タッチパネル用透明導電性フィルムおよび画像表示装置
【課題】固有複屈折が大きいフィルムを基材として用いた透明導電性フィルムを備えるアウタータッチパネルにおいて、斜め方向から視認した場合の虹ムラの発生を抑制する。
【解決手段】可撓性透明基材の少なくとも一方の面に透明導電層を有し、かつ(i)0nm≦Re1≦2000nm、および(ii)0.8≦Nz≦1.4の光学特性を満たす透明導電性フィルム10を、アウタータッチパネル20に用いることで、虹ムラの発生が抑制される。当該透明導電性フィルムを用いたタッチパネルは、画像表示パネル30から出射される直線偏光の振動方向と、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向とのなす角が、0±5°または90±5°の範囲内となるように配置されることが好ましい。
【解決手段】可撓性透明基材の少なくとも一方の面に透明導電層を有し、かつ(i)0nm≦Re1≦2000nm、および(ii)0.8≦Nz≦1.4の光学特性を満たす透明導電性フィルム10を、アウタータッチパネル20に用いることで、虹ムラの発生が抑制される。当該透明導電性フィルムを用いたタッチパネルは、画像表示パネル30から出射される直線偏光の振動方向と、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向とのなす角が、0±5°または90±5°の範囲内となるように配置されることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウタータッチパネルの電極として好適に用いられる透明導電性フィルムに関する。さらに、本発明は当該透明導電性フィルムを備えるアウタータッチパネルを備える画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性の透明フィルム基材上に透明導電層が形成された透明導電性フィルムは、タッチパネル等に幅広く利用されている。特に、近年、携帯電話や携帯ゲーム機器等へのタッチパネルの搭載率が上昇しており透明導電性フィルムの需要が急速に拡大している。
【0003】
タッチパネル等に用いられる透明導電性フィルムとしては、可撓性透明基材上に、透明導電層としてスズドープインジウム酸化物(ITO)等の導電性金属酸化物薄膜が形成されたものが広く用いられている。可撓性透明基材としては、機械特性や耐薬品性、水分遮断性に優れているため、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の芳香族ポリエステルフィルムが広く用いられている。PET等の芳香族ポリエステルフィルムは一般に延伸・結晶化処理がされているために、機械特性等に優れている。その一方で、PETは固有複屈折が大きく、延伸処理されたフィルムは面内および厚み方向に大きな複屈折を有している。そのためPETフィルムを、液晶表示素子等の偏光素子を表示に使用する画像表示パネルのインナータッチパネル(画像表示セルと偏光素子との間に配置されるタッチパネル)の基材に用いると、複屈折の影響によって画面が着色して視認性に劣ることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方、画像表示パネルの偏光素子よりも視認側に配置されるアウタータッチパネルにおいては、高複屈折のPETフィルムを透明導電性フィルムの基材として用いたとしても、当該基材は液晶セルと偏光素子との間に配置されるものではないため、前述のような着色の問題は生じない。そのため、アウタータッチパネルに用いられる基材には、二軸延伸PETフィルムが広く用いられている。
【0005】
しかしながら、二軸延伸PETフィルムを基材として用いたアウタータッチパネルを備える表示装置を斜め方向から視認した場合、画面に虹状のムラが発生して視認性が悪化するという問題がある。特に、近年の画像表示装置の大型化や高輝度化に伴って、このような虹ムラが視認されやすくなる傾向があり、その抑制が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−231450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PETフィルムのように固有複屈折が大きいフィルムを基材として用いた場合でも虹ムラの発生を抑制し得る、アウタータッチパネル用の透明導電性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、アウタータッチパネル用透明導電性フィルムの基材として高複屈折のフィルムを用いた場合に、虹ムラが発生する原因およびその解決手段に関して考察を重ねた結果、所定の光学特性を有するフィルムを基材として用いた場合に、虹ムラの発生が抑制されることを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
本発明は、直線偏光を出射する画像表示パネルの視認側に配置されるアウタータッチパネル用の透明導電性フィルムに関する。本発明の透明導電性フィルムは、可撓性透明基材の少なくとも一方の面に透明導電層を有し、かつ下記(i)および(ii)の光学特性を満たす。
(i) 0nm≦Re1≦2000nm
(ii) 0.8≦Nz≦1.4
ただし、Re、Nzは、透明導電性フィルムの厚みをd、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした場合に、それぞれ下記式で定義される値である。
Re=(nx−ny)×d
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
【0010】
前記可撓性透明基材は、芳香族ポリエステルを主成分とするものであることが好ましく特にポリエチレンテレフタレートを主成分とするものであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明は、前記透明導電性フィルムを備えるタッチパネルが、直線偏光を出射する画像表示パネルよりも視認側に配置された画像表示装置に関する。当該画像表示装置において、画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向と、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向とのなす角が、0±5°または90±5°の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
画像表示パネルのの視認側に配置されるアウタータッチパネル用の透明導電性フィルムとして、所定の光学特性を有する本発明の透明導電性フィルを用いることで、画像表示装置を斜め方向から視認した場合の虹ムラの発生が抑制され、画像表示装置の視認性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による透明導電性フィルムの模式的断面図である。
【図2】本発明の一実施形態によるタッチパネルを備える画像表示装置の模式的断面図である。
【図3】アウタータッチパネルを備える液晶表示装置の一実施形態を表す模式的断面図である。
【図4】アウタータッチパネルを備える有機EL表示装置の一実施形態を表す模式的断面図である。
【図5】投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部の一例を表す模式的断面図である。
【図6】投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部の一例を表す模式的断面図である。
【図7】透明基体が積層された透明導電性フィルムの一例を表す模式的断面図である。
【図8】抵抗膜方式のタッチパネルの構成例を表す模式的断面図である。
【図9】視認方向について説明するための概念図である。
【図10】視認方向が異なる場合の偏光板および透明導電性フィルムの見かけ上の軸方向の変化について説明するための概念図である。
【図11】斜め方向から視認する場合の光の入射面について説明するための概念図である。
【図12】視認側偏光板から出射した直線偏光の偏光状態が入射面内において変化する様子を表す概念図である。
【図13A】視認側偏光板から出射した直線偏光が、透明導電性フィルム内を伝播して視認側へ出射される際の偏光状態を波長ごとに表す概念図である。
【図13B】本発明の画像表示装置において、視認側偏光板から出射した直線偏光が、透明導電性フィルム内を伝播して視認側へ出射される際の偏光状態を波長ごとに表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[画像表示装置の構成]
図1に、本発明の一実施形態による透明導電性フィルムの模式的断面図を示す。透明導電性フィルム10は、可撓性透明基材11の少なくとも一方の面に、透明導電層12を有している。
【0015】
図2に、本発明の一実施形態によるアウタータッチパネルを備える画像表示装置の模式的断面図を示す。画像表示装置50は、画像表示パネル30およびアウタータッチパネル20を有し、画像表示パネル30は、視認側に直線偏光を出射する。視認側に直線偏光を出射する画像表示パネルは、一般に画像表示セル31の視認側に視認側偏光板32を備える。画像表示セル31としては、液晶セルや有機ELセル等が用いられる。透明導電性フィルム10を備えるアウタータッチパネル20は、画像表示パネル30の視認側偏光板32よりもさらに視認側に配置される。図2においては、透明導電性フィルム10が透明基体25と貼り合わされたセンサ部を有するタッチパネル20が図示されているが、タッチパネルは当該形態に限定されず、後述するような各種形態のものが用いられる。
【0016】
液晶セルとしては、外光を利用する反射型液晶セル、バックライト等の光源からの光を利用する透過型液晶セル、外部からの光と光源からの光の両者を利用する半透過半反射型液晶セルのいずれを用いてもよい。また、液晶セルの駆動方式としては、例えばVAモード、IPSモード、TNモード、STNモードやベンド配向(π型)等の任意なタイプのものを用いうる。なお、液晶セル31として、透過型液晶セル、あるいは半透過半反射型液晶セルを採用する場合、液晶パネル30は、図3に示すように、液晶セル31の視認側と反対側に光源側偏光板33を備え、液晶表示装置50は適宜の光源80を備えている。液晶パネル30は、光源からの出射光や外光が、液晶セル31を伝搬中に偏光状態が変換され、液晶セルの視認側に配置された偏光板32によって偏光状態に応じた量の光が吸収されるために透過光量が調整され、画像表示を可能としている。そのため、液晶パネルから視認側に出射する光は、視認側偏光板32の透過軸方向に振動面を有する直線偏光である。
【0017】
有機ELセルとしては、透明基材上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層した発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)が用いられる。有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、このような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体、あるいはこれらの正孔注入層、発光層、及び電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。有機ELパネルは、有機ELセル自体の発光量を調整することによって画像表示を可能としているため、画像表示において偏光板は必須ではない。しかしながら、有機発光層の厚みが10nm程度ときわめて薄いために、外光が金属電極で反射して再び視認側へ出射され、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。このような外光の鏡面反射を遮蔽するために、図4に示すように、有機ELセル31の視認側に、偏光板32と1/4波長板35を積層した円偏光板36を配置する方法が採用されている。そのため、視認側に円偏光板を備える有機ELパネルから視認側に出射する光は、円偏光板36を構成する視認側偏光板32の透過軸方向に振動面を有する直線偏光である。
【0018】
このように、画像表示セルから出射した光は、視認側偏光板32によって、偏光板の吸収軸方向の光が吸収され、吸収軸方向と直交する透過軸方向の光のみがアウタータッチパネル20側へ出射される。タッチパネルは透明部材から構成されているため、視認者はアウタータッチパネル20を透過した光を画像として認識する。視認側偏光板32としては、適宜の吸収型直線偏光子を有する偏光板が用いられる。このような偏光板としては、例えば、ヨウ素を含有するポリビニルアルコール系延伸フィルムからなる偏光子を適宜の透明保護フィルムで挟持したものが好適に用いられる。
【0019】
[タッチパネルの構成]
アウタータッチパネル20は、少なくとも1枚の透明導電性フィルム10を備える。透明導電性フィルム10は、可撓性透明基材11の少なくとも一方の面に透明導電層12を備えた構成を有している。このような透明導電性フィルムを備えるタッチパネルとしては、例えば投影型静電容量方式のタッチパネルや抵抗膜方式のタッチパネルが用いられる。このようなタッチパネルの構成例が図5〜図8に示されている。
【0020】
図5および図6は、2枚の透明導電性フィルム10a、10bを用いた投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部21の例を示す模式的断面図である。図5および図6は、図1に示す透明導電性フィルム10が、粘着剤層23を介して対向配置された構成である。図5では、透明導電性フィルム10a、10bの可撓性透明基材11a、11b同士が粘着剤層23を介して貼り合わされている。図6では、一方の透明導電性フィルム10aの可撓性透明基材11aに他方の透明導電性フィルム10bの透明導電層12bが粘着剤層23を介して貼り合わされている。
【0021】
タッチパネルの形成において、図5および図6に示すセンサ部21は、図面の上方が視認側となるように配置されてもよく、図面の下方が視認側となるように配置されてもよい。図5および図6に示すセンサ部21は、センサ部に指等を近づけた際に、上側(視認側)と下側(表示パネル側)の静電容量の値が変化し、それに起因する電気信号変化を計測することによって、位置情報を感知するセンサとして機能する。このような形態において、透明導電層12aおよび2bはパターニング処理が施され、各透明導電層が複数の透明電極に分割されていることが好ましい。
【0022】
図7では、図1に示す透明導電性フィルム10の可撓性透明基材11に透明基体25が粘着剤層23を介して貼り合わされた構成が図示されている。透明基体25としては、ガラスやプラスチックフィルムが用いられる。また、透明基体25は、適宜の接着層を介して2以上の基体が積層されたものであってもよい。図7に示す透明導電性フィルム10を有する積層体は、通常、抵抗膜方式のタッチパネルに適用できるが、図5、図6に示すような投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部の一部を形成することもできる。
【0023】
図8は、抵抗膜方式のタッチパネルの構成を示す模式的断面図である。図8に示すように、抵抗膜方式のタッチパネルは、上側基板としての透明導電性フィルム10aと、下側基板10bとがスペーサー29を介して対向配置された構造を有している。下側基板10bは、透明基体11b上に透明導電層12bが積層された構成を有する。下側基板10bを構成する透明基材11bは、ガラス等の剛性のものであってもよく、プラスチックフィルム等の可撓性のものであってもよい。また、下側基板として、可撓性透明基材上に透明導電層を有する透明導電性フィルムを用いてもよい。スペーサー29は絶縁性のものであれば特に限定されず、各種のサイズ、形状を有するものを適宜に配置することができる。
