説明

タンパク質加水分解物を用いた陰イオン性多糖類のゲル化

本発明によると、陰イオン性多糖類および一定量のペプチド物質を含んでなる親水コロイド組成物が提供される。これらの親水コロイド組成物は、水性の系をゲル化および/または粘稠化するために適切に使用される。水性の系における前記陰イオン性多糖類と前記ペプチドとの相互作用は、架橋した高分子網目構造を結果として生じる。本発明によると、前記ペプチドは、タンパク質組成物を加水分解することと、続いて任意にそこから陽イオン性画分を分離または精製することにより得られる。例えば、食品、飲料、カプセル剤おおよび医薬、および/または化粧品組成物中における本発明のゲル化および/または粘稠化された水性の系の使用について開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、親水コロイド組成物のゲル化および/または粘稠化の分野に関する。より具体的には、水性陰イオン性多糖類組成物をゲル化および/または粘稠化するための架橋剤としてのペプチド物質の使用に関する。従って、陰イオン性多糖類および一定量のペプチド物質を含んでなる親水コロイド組成物、ならびに例えば前記親水コロイド組成物を含んでなる食物が含まれる、ゲル化および/または粘稠化された水性の系が本発明により提供される。
【発明の背景】
【0002】
医薬、化粧品、および食品産業におけるタンパク質および多糖類のような親水コロイドの適用について、親水コロイド分子間の相互作用が主に関連する。多くの親水コロイドは、水性の系を粘稠化することおよび/またはヒドロゲルを形成することができる。ヒドロゲルは、それらの濃度に依存する特有の強度、ならびに親水コロイドの示す構造に依存する硬度および脆性を有する固体様の挙動を示す、親水コロイドの水含有網目構造である。
【0003】
その最も一般的な定義において、ゲルは、その1つが相当量で存在する液体である少なくとも2つの成分の混合物として定義される。さらに、ゲルは固体または固体様の挙動を示す。この固体または固体様の挙動を示すために、微量成分が空間を充填する三次元網目構造を形成しなければならない。この液相内におけるこの網目構造の共存により、ゲルは低いストレス値において弾性固体のように振る舞うが、有限降伏応力以上になると、それらは粘稠性の液体に変化する。
【0004】
親水ゲルは、典型的に、任意に加熱および冷却し、親水コロイドを分散および水和させることにより調製される。その後、親水コロイドは、種々の高分子鎖間に化学的または物理的な架橋結合を有する三次元ポリマー網目構造を形成し、結果として巨視的なヒドロゲルを生じる。そのような高分子鎖間の架橋結合は、化学的または物理的な相互作用であってよく、共有結合、イオン結合、水素結合、疎水性の会合、双極子-双極子相互作用、およびファンデルワールス相互作用が含まれる。それ故、ゲルは網目構造を保持する相互作用の型により2つの群に分けられる。
【0005】
化学的なゲルは、ポリマーまたは無機酸化物の希釈溶液の共有結合性の架橋結合を介して形成され、網目の共有結合性の性質のため、それらの構造は熱的に不可逆的である。ポリカルボン酸の共有結合性の架橋結合の例は、FR 2 752 843に見られる。前記文書において、少なくとも2つのアミン基を含んでなる架橋剤、例えばポリリジンまたはポリオルニチンが使用される。前記方法は、ポリカルボン酸と架橋剤との間に共有結合が形成されるような条件下で、ポリカルボン酸、活性化剤、および架橋剤を混合することを含んでなる。このように形成される架橋結合した共重合体は、水性の系において不溶性であり、沈殿物として得られる。これら架橋結合した共重合体を用いた(化学的な)ゲルの形成は、FR 2 752 843には開示されていない。
【0006】
物理的なゲルにおいて、網目構造を構成するサブユニットは、非共有結合性の相互作用により保持される。ポリマー、タンパク質、界面活性剤、小有機分子、および鉱物粘土により形成される多くのゲルは、この分類に属する。
【0007】
一般的に、陰イオン性多糖類に基づく物理的なゲルの形成は、-SO3Hおよび-COOHのような陰イオン性の官能基を有する鎖を網目中に架橋させるための陽イオン性架橋剤に依存する。
【0008】
最も一般的に使用される架橋剤には、一価または多価の金属イオンが含まれる。ほとんどのタイプの陰イオン性多糖類に対して、二価の陽イオンがゲル化の促進においてより効果的である一方で、他のタイプは、一価の金属イオンを用いることにより効率的にゲル化される。三価の金属陽イオンは、沈殿を生じることがしばしば見られる。金属陽イオン濃度を増加させることにより、ゲルの強度および融解温度が共に上昇する。
【0009】
陰イオン性多糖類を架橋させるために、1以上の陽イオン性の残基を有する有機高分子化合物を使用することは述べられている。米国特許第4,996,150号において、陰イオン性多糖類および陽イオン性ポリマーで構成されるビーズ中に封入された生体触媒系について述べられている。陽イオン性ポリマーは、いずれのポリアルカンアミンおよび/またはポリアルカンイミンであってよい。
