説明

タンパク質とその基質ペプチド間の反応分析のためのタンパク質チップ

【課題】基質ペプチド(SP)がリンカータンパク質(L)を介して基板(S)に固定されていることを特徴とするS−L−SP型のタンパク質チップと、前記タンパク質チップを用いた反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応を分析する方法とを提供する。
【解決手段】タンパク質チップを用いた反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応分析法は、タンパク質チップに固定された基質ペプチドに特異的に反応する反応タンパク質を前記タンパク質チップに加え、それらの間の反応を検出する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応を分析するためのタンパク質チップに関する。より詳しく言うと、基質ペプチド(SP)がリンカータンパク質(L)を介して基板(S)に固定されていることを特徴とするS−L−SP型のタンパク質チップ及び前記タンパク質チップを用いた反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質チップは、特定のタンパク質に特異的に相互作用する生体分子の機能を明らかにし、タンパク質の機能分析及びネットワーク分析を通じて得られたデータに基づいた古典的な方法では不可能であった疾病に対する治療及び予防法を開発・研究する上で核心となる技術である。
【0003】
今まで開発されてきたタンパク質チップに関する最新技術は、下記の4種類に分類できる。(1)DNAマイクロアレイ技術を用いてDNAとタンパク質との間の相互作用をチップで分析する技術である。この技術は、チップ上において単一筋のオリゴヌクレオチドを二重筋のオリゴヌクレオチドに切り換えた後、さらに特定のDNA配列に特異的である制限酵素を反応させて切断の有無によりDNA−タンパク質の相互作用を検査することにより、新たなDNA結合タンパク質を見出し、その特性を究明することに有用である(例えば、下記の非特許文献1参照)。
【0004】
(2)制限酵素、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、プロテインキナーゼなどの各種の酵素及び抗原−抗体反応をチップ上において分析する技術である(例えば、下記の特許文献1及び2、並びに下記の非特許文献2〜4参照)。特に、この技術は、タンパク質−タンパク質間の相互作用、キナーゼ−ペプチド間の基質反応、タンパク質−リガンド間の結合反応を通じて大量検索、生化学的な分析、新薬候補物質の分析、疾病診断などに応用することができる。しかしながら、キナーゼに特異的な基質であるペプチド、または分子量が少ないタンパク質を固定する場合、非特異的な固定を防ぐ目的で使われる遮断物質であるウシ血清アルブミン(BSA)により固定さるべき物質が埋められてしまうという制限がある。さらに、チップ上に相異なる種類の抗体を固定した後、蛍光体がラベルされた抗原混合物と反応させたとき、抗体の60%だけが定量的な結果を示し、僅か23%だけが定性的な結果を示すということが報告されている(例えば、下記の非特許文献5及び6参照)。
【0005】
(3)cDNAライブラリから大量のタンパク質をチップ上において発現させて分析する技術である(例えば、下記の特許文献3及び4参照)。この技術は、タンパク質の生化学的な活性についての大量検索に役立つものである(例えば、下記の非特許文献7参照)。
【0006】
(4)親和性タグ(tag)を用いて生体分子の配向性(orientation)を分子レベルで調節しながら、均一でかつ安定した生体分子の単一層をチップの表面に形成する技術を用いて試料を分析する技術である(例えば、下記の特許文献5及び6、並びに下記の非特許文献8〜10参照)。例えば、タンパク質をHisタグが融合された形で発現させた後、Ni−NTA機能基が固定されたチップに反応させて固定することにより、生体分子の活性を保持するか、あるいは、インテイン(intein)が融合された形で発現させて精製し易くするだけではなく、特定の部位をビオチン化させてアビジン処理されたチップ上において一定の方向に固定して、より一層安定的で且つ活性状態を保持するこ
とができる(例えば、下記の非特許文献11及び12参照)。さらに、支持体に特異的に結合するタンパク質(カルモジュリンなど)及びタグ(ポリシステイン、ライシン、ヒスチジンなど)を用いて融合形で発現させた後に固定し、タンパク質間の相互作用を用いてタンパク質の精製、SPR(surface plasmon resonance)及びFACS(fluorescence activated cell sorter)に活用している(例えば、下記の特許文献7及び非特許文献13〜15参照)。
【0007】
