説明

タンク及び繊維巻き付け方法

【課題】口金部への繊維の巻き付けをやり直すことなく、繊維の巻き付け処理を簡素化できるライナを有するタンクを提供する。
【解決手段】ライナ2の外周面に繊維を巻き付けて形成されるタンク1において、ライナ2は、中央の円筒状の胴部2aと、当該胴部2aの両側の端部に接続されたドーム状の側部2bを有している。胴部2aの外周面には、周方向に沿った環状の溝3、4が形成されている。溝3、4は、胴部2aの両端部に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライナの外周面に繊維を巻き付けて形成されるタンクと、タンクのライナの外周面に繊維を巻き付ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両に搭載される燃料電池システムには、燃料ガスの供給源としての高圧水素タンクが用いられる。この高圧水素タンクの製造は、一般に、フィラメントワインディング法(以下、「FW法」という。)を用いて行われる。具体的には、FW法により、例えば熱硬化性の樹脂を含浸させた補強繊維をタンクのライナ(内容器)の外周面に巻き付け、その後、補強繊維の樹脂を熱硬化させる。これにより、タンクの外殻に硬い補強繊維層が形成され、高圧水素タンクの強度が確保されている。
【0003】
タンクのライナは、通常タンクと同形状の楕円体状に形成されて、中央の円筒状の胴部と、その胴部の両側の端部に接続されたドーム状の側部を有している。当該ライナへの補強繊維の巻き付けは、一般にライナを長手方向の軸周りに回転させ、その回転されたライナの外周面に繊維を供給することによって行われている(特許文献1、2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−307947号公報
【特許文献2】特開2004−291506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の繊維巻き付けでは、巻き始めの繊維の先端部を、例えばタンクの長手方向の端部にある口金部に巻き付けて固定していた。口金部は、他の部分に比べて径が小さいため、繊維の先端をしっかり固定するためには、繊維を十分に巻き付ける必要があった。そして、口金部に繊維が巻かれた状態で、タンク全体の繊維の巻き付けを行うと、例えば口金部やその周辺の繊維の巻き付けが奇麗になおかつ適正にできなくなる。このため、途中で繊維の巻き付けを中断し、手作業で口金部の繊維を剥ぎ取り、再度口金部付近の巻き付けをやり直す必要があった。このため、繊維の巻き付け処理が煩雑になり、時間も掛って、タンクの生産性の低下を招いていた。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、口金部への繊維の巻き付けをやり直すことなく、繊維の巻き付け処理を簡素化できるライナを有するタンク、及びライナへの繊維の巻き付け方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、ライナの外周面に繊維を巻き付けて形成されるタンクであって、前記ライナは、中央の円筒状の胴部と、当該胴部の両側の端部に接続されたドーム状の側部を有し、前記胴部の外周面には、周方向に沿った環状の溝が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ライナの溝に繊維を巻き付けて、繊維の巻き始めの先端部をライナに対して固定することができるので、以前のように例えば繊維の先端部を口金部に巻き付けてその後口金部の繊維を剥がして繊維の巻き付けをやり直す必要がなく、ライナへの繊維の巻き付け処理を簡素化できる。これにより、繊維の巻き付け処理に要する時間を短縮し、タンクの生産性を向上できる。
【0009】
また、前記タンクにおける前記溝は、前記胴部の端部に形成されていてもよい。かかる場合、従来繊維を巻き難かった胴部の端部に簡単に繊維を巻き付けることができるので、胴部の端部に所望の厚みの繊維層を形成できる。これにより、胴部の端部の強度を十分に確保できる。
【0010】