【0010】
米国特許第4,138,292号は、硫酸化された多糖類の水溶液をアンモニウムイオン、金属イオン、水溶性アミン、または水混和性有機溶媒と接触させることにより得られるゲルマトリックス中における固定化酵素および微生物について述べている。この文書によると、そのような多糖類の代表例には、カラゲナン、フルセララン(furcellaran)、および硫酸セルロースが含まれる。多糖類のゲル化または凝固に対して適切な有機アミンには、1〜20の炭素原子のアルキレンジアミン、ヒドロキサメート(hydroxamate)、ヒドラジドアルキルエステルまたは塩基性アミノ酸のアミド、ペプチド、およびポリアルキレンイミンが含まれる。米国特許第4,138,292号により適用することができるペプチドの適切な例には、リジル-リジン、ヒスチジル-リジン、ヒスチジル-アルギニン、ヒスチジル-アルギニル-リジン、およびポリリジンが含まれる。
【0011】
ヒドロゲルの特異的な性質、すなわち、粘稠性、弾性、硬度、外見等に関しては、多糖類の選択、架橋剤の選択、pH、固体含量等が含まれる種々の因子により影響される。ゲル化速度を調節することの必要性は、例えば、得られるゲルの機械強度および細孔サイズに影響を与えることがよく認識されている。生物医学、医薬、食品、および化粧品の構築のような多くの適用に対して、必要な/好ましいゲル化の速度は相対的に狭いパラメーター内にある。ゲル化速度を調節することが報告されている因子には、例えば、陽イオン含有化合物の溶解性;陽イオン濃度;陽イオン含有化合物の混合比;ポリマー濃度;ゲル化温度;せん断の適用等が含まれる。
【発明の概要】
【0012】
本発明者は、広範な研究および実験の結果として、陰イオン性多糖類を含んでなる水性組成物が、「架橋」ペプチドを用いて適切にゲル化および/または増粘されることを見出した。特に、陰イオン性多糖類およびペプチドを含んでなる親水コロイド組成物が提供され、前記ペプチドは、典型的に、タンパク質組成物を加水分解し、続いて任意にそれらから陽イオン性画分を単離または精製することにより得られる。さらに、増粘および/またはゲル化剤としての本発明の親水コロイド系の使用が開示される。
【0013】
複合コアセルベーションによる粒状物質のマイクロカプセル化のための多糖類およびタンパク質を含んでなる組成物は、コロイド化学の分野において周知である。一般的に、コアセルベーションは、コロイド分散系から2つの液相、すなわちポリマー(コロイド)に乏しく、溶媒に富んだ相、およびポリマー中に濃縮されたコアセルベート液滴を含んでなる相への相分離の現象を示す。コロイドのコアセルベーションは、温度もしくはpHの変化、または第2の高分子化合物の添加を含む多数の方法によりもたらされ得る。典型的に、高分子複合体形成および相分離が生じる傾向は、ポリマーの電荷密度およびポリマー分子量(MW)と共に増加する。ポリマーMWの増加は、コアセルベーションに必要な電荷密度を減少させる。
【0014】
ポリ(L-リジン)およびアルギナートまたはカラゲナンの複合体形成による薬物送達マイクロカプセルの調製は、Thu et al (“Alginate polycation microcapsules I. Interaction between alginate and polycation”, Biomaterials, 17 (1996), 1031-1040) and Girod et al (“Polyelectrolyte complex formation between iota-carrageenan and poly(L-lysine) in dilute aqueous solutions: a spectroscopic and conformational study”, Carbohydrate Polymers 55 (2004) 37-45)にそれぞれ述べられている。彼らの研究において、Girodらは、形成される複合体が可溶性であるような濃度域におけるポリ-L-リジン(PLL)とι-カラゲナンとの間の相互作用について研究した。PLLおよびι-カラゲナンを含んでなる相分離系、特に、相分離の程度におけるpH、イオン強度、電荷密度、および分子量のようなパラメータの影響に関する研究については、以前に述べられている。
【0015】