しかしながら、上述したような各種のタンパク質チップ技術が開発されているにも関わらず、現在の分子量が少ない、通常、50個未満のアミノ酸よりなる、ペプチドを用いたタンパク質チップ技術は、ペプチドと相互作用する巨大分子(酵素及び抗体)に対する空間的で且つ構造的な問題があるために固定されたペプチドと反応物質との間の相互作用が困難であり、蛍光体がラベルされた抗体を用いて反応の有無を検出するには制限が多いために実用化が困難であるほか、ペプチドをチップの上に固定するためには高濃度であることが求められるために経済的でないという不具合がある。
【0008】
これらの理由から、タンパク質チップ上で、分子量が少ない基質ペプチドと分子量が多い反応タンパク質間の相互作用を効率よく分析できる方法の開発に対する必要性が絶えず望まれている。
【0009】
そこで、本発明者らは、反応タンパク質とその基質ペプチド間の相互作用を効果的に分析できる方法を開発するために鋭意研究を重ねてきた結果、分子量が少ない基質ペプチドをリンカータンパク質を介して基板に固定し、反応タンパク質を処理した後、これらの相互反応を抗体を用いて検出することにより、基質ペプチドと反応タンパク質間の特異的な相互作用を容易で且つ効率よく分析できるということを知見し、本発明を完成することに至った。
【特許文献1】US 2002/0055186A1
【特許文献2】WO 01/83827A1
【特許文献3】WO 01/83827
【特許文献4】WO 02/50260
【特許文献5】US 2002/0055125A1
【特許文献6】US 6,406,921
【特許文献7】US 6,117,976
【非特許文献1】Bulyk, M.L. et al., Nature. Biotechnol., 17:573−7, 1999
【非特許文献2】Braunwalder A. et al., Anal. Biochem., 234:23−6,1996
【非特許文献3】Houseman B. et al., Nature Biotechnol., 20:270−4, 2002
【非特許文献4】Ruud M. et al., Nature Biotechnol., 18:989−94,2000
【非特許文献5】MacBeath G. et al., Science, 289:1760−3, 2000
【非特許文献6】Haab B. et al., Genome Biol. 2:research 0004, 2001
【非特許文献7】Heng Zhu, et al., Nature genetics, 26:283−9, 2000
【非特許文献8】Paul J. et al., JACS, 122:7849−50, 2000
【非特許文献9】RaVi A. et al., Anal. Chem., 73:471−80, 2001
【非特許文献10】Benjamin T. et al., Tibtech., 20:279−81, 2002
【非特許文献11】Zhu et al., Science, 293:2101−5, 2001
【非特許文献12】Marie−Laure L. et al., JACS 124:8768−9, 2002
【非特許文献13】Hentz et al.,Anal. Chem., 68:3939−44, 1996
【非特許文献14】Hodneland et al., PNAS, 99:5048−52, 2002
【非特許文献15】Kukar et al., Anal. Biochem., 306:50−4, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の主たる目的は、基質ペプチド(substrate peptide;SP)がリンカータンパク質(linker protein;L)を介して基板(S)に固定されていることを特徴とするS−L−SP型のタンパク質チップを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、前記タンパク質チップを用いた反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応を分析する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るタンパク質チップは、基質ペプチドをリンカータンパク質と融合させ、前記リンカータンパク質を介して基板に固定することにより得られる。このとき、基質ペプチドは、ペプチド単量体、単量体−プロリン−単量体の二量体またはプロリンにより連結された多量体の形でリンカータンパク質と融合されていることを特徴とする。
【0013】
基質ペプチドとリンカータンパク質の融合物は、前記融合された形の基質−リンカータンパク質を暗号化するDNAを含む組換えベクターに形質転換された微生物を培養してこれより分離・精製することにより得てもよく、あるいは、基質ペプチドとリンカータンパク質の実験室的な条件のもとで化学的な結合を通じて得ても良いが、経済的な側面と生産の容易性という側面からみたとき、微生物の発現システムを用いて得ることが好ましい。
【0014】
