説明

タイヤモールド鋳造設備用組成物

【課題】 注湯により繰り返しA1変態温度を経た場合においても、低い熱膨張率を維持することができ、かつ、熱歪によるクラック発生を抑制することが可能なタイヤモールド鋳造設備用組成物を提供する。
【解決手段】 配列テーブル1上に略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体3を備え、略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体3内の中央部所定位置にタイヤモールド用鋳型2を配置して、配列テーブル1、タイヤモールド鋳造用枠体3およびタイヤモールド用鋳型2により形成される中空部に溶湯5を充填することによりタイヤモールドの鋳造を行うタイヤモールド鋳造設備に用いられる組成物である。JIS FCD400品において、Si含有量が2.4〜2.7重量%、かつ、Mg含有量が0.07〜0.10重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤモールド鋳造設備用組成物(以下、単に「組成物」とも称する)に関し、詳しくは、タイヤモールドを鋳造する際に用いられるタイヤモールド鋳造設備に使用される組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを製造するに際しては、成形された生タイヤに内側から圧力をかけて、その外表面を加熱された金型の内壁に密着させ、熱と圧力により生ゴムを加硫する加硫用モールド(以下、「タイヤモールド」と称する)が用いられる。このようなタイヤモールドは、一般に、金型内に溶湯を高温、高圧力にて流し込むことにより鋳造を行う、ダイカスト法により製造される。
【0003】
図1に、タイヤモールド鋳造設備の(a)水平方向断面図および(b)垂直方向断面図を夫々示す。図示する鋳造設備は、配列テーブル1上に略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体3を備えるものであり、枠体3内の中央部所定位置にタイヤのトレッドパターンが転写されたタイヤモールド用鋳型2を配置して、注湯部4から、配列テーブル1、枠体3および鋳型2により形成される中空部に溶湯5を充填することにより、タイヤモールドの鋳造が行われる。このうち鋳型2については、一般に石膏製の崩壊型が用いられ、配列テーブル1および枠体3の素材としては、一般に鉄のむく素材が用いられている。タイヤモールドの製造方法に関しては、例えば、特許文献1等に記載がある。
【特許文献1】特開2004−223529号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、タイヤモールドの素材としては、一般に、アルミニウム(Al)合金が用いられるが、Al合金の注湯温度は通常FeのA1変態温度(約720℃)であるため、室温で配列テーブル1および枠体3を精度良くセットした場合でも、注湯時にはこれらの鉄素材が局部的にA1変態温度に達して、局部変形を生じてしまう。そのため、鋳造精度は著しく劣ることとなり、これはまた、鋳造時における湯漏れの原因ともなっている。
【0005】
従来、配列テーブル1および枠体3の鉄素材としては、熱膨張を抑制するために球状黒鉛化率60〜70%程度のFCD400が使用されている。しかしながら、球状黒鉛化率が小さいと熱膨張を小さく抑えることが困難となり、特に、球状黒鉛化率が90%未満の場合には、熱歪による表面クラックが発生しやすく、これに伴いさらに熱変形が拡大して、鋳造精度を著しく低下させるという問題があった。
【0006】
また、上記従来素材の配列テーブル1および枠体3は、繰り返し使用により上記A1変態温度を何度も経ることで、フェライト相が増加することにより、軟化するとともに熱膨張率の増大を生ずる。そのため、結果として、鋳造形状の精度維持がさらに困難となっていた。
【0007】
そこで本発明の目的は、これら配列テーブル1および枠体3の素材として用いられる組成物であって、注湯により繰り返しA1変態温度を経た場合においても、低い熱膨張率を維持することができ、かつ、熱歪によるクラック発生を抑制することが可能なタイヤモールド鋳造設備用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、鉄合金FCD400においてSiおよびMgの含有量を所定に規定することで球状黒鉛化率90%以上を担保することができ、これにより繰り返し注湯時においても上記の問題を生じない組成物が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、配列テーブル上に略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体を備え、該略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体内の中央部所定位置にタイヤモールド用鋳型を配置して、前記配列テーブル、タイヤモールド鋳造用枠体およびタイヤモールド用鋳型により形成される中空部に溶湯を充填することによりタイヤモールドの鋳造を行うタイヤモールド鋳造設備に用いられる組成物であって、JIS