【0024】
図8において、上側基板の透明導電性フィルム10aの可撓性透明基材11aには、粘着剤層23を介して透明基体25が貼り合わされている。このような上側基板に用いられる透明基材としては、可撓性透明基材が用いられる。図8に示すような抵抗膜方式のタッチパネルは、上側基板側から、入力ペン等にてスペーサー29の弾性力に抗して押圧打点したときに、上側基板の透明導電層12aと下側基板の透明導電層12bとが接触して通電することによって、位置情報を感知するセンサとして機能する。
【0025】
[透明導電性フィルムの光学特性]
画像表示装置50を斜め方向から視認した場合における虹ムラの発生を抑制する観点において、タッチパネル20に用いられる透明導電性フィルム10は、下記(i)および(ii)の光学特性を満たすことが好ましい。
(i) 0nm≦Re≦2000nm
(ii) 0.8≦Nz≦1.4
ここで、透明導電性フィルムの厚みをd、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした場合に、ReおよびNzは、それぞれ下記式で定義される。
Re=(nx−ny)×d
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
【0026】
後に詳述するように、透明導電性フィルム10における透明導電層12や光学干渉層等は、可撓性透明基材11に比して厚みが小さく複屈折も小さい。そのため、これらの層に起因する複屈折の影響は、可撓性透明基材に起因する複屈折の影響に比して無視小である。したがって、一般には、透明導電性フィルム10が上記(i)および(ii)を満たすためには、可撓性透明基材11が上記(i)および(ii)を満足すればよい。
【0027】
タッチパネル20が、図5および図6に示す形態である場合や、図8の形態において下側基板10’として透明導電性フィルムが用いられる場合のように、複数の透明導電性フィルムを備える形態、あるいはその他の基体25等が貼り合わされている場合は、これら複数の透明導電性フィルムや基体フィルムを一体とみなしたものが、上記(i)および(ii)を満たすことが好ましい。
【0028】
透明導電性フィルムの可撓性透明基材として一般に広く用いられている二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、縦方向および横方向にそれぞれ2〜4倍程度に延伸されているため、Reが数千nmであり、Nzは2を超える。これに対して、本発明では、可撓性透明基材11として、Nzが1に近いフィルム(いわゆるポジティブAプレート)を用いることによって、画像表示装置を斜め方向から視認した場合でも、虹ムラの発生を抑制することができる。
【0029】
虹ムラの発生を抑制する観点において、画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向と、透明導電性フィルム10の面内の遅相軸方向10sとが、直交(90±5°)または平行(0±5°)であることが好ましい。タッチパネル20が複数の透明導電性フィルムを備える場合、これら複数の透明導電性フィルムを一体とみなし、その遅相軸方向が、画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向と、略直交または略平行であることが好ましい。
【0030】
なお、画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向は、画像表示パネルの視認側偏光板32の透過軸方向32tと一致する。そのため、画像表示パネル30の視認側偏光板の透過軸方向32tとタッチパネル20の透明導電性フィルム10の遅相軸方向10sとが直交または平行であることが好ましい。
【0031】
上記のように透明導電性フィルムの光学特性を制御することによって、虹ムラの発生を抑制できるのは、画像表示装置を斜め方向から視認した場合の見かけ上の軸方向が制御されるためであると推定される。以下、アウタータッチパネルに本発明の透明導電性フィルムを用いた場合に、画像表示装置の虹ムラの発生が抑制される推定原理について説明する。
【0032】
<視認方向と見かけ上の軸方向の関係>
図9は、画像表示パネルの視認側偏光板32の透過軸方向32tとタッチパネルの透明導電性フィルム10の遅相軸方向10sとが直交する実施形態において、画像表示装置の視認方向について説明するための概念図である。図9(a)は画像表示装置を正面から視認した場合である。図9(b)および(c)は、いずれも表示面の法線とのなす角(極角)θの斜め方向から視認した場合であるが、図9(b)は透明導電性フィルムの遅相軸方向と同一の方位から視認した場合を表しており、図9(c)は透明導電性フィルムの遅相軸方向とのなす角(方位角)ψの方位から視認した場合を表している。
【0033】
図10は、図9の各視認方向から見た場合の、視認側偏光板32の透過軸方向32tおよび吸収軸方向32a、ならびに透明導電性フィルム10の遅相軸方向10sの視認者からの見かけ上の軸方向が変化する様子を概念的に表している。図9(a)のように正面方向から視認する場合、あるいは図9(b)のように斜め方向であっても、透明導電性フィルムの遅相軸方向10sと平行な方位から視認する場合は、図10(a)に示すように、視認側偏光板32の軸方向と透明導電性フィルム10の軸方向の関係は保持される。ずなわち、視認側偏光板32の見かけ上の吸収軸方向32a’と透明導電性フィルム10の見かけ上の遅相軸方向10s’とは平行状態を保ち、視認側偏光板32の見かけ上の透過軸方向32t’と透明導電性フィルム10の見かけ上の進相軸方向10f’(不図示)も平行状態を保つ。そのため、これらの方向から視認した場合は、視認側偏光板32から出射した直線偏光は、透明導電性フィルムの複屈折の影響を受けることなく、直線偏光の状態を維持したまま視認者に到達する。
【0034】
一方、図9(c)のように、方位角ψ、極角θの斜め方向から視認する場合は、図10の(c1)および(c2)に示すように、見かけ上の軸方向にズレが生じることが知られている(例えば、T. Ishinabe et al., ” Wide Viewing Angle Polarizer and a Quarter-wave plate with a Wide Wavelength Range for Extremely High Quality LCDs”, IDW’01 pp.485-488)。この見かけ上の軸方向のズレは、方位角ψ=45°で最大となり、例えばψ=45°、θ=80°の斜め方向から視認した場合は、約8°の軸ズレが生じることが知られている。ここで、透明導電性フィルム10のNzが1に近い場合、偏光板および透明導電性フィルムはいずれも一軸性の光学異方性を有するために、偏光板32の見かけ上の吸収軸方向32a’と透明導電性フィルム10の見かけ上の遅相軸方向10s’とは、図10(c1)に示すように平行状態を維持する。同様に、偏光板32の見かけ上の透過軸方向32t’と透明導電性フィルム10の見かけ上の進相軸方向10f’(不図示)も平行状態を保持する。そのため、透明導電性フィルム10のNzが1に近い、すなわち、透明導電性フィルムがポジティブAプレート特性を有する場合は、斜め方向から視認した場合でも、視認側偏光板32から出射した直線偏光は、透明導電性フィルムの複屈折の影響を受けることなく、直線偏光の状態を維持したまま視認者に到達する。
【0035】
前述のように、透明導電性フィルムの可撓性透明基材として広く用いられている二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのNzは、一般に2よりも大きいため、可撓性透明基材11として二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを採用した透明導電性フィルム10のNzも2より大きくなる。透明導電性フィルムのNzが大きい場合、図10(c2)に示すように、透明導電性フィルム10の見かけ上の遅相軸方向10s’のズレは、偏光板32の見かけ上の吸収軸方向32a’のズレよりも大きくなる。同様に、透明導電性フィルム10の見かけ上の進相軸方向10f’(不図示)のズレは偏光板32の見かけ上の透過軸方向32t’のズレよりも大きくなるため、両者は平行ではなくなる。このような場合、視認側偏光板32から出射した直線偏光は、透明導電性フィルムの複屈折の影響により、透明導電性フィルム中を伝搬中に直線偏光から他の偏光状態に変換されて、視認者に到達する。
【0036】
<虹ムラの発生原理>
図12は、図11に示す入射面X内で、画像表示パネルの視認側偏光板32から出射した直線偏光が、タッチパネルの透明導電性フィルム10を伝播して視認側に出射される様子を模式的に表している。図12においては、透明導電性フィルム10の偏光板32側界面におけるp偏光成分についてのみ示しているが、これは本願発明の原理を模式的に説明するための概念図であり、実際の光が単一の偏光成分のみを有することを意味するものではない。実際には、偏光板32から透明導電性フィルム10に光が入射する際に界面での反射が生じるが、簡単のために、当該界面における反射光については図示していない。
【0037】
図12の(a)は、透明導電性フィルム10が光学等方性である場合の偏光状態を模式的に表している。偏光板32から、入射角θ1で透明導電性フィルム10に斜め方向に入射する直線偏光r1は、透明導電性フィルムを伝播する間も複屈折の影響を受けないため、直線偏光状態を保ったまま透明導電性フィルム10の視認側界面に到達する。
【0038】
伝播光r3は、透明導電性フィルムの視認側界面でその一部が反射光r4として偏光板32側(画像表示パネル側)に反射され、その残部が出射光r5として視認側に出射される。その際、伝播光r3のうち反射光r4として反射されるp偏光の反射率Rpおよびs偏光の反射率Rsは、それぞれ以下のフレネルの式で表される。
Rp={tan(φ−θ2)/tan(φ+θ2)}2 (式1)
Rs={sin(φ−θ2)/sin(φ+θ2)}2 (式2)
【0039】
なお、φおよびθ2は、伝播側の媒体である透明導電性フィルム10の屈折率n1および出射側の媒体の屈折率n2に対して、下記のスネルの法則に従う。
n1sinφ=n2sinθ2 (式3)
【0040】
上記のフレネルの式からも明らかなように、斜め方向に伝播する光が界面に到達した場合、s偏光はp偏光に比して反射率が大きい。そのため、透明導電性フィルムの視認側界面に到達する光r3のs偏光成分が大きいほど、当該界面における反射率が高くなり、視認側へ出射される光r5の強度は小さくなる。
【0041】
図12(b)は、透明導電性フィルムが光学等方性でなく、かつ、図10(c2)のように、透明導電性フィルムの見かけ上の遅相軸方向10s’と直線偏光r1の振動方向(すなわち偏光板32の見かけ上の透過軸方向32t’)とが平行でも直交でもない場合の偏光状態を模式的に示している。偏光板32から入射角θ1で透明導電性フィルム10に斜め方向に入射する直線偏光r11は、透明導電性フィルムを伝播する間に複屈折の影響を受け、偏光状態が変化する。そのため、透明導電性フィルム10の偏光板32側界面においてp偏光成分として入射した光r11は、透明導電性フィルム10の視認側界面に到達する際には、p偏光とs偏光を所定の割合で有する楕円偏光r13となる。
【0042】
透明導電性フィルムの視認側界面に角度φで到達した光r13は、一部が反射光r14として偏光板32側(画像表示パネル側)に反射され、残部が出射光r15として視認側に出射される。その際、伝播光r13のうち反射光r14として反射されるp偏光の反射率およびs偏光の反射率は、前述のフレネルの式に従う。
【0043】
ところで、ポリエチレンテレフタレートに限らず、あらゆる物質は波長によって屈折率が異なる、いわゆる「波長分散特性」を有している。そのため、偏光板32から透明導電性フィルムに入射角θ1で斜め方向に入射する光の屈折角φも波長によって異なる。
【0044】
例えば、図13Bに概念的に示すように、直線偏光r11が透明導電性フィルム10に入射する際、青色の光は屈折角φBで光r13Bとして伝播し、緑色の光は屈折角φGで光r13Gとして伝播し、赤色の光は屈折角φRで光r13Rとして伝播する。一般に短波長ほど屈折率は大きいため、屈折角はφB<φG<φRとなる。また、複屈折も波長分散特性を有しているため、透明導電性フィルム中を伝播する光r13が受けるレターデーションも波長によって異なる。そのため、青色の光r13B、緑色の光r13G、赤色の光r13Rでは、視認側界面に到達する際の偏光の状態(p偏光とs偏光の比率)が異なる。
【0045】
このように、透明導電性フィルムの視認側界面に到達する光のp偏光とs偏光の比率が波長によって異なるため、視認側界面での反射率(r14/r13)も波長によって異なる。結果として視認側へ出射される光r15も、図13Bにr15B、r15G、r15Rとして模式的に表すように、波長によって強度が異なる。そのため、斜め方向から視認した際の透明導電性フィルム10の見かけ上の軸方向と偏光板32の見かけ上の軸方向とが平行でも直交でもない場合には、透明導電性フィルムの複屈折の影響により、透明導電性フィルムから視認側へ出射する光r15のスペクトル形状と、偏光板32から透明導電性フィルム10に入射する光r11のスペクトル形状との間に差が生じ、これが着色の原因となる。このような原理によって生じる着色は「現色偏光」と称される。
【0046】
一般に、二軸延伸フィルムは、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の進相軸方向の屈折率ny、厚み方向の屈折率nzが、nx>ny>nzの関係を有し、三次元的な屈折率異方性を有している。そのため、見かけ上のレターデーションが視角によって異なることに加えて、見かけ上の遅相軸方向も視角によって異なる。その結果、視認側へ出射される光r15のスペクトルは視角θ2によって異なり、視角によって現色偏光による呈色が異なる。この角度による呈色の相違が視認者の視覚には虹ムラとなって観察されるものと考えられる。視角θ2が大きくなるほど、単位角度変化量に対する透明導電性フィルムの見かけ上のレターデーションRe(θ2)の変化量の絶対値、すなわち|dRe(θ2)/dθ2|が大きくなることから、極角θ2が大きくなるほど、角度変化による呈色の変化が大きくなり、虹ムラが視認され易い傾向がある。また、p偏光の反射率とs偏光の反射率の差が最大となるブリュースター角付近では特に虹ムラが顕著となりやすい。
【0047】
透明導電性フィルム10の基材として二軸延伸PETフィルムを用いた場合、透明導電性フィルムのReおよびNzの値が大きくなる。そのため、斜め方向から視認した場合には、見かけ上の軸方向のズレが大きくなり、透明導電性フィルムの視認側界面が、あたかもs偏光とp偏光とを分離する偏光素子のように作用して、現色偏光による虹ムラが生じていると考えられる。
【0048】
<虹ムラの解消原理>
このような現色偏光による呈色を抑制する観点からは、透明導電性フィルム10の基材として光学等方性材料を用いて、透明導電性フィルムによる偏光状態の変化を抑制することが考えられる。その一方で、PET等の芳香族ポリエステルフィルムは複屈折が小さい無延伸の状態では結晶性が十分ではなく、機械強度の高いフィルムを得ることは困難な場合が多い。
【0049】
これに対して、本発明は、透明導電性フィルムが複屈折を有していても、Nzが1程度である場合、すなわち透明導電性フィルムがAプレート特性を有する場合には、視認側偏光板32の見かけ上の軸方向と、透明導電性フィルム10の見かけ上の軸方向とのズレが小さく、虹ムラの発生が抑制できることを見出してなされたものである。すなわち、透明導電性フィルムのNzが0.8〜1.4程度であれば、画面を斜め方向から視認した場合においても、図10(c1)に概念的に示すように、視認側偏光板32の見かけ上の軸方向と透明導電性フィルムの見かけ上の軸方向とが、略平行あるいは略直交状態を保持する。そのため、透明導電性フィルム10が光学等方性である場合と同様に、偏光板32から出射され、入射角θ1で透明導電性フィルム10に斜め方向に入射する直線偏光は、透明導電性フィルムを伝播する間の複屈折の影響が小さく、直線偏光状態を保ったまま透明導電性フィルム10の視認側界面に到達する。