カゼイン加水分解物とテンサイペクチンおよび/または低糖化デンプンとの複合体形成については、Tokaev et al (“Study of complex formation by food proteins by gel filtration and ultracentrifugation”, FSTA database 89-1-10-a0021; IFIS (1987))により述べられている。特に、Tokaevらは、ゲルろ過を用いたこれら可溶性複合体の形成、ならびにそれらを含んでなるエマルジョンの沈降分析による安定性について研究した。形成された複合体はゲルろ過により分離され得るため、必然的に、それらは水性の系において分離した要素(またはコアセルベート)として存在する。Tokaevらによると、カゼイン加水分解物は、20〜25kDaのペプチドフラグメントを含んでいた。
【0016】
GirodらおよびTokaevらにより述べられた系は、ゲルを形成することができない。水性の系における本発明の親水コロイド組成物の増粘および/またはゲル化は、巨視的な相分離に関するものではない。
【発明の詳細な説明】
【0017】
それ故、本発明の第1の側面は、組成物の乾燥重量に基づいて、1〜95重量%の陰イオン性多糖類および0.3〜12kDaの範囲内の分子量を有する1〜95重量%の架橋ペプチドを含んでなる親水コロイド組成物のゲル化および/または増粘に関し、前記ペプチドは、ペプチドに含まれるアミノ酸残基の全量に基づいて、全量が2.5〜40モル%の量のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなる。
【0018】
「増粘された」および「増粘する」という用語は、ここで用いられる場合、水性の系もしくは組成物の増大した粘度、および水性組成物の粘度を増大させること(または粘稠化すること)をそれぞれ指す。それ故、これらの用語は、「粘稠化された」および「粘稠化する」という用語とそれぞれ交換可能に使用される。
【0019】
「陰イオン性多糖類」という用語は、ここで用いられる場合、水性の系において1以上の負電荷を有する官能基、例えば、カルボキシル基、リン酸基、および/または硫酸基を含んでなるいずれの型の多糖類を指す。前記陰イオン性多糖類は、いずれの原料に由来してもよく、および/または修飾、例えば多糖類の誘導体化により得られてもよい。好ましくは、本発明による陰イオン性多糖類は、カラゲナン、アルギナート、寒天、ペクチン、改質(modified)ペクチン、ジェランガム、キサンタンガム、フルセララン、セルロース誘導体、特にカルボキシメチルセルロース(CMC)および硫酸セルロース、硫酸デキストラン、化工デンプン、エキソポリサッカライド、およびそれらの混合物を含んでなる群より選択される。
【0020】
もう1つの実施形態によると、本発明の組成物は、単糖当り平均して1.5以下の前述した(陰イオン性の)官能基、好ましくは1.0以下の官能基を含有する陰イオン性多糖類を含んでなる。
【0021】
本発明者は、金属陽イオンの存在下において、水性の系の粘稠化および/またはゲル化のために使用することができるいずれの陰イオン性多糖類は、本発明による架橋ペプチドの存在下でも同様に適していることを見出した。それ故、より好ましい実施形態によると、本発明のゲル化および/または増粘親水コロイド組成物は、カラゲナン、CMC、ペクチン、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、およびそれらの混合物から選択される陰イオン性多糖類を含んでなり、より好ましくは、カラゲナン、CMC、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、およびそれらの混合物から選択される。
【0022】
最も好ましい実施形態によると、ゲル化親水コロイド組成物が提供され、ここでの陰イオン性多糖類は、κ-カラゲナン、ι-カラゲナン、ι/κ-ハイブリッドカラゲナン、ジェランガム、およびそれらの混合物から選択される。
【0023】
1より多い多糖類で構成される系が、結果として増粘効果を生じる非相加的な性質の独特の複雑性、または感覚および加工において利点を有するハイブリッドレオロジーならびに構造を示すことは一般的に知られている。それ故、前記親水コロイド組成物は、上述した陰イオン性多糖類および非イオン性もしくは陽イオン性多糖類の混合物を適切に含んでよい。
【0024】
本発明により提供される親水コロイド組成物は、組成物の乾燥重量に基づいて、少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも5重量%、さらにより好ましくは少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも25重量%の陰イオン性多糖類を含んでなる。好ましくは、前記陰イオン性多糖類の量は、組成物の乾燥重量に基づいて95重量%を超えず、より好ましくは90重量%を超えず、最も好ましくは75重量%を超えない。
【0025】