ここで、基質ペプチドは、分析しようとする反応タンパク質と特異的に反応可能な基質であって、反応タンパク質の種類に応じて選択可能である。また、リンカータンパク質は特に制限はないが、レプチン、リンゴ酸酵素(malic enzyme)など微生物における発現と精製が容易に行われるタンパク質を用いることが好ましい。さらに、基板も特に制限はないが、チップとして汎用されているアルデヒドが露出されているスライドであることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係るタンパク質チップを用いた反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応分析法は、前記タンパク質チップに固定された基質ペプチドに特異的に反応する反応タンパク質を前記タンパク質チップに加え、これらの間の反応を検出する段階を含む。このとき、反応タンパク質は、分析の目的に応じて酵素、抗体などとして使い分けられ、且つ、基質ペプチドの選択にも相互依存的に決定される。例えば、反応タンパク質としてプロテインキナーゼAを、その基質ペプチドとしてケムプチド(Kemptide;配列
番号1)を用いることもでき、反応タンパク質としてAb1キナーゼを、基質ペプチドとしてAb1(配列番号8)を用いることもできる。
【0016】
配列番号1:Leu Arg Arg Ala Ser Leu Gly
配列番号8:Glu Ala Ile Tyr Ala Ala Pro Phe Ala Lys Lys
【0017】
基質ペプチドと反応タンパク質間の反応検出法は反応タンパク質の特性によるが、蛍光体によりラベルされた抗体を用いて行うことが好ましい。例えば、反応タンパク質としてプロテインキナーゼAまたはAb1キナーゼを用いた場合、これらキナーゼによる基質ペプチドのリン酸化反応の検出は、Cy3によりラベルされた抗リン酸化セリン抗体またはCy5によりラベルされた抗リン酸化チロシン抗体を用いて行うことが好ましい。
【0018】
以下、本発明を具体的に詳述する。
【0019】
キナーゼなどの酵素と反応するペプチド基質をチップに固定し、抗体を用いて基質と酵素との間の反応を検出する場合には、抗体と抗体基質との間で起こる反応において空間的及び構造的な制限が存在し、しかも分子量が小さいため、ペプチド基質の安定性も劣るという制限がある。
【0020】
このような問題点を解決するために、本発明者らは、遺伝子組換え技術を用い、ペプチド基質を大腸菌で不溶性の凝集体の形、あるいはN末端部位に6個のヒスチジン残基が結合された水溶性の形で過剰発現するリンカータンパク質に融合された形で発現させた後、前記融合タンパク質を基板に固定してタンパク質チップを製作した。人間由来のレプチン及びN末端部位に6個のヒスチジン残基が結合されたリンゴ酸酵素の終止コドンは除去されている。その後、融合しようとするペプチド基質のアミノ酸配列に終止コドンを連結して単量体の形で発現させるか、あるいは、両ペプチド基質をプロリンにより連結して二量体の形で発現させることにより、抗体による検出が一層効率的でかつ容易に行われるようにした。
【0021】
図1は、本発明に従い得られたレプチン−ケムプチド、リンゴ酸酵素−ケムプチド及びレプチン−Ab1タンパク質を示す模式図であって、基質ペプチドとなるケムプチド及びAb1が単量体の形及びプロリンにより連結された二量体の形でリンカータンパク質となるレプチン及びリンゴ酸酵素に融合された状態を示している。
【0022】
具体的には、本発明者らは、図1に示すようにタンパク質が発現可能な組換えプラスミドでそれぞれ大腸菌を形質転換させた後、これを培養してレプチン−ケムプチド、リンゴ酸酵素−ケムプチド及びレプチン−Ab1の3種類のタンパク質を不溶性凝集体または水溶性の形で得た。次いで、その結果物を精製し、アルデヒドスライドに固定してタンパク質チップを製造した後、蛍光体がラベルされた抗体との相互反応を分析した。その結果、タンパク質チップ上に分子量が少ないケムプチドなどの基質ペプチドだけを固定した場合には抗体反応が現れなかったが、レプチン、リンゴ酸酵素などのリンカータンパク質と結合されたペプチドを固定した場合には抗体反応が特異的に現れた。特に、単量体の形よりは二量体の形で一層高い反応性が得られるということが確認できた。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るS−L−SP型のタンパク質チップを用いる場合、タンパク質チップ上における低分子量のペプチドと高分子量の酵素タンパク質間及びペプチドと反応抗体間の反応性を高めることができ、ペプチドとタンパク質間の反応を迅速でかつ効率よく分析する
ことができる。これにより、本発明に係るタンパク質チップは、ペプチド−タンパク質反応に基づく効率的でかつ経済的な大量検索、生化学的な分析、新薬候補物質の分析及び疾病診断などの研究と応用に役立つものであると見られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述するが、これらの実施例は単に本発明を一層具体的に説明するためのものであって、当業界における通常の知識を有する者であれば、本発明の範囲がこれらの実施例により全く制限されないということは明らかであろう。
【実施例1】
【0025】
