説明

ダイキャストステアリングハンガービーム

【課題】電気部品のアース性能を高めることができるダイキャストステアリングハンガービームを提供する。
【解決手段】マグネシウム合金製のダイキャストステアリングハンガービームにおいて、アース設置部位83に、周囲の部位に対して膨出する肉厚部81を設け、肉厚部81の表面に地肌を露出させた削り面86を形成し、削り面86にハーネス77のマイナス側の第1アース端子79を接続したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイキャストステアリングハンガービームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両のインストルメントパネル内にダイキャストにより成形された構造部材であるリーンフォース部材が設けられたものがある。このようなリーンフォース部材には電気部品を取り付けるために、壁部を取り囲むようにして形成された収納部を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−335528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、収納部に電気部品を取り付ける場合には、電気部品のハーネスのマイナス側をアースすることが行われる。ところが、このようなアースを行う場合に、ダイキャストにより成形されたリーンフォース部材の表面は、鋳肌面で粗いため、通常の金属パネルの平面にアースする場合に比較して、アース性能が低下してしまうという問題がある。
【0004】
そこで、この発明は、電気部品のアース性能を高めることができるダイキャストステアリングハンガービームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、軽合金製のダイキャストステアリングハンガービーム(例えば、実施形態におけるダイキャストステアリングハンガービーム1)において、アース設置部位(例えば、実施形態におけるアース設置部位83)に、周囲の部位に対して膨出する肉厚部(例えば、実施形態における肉厚部81)を設け、該肉厚部の表面に地肌を露出させた削り面(例えば、実施形態における削り面86)を形成し、該削り面にハーネス(例えば、実施形態におけるハーネス77)のアース端子(例えば、実施形態における第1アース端子79,第2アース端子78)を接続したことを特徴とする。
このように構成することで、アース端子をダイキャストの地肌が露出した削り面に確実に当接することができる。また、アース設置部位を周囲に対して膨出する肉厚部とすることで、この肉厚部を削って削り面を形成してもダイキャストステアリングハンガービームの厚さを確保することができる。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載した発明によれば、アース端子をダイキャストの地肌が露出した削り面に確実に当接することができるため、鋳肌に当接した場合に比較して接地面積を確保できアース性能を高めることができる効果がある。
また、アース設置部位を周囲に対して膨出する肉厚部とすることで、この肉厚部を削って削り面を形成してもダイキャストステアリングハンガービームの厚さを確保することができるため、ダイキャストステアリングハンガービームの強度剛性を確保できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すのは、この発明の実施形態のダイキャストステアリングハンガービーム1であって、このダイキャストステアリングハンガービーム1は図1に向かって左側に運転席が、右側に助手席が配置されるいわゆる左ハンドル用である。ダイキャストステアリングハンガービーム1はマグネシウム合金を原材料としてダイキャスト成形により一体成形され後述するインストルメントパネル2により覆われている。
【0008】
ダイキャストステアリングハンガービーム1は車幅方向に沿って延在して実質的に水平方向に延びる主メンバ3を備えている。主メンバ3の運転席側の端部に左フロントピラーPの内壁に取り付けられる左取付部4が車幅方向に向くように設けられ、助手席側の端部には右フロントピラーPの内壁に取り付けられる右取付部5が車幅方向に向くように設けられている。左取付部4と右取付部5には上端部1箇所と下端部2箇所に左右のフロントピラーPにボルトにより固定する車体取付孔6…が形成されている。
