説明

ダッシュアッパ構造

【課題】衝突物に加わる衝撃の吸収を損なうことなく、構造を簡単にしたダッシュアッパ構造を提供する。
【解決手段】ダッシュアッパ構造は、ウインドシールドロア22は、フロントガラス側から順に、フロントガラスの下端の内面を支持するガラス支持部131と、ガラス支持部の境界をなす第1緩衝ライン部132と、第1緩衝ライン部に連なる後退壁部133と、後退壁部の境界をなす第2緩衝ライン部134と、脆弱部(端147と兼ねる)と、第2緩衝ライン部に連なる付け根壁部135と、付け根壁部に連ねて形成され、ダッシュパネルの上部に接合される接合フランジ136と、を備えた。衝突物151で第1・第2緩衝ライン部132,134が折れ曲がる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントガラスの下端が支持される長尺なウインドシールドロアを備えたダッシュアッパ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のフロントガラスの下端を支持する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−104438公報(第8頁、図1)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図7は、従来の技術の基本構成を説明する図であり、従来のカウル構造221は、図下のダッシュパネル222にカウルインナ223及びカウルアウタ224が接続され、カウルアウタ224がフロントウインドガラス225を支持しているので、衝突体226がフロントウインドガラス225に衝突した際に、カウルアウタ224が変形し、カウルアウタ224の変形が大きいときは、さらにカウルインナ223が変形して、衝突体226へ及ぼす衝撃を吸収することができるというものである。
【0004】
しかし、特許文献1のカウル構造221では、カウルアウタ224にカウルインナ223を接合する必要があり、2枚をそれぞれ成形するのに手間がかかり、接合に要する時間が発生するという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、衝突物に加わる衝撃の吸収を損なうことなく、構造を簡単にしたダッシュアッパ構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、車両の乗員室の前壁をなすダッシュパネルの上部に接続され、フロントガラスの下端が支持される長尺なウインドシールドロアを備えたダッシュアッパ構造において、ウインドシールドロアは、フロントガラス側から順に、フロントガラスの下端の内面を支持するガラス支持部と、ガラス支持部の境界をなす第1緩衝ライン部と、第1緩衝ライン部に連なる後退壁部と、後退壁部の境界をなす第2緩衝ライン部と、第1緩衝ライン部の端と第2緩衝ライン部の端とを少なくともウインドシールドロアの一方の端に集合させて形成した脆弱部と、第2緩衝ライン部に連なる付け根壁部と、付け根壁部に連ねて形成され、ダッシュパネルの上部に接合される接合フランジと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明では、ウインドシールドロアは、フロントガラス側から順に、フロントガラスの下端の内面を支持するガラス支持部と、ガラス支持部の境界をなす第1緩衝ライン部と、第1緩衝ライン部に連なる後退壁部と、後退壁部の境界をなす第2緩衝ライン部と、第1緩衝ライン部の端と第2緩衝ライン部の端とを少なくともウインドシールドロアの一方の端に集合させて形成した脆弱部と、第2緩衝ライン部に連なる付け根壁部と、付け根壁部に連ねて形成され、ダッシュパネルの上部に接合される接合フランジと、を備えたので、例えば、衝突物がフロントガラスの下端に衝突すると、第1緩衝ライン部が折れ曲がり、ガラス支持部が後に後退し、衝突物に加わる衝撃を吸収して小さくすることができる。
衝撃力がより大きい場合には、第1緩衝ライン部と第2緩衝ライン部が折れ曲がるので、ガラス支持部及び後退壁部は後に後退し、衝突物に加わるより大きな衝撃を吸収して小さくすることができるという利点がある。
【0008】
