説明

チアクマイシン生産

【課題】抗生物質に対する世界的な需要の増大のため、抗生物質を生産する改善された方法が現在必要とされている。
【解決手段】炭素源、窒素源、無機塩などの微量元素及び吸着剤を含む栄養培地中において1種又は複数のチアクマイシンを生産し、蓄積する能力があるダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)種に属する微生物を培養し、ここで前記窒素源は魚粉を含み、約50mg/Lブロスより大きな収量で生産されるチアクマイシンの生産及び回収のための方法、プロセス及び材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
Youe−Kong Shue、Ming−Hsi Chiou、Yuan−Ting Chen、Mei−Chiao Wu、Frank Du、Jonathan Duffield、Franklin Okumu
【背景技術】
【0002】
チアクマイシンは下に示す18員マクロライド環を含む、構造上関連する化合物ファミリーである。
【化1】

【0003】
現在、いくつかの異なるチアクマイシンが識別されており、これらのうちの6つ(チアクマイシンA〜F)はそれらの置換基R、R及びRの特徴的パターンによって定義される(米国特許4,918,174号;J.Antibiotics、1987、575−588)。
【0004】
リピアルマイシンはチアクマイシンと密接に関連する天然品のファミリーである。リピアルマイシン族(A3とB3)の2つのメンバーは、チアクマイシンのB及びCにそれぞれ等しい(J.Antibiotics、1988、308−315;J.Chem.Soc.Perkin Trans I、1987、1353−1359)。
【0005】
チアクマイシンとリピアルマイシンは多くの物理的方法によって特徴付けられてきた。報告されたこれらの化合物の化学構造は、分光学(紫外−可視(UV−VIS)、赤外(IR)並びにH及び13C−NMR)、質量分析及び元素分析に基いている(例えばJ.Antibiotics、1987、575−588;J.Antibiotics、1983、1312−1322参照)。
【0006】
チアクマイシンは、ダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)(これらは、イリノイ州61604、Peoria、North University Street 1815所在の米国農務省北部地域研究センターARS特許コレクションから寄託番号NRRL 18085として入手可能)等のバクテリアによって生産される。菌株AB 718C−41の特性は、J.Antibiotics、1987、567−574及び米国特許第4,918,174号に示されている。
【0007】
リピアルマイシンは、アクチノプラネスデッカネンシス(Actinoplanes deccanensis)(米国特許第3,978,211号)等のバクテリアによって生産される。菌株A/10655(これは寄託番号21983としてATCCに寄託されている)の種別に関する分類学的研究は、J.Antibiotics、1975、247−25で議論されている。
【0008】
チアクマイシン(特に、チアクマイシンB)は、様々なバクテリア性病原体、特にグラム陽性菌クロストリジウムディフィシレ(Clostridium difficile)に対する活性を示す(Antimicrob.Agents Chemother.1991、1108−1111)。クロストリジウムディフィシレ(Clostridium difficile)は腸の感染症を引き起こす嫌気性胞子形成性バクテリアである。下痢は最も一般的な症状であるが、腹痛や発熱も生じ得る。クロストリジウムディフィシレ(Clostridium difficile)は抗生物質摂取後に生じることのある結腸炎(結腸の炎症)と下痢の主な病原因子である。このバクテリアは、主として病院及び長期看護施設で得られる。チアクマイシンBはクロストリジウムディフィシレ(C.difficile)に対する有望な活性を示すので、哺乳動物における細菌感染症の治療(特に消化管におけるもの)において有用であると予想される。このような治療の例としては、結腸炎の治療及び過敏性大腸症候群の治療が挙げられる(但し、これらに限定されない)。チアクマイシンは、さらに胃腸の癌の治療にも用い得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