組換えプラスミドの作製
【0026】
(1)組換えプラスミドpLKM及びpLKDの作製
プロテインキナーゼAに特異的なレプチン−ケムプチドタンパク質(図1)を発現する組換えプラスミドpLKM及びpLKDを作製した。プロテインキナーゼAに特異的なペプチド基質であるケムプチド(配列番号1)を人間由来のレプチンに単量体の形で融合させるために、人間由来の414bpサイズのレプチン遺伝子を含む組換えプラスミドpEDOb5(Jeong, et al., Appl. Environ. Microbiol., 65(7):3027−32, 1999)を鋳型DNAとして、制限酵素NdeIとBamHIの切断位置を含む下記のプライマー1及びケムプチド遺伝子の配列を含むプライマー2を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。
【0027】
プライマー1(配列番号2):
5’−CGGAATTCATATGGTGCCCATCCAAAAAGTCCA−3’
プライマー2(配列番号3):
5’−GCGGATCCTTAGCCCAGGCTCGCACGACGCAGGCACCCAGGGCTGAGG−3’
【0028】
さらに、二量体の形で融合させるために、上記と同じ鋳型DNAと前記プライマー1及び下記のプライマー3を用いてPCRを行い、BamHIの切断位置と終止コドンが除去された鋳型DNAを得た。
【0029】
プライマー3(配列番号4):
5’−GCGGATCCTTAGCCCAGGCTCGCGCGGCGCAGGGGGCCCAGGCTCGCACGACG−3’
【0030】
次いで、制限酵素BamHIの切断位置と終止コドンが含まれたケムプチドがC−末端に二量体の形で融合されたものを暗号化する遺伝子を含むDNAを得るために、下記のプライマー4を用いてPCRを行った。
【0031】
プライマー4(配列番号5):
5’−GCGGATCCTTAGCCCAGGCTCGCGCGGCGCAGGGGGCCCAGGCTCGCACGACG−3’
【0032】
PCRは下記のような条件のもとで行われた:最初の変性(denaturaion)を94℃において5分間1回行い;2回目の変性を94℃において1分間、アニール(annealing)を56℃において50秒間、延長(extension)を72℃において90秒間行う過程を30回繰り返し行い;最後の延長を72℃において5分間1回行った。PCRにより増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動法を用いて約435及び459bpサイズのDNAを分離し、制限酵素NdeIとBamHIに切断してDNA断片を得た。
【0033】
次いで、T7プロモータを含むプラスミドpET−3a(Novagen,USA)を制限酵素NdeIとBamHIに切断し、前記DNA断片と混合してT4DNAリガーゼ(ligase)により連結して組換えプラスミドpLKM及びpLKDを作製した(図2)。図2は、組換えプラスミドpLKM及びpLKDを示す模式図であって、前記組換えプラスミドpLKM及びpLKDは人間由来のレプチンを暗号化するcDNA、プロテインキナーゼAに特異的なケムプチドを暗号化するオリゴヌクレオチド及びカナマイシン抵抗遺伝子を含み、それぞれレプチン−単量体ケムプチドまたはレプチン−二量体ケムプチドの形のタンパク質を発現させることができる。
【0034】
前記組換えプラスミドpLKM及びpLKDを熱衝撃(heat shock)法を用いて大腸菌BL21(DE3)[F− ompT hsdSB(rB− mB−) gal dcm (DE3) a prophage carrying the T7 RNA polymerase gene](Novagen,USA)に導入した後、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB平板培地で培養して形質転換された大腸菌を選別した。前記大腸菌から組換えプラスミドpLKM及びpLKDを分離し、制限酵素NdeIとBamHIに切断して約435及び459bpサイズのDNA断片を得た。前記DNA断片は、人間由来のレプチンにペプチド基質であるケムプチドが融合されたタンパク質を暗号化する遺伝子である。
【0035】
(2)組換えプラスミドpTLMK3の作製
プロテインキナーゼAに特異的なリンゴ酸酵素−ケムプチドタンパク質(図1)を発現する組換えプラスミドpTLMK3を作製した。大腸菌K−12から得られた大腸菌W3110(λ−,F−,原栄養菌(prototroph))の染色体DNAを鋳型として、制限酵素NcoIとXbaIの切断位置を含む下記のプライマー5(N−末端に6個のヒスチジン残基を暗号化する配列が含まれるように工夫されている)及びプライマー6(C−末端にケムプチド遺伝子の配列が含まれるように工夫されている)を用い、N末端に6個のヒスチジン残基が連結されたリンゴ酸酵素を得るために、前記実施例1.(1)と同じ条件のもとでPCRを行った(Hong et al., Biotechnol. Bioeng. 20, 74(2):89−95, 2001).