上述したように、本発明の親水コロイド組成物は、0.3〜12kDaの範囲内の分子量を有する架橋ペプチドを1〜95重量%含んでなり、前記ペプチドは、全量が2.5〜40モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなる。好ましい実施形態によると、前記ペプチドは、タンパク質組成物を加水分解し、続いて任意にそれから陽イオン画分を分離することにより得られる。いずれの原料に由来するタンパク質組成物も、本発明により適切に使用されてよい。
【0026】
それ故、特に好ましい実施形態によると、本発明の架橋ペプチドは、加水分解されたタンパク質組成物またはそれから分離された陽イオン性画分中に含まれ、前記タンパク質組成物は、穀物タンパク質、卵白タンパク質、牛乳タンパク質(カゼインおよび乳清タンパク質を含む)、大豆タンパク質、エンドウマメタンパク質、ジャガイモタンパク質、トウモロコシタンパク質、ゼラチン、およびそれらの混合物から選択される1以上のタンパク質を含んでなる。
【0027】
上述したタンパク質は、当業者に既知のいずれの方法で加水分解されてもよく、例えばトリプシンまたはペプシンを用いて酵素処理すること、または例えば塩酸を用いて化学的に加水分解し、続いて水酸化物を用いて中和することが含まれる。本発明によると、タンパク質組成物を酵素的に加水分解することが特に好ましく、最も好ましくはペプシンが使用される。この酵素は、カゼインおよびラクトフェリンのようなタンパク質から適切な陽イオン性画分を産生することが既知である。
【0028】
本発明によると、タンパク質が完全には遊離アミノ酸に加水分解されないことが必要である。上述したように、前記ペプチドは0.3〜12kDaの範囲内の分子量を有し、より好ましい実施形態において、前記分子量は0.5〜10kDaの範囲内である。最も好ましい実施形態において、前記分子量は0.5〜8.0kDaである。
【0029】
いずれの先行文献も、陰イオン性多糖類のゲル化のための合成ペプチドの使用に関して開示していないようであるが、本発明の架橋ペプチドは、陽イオン性の側鎖を有するアミノ酸残基単独で構成されていない。より具体的には、本発明の架橋ペプチドは、前記ペプチド中に含まれるアミノ酸残基の全量に基づいて、全量が2.5〜40モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなり、好ましくは前記量は2.5〜25モル%の範囲であり、より好ましくは5〜25モル%であり、最も好ましくは10〜25モル%である。
【0030】
本発明の架橋ペプチドは、典型的に、タンパク質組成物の加水分解により得られるため、前記架橋ペプチドは、典型的に、天然の核酸配列によりコードされ得るアミノ酸残基以外、すなわち、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Glu、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、およびVal以外は含まない。それ故、特に好ましい実施形態によると、本発明の架橋ペプチドは、少なくとも90モル%、より好ましくは少なくとも95モル%、さらにより好ましくは少なくとも98モル%、最も好ましくは99モル%の1以上の核酸配列によりコードされ得るアミノ酸残基を含んでなる。
【0031】
前記親水コロイド組成物は、上記で定義した1〜95重量%の架橋ペプチドに加えて、他のタンパク質物質を含んでよい。「タンパク質物質」という用語は、ここで用いられる場合、タンパク質、ペプチド、および/または遊離アミノ酸を含んでなるいずれの型の物質を示す。
【0032】
典型的に、本発明のペプチド自体を含んでなるタンパク質加水分解物を適用する代わりに、タンパク質加水分解物の陽イオン性画分が本発明により使用されてよい。前記画分は、当業者に既知の通常の方法を用いて、加水分解物から精製または分離されてよい。「陽イオン性画分」という用語は、ここで用いられる場合、出発物質と比較して、相対的に高い量の陽イオン性側鎖を有するアミノ酸残基、すなわちヒスチジン、アルギニン、およびリジンにより特徴付けられる画分を指す。典型的に、本発明のタンパク質加水分解物の陽イオン性画分は、全量が10〜25モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなる。陽イオン性画分を精製または分離する適切な方法には、分取イオン交換クロマトグラフィー、電気膜ろ過、電気透析が含まれる。
【0033】
本発明により提供される親水コロイド組成物は、前記組成物の乾燥重量に基づいて、少なくとも1.0重量%、好ましくは少なくとも5.0重量%、さらにより好ましくは少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも25重量%の上記で定義した架橋ペプチドを含んでなる。好ましくは、前記架橋ペプチドの量は、前記組成物の乾燥重量に基づいて95重量%を超えず、より好ましくは90重量%を超えず、最も好ましくは75重量%を超えない。
【0034】
