を説明する図である。
図9において、先の図6と共通する部分には同一の符号を付けてその説明を省略する。
この実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法は、コンクリート構造物の部材厚が大き過ぎて、コンクリート内を伝播する弾性波エネルギを例えばコンクリート構造物の外表面に当てたセンサ素子では受振できない場合に好適となるものである。
【0058】
すなわち、この品質検査方法は、既設のコンクリート構造物3上で、所定間隔に離間して弾性波エネルギの受振範囲内となる位置に、二つの小径孔5A,5Bを削孔し、第1の小径孔5Aに埋設したセンサ素子10Aに発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を第2の小径孔5Bに埋設したセンサ素子12Aで検出し、そのときに得られる受振信号と、第1の小径孔5Aに埋設したセンサ素子10Aに印加した発振信号との位相差Δtを求め、求めた位相差Δtと小径孔5A,5B間の離間距離とから、弾性波の伝播速度Vを算出して既設コンクリート構造物3の品質検査を行う。
【0059】
これにより、測定箇所に対応させて二つの小径孔5A,5Bを削孔して発振素子及び受振素子を既設のコンクリート構造物3内に埋設することにより、コンクリート構造物の部材厚が大き過ぎても、弾性波の伝播速度を求めて品質検査を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態に適用されるコンクリート構造物品質検査装置の構成を示すブロック図である。
【図2】鉄筋に取り付けたセンサ素子の構成を示す図である。
【図3】センサ埋設用の小径孔を示す図である。
【図4】充填材を充填する様子を示す図である。
【図5】充填材の強度検査を説明する図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法を説明する図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法を説明する図である。
【図8】ヘロンの公式によりセンサ間の離間距離を求める方法を説明する図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るコンクリート構造物品質検査方法を説明する図である。
【図10】本発明の各実施の形態に適用される棒状体の変更例を説明する図である。
【図11】本発明の各実施の形態に適用される棒状体の他の変更例を説明する図である。
【符号の説明】
【0061】
1 コンクリート構造物品質検査装置
5 小径孔
5A 第1の小径孔
5B 第2の小径孔
7 鉄筋
10A,10B,10C センサ素子
11 発振素子
12A,12B,・・・,12N 受振素子
13 発振回路
14 受振回路
16 演算回路
17 情報表示回路
30 弾性波
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能な第1のセンサ素子が取り付けられた棒状体を準備する工程と、
既設のコンクリート構造物に小径孔を形成する工程と、
前記小径孔に前記センサ素子が取り付けられた前記棒状体を挿入し、その後、前記小径孔に充填材を充填して前記センサ素子を埋設する工程と、を含むことを特徴とするセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【請求項2】
前記第1のセンサ素子を前記棒状体に離間して複数配置し、一つのセンサ素子に一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を他のセンサ素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記一つのセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差とセンサ素子間の離間距離とから、前記弾性波の弾性速度を算出して、前記充填材の強度の発現を検査することを特徴とする請求項1に記載のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【請求項3】
前記棒状体の少なくとも一部を前記小径孔の内壁に当接させて該棒状体を位置規制する工程を含み、
前記第1のセンサ素子を前記小径孔の内壁から離間して配置することを特徴とする請求項1に記載のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法を実施するとともに、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能な第2のセンサ素子又は弾性波を発生できる発振素子あるいは弾性波を受振できる受振素子を前記コンクリート構造物の外表面に当てた状態で該第2のセンサ素子又は該発振素子又は前記第1のセンサ素子のいずれかに発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を前記第1のセンサ素子又は前記第2のセンサ素子又は前記受振素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記第2のセンサ素子又は前記発振素子又は前記第1のセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記コンクリート構造物の外表面に当てた前記第2のセンサ素子又は前記発振素子あるいは前記受振素子と前記コンクリート構造物内に配置した前記第1のセンサ素子との離間距離とから、前記弾性波の弾性速度を算出して品質検査を行うことを特徴とするコンクリート構造物品質検査方法。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法を、所定間隔に離間したコンクリート構造物上の位置に形成した少なくとも二つの小径孔のそれぞれに適用し、第1の小径孔に埋設したセンサ素子に発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を第2の小径孔に埋設したセンサ素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記第1の小径孔に埋設したセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記小径孔間の離間距離とから、前記弾性波の伝播速度を算出して品質検査を行うことを特徴とするコンクリート構造物品質検査方法。
【請求項1】
電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能な第1のセンサ素子が取り付けられた棒状体を準備する工程と、
既設のコンクリート構造物に小径孔を形成する工程と、
前記小径孔に前記センサ素子が取り付けられた前記棒状体を挿入し、その後、前記小径孔に充填材を充填して前記センサ素子を埋設する工程と、を含むことを特徴とするセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【請求項2】
前記第1のセンサ素子を前記棒状体に離間して複数配置し、一つのセンサ素子に一定の周波数の発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を他のセンサ素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記一つのセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差とセンサ素子間の離間距離とから、前記弾性波の弾性速度を算出して、前記充填材の強度の発現を検査することを特徴とする請求項1に記載のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【請求項3】
前記棒状体の少なくとも一部を前記小径孔の内壁に当接させて該棒状体を位置規制する工程を含み、
前記第1のセンサ素子を前記小径孔の内壁から離間して配置することを特徴とする請求項1に記載のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法を実施するとともに、電気エネルギと機械エネルギを可逆的に変換可能な第2のセンサ素子又は弾性波を発生できる発振素子あるいは弾性波を受振できる受振素子を前記コンクリート構造物の外表面に当てた状態で該第2のセンサ素子又は該発振素子又は前記第1のセンサ素子のいずれかに発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を前記第1のセンサ素子又は前記第2のセンサ素子又は前記受振素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記第2のセンサ素子又は前記発振素子又は前記第1のセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記コンクリート構造物の外表面に当てた前記第2のセンサ素子又は前記発振素子あるいは前記受振素子と前記コンクリート構造物内に配置した前記第1のセンサ素子との離間距離とから、前記弾性波の弾性速度を算出して品質検査を行うことを特徴とするコンクリート構造物品質検査方法。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載のセンサ素子のコンクリート構造物への取り付け方法を、所定間隔に離間したコンクリート構造物上の位置に形成した少なくとも二つの小径孔のそれぞれに適用し、第1の小径孔に埋設したセンサ素子に発振信号を印加して機械的振動を発生させ、この機械的振動によりコンクリート内を伝播する弾性波を第2の小径孔に埋設したセンサ素子で検出し、そのときに得られる受振信号と前記第1の小径孔に埋設したセンサ素子に印加した発振信号との位相差を求め、求めた位相差と前記小径孔間の離間距離とから、前記弾性波の伝播速度を算出して品質検査を行うことを特徴とするコンクリート構造物品質検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−66154(P2010−66154A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233484(P2008−233484)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】
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