説明

ダイボンディング用ペレットと電子部品

【課題】電子部品の半導体素子と基板をダイボンディング接合するときに、従来の鉛フリーはんだのペレットを用いると、接合面に大量のボイドが発生し、放熱効果を悪くするばかりでなく、接合強度を弱くしていた。本発明は、鉛フリーはんだのペレットであるにもかかわらず、ボイドの発生が少ないペレットである。
【解決手段】Sn主成分の鉛フリーはんだ合金の表面に無色透明のSn-30〜50at%O−5〜15at%PやSn-10〜30at%In-40〜60at%O−5〜15at%Pからなる保護膜をはんだ付け加熱時に形成するペレットであり、厚さが0.05〜1mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の半導体素子と基板とを接合するダイボンディング用のはんだペレットおよび半導体素子と基板とをはんだで接合した電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
BGA、CSP等の高機能電子部品は、半導体素子と基板とが接合材料でダイボンディング接合されている。ダイボンディング接合とは、シリコンウエハーをカットして得られた半導体素子を電子部品の基板に固定する工程をいう。半導体素子と基板をダイボンディングするのは、電子機器を使用したときに半導体素子から発熱して半導体自身が熱影響で機能劣化や熱損傷することがあるため、半導体素子と基板を接合して基板から半導体素子から出る熱を基板で放熱する。またダイボンディング接合は、半導体素子からアースをとるためでもある。このダイボンディング用接合用として一般に用いられる材料は、接着性樹脂やはんだである。半導体素子からの放熱だけを目的とするのであれば接着性樹脂でもよいが、放熱とアースを目的とする場合は熱伝導性が良好で、しかも電気伝導性の良好なはんだを用いる。
【0003】
放熱を目的とするダイボンディング接合では、半導体素子と基板とが完全に接合していることが理想であり、接合面に空隙(ボイド)があってはならないとされている。例えば接着性樹脂で接合したときに、接着性樹脂中に小さな気泡でもあると、該気泡が押しつぶされて大きなボイドとなってしまう。そのため接着性樹脂では、接着性樹脂中の気泡を抜くために、接着性樹脂を真空中で攪拌して、内部の気泡を抜く脱泡処理を行っている。一方、はんだを用いた接合でボイドが発生するのは、はんだ付け時に使用するフラックスが気化し、それがはんだ付け部に残っているとボイドとなり、またはんだの濡れ性が悪いと、はんだ付け時に溶融したはんだの濡れない部分ができて、それがボイドとなる。
【0004】
一般に、はんだ付けにはフラックスを用いるが、フラックスを用いるとフラックス残渣が残り、該フラックス残渣が吸湿して腐食生成物を発生させたり絶縁抵抗を下げたりする原因となることから、高信頼性が要求される電子機器にはフラックスを用いないはんだ付け、即ちフラックスレスではんだ付けが行われている。フラックスレスのはんだ付けとは、はんだをはんだ付け部に置いてから、それらを水素と窒素の混合ガス雰囲気中で加熱するものである。フラックスレスではんだ付けを行うと、フラックスの気化によるボイドの発生は問題なくなるが、はんだの濡れ性が大きく影響してくる。つまり、はんだ付けではフラックスがはんだ付け部の酸化物を還元除去するとともに、溶融したはんだの表面張力を下げるため、はんだは良好に濡れ広がるようになる。しかしながら、ダイボンディング接合時、フラックスレスで接合を行うと、混合ガス雰囲気は、フラックスのような強い活性が得られない。従って、ダイボンディング接合を行う場合、ここに用いるはんだは、はんだ自体で優れた濡れ性を有していなければならない。
【0005】
本出願人は、ダイボンディング用ペレットなどのフォームソルダ−について、フォームソルダ同士が付着しないように、常温で固体の物質を表面に均一塗布されているフォームソルダを開示している(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−29478
