説明

ソイルセメント杭,ソイルセメント杭の施工方法

【課題】H形鋼や角形鋼材をソイルセメント杭の芯材として用いて,円形鋼管を用いた場合よりも,少ない鋼材量及び杭設置本数で同等以上の断面性能を実現して,高い支持力を発揮可能なソイルセメント杭を提供すること。
【解決手段】本発明によれば,複数本のH形鋼20を相互に略平行となるよう接合鋼板30により接合して組み立てられた鋼杭アセンブリ10を,地盤に造成された固化前のソイルセメント柱中に建て込んで構築されることを特徴とする,ソイルセメント杭が提供される。この鋼杭アセンブリ10は,従来の円形鋼管と比べて断面性能に優れるため,かかる鋼杭アセンブリ10を芯材としてソイルセメント杭を構築すれば,同一の水平・鉛直支持力を得るために必要な鋼材量,及び杭設置本数を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,土木建築分野におけるソイルセメントを利用した杭工法に用いられるソイルセメント杭と,その施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鋼製杭基礎として,打撃杭工法,中堀り杭工法,鋼管ソイルセメント杭工法などがある。これらの杭工法では,打撃杭の一部にH形鋼を用いる場合はあるものの,大半の場合には,鋼管杭が用いられる。
【0003】
H形鋼が支持杭として使用されない理由としては,(1)上記各杭工法がオーガー掘削機をベースに開発されていること(特許文献1参照),(2)鋼管杭は,どの方向からの外力に対しても同一の断面性能を有するのに対し,H形鋼は,外力の方向に応じて断面性能が異なり,強軸方向(ウェブに対して平行方向)に比べて弱軸方向(ウェブに対して直角方向)の断面性能が極端に低いため,地震や台風時に作用する多様な方向の水平力への対応が困難であること,などが挙げられる。
【0004】
また,地中連続壁を支持杭とする地中連続壁基礎工法は,地盤を安定液掘削してから,H形鋼と鉄筋かごを組み合わせた構造の部材を建て込み,コンクリートを打設して,地下壁,支持杭とするものであり,構造部材としてH形鋼は相互に接合されておらず,またソイルセメント中に建て込むものではなかった(特許文献2参照)。また,別の観点からは,壁状掘削機を用いてソイルセメント中にH形鋼を建て込むソイルセメント連続壁工法があるが,このソイルセメント連続壁工法では,杭として用いるものではなく,また構造部材としてH形鋼は相互に接合されていなかった(非特許文献1)
【0005】
【特許文献1】特開平4−209206号公報
【特許文献2】特開平6−193050号公報
【非特許文献1】“地球に優しいソイルセメント連続壁工法”,[online],平成13年1月18日,鹿島建設株式会社,「平成17年10月12日検索」,インターネット<http://www.kajima.co.jp/news/press/200101/18c1fo-j.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような従来の鋼製杭基礎のうち,打撃杭工法では,騒音振動を発生し都市部では使用できないという問題があり,また,中掘り鋼管杭工法では,周面支持力が小さいという問題があった。そこで,環境面及び周面支持力の大きさの観点からは,鋼管ソイルセメント杭工法に優位性があるが,従来の鋼管ソイルセメント杭の芯材としては,上記のように,円形鋼管が使用されることが一般的であり,H形鋼が使用されることはなかった。
【0007】
ところが,従来から一般的に用いられている円形鋼管を芯材として使用した場合には,H形鋼や角形鋼管を使用した場合と比べて,同一の断面性能を得て高い支持力を発揮するためには,多くの鋼材量と杭設置本数を必要とするという問題があった。
【0008】
例えば,壁状掘削機を用いて地盤を掘削して芯材を建て込む場合に,円形鋼管を芯材として使用すると,鋼材量と杭設置本数の面で不利であった。つまり,オーガー掘削機は,硬質地盤には適用困難な場合が多く,先行削孔等の併用工法が必要となるのに対し,壁状掘削機は,硬質地盤にも適用可能である。ところが,この壁状掘削機を用いて地盤を壁状掘削する場合,芯材の梁高さが制限されるため,円形鋼管を芯材として使用した場合には,H形鋼を使用した場合と比べて,同一の断面性能を得て高い支持力を発揮するためには,多くの鋼材量及と杭設置本数が必要になるという問題があった。
【0009】
そこで,本発明は,上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,H形鋼や角形鋼材を巧みに組み合わせた鋼杭アセンブリをソイルセメント杭の芯材として用いることで,円形鋼管を用いた場合よりも,少ない鋼材量及び杭設置本数で同等以上の断面性能を実現して高い支持力を発揮することが可能な,新規かつ改良されたソイルセメント杭,及びその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,複数本のH形鋼又は角形鋼管を相互に略平行となるよう接合鋼板により接合して組み立てられた鋼杭アセンブリを,地盤に造成された固化前のソイルセメント柱中に建て込んで構築されることを特徴とする,ソイルセメント杭が提供される。
【0011】
かかる構成により,複数のH形鋼又は角形鋼管を組み合わせた鋼杭アセンブリを芯材としたソイルセメント杭が構築される。この鋼杭アセンブリは,従来の円形鋼管と比べて断面性能に優れるため,かかる鋼杭アセンブリを芯材としてソイルセメント杭を構築すれば,同一の水平・鉛直支持力を得るために必要な鋼材量,及び杭設置本数を低減できる。よって,求められる支持力を達成可能なソイルセメント杭を,少ない鋼材量,少ない杭設置本数,少ない施工コストで,合理的かつ経済的に構築できる。
【0012】
また,上記鋼杭アセンブリは,複数本のH形鋼又は角形鋼管の軸方向の一部を相互に,接合鋼板により接合して組み立てられるようにしてもよい。これにより,H形鋼や角形鋼管の全体を接合鋼板により連続して接合するのではなく,必要部分のみを接合鋼板により部分的に接合できるので,接合鋼板の鋼材量,加工手間及び加工コストを低減できる。
【0013】
また,上記接合鋼板は,複数本のH形鋼又は角形鋼管の杭頭部を相互に接合するようにしてもよい。これにより,H形鋼や角形鋼管の杭頭部を接合鋼板により相互に接合するので,鋼杭アセンブリは,地震時等に杭頭部に作用する水平力に対して,高い水平支持力を発揮できる。
【0014】
また,上記鋼杭アセンブリは,複数本のH形鋼又は角形鋼管の杭先端部を相互に接合する先端補強鋼板をさらに有するようにしてもよい。これにより,H形鋼や角形鋼管の杭先端部を先端補強鋼板により相互に接合するので,杭先端部における鋼杭アセンブリとソイルセメント柱との接触面積を増加できるとともに,H形鋼等と先端補強鋼板により囲まれた閉鎖断面を形成して,鋼杭アセンブリによるソイルセメントの拘束力を高めることができるので,高い先端支持力を得ることができる。
【0015】
また,上記鋼杭アセンブリは,複数本のH形鋼をウェブに対して直角方向(H形鋼の弱軸方向)に並列配置し,当該複数本のH形鋼の各フランジを相互に接合鋼板により接合して組み立てられるようにしてもよい。これにより,H形鋼を用いて鋼杭アセンブリを構成した場合に,H形鋼を弱軸方向に連結することによって,水平力に対するH形鋼の弱軸方向耐力を大幅に向上できる。
【0016】
また,上記鋼杭アセンブリは,複数のH形鋼又は角形鋼管を,接合鋼板に加えて接合用線材により接合して組み立てられ,上記接合用線材は,複数のH形鋼又は角形鋼管,或いは接合鋼板に,複数のH形鋼又は角形鋼管の軸方向に対して略平行,略直角若しくは斜め方向に取り付けられるようにしてもよい。これにより,複数のH形鋼又は角形鋼管をさらに強固に接合できるとともに,鋼杭アセンブリの周面摩擦力を増強できる。
【0017】
また,上記鋼杭アセンブリには,ソイルセメント柱に対する周面摩擦力を増加させるための周面摩擦力増強手段が設けられるようにしてもよい。例えば,この周面摩擦力増強手段は,各H形鋼若しくは各角形鋼管の少なくとも一部に施された孔空け加工;各H形鋼若しくは各角形鋼管の表面に突出形成された複数の凸部;又は,各H形鋼若しくは各角形鋼管の表面に取り付けられた1又は2以上の線材;の少なくともいずれかを含むようにしてもよい。上記孔空け加工により,鋼杭アセンブリに形成された複数の孔内にソイルセメントが進入して固化するので,ソイルセメント柱に対する鋼杭アセンブリの周面摩擦力を高めることができる。また,鋼杭アセンブリに形成された複数の凸部または1又は2以上の線材と,固化したソイルセメントが干渉するので,ソイルセメント柱に対する鋼杭アセンブリの周面摩擦力を高めることができる。
【0018】