また、前記溝は、前記胴部の両側の端部に形成されていてもよい。かかる場合、従来繊維が巻き難かった胴部の両端部に所望の厚みの繊維層を形成して、胴部の両端部の強度を確保できる。
【0011】
別の観点による本発明は、タンクのライナの外周面に繊維を巻き付ける方法であって、前記ライナは、中央の円筒状の胴部と、当該胴部の両側の端部に接続されたドーム状の側部を有し、前記胴部の外周面に周方向に沿った環状の溝が形成されたものであり、前記ライナの溝に繊維を巻き付けて、繊維の巻き始めの先端部をライナに対して固定する工程を有することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、ライナの溝に繊維を巻き付けて、繊維の巻き始めの先端部をライナに対して固定できるので、以前のように例えば繊維の先端部を口金部に巻き付けてその後口金部の繊維を剥がして繊維の巻き付けをやり直す必要がなく、ライナへの繊維の巻き付け処理を簡素化できる。これにより、繊維の巻き付け処理に要する時間を短縮し、タンクの生産性を向上できる。
【0013】
前記繊維の巻き付け方法において、前記溝は、前記胴部の端部に形成されていてもよい。この場合、従来繊維を巻き難かった胴部の端部に簡単に繊維を巻き付けることができるので、胴部の端部に所望の厚みの繊維層を形成できる。これにより、胴部の端部の強度を十分に確保できる。
【0014】
また、前記繊維の巻き付け方法において、前記溝は、前記胴部の両側の端部に形成されており、一の溝に繊維を巻き付けて、繊維の先端部を固定する工程と、引き続き一の溝に繊維を巻き付けて、一の溝を繊維で埋める工程と、その後、繊維の巻き付け位置を一の溝から他の溝に向けて移動させて、それらの溝の間の胴部に繊維を巻き付ける工程と、その後、他の溝に繊維を巻き付けて、他の溝を繊維で埋める工程と、その後、ライナの外周面の所定の位置に繊維を巻き付ける工程と、を有するようにしてもよい。こうすることにより、従来繊維が巻き難かった胴部の両端部への繊維の巻き付けを好適に行い、胴部の両端部に所望の厚みの繊維層を形成して、胴部の両端部の強度を確保できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ライナへの繊維の巻き付け処理を簡素化できるので、繊維の巻き付け処理に要する時間を短縮し、タンクの生産性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るタンク1が有するライナ2の構成の概略を示す説明図である。
【0017】
ライナ2は、例えばタンク1と同形状の楕円体状に形成されており、長手方向の中央の円筒状の胴部2aと、その両側の端部に接続され、外側に行くほど縮径するドーム状の側部2bを有している。また、ライナ2は、例えば長手方向の先端部に口金部2cを有している。胴部2aの両側の端部(側部2bとの接続部)には、溝3、4が形成されている。溝3、4は、胴部2aの外周面の周方向に沿って環状に形成されている。
【0018】
次に、上記ライナ2の外周面に補強繊維を巻き付ける繊維巻き付け装置について説明する。図2は、かかる繊維巻き付け装置10の構成の概略を示す説明図である。
【0019】
繊維巻き付け装置10は、例えば繊維ガイド部20と、繊維巻き付け部21を有している。
【0020】
繊維ガイド部20は、補強繊維Fを繊維巻き付け部21のライナ2の外周面に所定の角度で案内するものである。繊維ガイド部20は、例えば補強繊維Fの進行方向に対し上下方向、左右方向に往復移動自在で、なおかつ補強繊維Fの進行方向の軸周りに回転自在であり、ライナ2の外周面に対する補強繊維Fの進入角度を自由に設定できる。なお、繊維ガイド部20の上流側には、例えば図示しない繊維送出部や樹脂含浸部が設けられており、繊維送出部から送出された補強繊維Fは、樹脂含浸部において樹脂が含浸され、その後繊維ガイド部20に送られている。例えば補強繊維Fとしては、例えばカーボン繊維、ガラス繊維や金属繊維等が用いられ、樹脂としては、例えば熱硬化性のエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。
【0021】
繊維巻き付け部21は、ライナ2の長手方向の回転軸上の両端部を支持する支持部30と、ライナ2を支持部30を介して回転させる回転駆動部31を備えている。