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、ダイボンディング接合用に用いられていたはんだは、Sn-Pb系はんだであった。ところがSn-Pb系はんだは、鉛公害の問題からその使用が規制されるようになってきており、今日では鉛を含まない所謂「鉛フリーはんだ」が使用されるようになってきた。この鉛フリーはんだとは、Sn或いはSn主成分にAg、Cu、Sb、Bi、In、Ni、Cr、Mo、Ge、Ga、P等の第三元素を適宜添加したものである。Sn-Pb系はんだでは、濡れ性に優れていることから、フラックスレスでダイボンディング接合を行っても、ボイドの発生は少なかった。しかしながら鉛フリーはんだはSn-Pb系はんだに較べて濡れ性が劣るためフラックスレスでのダイボンディング接合ではボイドが多く発生していた。このようにダイボンディング接合で、大量のボイドが発生すると、熱放出が悪くなるばかりでなく、接合強度も弱くなって、製品使用時の電気的な発熱により基板全体が膨張収縮を繰り返し、繰り返し熱疲労により接合部にクラックが発生して半導体素子からの熱放出を阻害し、デバイスの機能を低下させる。本発明は、濡れ性に劣る鉛フリーはんだを用いているにもかかわらず、ダイボンディング接合においてボイドの発生が極めて少ないというダイボンディング接合用はんだペレットおよびボイドの少ない電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、Sn主成分の鉛フリーはんだの表面にSnとOとPからなる無色透明の保護皮膜やSnとInとOとPからなる無色透明の保護皮膜を形成することで、はんだ加熱時に、はんだ表面に強固な黄色から褐色にみえるSnO2やIn2O3の酸化皮膜が形成されることを防止し、更に、加熱により保護膜が容易に粉砕され、溶融はんだ本来の流動性、反応性が向上することを突き止め、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、電子部品の半導体素子と基板を接合するダイボンディング用はんだペレットにおいて、該ペレットはSn主成分の鉛フリーはんだ合金の表面に無色透明の30〜50原子%O(酸素)、5〜15原子%Pおよび残部実質Snからなる保護膜または、10〜30原子%In、40〜60原子%O(酸素)、5〜15原子%Pおよび残部実質Snからなる保護膜をはんだ付け加熱時に形成するペレットであり、保護膜の厚みは好ましくは0.5〜20nm、より好ましくは1〜5nmが適している。さらに、電子部品の半導体素子と基板を接合するダイボンディング用はんだペレットにおいて、Sn主成分の鉛フリーはんだ合金の表面に無色透明の厚さ0.5〜20nmで、30〜50原子%O(酸素)、5〜15原子%Pおよび残部実質Snからなる保護膜をはんだ付け時の加熱で形成するダイボンディング用はんだペレットである。
【0009】
また別の発明は、電子部品の半導体素子と基板を接合するダイボンディング用はんだペレット使用、該ペレットはSn主成分の鉛フリーはんだ合金の表面に無色透明の30〜50原子%O(酸素)、5〜15原子%Pおよび残部実質Snからなる保護膜または、10〜30原子%In、40〜60原子%O(酸素)、5〜15原子%Pおよび残部実質Snからなる保護膜をはんだ付け加熱時に形成するペレットで、半導体素子と基板をダイボンディング接合してあり、しかも該接合面におけるボイド率が10%以下であることを特徴とする電子部品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダイボンディング接合用はんだペレットは、鉛フリーはんだを用いているため、電子機器が故障して屋外や地中に廃棄処分されても、酸性雨で鉛が溶け出すことがなく、従って環境汚染を引き起こすことがない。また本発明のはんだペレットは、本来、濡れ性に劣る鉛フリーはんだを用いているにもかかわらず、濡れ性に優れているため、ボイドの発生が少ない。そして本発明の電子部品は、半導体素子と基板間にボイドが少ないため、充分な接合強度が得られるという信頼性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いる鉛フリーはんだは、Sn100%または、Sn主成分の合金である。Snは単体で鉛フリーはんだとして使用することもあり、またSnに第三元素を添加して使用することもある。本発明に使用して好適な鉛フリーはんだは、Sn系合金、Sn-Cu系合金、Sn-Ag系合金、Sn-Ag-Cu系合金、Sn-Bi系合金、Sn-In系合金のいずれかである。ここで「系」とは、主要成分に前述第三元素を適宜添加したものである。例えばSn-Ag系とは、Sn-Agそのものの他、該合金に第三元素を適宜添加したものも含む。