【0050】
また、視認側偏光板の見かけ上の軸方向と透明導電性フィルムの見かけ上の軸方向とが厳密な平行あるいは直交から若干のズレを生じる場合であっても、そのズレが小さければ、透明導電性フィルム10に斜め方向に入射する直線偏光が、透明導電性フィルムを伝播する間の複屈折による偏光状態の変換は小さい。そのため、波長による偏光状態の相違も小さく、虹ムラが視認されるほどの現色偏光を生じ難い。視認側偏光板の見かけ上の軸方向と透明導電性フィルムの見かけ上の軸方向との平行あるいは直交状態を保って虹ムラの発生を抑制する観点からは、透明導電性フィルムのNzは0.8〜1.4であることが好ましく、0.9〜1.3であることがより好ましく、0.9〜1.2であることがさらに好ましい。
【0051】
一方、透明導電性フィルムがAプレート特性を有する場合であっても、視認側偏光板32の透過軸方向と透明導電性フィルム10の面内の遅相軸方向とが直交でも平行でもない場合は、透明導電性フィルム10の複屈折によって、偏光板32側から透明導電性フィルム10に入射した光の偏光状態が変化するために、現色偏光による呈色により虹ムラが発生する。そのため、視認側偏光板32の透過軸方向と透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向とのなす角は、0±5°または90±5°の範囲内であることが好ましい。
【0052】
また、透明導電性フィルムがAプレート特性を有する場合であっても、その正面レターデーションReが大きいと、斜め方向から視認した場合のわずかな見かけ上の軸方向の相違によって、複屈折に起因する透過光の偏光状態の変化が大きくなる。また、視認方向の単位角度変化量に対する透明導電性フィルムの見かけ上のレターデーションRe(θ2)の変化量の絶対値|dRe(θ2)/dθ2|も大きくなるため、虹ムラが視認され易くなる傾向がある。そのため、透明導電性フィルムの正面レターデーションは2000nm以下であることが好ましい。特に、画像表示装置の画面サイズが例えば4インチ以上に大きくなると、より極角θ2の大きい方向から画面を視認する機会が増加し、|dRe(θ2)/dθ2|が大きくなる。そのため、透明導電性フィルムの正面レターデーションは2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがさらに好ましい。
【0053】
[透明導電性フィルムの光学特性]
上記の光学特性を有する透明導電性フィルムは、可撓性透明基材上に透明導電層やその他の付加的な層を形成することによって得られる。本発明の透明導電性フィルムの実施形態について、以下に説明する。
<可撓性透明基材>
可撓性透明基材11としては、透明性を有する各種のプラスチックフィルムが用いられる。例えば、その材料として、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂である。
【0054】
これらの中でも、機械強度や寸法安定性、耐熱性の観点からはポリエステルを主成分とする可撓性透明基材が好適に用いられる。ポリエステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカジカルボン酸等のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等のジオールを、それぞれ1種を重縮合してなるホモポリマー、又はジカルボン酸1種以上とジオール2種以上を重縮合してなる共重合体、あるいはジカルボン酸2種以上と1種以上のジオールを重縮合してなる共重合体、及びこれらのホモポリマーや共重合体を2種以上ブレンドしてなるブレンド樹脂のいずれかのポリエステル系樹脂を挙げることができる。中でも、ポリエステルが結晶性を示す観点から、芳香族ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、あるいはポリエチレンナフタレート(PEN)が特に好ましく、ポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。
【0055】
ポリエステルフィルムは、例えば上記のポリエステル系樹脂をキャスティングドラム上に溶融押出し後、冷却固化させる方法等によって得られる。なお、可撓性透明基材として芳香族ポリエステルを主成分とするものを用いる場合、かかるフィルムは芳香族ポリエステル以外の樹脂や添加剤等を含有するものであってもよい。「芳香族ポリエステルを主成分とする」とは、フィルム全重量に対して芳香族ポリエステルを50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上有することを意味する。
【0056】
本発明においては、ポリエステルフィルムに結晶性を付与して上記特性を達成する観点から、可撓性透明基材として延伸ポリエステルフィルムを好適に用いることができる。可撓性透明基材が延伸フィルムである場合、その延伸方法は特に限定されないが、前述のようにAプレート特性を有する基材を得る観点からは縦一軸延伸法(自由端一軸延伸法)によって延伸されたものであることが好ましい。また、結晶性を増大させてより機械特性に優れたフィルムを得る等の観点から、二軸延伸を行ってもよいが、その場合は、Nzが1.4以下となるように延伸倍率を調整することが好ましい。
【0057】
透明導電性フィルム10は、可撓性透明基材11の他に透明導電層や光学干渉層等を有しているが、これらの層の厚みや複屈折は、いずれも可撓性透明基材11に比して小さい。そのため、一般には、透明導電性フィルム全体のReおよびNzが前記式(i)および(ii)を満たすためには、可撓性透明基材11が上記(i)および(ii)を満足することが必要かつ十分である。したがって、可撓性透明基材の厚みをd1、面内の遅相軸方向の屈折率をnx1、面内の進相軸方向の屈折率をny1、厚み方向の屈折率をnz1とした場合に、それぞれ、Re1=(nx1−ny1)×d1で表される正面レターデーションは2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがさらに好ましい。また、Nz1=(nx1−nz1)/(nx1−ny1)で定義されるNz1は0.8〜1.4であることが好ましく、0.9〜1.3であることがより好ましく、0.9〜1.2であることがさらに好ましい。
【0058】
可撓性透明基材の厚みd1は特に制限されないが、正面レターデーションは厚みに比例するため、可撓性透明基材の厚みが過度に大きいと、結晶化のためにわずかに延伸した場合でも正面レターデーションRe1が大きくなる。そのため、可撓性透明基材の厚みは200μm以下であることが好ましく、175μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。薄型化の観点からは、可撓性透明基材の厚みは小さいことが好ましいが、厚みが過度に小さいと、ハンドリング性に劣る等の問題を生じるため、可撓性透明基材の厚みは10μm以上であることが好ましい。
【0059】
可撓性透明基材は、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施してもよい。これにより、可撓性透明基材上に設けられる透明導電層や光学干渉層等との密着性を向上させることができる。また、透明導電層や光学干渉層等を設ける前に、必要に応じて可撓性透明基材の表面を溶剤洗浄や超音波洗浄などにより除塵、清浄化してもよい。
【0060】
<透明導電層>
透明導電層12は、導電性金属酸化物により形成される。透明導電層を構成する導電性金属酸化物は特に限定されず、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム、アンチモン、チタン、珪素、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、金、銀、銅、パラジウム、タングステンからなる群より選択される少なくとも1種の金属の導電性金属酸化物が用いられる。当該金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子を含んでいてもよい。例えばスズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)などが好ましく用いられる。中でも、ITOが最も好適である。また、可撓性透明基材の透明導電層12側の面に光学干渉層が形成されている場合、透明導電層は、光学干渉層との屈折率の差が0.1以上であることが好ましい。
【0061】
透明導電層の厚みは特に制限されないが、10nm以上であることが好ましく、15〜40nmであることがより好ましく、20〜30nmであることがさらに好ましい。透明導電層の厚みが15nm以上であると、表面抵抗が例えば1×103Ω/□以下の良好な連続被膜が得られ易い。また、透明導電層の厚みが40nm以下であると、より透明性の高い層とすることができる。
【0062】
透明導電層の形成方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法を例示できる。また、必要とする膜厚に応じて適宜の方法を採用することもできる。透明導電層は、アモルファスであってもよく、結晶性のものであってもよい。結晶性の透明導電層を形成する方法として、可撓性透明基材11上に高温で製膜を行うことによって、そのまま結晶性の膜を形成することもできる。しかしながら、基材の耐熱性等を考慮すると、結晶性の透明導電層は、一旦基材上にアモルファス膜を形成した後、該アモルファス膜を可撓性透明基材とともに加熱・結晶化することによって形成することが好ましい。
【0063】
本発明の透明導電性フィルムは、透明導電層の面内の一部が除去されてパターン化されたものであってもよい。透明導電層がパターン化された透明導電性フィルムは、可撓性透明基材11上に透明導電層12が形成されているパターン形成部と、可撓性透明基材11上に透明導電層を有していないパターン開口部とを有する。パターン形成部の形状は、透明導電性フィルムが適用される用途に応じて、各種形状を形成することができる。パターン形成部の形状としては、例えばストライプ状の他、スクエア状等が挙げられる。
【0064】
<光学干渉層>
可撓性透明基材11と透明導電層12との間には光学干渉層が設けられていてもよい。光学干渉層は、多重反射干渉の原理によって外光の反射率を調整する等の目的で設けられる。例えば、透明導電層がパターン形成部とパターン開口部とにパターン化されている場合、光学干渉層を設けることによって両者間の反射率差を低減し、パターンが視認され難くすることが可能である。
【0065】
光学干渉層は、無機物、有機物、又は、無機物と有機物との混合物により形成することができる。例えば、無機物として、NaF(1.3)、Na3AlF6(1.35)、LiF(1.36)、MgF2(1.38)、CaF2(1.4)、BaF2(1.3)、SiO2(1.46)、LaF3(1.55)、CeF3(1.63)、Al2O3(1.63)などの無機物〔上記各材料の括弧内の数値は屈折率である〕が挙げられる。これらのなかでも、SiO2、MgF2、Al2O3などが好ましく用いられる。特に、SiO2が好適である。上記の他、酸化インジウムに対して、酸化セリウムを10〜40重量部程度、酸化錫を0〜20重量部程度含む複合酸化物を用いることができる。
【0066】
上記有機物としてはアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、アルキ系ド樹脂、シロキサン系ポリマー、有機シラン縮合物などが挙げられる。これら有機物は、少なくとも1種が用いられる。特に、有機物としては、メラミン樹脂とアルキド樹脂と有機シラン縮合物の混合物からなる熱硬化型樹脂を使用するのが望ましい。
【0067】
光学干渉層の屈折率は、透明導電層の屈折率との差が、0.1以上であることが好ましい。透明導電層の屈折率と光学干渉層の屈折率の差は、0.1以上0.9以下、さらには0.1以上0.6以下であるのが好ましい。なお、光学干渉層の屈折率は、通常、1.3〜2.5、さらには1.38〜2.3、さらには1.4〜2.3であるのが好ましい。このように光学干渉層の屈折率を制御することによって、パターン形成部とパターン開口部との反射率差を低減することができる。
【0068】
光学干渉層の厚みは、特に制限されるものではないが、光学設計や、可撓性透明基材からのオリゴマー等の低分子量成分が透明導電層に移行するのを抑制するための封止層として作用させる等の観点から、通常、1〜300nm程度であり、好ましくは5〜300nmである。なお、光学干渉層が2層以上からなる場合、各層の厚みは、5〜250nm程度であることが好ましく、10〜250nmであることがより好ましい。
【0069】
このような光学干渉層は、可撓性透明基材上に直接設けることもできるし、可撓性透明基材上にハードコート層やブロッキング防止層を設けて、その上に光学干渉層を設けることもできる。
【0070】
<ハードコート層・ブロッキング防止層>
一般に、ハードコート層は、フィルムに硬度を持たせてキズ付きを防止する目的で設けられ、ブロッキング防止層は、フィルム表面に凹凸を形成して滑り性や耐ブロッキング性を付与するために設けられる。ハードコート層やブロッキング防止層は、可撓性透明基材11と透明導電層12との間に形成することもできるし、可撓性透明基材11の透明導電層12が形成されるのと反対側の面に形成することもできる。
【0071】
ハードコート層を形成する樹脂としては、熱硬化型樹脂、熱可塑型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、二液混合型樹脂などがあげられるが、これらのなかでも紫外線照射による硬化処理にて、簡単な加工操作にて効率よくハードコート層を形成することができる紫外線硬化型樹脂が好適である。紫外線硬化型樹脂としては、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アミド系、シリコーン系、エポキシ系等の各種のものがあげられ、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。好ましく用いられる紫外線硬化型樹脂は、例えば紫外線重合性の官能基を有するもの、なかでも当該官能基を2個以上、特に3〜6個有するアクリル系のモノマーやオリゴマー成分を含むものがあげられる。また、紫外線硬化型樹脂には、紫外線重合開始剤が配合されている。
【0072】
ハードコート層の形成方法は特に制限されず、適宜な方式を採用することができる。例えば、可撓性透明基材上にハードコート層を形成する樹脂組成物を塗工し、乾燥後、硬化処理する方法が採用される。樹脂組成物の塗工は、ファンテン、ダイコーター、キャスティング、スピンコート、ファンテンメタリング、グラビア等の適宜な方式で塗工される。なお、塗工にあたり、前記樹脂組成物は、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等の一般的な溶剤で希釈して溶液としておくことが好ましい。
【0073】
ブロッキング防止層としては、硬化型樹脂層中に微粒子を含有させたものや、硬化型樹脂組成物として相分離する2種以上の成分を含有するコーティング組成物を用いたもの、あるいはこれらを併用することによって、表面に凹凸が形成されたものが好適に用いられる。硬化型樹脂層の成分としては、ハードコート層の各成分として前記したものが好適に用いられる。また、相分離する2種以上の成分を含有するコーティング組成物としては、例えば国際公開WO2005/073763号パンフレットに記載の組成物を好適に用いることができる。