主メンバ3は断面略コの字状に形成され、左取付部4から車幅方向略中央部に向かって延び、助手席側に設けた前後一対の横梁部10、20を介し右側端部7を経て右取付部5に接続される。
【0009】
図1、図2に示すように、主メンバ3の左側部30の後壁31には運転席の車幅方向中央部に後方に向かって延びるU字状のステアリング支持部32が一体形成されている。ステアリング支持部32は上面33が主メンバ3の面34に整合し斜め後方に向かって下がるように形成され、突出した左取付部35と右取付部36の先端部分には各々ボルト37が挿入され、各ボルト37によりステアリング装置38が固定されている。
ダイキャストステアリングハンガービーム1にはこれを覆うようにインストルメントパネル2が設けられている。インストルメントパネル2にはステアリング装置38の前方部位にフロントウインドウガラス40の下部付近からスピードメータ等、運転中の利用頻度が高い情報を表示する第1表示部41等が内装された第1フード部42、タコメータ等、必要なときに見たい情報を表示する第2表示部43が内装された第2フード部44が形成されている。
【0010】
主メンバ3の右側端部7は右取付部5に一体形成され、主メンバ3の軸線Jから前後にオフセットした前後一対の横梁部10,20、つまり前側横梁部10と後側横梁部20に車幅方向に連続して設けられている。具体的には、主メンバ3の右側端部7の左端は右前側傾斜部11と右後側傾斜部21を介して各々前側横梁部10と後側横梁部20の右端部に略Y字状に連続して接続される。尚、右前側傾斜部11と右後側傾斜部21は車体前後方向に対して主メンバ3から斜め内側に傾斜している。
前側横梁部10と後側横梁部20は助手席の幅の範囲内で左側に延び、前側横梁部10の左端部は主メンバ3に中央前側傾斜部12を介して接続され、後側横梁部20の左端部は中央後側傾斜部22を介して主メンバ3に接続されている。したがって、前側横梁部10と後側横梁部20は各々の左端部で主メンバ3に対して略Y字状に連続して接続される。尚、中央前側傾斜部12と中央後側傾斜部22は車体前後方向に対して主メンバ3から斜め外側に傾斜している。
【0011】
ここで、後側横梁部20の左端部には中央横梁部50が接続されている。この中央横梁部50は主メンバ3の軸線Jと平行で主メンバ3の後側、後側横梁部20よりも後側に設けたもので、中央横梁部50の右端部に中央後側傾斜部22と対をなす後側傾斜部23を介して後側横梁部20の左端部が連結されている。したがって、後側横梁部20の左端部は主メンバ3と中央横梁部50の右端部に略Y字状に連続して接続される。
これにより、前側横梁部10と後側横梁部20の間には、右前側傾斜部11と右後側傾斜部21、中央前側傾斜部12と中央後側傾斜部22とで囲まれ、上下方向に貫通したエアバッグ用開口部13が形成され、後側横梁部20の前壁にエアバッグ取付ブラケット46が固定されている。
【0012】
中央横梁部50は車幅方向中央部に配置され左端部は主メンバ3の後壁31から後側に延びるサポートアーム部51の先端部に接続されている。サポートアーム部51の先端部とステアリング支持部32の右取付部36の先端部との間には連結アーム部52が接続されている。これらステアリング支持部32と連結アーム部52とサポートアーム部51と主メンバ3とで囲まれる部分にシフトレバー用開口部70が形成されている。
そして、連結アーム部52とサポートアーム部51と中央横梁部50との接続部53には、下方に延び、後述するポストブラケット65を介して図示しないフロアパネルに下端部が固定される左支持ポスト部54の上端部が連結されている。また、この左支持ポスト部54と対をなす右支持ポスト部55の上端部が中央横梁部50の右端部よりもやや内側寄りに連結され、右支持ポスト部55の下端部が下方に延び後述するポストブラケット65を介して図示しないフロアパネルに固定される。右支持ポスト部55と左支持ポスト部54との間には水平方向で両者を連結する連結部56が上下方向中央部に設けられている。これら右支持ポスト部55と左支持ポスト部54とが図示しないセンターコンソールにデザイン的に連続する。
【0013】
したがって、主メンバ3と中央横梁部50とサポートアーム部51と中央後側傾斜部22と後側傾斜部23とで囲まれた部分に空調装置のダクト配置用開口部71が形成され、ダクト配置用開口部71の下方には右支持ポスト部55と左支持ポスト部54との間にフロントグリル用開口部72が形成されている。