本発明によると、陰イオン性多糖類および架橋ペプチドは、1.0:15.0〜15.0:1.0、より好ましくは1.0:10.0〜10.0:1.0、さらにより好ましくは1.0:5.0〜5.0:1.0の範囲の重量比で適用される。
【0035】
本発明のもう1つの好ましい実施形態は、上述したように親水コロイド組成物に関し、前記陰イオン性多糖類および前記ペプチドの重量比は、前記組成物が、陰イオン性多糖類グラム当り0.01〜75mmolの量、より好ましくは陰イオン性多糖類グラム当り0.1〜25mmolの量、最も好ましくは前記多糖類グラム当り1〜20mmolの量のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなるように選択される。
【0036】
特に好ましい実施形態によると、本発明の親水コロイド組成物は、ペプチドの合成において慣習的に使用されるようなカップリング剤を含まない。より具体的には、本発明の親水コロイド組成物は、カルボジイミド、キノリン誘導体、および/またはクロロギ酸のような混合性無水物を含まない。
【0037】
本発明のもう1つの側面は、親水コロイド組成物を調製する方法に関し、前記方法は、0.3〜12kDaの範囲内の平均分子量を有するペプチドが得られる程度、典型的には5〜40%の加水分解度(DH)までタンパク質組成物を加水分解することと、前記加水分解したタンパク質組成物を1.0:15.0〜15.0:1.0の範囲の比で陰イオン性多糖類と混合することとを含んでなる。「加水分解度(DH)」という用語は、切断されるペプチド結合のパーセンテージを指す。DHを決定するために利用される方法は、Adler-Nissen, J., "Determination of the Degree of Hydrolysis of Food Protein Hydrolysates by Trinitrobenzenesulfonic Acid", J. Agric. Food Chem., Vol. 27, No. 6, 1979, pg. 1256-62に記載されているTNBS比色法である。タンパク質が加水分解されるほど(DHが高いほど)、平均分子量は低くなり;ペプチドのプロフィールもそれに従って変化する。好ましくは、加水分解度は7〜30%である。上述したように、前記タンパク質組成物は酵素的に加水分解されることが好ましく、最も好ましくはペプシンが使用される。望ましい加水分解度を達成するために必要な条件およびインキュベーション時間は、当業者により容易に決定され得る。
【0038】
好ましい実施形態によると、前記方法は、加水分解されたタンパク質から陽イオン性画分を分離することと、前記画分を本発明の陰イオン性多糖類と混合することとをさらに含んでなる。
【0039】
本発明のさらにもう1つの側面は、上述した方法により得られる親水コロイド組成物に関する。
【0040】
本発明によると、陰イオン性多糖類ポリマーはペプチドにより架橋されるので、本発明の親水コロイド組成物は、低い濃度の塩を用いて適用され得るという事実により特徴付けられる。それ故、好ましい実施形態によると、前記組成物は、陰イオン性多糖類グラム当り10mmol以下、より好ましくは陰イオン性多糖類グラム当り6mmol以下のNa+、K+、およびCa2+から選択される金属陽イオンを含んでなる。
【0041】
本発明によると、本発明の親水コロイド組成物を含んでなるゲル化または増粘された組成物が提供される。より具体的には、本発明の1つの側面は、組成物の全量に基づいて、0.01〜10重量%の陰イオン性多糖類および0.3〜12 kDaの範囲内の分子量を有する0.01〜40重量%の架橋ペプチドを含んでなるゲル化または増粘された水性組成物に関し、前記ペプチドは、ペプチド中に含まれるアミノ酸の全量に基づいて、全量が2.5〜40モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなる。
【0042】
好ましい実施形態によると、本発明のゲル化または増粘された水性の系は、親水コロイド組成物を前記水性の系と混合することにより調製される。好ましくは、前記水性の系のpHは3.0〜8.5であり、より好ましくは4.0〜8.0であり、最も好ましくは4.0〜7.0である。陰イオン性多糖類の水和を改善するために、親水コロイドを添加した場合、前記水性の系は加熱されてよく、および/またはせん断力が適用されてよい。親水コロイド組成物の水性分散が冷却された場合、および/またはせん断力が水性の系に加えられた場合は、粘稠化または凝固が開始される。
【0043】
本発明の親水コロイド組成物は、歯ごたえ、構造、粘性、弾性、および/または安定性を与えるために、種々のタイプの食品に組み込まれて適切に使用されてよい。それ故、本発明のもう1つの側面は、食品の全重量に基づいて、0.01〜95重量%の上記で定義したようなゲル化または増粘した親水コロイド組成物を含んでなる食品に関する。典型的に、前記食品は、水連続性の(water continuous)食品である。適切な例には、デザート、ドレッシング、アイスクリーム、および飲料が含まれる。