チアクマイシン等の抗生物質を得るためには発酵法が使用される。抗生物質は、液中好気性発酵条件下で容易に資化される炭素、窒素源及び無機塩を含む培地において、インプロセス分析からの推定で実質的な量の抗生物質活性が生産されるまで微生物を培養することにより生産することができる。抗生物質に対する世界的な需要の増大のため、抗生物質を生産する改善された方法が、現在必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、チアクマイシンの生産のための方法、プロセス及び材料を提供する。また、本発明は、本願に記載する方法、プロセス及び材料を使用して生産されるチアクマイシンを提供する。
【0011】
本発明の1つの実施形態は、栄養培地中でチアクマイシンを生産する能力があるダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)種に属する微生物を培養し、栄養培地中に少なくとも1種のチアクマイシンを蓄積することを含み、ここで少なくとも1種のチアクマイシンの収量が約50mg/Lブロスより大きいチアクマイシンの生産方法を含む。
【0012】
本発明の1つの実施形態では、チアクマイシンBの発酵生産のための改善された培地及び条件が記載される。したがって、本発明の1つの実施形態は、炭素源を含むチアクマイシンの生産のための栄養培地であって、炭素源、窒素源、無機塩等の微量元素、及び1種の吸着剤を含み、前記窒素源は魚粉を含み、また、約50mg/Lブロスより大きな収量で1種又は複数のチアクマイシンを生産するために使用する栄養培地である。
【0013】
本発明の別の実施形態では、改善された回収方法、チアクマイシンBの樹脂吸着が記載される。
【0014】
本発明の別の実施形態は、チアクマイシンを生産するための有機体として、ダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)に関連するバクテリア菌株を使用することを含む。したがって、本発明は、炭素源、窒素源、無機塩などの微量元素及び吸着剤を含む栄養培地中において1種又は複数のチアクマイシンを生産し、蓄積する能力があるダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)種に属する微生物を培養し、ここで前記窒素源は魚粉を含み、約50mg/Lブロスより大きな収量で生産されるチアクマイシンを含む。
【0015】
本発明の別の実施形態は、粗製発酵産物からのチアクマイシンの精製のための逆相中圧液体クロマトグラフィー及び/又は液体/液体分割及び/又は粉砕の使用を含む。
【0016】
これらの改良は、単独で又は併用により、大きく改善された収量(>50mg/Lブロス)でのチアクマイシンBの発酵の生産及び回収を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1によって生産した粗製発酵産物のHPLCクロマトグラムを示す;チアクマイシンBは、およそ12.6分の保持時間を有する。
【図2】実施例2によって生産した発酵産物のHPLCクロマトグラムを示す;チアクマイシンBは、およそ11.8分の保持時間を有する。
【図3】実施例2による発酵によって生産し(HPLCによって)精製したチアクマイシンBのHPLCクロマトグラムを示す;チアクマイシンBは、およそ12.0分の保持時間を有する。
【図4】実施例3による発酵によって生産し続けて粉砕を行った逆相中圧液体クロマトグラフィーによって精製したチアクマイシンBのHPLCクロマトグラムを示す;チアクマイシンBは、およそ10.1分の保持時間を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願に引用する特許、出版物及び特許出願はすべて、その全体が参照によって本願に組み込まれる。特に断らない限り、ここに使用される技術的及び科学的な用語はすべて、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。典型的な方法及び材料を以下に記載する。しかし、本願に記載したものに類似しているか等価である方法及び材料も、本発明の変法を得るために使用可能である。材料、方法及び例は説明のためのものにすぎず、本発明を限定する意図ではない。
【0019】
本発明のチアクマイシンを含む組成物は予防及び/又は治療処置のために投与できる。治療への適用では、前記のように、感染症に既に罹患している患者に感染の症状を治すか部分的に阻止するのに十分な量で組成物を投与する。これを遂行するのに適当な量は「治療上有効な量又は服用量」として定義される。この使用に有効な量は、感染の重さ及び進行度、それまでの治療内容、患者の健康状態及び薬に対する反応及び治療する医師の判断に依存するであろう。予防への適用では、本発明のチアクマイシンを含む組成物を、感染に敏感な患者又はそうしなければ特に感染の危険のある患者に投与する。そのような量は、「予防に有効な量又は服用量」として定義される。この使用においては、正確な量はやはり患者の健康状態、体重その他に依存する。
【0020】