【0022】
支持部30は、例えばライナ2を水平に支持する。回転駆動部31は、例えば可変速モータを有しており、このモータによってライナ2を所定の回転速度で回転できる。このライナ2の回転運動と上記繊維ガイド部20の往復運動とを同期させることにより、補強繊維Fをライナ2の外周面に所定のパターンで巻き付けることができる。補強繊維Fの巻き方(パターン)については、特に限定されず、例えばフープ巻きやヘリカル巻き、或いはそれらを組み合わせた巻き方が可能である。
【0023】
次に、上記繊維巻き付け装置10を用いて行われるライナ2に対する補強繊維Fの巻き付け方法について説明する。図3、図4は、かかる繊維巻き付け方法の主な工程におけるライナ2の繊維巻き付け状態を示す。
【0024】
先ず、タンク1のライナ2が図2に示したように繊維巻き付け部21の支持部30に支持される。次に、ライナ2が回転軸周りに回転され、図3(a)に示すようにライナ2の胴部2aの一方の溝3内に、補強繊維Fが数回巻き付けられる。これにより、補強繊維Fの巻き始めの先端部がライナ2に対して固定される。
【0025】
その後、引き続き溝3に補強繊維Fが巻き付けられ、溝3が補強繊維Fで埋められて、溝3のある胴部2aの端部に所定の厚みの補強繊維層が形成される(図3の(b))。その後、補強繊維Fの巻き付け位置が溝3から溝4側に徐々に移動され、フープ巻きにより溝3、4間の胴部2aの外周面に補強繊維Fが巻き付けられる(図3の(c))。これにより、溝3、4間の胴部2aに所定の厚みの補強繊維層が形成される。
【0026】
その後、補強繊維Fの巻き付け位置が溝4に到達すると、そのまま溝4内に補強繊維Fが巻き付けられる(図4の(a))。その後さらに溝4に補強繊維Fが巻き付けられ、溝4が補強繊維Fで埋められて、溝4のある胴部2aの端部に、例えば溝3や胴部2aと同じ高さの表面を有する補強繊維層が形成される(図4の(b))。
【0027】
その後、フープ巻きやヘリカル巻き等により、ライナ2の全体に補強繊維Fが巻き付けられ、所定の厚みの補強繊維層が形成される(図4の(c))。こうして、ライナ2の外周面であるタンク1の外殻に、補強繊維層としての繊維強化プラスチック(FRP(Fiber Reinforced Plastics))層が形成される。
【0028】
以上の実施の形態によれば、ライナ2の溝3に補強繊維Fを巻き付けて、補強繊維Fの巻き始めの先端部をライナ2に対して固定することができるので、以前のように例えば繊維の先端部を口金部に巻き付けてその後口金部の繊維を剥がして繊維の巻き付けをやり直す必要がなく、ライナ2への補強繊維Fの巻き付け処理を簡素化できる。これにより、繊維の巻き付け処理に要する時間を短縮し、タンク1の生産性を向上できる。また、比較的径の大きい溝3に補強繊維Fが巻き付けられるので、溝3と補強繊維Fとの間の摩擦力が十分に得られ、簡単かつ十分に補強繊維Fの先端部を固定できる。
【0029】
また、溝3が胴部2aの端部に形成されているので、従来繊維が巻き難かった胴部2aの端部に簡単に補強繊維Fを巻くことができ、胴部2aの端部に所望の厚みの繊維層を形成できる。これにより、胴部2aの端部の強度を十分に確保できる。
【0030】
また、以上の実施の形態では、胴部2aの両側の端部に溝3、4が形成され、初め、溝3に補強繊維Fを巻き付けて、補強繊維Fの先端部を固定し、引き続き溝3に補強繊維Fを巻き付けて、溝3を補強繊維Fで埋めるようにしている。そして、その後、補強繊維Fの巻き付け位置を溝3から溝4に向けて移動させて、それらの溝3、4の間の胴部2aに補強繊維Fを巻き付け、その後、溝4に補強繊維Fを巻き付けて、溝4を補強繊維Fで埋めるようにしている。さらに、その後、ライナ2の外周面の所定の位置に補強繊維Fを巻き付けるようにしている。こうすることにより、従来繊維が巻き難かった胴部2aの両端部への補強繊維Fの巻き付けを好適に行い、当該胴部2aの両端部に所望の厚みの補強繊維層を形成して、胴部2aの両端部の強度を確保できる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0032】