【0044】
本発明によると、ゲル化または増粘された組成物は、金属陽イオンを加えることなく適切に調製されるため、前記ヒドロゲルは、典型的に、心不全、障害された肝機能、高血圧、急性または慢性の腎臓病等に苦しむ患者のために使用される食事において適用されるような低塩食品、すなわちわずかなNaClを含むかNaClを含まない食品中に好都合に使用されてよい。それ故、本発明の特に好ましい実施形態は、本発明の水性親水コロイド組成物を含んでなる食品に関し、前記食品は、30 mM以下、好ましくは15 mM以下のNa+、K+、およびCa2+から選択される金属陽イオンを含んでなる。
【0045】
本発明の親水コロイド組成物は、ゲルマトリックス中に包括することにより、種々の変換を触媒するために使用される酵素および/または微生物を固定化するために適切に使用されてよい。あるいは、本発明の親水コロイド組成物は、例えば薬物放出を制御するための、治療的および/または診断的な薬剤を含んでなるマイクロカプセルを調製するために使用されてよい。それ故、本発明のもう1つの側面は、0.5〜95重量%の陰イオン性多糖類および0.3〜12kDaの範囲内の分子量を有する0.5〜95重量%のペプチドを含んでなるマトリックス中に含まれる活性成分を含んでなるカプセル剤に関し、前記ペプチドは、前記ペプチド中に含まれるアミノ酸残基の全量に基づいて、全量が2.5〜40モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなる。本発明によるマトリックス中に好都合にカプセル化され得る活性成分には、薬物、ワクチン、酵素、ホルモン、オリゴヌクレオチド、ビタミン等が含まれる。
【0046】
さらに代替の実施形態において、本発明のゲル化または増粘された水性親水コロイド組成物は、皮膚への局所的な適用のための化粧用組成物または治療的組成物を調製するために使用され得る。それ故、本発明のさらにもう1つの側面は、治療的または化粧用の薬剤を含んでなる上記で定義したような水性親水コロイド組成物に関する。
【0047】
本発明のもう1つの実施形態は、上述したように、0.3〜12kDaの範囲内の分子量を有し、ペプチド中に含まれるアミノ酸残基の全量に基づいて全量が2.5〜40モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなる、陰イオン性多糖類のゲル化および/または粘稠化の性質を改善するためのペプチドの使用に関する。
【0048】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明され、権利請求する発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0049】
例1
商業的に入手可能なタンパク質加水分解物であるHyfoama 66 (ex Quest B.V. Naarden, the Netherlands)を、異なるpH値(pH 5.8、pH 7.0、およびpH 8.0)、25 mg/mlの量で、ι-カラゲナンの溶液(0.5 % w/v)に加えた。Hyfoama 66の特性(すなわち、フラグメントの分子量分布および加水分解物中に含まれるヒスチジン、アルギニン、およびリジンの量(モル%))をさらなる実験で測定した。これらの結果は、実施例2で示す。60℃に加温することにより、Hyfoama 66をカラゲナン溶液に溶解した。エッペンドルフチューブ(2 ml)中のゲル形成を、室温で視覚的に観察した。
【0050】
Hyfoama 66 の濃度が25 mg/ml、pH 5.8およびpH 7.0およびpH 8.0において、ι-カラゲナンがゲルを形成することが観察された。
【0051】
例2
陽イオン性画分は、4つのタンパク質加水分解物、Hyfoama 66、カゼイン酸ナトリウム、ラクトフェリン、および卵白タンパク質(EWP)から調製した。カラゲナンゲル化におけるペプチド画分の効果を試験した。さらに、陽イオン性ペプチド画分は、GPCにより、アミノ酸組成および分子量分布について試験された。
【0052】
10gのカゼイン酸ナトリウムおよびEWPおよびラクトフェリンを、ペプシン(5%タンパク質, pH 3)を用いて、37℃で4時間インキュベートすることにより加水分解した。ペプシンは、pHを7.0に調節することにより不活化した。加水分解物の透析(MWCO 100)を、陽イオン性画分のクロマトグラフィー分離の前、この画分の分離の後に行った。透析は、導電率[μS/cm]が安定値に達するまで続けた。脱塩した加水分解物およびその陽イオン性画分を凍結および凍結乾燥した。3つの脱塩した新しく調製された加水分解物およびHyfoama 66を分画した。脱塩した加水分解物を50 mM Na-アセテート緩衝液pH 4.5に溶解した。不溶性の物質を遠心分離およびろ過(0.45μm)により除去し、ろ液を、クロマトグラフィーシステムAkta (アマシャム社製)の使用によりHiTrap SP (アマシャム社製)を充填したカラムに適用した。カラムを同じ緩衝液で洗浄した後、陽イオン性画分を1M NaClを含有する50 mM Na-アセテート緩衝液pH 4.5を用いて溶出した。