一旦、患者の症状に改良が見られた後は、必要に応じて、維持投薬量を投与する。続いて、症状に応じて、投薬量もしくは投与の頻度又はその両方を改善された症状が保持されるレベルまで低減していくことができる。症状が所望のレベルまで軽減された時点で、治療を中止することができる。しかし、疾病症状が何らかのかたちで再発した場合には患者が長期的な断続的治療を必要とする場合もあり得る。
【0021】
一般に、本発明のチアクマイシンの適当な有効投薬量は、患者1人当たり1日当たり0.1〜1000ミリグラム(mg)の範囲、好ましくは1日当たり1〜500mgの範囲であろう。所望の投薬量は、好ましくは、1日を通して適当な間隔を置いて投与する1、2、3又は4回以上のサブ投薬量として提供する。これらのサブ投薬量は、例えばユニット投薬形式当たり活性成分5〜1000mg、好ましくは10〜200mgを含むユニット投薬形式として投与できる。好ましくは、本発明の化合物は、1日当たり約1〜4回、患者の体重に対し約1.0mg/kg〜250mg/kgを投与できる。
【0022】
「医薬組成物」とは、生理学的に許容される担体及び/又は賦形剤等の他の化学的成分を伴った、本願に記載するチアクマイシンの1種もしくは複数の混合物又はその生理学的に許容される塩を指す。医薬組成物の目的は有機体への化合物の投与を容易にすることである。
【0023】
本発明の化合物の「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容される無機及び有機の酸及び塩基から誘導されたものを含む。適当な酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン−2−スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1,2−エタンスルホン酸(エディシレート)、ガラクトシル−D−グルコン酸その他が挙げられる。シュウ酸などの他の酸も、それ自身は薬学的に許容されるものではないが、本発明の化合物及びそれらの薬学的に許容される酸付加塩を得る上での中間体として有用な塩の調製で使用し得る。適当な塩基に由来する塩としては、アルカリ金属(例えば、ナトリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム)、アンモニウム及びN(C〜Cアルキル)塩その他が挙げられる。これらのうちいくつか実例となる例を挙げれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化コリン、炭酸ナトリウムその他が挙げられる。
【0024】
「生理学的に許容される担体」は、有機体に顕著な刺激をもたらさず、かつ、投与する化合物の生物学的活性及び特性を無効にすることのない担体又は希釈剤を指す。
【0025】
「賦形剤」は、化合物の投与をさらに容易にするために医薬組成物に加える不活性物質を指す。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な種類の糖及び種々のデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールが挙げられる(但し、これらに限定されない)。
【0026】
本願で使用する場合、「栄養培地」という用語は、合成成分又は天然成分の混合物について記載する。一般に、栄養培地は炭素源、窒素源、無機塩等の微量元素、及び場合によってはビタミン又は他の成長因子並びに吸着剤を含む。
【0027】
本願で使用する場合、「ブロス」という用語は発酵中に又は発酵後に得られる流動性の培養培地を指す。ブロスは、水、所望の抗生物質、未使用の栄養素、生きている又は死んでいる有機体、同化産物及び(吸着された生成物を伴った又は伴わない)吸着剤の混合物を含む。
【0028】
本願で使用する場合、「チアクマイシン」という用語は、すべて、以下に示す18員マクロライド環を含む化合物ファミリーを指す:
【化2】

【0029】
「チアクマイシンB」という用語は、以下に構造を示す分子を指す:
【化3】

【0030】
本願で使用する場合、「収量」という用語は、元の発酵ブロスと同じ体積に対するメタノール中で再構成した粗製チアクマイシン量を指す。収量は標準的なHPLC技術を使用して決定する。収量はmg/L単位で報告する。
【0031】
本発明の1つの実施形態は、微生物の液中好気性発酵によって抗生物質剤(例えば、チアクマイシン)を生産するのに適した方法を含む。そのような有機体の1つの実施形態はダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)である。本発明の1つの実施形態によれば、チアクマイシン(例えば、チアクマイシンB)は樹脂吸収によって、例外的な収量(>100mg/Lブロス)で発酵ブロスから回収され、様々な極性溶媒で洗浄することにより樹脂及び菌糸体から溶出される。精製は、溶媒抽出及び/又はセファデックス(Sephadex)、シリカゲル、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又は逆相中圧液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーによる分離、1種又は複数の溶媒を用いた再結晶及び/又は1種又は複数の溶媒を用いた粉砕によって進めることができる。
