説明

ダイ、電極スラリー塗布装置及び電極スラリーの塗布方法

【課題】電極スラリーの剥離強度を向上させることができるダイの提案
【解決手段】
ダイ10は、流路20に成分調整部材18が配置されている。成分調整部材18は、ダイ10の吐出口23から吐出される電極スラリー200について、吐出口23の片側においてバインダ204の割合を高くする。バインダ204の割合が高くなる吐出口23の片側から吐出される電極スラリー200aが、集電体210に直接付着するようにダイ10が配置されている。これにより、集電体210に塗布される電極スラリー200との境界部分においてバインダ204の割合が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極スラリーを塗布するのに用いられるダイ、電極スラリー塗布装置及び電極スラリーの塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電極スラリーは、電極活物質、結着剤であるバインダなどを溶媒に加えて混ぜ合わせたペースト状の電池材料である。例えば、二次電池の電極に用いられる電極シートは、箔状の集電体の表面に電極スラリーを塗布し、これを乾燥させることによって作製されている。かかる電極スラリーを集電体の表面に塗布する塗布装置は、例えば、特開平11−339772号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
特開平11−339772号公報(特許文献1)には、バインダの含有量が多い電極スラリーを集電体に近い方に塗布するとともに、バインダの含有量が少ない電極スラリーを集電体から遠い方に塗布する方法が開示されている。同公報には、2つのマニホールドが形成されたダイ(ノズル)を有する塗布装置が開示されている。そして、当該塗布装置は、バインダの含有量が少ない電極スラリーが一方のマニホールドに供給され、当該電極スラリーに比べてバインダの含有量が少ない電極スラリーが他方のマニホールドに供給される。そして、当該塗布装置は、バインダの含有量が少ない電極スラリーを集電体の上に塗布するとともに、当該電極スラリーに比べてバインダの含有量が少ない電極スラリーを当該電極スラリーの上に塗布する。
【0004】
また、特開平11−25955号公報(特許文献2)には、電極活物質の平均粒子サイズが電極合剤層の表面側で大きく、集電体側で小さくなるように分布させ、かつ結着剤を少なくとも電極合剤層の厚み方向に連続させることが開示されている。また、平均粒子サイズが相対的に小さい活物質と結着剤とを含む電極スラリー(塗布液)と、平均粒子サイズが相対的に大きい活物質と結着剤とを含む電極スラリー(塗布液)とを同時に塗布し、その後、それらの塗布層を同時に乾燥させる方法(いわゆる同時重層塗布法)が開示されている。
【0005】
また、特開平7−6752号公報(特許文献3)には、バインダ(結着剤)を均一に分散させる方法として、電極スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させ、その後、加圧成形し、当該電極を熱処理する方法が開示されている。また、バインダ(結着剤)を均一に分散させる方法ではないが、特開平6−325752号公報(特許文献4)には、熱や電離放射線などによって硬化する反応硬化型バインダが電極活物質層に含まれた電極シートが開示されている。同公報に開示された電極シートでは、電極スラリーの塗布後に反応硬化型バインダが硬化するので、電極活物質層が集電体から剥がれにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−339772号公報
【特許文献2】特開平11−25955号公報
【特許文献3】特開平7−6752号公報
【特許文献4】特開平6−325752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電池の生産効率を上げる方法の一つとして、電極スラリーを集電体に塗布した後の乾燥工程において、電極スラリーを急激に高温の雰囲気に晒して短時間で乾燥させることが考えられる。しかしながら、電極スラリーを急激に高温の雰囲気に晒して短時間で乾燥させた場合には、電極材料が集電体から剥がれるなど、電池性能が低下する事象が生じる場合がある。
【0008】
かかる事象について、本発明者は、乾燥工程で、集電体に塗布された電極スラリーを急激に高温の雰囲気に晒した際に、電極スラリー内で対流(マイグレーション)や濃度拡散が生じることが、その原因の一つと考えている。乾燥工程で、集電体に塗布された電極スラリーが急激に高温に晒されると、電極スラリー中のバインダが、電極スラリーの上層に移動する傾向がある。電極スラリー中のバインダが電極スラリーの上層に移動すると、その分、電極スラリーと集電体との境界部分でバインダの割合が少なくなる。その結果、電極スラリーと集電体との境界部分でバインダの割合が少なくなるため、電極材料が集電体から剥がれ易くなると考えられる。
【0009】
かかる事象を防止するため、例えば、乾燥工程の前半において、対流を小さく抑えることができる程度の低い温度雰囲気に電極スラリーを晒す予備乾燥工程を設けるとよい。この場合、かかる予備乾燥工程で電極スラリーの成分中のバインダが、電極スラリーの上層に移動するのを防止しつつ、電極スラリーを乾燥させることができる。そして、かかる予備乾燥工程の後に、乾燥炉の温度を上げる本乾燥工程を設けている。これにより、電極スラリーと集電体との境界部分でバインダが少なくなるのを防止し、電極スラリーが集電体から剥がれ易くなるのを防止している。しかしながら、予備乾燥工程に所要の時間を要している。
【0010】