【0053】
分子量分布は、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して測定した(NIZO food research-method: Visser et al in Journal of Chromatography 599 (1992) 205-209)。既知の分子量を有するマーカータンパク質を使用することにより、5および10kDaの分子量を有するタンパク質画分に対応する溶出時間が決定された。これらの溶出時間は、前記画分を3つの分類、すなわち> 10 kDa、10〜5 kDa、および<5 kDaに分けるために使用した。表1は、異なる加水分解物およびその陽イオン画分のこれら3つの分類における分布を示す。加水分解物から得られた陽イオン性画分は全て、> 5 kDa の分子量を有する画分に富んでいた。
【表1】

【0054】
加水分解物およびその陽イオン性画分のアミノ酸組成の決定は、酸加水分解法に従ってAnsynth service B.V.により行った。加水分解物およびその陽イオン性画分中の陽イオン性アミノ酸(Lys、His、およびAeg)のパーセンテージを表2に示す。
【表2】

【0055】
陰イオン性多糖類のゲル化の挙動における調製された陽イオン性画分の効果は、κおよびι-カラゲナンを用いて評価した。エッペンドルフチューブ(2ml)中におけるゲル形成は、デカントにより室温で視覚的に観察した。表3において、カラゲナンのゲル化における陽イオン性ペプチドの効果を評価した結果を示す。全ての場合に適用される濃度範囲において、陽イオン性画分の添加の結果としてゲル化が観察された。陽イオン性画分の濃度に依存して、ゲル特性において違いが見られた。外見における違いが見られた。EWPおよびラクトフェリンに由来する陽イオン性画分は濁ったゲルの形成を生じた一方で、Hyfoama66およびカゼイン酸ナトリウムの陽イオン性画分は透明なゲルを生じた。
【表3】

【0056】
スコア:
− ゲル化なし
+/− 弱いゲル化/沈殿
+ 弱いゲル
++ 強いゲル
例3
ラクトフェリンの陽イオン性画分は、他の陰イオン性多糖類における効果を評価するために適用した。一連の5つの陰イオン性多糖類について評価した。エッペンドルフチューブ(2ml)中におけるゲル形成を、室温で視覚的に観察した。その結果を表4に示す。ι/κ-ハイブリッドカラゲナン、キサンタン、およびジェランガムのゲル化が、ラクトフェリン加水分解物の陽イオン性ペプチド画分の添加により引き起こされることが観察された。
【表4】

【0057】
− ゲル化なし
+/− 弱いゲル化/沈殿
+ 弱いゲル
++ 強いゲル
V 粘度の上昇
例4
完全なタンパク質および合成的に調製されたポリ-L-リジン(シグマ-アルドリッチ, Zwijndrecht, the Netherlands)を、κ-、ι-、およびλ-カラゲナン(0.5%(w/v))におけるそれらの効果を評価するために使用した。これら混合物の挙動は、室温で、エッペンドルフチューブ(1.5ml)中で視覚的に観察した。結果を表5に示す。複合体形成は、全ての場合で見られた。陰イオン性カラゲナンと陽イオン性ペプチドまたはポリ-L-リジンとの混合による複合体形成は、チトクロムcの場合、曇った、白っぽいまたは赤褐色の物質を溶液中に生じた。
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の乾燥重量に基づいて、1〜95重量%の陰イオン性多糖類および0.3〜12kDaの範囲内の分子量を有する1〜95重量%のペプチドを含んでなる親水コロイド組成物であって、前記ペプチドは、ペプチド中に含まれるアミノ酸残基の全量に基づいて、全量が2.5〜40モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなる組成物。
【請求項2】
前記陰イオン性多糖類が、カラゲナン、アルギナート、寒天、ペクチン、改質ペクチン、ジェランガム、キサンタンガム、フルセララン、セルロース誘導体、特にカルボキシメチルセルロース(CMC)および硫酸セルロース、硫酸デキストラン、化工デンプン、エキソポリサッカライド、およびそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の親水コロイド組成物。
【請求項3】
前記陰イオン性多糖類と前記ペプチドとの重量比が1:15〜15:1である、請求項1または2に記載の親水コロイド組成物。