【0074】
[タッチパネルの形成]
透明導電性フィルムをタッチパネルへの適用するに際しては、図7に示すように、可撓性透明基材11の透明導電層12が形成されていない側の面に粘着剤層23を介して透明基体25が貼り合わせてもよい。
【0075】
粘着剤層23としては、透明性を有するものであれば特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性及び接着性等の粘着特性を示し、耐候性や耐熱性等にも優れるという点からは、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0076】
粘着剤層の構成材料である粘着剤の種類によっては、適当な粘着用下塗り剤を用いることで基材との投錨力を向上させることが可能なものがある。従って、そのような粘着剤を用いる場合には、可撓性透明基材11に粘着用下塗り剤を用いることが好ましい。
【0077】
前記粘着剤層には、ベースポリマーに応じた架橋剤を含有させることができる。また、粘着剤層には必要に応じて例えば天然物や合成物の樹脂類、ガラス繊維やガラスビーズ、金属粉やその他の無機粉末等からなる充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤などの適宜な添加剤を配合することもできる。また透明微粒子を含有させて光拡散性が付与された粘着剤層とすることもできる。
【0078】
前記粘着剤層は、通常、ベースポリマー又はその組成物を溶剤に溶解又は分散させた固形分濃度が10〜50重量%程度の粘着剤溶液として用いられる。前記溶剤としては、トルエンや酢酸エチル等の有機溶剤や水等の粘着剤の種類に応じたものを適宜に選択して用いることができる。
【0079】
この粘着剤層は、例えば、ガラスやプラスチックフィルム等からなる基体25との貼合わせ後に於いては、そのクッション効果により、基材11の一方の面に設けられた透明導電層12の耐擦傷性やタッチパネル用としての打点特性、いわゆるペン入力耐久性および面圧耐久性を向上させる機能を有し得る。そのため、特に図8に示すような抵抗膜方式のタッチパネルに用いる場合においては、粘着剤層にクッション効果を持たせることが好ましい。具体的には、粘着剤層の弾性係数を1〜100N/cm2の範囲、厚みを1μm以上、通常5〜100μmの範囲に設定するのが望ましい。粘着剤層の厚みが上記範囲であると、クッション効果が十分発揮され、かつ粘着剤層による密着力も十分となり得る。粘着剤層の厚みが上記範囲よりも薄いと上記耐久性や密着性を確保できず、また上記範囲よりも厚いと透明性などの外観に不具合が発生する場合がある。なお、透明導電性フィルムが静電容量方式のタッチパネルに用いられる場合には、上記のような粘着剤層によるクッション効果は必ずしも求められるものではないが、各種基体との密着性や、粘着剤層付き透明導電性フィルムのハンドリングを容易とする観点からは、粘着剤層は上記と同様の厚みおよび弾性係数を有することが好ましい。
【0080】
本発明において、図7に示すように、透明導電性フィルム10に別の基体25が貼り合わせられている場合や、図5、6、8に示すようにタッチパネル内に複数の透明導電性フィルムを有する場合、これら複数の透明導電性フィルムや基体フィルムを一体とみなしたものが、前記のReおよびNzを満足することが好ましい。タッチパネル内の各透明導電性フィルムの可撓性透明基材11や透明基体25として延伸フィルムが用いられる場合、各延伸フィルムが前述のようなAプレート特性を有し、さらにタッチパネル内で遅相軸方向が平行となるように配置されることが好ましい。複数の延伸フィルムの遅相軸方向が平行であれば、複数の透明導電性フィルムや基体フィルムを一体とみなしたものもAプレート特性を保持するため、虹ムラの発生を抑制することができる。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、以下の実施例、参考例、及び比較例の評価は、下記の方法により行ったものである。
【0082】
[測定、評価方法]
(レターデーション)
偏光・位相差測定システム(Axometrics製 製品名「AxoScan」)を用い、23℃の環境下にて、測定波長590nmで透明導電性フィルムの正面レターデーションの測定を行った。また、同様にして、遅相軸方向および進相軸方向を回転中心としてフィルムを40°傾斜した際のレターデーションを測定した。なお、レターデーションの測定値の次数は、予め求めた延伸PETフィルムのレターデーションの波長分散と一致するように決定した。これらの測定値から、透明導電性フィルムの正面レターデーションReおよびNzを算出した。なお、複数の透明導電性フィルムが積層されたもの(実施例4および実施例6)については、積層後の透明導電性フィルムを用いて測定を行った。
【0083】
(虹ムラの評価)
23℃の暗室にて、液晶表示装置に白画像を表示させ、視認側偏光板の吸収軸方向を方位角の基準として、方位角約45°の方向で、極角を40°〜80°へ変化させながら目視することで、画面の虹状の着色の有無を確認した。虹ムラは下記の4段階で評価を行った。
1:角度変化に対して色相が顕著に変化する
2:色相が顕著に変化する角度範囲が、概ね極角40〜60°の範囲であり、上記1に比して狭い
3:色相が顕著に変化する角度範囲が、概ね極角40〜50°の範囲であり、上記2に比してさらに狭い
4:角度変化に対して、色相の変化がほとんど確認されない
【0084】
[実施例1]
(ポリエステルフィルムの作成)
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比1.5倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み163μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材A」とする。
【0085】
(光学干渉層および透明導電層の形成)
上記基材Aの一方の表面に、光学干渉層として、SiO2のゾルゲル層をウェットコーティング法により厚み100nmで形成した。その上に、透明導電層として、スパッタリング法により、厚み25nmのITO層を形成した。その後ITO層を結晶化させるために、150℃で1時間の加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。
【0086】
(擬似タッチパネルの形成および評価)
上記の透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、画面サイズ4.3インチの液晶表示装置上に、液晶表示装置の視認側の偏光板の吸収軸方向と擬似タッチパネルのPET基材の遅相軸方向とのなす角度が0°となるように配置し、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0087】
[実施例2]
前記実施例1において、擬似タッチパネルを、透明導電性フィルムの遅相軸方向が、視認側偏光板の吸収軸方向に対して、視認側から見て反時計回りに95°の角度をなすように配置したこと以外は実施例1と同様にして、擬似タッチパネルの形成および評価を行った。
【0088】
[実施例3]
前記基材Aを、テンター延伸機により幅方向(縦延伸方向と直交する方向)に延伸比1.1倍で固定端一軸延伸(横延伸)して、厚み148μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材B」とする。
【0089】
基材B上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、透明導電性フィルムの遅相軸方向が、視認側偏光板の吸収軸方向に対して、視認側から見て反時計回りに5°の角度をなすように画面サイズ4.3インチの液晶表示装置上に配置し、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0090】
[実施例4]
厚み50μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比1.5倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み41μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材C」とする。
【0091】
基材C上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルム4枚を、それぞれの基材フィルムの遅相軸方向が平行となるようにアクリル系粘着剤層を介して貼り合わせて擬似的なタッチパネルを作製した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0092】
[実施例5]
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比1.2倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み183μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材D」とする。
【0093】
基材D上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0094】
[実施例6]
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比1.25倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み178μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材E」とする。
【0095】
基材E上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材E側の面に、アクリル系粘着剤を介して別の基材Eを、2枚の基材の遅相軸方向が平行となるように貼り合わせて、透明導電性フィルムの基材上に粘着剤層を介して透明基体が貼り合わせられた積層体を得た。
【0096】
この積層体と、基材E上に光学干渉層およびITO層が形成された透明導電性フィルムとを、100μmの空気層ギャップを設けて、両者のITO層同士が対向し、それぞれの基材フィルムの遅相軸方向が平行となるように配置して、図8に示すような擬似的な抵抗膜式タッチパネルを作製した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0097】
[比較例1]
前記実施例1において、擬似タッチパネルを、液晶表示装置の視認側の偏光板の吸収軸方向と、擬似タッチパネルの基材フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、視認側から見て反時計回りに45°の方向となるように配置したこと以外は実施例1と同様にして、擬似タッチパネルの形成および評価を行った。
【0098】
[比較例2]
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比2倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み141μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材E」とする。
【0099】
基材E上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0100】
[比較例3]
前記実施例1において、擬似タッチパネルを、液晶表示装置の視認側の偏光板の吸収軸方向と、擬似タッチパネルの基材フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、視認側から見て反時計回りに10°の方向となるように配置したこと以外は実施例1と同様にして、擬似タッチパネルの形成および評価を行った。
【0101】
[比較例4]
前記基材Aを、テンター延伸機により幅方向に延伸比1.3倍で固定端一軸延伸(横延伸)して、厚み126μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材F」とする。
【0102】
基材F上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0103】
上記各実施例および比較例の画像表示装置における虹ムラの評価結果を、各透明導電性フィルムの光学特性、視認側偏光板の吸収軸方向に対する透明導電性フィルムの遅相軸方向のなす角度α、PET基材の枚数、基材間での空気層の有無とともに表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示すように、比較例1〜4では、虹ムラが観測されたのに対して、実施例1〜6では虹ムラが観測されず、視認性が良好であった。実施例1と比較例2とを対比すると、透明導電性フィルムの遅相軸方向と偏光板の吸収軸方向とが平行であっても、透明導電性フィルムのレターデーションが大きい場合に虹ムラが観測され易いことがわかる。また、比較例4では、透明導電性フィルムのNzが大きいために、虹ムラが観測されている。一方、実施例3においても二軸延伸PET基材が用いられているが、比較例4に比してNzが小さいために、虹ムラの発生が抑制されている。
【0106】
実施例2,3では、透明導電性フィルムの遅相軸方向と偏光板の吸収軸方向とが厳密に平行あるいは直交でなくとも、5°程度の範囲であれば虹ムラが観測されないことがわかる。一方、比較例1,3のように、透明導電性フィルムの遅相軸方向と偏光板の吸収軸方向とのなす角が大きくなると、虹ムラが発生している。
【0107】
タッチパネル内に複数の透明導電性フィルムあるいは基材フィルムを有する実施例4,6においても虹ムラは観測されず、抵抗膜方式タッチパネルのように、複数の基材間に空気層が存在する場合であっても、ReおよびNzを所定範囲内とすれば虹ムラの発生が抑制されることがわかる。
【符号の説明】
【0108】
10 透明導電性フィルム
10s 遅相軸方向
11 可撓性透明基材
12 透明導電層
20 タッチパネル
21 センサ部
23 粘着剤層
25 透明基体
29 スペーサー
30 画像表示パネル
31 画像表示セル
32 視認側偏光板
32a 吸収軸方向
32t 透過軸方向
33 光源側偏光板
35 1/4波長板
36 円偏光板
50 画像表示装置
80 光源
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウタータッチパネルの電極として好適に用いられる透明導電性フィルムに関する。さらに、本発明は当該透明導電性フィルムを備えるアウタータッチパネルを備える画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性の透明フィルム基材上に透明導電層が形成された透明導電性フィルムは、タッチパネル等に幅広く利用されている。特に、近年、携帯電話や携帯ゲーム機器等へのタッチパネルの搭載率が上昇しており透明導電性フィルムの需要が急速に拡大している。
【0003】