また、本発明者は、電極スラリーの成分の比率が二次電池の電池特性に影響を与えると考えている。特許文献1に記載された方法では、バインダの含有量の多い電極スラリーを集電体に近い方に塗布し、バインダの含有量の少ない電極スラリーを集電体から遠い方に塗布している。この方法では、集電体に近い方と遠い方に塗布する電極スラリーについて、バインダの含有量が異なる2種類の電極スラリーを用意する必要がある。また、集電体に近い方と遠い方に塗布する各電極スラリーの成分比率や吐出量に応じて、最終的に集電体に塗布された電極スラリーの成分比率が変わる。このため、各電極スラリーの成分比率を調整したり、吐出量を調整したりすることが必要になり、集電体に塗布された電極スラリーの成分比率を調整するのが難しい。また、バインダの含有量が異なる電極スラリーを別々に供給するため、ポンプやタンクを複数設ける必要がある。このため、設備コストが増加する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、バインダを含む電極スラリーを吐出するダイに関する。このダイは、吐出口と、吐出口に連通した流路と、ダイの流路に配置され、吐出口から吐出される電極スラリーについて、吐出口の片側においてバインダの割合を高くする成分調整部材とを備えている。このダイによれば、成分調整部材が電極スラリーの流路に配置されているので、吐出口の片側において、電極スラリー中のバインダの割合を高くすることができるとともに、電極スラリーの成分調整も容易である。
【0012】
成分調整部材は、例えば、流路を横断するように配置され、電極スラリーの各成分を通過させる複数の穴が形成された部材でもよい。また、成分調整部材の片側に偏って設けられた一の領域に形成された穴の平均面積は、他の領域に形成された穴の平均面積よりも小さくしてもよい。
【0013】
また、成分調整部材は板状の部材であり、一の領域が他の領域よりも吐出口に近くなるように、流路に対して斜めに配置されていてもよい。また、一の領域に形成されている穴の平均面積xと、他の領域に形成されている穴の平均面積yとが、1.01x≦y≦20xであってもよい。また、成分調整部材における前記一の領域の面積pと、他の領域の面積qとが、1.01q≦p≦20qであってもよい。また、一の領域に形成されている穴の平均面積xと、他の領域に形成されている穴の平均面積yと、成分調整部材における一の領域の面積pと、他の領域の面積qとの関係が、0.5≦(x/y)×(q/p)≦2であってもよい。また、ダイは、流路にマニホールドが形成されており、成分調整部材は前記マニホールドを横断するように配置されていてもよい。
【0014】
また、本発明に係る電極スラリー塗布装置は、集電体を搬送する搬送装置と、搬送装置によって搬送される集電体に対して吐出口を向けて配置された、上述した何れかのダイとを備えている。この電極スラリー塗布装置のダイは、バインダの割合が高くなる吐出口の片側から吐出される電極スラリーが、集電体に直接付着するように配置されているとよい。
【0015】
また、電極スラリーの塗布方法は、バインダを含む電極スラリーを箔状の集電体の表面に塗布する方法に関する。電極スラリーの塗布方法は、上述した何れかのダイを用い、集電体と電極スラリーとの境界部分において、バインダの割合が高くなるように電極スラリーを塗布する工程を含んでいるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るダイの分解斜視図。
【図2】本発明の一実施形態に係るダイの断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るダイの成分調整部材の平面図。
【図4】本発明の一実施形態に係るダイを電極スラリー塗布装置に用いた使用状態を示す図。
【図5】成分調整部材の機能を模式的に示す図。
【図6】成分調整部材の機能を調べる試験を模式的に示す図。
【図7】成分調整部材の機能を調べる試験を模式的に示す図。
【図8】本発明の一実施形態に係る電極スラリー塗工装置を示す図。
【図9】リチウムイオン二次電池の構成例を示す図。
【図10】リチウムイオン二次電池の捲回電極体を示す図。
【図11】リチウムイオン二次電池の捲回電極体の構造を示す断面図。
【図12】本発明の他の実施形態に係るダイを示す図。
【図13】本発明の他の実施形態に係る成分調整部材を示す図。
【図14】リチウムイオン二次電池が搭載された車両を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るダイを説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、同じ作用を奏する部材、部位には、適宜に同じ符号を付している。
【0018】
≪ダイ10≫
図1は、本実施形態に係るダイ10の分解斜視図である。図2は、ダイ10の断面図である。本実施形態に係るダイ10は、図1に示すように、第1ブロック12と、第2ブロック14と、シム16と、成分調整部材18とを備えている。
【0019】
第1ブロック12と第2ブロック14は、図1に示すように、シム16を介して対向する面12a、14aを有する一対の金属製のブロックである。第1ブロック12と第2ブロック14は、図2に示すように、シム16を介在させた状態で対向する面12a、14aを重ね合わせることができる。本実施形態では、図1に示すように、第1ブロック12と第2ブロック14は、それぞれ断面が概ね台形のブロックである。第1ブロック12と第2ブロック14は、それぞれ対向する面12a、14aが外側の面12b、14bに比べて長く、対向する面12a、14aに対して直角の側面12c、14cと、対向する面12a、14aに対して傾斜した側面12d、14dとを備えている。第1ブロック12と第2ブロック14は、互いにひっくり返した際に概ね同じ形状を有している。
【0020】