【0032】
本発明で使用する1つの微生物は、アクチノプラナセエ(Actinoplanaceae)科ダクチロスポランギウム(Dactylosporangium)属に属することが識別されている(Journal of Antibiotics、1987、p.567−574及び米国特許第4,918,174号)。これはダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)718C−41と命名された。二次培養物はイリノイ州61604、Peoria、North University Street 1815所在の米国農務省北部地域研究センターARS特許コレクション(寄託番号NRRL18085が割り当てられている)から得た。菌株AB718C−41の特性は、Journal of Antibiotics、1987、p.567−574及び米国特許4,918,174号に示されている。
【0033】
チアクマイシンを生産できるさらなる微生物としては、当技術分野で既知の種と比較して、それらは有利な特性を示す突然変異体種が挙げられる。そのようなバクテリア菌株は、親菌株の突然変異誘発によって生成できる。突然変異誘発の戦略及び方法、突然変異菌株のスクリーニング及び単離操作、本発明の突然変異菌株の製造に用いる培地の組成は、当技術分野で知られている。菌株として指定された微生物は、増大した所望のマクロライド産生、栄養培地のより効率的な使用、好気性成長のための酸素要求量の減少等の利点を具現化し得る。
【0034】
好ましい実施形態において、チアクマイシンの生産のためのダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)AB 718C−41 NRRL 18085の培養は、適当な通気条件下、無菌環境での混合を行いつつ、1種又は複数の吸収性物質とともに、容易に資化可能な炭素源、窒素源、無機塩及び他の有機成分を含む培地中で行なう。本発明の抗生物質を生産するのに使用する栄養培地の組成については、実施例に詳細に記載する。
【0035】
微生物成長を支持することのできる炭素源としては、グルコース、ショ糖、ガラクトース、果糖、デンプン、糖蜜、麦芽エキス、デキストリン、乳漿、グリセリン、脂質、コーンミールその他及びこれらの組み合わせが挙げられる(但し、これらに限定されない)。本発明の1つの実施形態によれば、炭素源は0.2〜10重量%の範囲内である。本発明の1つの実施形態による炭素源の量を表2に示す。
【0036】
微生物成長を支持することのできる窒素源としては、牛肉エキス、大豆粕、綿実粕、全イースト、イーストエキス、ダイズ粉、ペプトン、カザミノ酸、魚粉、コーンスティープリカー、アンモニウム塩、カゼイン、アミノ酸その他及びこれらの組み合わせが挙げられる(但し、これらに限定されない)。本発明の1つの実施形態によれば、栄養培地は窒素源として魚粉(999第1級魚粉、デンマーク、Esbjerg 6700、Fiskerihavnsgade 35所在のTripelNine Fish Protein,a.m.b.a.)を窒素源として含む。本発明の1つの実施形態によれば、窒素源は0.1〜5.0重量%の範囲内である。本発明の1つの実施形態による窒素源の量を表2に示す。
【0037】
有機体の成長及び成育に必要な必須微量元素は、有機体の成長及び生合成の必要条件に適合するように、十分な量が培地中の他の成分中に不純物として含まれていればよい。しかし、微生物成長を支持することができる追加的な可溶性栄養無機塩を培養培地に組み入れることが有益である。微生物成長を支持し得る無機塩としては、KHPO、MgSO・7HO、KCl、CaCOその他が挙げられる(但し、これらに限定されない)。必須微量元素は、好ましくは0.02〜2.0重量%の範囲内である。本発明の1つの実施形態による個々の必須元素の量を表2に示す。
【0038】
市販の吸着性樹脂は、発酵中にチアクマイシンの収量及び回収効率を増強することが分かった。そのような吸着剤としては、Amberlite(登録商標)XAD16、XAD16HP、XAD2、XAD7HP、XAD1180、XAD1600及びIRC50(すべて米国Rohm & Haas Co.)、Duolite(登録商標)XAD761(米国Rohm & Haas Co.)その他が挙げられる(但し、これらに限定されない)。吸着剤は、好ましくは0.5〜15重量%の範囲内である。本発明の1つの実施形態による吸着剤の量を表2に示す。