【0036】
プライマー5(配列番号6):
5’−CATGCCATGGGCATCACCATCATCACCATGATATTCAAAAAAGAGTG−3’
プライマー6(配列番号7):
5’−GCTCTAGATTAGCCCAGGCTCGCACGACGCAGGATGGAGGTACGGCGGTA−3’
【0037】
PCRにより増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動法を用いて約1782bpサイズのDNAを分離して制限酵素NcoIとXbaIに切断した後、同じ制限酵素に切断したプラスミドpTrc99A(Pharmacia Biotech Co.,Sweden)に挿入して組換えプラスミドpTLMK3を作製した(図3)。図3は、組換えプラスミドpTLMK3を示す模式図であって、前記pTLMK3は大腸菌由来のリンゴ酸酵素を暗号化するcDNA、ケムプチドを暗号化するオリゴペプチド及びアンピシリン抵抗遺伝子を含み、N末端に6個のヒスチジン残基が連結されたリンゴ酸酵素−単量体ケムプチドタンパク質を発現させることができる。
【0038】
前記組換えプラスミドpTLMK3に大腸菌XL1−Blue(Stratagene, La Jolla, USA)を形質転換し、アンピシリン(50μg/mL)を含む
LB平板培地において培養して形質転換された大腸菌を選別した後、これより組換えプラスミドpTLMK3を分離した。
【0039】
(3)組換えプラスミドpLAM及びpLADの作製
Ab1キナーゼに特異的なレプチン−Ab1タンパク質(図1)を発現する組換えプラスミドpLAM及びpLADを作製した。Ab1(配列番号8)を暗号化するDNA配列を制限酵素NdeI及びBamHIに切断して約477bp及び516bpサイズのDNA断片を得る一方、T7プロモータを含むプラスミドpET−30a(Novagen,USA)を同制限酵素となるNdeI及びBamHIに切断した。
【0040】
リンカータンパク質として選定された人間由来の438bpサイズのレプチン遺伝子を得るために、組換えプラスミドpEDOb5(Jeong, et al., Appl. Environ. Microbiol., 65:3027−32, 1999)を鋳型として、制限酵素であるNdeI及びBamHIの切断位置を含む下記のプライマー7及び8を用いてPCRを行った。
【0041】
プライマー7(配列番号9):
5’−CGGAATTCATATGGTGCCCATCCAAAAAGTCCA−3’
プライマー8(配列番号10):
5’−CGGGATCCTCATTATTTTTTTTTCGCAAACGGCGCCGCATAGATCGCTTCGCACCCAGGGCTGAGGT−3’
【0042】
さらに、二量体の形で融合させるために、前記と同じ鋳型DNAと前記プライマー1及び下記のプライマー9を用いてPCRを行い、BamHIの切断位置と終止コドンが除去された鋳型DNAを得た。
【0043】
プライマー9(配列番号11):
5’−CGGGATCCTTTTTTTTTCGCAAACGGCGCCGCATAGATCGCTTCGCACCCAGGGCTGAGGT−3
【0044】
得られたプライマー7及び9を用いてPCRにより増幅した後、二量体PCR産物を得るために、BamHIの切断位置を含むプライマー10を製作した。
【0045】
プライマー10(配列番号12):
5’−CGGGATCCTCATTATTTTTTTTTCGCAAACGGCGCCGCATAGATCGCGGGTTTTTTTTTCGCAAACGGCGC−3’
【0046】
PCRにより増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動法を用いて約477bp及び516bpサイズのDNAを分離し、制限酵素NdeI及びBamHIに切断した後、同制限酵素で切断されたプラスミドpET−30aに挿入して組換えプラスミドpLAM及びpLADを作製した(図4)。図4は、組換えプラスミドpLAM及びpLADを示す模式図であって、pLAM及びpLADは人間由来のレプチンを暗号化するcDNA、Ab1を暗号化するオリゴヌクレオチド及びカナマイシン抵抗遺伝子を含み、それぞれレプチン−単量体Ab1及びレプチン−二量体Ab1の形のタンパク質を発現させることができる。
【0047】
前記組換えプラスミドpLAM及びpLADで大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、カナマイシン(50μg/mL)を含むLB平板培地において培養して形質転換された大腸菌を選別した後、これより組換えプラスミドpLAM及びpLADを分離した。
【実施例2】
【0048】