また,鋼杭アセンブリの杭先端部には,ソイルセメント杭の先端支持力を増加させるための先端支持力増強手段が設けられるようにしてもよい。例えば,この先端支持力増強手段は,複数本のH形鋼又は角形鋼管の杭先端部を相互に接合する先端補強鋼板;鋼杭アセンブリの杭先端部において,各H形鋼又は各角形鋼管に取り付けられた断面略コの字形の鋼板;各H形鋼若しくは各角形鋼管の杭先端部に施された孔空け加工;鋼杭アセンブリの杭先端部において,各H形鋼又は各角形鋼管に取り付けられた突起付き鋼板;又は,鋼杭アセンブリの杭先端部において,各H形鋼若しくは各角形鋼管,及び/又は先端補強鋼板に,軸方向に対して直角方向に取り付けられた複数の線材若しくは鋼板;の少なくともいずれかを含むようにしてもよい。これにより,ソイルセメント杭の杭先端部において,鋼杭アセンブリとその周囲のソイルセメント柱とが,より確実に一体化して,応力を確実に伝達できるようになるので,ソイルセメント杭の先端支持力を増加させることができる。
【0019】
また,上記鋼杭アセンブリの杭頭部には,ソイルセメント杭の杭頭部を覆うように設置されるフーチングとの定着力を増強させるための定着力増強手段が設けられるようにしてもよい。例えば,この定着力増強手段は,鋼杭アセンブリの杭先端部において,各H形鋼のフランジ間に取り付けられた1又は2以上の鋼板;各H形鋼若しくは各角形鋼管,及び/又は接合鋼板の杭頭部に施された孔空け加工;鋼杭アセンブリの杭頭部において,各H形鋼若しくは各角形鋼管,及び/又は接合鋼板を,軸方向に対して直角方向に貫通するように取り付けられた複数の線材;又は,鋼杭アセンブリの杭頭部において,各H形鋼若しくは各角形鋼管,及び/又は接合鋼板に,軸方向に対して直角方向に取り付けられた複数の線材若しくは帯状鋼板;の少なくともいずれかを含むようにしてもよい。これにより,ソイルセメント杭の杭頭部において,鋼杭アセンブリとフーチングとがより確実に一体化するので,ソイルセメント杭とフーチングとの定着力を増加させることができる。
【0020】
また,上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,地盤にソイルセメント柱を造成する工程と;複数本のH形鋼又は角形鋼管を相互に略平行となるよう接合鋼板により接合して組み立てられた1又は2本以上の鋼杭アセンブリを,ソイルセメント柱が固化する前に,当該ソイルセメント柱中に建て込む工程と;ソイルセメント柱が固化して,1又は2本以上の鋼杭アセンブリが地盤中に定着される工程と;を含むことを特徴とする,ソイルセメント杭の施工方法が提供される。これにより,建造物の基礎杭として要求される支持力を発揮するソイルセメント杭を,少ない鋼材量,少ない杭本数,少ない施工コストで,合理的かつ経済的に構築できる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば,相互に接合された複数のH形鋼や角形鋼材をソイルセメント杭の芯材として用いることで,円形鋼管を用いた場合よりも,少ない鋼材量で同等以上の断面性能を実現して,高い支持力を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
(第1の実施形態)
以下に,本発明の第1の実施形態にかかるソイルセメント杭と,その施工方法について説明する。
【0024】
まず,同実施形態にかかるソイルセメント杭について説明する。同実施形態にかかるソイルセメント杭は,地盤にセメントミルクを機械的に注入・混合・攪拌して造成される固化体(ソイルセメント柱)と,複数のH形鋼等を組み合わせた構造の鋼製芯材(鋼杭アセンブリ)とから構成される合成杭である。このソイルセメント杭は,例えば橋梁やビル等の建造物の基礎杭として使用されるものである。
【0025】
同実施形態にかかるソイルセメント杭は,地盤に造成された固化前のソイルセメント柱中に,H形鋼または角形鋼管を2本以上組み合わせた構造の鋼杭アセンブリを建て込む点が特徴的構成である。かかる構成により,円形鋼管を芯材として建て込む場合と比べて,同一の水平・鉛直支持力(壁体耐力を含む。)を得るための鋼材量及び杭設置本数を低減できるだけでなく,水平力に対するH形鋼の弱軸方向耐力を大幅に向上できる。
【0026】
さらに,鋼杭アセンブリを成すH形鋼または角形鋼管の周面に,ソイルセメントに対する鋼杭アセンブリの周面摩擦力を増強させる周面摩擦力増強手段を設け,さらに,当該H形鋼または角形鋼管の杭先端に,鋼杭アセンブリの先端支持力を増強させる先端支持力増強手段を設ける。これにより,鋼杭アセンブリの周面摩擦力および先端支持力を増強させ,基礎杭として必要な安定した支持力を発揮できるようにすることができる。以下に,同実施形態にかかるソイルセメント杭の特徴である鋼製アセンブリの構成について詳細に説明する。
【0027】
まず,図1を参照して,同実施形態にかかるソイルセメント杭の鋼杭アセンブリの基本構造について説明する。なお,図1は,同実施形態にかかるH形鋼20を接合して構成された鋼杭アセンブリ10の基本構造を示す斜視図である。
【0028】
図1に示すように,鋼杭アセンブリ10は,複数本(例えば2本)のH形鋼20を,一対の接合鋼板30により相互に接合した構造である。
【0029】
詳細には,2本のH形鋼20は,所定間隔を空けて相互に平行となるように接合されている。この際,2本のH形鋼20は,ウェブ24に対して直角な方向(弱軸方向)に並列配置(即ち,各H形鋼20のフランジ22の端面同士が対向するようにして対向配置)され,当該並列配置された2本のH形鋼20の相対向する二対のフランジ22が相互に,接合鋼板30によりそれぞれ接合される。なお,各H形鋼20は,軸方向に一体形成されたものであってもよいし,或いは,複数のH形鋼をその軸方向に溶接やボルト接合により連接したものであってもよい。
【0030】
また,2本のH形鋼20は,その軸方向に沿って全体が接合鋼板によって連続的に接合されるのではなく,杭頭部に設けられる一対の接合鋼板30と,杭先端部に設けられる一対の先端補強鋼板31とによって,軸方向の両端部(即ち,杭頭部と杭先端部)のみが部分的に接合されている。
【0031】
詳細には,接合鋼板30は,鋼杭アセンブリ10の杭頭部(図1の上部)において,2本のH形鋼20を相互に接合している。これによって,地震時などに高い水平耐力が要求される杭頭部において,2本のH形鋼20を接合鋼板30で確実に接合して,構造部材としての鋼製アセンブリ10の耐力を高めることができる。
【0032】
また,先端補強鋼板31は,鋼杭アセンブリ10の杭先端部(図1の下部)において,2本のH形鋼20を相互に接合する。これによって,高い先端支持力を得るためソイルセメント柱と強固に一体化されることが求められる杭先端部において,2本のH形鋼20を先端補強鋼板31で確実に接合できる。従って,鋼杭アセンブリ10の杭先端部の表面積を大面積にできるとともに,H形鋼20と先端補強鋼板31によりソイルセメントを好適に拘束可能な閉鎖断面を形成して,より確実なずれ止めを実現でき,鋼製アセンブリ10の先端支持力を増強させることができる。さらに,上記杭頭部の接合鋼板30のみならず,杭先端部の先端補強鋼板31によって2本のH形鋼20を接合することで,当該2本のH形鋼20を上下2カ所で安定的に接合できる。
【0033】
上記のように,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10では,一対の接合鋼板30と一対の先端補強鋼板31とを用いて,2本のH形鋼20を杭頭部と杭先端部で部分的に接合している。これにより,地震時の水平力に対する高い水平耐力が要求され,補強が特に必要な杭頭部を,確実に接合できるとともに,高い先端支持力を発揮することが要求される杭先端部を好適に接合できる。従って,H形鋼20の必要部位(杭頭部,杭先端部)のみを合理的に接合できるので,接合鋼板30及び先端補強鋼板31に要する鋼材量を低減できるとともに,鋼杭アセンブリ10の製造コストも抑制できる。なお,例えば,軸方向長さが30mのH形鋼20を相互に接合する場合には,上記接合鋼板30の軸方向の長さは例えば5m程度,先端補強鋼板31の軸方向の長さは例えば1m程度とすることができる。
【0034】
なお,上記図1の例では,上下2箇所でH形鋼20を接合したが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,鋼杭アセンブリ10を構成する複数本のH形鋼20が上記接合鋼板30により確実に接合されていれば,地盤によっては,杭先端部に上記先端補強鋼板31を設置しない構造も可能である。また,鋼杭アセンブリ10を構成する各H形鋼20が軸方向に長い場合(例えば,複数のH形鋼20を軸方向に連接した場合)などには,上記接合鋼板30及び先端補強鋼板31以外にも,H形鋼20の軸方向の中間部位における1又は2箇所以上を,別途の補強鋼板(図示せず。)により相互に接合してもよい。これにより,鋼杭アセンブリ10の構造的安定性が増す。
【0035】
ここで,図2A,Bを参照して,上記接合鋼板30によるH形鋼20の接合態様について,より具体的に説明する。なお,図2A,Bは,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10における接合鋼板30によるH形鋼20の各種の接合態様を示す横断面図である。