また、ウインドシールドロアは、ガラス支持部と、第1緩衝ライン部と、後退壁部と、第2緩衝ライン部と、付け根壁部と、接合フランジと、を一体に連ねて得たものなので、分割したものに比べ、成形の手間や組合わせや接合を省くことができ、構造を簡単にすることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明のダッシュアッパ構造及びカウル構造の分解図である。
カウル構造11は、車両12に採用したもので、車両12の乗員室13の前壁をなすダッシュパネル14の上部に接続されるとともに、フロントガラス15の下端16に連なるカウル本体17を備える。21はダッシュパネル14の上部に接続されるダッシュアッパ、22はダッシュパネル14の上部に接続されるウインドシールドロア、23はフードである。
ダッシュアッパ構造は、ダッシュアッパ21とウインドシールドロア22とからなる。
【0010】
ダッシュアッパ21は、上端にカウル接続部26を備え、カウル接続部26は、ダッシュアッパ21の中央に取付けた中央ブラケット27と、一方の端28に形成した左端支持部31と、他方の端32に形成した右端支持部33と、を備える。35(図4参照)はカウル接続部26の縁に取付けられたシール材である。
【0011】
中央ブラケット27には、ガイド切込み37を形成し、ガイド切込み37の隣に中央孔38を形成した。
左端支持部31には、左孔41を開けた。
右端支持部33には、右孔42を開けた。
【0012】
カウル本体17は、本体45に連なる一方の縁に形成されたガラス当接部46と、本体45に連なる他方の縁に形成されたダッシュ接続部47と、ダッシュ接続部47の中央に形成されて中央ブラケット27に接続される中央取付け部51と、ダッシュ接続部47の一方の端に形成されて左端支持部31に接続される左下取付け部52と、ダッシュ接続部47の他方の端に形成されて右端支持部33に接続される右下取付け部53と、を備える。54は前シール端部54(図4も参照)である。
【0013】
中央取付け部51は、ガイドピン55(図に示していない)がイド切込み37に嵌合するように成形され、ガイドピン55の隣に孔56が真円に開けられ、孔56と中央ブラケット27の中央孔38にクリップ57を嵌めることで取付けられる。
【0014】
左下取付け部52は、長孔61が開けられ、長孔61と左端支持部31の左孔41にクリップ62を嵌めることで取付けられる。
右下取付け部53は、長孔63が開けられ、長孔63と右端支持部33の右孔42にクリップ64を嵌めることで取付けられる。
【0015】
また、カウル本体17は、ガラス当接部46の中央に形成されてフロントガラス15の下端16を押圧する中央くわえ爪66と、一方の端に形成されてフロントガラス15の下端16を押圧する左くわえ爪67と、他方の端に形成されてフロントガラス15の下端16を押圧する右くわえ爪68と、を備える。
【0016】
さらに、カウル本体17は、本体45の右に配置したワイパ用のワイパ開口部69を備えた蓋部材71と、蓋部材71で封じられる組付け開口72と、を備える。73は中央に開けた洗浄ノズル用の孔である。
【0017】
次に、ダッシュアッパ構造にカウル本体17を組付けた状態の断面図を用いて説明する。
図2は、本発明のダッシュアッパ構造にカウル本体を組付けた状態の断面で、図1の2−2線断面に相当する断面図である。
カウル本体17は、さらに、組付け開口72の縁で且つフロントガラス15側に形成されたラグ115を備える。
ラグ115は、フロントガラス15近傍の車体24、例えば、ウインドシールドロア22に取付けられるもので、カウル本体17のフロントガラス15側を保持する。
【0018】
図3は、本発明のダッシュアッパ構造にカウル本体を組付けた状態の断面で、図1の3−3線断面に相当する断面図である。
ガラス当接部46は、フロントガラス15の外面74に密着する部位である。76はフロントガラス15の内面である。
中央くわえ爪66は、ガラス当接部46の付け根からL字形に本体78が形成され、本体78に連ねて押圧部79が幅Wg(図1参照)で形成されたものである。
図1の左くわえ爪67及び右くわえ爪68は、中央くわえ爪66と同様である。
【0019】