レプチン−ケムプチドタンパク質が固定されているタンパク質チップを用いたレプチン−ケムプチドタンパク質とプロテインキナーゼA間の反応分析
【0049】
(1)レプチン−ケムプチドタンパク質が固定されているタンパク質チップの製作
レプチン−ケムプチドタンパク質を暗号化する遺伝子を含む組換えプラスミドpLKM及びpLKDに形質転換された前記実施例1.(1)の組換え大腸菌を200mLのLB培地に接種して37℃において培養し、600nmの波長で測定した光学密度(OD)が0.7となった時点で1mMのIPTGを加え、レプチン−ケムプチドタンパク質の発現を誘導した。4時間後、培養液を4℃及び6,000rpmの条件下で5分間遠心分離して得た沈殿物を100mLのTE緩衝液(Tris−HCl10mM;EDTA 1mM,pH8.0)により洗浄し、さらに4℃及び6,000rpmの条件下で5分間遠心分離した後、100mLのTE緩衝液に懸濁して4℃において超音波粉砕器(Branson Ultrasonics Co.,USA)を用いて細胞を破砕した。
【0050】
破砕された溶液を4℃及び6,000rpmの条件下で30分間遠心分離して得た沈殿物を10mLの変性溶液(8M Urea,10mM Tris,pH8.0)に懸濁し、室温において4時間攪拌して溶解させた後、さらに4℃及び6,000rpmの条件下で30分間遠心分離し、上澄み液を回収して0.2μmのろ過器によりろ過した。ろ過された溶液に含まれているタンパク質をブラッドフォードタンパク定量法(Bradford, M. et al., Anal. Biochem. 72;248−54, 1976)により定量し、固定液(40% glycerol,PBS,pH7.4)を用いて1mg/mLの濃度に希釈した。
【0051】
前記希釈液をマイクロアレイ(Yoon, S.H., et al, J., Microbiol. Biotechnol., 10:21−6, 2000)を用いてアルデヒドスライドの上に300〜500μmの間隔にて(500個/1cm)に滴下し、30℃のヒュミッドチャンバ(humid chamber)において1時間固定した後、室温において1時間封止液(1%BSA,PBS,pH7.4)と反応させてタンパク質チップを製作した。対照群としては、ケムプチド1mg/mL、ウシ血清アルブミン(BSA)1mg/mL、レプチン1mg/mL及びリン酸塩緩衝液を同じ固定液により希釈して用いた。
【0052】
(2)レプチン−ケムプチドタンパク質とプロテインキナーゼA間の反応分析
前記実施例2.(1)に従い得られたタンパク質チップを洗浄液(20mM Tris,150mM NaCl,10mM EDTA,1mM EGTA,0.1% Triton−X100,pH7.5)により5分間3回洗浄し、キナーゼ溶液(50mM Tris,10mM MgCl,pH7.5)により1回洗浄した後、100μMのATPが加えられた200μLのキナーゼ溶液をチップ上に分注し、カバーウェルにより覆って1時間反応させた。
【0053】
前記反応が終わった後、キナーゼ溶液により十分に洗浄し、200μLのキナーゼ反応液(100μM ATP及び10unitsのcAMP−依存性タンパク質キナーゼを含むキナーゼ溶液)を分注した後、カバーウェルにより覆って1時間反応させた。反応が終わると、リン酸塩緩衝液(PBS,pH7.4)により十分に洗浄し、Cy3によりラベルされた抗リン酸化セリン抗体と反応させた後にさらに十分に洗浄し、200gで1分間遠心分離することにより余分の溶液を完全に除去した後、スキャンアレイ5000(Axon Instrument, Forster, USA)レーザスキャナを用いて反応を分析した(図5)。
【0054】
図5は、タンパク質チップ上におけるレプチン−ケムプチドタンパク質とプロテインキナーゼA間の反応を示す蛍光分析写真であって、1はレプチン−二量体ケムプチド(1m^−g/mL)、2は10倍に希釈された前記二量体、3はレプチン−単量体ケムプチド(1mg/mL)、4は10倍に希釈された前記単量体、PはPBS、そしてKはケムプチド(1mg/mL)を示す。
【0055】
図5から明らかなように、プロテインキナーゼAはレプチンと結合された形のケムプチドとは特異的に反応したが、単独型ケムプチドとは全く反応しなかった。さらに、2及び4の希釈状態では、単量体よりは二量体の方の反応性が一層高かった。このため、予想の通り、タンパク質チップ上においてサイズが小さなペプチドは酵素タンパク質との反応性に劣っているが、レプチンなどのリンカータンパク質と結合された形のペプチドは反応性に優れ、且つ、単量体の形よりは二量体の形でリンカータンパク質と結合されたものの反応性が一層高いということが確認できた。
【実施例3】
【0056】