【0014】
図1において、主メンバ3の左取付部4の下端部には鉄製の電気部品の支持ブラケット60が取り付けられている。主メンバ3の右取付部5の下端部にはグローブボックスの支持及び助手席乗員の脚を保護する助手席右側ニーボルスターを兼用する鉄製のブラケット61が取り付けられ、中央横梁部50の右端部の後壁には鉄製の助手席左側ニーボルスター62が取り付けられている。
主メンバ3のサポートアーム部51を挟んで主メンバ3の後壁31には下側に弧状に延びる鉄製の運転席左側ニーボルスター63、運転席右側ニーボルスター64が取り付けられている。右支持ポスト部55と左支持ポスト部54の下端には両者を結び鉄製のポストブラケット65が取り付けられ、これらポストブラケット65がフロアパネルに固定されている。
【0015】
主メンバ3の前壁45には、ステアリング支持部32の右取付部36の前方位置には鉄製のダッシュボードブラケット66が固定されている。このダッシュボードブラケット66は車両前面及び側面衝突時の衝撃荷重を塑性変形して吸収する機能を備えている。尚、主メンバ3の前壁45にはダッシュボードブラケット66の右側にインストルメントパネル取付用の鉄製の固定ブラケット67が取り付けられている。
このように、前述したエアバッグ取付ブラケット46、支持ブラケット60、ブラケット61、助手席左側ニーボルスター62、運転席左側ニーボルスター63、運転席右側ニーボルスター64、ポストブラケット65、ダッシュボードブラケット66及び固定ブラケット67を鉄製の部材で成形して取り付けることでダイキャストステアリングハンガービーム1の形状を簡素化している。尚、図1において鉄製の部材はハッチングで示す。
【0016】
ここで、図3〜図5に示すように、右取付部5の車体取付孔6の近傍には複数のハーネス77…のマイナス側の第1アース端子79と第2アース端子78,78,78がボルト80によりまとめて取り付けられている。
図3に示すように、右取付部5の上端部近傍の内側面には周囲の部位に対して表面が膨出する肉厚部81が前後方向に渡って形成されている。この肉厚部81の前方には更に立ち上がる突出部82が形成され、この突出部82に右フロントピラーPに取り付けるための車体取付孔6が形成されている。肉厚部81の後方はアース設置部位83として構成され、ここにボルト80の締付孔84と第1アース端子79の係止孔85が形成されている。
【0017】
図4に示すように、肉厚部81の厚さ寸法Dは周囲の部位の厚さ寸法dに対して大きな寸法形成されている。また、肉厚部81の外面側では締付孔84のボス部87が右取付部5の外側に突出して締付代を確保している。肉厚部81の内表面、具体的にはボルト80の締付孔84の周囲と、第1アース端子79の係止孔85に至る部位には、切削により表面の鋳肌が削り取られて露出し平坦に形成された削り面86が設けられている。この削り面86に第1アース端子79、第2アース端子78,78,78が重ねられた状態で接続される。削り面86の削り代を確保するために、肉厚部81の厚さ寸法Dが周囲の部位の厚さ寸法dより大きくなっている。尚、この削り面86は第1アース端子79、第2アース端子78を接続する直前までテープが貼付されて保護されている。
【0018】
図5に示すように、削り面86に当接する第1アース端子79は、円形状の接地部88の一側にかしめ部89を備えた周知の部材であって、接地部88の中央にはボルト80の挿通孔90が形成され、接地部88の周囲2箇所には巻き込むような形状で接地部88との間に挟持部を有する爪91,91が立ち上げ形成されている。また、接地部88のかしめ部89とは反対側に延出片92が外側に向かって形成され、延出片92の端部には削り面86の係止孔85に挿入されて係止するフック93が下向きに形成されている。尚、図5では3個の第2アース端子78の図示を省略してある。
【0019】
図6、図7に示すように、第1アース端子79に重ねられる第2アース端子78も、第1アース端子79とほぼ同様に、円形状の接地部88’の一側にかしめ部89’を備え、接地部88’の中央にはボルト80の挿通孔90’が形成され、接地部88’の周囲には2箇所に爪91’,91’が立ち上げ形成されているが、接地部88’のかしめ部89’と反対側には第1アース端子79の延出片92(図6、図7鎖線参照)とは異なり短くカットされた突起94が形成されている。
【0020】