【0036】
一対のH形鋼20を接合鋼板30によって相互に弱軸方向に接合する場合には,例えば,図2A(a)に示すように,H形鋼20のフランジ22と略同一の厚さを有する2つの接合鋼板30を用いて,当該接合鋼板30の各端面と,各H形鋼20のフランジ22の端面とをそれぞれ溶接固定してもよい。これによって,水平及び鉛直方向の壁体耐力を確保できる。
【0037】
また,図2A(b)に示すように,2つの接合鋼板30を用いて,各接合鋼板30の内側面30bの両側を,H形鋼20の各フランジ22の外側面22aにそれぞれ溶接固定してもよい。また,図2A(c)に示すように,2つの接合鋼板30を用いて,各接合鋼板30の外側面30aの両側を,H形鋼20の各フランジ22の内側面22bにそれぞれ溶接固定してもよい。これにより,比較的簡単に鉛直方向の壁体耐力を確保できる。
【0038】
また,図2A(d)に示すように,4つの接合鋼板30を用いて,相対向する一対のフランジ22を両側から2つの接合鋼板30で接合するようにしてもよい。この際,各フランジ22の外側面22aと内側面22bに,それぞれ接合鋼板30が溶接固定される。これによって,H形鋼20相互の接合強度を増強できる。
【0039】
以上のように,鋼杭アセンブリ10は,接合鋼板30により2本のH形鋼20をその弱軸方向に接合して構成されており,これによって,H形鋼20の弱軸方向の壁体耐力を向上できる。この原理について図3を参照して説明する。
【0040】
図3(a)に示すように,一般的に,H形鋼20は,外力の方向に応じて断面性能が異なる。即ち,H形鋼20は,ウェブ24に対して平行な方向(強軸方向;図のX軸方向)に対する水平力に対しては高い耐力を有し,容易には変形しない。一方,H形鋼20は,ウェブ24に対して直角な方向(強軸方向;図のY軸方向)に対する水平力に対しては耐力が極端に低く,比較的容易に変形してしまう(図3(b)参照)。このため,建造物の基礎杭としてのソイルセメント杭の芯材として,1本のH形鋼20を単体で使用した場合,或いは複数本のH形鋼20を連結しないで使用した場合には,地震や台風時に作用する多様な方向の水平力に対して対応できなかった。
【0041】
これに対し,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10では,図3(c)に示すように,上記接合鋼板30により2本以上のH形鋼20を弱軸方向に連結した構造である。このため,一体化された複数のH形鋼20によって上記弱軸方向の水平力を受け持つことができるので,当該弱軸方向の水平力に対する耐力が大幅に向上され,高い水平支持力を実現できる。勿論,H形鋼20が元来より強い強軸方向の水平力に対しても,より高い水平支持力を実現できる。よって,かかる鋼杭アセンブリ10は,ソイルセメント杭の芯材として好適であり,地震時等の多様な応力に十分に対応できる。
【0042】
さらに,H形鋼20は,従来の鋼管ソイルセメント杭に用いられる円形鋼管と比べて,断面性能が優れ,高い壁体耐力を実現できるとともに,その外形寸法をよりコンパクトにできる。よって,鋼杭アセンブリ10の杭頭部に施工されるフーチング量も低減できる。
【0043】
なお,上記図2Aでは,H形鋼20のウェブ24に対して直角に配置される接合鋼板30によって,2本のH形鋼20を相互に弱軸方向に接合する例について説明したが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,図2Bに示すように,H形鋼20のウェブ24に対して平行に配置される接合鋼板30によって,2本のH形鋼20を相互に強軸方向に接合することもできる。
【0044】
具体的には,図2B(a)に示すように,2つの接合鋼板30をH形鋼20のウェブ24と平行に配置して,各接合鋼板30の各端面を,各H形鋼20のフランジ22の外側面22aの両側に,それぞれ溶接固定してもよい。また,図2B(b)に示すように,2つの接合鋼板30をH形鋼20のウェブ24と平行に配置して,各接合鋼板30の内側面30bの両側を,各H形鋼20のフランジ22の端面に,それぞれ溶接固定してもよい。
【0045】
次に,図4を参照して,複数のH形鋼20が接合される鋼杭アセンブリ10の変形例について説明する。図4は,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10の変形例を示す斜視図である。
【0046】
図4(a)に示す鋼杭アセンブリ10では,2本のH形鋼20を連結する接合用線材として,例えば,複数の棒鋼(鉄筋)32が取り付けられている。具体的には,一対のH形鋼20のフランジ22に,例えば2本の棒鋼32が,H形鋼20の軸方向に対して相異なる斜め方向に相互にクロスするように溶接固定されている。つまり,一方の棒鋼32は,一方のH形鋼20の略杭頭部と他方のH形鋼20の略杭先端部を連結しており,他方の棒鋼32は,一方のH形鋼20の略杭先端部と他方のH形鋼20の略杭頭部を連結している。なお,棒鋼32は,その一端が一方のH形鋼20に固定され,他端が他方のH形鋼20に固定される配置であれば,H形鋼20の軸方向に対して略直角方向に取り付けられてもよく,また,H形鋼20に対する棒鋼32の固定箇所は,上記のようなH形鋼20の略杭頭部や略杭先端部である必要はない。このような棒鋼32を設置することによって,上記接合鋼板30に加えて,当該棒鋼32によっても2本のH形鋼20を接合できるため,接合強度を強化できる。また,上記棒鋼32を追加設置することにより,鋼杭アセンブリ10とソイルセメント柱との摩擦力を増加させて,鋼杭アセンブリ10の周面摩擦力を増強させることもできる。
【0047】
さらに,図4(b)に示す鋼杭アセンブリ10では,周面摩擦力増強手段として,複数の棒鋼(鉄筋)34が取り付けられている。具体的には,H形鋼20の軸方向と平行な方向に延びる例えば3本の棒鋼34が,接合鋼板30と先端補強鋼板31を連結するようにして溶接固定されている。また,各H形鋼20のフランジ22の外側面には,H形鋼20の軸方向と平行な方向に延びる例えば2本の棒鋼34が,それぞれ溶接固定されている。このような棒鋼34を設置することによって,鋼杭アセンブリ10とソイルセメント柱との摩擦力を増加させて,鋼杭アセンブリ10の周面摩擦力を増強させることもできる。
【0048】
また,図4(c)に示すように,鋼杭アセンブリ10の杭先端部において,H形鋼20のフランジ22,および先端補強鋼板31に孔空け加工を施して,複数の孔26,36を貫通形成してもよい。これにより,H形鋼20の杭先端部や先端補強鋼板31に形成された複数の孔26,36内に,ソイルセメントが入り込んで固化するので,鋼杭アセンブリ10とソイルセメント柱との摩擦力を増加させて,ソイルセメント杭の先端支持力を増加させることができる。
【0049】
次に,図5を参照して,鋼杭アセンブリ10の構造部材として,上記H形鋼20の代わりに,角形鋼管40を用いた鋼杭アセンブリ10の基本構造例について説明する。図5は,同実施形態にかかる角形鋼管40を接合して構成された鋼杭アセンブリ10の基本構造を示す斜視図である。
【0050】
図5に示すように,鋼杭アセンブリ10は,例えば2本の角形鋼管40を,一対の接合鋼板30及び一対の先端補強鋼板31により相互に接合した構造である。詳細には,2本の角形鋼管40は,所定間隔を空けて相互に平行となるように接合されている。なお,上記各角形鋼管40は,軸方向に一体形成されたものであってもよいし,或いは,複数の角形鋼管40をその軸方向に溶接やボルト接合により連接したものであってもよい。
【0051】
また,2本の角形鋼管40は,上記図1のH形鋼20の場合と同様,その軸方向に沿って全体が接合鋼板によって連続的に接合されるのではなく,接合鋼板30と先端補強鋼板31とによって,軸方向の両端部(即ち,杭頭部と杭先端部)のみが部分的に接合されている。これにより,地震時などに高い水平耐力が要求される杭頭部,及び,高い先端支持力を得るためソイルセメント柱と強固に一体化されることが求められる杭先端部のみを確実に接合して,接合鋼板30に要する鋼材量及び鋼杭アセンブリ10の製造コストを低減できる。
【0052】
ここで,図6を参照して,これら接合鋼板30による角形鋼管40の接合態様について説明する。なお,図6は,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10における接合鋼板30による角形鋼管40の各種の接合態様を示す横断面図である。
【0053】
図6(a)に示すように,2つの接合鋼板30を用いて,各接合鋼板30の両端部を,各角形鋼管40のコーナー部にそれぞれ溶接固定してもよい。これによって,水平及び鉛直方向の壁体耐力を確保できる。
【0054】
また,図6(b)に示すように,2つの接合鋼板30を用いて,各接合鋼板30の内側面30bの両側を,各角形鋼管40の外側面40aにそれぞれ溶接固定してもよい。これにより,比較的簡単に鉛直方向の壁体耐力を確保できる。
【0055】