リンゴ酸酵素−ケムプチドタンパク質が固定されているタンパク質チップを用いたリンゴ酸酵素−ケムプチドタンパク質とプロテインキナーゼA間の反応分析
【0057】
(1)リンゴ酸酵素−ケムプチドタンパク質が固定されているタンパク質チップの製作
リンゴ酸酵素−ケムプチドタンパク質を暗号化する遺伝子を含む組換えプラスミドpTLMK3で形質転換された前記実施例1.(2)の組換え大腸菌を前記実施例2.(1)における方法ど同様にして培養し、超音波粉砕器を用いて細胞を破砕した。破砕された溶液を4℃及び6,000rpmの条件下で30分間遠心分離して上澄み液を回収し、平衡溶液(50mM NaHPO,300mM NaCl,10mMイミダゾール、pH8.0)に透析した後、ニッケル−キレート樹脂(Quiagen,USA)を用いて精製し、さらにPBSで透析し、0.2μmのろ過器によりろ過した。ろ過された溶液に含まれているタンパク質を前記実施例2.(1)における方法と同様にして定量して希釈した後、アルデヒドスライドに滴下してタンパク質チップを製作した。
【0058】
(2)リンゴ酸酵素−ケムプチドタンパク質とプロテインキナーゼA間の反応分析
前記実施例2.(2)における方法と同様にして、前記実施例3.(1)に従い得られたタンパク質チップを用いてリンゴ酸酵素−ケムプチドタンパク質とプロテインキナーゼA間の反応を分析した(図6)。図6は、タンパク質チップ上におけるリンゴ酸酵素−ケムプチドタンパク質とプロテインキナーゼA間の反応を示す蛍光分析写真であって、1は陽性対照群(Cy3によりラベルされた抗リン酸化セリン抗体)、2−1はレプチン−単量体ケムプチド、2−2はレプチン−二量体ケムプチド、3はケムプチド、4はPBS、そして5はリンゴ酸酵素−単量体ケムプチドを示す。
【0059】
図6に示すように、プロテインキナーゼAはレプチン又はリンゴ酸酵素と結合された形のケムプチドとは特異的に反応したが、単独型ケムプチドとはほとんど反応しなかった。このため、図5に示すように、タンパク質チップ上においてサイズの小さなペプチドは酵素タンパク質との反応性に劣っているが、レプチンまたはリンゴ酸酵素などのリンカータンパク質と結合された形のペプチドは反応性に優れているということが改めて確認できた。
【実施例4】
【0060】
レプチン−Ab1タンパク質が固定されているタンパク質チップを用いたレプチン−Ab1タンパク質とAb1キナーゼ間の反応分析
【0061】
(1)レプチン−Ab1タンパク質が固定されているタンパク質チップの製作
レプチン−Ab1タンパク質を暗号化する遺伝子を含む組換えプラスミドpLAM及びpLADでそれぞれ形質転換された大腸菌を前記実施例2.(1)における方法と同様にして培養し、これよりレプチン−Ab1タンパク質を得た後、アルデヒドスライドに滴下してタンパク質チップを製作した。
【0062】
(2)レプチン−Ab1タンパク質とAb1キナーゼ間の反応分析
前記実施例4.(1)に従い得られたタンパク質チップを洗浄液(PBS,pH7.5)により5分間3回洗浄し、キナーゼ溶液(50mM Tris,10mM MgCl,1mM EGTA,2mM ジチオスレイトール,0.01% Brij 36,pH7.5)により1回洗浄した後、100μMのATPが加えられた200μLのキナーゼ溶液をチップ上に分注し、カバーウェルにより覆って1時間反応させた。前記反応が終わった後、キナーゼ溶液により十分に洗浄し、200μLのキナーゼ反応液(100μM ATP及び100unitsのAb1キナーゼ)を分注した後、カバーウェルにより覆って1時間反応させた。
【0063】
反応が終わった後、リン酸塩緩衝液(PBS,pH7.4)により十分に洗浄し、Cy5によりラベルされた抗リン酸化チロシン抗体と反応させた後にさらに十分に洗浄し、200gで1分間遠心分離して余分の溶液を完全に除去した後、反応結果を分析した(図7)。
【0064】
図7は、タンパク質チップ上におけるレプチン−Ab1タンパク質とAb1キナーゼ間の反応を示す蛍光分析写真であって、1はレプチン−二量体Ab1を示し、2はレプチン−単量体Ab1を示し、そしてPはPBSを示す。図7から明らかなように、Ab1キナーゼはレプチンと結合されたAb1単量体及び二量体と特異的に反応している。
【0065】
