説明

ターボ過給機

【課題】ホイールとシャフトとの接合部分に発生する応力集中を従来より低減することが可能なターボ過給機を提供する。
【解決手段】回転軸線CL回りに回転自在に設けられるシャフト2と、複数のブレード4を有するとともにシャフト2と同軸に設けられるタービンホイール3とを備え、タービンホイールに設けられて回転軸線CL上に形成された穴部5にシャフト2に設けられて回転軸線CL上に配置された挿入部6が嵌め込まれ、穴部5の入口外周にて溶接されてタービンホイール3とシャフト2とが一体化されているターボ過給機1Aにおいて、挿入部6の先端の中央には、軸線方向CL内側に凹む凹部11が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のブレードを有するホイールと、ホイールと同軸に設けられて先端がそのホイールと溶接されて一体化されるシャフトとを備えたターボ過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
シャフトにホイール(ロータとも呼ばれる。)が嵌め込まれて一体化しているターボ過給機が知られている。このようなターボ過給機に設けられるタービンホイールとして、例えば回転軸線方向に突出する軸部を有するセラミックロータと、先端にセラミックロータの軸部が同軸に嵌合する凹部を有する金属シャフトとを備え、凹部を形成する周壁が先端に向かって肉薄に形成されているとともにその周壁の先端と対向するセラミックロータの部分がテーパされたものが知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−254102号公報
【特許文献2】特公平3−35265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ターボ過給機に設けられるタービンホイールとして、ホイールとシャフトとを金属で作成し、これらを溶接で一体化させるものが知られている。このようなタービンホイールにおいても、特許文献1のタービンホイールのようにホイール及びシャフトの一方に設けた突出部分を他方の凹部に嵌め込み、その後ホイールとシャフトとを溶接で一体化させるものが知られている。この際、溶接はホイールとシャフトとの接合部分のうち外部から見える部分に行われる。そのため、凹部と突出部との接合部分のうち凹部の底部付近は溶接されず、その部分がスリットとして残る。この場合、タービンホイールの高速回転時にスリットの端面で応力集中が発生する。
【0005】
そこで、本発明は、ホイールとシャフトとの接合部分に発生する応力集中を従来より低減することが可能なターボ過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のターボ過給機は、所定の回転軸線回りに回転自在に設けられるシャフトと、複数のブレードを有するとともに前記シャフトと同軸に設けられるホイールと、を備え、前記ホイール及び前記シャフトの一方に設けられて前記回転軸線上に形成された穴部に前記ホイール及び前記シャフトの他方に設けられて前記回転軸線上に配置された挿入部が嵌め込まれ、前記穴部の入口外周にて溶接されて前記ホイールと前記シャフトとが一体化されているターボ過給機において、前記穴部の内周面、及び前記挿入部の外周面の少なくともいずれか一方には、前記穴部と前記挿入部とが接触する接触面から半径方向に後退した後退部が設けられ、前記後退部を含む領域又は前記後退部の近傍の領域に前記ホイールと前記シャフトとを溶接する溶接部が設けられている(請求項1)。
【0007】
本発明のターボ過給機によれば、穴部の内周面及び挿入部の外周面の少なくともいずれか一方に半径方向への後退部を設け、この後退部を含む領域又は後退部の近傍の領域に溶接部を設けたので、後退部により穴部と挿入部とを溶接する溶接部の端部におけるスリットの幅を広げることができる。そのため、この溶接部の端部の形状が幅の狭い、いわゆるスリットではなくなる。これにより溶接部端部への応力集中を低減できるので、ホイールとシャフトとの接合部分に発生する応力集中を低減することができる。
【0008】
本発明のターボ過給機においては、前記穴部の内周面、及び前記挿入部の外周面の少なくともいずれか一方には、周方向に全周に亘って形成される溝部が前記後退部として設けられていてもよい(請求項2)。この場合、穴部に嵌め込むべき挿入部の長さを確保しつつ挿入部と穴部との接触面積を低減することができる。そのため、穴部に嵌る挿入部の長さが不足してホイールがシャフトに対して傾くことを抑制しつつ高速回転時における応力集中を低減できる。
【0009】
本発明のターボ過給機において、前記穴部には、その入口から順に内径が前記挿入部の外径より大きい大径部と、前記挿入部が嵌る位置決め部と、が設けられ、前記大径部が前記後退部であってもよい(請求項3)。このように穴部に大径部を設けることにより、ホイールの高速回転時に挿入部が大径部の内周面を押すことを防止できる。そのため、高速回転時における応力集中を低減できる。
【発明の効果】
【0010】
以上に説明したように、本発明のターボ過給機によれば、ホイールの高速回転時に挿入部が穴部の内面を押す力を低減できるので、ホイールとシャフトとの接合部分に発生する応力集中を従来より低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態と共通の部分を有する参考例に係るターボ過給機の一部を示す図。
【図2】本発明の第1の形態に係るターボ過給機の一部を示す図。
【図3】本発明の第2の形態に係るターボ過給機の一部を示す図。