以上のように,複数の角形鋼管40を接合鋼板30により接合した鋼杭アセンブリ10をソイルセメント杭の芯材として用いることで,角形鋼管40を単体で用いた場合と比べて,より大きな断面性能を得ることができる。
【0056】
次に,上述したような鋼杭アセンブリ10を用いたソイルセメント杭が,大きな鉛直支持力を確保できるようにするために,鋼杭アセンブリ10に設けられた周面摩擦力増強手段と先端支持力増強手段について説明する。
【0057】
まず,図7を参照して,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20や角形鋼管40に設けられた周面摩擦力増強手段について説明する。なお,図7は,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20や角形鋼管40の周面構造を示す斜視図である。
【0058】
図7(a)〜(c)に示すように,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20には,周面摩擦力増強用の線材として,例えば棒鋼(鉄筋)51,52,53が取り付けられている。具体的には,図7(a)の例では,H形鋼20のフランジ22外側面には,H形鋼20の軸方向に対して例えば直角方向に延びる複数の棒鋼51が所定間隔で溶接固定されている。また,図7(b)の例では,H形鋼20のフランジ22外側面に,H形鋼20の軸方向に対して平行に延びる複数(図示の例では3本)の棒鋼52が所定間隔で溶接固定されている。また,図7(c)の例では,H形鋼20のフランジ22外側面に,例えば,波形に湾曲した1本の棒鋼53が溶接固定されている。なお,これらの棒鋼51,52,53等は,H形鋼20のフランジ22内側面やウェブ24に設置されてもよい。
【0059】
また,図7(d)に示すように,H形鋼20として縞付H形鋼を用いて,H形鋼20のフランジ22外側面に,周面摩擦力増強用の凸部として,複数の突起54を等間隔で突出配置してもよい。
【0060】
また,図7(e)に示すように,H形鋼20の内側に,周面摩擦力増強用の線材として,コの字形の棒鋼(例えば鉄筋)55を複数設置してもよい。このコの字形の棒鋼55は,H形鋼20の両フランジ22の内側面及びウェブ24に沿って,棒鋼H形鋼20の軸方向に対して直角方向に延びるようにして溶接固定され,当該軸方向に所定間隔で複数設置される。なお,上記図7(a)〜(e)に示したような各種の周面摩擦力増強手段は,角形鋼管40の外側面に適用することもできる。
【0061】
また,図7(f)に示すように,角形鋼管40の4つの側面に孔空け加工を施して,角形鋼管40の4側面に,周面摩擦力増強用の凹部として,複数の孔56を貫通形成してもよい。なお,このような孔空け加工は,上記H形鋼20にも適用することもできる。
【0062】
以上のように,棒鋼(鉄筋)51,52,53,突起54,コの字形棒鋼55,孔56などからなる周面摩擦力増強手段を,H形鋼20若しくは角形鋼管40に設けることにより,ソイルセメント柱に対する鋼杭アセンブリ10の周面摩擦力を増強させて,ソイルセメント柱と鋼杭アセンブリ10とを強固に一体化し,一体挙動させることができる。従って,鋼杭アセンブリ10の杭頭部に作用する鉛直荷重を確実にソイルセメント柱(固化体)に伝達でき,さらに,このソイルセメント柱から地盤へ摩擦力として伝達できる。よって,かかる鋼杭アセンブリ10を用いたソイルセメント杭は,大きな鉛直支持力を確保できる。
【0063】
次に,図8及び図9を参照して,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20や角形鋼管40の杭先端部に設けられた先端支持力増強手段について説明する。なお,図8及び図9は,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20または角形鋼管40の杭先端構造を示す斜視図及び断面図である。
【0064】
図8(a)に示すように,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20の杭先端部には,先端支持力増強手段として,各H形鋼20の一対のフランジ22相互を,ウェブ24と平行に連結する平板状鋼板60が取り付けられている。この平板状鋼板60は,その両端が,H形鋼20の一側の一対のフランジ22の端面22cに溶接固定されている。
【0065】
このような平板状鋼板60を設置することにより,鋼杭アセンブリ10の杭先端部の表面積を増大させることができ,鋼杭アセンブリ10の杭先端部とソイルセメント柱の杭先端部との摩擦力を増加させることができる。かつ,一対のフランジ22,22とウェブ24と平板状鋼板60とで囲まれた閉鎖空間を形成し,その内部のソイルセメントを拘束でき,ソイルセメント柱の杭先端部の圧縮強度を増加させることができる。
【0066】
また,図8(a)に示すように上記平板状鋼板60を,突起付き鋼板の一例である縞付鋼板で構成し,当該平板状鋼板60の表面に複数の突起61が突出形成されるようにしてもよい。これにより,板状鋼板60とソイルセメント柱との摩擦力をさらに増加させることができる。
【0067】
また,図8(b)に示すように,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20の内側には,先端支持力増強用の線材として,コの字形の棒鋼(鉄筋)62が複数設置されている。このコの字形の棒鋼62は,H形鋼20の両フランジ22の内側面22b及びウェブ24に沿って,棒鋼H形鋼20の軸方向に対して直角方向に延びるようにして溶接固定され,当該軸方向に所定間隔で複数設置される。このようにコの字形の棒鋼62を設置することにより,鋼杭アセンブリ10の杭先端部とソイルセメント柱の杭先端部との摩擦力を増加させることができる。
【0068】
また,図8(c)に示すように,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20の杭先端部の両側には,先端支持力増強手段として,各H形鋼20の一対のフランジ22相互を連結する,断面コの字形の鋼板64(以下,「コの字形鋼板64」という。)が取り付けられている。このコの字形鋼板64は,その両端が,H形鋼20の一側の一対のフランジ22の端面22cに溶接固定されている。
【0069】
このようなコの字形鋼板64を設置することにより,鋼杭アセンブリ10の杭先端部の表面積を増大させることができるとともに,一対のフランジ22,22とウェブ24とコの字形鋼板64とで囲まれた閉空間を形成し,その内部のソイルセメントを拘束できる。従って,鋼杭アセンブリ10の杭先端部とソイルセメント柱の杭先端部との摩擦力を増加させることができ,かつ杭先端部の圧縮強度を増加させることができる。なお,上記コの字型鋼板64の例に限定されず,鋼杭アセンブリ10の杭先端部の表面積を増加できるものであれば,例えば,断面U字形,V字形,半円型の鋼板など,任意の断面形状の鋼板をとりつけてもよい。
【0070】
さらに,上記コの字形鋼板64及びH形鋼20の杭先端部に孔空け加工を施し,複数の孔66,26を貫通形成してもよい。これにより,当該孔66,26内にソイルセメントが進入して固化するため,コの字形鋼板64及びH形鋼20とソイルセメント柱との摩擦力をさらに増加させることができる。なお,上記図8(a)〜(c)に示したような各種の先端支持力増強手段は,角形鋼管40の杭先端部に設置することもできる。
【0071】
また,図9(a)に示すように,鋼杭アセンブリ10を構成する角形鋼管40の杭先端部に,孔空け加工を施して,角形鋼管40の杭先端部の例えば4側面に,複数の孔46を貫通形成してもよい。これにより,当該孔46内にソイルセメントが進入して固化するため,角形鋼管40の杭先端部とソイルセメント柱の杭先端部との摩擦力を増加させることができる。
【0072】
また,図9(b)に示すように,鋼杭アセンブリ10を構成する角形鋼管40の杭先端部には,先端支持力増強用の線材として,例えば複数の棒鋼(鉄筋)42が取り付けられている。具体的には,角形鋼管40の例えば4側面に,角形鋼管40の軸方向に対して直角方向に延びる複数の棒鋼42が所定間隔で溶接固定されている。これにより,鋼杭アセンブリ10の杭先端部とソイルセメント柱の杭先端部との摩擦力を増加させることができる。なお,図9のような孔空け加工や棒鋼42は,上記H形鋼20にも適用することもできる。
【0073】
以上のように,平板状鋼板60,コの字形の棒鋼62,コの字形鋼板64,孔66,46,棒鋼42などからなる先端支持力増強手段を,H形鋼20若しくは角形鋼管40の杭先端部に設置することにより,ソイルセメント柱の杭先端部と鋼杭アセンブリ10の杭先端部との摩擦力を増強させ,かつ,ソイルセメント柱の杭先端部の圧縮強度を増加させることができる。従って,鋼杭アセンブリ10の杭先端部に伝達された鉛直力を確実にソイルセメント柱(固化体)に伝達でき,さらに,この鉛直力を,ソイルセメント柱の外面の摩擦力,及び杭先端部の圧縮力として地盤に伝達できる。よって,かかる鋼杭アセンブリ10を用いたソイルセメント杭は,大きな先端支持力を確保できる。