また、本実施形態では、第1ブロック12と第2ブロック14の対向する面12a、14aには、それぞれマニホールド21を形成するための窪み12e、14eが形成されている。また、当該窪み12e、14eには、成分調整部材18を取り付ける取付部12f、14fが設けられている。本実施形態では、成分調整部材18は板状の部材で構成されている。窪み12e、14eに設けられた取付部12f、14fは、板状の成分調整部材18の縁が嵌りうる溝で形成されている。
【0021】
シム16は、図2に示すように、第1ブロック12と第2ブロック14との間に、電極スラリーの流路20となる隙間を形成する部材である。本実施形態では、シム16は、第1ブロック12と第2ブロック14の対向する面12a、14aの周縁部に介在する板状の部材である。シム16は、マニホールド21を形成するための窪み12e、14eが形成された部分から傾斜した側面12d、14dとの縁12g、14gに至る領域に介在しないように、当該領域に相当する部分16aが欠けている。また、シム16は、第1ブロック12と第2ブロック14の対向する面12a、14aの周縁部に沿って、上記領域を囲むように延びている。
【0022】
かかる第1ブロック12、第2ブロック14及びシム16は、図2に示すように、第1ブロック12と第2ブロック14の間にシム16を介在させた状態で重ね合わされている。第1ブロック12、第2ブロック14及びシム16を固定する手段は、例えば、ビス(図示省略)を用いるとよい。第1ブロック12と第2ブロック14との間には、第1ブロック12と第2ブロック14とシム16によって囲まれた空隙20が形成されている。本実施形態では、第1ブロック12と第2ブロック14との間には、窪み12e、14eによりマニホールド21が形成されている。また、当該マニホールド21、及び、当該マニホールド21から第1ブロック12と第2ブロック14の傾斜した側面12d、14dとの縁12g、14gに至る領域に空隙20が形成されている。
【0023】
かかる空隙20は電極スラリーの流路として機能する。かかる空隙のうち第1ブロック12と第2ブロック14の窪み12e、14eが形成された部分は、マニホールド21を形成している。また、マニホールド21から、第1ブロック12と第2ブロック14の傾斜した側面12d、14dとの縁12g、14gに至る領域は、電極スラリーの供給路22(流路)を形成している。また、当該電極スラリーの供給路22は、第1ブロック12と第2ブロック14の傾斜した側面12d、14dとの縁12g、14gで外部に開口している。当該開口は電極スラリーの吐出口23として機能する。また、電極スラリーの供給口24として、当該マニホールド21に連通する孔が第2ブロック14に形成されている。
【0024】
≪成分調整部材18≫
次に、成分調整部材18を説明する。成分調整部材18は、図2に示すように、ダイ10の流路の一部を構成するマニホールド21に配置されている。本実施形態では、成分調整部材18は、板状の部材であり、マニホールド21を横断するように配置されている。かかる成分調整部材18は、吐出口23の片側に電極スラリー中のバインダを偏在させる。
【0025】
本実施形態では、成分調整部材18には、図3に示すように、電極スラリーの各成分を通過させる穴18a、18bが複数形成されている。成分調整部材18の片側に偏って設けられた一の領域A1に形成された穴18aの平均面積は、他の領域A2に形成された穴18bの平均面積よりも小さい。本実施形態では、成分調整部材18は、長方形の板状の部材であり、中間部分において長辺に平行な境界Lが設けられている。そして、境界Lの片側に一の領域A1が設けられており、反対側に他の領域A2が設けられている。本実施形態では、成分調整部材18に形成された穴18a、18bは、それぞれ一様な大きさの円形の穴であり、片側の一の領域A1に形成された穴18aは、反対側の他の領域A2に形成された穴18bに比べて径が小さい。
【0026】
本実施形態では、成分調整部材18は、図2に示すように、第1ブロック12、第2ブロック14及びシム16を重ね合わせる際に、第1ブロック12及び第2ブロック14に形成された溝12f、14fに嵌められる。これによって、成分調整部材18は、第1ブロック12と第2ブロック14の間に形成されるマニホールド21を横断するように配置される。本実施形態では、第2ブロック14側に形成される溝14fは、第1ブロック12に形成された溝12fよりも吐出口23側に近づけて設けられている。このため、成分調整部材18は、第1ブロック12側よりも第2ブロック14側が吐出口23に近くなるように、マニホールド21に斜めに配置される。
【0027】
本実施形態では、図3に示すように、成分調整部材18の小さい穴18aが形成された一の領域A1が第2ブロック14側になるように配置され、大きい穴18bが形成された他の領域A2が第1ブロック12側になるように配置されている。これにより、マニホールド21の第2ブロック14側に小さい穴18aが偏在している。図4は、ダイ10を電極スラリー塗布装置80に用いた使用状態を示す図である。電極スラリー200は、ダイ10内で、かかる穴18a、18bを通過する。成分調整部材18の片側に偏った一の領域A1に形成された穴18aは、バインダ204の通過を妨げないが、電極活物質202が通過し難くする程度の大きさを有している。また、成分調整部材18の他の領域A2に形成された穴18bは、電極活物質202の通過を妨げない程度の大きさを有している。
【0028】
ここで、電極スラリー200は、ペースト状の電池材料であり、バインダの他、電極活物質などの粒子が含まれている。例えば、リチウムイオン二次電池(lithium-ion secondary battery)の負極用の電極スラリー200では、電極活物質202として、例えば、グラファイト(Graphite)やアモルファスカーボン(Amorphous Carbon)などの炭素系材料、リチウム含有遷移金属酸化物や遷移金属窒化物等などが用いられる。バインダ204としては、有機溶剤に対して実質的に不溶性であって、水に溶解又は分散するポリマー材料であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE:poly tetra fluoro ethylene)が用いられる。なお、この電極スラリー200には、電極活物質202とバインダ204の他にも増粘剤や導電材などが含まれている。