【0039】
好気性液中培養プロセスにおいて従来行なわれているように、無菌空気を培養培地全体に分散させる。酸素濃度は、3%以上(Toledo所在Mettler、InPro 6000series Oセンサー)に維持した。これらの条件下で、細胞の成長が嫌気性になる成長条件を防ぐレベルに維持する。実施形態によっては、炭素源、窒素源又は細胞によって要求される他の成分(例えば、供給培地中)から制限的な成分が選ばれる。
【0040】
バクテリアは適当な成長条件下で成長させる。そのような適当な成長条件は、前記バクテリアの成長のための好気性条件を維持するように、成長培地及び/又は供給培地成分の利用可能性を制限することにより特徴付けられる。そのような条件は、例えば、溶存酸素レベルを約2%〜30%の間の濃度に維持することによっても特徴付けられる。そうした溶存酸素レベルは、バクテリアを成長させて溶存酸素濃度を測定するために使用する具体的な技術的な設備に依存して変わり得る。
【0041】
チアクマイシン産生バクテリアは、当技術分野で既知の方法により、振とうフラスコから大きな「バッチ」発酵器に及ぶ容器で成長させることができる。実質的な大量のチアクマイシンの生産のためには、タンク内での液中好気性発酵を利用する。しかし、少量であれば振とうフラスコ培養によって得ることもできる。タンク発酵のためには、増殖性接種原を使用することが望ましい。新鮮かつ活発に成長する有機体培養物を得るためには、胞子形態、菌糸体の断片又は有機体の凍結乾燥されたペレットを少量の培地に接種することにより増殖性接種原を調製する。次いで、適当なインキュベーション時間後に増殖性接種原をより大きなタンクに移し、チアクマイシン抗生物質を大きく改善された収量で生産する。発泡が問題になる場合は、大規模な発酵培地に少量の消泡剤を加えることが必要な場合もある。
【0042】
生産を改善するために、他の添加物/成分を加えた対照培地中で生産を行なう。チアクマイシンの生産のために液中撹拌培養プロセスを使用する。発酵は、25℃〜37℃の温度範囲で行なう。炭素源の消費を注意深く監視する。また、必要に応じて、追加量の炭素源を添加する。発酵pHは、好ましくは約6.0〜約8.0までの間に維持する。チアクマイシンBは発酵の接種後に3〜15日の間に生産され蓄積される。標準の対照培地は、次の成分を以下の量で含む:
魚粉 0.1%〜5%
グルコース 0.2%〜10%
HPO 0.02%〜0.5%
MgSO・7HO 0.02%〜0.5%
KCl 0.01%〜0.3%
CaCO 0.1%〜2%
【0043】
他の添加物/成分は以下のものからなる:
カザミノ酸 0.05%〜2%
イーストエキス 0.05%〜2%
XAD−16樹脂 0.5%〜15%
【0044】
発酵の完了時点で、ふるいにかけることにより固形分塊(吸着性の樹脂を含む)をブロスから分離する。酢酸エチル、メタノール、アセトニトリル又は2種以上の有機溶媒の混合物等の有機溶媒によって樹脂からチアクマイシンを溶出させる。次いで、抽出液を減圧下に濃縮する。残留物をヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等の低極性溶媒を用いた粉砕によって、又は、酢酸エチル/水;酢酸エチル/塩化ナトリウム水溶液;メタノール/ヘキサン、アセトニトリル/ヘキサン又は2種もしくはそれ以上の溶媒の様々な比率及び組み合わせでの他の混合物等、適当な2相溶媒システム間での分配によって、又は、適当な有機溶媒システムで溶出させるSephadexカラムクロマトグラフィーによって精製する。必要であれば、結晶化及び/又はクロマトグラフィーによる分離及び/又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び/又は液体/液体分配及び/又は粉砕のいずれかによってチアクマイシンを精製することができる。
【0045】
(実施例)
上記の開示から理解されるように、本発明は種々様々の応用を有する。したがって、以下の例は、本発明を限定するためのものではなく説明するためのものとして提示する。
【実施例1】
【0046】
ダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)AB 718C−41 NRRL18085(−20℃ストック)を、104番培地(表1)1mL上で維持した。標準的殺菌条件(30分、121℃、1.05kg/cm)後に、104番培地(50mL)を含むシードフラスコ(250mL)に、シェーカー(250rpmにセット)上でAB 718C−41 NRRL 18085を30℃、72時間接種した。次いで、初代シードフラスコから得た5パーセント増殖性接種原を表1と同じ成分を含む発酵フラスコに無菌的に移した。
【0047】
【表1】

【0048】