タッチパネル等に用いられる透明導電性フィルムとしては、可撓性透明基材上に、透明導電層としてスズドープインジウム酸化物(ITO)等の導電性金属酸化物薄膜が形成されたものが広く用いられている。可撓性透明基材としては、機械特性や耐薬品性、水分遮断性に優れているため、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の芳香族ポリエステルフィルムが広く用いられている。PET等の芳香族ポリエステルフィルムは一般に延伸・結晶化処理がされているために、機械特性等に優れている。その一方で、PETは固有複屈折が大きく、延伸処理されたフィルムは面内および厚み方向に大きな複屈折を有している。そのためPETフィルムを、液晶表示素子等の偏光素子を表示に使用する画像表示パネルのインナータッチパネル(画像表示セルと偏光素子との間に配置されるタッチパネル)の基材に用いると、複屈折の影響によって画面が着色して視認性に劣ることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方、画像表示パネルの偏光素子よりも視認側に配置されるアウタータッチパネルにおいては、高複屈折のPETフィルムを透明導電性フィルムの基材として用いたとしても、当該基材は液晶セルと偏光素子との間に配置されるものではないため、前述のような着色の問題は生じない。そのため、アウタータッチパネルに用いられる基材には、二軸延伸PETフィルムが広く用いられている。
【0005】
しかしながら、二軸延伸PETフィルムを基材として用いたアウタータッチパネルを備える表示装置を斜め方向から視認した場合、画面に虹状のムラが発生して視認性が悪化するという問題がある。特に、近年の画像表示装置の大型化や高輝度化に伴って、このような虹ムラが視認されやすくなる傾向があり、その抑制が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−231450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PETフィルムのように固有複屈折が大きいフィルムを基材として用いた場合でも虹ムラの発生を抑制し得る、アウタータッチパネル用の透明導電性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、アウタータッチパネル用透明導電性フィルムの基材として高複屈折のフィルムを用いた場合に、虹ムラが発生する原因およびその解決手段に関して考察を重ねた結果、所定の光学特性を有するフィルムを基材として用いた場合に、虹ムラの発生が抑制されることを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
本発明は、直線偏光を出射する画像表示パネルの視認側に配置されるアウタータッチパネル用の透明導電性フィルムに関する。本発明の透明導電性フィルムは、可撓性透明基材の少なくとも一方の面に透明導電層を有し、かつ下記(i)および(ii)の光学特性を満たす。
(i) 0nm≦Re1≦2000nm
(ii) 0.8≦Nz≦1.4
ただし、Re、Nzは、透明導電性フィルムの厚みをd、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした場合に、それぞれ下記式で定義される値である。
Re=(nx−ny)×d
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
【0010】
前記可撓性透明基材は、芳香族ポリエステルを主成分とするものであることが好ましく特にポリエチレンテレフタレートを主成分とするものであることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明は、前記透明導電性フィルムを備えるタッチパネルが、直線偏光を出射する画像表示パネルよりも視認側に配置された画像表示装置に関する。当該画像表示装置において、画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向と、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向とのなす角が、0±5°または90±5°の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
画像表示パネルのの視認側に配置されるアウタータッチパネル用の透明導電性フィルムとして、所定の光学特性を有する本発明の透明導電性フィルを用いることで、画像表示装置を斜め方向から視認した場合の虹ムラの発生が抑制され、画像表示装置の視認性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による透明導電性フィルムの模式的断面図である。
【図2】本発明の一実施形態によるタッチパネルを備える画像表示装置の模式的断面図である。
【図3】アウタータッチパネルを備える液晶表示装置の一実施形態を表す模式的断面図である。
【図4】アウタータッチパネルを備える有機EL表示装置の一実施形態を表す模式的断面図である。
【図5】投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部の一例を表す模式的断面図である。
【図6】投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部の一例を表す模式的断面図である。
【図7】透明基体が積層された透明導電性フィルムの一例を表す模式的断面図である。
【図8】抵抗膜方式のタッチパネルの構成例を表す模式的断面図である。
【図9】視認方向について説明するための概念図である。
【図10】視認方向が異なる場合の偏光板および透明導電性フィルムの見かけ上の軸方向の変化について説明するための概念図である。
【図11】斜め方向から視認する場合の光の入射面について説明するための概念図である。
【図12】視認側偏光板から出射した直線偏光の偏光状態が入射面内において変化する様子を表す概念図である。
【図13A】視認側偏光板から出射した直線偏光が、透明導電性フィルム内を伝播して視認側へ出射される際の偏光状態を波長ごとに表す概念図である。
【図13B】本発明の画像表示装置において、視認側偏光板から出射した直線偏光が、透明導電性フィルム内を伝播して視認側へ出射される際の偏光状態を波長ごとに表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[画像表示装置の構成]
図1に、本発明の一実施形態による透明導電性フィルムの模式的断面図を示す。透明導電性フィルム10は、可撓性透明基材11の少なくとも一方の面に、透明導電層12を有している。
【0015】
図2に、本発明の一実施形態によるアウタータッチパネルを備える画像表示装置の模式的断面図を示す。画像表示装置50は、画像表示パネル30およびアウタータッチパネル20を有し、画像表示パネル30は、視認側に直線偏光を出射する。視認側に直線偏光を出射する画像表示パネルは、一般に画像表示セル31の視認側に視認側偏光板32を備える。画像表示セル31としては、液晶セルや有機ELセル等が用いられる。透明導電性フィルム10を備えるアウタータッチパネル20は、画像表示パネル30の視認側偏光板32よりもさらに視認側に配置される。図2においては、透明導電性フィルム10が透明基体25と貼り合わされたセンサ部を有するタッチパネル20が図示されているが、タッチパネルは当該形態に限定されず、後述するような各種形態のものが用いられる。
【0016】
液晶セルとしては、外光を利用する反射型液晶セル、バックライト等の光源からの光を利用する透過型液晶セル、外部からの光と光源からの光の両者を利用する半透過半反射型液晶セルのいずれを用いてもよい。また、液晶セルの駆動方式としては、例えばVAモード、IPSモード、TNモード、STNモードやベンド配向(π型)等の任意なタイプのものを用いうる。なお、液晶セル31として、透過型液晶セル、あるいは半透過半反射型液晶セルを採用する場合、液晶パネル30は、図3に示すように、液晶セル31の視認側と反対側に光源側偏光板33を備え、液晶表示装置50は適宜の光源80を備えている。液晶パネル30は、光源からの出射光や外光が、液晶セル31を伝搬中に偏光状態が変換され、液晶セルの視認側に配置された偏光板32によって偏光状態に応じた量の光が吸収されるために透過光量が調整され、画像表示を可能としている。そのため、液晶パネルから視認側に出射する光は、視認側偏光板32の透過軸方向に振動面を有する直線偏光である。
【0017】
有機ELセルとしては、透明基材上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層した発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)が用いられる。有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、このような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体、あるいはこれらの正孔注入層、発光層、及び電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。有機ELパネルは、有機ELセル自体の発光量を調整することによって画像表示を可能としているため、画像表示において偏光板は必須ではない。しかしながら、有機発光層の厚みが10nm程度ときわめて薄いために、外光が金属電極で反射して再び視認側へ出射され、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。このような外光の鏡面反射を遮蔽するために、図4に示すように、有機ELセル31の視認側に、偏光板32と1/4波長板35を積層した円偏光板36を配置する方法が採用されている。そのため、視認側に円偏光板を備える有機ELパネルから視認側に出射する光は、円偏光板36を構成する視認側偏光板32の透過軸方向に振動面を有する直線偏光である。
【0018】
このように、画像表示セルから出射した光は、視認側偏光板32によって、偏光板の吸収軸方向の光が吸収され、吸収軸方向と直交する透過軸方向の光のみがアウタータッチパネル20側へ出射される。タッチパネルは透明部材から構成されているため、視認者はアウタータッチパネル20を透過した光を画像として認識する。視認側偏光板32としては、適宜の吸収型直線偏光子を有する偏光板が用いられる。このような偏光板としては、例えば、ヨウ素を含有するポリビニルアルコール系延伸フィルムからなる偏光子を適宜の透明保護フィルムで挟持したものが好適に用いられる。
【0019】
[タッチパネルの構成]
アウタータッチパネル20は、少なくとも1枚の透明導電性フィルム10を備える。透明導電性フィルム10は、可撓性透明基材11の少なくとも一方の面に透明導電層12を備えた構成を有している。このような透明導電性フィルムを備えるタッチパネルとしては、例えば投影型静電容量方式のタッチパネルや抵抗膜方式のタッチパネルが用いられる。このようなタッチパネルの構成例が図5〜図8に示されている。
【0020】
図5および図6は、2枚の透明導電性フィルム10a、10bを用いた投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部21の例を示す模式的断面図である。図5および図6は、図1に示す透明導電性フィルム10が、粘着剤層23を介して対向配置された構成である。図5では、透明導電性フィルム10a、10bの可撓性透明基材11a、11b同士が粘着剤層23を介して貼り合わされている。図6では、一方の透明導電性フィルム10aの可撓性透明基材11aに他方の透明導電性フィルム10bの透明導電層12bが粘着剤層23を介して貼り合わされている。
【0021】
タッチパネルの形成において、図5および図6に示すセンサ部21は、図面の上方が視認側となるように配置されてもよく、図面の下方が視認側となるように配置されてもよい。図5および図6に示すセンサ部21は、センサ部に指等を近づけた際に、上側(視認側)と下側(表示パネル側)の静電容量の値が変化し、それに起因する電気信号変化を計測することによって、位置情報を感知するセンサとして機能する。このような形態において、透明導電層12aおよび2bはパターニング処理が施され、各透明導電層が複数の透明電極に分割されていることが好ましい。
【0022】
図7では、図1に示す透明導電性フィルム10の可撓性透明基材11に透明基体25が粘着剤層23を介して貼り合わされた構成が図示されている。透明基体25としては、ガラスやプラスチックフィルムが用いられる。また、透明基体25は、適宜の接着層を介して2以上の基体が積層されたものであってもよい。図7に示す透明導電性フィルム10を有する積層体は、通常、抵抗膜方式のタッチパネルに適用できるが、図5、図6に示すような投影型静電容量方式タッチパネルのセンサ部の一部を形成することもできる。
【0023】
図8は、抵抗膜方式のタッチパネルの構成を示す模式的断面図である。図8に示すように、抵抗膜方式のタッチパネルは、上側基板としての透明導電性フィルム10aと、下側基板10bとがスペーサー29を介して対向配置された構造を有している。下側基板10bは、透明基体11b上に透明導電層12bが積層された構成を有する。下側基板10bを構成する透明基材11bは、ガラス等の剛性のものであってもよく、プラスチックフィルム等の可撓性のものであってもよい。また、下側基板として、可撓性透明基材上に透明導電層を有する透明導電性フィルムを用いてもよい。スペーサー29は絶縁性のものであれば特に限定されず、各種のサイズ、形状を有するものを適宜に配置することができる。
【0024】
図8において、上側基板の透明導電性フィルム10aの可撓性透明基材11aには、粘着剤層23を介して透明基体25が貼り合わされている。このような上側基板に用いられる透明基材としては、可撓性透明基材が用いられる。図8に示すような抵抗膜方式のタッチパネルは、上側基板側から、入力ペン等にてスペーサー29の弾性力に抗して押圧打点したときに、上側基板の透明導電層12aと下側基板の透明導電層12bとが接触して通電することによって、位置情報を感知するセンサとして機能する。
【0025】
[透明導電性フィルムの光学特性]
画像表示装置50を斜め方向から視認した場合における虹ムラの発生を抑制する観点において、タッチパネル20に用いられる透明導電性フィルム10は、下記(i)および(ii)の光学特性を満たすことが好ましい。
(i) 0nm≦Re≦2000nm
(ii) 0.8≦Nz≦1.4
ここで、透明導電性フィルムの厚みをd、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした場合に、ReおよびNzは、それぞれ下記式で定義される。
Re=(nx−ny)×d
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
【0026】
後に詳述するように、透明導電性フィルム10における透明導電層12や光学干渉層等は、可撓性透明基材11に比して厚みが小さく複屈折も小さい。そのため、これらの層に起因する複屈折の影響は、可撓性透明基材に起因する複屈折の影響に比して無視小である。したがって、一般には、透明導電性フィルム10が上記(i)および(ii)を満たすためには、可撓性透明基材11が上記(i)および(ii)を満足すればよい。
【0027】
タッチパネル20が、図5および図6に示す形態である場合や、図8の形態において下側基板10’として透明導電性フィルムが用いられる場合のように、複数の透明導電性フィルムを備える形態、あるいはその他の基体25等が貼り合わされている場合は、これら複数の透明導電性フィルムや基体フィルムを一体とみなしたものが、上記(i)および(ii)を満たすことが好ましい。
【0028】
透明導電性フィルムの可撓性透明基材として一般に広く用いられている二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、縦方向および横方向にそれぞれ2〜4倍程度に延伸されているため、Reが数千nmであり、Nzは2を超える。これに対して、本発明では、可撓性透明基材11として、Nzが1に近いフィルム(いわゆるポジティブAプレート)を用いることによって、画像表示装置を斜め方向から視認した場合でも、虹ムラの発生を抑制することができる。
【0029】