【図4】第2の形態に係るターボ過給機の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(参考例)
本発明の実施の形態を説明する前に、まずは本発明の実施の形態と共通の部分を有する参考例を説明する。図1は、本発明の実施の形態に対する参考例に係るターボ過給機の一部を示している。このターボ過給機1Aは、車両用内燃機関に取り付けられる周知のものである。ターボ過給機1Aは、シャフト2と、タービンホイール3とを備えている。なお、図1はシャフト2及びタービンホイール3の断面を示している。シャフト2及びタービンホイール3は、それぞれ金属材料にて形成されている。シャフト2は、回転軸線CL回りに回転自在にターボ過給機1Aの不図示のハウジングに支持されている。タービンホイール3は、シャフト2の一端に一体回転可能かつ軸線方向に分離不能に取り付けられている。タービンホイール3は、排気を受けるための複数のブレード4と、シャフト2の一端が嵌め込まれる穴部5とを備えている。穴部5は、回転軸線CL上に形成されている。シャフト2とタービンホイール3とは、シャフト2の一端が穴部5に嵌め込まれ、その後穴部5の入口外周で溶接されることにより一体化されている。なお、溶接としては例えば電子ビーム溶接が用いられる。
【0013】
シャフト2には、タービンホイール3が取り付けられる側から順に、挿入部6、シール部7、及び回転軸部8が設けられている。これら挿入部6、シール部7、及び回転軸部8は、回転軸線CL上に同軸に設けられている。ターボ過給機1Aのハウジングには、回転軸部8が回転可能に支持される。シール部7は、挿入部6及び回転軸部8より外径が大きく、その外周面にはシールリングが嵌め込まれるシールリング溝9及びオイルを排除するオイル溝10がそれぞれ周方向に全周に亘って設けられている。
【0014】
タービンホイール3の穴部5には、挿入部6が嵌め込まれる。そのため、挿入部6の外径は、穴部5の内径と同じ大きさに設定される。挿入部6の先端面の中央には、軸線CL方向内側に凹む凹部11が設けられている。凹部11は、その底部11aが溶接にてシャフト2とタービンホイール3とが結合している部分(以下、溶接部分と称することがある。)Mに達するように設けられている。すなわち、凹部11は、穴部5と挿入部6とが溶接にて結合されずそれらの間にスリットSが形成されている部分の内側に配置されるように設けられている。なお、スリットSが形成される部分は、シャフト2及びタービンホイール3の材質や形状、及び溶接方法などに基づいて推定する。そして、凹部11の深さは、この推定値を参照して設定すればよい。凹部11の内径は、シャフト2の材料やターボ過給機1Aの回転数などを考慮し、ターボ過給機1Aの動作時に凹部11を形成する周壁12が破損しないように適宜設定される。
【0015】
参考例のターボ過給機1Aによれば、挿入部6に凹部11を設けたので、周壁12の径方向への剛性を低減できる。また、凹部11は、その底部11aが溶接部分Mに達するように設けられているので、スリットSが形成される部分の周壁12の剛性を十分に低減することができる。そのため、タービンホイール3の高速回転時にスリットSが形成されている部分において周壁12が穴部5の内面と接触しても凹部11が無い場合と比較して周壁12が穴部5の内面を回転の中心側に引っぱる力を低減できる。従ってシャフト2とタービンホイール3との接合部分に発生する応力集中を低減できる。
【0016】
(第1の形態)
図2は、本発明の第1の形態に係るターボ過給機1Bの一部を示している。図2に示したようにこの形態では、挿入部6の外周に溝部としての溝20が設けられている点が参考例と異なる。それ以外は参考例と同じである。そのため、図2において参考例と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。溝20は、径方向内側に凹むように挿入部6の外周面に周方向に全周に亘って形成されている。溝20の幅は挿入部6の直径に応じて設定され、例えば直径の5〜10%の値が設定される。溝20の深さも同様に挿入部6の直径に応じて設定され、例えば直径の5〜10%の値が設定される。そのため、溝20が本発明の後退部に相当する。図2中に拡大して示したようにこの形態では、溝20を含む領域に溶接部分Mが設けられる。そのため、溶接部分Mが本発明の溶接部に相当する。
【0017】
第1の形態のターボ過給機1Bによれば、挿入部6の外周面に溝20を設けたので、溝部20においてスリットSの径方向の幅を広げることができる。これにより、図2に拡大して示したように溝20に掛かる溶接部分Mの端面の角度θを大きくすることができる。このように溶接部分Mの角度θを大きくすることにより、シャフト2とタービンホイール3との接合部分に発生する応力集中を低減できる。また、この形態では、挿入部6の長さを確保することができるので、穴部5に嵌め込まれる挿入部6の長さが不足することを防止できる。そのため、シャフト2がタービンホイール3に対して傾くことを抑制できる。
【0018】
なお、溝20の断面の形状は図2に示した形状に限定されない。例えば、断面が三角形状の溝でもよいし、断面が半円状の溝でもよい。また、溝20を設ける場所は、挿入部6の外周面に限定されない。例えば、穴部5の内周面に溝20を設けてもよい。また、挿入部6の外周面及び穴部5の内周面の両方に設けられていてもよい。これらの場合も溝20を設けた部分のスリットSの幅を広げることができるので、溶接部分Mの端部の角度が大きくなり、応力集中が低減される。そのため、シャフト2とタービンホイール3との接合部分に発生する応力集中を低減できる。