発酵フラスコを3〜12日間回転式シェーカー上30℃でインキュベートした。培養発酵ブロスの全試料をろ過した。ろ過ケーキはMeOHで洗浄し、減圧下に溶媒を除去した。残留物を元の発酵ブロスと同体積のメタノール中に再構成した。分析はWaters 2487 2−チャネル紫外/可視検出器を結合したWaters BREEZE HPLCシステムを使用して行なった。チアクマイシンは50x4.6μm I.D.、5μm YMC ODS−Aカラム(YMCカタログ#CCA AS05−0546WT)上、0.1%リン酸を含む45%アセトニトリル水溶液からなる可動相を用い1.5mL/分の流速で分析した。チアクマイシンは266nmで検出した。粗製品(保持時間12.6分におけるチアクマイシンB)のHPLCクロマトグラムを図1に示す。この例において、チアクマイシンBの粗収量は7日後に約250mg/Lであった。HPLCによる精製後、チアクマイシンBの収量は約100mg/Lであった。
【実施例2】
【0049】
標準的殺菌条件(30分、121℃、1.05kg/cm)後に、104番培地(50mL)を含むシードフラスコ(250mL)にAB 718C−41 NRRL 18085を接種し、30℃で72時間、シェーカー(250rpmにセット)上でインキュベートした。初代シードフラスコから取った5パーセントの増殖性接種原を、表1と同様の成分を含むシードフラスコに無菌的に移し、30℃で72時間、回転式シェーカー上でインキュベートした。次いで、第2代シードフラスコから取った5パーセントの接種原を用いて、104番培地(2.5L)を含む5リットル発酵器中AB 718C−41 NRRL18085を接種した。消泡剤(シグマA−6426)の添加によって過剰の泡形成を抑えた。この製品は非シリコーン有機消泡剤の混合物を多価アルコール中に分散させたものである。
【0050】
成長パラメーターとしてグルコース消費を監視し、供給培地の添加によってそのレベルを制御した。実施例2における供給培地及び条件は以下の通りとした:
【0051】
【表2】

【0052】
発酵器培地:104番
発酵器容積:5リットル
殺菌: 121℃、1.05kg/cm、40分
インキュベーション温度:30℃
通気速度:培養体積当たり毎分0.5〜1.5体積
発酵器の撹拌:300〜500rpm
【0053】
発酵は8日間行ない、XAD−16樹脂をふるいにかけることにより培養ブロスから分離した。水洗後、XAD−16樹脂を、メタノール(XAD−16の5〜10倍容)で溶出した。メタノールを留去し、油状残留物を酢酸エチルで3回抽出した。抽出物を合わせ減圧下に濃縮して油状残留物とした。油の残留物を乾燥しヘキサン洗浄したところ、薄い褐色の粉として粗製品が生成した。そのHPLCクロマトグラム(チアクマイシンB保持時間11.8分)を図2に示す。これを、シリカゲルカラム(溶出剤としての酢酸エチル及びヘキサンの混合物)によって精製し、得られた物質をRP−HPLC(逆相HPLC)によってさらに精製し、白色固体としてチアクマイシンBを得た。HPLCクロマトグラフィーによって純度>95%であることがわかった。クロマトグラム(チアクマイシンB保持時間12.0分)を図3に示す。単離したチアクマイシンBの分析の結果は、J.Antibiotics、1987、575−588に報告されているH及び13C−NMRデータと同一であった。これらをまとめて以下に示す。
【0054】
チアクシマイシンB:
融点129〜140℃(RP−HPLCから得た白色固形物);
融点166−169℃(イソプロパノールから得た白色針状);

【実施例3】
【0055】
発酵によってチアクマイシンBの粗製試料(15g)を、実施例2に記載するような樹脂からの放出後、油状残留物として得た。これを35℃で酢酸エチル(300mL)に溶解し、溶液を水(300mL)とともに分液漏斗中で振って、1分間静置した。飽和塩化ナトリウム水溶液(100mL)を加え、混合物をさらに1分間静置した。下相、及び界面に存在する固体をすべて廃棄し、上相を減圧下35℃で濃縮して褐色の固体を得た。生じた泡を、Isco UA−6紫外/可視検出器を結合したBiotage 75L装置を使用して、以下のパラメーターで逆相中圧液体クロマトグラフィーにかけた:
【0056】
カラム:1.2kg、BiotageKP−C18−HSシリカ。
平衡:50:50:1、MeCN/HO/AcOH(6L)
ローディング:メタノール(20mL)中、Biotage KP−C18−HSシリカを25g含む試料注入モジュールによる。
溶離剤:50:50:1、MeCN/HO/AcOH
流量:230mL/分
圧力:溶媒−90psi
半径方向−100psi
検出器:波長−254nm
パス長−0.1cm
感度−2
チャート速度−60cm/hr
雑音フィルタ−5秒
画分収集:主要ピーク及び前のピークの間の屈曲点直後に手動で収集を開始し、主要ピーク高さの20%で収集を終了した。