虹ムラの発生を抑制する観点において、画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向と、透明導電性フィルム10の面内の遅相軸方向10sとが、直交(90±5°)または平行(0±5°)であることが好ましい。タッチパネル20が複数の透明導電性フィルムを備える場合、これら複数の透明導電性フィルムを一体とみなし、その遅相軸方向が、画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向と、略直交または略平行であることが好ましい。
【0030】
なお、画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向は、画像表示パネルの視認側偏光板32の透過軸方向32tと一致する。そのため、画像表示パネル30の視認側偏光板の透過軸方向32tとタッチパネル20の透明導電性フィルム10の遅相軸方向10sとが直交または平行であることが好ましい。
【0031】
上記のように透明導電性フィルムの光学特性を制御することによって、虹ムラの発生を抑制できるのは、画像表示装置を斜め方向から視認した場合の見かけ上の軸方向が制御されるためであると推定される。以下、アウタータッチパネルに本発明の透明導電性フィルムを用いた場合に、画像表示装置の虹ムラの発生が抑制される推定原理について説明する。
【0032】
<視認方向と見かけ上の軸方向の関係>
図9は、画像表示パネルの視認側偏光板32の透過軸方向32tとタッチパネルの透明導電性フィルム10の遅相軸方向10sとが直交する実施形態において、画像表示装置の視認方向について説明するための概念図である。図9(a)は画像表示装置を正面から視認した場合である。図9(b)および(c)は、いずれも表示面の法線とのなす角(極角)θの斜め方向から視認した場合であるが、図9(b)は透明導電性フィルムの遅相軸方向と同一の方位から視認した場合を表しており、図9(c)は透明導電性フィルムの遅相軸方向とのなす角(方位角)ψの方位から視認した場合を表している。
【0033】
図10は、図9の各視認方向から見た場合の、視認側偏光板32の透過軸方向32tおよび吸収軸方向32a、ならびに透明導電性フィルム10の遅相軸方向10sの視認者からの見かけ上の軸方向が変化する様子を概念的に表している。図9(a)のように正面方向から視認する場合、あるいは図9(b)のように斜め方向であっても、透明導電性フィルムの遅相軸方向10sと平行な方位から視認する場合は、図10(a)に示すように、視認側偏光板32の軸方向と透明導電性フィルム10の軸方向の関係は保持される。ずなわち、視認側偏光板32の見かけ上の吸収軸方向32a’と透明導電性フィルム10の見かけ上の遅相軸方向10s’とは平行状態を保ち、視認側偏光板32の見かけ上の透過軸方向32t’と透明導電性フィルム10の見かけ上の進相軸方向10f’(不図示)も平行状態を保つ。そのため、これらの方向から視認した場合は、視認側偏光板32から出射した直線偏光は、透明導電性フィルムの複屈折の影響を受けることなく、直線偏光の状態を維持したまま視認者に到達する。
【0034】
一方、図9(c)のように、方位角ψ、極角θの斜め方向から視認する場合は、図10の(c1)および(c2)に示すように、見かけ上の軸方向にズレが生じることが知られている(例えば、T. Ishinabe et al., ” Wide Viewing Angle Polarizer and a Quarter-wave plate with a Wide Wavelength Range for Extremely High Quality LCDs”, IDW’01 pp.485-488)。この見かけ上の軸方向のズレは、方位角ψ=45°で最大となり、例えばψ=45°、θ=80°の斜め方向から視認した場合は、約8°の軸ズレが生じることが知られている。ここで、透明導電性フィルム10のNzが1に近い場合、偏光板および透明導電性フィルムはいずれも一軸性の光学異方性を有するために、偏光板32の見かけ上の吸収軸方向32a’と透明導電性フィルム10の見かけ上の遅相軸方向10s’とは、図10(c1)に示すように平行状態を維持する。同様に、偏光板32の見かけ上の透過軸方向32t’と透明導電性フィルム10の見かけ上の進相軸方向10f’(不図示)も平行状態を保持する。そのため、透明導電性フィルム10のNzが1に近い、すなわち、透明導電性フィルムがポジティブAプレート特性を有する場合は、斜め方向から視認した場合でも、視認側偏光板32から出射した直線偏光は、透明導電性フィルムの複屈折の影響を受けることなく、直線偏光の状態を維持したまま視認者に到達する。
【0035】
前述のように、透明導電性フィルムの可撓性透明基材として広く用いられている二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのNzは、一般に2よりも大きいため、可撓性透明基材11として二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを採用した透明導電性フィルム10のNzも2より大きくなる。透明導電性フィルムのNzが大きい場合、図10(c2)に示すように、透明導電性フィルム10の見かけ上の遅相軸方向10s’のズレは、偏光板32の見かけ上の吸収軸方向32a’のズレよりも大きくなる。同様に、透明導電性フィルム10の見かけ上の進相軸方向10f’(不図示)のズレは偏光板32の見かけ上の透過軸方向32t’のズレよりも大きくなるため、両者は平行ではなくなる。このような場合、視認側偏光板32から出射した直線偏光は、透明導電性フィルムの複屈折の影響により、透明導電性フィルム中を伝搬中に直線偏光から他の偏光状態に変換されて、視認者に到達する。
【0036】
<虹ムラの発生原理>
図12は、図11に示す入射面X内で、画像表示パネルの視認側偏光板32から出射した直線偏光が、タッチパネルの透明導電性フィルム10を伝播して視認側に出射される様子を模式的に表している。図12においては、透明導電性フィルム10の偏光板32側界面におけるp偏光成分についてのみ示しているが、これは本願発明の原理を模式的に説明するための概念図であり、実際の光が単一の偏光成分のみを有することを意味するものではない。実際には、偏光板32から透明導電性フィルム10に光が入射する際に界面での反射が生じるが、簡単のために、当該界面における反射光については図示していない。
【0037】
図12の(a)は、透明導電性フィルム10が光学等方性である場合の偏光状態を模式的に表している。偏光板32から、入射角θ1で透明導電性フィルム10に斜め方向に入射する直線偏光r1は、透明導電性フィルムを伝播する間も複屈折の影響を受けないため、直線偏光状態を保ったまま透明導電性フィルム10の視認側界面に到達する。
【0038】
伝播光r3は、透明導電性フィルムの視認側界面でその一部が反射光r4として偏光板32側(画像表示パネル側)に反射され、その残部が出射光r5として視認側に出射される。その際、伝播光r3のうち反射光r4として反射されるp偏光の反射率Rpおよびs偏光の反射率Rsは、それぞれ以下のフレネルの式で表される。
Rp={tan(φ−θ2)/tan(φ+θ2)}2 (式1)
Rs={sin(φ−θ2)/sin(φ+θ2)}2 (式2)
【0039】
なお、φおよびθ2は、伝播側の媒体である透明導電性フィルム10の屈折率n1および出射側の媒体の屈折率n2に対して、下記のスネルの法則に従う。
n1sinφ=n2sinθ2 (式3)
【0040】
上記のフレネルの式からも明らかなように、斜め方向に伝播する光が界面に到達した場合、s偏光はp偏光に比して反射率が大きい。そのため、透明導電性フィルムの視認側界面に到達する光r3のs偏光成分が大きいほど、当該界面における反射率が高くなり、視認側へ出射される光r5の強度は小さくなる。
【0041】
図12(b)は、透明導電性フィルムが光学等方性でなく、かつ、図10(c2)のように、透明導電性フィルムの見かけ上の遅相軸方向10s’と直線偏光r1の振動方向(すなわち偏光板32の見かけ上の透過軸方向32t’)とが平行でも直交でもない場合の偏光状態を模式的に示している。偏光板32から入射角θ1で透明導電性フィルム10に斜め方向に入射する直線偏光r11は、透明導電性フィルムを伝播する間に複屈折の影響を受け、偏光状態が変化する。そのため、透明導電性フィルム10の偏光板32側界面においてp偏光成分として入射した光r11は、透明導電性フィルム10の視認側界面に到達する際には、p偏光とs偏光を所定の割合で有する楕円偏光r13となる。
【0042】
透明導電性フィルムの視認側界面に角度φで到達した光r13は、一部が反射光r14として偏光板32側(画像表示パネル側)に反射され、残部が出射光r15として視認側に出射される。その際、伝播光r13のうち反射光r14として反射されるp偏光の反射率およびs偏光の反射率は、前述のフレネルの式に従う。
【0043】
ところで、ポリエチレンテレフタレートに限らず、あらゆる物質は波長によって屈折率が異なる、いわゆる「波長分散特性」を有している。そのため、偏光板32から透明導電性フィルムに入射角θ1で斜め方向に入射する光の屈折角φも波長によって異なる。
【0044】
例えば、図13Bに概念的に示すように、直線偏光r11が透明導電性フィルム10に入射する際、青色の光は屈折角φBで光r13Bとして伝播し、緑色の光は屈折角φGで光r13Gとして伝播し、赤色の光は屈折角φRで光r13Rとして伝播する。一般に短波長ほど屈折率は大きいため、屈折角はφB<φG<φRとなる。また、複屈折も波長分散特性を有しているため、透明導電性フィルム中を伝播する光r13が受けるレターデーションも波長によって異なる。そのため、青色の光r13B、緑色の光r13G、赤色の光r13Rでは、視認側界面に到達する際の偏光の状態(p偏光とs偏光の比率)が異なる。
【0045】
このように、透明導電性フィルムの視認側界面に到達する光のp偏光とs偏光の比率が波長によって異なるため、視認側界面での反射率(r14/r13)も波長によって異なる。結果として視認側へ出射される光r15も、図13Bにr15B、r15G、r15Rとして模式的に表すように、波長によって強度が異なる。そのため、斜め方向から視認した際の透明導電性フィルム10の見かけ上の軸方向と偏光板32の見かけ上の軸方向とが平行でも直交でもない場合には、透明導電性フィルムの複屈折の影響により、透明導電性フィルムから視認側へ出射する光r15のスペクトル形状と、偏光板32から透明導電性フィルム10に入射する光r11のスペクトル形状との間に差が生じ、これが着色の原因となる。このような原理によって生じる着色は「現色偏光」と称される。
【0046】
一般に、二軸延伸フィルムは、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の進相軸方向の屈折率ny、厚み方向の屈折率nzが、nx>ny>nzの関係を有し、三次元的な屈折率異方性を有している。そのため、見かけ上のレターデーションが視角によって異なることに加えて、見かけ上の遅相軸方向も視角によって異なる。その結果、視認側へ出射される光r15のスペクトルは視角θ2によって異なり、視角によって現色偏光による呈色が異なる。この角度による呈色の相違が視認者の視覚には虹ムラとなって観察されるものと考えられる。視角θ2が大きくなるほど、単位角度変化量に対する透明導電性フィルムの見かけ上のレターデーションRe(θ2)の変化量の絶対値、すなわち|dRe(θ2)/dθ2|が大きくなることから、極角θ2が大きくなるほど、角度変化による呈色の変化が大きくなり、虹ムラが視認され易い傾向がある。また、p偏光の反射率とs偏光の反射率の差が最大となるブリュースター角付近では特に虹ムラが顕著となりやすい。
【0047】
透明導電性フィルム10の基材として二軸延伸PETフィルムを用いた場合、透明導電性フィルムのReおよびNzの値が大きくなる。そのため、斜め方向から視認した場合には、見かけ上の軸方向のズレが大きくなり、透明導電性フィルムの視認側界面が、あたかもs偏光とp偏光とを分離する偏光素子のように作用して、現色偏光による虹ムラが生じていると考えられる。
【0048】
<虹ムラの解消原理>
このような現色偏光による呈色を抑制する観点からは、透明導電性フィルム10の基材として光学等方性材料を用いて、透明導電性フィルムによる偏光状態の変化を抑制することが考えられる。その一方で、PET等の芳香族ポリエステルフィルムは複屈折が小さい無延伸の状態では結晶性が十分ではなく、機械強度の高いフィルムを得ることは困難な場合が多い。
【0049】
これに対して、本発明は、透明導電性フィルムが複屈折を有していても、Nzが1程度である場合、すなわち透明導電性フィルムがAプレート特性を有する場合には、視認側偏光板32の見かけ上の軸方向と、透明導電性フィルム10の見かけ上の軸方向とのズレが小さく、虹ムラの発生が抑制できることを見出してなされたものである。すなわち、透明導電性フィルムのNzが0.8〜1.4程度であれば、画面を斜め方向から視認した場合においても、図10(c1)に概念的に示すように、視認側偏光板32の見かけ上の軸方向と透明導電性フィルムの見かけ上の軸方向とが、略平行あるいは略直交状態を保持する。そのため、透明導電性フィルム10が光学等方性である場合と同様に、偏光板32から出射され、入射角θ1で透明導電性フィルム10に斜め方向に入射する直線偏光は、透明導電性フィルムを伝播する間の複屈折の影響が小さく、直線偏光状態を保ったまま透明導電性フィルム10の視認側界面に到達する。
【0050】
また、視認側偏光板の見かけ上の軸方向と透明導電性フィルムの見かけ上の軸方向とが厳密な平行あるいは直交から若干のズレを生じる場合であっても、そのズレが小さければ、透明導電性フィルム10に斜め方向に入射する直線偏光が、透明導電性フィルムを伝播する間の複屈折による偏光状態の変換は小さい。そのため、波長による偏光状態の相違も小さく、虹ムラが視認されるほどの現色偏光を生じ難い。視認側偏光板の見かけ上の軸方向と透明導電性フィルムの見かけ上の軸方向との平行あるいは直交状態を保って虹ムラの発生を抑制する観点からは、透明導電性フィルムのNzは0.8〜1.4であることが好ましく、0.9〜1.3であることがより好ましく、0.9〜1.2であることがさらに好ましい。
【0051】
一方、透明導電性フィルムがAプレート特性を有する場合であっても、視認側偏光板32の透過軸方向と透明導電性フィルム10の面内の遅相軸方向とが直交でも平行でもない場合は、透明導電性フィルム10の複屈折によって、偏光板32側から透明導電性フィルム10に入射した光の偏光状態が変化するために、現色偏光による呈色により虹ムラが発生する。そのため、視認側偏光板32の透過軸方向と透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向とのなす角は、0±5°または90±5°の範囲内であることが好ましい。
【0052】
また、透明導電性フィルムがAプレート特性を有する場合であっても、その正面レターデーションReが大きいと、斜め方向から視認した場合のわずかな見かけ上の軸方向の相違によって、複屈折に起因する透過光の偏光状態の変化が大きくなる。また、視認方向の単位角度変化量に対する透明導電性フィルムの見かけ上のレターデーションRe(θ2)の変化量の絶対値|dRe(θ2)/dθ2|も大きくなるため、虹ムラが視認され易くなる傾向がある。そのため、透明導電性フィルムの正面レターデーションは2000nm以下であることが好ましい。特に、画像表示装置の画面サイズが例えば4インチ以上に大きくなると、より極角θ2の大きい方向から画面を視認する機会が増加し、|dRe(θ2)/dθ2|が大きくなる。そのため、透明導電性フィルムの正面レターデーションは2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがさらに好ましい。
【0053】
[透明導電性フィルムの光学特性]
上記の光学特性を有する透明導電性フィルムは、可撓性透明基材上に透明導電層やその他の付加的な層を形成することによって得られる。本発明の透明導電性フィルムの実施形態について、以下に説明する。