【0029】
電極スラリー200のバインダ204の粒径は、電極活物質202の粒径よりも小さい。本実施形態では、電極活物質202の平均粒径は1.5μm〜60μm程度であり、バインダ204の平均粒径は0.05μm〜0.50μm程度である。本実施形態では、上述した電極活物質202の平均粒径とバインダ204の平均粒径とを勘案し、成分調整部材18に形成される穴18a、18bの大きさを決めている。すなわち、本実施形態では、成分調整部材18の片側に偏った一の領域A1に形成された穴18aの直径は45μm程度とし、他の領域A2に形成された穴18bの直径は100μm程度としている。これにより、成分調整部材18の片側に偏った一の領域A1に形成された穴18aは、バインダ204の通過を妨げないが、電極活物質202が通過し難い。また、成分調整部材18の他の領域A2に形成された穴18bは、電極活物質202の通過を妨げない。なお、上述した電極活物質202とバインダ204の平均粒径、及び、成分調整部材18に形成された穴18a、18bの直径は、一つの目安を示すに過ぎず、成分調整部材18に形成された穴18a、18bの直径は、適当に定めることができる。
【0030】
図5に示すように、電極スラリー200はダイ10内で成分調整部材18を通過する。この際、電極活物質202は領域A1に形成された穴18aの通過し難いので、領域A2に形成された穴18bを通るように誘導される傾向がある。その反動で、バインダ204は、領域A1に形成された穴18aを通るように誘導される傾向がある。その結果、成分調整部材18を通過した電極スラリー200は、主として成分調整部材18の領域A1を通過した電極スラリー200aは電極活物質202の割合が少なくなり、バインダ204の割合が多くなる。これに対して、主として、成分調整部材18の領域A2を通過した電極スラリー200bは、上記領域A1を通過した電極スラリー200aに比べてバインダ204の割合が少なくなる。
【0031】
このように、このダイ10では、マニホールド21に配置された成分調整部材18によって、吐出口23の片側から吐出される電極スラリー200においてバインダ204の割合が高くなる。以下、成分調整部材18のうちバインダの割合を多くする一の領域A1を適宜に「バインダリッチ層形成領域」といい、バインダの割合を少なくする他の領域A2を適宜に「バインダプア層形成領域」という。
【0032】
本発明者は、かかる成分調整部材18の機能を確認するために以下のような試験を行った。図6及び図7は、本発明者がした試験を模式的に示している。本試験では、まず、図6に示すように、金属箔700(ここでは、銅箔)の上に、成分調整部材18を配置した。次に、当該成分調整部材18の片側に偏った一の領域A1(バインダリッチ層形成領域A1)と他の領域A2(バインダプア層形成領域A2)の境界Lを跨ぐように、成分調整部材18の上から電極スラリー200を配置する。そして、一定の圧力P1で加圧して所要量の電極スラリー200を、成分調整部材18を通過させて金属箔700に付着させる。次に、図7に示すように、成分調整部材18を取り外し、電極スラリー200を、テーブルコーター710によって引き延ばした後に乾燥させる。
【0033】
この試験では、このようにして金属箔700に塗工された電極スラリーについて、バインダリッチ層形成領域A1を通過した電極スラリー200aの剥離強度と、バインダプア層形成領域A2を通過した電極スラリー200bの剥離強度を調べた。その結果、バインダプア層形成領域A2を通過した電極スラリー200bに比べて、バインダリッチ層形成領域A1を通過した電極スラリー200aの方が高い剥離強度が得られた。ここで、剥離強度の測定方法は、例えば、180度剥離強度試験又は90度剥離強度試験による。
【0034】
この試験から、剥離強度が高いバインダリッチ層形成領域A1を通過した電極スラリー200aの方が、バインダプア層形成領域A2を通過した電極スラリー200bに比べてバインダ204の割合が高くなっていると推察される。電極スラリー200が成分調整部材18を通過する際に、電極活物質202はバインダプア層形成領域A2に形成された穴18bを通るように誘導される。その反動で、バインダ204はバインダリッチ層形成領域A1に形成された穴18aを通るように誘導される。この結果、バインダリッチ層形成領域A1側を通過した電極スラリー200aは、バインダプア層形成領域A2を通過した電極スラリー200bに比べて、結着剤であるバインダ204を多く含む。このため、金属箔700の表面に塗布した場合の剥離強度が向上していると考えられる。
【0035】
このように、バインダリッチ層形成領域A1を通過した電極スラリー200aの方が、バインダプア層形成領域A2を通過した電極スラリー200bに比べてバインダ204の割合が高くなる。成分調整部材18は、図2に示すように、電極スラリー200の流路20(本実施形態では、マニホールド21)を横断するように配置されている。電極スラリー200が成分調整部材18を通過する際、流路20の片側においてバインダ204の割合が多くなる。このため、ダイ10の吐出口23から吐出される電極スラリー200は、吐出口23の片側においてバインダ204の割合が高くなる。かかるダイ10は、図4及び図8に示すように、電極スラリー200を集電体210の表面に塗工する電極スラリー塗布装置80及び電極スラリー塗工装置100に用いられている。
【0036】
≪電極スラリー塗工装置100≫
本実施形態では、電極スラリー塗工装置100は、搬送装置40と、電極スラリー塗布装置80と、乾燥装置90とを備えている。