【請求項4】
前記陰イオン性多糖類と前記ペプチドとの重量比が、前記組成物が陰イオン性多糖類g当り0.01〜75mmolの量のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなるように選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水コロイド組成物。
【請求項5】
陰イオン性多糖類g当り10mmol以下のNa+、K+、およびCa2+から選択される金属陽イオンを含んでなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水コロイド組成物。
【請求項6】
前記ペプチドが0.5〜8.0kDaの範囲内の分子量を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の親水コロイド組成物。
【請求項7】
前記ペプチドが、ペプチド中に含まれるアミノ酸残基の全量に基づいて、全量が5〜25モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の親水コロイド組成物。
【請求項8】
前記ペプチドが加水分解されたタンパク質組成物中に含まれる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の親水コロイド組成物。
【請求項9】
前記タンパク質組成物が、穀物タンパク質、卵白タンパク質、牛乳タンパク質、大豆タンパク質、エンドウマメタンパク質、ジャガイモタンパク質、トウモロコシタンパク質、ゼラチン、およびそれらの混合物から選択される1以上のタンパク質を含んでなる、請求項8に記載の親水コロイド組成物。
【請求項10】
前記陰イオン性多糖類が、κ-カラゲナン、ι-カラゲナン、ι/κ-ハイブリッドカラゲナン、ジェランガム、およびそれらの混合物から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の親水コロイド組成物。
【請求項11】
組成物の全重量に基づいて、0.01〜10重量%の陰イオン性多糖類および0.3〜12kDaの範囲内の分子量を有する0.01〜40重量%のペプチドを含んでなるゲル化または増粘された水性組成物であって、前記ペプチドは、ペプチド中に含まれるアミノ酸残基の全量に基づいて全量が2.5〜40モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなり、前記陰イオン性多糖類とペプチドとの重量比が1:15〜15:1の範囲である水性組成物。
【請求項12】
食品の全重量に基づいて、請求項11において定義されたゲル化または増粘された水性組成物を0.01〜95重量%含んでなる食品。
【請求項13】
前記食品が、30mM以下のNa+、K+、およびCa2+から選択される金属陽イオンを含んでなる、請求項12に記載の食品。
【請求項14】
0.5〜95重量%の陰イオン性多糖類および0.3〜12kDaの範囲内の分子量を有する0.5〜95重量%のペプチドを含んでなるマトリックス中に含まれる活性成分を含んでなるカプセル剤であって、前記ペプチドが、ペプチド中に含まれるアミノ酸残基の全量に基づいて、全量が2.5〜40モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなるカプセル剤。
【請求項15】
陰イオン性多糖類のゲル化および/または粘稠化の特性を改善するための、0.3〜12kDaの範囲内の分子量を有し、ペプチド中に含まれるアミノ酸残基の全量に基づいて、全量が2.5〜40モル%のリジン、ヒスチジン、およびアルギニンを含んでなるペプチドの使用。
【請求項16】
親水コロイド組成物を調製する方法であって、0.3〜12kDaの範囲内の平均分子量を有するペプチドが得られる程度にタンパク質組成物を加水分解することと、前記加水分解されたタンパク質組成物を、1.0:15.0〜15.0:1.0の範囲の比で陰イオン性多糖類と混合することとを含んでなる方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法により得られる親水コロイド組成物。

【公表番号】特表2008−531011(P2008−531011A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−556990(P2007−556990)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際出願番号】PCT/NL2006/050034
【国際公開番号】WO2006/091101
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(505152480)シーエスエム・ネーデルランド・ビー.ブイ. (9)
【Fターム(参考)】