【0074】
次に,図10A〜Eを参照して,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20や角形鋼管40の杭頭部に設けられた定着力増強手段について説明する。なお,図10A〜Eは,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20または角形鋼管40の杭頭部構造を示す斜視図及び断面図である。
【0075】
定着力増強手段は,ソイルセメント杭の杭頭部を覆うように設置されるフーチングと,鋼杭アセンブリ10の杭頭部との定着力を増強させるための手段である。このフーチングは,後述する図12Eの符号104で示すように,例えば,ソイルセメント杭の杭頭部に打設された鉄筋コンクリートなどで構成され,このフーチングの上部に建造物が構築される。以下に,このフーチングと鋼杭アセンブリ10との定着力を増強させる定着力増強手段の具体例について詳細に説明する。
【0076】
定着力増強手段として,例えば,図10A(a)に示すように,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20の杭頭部に孔空け加工を施して,H形鋼20の杭頭部のフランジ22及びウェブ24に,複数の孔76を貫通形成してもよい。これにより,当該孔76内にフーチングのコンクリートが進入して固化するため,H形鋼20の杭頭部とフーチングとの摩擦力を高め,双方の定着力を増加させることができる。なお,上記のような孔空け加工は,H形鋼20の杭頭部に設けられた接合鋼板30にも施されてもよい。
【0077】
また,図10A(b)に示すように,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20の杭頭部に,定着力増強用の線材として,例えば,H形鋼20の軸方向に対して直角方向に延びる直線状の棒鋼(鉄筋)71を取り付けてもよい。具体的には,図10A(b)の例では,H形鋼20のフランジ22外側面に,H形鋼20の軸方向に対して例えば直角方向に延びる複数の棒鋼71が所定間隔で溶接固定されている。
【0078】
また,図10A(c)に示すように,H形鋼20の杭頭部の内側に,定着力増強用の線材として,コの字形の棒鋼(例えば鉄筋)72を複数設置してもよい。このコの字形の棒鋼72は,H形鋼20の両フランジ22の内側面及びウェブ24に沿って,棒鋼H形鋼20の軸方向に対して直角方向に延びるようにして溶接固定され,当該軸方向に所定間隔で複数設置される。
【0079】
また,図10B(a),(b)に示すように,定着力増強用の線材として,H形鋼20の杭頭部をH形鋼20の軸方向に対して直角方向に貫通するように,複数の鋼棒(例えば鉄筋)73を取り付けてもよい。具体的には,図10b(a)の例では,H形鋼20の一対のフランジ22を例えば垂直に貫通するようにして,ウェブ24と例えば平行に延びる複数の棒鋼73が所定間隔で配設されている。また,図10b(b)の例では,H形鋼20のウェブ24を例えば垂直に貫通するようにして,フランジ22と例えば平行に延びる複数の棒鋼73が所定間隔で配設されている。かかる鋼棒73を挿通させるために,H形鋼20のフランジ22若しくはウェブ24には,貫通孔74が形成されている。
【0080】
また,図10B(a),(b)の鋼棒73と同様な設置態様で,定着力増強用の帯状鋼板(図示せず。)をH形鋼20の杭頭部に取り付けてもよい。なお,この場合には,帯状鋼板は,例えば,H形鋼20のフランジ22やウェブ24を貫通せずに,当該フランジ22やウェブ24の両側に溶接固定されてもよい。
【0081】
また,図10B(c)に示すように,H形鋼20の杭頭部において,定着力増強用の鋼板(厚板)として,H形鋼20の一対のフランジ22相互を,ウェブ24と平行に連結する平板状鋼板75を取り付けてもよい。さらに,この平板状鋼板75の外側面に,定着力増強用の線材として,例えば,H形鋼20の軸方向に対して直角方向に延びる棒鋼71を所定間隔で複数設置してもよい。
【0082】
また,図10C(a)に示すように,定着力増強手段として,上述したような各種の直線状の鋼棒71,コの字形の棒鋼72,平板状鋼板75を組み合わせて,H形鋼20の杭頭部に取り付けてもよい。
【0083】
また,図10C(b),(c),図10D(a)に示すように,鋼杭アセンブリ10を構成するH形鋼20の杭頭部に,定着力増強用の帯状鋼板として,例えば,H形鋼20の軸方向に対して直角方向に延びるように,1又は2以上の帯状鋼板77を取り付けてもよい。具体的には,図10C(b)の例では,H形鋼20のフランジ22外側面に,H形鋼20の軸方向に対して例えば直角方向に延びる複数の帯状鋼板77が所定間隔で溶接固定されている。また,図10C(c)の例では,H形鋼20のフランジ22内側面およびウェブ24側面に,H形鋼20の軸方向に対して直角方向に延びる複数の帯状鋼板77が,例えばコの字型に配列されるようにして所定間隔で溶接固定されている。また,図10D(a)の例では,H形鋼20の一対のフランジ22の内側面をウェブ24と例えば平行に連結するようにして,H形鋼20の軸方向に対して直角方向に延びる複数の帯状鋼板77が所定間隔で溶接固定されている。
【0084】
また,図10D(b)に示すように,H形鋼20の杭頭部において,定着力増強用の鋼板(厚板)として,H形鋼20の一対のフランジ22相互を,ウェブ24と平行に連結する平板状鋼板75を取り付け,さらに,この平板状鋼板75の外側面に,定着力増強用の帯状鋼板として,例えば,H形鋼20の軸方向に対して直角方向に延びる複数の帯状鋼板77を所定間隔で溶接固定してもよい。
【0085】
また,図10D(c)に示すように,定着力増強手段として,上述したような各種の鋼棒73,平板状鋼板75,帯状鋼板77を組み合わせて,H形鋼20の杭頭部に取り付けてもよい。
【0086】
以上,図10A〜Dに示したように,H形鋼20の杭頭部に対して,定着力増強手段として,鋼棒71,コの字形の鋼棒72,鋼棒73,平板状鋼板75,帯状鋼板77などからなる周面摩擦力増強手段を,H形鋼20に設けることにより,フーチングに対する鋼杭アセンブリ10の摩擦力を高めて,フーチングと鋼杭アセンブリ10との定着力を増強することができる。なお,上記図10A〜Dに示したような各種の定着力増強手段は,角形鋼管40の杭頭部に設置することもできる。
【0087】
次に,図10Eを参照して,角形鋼管40に設けられる定着力増強手段の具体例について説明する。例えば,図10E(a)に示すように,定着力増強手段として,鋼杭アセンブリ10を構成する角形鋼管40の杭頭部に孔空け加工を施して,角形鋼管40の例えば4側面に,複数の孔76を貫通形成してもよい。これにより,当該孔76内にフーチングのコンクリートが進入して固化するため,角形鋼管40の杭頭部とフーチングとの摩擦力を高め,双方の定着力を増加させることができる。さらに,図示はしないが,1又は2以上の鋼棒(鉄筋等)を上記孔76に挿入して,当該鋼棒が角形鋼管40の杭頭部を水平方向に貫通するように配設することもできる。このように鋼棒を設置することにより,角形鋼管40の杭頭部とフーチングとの定着力をさらに増加させることができる。
【0088】
また,図10E(b)に示すように,角形鋼管40の杭頭部に,定着力増強用の帯状鋼板として,例えば,角形鋼管40の軸方向に対して直角方向に延びるように,1又は2以上の帯状鋼板77を取り付けてもよい。具体的には,図10E(b)の例では,角形鋼管40の各外側面および各内側面に,角形鋼管40の軸方向に対して例えば直角方向に延びる複数の帯状鋼板77が所定間隔で溶接固定されている。これによっても,フーチングに対する鋼杭アセンブリ10の摩擦力を高めて,フーチングと鋼杭アセンブリ10との定着力を増強することができる。
【0089】
以上,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10における各種の周面摩擦力増強手段,先端支持力増強手段,定着力増強手段の構成例について説明した。上記図7(a)〜(f)に示したような複数種類の周面摩擦力増強手段を組み合わせたり,上記図8(a)〜(c),図9(a)〜(b)に示したような複数種類の先端支持力増強手段を組み合わせたり,或いは,図10A〜Eに示したような複数種類の定着力増強手段を組み合わせたりして,H形鋼20または角形鋼管40に適用することで,多様な鋼杭アセンブリ10を構成することができる。
【0090】
ここで,図11A〜Eを参照して,上記各種の周面摩擦力増強手段,先端支持力増強手段及び定着力増強手段を組み合わせて構成された鋼杭アセンブリ10の例について説明する。なお,図11A〜Eは,同実施形態にかかる各種の周面摩擦力増強手段及び先端支持力増強手段を組み合わせて構成された鋼杭アセンブリ10A,10B,10C,10D,10Eの構造をそれぞれ示す斜視図である。