FCD400品において、Si含有量が2.4〜2.7重量%、Mg含有量が0.07〜0.10重量%であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の組成物においては、C含有量が3.0〜4.0重量%であることが好ましく、Mn含有量が0.5重量%以下、P含有量が0.1重量%以下、S含有量が0.05重量%以下、かつ、Cu含有量が0.05重量%以下であることがより好ましい。
【0011】
また、本発明は、板形状を有し、上部にタイヤモールド用鋳型と、該タイヤモールド用鋳型を取り囲む略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体が配置された状態でタイヤモールドの鋳造に用いられる配列テーブルであって、上記タイヤモールド鋳造設備用組成物からなることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明は、略円筒形状を有し、タイヤモールド用鋳型の周囲に配置されてタイヤモールドの鋳造に用いられるタイヤモールド鋳造用枠体であって、請求項1〜3のうちいずれか一項記載のタイヤモールド鋳造設備用組成物からなることを特徴とするものである。
【0013】
なお、鉄合金FCD400において球状黒鉛化率90%以上を担保することは、合金組成を限定せずに熱処理を行うことによっても達成可能であるが、熱処理法は脱炭作用が大きく、強度の低下を引き起こすため、好ましくない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記構成としたことにより、注湯により繰り返しA1変態温度を経た場合においても、低い熱膨張率を維持することができ、かつ、熱歪によるクラック発生を抑制することが可能なタイヤモールド鋳造設備用組成物を提供することができる。従って本発明の組成物を適用した配列テーブルおよび枠体を用いれば、湯漏れ等の問題を生ずることなく、鋳造精度に優れたタイヤモールドを得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、図1に示すような、配列テーブル1上に略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体3を備えたタイヤモールド鋳造設備に用いられる組成物に係る改良技術であり、JIS FCD400品において、Si含有量を2.4〜2.7重量%、Mg含有量を0.07〜0.10重量%に規定した点に特徴を有する。
【0016】
一般に、鋳鉄の球状黒鉛化率は、鉄合金のSiおよびMgの組合せ組成で決定され、通常、Si含有量2.3重量%以上かつMg含有量0.06重量%以上で球状黒鉛化率90%以上が達成されるが、Si含有量が多すぎると鋳造割れが発生しやすくなり、また、Mg含有量が多すぎると鋳造品の脆化が大きく、使用時に割れやすくなる。従って本発明においては、Si含有量を2.4〜2.7重量%、Mg含有量を0.07〜0.10重量%とすることで、鋳造割れの発生を防止しつつ、所望の球状黒鉛化率を実現したものである。
【0017】
図示するように、上記鋳造設備においては、枠体3内の中央部所定位置にタイヤモールド用鋳型2を配置して、配列テーブル1、枠体3および鋳型2により形成される中空部に溶湯5を充填することによりタイヤモールドの鋳造が行われる。本発明の組成物においては、上述したように球状黒鉛化率90%以上が担保されるため、かかる本発明の組成物を配列テーブル1および枠体3に適用することで、注湯によりこれらが繰り返しA1変態温度を経た場合においても、低い熱膨張率を維持するとともに熱歪によるクラック発生を抑制して、良好な鋳造精度を確保し、かつ、湯漏れの発生を適切に防止することが可能となる。
【0018】