以上、本発明の内容の特定の部分について詳述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、これらの具体的な記述は単なる好適な実施の態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されないという点は自明であろう。よって、本発明の実質的な権利範囲は請求の範囲とその等価物によって定義さるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係るS−L−SP型のタンパク質チップを用いる場合、タンパク質チップ上における低分子量のペプチドと高分子量の酵素タンパク質間及びペプチドと反応抗体間の反応性を高めることができ、ペプチドとタンパク質間の反応を迅速でかつ効率よく分析することができる。これにより、本発明に係るタンパク質チップは、ペプチド−タンパク質反応に基づく効率的でかつ経済的な大量検索、生化学的な分析、新薬候補物質の分析及び疾病診断などの研究と応用に役立つものであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】レプチン−ケムプチド、リンゴ酸酵素−ケムプチド及びレプチン−Ab1タンパク質を示す模式図である。
【図2】組換えプラスミドpLKM及びpLKDを示す模式図である。
【図3】組換えプラスミドpTLMK3を示す模式図である。
【図4】組換えプラスミドpLAM及びpLADを示す模式図である。
【図5】タンパク質チップ上におけるレプチン−ケムプチドタンパク質とプロテインキナーゼA間の反応を示す蛍光分析写真である。
【図6】タンパク質チップ上におけるリンゴ酸酵素−ケムプチドタンパク質とプロテインキナーゼA間の反応を示す蛍光分析写真である。
【図7】タンパク質チップ上におけるレプチン−Ab1タンパク質とAb1キナーゼ間の反応を示す蛍光分析写真である。
【配列表】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質ペプチド(substrate peptide;SP)がリンカータンパク質(linker protein;L)を介して基板(S)に固定されていることを特徴とするS−L−SP型のタンパク質チップ。
【請求項2】
リンカータンパク質はレプチンまたはリンゴ酸酵素(malic enzyme)であることを特徴とする請求項1記載のタンパク質チップ。
【請求項3】
基質ペプチドはペプチド単量体、単量体−プロリン−単量体の二量体またはプロリンにより連結された多量体の形でリンカータンパク質と融合されていることを特徴とする請求項1記載のタンパク質チップ。
【請求項4】
ペプチド単量体はケムプチド(Kemptide;配列番号1)またはAb1(配列番号8)であることを特徴とする請求項3記載のタンパク質チップ。
【請求項5】
基板はアルデヒドが露出されているスライドであることを特徴とする請求項1記載のタンパク質チップ。
【請求項6】
請求項1記載のタンパク質チップに固定された基質ペプチドに特異的に反応する反応タンパク質を前記タンパク質チップに加え、基質ペプチドと反応タンパク質の間の反応を検出する段階を含む、反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応を分析する方法。
【請求項7】
反応タンパク質は酵素または抗体であることを特徴とする請求項6記載の反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応を分析する方法。
【請求項8】
酵素はプロテインキナーゼAまたはAb1キナーゼであることを特徴とする請求項7記載の反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応を分析する方法。
【請求項9】
基質ペプチドと反応タンパク質間の反応の検出は蛍光体によりラベルされた抗体を用いて行うことを特徴とする請求項6記載の反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応を分析する方法。
【請求項10】
キナーゼによる基質ペプチドのリン酸化反応の検出は、Cy3によりラベルされた抗リン酸化セリン抗体またはCy5によりラベルされた抗リン酸化チロシン抗体を用いて行うことを特徴とする請求項8記載の反応タンパク質とその基質ペプチド間の反応を分析する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−512581(P2006−512581A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564579(P2004−564579)
【出願日】平成15年10月18日(2003.10.18)
【国際出願番号】PCT/KR2003/002183
【国際公開番号】WO2004/061453
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(304051285)コリア アドバンスト インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー (32)
【Fターム(参考)】