<可撓性透明基材>
可撓性透明基材11としては、透明性を有する各種のプラスチックフィルムが用いられる。例えば、その材料として、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂である。
【0054】
これらの中でも、機械強度や寸法安定性、耐熱性の観点からはポリエステルを主成分とする可撓性透明基材が好適に用いられる。ポリエステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカジカルボン酸等のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等のジオールを、それぞれ1種を重縮合してなるホモポリマー、又はジカルボン酸1種以上とジオール2種以上を重縮合してなる共重合体、あるいはジカルボン酸2種以上と1種以上のジオールを重縮合してなる共重合体、及びこれらのホモポリマーや共重合体を2種以上ブレンドしてなるブレンド樹脂のいずれかのポリエステル系樹脂を挙げることができる。中でも、ポリエステルが結晶性を示す観点から、芳香族ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)、あるいはポリエチレンナフタレート(PEN)が特に好ましく、ポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。
【0055】
ポリエステルフィルムは、例えば上記のポリエステル系樹脂をキャスティングドラム上に溶融押出し後、冷却固化させる方法等によって得られる。なお、可撓性透明基材として芳香族ポリエステルを主成分とするものを用いる場合、かかるフィルムは芳香族ポリエステル以外の樹脂や添加剤等を含有するものであってもよい。「芳香族ポリエステルを主成分とする」とは、フィルム全重量に対して芳香族ポリエステルを50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上有することを意味する。
【0056】
本発明においては、ポリエステルフィルムに結晶性を付与して上記特性を達成する観点から、可撓性透明基材として延伸ポリエステルフィルムを好適に用いることができる。可撓性透明基材が延伸フィルムである場合、その延伸方法は特に限定されないが、前述のようにAプレート特性を有する基材を得る観点からは縦一軸延伸法(自由端一軸延伸法)によって延伸されたものであることが好ましい。また、結晶性を増大させてより機械特性に優れたフィルムを得る等の観点から、二軸延伸を行ってもよいが、その場合は、Nzが1.4以下となるように延伸倍率を調整することが好ましい。
【0057】
透明導電性フィルム10は、可撓性透明基材11の他に透明導電層や光学干渉層等を有しているが、これらの層の厚みや複屈折は、いずれも可撓性透明基材11に比して小さい。そのため、一般には、透明導電性フィルム全体のReおよびNzが前記式(i)および(ii)を満たすためには、可撓性透明基材11が上記(i)および(ii)を満足することが必要かつ十分である。したがって、可撓性透明基材の厚みをd1、面内の遅相軸方向の屈折率をnx1、面内の進相軸方向の屈折率をny1、厚み方向の屈折率をnz1とした場合に、それぞれ、Re1=(nx1−ny1)×d1で表される正面レターデーションは2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがさらに好ましい。また、Nz1=(nx1−nz1)/(nx1−ny1)で定義されるNz1は0.8〜1.4であることが好ましく、0.9〜1.3であることがより好ましく、0.9〜1.2であることがさらに好ましい。
【0058】
可撓性透明基材の厚みd1は特に制限されないが、正面レターデーションは厚みに比例するため、可撓性透明基材の厚みが過度に大きいと、結晶化のためにわずかに延伸した場合でも正面レターデーションRe1が大きくなる。そのため、可撓性透明基材の厚みは200μm以下であることが好ましく、175μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。薄型化の観点からは、可撓性透明基材の厚みは小さいことが好ましいが、厚みが過度に小さいと、ハンドリング性に劣る等の問題を生じるため、可撓性透明基材の厚みは10μm以上であることが好ましい。
【0059】
可撓性透明基材は、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施してもよい。これにより、可撓性透明基材上に設けられる透明導電層や光学干渉層等との密着性を向上させることができる。また、透明導電層や光学干渉層等を設ける前に、必要に応じて可撓性透明基材の表面を溶剤洗浄や超音波洗浄などにより除塵、清浄化してもよい。
【0060】
<透明導電層>
透明導電層12は、導電性金属酸化物により形成される。透明導電層を構成する導電性金属酸化物は特に限定されず、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム、アンチモン、チタン、珪素、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、金、銀、銅、パラジウム、タングステンからなる群より選択される少なくとも1種の金属の導電性金属酸化物が用いられる。当該金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子を含んでいてもよい。例えばスズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)などが好ましく用いられる。中でも、ITOが最も好適である。また、可撓性透明基材の透明導電層12側の面に光学干渉層が形成されている場合、透明導電層は、光学干渉層との屈折率の差が0.1以上であることが好ましい。
【0061】
透明導電層の厚みは特に制限されないが、10nm以上であることが好ましく、15〜40nmであることがより好ましく、20〜30nmであることがさらに好ましい。透明導電層の厚みが15nm以上であると、表面抵抗が例えば1×103Ω/□以下の良好な連続被膜が得られ易い。また、透明導電層の厚みが40nm以下であると、より透明性の高い層とすることができる。
【0062】
透明導電層の形成方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法を例示できる。また、必要とする膜厚に応じて適宜の方法を採用することもできる。透明導電層は、アモルファスであってもよく、結晶性のものであってもよい。結晶性の透明導電層を形成する方法として、可撓性透明基材11上に高温で製膜を行うことによって、そのまま結晶性の膜を形成することもできる。しかしながら、基材の耐熱性等を考慮すると、結晶性の透明導電層は、一旦基材上にアモルファス膜を形成した後、該アモルファス膜を可撓性透明基材とともに加熱・結晶化することによって形成することが好ましい。
【0063】
本発明の透明導電性フィルムは、透明導電層の面内の一部が除去されてパターン化されたものであってもよい。透明導電層がパターン化された透明導電性フィルムは、可撓性透明基材11上に透明導電層12が形成されているパターン形成部と、可撓性透明基材11上に透明導電層を有していないパターン開口部とを有する。パターン形成部の形状は、透明導電性フィルムが適用される用途に応じて、各種形状を形成することができる。パターン形成部の形状としては、例えばストライプ状の他、スクエア状等が挙げられる。
【0064】
<光学干渉層>
可撓性透明基材11と透明導電層12との間には光学干渉層が設けられていてもよい。光学干渉層は、多重反射干渉の原理によって外光の反射率を調整する等の目的で設けられる。例えば、透明導電層がパターン形成部とパターン開口部とにパターン化されている場合、光学干渉層を設けることによって両者間の反射率差を低減し、パターンが視認され難くすることが可能である。
【0065】
光学干渉層は、無機物、有機物、又は、無機物と有機物との混合物により形成することができる。例えば、無機物として、NaF(1.3)、Na3AlF6(1.35)、LiF(1.36)、MgF2(1.38)、CaF2(1.4)、BaF2(1.3)、SiO2(1.46)、LaF3(1.55)、CeF3(1.63)、Al2O3(1.63)などの無機物〔上記各材料の括弧内の数値は屈折率である〕が挙げられる。これらのなかでも、SiO2、MgF2、Al2O3などが好ましく用いられる。特に、SiO2が好適である。上記の他、酸化インジウムに対して、酸化セリウムを10〜40重量部程度、酸化錫を0〜20重量部程度含む複合酸化物を用いることができる。
【0066】
上記有機物としてはアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、アルキ系ド樹脂、シロキサン系ポリマー、有機シラン縮合物などが挙げられる。これら有機物は、少なくとも1種が用いられる。特に、有機物としては、メラミン樹脂とアルキド樹脂と有機シラン縮合物の混合物からなる熱硬化型樹脂を使用するのが望ましい。
【0067】
光学干渉層の屈折率は、透明導電層の屈折率との差が、0.1以上であることが好ましい。透明導電層の屈折率と光学干渉層の屈折率の差は、0.1以上0.9以下、さらには0.1以上0.6以下であるのが好ましい。なお、光学干渉層の屈折率は、通常、1.3〜2.5、さらには1.38〜2.3、さらには1.4〜2.3であるのが好ましい。このように光学干渉層の屈折率を制御することによって、パターン形成部とパターン開口部との反射率差を低減することができる。
【0068】
光学干渉層の厚みは、特に制限されるものではないが、光学設計や、可撓性透明基材からのオリゴマー等の低分子量成分が透明導電層に移行するのを抑制するための封止層として作用させる等の観点から、通常、1〜300nm程度であり、好ましくは5〜300nmである。なお、光学干渉層が2層以上からなる場合、各層の厚みは、5〜250nm程度であることが好ましく、10〜250nmであることがより好ましい。
【0069】
このような光学干渉層は、可撓性透明基材上に直接設けることもできるし、可撓性透明基材上にハードコート層やブロッキング防止層を設けて、その上に光学干渉層を設けることもできる。
【0070】
<ハードコート層・ブロッキング防止層>
一般に、ハードコート層は、フィルムに硬度を持たせてキズ付きを防止する目的で設けられ、ブロッキング防止層は、フィルム表面に凹凸を形成して滑り性や耐ブロッキング性を付与するために設けられる。ハードコート層やブロッキング防止層は、可撓性透明基材11と透明導電層12との間に形成することもできるし、可撓性透明基材11の透明導電層12が形成されるのと反対側の面に形成することもできる。
【0071】
ハードコート層を形成する樹脂としては、熱硬化型樹脂、熱可塑型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、二液混合型樹脂などがあげられるが、これらのなかでも紫外線照射による硬化処理にて、簡単な加工操作にて効率よくハードコート層を形成することができる紫外線硬化型樹脂が好適である。紫外線硬化型樹脂としては、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アミド系、シリコーン系、エポキシ系等の各種のものがあげられ、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。好ましく用いられる紫外線硬化型樹脂は、例えば紫外線重合性の官能基を有するもの、なかでも当該官能基を2個以上、特に3〜6個有するアクリル系のモノマーやオリゴマー成分を含むものがあげられる。また、紫外線硬化型樹脂には、紫外線重合開始剤が配合されている。
【0072】
ハードコート層の形成方法は特に制限されず、適宜な方式を採用することができる。例えば、可撓性透明基材上にハードコート層を形成する樹脂組成物を塗工し、乾燥後、硬化処理する方法が採用される。樹脂組成物の塗工は、ファンテン、ダイコーター、キャスティング、スピンコート、ファンテンメタリング、グラビア等の適宜な方式で塗工される。なお、塗工にあたり、前記樹脂組成物は、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等の一般的な溶剤で希釈して溶液としておくことが好ましい。
【0073】
ブロッキング防止層としては、硬化型樹脂層中に微粒子を含有させたものや、硬化型樹脂組成物として相分離する2種以上の成分を含有するコーティング組成物を用いたもの、あるいはこれらを併用することによって、表面に凹凸が形成されたものが好適に用いられる。硬化型樹脂層の成分としては、ハードコート層の各成分として前記したものが好適に用いられる。また、相分離する2種以上の成分を含有するコーティング組成物としては、例えば国際公開WO2005/073763号パンフレットに記載の組成物を好適に用いることができる。
【0074】
[タッチパネルの形成]
透明導電性フィルムをタッチパネルへの適用するに際しては、図7に示すように、可撓性透明基材11の透明導電層12が形成されていない側の面に粘着剤層23を介して透明基体25が貼り合わせてもよい。
【0075】
粘着剤層23としては、透明性を有するものであれば特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性及び接着性等の粘着特性を示し、耐候性や耐熱性等にも優れるという点からは、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0076】
粘着剤層の構成材料である粘着剤の種類によっては、適当な粘着用下塗り剤を用いることで基材との投錨力を向上させることが可能なものがある。従って、そのような粘着剤を用いる場合には、可撓性透明基材11に粘着用下塗り剤を用いることが好ましい。
【0077】
前記粘着剤層には、ベースポリマーに応じた架橋剤を含有させることができる。また、粘着剤層には必要に応じて例えば天然物や合成物の樹脂類、ガラス繊維やガラスビーズ、金属粉やその他の無機粉末等からなる充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤などの適宜な添加剤を配合することもできる。また透明微粒子を含有させて光拡散性が付与された粘着剤層とすることもできる。
【0078】
前記粘着剤層は、通常、ベースポリマー又はその組成物を溶剤に溶解又は分散させた固形分濃度が10〜50重量%程度の粘着剤溶液として用いられる。前記溶剤としては、トルエンや酢酸エチル等の有機溶剤や水等の粘着剤の種類に応じたものを適宜に選択して用いることができる。
【0079】
この粘着剤層は、例えば、ガラスやプラスチックフィルム等からなる基体25との貼合わせ後に於いては、そのクッション効果により、基材11の一方の面に設けられた透明導電層12の耐擦傷性やタッチパネル用としての打点特性、いわゆるペン入力耐久性および面圧耐久性を向上させる機能を有し得る。そのため、特に図8に示すような抵抗膜方式のタッチパネルに用いる場合においては、粘着剤層にクッション効果を持たせることが好ましい。具体的には、粘着剤層の弾性係数を1〜100N/cm2の範囲、厚みを1μm以上、通常5〜100μmの範囲に設定するのが望ましい。粘着剤層の厚みが上記範囲であると、クッション効果が十分発揮され、かつ粘着剤層による密着力も十分となり得る。粘着剤層の厚みが上記範囲よりも薄いと上記耐久性や密着性を確保できず、また上記範囲よりも厚いと透明性などの外観に不具合が発生する場合がある。なお、透明導電性フィルムが静電容量方式のタッチパネルに用いられる場合には、上記のような粘着剤層によるクッション効果は必ずしも求められるものではないが、各種基体との密着性や、粘着剤層付き透明導電性フィルムのハンドリングを容易とする観点からは、粘着剤層は上記と同様の厚みおよび弾性係数を有することが好ましい。