図4は、本発明のダッシュアッパ構造にカウル本体を組付けた状態の断面で、図1の4−4線断面に相当する断面図である。図1を併用して説明する。
ガラス当接部46はまた、中央くわえ爪66、左くわえ爪67、右くわえ爪68間に爪の本体78に連ねてリブ部83が形成されている。
【0020】
フロントガラス15は、ウインドシールドロア22にフロントガラス15の下端16を接着剤127及びシール128で取付けられている。
【0021】
ウインドシールドロア22は、フロントガラス15側から順に、フロントガラス15の下端16が接着剤127及びシール128で取付けられるガラス支持部131と、ガラス支持部131の境界をなす第1緩衝ライン部132と、第1緩衝ライン部132に連なる後退壁部133と、後退壁部133の境界をなす第2緩衝ライン部134と、第2緩衝ライン部134に連なる付け根壁部135と、付け根壁部135に連ねて形成され、ダッシュパネル14の上部に接合される接合フランジ136と、を備える。また、第1緩衝ライン部132の端と第2緩衝ライン部134の端とをウインドシールドロア22の一方の端に集合させて形成した脆弱部147(図5参照)を備える。
【0022】
第1緩衝ライン部132は、例えば、乗員室13に向けて山折りとなるように成形された部位である。
第1緩衝ライン部132の曲げアールは、R1で、曲げアールR1は任意であるが、望ましくは小さくする。
【0023】
第2緩衝ライン部134は、例えば、乗員室13に向けて谷折りとなるように成形された部位である。
第2緩衝ライン部134の曲げアールは、R2で、曲げアールR2は任意であるが、望ましくは小さくする。
【0024】
後退壁部133は、乗員室13に向け突出させた平均半径R3の湾曲状である。このように後退壁部133を乗員室13に向け突出させた平均半径R3の湾曲状に成形することで、後退壁部133の強度を高め、後退壁部133の変形を抑制することができる。また、不整地の走行や左右旋回において、車体にねじる力が加わったとき、後退壁部133の変形を抑制することができる。
【0025】
図5は、本発明のダッシュアッパ構造が備えるウインドシールドロアの斜視図であり、乗員室側から見た状態を示している。図4を併用して説明する。
ウインドシールドロア22は、ガラス支持部131と、第1緩衝ライン部132と、後退壁部133と、第2緩衝ライン部134と、付け根壁部135と、接合フランジ136と、を一枚の鋼板を用いて塑性加工することで得たものである。137は取込み口である。
後退壁部133の範囲は、点模様で示した範囲である。
【0026】
第1緩衝ライン部132の通過点142までの曲線長さをL1とした。第1緩衝ライン部132の始端141を中央に設定し、第1緩衝ライン部132の終端147を通過点142を通り、ウインドシールドロア22の左端に接合するサイドパネル143(図1参照)の接合位置に設定した。
第1緩衝ライン部132の曲線長さをL2とした。
第1緩衝ライン部132の終端147は、脆弱部であるところの切り欠き部147でもあり、ウインドシールドロア22のうちで最も強度の弱い部位である。
【0027】
第2緩衝ライン部134の曲線長さをL2とした。第2緩衝ライン部134の始端146を中央に設定し、第2緩衝ライン部134の終端147をウインドシールドロア22の左端に接合するサイドパネル143(図1参照)の接合位置に設定した。
第2緩衝ライン部134の終端147は、脆弱部であるところの切り欠き部147でもあり、ウインドシールドロア22のうちで最も強度の弱い部位である。
【0028】
次に、本発明のダッシュアッパ構造の作用を説明する。
図6は、本発明のダッシュアッパ構造による衝突物保護機構を説明する図であり、図1の4−4線断面に相当する断面を示している。
【0029】
図4及び図5に示す衝突物151がフロントガラス15の下端16に衝撃を加えた場合、図6に示すウインドシールドロア22は変形するので、衝撃を吸収し、衝突物151に与える衝撃を緩和することができる。
【0030】