【0037】
≪搬送装置40≫
搬送装置40は、電極スラリー200が塗工される集電体210を搬送する装置である。本実施形態では、搬送装置40は、図8に示すように、供給ロール42と、巻取ロール44と、複数のガイドローラ46とを備えている。また、また、集電体210の搬送経路は、複数のガイドローラ46によって形成されている。本実施形態では、搬送装置40は、図8に示すように、帯状の集電体210に電極スラリー200を塗布し、電極スラリー200を乾燥させる一連の処理を行なう装置に構成されている。このため、集電体210の搬送経路は、供給ロール42から電極スラリー塗布装置80、乾燥装置90を順に通って巻取ロール44に至る。
【0038】
供給ロール42は、電極スラリー200が塗工される前の集電体210が巻き付けられている。供給ロール42は、搬送装置40の搬送経路の始端に設けられ、搬送装置40に集電体210を供給する。また、巻取ロール44は搬送装置40の搬送経路の終端に設けられ、搬送装置40から集電体210を巻き取る。搬送装置40には、複数のガイドローラ46が配置されている。集電体210は、ガイドローラ46によって案内され、所定の搬送経路に沿って搬送される。また、本実施形態では、搬送経路の途中に電極スラリー塗布装置80を有する。搬送装置40は、電極スラリー塗布装置80のバックロール46aを備えている。バックロール46aは、電極スラリー塗布装置80が電極スラリー200を塗布する部位において、集電体210の裏面を支持する。
【0039】
≪電極スラリー塗布装置80≫
電極スラリー塗布装置80は、電極スラリー供給装置60とダイ10を備えている。電極スラリー供給装置60は、図4及び図5に示すように、電極スラリーのタンク62と、タンク62から電極スラリー200をダイ10に送るポンプ64とを備えている。電極スラリーは、ダイ10の供給口24に接続された配管66を通して、ポンプ64からダイ10に送られる。ダイ10は、バックロール46aに支持される集電体210に吐出口23が向くように配設されている。
【0040】
本実施形態では、ダイ10は、図4に示すように、マニホールド21に成分調整部材18が配置されている。成分調整部材18は、ダイ10の吐出口23から吐出される電極スラリー200について、吐出口23の片側においてバインダ204の割合を高くすることができる。本実施形態では、ダイ10は、搬送装置40によって搬送される集電体210に対して吐出口23を向けて配置されている。また、バインダ204の割合が高くなる吐出口23の片側から吐出される電極スラリー200aが、集電体210に直接付着するようにダイ10が配置されている。これにより、集電体210に塗布される電極スラリー200は、集電体210との境界部分においてバインダ204の割合が高くなる。
【0041】
本実施形態では、ダイ10は、バインダ204の割合が高くなる吐出口23の片側を、バックロール46aによって搬送される集電体210の搬送方向d1に対して後側になるように配置している。また、電極活物質202の割合が高くなる吐出口23の反対側を、バックロール46aによって搬送される集電体210の搬送方向d1に対して前側になるように配置している。これにより、吐出口23の片側から吐出されるバインダ204の割合が高い電極スラリー200aを、集電体210に直接付着させることができる。また、集電体210に塗布された電極スラリー200の表面側では、電極活物質202の割合が高くなる。
【0042】
≪乾燥装置90≫
電極スラリー塗布装置80によって電極スラリー200が塗布された集電体210は、図8に示すように、乾燥装置90に搬送される。乾燥装置90は、乾燥炉92を備えている。乾燥炉92は、予備乾燥部分92aと、本乾燥部分92bとを備えている。予備乾燥部分92aは、集電体210の搬送経路上の前半部分に設けられており、本乾燥部分92bよりも温度が低く設定されている。本乾燥部分92bは、予備乾燥部分92aよりも後半側に設けられており、予備乾燥部分92aよりも温度が高く設定されている。
【0043】
この電極スラリー塗工装置100では、電極スラリー塗布装置80によって、集電体210との境界部分においてバインダ204の割合が高い電極スラリー200aが塗布されており、集電体210に塗布された電極スラリー200の表面側は、電極活物質202の割合が高くなっている。このため、乾燥装置90において、集電体210に塗布された電極スラリー200にマイグレーションが生じた場合でも、集電体210との境界部分においてバインダ204の量を所要量維持できる。このため、集電体210に塗布された電極スラリー200の層が、乾燥工程後にも剥離しにくい電極シートを作製することができる。また、本実施形態では、電極スラリー塗布装置80によって、集電体210との境界部分においてバインダ204の割合が高い電極スラリー200aが塗布されている。このため、乾燥装置90の予備乾燥部分92aの温度をより高く設定でき、乾燥工程に要する時間を短縮させることができる。
【0044】
このように、この電極スラリー塗工装置100によれば、集電体210に塗布された電極スラリー200の層が、乾燥工程後にも剥離しにくい電極シートを作製することができる。このように集電体210に電極スラリー200が塗工された電極シートは、電池に用いられる。図9は、集電体210に電極スラリー200が塗工された電極シートが用いられるリチウムイオン二次電池300の概略構成を示している。
【0045】
≪リチウムイオン二次電池300≫
例えば、このリチウムイオン二次電池300は、図9に示すように、矩形の金属製の電池ケース300aに構成されている。電池ケース300aには、捲回電極体310が収容されている。この実施形態では、捲回電極体310は、図10及び図11に示すように、帯状電極として、正極シート311と、負極シート313を備えている。また、帯状セパレータとして、第1セパレータ312と、第2セパレータ314を備えている。そして、正極シート311と、第1セパレータ312と、負極シート313と、第2セパレータ314の順で重ねられて巻き取られている。