【0091】
まず,図11Aに示す例の鋼杭アセンブリ10Aについて説明する。図11Aに示すように,鋼杭アセンブリ10Aは,2本のH形鋼20の杭頭部が接合鋼板30によって部分的に接合され,杭先端部が先端補強鋼板31によって部分的に接合された基本構造を有する。この鋼杭アセンブリ10は,周面摩擦力増強手段として,H形鋼20のフランジ22の外側面22a及び内側面22bに,軸方向に対して直角方向に延びる複数の棒鋼51,コの字形の鋼棒55が,等間隔で並設されている。
【0092】
さらに,鋼杭アセンブリ10Aの杭先端部においては,先端支持力増強手段として,各H形鋼20の内側のフランジ22に先端補強鋼板31が取り付けられ,さらに,各H形鋼20の外側のフランジ22にコの字形鋼板64がそれぞれ取り付けられている。この先端補強鋼板31及びコの字形鋼板64の外側面及び内側面には,先端支持力増強用の線材として,軸方向に対して直角方向に延びる複数の棒鋼67,68,69が配設されている。このうち,棒鋼67は,相互に面一となっているコの字形鋼板64の外側面,H形鋼20のフランジ22の外側面,及び先端補強鋼板31の外側面上に,共通して延設されている。また,棒鋼69は,例えば,コの字形鋼板64の内側面,H形鋼20のフランジ22内側面及びウェブ24に沿うようなコの字形若しくは環状の形状を有する。
【0093】
また,鋼杭アセンブリ10Aの杭頭部においては,定着力増強手段として,H形鋼20のフランジ22外側面と内側面に,軸方向に対して直角方向に延びる複数の棒鋼71,コの字形の鋼棒72が等間隔で設置されている。
【0094】
次に,図11Bに示す例の鋼杭アセンブリ10Bについて説明する。図11Bに示すように,鋼杭アセンブリ10Bは,2本のH形鋼20の杭頭部が接合鋼板30によって部分的に接合され,杭先端部が先端補強鋼板31によって部分的に接合された基本構造を有する。この鋼杭アセンブリ10Bは,周面摩擦力増強手段として,各H形鋼20のフランジ22の外側面,及び接合鋼板30と先端補強鋼板31の間に,軸方向に延びる複数の棒鋼52が,等間隔で設置されている。
【0095】
さらに,鋼杭アセンブリ10Bの杭先端部においては,各H形鋼20の一対のフランジ22相互を,ウェブ24と平行に連結する平板状鋼板60がそれぞれ取り付けられている。さらに,H形鋼20のフランジ22,先端補強鋼板31及び平板状鋼板60の外側面には,先端支持力増強用の線材として,上記軸方向に対して直角方向に延びる複数の棒鋼63が等間隔で設置されている。また,上記先端補強鋼板31及び平板状鋼板60も,先端支持力増強手段として機能する。
【0096】
次に,図11Cに示す例の鋼杭アセンブリ10Cについて説明する。図11Cに示すように,鋼杭アセンブリ10Cは,2本の角形鋼管40の杭頭部が接合鋼板30によって部分的に接合され,杭先端部が先端補強鋼板31によって部分的に接合された基本構造を有する。さらに,各角形鋼管40に対し交互に溶接固定される1本の波形の接合用棒鋼35によっても,双方の角形鋼管40の接合が補強されている。
【0097】
この鋼杭アセンブリ10Cは,周面摩擦力増強手段として,各角形鋼管40の外側面に,軸方向に対して直角方向に延びる複数の棒鋼51が,等間隔で設置されている。また,上記波形の接合用棒鋼35も,周面摩擦力増強手段として機能する。
【0098】
さらに,鋼杭アセンブリ10Cの杭先端部においては,角形鋼管40の4側面に,先端支持力増強用の線材として,軸方向に対して直角方向に延びる複数の棒鋼42が等間隔で設置されている。また,上記先端補強鋼板31も,先端支持力増強手段として機能する。
【0099】
また,鋼杭アセンブリ10Cの杭頭部においては,定着力増強手段として,角形鋼管40の外側面に,軸方向に対して直角方向に延びる複数の棒鋼71が等間隔で設置されている。また,上記波形の接合用棒鋼35の上部(杭頭部側)も,定着力増強手段として機能する。
【0100】
次に,図11Dに示す例の鋼杭アセンブリ10Dについて説明する。図11Dに示すように,鋼杭アセンブリ10Dは,上記図11cに示す鋼杭アセンブリ10Cと基本構造は略同一であるが,杭先端部の構造が異なっている。即ち,2本の角形鋼管40の杭先端部を接合する先端補強鋼板31としては,外側面に複数の突起61が突出形成された大型の縞付鋼板が使用され,2本の角形鋼管40の杭先端部の側面の大半を覆うようにして取り付けられている。
【0101】
また,各角形鋼管40の外側面に設置された複数の棒鋼51,及び上記波形の接合用棒鋼35は,周面摩擦力増強手段として機能する。また,鋼杭アセンブリ10Dの杭先端部においては,角形鋼管40の外側面に,先端支持力増強用の線材として,上記軸方向に対して直角方向に延びる棒鋼42が等間隔で設置されている。また,上記縞付鋼板で構成された大型の先端補強鋼板31も,ソイルセメント柱の杭先端部と干渉して先端支持力増強手段として機能し,このとき,複数の突起61の作用により,高い摩擦力が発揮される。
【0102】
次に,図11Eに示す例の鋼杭アセンブリ10Eについて説明する。図11Eに示すように,鋼杭アセンブリ10Eは,上記図11Bに示す鋼杭アセンブリ10Bと基本構造は略同一であるが,杭頭部の構造が異なっている。即ち,鋼杭アセンブリ10Eの杭頭部では,接合鋼板30がH形鋼20の上端よりも下方側に取り付けられており,このため,2本のH形鋼20の杭頭部が,接合鋼板30の上端よりも上部に突出するようになっている。そして,このように突出した各H形鋼20の杭頭部には,定着力増強手段として,各H形鋼20の1対のフランジ22をウェブ24と平行方向に貫通する鋼棒73が設けられている。この鋼棒73により,鋼杭アセンブリ10Eの杭頭部に構築されるフーチングに対する定着力を増強することができる。
【0103】
以上,図11A〜Eを参照して,鋼杭アセンブリ10A〜Eにおける各種の周面摩擦力増強手段および先端支持力増強手段の組合せ例について説明した。かかる鋼杭アセンブリ10A〜Eは,周面摩擦力増強手段,先端支持力増強手段の作用により,その周囲のソイルセメント柱と強固に一体化するため,当該鋼杭アセンブリ10A〜Eとソイルセメント柱とからなるソイルセメント杭は,高い水平・鉛直支持力を発揮できる。また,鋼杭アセンブリ10A〜Eは,定着力増強手段の作用により,その杭頭部に設置されるフーチングと強固に一体化するため,当該鋼杭アセンブリ10A〜Eとフーチングとの定着力を増強できる。
【0104】
次に,図12A〜Eを参照して,上記のような鋼杭アセンブリ10を利用したソイルセメント杭の施工方法について説明する。図12A〜Eは,同実施形態にかかるソイルセメント杭の施工方法の各工程を示す工程図である。なお,図12A〜Eでは,各工程におけるソイルセメント杭の施工状態を,平面図(a)と,縦断面図(b)で示してある。
【0105】
まず,第1の工程では,図12Aに示すように,地盤にソイルセメント柱100が造成される(ソイルセメント造成工程)。
【0106】
具体的には,揚重機1を用いて吊り下げたソイルセメント柱造成機2により,地盤を鉛直下方に向けて掘削し,この掘削により生じた土砂(原位置土)を排土せずに,当該原位置土内に造成液を注入・混合・攪拌して,ソイルセメント柱100が造成される。この際に用いられる造成液は,例えば,セメント及び水(セメントミルク)と,添加剤とを練り混ぜたセメント系懸濁液である。また,この添加剤は,ソイルセメント柱の施工性及び品質を確保するためにセメントミルクに添加されるものであり,例えば,ベントナイト,増粘剤,凝結遅延剤,分散剤,減水剤等を含む。なお,本工程では,図示のような吊り下げ式のソイルセメント柱造成機2の代わりに,押し付け式のソイルセメント柱造成機(掘削機)を用いることもできる。
【0107】
上記のようにして造成されたソイルセメント柱100は,上記鋼杭アセンブリ10の角型形状に応じた例えば四角柱形状を有する。このソイルセメント柱100は,次の図12Bに示すように,例えば,ソイルセメント柱空堀り部100Aと,ソイルセメント一般部100Bと,ソイルセメント柱根固め部100Cとからなる。ソイルセメント柱空堀り部100Aは,地表面から数m程度に位置し,掘削された現位置土に造成液が混入されていない部分である。また,ソイルセメント柱一般部100Bは,ソイルセメント柱空堀部100Aの下方に位置し,掘削された現位置土に造成液を混入・攪拌した通常の強度のソイルセメント部分である(固化後の一軸圧縮強度;例えば0.5N/mm以上)。また,ソイルセメント柱根固め部100Cは,最下部(杭先端部)に位置し,掘削された現位置土に造成液を混入・攪拌した高強度のソイルセメント部分である(固化後の一軸圧縮強度;例えば15N/mm以上)。このように,杭先端部に位置するソイルセメント柱根固め部100Cの強度を,その上部のソイルセメント柱一般部100Bよりも大きくすることにより,ソイルセメント柱100の杭先端部の圧縮強度を増加させることができる。従って,ソイルセメント杭の先端支持力を強化することができるので,建造物の基礎杭として安定的に利用可能となる。