ここで、図5〜図8に示すように、第1アース端子79には爪91に係止縁97と凹部98が連設され、第2アース端子78,78,78には爪91’に係止縁97’と凹部98’が連設されている。
したがって、第1アース端子79を削り面86に当接させた状態で、第1アース端子79の爪91に第2アース端子78の凹部98’を合わせて第2アース端子78を重ね合わせ、次に第2アース端子78を回動して第2アース端子78の係止縁97’を第1アース端子79の爪91に係止させ、同様にしてこの第2アース端子78の上に2個の第2アース端子78,78を重ね合わせれて係止すれば、図8に示すように、最下部の第1アース端子79に対し複数(ここでは3個)の第2アース端子78を周方向に順次づらして重ね合わせて接続することができる。
【0021】
そして、図8に示す状態で、各挿通孔90,90’,90’,90’に挿入したボルト80を削り面86の締付孔84に締め付ければ、第1アース端子79、第2アース端子78,78,78の締め付けを行うことができる。
この場合、第1アース端子79は延出片92のフック93が係止孔85に係止しているため、ボルト80のねじ込みの際に供回りすることはなく、また第1アース端子79に重ね合わされた第2アース端子78…は互いに爪91,91’,91’,91’により回り止めされているため、何れも回り止めされてボルト80のねじ込みの際に供回りすることはない。
【0022】
上記実施形態によれば、マグネシウム合金製のダイキャストステアリングハンガービーム1に設ける電気部品のアース設置部位83に、周囲の部位に対して膨出する肉厚部81を設け、肉厚部81の表面にマグネシウム合金の地肌を露出させた平坦な削り面86を形成し、削り面86に電気部品のハーネス77のマイナス側の第1アース端子79を当接させ、その上に第2アース端子78,78,78を重ね合わせて接続したことにより、第1アース端子79、第2アース端子78を鋳肌に当接した場合に比較して接地面積を確保できアース性能を高めることができる。
また、アース設置部位83を周囲に対して膨出した肉厚部81としたため、これを削って削り面86を形成してもダイキャストステアリングハンガービーム1の厚さを確保することができるため、ダイキャストステアリングハンガービーム1の強度剛性を確保できる。
【0023】
とりわけ、この実施形態では右フロントピラーPに取り付けるための右取付部5の突出部82が形成された肉厚部81にアース設置部位83を設定してあるため、突出部82の容積が大きい分だけアース性能を高めることができる。
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、右取付部5のアース設置部位83を例にして説明したが、主メンバ3、左取付部4、左支持ポスト部54にアース設置部位を設定した場合にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図1の要部拡大図である。
【図4】図3のB−B線に沿う断面図である。
【図5】図3を前側から見た第1アース端子の取付状態を示す斜視図である。
【図6】第2アース端子の平面図である。
【図7】図6の正面図である。
【図8】第1アース端子に3個の第2アース端子を重ね合わせた平面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ダイキャストステアリングハンガービーム
77 ハーネス
78 第2アース端子(アース端子)
79 第1アース端子(アース端子)
81 肉厚部
83 アース設置部位
86 削り面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽合金製のダイキャストステアリングハンガービームにおいて、アース設置部位に、周囲の部位に対して膨出する肉厚部を設け、該肉厚部の表面に地肌を露出させた削り面を形成し、該削り面にハーネスのアース端子を接続したことを特徴とするダイキャストステアリングハンガービーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−90853(P2009−90853A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264463(P2007−264463)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】