【0080】
本発明において、図7に示すように、透明導電性フィルム10に別の基体25が貼り合わせられている場合や、図5、6、8に示すようにタッチパネル内に複数の透明導電性フィルムを有する場合、これら複数の透明導電性フィルムや基体フィルムを一体とみなしたものが、前記のReおよびNzを満足することが好ましい。タッチパネル内の各透明導電性フィルムの可撓性透明基材11や透明基体25として延伸フィルムが用いられる場合、各延伸フィルムが前述のようなAプレート特性を有し、さらにタッチパネル内で遅相軸方向が平行となるように配置されることが好ましい。複数の延伸フィルムの遅相軸方向が平行であれば、複数の透明導電性フィルムや基体フィルムを一体とみなしたものもAプレート特性を保持するため、虹ムラの発生を抑制することができる。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、以下の実施例、参考例、及び比較例の評価は、下記の方法により行ったものである。
【0082】
[測定、評価方法]
(レターデーション)
偏光・位相差測定システム(Axometrics製 製品名「AxoScan」)を用い、23℃の環境下にて、測定波長590nmで透明導電性フィルムの正面レターデーションの測定を行った。また、同様にして、遅相軸方向および進相軸方向を回転中心としてフィルムを40°傾斜した際のレターデーションを測定した。なお、レターデーションの測定値の次数は、予め求めた延伸PETフィルムのレターデーションの波長分散と一致するように決定した。これらの測定値から、透明導電性フィルムの正面レターデーションReおよびNzを算出した。なお、複数の透明導電性フィルムが積層されたもの(実施例4および実施例6)については、積層後の透明導電性フィルムを用いて測定を行った。
【0083】
(虹ムラの評価)
23℃の暗室にて、液晶表示装置に白画像を表示させ、視認側偏光板の吸収軸方向を方位角の基準として、方位角約45°の方向で、極角を40°〜80°へ変化させながら目視することで、画面の虹状の着色の有無を確認した。虹ムラは下記の4段階で評価を行った。
1:角度変化に対して色相が顕著に変化する
2:色相が顕著に変化する角度範囲が、概ね極角40〜60°の範囲であり、上記1に比して狭い
3:色相が顕著に変化する角度範囲が、概ね極角40〜50°の範囲であり、上記2に比してさらに狭い
4:角度変化に対して、色相の変化がほとんど確認されない
【0084】
[実施例1]
(ポリエステルフィルムの作成)
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比1.5倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み163μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材A」とする。
【0085】
(光学干渉層および透明導電層の形成)
上記基材Aの一方の表面に、光学干渉層として、SiO2のゾルゲル層をウェットコーティング法により厚み100nmで形成した。その上に、透明導電層として、スパッタリング法により、厚み25nmのITO層を形成した。その後ITO層を結晶化させるために、150℃で1時間の加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。
【0086】
(擬似タッチパネルの形成および評価)
上記の透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、画面サイズ4.3インチの液晶表示装置上に、液晶表示装置の視認側の偏光板の吸収軸方向と擬似タッチパネルのPET基材の遅相軸方向とのなす角度が0°となるように配置し、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0087】
[実施例2]
前記実施例1において、擬似タッチパネルを、透明導電性フィルムの遅相軸方向が、視認側偏光板の吸収軸方向に対して、視認側から見て反時計回りに95°の角度をなすように配置したこと以外は実施例1と同様にして、擬似タッチパネルの形成および評価を行った。
【0088】
[実施例3]
前記基材Aを、テンター延伸機により幅方向(縦延伸方向と直交する方向)に延伸比1.1倍で固定端一軸延伸(横延伸)して、厚み148μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材B」とする。
【0089】
基材B上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、透明導電性フィルムの遅相軸方向が、視認側偏光板の吸収軸方向に対して、視認側から見て反時計回りに5°の角度をなすように画面サイズ4.3インチの液晶表示装置上に配置し、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0090】
[実施例4]
厚み50μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比1.5倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み41μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材C」とする。
【0091】
基材C上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルム4枚を、それぞれの基材フィルムの遅相軸方向が平行となるようにアクリル系粘着剤層を介して貼り合わせて擬似的なタッチパネルを作製した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0092】
[実施例5]
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比1.2倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み183μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材D」とする。
【0093】
基材D上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0094】
[実施例6]
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比1.25倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み178μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材E」とする。
【0095】
基材E上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材E側の面に、アクリル系粘着剤を介して別の基材Eを、2枚の基材の遅相軸方向が平行となるように貼り合わせて、透明導電性フィルムの基材上に粘着剤層を介して透明基体が貼り合わせられた積層体を得た。
【0096】
この積層体と、基材E上に光学干渉層およびITO層が形成された透明導電性フィルムとを、100μmの空気層ギャップを設けて、両者のITO層同士が対向し、それぞれの基材フィルムの遅相軸方向が平行となるように配置して、図8に示すような擬似的な抵抗膜式タッチパネルを作製した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0097】
[比較例1]
前記実施例1において、擬似タッチパネルを、液晶表示装置の視認側の偏光板の吸収軸方向と、擬似タッチパネルの基材フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、視認側から見て反時計回りに45°の方向となるように配置したこと以外は実施例1と同様にして、擬似タッチパネルの形成および評価を行った。
【0098】
[比較例2]
厚み200μmの無延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(非晶性)を製造時の機械方向に延伸比2倍に自由端一軸延伸(縦延伸)して、厚み141μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材E」とする。
【0099】
基材E上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0100】
[比較例3]
前記実施例1において、擬似タッチパネルを、液晶表示装置の視認側の偏光板の吸収軸方向と、擬似タッチパネルの基材フィルムの遅相軸方向とのなす角度が、視認側から見て反時計回りに10°の方向となるように配置したこと以外は実施例1と同様にして、擬似タッチパネルの形成および評価を行った。
【0101】
[比較例4]
前記基材Aを、テンター延伸機により幅方向に延伸比1.3倍で固定端一軸延伸(横延伸)して、厚み126μmの結晶性ポリエチレンテレフタレートフィルムを作成した。このフィルムを「基材F」とする。
【0102】
基材F上に、実施例1と同様にして光学干渉層およびITO層を形成した後、加熱処理を実施して、基材上にSiO2光学干渉層および結晶性ITO透明導電層が形成された透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの基材側の面に、アクリル系粘着剤を介してガラス板を貼り合わせて、擬似タッチパネルを形成した。この擬似タッチパネルを、実施例1と同様に液晶表示装置上に配置して、目視にて画面の虹状の着色の有無を確認した。
【0103】
上記各実施例および比較例の画像表示装置における虹ムラの評価結果を、各透明導電性フィルムの光学特性、視認側偏光板の吸収軸方向に対する透明導電性フィルムの遅相軸方向のなす角度α、PET基材の枚数、基材間での空気層の有無とともに表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示すように、比較例1〜4では、虹ムラが観測されたのに対して、実施例1〜6では虹ムラが観測されず、視認性が良好であった。実施例1と比較例2とを対比すると、透明導電性フィルムの遅相軸方向と偏光板の吸収軸方向とが平行であっても、透明導電性フィルムのレターデーションが大きい場合に虹ムラが観測され易いことがわかる。また、比較例4では、透明導電性フィルムのNzが大きいために、虹ムラが観測されている。一方、実施例3においても二軸延伸PET基材が用いられているが、比較例4に比してNzが小さいために、虹ムラの発生が抑制されている。
【0106】
実施例2,3では、透明導電性フィルムの遅相軸方向と偏光板の吸収軸方向とが厳密に平行あるいは直交でなくとも、5°程度の範囲であれば虹ムラが観測されないことがわかる。一方、比較例1,3のように、透明導電性フィルムの遅相軸方向と偏光板の吸収軸方向とのなす角が大きくなると、虹ムラが発生している。
【0107】
タッチパネル内に複数の透明導電性フィルムあるいは基材フィルムを有する実施例4,6においても虹ムラは観測されず、抵抗膜方式タッチパネルのように、複数の基材間に空気層が存在する場合であっても、ReおよびNzを所定範囲内とすれば虹ムラの発生が抑制されることがわかる。
【符号の説明】
【0108】
10 透明導電性フィルム
10s 遅相軸方向
11 可撓性透明基材
12 透明導電層
20 タッチパネル
21 センサ部
23 粘着剤層
25 透明基体
29 スペーサー
30 画像表示パネル
31 画像表示セル
32 視認側偏光板
32a 吸収軸方向
32t 透過軸方向
33 光源側偏光板
35 1/4波長板
36 円偏光板
50 画像表示装置
80 光源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線偏光を出射する画像表示パネルの視認側に配置されるアウタータッチパネル用の透明導電性フィルムであって、
透明導電性フィルムは、可撓性透明基材の少なくとも一方の面に透明導電層を有し、かつ下記(i)および(ii)の光学特性を満たす、透明導電性フィルム。
(i) 0nm≦Re1≦2000nm
(ii) 0.8≦Nz≦1.4
ただし、Re、Nzは、透明導電性フィルムの厚みをd、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした場合に、それぞれ下記式で定義される値である。
Re=(nx−ny)×d
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
【請求項2】
前記可撓性透明基材が、芳香族ポリエステルを主成分とするものである、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記芳香族ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
直線偏光を出射する画像表示パネルおよび前記画像表示パネルよりも視認側に配置されるタッチパネルを備える画像表示装置であって、
前記タッチパネルは、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムを備え、
前記画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向と、前記透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向とのなす角が、0±5°または90±5°の範囲内である、画像表示装置。
【請求項1】
直線偏光を出射する画像表示パネルの視認側に配置されるアウタータッチパネル用の透明導電性フィルムであって、
透明導電性フィルムは、可撓性透明基材の少なくとも一方の面に透明導電層を有し、かつ下記(i)および(ii)の光学特性を満たす、透明導電性フィルム。
(i) 0nm≦Re1≦2000nm
(ii) 0.8≦Nz≦1.4
ただし、Re、Nzは、透明導電性フィルムの厚みをd、透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとした場合に、それぞれ下記式で定義される値である。
Re=(nx−ny)×d
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
【請求項2】
前記可撓性透明基材が、芳香族ポリエステルを主成分とするものである、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記芳香族ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
直線偏光を出射する画像表示パネルおよび前記画像表示パネルよりも視認側に配置されるタッチパネルを備える画像表示装置であって、
前記タッチパネルは、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムを備え、
前記画像表示パネルから出射される直線偏光の振動方向と、前記透明導電性フィルムの面内の遅相軸方向とのなす角が、0±5°または90±5°の範囲内である、画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【公開番号】特開2012−230491(P2012−230491A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97317(P2011−97317)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
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