カラムコンディショニング:100%MeCN(4L)
【0057】
飽和塩化ナトリウム水溶液(画分体積の25%)を収集した分画に加えた。混合物を振り、2相に分離させた。上相を取り30℃で減圧下に濃縮乾燥した。生じた固体を酢酸エチル(75mL)に溶解し、水(2x75mL)で洗浄して塩化ナトリウムを除去した。有機相を30℃で減圧下に黄色の泡(回収量:4.56g、30%;純度約93%)となるまで濃縮した。
【0058】
この物質を他のいくつかのバッチと合わせ(合計:156.0g、純度90.8%)、これにイソプロピルアルコール(1000mL)を加えた。混合物を撹拌しながら室温で20分間超音波処理したところオフホワイトの懸濁液を生じた。この時点で、物質をろ過し、ろ過ケーキをイソプロピルアルコール(300mL)で洗浄した。固形物を高真空下で乾燥したところ、オフホワイトの粉末(回収量:146.2g、94%;純度:91.1%)が残った(図4)。

【0059】
ここに説明的に記載した発明は、具体的にここに示さなかった任意の要素又は要素(複数)、限定又は限定(複数)がない状態でも適当に実行することができる。したがって、例えば、「含む」、「含有する」及び「有する」などの用語は、限定なしに拡張的に読まれるものとする。さらに、ここに使用する用語及び表現は、制限的ではなく記載のための用語として使用するものであり、そうした用語や表現は、図示し又は記載したものの任意の将来的な等価物又はその部分を除外する意図ではないし、本願特許請求の範囲内で様々な修正が可能であると認識される。したがって、好適実施形態と場合によって設ける特徴によって本発明を具体的に開示してきたが、ここに開示した発明の修正及び変形は当業者には可能であり、そのような修正及び変形は、ここに示した発明の範囲内であると考えられるという点が理解されるべきである。本発明は、ここでは広く総括的に記載してきた。総括的な開示の範囲内にある、より狭い種及び半総括的な群の各々もこれらの発明の一部を形成する。これは、除去した材料が具体的にそこに存在したか否かにかかわらず、総括概念から何らかの主題を除外する但し書き又は否定的制限を備えた各発明の総括的な記載を含む。さらに、発明の特徴又は様相がマーカッシュグループの形で記載される場合、当業者はマーカッシュの任意の個別的構成要素又は構成要素のサブグループの形でも発明がそこに記載されていることを認識するであろう。
【0060】
以上の記載は、説明のためのものであり限定的なものではない点が理解されるべきである。上記の記載を検討すれば、当業者には多数の実施形態が明らかになる。したがって、本発明の範囲は、以上の記載に関して決定されるべきではなく、その代り、添付する特許請求の範囲、及びこれら特許請求の範囲と等価と考えられる全範囲に関して決定されるべきである。特許刊行物を含め、すべての論文及び参考文献の開示内容は、参照によって本願に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養培地中でチアクマイシンを生産する能力がある微生物を培養し、栄養培地中に少なくとも1種のチアクマイシンを蓄積することを含み、ここで少なくとも1種のチアクマイシンの収量が全発酵ブロスに対し約50mg/Lより大きいチアクマイシンの生産方法。
【請求項2】
前記収量が約100mg/Lブロスより大きい請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記収量が約200mg/Lブロスより大きい請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記収量が約50mg/Lブロス〜約500mg/Lブロスである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記収量が約100mg/Lブロス〜約500mg/Lブロスである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記微生物がダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)NRRL18085である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記チアクマイシンがチアクマイシンBである請求項1に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種の溶媒又は溶媒混合物で溶出することにより望ましくない物質を篩別除去すること;少なくとも1種の溶媒又は溶媒混合物による抽出;結晶化;クロマトグラフィーによる分離;高速液体クロマトグラフィー(HPLC);MPLC;粉砕;及び少なくとも1種の溶媒又は溶媒混合物と飽和食塩水とによる抽出からなる群から選択される技術を用いて、前記栄養培地から前記チアクマイシンを分離する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