【0019】
(第2の形態)
図3は、本発明の第2の形態に係るターボ過給機1Cの一部を示している。なお、図3において上述した参考例又は第1の形態と共通の部分については同一の符号を付して説明を省略する。図3に示したようにこの形態では、穴部5に入口側から順に大径部30及び位置決め部31が設けられている。大径部30及び位置決め部31は、回転軸線CL上に同軸に設けられている。位置決め部31は、その内径が挿入部6の外径と同じになるように設けられている。挿入部6の先端は、位置決め部31に嵌め込まれる。これにより、タービンホイール3に対するシャフト2の径方向の位置決めが行われる。大径部30は、その内径が位置決め部31の内径より大きくなるように設けられている。大径部30の内径には、例えば位置決め部31の内径に対して5〜10%大きい値が設定される。そのため、大径部30の内径は、挿入部6の外径よりも5〜10%大きい。これにより大径部30においては穴部5の内周面を挿入部6と穴部5の接触面から径方向外側に後退させることができる。そのため、大径部30が本発明の後退部に相当する。そして、溶接部分Mは、この大径部30の入口近傍の領域に設けられている。
【0020】
第2の形態のターボ過給機1Cによれば、上述した第1の形態と同様に大径部30においてスリットSの径方向の幅を広げることができる。そして、図3に示したように溶接部分Mの径方向内側において大径部30とシャフト2との間に形成される角度θを大きくすることができるので、応力集中を低減できる。タービンホイール3に対するシャフト2の径方向の位置決めは、挿入部6が位置決め部31に嵌ることにより行われるので、シャフト2とタービンホイール3とを同じ回転軸線CL上に精度良く設けることができる。
【0021】
図4は、第2の形態のターボ過給機1Cの変形例を示している。なお、図4では、穴部5の入口部分を拡大して示している。この変形例では、穴部5から突出する突出部40がシャフト2の端部に設けられた嵌合穴41に嵌ることにより、タービンホイール3に対するシャフト2の径方向の位置決めが行われる。突出部40は、穴部5の底部から入口に向かって延びるように設けられる。また、突出部40は、回転軸線CL上に配置される。嵌合穴41は、シャフト2の先端面の中央に設けられる。嵌合穴41も回転軸線CL上に設けられる。
【0022】
この変形例においても、図3に示した形態と同様に溶接部分Mの角度θを大きくすることができるので、シャフト2とタービンホイール3との接合部分に発生する応力集中を低減できる。
【0023】
本発明は、上述した各形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、タービンホイールに挿入部が設けられ、シャフトに穴部が設けられてもよい。上述した各形態はタービンホイールとシャフトとの接合について示したが、これらの接合方法はコンプレッサホイールとシャフトとの接合に適用されてもよい。また、上述した参考例と各形態とは、いくつかを互いに組み合わせて使用してもよい。例えば、挿入部に凹部を設けるとともにその挿入部の外周面に溝部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1A、1B、1C ターボ過給機
2 シャフト
3 タービンホイール
4 ブレード
5 穴部
6 挿入部
11 凹部
11a 底部
20 溝(溝部、後退部)
30 大径部(後退部)
31 位置決め部
CL 回転軸線
M 溶接部分(溶接部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転軸線回りに回転自在に設けられるシャフトと、複数のブレードを有するとともに前記シャフトと同軸に設けられるホイールと、を備え、前記ホイール及び前記シャフトの一方に設けられて前記回転軸線上に形成された穴部に前記ホイール及び前記シャフトの他方に設けられて前記回転軸線上に配置された挿入部が嵌め込まれ、前記穴部の入口外周にて溶接されて前記ホイールと前記シャフトとが一体化されているターボ過給機において、
前記穴部の内周面、及び前記挿入部の外周面の少なくともいずれか一方には、前記穴部と前記挿入部とが接触する接触面から半径方向に後退した後退部が設けられ、前記後退部を含む領域又は前記後退部の近傍の領域に前記ホイールと前記シャフトとを溶接する溶接部が設けられていることを特徴とするターボ過給機。
【請求項2】
前記穴部の内周面、及び前記挿入部の外周面の少なくともいずれか一方には、周方向に全周に亘って形成される溝部が前記後退部として設けられている請求項1に記載のターボ過給機。
【請求項3】
前記穴部には、その入口から順に内径が前記挿入部の外径より大きい大径部と、前記挿入部が嵌る位置決め部と、が設けられ、
前記大径部が前記後退部である請求項1に記載のターボ過給機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−137099(P2012−137099A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96474(P2012−96474)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【分割の表示】特願2008−268539(P2008−268539)の分割
【原出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】