【0046】
正極シート311は、集電体シート311cとしてのアルミニウム箔(集電体210(図4及び図5参照)に相当)の両面に正極活物質(電極活物質202に相当)を含む電極材料311dが塗工されている。負極シート313は、集電体シート313cとしての銅箔(集電体210(図4及び図5参照)に相当)の両面に負極活物質(電極活物質202に相当)を含む電極材料313dが塗工されている。セパレータ312、314は、イオン性物質が透過可能な膜であり、この実施形態では、ポリプロピレン製の微多孔膜が用いられている。
【0047】
また、この実施形態では、電極材料311d、313dは集電体シート311c、313cの幅方向片側に偏って塗工されている。集電体シート311c、313cの幅方向反対側の縁部には電極材料311d、313dが塗工されていない。正極シート311と負極シート313のうち、集電体シート311c、313cに電極材料311d、313dが塗工された部位を塗工部311a、313aといい、集電体シート311c、313cに電極材料311d、313dが塗工されていない部位を未塗工部311b、313bという。
【0048】
図11は、正極シート311と、第1セパレータ312と、負極シート313と、第2セパレータ314とが順に重ねられた状態を示す幅方向の断面図である。正極シート311の塗工部311aと負極シート313の塗工部313aは、それぞれセパレータ312、314を挟んで対向している。図10及び図11に示すように、捲回電極体310の捲回方向に直交する方向(巻き軸方向)の両側において、正極シート311と負極シート313の未塗工部311b、313bが、セパレータ312、314からそれぞれはみ出ている。当該正極シート311と負極シート313の未塗工部311b、313bは、捲回電極体310の正極と負極の集電部311b1、313b1をそれぞれ形成している。
【0049】
電池ケース300aには、図9に示すように、正極端子301と負極端子303が設けられている。正極端子301は捲回電極体310の正極集電部311b1に電気的に接続されている。負極端子303は捲回電極体310の負極集電部313b1に電気的に接続されている。かかる電池ケース300aには電解液が注入される。電解液は、適当な電解質塩(例えばLiPF6等のリチウム塩)を適当量含むジエチルカーボネート、エチレンカーボネート等の混合溶媒のような非水電解液で構成できる。
【0050】
かかるリチウムイオン二次電池300は、充放電時に、正極活物質及び負極活物質に膨張収縮が生じる。繰り返し充放電が行われると、正極活物質及び負極活物質の膨張収縮が繰り返される。かかる正極活物質及び負極活物質の膨張収縮に起因して、集電体シート311c、313cから電極材料311d、313dが剥がれる事象が生じ得る。
【0051】
本実施形態に係る電極スラリー塗布装置80によれば、図4に示すように、集電体210との境界部分においてバインダ204の割合が高くなる。このため、電極スラリー塗布装置80(図4参照)を用いることによって、集電体シート311c、313cから電極材料311d、313dが剥がれ難いリチウムイオン二次電池300(図9及び図10参照)を提供することができる。
【0052】
また、かかるリチウムイオン二次電池300では、集電体シート311c、313cに塗工された電極材料311d、313dの成分によって、電池性能が変わる。このため、所望の電池性能を得るには、電極材料311d、313dの成分を適切に調整することが必要である。本実施形態に係る電極スラリー塗工装置100は、ダイ10によって、集電体シート311c、313cと、電極材料311d、313dとの境界部分にバインダの割合が高くなるものの、乾燥工程においてバインダ204や電極活物質202の偏りは緩和される。また、本実施形態では、ダイ10(図4参照)に供給される電極スラリー200は、同じ成分比率で集電体シート311c、313cに供給される。このため、ダイ10に供給される電極スラリー200の成分を予め適当に調整しておくことによって、適当に成分調整された電極材料311d、313dを集電体シート311c、313cに塗工することができる。
【0053】
このように、本実施形態に係るダイ10は、図4に示すように、吐出口23に連通した流路20に、成分調整部材18が配置されている。成分調整部材18は、吐出口23から吐出される電極スラリー200について、吐出口23の片側においてバインダ204の割合を高くする。このため、かかるダイ10を用いて、集電体210に電極スラリー200を塗布することによって、集電体210と電極スラリー200との境界部分において、バインダ204の割合を高くすることができる。これにより、集電体シート311c、313cから電極材料311d、313dが剥がれ難いリチウムイオン二次電池300(図9及び図10参照)を提供することができる。
【0054】
成分調整部材18は、ダイ10の流路20を横断するように配置され、電極スラリー200の各成分を通過させる穴18a、18bが複数形成された部材で実現できる。この場合、成分調整部材18の片側に偏って設けられた一の領域A1に形成された穴18aの平均面積は、他の領域A2に形成された穴18bの平均面積よりも小さくするとよい。
【0055】
また、本実施形態では、成分調整部材18は板状の部材であり、穴が小さい一の領域A1が他の領域A2よりも吐出口23に近くなるように流路20に対して斜めに配置されている。これにより、穴が小さい一の領域A1の近くで、電極スラリー200が溜まるのを緩和できる。
【0056】