【0012】
本発明のダイボンディング用はんだペレットに使用する鉛フリーはんだには無色透明の30〜50原子%O(酸素)、5〜15原子%Pおよび残部実質Snからなる保護膜および、10〜30原子%In、40〜60原子%O(酸素)、5〜15原子%Pおよび残部実質Snからなる保護膜を形成するためには、予め、はんだ合金にPを0.0001〜0.02質量%添加する必要がある。Pの添加量が0.0001質量%よりも少ないと、これらの保護膜は形成が困難であり、黄色のSn02膜の形成を抑止することは困難であり、しかるに0.02質量%よりも多く添加するとはんだ自身の液相線温度が上昇し濡れ性が低下するとともに、はんだ組織内部にSn-Pの化合物が大きく晶出して、機械的特性が低下する。
【0013】
本発明のダイボンディング用はんだペレットは、厚さが0.05mmよりも薄いと、接合部である半導体素子と基板間に存在するはんだの量が少なすぎて接合強度が充分とならないばかりでなく、ボイドが発生しやすくなる。しかるにペレットの厚さが1mmを超えるとはんだの量が多くなりすぎて、接合後に余剰のはんだが半導体素子から多くはみ出てしまい、不要箇所にはんだが付着したり、その後のワイヤーボンディングの際にワイヤーに接触したりしてしまう。
【0014】
また本発明のダイボンディング用はんだペレットは、形状が接合する半導体素子と略同一となっている。はんだペレットが半導体素子よりも余りにも小さすぎるとはんだが半導体素子全域に行きわたらなくなり、更に、ボイドも増加するため接合強度が弱くなる。しかるにはんだペレットが半導体素子よりも大きすぎると素子からはみ出たはんだペレット上面に拘束力がなくなるため、表面張力にしたいがい、球状になり、素子下部のはんだ量が低下し、結果的に熱疲労による接合信頼性を低下させることとなるばかりでなく、素子からはみ出たはんだが不良箇所に付着して短絡事故を起こす原因となる。
【0015】
本発明の電子部品は、半導体素子と基板がPを1〜200ppm添加した合金でダイボンディング接合されたものであり、接合面におけるボイドの占める面積割合(ボイド率)が10%以下である。一般的に、半導体素子と基板の接合面におけるボイド率が多いと熱伝導性、接合強度を増加させるために、はんだ厚さの増加、基板の熱膨張の低減など、設計を大きく変更する必要があり、現代のファインピッチ実装に逆行することこととなる。接合強度も弱くなって、製品使用時の電気的な発熱により基板全体が膨張収縮を繰り返し、繰り返し熱疲労により接合部にクラックが発生して半導体素子からの熱放出を阻害し、デバイスの機能を低下させる。そのため本発明では、ボイド率を10%以下とした。
【実施例1】
【0016】
10×10×0.3(mm)の半導体素子を30×30×0.3(mm)の基板(ニッケルメッキした銅基板)にはんだペレットでダイボンディング接合を行った。使用した鉛フリーはんだは表1の通りで、Sn-Cu-Ni系はんだにPを添加したものである。はんだペレットの形状を10×10×0.1(mm)に成型して、該はんだペレットを半導体素子と基板間に挟み込み、酸素濃度が50ppmの水素窒素混合ガス雰囲気中で235℃以上に3分間、ピーク温度280℃、総リフロー時間15分間でリフローを行った。表面に発生した保護膜の厚みと金属組成をxpsで測定した。さらに、該ダイボンディング接合した部分を透過X線装置でボイドを観察し、ボイド率を計測した。
【実施例2】
【0017】
10×10×0.3(mm)の半導体素子を30×30×0.3(mm)の基板(ニッケルメッキした銅基板)にはんだペレットでダイボンディング接合を行った。使用した鉛フリーはんだは表1の通りで、Sn-Ag-Cu系はんだにPを添加したものである。はんだペレットの形状を10×10×0.1(mm)に成型して、該はんだペレットを半導体素子と基板間に挟み込み、酸素濃度が50ppmの水素窒素混合ガス雰囲気中で235℃以上に3分間、ピーク温度280℃、総リフロー時間15分間でリフローを行った。表面に発生した保護膜の厚みと金属組成をXPSで測定した。さらに、該ダイボンディング接合した部分を透過X線装置でボイドを観察し、ボイド率を計測した。
【実施例3】
【0018】