約25〜約35℃の温度、約6.0〜約8.0のpHで前記微生物を培養する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
栄養培地が、グルコース、ショ糖、デンプン、糖蜜、デキストリン、乳漿、グリセリン、脂質及びコーンミールからなる群から選択される1種又は複数の炭素源を含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
必要に応じて付加的な炭素源を栄養培地に与える請求項1に記載の方法。
【請求項12】
栄養培地が、牛肉エキス、大豆粕、全イースト、イーストエキス、ダイズ粉、ペプトン、カザミノ酸、魚粉、コーンスティープリカー、アンモニウム塩、カゼイン及びアミノ酸からなる群から選択される微生物成長を支持できる1種又は複数の窒素/有機源を含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
栄養培地が魚粉を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
栄養培地が、KHPO、MgSO・7HO及びCaCOからなる群から選択される微生物成長を支持できる1種又は複数の無機塩を含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
栄養培地が、前記培養中に1種又は複数のチアクマイシンを吸着することができる少なくとも1種の吸着剤を含み、前記吸着剤はAmberlite(登録商標)XAD16、XAD16HP、XAD2、XAD7HP、XAD1180、XAD1600、IRC50、Duolite(登録商標)XAD761及び逆相シリカゲルからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項16】
逆相シリカゲルが、KP−C18、KP−C18−WP及びKP−C18HSからなる群から選択される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
微生物からのチアクマイシン生産のための栄養培地であって、炭素源、窒素源、微量元素及び吸着剤を含み、約50mg/Lブロスより大きな収量で1種又は複数のチアクマイシンを生産するために使用される栄養培地。
【請求項18】
前記チアクマイシン収量が約100mg/Lブロスより大きい請求項17に記載の栄養培地。
【請求項19】
前記チアクマイシン収量が約200mg/Lブロスより大きい請求項18に記載の栄養培地。
【請求項20】
前記チアクマイシン収量が約50mg/Lブロス〜約500mg/Lブロスである請求項17に記載の栄養培地。
【請求項21】
前記チアクマイシン収量が約100mg/Lブロス〜約500mg/Lブロスである請求項20に記載の栄養培地。
【請求項22】
前記窒素源が魚粉である請求項17に記載の栄養培地。
【請求項23】
前記微生物がダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)NRRL18085である請求項17に記載の栄養培地。
【請求項24】
前記チアクマイシンがチアクマイシンBである請求項17に記載の栄養培地。
【請求項25】
前記栄養培地が、前記培養中に1種又は複数のチアクマイシンを吸着することができる少なくとも1種の吸着剤を含む請求項17に記載の栄養培地。
【請求項26】
炭素源、窒素源、無機塩などの微量元素及び吸着剤を含む栄養培地中において1種又は複数のチアクマイシンを生産し、蓄積する能力があるダクチロスポランギウムアウランチアクム(Dactylosporangium aurantiacum)亜種ハムデネンシス(hamdenensis)種に属する微生物を培養し、ここで前記窒素源は魚粉を含み、約50mg/Lブロスより大きな収量で生産されるチアクマイシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−178760(P2010−178760A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108270(P2010−108270)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願2004−527605(P2004−527605)の分割
【原出願日】平成15年7月15日(2003.7.15)
【出願人】(505035806)オプティマー ファーマシューティカルズ、インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】