具体的には、衝突物151がフロントガラス15の下端16やカウル本体17に衝突すると、第1緩衝ライン部132が折れ曲がるので、ガラス支持部131が後に後退(矢印a1の方向)し、衝突物151に加わる衝撃を吸収して小さくすることができる。衝撃力がより大きい場合には、第1緩衝ライン部132と第2緩衝ライン部134が折れ曲がるので、ガラス支持部131及び後退壁部133はともに後に後退(矢印a2の方向)し、衝突物151に加わるより大きな衝撃を吸収して小さくすることができる。
【0031】
ウインドシールドロア22は、ガラス支持部131と、第1緩衝ライン部132と、後退壁部133と、第2緩衝ライン部134と、付け根壁部135と、接合フランジ136と、を一体に連ねて得たもので、例えば、一枚の鋼板を用いて塑性加工することで、一体に連ねると、分割したものに比べ、成形の手間や組合わせや接合を省くことができ、構造を簡単にすることができる。
【0032】
図5に示すように、第1緩衝ライン部132の曲線長さをL2とし、第1緩衝ライン部132の始端141を中央に設定し、第1緩衝ライン部132の終端147をウインドシールドロア22の左端に接合するサイドパネル143(図1参照)の接合位置に設定したので、衝突物151に加わる衝撃を吸収するウインドシールドロア22の範囲を大きくすることができる。
【0033】
第2緩衝ライン部134の曲線長さをL2とし、第2緩衝ライン部134の始端146を中央に設定し、第2緩衝ライン部134の終端147をウインドシールドロア22の左端に接合するサイドパネル143(図1参照)の接合位置に設定したので、衝突物151に加わる衝撃を吸収するウインドシールドロア22の範囲をより大きくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のダッシュアッパ構造は、ダッシュパネルの上部に接続され、フロントガラスの下端が支持される長尺なウインドシールドロアに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のダッシュアッパ構造及びカウル構造の分解図
【図2】本発明のダッシュアッパ構造にカウル本体を組付けた状態の断面で、図1の2−2線断面に相当する断面図
【図3】本発明のダッシュアッパ構造にカウル本体を組付けた状態の断面で、図1の3−3線断面に相当する断面図
【図4】本発明のダッシュアッパ構造にカウル本体を組付けた状態の断面で、図1の4−4線断面に相当する断面図
【図5】本発明のダッシュアッパ構造が備えるウインドシールドロアの斜視図
【図6】本発明のダッシュアッパ構造による衝突物保護機構を説明する図
【図7】従来の技術の基本構成を説明する図
【符号の説明】
【0036】
11…カウル構造、12…車両、13…乗員室、14…ダッシュパネル、15…フロントガラス、16…フロントガラスの下端、22…ウインドシールドロア、131…ガラス支持部、132…第1緩衝ライン部、133…後退壁部、134…第2緩衝ライン部、135…付け根壁部、136…接合フランジ、147…第1・第2緩衝ライン部の端(終端)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員室の前壁をなすダッシュパネルの上部に接続され、フロントガラスの下端が支持される長尺なウインドシールドロアを備えたダッシュアッパ構造において、
前記ウインドシールドロアは、前記フロントガラス側から順に、前記フロントガラスの下端の内面を支持するガラス支持部と、前記ガラス支持部の境界をなす第1緩衝ライン部と、前記第1緩衝ライン部に連なる後退壁部と、前記後退壁部の境界をなす第2緩衝ライン部と、前記第1緩衝ライン部の端と前記第2緩衝ライン部の端とを少なくともウインドシールドロアの一方の端に集合させて形成した脆弱部と、前記第2緩衝ライン部に連なる付け根壁部と、前記付け根壁部に連ねて形成され、前記ダッシュパネルの上部に接合される接合フランジと、を備えたことを特徴とするダッシュアッパ構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−223441(P2007−223441A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45931(P2006−45931)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】