例えば以上の実施の形態では、溝3に補強繊維Fを巻き付け、そのまま補強繊維Fの巻き始めの先端部を固定していたが、例えば溝3に補強繊維Fを巻き付け、補強繊維Fの巻き始めの先端部を結んで固定してもよい。かかる場合、補強繊維Fの巻き始めの先端部を確実にライナ2に固定できる。また、溝3内に結び目が入るので、その後の補強繊維Fの巻き付けによりその結び目の影響を最小限に抑えることができる。なお、溝3、4の深さは、必ずしも同じである必要はなく、補強繊維Fの先端部を固定する溝3を溝4よりも深くしてもよい。
【0033】
例えば以上の実施の形態で記載した溝は、胴部2aの片側の端部にのみ設けられていてもよいし、胴部2aの他の部分に設けられていてもよい。また、以上の実施の形態で記載したライナ2は、例えば燃料ガスと酸化ガスの電気化学反応により発電する燃料電池システムで用いられる高圧燃料ガスタンクの製造に適用できる。また、本発明は、他の用途のガスタンクや液体タンクの製造に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】タンクのライナの正面図である。
【図2】繊維巻き付け装置の構成の概略を示す説明図である。
【図3】(a)は、溝に補強繊維が巻き付けられた状態を示すライナの説明図である。(b)は、溝が補強繊維で埋められた状態を示すライナの説明図である。(c)は、一方の溝から他方の溝に補強繊維の巻き付け位置が移動している状態を示すライナの説明図である。
【図4】(a)は、他方の溝に補強繊維が巻き付けられた状態を示すライナの説明図である。(b)は、他方の溝が補強繊維で埋められた状態を示すライナの説明図である。(c)は、全体に補強繊維が巻き付けられた状態を示すライナの説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 タンク
2 ライナ
2a 胴部
2b 側部
3、4 溝
F 補強繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナの外周面に繊維を巻き付けて形成されるタンクであって、
前記ライナは、中央の円筒状の胴部と、当該胴部の両側の端部に接続されたドーム状の側部を有し、
前記胴部の外周面には、周方向に沿った環状の溝が形成されていることを特徴とする、タンク。
【請求項2】
前記溝は、前記胴部の端部に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のタンク。
【請求項3】
前記溝は、前記胴部の両側の端部に形成されていることを特徴とする、請求項2に記載のタンク。
【請求項4】
タンクのライナの外周面に繊維を巻き付ける方法であって、
前記ライナは、中央の円筒状の胴部と、当該胴部の両側の端部に接続されたドーム状の側部を有し、前記胴部の外周面に周方向に沿った環状の溝が形成されたものであり、
前記ライナの溝に繊維を巻き付けて、繊維の巻き始めの先端部をライナに対して固定する工程を有することを特徴とする、繊維巻き付け方法。
【請求項5】
前記溝は、前記胴部の端部に形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の繊維巻き付け方法。
【請求項6】
前記溝は、前記胴部の両側の端部に形成されており、
一の溝に繊維を巻き付けて、繊維の先端部を固定する工程と、
引き続き一の溝に繊維を巻き付けて、一の溝を繊維で埋める工程と、
その後、繊維の巻き付け位置を一の溝から他の溝に向けて移動させて、それらの溝の間の胴部に繊維を巻き付ける工程と、
その後、他の溝に繊維を巻き付けて、他の溝を繊維で埋める工程と、
その後、ライナの外周面の所定の位置に繊維を巻き付ける工程と、を有することを特徴とする、請求項5に記載の繊維巻き付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−144733(P2009−144733A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319422(P2007−319422)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】