10×10×0.3(mm)の半導体素子を30×30×0.3(mm)の基板(ニッケルメッキした銅基板)にはんだペレットでダイボンディング接合を行った。使用した鉛フリーはんだは表1の通りで、Sn-In系はんだにPを添加したものである。はんだペレットの形状を10×10×0.1(mm)に成型して、該はんだペレットを半導体素子と基板間に挟み込み、酸素濃度が50ppmの水素窒素混合ガス雰囲気中で235℃以上に3分間、ピーク温度280℃、総リフロー時間15分間でリフローを行った。表面に発生した保護膜の厚みと金属組成をxpsで測定した。さらに、該ダイボンディング接合した部分を透過X線装置でボイドを観察し、ボイド率を計測した。
【0019】
実施例1〜3のはんだペレット組成、表面に発生した保護膜の厚みと金属組成およびボイド率の計測結果を表1〜3示す。
ここで、保護膜の厚みおよび金属組成はxpsにより、0.2nm単位でスパッタリングし、深さ方向の情報を収集し、またボイド率は、X線透過タイプの断面観察装置を用いて50倍で測定した。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
表1〜3から明らかなように、鉛フリーはんだにPを添加したはんだでダイボンディング接合した電子部品は、それと同一組成でPを添加していないはんだに較べてボイド率が40%以上も少なくなっていることが分かる。またPを添加したはんだでダイボンディング接合した場合は、ボイド率が10%以下であったが、Pを添加していないはんだでダイボンディング接合した場合は、ボイド率が10%を超えていた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明電子部品を製造する場合、ボイドを少なくする最適接合方法はペレットを用いて水素窒素混合ガス雰囲気中でダイボンディング接合を行うことであるが、水素窒素混合ガスは高価であることから他の接合方法を採用することも可能である。つまりコスト低減のために水素窒素混合ガスを用いないで大気中でダイボンディング接合する場合は、フラックスを用いなければならないが、本発明のダイボンディング用はんだペレットは、フラックスを用いても、ボイドを少なくすることができる。さらに本発明の電子部品は、ソルダペーストを用いて製造することもできる。ソルダペーストは、はんだ粉末とフラックスとを混合したものであり、別途フラックスを供給する手間がないため、合理的な接合が行える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu0.3〜1.0質量%、Ni0.01〜0.1質量%、P0.0001〜0.02質量%、残部Snからなるはんだ合金から成るダイボンディング用はんだペレット。
【請求項2】
Ag3.0〜4.0質量%、Cu0.3〜1.0質量%、Ni0.01〜0.1質量%、P0.0001〜0.02質量%、残部Snからなるはんだ合金から成るダイボンディング用ペレット。
【請求項3】
In0.2〜2.0質量%、P0.0001〜0.02質量%、残部Snからなるはんだ合金から成るダイボンディング用ペレット。
【請求項4】
半導体素子と基板がSn主成分の鉛フリーはんだ合金の表面に無色透明の30〜50原子%O(酸素)、5〜15原子%Pおよび残部Snからなる保護膜、または10〜30原子%In、40〜60原子%O(酸素)、5〜15原子%Pおよび残部実質Snからなる保護膜を有するダイボンディング用ペレットを用いてダイボンディング接合されており、しかも該接合面におけるボイド率が10%以下となっていることを特徴とする電子部品。

【公開番号】特開2011−249839(P2011−249839A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173895(P2011−173895)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【分割の表示】特願2006−514079(P2006−514079)の分割
【原出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000199197)千住金属工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】