また、本実施形態では、ダイ10は、図2及び図4に示すように、成分調整部材18はマニホールド21を横断するように配置されている。成分調整部材18には、電極スラリー200の通過に伴う圧力が生じるが、マニホールド21は、ダイ10に形成された流路20のうち他の部分に比べて大きな空洞であるから、成分調整部材18に作用する圧力を緩和できる。このため、電極スラリー200が成分調整部材18をスムーズに通過することができる。
【0057】
以上、本実施形態に係るダイ10(図2参照)及びダイ10を備えた電極スラリー塗布装置80(図4参照)を説明した。なお、ダイ10の構造及び電極スラリー塗布装置80の構造は、適宜変更することができる。
【0058】
例えば、成分調整部材18に形成されている複数の穴18a、18bの平均的な大きさは、電極スラリー200の電極活物質202の平均粒径の1〜20倍の範囲内で定めてもよい。例えば、バインダリッチ層形成領域A1(小さい穴18aが形成される領域A1)に形成されている穴18aの平均面積は、電極スラリー200の電極活物質202の平均粒径の1〜5倍の範囲で定め、バインダプア層形成領域A2(大きい穴18bが形成される領域A2)に形成されている穴18bの平均面積は、電極スラリー200の電極活物質202の平均粒径の6〜20倍の範囲で定めるとよい。ここで、平均粒径は、公知の適当な方法で規定される。
【0059】
また、バインダリッチ層形成領域A1に形成されている穴18aの平均面積xと、バインダプア層形成領域A2に形成されている穴18bの平均面積yとが、例えば、1.01x≦y≦20xになるように、穴18a、18bを構成してもよい。この場合、バインダリッチ層形成領域A1の穴18aは、バインダプア層形成領域A2の穴18bよりも適切な割合で小さくなっているので、バインダプア層形成領域A2に電極活物質202を誘導できるとともに、バインダリッチ層形成領域A1にバインダ204を誘導することができる。より好ましくは、バインダリッチ層形成領域A1に形成された穴18aの平均面積xと、バインダプア層形成領域A2に形成された穴18bの平均面積yとは、1.1x≦y≦4xになるように、穴18a、18bを構成してもよい。これにより、より適切にバインダリッチ層形成領域A1にバインダ204を誘導することができる。
【0060】
また、成分調整部材18は、バインダリッチ層形成領域A1の面積pと、バインダプア層形成領域A2の面積qとを調整してもよい。例えば、成分調整部材18におけるバインダリッチ層形成領域A1の面積pと、バインダプア層形成領域A2の面積qとは、1.01q≦p≦20qでもよい。この場合、バインダリッチ層形成領域A1の面積pが、バインダプア層形成領域A2の面積qよりも適切な割合で大きくなっているので、電極活物質202及びバインダ204を適切に誘導することができる。より好ましくは、バインダリッチ層形成領域A1の面積pとバインダプア層形成領域A2の面積qとは、1.1q≦p≦4qにしてもよい。これにより、より適切にバインダリッチ層形成領域A1にバインダ204を誘導することができる。また、この場合、バインダリッチ層形成領域A1の面積pが、バインダプア層形成領域A2の面積qよりも適切な割合で大きくなっているので、電極スラリーが通過する際に作用する抵抗を緩和できる。
【0061】
さらに、バインダリッチ層形成領域A1の穴18aの平均面積xと、バインダプア層形成領域A2の穴18bの平均面積yとの比(x/y)は、バインダプア層形成領域A2の面積qとバインダリッチ層形成領域A1の面積pとの比(q/p)とは、反比例してもよい。例えば、穴18aの平均面積xと、穴18bの平均面積yと、バインダリッチ層形成領域A1の面積pと、バインダプア層形成領域A2の面積qとの関係が、0.5≦(x/y)×(q/p)≦2の範囲内の関係であるとよい。さらに、より好ましくは、上述の反比例の関係である(x/y)×(q/p)=1であるとよい。これにより、バインダ204が誘導されるバインダリッチ層形成領域A1と、電極活物質202が誘導されるバインダプア層形成領域A2とにおいて、電極スラリーが通過する際に作用する抵抗を同程度に緩和でき、成分調整部材18に生じる応力集中を緩和できる。
【0062】
以上、本発明の一実施形態に係るダイ10を説明した。しかし、本発明のダイ10は、上述の実施形態に限定されず、種々の変更が可能である。
【0063】
例えば、図2に示すように、ダイ10にマニホールド21が形成されており、成分調整部材18がマニホールド21に配置された形態を例示したが、かかる形態に限定されない。例えば、成分調整部材18は、例えば、図12に示すように、ダイ10に形成された流路20に配置されていればよく、マニホールド21に配置されていなくてもよい。
【0064】
また、上述の実施形態では、図2に示すように、成分調整部材18は、複数の穴18a、18bが形成された板状部材が例示されているが、成分調整部材18は、図13に示すように、メッシュ状のフィルターで構成してもよい。この場合、例えば、図13に示すように、バインダリッチ層形成領域A1に目の細かいフィルター18a1を配置し、バインダプア層形成領域A2に目の粗いフィルター18b1を配置するとよい。
【0065】
また、上述の実施形態に係るダイ10は、第1ブロック12と、第2ブロック14と、シム16と、成分調整部材18とから組み立てられている。しかし、ダイ10の構造は、このような形態に限定されない。
【0066】
また、上述した電極スラリー塗布装置80は、本発明に係る電極スラリーの塗布方法を具現化する一形態である。電極スラリーの塗布方法は、バインダを含む電極スラリーを箔状の集電体の表面に塗布する方法において、上述したダイを用い、集電体と電極スラリーとの境界部分において、バインダの割合が高くなるように電極スラリーを塗布する工程を含んでいるとよい。これにより、図4に示すように、集電体210と電極スラリー200との境界部分において、バインダ204の割合を高くでき、集電体シート311c、313cから電極材料311d、313dが剥がれ難いリチウムイオン二次電池300(図9及び図10参照)を提供することができる。