【0108】
なお,本実施形態では,例えば,2つの隣接したソイルセメント杭を,1つの基礎杭として構築するために,ソイルセメント造成工程では,地盤に2つの角柱形状のソイルセメント柱100が隣接して造成されるものとする(図12B(a)参照)。
【0109】
次いで,第2の工程では,図12Bに示すように,上記鋼杭アセンブリ10が,上記造成されたソイルセメント柱100が固化する前に,当該ソイルセメント柱100中に建て込まれる(鋼杭アセンブリ建て込み工程)。具体的には,揚重機3を用いて吊り下げられた鋼杭アセンブリ10が軸方向に降下され,鋼杭アセンブリ10の自重により,上記固化前のソイルセメント柱100内に埋設される。
【0110】
以下では,例えば,1つのソイルセメント柱100内に2本の鋼杭アセンブリ10が並行して埋設される例について説明するが(図12C参照),本発明はかかる例に限定されず,基礎杭に要求される強度や大きさに応じて,1つのソイルセメント柱100内に1本若しくは3本以上の鋼杭アセンブリ10を埋設してもよい。
【0111】
さらに,第3の工程では,上記鋼杭アセンブリ10の建て込み完了後に所定時間経過すると,図12Cに示すように,ソイルセメント柱100が固化して,各鋼杭アセンブリ10が地盤中に定着される(鋼杭アセンブリ定着工程)。具体的には,造成液が混入・攪拌された流動性のあるソイルセメントからなるソイルセメント柱一般部100B及びソイルセメント柱根固め部100Cは,時間の経過と共に固化して,この結果,その内部に埋設された鋼杭アセンブリ10が地盤に定着される。この結果,上記鋼杭アセンブリ10を芯材とするソイルセメント杭101が構成される。なお,このソイルセメントの固化途中では,鋼杭アセンブリ10は,吊持手段(図示せず。)により吊持されており,固化前のソイルセメント柱100内に沈み込まないようになっている。
【0112】
次いで,第4の工程では,図12Dに示すように,ショベルカー等の掘削機4を用いて,上記ソイルセメント柱空堀り部100Aの土砂が除去される(空堀部掘削工程)。
【0113】
その後,第5の工程では,図12Eに示すように,相隣接する例えば2本のソイルセメント杭101の杭頭部を一体的に覆うようにしてフーチング104が構築される(フーチング構築工程)。このフーチング104は,建造物の土台となる部分であり,例えばソイルセメント杭101の杭頭部に鉄筋コンクリート等を打設することにより構築される。このように2以上のソイルセメント杭101を,フーチング104により連結することで,このフーチング104の上部に,橋梁,ビル等の建造物が構築可能となり,当該ソイルセメント杭101を建造物の基礎杭として利用できるようになる。
【0114】
この際,上述したように鋼杭アセンブリ10は,複数のH形鋼20等を接合することによって高い断面性能を有し,コンパクトに設計されている。このため,かかる鋼杭アセンブリ10を用いてソイルセメント杭101を構築することで,要求される支持力を得るために必要な高い断面性能を維持しつつ,ソイルセメント杭101の設置本数を低減(図示の例では2本)することができる。よって,フーチング構築時には,上記少ない杭本数のソイルセメント杭101の杭頭部を覆うようにして比較的狭い面積のフーチング104を構築すれば済むので,フーチング量を低減できる。
【0115】
以上,同実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10を用いたソイルセメント杭101と,その施工方法について説明した。同実施形態にかかるソイルセメント杭101によれば,2本以上のH形鋼20や角形鋼管40を接合鋼板30により相互に接合した鋼杭アセンブリ10を芯材として使用している。この鋼杭アセンブリ10は,従来の芯材である円形鋼管と比べて,断面性能に優れているため,同一の水平・鉛直支持力を得るために必要な鋼材量を低減することができる。よって,求められる支持力を達成可能なソイルセメント杭101を,少ない鋼材量,少ない杭本数,少ない施工コストで,合理的かつ経済的に構築できる。
【0116】
特に,本実施形態にかかる鋼杭アセンブリ10は,硬質地盤にも適用可能な壁状掘削機(例えば連壁掘削機)を用いて地盤を壁状掘削して芯材を建て込んで,ソイルセメント杭を構築する場合に,より好適に適用できる。つまり,本実施形態では,壁状掘削機による壁状掘削された地盤に,上記鋼杭アセンブリ10を建て込むことにより,従来の円形鋼管を用いた場合よりも,完成後のソイルセメント杭は,曲げモーメントに対して高い壁体耐力を発揮できる。従って,上記鋼杭アセンブリ10を利用することにより,従来の円形鋼管を用いた鋼管ソイルセメント杭と比べて,同一の壁体耐力を得るために必要な鋼材量と杭設置本数を低減でき,低コスト化できる。なお,本発明の鋼杭アセンブリ10は,壁状掘削機のみならず,オーガー掘削機などの他の掘削機を用いて地盤を掘削する場合にも適用可能である。
【0117】
また,鋼杭アセンブリ10の杭頭部において,H形鋼20や角形鋼管40を接合鋼板30により相互に接合しているので,地震時などに杭頭部に作用する水平力に対して,高い水平耐力を得ることができる。特に,H形鋼20を使用した場合に,その弱軸方向の水平耐力を大幅に向上できるので,H形鋼20を杭として使用した場合の従来の問題点を改善できる。
【0118】
また,鋼杭アセンブリ10の周面に,上記のような周面摩擦力増強手段を設けるとともに,鋼杭アセンブリ10の杭先端部に上記のような先端支持力増強手段を設けることによって,鋼杭アセンブリ10とソイルセメント柱100との摩擦力を増大させ,両者を強固に一体化できる。従って,ソイルセメント杭101の周面摩擦力と先端支持力を大幅に増強できる。さらに,鋼杭アセンブリ10の杭頭部に,上記のような定着力増強手段を設けることにより,鋼杭アセンブリ10とフーチング104との定着力を大幅に増強できる。
【0119】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0120】
例えば,上記実施形態では,2本のH形鋼20若しくは角形鋼管40を相互に接合して鋼杭アセンブリ10を構成したが,本発明はかかる例に限定されず,例えば,3本以上のH形鋼20若しくは角形鋼管40を相互に接合して鋼杭アセンブリ10を構成してもよい。
【0121】
また,上記実施形態では,複数のH形鋼20等を接合鋼板30と先端支持鋼板31により軸方向に部分的に接合したが,本発明はかかる例に限定されず,例えば,H形鋼20等を軸方向全体に渡って接合鋼板により連続的に接合してもよい。
【0122】
また,上記実施形態では,H形鋼20に取り付けられる周面摩擦力増強手段としての「コの字形の棒鋼55」(図7(e)参照),先端支持力増強手段としての「コの字形の棒鋼62」(図8(b)参照),及び,定着力増強手段としての「コの字形の棒鋼72」(図10A(c)参照)は,一体形成されたコの字形の鉄筋等を用いたが,本発明は,かかる例に限定されない。例えば,上記一体形成されたコの字形の棒鋼55,72,72の代わりに,図10c(c)に示す帯状鋼板77の場合と同様に,分断された3本の直線状の鋼棒(鉄筋等)を,それぞれ,H形鋼20の双方のフランジ22の内側面とウェブ24の側面に取り付けて,全体としてコの字形になるように配列することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかるH形鋼を接合して構成された鋼杭アセンブリの基本構造を示す斜視図である。
【図2A】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリにおける接合鋼板によるH形鋼の各種の接合態様を示す横断面図である。
【図2B】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリにおける接合鋼板によるH形鋼の各種の接合態様を示す横断面図である。
【図3】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリにおいて,H形鋼の弱軸方向の水平力に対する耐力を向上できる原理を説明する説明図である。
【図4】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリの変形例を示す斜視図である。
【図5】同実施形態にかかる角形鋼管を接合して構成された鋼杭アセンブリの基本構造を示す斜視図である。
【図6】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリにおける接合鋼板による角形鋼管の各種の接合態様を示す横断面図である。
【図7】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリを構成するH形鋼や角形鋼管の周面構造を示す斜視図である。
【図8】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリを構成するH形鋼の杭先端構造を示す斜視図及び断面図である。