本発明の所期の効果を得るためには、FCD400品においてSi含有量およびMg含有量の値を上記範囲内とすればよいが、好ましくは、他の成分についても以下のように規定する。即ち、鋳造設備の剛性確保の観点からは、C含有量を3.0〜4.0重量%として、ヤング率を調整することが好ましい。C含有量が5.0重量%以上となると硬いセメンタイト相が片状化しやすく、脆化の原因となる。また、3.0重量%未満であると、鋳造設備の剛性が不足する。従って、組成物のパーライト組織を維持して、剛性を確保し、脆化を抑制するためには、C含有量を3.0〜4.0重量%とする。また、脆化を防止する観点からは、Mn含有量を0.5重量%以下、P含有量を0.1重量%以下、S含有量を0.05重量%以下、Cu含有量を0.05重量%以下とすることが好適である。
【0019】
本発明の組成物は、タイヤモールド鋳造設備を構成する配列テーブル1および枠体3に適用されるものであり、これにより前述した鋳造精度向上および湯漏れ防止効果を得ることができるものであるが、特に、種々の枠体3および鋳型2と組み合わせて各種タイヤモールド鋳造において使用が可能である点から、配列テーブル1について適用する場合に効果が高い。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
下記の表1中に示す合金組成の従来例(FCD400品)および実施例の各素材を用いて、配列テーブル1および枠体3を作製し、これらを用いて、図1に示すようにしてタイヤモールドの鋳造を行った。従来例および実施例の夫々につき、鋳造時の鋳造設備の変形量(10回、100回)、および、鋳造時の表面クラック発生の有無(10回、100回)につき評価した結果を、下記の表1中に併せて示す。
【0021】
【表1】

【0022】
上記表1からわかるように、JIS FCD400品においてSi含有量およびMg含有量を所定に設定した組成物を用いた実施例の鋳造設備では、従来のJIS FCD400品を用いた従来例の鋳造設備に比し、繰り返し鋳造に伴う変形量が大幅に低減しており、また、表面クラックの発生もない。これにより、実施例の鋳造設備を用いることで、湯漏れを生ずることなく、鋳造精度に優れたタイヤモールドが得られることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】タイヤモールド鋳造設備の一例を示す、(a)は水平方向断面図であり、(b)は垂直方向断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 配列テーブル
2 タイヤモールド用鋳型
3 タイヤモールド鋳造用枠体
4 注湯部
5 溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列テーブル上に略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体を備え、該略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体内の中央部所定位置にタイヤモールド用鋳型を配置して、前記配列テーブル、タイヤモールド鋳造用枠体およびタイヤモールド用鋳型により形成される中空部に溶湯を充填することによりタイヤモールドの鋳造を行うタイヤモールド鋳造設備に用いられる組成物であって、JIS FCD400品において、Si含有量が2.4〜2.7重量%、かつ、Mg含有量が0.07〜0.10重量%であることを特徴とするタイヤモールド鋳造設備用組成物。
【請求項2】
C含有量が3.0〜4.0重量%である請求項1記載のタイヤモールド鋳造設備用組成物。
【請求項3】
Mn含有量が0.5重量%以下、P含有量が0.1重量%以下、S含有量が0.05重量%以下、かつ、Cu含有量が0.05重量%以下である請求項1または2記載のタイヤモールド鋳造設備用組成物。
【請求項4】
板形状を有し、上部にタイヤモールド用鋳型と、該タイヤモールド用鋳型を取り囲む略円筒状のタイヤモールド鋳造用枠体が配置された状態でタイヤモールドの鋳造に用いられる配列テーブルであって、請求項1〜3のうちいずれか一項記載のタイヤモールド鋳造設備用組成物からなることを特徴とする配列テーブル。
【請求項5】
略円筒形状を有し、タイヤモールド用鋳型の周囲に配置されてタイヤモールドの鋳造に用いられるタイヤモールド鋳造用枠体であって、請求項1〜3のうちいずれか一項記載のタイヤモールド鋳造設備用組成物からなることを特徴とするタイヤモールド鋳造用枠体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−198650(P2006−198650A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−12075(P2005−12075)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】