【0067】
リチウムイオン二次電池300は、集電体シート311c、313cから電極材料311d、313dが剥がれ難いので、充放電が繰り返され、その耐久性に対する要求が高い車両用の二次電池として好適である。かかるリチウムイオン二次電池300は、複数個が組み合わされて組電池1000を構成し、図14に示すように、車両2000の電源として搭載される。本発明はかかる車両用の電池の性能の安定性や、長寿命化に寄与する。かかる車両2000について、具体的に一例を挙げれば、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車の電源(二次電池)として適用できる。
【0068】
また、本発明に係るダイは、リチウムイオン二次電池に限らず、バインダを含む電極スラリーを塗布する種々の用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
10 ダイ
12 第1ブロック
12e、14e マニホールドを形成する窪み
12f、14f 取付部(溝)
12g、14g 吐出口の縁
14 第2ブロック
16 シム
18 成分調整部材
18a 穴
18b 穴
18a1 目の細かいフィルター
18b1 目の粗いフィルター
20 空隙(流路)
21 マニホールド(流路)
22 供給路(流路)
23 吐出口
24 供給口
40 搬送装置
42 供給ロール
44 巻取ロール
46 ガイドローラ
46a バックロール
60 電極スラリー供給装置
62 タンク
64 ポンプ
66 配管
80 電極スラリー塗布装置
90 乾燥装置
92 乾燥炉
92a 予備乾燥部分
92b 本乾燥部分
100 電極スラリー塗工装置
200 電極スラリー
200a バインダリッチ層形成領域A1を通過した電極スラリー
200b バインダプア層形成領域A2を通過した電極スラリー
202 電極活物質
204 バインダ
210 集電体
300 リチウムイオン二次電池
300a 電池ケース
301 正極端子
303 負極端子
310 捲回電極体
311 正極シート(電極シート)
311a 塗工部
311b 未塗工部
311b1 正極集電部
311c 集電体シート(集電体)
311d 電極材料
312 セパレータ
313 負極シート(電極シート)
313a 塗工部
313b 未塗工部
313b1 負極集電部
313c 集電体シート
313d 電極材料
314 セパレータ
700 金属箔
710 テーブルコーター
1000 組電池
2000 車両
A1 バインダリッチ層形成領域
A2 バインダプア層形成領域
d1 搬送方向
L 境界
p バインダリッチ層形成領域A1の面積
q バインダプア層形成領域A2の面積
x バインダリッチ層形成領域A1に形成された穴18aの平均面積
y バインダプア層形成領域A2に形成された穴18bの平均面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダを含む電極スラリーを吐出するダイであって、
吐出口と、
前記吐出口に連通した流路と、
前記ダイの流路に配置され、前記吐出口から吐出される前記電極スラリーについて、吐出口の片側においてバインダの割合を高くする成分調整部材と、
を備えた、ダイ。
【請求項2】
前記成分調整部材は、前記流路を横断するように配置され、前記電極スラリーの各成分を通過させる複数の穴が形成された部材である、請求項1に記載されたダイ。
【請求項3】
前記成分調整部材の片側に偏って設けられた一の領域に形成された穴の平均面積は、他の領域に形成された穴の平均面積よりも小さい、請求項2に記載されたダイ。
【請求項4】
前記成分調整部材は板状の部材であり、前記一の領域が前記他の領域よりも前記吐出口に近くなるように、前記流路に対して斜めに配置された、請求項3に記載されたダイ。
【請求項5】
前記一の領域に形成された穴の平均面積xと、前記他の領域に形成された穴の平均面積yとが、1.01x≦y≦20xである、請求項3に記載されたダイ。
【請求項6】
前記成分調整部材における前記一の領域の面積pと、前記他の領域の面積qとが、1.01q≦p≦20qである、請求項3に記載されたダイ。
【請求項7】
前記一の領域に形成された穴の平均面積xと、前記他の領域に形成された穴の平均面積yと、前記成分調整部材における前記一の領域の面積pと、前記他の領域の面積qとの関係が、0.5≦(x/y)×(q/p)≦2である、請求項3に記載されたダイ。
【請求項8】
前記流路にマニホールドが形成されており、
前記成分調整部材は前記マニホールドを横断するように配置されている、請求項1から7までの何れか一項に記載されたダイ。
【請求項9】
集電体を搬送する搬送装置と、
前記搬送装置によって搬送される前記集電体に対して前記吐出口を向けて配置された、請求項1から8までの何れか一項に記載されたダイと、
を備え、
前記バインダの割合が高くなる前記吐出口の片側から吐出される電極スラリーが、集電体に直接付着するようにダイが配置されている、電極スラリー塗布装置。
【請求項10】
バインダを含む電極スラリーを箔状の集電体の表面に塗布する電極スラリーの塗布方法であって、請求項1から8までの何れか一項に記載されたダイを用い、前記集電体と電極スラリーとの境界部分において、前記バインダの割合が高くなるように電極スラリーを塗布する工程を含む、電極スラリーの塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−124093(P2011−124093A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280801(P2009−280801)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】