【図9】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリを構成する角形鋼管の杭先端構造を示す斜視図である。
【図10A】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリを構成するH形鋼の杭頭部構造を示す斜視図及び断面図である。
【図10B】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリを構成するH形鋼の杭頭部構造を示す斜視図及び断面図である。
【図10C】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリを構成するH形鋼の杭頭部構造を示す斜視図及び断面図である。
【図10D】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリを構成するH形鋼の杭頭部構造を示す斜視図及び断面図である。
【図10E】同実施形態にかかる鋼杭アセンブリを構成する角形鋼管の杭頭部構造を示す斜視図及び断面図である。
【図11A】同実施形態にかかる各種の周面摩擦力増強手段,先端支持力増強手段及び定着力増強手段を組み合わせて構成された鋼杭アセンブリの構造例を示す斜視図である。
【図11B】同実施形態にかかる各種の周面摩擦力増強手段,先端支持力増強手段及び定着力増強手段を組み合わせて構成された鋼杭アセンブリの構造例を示す斜視図である。
【図11C】同実施形態にかかる各種の周面摩擦力増強手段,先端支持力増強手段及び定着力増強手段を組み合わせて構成された鋼杭アセンブリの構造例を示す斜視図である。
【図11D】同実施形態にかかる各種の周面摩擦力増強手段,先端支持力増強手段及び定着力増強手段を組み合わせて構成された鋼杭アセンブリの構造例を示す斜視図である。
【図11E】同実施形態にかかる各種の周面摩擦力増強手段,先端支持力増強手段及び定着力増強手段を組み合わせて構成された鋼杭アセンブリの構造例を示す斜視図である。
【図12A】同実施形態にかかるソイルセメント杭の施工方法におけるソイルセメント造成工程を示す工程図である。
【図12B】同実施形態にかかるソイルセメント杭の施工方法における鋼杭アセンブリ建て込み工程を示す工程図である。
【図12C】同実施形態にかかるソイルセメント杭の施工方法における鋼杭アセンブリ定着工程を示す工程図である。
【図12D】同実施形態にかかるソイルセメント杭の施工方法におけるソイルセメント柱空堀部掘削工程を示す工程図である。
【図12E】同実施形態にかかるソイルセメント杭の施工方法におけるフーチング構築工程を示す工程図である。
【符号の説明】
【0124】
10 鋼杭アセンブリ
20 H形鋼
22 フランジ
22a フランジの外側面
22b フランジの内側面
24 ウェブ
26 先端支持力増強用の孔
30 接合鋼板
30a 接合鋼板の外側面
30b 接合鋼板の内側面
31 先端補強鋼板
32,34 接合用の棒鋼
36 先端支持力増強用の孔
40 角形鋼管
42 先端支持力増強用の棒鋼
46 先端支持力増強用の孔
51,52,53 周面摩擦力増強用の棒鋼
54 周面摩擦力増強用の突起
55 周面摩擦力増強用のコの字形の棒鋼
56 周面摩擦力増強用の孔
60 先端支持力増強用の平板状鋼板
61 先端支持力増強用の突起
62 先端支持力増強用のコの字形の棒鋼
64 先端支持力増強用のコの字形鋼板
66 先端支持力増強用の孔
63,67,68,69 先端支持力増強用の棒鋼
71,73 定着力増強用の棒鋼
72 定着力増強用のコの字形の棒鋼
75 定着力増強用の平板状鋼板
76 定着力増強用の孔
77 定着力増強用の帯状鋼板
100 ソイルセメント柱
100A ソイルセメント柱空堀り部
100B ソイルセメント柱一般部
100C ソイルセメント柱根固め部
101 ソイルセメント杭
104 フーチング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のH形鋼又は角形鋼管を相互に略平行となるよう接合鋼板により接合して組み立てられた鋼杭アセンブリを,地盤に造成された固化前のソイルセメント柱中に建て込んで構築されることを特徴とする,ソイルセメント杭。
【請求項2】
前記鋼杭アセンブリは,前記複数本のH形鋼又は角形鋼管の軸方向の一部を相互に,前記接合鋼板により接合して組み立てられることを特徴とする,請求項1に記載のソイルセメント杭。
【請求項3】
前記接合鋼板は,前記複数本のH形鋼又は角形鋼管の杭頭部を相互に接合することを特徴とする,請求項2に記載のソイルセメント杭。
【請求項4】
前記鋼杭アセンブリは,前記複数本のH形鋼又は角形鋼管の杭先端部を相互に接合する先端補強鋼板をさらに有することを特徴とする,請求項1〜3のいずれかに記載のソイルセメント杭。
【請求項5】
前記鋼杭アセンブリは,前記複数本のH形鋼をウェブに対して直角方向に並列配置し,当該複数本のH形鋼の各フランジを相互に前記接合鋼板により接合して組み立てられることを特徴とする,請求項1〜4のいずれかに記載のソイルセメント杭。
【請求項6】
前記鋼杭アセンブリは,前記複数のH形鋼又は角形鋼管を,前記接合鋼板に加えて接合用線材により接合して組み立てられ,
前記接合用線材は,前記複数のH形鋼又は角形鋼管,或いは前記接合鋼板に,前記複数のH形鋼又は角形鋼管の軸方向に対して略平行,略直角若しくは斜め方向に取り付けられることを特徴とする,請求項1〜5のいずれかに記載のソイルセメント杭。
【請求項7】
前記鋼杭アセンブリには,前記ソイルセメント柱に対する周面摩擦力を増加させるための周面摩擦力増強手段が設けられることを特徴とする,請求項1〜6のいずれかに記載のソイルセメント杭。
【請求項8】
前記周面摩擦力増強手段は,
前記各H形鋼若しくは各角形鋼管の少なくとも一部に施された孔空け加工;
前記各H形鋼若しくは各角形鋼管の表面に突出形成された複数の凸部;又は
前記各H形鋼若しくは各角形鋼管の表面に取り付けられた1又は2以上の線材;
の少なくともいずれかを含むことを特徴とする,請求項7に記載のソイルセメント杭。
【請求項9】
前記鋼杭アセンブリの杭先端部には,前記ソイルセメント杭の先端支持力を増加させるための先端支持力増強手段が設けられることを特徴とする,請求項1〜8のいずれかに記載のソイルセメント杭。
【請求項10】
前記先端支持力増強手段は,
前記複数本のH形鋼又は角形鋼管の杭先端部を相互に接合する先端補強鋼板;
前記鋼杭アセンブリの杭先端部において,前記各H形鋼又は各角形鋼管に取り付けられた断面略コの字形の鋼板;
前記各H形鋼若しくは各角形鋼管の杭先端部に施された孔空け加工;
前記鋼杭アセンブリの杭先端部において,前記各H形鋼又は各角形鋼管に取り付けられた突起付き鋼板;又は,
前記鋼杭アセンブリの杭先端部において,前記各H形鋼若しくは各角形鋼管,及び/又は前記先端補強鋼板に,軸方向に対して直角方向に取り付けられた複数の線材若しくは鋼板;
の少なくともいずれかを含むことを特徴とする,請求項9に記載のソイルセメント杭。
【請求項11】
前記鋼杭アセンブリの杭頭部には,前記ソイルセメント杭の杭頭部を覆うように設置されるフーチングとの定着力を増強させるための定着力増強手段が設けられることを特徴とする,請求項1〜10のいずれかに記載のソイルセメント杭。
【請求項12】
前記定着力増強手段は,
前記鋼杭アセンブリの杭先端部において,前記各H形鋼のフランジ間に取り付けられた1又は2以上の鋼板;
前記各H形鋼若しくは各角形鋼管,及び/又は前記接合鋼板の杭頭部に施された孔空け加工;
前記鋼杭アセンブリの杭頭部において,前記各H形鋼若しくは各角形鋼管,及び/又は前記接合鋼板を,軸方向に対して直角方向に貫通するように取り付けられた複数の線材;又は,
前記鋼杭アセンブリの杭頭部において,前記各H形鋼若しくは各角形鋼管,及び/又は前記接合鋼板に,軸方向に対して直角方向に取り付けられた複数の線材若しくは帯状鋼板;
の少なくともいずれかを含むことを特徴とする,請求項11に記載のソイルセメント杭。
【請求項13】
地盤にソイルセメント柱を造成する工程と;
複数本のH形鋼又は角形鋼管を相互に略平行となるよう接合鋼板により接合して組み立てられた1又は2本以上の鋼杭アセンブリを,前記ソイルセメント柱が固化する前に,当該ソイルセメント柱中に建て込む工程と;
前記ソイルセメント柱が固化して,前記1又は2本以上の鋼杭アセンブリが前記地盤中に定着される工程と;
を含むことを特徴とする,ソイルセメント杭の施工方法。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【公開番号】特開2007−146399(P2007−146399A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339219(P2005−339219)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】